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インド素形材産業の技術水準評価
インド素形材産業の技術水準評価 ∼“眠れる巨象が立ち上がった”インド素形材産業の現況∼ NPO 法人 熟年ものづくり国際協力センター 田 村 啓 治 宇 塚 恭 治 インドには 10 数年前に JETRO のインド裾野産業支援事業 で数年間に 30 回ほど訪問して多くの鋳造企業の指導を行 い、大変懐かしい思い出の多い国である。今回経済産業省 のアジア素形材産業の技術水準分析評価事業で 10 年ぶり にインドの各企業を訪問した。 この 10 年のうちにインドはすっかり変貌して大変活気の あふれた国になっていた。ちょうど 2000 年ごろの中国と 同じ状況で数年先には全く新しいインドになるのではなか ろうかと思われた。 まず訪れた Auto Expo で度肝を抜かれ、 以後訪問した各社、各都市で大変な感銘をうけたのでその 実感を紹介したい。 表 1 インドの自動車生産推移 1.インドと自動車産業 PVs 2 インドは日本の 10 倍近い 329 万 Km の国土と 12 億 の人口をかかえその経済発展から世界が注目している 国である。GDP 成長率を図 1 に示すがインド経済は サービス産業が牽引し IT の発展は世界屈指であるが 最近はタタ自動車のナノに代表される自動車産業の発 展が注目されていることはご承知のとおりである。イ ンドの強みは有効利用できる国土が大きいことであ り、食料自給ができることである。しかも人口構成が 10 年後も裾広がりであることであり豊富な労働力を背 12 . 0 10.9 10.3 10 . 0 8.0 9.6 8.5 8.1 7.4 7.5 10.3 10.1 11.1 11.0 9.0 6.7 0.0 1992 192.1 128.1 1,477.2 66.3 1,863.1 1995 396.5 237.2 2,551.2 155.8 3,334.7 1997 549.6 186.4 2,971.3 237.4 3,944.7 1999 646.6 168.9 3,598.9 210.6 4,625.0 2001 676.2 148.7 4,065.0 198.1 5,088.0 2003 908.0 253.6 5,408.7 332.1 6,902.4 2005 1,294.4 378.0 7,269.2 413.3 9,351.9 2007 1,715.3 540.3 8,097.5 557.7 10,880.7 2009 2,149.0 454.3 9,591.5 548.5 12,743.2 (出所)ACMA 資料より 6.0 6.0 03年度 05年度 06年度 07年度 農業 鉱工業 08年度 -2 . 0 実質GDP成長率 -4 . 0 52 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3 車生産は 1,000 万台近くなり、四輪車は 250 万 2 社以上が出展し参加者は 200 万人と新聞は報 09年度 -1.4 サービス業 (出所)中央統計局(CSO)資料、インド経済モニタリングセンター(CMIE) 資料により作成 図 1 GDP 成長率 2003 年ごろから急上昇をしはじめ昨年の二輪 今回の Auto Expo も 14 万 m の敷地に 2,000 1.6 -0.2 04年度 インドの自動車生産は表 1 に示すように 台を越し乗用車の伸びが著しい。 3.9 2.0 1,405.4 1,125.6 8.1 3.8 48.3 101.2 4.5 4.0 total 景にその成長と大きな国内需要が期待できる。 5.9 6.0 3 Wheel 129.3 9.7 8.5 8.2 2 Wheel 1985 10.3 9.6 CVs (単位:千台) じていた(写真 1)。生産の伸びは素形材業界 の需要増加に密接に関係する。最近の傾向は 小型乗用車が中心で成長しており、図 2 に示 すようにマルチスズキがシェアの半分以上を 占めている。さすがのトヨタもホンダも方針 AMTEK ブースにて ダイカスト展示品 200 万人と言われた入場者 展示会場の一部 写真 1 AUTO EXPO 18,750 37,279 39,400 マルチスズキ 17 , 0 7 9 ヒュンダイ 32,56 3 タタモーター ホンダ・シール 118,903 491,054 2 00 , 6 1 3 GM フォード フィアット その他 (出所)ACMA 資料より 写真 2 話題のタタ社 ナノ 図 2 インド国内の乗用車販売台数(2009 年 4 月∼11 月 8 か 月) 変更で 100 万円以下の新型車を発表している。 2008 年の国内販売では韓国の現代の人気が高くスズ キの半分に近づいている。トラックから小型乗用車へ、 2.インド素形材産業の現状 (1)鋳造 しかも生産台数の急増で素形材への要求度が変わって AFS(アメリカ鋳造協会)の報告によると 2008 年の きた。製品が従来の重機械、トラック中心から小型乗 インドの鋳物生産量は日本より多い。図 3 に最近の鋳 用車の量産へ変わることにより生産体制にも変化が起 物と自動車の生産量の傾向を示すが、2002 年から自 きている。またインドは国営より財閥の活動の盛んな 動車発展と共に鋳物生産が急激に上昇した様子がわか 民営の国である。しかし自動車部品メーカーは基盤が る。10 年前は世界の 20 位ぐらいで日本の半分程度の しっかりしており自動車部品製造協会(ACMA)のメ 生産量であったものが、2006 年には日本を抜き現在は ンバーは殆どが ISO を取得し 80 % は TS 16949 を取得 中国、アメリカに次いで世界第 3 位になるほどに成長 しているので対応は早いのではなかろうか。 した企業数も 4,700 社といわれる鋳造大国である。歴 史的に欧州の技術を中心に冶金技術のレベルが高く鋳 鋼が発展していた。今までは Punjab、Coimbatore、 Kolapur、Gujarat などの鋳物集積地を中心にポンプ、 Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI 53 (2)鍛造 昔から機械産業が発展していたため鍛造業は盛んで、 Bharat Forge のような世界各地で合計 75 万トンの鍛 造品を生産する世界的なメーカーもあり技術力も高い。 歴史が古くメーカーも多いが一部を除いて近代化は遅 れている。冷間鍛造は普及している。現地セットメー カーは殆ど現地調達しているが乗用車向けには高度な 技術が必要なので今後の技術改善が待たれている。 (3)プレス 自動車・家電産業の発展でプレス産業も発展し小企 業も多く輩出している。自動車向けはセットメーカー (出所)AFS および日本自動車工業会資料より筆者作成 図 3 インド自動車生産と鋳物生産量 の内作か中堅企業以上の専業への外注であるが、大型 の外板のプレスには未だ問題が多い。専業では順送プ レスはまだ少なく精密プレスとともに今後の課題であ る。現場の状況は日本と 20 年以上の遅れが見られる。 バルブ、農業機械、石油関係の銑鉄鋳物が主体であっ (4)金型 たが自動車用鋳物が急激に増加して、大型の鋳物企業 専業は日本と同じ 5 ∼ 10 人の企業が多く、レベル が輩出した。鋳鉄のエンジンブロック、シリンダー もいま一つで大型、精密は輸入に頼り、プレスメーカー ヘッドを主体に年間 20 万 t 近くを生産する Hinduja では内作が多い。端的に見れば日本の 1980 年代であ Foundry や 自 動 車 部 品 大 手 の AMTEC、 あ る い は る。経営者の意欲、ISO の取得、改善活動などは優れ Kiroskar な ど の 企 業 が Chennai、Gurgaon、Solapur ているが、品質、コスト、納期の面で問題が多い。プ などで活動して様相が変わってきた。まだ普通鋳鉄の レス製品の品質が金型の不良によることにやっと気づ 生産は著しく増加したが、高級鋳物であるダクタイル いて対策を始めた企業の例も多くある。 鋳鉄の発展は遅い。 表 2 に最近訪問した企業の状況を示すが企業が大型 化し、しかも財閥系か、グループ化しており日本の鋳 3.インド素形材企業の技術水準 造業界とは違っている。 昨年作成した素形材企業技術水準評価基準を用いて アルミ鋳物も二輪車用を中心に発展し乗用車生産が 20 社の技術レベルを調査した(素形材 Vol.50(2009) 増加して生産量が飛躍的に増加した。年産 20,000 t 以 No.6,7 参照)。 上の規模の企業が 6 社あるといわれているが、技術的 各項目の細目の評価点(1 ∼ 5)を合計し、項目のウ にはまだ最新技術には至っていない。今後の発展と改 エイトを乗じて合計して総合評価点とした。 善に待つところが多い。鋳物生産は 2012 年には全体 総合評価点はⅠ∼Ⅴクラスに分けたが、目安として で世界 2 位の年間 1,000 万トンを越す生産になると見 日本の年代に当たると考えた。 られている 表 2 訪問した主な鋳造企業の概況 分類 鋳鉄 企業名 工場 主製品 Hinduja 3 ブロック・ヘッド 160,000 AMTEK(Biwadi) 14 自動車 100,000 M.Hinoday 1 建機 24,000 Indian Smelting 2 自動車 21,000 Brakes India(Foundry) 2 ブレーキ 80,000 Munjal Kiriu 1 デスク・ドラム 21,000 鉄・Al Rico Auto Al 年生産量 t 人員 主設備 備考 1,000 KW 他 3 自硬性 1 Hindustan. Birla 900 HWS DISA 310 GF HWS Mahindra FCD 特化 Birla TVS 180 DISA 2 自動車 鉄 30,000 Sundram Clayton 3 自動車 22,000 750 D 35,G 40, LP17 Jaya Hind 1 自動車 35million.U.S$ 1,393 H. P. D. C, G. D. C ディスク加工品 Hero 1,000 DISA 3 新東 1 輸出 39% TVS インド 3 大財閥 Tata, Birla, Reliance 中規模財閥 Thapar, Mahindra, Bajaji, Hero, Kirloska, Essar, Godrei, DCM Shriram, Mittal 54 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3 36 − 60 点 Ⅰクラス 日本の 1970 年以前 にしても日本のようには充実していない。ACMA の 60 − 90 点 Ⅱクラス 〃 1970 年代 ような良い機関もあるが、工業会や大学などとの連携 90 − 120 点 Ⅲクラス 〃 1980 年代 は弱く、関連産業もまだ発展が不十分である。専門 120 − 150 点 Ⅳクラス 〃 1990 年代 技術・設備は 70 点ぐらいで未だ改善の余地があるが、 150 − 180 点 Ⅴクラス 〃 2000 年代 管理面は充実し平均すると日本の中小企業レベルより インドにおける調査企業は自動車部品の大手企業が 上になるのではなかろうか。環境に関する認識はいま 多く、その技術力は非常に高かった。表 3 に示すよう 一つである。製品は自動車用に集中している。産業の にローカル企業の平均は 130 点を越し他のアジア諸国 流れから今後の発展部門である。 と比べるとその技術力は格段の差があった。日本の高 (1)鋳造 度成長期の後半ぐらいに相当する。むしろ進出してい 鋳造企業は大手が多いが企業内にとどまり外部と る日系企業のほうが見劣りする内容も見られたほどで の連携が少ない。専門技術も不良率が社内 5 %、社内 ある。 外合計 7 % とは言っているが、実際はもっと上と見ら れ自動車産業としてはレベルが低い。トヨタに納入し 表 3 インド素形材産業の業種別評価点 ているあるブレーキメーカーの鋳物部品はこの 2 年間 ローカル企業 最低 最高 平均 タイ日系 級 別 鋳造 116 133 123.3 152 Ⅲ Ⅳ Al 鋳物 121 130 124.5 150 Ⅳ 鍛造 112 157 133.0 150 Ⅲ Ⅴ プレス 109 143 124.0 165 Ⅲ Ⅳ 金型 131 131 131.0 170 Ⅳ 加工 144 161 155.0 150 Ⅳ Ⅴ 平均 130.9 ノークレームであったとのこと。管理を徹底すればレ ベルアップは可能である。固有技術には未だ不十分な 点が多くあり、他の国よりは未だ良いという程度であ る。自動車用を目指すなら今後工場設備と管理教育の 改善とともにもう一段の技術改善を期待したい。鋳造 企業として優れた管理の企業もあったが、他の業種に 比べると管理レベルはやや落ちている。工場内の 5 S の徹底していない企業もあり専門家から見れば改善 ※満点= 180 点 の余地は多い。 基盤は日本の 70 % ぐらいで大学、学会、業界や関連 業種別に見ると図 4 に示すとおりで各業種とも大企 産業との結び付きはそれほど強くない。ただし、鋳造 業が多く進出しているタイ王国の日系企業のレベルに 学会が年に 1 回大会を開催し、展示会や研究発表会を 近い。鋳造・ダイカスト・プレス・金型など技能要素 行っている。人材教育は企業内での教育が主体で進め の強い分野ではもう一つであるが機械設備が左右する られている。ACMA によるクラスタープログラムが 機械加工や鍛造の分野では全く遜色がなかった。 唯一の業界または団体としての人材育成であるが、企 項目別に検討すると、産業基盤は他国ほどではない 業のレベルアップ的要素の方が強い。 タイ日系 鋳造 180 最高 基盤 最低 100 平均 製品 120 加工 Al 鋳物 タイ日系 最高 最低 平均 専門 50 60 0 金型 環境 設備 0 鍛造 開発 管理 情報 プレス 業種別評価 項目別評価 (出所)平成 21 年度アジア産業基盤強化事業(アジアサポーティングインダストリー技術水準分析調査)報告書 図 4 業種別/項目別評価(インド) Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI 55 鋳造方案は方案の標準化が進行している段階であ バンガロールはさすがトヨタのお膝元であり、立派な る。一部シリンダーヘッドやシリンダーブロックを プレス企業がある。自動車企業と直接接触する企業は 扱っている会社では湯流れや凝固シミュレーションを 伸びが速い。結果にはっきり出ていた。自動車部品専 取り入れている。しかし、基礎技術はまだ弱く、不良 業企業の管理の現状は日本の大企業なみか、場合に 率が高いことから技術支援を要請された。 よっては以上であり、日本の中小企業の一般レベルよ 溶解技術では 2 社のレベルが高く、1 社はシリンダー り上である。評価点も高かった。 ブロックやシリンダーヘッドで特殊鋳鉄を使ってお 寸法精度はそれほど高くないようである。生産性は り、もう 1 社はターボハウジング用に Hi - Si - Mo や 特に自動車用部品のラインに直結しているところは高 Hi - Si - Mo - Cr といった高合金のダクタイル鋳鉄を生 産している。 速化・自動化が進んでいる。 (4)金型 造型は通常のジョルトスクイズ機や HWS(ハイン 金型とプレスを両方行っている企業が多く、専業は リッヒ・ワグナー・新東)製の静圧造型機や DISA の 日本と同じ 5 ∼ 10 人の企業が多く、レベルも低い。大型、 縦型と水平割が多いが、シリンダーブロックを作って 精密は輸入に頼り、評価点も低く端的に見れば日本の いる会社ではキンケルワグナーのエアーインパルス造 1980 年代である。経営者の意欲、ISO の取得、改善活 型機を使い精度の高い鋳型を作っていた。 動などは優れているが、品質、コスト、納期の面で問 不良率は全体に高く、最新の技術や設備だけではで 題が多い。プレス製品の品質が金型の不良によること きない基礎的な技術が十分周知徹底されていないよう にやっと気づいて対策を始めた企業の例も多くある。 な感じがした。 生産方式は高圧・高速造型機を使用しており申し分 ないが、稼働率は 1 社だけが 90 % を越える作業をして いた。生産性は設備のわりには低いが、これは稼働率ば かりでなく、安い労働力を使えるために敢えて機械化し 驚いたのは改善活動と管理能力の高さである。ほ ていないようにも思える。寸法精度は自動車用の部品 とんどの企業が何らかの“カイゼン”に関する活動を を生産しているところがほとんどなので高い値である。 行っているか始めており、“カイゼン”ルームや“カ 管理の面では他企業同様カイゼン活動を取り入れ イゼン”フロア、掲示場所がきちっと備えられており、 ようとしているところがあるが実態はもう一歩であ また各種グラフのデータ類もアップデートされて、管 る。しかし、標準類の整備はできているところが多く、 理の高さを思わせる。日系企業から指導を受け始めた ISO を含む各種認証を取得しているところが多い。 ところ、TQM からスタートしたところ、また、日本 情報部門ではインドは IT の国といわれるだけあっ の JIPM(社団法人:日本プラントメンテナンス協会) てかなり進んでいると言えよう。 の指導で TPM 活動を始めたところ等があり、この 環境、製品の項目について、今回は自動車関連産業 TPM の活動を導入し成果を上げているところが多い を訪問していることもあって高い点数となっている。 (写真 3 ∼ 5)。 ただし、5 S 活動は行っているものの他の企業や同じ インドの人たちは真面目であるということを良く聞 工場内でも加工工場と比べるとかなり見劣りがする。 くが、その真面目さがこのようにきちっとした管理に (2)鍛造 生かされている。即ち、インド人に合ったやり方なの 歴史が古くメーカーも多いが一部を除いて近代化は かも知れない。日本の一流企業並みであり、日本の中 遅れている。冷間鍛造も普及している。現地セットメー 小企業はもう追い越されているかも知れない。 カーは殆ど現地調達しているが乗用車向けには高度な 管理は 4 項目ともに最高点の 5 点をあげている企業 技術が必要なので今後の技術改善が待たれている。 もあり、1 社では毎日改善の時間を 1 時間とり、毎週 (3)プレス 56 4.インド素形材産業の管理レベルの高さ と専門技術の問題 レビューの時間を設けている。改善提案の目標は月一 プレス産業は発達しているが、自動車用の大型の外 人一件であるが、実績は 1.16 件で目標を上回ると言っ 板のプレスには未だ問題が多く、製品の出来がいま一 ていた。改善室(“カイゼン”ルーム)も設けてあり、 つのようである。専業では順送プレスはまだ少なく精 これは日本の大企業も脱帽するような素晴らしいレベ 密プレスとともに今後の課題である。プレス現場の状 ルであり、日本もうかうかしていられない状況にある 況は日本と 20 年以上の遅れが見られる。また金型の ことを示している。 仕上げや組み立て整備に問題があること、熟練者がい ある企業では現場事務所が工場内の通路にあったの ないこと、まだ教育ができないことなどの悩みがある。 には感心した。ある会社では 4 M による変化点管理を SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3 “カイゼン ルーム 改善効果表示 写真 3 “カイゼン ルームと改善効果の表示例 写真 6 ダイカスト鋳物製ヒンズーの神様 (RICO Auto 社) 実感された。日本企業が進出すると きの一つの大きいポイントである。 現場の掲示例(JBM 社) 工場紹介の掲示例 写真 4 工場内の掲示例 このように工場管理面では優れて いても基礎技術、専門技術の面では まだまだ不十分なところが多く、例 えば不良率ではレベルⅡやⅢのところもあ り、今後の技術指導等を依頼された。 左より: 技術的な問題は乗用車向けになると今ま 個別改善 での顧客とちがい量産であり、製品は複雑 自主保全 軽量になり外観も問題にされる。QCD の 計画保全 品質保全 要求に対応できる技術が要求されている。 初期化管理 インドのローカル素形材企業のレベルは 間接部門の管理 日本の自動車企業との付き合いの程度で大 教育訓練 きな差がある。トップは日本と殆ど変わら 安全衛生・環境管理 ず一般は改善の余地が多い。 インド人の良い面は昔の恩義を忘れない 写真 5 “カイゼン の 8 つの柱 ことで人脈が成功のカギである。また、IT 産業に代表されるようにコンピュータを使 きちっとやっておりびっくりさせられた。また、出来 う技術はかなり進んでいるのでコンピュータを使った 高管理では作りすぎの場合は次の日に調整し、未達の 新しい技術の導入は容易である。 場合は残業でカバーするといったフレキシブル生産を 一方、自分が間違っていても非を認めないなどエン 行っているところもあった。トヨタへ納入している企 ジニアは 2 年で転職するのは当たり前なので繋ぎとめ 業で 1 個流しをやったら不良が激減したことに端を発 るためには給与を上げざるを得ない。また作業員で英 し、改善提案コンペで銀賞を受賞した企業もある。 語を使える人は 10 % であると言ったマイナス面もある。 また管理の成果をうまくまとめて玄関に掲示するな 現在、あちこちで高速道路の建設が進められており ど管理面の実践には見習うことも多かった。グループ活 インフラが整いつつあるが、電力事情はかなり悪く、 動も盛んで改善提案もノルマがあり、本採用と派遣が組 自家発電を備えなければならないことは留意すべきで んで提案している。現場では英語のわかる人は 10 % 程 ある。税制が複雑で毎年変わることも注意すべき事項 度であり、企業では掲示も書類もヒンズー語との併用で である。因みに、金型の輸入関税が 30 % であったもの ある。地方に行けばヒンズーも通じないので現場管理は が RTA により 7 % に下がったということがあり、イ 大変である。職場の班長クラスの教育の重要さが改めて ンドで金型を作るメリットがなくなったとの話もある。 Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI 57 5.アジア諸国の比較 専門技術と設備に問題がある。 タイはダイカストとプレスは進んでいるが鋳造・鍛 各国とも特色があり各国の技術レベルを数値評価す 造・金型が低い。鋳造、鍛造は自動車用に展開するに る初めての試みは成功したと考えている。しかし一部 は莫大な設備費が要るので参入できない。ここがイン には事前情報が不十分な面もあって完璧な調査になら ドと違う点である。金型は多くのユーザーが内製をし なかったことは残念であった。各国別に見るとインド ないでマレーシア、シンガポールや日本、韓国から輸 はここ数年驚異的に発展し、これからの爆発的な発展 入しておりその技術が発展しない。インドネシアの が予想される国である。ちょうど 2000 年ごろの中国に ローカルは需要があるわりに展開が遅い。国民性の問 似ている。豊富な人的資源とそれによる大きな内需を 題であると考える。フィリピンは国内需要がなく、ベ 背景に自動車産業を中心に機械産業が展開している。 トナムも輸出頼りである。この国は若い労働力に期待 その中で各企業の工場管理のレベルが高く、トップ企 して展開を考えるのがよいのではないか。 業の技術レベルも日本のトップに近く、各企業は財閥 項目別に各国を検討すると、インドは管理面で優れ を中心にグループ化、大型化しており素形材企業の展 ているが環境改善、省エネの意識が低い。インフラの 開は他のアジア諸国とは違った行き方が必要なことを 問題が表面化しているが対応が早いようで、専門技術 痛感した。中国の国家中心と違い民間主導の自由経済 と設備の面で改善が進めば素晴らしい産業になるので である。今後中国と対比しながら検討する国である。 はなかろうか。タイは日系を頼りにローカルの展開が この図でわかるようにインドのレベルは突出してい 遅い。すべての項目が 50 ∼ 60 % で日系に追いつかな る。タイに展開している日系企業と遜色がなく、鍛造・ い。したがってまだ日系の進出余地がある。インドネ プレス・金型はほとんど近く、鋳造・ダイカストでは シアは各項目が 50 % 以下でローカル企業の迫力を感 少し差がある。項目別に見たとき管理は進んでいるが、 じるのは一部である。資源があり国内需要も旺盛なの 全体 タイ日系 インド フィリピン インドネシア 180 120 プラスチック 金型 鋳造 60 全体 180 120 プラスチック 金型 鋳造 60 0 0 プレス ダイカスト プレス ダイカスト 鍛造 鍛造 業種別 1(180 点満点) 業種別 2(180 点満点) タイ日系 インド フィリピン インドネシア 基盤 100 製品 製品 専門 50 0 設備 管理 0 環境 開発 情報 管理 項目別 2(5 段階評価 最高 100%) (出所)平成 21 年度アジア産業基盤強化事業(アジアサポーティングインダストリー技術水準分析調査)報告書 図 5 業種別/項目別評価(アジア) SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3 設備 情報 項目別 1(5 段階評価 最高 100%) 58 タイ ベトナム 専門 開発 タイ日系 基盤 100 50 環境 タイ日系 タイ ベトナム で製品販売に留意すれば展開が可能である。フィリピ 連会社と合弁事業をするかが良い選択と思われる。ま ンはインドネシアに近いが国内市場がないので発展し た、経済成長率が高いので、新しい工場がどんどんで ない。また管理の考え方が弱い。若い労働力頼りにな きているために技術者や技術が追い付いていない状況 る。ベトナムは資源も少なく、インフラも悪い。組み があるので合弁等で進出するのも良い方法である。し 立て産業がないことは一般の素形材には致命的な条件 かし注意しなければならないことは、インドの企業は である。ここも労働力頼みの市場であり軽工業に向い 提携、合併、買収といったことを盛んに行っており、 ている市場である。 良いとこ取りだけされないようにしなければならない。 そ の 意 味 で は 今 回 訪 問 し た Munjal Kiriu Industries 6.進出についての考え方 Ltd. は良い選択をしたと思われモデルである。 Munjal Kiriu Industries PVT. LTD. は進出して間 このようなことから、自動車産業や電器産業へ供給 もないが自分たちの得意分野に特化しているため今後 すべく素形材の需要は益々増加することは間違いない 大きな発展が期待できる企業であるので簡単に紹介し と思われる。現在 Tier 2、Tier 3 で進出している日系 たい。 企業はない。現地に進出するためには幾つか考慮しな この会社は 2006 年にヒーロー・モーターの鋳物工 ければならないことがある。 場として操業を始めた会社を合弁の相手企業として住 第 1 は現地企業の管理レベルが高いことである。中 友商事と桐生機械が出資して 2007 年末に進出したも 堅かそれ以上の企業では ISO、QS、TS および TPM のである。それまでは家電部品を含む雑多な製品を生 と言った認証を取得している企業がほとんどであり、 産していたが、キリウの進出後はキリウの得意分野で 取得してなくとも取得の準備中の企業がほとんどであ ある自動車のブレーキ・ドラムとブレーキ・ディスク る。また多くの企業で“カイゼン”活動が盛んに行わ に特化して受注し生産を開始した。これは素材のみで れている。即ち、日本企業の得意とするところを既に なく、自社で製作している加工機械を持ち込んで加工 取り込んでいるところが多く、進出する場合にはそれ ラインを作り、素材から加工完成品までの一貫化生産 らの企業と競争することになることである。 を行っている。既に試作を進めており、2010 年 3 月か ただし、多くの企業が認識しているように、それぞ ら 2011 年 5 月までの間に 4 段階のステップで SOP が れの技術の基礎となるところが弱いことは確かであ 予定されており合計で年間 150 万個の製品が出荷され り、基礎技術に関する技術指導を求めている。つまり、 る予定である。工場は広大な用地を保有しているが、 理想とする目標値と実績値にはまだ大きな乖離があ 更なる要求についての対処は、顧客のロケーションも り、不良対策や各種の工数低減にはまだ多くの改善点 考え輸送コストミニマムを狙った展開を考えていると が残されている。とはいえ素形材企業の狙いはあくま のことであった。素形材企業が進出するには正にモデ でもグローバルスタンダードを目指しての活動を行っ ル的な方法であり見倣ったらと思った。 ており、できれば輸出で販路を広げたいと思っている。 以上、インドの素形材業界の現状を紹介したが今 今回訪問した企業から多くの技術支援の要望が出され 後インドへの展開を検討するうえでお役に立てば幸 ている。 いである。 これらの結果から今後の素形材企業のインド展開は、 おわりに、関係の皆様のご協力にあらためて厚く御 ①専門技術力の強さを主体の展開。 礼申し上げます。 ②素形材単品とか工程のみの進出ではなく、素形材 の設計から機械加工・溶接部品取付け・組み立て まで考えた製品展開。 昔から唱えていた米から寿司への展開である。 ③素形材の一部門だけでなく素材、塑性加工、切削 加工金型、溶接色々な工程を組み合わせて考える ④ Tier1 を目指した進出である。現地大手との合弁・ 提携である中国・東南アジアへの展開とは違っ た考えが必要である。 ユーザーを獲得できればそれなりに成長できる土壌 は存在すると思われる。インドは財閥企業で成り立っ ていることから、この財閥企業の一端に食い込むか関 写真 7 インド門にて筆者 Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI 59