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心臓・大血管の 手術を受けられる方への 説明書および同意書
心臓・大血管の 手術を受けられる方への 説明書および同意書 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科 P49 説明書 あなた(患者さん)の診断名は、現在までの検査結果では、 です。 (これはあくまで術前診断ですので、手術中に診断名が追加されるたり、あるいは変 更されたりすることもあります。) この病気とあなた(患者さん)の状態、そして外科治療の必要性、予後などについて は、担当の医師が詳細に説明いたします。基本的には、現在あるいは今後の病態が 内科的治療では予後が不良の場合に外科的治療が必要となります。また現在、心 臓・大血管疾患による明らかな症状の発現がなくても、将来症状の出現や病状の悪 化が当然予見され、その症状が出現した時点で外科的治療を行うよりも、現時点で 早期に外科的治療を行うほうが、予後が良くかつ全経過を通じての危険率が低いも のであれば、これを行う場合もしばしばあります。 手術は、 を 予定しています。この場合も手術中の判断でさらに他の手術が追加されたり、稀では よ ぎ ありますが術式の変更を余儀なくされることもあります。 診断を確実にするため、あるいは術後の治療をより的確なものにするため、手術中 に種々の生理学的検査(心臓、血管各部の圧測定、血液ガス測定、超音波検査な ど)を行ったり、病理組織学的検査用の組織(心臓、肺臓、血管など)を採取すること があります。この病理学的検査用に採取した組織の一部(弁、心外膜、心筋、血管、 胸腺、肺、骨など)の一部を、研究のための貴重な試料としてその使用をお願いする ことがあります。 今回の手術の危険率は約 %と考えられます(注)。これは純粋に統計学的 な数字ではなく、我々の現在までの経験、あるいは文献的、あるいは従来行われた 類似疾患の手術危険率およびあなた(患者さん)の現在の状態、年齢などから予想さ れる値です。(注:この危険率とは術後 30 日以内に死亡する確率を意味します。) P50 がっぺいしょう こういしょう 手術に際しては下記のような合併症や後遺症が起こることがあります。これらに対 して、その発生防止に最大限の努力を払うことは申すまでもありませんが、万一発生 した場合にはその治療に万全の体制で対処いたします。 1.脳・脊髄神経の合併症および後遺症について 心臓・大血管の手術では脳あるいは脊髄神経の合併症が起こることがあります。脳 けっせん どうみゃく こ う か 合併症は血液のかたまり(血栓)や動脈硬化を起こした動脈の壁の一部が脳血管に の う そくせんしょう 詰まったり(これらを脳塞栓症といいます)、脳血管の一部が破れて出血を起こしたり (脳出血)、あるいは脳が一時的に酸素欠乏状態になったりしておこります。この時の けいれん ま ひ 症状は意識の消失や、痙攣、麻痺、言語障害などです。また、大動脈の手術時には 脊髄への血流が一時的に少なくなることがあり、脊髄神経が障害を受け下半身の神 経麻痺が起こることがあります(対麻痺)。脳あるいは脊髄神経の合併症は軽度なも のは回復しますが、一部障害を残すこともあり、また重症な場合は全く回復しないこと もあります。 2.心不全について 心臓手術のあとには、一時的に心臓の収縮力が低下し心不全状態になることがあ ります。そのため、術後に強心薬などを使用します。多くの場合、術後2~3日で回復 しますが、術前の心臓の状態によっては長時間かかることもあります。薬剤だけで心 不全状態から回復できない場合は、心臓補助装置(これにはいろいろな装置がありま す。大動脈バルーンパンピング法:IABP、左心補助装置:LVAD など)を使うこともあり ます。 3.不整脈について じょみゃく ひんみゃく き が い しゅうしゅく 心臓手術後には治療を必要とする不整脈(徐脈、頻脈 、期外 収 縮 など)が起こるこ とがあり、抗不整脈剤、ペースメーカなどを必要とすることがあります。重症な不整脈 どう の場合には心停止に至ることさえあります。徐脈(脈が遅い状態:房室ブロック、洞 ふぜん 不全症候群など)に対しては、一時的に体外式ペースメーカを必要とすることがありま す。この徐脈が長期にわたる場合や、術後完全房室ブロックになった場合には、体内 植え込み型ペースメーカが必要となります。 4.呼吸器障害について 手術中、手術後には人工呼吸器を必要とします。自分で呼吸できるようになり、肺 の機能が回復するにしたがい、人工呼吸器をきりはなし、気管チューブを抜去します。 たん た ふく む き はい 術後には痰が溜まり、肺が十分膨らまなくなったり(無気肺)、肺の感染症(肺炎)を併 発したりして、再度人工呼吸器を必要とすることがあります。長期間人工呼吸器を必 要とする場合は喉を少し切開し、気管に直接チューブを挿入することがあります(気管 P51 切開)。また術後には肺から空気がもれ、肺がしぼんで膨らまなくなったり(気胸)、胸 腔内に浸出液や血液が溜まったり(胸水)、肺からの出血(肺出血)などが稀ですが起 こることもあります。気胸や胸水の場合には、注射器で空気や貯留液を除去したり、 量が多いときには細いチューブを胸腔内に挿入し、持続的に吸引することがありま す。 5.肝機能障害について しんしゅう 手術侵襲、低酸素状態、薬剤などの影響で術後肝機能障害(肝炎など)がおこるこ おうだん とがあります。障害が高度になると、肝不全になり、黄疸、意識障害、神経症状など けっしょう が出現します。このような場合には、血漿交換などの処置が必要となります。輸血を した場合には、これによって肝炎をおこすことがあります。 6.腎機能障害について 心不全状態が続くと、腎臓への血流が減少し腎機能障害がおこることがあります。 症状としては尿量が減ったり、全く尿が出なくなります(無尿)。十分な尿量が得られな ふ く ま くとうせき い状態が続く場合(急性腎不全)には腹膜透析、血液透析などの治療が必要となりま ふ し ゅ す。腎機能障害が続くと、浮腫、肺水腫、心不全など全身に影響がでてくることがあり にょうどくしょう ます(尿毒症)。 7.出血 最近では無輸血で手術を終える場合も増加していますが、心臓、大血管の手術で は思わぬ大出血を生じることがあります。また病室に帰室した後でも相当量の出血を みることがあります。このような場合には多量の輸血が必要となったり、再度手術室 で止血をすることがあります(最開胸止血術)。輸血量が増加することはもとより、呼 吸機能、腎機能や止血機能に悪影響を及ぼすことがあります。また新鮮血を大量に 輸血した場合には、異常免疫反応によって各臓器が障害を受け、皮膚が紅くなり(紅 皮症)、非常に重篤な状態を引き起こすことがあります。 8.感染症 めんえき の う じゅうかく 手術後には病原菌に対する抵抗力(免疫能)が低下し、感染症(創部感染、縦隔炎、 ずい ま く 肺炎、尿路感染、髄膜炎、胆道感染など)を起こしやすくなります。発熱が続いたり、 血液中の白血球が増加した状態が続く場合には、原因となる菌の検索をおこない、 抗生物質、グロブリン(血液製剤)などを使用し治療します。重症感染症の時には血 液の凝固系が異常亢進して血管内で血液が凝固し、そのため「凝固因子」が不足す は し ゅ せ い け っ かんない ぎ ょ う こ るので、次に全身の出血傾向が生じます(播種性 血管内 凝固 症候群:DIC)。これに 対して、ヘパリンなどの血液の凝固を抑制する薬剤が必要となります。 P52 9.薬剤アレルギー まれ 手術後には各種の薬剤を使用しますが、稀にこれらの薬剤に異常に反応し、発熱、 こつずい 皮膚症状、肝機能障害、腎機能障害、骨髄機能抑制(白血球、赤血球、血小板の減 はん 少-汎血小板減少症、無顆粒球症など)を生じることがあります。非常に稀ですがシ ョック状態になることもあります。多種の薬剤を使用している場合、原因となる薬剤の 固定は困難な事が多く、一時的に全ての薬剤の投与を中止しなければならない場合 もあります。薬剤アレルギーが多臓器におこる場合は、急速に全身状態が悪化し死 亡することもあります。 10.腸閉塞 大血管の手術、特に腹部の手術の場合には術後腸の動きが悪く、腸閉塞になるこ とがあります。この場合絶食し、投薬などで腸の動きを良くすることによって治るのが 普通ですが、改善が見られない場合には開腹手術が必要になります。 11.その他 術後、心不全状態が長期間続くと、全身の臓器に影響が生じ、それぞれの機能が 低下してきます(多臓器不全)。 術後 1 週間前後までは心臓の周囲に血液が少しずつ貯留し、心臓の動きが制限さ れ血圧が急に下がることがあります(心タンポナーデ)。これに対し病室、あるいは手 術場で創を開き、貯留液の除去を行うことがあります。 以上、合併症について説明いたしましたが、この他にも術後には予期せぬ事態が起 こり、状態が急変することがあります。その際にはあらためて説明を行います。ただし 救命のための緊急処置の場合には事後になることもあります。 最初に説明しました手術の危険率というのは、術後 30 日以内にこれらの合併症に よって死亡される場合も含めてのことです。しかし合併症によっては重篤な状態が遷 延して、術後 30 日以降でもなお危険な状態が持続する場合もあります。 術後には創部痛、発熱、体力低下、食欲不振などがありますが、医師、看護師の指 導のもとに、可能な限り積極的に早期離床して頂くことが大切です。また、心不全に 対する強心剤や、利尿剤、血管拡張剤、抗凝固薬、抗不整脈剤、抗生物質などを必 要に応じて服用して頂かなければなりません。 外来通院時には、術後の状態を正確に把握するため、血液検査、心電図、超音波 検査、心臓カテーテル検査、CT検査などを受けて頂くことが必要な場合があります。 P53