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大学図書館における電子ジャーナル契約の 現状と課題 ~ビッグディール

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大学図書館における電子ジャーナル契約の 現状と課題 ~ビッグディール
大学図書館における電子ジャーナル契約の
現状と課題
~ビッグディールの光と影~
東京大学附属図書館
尾城 孝一
ビッグディールとは
電子ジャーナルの契約モデルのひとつ
ある出版社が刊行している全ての電子ジャーナルに,契
約機関の全ての構成員がアクセスすることのできる契約
パッケージ契約,バンドル契約と呼ばれることもある



1
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールの価格
価格の仕組み


2
[契約開始時の購読誌に対する支払額+非購読誌アクセス
料]+毎年の値上げ
⇒ 全タイトルアクセス
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールの概念図
A大学(大規模)
非購読誌
(1,500誌)
購読誌
(500誌)
購読額1.8億+
非購読誌アクセス料0.2億
=2億
B大学(中規模)
C大学(小規模)
非購読誌
(1,700誌)
非購読誌
(1,900誌)
購読誌
(300誌)
購読誌(100誌)
購読額0.9億+
非購読誌アクセス料0.1億
=1億
購読額0.25億+
非購読誌アクセス料0.05億
=0.3億
●いずれの大学も2,000誌にアクセス可能
●ビッグディールの価格は大学により大きく異なる
●契約開始時の購読額に左右される
3
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールについての誤解
パッケージ商品ではない


出版社の全タイトルから構成されるパッケージ商品というも
のが存在し,それにある価格が付与されているわけではな
い
抱き合わせ販売ではない



4
タイトル単位での購読も選択可能
ビッグディール契約を強制されているわけではない
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディール契約の実態(国立大学)
出版社
タイトル数
契約大学数
契約大学数の割合
Elsevier
2,050
73
85%
WileyBlackwell
1,230
67
78%
Springer
1,800
75
87%
5
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
E社のビッグディールの国立大学への普及
(あるいは侵食)
2004年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
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WE
WE
WE
WE
Print
Print
Print
CA+LS
CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
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LS
LS
LS
LS
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CA
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UTL
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LS
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CA+LS
CA+LS
UTL
UTL
SC+UTL
SC + UTL
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CA+LS
CA+LS
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SC+UTL
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CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
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CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
SC+UTL
SC + UTL
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CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
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CA+LS
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UTL+LS
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SC
SC
SC
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CA+LS
Complete
UTL
UTL
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SC
SC
SC
CS+LS
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CA+LS
CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
FC
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Complete w/o SLG
Complete w/o SLG
Complete w/o SLG
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SC + UTL
SC + UTL
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LS(Standard)
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CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
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Standard
Standard
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Standard
TBT NBM
CA
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SC | Standard
SC | Standard
SC | Standard
SC | Standard
SC | Standard
SC | Standard
SC | Standard
LS(Standard)
LS(Standard)
SC
SC
SC
SC
SC
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FC
FC
FC
FC
FC
LS
LS
LS
Complete w/o SLG
Complete w/o SLG
Complete w/o SLG
Complete w/o SLG
FC
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FC
FC
FC
FC
CA+LS
FC
FC
FC
CA+LS
CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
SC+UTL
SC + UTL
CA+LS
CA+LS
UTL+LS
UTL+LS
FC
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Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
FC
FC
6
2005年
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CA+LS
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UTL
UTL
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LS(CC)
FC
FC
FC
FC
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FC
FC
FC
FC
FC
FC
FC
CA
CA
UTL
UTL
SC+UTL
SC + UTL
SC + UTL
FC
FC
FC
FC
FC
FC
FC
Standard
Standard
UTL
UTL
FC
FC
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Print
Print
UTL
UTL
FC
FC
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CA
CA
UTL
UTL
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FC
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UTL
UTL
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UTL
UTL
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CA
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UTL
UTL
FC
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CA
UTL
UTL
FC
FC
CA
CA
UTL
UTL
FC
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WE
WE
UTL
UTL
FC
FC
FC
Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
Standard
WE
WE
UTL
UTL
FC
FC
FC
No Sub
No Sub
No Sub
No Sub
No Sub
No Sub
No Sub
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
FC
FC
FC
FC
2010/9/24
国立大学外国雑誌経費(出版社別割合)
その他
24%
Sage
1%
LWW
2%
Elsevier
36%
OUP
1%
ACS
2%
AIP+APS
2%
IEEE
3%
Taylor &
Francis
3%
Nature Spr inger
4%
10%
W ileyBlac kwell
12%
総額:約120億
(電子+冊子)
*国立大学図書館協会契約実績調査(平成21年度)による
7
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
国立大学図書館協会
電子ジャーナル・コンソーシアム
2000年9月に設立


国立大学図書館を代表する交渉窓口として機能
ミッション(理念)



電子ジャーナルによる学術情報基盤の整備
学内および大学間の情報格差の解消
コンソーシアムの形態


ゆるやかな結びつきの「オープンコンソーシアム」

交渉窓口のみ一元化,予算・契約・支払は各大学毎
契約形態


8
原則としてビッグディール
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
国立大学・雑誌受入数(平均)の推移
シリアルズ・クライシス(雑誌の危機)
*文部科学省 大学図書館実態調査/学術情報基盤実態調査による
9
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
情報格差の是正
*文部科学省 大学図書館実態調査/学術情報基盤実態調査による
10
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールの恩恵


2000年以降の大幅なアクセス可能タイトル数の増加
→ 学術情報の基盤整備に貢献
小規模な大学でも,それまでの購読料にわずかな金額
を上乗せすることにより,一挙に大規模大学と同数のタ
イトルにアクセス可能となる
→ 情報格差の是正
11
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールの問題点

支出額の上昇



毎年5%程度の値上げ
コンソーシアムによる交渉も値上げを止めることはできない
(値上がり率の上限を決めるだけ)
歪んだコレクション


12
大手商業出版社が刊行するタイトルに偏ったコレクション
単発の優良誌(学会誌など)のキャンセルが進む
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
日本物理学会の調査

日本物理学会の購読状況アンケート



物理学の主要な学術雑誌263誌を対象
全国の大学,短大,高専図書館の2002年と2006年の購読状況を調
査
2002年と2006年を比較した結果



中規模大学,小規模大学では,Elsevier社のPhysicaシリーズ,
Physics Letters,Nuclear PhysicsやSpringer社のEurophysicsシリーズ
などが全てこの4年間で増加
小規模大学でAPS(American Physical Society)のPhysical Reviewシ
リーズが減少
大規模大学でも日本物理学会のJournal of the Physical Society of
JapanやIOP(Institute of Physics)のJournal of Physicsシリーズが減少
ビッグディールによる見かけ上のタイトル数は増えたが,その裏で
本当に必要な学術誌の購読が中止されているのではないか!
“研究経費の競争原理強化による教育研究環境の変化(Ⅲ)図書館アンケートによる雑誌購読状況”.
日本物理学会誌. Vol. 65, No. 1, 2010, p. 49-51.
13
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
ビッグディールの真の脅威


学術論文の投稿,利用,引用被引用などのデータを大
手の商業出版社が独占
大学の研究政策・戦略や国レベルの科学政策が少数の
民間企業にコントロールされる危険



例えば,Elsevier社は,大学の研究活動の評価や,研究戦略
の策定および実行を支援するツールである「SciVal Spotlight
(サイバル・スポットライト)」を2009年に発表
大学の経営陣,研究担当理事クラスへのマーケティングを積
極的に展開
学術コミュニティはデータに基づいて反論できない
14
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
図書館のジレンマ①
支出額(千円)
タイトル数
2,500
250,000
2,000
200,000
1,500
150,000
1,000
100,000
500
50,000
0
年
10
20
09
年
年
20
08
20
07
年
年
20
06
20
05
年
年
20
04
20
03
年
年
20
02
20
20
01
年
年
0
00
20
支出額
購読誌
アクセス可能誌
ビッグディールを継続するには
毎年の値上げに追随する必要がある
15
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
図書館のジレンマ②
タイトル数
支出額(千円)
2,500
250,000
2,000
200,000
1,500
150,000
1,000
支出額
A社の全タイトル数
アクセス可能誌
100,000
500
50,000
0
20
05
年
20
06
年
20
07
年
20
08
年
20
09
年
20
10
年
20
11
年
20
12
年
20
13
年
20
14
年
20
15
年
0
ビッグディールから離脱すると
アクセスできるタイトル数が激減する
16
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
当面の対策
コンソーシアムの連携強化
1.


公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)との連携
バーゲニングパワーの強化により,ビッグディールの値上がり
をできるだけ抑える
セイフティネットの整備
2.


17
タイトル数激減を緩和するためのセイフティネット
バックファイルの戦略的・体系的整備
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
コンソーシアム連携強化
(NII-電子ジャーナル基盤)
●契約支援
(出版社/ベンダー)
交渉
・電子ジャーナル
・バックファイル
・電子ブック
・人社系電子コレクション
・データベース等
(大学)
契約
・事務局機能(専任職員配置)
・統一的な交渉窓口
・バーゲニングパワーの拡大による
交渉力の強化
・各大学の契約担当者支援
大学図書館コンソーシアム
JCOLC
連携
PULC
JANUL
●Eリソース・コレクション
・EJバックファイル(NII-REO)
・人社系電子コレクション
・アーカイブ(CLOCKSS)
支援
●アクセス支援
利用支援
・GakuNinフェデレーション
・ERDB
国・文科省等
●国際連携
・ICOLC等を通じた連携強化
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第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
利用者
(研究者・学生)
その他コンソーシアム(将来的に拡大)
JNLC
2010/9/24
医図協/
薬図協
バックファイルの累積的購入とカレント契約
基本的な考え方
• バックファイルは国の財政支援により買い取る
• カレント分の契約は各大学及びコンソーシアムの取
り組みに委ねる
• バックファイルを毎年買い足すことにより,カレント契
約の範囲を限定し,負担をできるだけ軽減する
各大学・コンソーシアムが契約するカレントファイル
A大学
B大学
コンソーシアムα
C研究所
コンソーシアムβ
バックファイル(国としての学術情報基盤)
①国内の全ての大学が平等なアクセス
②バックファイルは毎年拡充され,各大学のカレント契約の負担を軽減
19
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
シナリオ
フェーズ1
標準のバックファイル
を国として購入
フェーズ2
カレント分を直近の5年
分として,バックファイル
とカレントファイルの隙間
分も購入
フェーズ3
カレント分は5年分で固
定し,ローリング
隙間分を毎年追加購入
カレント分
カレント分
カレント分
(各大学が契約)
カレント分(5年分)
(各大学が契約)
カレント分
隙間分
(国の予算で購入)
20
標準バックファイル
(購入済)
1年分買い足し
1年分買い足し
バックファイル
標準バックファイル
(国の予算で購入)
1年分買い足し
(購入済)
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
バックファイル
(購入済)
2010/9/24
バックファイル
(購入済)
期待される効果
1
バックファイルへのアクセスの平等化
2
3
21
カレント契約の購読料の低減化
ビッグディールからの離脱のセイフティネット
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
学術雑誌の値上げの要因
商品としての特殊性
1.

論文数の増加
2.

毎年3%増
商業出版社の市場独占
3.

市場の約2/3を商業出版社が独占
価格上昇に対する非弾力的な需要の存在
4.

多少値上がりしても,必要な雑誌は買い続ける
電子ジャーナルの新たな機能の開発費
5.

22
代替品が存在しないことにより,価格競争が成立しない
検索,論文リンク,各種アラーティング・サービス等々
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
長期的な展望

学術情報流通システムの改革


そのための取り組み





商業出版社に過度に依存した学術情報流通システムから脱
却し、学術コミュニティ主導の新たなシステムに移行
読者及び著者としての研究者への働きかけ
論文数偏重の研究評価の在り方の再考
読者と著者による適正なコスト負担モデル
オープンアクセス,等々
図書館だけで解決できる問題ではない!

23
学術コミュニティ全体が考えるべき課題
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
まとめ

ビッグディールの光



ビッグディールの影



アクセス可能タイトル数の飛躍的増加
情報格差の是正
際限のない値上げに伴う支出増
歪んだコレクション
ビッグディールからの出口

短中期的には


長期的には

24
コンソーシアム連携,セイフティネットの整備(バックファイル)
学術情報流通システムの改革
第81回日本動物学会大会(東大駒場キャンパス)
2010/9/24
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