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はじめに

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はじめに
_/_/_/
はじめに
_/_/_/
愛知県は平成 17 年度事業として、外国籍児童生徒の教育・生活環境の改善
を目指して、NPO・ボランティア団体や外国人学校等から企画案を公募し、
「多
文化共生教育支援事業」として、8 つの事業を選定しました。これは、その内N
PO法人トルシーダが委託を受け実施した「保見子どもの教育まるっとネット」
の報告書です。
豊田市保見団地は、国内でも最大規模の日系ブラジル人住民集住地域です。
教育環境も多様で、日本の公立学校をはじめ、ブラジル人学校、NPOの日本
語教室やポルトガル語の私塾など、様々な選択肢がある一方、不就学の子ども
も存在しています。また、団地内のいくつかのアパートでは、乳幼児の託児が
行われていますが、日本社会からは隔たりがあり、その実態は見え難い状況で
す。
「保見子どもの教育まるっとネット」は、このような教育機関の現状を把握
するとともに、公立学校との連携や、情報交換が可能なネットワーク形成を目
指したものです。
定住が長期化する中で、外国籍の子どもたちに必要な支援のあり方を関係者
の皆さんと共に考えていけることを願い、報告書としてまとめました。
_/_/_/委託業務名・概要_/_/_/
◆業務名
:保見子どもの教育まるっとネット
◆概要(事業の要約・事業の目的など)
❏外国籍の子どもたちの教育環境について実態把握をする。また、公立学校と多様
な教育機関との連携や情報交換が可能なネットワーク形成を目指す。
❏定住が長期化する中、外国籍の子どもたちに必要な支援のあり方を検討する。
_/_/_/実施事業について_/_/_/
◆実施時期
❏訪問聞き取り調査
平成 17 年 7 月 13 日(水)~平成 18 年 2 月 14 日(火)
❏保見中学校見学会・意見交換会Ⅰ
平成 17 年 9 月 28 日(水)
❏ワークショップ「子どもたちの明日を拓く~ブラジル人教育者の集い~」
平成 17 年 10 月 17 日(月)
❏健康相談会
平成 17 年 11 月 20 日(日)
❏講演会Ⅰ「元気にかしこくすくすくと」(対象:大人)
平成 17 年 12 月 4 日(日)
❏講演会Ⅱ「元気にかしこくすくすくと」(対象:子ども)
平成 17 年 12 月 16 日(金)
❏東保見小学校見学会
平成 18 年 1 月 20 日(金)
❏意見交換会Ⅱ
平成 18 年 1 月 27 日(金)
◆実施地域
豊田市保見団地及び周辺
◆具体的内容
❏外国籍の子どもたちをとりまく教育・託児・教育支援機関(ブラジル人学校・ポ
ルトガル語塾・アパートでの託児・NPO)の訪問聞き取り調査を行い、各機関
の実態(場所・受け入れ人数・子どもたちの様子・教育内容など)を把握する。
❏関係者による公立学校見学会と意見交換会(ワークショップ)を実施する。
❏財団法人豊田市国際交流協会ボランティアグループ医療支援グループと共に子ど
もを対象とした健康相談会を行う。さらに健康相談会の結果を受けて講演会を開
催する。
_/_/_/参加協力団体_/_/_/
《公立学校》
豊田市立保見中学校
豊田市立東保見小学校
豊田市立西保見小学校
《行政》
豊田市役所自治振興課
財団法人豊田市国際交流協会(TIA)
《託児施設》 (ババはポルトガル語でベビーシッターの意味)
ババ
クリスティーナ
ババ
ホザ
ババ
チヨコ
ババ
エリアニ
ベビーシッター アリッセ
ババ
ニウザ
メウ・ジャルジン
《ポルトガル語塾》
エルマラ教室
アルカ・デ・ノエ
《ブラジル人学校》
エスコラ・ネクター
エスコラ・ピンタンド・セッチ
エスコラ・アレグリア・デ・サベール(EAS)豊田校
《NPO法人・ボランティアグループ》
NPO法人子どもの国
学習支援事業
「ゆめの木教室」
TIAボランティアグループ 「外国人医療支援グループ」
子どもたちを取りまく教育環境
<保見>
ポルトガル語塾
公立小中学校
託児
ブラジル人
学校
ブラジル教育省
無認可
トルシーダ
CSN
日本語教室
不就学
_/_/_/
目
次
_/_/_/
はじめに
事業の概要
参加協力団体
ブラジル人の子どもたちを取り巻く教育環境(保見)
豊田市立保見中学校見学会・意見交換会Ⅰ
・・・・・ 2
ワークショップ「子どもたちの明日を拓く~ブラジル人教育者の集い~」
・・・・・ 9
健康相談会
・・・・ 17
講演会Ⅰ
・・・・ 21
講演会Ⅱ
・・・・ 28
豊田市立東保見小学校見学会・意見交換会Ⅱ
・・・・ 31
訪問聞き取り調査
❑託児施設
ババ
クリスティーナ
・・・・ 41
ババ
ホザ
・・・・ 43
ババ
チヨコ
・・・・ 45
ババ
エリアニ
・・・・ 47
ベビーシッター アリッセ
・・・・ 49
ババ
・・・・ 51
ニウザ
メウ・ジャルジン
・・・・ 53
❑ポルトガル語塾
エルマラ教室
・・・・ 57
アルカ・デ・ノエ
・・・・ 59
❑ブラジル人学校
エスコラ・ネクター
・・・・ 62
エスコラ・ピンタンド・セッチ
・・・・ 65
エスコラ・アレグリア・デ・サベール
・・・・ 69
❑NPO法人
子どもの国
学習支援事業
ゆめの木教室
トルシーダ
日本語教室CSN (参考資料)
・・・・ 73
・・・・ 75
評価と課題
・・・・ 76
提言
・・・・ 80
保見中学校見学会・意見交換会Ⅰ
託児者や塾指導者、ブラジル人学校と公立学校のネットワーク作りの契機とし
て保見中学校の見学会と意見交換会を行った。
保見中学校の国際教室と、取り出し授業の参観の後、給食をいただきながら、
保見中学校の先生方と懇談した。
ワークショップ
子どもたちの明日を拓く
~ブラジル人教育者の集い~
ブラジル人学校の先生、ポルトガル語塾の指導者、託児者と、NPOによるワ
ークショップを実施した。学校見学の感想や、それぞれが関わっている、子ど
もたちの様子を話した後、日本に住むブラジル人の子どもたちの教育について、
意見交換がされた。
1
豊田市立保見中学校見学会・意見交換会Ⅰ
日
時:平成 17 年 9 月 28 日(水)
11:10~13:10
場
所:豊田市立保見中学校
参加者:《保見中学校》
7名
《ブラジル人学校、ポルトガル語塾、及び託児関係者》
《NPO関係者》
《行政》
通
11 名
10 名
2名
訳:1 名
当日の託児
:2 名
◆挨拶◆
司会(トルシーダ伊東)
:おはようございます。今日は学校見学会です。よろしくお願い
します。まずは参加者の紹介をしてから授業参観、その後、給食を食べながら意見交換の予
定をしています。
校長先生
:倉嶋です。いろいろな観点で本校を見てください。心から歓迎申しあげます。
子どもたちの将来を考えたときに、どの子も学校で勉強してもらいたいと思っているのです
が、外国籍の子の中で、日本の学校にもブラジルの学校にも就学できない子のことを考える
と心が痛みます。その子の人生計画において未来を切り開くためには保見中も選択肢の一つ
でありますが、とにかく不就学の子が出ないように考えていく必要があると思っています。
本校のことは後ほど担当の者が説明します。それぞれの家庭によって将来計画が違うと思い
ますが、どのような計画であろうとも、中学校としてはそれに対応できるような教育をして
いくことが必要だと考えています。そのためにも、豊田市や愛知県の手助けを借りていきた
いです。後の見学会で見ていただければ分かると思いますが、NPO、ブラジル人学校、保
見中が連携しあって子どもの将来を支えていきたいと思っています。今後もよろしくお願い
します。今日はその第一歩だと思っています。
司会
:今日の会は、NPO法人トルシーダが企画し実施する愛知県多文化共生教育支援事
業です。愛知県県民生活部国際課の岩田さんからご挨拶をいただきます。
岩田 :愛知県では、外国籍の子どもが増えていますが学習環境は不十分です。この事態に
対応するため、愛知県多文化共生教育支援事業は 8 つの団体に委託をしており、今日の会は
2
ブラジル人の関係者の意見交換ということでぜひ参加したいと思っていました。こういった
試みは珍しく、これを機に地域のネットワークづくりができることを願っています。
◆趣旨説明◆
司会
:保見団地の中とその周辺にはいろいろな教育機関があります。皆さんそれぞれに努
力しておられますが、お互いにどのようなことをしているかは知らないのが現状です。外国
籍の子どもの多くは公立学校に通っていますが、その情報はなかなか伝わってきません。さ
らに、複数のブラジル人学校もあり選択肢が多いだけに難しい。実態の把握がされていない
ので、うわさも多く、正しい情報が乏しく、親の立場からすると何を基準に選んでいいのか
分からないようです。今日集まってくださった皆さんは、子どもの将来を支えるために教育
を担っているので、そのような方々に、今日は正しい情報を知っていただきたいと思います。
今まではがんばって働いたら帰国していましたが、そのスタイルが変わってきました。滞在
期間も長くなっていますし、そこから派生する問題を含めて、皆さんと考えていけたら良い
なと思っています。よろしくお願いします。
◆参加者の紹介◆
(時間が短いので、司会者から参加者の紹介)
ブラジル人学校「ネクター」のクレオニセさんとカルロスさん。1996 年という初期の段階か
らポルトガル語を教えていて、長野県飯田市にも学校があります。2001 年にはブラジル教育
省の認可も受けています。
託児及びブラジル人学校「ピンタンドセッチ」のエロイーザさん。
ポルトガル語塾「アルカデノエ」のヒタさん。日本の学校に行っている子どもたちにポルト
ガル語を教えています。20 名ほどの生徒がいるそうです。今日はお手伝いしているマリアさ
んも参加してくださいました。ヒタさんのお子さんは、現在保見中の 1 年生に在籍していま
す。
アリッセさんは、
「ベビーシッターアリッセ」として小さい子の託児をしています。就学前の
子の関わり方も大事じゃないかなと思っています。
「メウジャルジン」のネウザさん。託児をしています。一番大きい子は 12 歳で、ポルトガル
語の勉強も見ていらっしゃいます。メウジャルジンを始めて 6 年になるそうです。
エルマラさん。託児とポルトガル語塾をしています。
NPO法人子どもの国「ゆめの木教室」の井村さん、山路さん、林さんです。日本の学校に
通っている子の宿題を放課後見ています。ブラジル人学校のお子さんに日本語も教えていて、
3
保見団地の 141 棟第 2 集会所で、午後 2 時半から 6 時まで活動しています。
愛知県国際課、岩田さん、安達さんです。安達さんがこの事業の担当者です。
NPO法人トルシーダ。保見団地 141 棟第 2 集会所で、午前 10 時~12 時まで、日本の学校
に行っていない子どもたちを対象に「日本語教室 Curso Sol Nascente(クルソ・ソー・ナセ
ンチ)」を実施しています。伊東、小久保、寺本、立山、逵、大谷、湯原です。
◆保見中学校における外国籍生徒への対応と先生方の紹介◆
松下先生
:松下です。金田エリザ、
山口ガブリエルは、保見中学校の通訳
です。本日の参加者は校長、渡辺教頭、
教務主任小野です。保見中学校の外国
籍の生徒は 51 名。
(ブラジル 42 名、ペ
ルー6 名、フィリピン 2 名、
中国 1 名)
。
小さいときから日本にいる子が多く、
このような子の多くは日本語の問題は
ありません。少し大きくなって低学年
くらいの年齢で日本に来た子は、歴史
などが分からないので、少人数学級という 4、5 名のグループで、普通の授業と同じ内容を
分かりやすく教えています。外国籍生徒の約半数の子が対象となっています。中学に入って
から日本に来た子は日本語が十分ではないので、取り出し授業と言って、国語、社会、英語
を中心に原学級とは別に国際教室で勉強をしています。日本語の指導もしています。数学、
美術などは普通学級で受けており、教科担任の話が分からない場合は通訳の先生が入って説
明をしています。入り込みと言っています。
今日の授業参観は私(松下先生)の社会と久米先生の国語の授業で、共に国際学級の授業で
す。
4
◆授業参観◆
松下先生の社会
万博に参加した国の中から興味のある国について、場所や面積、人口などを調べる。新聞や
インターネットも活用する。
来日 1 年目~3 年目の 3 年生が 3 名。
ブラジル籍の生徒 2 名、
ペルー籍の生徒 1 名。
久米先生の国語
常体、敬体の文章の説明から、敬語表現を学ぶ。
3 年の生徒 4 名
◆給食を食べながらの意見交換会◆
エロイーザ :以前は、ブラジル人学校アレグリア
デサベールの校長を務めていました。今は、ピンダ
ントセッチの校長です。国際学級は子どもが少しだ
けでしたね。原学級では外国籍の子どもたちの様子
はどうなんでしょうか。今日は初めて取り出し授業
を見たので、原学級にいるときの子どもたちも見た
いと思いました。これからもよろしくお願いします。
もう少し見たかったですね。生徒は、インターネッ
☆メニュー☆
豆腐と青菜のスープ
トで調べたりすることができますか?
とうもろこし
校長先生 :好きな時間にいつでもと言うわけには
豚肉のしょうが炒め
いかないけれど、コンピュータ室にパソコンがたく
ごはん
さんあって、生徒が勉強のためなどに使うことがで
ひじきのり
牛乳
きます。
エルマラ :
(国際教室社会科の授業でのこと)日本に来たばかりで、新聞を読むのは難しい
と思いました。
5
井村
:今日は、参観させていただきありがとうございます。第二国際教室の掲示物は、進
路についての説明が分かりやすく書いてあって、いいと思いました。常に先を見通せるよう
な体制をとっていると感じました。
ヒタ :中学校へ来るのは初めてではないですが、日本の教育はすばらしいと思います。自
分の子どももここに通っているので、授業参観で先生たちの指導法のアイデアを見ては自分
の教室でやってみたりしています。子どもたちは、授業が難しいと思っているけれどがんば
っています。今は難しくても何か月後か先に覚えることができると思います。今日はありが
とうございました。
ネウザ :日本の学校に初めて来ました。ブラジルでは、学校の教師をしていました。今日
この会に参加できてとても良かったです。今日の授業を見て、日本語がうまくできない子が
日本の授業を受けるのは辛いと思うので、自分の子を日本の学校に入れる前に親が授業を見
るべきだと思いました。親は、子どもが学校で辛い思いをしていることを知らないかもしれ
ないです。社会の授業で日本語が通じない子がいましたが、親たちにこの現状を見てほしい
と思いました。
クレオニセ
:保見中学を良く知っています。なぜなら私の子どもが 2 人、計 6 年間通って
いたからです。以前よりも、外国籍の子どもたちにいろいろと対応してくださっていると思
いました。子どもが学校へ行くことは大切で、学校へ行きたくないと言っても親は連れてい
くべきだと思います。なぜなら、来日は親の人生計画で決めたことだから・・・
アリッセ
:中学校には、初めて来ました。私の子どもは、日本の小学校へ行っています。
子どもたちは日本にいるから日本語を覚えなければならないけれど、ブラジルに帰るかもし
れないから母語も覚えなければならないので大変です。子どもは宿題が嫌いで、あまりしよ
うとしません。夏休みに預かっていた子どもの宿題を見たけれど、日本の学校はとても宿題
がたくさんありますね。子どもは、夏休みなのに勉強に時間をたくさん使わなければならな
いので、余計に身が入らない感じがしました。
司会
:中学校のほうから、現状の問題点などいろいろとお話ください。
教務主任 :現在外国籍生徒総数 51 名、ほとんどが小学校から上がってきます。日常会話で
の言葉の問題はないようですが、勉強面では日本語で苦労している生徒が少なくないように
思います。ですから、今日見ていただいたような授業で力をつけてもらおうとしています。
親御さんは日本語が通じない方が多く、保護者と話しをするときに通訳の先生方の協力を得
てやっています。しかし、通訳さんが 3 人しかいないので、すぐに対応できないこともあり
ます。例えば個別懇談会です。保護者、本人、通訳の都合を合わせますが通訳のスケジュー
6
ルによっては時間がかかります。生徒の力をつけていこうと努力していますが、なかなか難
しい。それでも、以前は通訳は 2 人だったので、1 人増えて以前より良くなったと思います。
教頭先生 :本日ご覧いただいたように、
(外国籍生徒のための)先生は 2 人いまして、加配
と言います。きめ細かな指導をするためには、2 人では足りません。しかし、県の予算の関
係で 2 人しかいません。通訳は、豊田市からお金がでています。外国籍の生徒のための教員
の数をもっと増やしてほしいですね。私は数学を週1回教えにいきますが、通訳がついてき
てくれます。でも足りないです。通訳が増えれば、もっといい授業ができると思います。そ
れでも、与えられた中で先生方は精一杯やっています。ブラジル人の保護者からは、ブラジ
ルで受けた教育と違うという苦情もいただきます。先日も、小学校の先生と話しをしたとき
に、ブラジルの子どもが帰宅途中に青いびわをとって食べておなかをこわし、それに対して
親御さんから苦情が来たそうです。
「なんでそういうものを食べるなと言わないのか(指導し
ないのか)」という内容だったそうで、そういうことには戸惑いますね。子どもの教育に関す
る価値観の違いだとは思いますが、今回のような話し合いの機会があれば理解に役立つので
はないかと思っています。
松下先生
:保見中では、授業参観の際に外国籍生徒の親御さんにいろいろなことを説明し
ています。豊田市も、夏に日本の学校システムの説明会を開いていますが、こういうことを
どんどん宣伝しなければと思います。そのような機会を活用してもらって、日本の学校を選
ぶのか、ブラジル人学校を選ぶのか、その判断に活かしていただきたいです。中にはブラジ
ルに帰るから勉強はどうでもいいや、という子もいますが、短い間でも目標をもってもらい
たいと思います。昨年は、外国籍の子どものうち半分が高校へ進みました。今後も、指導に
力を入れていきたいと思います。
司会
:ネクターのカルロスさんは、先日ブラジルで行われたシンポジウムで、日系社会の
子どもたちの問題を話し合っていらっしゃいました。今、ブラジルで問題になっていること
を短く説明してください。
カルロス
:教育は、子どもたちにとっては大変な問題だと思います。3 週間前、ブラジル
のサンパウロでシンポジウムが行われました。日本からブラジルに帰ってきた子どもたちの
教育問題について、2 日間話し合いました。ブラジル全国教育に所属している方の講演会を
撮った DVD があります。私たちはブラジル人ですが、ブラジルの教育制度をちゃんと分かっ
ていませんでした。でも、ブラジルの現在の教育制度を皆さんに説明する必要があると思い
ます。日本での小学校と中学校に当たるものがブラジルにもありますが、日本でブラジル教
育省が認可した学校のうち、37 のブラジル人学校はブラジルでは認められていません。なぜ
なら、カリキュラムが統一されていないからです。教育省が、大使館や領事館を通して、ブ
ラジル人学校へ伝達していないんです。無責任だと思います。本日は時間がないので詳しく
7
話せませんが、このような会は大変ありがたいと思います。いつでも呼ばれれば話にきます。
ありがとうございます。
校長先生 :途中入学する子の中には、今までどこの学校にもいっていなかった子がいます。
本校に適応できなくて、途中退学する子もいます。しかし、私はその子の道が開けるならブ
ラジル人学校へいってもいいと思っています。ただ、
「退学した後どうするの?」と聞くと「わ
かりません」と言う子もいます。勉強していなかった子が突然くることになっても当然勉強
は分からず、そういう子がかわいそうです。不就学が、その子にとって一番不幸であると思
います。保見中学校でもブラジル人学校でもいい、将来の道が開けるように、どこかで教育
を受けてほしい、不就学の子どもを作ってはならないと思います。そのような子どもが出な
いように、お互い連携をとっていきましょう。本日はどうもありがとうございました。
岩田
:本日は貴重な時間をありがとうございました。保見中学校では日本語教師の資格を
持っている先生もいらっしゃることをお聞きしました。愛知県のブラジル籍の方は 63,000 人
で国別でみると、一番多い数字です。不就学の子がそのまま永住することは、将来に大きな
問題を生じることになります。問題を防ぐためにも、不就学の問題に取り組むべきだと思い
ました。
司会
:今日の会は「はじめの一歩」だと思います。今後ともよろしくお願いします。本日
はありがとうございました。
8
ワークショップ
「子どもたちの明日を拓く
日
時
~ブラジル人教育者の集い~」
:平成 17 年 10 月 17 日(月)
10:00~12:00
場
所
参加者
:独立行政法人都市再生機構保見ケ丘第 2 集会所
:《ブラジル人学校、ポルトガル語塾、及びブラジル人託児関係者》
《NPO関係者》
通
訳
4名
7名
:1 名
当日の託児
:3 名
司会(トルシーダ伊東)
:今日は色々な立場からブラジルのお子さんに関わっている方々
のワークショップを行います。よろしくお願いします。
前回(平成 17 年 9 月 28 日)は保見中学校の見学会と意見交換会を行いました。そのときは
時間が短くて皆さんのお話を聞くことができなかったので、今日は皆さんのお話を聞かせて
いただきたいと思います。前回お見えでなかった方もいらっしゃるので、はじめに「ピンタ
ンドセッチ」のエロイーザさんからお願いします。
エロイーザ
:保見中見学会のときは時間が短かったのですが、そのときに感じたことを話
したいと思います。まず、
(国際教室見学について)生徒たちが自主的にいろいろなことをや
っていることはいいことだと思いました。日本とブラジルの文化は違うから、文化を知り合
うことが大切だと思います。ブラジルの子どもたちも日本の文化を知って、日本の学校もブ
ラジルの文化を知って、お互いにもっと関心を持っていただきたいと思います。子どもの将
来のことや、子どもの未来をどのように導いたらよいかということを考えると夜も眠れない
ときがあります。みんなで子どもたちのことを話し合うことはとても大切で、このような話
し合いの機会をたくさん持つことは必要だと思います。子どもの親とも何回でも話し合って
子どもたちの未来を一緒に考えると、親は安心すると思います。
司会
:保見中学校の見学会に参加した感想はいかがですか?
エロイーザ
:学校はさまざまな教材も用意されていて、外国人の子どもたちを心配してい
るように感じました。でも子どもたちの日本語のレベルはどうなのでしょう?子どもに学力
があっても日本語が分からないと授業についていけないので、子どもたちのレベルと学校の
授業のレベルが合っているかが心配です。
9
司会
:「ピンタンドセッチ」は、現在 51 人の子どもがいるそうで、託児もし、勉強も教え
ています。では次は井村さんにお願いしたいと思います。井村さんは日本の学校へ行ってい
る外国籍の子どもの学習支援をしている「ゆめの木教室」の代表の方です。
井村
:国際教室で、社会と国語の取り出し授業をされていましたよね。さきほどエロイー
ザさんもおっしゃっていましたが、それぞれのお子さんの学力に合っているのかな、全員が
理解できているのかなと思いました。一斉授業をやめて個々で継続していくべきかなと思い
ます。その子なりのテキストを用いて通訳してというやり方の方がいいのではないかと思い
ました。本当は国際教室ではなくて原学級を見たかったです。ブラジルの子どもたちの大半
は原学級で授業を受けているので、その様子を見たいと思いました。ゆめの木教室に来てい
る子たちが「学校の先生の話している言葉が理解できない」と言っていたことがあったので、
その子たちが本当に授業についていけているのかどうか、教室の中で先生がどういう言葉で
子どもたちに授業をしているのか、そのあたりを確かめたかったです。あと、校長先生のお
話にもありましたように、学校が不就学の子たちを出さないように取り組んでいることは分
かったんですが、一人ひとりの先生方がどのように考えているのか、人権も含めてどのよう
に関わっているのかというところを知りたかったです。
司会 :
「アルカデノエ」のヒタさんは、日本の学校へ通っている子どもたちにポルトガル語
を教えています。託児もしています。御自身のお子さんが現在保見中に通っているというこ
とですので、そのあたりからお話をお願いします。
ヒタ
:私の子どもたちは保見中学へ通っているのですが、私が自分の子どもに教えている
ように、子どもたちにとって日本とブラジル両方の文化を知ることが大切だと思います。私
は PTA にも入っているので、先生方が学校でどんなことをしているのかが分かるから安心し
ます。子どもたちは「先生はすごく優しい」と言っています。ブラジルから来た姪は、日本
へ来て日本の学校へ入ったのですが、日本語が分からなかったので授業中はずっと通訳が横
についていました。子どもが不安にならないためにはそれはすごく大切なことです。
司会
:クリスティーナさんとニウザさんです。クリスティーナさんは、8 ヶ月と 1 歳半の
お子さんを預かっています。ニウザさんは、0 歳から 2 歳までのお子さんを預かっています。
大体いつも小さいお子さんを預かっているということですが、小さいお子さんを預かってい
るということは、託児所が足りないということなんですか?それとも、知り合いに預けたほ
うが安心ということなんでしょうか?
ニウザ :
(預けられる子どもの)お母さんたちがブラジル人に預けたほうが安心なようです。
自分の家族や親戚の子どもを預かることもよくあります。今は姉の子どもを預かっています
が、家族はそのほうが安心なんです。
10
クリスティーナ
:保育園に入れないから預かっている子もいるし、預けるブラジル人の親
がブラジル人の託児の方が安心だということもあるし、保育園では子どもがちょっとでも熱
があると預けられないけど、自分だと預かって病院に連れて行くことができるからだと思い
ます。
司会
:そのような託児所の情報は、皆さんの中でどのように伝わるのですか?どのように
情報を共有するのですか?
ヒタ
:例えば、クリスティーナさんがお子さんを預かっていて、すごく大事にしてくれて
いたら、うわさで広まります。
司会
:日本の幼稚園などの情報はどのように伝わるのですか?
クリスティーナ :市の広報を見ます。
ニウザ :広報だけでなくて、うわさでも。「日本の保育園のほうが安いよ」ということを聞
いたことがあります。
ヒタ
:(12 年前)私が日本に来たときもブラジル人の託児の人はたくさんいました。でも
最初にうちの子を預けた託児の人はあまりよくなかったんです。それで保育園に見学に行き、
保育園に他のブラジルの子どもたちがいるかどうかなどを自分の目で確かめました。日本の
保育園に悪い箇所はありませんでした。
司会
:保育園で生後 6 ヶ月から預かってもらえるというのは自分で探したんですか?
ヒタ
:自分で探しました。あの当時はポルトガル語での案内がありませんでしたから。今
は便利ですね。
司会
:広報のポルトガル語の案内を見ますか?
全員
:見るけど最後の頁しかポルトガル語じゃないので最後しか見ない。
伊東
:保見団地は住民の 3 分の 1 が外国人の方で、いろいろな問題があると聞いていまし
た。日本という外国に住むのは大変だと思いますが、どのような問題があるとお感じになっ
ていますか?
ヒタ
:日本で子どもを育てるのはとても難しいです。私の子どもは今 11 歳と 13 歳で、日
11
本の生活に馴染んでいるけれど、いつかはブラジルに帰るかもしれないので家の中ではポル
トガル語を話してほしいしブラジルの料理も食べてほしいと思っています。いつかブラジル
へ帰るかもしれないからブラジルの文化も教えたいと、ブラジルのお父さんとお母さんはみ
んなそう思っています。文化が違うのでいろいろな問題もあって、例えば日本では給食中に
おしゃべりしてもいいけれど、ブラジルではそれはいけないことなんです。口をもぐもぐし
ながら話すのは気持ちが悪いとされています。汁物もすすって飲んではいけないなど、日本
ではやってもいいけれどブラジルではやってはいけないことを教えなければならないと思っ
ています。
預かっている子どもの中で一番ポルトガル語が話せる子は、お父さんとお母さんもポルトガ
ル語を話し、テレビもポルトガル語で見ているそうです。中にはそういう環境にない子もい
て、そういう子はポルトガル語の発音に問題があります。
エロイーザ
:家庭でもポルトガル語を意識して使わないと難しいですね。
司会
:井村さんは子どもさんのポルトガル語の能力についてどのように考えますか?
井村
:子どもたちの親御さんに「家庭では日本語とポルトガル語のミックスで話すのはや
めてください」と言っています。ゆめの木教室では日本語で通しています。日本語で自分の
気持ちを表現する、伝えるということを通しています。
伊東
:子どもたちの日本語の力はどうですか?
井村 :語彙力がないですよね。
「弁当持参」と言っても分からないけれど「弁当を持ってき
なさい」なら分かります。ある日、子どもが宿題の漢字ドリルを持ってきて「先生に残り全
部って言われた」と言うんです。でも子どもは「残り全部」の意味が分っていなくて、
「まだ
やっていないところをやってきて」という意味だと説明して理解できたようです。どこまで
子どもたちが担任の先生の話を理解しているのか。本当は分からないのに分かったフリをし
ている子がいるんじゃないかなと思いました。
エロイーザ
井村
:授業中にもきっとあるでしょうね。
:子どもたちは「分からない」という意思表示をしません。だから担任の先生は子ど
もたちが分かっていると思っています。子どもたちが提出物を出していないと「提出物が出
ていない」と叱るでしょうけど、本当は子どもは先生の指示を理解していないのかもしれま
せん。担任の先生の問題だと思いますけど先生方は分かっていない。先生方も忙しいから全
てのフォローは無理だと思いますけど。
12
司会
:エロイーザさん、子どもたちのポルトガル語の能力はどうですか?
エロイーザ
:幼稚園の子は最初からポルトガル語で入っているから大丈夫です。問題のあ
る子は日本の学校へ通っている子で、放課後に来てポルトガル語の勉強をしている子たちは
R と L の発音の違いが分からないんです。日本語の動詞とポルトガル語の動詞の活用形態は
違うのですが、ポルトガル語というのは様々な国の言葉から影響を受けているから難しいん
です。子どもたちは普段日本語を使っているため、ポルトガル語が難しくなるんですよね。
司会
参加者
:ほかの方にもたくさん話していただきたいと思います。何か質問がありますか?
:「ピンタンドセッチ」には日本の学校へ行っている子はいないんですか?
エロイーザ
参加者
:いえ、います。学校が終わってからポルトガル語を習いに来ています。
:子どもたちの将来を親御さんはどのようにお考えなのですか?またエロイーザさ
ん自身は教育について、どうお考えですか?
エロイーザ
:まず、一番大切なのは子どもが礼儀正しく周りの人を敬うということだと思
います。親がそのことを教える時間がないので、私の学校では敬う気持ちを教えています。
子どもが社会に出るためのしつけを担っているんです。そして子どもが社会で恥ずかしくな
いように日本でのルールも教えます。もし人から噂を聞いても確証が持てるまではそのこと
を人に話したりしないなどということです。
ヒタ :一番心配なのは自分の子どものことです。子どもが小学校 1 年生のとき、「将来はゴ
ミ収集車の仕事がしたい」と言いました。それがショックでした。だから今子どもに「日本
の学校はいいことをいっぱい教えてくれるからがんばって勉強しなさい。一番を取らなくて
もいいから真ん中くらいの成績を取りなさい」と言っています。子どもは NHK が好きで、下
の子は特に病気についての番組が好きです。その子はお医者さんになるのかなと思っていま
す。日本の教育制度では高校にはいろいろなレベルがありますよね。高校に行っても大学ま
で行かない子も多いと聞きました。私の子どもは大学まで行ってほしいと思っています。保
見団地にいると、子どもたち(15 歳くらいから)を対象にした仕事がたくさんあります。子
どもたちはお金が大好きなので仕事をしてしまう。でもブラジル人の親は子どもに大学まで
行ってほしいと思っていると思います。ブラジルでは大学は 2 つ、3 つ行くのが当たり前で
す。ブラジルの子どもたちは日本では高卒と大卒では社会に出たときに初任給が違うという
ことを知らないので、そういうことを学校でも教えてほしいです。子どもたちにもっと教育
を受けてほしいです。
13
司会
:日本での仕事に関していうと、儲かる、儲からないというのもあるけれど、この仕
事をしていると身分が低いというのはないんです。だから車好きの子がゴミ収集車に乗りた
いっていう話はよくあります。教養や教育の有無とは関係ないんです。
エロイーザ
:ブラジルの教育は、大統領の考え方に左右されるところが大きくて、ブラジ
ルでは小学校だけしか出ていなかったら食べていくのも難しい給料しかもらえないんです。
司会
:私たちは学校に行っていない子たちに日本語を教えていますが、日本でも学校へ行
っていないというのはとてもハンディがあります。運よく仕事を見つけられても続かないの
が現状で、その子の将来の展望は難しいと思います。親御さんは働くために日本へ来たから
ということで割り切れるけれど、子どもたちは中途半端になってしまって、いろいろなこと
が納得できず、自分の思い描いていた将来と違うということでストレスを溜めるということ
があるのかなと思います。
エロイーザ
:私は教師として愛知県だけじゃなく三重県、静岡県でも働いてきました。ど
こへいっても問題は同じです。子どもたちは 10 歳になると、やりたいことを主張するように
なり、そのままやりたいことだけをやらせてしまうと、学校へ行きたくないので行かなくな
るといった子が出てきてしまいます。子どものやりたいことに対し、親がある程度の方向を
決めてあげるべきです。ブラジルではインフレなので日本で稼いだお金がすぐになくなって
しまいます。結果せっかくブラジルへ帰国したのにまた日本に戻って来ることになってしま
い、その間に子どもたちは大きくなっていきます。振り回されるのは子どもです。子どもた
ちにとっては違う文化の学校へ行くことはとても大変なことで、親は子どもの将来をちゃん
と考えなければならないと思います。ブラジルで家があっても車があっても意味がありませ
ん。今、日本で 14、15 歳のブラジルの子どもたちが犯罪に携わっているという話を聞きます
が、その子どもたちの親は、子どものことを何も考えてこなかったのではないでしょうか。
だから 10 歳前後の教育が非常に大切だと思うんです。
司会
:みなさんのところで子どものために工夫している教育、しつけがあったら教えてく
ださい。
エロイーザ
:今回のように会議をやって、話を共有して、それを親に話すのが一番いいと
思います。ブラジルでは、日系人はとてもいい人という印象がある。日本に来てもう何十年
かになるけれど、日本に来てショックだったのは日本では日系人はよくない人ということ。
どうしてブラジルではいい人なのに、日本に来ると泥棒とかになってしまうのでしょう。ち
ょっと悲しいです。
ヒタ
:私はサンパウロに住んでいました。サンパウロでの日系人はレベルが高く、皆さん
14
いい人でした。それなのに日本では逆のようになっていて残念です。
ソランジェ :ブラジルではいい大学に入っているのは 50 パーセントくらいが日系人でした。
日系人はお医者さん、弁護士、いい職業についている人が多いんです。
ニウザ
司会
:大学の試験合格者をチェックするとトップクラスは皆日系人の名前でした。
:では率直に聞きますが、日本にいるブラジル人の親御さんたちは、日本に来て日本
の教育に期待をしていないのでしょうか?子どもの将来に関心がなくなっていると思います
か?
ニウザとエロイーザ
:ブラジルに帰ると決めている人は、だいたいブラジル人学校へ子ど
もを入れます。でも日本には稼ぎに来ただけなので、授業料の高いブラジル人学校へは入れ
ずに日本の学校へ入れるという人もいます。ヒタさんのところにはそういう子も行きます。
その様な子たちがブラジルに帰ると、ポルトガル語が不十分なので 14、15 歳の子たちが年齢
相当の学年ではなく、自分たちよりも小さい子たちと一緒の授業を受けなければならなくな
ります。日本で不良になってしまった子たちはブラジルに帰れないし、帰らないかもしれな
い。日本の永住ビザを取っている人たちもブラジルへは帰らないかもしれない。以前は帰る
人が多かったと思うけれど、今はブラジルへ帰らない人が結構いると思います。
参加者
:ブラジルから日本に来るときに、子どもの教育を考えないで来てしまう人がいる
ということですか?
ニウザとエロイーザ
:ブラジルでも日本でも親は同じくらい働きます。ブラジルの場合、
仕事場まで 2 時間くらいかかる人もいます。日本に来たことで何が変わったのか。日本では、
親が残業をするため子どもと話をするす時間がとれません。ブラジルでは子どもとたくさん
話をします。ブラジルでは電化製品が高いのでそのために一生懸命働いて、手に入るととて
も嬉しくて大事にしますが、日本では何でも安く、すぐに手に入るので、日本では一生懸命
やるという価値観が変わるんだと思います。そういうことが影響しているのかもしれないで
すね。
司会
:時間ですので、そろそろ終わりにしたいと思います。今日は貴重なご意見をありが
とうございました。これを参考に、また次の機会につなげたいと思います。
15
健康相談会
ブラジル人学校の生徒と、不就学の子どもたちに、健康診断の機会はない。T
IAボランティアグループ外国人医療支援グループと協働で健康相談会を実施
した。
講演会Ⅰ
健康相談会で明らかになった生活習慣の問題について、専門家(看護師)によ
る講演を実施した。
講演会Ⅱ
一回目と同様の内容で子どもたちを対象に講演を行った。
16
健
康
相 談
会
日
時:
平成 17 年 11 月 20 日(日)
場
所:
独立行政法人都市再生機構保見ヶ丘第 1、第 2 集会所
対象者:
ブラジル人学校、ブラジル人託児所、トルシーダCSNに通う子ども、
及び就労青少年
実施者:
13:00~16:00
医師
3 名、
その他
6 歳~17 歳
48 名
看護師・保健師
8名
15 名
内
容:
身長、体重測定、視力検査、尿検査、看護師または保健師による問診、医師診察
通
訳:
9名
当日の託児:
3名
<健康相談会参加者数> (単位:人)
内訳
所
属
計
男
女
’99 年以降
生まれ
’92~’98
年生まれ
’91 年以前
生まれ
ネクター
5
3
2
1
4
0
EAS豊田校
5
4
1
1
4
0
サントスドムン
8
5
3
5
3
0
ピンタンドセッチ
9
6
3
4
5
0
メウジャルジン
9
7
2
9
0
0
トルシーダCSN
12
6
6
2
6
4
48
31
17
22
22
4
合
計
※サントスドムン:豊田市内にあるブラジル人学校
17
講演会Ⅰ 「元気に かしこく すくすくと」
~子どもたちの食生活と成長について~
日
時:平成 17 年 12 月 4 日(日)
場
所:独立行政法人都市再生機構保見ヶ丘第1集会所
講
師:大谷かがり
日本に住む南米系の人たちの健康問題
に取り組む専門家、看護師。TIA外国
人医療支援グループメンバー。
参加者:《ポルトガル語塾、ブラジル人託児、及びNPO関係者》 12 名
通
訳:1 名
当日の託児:2 名
司会(トルシーダ伊東) :今日は、
「体のことについて考え、元気になろう。頭もよくなろ
う。」ということで話をしてもらいます。お話をしていただく看護師の大谷かがりさんです。
彼女は南米系の人たちの健康について調査をしている方です。講演後に個別の話も聞けると
思いますし、体や頭に良い食べ物も用意しましたので、どうぞ試食もしていってください。
大谷
:先日、ブラジルの子どもたちの健康相談会(*1)を行いました。そのときにブラジ
ルの方々の食生活について少し気になり、普段どんな食べ物を食べているのかということを
少し調べてみました。1989 年、1990 年に発表されたサンパウロ在住日系人の病気の調査論文
からです。サンパウロに住んでいる日系人の方は、ガン、脳卒中、心臓病を患う方が多く、
特に心臓の病気で亡くなっている方が多いそうです。その他の特徴として糖尿病の方も多く、
ブラジルではお肉をたくさん食べるのでそういうことになっているのではないかと書いてあ
りました。次にどんなガンにかかっているのかということを調べたところ、前立腺ガン、乳
ガンが多かったです。1989 年当時の日系人は、お昼と夕飯は毎日家で食べていたということ
で、お味噌汁、漬物など日本の食事が中心でしたが、歳が若くなるほど日本食はあまり食べ
なくなるということでした。若い人は何をよく食べていたかというと、コーヒー、砂糖、パ
ン、牛肉、大豆以外の豆、牛乳、チーズなどの乳製品などでした。
サンパウロの日系人は身長が低いわりに太っている方が多く、血液を調べたところ脂肪を
たくさん取っているのでカロリーが高くなるんだろうと書いてありました。血圧の高い人も
多かったです。肥満が原因で、太っていることが前立腺ガンや乳ガンにもつながっていると
いうことです。果物や緑の野菜はたくさん食べているということでした。
先日の健康相談会のアンケート(*2)を見させてもらったんですが、お医者さんが論文で言
21
っていることとほぼ同じかなと思いました。夜遅く寝て朝遅く起きる子がとても多くて、生
活のリズムが崩れ、食欲がなく集中力が低下している子が多いことにとても驚きました。
今日は、どんな食事をしたらいいか、甘いものや塩をたくさん取っているとどんな病気に
なるのかということをお話したいと思います
まず、栄養について、食べ物の主な栄養は5つ、糖質、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビ
タミンです。
糖質は、エネルギーの素になります。お砂糖はもちろん、米、麦、芋、野菜(小松菜、ほ
うれん草)や果物に含まれる食物繊維、こんにゃく、寒天などです。食物繊維はおなかの調
子を整え、コレステロールを下げたりガンになる
のを防いでくれます。糖というのは腸から吸収さ
れ肝臓に蓄えられるんですけれど、それが血液の
中に流れてエネルギーの必要なときに筋肉、頭な
ど体のいろいろなところに運ばれます。体の温度
を上げたり何か物を考えるときにも糖を使いま
す。でもたくさん摂り過ぎると、肝臓に貯金しき
れなくなるので太ります。
では、糖は一日にどれくらいとったらいいでしょうか。一日に食べる食事の大体 60%くら
いを糖で摂って下さい。でも砂糖だけをいっぱいとると動脈硬化になりますし太ります。糖
をたくさんとると糖を分解する働きを持つビタミンB1 もたくさん必要なのでビタミンB1
が足りなくなり、脚気という病気になります。
ビタミンB1 は豚肉、ピーナッツ、卵黄、大豆、うなぎなどに含まれています。
脂質は、エネルギーの素です。肉、バターなどです。これもたくさん食べると動脈硬化に
なります。一日にどれくらい油をとったらいいかというと、一日に食べる食事の大体 20%く
らいです。
動脈硬化というのは古い輪ゴムと同じ現象です。血管は弾力性があるんです、古いゴムっ
て切れるでしょ。動脈硬化は古いゴムと同じで弾力性がなくなるんです。血管の中が汚いど
ぶのように、すごいどろどろする。
たんぱく質は一日に食べる食事の大体 12%くらいが適量です。卵白、小麦、米、とうもろ
こし、大豆、アジ、牛肉、ジャガイモ、にんじん、牛乳などに含まれていて、たんぱく質は
子どものほうが大人よりもたくさん食べなければいけません。なぜなら成長に必要だからで
す。子どもには必要なのです。
22
ミネラルは、野菜、海藻、ワカメスープ、きのこ類、塩、カルシウム、鉄などに含まれて
います。中でも大切なのはカルシウムと鉄です。カルシウムは骨や歯、血液凝固、神経機能
などに使われます。足りなくなると骨粗しょう症になります。牛乳、チーズ、大豆、卵黄、
魚、キャベツなどに入っています。鉄分は赤血球の元になります。ブラジルでは貧血の検査
をよくしますよね。鉄は、ほうれん草、小松菜、色の濃い野菜やレバーなどに入っています。
ビタミンは、野菜、海藻、きのこ、果物などに入っています。ビタミンには 2 種類ありま
して、水に溶けるものと溶けないものです。溶けないものはビタミン A,D,E,K です。溶け
ないものはたくさんとると肝臓に負担がかかって肝臓の病気になりやすくなります。溶ける
ビタミンはたくさん摂っても必要ない分はおしっこで出てしまいます。栄養ドリンクなどを
飲んだあとはおしっこが黄色くならないですか?滋養強壮剤にも入っています。
インスタントラーメンは好きですか?インスタントラーメンのスープには塩がたくさん入
っているのでスープを飲むと塩をたくさん取ることになります。インスタント焼きそばは好
きですか?インスタントラーメンよりもたくさん塩が入っています。たくさんいろいろなも
のを食べていれば、サプリメントはとらなくても大丈夫です。
塩は一日にどれくらい摂ったらいいと思いますか?
ネウザ
:砂糖も塩もわからない。
大谷 :砂糖は何グラムと決まっていません。
糖は一日の食事の約 60%がいいです。塩は
一日 10g くらいが望ましいです。
ネウザ
:(子どものおやつに)ビスケット
とトーストを一度に摂るのはどうですか?
大谷
:極端な話、60%を全部砂糖でとっても生きることは生きます。でも糖質に含まれる
食品には食物繊維を取れるものやビタミンを取れるものなど、身体に必要なものがたくさん
ありますので、60%を全部砂糖で摂ることは身体に良くありません。
ネウザ
:私は(子どもたちの)食事のバランスをとても考えています。8 時にお昼ご飯、
12 時に 3 種類の果物とたくさんの野菜、3 時にトーストとビスケット、量的にはそんなに食
べていないと思います。
大谷 :一日 30 品目を食べたほうが身体に良いので一日にいろんな糖質を食べたほうが健康
に良いです。さらに繊維質のものを食べたらガンになりにくいです。たとえばフェジョンの
23
中にもいろいろ入っていますよね。豆、油、にんにく、塩・・・
qだから大丈夫ですよ。
話を戻して、お塩は一日どれくらい取ったらいいでしょうか。小さじスプーン 3 杯までです。
これくらいなら動脈硬化になりにくいです。
炭酸飲料は好きですか?350ml 入り炭酸飲料には 5g ステ
ィック砂糖約 6 本分、大さじ 5 杯の砂糖が入っています。
1500ml ペットボトルならスティック砂糖約 22 本、大体 130g
の砂糖が入っています。砂糖の一日の量は決まっていないん
ですが、(普段からたくさん砂糖を摂る)ブラジルの皆さん
の場合、私は一日 50g くらいから始めるのがいいと思います。
炭酸飲料一本半(缶)分です。
ネウザ :炭酸飲料は、年齢の大きな子にはたまに飲ませます。小さい子には飲ませません。
大谷
:1990 年以降に生まれた子たちはコカコーラ世代(*3)と言われているそうですね。
でもコーラをたくさん飲んでいると身体によくありません。先祖に日本人の血が入っている
ほうが欧米人を先祖に持つ人よりも太りやすいといわれています。モンゴロイドは氷河期の
ひどく寒い時期に、シベリアの寒くて食料が少ない状態でも栄養を効率的に使うことのでき
る倹約遺伝子を備えたのだそうです。そういうことで、日本人を含むアジア人は、欧米人よ
りも太りやすいと言われています。
ヒタ
:私を見るとたくさん食べるように見えるでしょう?だけど夕飯は食べないし、ジュ
ースも飲まない。でも甘いものは食べます。先祖がイタリア人だから?
大谷
:イタリア人は太る方が多いですよね。
動脈硬化になると 3 つの病気になります。脳梗塞、心筋梗塞、高血圧です。
血液がどろどろになると流れにくくなってかたまりができます。血液のかたまりが脳でつま
って脳組織が死んでしまうのが脳梗塞、心臓でつまって心筋が死んでしまうのが心筋梗塞、
心筋梗塞になると死んでしまうことがあります。これになると日本では救急車で運ばれてす
ぐに手術、足か手の付け根からチューブを入れてかたまりをとって、そして血が固まらない
薬を投与します。でも死亡率は約 3 割で手術費も高いです。脳梗塞の場合は、手術ができな
い場合、動かなくなったり寝たきりになったりします。最近は 30 代で高血圧の人が増えてき
ました。
タバコを吸うことも、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞になりやすいです。本人が吸っていなくて
も周りで吸っていれば一緒です。タバコを吸っている人は吸っていない人よりも肺がんにな
る確率が高くなります。
24
糖尿病は甘いものをたくさんとって運動をしないとなります。糖を体のエネルギーにする
ためにインスリンがお手伝いするんですけれど、甘いものをたくさん食べるとインスリンが
足りなくなってしまいます。井戸がかれるのと同じです。インスリンがなくなると、糖分を
エネルギーに変えられなくなって、血液の中の糖が増えてしまい、糖尿病になります。怖い
ことに糖尿病は初期症状がないんです。悪くなると自覚症状が出ますが、その症状というの
が、のどが渇く、たくさん水をのむ、おしっこがたくさん出る、体がだるくなる、やせる、
それでも放っておくと目が見えなくなる、腎臓が悪くなる、心筋梗塞、足先が腐るなどです。
神経をやられるので男性はインポテンツになります。子どもができなくなります。もし糖尿
病になって体の中にインスリンがなくなったらどうしたらよいか、自分でインスリンをおな
かに注射します。ずっと注射し続けなければいけないんです。
参加者
大谷
:インスリン注射は値段が高いんですか?
:人によってインスリンの必要量や種類が異なりますが、もし 1 本を大体十日くらい
で使うとして、1 本 2,000 円くらいだとすると、一日 200 円ですね。他に針代、針は毎回交
換します。専用注射器も 3 万円以上したと思うし、インスリンは冷蔵庫で保存しなければい
けないし大変ですよ。私が 10 年くらい前に病院で働いていたときの価格がこのくらいですか
ら、今はもっと上がっているでしょうね。
ネウザ
:来日して会社で働いていたときに寒くて手足がとても冷たくなりました。日本語
でしもやけと言うんですか?冬になると痒くなって腫れます。病院で先生からビタミン E を
とるように言われたけれどまだ治っていなくて、お薬も塗っているけど治らない。どうした
らいいですか?
大谷 :毎日お風呂でふたつの桶に水とお湯を入れて交互に足をつけるといいですよ。血液
の循環をよくするためです。一日中よく動いていますか?
ネウザ
大谷
:家の中でよく歩きます。
:よくエクササイズすることと寝る前
に足のマッサージをするといいと思います。
ネウザ
大谷
:痛くてマッサージもできない。
:ふくらはぎからマッサージすることが大事です。ふくらはぎは第二の心臓と呼ばれ
ています。家の中で仕事をたくさんしても、ふくらはぎから下はなかなか使わないんです。
できれば一日 30 分くらい歩くのがいいですね。 ==マッサージの仕方実演==
25
ソランジェ
:夏にはブラジル人はよく散歩をしています。冬になると日本人ばかり歩いて
います。それは、夏はヘソ出しスタイルのためダイエットに気をつけるから。私は通訳の仕
事をしていてブラジル人をよく病院へ連れて行くんです。病院の先生はいつも「もっと運動
してください」と言います。でもブラジル人は「たくさんしている。残業 3 時間でずーっと
立っているからすごく疲れる」と言います。仕事と運動は違うということを理解していない
と思います。
参加者
:我が家でも息子たちはインスタントラーメン、スナック菓子、炭酸飲料なんかを
欲しがるんですけど、どうやって(それらを)減らしていけばいいですか?
大谷
:子どもはおいしいものしか食べないです。興味とかおいしいとかという理由で食べ
物を選びます。大人は栄養があるとかで判断できますよね。だから食事は子どもの興味をひ
くようなものやこっちのほうがいいよという趣向を凝らすといいと思います。何が出てくる
か分からないホイル焼きや切ったらフルーツが出てくるババロアなど目で訴えたりするもの
も効果的です。もうひとつはおいしくないご飯でも家族で食べるということが大事。愛情は
なによりものスパイスだと思います。
ネウザ
:この前かぼちゃのおやつを作ったとき、みんなまずいと言って食べなかったけれ
ど、「愛情を込めて作ったのよ」と言ったらみんな食べてくれました。
通訳
:うちはコカコーラジェネレーション。以前は夫が毎日コーラを飲んでいましたが、
今は土日だけに決めています。だけど子どもたちも土日はコーラが欲しい、水はいらないと
言うので困っています。
大谷
:濃い食事には濃い飲み物がほしくなりますね。それは日本人にも言えることなんで
すけどね。日本では 20、30 代でガンになる人が増えています。
参加者
大谷
参加者
:日本の老人は背中がすごく曲がっています。
:そうですね。農作業、正座、骨粗しょう症などが影響しているのではと思います。
:日本人はたくさん大豆を食べているのに?
大谷:それでもです。
26
==その後は試食をしながら歓談==
★試食したもの★
きのこのバターいため
薄切り焼きさつまいも
冷奴
(ちりめんじゃこ&削り節)
うなぎ
味噌こんにゃく
ワカメスープ
牛乳寒天
こんにゃくゼリー
豆乳
*1 ブラジルの子どもの健康相談会:平成 17 年 11 月 20 日(日)
、
「外国人医療支援グループ」と「トルシーダ」
が協力して実施。日本の学校へ通っていない子どもを対象にした無料健康相談会
*2 *1 の健康相談会の参考とするため、事前に行った生活習慣等に関する個別アンケート
*3 コカコーラ世代(ジェネレーション)
: 1990 年以降に生まれた子どもたちのことをファーストフードや炭
酸飲料を好む生活スタイルからこのように呼ぶ
27
講演会Ⅱ 「元気に かしこく すくすくと」
~子どもたちの食生活と成長について~
日
時:平成 17 年 12 月 16(金)
場
所:独立行政法人都市再生機構保見ヶ丘第 2 集会所
講
師:大谷かがり
参加者:《ネクターの生徒(10 歳から 19 歳)》
17 名
《日本語教室 CSN の学習者(6 歳から 12 歳)及び指導者》
通
訳:1 名
<子どもたちの描いた朝食の絵>
28
7名
健康相談会と講演会を担当した「外国人医療支援グループ」の大谷かがりさんに感想を寄せていただきました。
健康相談会と講演会について
大谷かがり
2005 年 11 月 20 日の健康相談会は、寒い日だったにもかかわらず多くの人が訪れた。私は
問診を担当した。問診では、付き添ってきた親御さんにお子さんを育てる上で気になってい
ること、健康面での心配事などを尋ねるのだが、皆さん口をそろえて「うちの子はジュース
も飲まないし、食事も栄養のあるものを食べさせているので、心配事はない」と答えた。し
かし、ブラジル雑貨店の前を通ると、ペットボトル 1500ml の炭酸ジュースを片手にお菓子を
食べている子どもたちをよく見かける。スーパーマーケットでは、カップラーメンを大量に
購入する日系ブラジル人をよく目にする。またCSNに通ってくる子どもたちに朝ご飯につ
いて尋ねると「食べない」と答える子が多い。保見団地に住んでいる日系ブラジル人は一般
的に朝 6 時過ぎから夜 22 時くらいまで仕事に勤しんでいるとのことだったので、親御さんは
子どもたちの食生活を把握していないのではないかという印象を持った。日系ブラジル人の
子どもたちの生活を概観すると、塩分、糖分の過剰摂取、運動不足が問題である。これらの
現状を伝え、みんなで一緒に問題について話し合いたいと考えた。
2005 年 12 月 4 日と 16 日、トルシーダの方々がそのような機会をつくってくださった。講
演会では、栄養バランスのとり方、塩分や糖分の過剰摂取によってどのような疾病を患いや
すいのかについてお話した。脳血管疾患、心疾患、癌についての話に及ぶと、子どもも大人
も顔をしかめ、
「怖いねー」といったようなリアクションをとっていた。しかし、実際に砂糖
が炭酸ジュースの中にどのくらい含まれているのかをスティックシュガーの本数で視覚的に
示すと、彼らは目を見開き、本当に驚いた様子だった。一日 10gという塩の一日摂取量を話
すと、「ブラジル料理では大量に塩を使うので、そんなことは不可能だ」という意見が出た。
この意見を聞いたとき、私は文化的背景を踏まえて問題をとらえることの重要性を感じた。
講演会では、トルシーダの方々が私の話の中で出てきた食材を使った料理の試食会を開い
てくださった。試食会では、日本とブラジルのほうれん草は見かけが異なること、味が濃い
わかめスープを好むことなどを参加してくださった方々に教えていただいた。参加してくだ
さった方々がどのような料理を試食するのかを観察していると、子どもたちは大人が敬遠す
るウナギやこんにゃく、削り節などを食べていた。私は、日本で生まれた子どもたち、学校
で給食を食べている子どもたちなどは、親に比べて日本食を親しむ機会が多いので抵抗なく
食すことができるのかもしれないと思った。彼らは皆日系ブラジル人であるが、ジェネレー
ションや在日期間などによって文化的社会的背景が異なる。今回の講演会では、健康相談会
では、ひとくくりに日系ブラジル人として彼らを見るのではなく、それぞれの背景を大切に
した個別的な配慮が重要であることを学んだ。
29
東保見小学校見学会
東保見小学校の学校公開日に、ブラジル人学校の先生、ポルトガル語塾指導者、
NPOの指導者が、授業参観をさせていただいた。普通学級の授業と、取り出
し授業の、両方の授業を参観することができた。
意見交換会Ⅱ
東保見小学校学校見学会の後、行政、公立学校の校長先生、ブラジル人学校の
先生、ポルトガル語塾指導者とNPOの指導者で実施。
30
意
日
見
交 換
会 Ⅱ
時:平成 18 年 1 月 27 日(金)
10:00~12:00
場
所:独立行政法人都市再生機構保見ケ丘第 2 集会所
参加者:《ブラジル人学校、ポルトガル語塾、及びブラジル人託児関係者》
《公立学校》
5名
2名
《NPO関係者》 8 名
《行政》
通
4名
訳:1 名
当日の託児:2 名
司会(トルシーダ伊東) :本日はお忙しい
中ありがとうございます。「保見子どもの教
育まるっとネット」は愛知県から委託を受け
て、ブラジル人託児所やブラジル人学校に訪
問し、子どもたちの教育に関わっている方た
ちと日本の学校とのつながりをつくろうと
いう事業です。では簡単に自己紹介をお願い
します。
梅村校長先生
:東保見小学校の梅村です。東保見小学校にはたくさんの外国籍児童が在籍
しています。現在、ブラジル国籍 96 名、ペルー国籍 10 名、フィリピン国籍 4 名、フランス
国籍 2 名という状況です。
伊藤校長先生 :西保見小学校の伊藤です。いろいろな会に顔を出したいと思っていたので、
こういうネットワークがあることはいい機会でした。西保見小学校は外国籍の子どもの出入
りが多く今年度(平成 17 年度)4 月には外国籍の子どもは 72 名でスタートしましたが、今
(平成 18 年 1 月現在)は 66 名です。ブラジル 62 名、ペルー4 名です。2 月に 1 名入る予定
です。全体の児童数が少ないので、3 分の 1 が外国籍という計算になります。来年度新入生
は当初 10 名と聞いていたが、今のところ 8 名の予定です。
大谷
:本日書記をやらせていただきます大谷です。中京大学の研究生でTIAの「外国人
医療支援グループ」のメンバーでもあり、昨年末保見団地で日本の学校へ通っていない子ど
もたちの健康相談会を行いました。
31
寺本 :
「トルシーダ」の寺本です。私の子どもは今保見中に通っていて、上の子は大学生で
す。
エルマラ
:子どもたちが学校に行っていない時間、託児をしたりポルトガル語を教えたり
しています。
ヒタ :
「アルカデノエ」のヒタです。小学校、中学校に通っているブラジル人の子どもにポ
ルトガル語を教えています。子どもたちの親が仕事から帰ってくるまで預かっています。
アリッセ :2~5 名の託児をしています。ブラジル人の親はポルトガル語で話してくれる人
のところに託児をお願いしたいと言って預けにきます。
エロイーザ
:
「ピンタンドセッチ」の校長です。現在 55 名の子どもがいて、ポルトガル語
で教育をしています。
井村・鈴村
:NPO法人子どもの国の「ゆめの木教室」です。141 棟の集会所で平日の午
後 2 時半~6 時まで外国籍の子どもたちの学習支援をしています。
伊東:NPO法人「トルシーダ」の伊東です。日本の学校へ行っていない子どもたちに日本
語教育を通しての居場所作り「Curso Sol Nascente」を行っています。10 人くらいの子ども
がいますが内不就学は 3 名です。
倉橋:豊田市国際交流協会(TIA)事務局長の倉橋です。
古橋
:豊田市自治振興課です。多文化共生、豊田市の外国人の皆さんとどのように一緒に
暮らしていくかということを考えています。
石原
:豊田市自治振興課です。
白井
:TIAです。TIAでは土日、ポルトガル語での相談会などをしています。
司会
:保見地区にある様々な教育機関にはブラジル人学校の他にも、日本の公立学校に通
う子どもさんたちを放課後面倒みていたり、ポルトガル語を教えたりしている方々がいらっ
しゃいます。今日は日本の学校に通う子どもたちに関わっている皆さんに、学校の情報が伝
わり、お互い顔見知りになっていただくことができたらと、思います。
西保見小の校長先生からもお話しがあったように、ブラジル人の子どもたちは移動が多い
です。トルシーダに来る子どもたちの中には、学校をやめてくる子や、ブラジル人学校に行
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っているけれど日本語を習いたい子、ブラジルの学校に行っているけれど日本の学校へ行き
たい子などさまざまで、このように子どもの選択肢が多いことで落ち着いて勉強ができない
ということがあります。しかし、家でコミュニケーションをとるために、自分たちのアイデ
ンティティを形成するために、ポルトガル語を学ぶことは非常に大事なことだと思っていま
す。また「子どもの国」では、ブラジル人の子どもたちが宿題をこなせるようにサポートを
していますが、それも大事なことだと思います。今までは子どもが下校した後、誰がどこで
何をしているのかということが見えにくかったと思いますが、今日の意見交換を通していろ
いろな教育機関の存在を知っていただけたらいいと思っています。
学校との連絡はどうしているのか、子どもが病気になったときどのように対処しているの
かなどといった、具体的なことをお話していただけたらと、思います。
エルマラ
:今 18 名の子どもが来ています。毎日来る子は 3 名で、1 週間に 1 回の子もいま
す。毎日来る 3 人の子には学校の宿題を手伝い、ポルトガル語も教えます。1 週間に数回の
子はポルトガル語だけです。毎週金曜日はビーズやぬりえなど楽しいことをする日で、子ど
もたちは参加する日もあればテレビとかゲームのほうが楽しいと言ってそっちに行ってしま
う日もあります。日本の学校が休みのときでも親は仕事があるので、そういう時にも子ども
を預かっています。
ヒタ
:私は 7 年前にポルトガル語教室を始めました。当時私の息子は東保見保育園に通っ
ていて、いつも日本語ばかりで話をしていました。私は今よりも日本語がへたで、将来息子
とポルトガル語でコミュニケーションが取れないかもしれないと恐れていたんです。それで
息子にポルトガル語を教えるようになったのが始まりで、そのことを知った友人たちが「私
の子どもにも教えてほしい」と口コミで広がり、今のような教室になりました。子どもたち
は家の外では日本語、家の中ではポルトガル語を使っているようですが、ほとんどの子ども
たちの親は残業で帰りが遅くて子どもと話をする時間があまりないようで、ブラジルの文化、
政治、社会のことなどブラジルのよいところも子どもに教えてほしいとの要望があります。
今、全部で 10 人の子どもがいて、
そのうち 3 人は小学校 1 年生からずっと通ってきています。
中学生は 2 人で、学校ではポルトガル語の新聞をつくっているそうです。そういうことがう
れしい。子どもたちのことについて時々学校の先生方と話すことがあります。自分の教室に
誰が来ているかを伝え、子どもの問題点などは先生方と一緒に考えます。一緒にそういうこ
とをすることが必要だと思いますし、またそういうことをすれば楽しいと思います。これか
らもよろしくお願いします。
アリッセ
:今 2 歳と 5 ヶ月の子どもを 2 人預かっています。まだ学校へ通う年齢ではない
ですね。私の 2 人の子どもは日本の小学校へ通っていますが、入学したころは日本語があま
り上手くなかったし、宿題がたくさんあるので「学校に行きたくない、遊びに行く時間がな
い」と言っていました。私は子どもにポルトガル語の勉強もしてほしかったので、ポルトガ
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ル語も習わせています。だから遊ぶ時間がないんです。小学校低学年のときは宿題がまだ少
なかったからよかったんですけど・・・今、子どもは日本語が上手になって、ポルトガル語を話
したくないと言っています。下の子は家の中でも日本語ばかりで、私が「ポルトガル語で話
してほしい」と言っても話そうとしません。子どもがポルトガル語を話さないので自分との
コミュニケーションがうまくはかれないことが心配です。
エロイーザ
:今の学校は以前、瀬戸にありました。豊田に移転しましたが、瀬戸に住んで
いる子どもたちも通ってきています。今一番気になっていることは、
「ピンタンドセッチ」の
保育園でポルトガル語を習ったあと、日本の学校に進学できるのかということです。保育園
の後の教育をどうするのか。
(ブラジルの教育制度で)小学校 1 年生から 4 年生、中学校 5 年
生から 8 年生までの間で子どもたちの基礎になる学力をどのようにつけていけるかというこ
とがとても心配です。今まで 35 年間教師をしてきました。昨年(平成 17 年)からオーナー
兼校長になり、今は子どもたちに何をすべきかを考え中です。パンフレットで学校の宣伝を
したり、口コミで広がったりして前より子どもが増えました。ブラジル人のアイデンティテ
ィを忘れないようにポルトガル語を教え始めたので、ブラジル人の親たちからも人気がある
のだと思います。
ブラジルの子どもたちはあまり日本の学校に行きたくないと言っているようです。今後は
中学校も作っていきたいと思っていますが、日本の学校での教え方とブラジルの学校での教
え方などの意見交換をしたら、どうして子どもたちが日本の学校に行きたくないのかという
ことが分かるかもしれません。先日(平成 18 年 1 月 20 日)東保見小学校学校公開日で日本
の学校の先生の教え方を見せてもらいましたが、ブラジルと日本ではあまり変わらないと思
いました。教えるときにいろいろな教材を使うことが大事ですね。みんなで集まって意見交
換をすることはすごく大事だと思います。ブラジル人と日本人、お互いの習慣や文化を理解
することが大事だと思います。
お聞きしたいことがあります。自分たちの学校の教師と、日本の小学校の教師を交換する、
もしくは教え方を教えていただくことは可能ですか?
梅村校長
司会
:教員の交換は不可能です。
:例えば日本とブラジルの学校では割り算のやり方などが違うみたいです。教え方を
伝えるのは可能かもしれませんね。
エロイーザ :学校でポルトガル語以外の教科を教えることが不安です。算数、社会、地理、
哲学・・・コンピューターも導入していますが、子どもたちが勉強をするためにコンピューター
の使い方を覚えることも大事だと思っています。
司会 :
「ピンタンドセッチ」には、日本の学校に通っていて放課後ポルトガル語の勉強をし
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に来る子はどのくらいいますか。
エロイーザ
井村
:今は 5 名です。夏休みだけ来る子もいますね。
:日本の学校に行っているブラジルの子どもたちの学習支援をしています。今は小学
生、中学生合わせて 33 名で、そのほかに水曜日に「そら」という中学生以上の子たちの支援
をする活動もあります。基本的な考え方としては、子どもたちが日本の学校をやめてしまう
ことなく続けていけるように学習の支援を行っていく、コミュニケーション能力をつけるた
めに相手の話を聞き取る、自分の思いを伝える能力をつける、ということで活動しています。
今日はこのような場に呼んでいただいたので質問してもいいですか?今日参加されているブ
ラジルの皆さんは、お子さんの将来は日本もしくはブラジルどちらで働くことを想像してい
らっしゃいますか?
エロイーザ
井村
:将来のことは子どもは自分で決められないから親が考えるべきです。
:それでは子どもの将来をまだ想像できない状態ですか?
アリッセ
:うちは、主人がペルー人で私がブラジル人ですが、子どもたちは「ブラジルに
もペルーにも行きたくない、日本がいい」と言っています。
ヒタ
:私の子どもは、小学校 2 年生までは「ブラジルには行きたくない」と言っていて、
私はとてもがっかりしていました。でも一度家族で帰国したときに、ブラジルのサンパウロ
に連れて行って「ここがブラジルだよ、この人があなたのおばさんだよ、これがブラジルの
料理だよ、ここが美術館だよ」とブラジルのよいところだけ見せたんです。2 ヶ月間ブラジ
ルに滞在し、子どもに「日本へ帰ろう」といったら「帰りたくない」と言い出しました。日
本に戻ってからも「ブラジルに行きたい」と言うようになったんです。でも息子は日本の学
校が大好きです。世界的に見るとブラジルの学力順位は 37 位です。それが心配です。日本の
学校はすごいですね。システムもすごいと思います。せっかく日本にいるのだから子どもた
ちには「ちゃんと勉強してね」とよく話をします。主人が病気をしてしまって主人の体のこ
とを考えるとブラジルに帰らなければならないです。日本で将来設計を立てることはとても
難しいです。子どもたちには「日本で働かないで。汚い仕事をしないで。」と言っています。
エルマラ
:子どもは「ブラジルへ帰りたい」といつも言っています。日本の大学へ進学す
ることは言葉の問題から難しいと思っています。私は日本語が大体分かりますし、子どもた
ちはもっと分かっていると思いますが、アイデンティティがあるからポルトガル語を勉強さ
せています。子どもたちの英語塾の先生は世界中を周ったことがあるそうで、いろいろな話
をしてくれるので、子どもたちはその話を聞いて外国に行ってみたいと思っているようです。
今は日本の学校に通わせているけれど、いつかブラジルに帰ります。だからポルトガル語も
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勉強させたいんです。大人になってから言葉を覚えるのは難しいかもしれないけれど、子ど
もの頃にポルトガル語や英語を勉強すればできると思っています。
井村
:私も基本的にはダブルの言語を話す子が社会で活躍することが将来的に可能だと思
っています。ただ、現実問題として軸足をどちらに置くのかということを知りたいです。静
岡県のようにスペイン語も認めた場合(*1)、選択肢が増えると揺れる子や親が増えます。揺
れた子に何度か会ったことがありますが、その結末は悲惨でした。もうひとつお願いがあり
ます。ブラジルの方々にも日本を知ってほしいですね。例えば「ブラジルでは警察の方が信
頼できないこともある」と、
「そら」に来ている子たちが言っていましたが、日本の警察はそ
うではないと思います。もう少し日本の社会に溶け込んで繋がってほしいですね。
ヒガシ
:ブラジル人学校ネクターで去年から働いています。日本の小学校、中学校に通っ
ている子どもも勉強していて、私は毎日 2 時間ポルトガル語とブラジルの文化などを教えて
います。一番気になるのは子どもたちがポルトガル語をアルファベットとして読めても、そ
の意味が分からないということです。日本の学校に通っている子だけの問題じゃなく、ポル
トガル語も意味が分からないんです。それまで日本の学校に通っていたのに、両親が帰国す
ることを決めるとポルトガル語を学ぶために 6 ヶ月くらいの予定で通ってくる子がいますが、
そんな短期間ではポルトガル語を習得できません。日本にいるから日本の学校に通ったほう
いいという意見は理解できますが、アイデンティティのためにはポルトガル語が必要です。
そのためにもブラジル人学校へ通ったほうがいいと思います。
エロイーザ
:一番問題なのは日本の学校とブラジルの学校の両方に通っている場合です。
日本語とポルトガル語では文法が異なるので、日本語の思考でポルトガル語を考えるとポル
トガル語が理解できないんです。
ヒガシ
:ポルトガル語には、同じスペルでも発音が異なることで意味が違うという単語が
あります。日本の学校で勉強している子はそういうことが分からないんです。
司会
:以上のようにブラジル人学校の先生方も揺れています。そして井村さんがおっしゃ
るように「あなた方はどこで暮らすの?」という問題もあると思います。トルシーダには現
在 10 名の子どもがいますが、日本の学校をやめたという子は 4 名、どこの学校にも行ってい
ない子が 3 名、内 1 人は 3 ヵ月後に帰国する予定です。1 人はまったく学校に行ったことが
なく親はそれでいいと思っていますし、もう 1 人は 2 月に「ピンタンドセッチ」に行くと言
っているので 2 月まで様子を見たいと思っています。幼稚園に途中まで通っていたが一時帰
国し再び来日した子、ブラジル人学校に通っていたが急に日本の学校に行くことを決定した
子、中学校に行くことを決めた子は 3 ヶ月前からトルシーダのCSNに来ています。3 ヶ月
前の入室の時には「日本の学校へ行くつもりはない」と親も言っていたのに、日曜日(1 月
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22 日)に話をしたときに「今週そうすることに決めた」と言っていました。他に、昨年(平
成 17 年)8 月の時点で学校に行っていなかった 14 歳の子 2 名が中学校に通いだしました。
その子たちは日本の小学校を卒業したあとブラジル人学校へ行ったがやめたという子たちで
す。
ヒガシ
:一番問題なのは日本で生まれた子たちだと思います。日本の学校に 2 年ほど通っ
てブラジルへ帰国、帰国後数年間ブラジルの学校に通って再び来日する、結果両言語とも十
分に話せなくなります。両親は「どうしたらいいか分からない。お願いします。」と言ってき
ます。親は自分たちで決められないんですね。ブラジル人学校は費用がかかるので途中から
日本の学校へ編入させるという親もいます。そうすると日本語もポルトガル語も中途半端に
なってしまって、自分のアイデンティティが分からなくなってしまう、そういう子どもたち
がたくさんいます。
司会
:そういう問題は小学校にもあると思います。校長先生方から見て、ご意見がありま
したらお願いします。
梅村校長先生
:なかなか難しい問題ですよね。言葉の問題については、日本の学校で子ど
もたちを指導するという場合、日本語で日本のシステムで子どもたちを教育していくことが
前提なんです。ただ、東保見小では毎週水曜日はポルトガル語での指導も行っております。
私たちは子どもたちをバイリンガルにしていく支援をしていこうと思っているのですが、ポ
ルトガル語の方の支援は力不足です。だからそこを皆さんに支援していただきたいんです。
そして、私たちはブラジル人の親御さんたちとのネットワークがないので、先ほどお話しし
ていたような、日本とブラジルを行き来することで子どもが両方の言語を話せなくなるとい
う問題などを皆さんから親御さんに伝えていっていただきたいです。
伊藤校長先生
:梅村校長先生同様、子どもたちに 2 つの言語を持たせることは非常に重要
だと考えていますが、ただそういうことを定期的に認識する必要があると思います。子ども
たちの過去の在学歴や現在の下校後の様子などを十分把握していません。つまり、下校後に
誰がどこに行っているかという人数把握をしていきたいと思っています。日本とブラジルの
行き来の問題について、今年そのような子が低学年で 1 人いました。低学年の場合、まず母
語をしっかりと習ってから日本の学校に来た方が基礎ができるのでいいのではないかと思い
ます。その後であれば歓迎します。そういうことで基礎固めができるようにブラジル人学校
で学ぶことを勧める場合もあります。ただし、子どものために何度も学校を変えてほしくな
いと思います。子どもの言語、アイデンティティのためにブラジル人学校と日本の学校を行
ったりきたりしてほしくないですね。
司会:もう少しお話しをしたかったのですが時間がなくなってきてしまいました。TIAか
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らもお願いします。
倉橋 :本日はいろいろなことを学ばせていただきました。本当に大きな問題だと思います。
子どもたちが 2 つの言葉を同じように話すのは難しいですよね。ですから主の言葉を決める
ことが大事かなと思います。
古橋
:個人的な意見をまず話させていただきます。アイデンティティの問題について。ア
イデンティティと言葉、これは必ずしも一致しないと思っています。日本語しか話せないか
らブラジルのアイデンティティを持てないということはないと思います。私たちが一番大切
にしなければいけないことは、お互いのアイデンティティを尊重するということだと思いま
す。日本人がブラジル人のアイデンティティを理解して、尊重するような社会を作ること、
それが私たち行政の仕事だと思っています。そのためにもブラジルの方々も、先ほど言われ
たブラジルのすばらしさを私たちに伝えてください。
次に、言葉のお話しをさせていただきます。先ほどからありますように、バイリンガルは重
要ですが、それ以前の問題として、セミリンガルの問題があります。つまり、両方の言語が
十分にできない状態の子どもたちがいることです。私たちは子どもたちをバイリンガルに育
てていかなければならないと思っていますが、そのためにはどうしても学習言語を決めなけ
ればなりません。ブラジルに行こうが日本にいようが学習する言語を統一する必要がありま
す。そのために日本で日本語を勉強しようとする子に対しては、行政がすごくお金を使って、
日本語を学ぶための環境を整えています。しかし外国語については、日本で外国語を学ぼう
とする人たちに対しては、お金をほとんど使っていません。これは日本だけではありません。
世界中どこでも、母語学習にはお金を使いますが、母語でない場合にはお金をほとんど使い
ません。日本だけが特別ではないことを理解していただきたいと思います。
ブラジル人学校でポルトガル語を学ぶことはとても大事だと思いますが、10 年 20 年経って
も、ブラジル人学校に行政から満足できる支援がされることはまず難しいでしょう。そうい
ったことを親御さんにも十分理解していただいた上で、決めなければならないことを、親御
さんにお伝えください。2、3 年後にブラジルに帰りブラジルで生活をする、そういう子はポ
ルトガル語で学ばなければなりませんが、日本で今後も生活をする子どもたちは、日本語で
学習する必要があると思います。アイデンティティは大切にして、でも頭の中はクールにな
って判断していかなければいけません。
司会
:ありがとうございました。時間も過ぎてしまいましたので、そろそろ終わりにした
いと思います。トルシーダは、日本語を教えていますが、十分なお金をいただいているとは
思っておりませんのでよろしくお願いします。ただ、今話されたことは言葉の問題というよ
りももっと広く、教育や子育ての問題だと思います。子育ては地域が担っている部分もある
はずですので、いろいろな角度や切り口で考え対応していただけるようお願いします。
梅村校長先生
:2 月 14 日が学校公開日なんです。ぜひ見に来てください。
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司会
:日本の学校の先生方も、ブラジル人学校を見に行きたいそうです。ぜひよろしくお
願いします。
伊藤校長先生
:西保見は 2 月 24 日が学校公開日です。よろしくお願いいたします。
司会:今日は本当にありがとうございました。この会は是非続けていきたいと思っておりま
す。
*1 静岡県浜松市のペルー・ブラジル人学校「ムンド・デ・アレグリア」は 2006 年 7 月静岡県から学校法人と
して認可を受けた。ペルーのカリキュラムに沿った教育を行っている。
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評 価 と 課 題
❏保見中学校見学会・意見交換会Ⅰとワークショップ❏
ネットワーク作りの契機として、保見中学校見学会と意見交換会をおこなった。日本の学
校に行っている児童・生徒にポルトガル語を教える塾の指導者以外は、公立学校を訪れる初
めての機会になった。
意見交換会では、ブラジル人学校の教師から、子どもたちのポルトガル語の力が育ちにく
いこと、保護者と長時間離れていることへの懸念など、率直な意見が聞かれた。また、日本
に住むブラジル人の子どもたちの進路や将来について心配する声もあった。
保見団地という狭いエリアの中だが、託児者や、ブラジル人学校の教師、またNPO関係
者が顔をあわせる機会はなく、このように集まったことは、初めてのことである。
子どもたちへの関わり方にはそれぞれ特色がある。アパートで託児をする託児者に、積極
的に地域社会と関わろうとする意識はない様子であったが、ブラジル人学校の先生方は、地
域や公立学校との関わりを求めていた。また、ポルトガル語の塾の指導者やNPOは、公立
学校への働きかけを進んで行っている。それぞれの役割分担もある。様々な機関の正確な情
報を整え、保護者が慎重な選択ができるよう働きかけることも必要であろう。
❏健康相談会と講演会Ⅰ・Ⅱ❏
TIA外国人医療支援グループでは過去 4 年間ブラジル人学校に通う子どもたちを対象に、
健康相談会を実施してきた。今年度、当法人も協力し健康相談会を実施し、ブラジル人学校
の児童・生徒、不就学の子ども、就労青少年などが健康相談会に参加した。医療支援グルー
プと打ち合わせの段階から協働することで、実際の問題に即した健康相談会になるよう話し
合いが持てた。その結果、以前は医療的視点から「問診表」という形で検診前の申し込みを
行っていたが、今回はカウンセリングに重点をおけるよう「アンケート用紙」とし、質問内
容を見直した。また、ブラジル人学校の先生方に協力を依頼し、子どもたちの参加を促して
いただいた結果、昨年を上回る 48 人の参加者があった。
相談会の後は、医師の診断結果について、ポルトガル語訳を付けそれぞれの学校に連絡し
た。聞き取りが重視された結果、生活習慣や食生活に問題があると思われる糖尿病予備軍と
肥満傾向の子どもの存在が明らかになった。これを受けて専門家(看護師)による講演会を
実施することができた。
演者は日系ブラジル人の調査研究を続けている専門家である。日系ブラジル人の価値観や
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文化的諸背景のある食生活を尊重しながら、塩や砂糖の過剰摂取に注意を促すという貴重な
講演であった。一回目の成人を対象とした講演後は、個別健康相談の場となり、身近に相談
できる場がどれほど貴重であるか、ということを感じた講演会であつた。
2 回目の講演会は、ブラジル人学校ネクターの子どもたちとCSNの子どもを対象に、1 回
目と同様の内容で、子ども向けに話をした。
話の途中から、持参していたジュースをこっそり隠す子どもが現れたりして、初めて食と
健康の話を聞く子どもたちの反応は興味深いものがあった。子どもたちが自分自身で「食と
健康」を考えるきっかけ作りになった。
健康相談会は基本的には就学年齢の子どもたちを対象としている。しかし、託児を受けて
いる子どもたちの中には健康面や言葉の発達面で心配される子がおり、今回の健康相談会の
案内を渡してあった。日曜日の開催であったが、そのような幼児の参加はなく、保護者の意
識に働きかけることの難しさを感じる。子どもたちの健全な育成のためには、託児所への定
期的な専門家(看護師・保健師・保育士)による訪問が望まれる。
❏東保見小学校見学会と意見交換会Ⅱ❏
具体的な話ができるように、小学校の校長先生、小学校に通う子どもに関わるポルトガル
語塾の指導者、ブラジル人学校の教師、NPOの関係者で実施した。行政からも参加を得ら
れ、様々な立場からブラジル人子弟の教育について意見が出された。
日本の学校と、ブラジル人学校、両方で学ぶ子どもたちのポルトガル語能力について懸念
する声がある一方で、
「子どもたちは国に帰りたくない」と言っている、という意見もあった。
日本語なのか、ポルトガル語なのか、子どもたちが具体的な将来像を描けない状況の中では、
そのときにいる立場だけで、優先される言語が決められる。バイリンガルを期待しながらも、
セミリンガルの問題が解決できない困難な状況について、意見交換が行われた。また、子ど
もたちのアイデンティティについて、様々な意見が出され、ブラジル人学校の先生方も、悩
みながら努力していることがうかがわれた。
小学校の先生方とブラジル人教育者との対話は初めてのことで、双方から意見交換会継続
を希望する声があった。具体的にはブラジル人学校の先生から、教員の交流ができたらとの
声があった。
NPO関係者の意見にもあったが、選択肢が増えることで、揺れる保護者も出てくる。保
護者は常に 2~3 年後の帰国を考えるが、子どもの教育のために「○年後までは日本で働く」
という意識転換も必要なのではないだろうか。言語は大きな問題であるが、学力や進路の問
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題についても、様々な立場からの議論を続けていくことが重要である。
この意見交換会では学校におけるブラジル人児童・生徒の転出入問題にまで具体的に踏み
込むことはできなかった。トルシーダの日本語教室CSNではこの 2~3 年、どこかの学校を
やめた子どもの受け入れが大勢であり、学校を変わる過程で不就学も生まれている。ブラジ
ル人学校では、転校は保護者の責任の下に行われ、学校は関わらないということであったが、
正確な不就学調査のためには、行政、公立学校、ブラジル人学校、NPOの連携が不可欠で
ある。
❏訪問聞き取り調査❏
<託児施設>
団地内のアパートで行われているすべての託児施設が、認可外保育である。託児者は保育
の専門家ではないが、自分の子どもや孫をみる感覚で乳幼児を預かっている。子どもの保育
時間は長く、朝6時台から夜は 9 時過ぎまで預かる。食事やおやつも提供するが、保健所へ
の届出はされていない。託児者は子どもの保護者に対して、子育てよりも仕事を優先してい
るという不満があるが、保護者へ意見すると仕事がなくなることを恐れ、何も助言できない
のが現状である。また、託児を仕事にする人は、外で働けないから託児をしているというよ
うな話も聞かれ、預ける側の期待が薄いことも伺われる。
このようなことから、託児者は保護者側の希望を全て受け入れる託児を強いられ、双方の
良好な関係は見られなかった。災害時の対応については、託児者自身が何の情報も持ってお
らず、保護者との話し合いもなされていない。年齢の近い子どもを預かり、自分の子どもを
遊び相手とし不就学にさせているケースもあった。子どもたちの家庭の様子や言葉の発達を
気にかける託児者もいたが、具体的な働きかけの方法を持っておらず、専門家による定期的
な訪問が必要である。
<ポルトガル語塾>
公立学校へ通う子どもたちのポルトガル語学習を目的とし、アパートで行われている。子
どもたちは学校から直接塾に来る。塾の指導者はおやつを用意して子どもたちを迎えるなど、
親代わりのようである。指導者の子どもも公立学校に通っており、学校との連絡はこまめに
とれている。災害時の情報についても学校から情報を得ており、保護者と話し合いができて
いる。学校からの案内を保護者に伝えることにも気が配られ、外国人児童・生徒のためのネ
ットワークには、地域のキーパーソンになる人材である。
<ブラジル人学校>
保見団地近郊にあるブラジル人学校では、それぞれ送迎バスを使い、豊田市のみならず近
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隣の市町から児童・生徒を集めている。3 校ともアルファベッチザサオンがあり、ポルトガ
ル語の指導が幼児期より行われている。2 校は、ブラジル教育省の認可を受け、高等部も設
置している。
日本の学校からブラジル人学校へ転入する場合もその反対の場合もあるが、転出入は保護
者の責任で行われ、学校の関与はない。日本の学校から転入してくる場合はポルトガル語の
力が十分ではなく、難しいということである。ブラジルへ帰国し、進学することを目指して
いるが、日本で就職するケースもあり、卒業後の進路は困難な問題である。
すでに、日本の学校と交流のある学校もあったが、公立学校や行政、NPOとの日常的な
レベルでの情報交換や意見交換を通して、外国籍の子どもたちの問題を包括的に捉える視点
が必要になってきていると思う。
<NPO>
公立学校や保護者との連絡に様々な工夫や配慮がされているが、ブラジル人教育者との交
流の機会はない。長く日本語教育や学習支援に関わってきたNPOには事業のノーハウの蓄
積や、既存のネットワークがある。これらをブラジル人教育者との連携に繋げることで新た
な可能性の創出が期待できる。
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「保見子どもの教育まるっとネット」からの提言
保見子どもの教育まるっとネットの訪問調査や意見交換会の開催を通して明らかになった事
柄から、以下の 3 つの提言を行う。今後ネットワークの更なる推進や行政の協力が必要である。
1. 外国籍の子どもたちが託児されている全ての認可外保育施設へ、専門家による定
期的な訪問が必要
託児者は保育の専門家ではなく、健康管理の取り組みはほぼ行われていない。病気の子
どもさえ預からざるを得ない現状があり、託児者自身もストレスを感じている。多くの子
どもが集まる託児施設では、集団感染の可能性も懸念される。専門家が定期的に訪問し、
健康管理を行うことは地域にとっても重要なことである。訪問を通して正確な情報収集を
行い、保護者への情報提供に繋げることも必要である。
2. 行政、公立学校、ブラジル人学校、NPOなどによる意見交換会の定期的な開催
保見団地や周辺にはブラジル人を対象とした様々な教育機関がある。複数の教育機関に
通う子どもや、学校を転々とする子どももいる。意見交換会の開催で、外国籍の子どもの
教育に関わる様々な立場の関係者が一同に会することができた。今後は、ブラジル人学校
の教育システムと日本の学校の教育システムが連携できる制度作りを検討する中で、学校
を行ったり来たりすることの弊害を防いだり、中学校の卒業認定の基準作りに繋がるよう
な意見や情報交換の深まりが必要である。さらに、そこでは地域のキーパーソンとなる人
材の育成が期待される。
3. 子育て教育コーディネーターの設置が必要
公立学校かブラジル人学校かという選択肢の中で、揺れる保護者、子どもが存在する。
ブラジルと日本という国と国との行き来だけではなく、日本の学校とブラジル人学校の転
出入の中で、不就学になるケースもある。転出後の継続的な調査を行い、不就学を生み出
さない工夫が必要である。さらには、保護者に対し、託児施設や教育機関の情報提供を行
うことも重要である。まるっとネットが多くの託児施設やブラジル人学校から協力を得ら
れたのは、事業主体が愛知県であることに依るところが大きい。今後も行政とNPOの協
働が望まれる。
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平成 17 年度多文化共生教育支援事業
保見子どもの教育まるっとネット報告書
編集
:
NPO法人トルシーダ
発行
:
愛知県県民生活部国際課
連
絡 先
《事業全体について》
愛知県県民生活部国際課
企画調整・交流グループ
TEL:052-954-6180
FAX:052-951-2590
E-mail:[email protected]
《事業内容について》
NPO法人トルシーダ
TEL:090-6462-3867
FAX:0564-23-8228
E-mail:[email protected]
印刷所:豊田市立身体障害者通所授産施設(社会就労センター)けやきワークス
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