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ニュージーランドの教科 「数学と統計」 について

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ニュージーランドの教科 「数学と統計」 について
イ プ シ ロ ン 2013.
Vol 。 55,
31
− 40
ニ ュ ージ ー ランド の教科 「数 学 と統 計」 につい て
一統計教育先進国の教育制度と日本への示唆−
愛知教育大学 青 山 和 裕
1。 は じ め に
中 学 校 数 学 科 「 資 料 の 活 用 」 や 高 等 学 校 数 学I 「 デ ー タの 分 析 」 の指 導 が 本 格 実 施 さ れ る よ う
に な り, 日 本 に お け る 統 計 教 育 に 関 す る 実 践 事 例 も数多 く 報 告 さ れ る よ う に なっ て き た。 ま た 次
期 指 導 要 領 改 訂 を 視 野 に , 日 本 数 学 教 育 学 会 「 資 料 の 活 用 ワ ー キ ン グ グ ル ープ 」 で は 統 計 領 域 の
指 導内 容 を 充 実 す べ く提 案 ・ 要望 書 の 作 成 に も取 り 組 ん でい る ( 青 山, 2013) 。
こ の よ う な 状 況 に お い て , 諸 外 国 に お け る 統 計 教 育 カ リ キュ ラ ム や 指 導 内容 ・ 授業 の 実 際 に つ
い て 分 析 し , 日 本 へ の 示 唆 を 得 る こ と は こ とさ ら に大 きな 意味 を持 つ 。 オ ー スト ラリ ア の 国 定 カ
リ キ ュ ラ ムへ の 転 換 とそ こ で の統 計 カ リ キュ ラ ム につ い て はす で に 報 告 が な さ れ てい る が ( 袷 元
他, 2013) , 本 稿 で は , 世 界 的 に統 計 教 育 につ い て 評 価 の高 い ニ ュ ー ジ ー ラ ンド の 統 計 カ リ キ ュ
ラ ム に 注 目 す る。 ニ ュ ー ジ ー ラ ンド は2007 年 に 新 カリ キ ュ ラ ム が 発 表 さ れ , そ の 際 に 教 科 「 数
学 」 の 名 称 を 「 数 学 と統 計 」 と変 更 す る な ど, 統 計 を重 視 し た方 向 転 換 を 行 っ た こ と が 知 ら れて
い る ( 深 澤, 2007 ; 袷 元, 2013)
研 究 所, 2004)
。 2003年 のP I SA 調 査 で 不 確 実 性 領 域 第 1 位 ( 国 立 教 育 政 策
を 取 っ た実 績 もあ り, ま た国 際 会 議等 で 世 界 中 の 統 計 教 育 研 究 者 が 集 まっ た 際 に
も, ニ ュ ージ ーラ ンド の 統計 教 育 を 別格 に 扱 う発 言 は数多 く 耳 に す る。
ニ ュ ージ ー ラ ンド の「 数学 と 統 計」 の カリ キュ ラ ム につ い て は 同 国 の 教 育 省 サ イ ト で も情 報 を
入 手 で きる ため す で に 報 告 が な さ れ てい る (深 澤, 2007 ; 袷 元, 2013)
。 だ が そ れだ け で は 実 態
を とら える こ と はで き ない た め, 行 政 側 の 意 図, 教科 書 の 記 載 内 容 , 教 師 に 対 す る 支 援 体 制 , 評
価 制 度, 実 際 の授 業 の 様子 な ど 詳細 に見 るべ く, 2013 年10 月 に 筆 者 を 含 む 数 人 の調 査 団 で 同 国 に
対 する第1 次現地調査 を行って きた。あい にく学校 現場や授業 観察 等は今回 の調査で は行え な
か っ た た め, そ れ ら は 第 2 次 現 地 調 査 で の 必須 項 目 とし て 設 定 し , 本 稿 で は 教 育 省 , 統 計 局 , ビ
クト リ ア 大学 等 を 訪 問 し た 第1 次 現 地 調査 で 得 ら れ た情 報 に つ い て 報 告 する 。
2 。 ニ ュ ージ ーラ ン ド の 統 計カ リ キ ュラ ム につ い て
2.1 ニュ ージ ーランド の教育制度 につい て
ニュージーランドの初等・中等教育の期間は,5歳(Year1)から18歳(Yearl3)までの13年間
で,日本よりも初等教育の開始時期が1年早い。初等教育の期間は6年間(Year1∼Year6) ,中
等教育の期間は7年間(Year7∼Year13)である。ただしYear7とYear8の2年間は初等・中等教育
の中間期 間(Intermediate) とい うとらえ方もさ れている。そのた め,初等学校 ・中等学校での
就学期 間につい ては, 地区ごとに異なっ てい るケースも多 く,8年制 の初等学校 と5年 制の中等
31
青 山 和 裕
学 校 ( 8−5 型 ) や , 6 年 制 の初 等 学 校 と 7年 制 の 中等 学 校 ( 6−7 型 ) , 6 年 制 の 初 等 学 校 と2
年 制 の 中 間学 校 , 5 年 制 の 中 等 学 校 ( 6−2 −5 型 ) な ど 様 々 な 形 態 を と っ て い る よう で あ る 。 義
務 教 育期 間 は 第10 学 年 (Year10) ま で で あ る 。 授 業 期 間 は 各 年 の 1 月 か ら 始 め ら れ, 4 学 期 制 を
とっ て い る。
図 1は, ニュ ー ジー ラ ンドの カリ キュ
ラ ムレ ベ ル と学 年 対 応 を示 し た図 で あ る 。
Y 1∼ Y13はそ れぞ れ学 年 を示 し て お り,
図中 に 1∼ 8で 示 さ れた 帯 が 内 容 水 準 を示
し てい る。 日本 の 指 導 要 領 の よう に 各 学 年
で学 ぶ学 習 内 容 が 設 定 さ れて い る の で は な
く, 学 習 内 容 を8 つ の水 準 (レ ベ ル) に分
け , 学 年 進行 に 沿 っ て 次 第 に上 が っ て い く
よ う に設 定 さ れて い る 。 こ の カリ キュ ラ ム
レ ベ ル の設 定 の さ れ方 は全 教 科 を通 じ て 共
通 の もの と なっ てい る 。
例 え ばY 3で はレ ベ ル1 と 2 と両 方 が 当
て は まる こ と にな る が, こ れは 児 童 ・生 徒 の 学 習状 況 に 応じ て ど ち ら のレ ベ ル を扱 っ て もよい とい
うこ とに な る。 コ ン セプ ト とし て は 理解 で きる が, 学 級 の 学習 進 度 に合 わせ て ク ラ ス単 位 で レ ベ ル
を 選択 し てい る の か, 個 々 の児 童 ・生 徒 に合 わせ て い る のか な ど実 態 は窺 い 知 るこ とが で きな い。
2。 2 教 科及 び 領 域 設 定 に つい て
ニュ ージ ー ラ ンド の カ リ キ ュ ラ ムで は 次 の 8つ の教 科 が設 定 さ れてい る。
・英 語(English)
・美 術 (the Arts)
・ 保 健体 育(Heal th and Physical Education)
・ 語学 習 得(Learning Languages)
・ 数 学 と統 計(Mathematics and Statistics)
・ 科 学(Science)
・ 社 会科 学(Social Sciences)
・ 科 学技 術 (Technology)
教 科 「 数学 と統 計 」 の 領域 構 成 につ い て は , レ ベ ル6 まで は 次 の3 領 域 で構 成 さ れてい る。
・ 数 と代 数(Number and Algebra)
・ 幾 何 と測 定(Geometry and Measurement)
・ 統 計(Statistics)
32
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド の 教 科 |数 学 と 統 計 」 に つ い て 一 統 計 教 育 先 進 国 の 教 育 制 度 と 日 本 へ の 示 唆 −
この3領域の指導について,初期のレベ ルでは「数と代数」領域 の指導 の比重が大 きくなっ て
い るのに対し て,レ ベルが進行するにつ れて,「幾何と測定」,「統計」領域の指導 の比重 が増
してい き,レベ ル6では3領域 の比重が同程度になるように設定されている。
図2: 「数 学と 統計」 における 領域の指導比重の変化
レ ベ ル 7 とレ ベ ル 8 で は, 3領 域 構 成 で は な く, 「 数 学(Mathematics)
」と「統計
(Statistics)」の2領域構成になっており,比重 に関しては特 に記載はない。
また, レベル進行に伴う領域の指導比重 の変化 に関する記述 は,他教科 では見 られず「数学と
統計」独自のコンセプトのようである。
2。 3 統計の指導内 容につい て
レ ベル1からレ ベル8までの統計に関する指導内容を以下に まとめる。統計 の指導内容 は「統
計的 な調査(Statistical Investigation)」,「統計的リ テラシー(Statistical Literacy) 」,
「確率(Probability)」 の3項目で構成 されている。
レベル1
レベル2
統計 的 な 調 査
統計 的 な 調 査
・ 統計 的 探 究 サ イ クル を 用い て調 査(investigations)
・ 統計 的 探 究 サ イ ク ルを 用い て調 査(investigations)
を行 う こ と
を行 う こ と
一 質 問 をつ くり 答 える こ と
一 質 問 をつ くり 答 える こ と
一 質 的 デ ー タ を集 め , 分 類し , 数 え , 図 表 に表 す こ
一 質 的 デ ー タ と整 数 の デ ー タを 集 め , 分類 し , 図 表
と
に 表す こ と
− そ の 結果 を 議 論 する こ と
− デ ー タ に基 づ い た発 見 を 伝 え合 う こ と
統計 的 リ テラ シ ー
統計 的 リ テラ シ ー
・他 者 に よ り作 ら れた 統 計 的 な調 査 や 確 率 的 な活 動 に
・ 他者 に よっ て行 わ れた 統 計的 な調 査 や確 率的 な 活 動
基づ い た 記述 を 解 釈 する こ と
確率
か らの 簡 単 な デ ー タ図 表 の特 徴 に 関 す る 記述 を 比 較
する こ と
・ 起 こ り う る 結 果 を 認 識 し た り , 予 想 し た りし な が 確 率
ら, 偶 然性 の要 素 を含 む状 況 を 調査 す る こ と
・ 等し い 可 能性 や 異 な る 可 能性 を 認 識 し た り, 不 確 実
性 を認 め た りし なが ら , チ ャ ンス の 要 素 を含 む簡 単
な状 況 を調 査 す る こ と
33
青 山 和 裕
レ ベ ル3
レ ベ ル4
統計 的 な 調 査
統 計的 な 調 査
・ 統 計的 探 究 サ イ ク ル を用 い て 調 査(investigations)
・ 統 計的 探 究 サ イ ク ル を用 い て 調 査(investigations)
の 計 画を 立 て 行う こ と
を 行 うこ と
一 質 問 に 答 え る た め に , 複 数 の 質 的 デ ー タ や 整 数
デ ー タ, 簡 単 な 時系 列 デ ー タを 集 め, 分 類 し , 図 表
に 表 すこ と
一 適切 な 変 数 とデ ータ の 収集 方 法 を 決め る こ と
− パ タ ーン , ば ら つ き, 関係 , 傾 向 を探 る た め に,
多 変 数 の 質的 デ ー タ ・ 測定 デ ー タ・ 時系 列 デ ー タ を
− デ ー タ セッ ト の 中 や 比較 を通 し て, 文 脈 に 沿 っ た
パ タ ー ンや 傾 向 を 見つ け る こ と
集 め , 分類 し , 図 表 に表 す こ と
一 分 布 を視 覚 的 に比 較 す る こ と
− デ ー タ の図 表 を 使 っ て, 発 見 し た こ と を伝 え 合 う
こと
一 適 切 な 図表 を 使 っ て, 発 見 し た こ と を伝 え合 う こ
と
統 計 的 リ テラ シ ー
統計 的 リ テラ シ ー
・他 者 に よ っ て行 わ れた 統 計 的 な調 査 や 確 率的 な活 動
・統 計 的 な 調査 や 確 率 的 な 活 動 の発 見 に つい て, 他 者
に よる 発 見 を 表現 す る 際 に , 図 表 の違 い に よる 効 果
を評 価 す る こ と
に よっ て作 ら れた 記 述 を評 価 す るこ と
確率
確率
・ ば らつ きと独 立性 を認 め て , 起 こ りう る 結 果 に基 づ
・ サ ンプ ルが 変 わ りう る とい う こ と を認 識 しつ つ , 全
て の 結果 に 基 づ く モ デ ルか ら の 期待 値 と 実 験 結果 を
く モ デ ルか ら の 期待 値 と実 験 分 布 を比 較 す る こ と に
よっ て, 偶 然性 の要 素 を 含 む状 況 を 調査 す る こ と
比 較 する こ と に よっ て, 偶 然 性 の 要素 を 含 む 簡 単 な ・ 確 率 を記 述 す る た め に, 簡 単 な 分 数や 百 分 率 を 使 う
こと
状 況 を調 査 す るこ と
レ ベ ル5
レ ベ ル6
統 計的 な調 査
統 計 的 な調 査
・ 統 計 的 探 究 サ イ ク ル を用 い て調 査(surveys)
験(experiments)
や 実 ・ 統 計 的探 究 サ イ ク ル を 用い て 調 査(investigations)
の 計 画 を立 て 行 うこ と
一 適切 な変 数 と 尺 度(measures)
を 決 め るこ と
− ば らつ きの 原 因 を考 慮 す るこ と
− デ ー タを 集 め , クリ ーニ ン グす る こ と
一 複 数 の デ ー タセ ッ ト に おい て, パ タ ー ン, ば ら つ
き, 関 係 , 傾 向 を 見 つ け る た め に , 複 数 の 図 表 を
使っ た り, デ ー タを 再 度分 類 し 直 すこ と
一 中 心 , 広 が り, 割 合 な ど の 統計 量 を 使 っ て, 標 本
の分 布 を 視 覚的 に比 較 す るこ と
一 発 見 し たこ とを レ ポ ート に ま と める こ と
統計 的 リ テ ラシ ー
の 計 画 を立 て て 行 うこ と
一 用い る 変 数 と 尺 度 を妥 当化 す る こ と
一 無 作為 抽出 を 使 う こ と を含 め て , ば らつ き の原 因
を制 御 す るこ と
一 複 数 の 図 表 を 使 っ て , 文 脈 ( 変 数 間 の 傾 向 や 関
係, 分 布 の相 違 ) の 特 徴 を とら え, 伝 え 合 う こ と
一 標 本 デ ー タ か ら母 集 団 に つい て イン フ ォ ー マ ル に
推測 す る こ と
一 図 表 や 尺 度 を用 い て , 発 見し たこ とを 正 当化 する
こと
統 計的 リ テ ラシ ー
・ デ ー タの 収 集 方 法, 尺 度 の 選 択, 発 見 の 妥 当性 な ど ・ 主張 を作 る 際 に 用い ら れて い る 図 表, 統 計 量 , 方法
を含 めて 他 者 に よっ て行 わ れた 統 計的 な 調 査 や確 率
的 な活 動 を 評 価す る こ と
確率
論 ,確 率 を 関 連 づ け るこ とに よ っ て, メ デ ィ ア にお
け る 統計 的 なレ ポ ート を 評 価す る こ と
確率
・ 偶 然性 の要 素 を 含 む状 況 にお い て, 理論 的 な 分 布 と ・ 偶 然性 の 要 素 を含 む状 況 を調 査 す るこ と
実 験 の分 布 の 間 の ば らつ きを 比 較し た り記 述 す るこ
と
・ 分 数, 百 分 率, 比 を使 っ て, 確 率 を 計算 す る こ と
34
一標 本 の大 きさ の 役 割 を 認識 し な が ら, 離 散 的 で あ る
理 論 的 な分 布 と 実 験 の分 布 を 比較 す る こ と
一離 散 的 な状 況 にお け る 確 率 を計 算 す る こ と
ニュ ー ジ ー ラ ンド の 教 科 「 数学 と 統 計」 につ い て 一統 計教 育 先 進 国 の教 育 制 度 と 日本 へ の 示 唆 −
レ ベ ル7
レベル8
統計 的 な 調 査
統 計的 な調 査
・統 計 的探 究サ イ クル を用い て現 象 に関 する 調査
・ 統計 的探 究 サ イク ルを用 い て現 象に 関す る調 査
(investigations)を実 行 す るこ と
一 無 作 為 抽 出 が必 要 であ る調 査 を 行 うこ と , 実験 を
行 うこ と, 存 在 す る デ ー タセ ット を 用い る こ と
一 変 数 ・ 標 本 に対 し て 用い る 尺 度 を 選択 の 仕 方 や,
デ ー タの 収 集方 法 につ い て 評 価 する こ と
一 適切 な 文 脈上 の知 識 ,探 索 的 デ ー タ解 析 お よ び 統
計 的推 測 を 用い る こ と
・ 調査(sureys)
と実 験 から 推 測 する こ と
−イ ンフ ォー マ ルな 予測 ・ 内 挿 ・外 挿 を する こ と
一母 数 の点 推 定 を行 う た めに 標 本統 計 量 を用 い る こ と
一推定値(estimate)のばらつきに関して,標本の大
きさ の影 響 を 認識 す る こ と
(investigations)を 実 行す る こ と
一 実 験 計 画 法 の 原 理 を 用 い て 実 験 し た り , 調 査
(survey) を行 っ た り, 存 在 す る デ ー タセ ット を用
いること
一 適 切 な モデ ル ( 二変 量 デ ータ に対 す る 一 次 回帰 や
時 系 列 デ ー タに 対 す る加 法 モ デ ル (平 滑 化 法) ) を
見 つ け た り, 用 い た り, 評 価 す る こ と と, 説 明 を探
たり 予 測 する こ と
一詳 し い 文 脈上 の 知 識 ,探 索 的 デ ー タ解 析 お よ び統 計
的 推 測 を用 い る こ と
一発 見 し た こ とを 伝 え 合っ たり , サ イ ク ルの す べ て の
段 階 を 評 価 する こ と
統 計的 リ テ ラ シ ー
・調 査 (survey ) と 実験 か ら 推測 す る こ と
・ 統 計 に基 づい たレ ポ ート を 評 価 する こ と
一中 心 極 限 定 理 の適 切 性 を 認識 し つ つ, 平 均 , 比 率,
−リ ス ク と 相 対 リ ス ク(relative risk) を 解 釈 す る こ
と
一世 論 調 査 を含 む 調 査(surveys)にお い て , 標本 誤 差 と
非 標 本 誤差 を 識 別す る こ と
確率
差 に対 す る推 定 量 や 信頼 区 間 を決 定 す るこ と
一根拠(evidence) の 強さ を 評 価 す る ため に , 再 度 の
標本 調 査 や無 作 為 化 な どの 方 法 を用 い るこ と
統計 的 リ テ ラシ ー
・ 調 査(survey), 世 論 調 査 , 実 験 , 観 察研 究 を含 む広
・ 偶 然性 の要 素 を含 む 状 況 を調 査 す るこ と
い 範 囲の 統 計 に基 づ い たレ ポ ート を 評 価 する こ と
一正 規 分 布 の よう な 理論 的 な 連 続 的 な分 布 と 実験 分 布
を比 較 する こ と
一因果 関 係 の主 張 を 批 判的 に 評価 す る こ と
一二 次 元 表 , 樹 形 図 , シ ミ ュレ ー シ ョ ン, テ ク ノ ロ
確率
ジ ーな ど のツ ー ル を用 い て, 確 率 を計 算 す るこ と
一誤差 の 範 囲 を解 釈 す るこ と
・ 偶然 性 の 要 素を 含 む 状況 を 調査 する こ と
一独 立 な事 象 , 複合 事 象 , 条 件付 き事 象 の確 率 を 計 算
す るこ と
一離 散型 確 率 変 数 の期 待 値 と 標準 偏 差 を 計算 し 解 釈 す
ること
−ポ アソ ン分 布, 二項 分 布 , 正 規分 布 の よ う な分 布 を
適 用 する こ と
こ れらの内容項目には, 日本の算数・数学科 の統計カリキュラムにはない特徴が見られる。
・学校教育 における指導初期であるレ ベル1から統計的探究サイクルを取 り入 れた調査 を実施
するとされていること
・他者による統計的な主張を評価するという内容がどのレベルにも設定されているこ と
・複数の統計図表・グラフの利用やそ れぞれの評価が取り入 れられているこ と
・質 的データ,時系列 データ,離散デ ータ, 連続データなど指 導内容 とし てのデータの種類 が
設定されていること
・確率の導入時期がレベル1の初期段階であ るこ と
2.4 評価シ ステ ムと大学入試制度について:NCE
A
学習内容 に関する評価 の仕方 などについ ては学校 裁量であ る部分も多 く, まだ情報が少ない た
め,ここでは第11∼13学年において国家全 体で実施されている評価制度について取 り上げる。
35
青 山 和 裕
National Certificate of Educational Achievement (NCEA) と 呼 ば れる 評価 制 度 が ニ ュ ージ ー
ラ ン ド で は取 り入 れ ら れ てい る。 第11学 年 を対 象 に行 わ れる もの がNCEA Level 1
NCEA Level 2
, 第12 学 年 で
, 第13学 年 でNCEA Level 3 と 定 め ら れ てい る。NCEA は 内 部評 価(Internal)
外 部 評 価(External)
と
の 2 種類 が あ り, 内 部 評 価 と い う の は 各 中 等 学 校 に お い て 実 施 さ れ る も の,
外 部 評 価 とい う の はNZQA
(New Zealand Qualifications Authority :
ニ ュ ージ ーラ ン ド 質 保 証
機 関 ) と い う 教 育省 直 轄 の 外 部 組 織 ( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 の よう な もの ) が 作 成 す る 評 価 テ ス ト
に よ っ て 毎 年11 月 に 行 わ れ る。 第10 学 年 が 義 務 教 育 終了 年 限 で あ る た め , 第11 学 年 を 対 象 と す る
NCEA Level 1
の評 価 内容 はニ ュ ー ジ ー ラ ンド にお け る義 務 教 育終 了 段 階 の 目標 設 定 とし て の意 味
合 い を持 つ こ と が予 想 さ れ る。
ま た, NCEA
各 レ ベ ル に は様 々 な科 目及 び 単 位 が設 定 さ れ てお り, 各 単 位 は「 優(Excellent) 」。
「 良(Merit) 」,「可(Achievement)
」,「不 可 」 の 4段 階 で 評 価 さ れる 。NCEA で取 得 し た 単 位
と評価は大学入学の際の条件となっているため,実質的には大学入学資格試験としての機能も果
た し て い る。 必 要 な 科 目 や 単 位, 成 績 評 価 に 関 す る 条 件 は 大 学 ・ 学 部 ご と に 設 定 さ れ てい る た め,
生 徒 は 自 分 か 進 学 し た い 大 学 ・ 学 部 の 求 め る 条 件 に 合 わせ て 単 位 を 取 得 す る 必 要 が あ る 。 な お ,
NCEA以 外 に 大 学 が入 学 時 に 独 自 に課 す 試 験 等 は ない よ う であ る 。
3 。 第 1 次 現 地 調 査 によ り 得ら れ た ニ ュ ージ ー ラン ド の 教 育 制 度 等 に つい て
3.1 調査団と 訪問先
今回の第1次現地調査のメンバーは下記の通りであ る(敬称略・五十音順)。
・ 青山和裕 (愛知教育大学) ・深澤弘美 (東京医療保健大学)
・藤井良宣 (宮崎大学) ・袷元新一郎 (静 岡大学)
・ 山口和憲 (立教大学) ・渡辺美智子 ( 慶応大学)
訪 問先 は下 記 の 通 りで あ る。
・NZQA (New Zeal and Qualifications Authority
)( ニュ ージ ー ラ ンド 質 保 証 機 関)
・Statistics New Zealand ( 政府 統 計 局 )
・Victoria University of Wellington (ビ クト リ ア大 学 ウ ェ リ ント ン校 )
・Auckland University ( オー ク ラ ンド 大 学)
‘Absolutely Positively Mathematics &
Statistics 2013 (New Zealand Association of
Mathematics Teachers 主催 に よる ニュ ージ ー ラ ンド 数 学 教員 の研 究 大 会 )
NZQA においてはNCEA担当者及び教育省 の「数学 と統計」 カリ キュ ラム担当者 と面談 をするこ
とができ,多 くの情報 を得 るこ とがで きた。以下,現 地で得 られた情報について まとめるが,多
くはNZQA において のインタビュ ーに基づ くものであ る。 ただし, それ以外 に政府 統計局 の統計
教育 担当職員,大学所 属研 究者,教科 書会社営業 担当社員, 数学 教員 の研 究大会で話 を聞くこ と
36
ニ ュ ー ジ ー ラ ンド の 教 科 「 数学 と 統 計」 につ い て 一統 計教 育 先 進 国 の 教育 制 度 と 日本 へ の 示 唆 −
がで きた現 地 教 員 か ら の 情報 も含 ま れて い る。
3。2 教科「数学と統計」設置について
教科「数学と統計」を設置するにあたって の経緯や ねらい等について尋 ねて みた ところ,統計
を独立した教科として設置するという案 も出 たが,他 の教科 との関連 も強いため,独立させる の
ではなく,数学という教科の中に置くことにした とのことであった。統計を教科連携して扱って
いくのか,独立し た教科とすべきなのかは日本で もよく議論さ れるところである。
カリキュラム作成メンバーは,大学所属研究者,教員,政府関係者で構成さ れている。教科数
学において統計の内容を増やすこと, さらには名称を「数学と統計」に改めることに関しては,
もちろん反対 の声 も一部から上がっ たが, 数学関係者に限らず,他分野からも統計の必要性を押
す声が強く,結果 として名称変更するということに落ち着いたようである。
1つ 前のカリ キュ ラムは1992年 に定 められたものであ るため, 今回の改訂までに15年の期間が
経っ てい るが,15年 サイクルでカリ キュラムを改訂するなどと定 められてい るわけ ではない。 日
本のようにカリ キュ ラムの改訂 サイクルが定 められてい るわけ ではなく, 必要が生じ た際に改訂
を試 みるとのこ とであった。
3。 3 カリキュラムレベルと実際の指導について
先 の2. 1にお い て も紹介し た通 り, カリ キュ ラム は学年ご と に定 めら れてい る のでは な
く, 8つ のレ ベルに よっ て構成 されてお り, 同一学年 に複数 のレ ベルが重 なってい るような作
りになっている。こ れに対して,現場 の学校で はどのように対応し ている のか という と,学年 ・
学級が常 に固定さ れている わけでは なく,個 々の児童・生徒 の学習状況 に応じて, 進んでい る児
童 ・生徒は適宜自分 よりも上 の学年で授業 を受け るなど柔軟 な動 きをしている ようである。 例え
ば,数学が得 意な生徒は数学 の時 間だけ上 の学年で授業 を受け,他教科 の時 には また元 の学級で
授業 を受けるな どの よう にである。全教科 に渡っ て上 の学年で授業 を受ける よう なこ とは まず な
く, 1, 2 教科程度に関してこういった移動 をしている児童・生徒がいる ようである。詳細 な実
態については学校裁量になってい るため,学校ご とに個別に聞いてみなけ れば わからない。
また,就学開始は5歳であるが,日本 のよう に一斉 に就学 開始する のではな く,満5歳 になっ
た時点で学校に通い始める よう になるため,就学 開始時期は児童 の誕生 日によってず れてくる。
10月,11月など学年 の終 わりごろに満5歳 を迎 える児童 の場合 には,そ の時点で学校 に通い始 め
て も第1学年の学習内容がほぼ終 わっている ため,年が明けてか ら入学する など時期 を見計 らう
ケースが多い ようである。そ のため, 日本 のように学年ご とに同年齢 の児童・生徒が確実 に集 め
られるわけではなく, 1歳違いで同学年になってい るなどずれも生じるこ ととなる。
3。4 教科書検定制度や各学校での指導内容に対する監督状況について
ニュ ージ ーラ ンドでは教科書検定制度は ない。 という よりも,初等学校では教科書 はない とい
37
青 山 和 裕
う の が 一 般 的 な 認 識 であ り , 中 等 学 校 ( 第9 ∼12 学 年 ) で は教 科 書 は あ る も の の, Pearson と い
う 1 社 が ほ と ん ど の シ ェ ア を 確 保 し て い る。 Cambridgeも 最 近 に な っ て 出 版 を 始 め た と の こ とで
あ っ たが , シ ェ ア は ま だ か な り少 ない 様 子 で あ る。 ま た, Pearson は 第 1 ∼ 8 学 年用 の教 科 書 の出
版 を2011 年 か ら 始 め た との こ とで あ り , 現 在 宣 伝 活 動 を 積 極 的 に 進 め て い る とこ ろ で あ っ た。 複
数 の 現 場 教 員 に 話 を 聞 い て みた の だ が , 皆 口 を 揃 え て 初 等 学 校 向 け の教 科 書 はニ ュ ージ ー ラ ンド
に は な い とい う 回 答 で あ っ た た め, 2013 年10 月 時 点 で は ま だ そ れほ ど普 及 し て い ない よう で あ る ,
Pearson の 初 等 学 校向 け の教 科 書 に は, Teachers ’ Manualが セ ッ ト で 販売 さ れて い る 。 中 等 学 校 向
け の教 科 書 に は ない サ ポ ート の仕 方 で あ る が , 初 等 教 育 に力 を入 れ よ う と し てい る の か, 中 等 教
員 に は必 要 な く初 等 教 員 に は そ うい っ た支 援 が 必 要 とい う 認 識 な の か, そ のあ た り の 実 態 につ い
て も確 認 が 必 要 であ る。 Pearsonの教 科 書 シ リ ー ズ は現 在 購 入 を 進 め てい る とこ ろ で あ り , 今 後 具
体 的 な内 容 ・教 材 等 に つい て分 析 を 進 め る予 定 であ る。
教 科 書 検 定 制 度 が な く , ま た 各 教 科, 領 域 の 指 導 時 数 につ い て も 教 育 省 と し て は 具 体 的 に 示 し
てい ない た め , 各 学 校 で 行 わ れて い る 授 業 等 に つ い て 教 育 省 と し て は 細 か く 管 理 す る こ とは で き
な い 。 教 育 省 関 係 者 は こ の 点 に つ い て は , 各 学 校 の 裁 量 を 認 め 教 育 を 担 わせ る こ とが ニ ュ ージ ー
ラ ン ド 教 育 の 1 つ の 特 徴 だ と述 べ て い た 。 で は , 教 科 「 数 学 と 統 計 」 に お け る 3 領 域 ( 数 と代 数
幾 何 と測 定 , 統 計 ) の 指 導 比 重 の 学 年 進 行 に よる 変 化 に つ い て は ど の よう に実 現 し て い る の か と
問 う と, こ ち ら に つ い て も学 校 裁 量 で あ る た め 実 態 は窺 い 知 れ ない と のこ とで あ っ た。 学 校 現 場
へ の 訪 問 調 査 に よ り, 実 際 の指 導 内 容 の扱 い 方 や 指 導 時 数 , 時 間 割 の 設定 の 仕方 な ど を 明 ら か に
す る 必 要 があ る 。 こ ち ら につ い て は 第2 次 現 地 調 査 にお い て 計画 を進 め てい る。
教 育 省 に よ る 現場 教員 へ の支 援 策 と し て は, Web 上で の教 材 提 供 な どは も ち ろ ん のこ と, ワ ーク
シ ョ ップ な ど も 開 催 さ れ てい る。 た だし , 義 務付 け に よ る 参加 で は な く , 有 志 に よ る 参 加 で あ る
た め, 教員 個 人 に よ っ て 新 しい カ リ キ ュ ラ ム, 特 に 統 計 の 指 導 に 関 す る 実 践 の 質 は 異 な っ て い る
こ と も予 想 さ れ る。
3。5 NCEAについて
上 記 の よ う に 学 校 裁 量 で 教 育 が 進 め ら れて い る 状 況 を 鑑 みる と, NCEA
に よる 評 価 問 題 の 内 容
は , ニ ュ ー ジ ー ラ ンド 全 体 の教 育 の質 を 確 保 す る 上 で 大 変 重 要 な 意 味 を 持っ てい る。NZQAが 実
施 主 体 で あ る が , 評 価 問 題 を 作 成 す る の は , 主 に力 量 の あ る 現 場 教 員 た ちで 構 成 さ れ てい る よ う
で あ る 。 学 校 ご とに 行 わ れる 内 部 評 価 は, 単 純 なペ ーパ ーテ ス ト で は な く, 授 業 を 通し て生 徒 が
提 出 す る レ ポ ート な ど も用 い ら れて い る よう で あ り に ち ら につ い て も学 校 現場 へ の 調 査 を 必 要
とす る 匚
NZQAが 実 施 す る 外 部 評 価 に つ い て は, い わ ゆる ペ ー パ ー テ スト の形 を と る が, 選択
式 問 題 な ど は用 い て お ら ず, 全 て記 述 式 で あ る。 こ の点 につ い て は, NZQA
の担 当 者 も 「 選 択 式
で は 生 徒 の 能力 を 正 確 に測 るこ とは で き ない 」 と 強 く主 張 し てい た。
毎 年11月 に 外 部 評 価 は実 施 さ れ, 国 中 の生 徒 の 解 答用 紙 が 集 め ら れ る と, 11, 12 月 を かけ て 全 て
NZQA で採 点 し , 1 月 に は結 果 と と もに採 点 し た 解 答用 紙 を 生 徒 に返 却 す る。 生 徒 は 自 分 の解 答 に
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ニ ュ ー ジ ーラ ン ド の 教科 「 数 学 と 統計 」 に つ い て 一統 計 教 育 先 進 国 の教 育 制 度 と 日本 へ の示 唆 −
対 す る 採点 の さ れ方 を確 認 す るこ とが で き, 採 点ミ ス な ど に対 し て訂 正 を求 め るこ と もで きる 。
NCEAは 大 学 入 試 に も関 わる と い う こ と で , 日 本 で い う とこ ろ の「 セ ン タ ー試 験 」 の よう な位
置づ け に な る の だが , 評 価 制 度 とし て の中 身 は ま る で 異 なっ てい る。 評価 の仕 方 , と り わけ 入 試
制 度 は 日 本 にお い て は大 き な 課題 で あ り, 今 後 の 日 本 の教 育 を 考 え てい く上 で 不 可 避 の問 題 点 で
あ る。 人 口440 万 人 ( 外 務 省 情 報) 規 模 の 国 家 で , 大 学 へ の 進学 率 も30% 程 度 と決 し て 高 く は ない
た め , 評 価 制 度 も 日 本 に比 べ て 柔 軟 に 実 施 で き る 部 分 もあ る の か も し れ ない が, 参 考 に す べ き 点
は多 い と 思 わ れ る。 こ れ は 補足 情 報 であ る が 中 等 学 校 卒業 者 ( 第13 学 年 終了 者 ) は74 % で , 教 育
省 とし て は85 % に引 き上げ るこ とを 目 標 にし て い る。
内 部 評 価 に 関 し て は 学 校 裁 量 で 行 われ て い る が, NZQA
が 全 く 関 与 し てい ない わけ で は ない 。
国を8つの地域に区分して,地区ごとに順番に全ての学校から内部評価の評価問題や採点基準等
に つ い て 提 出 さ せ , 内 部 評 価 の 実 態 に つ い て 監 督 し て い る 。 提 出 さ れ た評 価 問 題 や 採 点 基 準 等 に
対 し て, NZQA
の 組 織 す る 委 員 会 が ア ド バ イ ス を 送 る よう に なっ て お り, こ れに より , 内 部 評 価
につ い て もあ る 程 度 質が 整 え ら れ る よう に なっ てい る 。
3。 5 教育に対する考え方,文化的相違について
ニュージーランド の社会 におい ては,学 歴とい うものがそれほど重視されてお らず, 高学歴 一
高収入な職業 などとい う発 想もあ まりない のだとい うことをビ クトリ ア大学の教員 から聞い た。
生活をしてい く分には十分な収入が得 られる仕事とい うのも数多 くあるため, わざわざ大学まで
行か なくともよい とい うのが一 般的 な考え方の ようである。 先ほ ども述べた よう に大学進学 率
30%程度というのも, こういった社会的背景が大 きく影響している ものと思 われる。 大学の数 も
全国で8つのみで各地域に1つずつしかないため,偏差値の高さや専門性で大学を選ぶのではな
く,自分の住んでいる地域の大学 に行くとい うケースが多い。
保護者の関心 もわが子の学びに関して,他の児童・生徒 との比較や,順位・偏差値などの他者
との比較ではなく,その子の中でど れだけ学習が進 んだか の自己内比較 にある という。日本人で
ある我々 には想像し難い話であったが,就学開始時期 の違いや学習 進度による個別 の児童・生徒
の学年間の行 き来,教科 の内容,評 価の仕方 など日本 には見ら れない柔軟 な教 育制度 は, こう
いった文化的背景の違い によるものであるのかとある意味で納得で きる部分で もあっ た。
4 。 お わり に
本 稿 で は, ニ ュ ー ジ ーラ ンド の統 計 教 育 に 関す る 第1 次 現 地 調 査 の結 果 得 ら れた 情報 につ い て ま
と めた 。 具体 的 な 指 導内 容 の 詳 細 につ い て掘 り下 げ る 前 に, 教 育 シ ス テ ムや教 科 書 の扱 い , 評 価 制
度 な ど特 筆す べ き点 も多 かっ た た め, 本稿 で は ま ずそ れら の点 を ま と める こ とに力 を注 い だ。
ニ ュ ー ジ ー ラ ンド の 統 計 の指 導 内容 が 充 実 し てい る こ と は カリ キ ュ ラ ム の 記 載 内容 か ら も見 て
取 る こ と が で き, 日 本 に も取 り入 れ る べ き 点 は多 くあ っ た。 特 に , 統 計 的 探 究 サ イ ク ル とい うプ
ロ セ ス の 指 導 が 強 く 意 識 さ れ てい る こ と が う か が え た。 日 本 に お い て も 学 習 内 容 と し て 統 計 に 関
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青 山 和 裕
する概念を各学年に配置するだけでなく,探究プロセスの指導を取り入 れていくのが必要なのは
明らかであり,次期学習指導要領におい てはその点につい て期待したい。ただその際には,目標
として学習指導要領に設定するだけでなく,ニュージーランドのように評価の仕方についても改
善を試みなければ,実際の指導は変化し ていかないのも事実であ る。
今後は,第2次現地調査を通して,ニュージーランドの教科書分析, NCEA
の評価問題の分析,
現地初等・中等学校での統計カリ キュラムの組まれ方,教材,授業の実際,教員の統計教育に対
する認識,研 修方法など,ニュージーランド の統計教育の詳細について追究を進めていく予定で
あ る。
[ 謝辞 ]
第 1 次 現 地 調 査 を 実 施 す る に あ た り , 教 育 省, NZQA,
統計局,ビクトリア大学,オークラン
ド 大学への訪問及びインタビューのための連絡調整をしてくださり,また現地においても調査に
同行 し て く だ さっ た オー ク ラ ンド 大 学 のChris Wild教 授 に 大 変 感 謝い た し ま す。 また, 訪 問 団 を 快
く受 け 入 れ, 惜し み なく 情 報提 供 を し て く ださ っ た各 機関 の 方 た ち に も感 謝 い たし ます。
[付 記 ]
本 研 究 の 一 部 は , 科 研 費 ( 課 題 番 号24243077, 代 表 者 : 岩 永 恭 雄 お よ び 課 題 番 号25780526, 代 表
者 : 青山 和 裕 ) の助 成 を 受 け て行 われ た も ので あ る。
参 考 ・ 引 用 文 献
青山和裕(2013) .日本の統計教育における系統性構築に向けた検討と提案,日本数学教育学会
誌第95巻数学教育学論究, pp. 1-8.
外務省.ニュージーランド基礎データ.(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nz/) (2013年11月
22日現在).
国立教育政策研究所(2004) . 生きるための知識と技能2-OECD生徒の学習到達度調査
(PISA)2003年調査国際結果報告書,ぎょうせい.
深 潭 弘 美(2007)
.
初 等 ・中 等 統 計 教 育 カ リ キ ュ ラ ム の 国 際 比 較 研 究 −ニ ュ ージ ーラ ン ド に お け
る統計教育カリキュラムー,日本数学教育学会誌第89巻7号,pp.39-48,
袷元新一郎,青山和裕(2013)オーストラリアの教育課程改革の動向に関する考察一州カリ
キュラムから国家カリキュラムヘー,日本数学教育学会誌第95巻第3号, pp.4-16.
松元新一郎(2013)ニュージーランドの国家カリキュラムにおける統計の位置づけ一統計的思
考力を育成するカリキュラムの開発に向けてー,日本数学教育学会第46回秋期研究大会発表集
録, pp.291-294.
Ministry of Education. The New Zealand Curriculum Online. (http://nzcurriculum.tki.org.
nz/) (2013年11月22日現在)
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