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ジャパン・キャピタル・フロー 2016年第3四半期
上場REITの存在感が さらに高まる ジャパン・キャピタル・フロー 2016年第3四半期 • 日本の2016年第3四半期の投資額は、前年同期比19%減の8,870億円 (米ドル建てでは前年同期比3% 減の87億ドル) となった。2016年1月から9月までの投資額は、前年同期比18%減の2兆7,900億円 (米ド ル建てでは前年同期比9%減の257億ドル) となった。 • 日本国内の商業用不動産に対する投資意欲は国内外投資家を含め非常に高いものの、現実の取引 市場での売り物件供給が減少しており、 また市場に出たとしても売買当事者の希望価格の乖離によ り取引に至らないケースも見られている。 マイナス金利導入以降、金融機関の貸出意欲は高まってお り、物件保有者をしてリファイナンスを容易にせしめる環境もこれに影響を及ぼしているものと考え られる。 • マイナス金利の恩恵をストレートに享受したJ-REITが再び取得額を拡大させており、第3四半期末時 点で、年初からの全体投資総額の約半分をJ-REITが占める状況となっている。今四半期においては三 井不動産ロジスティクスパーク投資法人、 マリモ地方創生リート投資法人、大江戸温泉リート投資 法人、 さくら総合リート投資法人の4投資法人が上場を果たし、既存REITによる資産取得に加えて新 規上場の動きも活発となっている。 • セクター別に投資額をみると、第3四半期までの物流施設に対する投資額は6,000億円となり前年同 期比で64%増加している。 また、今四半期において大型取引もみられたホテルに対する投資額も前年 比で増加している。 エリア別の投資額割合は東京圏で全体の66%、 その他エリアで34%となっており、 昨年に引き続き地方圏への投資が拡大している。 • 日本の商業用不動産投資額は、2015年に前年比で減少し、 2016年第3四半期までも前年同期比で減 少となった。国内外投資家による投資意欲は衰えていないものの、限定的な物件供給を背景に2016 年通年の投資額は前年比で減少することが予測される。 JLLは2016年の日本国内商業用不動産投資 額を前年比10%減の3.7兆円程度になるものと予測している。 2016年第3四半期の代表的取引 取引時点 物件名 2016/7 晴海アイランドトリトンスクエア オフィスタワーY セクター 価格 オフィス 2016/8 2016/9 ホテルポートフォリオ(3物件) 2016/9 物流ポートフォリオ(5物件) 新規上場J-REIT 売主 コンテンツ エグゼクティブ・サマリー 概要(Overall) 1 2 取得者別分析(Who?) 2 ファクター(Why?) 3 注記および用語説明 4 セクター、 エリア分析(What, Where?) 予測(Outlook) 3 4 お問い合わせ先 赤城 威志 リサーチ事業部長 03 5501 9235 [email protected] 伊藤 翔 リサーチ事業部 マネージャー 03 5501 9248 [email protected] More information http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/research www.joneslanglasallesites.com/gcf November 2016 約500億円 バルゴ・プロパティ有限会社 (報道による) 買主 イデラ キャピタルマネジメント ジャパン・ホテル・リート 投資法人 ホテル 471億円 合同会社アポロ等 物流施設 427億円 厚木2ロジスティック特定目的会社等 GLP投資法人 上場 投資法人名 セクター 資産規模 スポンサー 2016/7 マリモ地方創生リート投資法人 総合型 162億円 マリモ等 2016/8 三井不動産ロジスティク スパーク投資法人 物流施設 755億円 三井不動産 2016/8 大江戸温泉リート投資法人 ホテル等 268億円 大江戸温泉物語 2016/9 さくら総合リート投資法人 総合型 574億円 ガリレオ、日本管財 1 Who? Overall 投資額減少傾向が継続 上場リートの存在感が高まる 日本国内投資額 J-REITの新規上場の動きが活発化 日本の2016年第3四半期の投資額は、前年同期比19%減の8,870億円 (米ドル 建てでは前年同期比3%減の87億ドル) となった。2016年1月から9月までの投 資額は、前年同期比18%減の2兆7,900億円 (米ドル建てでは前年同期比9%減 の257億ドル) となった。 投資家属性別にみると、今期も上場リートによる物件取得の動きが目立っ た。 マイナス金利の恩恵をストレートに享受したJ-REITが再び取得額を拡大 させており、第3四半期末時点で、年初からの全体投資総額の46%をJ-REIT が占める状況となっている。第3四半期までの上場リートによる取引額は1兆 3,000億円となり、前年比で25%増加した。一方、私募ファンドによる投資額は 6,400億円となり、前年同期比で47%減少している。 日本国内の商業用不動産に対する投資意欲は国内外投資家を含め非常に 高いものの、現実の取引市場での売り物件供給が減少しており、 また市場に 出たとしても売買当事者の希望価格の乖離により取引に至らないケースも見 られている。 マイナス金利導入以降、金融機関の貸出意欲は高まっており、物 件保有者をしてリファイナンスを容易にせしめる環境もこれに影響を及ぼし ているものと考えられる。 世界の都市別投資額ランキング 世界都市別に投資額をみると、東京都内の2016年1月から9月の投資額は100 億ドルとなり世界第5位となった。前年には世界3位の座を維持していたが、 日本国内とりわけ都心部における物件供給が限定的であることにより投資 額は前年比で減少し順位を落とした。 アジア太平洋地域に限定すると依然東京がトップとなっている。 しかし、 ソウ ルや香港、 シンガポールが僅差で東京に次ぐ投資額を記録しており、 同地域 での東京の地位を脅かす存在となっている。 図表 1 日本国内の投資総額推移 限定的な物件供給により海外投資家投資額は減少 第3四半期までの海外投資家による投資額は3,500億円となり、前年同期比で 54%の減少となった。海外投資家による投資額が全体投資額に占める割合 は13%と前年比で低下している。物件の市場供給が限定的な状況を背景に、 物件供給パイプラインを持たない海外投資家による新規の物件取得は難し い状況が続いている。 ただし、安定したリターンを見込める国内資産に対し て、 アジアを中心とする海外投資家の投資意欲は依然として高い。 今期においては、 中国企業を親会社に持つイデラキャピタルマネジメントが 晴海アイランドトリトンスクエア オフィスタワーYを取得するなどの取得事例 がみられた。 図表 3 購入者属性別投資額割合 100% (10億円) 8,000 7,000 80% 6,000 70% 5,000 60% 4,000 50% 3,000 40% 43% 29% 2008 2009 2010 2011 2Q 2012 2013 3Q 2014 2015 2016 33% 18% 30% 7% 15% 16% 25% 30% 29% 18% 9% 0% 2007 4Q 出所 : JLL 32% 14% 33% 10% 2007 39% 25% 30% 20% 1Q 2008 2009 上場リート 38% 38% 2011 2012 22% 26% 23% 25% 19% 10% 27% 16% 14% 23% 36% 46% 45% 26% 17% 2010 10% 2013 2014 私募ファンド 不動産会社 31% 2015 その他 2016 1月-9月 出所 : JLL 図表 2 都市別投資総額ランキング (2016年1月-9月) 図表 4 海外投資家投資額推移 (10億米ドル) (10億円) 3,000 ニューヨーク ロンドン 2,500 ロサンゼルス 35% 2,000 パリ 東京 1,500 ワシントンDC 20% 1,000 ソウル シカゴ アメリカ大陸 欧州・中東・アフリカ アジア太平洋地域 香港 シンガポール 0 出所 : JLL 22% 30% 1,000 0 9% 90% 2,000 2 今四半期においては、三井不動産ロジスティクスパーク投資法人をはじめ、 4 投資法人が上場するなど、既存リートの物件取得の動きに加えてIPOの動き も活発となった。 5 10 15 20 25 30 11% 500 0 35 19% 2007 2008 2009 18% 20% 12% 2012 2013 13% 4% 2010 2011 海外投資家による不動産購入額(全国) 出所 : JLL 22% 2014 2015 2016 1月-9月 海外投資家割合(%) Why? What? Where? 成長セクターに対する投資拡大 魅力的な水準にあるイールドギャップ 物流施設、 ホテルに対する投資額が増加 金利低下によりさらなる拡大を続けるイールドギャップ 前四半期と同様に、成長著しい物流施設とインバウンド需要が好調なホテル に対する投資額が増加傾向で推移している。第3四半期までの物流施設に対 する投資額は6,000億円となり前年同期比で64%増加している。今四半期に おいては三井不動産ロジスティクスパーク投資法人が新規上場したことに 加え、GLP投資法人が5物件のポートフォリオを427億円で取得するなどの動 きも見られた。 また、 ジャパン・ホテル・リート投資法人による大型取引のあっ たホテルセクターに対する投資額も前年比で増加している。 東京Aグレードオフィスのキャップレートは前四半期比横ばいの2.95%となり、 一方で日本の10年物国債利回りは前四半期比で18bps上昇して-0.05%となっ た。結果としてこれらの差で表されるイールドギャップは2016年9月末で300 bpsとなり、前四半期比で18bps縮小した。 一方、都心における物件供給が限定的となっているオフィスやリテールに対 する投資額は前年同期比で減少となっている。 一方、2016年第3四半期においては他の主要都市でも、金利の上昇もしくは キャップレートの低下によってイールドギャップが縮小している傾向にあり、 東京オフィスは依然として高い自己資金利回りを確保できる状態にあり、 イ ンカム重視のファンド等にとっては魅力的な投資対象となっているものと考 えられる。 投資は東京以外の地域に拡大傾向 金融機関の積極的な融資姿勢 都心5区内の物件に対する投資額割合は限定的な供給を背景とし昨年一年 間と比較して大幅に減少し28%となった。 5区を除く東京都内の物件に対す る投資額割合は前年比で若干減少し13%となっている。一方、東京都を除く 東京圏(神奈川、千葉、埼玉) の物件に対する投資額割合は25%となり前年 比で拡大している。今四半期においては三井不動産とGLPの上場リートがこ れら3県に立地する物件を取得したほか、 ららぽーと新三郷が取引されるな どの動きがあった。 投資額割合は東京圏で全体の66%、 その他エリアで34%となっており、昨年 に引き続き地方圏への投資が拡大している。地方圏の投資額拡大には物流 施設やホテルに対する投資額増加が大きく寄与している。 90% 80% 70% 60% 4% 18% 6% 5% 8% 7% 4% 4% 6% 9% 9% 4% 8% 16% 3% 3% 5% 3% 2% 22% 35% 19% 50% 30% 20% 64% 20% 76% 55% 49% 4% 5% 9% 19% 25% 22% 40% 図表 7 主要都市のイールドスプレッド推移(Aグレードオフィスvs10年物国債利回り) 4% 6% 10% 20% 30% 67% 3% 16% 出所 : JLL 41% 45% 2007 2008 オフィス 80% 6% 8% 3% 3% 1% 3% 13% 14% 70% 12% 8% 14% 19% 90% 60% 50% 2009 2010 リテール 2011 2012 物流施設 2013 2014 ホテル 2% 1% 3% 1% 4% 4% 0% 5% 1% 3% 2% 8% 2% 2% 4% 12% 3% 9% 12% 9% 7% 14% 9% 22% 14% 24% 21% 26% 2016 1月-9月 その他 2015 20% 49% 47% 62% 出所 : JLL 25% 52% 38% 2007 2008 東京都5区 大阪圏 2009 32% 9% 7% 4% 13% 19% 15% 13% 60% 10% 0% 0 25% 13% 45% 39% 28% 2016 1月-9月 (5区除く)東京都内 (東京都除く)東京圏 名古屋圏 福岡圏 その他 2010 2011 2012 2013 ー東京 ーシンガポール 出所 : JLL, Thomson Reuters ー香港 ーニューヨーク ーロンドン 図表 8 東京オフィスキャップレートと日銀短観 金融機関の貸出態度 3% 3% 1% 8% 3% 10% 3% 12% 13% 18% 40% 30% 200 -100 図表 6 地域別投資額割合 100% 300 100 58% 10% 0% (bps) 500 400 21% 14% 62% 41% 5% 7% 4Q07 1Q08 2Q08 3Q08 4Q08 1Q09 2Q09 3Q09 4Q09 1Q10 2Q10 3Q10 4Q10 1Q11 2Q11 3Q11 4Q11 1Q12 2Q12 3Q12 4Q12 1Q13 2Q13 3Q13 4Q13 1Q14 2Q14 3Q14 4Q14 1Q15 2Q15 3Q15 4Q15 1Q16 2Q16 3Q16 100% 2014 2015 6.0% 30 5.5% 20 5.0% 10 4.5% 0 4.0% - 10 3.5% - 20 3.0% - 30 2.5% - 40 4Q07 1Q08 2Q08 3Q08 4Q08 1Q09 2Q09 3Q09 4Q09 1Q10 2Q10 3Q10 4Q10 1Q11 2Q11 3Q11 4Q11 1Q12 2Q12 3Q12 4Q12 1Q13 2Q13 3Q13 4Q13 1Q14 2Q14 3Q14 4Q14 1Q15 2Q15 3Q15 4Q15 1Q16 2Q16 3Q16 図表 5 セクター別投資額割合推移 日本銀行が公表する短観によると、不動産業に対する金融機関の貸出態度 は2009年の前半を底として改善を続けている。 マイナス金利導入により金融 機関の貸出姿勢はさらに積極的となっており、前回市場ピークである2007年 の10を大きく上回る22となっている。直近においてはプライムアセットとセカ ンダリーアセットのキャップレート差が縮小する傾向がみられており、 オフィ スについてもAグレードは横ばいとなった一方、Bグレードのキャップレートが 低下した。 ただし、不動産キャップレートと金利水準とのギャップは依然とし て大きいため、低金利が続く限りは将来における若干のキャップレート低下 余地はあるものと判断される。 ーAグレードオフィス利回り ーBグレードオフィス利回り 金融機関の貸出態度(不動産・全規模) ー 出所 : JLL, 日本銀行 3 Outlook 2015年比で投資額の減少を予測 キャップレート低下、価格上昇が継続 低金利と金融機関の貸出意欲の高まりを背景に歴史的な低水準にあるキャッ プレートは低金利が続く限り低下傾向を維持するものとみられ、 不動産の価 格上昇は継続するものと予測される。 図表 9 大陸ごとの投資額推移および予測 (10億米ドル) 800 600 500 J-REITによる物件取得は継続見込 400 2016年内に上場が予定されているリートはないものの、 良好な資金調達環境 を背景に上場リートによる堅調な物件取得は継続していくものと予測される。 ただし、 物件の市場供給が限定的な状況は今後も続いていくことが予測され、 物件供給パイプラインを持たない投資家による物件取得は難しい状況が続く であろう。 2016年の投資額は前年比で減少予測 10-15% 700 10-15% 20-25% 0-5% 300 200 100 0 アメリカ大陸 出所 : JLL EMEA アジア太平洋地域 グローバル 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (予測) JLLは、 2016年通年の世界の商業用不動産投資額の見通しを前年比10-15%減 少の6,100-6,300億ドルとみている。 アジア太平洋地域については前年比0-5%減 少の1,200億ドル程度とみている。 日本の商業用不動産投資額は、 2015年に前年比で減少し、 2016年第3四半期ま でも前年同期比で減少となった。 国内外投資家による投資意欲は衰えていな いものの、 限定的な物件供給を背景に2016年通年の投資額は前年比で減少す ることが予測される。 JLLは2016年の日本国内商業用不動産投資額を前年比10 %減の3.7兆円程度になるものと予測している。 注記および用語説明 個別の商業用不動産あるいは資産ポートフォリオ(あるいは資産を保有する特別目的会社の株式) の取得 商業用不動産への直接投資に含まれるもの ・500 万米ドルを超えるすべての取引 • カバーしているセクターは、オフィス、リテール、ホテル(カジノを含む)、インダストリアル、複合用途、 その他(介護施設、学生寮を含む) 不動産の直接投資 データにはREIT 組成を含む、以下の条件を満たした不動産会社のM&A が含まれる ・実質的に不動産取引である ・不動産以外の主要資産(労働力、知的所有権、のれん代など) が譲渡されない ・収入の70% 以上を直接的な賃料収入から得ている ・取引により、所有権の大幅(30% 以上) な変更が生じる ・取引は「市場価格」で行われる ・IPO 価格で新たな投資家に売却した比率のみが含まれる 商業用不動産への直接投資に含まれないもの ・法人単位の取引、開発案件、集合住宅への投資 法人単位の取引 企業による資産取得で、不動産資産以外の主要資産(労働力、知的所有権、のれん代など) が譲渡される場合のことを指す。例え ば、REITの非公開化や「グループ企業間での取引」- 企業が株式の過半数を保有する子会社に不動産を売却する場合など 開発案件 「将来の」開発計画や「土地」取引として分類される取引を指す アジア太平洋地域 オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マカオ、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、 韓国、台湾、ベトナム、タイの不動産への直接投資をカバー 欧州 ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、 ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、 英国の不動産に対する直接投資をカバー 中東および アフリカ大陸 4 バーレーン、イスラエル、クウェート、レバノン、カタール、サウジアラビア、UAE の不動産に対する直接投資をカバー アフリカでは、南アフリカをカバー アメリカ大陸 カナダと米国の不動産に対する直接投資をカバー。アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、メキシコ、パナマ、 ペルーへの直接不動産投資については部分的にカバー 日本国内地域分類 東京都5区:千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区、 東京圏:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県、 大阪圏:大阪府・京都府・兵庫県・奈良県、 名古屋圏:愛知県・岐阜県・三重県、 福岡圏:九州各県 為替レート 取引額を米ドル建てに換算する上では、取引が行われた四半期の平均為替レートを用いている グロスアップ 市場カバレッジを反映させるため、取引額はグロスアップしている