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高性能薄膜永久磁石 - JEITA Home
高性能薄膜永久磁石 日立金属株式会社 1. はじめに 今日、MEMS 技術の発展などによってデバイスの小型化・集積化が進行し、電子材料において薄膜の重要性 が高まってきています。永久磁石の需要も、機械加工での作製が難しいミリサイズ以下の仕様が近年では増加 し、将来マイクロアクチュエーターやマイクロセンサなどのマイクロ磁気デバイスに用いることのできる高性能薄 膜永久磁石の出現が期待されています。 このような技術トレンドを背景に、当社では世に先んじて薄膜永久磁石の研究に着手し、今日実用化されてい る最高性能のバルク磁石と遜色のない、高い磁気エネルギー積を有する高性能垂直磁化薄膜の開発に成功し ました。 2. Nd2Fe14B 薄膜永久磁石 化学式 Nd2Fe14B で示される正方晶金属間化合物は、 強い磁気異方性エネルギーと飽和磁化を併せ持ち、粉末 冶金法で作られる異方性焼結磁石(当社商品名: NEOMAX®)が今日に至るまで世界最高の磁気エネルギ ー積を有する永久磁石として、様々な分野に応用されて います(図1)。その一方で、この金属間化合物の永久磁 石特性が金属組織に大きく左右されるため、スパッタリン グや真空蒸着といったプロセスで作製した薄膜は、本来 期待される永久磁石特性を永らく発揮できずにいました。 図1 永久磁石材料の開発の変遷 当社ではこの課題に対して、スパッタリング法による薄 膜の金属組織制御技術の確立を目指した研究開発を行い、Nd2Fe14B とバッファー層のタンタル(Ta)を交互に 形成した多層構造にすることで、微細な Nd2Fe14B の結晶粒子を含んだ均一な金属組織を実現させることに成功 しました(図2)。また、この多層構造は、高い永久磁石特性を得るための必須要件である磁気的な異方性を助 長することを明らかにしました。すなわち、開発した薄膜永久磁石は、個々の Nd2Fe14B 微細結晶粒子の磁化容 易方向(c 軸)が、膜面に対して垂直方向に強く配向した、垂直磁化薄膜となっています。 図2 薄膜永久磁石の断面写真.膜厚:1μm(左) 、10μm(右) . 3. 永久磁石特性 今回開発した薄膜永久磁石では、金属組織の微細均一化によって保磁力が改善され、Nd2Fe14B 微細結晶粒 子の強い配向によって、膜面垂直方向に高い残留磁化が発現します。その特性レベルは、永久磁石の強さを 総合的に表すのにしばしば用いられる最大磁気エネルギー積((BH)max)と併せて、現在ハードディスク用ボイス コイルモーターなどに用いられている高性能焼結磁石に匹敵する値が得られています(表1)。 また、開発した薄膜永久磁石のもう一つの特長として、類似した特性レベルの焼結磁石と比較して、良好な耐 熱特性を示すことがあげられます。図3に示した不可逆減磁率は、薄膜永久磁石を一旦加熱して室温に戻した 時に、加熱前の状態からどの程度減磁したかを表したものです。これによると、薄膜永久磁石は 150℃程度の熱 環境に対しても、十分な耐性を備えていることが分かります。 薄膜永久磁石 膜厚: 1 μm 膜厚: 10 μm 焼結 Nd-Fe-B 磁石(異方性) NEOMAX-48BH 表1 残留磁束密度 固有保磁力 最大エネルギー積 Br HcJ BH(max) T kG kA/m kOe kJ/m3 MGOe 1.44 14.4 1.24 12.4 1.36~1.42 13.6~14.2 979 12.3 1210 15.2 1114 14 364 45.8 279 35.1 358~390 45~49 薄膜永久磁石の磁気特性 不可逆減磁率 (%) 0 -5 -10 -15 -20 -25 -30 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 温度 (℃) 図3 薄膜永久磁石の熱減磁特性 4. おわりに エネルギー問題、環境問題への対応が今世紀最優先の課題となる中で、電力を使わずに磁界を作る永久磁 石の存在価値は、今後ますます高まっていきます。こうした永久磁石の応用範囲をさらに拡大すべく、当社では 高性能薄膜永久磁石のマイクロ磁気デバイス向け用途開拓を図ると同時に、そこで要求される特性、プロセスに 適合した薄膜永久磁石の改良・開発をさらに推進してまいります。 特許取得・公開状況 (公開中) 特開 2001-237119、特開 2003-017320 (登録済) US PAT No.6,805,980 お問合せ先: NEOMAX カンパニー 山本 (Tel) 03-5765-4322、[email protected] 上原 (Tel) 075-961-3141、[email protected]