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第3章 社会資本整備のための民間資金等の活用策

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第3章 社会資本整備のための民間資金等の活用策
第3章
第1節
1
社会資本整備のための民間資金等の活用策
PPPの展開と導入事例
はじめに
成熟した社会資本ストックの形成や人口減少時代の到来を背景に、新規のインフラ投
資はその効果を見極めた上で選択的に実施する傾向が強まってきているが、既存ストッ
クの維持、あるいは運営を含めれば、関連する事業規模は依然として大きい。その一方
で、国、地方の財政状況の悪化に伴い、従来型の一般財源や債券発行による調達の制約
が強まってきている。
もちろん、社会資本という財、あるいはそれが生み出すサービスが官により直接供給
されてきたのは、それが公共財・サービスの性格を有し、民間では質・量の両面で望ま
しい供給体制が実現できないとされたからであった。しかし、社会経済環境の変化の中
で、民間によって提供しうる財・サービスであると判断されれば、民間事業者に開放し、
調達も任せることで、財政負担を伴わずに(準)社会資本を整備することが可能となる。
しかし、民間開放による資金確保する効果が認められるとしても、国を上回る信用を
有する民間事業者が稀である以上、単純な民間事業者による調達への切替は金利上昇に
より資金コストを高めるだけであり、社会的に望ましくない。財政資金である租税や起
債、借入も、結局は民間が生み出した付加価値の配分である点に変わりがなく、官業と
して継続することが検討されるべきであろう。
むしろ、民間開放の社会的なメリットとは、経営効率化による費用削減効果、民間ノ
ウハウや顧客志向の導入による住民サービスの改善が上記コスト増を相殺して余りある
効果を生み出すことにある。民間からの資金調達とは、民間事業者が事業に参画した上
で資金を調達する効果と考えることとしたい。
こうした事業分野は、包括的な事業全体である必要はない。事業の一部分を切り出し
つつ必要な事業環境を整備することで民間参入が可能な分野を創出することが可能であ
る。さらに、近年のプロジェクト・ファイナンスに関する法的、金融的な技術の発展が
PFI事業を含めた民間開放の可能性を飛躍的に高めている。国を中心に導入を進めて
いる市場化テストは、こうした手法の適用可能性を含め、官の範囲を見直すものであり、
官側にとっても、国・自治体の経営をコア事業に絞ることによる合理化、効率化を図る
とともに、住民サービスの改善を進める手法として期待できる。
本節では、主に地方自治体を主眼として、現在進展するPPP(官民パートナーシッ
プ)手法と関西地域を中心に先進的な導入事例を紹介する。先述のように、資金面での
効果以上に、各手法がどのような経営面でのメリットを引き出すかに注目することとし
たい。
171
2
PPPと地方公共財・サービスの提供
2.1 PPPと民間資金調達
PPP(Public Private Partnership)とは、主に英米で広く用いられる言葉であり、
英国においては、PFIが安価(Value for Money)であることに力点を置いたことへの
反省として、Best Value を志向するものとしてブレア政権において導入された。なお、
本稿では官民パートナーシップと訳するが、
「官」は中央政府たる国だけでなく、地方自
治体とその関連団体を含めた公共部門の総称として用いる。いずれにせよ、PPPとは
従来、官が担ってきた分野を何らかの形で民間に移転する手法を指す。
移転する業務範囲としては、構想・企画、設計、施工、保有、維持・補修、運営、フ
ァイナンス等があり、この全部あるいは一部が対象となり得る。このうち、設計から施
工までの「建設」、維持補修を含む「管理運営」の2つの側面からの整理した4類型を図
表3−1に示した。建設については、施設整備費の調達が必要となる新規事業が当然想
定されるが、更新・追加投資が必要となる既存事業も対象となってこよう。
「建設」を担う主体は、保有と資金調達を行うことが一般的だが、民設公営の「施設
譲受」や民設民営のBTOやBOTでは民間から公共へ、あるいは公設民営の「施設譲
渡」では公共から民間へ所有権が移転(T:transfer)するケースがみられる。前者の
場合には、民間の創意工夫を活かした設計・施工に期待する一方、竣工後はサービス提
供の責任を負う公共の所有下におくことで、事業継続の安定性を図ろうとするものであ
る。
この場合にも、移転対価の支払方法を一括とするか、割賦とするか、所有権移転のタ
イミングを運営(O:operate)の前後のどちらとするか、といった点について、租税・
償却負担といった会計上の問題や、運営にかかるインセンティブを考慮していくつかの
バリエーションから選択する。資金調達については、建設主体が当初負担した後、譲渡
の有無により最終的な負担の帰着が決まるが、PFIでみられる割賦払型を取る場合に
は、最終的には公共の負担となるものの、当初の施設整備費を民間金融機能に依存する
場合には、民間事業者の信用を反映した金利費用を含めた費用が必要となる点も、財政
制約の中で重要な検討材料となる。
図表3−1 PPPの一類型
管理運営
行政
(公共事業等)
民間
公設民営
・管理運営委託
・施設貸与
・施設譲渡
・DBO
民設民営
・PFI
・BTO
・BOT
・BOO
行政
建
設
民設公営
・施設譲受
民間 ・施設借用
資料:日本政策投資銀行地域企画チーム(2004)p.14。
172
図表3−2 4つの視点にもとづく民営化手法の比較
手法の
選択
所有移転型民営化
PPP型民営化
(参考)
PFI
株式公開 トレードセー MBO アウトソー アフェル コンセッ
シング
マージ ション/
(IPO)
ル(第3者へ
BOT・BOO
の事業譲渡)
民間
民間
民間
公共
公共
公共
公共
視点
(1) 所有
(サービス供給の
最終責任)
(2) 民間のノウハウ 低∼中
の導入
有
(3) 民間の資金
導入
(4) 競争の導入
低∼中
独立行政
法人
公共
高
低∼中
高
高
高
高
低
有
有
無
無
有
有
無
低∼中
低∼中
中∼高
(選定方法
次第)
高
高
高
低
資料:野田由美子編(2004) p.60 図表2−6
野田(2004)では、(1)所有、(2)ノウハウ、(3)資金、(4)競争という視点で手法の比
較を行っている。図表3−2に同書の分類を再掲したが、(2)や(4)のような民間のもた
らす効果を考慮に入れ、海外事例を含めたより一般的な視点から、PPP導入のメリッ
トを手法別に整理している。一般的に民営化と言われるものをIPO、トレードセール、
MBOと、譲渡方法別にその内容を分けるほか、PPP型としては、イギリス型として
日本に導入されたPFIのほか、大陸型の手法であるアフェルマージ、コンセッション
を挙げる。アフェルマージは公共が施設の整備・保有を行い、その利用を民間に任せる
公設民営型のスキームであるが、料金徴収を含めて民間に経営権が積極的に委ねられる。
コンセッションは、契約期間が 20∼30 年と 10 年前後のアフェルマージより長期にわ
たり、かつ民間資金が導入される点が特徴である。しかし、イギリス型PFIがサービ
ス購入型が中心なのに対し、独立採算型やサービス購入型でも業績連動のしくみが採用
され、民間経営の自由度を高めて効率化のインセンティブを働かせる点が特徴である。
日本における水道事業は、指定管理者制度を導入した場合に 10 年以内の比較的短期間の
契約となる可能性があるが、よく知られるようにフランス等では長期にわたるコンセッ
ション契約により水道など公益事業が展開されている。
このように、PPPの特徴は、建設だけでなく維持・運営におよぶ事業を民間に委ね
る点にある。本稿の目的は第一義的には、民間資金の導入手法であるが、国債・地方債
ではなく、民間事業者の信用に基づいた調達を行うためには、民間事業者が自ら資金運
用方法たる経営に関与する必要がある。民間の信用で有償調達した資金を導入するには、
民間自身が事業経営に関わり自らリスク管理をする必要があると言えよう。
2.2 PPP対象分野の特定
PPP対象分野の選定にあたっては、
「その事業(の一部)は、なぜ公共によって建設
/管理運営/保有/調達されねばならないのか」、あるいは経済学の枠組みで言う公共財
か否か、という基準が重要となる。公共財・サービスとは、非排除性(non-excludability、
受益者を排除できないこと)、非競合性(non-rival、利用者の増加が既存の利用者の便
173
益を完全には妨げない)により定義され、民間市場での供給が社会的に最適な水準を下
回るために直接公共による供給が行われる。これは、外部経済をもたらす場合(準公共
財などと呼ばれる)にも同様であり、社会的な費用・便益の比較を通じて、義務教育の
実施や各種の質的規制の存在を説明することも可能である。また、パターナリズムの観
点を含めてシビル・ミニマムを確保する目的が存在する。いずれにせよ、学校、病院、
宿泊施設、会議場やホールなど、民間で同種の財・サービスが十分提供されている場合
には、民営化を含めた可能性を模索する余地がありえる。
また、最終的には公共が供給の責任を負う場合であっても、その一部業務を切り出し
て民間開放する余地は大きい。現に、警察の制服から庁舎の建設工事、維持・清掃に至
るまで、多くの財は民間企業が製造したものである。最終的なアウトプット(警察サー
ビス、公務員の事務サービス)が公共財・サービスであったとしても、その生産に必要
な投入要素を民間市場から調達することが必須ではなく、品質面での基準を確保した上
で、コストを抑制できる可能性がある。
政府では、図表3−3に挙げた会議・組織をはじめとしてPPPの推進を図っている。
一貫して強調されているのは、現在官が担う事業であっても、少なくとも社会経済環境
の変化を前提に改めて民間に解放することが検討されねばならない、という視点である。
それは事業開始時点での公的関与の必要性についての議論をベースに考えることではな
い。これに関して、規制改革・民間開放推進会議の中間とりまとめ(2004 年8月)では、
民間開放に障害となるとする主たる理由に関し、制度上の障害がないことを訴えている。
まず、(1)「公権力の行使」は公務員が行う必要があるにせよ、その範囲は立法政策に
より変わり得る。(2)憲法上行政権は公務員に与えられるが、民間委託の上で管理責任を
負うことに問題はない。(3)裁量性がある行政権の行使は、それをマニュアル化、ガイド
ライン化することで民間解放が可能であり、公平性・透明性も向上する。(4)公平性、中
立性、継続・安定性、高度な守秘義務等が求められるものについても、民間授権する際
のルール化により担保可能である。(5)国際条約上の公務員が担うという規定も最終的な
判断権が行政に留保されていれば良い。
もちろん、個々の分野論においては、民間開放を実践した場合に何が起こり得るのか
を十分吟味する必要があり、応募する民間企業の審査や解放後のモニタリングの体制が
整備される必要がある。国においてはPP推進の動きに対して、事業を担当する省庁、
セクションからは多くの意見が出され、自治体レベルでも、行革担当セクションと現業
部門との間で意見の食い違いがみられる。PPP事業の発展には、こうした多様な意見
を十分調整し、円滑な民間委託への移行が定着することが必要であることは間違いない
が、昨今の財政状況等を踏まえつつ、建設的な議論が求められていると言えよう。
174
図表3−3
政府におけるPPPの推進体制(主なもの)
総合規制改革会議
2001年4月∼2004年3月、
経済産業省・経済産業研究所
日本版PPP研究会
2001年10月設置、座長 八田達夫東京大学空間情報科学研究センター教授
規制改革・民間開放推進会議
2004年4月1日設置、議長 宮内
義彦 オリックス(株)代表
規制改革・民間開放推進本部
2004年5月25日設置、本部長 内閣総理大臣
他方で、以下でみる事例からも明らかなように、特に施設整備費の調達が課題となる
ケースにおいて、近年の財政逼迫の深刻化もあり、一部自治体ではむしろ積極的にPP
Pを活用する動きがみられることも確かである。
2.3 地方自治体におけるサービス提供の仕組み
図表3−4では、広義の地方公共団体として、出資関係のある地方公営企業、第3セ
クターまでを含めてまとめた。概して、上に記したものほど公共性が高く、下に行くほ
ど会計上の独立性、収益性が高く、民間事業に近づく(ただし、地方公営企業、3公社、
民法法人、商法法人のそれぞれの内訳の上下は順不同)。ただし、昨今は地方公営企業、
公社を含む第3セクターにおける事業収支の悪化が指摘されている。事業廃止を含めた
抜本的な見直しが必要なケースもあるものの、民間委託に供して一般財源からの補填や
出資、保証行為等による財政負担を軽減することで、公益性を担保しつつ経営を改善す
る可能性もある。以下では、地方公営企業と第3セクターについて、PPP手法の適用
可能性を留意しながら、論点を整理してみたい。
2.3.1
地方公営企業
地方公営企業は、地方公共団体が経営する企業であり、地方自治に関する基本的な法
律が適用されるが、約4分の1は「法適用企業」として地方公営企業法の規定が適用さ
れる。同法の対象には同法第2条で規定される水道、鉄軌道、ガス事業等のほか、条例
で指定された事業などが含まれるほか、企業会計方式が義務づけられ、企業としての営
業成績が把握しやすい。その意味で非適用企業に比べて独立性、透明性が高く、経営効
率化のインセンティブが期待されるため、2000 年 12 月の行革大綱では法適用を推進す
るとしている。
地方公営企業は、公共性が高い事業を遂行しつつ、経済性を確保しなくてはならない。
この相反する要請に対しては、株主である地方公共団体への利益分配が求められないこ
と、公営企業金融公庫からの借入や公営企業債の発行を通じた低廉な資金調達が可能で
あること等の枠組みが与えられる。これら公的な資金調達は、官の信用、最終的には国
民の負担に依存するものだが、黒字を目標とし得る環境を与えて経営効率を高めること
で、結果的に事業の継続と安定・良質な住民サービスを確保し、社会的なメリットが生
175
じる構造になっている。
図表3−4の最も右側の列に事業規模を記載したが、地方公営企業の経常支出と資本
支出を合算した決算規模は 20 兆円余りと、普通会計の2割に相当する。さらに、総務省
の「平成 15 年度地方公営企業決算の概況」によれば、収益規模では、非適用企業が 2.2
兆円(うち料金収入1.2 兆円)、適用企業が 10.5 兆円(同 8.4 兆円)であり、料金収入
だけでも 12 兆円弱と、30 兆円余りの地方税収入と比較しても住民負担は大きい。他方、
収益状況をみると、非適用企業 8,950 事業のうち、収益的収支が黒字のものは 1,597 事
業(17.8%)、法適用事業では 3,536 事業中 2,378 事業(67.3%)が経常黒字であり、事
業規模が大きいこともあって相対的に法適用事業の収益性が高い。ただし、法適用事業
も 38.5%の事業が累積欠損金を有し、特に、交通事業、病院事業では 50%前後の事業が
毎期赤字を計上し、電気を除けば水道、ガス等でも1割以上の事業が赤字となっている。
図表3−4
分 類
地方公共団体
普通会計
地方公営企業
法非適用企
業
法適用企業
地方行政の組織
根 拠 法 等
一般会計
その他の特別会計
地方財政法(昭23)等
下水道、簡易水道、
有料道路、駐車場、
介護サービス 等
上水道、工業用水
道、下水道、病院、
観光施設、交通 等
地方財政法(昭23)に基づき
特別会計を設置
→ 法非適用の
公営企業等
地方公営企業法(昭27)の全
部/財務規定等を適用
第3セクター
三公社
住宅供給公社
道路公社
土地開発公社
民法法人
商法法人
財団法人
社団法人
株式会社
有限会社
団体数 事業規模
(億円)
3,179
981,027
地方住宅供給公社法(昭40)
地方道路公社法(昭45)
公有地の拡大の推進に関す
る法律(昭47)
民法
同上
商法
同上
12,476
8,944
203,070
59,567
3,532
143,503
10,111
1,654
57
43
1,554
1,585
114
4,153
483
3,500
321
557
915
注:1. 団体数は 2004 年 3 月 31 日現在。ただし、第3セクターは 2003 年 3 月 31 日現在。
2. 事業規模はいずれも 2003 年度決算で歳出/支出ベース。普通会計は速報、地方公営企業につい
ては経常支出と資本支出の合算。第3セクターについては経常収支の合算であり、他と比較で
きない。
水道、ガス、電気など地方公益事業は地域独占事業として競争に晒されていないもの
の、一般に料金収入は低廉に抑えられている。こうした初期投資が大きい収穫逓増型事
業においては、社会的に最適な供給水準を実現するために限界費用に一致する価格設定
を行い、固定費相当の不足分を補填することが正当化される。また、ユニバーサルサー
ビスを実現するためのコストも大きい。しかし、公共料金の引上げは政治的に合意に至
176
らないケースも往々にしてみられ、結果として赤字と補填が常態化し、経営目標が損な
われることにもなりかねない。また、経営の自律性が損なわれることで、更新投資が先
送りされ、サービスの質が低下する恐れがあり、経営の安定性・継続性への懸念が一層
高まる悪循環に陥りかねない。
このように社会的便益を勘案した補助事業へのPPP導入に当たっては、公営企業に
おける課題をクリアする事業の枠組みが用意されねばならない。例えば、指定管理者制
度を導入した場合には、料金設定等は最終的な責任を負う公共が管理を続けるにせよ、
公営企業と違い民間企業として破綻のリスクがあることを鑑みれば、一定の弾力的な料
金設定を認め、経営効率の改善を通じて補助額の抑制を実現し、最終的な住民負担を軽
減する効果を狙うことが必要なケースもあろう。
2.3.2
第3セクター方式
欧米では第3セクターは公的部門たる第1セクター、民間部門たる第2セクターに対
する財団法人、社団法人、学校法人、社会福祉法人等の民間非営利団体を指すが、日本
で一般に第3セクターといえば、公民共同により設立された混合企業を指す。第3セク
ターは 1980 年代の民活法に基づく社会資本整備で広く採用されたが、手法としては官民
共同出資の事業体による施設整備や維持・運営等を指し、大規模開発プロジェクト方式
が提唱された新全国総合開発計画(1969)でもその活用が謳われた。初めて第3セクタ
ーという用語が用いられたのは 1973 年の経済社会基本計画といわれるが、以来、工業基
地の開発だけでなく、住宅・都市開発、教養・娯楽分野へと適用分野は広がりを見せた。
1986 年に成立した民活法は、続いて成立したNTT法により無利子融資の制度が実現
したこと、分野的にも都市開発、リゾート等が対象に加えられたことを背景に、全国に
多くの第3セクター企業を成立させることとなった。総務省の調査でも 1988 年から 1996
年までの設立が多いことがわかる。
第3セクターは、商法上の営利法人形式の場合には高い経営効率が期待され、また公
民双方のノウハウが発揮されることが期待されるが、民活法事業では、いわゆるバブル
後の経済成長の低迷、物価上昇率の鈍化とデフレ進行など、事業計画当時想定しなかっ
た事態の中で頓挫する例が相次いだ。
(準)社会資本整備を目的とする以上、低廉とはい
え巨額の借入が行われることが多く、上記の環境変化は金利と減価償却費負担の大きな
民活法事業の多くにとっては致命的なものであった。その一方、官民双方が期待された
貢献を十分に果たさず、経営も放漫になりがちであったことが指摘されている。
しかしながら、こうした問題は必ずしも第3セクターに固有のものではない。同時期
には不動産関連事業に展開した民間事業者の破綻も相次いでおり、社会環境の変化を見
通すことは容易でなかった側面は否定しがたい。また、第3セクターの経営責任が不明
確な面は確かに存在したにせよ、現在多くのプロジェクト・ファイナンス事業は資本が
小さくペーパーカンバニーに近いSPC(特別目的会社)を母体に展開しており、株主
間の相互依存構造を別にすれば、議会や民間企業が相応な金額の出資を行った第3セク
ターのガバナンスが弱すぎるとはいえまい。90 年代後半以降に活用が広がったプロジェ
クト・ファイナンスにおいては、SPC、実質的な企画者を含む出資企業、融資金融機
関、そして場合により取引企業や地方自治体を含めた関係者の履行義務が、各参加者の
177
役割を踏まえて決められ、契約の形で明文化される。この結果、各参加者は事業リスク
を可能な限り定量化し、事業計画の調整を進める。そこでは希望的シナリオ以上に、ダ
ウンサイド・シナリオにおける対応力が問題となる。
3セクターにおいては、出資者たる自治体がどの程度のリスクを負うのかがひとつの
課題になる。しかし、民活法のような無利子融資の適格用件としての、あるいは、指定
管理者制度導入以前の管理委託の受け皿となるための自治体出資といった形式的な出資
ではなく、公益性を有する民間事業を支援するための一定額の(有限責任分である)出
資として、支援目的と範囲を明確化した場合、参画する民間企業、金融機関はより主体
的な事業判断を求められることとなろう。過去の破綻事業においては、リスクシナリオ
における責任分担はもとより、リスクそのものさえ十分に認識されていなかった。
責任主体が明確でなければ、今後のPPP事業を含め、あらゆる事業スキームにおい
て失敗はありえる。逆に言えば、突き詰めれば単なる営利法人に過ぎない第3セクター
も、官側の出資という支援を活かしつつ、その可能性を示すことも考えられる。サービ
ス購入型PFIと違い、民間企業として長期にわたる環境変化に弾力的・効率的に対応
することが可能であり、官側は株主としてのモニタリングを行い、順調であれば一定の
配当も期待できる。もちろん、現在の財政状況からすれば、公益性が必ずしも強くなく、
民間事業に近い収益性を持つ事業を官主導で実施する分野には限りがあり、また近年導
入された他のPPP手法のウエイトが増すことは間違いないだろう。
なお、第3セクターには、こうした株式会社形式のイメージが強いが、広義には昭和
40 年代の特別法の整備に伴い全国的に設置が相次いだ道路、住宅、土地開発の地方3公
社を含む。公社は資本の全額が地方公共団体の出資で賄われる一方、会計制度を含めて
その経営は企業体として行われ、民間資金は銀行借入という形で導入されている。先の
総務省調査によれば、赤字法人の割合は第3セクター中の商法法人、民法法人のそれを
上回る。不動産関連事業を営む以上、地価下落の影響を強く受ける団体の割合が大きい
ことが考えられるが、役職員の多くが自治体からの出向等で構成されることも相まって、
議決権を通じたガバナンスが期待できる民法、商法法人と比べて経営の効率性の面で課
題が指摘されている。
最後に、経営問題を有する第3セクターの再生手法としてのPPP手法を考えてみよ
う。民間企業における事業再生と同様、現在の事業がキャッシュフローを生み出す、あ
るいは生み出す余地がある場合、法的・私的整理の中で毀損した資産・負債ストックを
整理することで、価値のある事業を存続することが可能となる。例えば、公社を含む第
3セクターにおいても、過去の投資事業が失敗したとしても、
(必要かつ適正な補助投入
後の)毎期の営業収支が黒字である場合には、民間事業者に委託する余地が生じる。後
でみる宝塚温泉は、公の施設であるが、公設民営方式を取るために、高額な施設整備費
の負担を運営事業者に課すことなく、事業継続が図られた例である。民間での再生事業
と同様、既存ストックの処理には株主、債権者の負担を要し、特にキャッシュフローを
生み出す部分のみを民間事業者を利する形で切り出すことには抵抗も強いと思われるが、
民間の経営ノウハウの発揮を通じてこそ事業が存立しえる場合、配当が期待できる場合、
あるいは他に適当な選択肢もないケースにおいて、既存資産の活用手法としての可能性
は低くないと言えるのではないだろうか。
178
3
PPP手法
本項では、近年導入された主たるPPP手法を紹介しつつ、対象となる事業分野、民
間に与えられる裁量の範囲、導入にかかる問題点等を整理する。その前に、各手法に横
断的に関係してくる、補助事業をPPPスキームで活用する場合の制約について簡単に
まとめておきたい。一般に、国庫補助を利用して施設整備を行った場合、償却年数相当
の期間にわたり財産処分の制限を受け、期間中に廃止・転用した場合には相応分の補助
金の国庫返還が求められる。同じく、地方債を用いて整備した場合にも、廃止・転用時
の繰上償還が原則求められ、元本と補償金相当額の支払いが必要となる。このとき施設
売却を伴う民営化の場合には、売却収入を返還に充てることが可能であるが、指定管理
者への委託や賃貸資産としての活用など、民間事業者が参入しやすい事業環境を揃える
ためには、自治体が改めて返還費用を調達せねばならず、現実的には転用の障害となる
ケースが多い。もちろんこの制度は補助事業の効果が当初目論見通りの長期にわたり発
揮されることを期待したものであるが、以下でみる廃校の場合には、人口減少によって
本来の機能を発揮することが不可能な状況にあり、返還を回避する結果、転用もせずに
放置される例が増えていることが指摘されている。
国としても、市町村合併にあたって競合施設の統廃合に対する考慮が与えられるほか、
全国的に増加する廃校の有効利用を促進する場合については、非営利目的で公的事業者
の管理下にある場合について転用を認めるなどの規制緩和策が導入された。また、構造
改革特区では認められなかったものの、地域再生計画では廃校転用の弾力化、省庁全体
でも「補助対象施設の有効活用」のための規制緩和が認められつつある。
こうした動きもあって、図表3−5に示したように、調達方法に関わらず、転用、再
生が可能となる事例が生まれてきている。特に、図の右の2つの事例は、補助事業かつ
財産処分期間内であるものの、行政財産の目的外利用が認められている。宮城県鶯沢町
は国内有数の鉛・亜鉛鉱山である細倉鉱山が昭和 62 年に閉山するなど、人口減少が深刻
化し、1991 年に細倉小学校が閉校となった。他方、町は廃棄物処理・リサイクルを通じ
てゼロ・エミッションの実現を図るエコタウン事業に展開し、同鉱山を管理する三菱マ
テリアル(株)から、小学校校舎を利用した研究開発施設の利用提案を受けた。処分期間
が残る施設である上、転用目的が民間企業への貸与にあたる点が問題となったが、その
後の規制緩和の動きを踏まえ転用が認められるに至った。なお、同町では、処分期間が
完了した細倉中学校についても、民間企業の家電リサイクル工場として再生している。
以下では事業スキームの紹介を行うが、こうした補助事業の扱いのほかにも、公物管
理法や行政財産の目的外使用に関する制限などが共通した問題として存在する。一部は
指定管理者制度の項で紹介することとしたい。
179
図表3−5
廃校の転用事例にみる公有財産の再活用
廃校発生
非補助事業
補助事業
財産処分
期間超
財産処分期間内
補助金返還
廃校名
(所在)
南海小学校
(東京都
港区)
MINATOイン
転用施設 キュベーショ
ンセンター
財産区分
行政財産
導入
行政財産の
スキーム 目的外使用
補助金返還なし
文部科学
大臣の承認
地域再生
計画の認定
池尻中学校
(東京都
世田谷区)
北野小学校
(神戸市)
松南小学校
(東京都
葛飾区)
細倉小学校
(宮城県
鶯沢町)
俵真布
小学校等
(北海道
美瑛町)
世田谷もの
づくり学校
北野工房の
まち
新小岩創業
支援施設
民間企業
研究施設
体験型観光
施設等
普通財産
定期賃貸借
契約
普通財産
定期賃貸借
契約
行政財産
行政財産
行政財産の
目的外使用
行政財産
行政財産の
目的外使用
区営施設
注:日本政策投資銀行首都圏企画室(2004)p.24の図5をもとに作成。
3.1 地方独立行政法人
国では、中央省庁改革の一環として 1999 年に成立した独立行政法人通則法に基づき、
2001 年4月の国立公文書館等をはじめ 112 の独立行政法人が誕生している(設立が決ま
ったものを含む)。導入の目的は、(1) 弾力性のある財務運営、(2) 組織、定員および人
事の機動的・弾力的運営、(3) 明確な目標設定や業務実績の評価、(4) 業務の透明性確
保、となっており、これらを通じて民間では提供できないサービスであるが、国が直接
実施する必要のない業務について、効率的(廉価で)・効果的(要求品質水準を満たす)
運営を実現することとしている。
他方、地方独立行政法人は 2002 年8月に総務省の研究会で導入方針が示され、2003
年7月には地方独立行政法人法が成立した(2004 年4月1日施行)。国の場合には個別
法に基づき各法人が設立されるが、地方の場合には首長および議会の意志決定によるな
どの制度上の違いはあるものの、設立目的は基本的に国と同様であり、導入対象事業も
国に準じて大学、病院、試験研究機関等が想定されている。既に施行と同時に国際教養
大学が第1号として誕生しており、2005 年4月には東京都、大阪府、横浜市等で大学の
独法化が予定されている。
地方自治体の事業見直しにおいては、後で紹介する大阪府立病院における事例のよう
に、事業運営形式として、公営企業と独立行政法人を比較検討する場合も多いものと思
われる。両制度はいずれも公益的な事業を対象とし、単純な独立採算ではなく一定の繰
入を要する事業が多い点で共通するが、地方公営企業は、公共的サービスを経済性に基
づき効率的に提供する手段であって、独立採算を原則とし、特別会計を通じて長期的に
も受益と負担の関係を明確にした事業運営が図られる。他方、地方独立行政法人は、一
般会計部門の1つとして、外部性が高く受益の特定がより困難な事業を対象に必要に応
180
じた繰入も行い、他方で企業会計原則を適用して、経営の効率性を高めるものである。
上の導入主旨(4)にあるように地方独立行政法人とは民間により供給可能でない事業
を担うのに適した制度である。大学、試験研究機関等は収益性の面で民間事業化には障
害があり、かつ専門性が高い研究者等の職員を外注化することも困難であろう。ガバナ
ンスとしては、自治体から承認を受けた計画に基づき中期的なアウトプットが評価され
る。市場からのモニタリングを受ける民間企業同様とは行かないにせよ、中期的かつ定
性面を含めた目標設定と評価を背景に、高められた自由度を活かし、効率的な運営を行
うインセンティブが働くことが期待される。
このように独法化は、発注や業務委託に民間事業者を活用する機会を広げるものと考
えられ、現に先に独立法人化した国立大学でPFIの活用が進んでいる。また、経営面
以外に人事面でも自治体からの独立性が高く、免職の制限が弱まるほか(ただし労働三
権が認められる非公務員型の扱いは可能)、給与体系を自治体と独立して運用することが
可能となる。産学連携や監査等に民間の経験者を登用する等をはじめとした民間との人
事交流も進むとみられる。
3.2 PFI
PFIはPPPの一種であり、英国の経験を元に具体的な事業スキームが整備され、
多くの実績と議論を生んできた。ただし、制度導入の主旨からすれば、運営事業のウエ
イトを高めて効率の良いサービスの提供を提案することでVFMを生み出す事業が増加
することが望ましい。既に英国では設計や施設整備費部分の収益性は競争激化により低
下しており、選定上も収益性の面でも運営提案が重要となっているとの指摘も聞かれる。
日本においても、公共サービス購入型のPFIが定着し、いわゆるゼネコンを中心と
した応募企業間、さらに資金供給を行う金融機関間の競争が激しくなる中で、提案コス
トと落札の可能性を考えると、必ずしも民間事業者にとって収益的に優れたものとは言
えない状況がみられる。債務負担行為に基づく公共からの支払いの不履行リスクが小さ
いことが、こうした公共工事の延べ払いに近い事業を成立せしめているが、独立採算や
成功報酬型の割合が多少大きくとも、ノウハウを備えた事業者側からみればリスクをコ
ントロールでき、相応のリターンが見込めるタイプの事業が出てきておかしくない。も
ちろん、単純な収益事業についてはそもそも公の関与が必須かという議論は別にあるに
せよ、より多様な事業が対象となることが期待される。
PFI事業の現状をめぐっては次節で実例を交えて詳細に検討するが、ここではPF
I法に基づかないが、PFI的性格を有する「PFI的事業」について若干触れておき
たい。まず、1999 年のPFI法成立以前に先進的自治体が「PFI的事業」、
「PFIモ
デル事業」などと称して実施した事業が存在する。これらは実態としてはPFI事業と
考えてかまわないだろう。
他方、建設から運営までのライフサイクルを通じた効率的な事業遂行を目的としたP
FI法は、公共事業に近い建設のみ、あるいは現在でいう指定管理者に近い運営のみ(付
帯設備や什器備品の整備を含む場合もある)の事業、また初期には非PFI事業との合
築事業を想定しておらず、過去に実施されたこれら事業は「的事業」と呼ばれることが
181
ある。
例えば公共住宅の場合には、困窮度等を勘案した入居者選定や、補助を投入した低廉
な賃料設定が公営住宅法で定められており、すべての運営を民間に開放することはでき
ない。そこで、既存の借上げ公営住宅制度および買取り公営住宅制度を活用した建設の
みを民間に委ねる「PFI的手法」が活用されてきた。ただし、最近では清掃等の定型
的な業務のみを委ねる形でPFI法に基づくPFI事業とするケースも出てきている。
また、遊休地活用を目的とする東京都営南青山一丁目団地建替事業では、定期借地権を
設定して民間事業者が商業施設を含む複合施設を提案・建設し、都営住宅や保育所、図
書館部分を都、区が買い取る形を取った。
また、4.2で取り上げる大阪府の総務サービスセンターは、システム開発とその一
部運用という事業形態であるが、PFI手法を参考にしたと言われる通り、PFI的性
格が色濃い。同様にITシステム開発のウエイトが高いものとしては、やや時期は早い
が、藤沢市での総合防災システム構築などがある。
このように「PFI的事業」は定義が曖昧であり、広くPPP事業を含めて用いられ
る。しかし、PFI法の主旨から決して外れたものではないにも関わらずPFI法の規
定が現状にマッチしないために「的」と呼ばれるケースが存在しており、実際に「PF
I的」と自ら称する事業の多くは、公募・選定プロセスをはじめPFI法に近い運用が
なされている。既に民間提案を踏まえた内閣府のPFI推進委員会方針にも織り込まれ
ているが、今後のPFI事業範囲の拡張を通じて、透明性・公平性の高いPFI方式の
利点を広げる価値は十分あると言えよう。
3.3 リース
地方自治体にとって、リースの活用に特段制約が与えられているわけではない。一般
に行政は複数年度契約の場合には債務負担行為を議決しなくてはならないが、
「 長期継続
契約」について債務負担行為の設定が除外されている。2004 年の地方自治法改正では、
電機、ガス、水道と同様にOA機器のリース契約を念頭に長期継続契約の対象範囲が拡
充され、リース契約の利用余地が広がっている。土木、建設事業の場合にはPFI等の
手法により財政負担の平準化が図られるが、機械設備等の場合には民間企業同様にリー
スの活用余地は十分に大きい。
なお、リース契約の場合には、ファイナンス・リースが中心であるため、他のPPP
手法と異なり、単純に民間資金の導入による負担の平準化という側面が大きい。オペレ
ーション・リースの幅が拡大し、機材選定、維持管理、さらに機器の活用に至るまで民
間事業者のノウハウが活用される余地も考えられよう。
ちなみに、図表3−2で紹介したアフェルマージは、公設民営の一形態であり、公が
調達・建設した施設を民間に貸し出すものであり、ここでいうリースとは賃借関係が反
対であり、また民間は借り受けるとともに経営に関わる権利も受託する点が異なる。
182
3.4 業務委託
清掃や警備等の「事実上の業務」、入場券のチェックや利用申込の受理、許可書の交付
等の「定型的行為」、行事等のソフト面の企画などを私法上の契約によって外部委託する
「業務委託」も管理委託より狭い範囲の民間開放として利用されてきた。行財政改革を
通じて自治体職員数に制約が生じる中で、民間委託を活用して低廉かつ専門的な業務を
活用するメリットがある。裁量を活かして民間の経営ノウハウを導入するという目的に
は合致しないが、公権力行使等の問題がなく、民間で対応可能な分野を解放するのに有
効であり、導入は比較的容易である。次にみる指定管理者からの再委託を含め、今後と
も適用範囲は広いと考えられる。
3.5 指定管理者制度
地方自治法では普通公共団体が設置する「住民の福祉を増進する目的をもつてその利
用に供するための施設」を「公の施設」と定め、従来は直営もしくは過半を出資する法
人への委託により事業を行ってきた。ただし、その業務は地方公共団体の管理権限の下
にあり、委託内容は条例で具体的に定められた事務・業務の執行にとどまる性質をもつ
ことから、「管理委託制度」と呼ばれてきた。管理委託制度では、利用承認等の「処分」
に該当する部分は地方公共団体に保留されていた。
2003 年9月に施行された改正地方自治法においては、管理委託制度に代えて「指定管
理者制度」が導入された。この制度では、純民間事業者を含めあらゆる法人、団体を対
象に、管理権限を含めた施設の運営を委託するが可能となった(図表3−6参照)。これ
により、施行から 2006 年9月までの3年間の経過措置期間中に、原則すべての公の施設
について、直営施設にするか指定管理者制度に移行するかを選択しなくてはならなくな
った。これは「地方公共団体の公権力の行使に係る処分は地方公共団体が行うべきとし
ていた地方自治法上の基本的なスタンスを転換する画期的なもの(渡邉 2004、p.20)」
である。また、業務委託についても指定管理者へ包括的に委託し、そこから指定管理者
が再委託することも可能となった。
施行から9ヵ月後の 2004 年6月1日段階での総務省調査(同年 12 月 27 日公表)によ
れば、既に 1,550 の施設で指定管理者制度が導入されている。施設別にみると、医療・
社会福祉施設が 35%と最も多く、文教施設(25%)、レクリエーション・スポーツ施設
(23%)、基盤施設(駐車場、公園、上下水道等、9%)、産業振興施設(情報提供施設、
展示場等、9%)と続く。また指定管理者の性質別では、住民団体等の公共的団体が 57%
と過半を占め、財団法人の 14%がこれに次ぐ。営利法人である株式会社は 10.7%、有限
会社は 2.7%と決して多くない。こうした状況に対して、以下のような課題が指摘され
ている。
(1) 広く事業者提案を募り、公平性・透明性の高い選考が行われる必要がある。指定管
理者の指定は、地方自治法上の「契約」には該当しないため、同法に規定する入札の対
象とはならない。また、地域の自主性、自立性を尊重するため、指定手続については、
管理基準や業務範囲とともに、条例に広く委ねられることとなった。すなわち、管理者
183
の選定については、議会が最終的な判断を行うこととなり、PFIのような外部委員を
含めた審査委員会の設置は義務づけられていない。上記の総務省調査によれば、選定手
続について回答が得られた 443 件のうち、公募を行ったものは 44.3%(197 件)、公募の
上外部委員を中心に選定したものは 7.7%(38 件)にとどまる。
公募には事務的、時間的コストを要することもあり、民間事業者の参入を前提に一定
の規模を確保するPFI事業に比べ、既存の公の施設を対象とする指定管理者の事業範
囲の調整余地は乏しい。また、中山間地域を含む小規模自治体における地域性、公益性
の強い施設では民間事業者が期待する収益性は必ずしも高くなく、公民館等、利用者で
もある住民組織の管理が期待される例も当然含まれる。しかし、募集にあたり公募の可
能性を検討したか、公募の場合には広く告知を行い、応募者に十分な検討時間と情報を
提供したか、そして透明性の高い選考が行われたか、など、PFIや公共調達等で重視
される対応が不足している例があったことが指摘されている。
(2) また、道路法、河川法、学校教育法などの公物管理法で管理主体が行政などに限定
されるケースが存在する。PFIでの指摘と同様、対象可能範囲が拡充されることで、
可能な限り競争的な選考環境を作り出すことが望ましい。
図表3−6
指定管理者制度と従来の管理委託制度の比較
管理委託制度
地方公共団体の管理権限の下で、具体的な管理の事務・業務を以下の管理受託者が執行
・地方公共団体の出資法人のうち一定要件を満たすもの(過半の出資等)
・公共団体(土地改良区等)
・公共的団体(農協、生協、自治会等)
指定管理者制度
地方公共団体の指定を受けた「指定管理者」が管理を代行。指定管理者は使用許可も可能。
条例の制定:指定の手続(申請、選定、事業計画の提出等、業務の範囲(施設・設備の維持
管理、個別の使用許可)、管理の基準(休館日、開館時間、使用制限の要件等)
指定の方法:条例に従い、議会の議決を経て期間を決めて指定
利用料金制:指定管理者が自らの収入として収受できる(従来の管理受託者も可能)
事業報告書の提出:毎年度終了後に提出し利用状況等のチェックを受ける
指定の取り消し等:地方公共団体の長は指定管理者に対し必要な指示を行うことができる。
指定管理者が指示に従わない等の場合は、指定の取り消し、又は管理業務の全
部/一部の停止を命令できる。
不服申し立て:指定管理者の行った利用関係の設定に対する不服は地方公共団体の長に対す
る審査請求として扱う。
注:総務省資料より作成
(3) 上記のような意見に答えるうえでも、指定管理者方式の導入方法について財政負担
の評価手法の確立が求められる。PFIにおいては、特定事業の選定においてVFMの
184
最大化を1つの基準として、事業範囲や要求水準は公益性を確保しつつ、民間事業者が
参入の魅力を見出せるリスク分担を構築することが求められる。もちろん、上で示した
ように、対象事業の規模、立地が多様な公の施設について、PFIと同じ事業・事業者
選定基準が適用できるとは考えられない。例えば金銭的なメリットがわずかであっても、
施設の企画、広報の充実により稼働率が高まるといったような、最終的に住民の福利厚
生に資する、あるいは、プロジェクト単体ではなく、行政職員を公権力に関わるコアな
部門に充当することで得られる行政の質向上など、定性的な要因を含めた総合的な視点
と、評価をオープンにするための仕組み/ガイドラインが必要であろう。
2006 年までの間に指定管理者制度の導入が相次ぐとすれば、他自治体の事例を含めた
実績が参照値の役割を果たすことも考えられるが、それは制度主旨、地域実情を踏まえ
た判断の説明として十分とは言えないだろう。繰り返しになるが、事業範囲の設定、事
業者の選定、さらに選定された指定管理者を規律づけるルールづくりまでを貫く制度適
用の考え方を決めることは、効率的・効果的な管理者制度の成功にとって重要である。
自治法改正が自治体の裁量を残す形で行われたことは、公の施設の多様性を鑑みた措置
だとしても、各自治体は与えられた裁量の運用について地域・事業の特性を踏まえた積
極的な回答を行うことが求められると言えよう。
3.6 民営化
民営化は官の手を離れて民間事業に移行することを意味するが、そもそも官が関与し
てきた理由である公共性を担保すべく、官側が一定割合の株式保有を続けることで規制
権限を残すなど、官の関与を残すことが多い。民営化の手法については、日本において
80 年代の3公社民営化の実績があるほか、ヨーロッパ等の事例が豊富だが、例えば鉄道
では日本のJRが成功例とされる一方、イギリスの British Rail では事故が増加するな
ど、サービス品質が低下したとも指摘される。スケールメリットの大きい事業では、料
金規制が重要となる一方、公益性を踏まえて財・サービスの品質に関する規律づけが必
要なケースもあり得る。なお、わが国においては収益性が高い公営事業の割合は決して
大きくないが、自治体にとっての黒字収益事業がある場合には、これを保持して財政貢
献を期待する以上に、民営化に伴う株式売却収入を活用して公債負担を軽減することに
より、自治体経営をより公益性の高い分野に集中させる、いわゆる「選択と集中」の効
果がもたらされると考えられよう。
3.7 市場化テスト
市場化テスト(官民競争入札制度、Market Testing)とは、1980 年ころから英、米等
先進国に普及した民間開放分野を定める手法であり、現在日本では国レベルでの導入が
検討されている。ただし、その考え方は地方政府段階へも援用される可能性が高いため、
現段階での特徴について概観しておきたい。
2004 年3月に閣議決定された「規制緩和・民間開放推進3か年計画」では、個別分野
の民間開放を進めるほか、分野横断的な取り組みとして、(1) 市場化テストの導入、お
185
よび(2) 民間委託に関する数値目標の設定を 2004 年度中に措置することとした。市場化
テストとは、一般化された民間開放分野の選定手法として、官が提供しているサービス
と同種のサービスを提供する民間事業者が存在する場合、民間側の提案に従いテスト導
入分野を選定し、官民競争入札により事業者を選定するものである。一旦事業者が選定
された後も、一定期限後には再度官民競争を行うことで効率性の発揮を担保する。また、
事業の選定、競争環境の均衡化(イコール・フッティングの確保)を含めた評価基準の
設定、事業遂行期の監査等について、競争監視機関を設けることが計画されている。
これを受け、同年4月に設置された規制改革・民間開放推進会議では、2005 年度に市
場化テストのモデル事業を国等(独立行政法人、特殊法人等を含む)の事業について実
施することとし、次の手順で実施された。まず、民間からテストの対象分野と、テスト
実施にあたり参入の障害となる法規制や競争条件の不均衡の是正法について提案を募る。
これを受け、規制改革・民間開放推進会議が関係府庁と交渉・調整を行い、政府として
事業を選定する。2004 年 10 月∼11 月の募集期間中、合計 119 の民間提案が寄せられ、
各府省回答等を踏まえて、ハローワーク、社会保険庁、刑務所関連の一部業務がモデル
事業に選定された。
市場化テスト法の成立時期が未定である点など、制度の確立、浸透には時間を要する
ものと見られるが、規制緩和を継続的な取り組みとして定着させる手法として期待され
る。また、PFIと同様に、先進的な地方自治体において導入の動きがみられ、埼玉県
では 2005 年2月に発表した行財政改革プログラムで 2006 年度までに導入可能性を検討
するほか、大阪府では 2006 年度のモデル事業実施を念頭にガイドラインの策定を進めて
おり、国の動きに拍車をかけるものとみられる。
4
導入事例
以下では、関西地区を中心にしたPPP導入事例をみていくこととしたい。なお、以
下で取り上げた事例の他にも、指定管理者制度の導入が相次いでいる。大型文教施設の
管理者により安価な提案を行った民間事業者を退けて自治体の外郭財団が指定された事
例が新聞等で報じられる一方、大阪府の最高峰である金剛山の観光施設である千早赤坂
村営のロープウェイ・宿泊施設の管理者に(株)グルメ杵屋が選定された事例などもみら
れた。
4.1 宝塚温泉
阪急が主宰する歌劇で有名な兵庫県宝塚市では、公共が設置した宝塚温泉の事業見直
しにおいて指定管理者制度を導入した。独立採算の収益事業として 2002 年 10 月に再ス
タートを切ったこの事業についてみていこう。
宝塚の温泉は中世の頃から記録がみられるが、近代に入り明治 20 年に開湯され、その
後、阪鶴鉄道(現JR福知山線)、箕面有馬電気軌道(現阪急宝塚線)等のアクセスが整
備されるに伴い旅館が増えていった。明治 44 年には阪急の創始者、小林一三が後の宝塚
ファミリーランドとなる娯楽施設を、大正3年には宝塚少女歌劇を設置するなどして地
186
域の集客力が高まり、大正初期には 30 軒あまりの旅館のほか、料亭や芸妓置屋もある温
泉場として繁栄した。
1970 年の大阪万博の頃に宝塚温泉街は「関西の奥座敷」としてピークを迎え、旅館と
ホテルが約 60 軒、宿泊客数は年間 130 万人と、現在の有馬温泉並の集客力を誇った。し
かし、その後は交通網の発達による国内観光地との競合、海外旅行の浸透、団体旅行の
減少等の影響から旅館数は減少を続け、湧出量の減少、阪神大震災の被災もあり、現在
はわずか2軒を残すまで縮小している。
こうした中、宝塚ファミリーランド内にあった日帰り温浴施設である宝塚大温泉(宝
塚ヘルスセンター)が 1989 年に閉鎖され、市民から新たな温浴施設の整備を求める声が
挙がった。ちょうど宝塚駅の武庫川を挟んで南側にあった旅館が休業状態にあったため、
宝塚市がこれを買収の上、公共の温浴施設を設置する計画が持ち上がった。
事業は 1993 年頃から具体化し、新たな泉源の発掘に成功するが、1995 年の震災によ
る遅延、計画変更等を経て 2000 年に着工、2002 年1月に「クリスタルリゾート宝塚温
泉」として公設民営方式委で開業した。安藤忠雄設計による地上5階、地下2階のコン
クリート打放し、武庫川側を総ガラス張りとした近代的なビルは、2∼4階のバーデゾ
ーンを中心に2、3階には小ぶりながら通常の裸浴浴槽を設置、地下には単体利用も可
能なカフェレストランを置いた。
事業は公設民営方式により行われ、土地の取得を含む施設整備は総額 45 億円をかけて
宝塚市が負担した。運営先には、旧地方自治法に従い、第3セクターである宝塚温泉(株)
に委託した。同社は、阪急電鉄(株)のほか、地元の旅館業者である(株)若水、(株)島家、
(株)宝塚グランドホテル、これら旅館が出資する(株)宝塚温泉観光会館の5社が出資し
ていた既存法人をベースとして、市が 50%を追加出資して委託適格とした。実際の運営
には、宝塚グランドホテルのオーナーらが当たった。
開業初年の入込は想定の 15 万人には至らないものの、ほぼ想定の範囲内の水準を達成
した。しかし、客単価が割引プランの活用等で想定を若干下回り、4階に屋外浴室を有
するなどの施設構造上光熱費が予定を大きく上回り、利用フロアが6階におよぶため事
業規模に比して多数の人員を配置する必要があったことなどから、厳しい経営状況に陥
った。
開業から1年を経て、宝塚温泉の経営状態はマスコミ等でも取り上げられるに至った。
市は市民利用の割引分(1人 300 円)相当の補助を行っていたが、光熱費等、経営努力
で改善が困難な部分について支援措置を用意、事業継続を図ったが、2003 年5月、渡部
新市長の休館宣言を受けて、同6月下旬に閉館に至った。
休館に至った理由としては、上記のコスト面の問題の他に、競合するスーパー銭湯が
近隣に開業したこと、水着浴を軸とした施設コンセプトが十分受け入れられなかったこ
と、隣接する立体駐車場が 20 台余りのキャパシティしか有していなかったことが指摘さ
れている。また、運営会社の社長が 2002 年 11 月に辞任、後継者が見つからなかったな
ど経営上の問題も重なった(市立宝塚温泉 活用計画検討委員会 2004)。
市では再建を図るにあたり、市民の声を広く集めることとし、2003 年 8 月には市立宝
塚温泉活用検討委員会を設置、学識経験者、住民組織代表、学生等の市民により構成さ
れるメンバーで検討を重ねた。2004 年2月の最終報告では、以下の活用方針を示してい
187
る。
(1) 多額の追加投資はしない。
(2) 市からの赤字補填はしない。
(3) 市による直営形態はとらない。
(4) 公の施設を前提とした活用とする。
これらは、(4)により民間への売却を行わず、公の施設として市が保有を続ける一方、
(1)で多額の追加投資を行わない以上、水着浴を中心とした施設形態を維持することが決
まった。また、(3)で直営としないことを謳っているが、これは前年9月施行の地方自治
法改正で導入された指定管理者制度を念頭においたものであり、(2)は独立採算型を採用
することを意味する。
2004 年3月、宝塚市立温泉利用施設条例が交付され、期間を5年とする指定管理者の
導入が正式に決まった。同日、募集告示が出され、図表3−7のスケジュールに従い事
業者が選定された。7事業者が事業計画書を提出し、2次にわたる審査を経てジェイコ
ム(株)が選定された。同社の提案は、水着浴を主体とする運営としつつ、2階を女性用、
3階を男性用に分離し、エステ等の専門指導員をおいてバーデ機能を高度化するもので
ある。次点には全面的に裸浴を導入する提案が選ばれたが、ジェイコム提案はより具体
的、詳細であり、市民参加、地域連携等の提案を含んでいたこと、摩耶ロッジのPFI
事業を手がけるなど、公共施設の運営実績があること等が総合的に評価された。なお、
市側は1年余りの休業期間における損傷、若干の仕様変更に対応すべく 3,000 万円まで
の改修費を用意したが、大規模修繕を別にすれば、営業にかかる補助投入はなく、上記
委員会報告通りの独立採算型が採用されている。
図表3−7
宝塚市立温泉利用施設に係る指定管理者の選定スケジュール
2004年3月29日 条例の公布、および 指定管理者の募集告示
同 年4月16日 参加表明書の提出
同 年4月30日 申請書および事業計画書の提出
同 年5月6日 選定委員会 一次審査
同 年5月11日 選定委員会 ヒアリング
同 年5月17日 選定委員会 二次審査、候補者選定、市長へ報告
同 年6月22日 定例市議会において管理者指定を議決
議決後3ヵ月以内とする募集規定に合わせ、2004 年9月 29 日、宝塚温泉は「ナチ
ュール・スパ宝塚」として営業を再開した。入込は旧宝塚温泉の想定 15 万人に対し、12
万人と保守的な設定を置くが、500 円前後のスーパー銭湯と異なるセグメントの客層を
ターゲットとし、1,000 円前後の入場料金を維持、地階レストランは、経験豊富なシェ
フを招聘したイタリアン形式とし、施設のグレードを高めて客単価を確保する戦略を取
った。開業後数ヵ月の段階で新宝塚温泉の営業状況を評価することは困難だが、ジェイ
コム側では、一層の工夫の余地があると考えており、民間の経営ノウハウが活かされる
事例となることは間違いない。
188
ジェイコムは、前節で取り上げたオテル・ド・摩耶をはじめ、関西地区で複数のPP
P事業者としての実績を踏まえ市との対話を重視しつつ、独立採算を要求される中で集
客系の事業に関する知見が企業グループとして蓄積されおり、地域のニーズと施設特性
を勘案した事業計画を構築したと言える。温泉療法やエステの専門家のサポートを導入
するなど、一層のクオリティを追求する戦略は、想定外の利用者からのクレームを招い
た点はオテル・ド・摩耶と同様だが、この経営戦略が定着し、近隣住民を中心としたリ
ピーター客を確保できるかが課題と言えよう。また、施設の名誉館長に宝塚歌劇団OB
が就任するなど、ビジネスホテル等の利用もみられる歌劇来訪者もターゲットに利用者
層を広げる工夫みられる。
選考プロセスについてはPFI事業に準じた透明性、公平性の高いものと見受けられ
る。これは、従前の運営事業者が実質破綻し、自治体側の信頼できる後継事業者を選定
するという目的が明確であったことが寄与したと思われる。項目別の選定基準が開示さ
れることで求める事業者像が明確化し、併せて客観的な審査が期待できる内容となって
おり、選定委員にはユーザーたる市民のほか、分野別の外部有識者が参加している。た
だし、こうした精緻な審査過程である割には、審査日程が短期間であることは否めない。
休館に伴う施設老朽化を防ぐ目的があったことは確かであるが、十分に事業計画を検討
する猶予を与えることで、より広範な応募が得られた可能性も考えられる。
事業全体をみると、既存施設を市が保有するために金利や償却等の負担はないものの、
1年余りの休業に伴い水回りを中心とした施設状態には不透明な点が残り、水道光熱費
等がかさむリスクが存在した。収入面では、当初の施設形態を引き継ぐ形での営業が上
記委員会報告により規定されていたが、個性の強い施設だけにその事業ポテンシャルが
経営努力によりどの程度改善できるかは今後の注目点となる。もちろん、現在改めて当
該地点の開発を考えるならば、定期借地やPFI等の手法を用いて設計から運用まで民
間提案を活かして検討する、あるいは、土地を含め売却した上で都市計画等の位置づけ
を明確にして民間事業者に開発を任せることも考えられる。しかし、新たな泉源開発を
含めて整備した既存資源をいかに有効活用するか、という目的においては、指定管理者
制度が果たした役割は大きいと考えられよう。
4.2 大阪府
かつて富裕4団体として知られた大阪府は、他の東京都、神奈川県、愛知県とともに
財政状況の悪化に直面している。2001 年9月に策定した「大阪府行財政計画」に基づき
3年間にわたる改革に取り組んできたが、2004 年9月に公表された第4回行財政改革有
識者会議の結果では、予想以上の税収の落ち込みから、2007 年度にも財政再建団体への
転落が危ぶまれるという。この結果を受け、行財政計画(改訂素案)では、支出を抑制
しつつ、PPPの導入により「最小の組織で最大のパフォーマンス」を果たす「PPP
改革」(太田知事)を謳っている。
新計画では、支出面の改革案としてPPPに関する提案が列挙されている(図表3−
8)。以下では、これまでに実践されたものを中心に、大阪府の4つの取り組みを見てい
くこととしたい。
189
4.2.1
総務サービスセンター
おそらく府のPPP導入事例として最も有名なのは、
「シェアード・サービス」を導入
した総務サービスセンターの設置(2004 年4月)であろう。これは、従来部局ごとに分
散していた職員の「人事・給与・福利厚生」、
「財務会計」、さらに「物品調達・管理」の
3事務を集中的(全部局でシェア)、電子的に処理するものである。その詳細は大阪府総
務サービスセンター(2004)に詳しいが、間接部門の規模を削減するとともに、スケー
ルメリットと専門性の活用による経費削減を図るものである。事業費はシステム開発に
24 億円、5年間の保守運営費として 11 億円の合計 35 億円となるが、PFI同様に事業
期間を通じたライフサイクル・コストでの削減効果が期待でき、その効果は民間企業の
場 合 に は 概 ね 20 % に お よ ぶ と い う 。 加 え て 、 導 入 に あ た っ て は B P R ( Business
Processing Re-engineering)と呼ばれる業務内容、業務フローの見直しが必要となり、
組織の生産性向上にも結びついている。府全体でPPP手法の導入を体験する機会にな
った点が、大きな成果として挙げられるのではないだろうか。
入札においては、PFIに準じた総合評価一般競争入札形式が採用され、松下電器、
富士通、NTT西日本からなる企業連合が受託している。この前の段階では、BPR支
援業務は野村総合研究所がやはり公募プロポーザル方式で選定されるなど、センター導
入計画自体が民間の知見を活用して構築された。
図表3−8
大阪府行財政計画(改訂素案)「さらなる府政改革」
(1) 府民・NPOとの協働
(2) IT化社会の実現に向けて(電子政府構想であるe−ふちょうの推進等)
(3) 新たな自治システム(大阪市との連携、広域行政の推進等)
(4) 公営企業の自立化の促進(民間的経営手法の導入等)
(5) 出資法人改革(解散、統合、自立・民営化を含む経営改善)
(6) 地方独立行政法人制度の導入(大学、病院、試験研究機関への導入適否を検討)
(7) ストックの活用(企業局事業やプロジェクト見直し、施設転用等による有効活用)
(8) 建設事業の重点化(事業費削減)
(9) 民間活力の活用(アウトソーシング、「公の施設」見直し、PFI・ESCO等)
(中略)
(16) 府の役割を純化し、施策を再構築
なお、総務サービスセンターは、関連する事業を一体的にアウトソース化した「包括
的」事例であり、民間事業者がシステム全体を最適化すべく、責任を持って開発・運営
するメリットがある。他方で、Linux 型の開発手法を含め、オープンなシステムを分割
開発する手法の場合には、必要なノウハウ別に事業者を分けることで、システム開発コ
ストを抑制するとともに、地元企業の発注機会を増加させる効果がある(三木、2003)
と指摘されており、既存システムの陳腐化状況等を踏まえた複数の選択肢が存在する。
190
4.2.2
地方独立行政法人
大阪府の最初の地方独立行政法人として、2005 年4月をもって大阪府立大学、大阪女
子大学、府立看護大学の3大学を統合の上、
「 公立大学法人大阪府立大学」が設立される。
公立大学法人は秋田県に 2004 年4月に新設された国際教養大学が第1号であるが、同じ
く 2005 年4月に設立される首都大学東京と同様、域内大学の統合が行われる場合には、
法人化以上に組織見直しが議論の焦点となっている。
新「大阪府立大学」では、トップは従来の学長から理事長となるが、理事長は学長を
兼ねる必要はなく、別途学長を副理事長として任命することが可能であり、理事長の業
務は教育・研究以外の大学運営にあることが明確となる。また、理事には経営担当およ
び産学官連携・社会貢献担当の理事が設置され、既に民間企業からの採用が決まってい
るほか、新たな法人会計を監査する監事も民間から登用される見込みである。
図3−9にその運営組織を示したが、基本的な仕組みは 16 年4月から成立した国立大
学法人と同様である。いずれの場合にも、経営と教育研究を審議する機関をそれぞれ学
内に設け、図の外側にある事項として目標評価システムが導入され、一般の独立行政法
人より長い6年間の中期目標を策定し、国の場合には文部科学省が、地方では自治体が
これを認可、モニターする。国立との違いとしては、公立大学法人は地方議会がこの目
標設定、評価等に関与する点にある。
図表3−9
公立大学法人の運営組織
出所:大阪府(2003)「府大学法人像について(案)」、参考資料編 p.7。
191
大阪府では、大学に続き府立5病院の独法化を検討している。2004 年 12 月に発表さ
れた「府立の病院改革プログラム−運営形態の見直し編−(素案)」では、その目的が「経
営の問題」にあることを大学以上に明確に述べており、起債が困難となるなどの厳しい
経営状態が、必要な高度医療の提供を阻害していると指摘する。2003 年 10 月には診療
機能の見直しとして、診療科目の再編と病院名の変更、将来的な統合を決定しており、
これに続いて運営方式が見直しされたものである。
これまで府立病院は地方公営企業法の財務規定のみを適用した「一部適用」形式で運
営されてきたが、素案では、地方公営企業法の全部適用の場合と、高い公益性を勘案し
て役職員を地方公務員とする特定独立行政法人化を比較した。その結果、いずれも公共
性を担保する仕組みを有するものの、下記を考慮して独立行政法人化が優れているとし
た。
(1) 独法化は、中期目標の設定や業務評価が与えられ、自律的に運営することが可能で
あり、勤務時間や定員数の管理、給与制度も府と独立して弾力的な対応が可能である。
(2) 全部適用の場合には、単年度予算主義や契約制度などが適用され、あくまで行政機
構の一部として活動が行われるほか、府全体での人事異動の対象となり帰属意識の向上
や専門性の蓄積の効果が期待できない。
公立病院は全国的にも6割が赤字(2003 年度)であるが、経営改善策として採られる
手法は、他の種類の事業と比べて極めて多様である。診療科目の見直しや広域化を踏ま
えた統廃合のほか、運営面では、指定管理者制度の導入、地方公営企業法の全部適用(人
事や予算を含めた権限委譲で弾力的、効率的な経営を促す)、あるいは芦屋市で検討が伝
えられる「院内開業方式」
(一部診療科を民間に委託するもの、全国初)などがある。水
道などと比べ収益性が低く、利用者からの意見が明確に存在する病院においては、異な
る社会的、経済的環境を反映して選択にも幅が生じる余地が大きいものと考えられる。
4.2.3 指定管理者制度
「公の施設」の改革として、府では「大阪府立青少年海洋センター(愛称:マリンロ
ッジ海風館)」に指定管理者制度を導入した。同施設は、海洋性スポーツ・レクリエーシ
ョン振興、青少年健全育成を目的に、大阪府最南端の岬町に 1994 年に設置された宿泊施
設である。近くの府立青少年海洋センターが臨海学校等の団体向けであるのに対し、客
室 20 室の小グループ、ファミリー向けとの性格を持つ点が特徴である。
マリンロッジの運営は、
「青少年の指導を専門的に行う当財団に行わせる方が直営で行
うよりも効果的である(大阪府行政評価報告)」との理由から外郭団体である財団法人大
阪府青少年活動財団への委託により事業運営が行われてきたが、2002 年度からは民間へ
の再委託を通じた経費削減を図っており、今回の措置は自治法改正を受け、実態に合わ
せて制度変更を行ったものと言える。なお、施設のうちレストラン、売店、自動販売機
については、行政財産の目的外使用の許可を受け使用料を支払う形で運営されてきたが、
管理者制度が導入される 2005 年4月からは全体の管理運営が任されるため、許可は不要
となる。
選定は図表3−10 のスケジュールに従って行われた。大阪府では指定管理者の導入は
原則公募(行財政計画素案)としているが、本件も公募や選定結果はインターネット等
192
で一般に開示された。業務内容は会議場、テニスコートを含めた施設全体に関する、予
約・受付等を含めた一切の業務であり、期間は5年間(基本協定の締結後、年度ごとの
契約行為)とされた。事業者はレストラン等を含めた利用料収入に基づき独立採算で経
営を行い、会計年度終了後、府への報告を行う。
図表3−10
府立青少年海洋センターファミリー館の選定スケジュール
2004年11月2日 第1回審査委員会:施設視察、審査基準、審査方法等
同 年11月5日 公募要綱の配布開始
同 年11月15日 施設案内、説明会
同 年11月30日 申請書の提出締切
(11/15∼)
同 年12月10日 第2回審査委員会:事業者からの説明、審査、評価案作成
2005年3月
定例議会において管理者指定を議決予定
収益環境は、応募資料中の利用実績によれば近年の公共の宿ブームもあってか年々利
用者が増加し、定員稼働率は 35%に達している。利用料金の設定については、大人で現
在の 5,000 円に対し上限 6,000 円が設定され、公益性を勘案して廉価ではあるものの、
料金引上げによる一定の収益力向上も可能となっている。また、効率的な管理運営を府
行財政改革に還元すべく、資産評価額を提示した上で納付金の還元について提案を求め
た。審査基準については審査項目別の配点という形で明示されており、事業の安定継続
に加え、最大の3割の配点が与えられた府への還元が重視された。
審査結果は平成 16 年 12 月下旬に公表された。15 日の施設案内説明会までの段階で東
京の事業者を含む9社が関心を示し、最終的に2社が応募した。最優秀者には(有)フジ
コーポレーション(和歌山県田辺市)が選定された。
「自分の別荘」と思えるようなサー
ビス提供という明確なコンセプトがあり、地域住民や府施策との連携を勘案した提案内
容が評価された。利用者数は微増の計画となっているが、府への還元分として年間約
1,000 万円の固定部分のほか、利益の 10∼18%(運営期間中徐々に上昇)を還元するこ
ととした。従来は再委託先企業から財団に利益の1%(15 年度実績で約 17,000 円)が
還元されたとされ、府側にとっての財政的なメリットは明らかである。なお、講評では
応募が2社にとどまった理由について「当施設の規模や位置、社内での人員、物流など
の運営体制の整備や採算性など」を挙げている。民間の要求リターンを満たす収益性を
確保した上で府に一定の還元を行う必要があり、改装投資等の手当がない中で、単純な
民間事業を上回る収益性が必要となる点は、応募の判断を行う上での課題であったと想
像される。公の施設としての位置づけに関わる問題ではあるが、5年後の再委託におい
ては、料金設定を含めた経営の裁量を増すなどの工夫も検討に値しよう。
なお、公募から選定までが1ヵ月余りと短い点は改善の余地があろう。応募に必要な
提案書類はPFIほど膨大でないにせよ、建設業者に比べ官公庁事業に通じていないと
考えられる宿泊業経験者を対象とするだけに、検討期間が長いことは潜在的な応募者の
範囲を広げることになる。また、募集要項ではリスクについては 25 項目に分けて分担表
が提示されたが、大規模修繕の責任の所在が協議事項となっており、こうした点につい
て事業者側との相互理解を深めるためにも余裕のある選考期間が与えられることは効果
193
的である。
マリンロッジの場合には、従前からの民間委託をベースにした制度導入が図られたた
め、実績に基づき比較的スムーズな移行が可能となったと言える。他の府事業と同様、
審査講評を含めた開示への配慮も、他自治体における管理者制度導入に参考となる点が
多いと言える。
4.2.4
ESCO事業
ESCO(Energy Service Company)事業とは、施設の光熱利用に関して設備投資、
運営の一切を民間のESCO事業者に委託し、効率化メリットから借入返済分を控除し
た額を施設所有者と共有するしくみである。実際には、事業者取り分に借入返済分を含
めた額である「ESCOサービス料」を府が事業者に支払うが、所定の光熱費削減が実
現しなかった場合には、その分だけ支払額が減額される「パフォーマンス契約」が結ば
れており、府の負担が確定する一方、民間事業者には目的を達成するインセンティブが
与えられる。また、事業期間終了後は、施設は府に帰属するため、継続利用で省エネ効
果を発揮させる、もしくは施設更新のため再度ESCO事業者を募集することになる。
施設所有者は資金面での負担が生じず、新たな熱供給設備の稼働に伴うリスクを分離
できるメリットがあることから、民間においても例えば大型のビルや工場等において専
門ESCO事業者へ委託を行うケースが増加している。大阪府では、2002 年9月に「大
阪府ESCO推進マスタープラン」を策定し、実施可能性調査において、ESCO導入
による事業性が高い事業所について民間資金型、導入メリットが小さいものは従来通り
の自己資金型等の整理を行った。これに基づき、2001 年度の先行実績に続いて導入を進
めている(図表3−11)。なお、府の一連の取り組みが省エネルギー優秀事例として評価
され、2002 年度に経済産業大臣賞を受賞している。
これら事業の導入にあたっては、公募、参加表明書の受付、現場実査、提案書の受付、
選定といったプロセスを経ているが、審査委員の概ね半分は外部識者で構成され、ホー
ムページ上等での開示もPFI同様に行われるなど、公平性・透明性の配慮がなされて
いる。ただし、公募から提案締め切りまでの期間は1∼2ヵ月比較的短い。PFIと比
べて民間提案の範囲、ひいては事務的な負担が小さいとはいえ、選定後の予算手続きの
関係から全国的に自治体ESCO事業は募集タイミングが重複しやすい傾向がある。羽
曳野病院では事業者選定後、翌年度に予算化措置を行うなどの配慮も見られるが、募集
が重なった場合にも民間事業者の対応余地のある選定スケジュール導入が望ましいこと
は間違いない。
さらに、2004 年9月には「大阪府ESCOアクションプラン」を策定し、より広範な
府有施設にESCO事業を普及・展開していくこととしている。なお、このアクション
プラン策定も、公募型プロポーザル方式で選定された民間事業者の手によるものであり、
総務サービスセンターをはじめ大阪府では定着した手法となりつつある。
図3−11 に挙げた事例における経費削減額の合計は8億円近くとなり、導入の効果は
大きい。他方、同図からは最近の入札になるほど応募件数が減少し、省エネルギー率も
小さくなっていることが見て取れる。ESCO事業においては、施設の設計や運営等の
提案に幅のあるPFI事業と比べて金銭的な競争の性格が強く、結果的に利益が圧縮さ
194
れやすい。さらに、運営・管理体制の固定費の存在から、事業化には一定以上の規模が
必要となるが、規模が大きいほど資金調達額が嵩む。さらに、公共サービス購入型では
安定収入が見込まれ、SPCが事業主体となることでオフバランス化も可能なPFIに
対し、経費削減が実現できない場合に支払サービス料が減額され、企業の本体事業とし
て参加するESCO事業の事業リスクはより大きいものとなる。こうした事業特性から
高い調達能力とリスク負担力の大きな大企業が有利であり、かつ大企業であっても収益
性の面で魅力を感じにくくなっていることが課題となっている。
図表3−11 大阪府のESCO事業導入状況
導入
年度
事業所名
2001 母子保健総合医療センター
府民センタービル(三島・泉南・
2002
南河内・北河内合同庁舎)
府立病院
2003
(急性期・総合医療センターに改称)
府立障害者交流促進センター
参加 提案
表明 提出
9
10
選定事業者(代表企業)
9 (株)ガス・アンド・パワー
47.0
25.1
9.0
23.2
5 関電GASCO(株)
60.0
25.1
10 富士電機(株)
8
年間経費 省エネル
削減額
ギー率
(百万円)
(%)
5
4 関電GASCO(株)
2.2
18.8
教育センター
8
7 (株)荏原製作所
2.5
14.1
2004 府立労働センター
4
2 関電GASCO(株)
10.0
33.3
マイドームおおさか
4
3 富士電機システムズ(株)
10.0
30.0
府立呼吸器・アレルギー医療センター
3
3 (株)ガス・アンド・パワー
67.3
42.0
2
2 (株)ガス・アンド・パワー
569.8
11.4
導入 府庁舎本館・別館
予定 門真運転免許試験場
中河内府民センタービル
2
2 (株)東芝
7.3
17.9
1
1 富士電機システムズ(株)
0.4
18.0
注:1.大阪府資料により作成
2.経費削減額は補助金なしの場合
3.「導入予定」とは、選定されているが予算化後に契約となるもの。
この課題に対して、主に資金調達、資産保有の面から改善策が提案されている。例え
ば、金利コスト負担や負債計上によるバランスシート悪化を軽減するため、ESCO施
設を保有する団体を設立することが考えられる。親会社の調達能力が高く、オフ・バラ
ンス・ニーズのみが存在する場合には1事業1会社方式も考えられるが、事業リスクの
分散の観点から複数の事業に対応する保有会社を設立し、事業者を含む金融機関、投資
家から資金を集めることが考えられる。資本、負債より細かく調達の優先・劣後関係を
設定することで、調達能力を高める工夫も考えられる。
もう1つの課題として、既存施設の状態が着工まで判然としないために、施設費およ
び運営費が想定より嵩む点が挙げられる。ESCO事業の場合にも、公募から応募締切
までの時間が十分でなく、かつ施設ウォークスルーの機会が十分ではないとの意見も多
い。このリスクは保守的な費用見積提案に反映され、経費削減額の減少を通じて発注者
側のデメリットに帰着する余地はあるが、入札競争が激しい現在では転嫁が難しくなっ
ているという指摘も見られる。
この点は全国的に指摘されているものであり、大阪府はむしろ先進的自治体として、
解決方法を積極的に検討する側に立つ。さらに、この論点は、既存事業を対象とする改
195
修型PFIや指定管理者制度など他のPPP手法にも参考となり得ることから、事業手
法の改善へ向けた一層の取り組みが期待される。
4.3 善通寺市水道事業における可能性調査
指定管理者制度は、競争的な入札プロセスを含めて適切な事業環境を与えることで、
民間事業者のノウハウ、経営効率を導入することが可能である。ここでは、香川県善通
寺市における水道事業への指定管理者制度導入の可能性調査を紹介し、実際に経営の「民
間化」がどのようなメリットをもたらし得るのか、そしてその実現に向けての課題は何
かについてみることとしたい。
水道事業を所管する厚生労働省では、今後 10 年間の事業展望をまとめた「水道ビジョ
ン」
(2004 年6月公表)において次のような問題提起を行っている。
「今後、これまでに
整備された施設が更新時期を迎えるため、更新需要が大幅に増大していくことが想定さ
れるものの、水需要の増大がこれまでのようには見込みにくい状況の下では、更新に必
要な資金を確保することは、必ずしも容易ではない。今日では、公共事業費補助金を始
めとする国庫負担金の廃止縮減、廃止に基づく税源の移譲および地方交付税の見直しを
行う三位一体改革等の動きをみると、コスト縮減による効率的な施設整備が課題であり、
中長期的には、資金メカニズムの多様化を進める必要がある(pp.6-7)。」より具体的に
は同ビジョンの参考資料で挙げられるように、2001 年の水道事業改正により導入された
管理委託(群馬県太田市、広島県三次市等で実績)、浄水場等での事例に見られるような
施設単位でのPFI事業の適用、民営化、指定管理者制度の適用可能性を挙げており、
いわゆる「業法の壁」を緩和して官民連携の展開を模索する状況にある。
善通寺市(人口3万 6,000 人)では、現在3期目を務める宮下裕市長が 1994 年4月の
就任後間もなく行政改革に着手し、小さな政府の実現により効率を高めつつ住民サービ
スの向上を図ってきた。同市の「実績調書」によれば、経費削減(統計資料や法規集等
のホームページ化等)、事務事業の統廃合(保育所統廃合等)、補助金等の適正化(市民
講座等への交付金見直し等)などの施策を、職員・住民の意識改革、IT化等を通じて
実践してきている。既に市職員数は 95 年4月時点の 470 人から 2002 年4月の 380 人に
まで減少しており、併せて嘱託・派遣社員など民間資源の活用を図っている。
こうした取り組みの一貫として、善通寺市では、2004 年6月に、指定管理者制度を活
用した水道事業の民間化に関する可能性調査を日本政策投資銀行との共同研究として行
い報告をまとめた。善通寺市では市水道局(地方公営企業法の全適用)が事業を行うが、
従事する職員数を 26 名から 14 名に削減し、当面は必要人員の過半を嘱託職員でまかな
うことで、事業費の削減とともに、今後到来する人口、水道使用量の減少局面への対応
を図ってきた。
設備面では、水道は初期投資が大きい事業であるが、善通寺市の場合には、水源地や
ポンプ場には昭和 43 年当時の施設が使用され、浄水場も昭和 54 年の建設から 25 年を経
過していた。こうした慎重な投資姿勢は利用料金を長期的に据え置くことを可能とした
が、近年の水質規制強化を踏まえると、今後更新・追加投資が不可欠となると指摘され
た。
196
他方で、有収率(漏水等を除いた有収水量の給水量全体に対する割合)、水道管の敷設
時期や維持管理の状況など、長期計画、経営効率化を行う上での情報管理は十分とは言
えず、事故対応にも体制面で改善の余地が認められた。このためには、今後定年退職等
で職員数の一層減少が見込まれる中で、水道事業一般の経験のみならず、市の施設状況
に通じた職員の確保も課題と認められた。
報告は、一定の維持・更新投資を前提としつつ、財政負担を最小限に抑える手法とし
て指定管理者制度を用いたコンセッション方式(公有民営:公が所有して民間が運営を
行う)を提案した。2001 年度の水道法改正により「管理に関する技術上の業務」の第三
者委託が可能となっているが、個別業務委託方式は群馬県太田市、広島県芸北町等での
先行実績があるものの、2003 年9月の指定管理者制度の導入は、料金の設定・徴収から、
設備投資とその資金調達に至る一連の業務を包括委託し、民間の経営ノウハウや活力の
活用を可能とした。また、水道事業は地方公益事業の中でも最も生存権に関わるサービ
スであり、規模の経済性を有する地域独占事業であることなどから、水質や安定供給、
そして料金設定などについて自治体の監督が欠かせない。この点でも、指定管理者方式
は行政関与を条例等で設定できる自由度が高いで優れている。
なお、コンセッションは、フランスで 150 年以上にわたり実施されている民間委託方
式であり、水道事業を展開するビベンディやスエズも、この方式で事業を担いながら世
界的企業へ成長したことが知られている。また、この可能性調査では、売り切りでない
官民連携を「民間化」と呼ぶことで狭い意味での privatization である「民営化」と区
別している。また、本調査では現状では指定管理者制度を想定しているが、将来的に新
たな官民連携手法が導入された場合には、行政の監督内容を初め、異なるコンセッショ
ン方式間での比較・検討が必要なことが指摘されている。住民サービスの質や経営効率
の観点から行政関与の手法の比較が行われることとなろう。
今回提案された指定管理者方式のスキームは図3−12 の通りである。民間事業者は善
通寺市から既存設備を除く事業を一括受託し、市民に対しては水道サービスの提供と料
金徴収を行い、検針等の定型業務は必要に応じて再委託を行う。将来的な設備投資は資
金調達とともに指定管理者が行うとしているが、民間が参入できる事業環境を構築する
よう、市が支援を行うことも考えられる。例えば、指定管理者制度導入後も、当該事業
に精通する職員が従事し続けることが望ましい場合、地方公務員派遣法の活用等で職員
の地位を確保しつつ、民間事業者における人件費負担を軽減する方法も考えられよう。
図3−13 では、想定される市直営で障害が生じた場合に事後的な保全投資を行うシナ
リオ(1)、市直営のままながら、予防的な投資により現状のサービス水準を維持するシナ
リオ(2)、コンセッション方式により民間事業者が包括委託を受けるシナリオ(3)の場合
について、前提とした条件と想定される結果を比較している。必要人員については、シ
ナリオ(2)は体制強化のために2名増員が必要となるほか、(3)でも市側で民間事業者の
監督等のために人員2名を増員しなくてはならない。また、シナリオ(2)、(3)では維持
更新計画を策定した上で予防的な投資が必要となるが、(3)の民間化ケースでは投資額が
抑制され、金利負担の面では民間信用に基づく借入条件の悪化を若干相殺する。
197
図表3−12
善通寺市水道事業民間化の想定スキーム
善 通 寺 市
条例による
指定管理者の指定
事業権契約
民
民
料金徴収
各種契約
検針、料金徴収、浄水
場保守点検等
将来の
設備投
資義務
業
金融機関等
株主資本
民間事業者等
事
負債
市
者
水道事業
上水道
サービス
間
既存水道資産の所有権は市に残存
民間事業者等
機関投資家等
図表3−13 シナリオ別の想定結果
シナリオ(1)
現状継続
共通前提
収入
費用
人件費
シナリオ(2)
公営自助努力
給水人口:毎年1%減少
一人当たり使用量:当初5年間毎年1%減少
料金上昇:初年度から20%上昇
取水比率:買田池:県水:井戸=30:30:40
県水受水費:現68円/m3→105円/m3
その他費用:賃借料、負担金等は実績勘案
設備投資
工事負担金受入:毎年65百万円
事業期間
25年間
人員数
単価
その他営業費用
設備投資 当初5年間
借入条件
維持更新計画
25年経過後の資産状況
現水道局人員での対応可能性
事業の長期継続可能性
経常黒字転換
現在価値
事業価値
市分
シナリオ(3)
民間化
14人
8.1百万円
実績勘案
35億円
5年据置28年、2.2%
無し
×
増員が必要
×
−
−
−
−
資料:善通寺市水道局(2004)より作成。
198
16人
8.1百万円
実績勘案
45億円
5年据置28年、2.2%
有り
○
2名増員が必要
△
×
▲103百万円
−
▲103百万円
14人
6.8百万円
技術調査に基づく
38億円
3年据置15年、4%
有り
○
民間人員により対応
○
20年目
1,084百万円
585百万円
499百万円
図表3−13 の下半分が事業運営結果にあたるが、「25 年経過後の資産状況」で「×」
がついたシナリオ(1)は事業期間中のサービス提供に支障が出る可能性が高いため選択
肢からは排除される。ともに維持更新を想定するシナリオ(2)と(3)を比較すると、人件
費や投資負担の大きいため、シナリオ(2)は 25 年間で通算1億円ほどの累損が生じ、独
立採算を前提とした事業としては、継続可能性に懸念が残る(よって該当欄は△が記さ
れる)。
もちろん、この補填が結局住民負担で賄われるのであれば、同様の効果をもつ水道料
金の引上げによる黒字化は可能である。しかし、民間化するシナリオ(3)の場合には、民
間企業の事業価値(参入機会)が生じるほか、市側にも固定資産税、事業税等の収入が
発生し、合計で 10 億円程度の価値が創造される。民間経営については、既存の事例を参
考にしており、善通寺市において実際に民間化した場合の効果は幅をもってみる必要が
あろう。
実際、善通寺市の調査では、定性的な要素を加味することの重要性を強調している。
すなわち、効率化が望ましい一方で、水道事業というライフラインの確保のためには、
民間化において実効的なモニタリング体制を確保した上で、万が一民間事業者による運
営に問題が生じた場合の事業権返還と速やかな新事業者への継承が担保されなくてはな
らない。また、上記算定は民間が参入できる環境整備が可能だとする前提で成り立って
いるが、水道法、自治法上の論点を詳細な整理によるシナリオ(3)の実現可能性に加え、
料金設定の自由度、雇用、税金等会計上の整理等、事業の安定性を踏まえた詳細な検討
は今後の課題として残されている。今回調査では、図表3−13 を1つの可能性としつつ
も、定性的な要因の検討を含めた検討が必要としている。
現在、国内では改正水道法における委託事業を担うべくプラントメーカー、エンジニ
アリング企業、商社等からなる複数のグループが誕生しており、全国的な事業受託を通
じたノウハウ蓄積、実績づくりを進めている。さらに、周辺エリアへの展開であるほど、
管理部門の共有化等によるスケールメリットの発揮が期待できる。広範囲かつ継続的な
事業展開を念頭にする場合には、事業継続・住民からの評価を重視した事業運営を行う
ことが期待される。
しかしながら、これは本節全体を通じたテーマであるが、民間化による効果が期待さ
れる一方で、従来公共が担うことで担保されてきた部分をいかに損なわずに事業スキー
ムを構築できるかは極めて重要である。民間経営の効率化効果は事業者に与える裁量が
大きいほど期待されるが、その場合には、公益性が失われるリスクも大きくなりやすい。
そして、水道のようなライフライン事業では、定量的な効果への期待で判断することは
難しい。今回の報告においても定性的要因を勘案したスキーム選定を行う必要があるこ
とが強調されており、善通寺市ではより詳細な事業性調査を通じて議論を深めていくこ
ととしている。
5
今後の課題
個別のPPP手法、そして指定管理者制度の導入事例をみてきたが、以上からPPP
手法の課題をまとめれば、下記のようになろう。
199
5.1
公益的事業の精査
PPP手法の発展をめぐる視点からは、いかに民間開放を進めるか、という方向に議
論が集まりやすい。本節ではある事業が公益性の観点から実施すべきか否かを捨象して
実施手法を中心に議論を進めてきたが、事業の主旨・性格を吟味することは、社会的に
非効率な投資を避けるためにも、また、必要な事業であってもPPPの適用の是非を検
討するに当たっても極めて重要である。
もちろん、第3セクター、あるいは公社による事業破綻の経験もあって、民間事業者、
金融機関側が公的プロジェクトを見る目は従来より厳しくなっており、収益事業につい
ては安易な計画はそもそも成立しない可能性が高い。しかしながら、非収益的施設への
指定管理者制度の導入などの公共サービス購入型のPPPにおいては、安定的な支払い
を得る民間事業者の事業性判断は、事業そのものへの社会的評価とは別個のものである。
5.2
施設性格とPPP適用
(1)の過程を通じて事業性格を明らかにした上でPPPの適用を検討することになる
が、市場化テストのようなルールに従い検討分野を定め、かつ行政側はPPP適用の有
無について客観的材料を提示した上、透明性の高い議論を行う必要がある。すなわち、
市民、議会を交えて民間開放に伴う効果とリスクを十分に議論した上で、PPPの実施
を検討すべきである。
本節においては、経営効率の観点から営利法人が参加するPPPを主に想定したが、
公益を担保するためには、官による直営や民間非営利団体の参加を含めた可能性調査が
必要となる。ただし、公募段階における要求水準等に公益性を十分反映させた場合、営
利法人は事業性の低さから応募を断念するものの、財団、NPO等の非営利法人が落札
するケースも当然考えられる。公募形式は、公益性を担保しつつ適切な事業者選定にも
利用可能な手法と考えるべきであろう。
5.3
リスクの適切な分担
PPP事業全般について、官と民の適切な分担が必須である。PPP方式導入の初期
段階では多くの事業者が参入し、あるいは公共投資が減少する中で工事量の確保が重視
されて売り手市場となりやすく、結果的に民間が過大なリスクを甘受するケースも見受
けられる。こうした状況は長続きせず、入札価格への転嫁が進まなければ、応札が減少
したり、利潤確保のために談合等の誘引にもなりかねず、PPP手法への信頼が失われ
かねない。公的部門がリスクを取ることは、同時にガバナンスを確保し、最終的な住民
サービスの維持・改善に通ずる点を指摘しておきたい。
5.4
PPP実施手法−公募・選定プロセス
(3)を踏まえて民間参入が可能な事業環境を整備した上で、公募・選定プロセスの検討
が必要となる。まず民間が応募を検討するに十分な情報提供と、対象事業に関する対話
の機会が与えられねばならない。また、(1)に基づき選定基準を明示することは、事業者
への要求内容を正確に伝達する手段となる。
200
指定管理者制度のように募集が地方の裁量に任されている場合、(2)で指摘したように
明らかに公募に適さない事業では、理由を明示した上で随意契約とすることは当然あっ
てよい。また、PFIに準じて公募の場合に総合評価一般競争入札形式が採用されるケ
ースがみられるが、事業規模が小さい場合には、事業可能性の精査、審査委員会の設置
等から官側、および詳細な提案を行う民側ともに負担は大きい。公募プロポーザル方式
など、随意契約の一種ながら、民間事業者をオープンな仕組みで選定しつつ、選定後の
調整での行政のイニシアティブを確保し、公益性を実現する方法もある。
5.5
官の資源の有効活用
市場化テストは官民競争入札制度の名の通り、官側が引き続き事業を担う可能性を残
した検討プロセスである。公益性を実現するにあたり、過去の経験を踏まえた官の利点
を活かす余地は少なくない。大阪府では、府立健康科学センターがコンビニエンススト
アの弁当企画を通じて若干の監修料収入を得ている。こうした事業をどの組織形態で行
うかという議論は別にして、公平性や公共性の視点に優れた行政職員の見識を活用する
余地も大きいと思われる。PPPとは、旧来の官民の領域分担に囚われることなく、最
も効率的、効果的に成果を出しうる主体がそれを担う、との発想である。民間資金の導
入からは若干逸脱するが、イコール・フッティングの確保といった条件を満たした上で、
官の側が得意分野を活かす「選択と集中」の発想が求められる。
財政状況の逼迫の中でPPPは一層進展すると考えられるが、本稿の最初に述べたよ
うに、民間資金の導入は、民間事業者の参画をもってこそ実現でき、かつPPPの社会
的な意義である事業運営の効率化は、民間事業者の参画こそがもたらす。過去のPPP
手法には、制度主旨というより、運用の不備が手法の欠陥とされたものもある。個々の
事業における試行錯誤を通じて手法を洗練させることが、今後のPPP成功の鍵を握る
ことは間違いないだろう。
第2節
1
関西地域におけるPFI事業の事例研究
はじめに
1990 年代の景気対策は、地域間の所得再分配政策の役割も担い、大型の補正予算を組
むことで公共投資を積み増しするものであった。しかし、その結果は最悪の事態を招き、
不況が長期化し、地域間の経済格差を是正することなく、ただ巨額の負債を残すばかり
となった。OECDの「エコノミックアウトルック」によれば、2004 年の国および地方
の債務残高の対GDP比は 161.2%であり、OECD諸国の中で最悪の数値を記録した。
また、国内総生産に占める公共投資の割合はアメリカ 1.6%、イギリス 1.9%、フランス
3.4%に対し、日本は 6.6%である。公共投資は日本の歳出の主たる項目であるが、日本
において、公共投資の有効性および効率性には疑問が生じる。したがって、日本は財政
危機に直面し、もはや官主導の景気対策および地域活性化策は限界に来ていると言える。
国と地方との行財政関係を改めるべく、2000 年(平成 12 年)4月に「地方分権の推
進を図るための関係法律の整備等に関する法律(地方分権一括法)」が施行され、日本に
201
も地方分権時代が到来した。国庫支出金の削減・廃止、地方交付税の削減、税源移譲の
「三位一体の改革」の段階的実行は、国と地方との行財政関係が「上下・主従」から「対
等・協力」へと変貌しつつある状況を示唆する。地方分権の意味するところは、地方公
共団体が国との行財政関係上の一組織であるというこれまでの認識から、地域住民の基
礎的自治体、すなわち、住民に最も近く、行政ニーズへの的確な対応が求められる市町
村としての役割が重要視されるようになったということであろう。
しかし、地方公共団体は長期的不況に起因する財政収支の赤字・硬直化や公債残高の
累積等の問題を抱えており、これらが自律的な財政運営を困難にし、長期的に公共事業
の縮減に圧力をかけ、地方公共団体の自律の足かせとなる。その一方で、地域経済活性
化、少子高齢化、環境問題への対応として、公共事業のニーズは依然として根強い。こ
のような財政構造改革と住民のニーズへの対応とのジレンマの中で、地方公共団体にと
って、社会資本整備のために必要な資金をいかにして確保していくかが今後の大きな課
題である。また、公共事業の縮減を民間部門から捉えると、公共事業の縮減は建設市場
の縮小につながり、当該減少分を埋め合わせるような新規事業の需要を生み出さなけれ
ば、建設業は衰退を招きかねない。
こうした中、全国の地方公共団体の間で、ニューパブリック・マネジメント(NPM)
的な手法を用いた独自の行財政改革への取り組みが急速に広まりつつある。特に、地方
公共団体は第3セクター方式に代わる社会資本の整備手法を模索し、NPM的手法の1
つであるPFI(民間資金等活用策)事業に対して大きな関心を寄せている。本研究対
象とする関西地域でも同様の動きが見られる。最近の景気回復は、公共投資の削減の中
で設備投資等の民需の増加が牽引する形で成し遂げられたことを鑑みれば、民間資金を
活用した社会資本の整備は効率的であると言えよう。
本節では、社会資本整備のための民間資金等の活用策の1つとしてPFI事業に着目
し、PFIの基本的考え方を踏まえて、現時点における稼働状況やPFI事業者へのヒ
アリング活動の結果を吟味し、PFI事業の課題と展望とを検討する。
2
PFI事業
2.1
PFI事業の基本的な枠組み
PFI(Private Finance Initiative)は、1992 年にイギリスで誕生し、民間による
資金調達を基調とした社会資本の整備手法のことである。PFIでは、計画立案および
監視機能は「官」が担うが、その他の設計や建設、維持管理・運営までの一連のプロセ
スを最も効率的かつ効果的に実施する方法を民間で考え、民間で公共サービスを提供し、
それを公共部門が民間から調達する。提供するサービス内容が施設の設計、建設に加え、
施設の維持管理、運営までを含んでいるため、PFI事業に応募しようとする民間事業
者は、複数の異業種企業等と組む、すなわち、コンソーシアムを組むケースが多い。な
ぜならば、PFI事業は公共事業であり、住民に対してサービスの安定かつ継続的な提
供が必要不可欠であるからである。
コンソーシアムに参加する各企業の経営状態がPFI事業に悪影響を与えないように、
202
それぞれが出資してPFI事業を実施するための「特定目的会社」(SPC:Special
Purpose Company)を設立し、この親会社から独立したSPCがPFI事業を実施するこ
とが一般的である。このSPCは、事業に必要な資金をプロジェクトファイナンスとい
う融資方法により調達し、コンソーシアムに参加している企業と工事請負契約や管理運
営委託契約などの個々の契約を結び、民間の自己責任にてPFI事業を実施する。この
ように、PFI事業では、設計、建設、運営・維持管理(清掃、警備等)等の業務が多
種多様にあるため、それぞれの企業がSPCの受け皿となる共同企業体を結成する必要
がある。さらに、SPCは必要により、事業のリスクをカバーするため、保険会社と保
険契約を締結する場合もある。PFI事業の仕組みは図表3−14 で示される。
図表3−14
PFI事業の基本的枠組み
国・地方公共団体等
(サービス購入者)
PFI事業契約
融資・返済
金融機関
SPC(特定目的会社)
請負契約
委託契約
設計・建設会社
運営・管理会社
PFI事業の管理主体は国・地方公共団体である。PFI法上で、公共施設等の管理
者は、
「各省庁の長、地方公共団体の長、特殊法人その他の公共法人」となっており、公
共部門が民間事業者の公共サービス供給の業績を監視しなければならない。
また、PFI事業の実施主体は民間事業者となる。この点において、PFI事業は第
3セクターと異なる。第3セクターとは、国・地方公共団体(第1セクター)と民間企
業(第二セクター)の共同出資により設立される法人で、公共性の高い事業で、民間だ
けで行うには採算が低く、公共による財政支援が必要な分野に適用されていた。例えば、
大規模なリゾート施設の建設、レジャー施設の建設、都市開発への財政支援等を挙げる
ことができる。
したがって、PFI事業の主要関係人は国・地方公共団体と民間事業者であるが、P
FI事業は共同出資で行うのではなく、民間事業者が100%出資するのが原則である。
道路・港湾・空港、公園・河川・下水道等、従来、公共部門が運営管理してきた公共施
設が対象となっている。PFI事業の導入は、行政(公共)と民間が新しい良好なパー
トナーシップを築くことと同時に、歳入面における自主財源の強化と歳出面における事
業内容の効率化を図ることが可能である。言い換えれば、PFIは、より少ない税金で
良質の公共サービスを提供することを目的とした「新しい公共事業」の手法、すなわち、
社会資本整備のための民間資金等の活用策の1つと言えよう。
203
2.2
PFI事業のプロセス
次にPFI事業はどのような手順で進められていくのかを述べることにする。2001 年
(平成 13 年)1月に公表された「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」によ
ると、PFI事業のプロセスは、(1)特定事業の選定、(2)民間事業者の募集および選定
等、(3)PFI事業の実施の3段階に分けられ、それが7つのステップに細分化され、事
業スケジュールを組む形をとる(図表3−15)。
図表3−15
PFI事業のプロセス
(1)事前準備期間「特定事業の選定」
ステップ1 事業の発案
ステップ2 実施方針の策定および公表
ステップ3 特定事業の評価・選定、公表
(2)入札実施時期「民間事業者の募集および選定等」
ステップ4 民間事業者の募集、評価・選定、公表
ステップ5 協定等の締結等
(3)事後管理期間「PFI事業の実施」
ステップ6 事業の実施、監視等
ステップ7 事業の終了
はじめに、事前準備期間(ステップ1∼ステップ3)についてであるが、この期間に
おいては、PFI事業としての公共事業の必要性と実施可能性を探り、公共事業費の縮
減効果がでるかどうかを確認しなければならない。つまり、地方公共団体は公共事業を
選定し、特定化するために、ステップ1では民間事業者からの積極的な発案を受付、ス
テップ2では公平性と透明性に配慮した実施方針の策定および公表、ステップ3では特
定事業の評価・選定、公表をそれぞれ行うのである。
次に、入札実施時期(ステップ4∼ステップ5)では、地方公共団体がPFI事業の
導入効果が確認した上で、
「民間事業者の募集および選定等」を行い、民間事業者と公共
部門との間で協定等を締結し、PFI事業を実施する。
最後に、事後管理時期(ステップ6∼ステップ7)についてであるが、この期間には、
選定事業者が契約に従ってPFI事業を行い、地方公共団体は公共サービスの質をチェ
ックする。事業期間の終了により、あらかじめ定められた協定に従って、事業を終了す
る。
2.3
VFM
PFIの場合、VFM(バリューフォーマネー)の追求を原則として行う。地方公共
204
団体は住民の税金をより効率的かつ効果的に使い、国民にとって少しでも質の高いサー
ビスを提供しなければならない。VFMという概念は、お金(税金)を支払うだけの価
値があるかどうか、すなわち、納税者にとっての価値の最大化を目的としたものである。
従来の公共事業に比べてPFI事業の場合、資金調達コスト、企業の利潤、入札コスト
といった新たな経費がかかりますが、それを上回るようなコスト削減要因を追求するこ
とでVFMを生み出す。その諸要素は、(1)性能発注、(2)競争主義、(3)成果主義(業績
連動払)、(4)効果的なリスク分担の4つである。
はじめに、性能発注とは、公共部門が要求するサービスの内容・水準(アウトプット)
のみを明示することである。例えば、地方公共団体は、
「最低A冊の蔵書を可能にし、B
人分の机と椅子とが確保でき、ITを駆使した施設で、多様化する市民のニーズに対応
することができる図書館サービス」という要請を民間に発注するのである。従来の公共
事業では、公共部門がサービスの提供にあたり、どのような施設が必要かを考え、施設
の仕様書を作成し、民間企業に工事を発注していた。すなわち、官が事業の立案から執
行までのすべての活動を主体的に行っていたのである。図書館サービスの実施について
いえば、地方公共団体は、図書館の規模、建物の設計、机と椅子の数、蔵書可能冊数、
本の種類等を詳細に書いた仕様書を作成し、民間に建物の施工を発注し、その建設費用
を支払うことで、図書館を建設し、その運営も地方公共団体自らサービスを供給すると
いう仕様発注が行われていた。それに対し、PFI事業では、民間事業者は当該事業を
トータルで設計・建設・運営・維持管理をトータルで考え、事業のライフサイクル・コ
ストの最小化を目指すことになる。したがって、画一的かつ硬直的な仕様を決めて社会
資本整備を行うのではなく、価格の他に、公共サービスの質や事業期間の遂行能力も問
われることになる。
第2に、競争主義とは、公共部門の要請を達成する手段については民間事業者グルー
プに自由に提案してもらい、公共部門にとって最も有利な提案を行った民間事業者グル
ープを選定し、事業を実施させる。具体的に言えば、民間部門は地方公共団体の要請に
見合った図書館の建設・運営ができるように複数の異種業者が集い、1つのグループを
つくる。地方公共団体はグループごとにサービスをできるだけ廉価に提供できる提案を
行わせ、グループ間で競争させるというものである。したがって、民間部門がもつ経営
ノウハウや創意工夫を活かすことで、住民により良い公共サービスを提供することが可
能になる。
第3に、成果主義(業績連動払)とは、事業開始前に、公共部門が要求するサービス
を提供することができて、はじめて公共部門から民間事業者へサービス料を支払うとい
う契約を結ぶことである。PFI事業の場合、15∼30 年程度の期間の契約になるので、
民間事業者が継続して良質の公共サービスを提供するインセンティブを欠如する可能性
を排除するために、成果主義のシステムを導入するのである。もし、民間部門が事前の
契約を果たすことができなければ、公共部門は約束した対価は支払うことはない。それ
と反対に期待以上の公共サービスを提供することができた場合にはボーナス等の支給を
行う。このようなシステムを導入することで、民間事業者が良質な公共サービスを事業
期間にわたり安定的に供給することを可能になる。
最後に、効果的なリスク分担とは、起こりうるリスクを明確にし、発生した場合の損
205
失を最小限にできるよう、公共側と民間側とで分担することである。リスクとは、協定
時においてPFI事業期間中に発生する可能性がある事故・需要変動・天災・物価上昇・
制度変更などにより、PFI事業に関する支出・収入に大きな影響を与える可能性があ
るものである。契約期間中、事業にはさまざまなリスクが生じる可能性があり、リスク
を曖昧にしたまま事業を実施するのではなく、あらかじめどのようなリスクが発生しう
るのか、発生確率はどのくらいかを厳密に精査する。リスクを最適にコントロールでき
る主体がそれぞれリスクを管理することで事業全体のリスクコストを低減できるという
考えの下で分担される。
わが国のPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)
では、以下のようなPFI事業におけるリスク等に関する基本的な考え方が述べられて
いる。
第3条(基本理念)
1項
公共施設等の設備等に関する事業は、国および地方公共団体と民間事業者との
適切な役割分担並びに財政資金の効率的使用の観点を踏まえつつ、当該事業によ
り生じる収益等をもってこれを要する費用を支弁することが可能である等の理由
により民間事業者に行わせることが適切なものについては、できる限りその実施
を民間事業者にゆだねるものとする。
2項 特定事業は、国および地方公共団体と民間事業者との責任分担との責任分担の
明確化を図りつつ、収益性を確保するとともに、国等の民間事業者に対する関与
を必要最小限のものとすることにより民間事業者の有する技術および経営資源、
その創意工夫等が十分に発揮され、低廉かつ良好なサービスが国民に対して提供
されることを旨として行わなければならない。
この基本理念の下で「リスクは誰が負担すべきか」について、公共部門と民間事業者
の間で詳細な事業協定を結ぶのである。したがって、PFI事業はリスクを曖昧にした
まま実施段階へ移行するのではなく、リスク発生に関する厳密な分析を行う必要がある。
現在多発している第3セクターの破綻の要因は、民間と公共との間のリスク分担が明確
でなかったこと、双方が相手方に依存するモラルハザードが生じたことが失敗の原因と
される。したがって、第3セクターの失敗をPFI事業で繰り返さないためにも主体関
係間でリスク分担を明確にしなければならない。
PFI事業のリスク分担の実例として、図表3−16 では江坂駅南駐車場事業のリスク
分担表が示した。表中の負担に大阪府と事業者の双方に○印が付いているものについて
は事業協定でリスク分担を定める。例えば、地震・雷などの自然災害により運営が不可
能になった場合のリスクである不可抗力リスクに関しては、公共部門の立場では「予め
損失を最小限に抑えるように民間事業者が対応すべきである。」という意見を、民間事業
者の立場からは「自然災害は予測できないのでその発生に伴う損失はすべて公共部門が
負担するのが当然である。」という考えをそれぞれもっているであろう。このようにリス
クに伴う追加的な支出は、公共部門や民間事業者の経営を悪化させるおそれがあるので、
双方にとって被害が最小になるようにリスク分担の詳細な取り決めを行うことは大変重
要なことである。何よりも住民に公共サービスが提供できない事態が発生すれば、地域
206
住民は最大の被害者となる。本来、公共事業は住民のためのものであり、その実施に関
しては住民への配慮を忘れてはならない。したがって、PFI事業では、官と民との役
割分担・責任・リスク分担を徹底的に明確化し、それらを詳細な契約書に規定し、契約
に基づいて事業を実施することになる。
これら4つのVFMの源泉を踏まえて、数式を用いてVFMを定義すると、以下のよ
うに表記することができる。VFMが0以上であれば、VFMがでる(確認できる)と
される。
VFM=PSC−PFI事業のLCC
≥0
PSC(Public Sector Comparator)は公共事業を従来通りに実施する場合の公共部門
の財政負担見込の現在価値額、PFI事業のLCC(Private Finance Initiative-Life
Cycle Cost)とは、公共事業をPFI方式で実施する場合の公共部門の財政負担見込の
現在価値額を意味する。現在価値額の算定時に用いられる割引率は、理論的には「長期
平均的なリスクフリーレート+想定インフレ率」で求められる。この式を図表化したも
のが図表3−17 である。図表3−17 の左側の棒グラフがPSC、右側がPFI事業のL
CC、各グラフの高さの差がVFMに相当する。
民間事業者にとってPFI事業上のリスクはコストとして計上するのでPFI事業の
LCCに含まれる。また、同事業を公共部門で行う場合もリスクを公共部門で負担する
のでPSC(Public Sector Comparator)に計上される。このリスクの算定は、公共部
門の経験に基づいて行われる。例えば、建設費のリスクについては以下の計算式で算出
される。
リスク
=
建設費(PSCの金額)×過去の発生確率×コスト増大
建設費以外の工事遅延リスクや追加的な維持管理コストも同様に算定される。したが
って、過去の公共部門の公共事業に関する経験を蓄積していくことで、より正確なリス
クの算定が可能である。また、リスクをより多く見込むことで、VFMを多く生み出す
ことになり、そこに多くの公共事業縮減効果が表われることになる。第3セクターや従
来の公共事業は、このリスク分担を明確にしなかったことが事業破綻の主要因とされる。
207
図表3−16
段
階 リスクの種類
募集要項の誤り
法令等の変更
共
第三者賠償
住民問題
事故の発生
通 環境の保全
事業の中止
・延期
物価
金利
不可抗力
計
画
段
階
設計変更
建
設計変更
工事の遅延・未完
工
工事費増大
設
応募コスト
資金調達
変
更
運
営
性能
一般的損害
瑕疵担保
需要変動
計画変更
運営費の上昇
施設損傷
江坂駅南駐車場事業のリスク分担
負担者
リスクの内容
大阪府
募集要項の誤りによるもの
事業の継続が不可能になる場合
上記以外
工事・運営による騒音・振動等による場合
本事業を実施することに関する住民反対運動等
工事・運営に関する住民反対運動等
設計・建設・運営する上での環境問題
設計・建設・運営する上での事故の発生
設計・建設・運営する上での環境の破壊
府の指示によるもの
施設の建設に必要な許認可などの遅延によるもの
事業者の指示・判断の不備によるもの
事業協定締結後のインフレ・デフレ
金利変動
天災・暴動等による事業実施の変更・中止・延期
○
○
府の提示条件・指示の不備、変更によるもの
事業者の指示・判断の不備によるもの
落札時の応募コスト
必要な資金の確保に関するもの
○
府の提示条件・指示の不備、変更によるもの
事業者の指示・判断の不備によるもの
工事遅延・未完工による開業の遅延
府の指示による工事費の増大
上記以外の工事費の増大
要求仕様不適合(施工不良を含む)
工事目的物・材料・他関連工事に関して生じた損害
隠れた瑕疵の担保責任
○
利用者数の増減による営業収入の変動
府の責による事業内容の変更
物価、計画変更以外の要因による運営費の増大
事故災害による施設の損傷
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
注:府、事業者の両者に○印のあるリスクについては、事業協定において分担を定める。
208
事業者
○
○
図表3−17
VFMの測定
費用
リスク
【VFM】
税金・利益
運営維持費用
利息支払
運営維持費用
=
建設費
地方公共 団 体の負担 額
利息支払
建設費
(PSC)
(PFI事業のLCC)
このVFMは従来型の公共事業に対するコスト縮減の効果に相当し、つまり、従来の
公共事業で建設・運営したときのコストとPFIで実施した場合のコストを比較して、
その費用の削減効果でVFMを測定が可能になる。VFMの測定で、費用削減効果があ
り、PFI事業を行うことで公共サービス水準の向上があれば、VFMがあると解釈で
きる。VFMがでるとの意味を簡単な例を挙げて説明すると、これまで 100 億円の税金
を使って実施してきた公共サービスが、PFIにより 80 億円で実施できる場合、20%の
VFMを得られたことになる。また、同じ 100 億円の税金を使う場合、PFIにより従
来よりも良質のサービスが提供できるのであれば、このケースについても「VFMが得
られた」と解釈できる。
したがって、PFIはVFMの追求を原則とした事業活動であり、以下の3つの効果
をもつとされる。
(1) 民間の資金・経営能力・技術的能力を活用して、公共施設の建設・維持管理を行う
ことにより、効率的な整備・運営が期待できる。
(2) 従来型の社会資本整備手法では工事期間中に追加的に発生する多額の財政負担につ
いて、地方公共団体の毎年の負担額として平準化することができる。
(3) 地方公共団体と PFI 事業者との間のリスク分担が明確化される。
2.4
PFIの事業類型
PFI事業の類型は、公共サービス購入型、独立採算制、ジョイントベンチャー型の
3つである。その基本は、公共部門と民間事業者(SPC)との間で締結されるPFI
209
契約に基づいて、民間事業者がサービス供給を行うことであり、その投資資金の回収方
法によってPFI事業が3つに分類される。
第1に、公共サービス購入型とは、公共部門は公共サービスの内容や水準を提示し、
民間部門が資金調達し、施設の設計・建設・運営を行い、アウトプットを達成し、公共
部門からサービス対価をもらう仕組みである。病院、大学、小学校、図書館、庁舎、ス
ポーツ施設など、ほとんどPFI事業はこれに該当する。つまり、投資資金の回収は、
公共部門からの支払いによって賄われる。
第2に、独立採算型とは、民間事業者は、公共部門から事業認可を得て、一定期間に
わたり運営を行い、利用者から料金を直接徴収し、事業コストを回収するものである。
これの方式は、公共部門の負担はなく、PFI事業を行うには、利用料金収入がある程
度見込めるものでならない。つまり、利用料金だけで採算が取れる事業に限定される。
この類型に該当する事例は、駐車場、駐輪場、水族館などである。
第3に、ジョイントベンチャー型とは、民間事業者は投資回収を利用料金によって行
うが、完全な独立採算には乗らないため、公共部門が補助金・料金の補填・資産の提供
などを用いた財政支援を行うものである。ジョイントベンチャー型は第3セクターと似
た面があるので、公共部門の支援内容を明確にしておかなければならない。この類型に
該当する事例は、国民宿舎、温泉施設等である。
図表3−18
PFI事業の3つの類型(1/2)
(1)公共サービス購入型
融資
金融機関
サービス提供
利用者
返済
民間事業者
公共部門
利用料金
サービス料
(2)独立採算型
融資
金融機関
サービス提供
利用者
返済
民間事業者
利用料金
公共部門
許認可
(3)ジョイントベンチャー型
融資
サービス提供
利用者
金融機関
返済
民間事業者
利用料金
公共部門
補助金
さらに、事業手法による類型化を行った場合も、投資資金の回収方法による分類と同
210
様に、主として、BOT方式、BTO方式、BOO方式の3つに分類される。
はじめに、BOT方式(Build Operate Transfer)とは、民間事業者が資金調達、施
設の建設・所有をし、事業期間を通じて管理・運営を行い、事業終了後に所有権を公共
に譲渡する方式のことであり、地方公共団体が民間事業者の裁量を大きく認める事業が
この方式に適当である。
次に、BTO方式(Build Transfer Operate)は、民間事業者が資金調達、施設の建
設をし、完成後、所有権は公共に移転し、事業期間を通じてその施設の維持管理、運営
を民間事業者が実施する方式であり、地方公共団体が所有することが義務づけられてい
る事業や投資対象物件がSPCの所有とすることが困難である事業がこの方式に適当だ
とされる。
最後に、BOO方式(Build Operate Own)であるが、これはBOT方式における最終
段階において、施設の公共への譲渡しない方式のことで、BOT方式と同様、地方公共
団体が民間事業者の裁量を大きく認める事業が適当であるが、さらに独立採算が可能な
事業に限定される。
以上の3つの事業手法による類型をまとめると、以下の図表3−19 のようになる。
図表3−19
事業手法による類型
方式
建設
運営
運営中の所有権
運営後の所有権
BOT
民間
民間
民間
公共
BTO
民間
民間
公共
公共
BOO
民間
民間
民間
民間
これらの類型の選定に関しては、事業内容の特色や事業方式に伴うSPCへの課税や
補助金給付から判断すべきである。なぜならば、VFMの算定結果に大きな影響を与え
るからである。事業方式と課税の関係について、市町村税である固定資産税と都市計画
税で考えると、BTO方式ではともに非課税であるが、BOT方式とBOO方式につい
ては課税される。また、補助金については、国が補助金交付の対象としているのは、地
方公共団体等であるため、補助金交付を前提にPFI事業を検討する場合、BOT方式
やBOO方式を採用することはできない。したがって、SPCへの課税や補助金給付を
考慮すると、BTO方式の方が他方式にくらべて、VFMをより多く生み出すことが可
能である。
3
PFI事業の事例研究
日本では 1999 年9月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する
法律(PFI法)」が施行され、5年が経過し、実施方針が公開されたPFI事業は 183
件(2005 年1月 20 日現在)で、その内訳は、国の事業が 20 件、地方公共団体の事業が
138 件、特殊法人その他の公共法人の 26 件となっている。従来型の公共事業にとってか
わるものになりつつある。関西地域においても図表3−20 に示されているように多数の
211
PFI事業が動き出そうとしている。
図表3−20
関西地域のPFI事業の一覧(実施方針公表日が早い順)
事業名
総合地球環境学研究所施設整備事業
京都大学(桂)総合研究棟V
福利・保険管理棟の施設整備
京都大学(南部)
総合研究棟の施設整備事業
大阪大学(石橋)
学生交流棟設備等事業
神戸大学医学部附属病院
立体駐車場施設設備等事業
公務員宿舎枚方住宅(仮称)整備事業
大阪大学(吹田1)
研究棟改修 (工学部) 施設整備事業
京都大学(北部)総合研究棟改修(農
学部総合館)施設整備等事業
神戸市摩耶ロッジ整備等事業
江坂駅南立体駐車場設備事業
マリンピア神戸フィッシャリーナ
施設整備等事業
近江八幡市民病院整備事業
桑名市図書館等複合施設特定事業
(仮称)滋賀 21 会館整備PFI事業
とがやま温泉施設整備事業
(仮称)加古川市立総合体育館
野洲町立野洲小学校および野洲幼稚
園整備並び維持管理事業
八尾市立病院維持管理・運営事業
尼崎の森中央緑地スポーツ健康増進
施設整備事業
京都御池中学校・複合施設整備事業
(仮称)泉大津市戎小学校整備事業
(仮称)東大阪市消防局・中消防署
庁舎整備事業
神戸市中央卸売市場本場再整備事業
水と緑の健康都市第 1 期整備等事業
PFIによる京都府府営住宅常団地
整備等事業
堺市・資源循環型廃棄物処理施設整
備運営事業
(仮称)「道の駅ようか」 整備事業
事業自体
VFM(%)
大学共同利用機関法人人間
文化研究機構
21.4
国立大学法人京都大学
国立大学法人京都大学
47
国立大学法人大阪大学
国立大学法人神戸大学
財務省
国立大学法人大阪大学
27.42
国立大学法人京都大学
神戸市
大阪府
神戸市
近江八幡市
三重県桑名市
滋賀県
兵庫県八鹿町
加古川市
滋賀県野洲町
八尾市
尼崎市
京都中京区
泉大津市
東大阪市
神戸市
大阪府
京都府
堺市
兵庫県養父市
212
14
22
12.8
17.4
7.2
21.4
3.1
事例(1):ESAKAフラッツ
2002 年 11 月 30 日オープンしたESAKAフラッツ(事業名
江坂駅南立体駐車場整
備事業)であるが、PFI導入の背景には、地下鉄「江坂駅」周辺で、駐車場不足から
違法駐車による慢性的な交通渋滞が発生し、ピーク時で約 140 台分の駐車スペースが不
足していた。この対策として収容台数を拡充することが検討され、江坂駅南の国道 423
号高架下に既存の平面駐車場(収容台数 60 台)を一層二段の自走式立体駐車場とするこ
とが提案された。しかし、厳しい財政状況にある大阪府では、新たな公共事業を実施す
ることは困難であり、当時、同駐車場を運営していた財団法人大阪府都市整備推進セン
ターも府と同様に厳しい状況にあった。そこで、府の財政負担を発生させずに、府民に
とって利便性の高い社会資本整備手法を調査し、独立採算型のPFI事業として駐車場
整備を行うことが決定し、民間事業者グループを公募した。
当事業に応募した 16 グループに対して資格審査と一次提案の審査を行った結果、5グ
ループが一次審査を通過し、当5グループによって2次提案が行われた(図表3−21)。
利用者サービスや施設内容はもちろんのこと施設の外観にいたるすべての点において、
各民間事業者の創意工夫が活かされるような内容であった。その中でも、西松ビルサー
ビス・グループの提案は、施設設計における基本性能、環境への配慮、維持管理業務態
勢、事業実施体制における確実性、担保権等の設定の考え方が高く評価され、
「施設設計
計画」
「建設工事計画」
「維持管理業務計画」
「事業実施体制」で5グループ中最高得点を
得て、総合評価で1位となった。一般競争入札審査結果は以下の通りである。その選定
にあたっては、学識経験者等で構成される「江坂駅南立体駐車場PFI事業審査委員会」
を設置し、公平性と透明性とを確保するような審査を行った。
図表3−21
一般競争入札審査結果表(ESAKAフラッツ)
民間事業者グループ
1
2
3
4
5
23
18.5
16.5
18.0
19.5
17.5
建設工事計画評価
3
2.5
2.0
2.0
3.0
2.0
維持管理業務計画評価
6
4.5
3.5
5.0
5.5
5.0
運営業務計画評価
27
24.5
21.0
22.5
23.5
20.0
資金業務計画評価
30
26.0
23.5
26.0
24.5
24.0
事業実施体制評価
11
7.0
8.0
8.5
9.0
8.0
100
83.0
74.5
82.5
85.0
76.5
評価項目
施設設計評価
合計
配点
注:1:銀泉(株)・(株)日建設計・鹿島道路(株)
2:住友商事(株)・三菱重工業(株)関西支店・再開発振興(株)・(株)駐車場総合研
究所
3:総合パーキング建設(株)・新日本製鐵(株)・(株)総合駐車場コンサルタント
・日本地所(株)・日本管財(株)・日鐵リース(株)・(株)あおぞら銀行
4:(株)西松ビルサービス・三菱プレシジョン(株)・(株)青菱コミュニティ
5:パーク24(株)・フジミビルサービス(株)・タイムズ 24(株)
※ 各グールプの代表民間事業者は先頭に記載。
213
ESAKAフラッツは独立採算型のBOO方式であり、それを前提にVFMを算定し
た。その算定結果について、リスク移転前のVFMは 1,300 万円で、リスク移転額を見
込んだVFMは 3,400 万円である。したがって、駐車場サービスを公共部門で行うより
も民間事業者で行うPFIで実施した方が有効である。VFMの詳細は図表3−22 の通
りである。
図表3−22
事業で行った収支算出の評価
府が直接事業を実施する場合の収支
VFM(リスク調整前)
1,300 万円
VFM(リスク調整後)
3,400 万円
図表3−23
収容台数
1 億 3,800 万円
事業概要
自動車 106 台
自動二輪車 30 台
事業範囲
立体駐車場の設計、建設、運営、維持管理業務
事業期間
15 年間(2017 年6月末まで)
事業者は駐車場料金を収入し、必要な費用を負担する
SPC
(株)江坂南パーキングサービス(西松サービスグループ4社+西松建設)
幹事会社
西松建設(株)
設計・建設
(株)西松ビルサービス
駐車官制設備の設置、管制機器の保守管理
三菱プレシジョン(株)
運営維持管理、事務管理
(株)ジャパンメンテナンス
駐車場運営における経営指導
(株)青菱コミュニティ
図表3−24
料金サービス
料金体系
金額
摘要
基本料金
50 円/10 分
1時間当り 300 円
パークアンドライド
10,000 円/月
6:00∼24:00
身障者割引
半額
高齢者割引
1時間無料
満 70 歳以上
1日料金
2,500 円(1日最大)
6:00∼24:00
夜間料金
500 円(夜間最大)
0:00∼7:00
夜間定期
10,000 円/月
21:00∼8:00
回数券
1,000 円
1,100 円相当
プリペイドカード
3,000 円・5,000 円・10,000 円
プレミア 10∼20%
クレジットカード
正規料金
出口精算機のみ
自動二輪車
200 円(1日1回)
1時間以内は無料
(100 円券の 11 枚つづり)
214
図表3−25
ESAKAフラッツの事業スキーム
アドバイザー契約
ニュージェニック
大阪府
占用料
PFI事業契約
融資・返済
金融機関
火災保険契約
(株)江坂南パーキングサービス
請負契約
設計・建設会社
※
損保会社
委託契約
運営・管理会社
2002 年3月に(株)ニュージェニックのアドバイザー業務は終了。
PFI事業の概要および料金サービスの内容は図表3−23、24 の通りであるが、料金
サービスを見る限り、10 分単位での料金設定、回数券やプリペイドカードの導入やクレ
ジットカードによる支払いを可能にするなど、豊富な料金メニューを設置することでよ
り多くの府民に利用してもらおうと民間の創意工夫が随所に表れている。
稼動後の状況についてであるが、幸いにも 2004 年 11 月 30 日の大阪府庁舎と同年 12
月7日の現地とでヒアリングを行うことができた。主要な質問事項とその回答は以下の
通りである。
(1)現在の稼働状況について
現在の稼働状況は、平日の平均利用車数はおよそ 60 台、土日は満車の状態であ
る。自動二輪車については毎日満車の状態であるが、自動二輪車でだけでは採算
をとることができなく、自動車の駐車スペースである一定以上の売上をとる必要
がある。
(2)江坂駅周辺の駐車場の不足および慢性的な交通渋滞は解決されたか。
現時点は解消されていない。駐車ペースの拡充だけでは解消することは難しく、
道路や商業施設との総合的な解決を目指す必要がある。ESAKAフラッツの開
業による駐車スペースの拡張で、江坂駅付近の違法駐車は激減した。
(3)PFI事業選定あるいは応募時には想定していなかったことが起こったか?
年1回、利用者へのアンケート調査を行い、自らの事業内容の妥当性を確認し
ている。開業当初、照明が暗いというクレームに対し、新たに照明を追加するこ
とで対応し、SPCがその費用を負担した。
最近では新札の発券に伴い、自動精算機がすぐに新札に対応することができな
いため、旧札を管理室にストックする形で対応したが、現在は新札対応の精算機
を設置した。
当初、女性が使えるやさしい駐車場として広告を出したが効果はなかった。商
業施設と併設する駐車場ではないので、広告の効果は小さい。
215
小さいスペースでも駐車場サービスを提供できるので、予想以上にライバル企
業が多数いる。しかし、アンケート調査によりリピーターが着実についているの
で、現行の事業サービスの内容や質に問題はないと判断している。
(4)ある程度の期間事業を継続するための工夫やコスト削減の方法、
10 分単位での料金設定や回数券・プリペイドカードの活用により多種多様な顧
客に対応できる料金メニューを設定したことが、現在の良好な稼働状況につがっ
ている。
近隣の店へ回数券やプリペイドカードの販売活動を行い、当社の駐車場サービ
スを知っていただく努力を行っている。
将来的には環境に配慮した電気自動車の増加も予想し、充電も行える機能を設
置している。
身障者のために、江坂駅側の「人の出入り口」付近に専用の駐車場を設け、割
引制度を適用し、身障者の利便性を高めている。
(5)事業期間についてなぜ 15 年という設定をしたのか。
経済環境の変化が激しいため、15 年後、その場所を駐車場として運営すること
が府民のニーズにあったサービスかどうか判断することは難しい。周辺にはライ
バル企業が多数いる。15 年で施設を更地に戻すのはコストがかかるので、できれ
ば施設を買い上げて欲しい。
ESAKAフラッツの事業コンセプトは、環境問題への取り組み(Ecology)自動二輪
車の違法駐車(Support)、多種な駐車場の乗り入れ可能(Access)、施設利用者への配慮
(Kindly)、最大限の駐車場台数の確保(Area)であり、これらをすべて反映する形で事
業を行っているが、照明や新札対応といったリスクを予想することは困難であるように
思われ、これから生じるリスクに対して民間の創意工夫で対応することこそ、事業期間
に継続してサービスを供給することにつながるのであろう。
3.2
事例(2):オテル・ド・摩耶
神戸市は山側観光の活性化を目的とし、民間資金などの活用による公共施設の整備を
進め、2001 年7月 13 日にオテル・ド・摩耶が全国初の観光施設のPFI事業としてオ
ープンした。
その前身の神戸市立国民宿舎摩耶ロッジは、1957 年神戸市交通局の保養施設として建
てられ、1970 年国民宿舎としての市の外郭団体が運営していたが、震災後、摩耶ケーブ
ルとロープウェイが不通となり、1996 年3月から宿泊施設の経営を休止していたという
施設背景がある。つまり、当PFI事業は、休止していた国民宿舎の営業を再開すると
いう内容である。神戸市摩耶ロッジ整備事業の概要は図表3−26、事業スキームは図表
3−27 でそれぞれ示される。摩耶ロッジ整備等事業の選定に関しては、6グループ(1:
鹿島建設・ジェイコム、2:いさご・清水建設、3:ガル・永園設計・鴻池組、4:桜
商事・高倉商事・日本都市ホテル開発・岡工務店、5:城泉閣・銭高組・都市住宅、6:
天恵フーズ・大林組)の提案企画書から審査し、優先交渉順位を確定した。審査項目は、
216
(1)施設計画(外観・外構、計画内容・内装、配置・動線、バリアフリー)、(2)事
業計画(計画内容、宿泊業務・宿泊料金、飲食・物販・入浴等収益事業、体験学習事業、
環境対策、誘致プロモーション体制)、(3)収支計画(リスク分担、企業の経営状況、
事業の実績、事業の経営計画・継続性、資金調達計画、事業の安定性)の3点である。
審査結果は、優先交渉順位1位が鹿島建設株式会社(39.7 点/50 点満点)で、2位が桜
商事株式会社(得点 27.8 点)であった。それゆえに、神戸市は(株)鹿島建設グループを
PFI事業者として選定した。
図表3−26
事業概要
施設概要
客室/ツインタイプ 22 室、トリプルタイプ2室
フォースタイプ6室、和室1室
レストラン/1店・イタリアン料理、収容人数 64 人
浴場/館内大浴場(男性1・女性1)
野外ジャグジー&サウナ
ミーティングルーム/2室(収容人数 30 名・20 名)
グラスハウス/カフェ(収容人数 30 名)
事業期間
PFI事業者
20 年間
(株)鹿島建設
事業主体
運営会社
建設会社
(株)鹿島建設
(株)ジェイコム
(株)鹿島建設
図表3−27
オテル・ド・摩耶の事業スキーム
アドバイザー契約
さくら総研
神戸市
整備費用
維持管理・運営費用
目的外使用許可(20年)
PFI事業契約
宿泊
融資・返済
使用料
金融機関
(株)鹿島建設
日本政策投資銀行から50%
市中銀行から50%の資金調達
業務委託
工事発注
設計・建設会社
運営会社
ジェイコム
サービス提供
飲食・物販・入浴料
体験学習受講料
利用者
217
事業方式はジョイントベンチャー型で、BTO方式がとられている。つまり、神戸市
は事業者に対して上記施設整備費用として、20 年間毎年 2,500 万円支払い、当施設と土
地を無償で事業者へ 20 年間貸し、宿泊使用料に相当する維持管理、運営費用を事業者に
支払うことになる。事業期間終了後は神戸市へ譲渡するという内容の事業契約である。
この内容については、図表3−27 の神戸市と鹿島建設との間の矢印に相当する。また、
目的外使用許可とは、宿泊以外の飲食・物販・浴場・体験学習事業を行うための許可で
あり、これらの事業は運営会社の独立採算事業として行うものである。
他のPFI事業とは異なるのは、SPCを設立しないことである。したがって、鹿島
建設1社が民間事業者となり、鹿島建設の金融機関に対する企業信用力をベースに、事
業資金を日本政策投資銀行と市中銀行から半分ずつ調達する形をとった。
図表3−28
期間
曜日
宿泊料金(基本料金、ツイン定員利用)
4・5・9・10・11 月
7月1日∼19 日
月∼木
金・土
日・祝
(単位:円)
1・2・3・6・12 月
前祝日
月∼木
日・祝
金・土
前祝日
大人
6,000
7,500
7,500
4,500
6,000
7,500
子供
4,700
6,200
6,200
3,200
4,700
6,200
※12 月 28 日∼1月3日・4月 29 日∼5月5日・7月 20 日∼8月 31 日は大人 7,500 円、
子供 6,200 円
図表3−29
オテル・ド・摩耶の稼働状況(2001∼2003 年)(1/2)
(単位:人)
○宿泊稼動
第2四半期
4,836
4,294
5,542
第3四半期
4,051
2,879
3,913
第4四半期
1,957
1,953
2,513
合計
10,844
11,610
14,557
第1四半期
2001 年
−
2002 年
3,372
2003 年
3,545
外来ディナー
第2四半期
4,980
5,211
4,861
第3四半期
4,064
4,031
4,476
第4四半期
1,472
1,143
1,622
合計
10,516
13,757
14,504
第1四半期
−
265
464
第2四半期
289
652
587
第3四半期
386
274
344
第4四半期
92
185
167
合計
767
1,376
1,562
2001 年
2002 年
2003 年
第1四半期
−
2,484
2,589
○レストラン利用
ランチ
2001 年
2002 年
2003 年
218
図表3−29
オテル・ド・摩耶の稼働状況(2001∼2003 年)(2/2)
(単位:人)
○レストラン利用
宿泊ディナー
第1四半期
第2四半期
第3四半期
第4四半期
合計
2001 年
−
4,960
4,063
1,801
10,824
2002 年
2,388
4,165
2,651
1,870
11,074
2003 年
2,307
5,376
4,237
2,378
14,298
第1四半期
第2四半期
第3四半期
第4四半期
合計
2001 年
−
3,042
8,642
3,610
15,294
2002 年
2,476
4,313
2,782
1,950
11,521
2003 年
2,480
5,588
4,361
3,440
15,869
第1四半期
第2四半期
第3四半期
第4四半期
合計
2001 年
−
13,271
17,155
6,975
37,401
2002 年
8,501
14,341
9,738
5,148
37,728
2003 年
8,796
16,412
13,418
7,607
46,233
朝食
○来店者数
2001 年から 2003 年までの稼働状況は図表3−29 で示した。1年目は順調な業績をあ
げ、2年目は若干落ち込んだものの、3年目は業績を回復した。この点については、2004
年 11 月 24 日にヒアリングを行い、当事業の関係者は、
「オープン当初は、ターゲットに
した客層(中高年の女性、若いカップル)とは異なるファミリーやご年配の夫婦(かつ
ての摩耶ロッジのファン)の方が泊まりに来たため稼働率が高かった」と説明していた。
当時の客層には、イタリアン食事に対して抵抗があり、神戸市からの改善命令があっ
たそうだ。しかし、事業者側は、当初の契約通りイタリアンでレストラン経営を継続し
た。なぜなら、事業者としては、神戸というロケーションということからイタリアンし
かやりたくなかった。なぜなら、国民宿舎の場合、条例で高額な宿泊サービス料はとれ
ないので、イタリアンレストランで、ある程度高い価格の食材を提供していることで売
上を伸ばす狙いがあったからだ。宿泊料については図表3−28 で示されているように、
他のホテルに比べて、格安で提供されているのがわかる。
2002 年以降、当初想定していた客層がオテル・ド・摩耶を利用するようになった。宿
泊稼動が下がっても、外来ディナーの客数が 2001 年に比べて 2002 年は倍増している。
イタリアンの食事は単価が高いため、外来ディナーで客足が伸びると当事業の売上も上
昇する。ここに事業者の狙いがあったように思われる。2004 年については、詳細なデー
タはないが、関係者の話によれば、海外旅行の需要増と台風の影響で客足は伸び悩みの
状態だそうだ。
今後、事業期間に当事業を継続してサービスを行っていく工夫として、事業関係者が
219
挙げていることを以下の4点にまとめてみた。
(1)常に話題づくりを行う。
どうすれば旅行雑誌に取材してもらえるのかを考えて事業を展開していく必要があ
る。事業関係者が自ら広報活動してもお客はついてこないという考え方から、当事業と
関係のない方から取材してもらうにはどうすればよいか常に考えることが大事である。
例えば、中高年の女性や若いカップルを客層として狙っていることから、腕のいいイタ
リアンシェフや若い男性のソムリエ(シニアソムリエ資格の最年少合格者)を起用し、
自家製のハーブを使った新しいメニューを創造している。
(2)人件費の削減策
夏と冬とは来客数が大きく異なるので、正社員として従業員を雇うことは人件費が大
きな固定費用となる。そこで、冬は従業員だけで経営し、夏場はアルバイトを雇って従
業員とともに当事業を展開していく。
(3)閑散時期に来客数を増やすための工夫
冬場にお客がこない理由は、交通手段等に大きな問題があり、ロープウェイが午後5
時半で終了し、車でも冬は路面が凍結する可能性が高いということにある。そこで考え
た工夫は「タクシープラン」というものである。このタクシープランは、2名で乗車の
場合は1名につき宿泊費プラス 1,500 円で、3名で乗車の場合は1名につき宿泊費プラ
ス 1,000 円で、神戸市内の7箇所(三宮・六甲・新神戸・神戸・北野・北区・元町)で
乗降車できるというサービスである。2人しか乗らない場合は赤字であるが、年間通じ
て運営することでその赤字を埋めることはできる。また、送迎バスという手段も検討さ
れるが、送迎バスをもつことは、正社員の人件費と同様に大きな固定費用となり、事業
の持続可能性に大きな影響を与えかねない。そこで考えついたのが「タクシープラン」
である。タクシーの料金は運輸局の許可制の下で決まり、配車の料金と交通費について、
お客1人につきいくらという方法で販売し、このプランが売れ出した。しかし、当事業
の管理主体である神戸市交通局が経営する摩耶ケーブル・ロープウェイに悪影響をおよ
ぼす可能性が高くなる。本来、摩耶ケーブル・ロープウェイの再開と同時に山側観光の
活性化のために、国民宿舎の運営にPFI事業を導入することを決定したのであるから、
もし、摩耶ケーブル・ロープウェイの経営に悪影響がでるならば、双方がともにメリッ
トを受けるようなサービス内容に変更すべきであろう。
(4)体験学習の活性化
オープン当初はドライフラワーやステンドグラスといったカルチャー教室を開講した
が、毎週1回、摩耶山に登って通うのは受講生にとってみれば、大変な不便なことであ
るため、失敗に終わった。当宿泊施設を文化交流施として、より多くのお客にご来場い
ただけるように、「MAYA Artist Bank」と「MAYA ワイン会」という新しいプロ
グラムをはじめた。
「MAYA Artist Bank」は、発表の場所を求めるアーティストやミ
ュージシャンを支援するもので、自分の収入はその場所を借りて自分で稼ぐことできる。
また、「MAYA ワイン会」は毎回 10,000 円で、料理とワインの講習会を行うもので、
当ホテルのシェフとソムリエが講師を担当する。現時点では両プログラムとも好評であ
る。
これらの4つに代表されるように、民間の創意工夫はさまざまな問題発生に対処する
220
ような形で活かされている。その結果として、2003 年6月 28 日の日本経済新聞「NI
KKEIプラス1」で専門家お薦めの国民宿舎のランキングで、オテル・ド・摩耶は第
1位となった。参考までに第2位以下は図表3−30 の通りである。
図表3−30
専門家お薦めの国民宿舎
国民宿舎名
3.3
所在地
1
オテル・ド・摩耶
兵庫県神戸市
2
アソベの森
いわき荘
青森県岩木町
3
海峡ビューしものせき
山口県下関市
4
あわび山荘
北海道大成町
5
ボルベリアダグリ
鹿児島県志布志町
6
マリンテラスあしや
福岡県芦屋町
7
能登小牧台
石川県中島町
7
小田急箱根レイクホテル
神奈川県箱根町
9
カミホロ荘
北海道上富良野町
10
竜山荘
山形県山形市
10
慶野松原荘
兵庫県西淡町
事例(3):くわなメディアライヴ
桑名市図書館等複合施設へのPFI事業の導入は、日本初の図書館PFI事業となり、
2004 年 10 月に開業した。PFI導入の背景には、
(1)図書館をはじめとする公共施設
の老朽化、(2)情報化等の図書館サービスに対する新しいニーズ、(3)厳しい財政状
況下での公共サービス提供の必要性があった。図書館のPFI事業ということで、開館
時間の延長や開館日数の増加が期待された。1999 年からPFI事業の導入の検討を開始
してから5年経過して、「くわなメディアライヴ」としてオープンした。
当事業の維持管理運営期間は 30 年で、事業方式はBOT方式とサービス購入型を採用
した。そのため、地方公共団体は当事業に要する費用の支払いを行い、事業者に対しサ
ービス対価を支払う。その対価の内訳は、本件工事等およびこれにかかる支払利息、維
持管理(修理費含む)および運営業務費、図書等購入費、システム整備保守管理費とな
っている。当事業は図書館を含めた複合施設を対象としており、その業務範囲は、図書
館等施設整備業務、図書館等施設維持管理業務、図書館運営業務、生活利便サービス施
設の運営(独立採算部門)、図書館等施設の賃貸業務および所有権移転業務といった内容
になっている。
当事業の入札は総合評価一般競争入札方式で行われ、8つのグループが応募し、その
うち2つのグループ(グループ3とグループ8)が辞退したため、6つのグループが審
査の対象となった。その結果は以下図表3−31 の通りである。合計点より、グループ7
の鹿島建設グループがPFI事業者として選定された。
221
図表3−31
一般競争入札審査結果表(くわなメディアライヴ)
民間事業者グループ
評価項目
1
2
4
5
6
7
配点
サービス対価
60
57.39
53.85
51.71
55.97
58.22
60.00
施設設計および維持管理
15
8.12
10.00
6.61
9.55
5.32
12.30
図書館運営および生活利
15
7.87
12.26
8.40
11.53
8.32
13.78
10
6.00
7.75
4.50
6.75
4.75
4.00
100
79.38
83.86
71.22
83.80
76.61
90.08
便性サービス施設
合
計
1:(株)大林組・(株)東畑建設事務所
2:前田建設工業(株)・東洋建設(株)・キハラ(株)・(株)岡田新一設計事務所・アシス
ト(株)・(株)ビケンテクノ
4:伊藤忠商事 (株)・清水建設(株)・(株)トーエネック
・安井建設設計事務所(株)・センチュリーシーリングシステム(株)
5:住友商事(株)・(株)日建設計・(株)熊谷組・シーテック・丸善(株)
6:三菱商事(株)・(株)大建設計・西松建設(株)・飛島建設(株)・日本管財(株)
7:鹿島建設(株)・佐藤総合計画(株)・(株)図書館流通センター・セントラルリース(株)・
鹿島建設総合管理(株)・種村ビル(株)・(株)三重電子計算センター
※
各グループの代表民間事業者は先頭に記載。
当事業のスキームは図表3−32 の通りであり、駅から徒歩6分という場所に複合施設
2
として建設された「くわなメディアライヴ」は、4階建(敷地面積:約 3,198.82 m ,
2
施設面積:約 8,153.13 m )で、以下のような施設がある。
(1)桑名市中央図書館(蔵書数約 30 万冊) 3・4階
(2)桑名市中央健康センター
2階
(3)桑名市勤労青少年ホーム
2階
(4)桑名市多目的ホール(時のホール)
1階
(5)桑名市プレイルーム(託児室)
1階
(6)生活利便性サービス施設(カフェ)
1階
※新規施設
(7)駐車場50台・駐輪場30台
現在の状況であるが、2004 年 11 月 29 日に行われたPFI事業見学会(PFI協会主
催)で、多目的ホールの稼働率,本の貸出数ともに上限で推移しているとの回答してい
た。当図書館は、
「いつでも・どこでも・誰でも」を基本理念とし、書籍・雑誌・インタ
ーネット・データベース・AVなどあらゆるメディアを提供して、理念を実現したいと
考えおり、自動書架システムやAV機器の技術の陳腐化を防止するために、リースとし、
5年更新としている。また、NPOを主体とするボランティア活動や学校との連携を図
りながら、桑名市の行政・歴史や経済活動に関する資料を積極的に収集し、郷土研究や
ビジネス支援を行う新しいタイプの図書館事業が期待される。
222
図表3−32
くわなメディアライヴの事業スキーム
アドバイザー契約
日本経済研究所
桑名市
サービス購入料
PFI事業契約
融資・返済
金融機関
(株)桑名メディアライヴ
UFJセントラルリース
業務委託
設計・管理委託
設計会社
工事発注
業務委託
建設会社
運営会社
維持管理会社
サービス提供
利用者
3.4
事例(4):とがやま温泉天女の湯
PFI事業方式を導入した温泉施設「とがやま温泉天女の湯」が 2002 年 12 月 14 日に
兵庫県八鹿町高柳にオープンした。町民の福祉・健康増進と地域住民の交流の場や療養
型の温泉施設として位置づけ、施設内容は、駐車場を含む外構施設、温浴施設、休憩場、
軽食コーナー、情報コーナー等とし、年間 13 万人の利用客を見込む。当事業が事例(1)
(2)
(3)と異なるのは、当事業の落札が地元の企業である点である。その経緯は以下
通りであり、選定プロセスが短期間で行われたことが明らかである。
2001 年8月 31 日
兵庫県八鹿町が募集要項、選定基準発表
2001 年9月 10 日
現場説明会の実施
2001 年9月 20 日
参加表明の受付
2001 年 11 月9日
提案書の受付
2001 年 12 月 25 日
事業者の決定
2002 年1月 30 日
SPCとして「とがやま温泉株式会社」を設立
当事業の入札は総合評価一般競争入札方式で行われ、4つのグループが応募した。そ
の結果は以下の図表3−33 で示されている。図表3−33 からわかるが、民間事業者とし
て選定されたのは、キタイ設計(株)と但南建設であり、VFM(リスク調整前)は 3,400
万円と算定された。
223
図表3−33
一般競争入札審査結果表(とがやま温泉)
項目
内容
比率
事業遂行能力
出資構成、経営能力等
資金計画
応募事業者点数
Aグループ
B グループ
C グループ
D グループ
15%
11.55
11.40
10.35
13.50
資金調達、返済能力等
10%
7.65
7.10
7.50
8.00
事業運営計画
サービスの安定的供給
20%
18.75
20.75
16.50
20.25
施設計画
町方針の具現化等
25%
14.80
18.00
13.80
17.80
価格
*PSC 価格との乖離度
30%
21.3
15.00
12.00
14.40
100%
74.05
72.25
60.15
73.95
合計
A:キタイ設計・但南建設
B:飛島建設グループ
C:奥村組グループ
D:大木建設グループ
事業スキームは図表3−34 の通りである。とがやま温泉(株)はプロジェクト・ファ
イナンスによる資金調達を行わず、当事業グループ2社からの出資、融資により事業資
金を調達することで設立された。(但南建設は自己資金から出資・融資)SPC設立の
翌日に、とがやま温泉(株)と八鹿町が正式に事業契約を結び、事業方式はBTO方式、
ジョイントベンチャー方式で、とがやま温泉(株)が施設を八鹿町に無償譲渡し、町か
ら独占使用権を得る。事業期間は 15 年間である。八鹿町が民間事業者に対して支払うサ
ービス対価は、以下の値を上回らない範囲で、年2回支払われる。
町が事業を実施するときの財政支出
=起債償還元利金−地方交付税措置分±事業運営で発生する損益分
ここでの地方交付税措置額は、地域総合整備事業債の起債額の 35%とした。
図表3−34
とがやま温泉の事業スキーム
コンサル契約
エイトコンサルタント
八鹿町
施設独占使用権
サービス対価
PFI事業契約
各 2,000 万円出資
但南建設
キタイ設計
とがやま温泉(株)
資本金 4,000 万円
設計発注
キタイ設計
建設発注
但南建設
事業を継続する工夫として、ポイントカードを発行し、当館のリピーター確保に努め
ている。通常料金(大人:600 円、小人:300 円、幼児:200 円)での利用 1 回につき 1 ポ
イント押印するもので、10 ポイントで無料入浴券になる。
224
とがやま温泉の現状であるが、「神戸新聞 Web News まちが動く 04 合併 2004 年1月4
日」によれば、オープン1年目の利用者数は 12 万 2,000 人で、目標の 13 万人を 1 万 8,000
人下回った。その原因は、高齢者と地元の利用率の低さにあった。
2004 年4月に、八鹿町は、隣接する養父町、大谷町、関宮町と合併し、
「養父市」
(人
口約2万 9,000 人、県下最少)となる。これにより、同市は、養父町の「やぶ温泉」
(第
3セクター)、関宮町の「関宮町農村交流ターミナル」(2003 年 11 月に建設着工)と合
計3つの温泉を抱え、いずれも国道9号線沿いにあり、車で5分おきに、公共事業とし
ての温泉があり、採算がとれるか疑問が生じるところである。また、合併前に各町がそ
れぞれ大型の公共事業計画を進め、地方債を多発してしまい、公債費残高 638 億円(2003
年度当初予算額)、住民1人当たり約 220 万円とされている。合併後も財政難は変わらず
続くことが予想される。事業内容の見直しが必要であるように思われる。
4
PFI事業の検討課題
事例(1)∼(4)より、リスク発生が正確に読めるかどうか事業の継続可能性の焦
点となり、PFI事業の今後の検討すべき課題である。第3セクターに比べて、リスク
分担を明確にした点は、PFI事業は社会資本整備の民間活用策の1つとして高く評価
されるが、しかし、予想できないリスク発生の認識不足は事業計画に大きな影響を与え
かねない。
その象徴的な事件が、福岡市の「タラソ福岡」の倒産である。当事業は公共施設であ
るプールの整備・運営にPFIを導入し、2002 年に開業した。初年度から利用者数が少
なく、経営が悪化し、株主企業の支援打ち切りが当事業の破綻につながり、2004 年 11
月末で施設は閉鎖された。2004 年 12 月 10 日に福岡市PFI事業推進委員会が、「(株)
タラソ福岡の事業破綻を越えて∼今後のPFI事業推進のために∼」
【中間報告骨子】を
発表した。その中で、事業破綻の本質的な原因として、5つの項目を挙げている。
(1)事業リスクに対する認識の低さ
(2)福岡市のPFI事業に対する認識不足
(3)民間事業者のリスク意識の欠如
(4)融資者のPFI事業における機能不全
(5)相互監視牽制システムの未構築
(1)
(3)で述べられているように、リスク認識の甘さが事業経営に大きな影響を与え
たのであり、タラソテラピーというなじみがないサービス実施に対するリスクの認識が
不十分であった。当事業はサービスの需要が経営に直結する、比較的リスクが大きい事
業であった。タラソ福岡の事業スキームは図表3−35 の通りであるが、他のPFI事業
方式と同じであり、違うのは公共サービスの内容なのである。その需要のリスク変動を
正確に見込むことができなかったことが大きな原因である。
225
図表3−35
タラソ福岡の事業スキーム
福岡市
土地の無償貸付
電気の無償供給
施設無償譲渡
サービス提供料の支払
配当
金融機関
(株)タラソ福岡
民間事業者
グループ
出資
使用料
サービスの提供
利用者
また、内閣府民間資金等活用事業推進室(2004)が実施した地方公共団体へのアンケ
ート調査の結果より、地方公共団体が「導入を検討した後に認識された課題」として回
答した内容は、行政側の推進体制の充実(55.2%)、官と民のリスク分担(51.0%)、V
FMの算定方法(41.3%)、地元事業者等のPFIに関する理解(39.2%)、モニタリン
グ(35.7%)であった。やはり、リスクの関心は高いといえる。したがって、今後、公
共事業をPFIとして行うかどうかについては、事前調査を詳細に行い、リスクの予想
をできるだけ正確に行う必要がある。言い換えれば、公共サービスの内容や質が市場メ
カニズムによる供給に馴染むどうか、また、20∼30 年といった事業期間に継続してサー
ビス供給を行うことができるかどうかということを判断しなければならない。そして、
何よりもまず、地方公共団体は住民にとってより効率的で効果的な公共サービスを提供
することを第1に考え、PFI事業の実施主体の民間事業者とその管理主体の地方公共
団体とが良好なパートナーシップを形成しなければならないのである。
<参考文献>
第1節
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せい
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