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ブロードバンド通信機器の雷防護技術

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ブロードバンド通信機器の雷防護技術
雷防護
多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術
接地
EMC
特
集
ブロードバンド通信機器の雷防護技術
ADSLやVDSLの利用による高速インターネットの普及とともに,家庭内で
LANを構成するなど一般家庭のネットワーク構成も複雑になってきており,
くらもと
これに伴って雷による通信機器への被害が増加しています.これらブロード
倉本 昇一
しょういち
バンド通信機器雷防護の基本的な技術および具体的な対策方法について紹介
NTT東日本
します.
雷防護の重要性
ADSL/VDSLモデム,ルータ,PC
等ブロードバンド通信に使用する機器
は,通信線と電源線の両方を必要と
バンド機器は雷サージのような過電圧
(アレスタやバリスタなど)を介して接
に曝される環境に設置されるため,過
地します.これによってすべての電位が
電圧に対する保護が重要となります.
接地点で同電位となり,雷サージが侵
入してきても機器全体が同電位となる
雷防護の基本方法
ため,機器内部に雷サージが流入する
します.このため,雷サージのような
通信線と電源線双方のインタフェー
過電圧が機器の電源ポートおよび通信
スを持つ機器を雷サージから保護する
第2に「バイパス」です.この方法
ポートのどちらかに侵入すると,もう一
ためには,3つの基本的な防護方法が
は接地をとらない機器でよく用いられ
方のポートとの間に電位差が発生し,
あります(図1)
.
る方法です.通信線と電源線のそれぞ
ことがなく機器を保護できます.
その電位差により機器の回路が絶縁破
第1に「等電位化」です.等電位
れに避雷素子を組み込み,その接地側
壊を起こし,被害を受けることがあり
化とは,機器,通信線,電源線の電
を接続し通信線と電源線をバイパスす
ます.最近のブロードバンド通信機器
位をすべて同一にすることです.1つ
る回路を構成します.これは避雷素子
に使用される半導体素子は,低消費電
の接地にすべての接地を接続する共通
でバイパスする構成で「バイパスアレ
力化,高密度化のため過電圧に対す
接地が用いられます.通信線や電源線
スタ法」と呼ばれています.雷サージ
る耐力が低くなっています.ブロード
は直接接地できないため,避雷素子
が一方のインタフェースから侵入した
通信線
情報通信機器
電源線
避
雷
素
子
避
雷
素
子
情報通信機器
通信線
避
雷
素
子
避
雷
素
子
接地線
(a) 等電位化
電源線
通信線
情報通信機器
電源線
絶縁トランス
接地線
(b) バイパス
(c) 絶縁
図1 雷防護の基本方法
NTT技術ジャーナル 2003.3
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多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術
スプリッタ
ADSL/VDSL
モデム
PC
スプリッタ
ADSL/VDSL
モデム
PC
10BASE-T
10BASE-T
通信線
ACアダプタ
ACアダプタ
雷サージ
雷サージ
電源線
コンセント
通信線
雷防護アダプタ
(a) ADSL/VDSL機器の雷被害
コンセント
電源線
(b) 雷防護アダプタによる雷防護
図2 ADSL/VDSLの雷防護方法
場合,避雷素子を経由しバイパス回路
プタの耐圧が十分でない場合が多く,
信機器に接続される通信線と電源線
を流れ,別のインタフェースに流れる
等電位化やバイパスによる対策を組
に雷防護アダプタを挿入します.雷防
経路をとるため,機器の内部回路が保
み合わせないと十分な効果が得られま
護アダプタは,通信線,電源線の間を
護できます.バイパスによる対策方法
せん.
避雷素子を介してバイパスする回路と
では,安価な避雷素子が利用できるの
で,小型で効率的な雷防護回路が構
ADSL/VDSLの雷防護方法
なっており,通信線からの雷サージを
雷防護アダプタで電源線へ,逆に電源
電話線を利用した高速ディジタル通
線からの雷サージを通信線にバイパス
信技術であるADSL/VDSLは,スプ
することで,機器を保護します.雷防
最後に「絶縁」です.絶縁は前述
リッタにより通 信 線 を電 話 信 号 と
護アダプタを設置する場合は,ブロー
の方法とは異なり,雷サージを侵入さ
ADSL/VDSL 信号とで共用する形態
ドバンド通信機器の電源と雷防護アダ
せない方法です.具体的には,電源線
となっています(図 2 (a)).ADSL/
プタを同一の電源コンセントに接続す
もしくは通信線に絶縁トランスを挿入
VDSLモデムは通常,イーサネットケー
ることが重要です.
し,雷サージを通過させない構成にし
ブルによりPCやルータに接続されます.
ます.絶縁方法で用いるトランスの両
このようなブロードバンド通信機器本
信号の損失が少なく,アナログ電話の
端には,雷サージにより高い電圧が発
体にも,過電圧からの保護のために過
信 号 と両 方 に適 合 する必 要 があり,
生するので,絶縁トランスの耐圧を高
電圧防護回路が組み込まれています
ISDN用では回路の構成上低電圧で動
くする必要があり,そのためにトラン
が,過電圧耐力が十分でないものが
作し,動作速度が速い素子が必要と
スが大型化し,高価になる欠点があり
あったり,過大な過電圧が侵入した場
なります.NTT東日本では回線種別
ます.ブロードバンド通信機器は,一
合には,被害を受けることがあります.
に応じた製品を開発しています.
般に接地をとらないため,通常は前述
このような場合の対策として,通信
のバイパス法による雷防護方法が採用
線と電源線を避雷素子を介して機器の
されていますが, ACアダプタのトラン
外部でバイパスする雷対策方法があり
スに耐圧を持たせた絶縁法を用いる機
ます(図2(b))
.
成でき,多くの情報通信機器の雷防
護方法として利用されています.
器も増加しています.しかし,ACアダ
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NTT技術ジャーナル 2003.3
雷防護のために,ブロードバンド通
ADSL用の雷防護アダプタは高周波
ネットワーク機器の雷防護方法
家庭においてもADSL/VDSLが普
及するのに伴い,PC,HUB等の情報
通信機器を用いてLANを構成するケー
特
集
スが増えています.このような場合,
本的には個々の機器に対してバイパス
続されている情報通信機器すべてに雷
機器の電源はそれぞれの機器が設置さ
による雷防護を行うことで対処してい
防護アダプタを取り付ける必要があり
れる場所のコンセントに接続されます.
ます.
ます.
これら情報通信機器に対して雷サージ
ネットワーク用の雷防護アダプタとし
は電源線もしくは外部の通信線から侵
て,ツイストペアケーブル用の「100B-T」
,
入してきます.ネットワークに接続さ
同軸用の「10B-5」と電源用の「PW」
れる情報通信機器の中には雷防護回
が開発されています.これらのネット
今後,家庭におけるネットワーク化
路が搭載されていないものや,耐力が
ワーク用雷防護アダプタを用いた対策
はますます拡大され,これまでネット
十分でないものもあり,雷サージによ
法を図3に示します.ネットワーク用
ワークに接続されていなかったTV,ビ
り被害を受ける危険性があります.ま
雷防護アダプタは,電源用PWと通信
デオなどのAV機器や,冷蔵庫,電子レ
た,雷サージの被害を受けた機器から
ケーブル用の100B-T,もしくは10B-5
ンジ,エアコンなどの家電機器がネッ
ネットワークの線を介して他の機器に
と組み合わせて使用します.同一コ
トワークに接続されることが予想され
雷サージが回り込み,被害が拡大する
ンセントに接続されているネットワー
ます.今後のホームネットワークのイ
場合があります.これはネットワーク
ク機器を単位として,雷防護アダプタ
メージを図4に示します.このような
を構成した場合の特徴です.
によりバイパス回路を構成します.本
環境において,雷サージなどの過電圧
ネットワークに接続された機器の雷
構成では,雷サージは電源線よりネッ
は,電源線,通信線だけでなく,TV
防護は,機器が接続する電源コンセ
トワーク機器に侵入し,雷防護アダプ
アンテナ,CATV同軸ケーブルなどか
ントが異なるため,図2(b)で示した
タを介して通信ケーブルへ流れます.
らも侵入し,ネットワークを介してさ
ADSL/VDSL機器のように一括で対
そのためネットワークに雷サージが流
まざまな機器に被害を与えることが考
策することは困難です.そのため,基
れることになるので,ネットワークに接
えられます.このようにホームネット
ホームネットワークにおける雷防
護技術
10B-5
雷防護アダプタ
PC
PW
HUB
100B-T
PC
電源線
100BASE-T
電源線
雷サージ
図3 ネットワーク用雷防護アダプタを用いた対策方法
NTT技術ジャーナル 2003.3
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多様化するネットワークアプライアンスの雷防護技術
接地線
配電線,電源線
通信線
ネットワークケーブル
アンテナ線
PC
TV
HUB
ビデオ
エアコン
電源線
アンペア 漏電
ブレーカ 遮断機
PC
冷蔵庫
分岐回路
通信線
HUB
モデム
電子レンジ
雷防護
回路
加入者
保安器
図4 ホームネットワークにおける雷防護のイメージ
ワークにおける雷防護はますます重要
め,家屋内の機器すべてを保護できま
になりますが,これまでの防護方法の
す.しかしながら,このような共通接
ように機器ごとに対策するとコストが
地を行うためには電源コンセントすべ
膨大になったり,対策の弱点から機器
てに接地線を配線する必要があり,ま
に過電圧が侵入して故障に至ることが
た,配電盤への雷防護回路の設置,
考えられます.
加入者保安器接地との共用化などの
ネットワーク化された家屋の雷防護
方法として,家屋を一括して共通接地
を構成する方法が提案されています.
この方法は,図4に示すように家屋内
で接地を必要とする機器を接地に一
括接続し,外部から家屋内に引き込
むケーブルのすべてに雷防護回路を組
み込むことが特徴です.これは雷防護
の基本方法である等電位化とバイパス
とを組み合わせたものです.
雷サージは,家屋内に引き込まれて
いるどのケーブルから侵入しても,雷
防護回路を介して接地線に流れるた
50
NTT技術ジャーナル 2003.3
課題があるので,今後解決していく必
要があります.
倉本 昇一
今後家庭内のネットワークに接続される
機器が増加することに伴い,情報通信機器
の雷防護の必要性が増してくることが予想
され,一般の家電製品も組み込まれるよう
になると考えられます.NTTでは今後ます
ます重要になる雷防護技術を開発し,提供
しています.
◆問い合わせ先
NTT東日本
サービス運営部
技術協力センタ EMC技術担当
TEL 03-5739-3240
FAX 03-6408-2914
E-mail [email protected]
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