Comments
Description
Transcript
見る/開く - ROSEリポジトリいばらき
ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ) Title Author(s) Citation Issue Date URL ドイツ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状につい て 臼井. 英男 茨城大学教育学部紀要. 人文・社会科学・芸術(35): 33-41 1986-03 http://hdl.handle.net/10109/11115 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属 します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。 お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)35号(1986)33−41 33 ドイッ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状について 臼 井 英 男* (1985年9月28日受理) On the pregent state of Bayern State Opera in Federal Republic of Germany Hideo USUI (Received September 28,1985) 1. はじめに ドイッ連邦共和国(以下西ドイッと記す)におけるオペラ界の現況は,活気を呈しており,同国 を世界有数のオペラ国といっても過言ではない。このことは,同国におけるオペラの長い歴史とそ の伝統があってこそと思われるが,大都市のみならず,中,小の市においても劇場を持ち,しかも 長期の上演期間を定め,その上演にオペラを多く取りあげていることや,その観客の動員率の高さ 等のことから,西ドイッの市民とオペラとの関係が不可分であることが分かる。 西ドイツの劇場の多くは,「公営事業劇場」(6ffentliche Theaterunternehmen)に属し,その 性格は, 「特殊な公営事業形態,或いは私的な権利形態で経営するにせよ,法的及び管理上の代表 が,州,市及び市連合体であるもの」とされ,又「事業劇場」(Theaterunternehmen)とは「専属 のアンサンブルを持ち,定められた期間上演活動をし,かつ存続する劇場」とされている乙) 西ドイッの「公営事業劇場」(以下公営劇場と略記)は,それぞれに劇場組織体を持って年間計画 を立てているが,その規模によりかなりの格差が生じているも事実である。「労動休暇」(Tarifurlaub) は,劇場によって異なるが,約6週間前後であり,多くの場合,これを夏季に当てるように計画さ れている。「上演期間」(Spielzeit,以下シーズンと記す)は,中,小規模の劇場の場合,8∼9月 から開始し,翌年の6∼7月まで,或いはより短かい期間の場合もあるが,大劇場の場合には,8 ∼9月から開始して後1年間であり,その間通常の上演に加えて,フェスティバル,国内外での引 越し公演(客演),或いはレコーディング等が組み込まれるので多忙を極める。 シーズン中の上演回数は,バイエルン州立オペラのような大規模な組織体を持っ劇場の場合では, 労働休暇を除けば殆んど毎日の310回前後,中規模の場合でもおよそ200回以上,小規模の場合は さまざまである。.しかし,いずれの劇場も,12月24日のクリスマス・イヴは休暇のため休演となる。 西ドイッの公営劇場は,現在総数86であるが,タイプとして,1)オペラ・バレー劇場,2)演 *茨城大学教育学部音楽史研究室 34 茨城大学教育学部紀要(人文・杜会科学,芸術)35号(1986) 劇劇場及び3)オペラ・バレー,演劇兼用劇場の3種類に分類できる。1)のオペラ・バレー劇場 は,オペラとバレーを専用として上演する劇場組織体を持ち,時にコンサートも行うもので,西ド イッの代表的な大規模劇場,ベルリン・ドイッ・オペラ,ハンブルク州立オペラ,バイエルン州立 オペラ等を含み,その数は8である。2)の演劇劇場は,演劇専用の劇場組織体を持つもので,そ の数は33である。3)のオペラ・バレー,演劇兼用劇場は,オペラ,バレー及び演劇を上演し得る 劇場組織体を備え,コンサートも行うもので,その数は45と西ドイツでは最も数の多いタイプであ る。1)及び3)のタイプの劇場でコンサートが行われると記したが,これは,それぞれの組織体 に指揮者,オペラ歌手(ソリスト),合唱団,及び多くの場合,オーケストラをかかえているので, コンサートを主催することは容易であるし,又国内外のソリスト及び音楽団体を招へいしてコンサ 一トを催すこともある。 舞台ものを上演するということは,とかく出費のかさむものであるが,特にオペラの場合にはそ れが膨大であり,入場券や広告の収入でまかないきれるものではない。西ドイッの公営劇場の収支 決算による赤字額は,劇場の権利所有形態により,国,州,市,或いは複数の市から支出される補 填によって処理される。国の補損金は,州や市のそれに比較すれば小額であり,又少数の劇場に配 分されるもので,対象となる劇場は年によって変わる。 西ドイッのオペラ界を代表する,所謂三大オペラ劇場とは,西ベルリンのベルリン・ドイッ・オ ペラ,ハンブルクのハンブルク州立オペラ,それにミュンヘンのバイエルン州立オペラであるが, 中でも後者が最も活況ある状態を維持していると思えるので,今回はバイエルン州立オペラを取り あげ,1980/81年シーズン,1981/82年シーズンの劇場統計資料を中心にして,その現状を分析 し,考察したい。 2.劇場の席数 バイェルン州立オペラは,オペラ・バレー専用の州立公営劇場であるが,少ない回数ながら,定 期的にコンサートも開催している。同オペラは,ナツィオナル劇場が本拠地で,ここには事務局及 びオペラやバレーを上演するための大ホールがある。他に,小規模のアルテス・レジィデンッ劇場 (同劇場の設計者名をとってキュヴィリエ劇場の別名があるが,この方が一般的に用いられている ので,以下キュヴィリエ劇場と記す),実験的な舞台としてのマルシュタル劇場,それに主にリバー サルに当てられるプリンツ・レゲンテン劇場がある。これ等の劇場の席数を記すと,ナッィオナル 2) ?黷ェ2,101席,キュヴィリエ劇場463席,マルシュタル劇場150席(但し,非固定席で,50席ま での増減可),それにプリンッ・レゲンテン劇場が⊥,122席であるぎ 西ドイツの公営劇場のうち,オペラやバレーを上演する劇場の席数は,1,000席前後が多く,大 劇場と称される劇場でも,ベルリン・ドイッ・オペラの1,885席,ハンブルク州立オペラ・大ホー ルの1,675席等1)同国において2,000席以上の劇場は,前記ナッィオナル劇場が唯一であり,イタ 5) 潟Aのラ・スカラ劇場(ミラノ)の3,200席やサン・カルロ劇場(ナポリ)の3,500席と比較するとそ の数は少ない。このことは,財政的なことに起因する差ではなく,イタリア・オペラとドイッ・オ ペラの質の相違によるもので,その1例,アンサンブルをより重視するドイッ・オペラの特質を考 臼井:ドイツ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状について 35 えても,舞台へのより視覚的,聴覚的な配慮によるものと理解し得る。 オペラを上演する劇場の規模は・オペラ作品の規模により,大劇場(1,500席以上),中劇場(1,000 席前後),小劇場(500席前後)と揃えば理想的であるが,バイエルン州立オペラには,大,小の劇場 がある。もっとも,ミュンヘン市内には,バイエルン州立オペラの他に,オペレッタを中心にオペ ラ,バレーを上演する,席数932のバイエルン州立劇場ゲルトナープラッツがあるので,その特色 は異なるとはいえ,ミュンヘン市には大,中,小の劇場が存在し,理想的な劇場配置となっている。 ナッィオナル劇場は,前述のように西ドイッ公営劇場中,最多の席数を持つオペラ・バレー専用 の大ホールを備えている。このホールでは,オペラやバレー上演の他に,少ない回数ではあるが, 座付きのバイエルン州立オーケストラの定期演奏会やその他のコンサートも行われる。席数は,前 述のように2,101であるが,コンサートを行う場合には,オーケストラ・ピットを用いないために, その面積を利用して128席を設け,席数を2,229とオペラやバレー上演の場合よりも多くしている。 席の種類は,固定座席が大半を占めるが,入場料の安い立席(Stehplatz)321席,聴席(H6rerplatz) 20席,それに総譜席(Partiturplatz)28席とがある。立席は,所謂立見席であるが,幅の狭い仕切 りのない板状の腰掛けがある。聴席と総譜席は,普通の座席であるが舞台が見えない位置にある。 しかし,総譜席には楽譜を見るための小さな照明が備えてあるので,楽譜を見ながら演奏を聞くこ とができる。総譜席は,日本では見かけないものであるが,音楽を専攻する学生等にとっては非常 に有効である。 キュヴィリエ劇場は,小規模の劇場であり,従って,小規模のオペラ,バレー,及びコンサート 等に用いられる。ナツィオナル劇場とは異なり,この劇場には立席,聴席,総譜席はない。席数は 463であるが,オペラやバレーの場合,オーケストラの編成により,オーケストラ・ピットを拡大, 或いは縮少させることにより,席数を増減することができる。オーケストラの大きい編成の場合の オペラの席数は434,バレーの場合は503とし,前述の463席は,通常のオーケストラ編成で行わ れるオペラの場合である。但し,コンサートの場合には,オーケストラ・ピット上を利用して席を 設け,523席としている。 マルシュタル劇場は,実験劇場であり,席は固定式ではないので,150席と発表されていても100 から200までの席は自由に増減できる。プリンツ・レゲンテン劇場は,リハーサルに用いられ,席 数は1,122である。又,そのホワイエは,オーケストラのリハーサルに当てられている。 ヨーロッパの多くのオペラ劇場は馬蹄形であるが,ナツィオナル劇場もキュヴィリエ劇場も同様 である。両劇場共に第二次世界大戦の際に破壊され,後に復元されたものであるが,この馬蹄形劇 場の欠点は,席の位置により,視覚的にかなりの不公平が生じ,又全く舞台が見えない席も生じて しまうことである。従って,前述のように聴席や総譜席が設けられることになるが,それでも舞台 間近の階上席は,聴くにも,見るにも不利である。 3.オペラ,バレーの上演及び演奏会回数 バイエルン州立オペラの組織としての規模は,西ドイツにおいて最大級のものであり,従って, 上演回数も多い。 36 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)35号(1986) シーズンは,9月1日から翌年の8月31日までであるが,宗教的な理由による休日は,クリスマ ス・イブと復活祭中の1日とがあり,又労働休暇による休演期間は8,9月に集中する。その他の休 演日としては,電気関係器具の点検,或いは,国内外への演奏旅行によるものがある。シーズン中 の大きな行事としては,5月下旬から6月上旬にかけての「バレー・フェスティバル週間」と7月 初旬から8月初頭にかけて約1ケ月弱の間行われる「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」とが ある。 表1.バイエルン州立オペラの上演及び演奏会回数1980/81年シーズン7) 上演種目 劇場名 1∼5の計 オ ペ ラ バ レ ー オペレッタ コンサート 他団の客演 1 2 3 4 5 6 62 一 11 3 309 一 37 A ナツィオナル 233 B C D キュヴィリエ 8 23 一 マルシュタル 4 14 一 一 一 A∼Cの計 245 99 一 17 3 6 18 364 8) ¥2.バイエルン州立オペラの上演及び演奏会回数1981/82年シーズン 上演種目 劇場名 A B C D オペラ バ レ ー オペレッタ コンサート 他団体の客演 1∼5の計 1 2 3 4 5 6 2 10 1 276 7 4 26 ナツィオナル 195 68 キュヴィリエ 9 6 一 マルシュタル 0 8 一 一 A∼Cの計 204 82 2 17 15 23 20 325 1981/82年シーズン(表2)の上演回数が,1980/81年シーズン(表1)のそれと比較して少ない のは,州立オペラがギリジャに客演したためであって,例年の上演回数は,表1に見られる回数で ある。但し,オペレッタは,少ない回数ながら毎年行われる慣わしであるが,表1にはそれが見当 らず,このシーズンはオペレッタが一度も上演されなかった珍らしい例である。マルシュタル劇場 の上演回数は,実験劇場であるために,シーズンにより回数に増減が見られる。 バイエルン州立オペラの上演劇場としての中心は,ナッィオナル劇場であるが,上演種目の中で 最も多いのがオペラ,次にバレー,最も少ないのがコンサートである。表1によれば,80/81年シ 一ズンのオペラ上演回数は,ナッィオナル劇場233,キュヴィリエ劇場8,マルシュタル劇場4の 計245回であるが,特にナツィオナル劇場の233回は驚くべき上演回数である。バレーは,ナッィ オナル劇場62,キュヴィリエ劇場23,マルシュタル劇場14の計99回であるが,これもナッィオナル 劇場の回数が圧倒的である。オペラ,バレー,コンサートの総回数は,364回であり,そのうち, ナッィオナル劇場の309回は,総回数の85%,キュヴィリエ劇場の37回は10%,マルシュタル劇場 の18回は5%となり,ナツィオナル劇場の稼働率がいかに高いかがわかる。1劇場の1シーズン 309回という数字は,通常の夜の上演に加えて,マティネー上演という1日2回上演のケースはあ るにせよ,僅かな休日及び労働休暇を除けば,ほとんど毎日の上演活動となる。ナッィオナル劇場 臼井:ドイツ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状について 37 における同シーズンの上演と演奏会の総回数に占めるオペラ,バレー,コンサート及び他団体の客 演の比率は,それぞれに,67%,27%,5%,1%となり,このことから,バイエルン州立オペラ の上演種目の中心は,オペラであることが分かる。なお,同オペラは,他地での客演を,80/81年 シーズンに6回,81/82年シーズンに21回行っている。 オペラとバレーの上演スケジュールのたて方は,ナッィオナル劇場の場合,オペラを数日から1 週間程連続して後,バレーを1回挿入するサイクルが常であり,バレーを連続して上演することは せず,又オペラの場合,同一作品を連続して上演することもない。西ドイッのオペラとバレーを上 , 奄キる多くの劇場は,その上演回数に差こそあれ,両者の上演スケジュールは,前述の方法によっ ており,オペラの上演回数は,バレーのそれをはるかに上回り,このことから,西ドイツ市民は, バレーよりもオペラを好むことが理解できる。 オペレッタは,オペラに準ずる性格を持っているが,バイエルン州立オペラの場合,同じミュン ヘン市内にあるバイエルン州立劇場ゲルトナープラッッにおいて,それが多く上演されることもあ り,オペレッタを上演する機会は,前述の80/81年シーズンのように皆無の珍らしい例もあるが, 例年,年末,年始恒例の催しとして,シュトラウス(J.Strauss)のオペレッタくこうもり〉(Die Fledermaus)の上演のみと少ない。 コンサートは,オペラやバレーの上演回数と比較すれば極端に少ないが,これはバイエルン州立 オペラが,オペラ・バレーの専用劇場であるので当然のことである。ナツィオナル劇場のコンサー トは,バイエルン州立オーケストラの演奏会眠アカデミー・コンツェルテ”(Akademie−Konzerte) のことであるが,他に若干のコンサートが行われる。このバイエルン州享オーケストラは,バイエ ルン州立オペラの所謂,座付きのオーケストラであることは前に述べたが,団員は80/81年,81/ 82年の両シーズン,140名であった。定期的に行われる演奏会数は,1シーズン約10回程度であり, 通常オーケストラ・ピット内で演奏している団員も,この演奏会の際には舞台上で演奏することと なる。一方,キュヴィリエ劇場のコンサートは,同オーケストラの駕曜カンマー・ムジーク・マティ ネー”(Kammermusik−Matin6en)を中心とし,他にソロ・リサイタルも含めて,表1,表2の ように,10回に満たない演奏会回数である。 バイエルン州立オーケストラの団員は,A,Bの2組に分かれ,交替で演奏を受け持っている。 オーケストラのリハーサルは,午前10時から午後1時まで,マティネー以外の本番は,作品の演奏 時間にもよるが,多くは夜の7時から10時頃までで,長時間を要する作品,例えばワーグナー(R, Wagner)のくニュルンベルクのマイスタージンガー〉(Die Meistersinger von NUrnberg)の場合に は,夕方の5時から夜10時45分の終演となる。なお,マティネーは,午前11時開演である。オーケ ストラのみのリハーサルは,上演の全作品について行うものではなく,久しく上演されなかった作 品,特にリハーサルを必要とする作品等に対してであるが,新演出作品の場合には,少くとも1ケ 月間は行われるし,又コンサートの場合にも当然のことながら実施される。前述の回数のオペラ, バレー,コンサートの本番とそれらのリハーサルを考えると,大規模劇場の座付きオーケストラの 仕事は実に激務である。 38 茨城大学教育学紀要(人文・社会科学,芸術)35号(1986) 4. レパート リー 劇場におけるオペラとバレーの「レパートリー」(Repertoire)とは,上演可能な状態となってい るオペラ,バレーの作品群を指す。それ等は,劇場の過去の蓄積によるものであるが,上演された 作品の中から,作品の優秀性,重要度,人気度等により選択されて,レパートリーに組み込まれる。 しかも,レパートリーには,絶えず新鮮さを保つことの必要から,過去の作品の中から幾っかの作 品が必ず新演出や再演出の方法により再生されて組み込まれるし,又全く新しい作品が導入されも する。作品の上演耐用年数は,作品により異なるが,10年間も上演される例は珍らしく,多くの作 品は数年であり,その後,レパートリーからはずされる。 バイエルン州立オペラは,上述の「レパートリー」システムを採用しており,シーズン毎に新し い演出作品を上演する「シーズン」システムではない。前者は,大規模の劇場で採用されており, 後者は小規模の劇場でのシステムである。オペラ,バレーは,このレパートリーの中から,上演毎 に異なる作品が取り出される訳であるが,人気度等により各作品の上演頻度に差が生じ,頻度の高 い作品は残り,少ない作品はレパートリーから姿を消すこととなる。 バイエルン州立オペラの81/82年シーズン時でのレパートリーは.オペラ58作品,バレー46作品 であり,新演出,再演による作品は,同シーズン中オペラ5作品,バレー4作品であった。次に, そのレパートリーのうち,オペラ作品のみを,作曲家別にして記す。 9) 激pートリー(オペラ)1981/82 L.べ一トーヴェン WA.モーツァルト 〈フィデリオ〉 〈偽りの女庭師〉 A.ドヴォルザーク 〈イドメネオ〉 〈ルサルカ〉 〈後宮よりの逃走〉 W.エック 〈フィガロの結婚〉 〈ペール・ギュント〉 〈ドン・ジョヴァンニ〉 C.W.グルック 〈コシ・ファン・トゥッテ〉 〈タウリスのイフィゲニア〉 〈ティトの仁慈〉 C.グノー 〈魔 笛〉 <ファウスト> C.オルフ E.フンパーディンク 〈賢い女〉 〈ヘンゼルとグレーテル〉 〈オルフェオ〉 R.レオンカヴァルロ Hプフィッツナー 〈道化師〉 〈パレストリーナ〉 P.マスカー二 G.プッチー二 〈カヴァレリア・ルスティカーナ〉 〈マノン。レスコー〉 J.マスネ 〈ラ・ボエーム〉 〈ウェルテル〉 〈トスカ〉 〈蝶々夫人〉 臼井:ドイツ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状について 39 A.ライマン P.Lチャイコフスキー 〈リ ア〉 〈イフゲニ・オネーギン〉 G.ロッシー二 G.ヴェルディ 〈セヴィリャの理髪師〉 〈リゴレット〉 〈シンデレラ〉 〈イル・トロヴァトーレ〉 A.シェーンベルク 〈椿 姫〉 〈モーゼとアロン〉 〈シモン・ポッカネグラ〉 G.シノポーリ 〈仮面舞踏会〉 〈ル・サロメ〉 〈ドン・カルロ〉 B.スメタナ 〈アイーダ〉 〈売られた花嫁〉 〈オテッロ〉 R.シュトラウス R.ワーグナー 〈災 厄〉 〈さまよえるオランダ人〉 〈サロメ〉 〈タンホイザー〉 〈エレクトラ〉 〈ローエングリン〉 〈ばらの騎士〉 〈トリスタンとイゾルデ〉 〈ナクソス島のアリアドネ〉 〈ニュルンベルクのマイスタージンガー〉 〈影のない女〉 〈ラインの黄金〉 〈エジプトのヘレナ〉 〈ワルキューレ〉 ‘ 〈カプリッッィオ〉 <ジークフリート》 J・シュトラウス 〈神々の黄昏〉 〈こうもり〉 〈パルシファル〉 以上,58のオペラ作品によるレパートリーを見ると,古典から現代までと幅が広く,又その数も 多い。レパートリーの中心にすえられている作品は,この州立オペラの劇場とかつて係わりのあっ た作曲家達,モーッァルト,ワーグナー,Rシュトラウス等の一連の傑作であり,又イタリアの作 曲家達,ヴェルディ,プッチー二の諸作品も同様の扱いを受けている。フランスの作品は少なく, このことは,西ドイッの他の劇場にも言い得ることである。なお,このレパートリー中の作品が, 州立オペラにおいて上演される際には,全て原語で行われ,訳詞による上演は行われない。これは, 訳詞によって生じる言葉と音楽との不調和を避けるためであると共に,オペラ作品本来の価値を尊 重としての上演を主眠としていることの現れであり,この劇場の大きな特徴ともなっている。 10) T.予 算 バイエルン州立オペラの権利所有者は,バイエルン州であるので,州派遺の監督官監視のもとに劇場 は経営されている。同オペラの収入は,入場料,客演料,録音・録画・中継料,プログラム代,ク ロークのサーヴィス料等があるが,1981年の予算のうち,総収入は21,115,000DMである。その 40 茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)35号(1986) うちの大半は入場券による収入で,一般券12,103,000DM,年間予約券3,043,000DM,鑑賞団体 券2,997,000DMの計18,143,000DMであり,全収入の86%を占めている。支出は,人件費59,937,000 DM,物件費12,602,000DM,それに特別融資530,000DMと建築費5,333,000DMで合計78,402,000 DMとなり,その収支は,57,287,000DMの赤字である。 赤字額の捕填は,国521,000DM,バイエルン州45,097,000DM,ミュンヘン市11,300,000DM, それに私立施設369,000DMであり,州は補填総額の79%と最も多く,劇場所在地のミュンヘン市 はその20%を負担している。なお,1981年時の1ドイツ・マルクは100円前後であったので,便宜 上,1ドイッ・マルクを100円として換算すると,州立オペラの予算総額は78億4,200万円,赤字 額は57億2,870万円で,バイエルン州からの赤字補填金額は45億970万円,ミュンヘン市からのぞ れは11億3,000万円,その他となる。 支出の中心は人件費であるが,州立オペラの従業員数は契約歌手やパートタイマーを除いて963 名であり,正に大所帯である。その内訳は,技術者420,オーケストラ団員140,事務職員等141, 合唱団員95,バレー団員58,舞台指導者や指揮者42,その他となっている。 6.む す び バイエルン州立オペラは,オペラ,バレーの上演回数,そのレパートリーの数,従業員数,予算 と,どれを取りあげてみても大規模である。特に,この大きな組織体を支えるものは市民の力であ り,それなしにはあの膨大な予算は組めない。 16世紀末に誕生したオペラは,長い間ヨーロッパにおいて,王候,貴族の庇護のもとに発展して きたが,封建社会の崩壊と共に,市民のもの,即ち,国立,州立,市立等の形態をとって現在に至 っている。日本では,国立オペラ劇場はなく,現在進められているのは,その設計の国際公募とい う段階に過ぎず,西ドイツのオペラ事情とは比較の仕様もないが,日本の文化庁という国の行政機 関の音楽団体等への援助額を比較の対象として提示し,州立オペラの赤字に対する自治体の補填金 の額の大きさを考えたい。 州立オペラの予算は,1981年のものであるので,同年の文化庁予算を取りあげる。資料は,昭和 56年度「文化庁年報』(文化庁,昭和59年)による。金額は,千単位を切り捨てる。昭和56年度文化 庁予算総額は,396億3,000万円であり,そのうち,音楽のみではないが関係するものの主なもの を記す。こども芸術劇場2億1,311万円,青少年劇場3億6,160万円,移動芸術祭4億5,213万円, 芸術関係団体補助12億5,043万円,芸術家研修1億5,190万円,芸術祭9,445万円,国立劇場補助 21億5,887万円等,他にも音楽と関係するものはあるとしても,少くとも音楽鑑賞そのものの補助 に結びつくものはない。以上の金額の合計は,46億8,249万円であり,県ではなくて,国が行う補 助項目をこれ程に集めての合計額が,西ドイツの1州の1劇場への補填金額と大差はないのである。 しかも,バイエルン州は,州立オペラ以外にも,州立劇場ゲルトナープラッツ及び州立演劇劇場を 持っており,それぞれの劇場の赤字補填金額は,前者に26,833,000DM(26億8,330万円),後者 に18,654,000DM(18億6,540万円),又他にミュンヘン・カンマー・シュピーレにも112,000DM (1,120万円)出している。バイエルン州の劇場補填金総額は,90,696,000DM(90億6,960万円) 臼井:ドイツ連邦共和国のバイエルン州立オペラの現状について 41 であり,実に膨大な額を文化費として投入している。 最後に,この膨大な予算額を認めるドイツ市民の観劇,鑑賞の関心度は,劇場統計の充席率によ って分かるが,州立オペラの81/82年シーズンの充席率ばPナツィオナル劇場のオペラ,オペレッ タ,バレー,コンサートはそれぞれ,91.2%,87.7%,100%,90%であり,キュヴィリエ劇場 ’ のオペラ,バレー,コンサートは,94.4%,71.5%,それに93.7%と高率である。特に,90%以上 の場合にはほとんど満席に近い。バイエルン州立オペラは,市民のために世界的な質のオペラ,バ レー,コンサートを提供し,自治体は補填金を出すことによって支援し,市民は税金を納めること によって芸術を満喫するという理想的なサイクルが,ミュンヘンにおいて繰り広げられている。 注 1)F・anz−H・i・・Kdhler・‘‘6ff・ntli・h・Th・ateruntern・hm・∬,Spi・1・tatt,n, Recht,f。。m, Plat。e i。 der Spielzeit 1980/81”, 7ワzeα‘θr8古α琵8‘‘ん 16(Kbln,1982), P.5. 2) Ibid., p.5. 3)Gerh・・d D・ager・“Di・d・utsch・n Th・ater”, D飢8cん・s磁ん…痂加ん・982(H・mburg, 1982),P.326. 4)Osca・Th・mp・・n』・・傭・mα伽αゆ・Z・圃呵漁・‘…d蜘・‘伽・(N,w%。k, D。dd, Mead&Company,1964), p.1878, p.1888. 5)F・anz−H・i・・K6hler・‘‘dff・ntli・h・Th・ateruntern・hm・n, Spi・1・tatt。n, Recht。f。。m, Pl駐tze i。 der Spielzeit 1980〆8r’,7偽θα‘θrs古α彦‘8‘ε1己16(K61n,1982), pl 5. 6) Ibid., p.5. 7)F・anz−H・i・・K6hl…‘‘V・ran・t・1・ung・n i・der Spi・lzeit・980/8・・,肪・α‘・・s励古‘ん16.(Kbl。, 1982),P.15. 8)F・anz−H・i・・K6hler・“V・・an…lt・ng・n i・d・・Spi・lzei・・98・/82・.銑・α亡…ε・脱ん16(Kδ1。, 1983),P.15. 9)Klau・S・h・1・・“R・p・・t・ire”・β励・・d・・Bα獅・・ん・・8εαα卿…98・/82.1(MU。,h。n,・98・). 10)F・anz−H・i・・Kδhl・r,“Einnahm・n und Z・w・i・・ng・n im Rechnung・jah・1981・,跣,αε。.8εα‘‘。励 17(Koln,1983), pp.50−51. 11) Ibid., p.80.