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調査対象技術の技術概要(PDF:317KB)

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調査対象技術の技術概要(PDF:317KB)
調査対象技術の技術概要
【移動体通信等に用いられるアダプティブアレーアンテナに関する技術】
1.アダプティブアレーアンテナの定義と対象範囲
「アダプティブアレーアンテナ」とは、伝搬環境に応じて指向性を適応的に制御可能な機能を
有するアンテナであり、図1に示すように、所望波の捕捉かつ干渉波の抑圧、すなわち所望の方
向に主ビームを向けるとともに干渉方向にヌル(指向性の不感点)を形成する機能を具備するア
ンテナとの認識が一般的である。この定義に従い、電子的制御により単に所望の方向に主ビーム
を向ける電子走査型アンテナ(フェーズドアレーアンテナ)や、1 つのアレーアンテナによって複
数のビームを形成するもの(マルチビームアンテナ)など、特定の方向(干渉方向)に意図的に
ヌルを形成する機能を有していないものは、アダプティブアレーアンテナとは別のカテゴリーと
して扱われることも少なくない。しかし、これらは互いに独立したものではなく、むしろ共通的
基盤の上に成り立つ、互いに関連性の高い存在と捉えることができる。
図 2 に模式的に示すように、フェーズドアレーアンテナを中心に考えると、これに干渉除去の
観点でヌルステアリングに代表されるアダプティブなビーム形成機能を付加したものがアダプテ
ィブアレーアンテナであり、複数のビーム形成機能を付加したものがマルチビームアンテナであ
ると捉えることができる。
また、アダプティブアレーアンテナとほぼ同義に用いられている用語に、スマートアンテナが
ある。改めて述べるまでもなく、スマート(smart)とは「賢い」、「コンピュータ制御された」と
いった意味であるが、一つの捉え方として、アダプティブアレーアンテナとは、高機能アンテナ
が有する種々の機能のうち、アダプティブビーム形成、すなわち、所望波の捕捉かつ干渉波の抑
圧という空間軸上のフィルタ機能に主眼をおいた表現であり、マルチビームアンテナ、さらには
マルチビームアンテナにアダプティブ機能を持たせたものなどを含む、時間軸上の処理を組み合
わせた総合的な視点による表現がスマートアンテナであるといえる。なお、時間軸上の処理につ
いては、周波数軸上の処理と等価であることから、周波数領域での処理という見方もできる。
フェーズドアレーアンテナ、マルチビームアンテナ、あるいはアダプティブアレーアンテナ/
スマートアンテナのいずれに関しても、最適な指向性(放射パターン)の制御を行うことが重要
な点であるが、干渉抑圧を考える際には、もう一つ重要な視点がある。実際の移動通信環境にお
いてはマルチパス波の存在を無視できないが、マルチパス波をパス間で相殺するような制御によ
っても干渉を除去し得る。この場合、アンテナの指向性上の干渉方向にヌルが形成されるとは限
らない。
したがって、ここでは、より広い意味でアダプティブアレーアンテナを捉えることとする。す
なわち、複数のアンテナ素子を配列し、その各々の振幅や位相を制御することにより、伝搬環境
に応じた空間フィルタリング特性を適応的に実現するアンテナをアダプティブアレーアンテナと
1
定義する。
なお、SDMA(空間分割多元接続)や MIMO(多入力多出力)は、アダプティブアレーアンテ
ナの応用・展開型として捉えることができるため、空間フィルタリング特性の観点から、これら
についても対象範囲に含めることとする。
所望波
干渉波
放射パターン
図 1 アダプティブアレーアンテナの放射パターン
広義のアダプティブアレーアンテナ
(スマートアンテナと同義)
狭義の
アダプティブアレーアンテナ
アンテナ
アダプティブビーム形成
所望方向に主ビーム
干渉方向にヌル
複数のアンテナの
配列と制御
フェーズドアレーアンテナ
ビーム走査
位相制御により
所望方向に
主ビームを形成
信号処理
SDMA (ユーザ分離・空間制御)
MIMO (時空間信号処理)
※空間フィルタリングの観点
複数ビーム形成
異なる方向に主ビームを
持つ複数ビームの形成
マルチビームアンテナ
図 2 アダプティブアレーアンテナの対象範囲
2.対象となる技術領域
アダプティブアレーアンテナは、単独の受動素子としてのアンテナ素子とは異なり、例えば図 3
に示すように、アンテナ部、RF 回路部(給電回路、増幅器等)、信号処理部といった主要部位か
ら構成される総合的なシステムである。すなわち、通常抱いているイメージのアンテナを単に「ア
ンテナ」とするならば、アダプティブアレーアンテナは、
「アンテナシステム」とでも称すべきも
2
のである。
アダプティブアレーアンテナには、図 3 に示すように、個々の素子アンテナのそれぞれに増幅
器が独立して接続されたアクティブアレー型と、各素子アンテナで受信した信号を合成した後に 1
系統の増幅器に接続されるパッシブアレー型の構成とがあるが、いずれの場合もアンテナ部、RF
回路部、信号処理部が主要な構成部位であり、これらの部位毎にそれぞれ性格を異にする要素技
術を有す。それは端的に表現すれば、アンテナ部及び RF 回路部における高周波技術と、信号処理
部における信号処理技術に大別される。
また、実際にアダプティブアレーアンテナを使用するに際しては、素子アンテナの製作誤差等
に起因するアライメント誤差や RF 回路の特性のばらつき、また、使用時における時間変動による
ばらつきなどがビーム形成に影響を及ぼすことから、こうした特性のばらつきを補正する必要が
ある。そのため、校正技術も重要な要素技術として挙げられる。
したがって、高周波技術、適応制御のための信号処理技術、及び校正技術が、アダプティブア
レーアンテナに関する標準技術として扱う領域となる。
高周波技術
・ ・ ・
RF回路
アンテナ部
RF回路部
信号処理技術
校
正
ビーム形成
ウェイト制御
信号処理部
入力/出力
(a)アクティブアレー型
高周波技術
・ ・ ・
信号処理技術
ウェイト制御
ビーム形成
アンテナ部
信号処理部
校
正
RF回路
RF回路部
入力/出力
(b)パッシブアレー型
図 3 アダプティブアレーアンテナの基本的構成
3
3.対象技術全体の概要
ここで改めてアダプティブアレーアンテナの基本的な動作原理に沿って、その標準的技術を概
観する。なお、一般にアンテナは、増幅・発振回路と一体化させたアクティブアンテナなどを除
き、送信アンテナとして用いた場合も受信アンテナとして用いた場合も、周波数特性や指向性な
どは同一の特性を示すことが知られている。アダプティブアレーアンテナの場合は、送信用と受
信用とではその具体的な構成や制御の仕方が異なる面もあるが、伝搬環境に応じた空間フィルタ
リング特性の最適化という機能面で捉えると、送信用アダプティブアレーアンテナも受信用アダ
プティブアレーアンテナもほぼ同じ議論が可能である。そこで、ここでは受信用を想定して、ア
ダプティブアレーアンテナの機能について説明する。
図 3 に示したように、アダプティブアレーアンテナはアクティブ型とパッシブ型の構成に大別
できるが、これは、RF 帯においてビーム形成処理を行うのか、あるいは IF 帯やベースバンドにお
いてビーム形成処理を行うのかにも関係し、更にはアナログ信号処理によって実現するのか、デ
ィジタル信号処理によるのかにも関係する。
図 3(b)のパッシブアレー型の場合には、RF 帯において直接、アナログ信号処理によりビーム
形成が行われる。すなわち、各々の素子系統に増幅器やアッテネータ、移相器を設け、各素子系
統のアナログ信号(RF 信号)に対して、それぞれの振幅、位相を制御し、合成する。これは、ア
ナログビーム形成と呼ばれ、また、マイクロ波帯でのビーム形成であるということもあって、マ
イクロ波ビーム形成と呼ばれる場合もある。
一方、図 3(a)のアクティブアレー型の場合には、IF 帯に周波数変換した後に、IF 信号に対し
てアナログ信号処理を施すというのも一つの考え方であるが、更にはベースバンドにおいて A/D
変換を施し、得られたディジタル信号に対してディジタル信号処理によりビーム形成を行う方法
もある。これはディジタルビーム形成と呼ばれ、この方法によるアレーアンテナは、DBF(Digital
Beam-Forming)アンテナと呼ばれている。
DBF アンテナの場合、図 4 に示すように、アンテナ部(アレーアンテナ)を構成する複数の素
子アンテナでそれぞれ受信された信号に対し、増幅等の RF 段における処理(および必要に応じて
IF 帯への周波数変換)の後、A/D 変換器でディジタル信号に変換される。信号処理部ではディジ
タル信号処理によりビーム形成が行われ、各素子で受信された信号の合成信号が最終的に出力さ
れる。
ビーム形成のための信号処理とは、図 3(a)あるいは図 4 における信号の流れに沿って捉えれ
ば、各素子で受信された信号波に所定のウェイトを乗じて、それらの振幅、位相を所望のものに
変換して合成することを意味する。ここで、途中をブラックボックス化し、アレーアンテナ(ア
ンテナ部)を一つのアンテナとみなして最終的に得られる出力との間の関係に着目すれば(すな
わち、通常の「アンテナ」のイメージで捉えれば)、この信号処理は、空間的なフィルタの形成、
すなわち、アンテナの指向性(放射パターン)を合成していることと同値である。
この空間的なフィルタの形成を、図 5(a)に示すように、各素子アンテナに所定のウェイトを
4
与えることによって実現するものは、エレメントスペース・アダプティブアレーと呼ばれている。
これとは別に、図 5(b)に示すビームスペース・アダプティブアレーと呼ばれる構成もある。こ
れはビーム重畳、すなわち、あらかじめ複数のビームを形成し、各ビームで捉えた信号の出力に
対してウェイトを与えるものである。
以上の説明は、受信用アダプティブアレーアンテナ、すなわち他の干渉を受けずに所望の信号
のみを最大限に受信するという観点によるものであるが、他に干渉を与えることなく所望の方向
に最大限の電力を送るという視点も重要である。これが、送信用アダプティブアレーアンテナで
ある。送信用アダプティブアレーアンテナでは、最大限の電力を送るべき方向あるいは送るべき
ではない方向は最初の時点では不明である。そのため、送信時のアダプティブビーム形成におい
ては、受信ウェイトなどの受信時の情報を用いる必要がある。
TDD のように送受信で使用する周波数が同一の場合には、原則的には受信時のウェイトをその
まま使用することも可能であるが、FDD のように送受信で使用する周波数が異なる場合には、受
信ウェイトをそのまま送信時に使用するとヌルの位置がずれてしまい、最適なビームとはならな
い。したがって、送受信で使用する周波数が異なるシステムにおいて最適な送信アダプティブビ
ーム形成を行うためには、周波数の違いをいかにして補正し、送信ウェイトを与えるかが重要と
なる。
・ ・ ・
Rx-RF回路
A/D
A/D
・ ・ ・
A/D
ビーム形成
(ディジタル信号処理)
ウェイト
出力
図4
DBF アンテナの基本的構成
・・・
We1
We2 ・・・
・・・
マルチビーム形成
WeN
Wb1
・・
・
・・・
Wb2
・・
・
WbN
+
+
(a)エレメントスペース・アダプティブアレー
(b)ビームスペース・アダプティブアレー
図 5 アダプティブアレーアンテナにおけるウェイトの与え方
5
4.主要構成要素の概要
前章では、基本的な動作原理に沿ってアダプティブアレーアンテナの全体概要を述べた。ここ
では、主要な構成要素の概要について言及する。
(1)アンテナ
アダプティブアレーアンテナは、信号処理によって目的に応じた最適な空間フィルタリング特
性が実現されるものであるが、その最適化は与えられたアレーアンテナに対して行われる。すな
わち、指向性の最適化による干渉波抑圧特性等は、アレーアンテナを構成する素子アンテナの配
列の仕方や特性に依存するものである。したがって、アンテナの設置場所、信号伝送速度、伝搬
環境等の条件に応じた素子アンテナの配列の仕方や素子アンテナの形状が重要である。
また、損失低減やコスト低減の観点からすると、アンテナと RF 回路(増幅器や発振器等)との
一体化(アクティブアンテナ)、集積化(インテグレーテッドアンテナ)といった実装技術も重要
な要素技術である。
(2)RF・給電回路(送受信装置)
RF 回路部(あるいは送受信装置)の構成は、変調方式や多元接続方式の違い、FDD なのか TDD
なのかなどのシステム要件に応じて異なる。
また、アンテナ素子数が多くなればなるほど RF 回路部は複雑化することから、損失低減、コス
ト低減等の観点からも、給電回路や送受信装置の構成が重要となる。
なお、前記のアンテナ素子に能動素子を付加したアクティブアンテナ、マイクロ波集積回路
(MMIC)とアンテナを一体化させたインテグレーテッドアンテナ(集積化アンテナ)等も、アン
テナ部と RF 回路部に跨る重要な技術である。
(3)信号処理
指向性を含む空間フィルタリング特性の制御は信号処理によって実現される。したがって、信
号処理技術はアダプティブアレーアンテナを構成する大きな柱の一つである。空間フィルタリン
グ特性の制御に必要な演算量はアンテナ素子数が増えるにしたがって増加し、適用するアルゴリ
ズムによっても大きく異なる。また、演算量の増加は、装置の消費電力やコストの増加につなが
るため、可能な限り演算量を削減し、所望の性能を実現することが求められる。さらに、RF 回路
部と同様、変調方式の違いや FDD なのか TDD なのかなどによっても、ウェイト決定の手順など、
信号処理の構成が異なってくる。
例えば、TDD の場合には、原則的には受信時のウェイトをそのまま使用する送信用アダプティ
ブアレーアンテナを構成することができる。ところが、FDD のように送受信で使用する周波数が
異なる場合には、受信時のウェイトをそのまま送信時に使用するとヌルの位置がずれてしまい、
6
最適な空間フィルタリング特性を実現することができない。そのため、送受信で使用する周波数
が異なるシステムにおいては、周波数の違いを補正して最適な送信アダプティブビーム形成を行
う構成が必要である。
したがって、信号処理の構成は、アダプティブアレーアンテナにおいて極めて重要な要素であ
る。なお、規範(指導原理)やアルゴリズム(計算手順)の違いのほかにも、RF 領域におけるア
ナログ処理を行うのか、あるいはベースバンドにおいてディジタル処理を行うのかといった違い
も重要な視点として挙げられる。
DBF においては、A/D 変換器、D/A 変換器は、信号処理部で形成する指向性の量子化誤差に影
響し、システムが対応可能な伝送速度を決定付ける。また、信号処理の実装方法の観点では、DSP、
FPGA、ASIC なども重要な要素である。
(4)校正
LNA(低雑音増幅器)、PA(電力増幅器)などの能動回路は、利得や位相特性に個体差が生じ、
実際に形成される指向性に誤差を与え、周波数変換器の周波数差は素子間の位相変動に影響を及
ぼす。また、使用時においては、時間変動によるばらつきが生ずる。さらに携帯電話の基地局設
備において、アンテナ部を鉄塔に設置し、送受信装置は局舎内に設けた場合、これらをつなぐケ
ーブルは数十メートルに及び、その自重によりケーブル設置前後の位相特性が変化する。
適正な空間フィルタリング特性を実現するためには、アンテナの製作誤差や各回路特性のばら
つき、使用時における時間変動によるばらつき等に起因する、各装置やケーブルの伝達特性の補
正が不可欠である。したがって、アダプティブアレーアンテナに関する技術として、校正技術も
重要な位置づけにある。
(5)全体構成
アダプティブアレーアンテナを理解する上では、基盤的な要素技術としてではなく、システム
全体として捉えた場合の構成や機能(使われ方)といった観点で捉えることも重要である。例え
ば、追尾(ビームステアリング)、ヌルステアリング、マルチビーム形成、SDMA、到来方向推定
などである。
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