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Vol.70 Supplement III(2.58 MB)
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昭和30年4月23日第三種郵便物認可 平成18年10月20日発行(毎月一回20日発行)第70巻 増刊
Circulation
Journal
Official Journal of the Japanese Circulation Society
Circ J
ISSN-1346-9843
Vol.70 Supplement III
第 141 回 日 本 循 環 器 学 会 東 北 地 方 会
2006 年 2 月 4 日 仙台国際センター
会長:丸 山 幸 夫(福島県立医科大学第一内科)
1) 冠動脈形成術や心臓バイパス術後症例におけ
る多列検出器CTによる冠動脈プラークの存在・
性状診断の試み
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一・
米川 力
近年,多列検出器CTを用いた冠動脈造影CT
(CTCA)による冠動脈プラークの存在・性状診
断が注目されている.2004年6月15日から2005年
11月10日までに16列及び64列CTを用いて行った
CTCAで高度狭窄が疑われ,その後,冠動脈形成
術(PCI)や心臓バイパス術(CABG)を施行さ
れた9例を対象に,冠動脈セグメント毎にcurvedMPR法やvessel analysis法を用いてプラークの有
無を視認法で評価,プラーク部位のCT値を計測
してその性状を評価し,PCIやCABGの責任病変
部位と非責任病変部位を後ろ向き試験にて比較検
討.その結果,責任病変だけでなく非責任病変に
も脂肪成分に富むと考えられる低CT値プラーク
が存在していた.CTCAによる冠動脈プラークの
診断の現状と課題,プラーク診断による急性冠症
候群発症の予測の可能性について,文献的考察を
交えて報告する.
2) 当センターにおける平成16年の経皮的冠動脈
形成術・・一年間の追跡検査成績も含めて・・
(秋田県成人病医療センター) 佐藤匡也・
庄司 亮・門脇 謙・阿部芳久・寺田 健・
熊谷 肇・三浦 傅
3) 当科におけるCypher stentの使用成績
(福島県立医科大学第一内科) 三次 実・
坂本信雄・金子博智・八巻尚洋・国井浩行・
中里和彦・石川和信・矢尾板裕幸・石橋敏幸・
丸山幸夫
【目的】若年AMI例を高齢者と比較し,臨床的差
当科では2004年9月から2005年12月までに,73症
異を明らかにする.【方法】当CCUへ入院した
例104病変に対してCypher stentを留置した.全
AMI連続1,136例中,39歳以下の若年AMI群(Y
例留置に成功し,ステント血栓症は認めなかった.
群:n=25)と,80歳以上のAMI群(H群:n=88)
急性期合併症として,冠動脈穿孔1例,CK上昇
の背景と転帰を比較検討した.【結果】喫煙率は
2例を経験した.冠動脈穿孔はステント後拡張に
Y群92%でH群22%より高く,(p<0.01),BMIは
て生じたが,バルーンにて止血に成功し,CK上
Y群27.8でH群22.4より高く(p<0.01),LDL-C値
昇はきたさなかった.41症例60病変にフォローア
はY群134mg/dlでH群114mg/dlより高かった
ップの冠動脈造影を施行し,5症例7病変に再狭
窄を認め(病変再狭窄率11.6%),4症例に再血 (p=0.01).Y群の動脈硬化指数は4.11で,H群3.39
行再建術を施行した(症例再血行再建術率9.8%). と差はなかった.院内死亡はH群17例で,Y群は
なかった(p=0.04).【結語】若年AMI例は喫煙
5症例の再狭窄症例は,ステント近位部の再狭窄
率・BMI・LDL-C値が高かった.動脈硬化指数に
症例が1例,stent in stentでCypher stentを留置
は差がなく,若年AMIの発症には,粥状硬化以
した症例が3例,ステント中間部の再狭窄例が1
外の関与も示唆された.
例であった.当科のCypher stentの初期成績およ
び慢性期成績は満足すべき結果と思われたが,さ
らに急性期合併症および再狭窄を減らす工夫が必
要であると考えられた.
4) 急性心筋梗塞症例に対するDoor to Ballon
Inflation Timeの検討
(山形県立中央病院循環器科) 松井幹之・
後藤敏和・矢作友保・玉田芳明・高橋健太郎・
南幅 修・荒木隆夫
平成16年に当センターで施行した経皮的冠動脈形
【背景】AHA GuidelineではDoor to Balloon Inflation
成術症例は229例,332病変.平均年齢68歳,男性
Time(以下DBT)は90分未満を推奨.当院のDBT
193例,女性36例.緊急施行22例,待期的施行207
の現状と関連因子を検討.【方法】平成16年1月∼
例,初回施行129例,二回目施行51例,三回目施
12月に当院へ入院した急性心筋梗塞症例中,発症
行28例,四回以上施行21例,1病変施行158例,2
12時間以内に来院し,緊急冠動脈形成術施行の63
病変施行43例,3病変施行24例,4病変施行4例, 名(男52,女11,年齢64.1才)を対象.来院状
そけい部穿刺124例,橈骨穿刺105例,POBAのみ
況・症状・予後との関連を検討.【結果】DBTは
82病変,CBA31病変,DCA34病変,Stent194病
平均107分,中央値97分であり,90分未満症例は
変,PTCRA9病変である.平成16年8月30日から
24名(38%).年齢・性別・トロポニンT定性を含
DESが導入され,それ以降の症例68例,113病変
む血液検査値・Killip分類・Forrester分類との関
にStent76本を使用したが,BMS25本,DES51本
連なし.救急車搬送例・紹介例はDBTが有意に短
であった.DES導入初年度の平成16年の結果を
い.心電図ST上昇例でDBTが短い傾向あり.DBT
DES導入前後と比較し,平成17年内に施行した
と最高CPK値,入院期間,慢性期左室駆出率との
追跡検査結果も含めてまとめる.
関連なし.
【結語】DBT<90分症例が約1/3にとど
まり,改善必要.救急車搬送・紹介・ST上昇例で
DBTが短く,事前情報収集がDBT短縮に重要.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
5) 当センターでの若年急性心筋梗塞症例の検討
(岩手医科大学第二内科附属循環器医療センターCCU)
木村琢己・伊藤智範・金矢宣紀・赤津智也・
房崎哲也・那須和広・石田博文・松井宏樹・
石川 有・新沼廣幸・鈴木知己・中村元行
6) 高感度C-reactive protein
(hsCRP)
と総死亡率
の関連;岩手県北地域住民を対象とした縦断研究
(岩手医科大学第二内科・循環器センター)
佐藤権裕・田中文隆・瀬川利恵・小川宗義・
永野雅英
(同衛生学公衆衛生学) 小野田敏行・
板井一好
(岩手予防医学協会検診部) 川村和子
(国立循環器病センター検診部) 岡山 明
(岩手医科大学衛生学公衆衛生学) 坂田清美
(同第二内科・循環器センター) 中村元行
【目的】欧米の研究ではhsCRP値の上昇は心血管疾患
の危険因子で生命予後と関連すると報告されている.
しかし,本邦の地域住民でhsCRP値と死亡率の関係は
不明である.【方法】岩手県二戸医療圏の地域住民
9,411名(女性64.3%,平均年齢62.3歳.)を対象とし,
hsCRP値やその他の臨床指標を測定し,その後の死亡
との関連性を検討した.【結果と結語】2.3年の追跡期
間内で,99名の参加者が死亡した.Cox多変量解析に
よる死亡率の独立規定因子は,男性(オッズ比2.64;
95%CI,1.64-4.14),年齢10歳増加(オッズ比2.03;
95%CI,1.57-2.64),CRP値1SD増加(オッズ比
1.28;95%CI,1.05-1.55)であった.これらのことか
ら,地域住民で高感度CRPの上昇は総死亡率の独立し
た予測因子であると考えた.
仙台国際センター(2006 年 2 月)
1127
7) 当院における高齢者心筋梗塞症例の院内予後
(仙台オープン病院) 秋山恵俊・浪打成人・
三浦 裕・杉江 正・王 文輝・加藤 敦・
金澤正晴
高齢者の心筋梗塞症例の予後は不良である.当院
で加療した70歳以上の心筋梗塞連続115症例を70
歳代76症例,80歳以上39症例の2群に分けて院内
予後を比較した.70歳代の症例群に比較して80歳
以上の症例群では女性の比率が高く,カテコラミ
ンの使用が多く,Killip 3/4の症例が多い傾向に
あり,緊急冠動脈形成術を選択した症例は有意に
少なかった.院内死亡は80歳以上の症例群で有意
に高かった(23.1% vs 9.2%,p=0.04).しかし再
灌流療法施行症例に限ると院内死亡率は差が無く
(13.6% vs 6.3%,p=0.55),peak CK値,左室駆出
率も同等であった.以上より高齢者の心筋梗塞症
例においても再灌流療法が可能であれば院内死亡
率の減少と心機能の維持が期待できると考えられ
る.
8) 当院における心臓リハビリテーションの現況
(太田西ノ内病院循環器センター)
遠藤教子・関口祐子・圓谷隆治・本間俊彦・
新妻健夫・三浦英介・武田寛人・廣坂 朗
(太田綜合病院附属太田記念病院循環器科)
大和田憲司
(福島県立医科大学第一内科) 丸山幸夫
2005年4月より当院は心臓リハビリテーションの
認定施設となった.急性心筋梗塞,開心術後の患
者に対してほぼ全例に対し心臓リハビリテーショ
ン(以下,心リハ)を施行している.当院におけ
る,心リハの現況について報告する.2005年4月
から12月まで心リハを施行した症例は109例であ
った.そのうち,急性心筋梗塞または不安定狭心
症にて緊急PCIを施行した患者58例のうち,心肺
運動負荷試験が施行できたのは14例(24.1%)で
あった.そのうち,外来にて心臓リハビリテーシ
ョンを継続している患者は9例(15.5%)である.
退院後も心リハを継続している患者と自宅療養の
みの患者に,各々アンケートを行い,退院後の生
活に対する不安などについて比較検討した.
9) 冠動脈造影CTによるスタチン療法前後のプ
ラーク経過観察
(町立羽後病院内科) 松田健一・安田 修・
米川 力
10) Interleukun6の上昇およびLipoprotein(a)の
低下はベアメタルステント留置後の再狭窄を予測
する
(米沢市立病院循環器科) 藤野彰久・
渡辺達也・平カヤノ・芦川紘一
(福島県立医科大学第一内科) 丸山幸夫
【目的】IL6及びLp(a)の測定がAMIの再狭窄を予
測し得るか検討する.【方法】stentingを施行し
た連続36例で入院時及び第三病日にIL6とLp(a)を
測 定した.【成績】再狭窄群ではIL6は26.5±
32.9pg/mlから167.2±7.1と上昇しLp(a)は30.91±
7.3mg/dlから25.6±15.9へ低下していた.非再
狭窄群ではIL6は15.3±13.8から30.9±26.2へ上昇
しLp(a)は26.8±19.5から35.4±20.9へ増加してい
た.第三病日のIL6は再狭窄群で有意に高くLp(a)
は有意に低かった.【結論】IL6とLp(a)の測定は
AMI において再狭窄を予測しうる.
11) Brugada波形の心電図を有し,コハク酸シベ
ンゾリンにより誘発された冠攣縮性狭心症の1例
(岩手県立宮古病院循環器科) 中村明浩・
伊藤俊一・後藤 淳・星 信夫
症例は60歳代,男性でPafの患者.シベンゾリン
を服用した際,動悸は服用数分後に消失するも胸
部圧迫感を自覚するようになったため精査目的で
入院.心カテで有意狭窄は認められずシベンゾリ
ン70mgを末梢静脈内投与し冠攣縮誘発検査を施
行.左冠動脈に冠攣縮は誘発されなかったが,右
冠動脈 seg3に90%狭窄の冠攣縮が誘発された.
心電図はII, III, aVF, V5,6でのST低下およびV2で
のsaddle back型のST上昇を認めた.右冠動脈の
攣縮は硝酸イソソルビド5mg冠動脈注入後に解除
された.心電図はI, aVLでのわずかなST上昇とV2
でのsaddle back型ST上昇の遷延を認めたがII, III,
aVF, V5,6でのST低下の改善を認めた.Brugada
症候群の診断として行われる薬物負荷試験のリス
クを考慮する上でも貴重な症例と考え報告した.
12) AEDにて救命し得たCPRの一例
(仙台厚生病院心臓センター) 青野 豪・
寺嶋正佳・密岡幹夫・大友達志・藤原里美・
本田英彦・滝澤 要・宮崎泰輔・本多 卓・
秋山英之・小野寺勝紀・櫻井美恵・多田憲生・
目黒泰一郎
【目的】冠動脈造影CTでスタチン療法前後のプラ
ーク経過観察を行った.【対象】当院で冠動脈造
影CTを行った163例のうち,主要冠動脈にプラー
【症例】40歳男性【既往歴】高脂血症【家族歴】
クを伴う中間病変を有する6症例7病変(非びまん
父心筋梗塞【現病歴】スポーツクラブにてランニ
性,非石灰化病変).【方法】16列/64列マルチス
ングマシーンを使用中心肺停止状態(13:22)と
ライスCT(東芝)にてスタチン療法前後で,最
なった.直ちに職員がCPR行い,AEDをにて除細
小内腔面積部位のCT値とプラーク面積を計測し
動を施行(13:27)したところ心室細動は停止し
た.【結果】6例の平均観察期間は8か月.スタチ
た.救急隊到着(13:29).PEAでありCPR継続し
ン療法前後の総コレステロール値,LDLコレステ
13:41に自発呼吸回復,脈拍触知,モニターで洞
ロール値は有意に低下した.CT値は平均で66.6
調律であった.13:52に当院搬入となった.
【経過】
から89HU(平均差:22.4HU,p=0.0736)に上昇, 来院時GCS6(E1V1M4)直ちにカテーテル検査を
プラーク面積は平均で8.6から6.9mm2(平均差:
施行した.結果は急性心筋梗塞は否定的であった
-1.6mm2,p=0.2948)に低下した.CT値は上昇傾
が多枝病変認めた.意識レベル変化ないため集中
向を示したが,プラーク面積は有意な低下は見ら
治療室に入室し低体温療法を開始した.第6病日
れなかった.【総括】スタチン療法にて冠動脈プ
復温,意識レベルGCS11(E3V2M6)に回復した.
ラークは安定化する可能性が示唆された.
今後冠動脈バイパス術,ICD植え込み予定である.
【結語】今回院外心停止に対して早期の除細動が
有効であった一例を経験したので報告する.
1128
第 141 回東北地方会
13) シルデナフィル内服後に急性心筋梗塞を発
症した一例
(山形県立中央病院循環器科) 長澤純子・
後藤敏和・南幅 修・矢作友保・松井幹之・
玉田芳明・荒木隆夫
症例は,55歳,男性.主訴は胸痛.1992年,狭心
症にて冠動脈バイパス手術を施行さる.2005年3
月のトレッドミル検査にては,虚血反応無し.
2005年5月某日,19時30分頃,シルデナフィル1錠
を内服したところ30分後に胸痛・冷汗が出現,3
時間30分後に当院を救急受診した.血圧94/55
mmHg,脈拍60/分,Killip3度.心電図上,下壁
部位にてST上昇,2度房室ブロックあり.緊急冠
動脈造影にて,右冠動脈近位部の完全閉塞あり.
赤色血栓吸引の後,ステントを留置し良好な開大
を得た.CPK最大値6572IU/ml.その後の経過は
良好で6ヶ月後の確認造影にても再狭窄無し.シ
ルデナフィル内服は,硝酸薬内服中の症例には禁
忌とされるが,実際に急性心筋梗塞を発症したと
いう報告は少なく報告した.
14) 虚血性心室瘤の3例
(岩手医科大学第二内科・循環器センター)
那須和広・伊藤智範・金矢宣紀・赤津智也・
房崎哲也・石田博文・松井宏樹・木村琢巳・
石川 有・新沼廣幸・鈴木知己・中村元行
【症例1】75歳女性.心不全で入院.心エコーで後
下壁の運動低下と心室瘤あり.2週間前発症の
AMIと診断.CAGで#11:100%.【症例2】53歳
女性.3ヶ月前に他院にAMIで入院歴があり.心
不全で入院.心エコーで後側壁の運動低下と心室
瘤あり.症例1,2とも仮性瘤の診断で瘤切除術施
行.【症例3】83歳女性.3日前から胸痛があった
が放置.血圧80台のショックで搬送.心エコーで
下壁の運動低下と多量の心嚢液あり.心破裂によ
る心タンポナーデと診断.CAGで#1:100%.心
嚢ドレナージと修復術を施行.術後梗塞部位の瘤
化がみられたが,真性瘤と考えられ保存的に加療.
3例とも初発の女性で,梗塞前狭心症はなく,再
灌流療法未施行であった.非再疎通例では心室瘤
への厳重な対策が必要と考えられた.
15) Bystander CPRと早期除細動が救命に大き
く寄与した急性心筋梗塞の一例
(山形県立中央病院) 矢作友保・南幅 修・
高橋健太郎・玉田芳明・松井幹之・後藤敏和・
荒木隆夫
41歳男性.サッカー試合中突然意識消失.CPA
にて直ちにbystanderCPR開始.発症5分後救急車
現着.VFにて発症6分後二相性150J一回で除細動
成功.発症24分後救急室搬入.意識清明,胸部不
快感あり.心電図はV2-3でST上昇とV2-4でT波増
高,WBC8800,トロポニンT陰性,CK170,
CKMB44,心エコー上,前壁及び心尖部が無収
縮.左前下行枝領域の急性冠症候群を疑い緊急冠
動脈造影施行.Seg7完全閉塞をPCIにより良好に
再疎通.以後,神経学的後遺症なく社会復帰.
Bystander CPRと早期除細動,適切な鑑別診断/
治療というThe Chain of Survival及びその普及の
重要性を一段と深く印象づける一例である.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) 冠動脈stent留置後の繰り返すstent血栓症
に対してstent in stentが有効であった5症例の検討
(星総合病院循環器科) 氏家勇一・
待井宏文・坂本圭司・清野義胤・渡邉直彦・
木島幹博
19) Drug eluting stent(DES)留置後再狭窄を
認めた一例
(岩手県立中央病院循環器科) 伊藤貴久代・
高橋務子・細谷真紀・八木卓也・高橋 徹・
野崎哲司・野崎英二・田巻健治
【症例1】u-AP LADにWiktor 2本留置.急性冠閉
塞(AC),亜急性血栓性閉塞(SAT)を繰り返し,
Palmaz-Schats(PS)計3本にてStent in stent
(SIS)施行.【症例2】e-AP LADにWiktor留置.
stent内血栓症を繰り返し,PS 3本にてSIS施行.
【症例3】eAP LCXにGFX 2本留置.AC,SATに
てMultiLink(ML)2本でSIS施行.【症例4】uAP
RCAにBX velocity留置.ACにてNirでSIS施行.
【症例5】AMI LADにDriver留置.血栓形成を繰
り返すためMLにてSIS施行.【考察】各症例の
IVUS所見からは症例1,2はstent拡張不十分およ
び支持力不足により,症例3はcoil stentによるプ
ラーク逸脱により,症例4,5はtube stentではあ
るが多量のsoft plaqueを支えきれなかったことが
stent内血栓症の原因と考えられ,tube stentによ
るstent in stentがbail outに有効であった.
症例は77歳女性,糖尿病,高血圧,高脂血症あり.
2003年3月より血液透析導入.2003年7月急性心筋
梗塞発症,#2 100%病変に対しbare metal stent
留置.2004年2月stent内に再狭窄を認め同部位に
対しPOBA施行した.同年8月ごろから労作時息
切れあり,9月CAG施行.#2ステント内に再々狭
窄を認め,9月22日DES(3.5×23mm)を留置し
た.2005年4月12日突然の胸痛で来院,CAG施行
したところ前回留置したDES内に造影遅延を伴
う99%狭窄を認めた.この時の血管内超音波カテ
ーテルによる観察ではステント径は2mm程度で
あったため引き続き経皮的冠動脈形成術を施行し
た.その後イベントなく経過している.本症例で
は冠動脈の石灰化が著しく,ステント拡張不十分
であったことが再狭窄をきたした原因であったと
考えられる.
17) Pulse Infusion Thrombolysis後Distal protection下血栓吸引により病変部巨大血栓の処理に
成功したAMI症例
(太田西ノ内病院循環器科) 圓谷隆治・
三浦英介・関口祐子・本間俊彦・遠藤教子・
新妻健夫・武田寛人・廣坂 朗
(太田綜合病院附属太田記念病院循環器科)
大和田憲司
(福島県立医科大学第一内科) 丸山幸夫
20) cypher stentにおける亜急性血栓閉塞の一例
(岩手県立中央病院循環器科) 早津幸弘・
高橋 徹・細谷真紀・高橋務子・八木卓也・
野崎哲司・野崎英二・田巻健治
急性冠症候群時の病変部巨大血栓にたいし,Pulse
Infusion Thrombolysis(PIT)とDistal protection
(DP)を併用して処理した報告は少ない.症例は
62歳の男性,慢性腎不全で維持透析中.平成17年
8月27日急性心筋梗塞の診断にて緊急冠動脈造影
施行したところ#1に血栓豊富な完全閉塞病変を
認めた.DP下にPOBA後吸引を試みるが吸引で
きず,PITを施行後,DP下に再度血栓吸引する
ことにより処理しえた.血栓は完全に消失し末梢
塞栓やno/slow flowも認めなかった.巨大血栓の
処理にPITとDPの併用が有効であった症例を経
験したので報告する.
22) 川崎病後,冠動脈瘤による左前下行枝の狭
窄に対してロタブレーターを施行した一例
(仙台医療センター循環器科) 尾上紀子・
田中光昭・谷川俊了・馬場恵夫・渡辺 力・
平本哲也
(仙台オープン病院循環器内科) 加藤 敦
(みやぎ県南中核病院循環器科) 富岡智子
19歳の女性.2歳時川崎病と診断されRCA,LAD
(#6)に冠動脈瘤を認めた.13歳時の冠動脈造影
ではRCAの瘤は消失,#6の瘤前後に25%狭窄が認
められた.18歳時(2005年2月)の造影では#6の
瘤は消失していたが,瘤近位部に90%狭窄あり,
Tl運動負荷シンチで陽性のため,PCIの適応とな
った.病変部の石灰化が高度であり,ロタブレー
ターを施行した.1.5mmと2.0mmのバーで削り,
4mmのバルーンで拡張したところ解離を生じた.
IVUSにて内腔は十分保たれていたため,stentは
留置せず終了とした.3ヶ月後の造影では再狭窄
は認めなかったが,解離した部分に動脈瘤が認め
られた.血栓閉塞していた瘤が再び出現したと考
えられ,MDCTでフォローする方針となった.川
崎病の後遺症による冠動脈病変の長期予後につい
ては不明な部分も多く,本症例をここに報告する.
23) 逆行性速伝導路を修飾したため遅伝導路焼
灼の評価が不十分となった房室結節回帰性頻拍の
1例
(東北公済病院循環器科) 大友 淳・
杉村彰彦・福地満正
(東北大学循環器病態学分野) 菅井義尚・
熊谷浩司・下川宏明
2004年8月からcypher stentが使用可能となり,
著明に再狭窄率は減ったが依然課題として残って
いる.今回cypher stentによる亜急性血栓閉塞
【症例】67才女性.発作性上室性頻拍のアブレー
(SAT)を経験したので報告する.【症例】60台
ション(CA)目的で入院となった.電気生理学
男性.【現病歴】H17.2月に急性心筋梗塞を発症し
的検査で通常型房室結節回帰性頻拍(AVNRT緊急カテーテル検査施行.前下行枝入口部病変で
S/F)と診断し,遅伝導路(SP)のCAを行った.
左主幹部から前下行枝と左回旋枝にcypher stent
Koch三角後方の焼灼で接合部調律(JR)は出現
を留置した.第13病日に出血性脳梗塞を発症し,
せず,その前方側の焼灼でJRが出現したが室房
ブロックを伴った.次に心房ペーシング下で焼灼
抗血小板剤を中止した.第19病日に胸痛出現.緊
し一過性にわずかなAH時間の延長を認めたが回
急カテーテル検査の結果,前下行枝のSATであ
復した.CA後順行性速伝導路(FP)およびSPの
った.同部を拡張し抗血小板剤を再開.Q波梗塞
伝導特性に変化はなかった.一方,逆行性FPは
となったが8ヵ月後の心カテーテル検査では再狭
伝導能の低下と不応期の延長を示し,焼灼が逆行
窄を認めなかった.【結語】cypher stentを用い
性FPを修飾したものと考えられた.この結果心
た症例で,出血性脳梗塞を発症し抗血小板剤を中
房エコーが消失しAVNRTは誘発不能となるも,
止したためSATとなった一例を経験した.
SP焼灼の評価は不十分であった.CA後2ヶ月で
PQ時間は正常だが,以前と同様の動悸を自覚し
ている.【結語】SPのCAでは逆行性FPの修飾に
も注意を要する.
18) 当院で経験した薬剤溶出ステント再狭窄の
2症例の検討
(仙台循環器病センター) 南雄一郎・
藤井真也・八木勝宏・藤森完一・小林 弘・
福島教照・内田達郎
21) 蔓状血管腫による喀血を合併しながら薬剤
溶出ステント留置に成功した冠動脈狭窄の一例
(宮城県立循環器・呼吸器病センター)
渡邉 誠・佐々木英彦・大沢 上・菅野孝幸・
柴田宗一・山口 済
24) 非通常型房室結節リエントリー性頻拍と右
心耳基部を起源とした心房頻拍を合併した1例
(仙台市立病院循環器科) 住吉剛忠・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・田渕晴名・
山科順裕・伊藤明一
薬剤溶出ステント再狭窄の症例を,2症例経験し
たので報告する.症例1は79歳男性.’89年左前下
行枝狭窄に対し冠動脈バイパス術施行.’05年5月
に狭心症が出現し,バイパス血管である左内胸動
脈に狭窄を認めたため,薬剤溶出ステントを留置
した.この際病変の一部は石灰化が強く,ステン
トの拡張が不充分であり,4ヵ月後の造影にてそ
の部位に一致した再狭窄を認めた.症例2は70歳
女性.’97年左前下行枝に対しステント留置した
が.’04年9月に狭心症が出現し,ステント遠位部
に新規狭窄を認めたため,薬剤溶出ステントを留
置した.薬剤溶出ステント近位部は前回留置した
ステント内の内膜肥厚に合わせ,意識的に拡張が
不充分なまま終了したが,9ヵ月後の造影にてバ
ルーン傷害による傍ステント再狭窄(近位部)を
認めた.
72歳女性.2003年7月,左冠動脈閉塞により急性
心筋梗塞を発症し冠動脈インターベンション施
行.一年後の冠動脈造影検査にて再狭窄を認め,
再度冠動脈インターベンションを施行しステント
留置とした.2004年9月より喀血が出現し,気管
支鏡にて右気管支に蔓状血管腫を認めた.チクロ
ピジンを中止し経過をみていたが,再度の冠動脈
造影にて前回治療部の完全閉塞を認めた.気管支
動脈造影にて血管腫への流入動脈を同定したが,
脊髄動脈の閉塞の危険性から塞栓術ではなく外科
的に気管支動脈を結紮した.チクロピジン再開後
も喀血の消失を確認し,前下行枝病変に対して冠
動脈インターベンションを施行し,薬剤溶出性ス
テントを留置し良好な冠血流を得ている.喀血の
コントロール後に血行再建に成功した一例を経験
したので報告する.
42歳女性,ふらつきを伴う突然の動悸で受診し,
心拍数210bpmの発作性上室性頻拍の診断で
Verapamil静注にて停止した.臨牀心臓電気生理
学的検査(EPS)を施行し,心拍数150bpmの非
通常型房室結節リエントリー性頻拍が誘発され
Aspを指標として焼灼した.その後Hisを最早と
する心拍数210bpmの異なる頻拍が誘発された.
この頻拍は心房と心室の間に明らかな興奮の相関
を認めず非持続性だったがisoproterenol投与にて
持続した.また,ATP10mg急速投与にて停止し
た.頻拍中にelectro-anatomical mappingを行い,
興奮は右心耳基部を最早として同心状に放散して
おり心房頻拍と診断し同部への通電で頻拍は誘発
不能となった.右心耳基部を起源とした心房頻拍
の報告は少なく,本症例はEPSの所見と薬剤への
反応性から頻拍の機序はmicro reentryが考えら
れた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
仙台国際センター(2006 年 2 月)
1129
25) 冠静脈洞内憩室からの通電で副伝導路離断
に成功したWPW症候群の1例
(いわき市立総合磐城共立病院循環器科)
黒木健志・戸田 直・佐藤崇匡・三戸征仁・
山尾秀二・小松宣夫・朴沢英成・杉 正文・
油井 満・市原利勝
28) QRS波形が類似するAorto-mitral Continuity
と大動脈弁冠尖部起源の特発性左室流出路源性期
外収縮の2例
(東北大学循環器病態学分野) 熊谷浩司・
若山裕司・福田浩二・菅井義尚・遠藤秀晃・
下川宏明
症例は40代女性.以前よりWPW症候群を指摘さ
れていた.平成17年7月,腹痛の訴えで近医受診.
最短R-R 210msecの発作性心房細動を認め,当院
紹介受診した.EPS施行し,RV pacingで冠静脈
洞入口部が最早期の副伝導路を認めた.順行電導
はイソプロテレノール負荷すると260ppmまで1:1
電導を示し,突然死のhigh risk groupとして,カ
テーテルアブレーションの適応と考えた.副伝導
路は冠静脈洞内の憩室にあり,同部位からの通電
で離断に成功した.
症例1は62歳女性.動悸を主訴として受診.
HolterECGにて2万/日以上の単形性心室性期外
収縮(VPC)を認めた.多剤抗不整脈薬抵抗性で
症状も強く,カテーテルアブレーションを施行し
た.心電図上,左室流出路起源が予想され,QRS
起始部より32msec先行する部位にてpacemapがほ
ぼ一致し,透視上Aorto-mitral Continuity起源で
あった.経大動脈逆行性アプローチにて同部位を
通電後VPCは消失した.症例2は,61歳女性.症
例1とVPCの波形が相似するも起源は大動脈弁冠
尖部であった.同部位を通電後VPCは消失した.
AMCと大動脈弁冠尖部は解剖学的に非常に近接
し,それらを起源とするVPCも心電図上,非常に
相似していた.しかし,Ventricular activation
timeは,前者が後者より長く,aVFの電位波高に
おいて低いという心電図学的相違を認めた.
26) 若年女性に認められた僧房弁輪部からの心
房頻拍の一例
(仙台市立病院) 山科順裕・八木哲夫・
石田明彦・滑川明男・田渕晴名・住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
29) 洞調律下にCARTOsystemを用い心室頻拍
のアブレーションに成功した拡張型心筋症の一例
(福島県立医科大学第一内科) 松本 健・
鈴木 均・及川雅啓・神山美之・国井浩行・
石川和信・矢尾板裕幸・石橋敏幸・丸山幸夫
32) アミオダロン服用中に肝臓CT値の高値を来
した1例
(福島県立医科大学第一内科) 鈴木 均・
上北洋徳・山口 修・松本 健・国井浩行・
石川和信・矢尾板裕幸・石橋敏幸・丸山幸夫
34歳の女性.動悸を主訴に近医を受診し精査加療
目的に当科へ紹介された.安静時12誘導心電図で
心拍数140/分のlong RP'頻拍でincessant pattern
を示しI,aVl誘導で陰性,II,III,aVf,V1誘導
で陽性のP波を認めた.臨床心臓電気生理学的検
査上,頻拍の最早期心房興奮部位は冠静脈洞遠位
部で,心房中隔穿刺後,左房内をCARTO system
を用いてmappingしたところ,僧房弁輪2時付近
を中心とした focal patternを示した.また,頻拍
のwarming up現象を認め頻拍機序として自動能
が関与していると考えられた.最早期心房興奮部
位は僧房弁輪部3時方向に存在し,単極誘導でい
わゆるQS patternを呈した部位を先端tipが4mm
のアブレーションテーテルを用いて通電したが有
効通電に至らなかった.8mm tipに変更して同
部を通電し,頻拍の根治に成功した.
症例は22歳男性.平成14年に拡張型心筋症と診断
され,平成16年に心室頻拍を併発したためICD,
アミオダロン導入された.平成17年8月より血行
動態が破綻する右脚ブロック,上方軸偏位の単形
性持続性心室頻拍が塩酸ニフェカラント併用でも
頻発し,ICDの頻回作動を認めたため,CARTO
system下に,高周波カテーテルアブレーション
を施行した.洞調律下にマッピングを施行したと
ころ,左室側壁の一部にlow voltage areaを認め,
体表面心電図のQRS波より約250msec遅延する
delayed potentialが見られたため,高周波通電を
施行した.以後同単形性持続性心室頻拍は認めら
れなくなった.拡張型心筋症における難治性VT
に対しても,洞調律CARTO system下のアブレー
ションは有効な治療手段になると思われた.
症例は82歳男性.陳旧性心筋梗塞に伴う心室頻拍
に対して,平成15年5月アミオダロン(200mg/
日),同年7月ICDが導入された.以後外来通院
中であったが,平成17年4月失神,食欲不振精査
のため入院した.軽度肝機能障害認められ,腹部
CTにて肝CT値が139HU(平成15年5月54HU)
と異常高値であった.肝生検では肝炎の所見はな
かった.アミオダロンによる肝障害を疑い同薬を
中止とし,症状,肝機能障害は軽快した.アミオ
ダロンはヨードを含有するベンゾフラン誘導体で
脂溶性であるため,多臓器に蓄積性がある.よっ
て間質性肺炎や甲状腺機能低下症などの副作用の
みならず,肝臓をはじめとするそれ以外の心外性
副作用に留意する必要があると思われた.
27) 左房内のFocal sourceが発作性心房細動の
initiationとmaintenanceに関与していたと考えられ
た一例
(仙台市立病院) 山科順裕・八木哲夫・
石田明彦・滑川明男・田渕晴名・住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
30) Electroanatomical mappingが有効であった
不整脈源性右室心筋症の1例
(総合南東北病院循環器内科)
山田慎哉・小野正博・永沼和香子・武藤 満
33) ステロイド治療を要したアミオダロン誘発
性破壊性甲状腺炎の1例
(岩手医科大学第二内科・循環器センター)
椚田房紀・橘 英明・籏 義仁
(八戸赤十字病院循環器科) 大内真美・
西山 理・向井田春海
(岩手医科大学第二内科・循環器センター)
中村元行
58歳の男性.終日にわたって出現し,多種類の抗
不整脈薬に抵抗性の発作性心房細動の精査加療目
的に当科に紹介された.臨床心臓電気生理学検査
では心房性期外収縮の最早期心房興奮部位は左右
の肺静脈から離れた,左房内の右上後側壁の左房
天井部付近に存在し,focal patternを呈した.局
所の電位上は同部並びにその周辺部にNademanee
K et alらが提唱するcomplex fractionated electrograms(CFAEs)のような電位は認めなかった.
単極誘導でQSパターンを示した,最早期心房興
奮部位で通電したところ心房性期外収縮は消失
し,以後心房細動も出現しなくなった.左房内の
focal sourceが発作性心房細動のinitiationならび
にmaintenanceにも関与していたと考えられる興
味深い一例を経験したので報告した.
1130
第 141 回東北地方会
症例は,41歳男性.2004年10月心室頻拍(VT)に
よる意識消失にて当院救急外来搬送.精査加療を
すすめるも本人,家族ともに強く拒否され経過観
察となっていた.2005年8月胸苦出現し当院救急
外来搬送.意識清明であったがモニター心電図に
てVTを認め,精査加療目的に入院.心臓カテー
テル検査施行し,右室造影にて右室の著明な壁運
動低下を認め不整脈源性右室心筋症と診断.また,
EPSでは右室心尖部の2連発刺激にて持続性VTの
出現を認めた.後日Electroanatomical mapping
を施行.右室下壁に瘢痕部を認め,瘢痕部と三尖
弁輪間の峡部を通り瘢痕部周囲を旋回するVTで
あることが判明.同峡部に対して焼灼術を施行し
VTの停止を認めた.Electroanatomical mapping
が有効であった不整脈源性右室心筋症を経験した
ので報告する.
31) 慢性腎不全透析患者にピルジカイニドを投
与し心室頻拍を認めた一例
(公立置賜総合病院循環器科) 結城孝一・
金子一善・田村晴俊・石野光則・屋代祥典
症例は55歳の女性.S57から慢性腎不全にて週3
回の血液透析を受けていた.H16より透析中発作
性心房細動を頻回に認めるようになりHolter心電
図にて心房細動時,意識消失を伴う洞停止認め
H16.3/23永久ペースメーカー植え込み術施行.動
悸症状が頻回にありジソピラミド(150)1CP
1x1を開始.H17.4月頃より再び動悸症状増悪あ
りジソピラミド→ピルジカイニド(50)1CP 1x1
へ変更した.H17.5/16気分不良を主訴に当院救命
センター受診.心電図上心室頻拍(VT)を認め
た.ピルジカイニドの血中濃度が中毒域に達して
おり連日血液透析を施行したところVT発作は
徐々に減少,独歩にて軽快退院した.慢性腎不全
透析患者へのピルジカイニド投与においては極力
慎重を期す必要性があると考えられた.
うっ血性心不全治療中に発症したアミオダロン誘
発性破壊性甲状腺炎でステロイド内服が著効した
症例を報告する.47の男性.拡張型心筋症に伴う
心室頻拍に対し3年前からアミオダロン200mg/日
を内服していた.うっ血性心不全の増悪をきたし
当センターに入院した.入院時の甲状腺機能は
freeT3,freeT4とも正常範囲内であった.利尿剤
等で心不全の治療を行った.入院中に心房細動を
発症した.freeT3/freeT4=7.77ng/dl/32.5ng/dlと
著明に上昇していた.アミオダロンによる薬剤性
破壊性甲状腺炎と考え抗甲状腺薬の内服,無機ヨ
ードの内服を行ったが無効であった.プレドニン
を30mg/日内服で開始したところ甲状腺機能は速
やかに改善した.高度な甲状腺中毒で治療に難渋
したがアミオダロンを減量中止することなく治療
可能であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) 失神の既往,ピルジカイニド負荷試験,心
室細動誘発性からみたBrugada症候群の予後の検討
(弘前大学循環器・呼吸器・腎臓内科)
佐々木真吾・岩佐 篤・木村正臣・小林孝男・
足利敬一・堀内大輔・奥村 謙
37) Intracardiac Echocardiography(ICE)を用
いたFossa Ovalisの臨床的検討
(仙台市立病院循環器科) 山科順裕・
八木哲夫・石田明彦・滑川明男・田渕晴名・
住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
対象はBrugada型心電図を示す56例.突然死の家
族歴を有する9例(A群),失神の既往を有する18
Fossa ovalisとそのLimbusの厚さをIntracardiac
例(B群),心電図変化のみの無症候例29例(C群) Echocardiography(ICE)を用いて検討した.
に対し,ピルジカイニド負荷,心室細動(VF) 【方法】29名(17males,12females:55.4±14.6
誘発試験(50例中30例)を行い,予後調査と併せ
yr)の被検者にICEを使用してそれぞれの厚さを
Brugada心電図例での突然死のリスク評価因子に
計測した.【結果】高血圧患者(n=10)において
ついて検討した.VF誘発試験ではA群50.0%,B
は対照群(n=19)と比較してそれぞれ有意に厚
群69.2%,C群18.1%でVFが誘発可能で,VFの誘
かった.(fossa:0.51±0.29mm in non-HT vs.:
発性からみたピルジカイニド負荷試験の感度は
1.06±0.33mm in HT(P<0.001)limbus:4.29±
75.0%,特異度は64.2%であった.一方,VFの自
1.88mm in the non-HT vs. 6.21±1.99mm in HT
然発作からみた場合,その特異度は低値(46.6%) (P<0.01))また心房細動患者(n=6)でも対照
であった.予後調査(平均追跡期間45ヶ月)では
群(n=23)と比較してそれぞれ有意に厚かった.
52例中3例で死亡が確認されたがいずれも非心臓
(fossa:0.61±0.38mm in non-AF vs. 1.05±0.25
死(VFの自然発作は2例)であった.無症候例の
mm in AF(P<0.01);limbus:4.65±2.11mm in
短期予後は良好であり,いずれの背景因子が予後
non-AF vs. 6.08±1.75mm in AF(P<0.05)).【結
規定因子となりうるか結論には至らなかった.
語】Fossa ovalisとLimbusは心房細動または高血
圧患者で有意に厚くなると言えた.
35) 右室流出路に心内膜側興奮伝播遅延を認め
たブルガダ型心電図症例
(東北大学循環器病態学) 福田浩二・
熊谷浩司・若山裕司・菅井義尚・遠藤秀晃・
下川宏明
38) 無名静脈へ挿入したステントの右室内脱落
により完全房室ブロックを来たした慢性腎不全透
析患者の一例
(公立置賜総合病院) 金子一善・結城孝一・
田村晴俊・石野光則・大道寺飛雄馬
症例は51歳女性.特発性右室流出路由来心室性期
外収縮(RVOT-PVC),前胸部誘導の軽度ST上昇
で当科紹介.生来健康,失神の既往・突然死の家
族歴なし.各種画像診断で異常なし.Pilsicainide
負荷で前胸部誘導のcoved type ST上昇を認め,
ブルガダ型 ECGと診断.またlate potentialsは陽
性.Carto system下にEPS/RFCAを施行.洞調律
時のsubstrate mappingにてRVOT興奮伝播遅延を
認めた.その一部のdouble potentials様の電位が
認められる部位の通電にてPVCは消失した.心室
早期刺激でVT/VFは誘発されなかった.ブルガ
ダ症候群でRVOT心外膜側興奮伝播遅延の存在を
示唆する報告はある.今回の症例はブルガダ型心
電図の成因に心内膜側興奮伝播も関与する可能性
を示唆する.
78歳男性.慢性腎不全にて血液維持透析中.平成
17年9月頃よりシャント側の左腕に浮腫腫脹出現
し腫脹像悪を認め入院.血管造影上シャント中枢
側の無名静脈に狭窄を認めステント挿入術施行.
2日後臥床中突然気分不良出現.心電図上完全房
室ブロックを認めた.心エコー上右室内に多重ス
リットを伴う筒状の構造部を認め,ステント脱落
を考え緊急心臓カテーテル検査施行.ステント両
端が心室中隔と自由壁に引っかかる形で停滞し房
室ブロックの原因と考えられた.Goose-Neck
Snareカテーテルにて右室内より抜去したが体外
抜去できなかったためステントを外腸骨静脈へそ
のまま留置した.術翌日には房室ブロックは消失
し入院時の洞調律,完全左脚ブロックへ復帰した.
房室ブロックを来たした稀な症例を経験したので
報告する.
36) 糖尿病を合併した発作性心房細動に対する
抗不整脈薬療法の治療成績と血栓塞栓症の予後
(岩手県立磐井病院循環器科) 浅野太郎・
小松 隆・中村 紳・鈴木 修
(弘前大学循環器・呼吸器・腎臓内科)
奥村 謙
39) 一般人によるAED使用で救命された肥大
型心筋症の一例
(いわき市立総合磐城共立病院循環器科)
黒木健志・戸田 直・佐藤崇匡・三戸征仁・
山尾秀二・小松宣夫・朴沢英成・杉 正文・
油井 満・市原利勝
【目的】糖尿病(DM)を合併した発作性心房細
動(AF)における臨床像ならびに薬物療法の効
果を非合併例と比較する.【方法】DM合併の発
作性AF47例(A群)ならびに非合併の発作性
AF266例(B群)に振り分け,観察期間46±32
ケ月における慢性化阻止率ならびに血栓塞栓症回
避率を比較した.【成績】観察期間48ケ月目時点
の各群における慢性化阻止率はA群が64%,B群
が88%であり,A群で有意に低率であった(P<
0.01).また,観察期間90ケ月目時点の脳血栓塞
栓症回避率はA群が79%,B群が90%であり,A
群で有意に低率であった(P<0.05).【結論】糖
尿病合併の発作性AF例は,抗不整脈薬に治療抵
抗性の臨床経過をたどり,脳血栓塞栓症の合併症
が多いことから,より注意深い管理が必要である.
症例は50代男性.H13年HOCMと診断.H16年Paf
出現し,頓用にてpilsicainideの内服を開始.母親
が70歳で突然死している.H17年5月某日,突然
の意識消失あり.心肺停止状態であり,同僚が心
肺蘇生(CPR)を開始し,AED装着.Vfに対し電
気的除細動施行され,呼吸循環再開し,救急搬送
された.人工呼吸管理とし,barbiturate coma療
法,normothermia療法開始した.意識レベルは
来院時200であったが,神経学的にほぼ後遺症な
いレベルにまで回復し,第35病日にはICD植込み
のため東北大へ転院となった.一般人によるAED
使用により心拍再開し,社会復帰可能となった症
例としては国内初であり,ここに報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
40) 自動体外式除細動器(AED)が作動しな
かった持続性心室頻拍の1例
(岩手県立宮古病院循環器科) 中村明浩・
伊藤俊一・後藤 淳・星 信夫
症例は70歳代の男性.心肺停止で当院に搬送され
CPR後心拍は洞調律に回復.入院中夜間にpulseless VTが出現し,看護師によってAEDが作動さ
れた.しかし,3度の作動にもからわらずショッ
クがかからず4回目でショックがかかった.本症
例のVTはAEDのショック基準のボーダーライン
を行き来するような症例であった.HRは症例全
体にわたって240bpm程度であり,1∼3回目の
解析においてはショック適応の基準にわずかに達
していない状態であり4回目の解析の際に波形形
状にわずかな変化がありショック適応基準に達し
た.AEDを使用する際はショックがかからない
こともありうること常に念頭に入れモニター監視
下でVTが観察されているにもかかわらずショッ
クがかからない場合にはAEDを複数回,作動さ
せる必要がある.
41) 拡張期心不全における血清中I型コラーゲ
ンC末端テロペプチドの検討
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
北原辰郎・竹石恭知・有本貴範・新関武史・
野崎直樹・広野 摂・渡邉 哲・二藤部丈司・
角田裕一・宮下武彦・高橋 大・奥山英伸・
久保田功
I型collagenの代謝産物であるI型コラーゲンC
末端テロペプチド(carboxy-terminal telopeptide
of type I collagen:I-CTP)が拡張期心不全(DHF)
の予後規定因子として有用かどうかを検討した.
心不全で当院に入院した患者のうち,EFが40%以
上保持されていた群(DHF群,n=101)を対象に,
平均694±342日間の追跡調査を行ったところ,対
照群(n=24)と比べ,DHF群では血清I-CTP値は
有意に高値であった(3.4±1.8 vs. 5.2±3.3,P<
0.05).また血清I-CTP値の中央値(3.7ng/ml)で
DHF群を2群に分けたところ,高I-CTP群で心血
管イベント発生率が有意に高値であった(45% vs.
2%,P<0.01).さらに,Cox比例ハザードモデ
ルを用いた多変量解析では,血清I-CTP値は心血
管イベントの独立した予後規定因子となった.以
上より,I-CTPの有用性が示唆された.
42) 血清ペントシジン濃度は心不全の予後予測
因子である
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
小山 容・竹石恭知・有本貴範・新関武史・
奥山英伸・野崎直樹・広野 摂・渡邉 哲・
二藤部丈司・角田裕一・宮下武彦・高橋 大・
久保田功
【背景】ペントシジンはAdvanced glycation end
product(AGE)の一つであり,AGEとカルボニ
ルストレスは心血管病の発症に関与している.ま
た,血清ペントシジン濃度は腎機能を反映して腎
不全患者で上昇することが知られている.ペント
シジンが心不全患者の予後予測因子になるか検討
を行った.【方法と結果】当院に入院した心不全
患者141人のペントシジン濃度を測定し,心不全
増悪による再入院と心臓死をエンドポイントとし
て前向きにフォローアップを行った.血清ペント
シジン濃度は,event(+)群にてevent(-)群と
比較して有意に高かった(P<0.0001).また,
Cox比例ハザードモデルによる多変量解析より,
ペントシジンは心不全の独立した予後予測因子で
あった(P<0.01).【結論】ペントシジンは心不
全患者の予後予測因子として有用である.
仙台国際センター(2006 年 2 月)
1131
43) アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはア
ンジオテンシン受容体拮抗薬は拡張不全の予後を
改善する
(東北大学循環器病態学分野) 高橋 潤・
篠崎 毅・柴 信行・多田智洋・下川宏明
拡張不全による心不全(DHF)の治療法に関する
エビデンスはいまだ十分とはいえない.アンジオ
テンシン変換酵素阻害薬(ACEI)もしくはアン
ジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与がDHF
症例の予後に与える影響について多施設慢性心不
全データベース(CHART)に登録されたDHF症
例213例を対象として前向きに検討した.1,3年
追跡率はそれぞれ97%,84%であった.平均42±
17ヶ月の追跡期間中に55症例の死亡が観察され
た.Cox回帰解析において年齢,性別,NYHAク
ラス分類,合併症,投与薬剤,左室駆出率,BNP
値で補正後もACEI/ARB投与は有意に生存と相関
していた(HR:2.6,95%CI:1.4−4.9)
.ACEI/ARB
の投与によりDHF症例の予後は改善する.
44) 心房中隔欠損症術後に僧帽弁逆流が増悪し
た僧帽弁形成不全の1例
(福島県立医科大学第一内科) 及川雅啓・
高野真澄・坂本信雄・八巻尚洋・鈴木 均・
石川和信・矢尾板裕幸・石橋敏幸・丸山幸夫
46) ピタバスタチンの心保護作用に関する検討(2)
(本荘第一病院循環器科) 鈴木 泰・
金子順二
(秋田大学循環器・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
49) 脳卒中急性期における経僧帽弁流入血流速
波形の解析は心原性脳塞栓の診断に有用である
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
劉 凌・廣野 摂・奥山英伸・竹石恭知・
久保田功
【目的】ピタバスタチン(Ps)の心保護作用につ 【目的】脳梗塞急性期における経胸壁心臓超音波
き 検 討 .【 方 法 】 総 コ レ ス テ ロ ー ル ( T C ) ≧
検査の有用性を検討.
【対象】入院時(検査時)に
220mg/dlの心疾患症例で,51例はPs2mg/日を3
洞調律であった50歳以上の急性期脳梗塞連続95例.
ヶ月投与,12例はスタチン非投与の対照群とし, 【方法】経僧帽弁流入血流速波形(E/A)の解析か
前後で血清脂質,血漿BNP,心エコー指標を測
ら,対象を以下の2群に分類し[H群(E/A≧1.0),
定し比較.【結果】TC,中性脂肪(TG)はPs投
25例,70±12歳;L群(E/A<1.0),70例,73±9
与3ヶ月で有意に低下,血漿BNPは,投与後3ヶ
歳],経食道心臓超音波検査所見と対比した.【成
月で有意に改善,心エコー指標はE/A,左室重量
績】H群における左心耳内血栓の検出頻度はL群
係数(LVMI)が有意に改善も,対照群はどの指
に比し有意に高値であった[4例(16%)vs 2例
標も改善を認めず.疾患別検討では,虚血性心疾
(3%)
,P=0.0346].多変量(左房径,左室拡張末
患(IHD),左室肥大性心疾患(LVH),弁膜症
期径,内径短縮率,心重量,E/A,E波の減速時
(VD)いずれでも同等のTC改善効果あるが,血
間)ロジスティック回帰分析において,E/Aは左
漿BNP,E/Aは,IHD群,LVH群でのみ有意に改
心耳内血栓を予測しうる唯一の指標であった
善.また,PsによるTC改善度と,BNP,E/A, (Odds ratio 1.499 per 0.1 increase,95%CI 1.083LVMI改善度間に相関関係認めず.【結論】Psの
2.074,p=0.0146].【結論】E/A≧1.0は,50歳以
心保護作用は,おもに拡張障害改善で,脂質低下
上の洞調律心原性脳塞栓症例における有用な診断
作用を介さない直接的作用を示唆.
指標である.
47) 拡張障害を伴う心不全患者における貧血と
突然死
(東北大学循環器病態学分野) 多田智洋・
柴 信行・篠崎 毅・高橋 潤・渡辺 淳・
白土邦男・下川宏明
50) 頸動脈内に血栓を認めたバルサルバ洞破裂
の1例
(平鹿総合病院第二内科) 佐藤貴子・
伏見悦子・相澤健太郎・宮内栄作・武田 智・
高橋俊明・関口展代・林 雅人
僧帽弁形成不全を合併したASD症例において, 【背景】慢性心不全においては貧血が予後規定因
ASD閉鎖術後にMRの増悪を来たした1例を報告
子であることが知られている.しかし,拡張障害
する.【症例】16歳男性.13歳時ASD直接閉鎖術
例における貧血と予後の関連については報告が少
を施行.術前心エコーにて,僧帽弁前尖の軽度逸
ない.【方法】2000年2月から当科で施行している
脱と後尖の低形成を認めたが,MR軽度であった. 東北慢性心不全登録(CHART:n=1,278)のう
16歳時胸水貯留を指摘され,重度MRによるうっ
ち心不全症状を有し左室駆出率が40%以上の慢性
血性心不全にてH16年6月14日当科紹介入院.心
心不全576症例について検討を加えた.【結果】平
エコーにて,左房・左室の拡大,僧帽弁前尖の広
均追跡期間は3.21年で,粗死亡率は21.2%であっ
範囲な逸脱と後尖の形成不全,重度MRを認めた.
た.多変量Cox解析によれば,ヘモグロビン値低
心臓の成長およびASD閉鎖術による左心系の容
下は,全死亡,心臓死,心不全死,突然死の発生
量負荷により,MRが増悪したと考えた.僧帽弁
に有意な相関を示し,特に突然死においてヘモグ
形成術を施行し,MRと心不全は改善した.【考
ロビン値低下は唯一の予後規定因子であった.
案】ASD閉鎖術後のMR増悪は稀であるが,僧帽 【結論】ヘモグロビン値は,拡張障害を伴った慢
弁形成不全を伴う症例では左心系の容量負荷に伴
性心不全患者における独立した予後規定因子であ
い増悪する例もあり,術式などの検討が必要と考
った.
えられた.
症例は50歳代男性.高血圧,発作性心房細動で治
療中.平成17年5月2日夜,突然,呼吸困難感,顔
面,四肢の浮腫が出現し,近医より紹介受診した.
心尖部に連続性雑音を聴取した.胸部レントゲン
写真で肺うっ血と心拡大を認めた.心臓超音波検
査ではバルサルバ無冠動脈洞が右房へ瘤状に突出
し,そこを通過して右房内へ流れ込む多量の短絡
血流を認めた.大動脈造影では無冠動脈洞から右
房が造影され,シャント率は68%であった.術前
検査の頸動脈超音波で,右総頸動脈から内頸動脈
にかけて血栓が疑われる異常構造物が観察され
た.一期的に,頸動脈血栓除去術を施行した後,
バルサルバ洞動脈瘤破裂に対してパッチ閉鎖術を
施行した.バルサルバ洞破裂による循環動態の悪
化が,頸動脈内血栓形成の原因と考えられた.
45) 中枢性睡眠時無呼吸症候群を伴う慢性心不
全患者に対する夜間酸素療法の抗炎症効果について
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
鈴木 聡・野崎直樹・竹石恭知・久保田功
51) 冠動静脈瘻が瘤化したと考えられる一症例
(庄内余目病院心臓センター) 薦岡成年・
市川誠一・東 修平
48) 植え込み型除細動器を用いて両心室ペーシ
ングを施行した家族性拡張型心筋症の一症例
(東北大学循環器病態学分野) 若山裕司・
熊谷浩司・福田浩二・菅井義尚・遠藤秀晃・
篠崎 毅
(同心臓血管外科学分野) 井口篤志・
田林晄一
(同循環器病態学分野) 下川宏明
【目的】夜間酸素療法は中枢性睡眠時無呼吸症候
群(CSAS)を伴う慢性心不全患者の症状や運動
耐容能を改善させる.夜間酸素療法の抗炎症効果
について検討した.【方法】CSASを伴う慢性心
【症例】67才女性.家族歴:同胞2名がペースメー
不全患者に対し,夜間酸素療法の前後で簡易ポリ
カ植え込み(PMI),子二人が房室ブロックと拡
ソムノグラフィー,血漿中のBNP,hs-CRP, 張型心筋症でPMI施行後それぞれ心不全死及び突
MCP-1を計測した.【結果】対象患者の無呼吸―
然死.現病歴:1985年に心房細動,房室ブロック
低呼吸指数は夜間酸素療法により有意に低下し
でPMI施行.1992年心不全発症,以降入退院を繰
り返し,2004年心不全入院後はカテコラミン依存
た.夜間酸素療法の急性期では血漿BNPは有意
状態となり,2005年3月当院転院.右室ペーシン
な変化は認めなかったが,血漿hs-CRPおよび
グが心不全悪化要因と考えられ,CRT適応と考え
MCP-1は有意に低下していた.【結語】夜間酸素
られた.同年5月にICD(DDD)を用いたCRTを
療法の抗炎症効果がCSASを伴う慢性心不全患者
施行.CRT後のカテコラミン離脱及びβ遮断薬導
の予後の改善に関与していると考えられた.
入は順調であったが,左室リード閾値上昇及び脱
落を認め,同年8月に開胸左室心筋リード留置術
を施行.現在,NYHA2度の安定した状態で外来
通院中である.【結語】濃厚な家族歴を有する心
房細動,房室ブロックを伴った拡張型心筋症に対
し,ICDを用いたCRTが有効であった.
1132
第 141 回東北地方会
症例は82歳男性.心房細動にて当科でフォローさ
れていた.平成16年3月に冠動脈造影を施行した
ところ,LCA・RCA双方より分岐する異常血管
と造影剤のpoolingを認めた.MRIにて左房後外
側に4.5×3.5cm大の腫瘤像を認めた.手術拒否の
ため左房外腫瘍としてフォローされていたが,平
成17年9月のMRIにて腫瘤は6.0×4.0cm大へ明ら
かに増大し,手術目的にて入院.造影CTでは左
房外で辺縁のみ造影される腫瘤像を呈していた.
11月16日開胸腫瘤摘出術施行.腫瘤と左房との交
通はなく,腫瘤内部は器質化した血栓で満たされ
ていた.病理所見と併せて冠動静脈瘻の瘤化した
ものと考えられた.成人の冠動静脈瘻の瘤化は稀
な報告であるので,若干の文献的考察を踏まえ報
告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
52) 冠動脈ー肺動脈瘻に対し外科的加療を施行
した1症例
(東北厚生年金病院循環器センター)
山中多聞・亀山剛義・三引義明・菅原重生・
片平美明
【症例】50歳台 女性【既往歴】高血圧 脳動脈
瘤クリッピング【家族歴】特記事項なし【現病歴】
平成16年秋より,労作時の胸部不快感が出現し近
医より紹介.狭心症の疑いにて平成16年12月17日
に冠動脈造影施行.冠動脈に有意狭窄はないが,
冠動脈(左前下行枝)―肺動脈瘻を認める.平成
17年1月27日冠動脈―肺動脈瘻閉鎖(流入血管ク
リッピング,流出部縫合)を施行.【考察】現在
CAG件数が増大しており,冠動脈―肺動脈瘻を
認める機会は増えている.冠動脈―肺動脈瘻の大
多数はシャント量もわずかであり,無症状である
ことが多く,経過観察にて対応することが多い.
本症例は胸部症状を認めること,また,瘻血管の
瘤形成も認め,破裂の危険性もあると考え,外科
的加療を施行した.冠動脈―肺動脈瘻について若
干の考察も含め報告する.
53) 血管雑音にて発見された右内胸動脈-肺動
脈瘻の一例
(市立秋田総合病院循環器科) 藤原敏弥・
中川正康
(秋田大学循環器・呼吸器内科学分野)
宗久雅人
(市立秋田総合病院循環器科) 大楽英明
(きびら内科クリニック) 鬼平 聡
(秋田大学循環器・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
【症例】40代男性.【主訴】血管雑音【既往歴】H15年
頃右前胸部の皮下膿瘍で切開・排膿.H16年9月右前
胸部蜂窩織炎で皮膚科入院し切開・排膿.その後右膿
胸にて呼吸器科入院.
【現病歴】平成17年8月右前胸部
の血管雑音にて当科紹介受診.心エコーにて右内胸動
脈の拡大,流速の増大を認めた.右内胸動脈末梢∼肋
間動脈領域での動静脈シャントが疑われ入院.血管造
影で右内胸動脈末梢は肋間動脈方向に発達し,E肺動
脈へシャントを形成していた.右肺動脈血酸素飽和度
は94.3%と著明に上昇していた.これまでの病歴から
膿胸など炎症を契機にシャントが形成されたものと推
測されるが,機序は不明.放射線科へconsultしコイ
ル塞栓術の適応と判断,今後動脈塞栓術を施行の予定
である.【結語】右肋間動脈-肺動脈瘻の一例を経験し
たので報告する.
54) 高精度ドプラ法により血管壁の炎症の経過
を把握しえた高安動脈炎の一例
(東北大学循環器病態学分野) 小岩喜郎・
加藤 豪
(同中央検査部) 千葉賢治・大平未佳
(同血液免疫科) 石井智徳・宗像靖彦・
佐々木毅
(同循環器病態学分野) 下川宏明
55) 当院における永久型下大静脈フィルターの
有効性についての検討
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
宮下武彦・渡邉 哲・竹石恭知・久保田功
58) 重症心不全に対しカルベジロールが有効で
あった大動脈弁輪拡張症の一手術例
(星総合病院心臓血管外科) 高橋皇基・
高橋昌一
永久型下大静脈(IVC)フィルターは,抗凝固療
法が禁忌,あるいは十分な抗凝固療法にても肺塞
栓症(PE)が再発する場合に有用であるとされ
ているが,実際は抗凝固療法を継続でき,PEを
発症していない症例にも適応となっていることが
ある.そこで今回我々は,自験例を用いて当院に
おける永久型IVCフィルターの有効性とワーファ
リンを併用した場合の予後について検討した.永
久型IVCフィルターを留置した連続32症例を対象
とし,検討を行った.フィルター留置後にPEや
DVTを発症した症例はいなかった.ワーファリ
ン併用群において予後を改善する傾向を認めた.
永久型IVCフィルター留置術はPEの予防に有用
であり,DVTを発症することもなく安全に使用
できた.また,ワーファリンを併用することで生
命予後が改善する可能性が示唆された.
【症例】20才 男性.【主訴】呼吸苦.既往歴:14
才時,VSDに対し手術施行.【現病歴】2ヶ月前
より易疲労感を自覚し,3日前より徐々に呼吸苦
が出現したため来院した.入院時所見:胸部写真
CTR80%,肺水腫著明.心エコー:ARsevere.
EF19%,LVDd94mm,LVDs85mm.人工呼吸器
管理とし,循環動態および肺水腫の改善をはかっ
たが,人工呼吸器より離脱不能にて,大動脈基部
置換術を施行した.術後よりカルベジロールを開
始.カルベジロール5mgにて,術後心エコー:
EF53%,LVDd76,LVds54,胸部写真:CTR60%
と改善した.BNPも術前:1750,術後1ヶ月:
1240,術後6ヶ月103と改善傾向を示した.【結語】
低左心機能,重症心不全を来たした大動脈弁輪拡
張症に対して手術を施行した.術後心不全の改善
にカルベジロールが有用であった.
56) 糖尿病性動脈硬化巣のAdvanced Glycation
End Products
(AGEs)
とMatrix Metalloproteinases
(MMPs)
(福島県立医科大学第一内科) 川口美智子・
石橋敏幸・泉田次郎・斎藤富慈子・
矢尾板裕幸・丸山幸夫
【目的】我々は糖尿病患者の動脈硬化巣では繊維
性被膜の稀薄な不安定プラーグが形成される事を
報告した.今回糖尿病の不安定プラーグにおいて
AGEsとMMPsがいかなる関わりをしているのか
について検索した.【対象】症例はコントロール
群11例,糖尿病群11例の大動脈,冠動脈の動脈硬
化巣をMMP 1, 2, 3, 9とAGEsおよびcollagen 1, 3, 4
抗体で染色した.【結果】糖尿病群のプラーグ内
MMP-2, 9およびAGEs陽性部位がコントロール群
に比べ有意に増強していた.Collagen 1, 3は糖尿
病群で減少していたがcollagen 4は増加していた.
【結論】AGEsが平滑筋細胞内のMMPsの発現を刺
激し,糖尿病の不安定プラーグの形成をもたらす
と考えられた.
57) Re-do OPCAB症例に対する検討
(福島県立医科大学心臓血管外科)
瀬戸夕輝・佐戸川弘之・佐藤洋一・小野隆志・
高瀬信弥・渡邉俊樹・若松大樹・佐藤善之・
坪井栄俊・横山 斉
【目的】再手術例に対する心拍動下冠動脈バイパ
ス術(OPCAB)の有用性について検討する.【方
法】2001年4月∼2004年12月までのOPCAB術後の
24歳女性,発熱,頚動脈血管痛にて発症来院.高
再手術例6例を対象.Re-do OPCAB時の平均バイ
安動脈炎として直ちに入院後,ステロイド投与に
パス本数1.8枝.全例に左前側方開胸施行し,2例
て症状,炎症所見軽快し,40日後に退院した.経
に上腹部小切開横隔膜開窓法を追加した.【結果】
過中高精度超音波ドプラにて頚動脈壁2*1cmの長
平均手術時間350分,平均在院日数31日.低心拍
軸断層弾性率分布像にて血管壁内炎症の経緯を検
出量症候群・脳梗塞はなし.グラフトの早期開存
討した.血管壁厚IMTは全周性に肥厚し(4mm),
率は100%,完全冠血行再建率は83%であった.
炎症極期には平均弾性率は高度に減少(10kPa)
【結論】再手術症例に対してもOPCABは,低侵襲
し,ほぼ均一に軟らかい構造で覆われた断面像で
かつ安全に全領域での血行再建が可能であった.
あった(正常平均弾性率:31.4kPa)
.プレドニン
投与と共にこの断面像は次第に鮮明になり平均弾
性率も30kPa≦へと増大していった.症状,検査
結果を併せて考えると,高精度ドプラ位相差トラ
ッキング法はステロイドによる動脈壁の炎症性浮
腫の軽減を画像として鋭敏に描き出したものと考
えられ,その臨床的な有用性が示唆された.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
59) 巨大下肢動静脈奇形に対するコイル塞栓術
の1例
(南東北福島病院心臓血管外科) 櫻田 徹
症例は35歳の男性.平成12年4月頃より幼少時か
らの右下腿腓腹部の腫脹が増大し,疼痛増強のた
め受診.先天性動静脈奇形と診断し,コイル塞栓
術により前脛骨動脈と腓骨動脈からの流入動脈を
閉塞し得た.同部の腫脹と疼痛は消失したが,平
成15年秋頃より幼少時からの左足底部の腫脹が増
大し,靴の着脱にも困難をきたし受診.後脛骨動
脈の分枝を主たる流入動脈とする動静脈奇形と診
断した.縮小を図るため前・後脛骨動脈経由でコ
イル塞栓術を施行した.完全な血流遮断は達し得
なかったものの歩行は楽となり,左後脛骨動脈結
紮術あるいは切除術を考慮しながら経過観察中で
ある.先天性動静脈奇形の治療における血管内治
療法は有用であるが,病態の複雑さから有用性に
も限度があり,他の外科治療法をも含めた集約的
治療法の考慮が必要と思われる.
60) ペースメーカー及び植え込み型除細動器
(ICD)感染症例の検討
(秋田大学心臓血管外科学分野)
白戸圭介・山本文雄・石橋和幸・向井田昌之・
千田佳史・成田卓也・井上賢之・本川真美加・
田中郁信・榎本吉倫・山本浩史・近藤克幸
(秋田県成人病医療センター循環器科)
寺田 健・阿部芳久
(同心臓血管外科) 山浦玄武・関 啓二
(平鹿総合病院心臓血管外科) 加賀谷聡・
相田弘秋
(由利組合総合病院心臓血管外科)
青山泰樹・嶌田泰之
【目的及び対象症例】過去6年間のペースメーカー及び植え
込み型除細動器(ICD)感染20例(5∼82歳,平均67.1歳)
を対象とし,その治療法の現状を分析した.平均手術回数
は3.2±1.5回,最終手術から感染顕性化までの期間は25.3±
23.7か月(5∼86か月)であった.
【結果】局所感染は16例で,
処置の内訳はリード温存2例,断端処理11例,完全再植込み
3例であった.15例が最終的に局所処置のみで治癒するも,
1例が全身感染症に移行した.この1例を含む5例が全身感染
症を呈し,1例で体外循環待機下抜去,2例で体外循環下除
去を施行し,2例は局所処置施行し抗生剤投与下に経過観察
中である.【結語】局所感染例の多くは局所処置と適切な抗
生剤投与にて治癒可能であるが,全身感染症への移行が危
惧される場合は早期にシステム全除去を考慮すべきである.
仙台国際センター(2006 年 2 月)
1133
61) 心サルコイドーシスが疑われた症例に対し
て18F-FDG PETがその診断および治療効果判定に
有用であった1例
(秋田大学循環器・呼吸器内科学分野)
小山 崇・小野裕一・小坂俊光・長谷川仁志・
渡邊博之・飯野健二・石田 大・土佐慎也・
高橋陽一郎・宗久佳子・大場貴喜・小熊康教・
伊藤 宏
(秋田県立脳血管研究センター) 小野幸彦・
泉 学
症例は拡張型心筋症と診断されていた65歳の女性
で,心臓超音波検査上心室中隔および下壁領域の
菲薄化が新たに出現したため再入院となった.冠
動脈造影上有意狭窄を認めず,血清学的診断
(ACE,リゾチーム)
,病理学的診断(右室心筋生
検)
,画像診断(ガリウムシンチグラム,胸部造影
CT)上心サルコイドーシスの確定診断に至らなか
った.しかし18F-FDG PETでは活動性のある心サ
ルコイドーシスが強く疑われたためステロイド治
療を開始した.治療後左室駆出率は改善し,18FFDG PETの高集積部位は消失した.また18F-FDG
PETと201TlCl SPECTを併用することによってサル
コイドーシスの診断だけでなく治療効果および活
動性の評価も同時に判定できることが示唆された.
62) 心病変が著明であった家族性アミロイドー
シスの一例
(東北大学循環器病態学分野) 多田博子・
苅部明彦・福田浩二・熊谷浩司・清水亜希子・
多田智洋・小丸達也
(同病理部) 渡辺みか・笠島敦子
(熊本大学病態情報解析学分野) 安東由喜雄
(東北大学循環器病態学分野) 加賀谷豊・
下川宏明
56歳男性.父が58歳で突然死.弟が肥大型心筋症
として治療中.47歳時呼吸困難・下腿浮腫が出現
し近医で心機能低下,心肥大を認め拡張相肥大型
心筋症として加療.平成16年7月心室再同期療法
施行されたが心不全再燃し,無効例として平成17
年5月当科紹介.起立性低血圧,皮膚の易出血性,
貧血,腎不全,右胸水,心電図で低電位,心エコ
ー上著名な両室肥大と壁運動の低下(LVEF 32%)
を認めた.心筋生検でトランスサイレテチン抗体
陽性アミロイド沈着を認め家族性アミロイドーシ
スの診断となった.本症例は明らかな神経症状を
認めない心組織へ蓄積が顕著な家族性アミロイド
ーシスであり,早期には肥大型心筋症との鑑別が
困難であったころから貴重な症例と考え報告する.
64) アルコール多飲に伴うたこつぼ型心筋症の
一例
(仙台市立病院循環器科) 田渕晴名・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・山科順裕・
住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
71歳男性.長年一日5合アルコール摂取.家人に
自宅で倒れ痙攣しているのを発見され当院に搬送
された.来院時全身硬直間代性痙攣を認め入院.
翌日夜心拍数190/分の持続性心室頻拍が出現し電
気的除細動で洞調律に復した.その時の12誘導心
電図で,胸部誘導でST上昇,2,3,aVf誘導でST低
下を認め,急性心筋梗塞が疑われ緊急冠動脈造影
検査を施行した.冠動脈に狭窄,閉塞病変無く心
筋梗塞は否定されたが,左室造影で冠血管支配領
域に一致しない心尖部から前壁,下壁の無収縮,
心基部の過収縮を認めた.心電図で第2病日に同
誘導で陰性T波が出現した.第39病日の左室造影
検査で心尖部の無収縮は改善したこつぼ型心筋症
と診断した.アルコール多飲症に合併したたこつ
ぼ型心筋症を経験し若干の文献的考察を加え報告
する.
65) 運動後に心肺停止に至った催不整脈性右室
心筋症の一例
(中通総合病院循環器科) 阪本亮平・
五十嵐知規・佐々木憲一
症例は17歳女性.突然死の家族歴はない.体育の
授業後に意識消失し心肺停止に至った.救急隊到
着時VFであることが確認され,AEDによる計5回
の除細動で洞調律に復帰した.当院搬送直後の12
誘導心電図では左脚ブロック+左軸偏位型の多形
性心室頻拍が記録された.心臓カテーテル検査上
両心室の拡張と収縮低下,右室心尖部乳頭筋の著
明な発達が認められた.同部位からの心筋生検所
見は催不整脈性右室心筋症(ARVC)に合致した.
また,右室心尖部からのプログラム刺激により血
行動態の破綻を伴う心室頻拍が容易に誘発され
た.入院後のモニタリングでは,心拍数の上昇や
体動に伴い多源性心室性期外収縮や非持続性心室
頻拍が出現したが,鎮静とβ遮断薬の投与により
消失した.以上より本例におけるVTの発生機序
には自律神経活動の関与が示唆された.
63) 心ファブリー病に対して酵素補充療法を施
行した1例-その効果と今後の課題について(東北大学循環器病態学分野) 縄田 淳
(古川市立病院循環器科) 矢作浩一
(東北大学循環器病態学分野) 苅部明彦・
下川宏明
66) III度房室ブロック発症第4病日後に劇症化
した急性心筋炎の一例
(仙台市立病院循環器科) 野上慶彦・
八木哲夫・山科順裕・滑川明男・石田明彦・
田淵晴名・住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
ファブリー病は,αガラクトシダーゼ欠損のため,
グロボトリアオシルセラミド(GL-3)が蓄積す
るX連鎖性遺伝子病である.古典型は,幼少期か
ら四肢疼痛などの症状が出現するが,亜型では,
成人になってから,心肥大や蛋白尿で見つかるケ
ースがある.治療については,従来,疼痛に対す
る対症療法が行なわれてきたが,2004年4月より,
ファブリー病に対する酵素補充療法が承認され
た.今回,50歳代の心ファブリー病患者に対し,
1年間の酵素補充療法を行ない,心肥大の程度や
心機能について評価した.心エコー,心臓カテー
テル検査,MRIでは,肥大の程度や心機能に変化
はなかったが,血中BNPは低下傾向を示した.本
症例の結果を踏まえ,酵素補充療法の効果と課題
についての検討を行なう.
32歳の男性.胸痛を主訴に何度か外来を受診した
が心電図異常などを認めず経過観察されていた.
深夜に胸痛の増悪とめまい感の出現があり救急外
来を受診し,心電図でIII度房室ブロックを認め
たため緊急体外式ペースメーカーを挿入した.
CCUに収容し注意深く経過をみたが入院時のト
ロポニンT陽性以外に異常所見の出現はなく,恒
久式ペースメーカー植え込み術を第4病日に予定
した.手術日に容態が急変しForrester IVの急性
心不全に陥ったため,心筋炎が劇症化したものと
考え人工呼吸管理とし,大動脈バルーンポンピン
グ挿入した.左室壁運動は一時極度に低下したが,
約2週間の経過で回復しCCUから離脱でき最終的
には房室ブロックも改善し後遺症なく退院した.
房室ブロック発症から劇症化までに比較的時間を
要した急性心筋炎の稀な一例を経験した.
1134
第 141 回東北地方会
67) 長時間CPR後,開胸下PCPS装着にて救命
できた劇症型心筋炎の1症例
(東北大学循環器病態学分野) 矢作浩一・
岩渕 薫・高橋克明・福田浩二・深堀耕平・
高橋 潤・下川宏明・白土邦男
(同心臓血管外科学分野) 齋木佳克・
赤坂純逸・井口篤志・田林晄一
18歳女性.平成17年1月13日より発熱と咽頭痛が
持続,18日夜間の胸部圧迫感出現し,翌日近医受
診しショック状態のため前医へ搬送後,心肺停止.
心拍再開せずCPR継続にて当院へ搬送.心肺停止
後約90分後に開胸下でPCPS装着し心拍再開.装
着時の右室心筋生検にて心筋炎と診断.同日より
ステロイド・パルス療法(1g/日)とγグロブリ
ン投与(5g/日)を3日間施行.多臓器不全,蘇
生後脳症を合併したが,第11病日PCPS離脱.多
臓器不全の回復に3ヶ月間を要したが,自力歩行,
日常会話可能にまで回復している.本症例は,劇
症型心筋炎を疑った際,心肺停止になったとして
も的確なCPR継続が施行されれば,長時間CPR後
のPCPS装着でも救命可能であることが示された
1例である.
68) 急性劇症型心筋炎の循環動態改善にPMXDHPが有効と考えられた一症例
(太田西ノ内病院循環器センター)
三浦英介・豊田夕布子・圓谷隆治・関口祐子・
遠藤教子・本間俊彦・新妻健夫・武田寛人・
廣坂 朗
(太田綜合病院附属太田記念病院)
大和田憲司
(福島県立医科大学第一内科) 丸山幸夫
症例は44歳女性.急性心筋梗塞疑いで近医より当
科紹介となる.緊急心臓カテーテル検査では著明
な左室壁運動低下を認めたが冠動脈に異常はなか
った.検査中より急激な血圧低下を認め大動脈内
バルーンパンピング(以下IABP),経皮的心肺補
助装置(以下PCPS)を開始したが血行動態は改
善せず,炎症性サイトカインや酸化ストレス軽減
効果を期待して第四病日よりPMX-DHPを開始し
た.開始2時間後より自己血圧の上昇を認めた.
PMX-DHPは,第六病日に終了したが循環動態は
保持された.左室心筋生検ではリンパ球性心筋炎
の所見であった.PMX-DHPが劇症型心筋炎に対
するあらたな治療法となる可能性が示唆されここ
に報告する.
69) 急性心筋梗塞を合併した感染性心内膜炎の
一例
(いわき市立総合磐城共立病院循環器科)
佐藤崇匡・小松宣夫・黒木健志・三戸征仁・
戸田 直・山尾秀二・朴沢英成・杉 正文・
油井 満・市原利勝
(同心臓血管外科) 梅津健太郎・廣田 潤
(同病理部) 浅野重之
(福島県立医科大学第一内科) 石橋敏幸・
丸山幸夫
症例は70歳台女性.15年前に腎結核にて人工透析
を導入.10日前から微熱が持続していた.8月某
日,突然胸痛が出現し近医受診,心電図上V1∼5
誘導でST上昇を認め,急性心筋梗塞の診断にて
当科へ紹介された.緊急冠動脈造影を施行し,#
6の完全閉塞認め,血栓吸引にてTIMI IIIを得た.
IVUSにてplaque raptureは認めなかった.第3病
日の心エコー検査にて,軽度僧房弁逆流と僧房弁
前尖に疣贅を認め,血栓吸引物の病理所見にて血
栓と多量のグラム陽性球菌を認めた.感染性心内
膜炎の診断にて抗生剤を投与し炎症反応は鎮静化
したが,僧房弁逆流による心不全のコントロール
が困難となり,9月中旬心臓血管外科で僧房弁置
換術を施行した.急性心筋梗塞を合併した感染性
心内膜炎の一例を経験したため報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
70) 微量の甲状腺ホルモン療法は,慢性減負荷
環境における心機能およびカルシウム調節機能の
低下を抑制する
(東北大学循環器病態学分野) 湊谷 豊・
伊藤健太・加賀谷豊・浅海泰栄・中山雅晴・
高橋 潤・矢作浩一・武田守彦
(同心臓血管外科学分野) 井口篤志
(同循環器病態学分野) 白土邦男・下川宏明
【背景】我々は以前,左室減負荷モデルにおいて
左室の心筋収縮予備能は減負荷の長期化とともに
低下することを報告した.今回,甲状腺ホルモン
(T3)がこの変化を抑制出来るか検討した.【方
法と結果】近交系ラット異所性心移植モデルを作
成し,5週間減負荷された左室(移植心)を得た
(各n=20).コントロール群の移植心では宿主心
に比し,心筋細胞の弛緩とカルシウムトランジエ
ントは遅延し,収縮予備能も低下していた.一方
3週間微量T3投与を受けた移植心では,これらの
指標は宿主心と同様のレベルに回復していた.ま
たコントロール群の移植心で著増していたホスホ
ランバンはT3投与により正常化傾向を示してい
た.【結論】慢性減負荷状態により生じた移植心
の収縮予備能低下とカルシウム調節機能低下は,
微量T3投与により修復した.
73) 代謝性冠血管拡張因子としての過酸化水素
の関与--摘出ラット冠微小血管を用いた検討
(福島県立医科大学第一内科) 斎藤修一・
石橋敏幸・丸山幸夫
(ルイジアナ州立大学) チリアンウィリアム
酸素消費量増加に伴う心筋細胞からの過酸化水素
の発生とそれによる冠微小血管拡張反応につい
て,ラットの単離心筋細胞と摘出冠微小血管を用
いて検討した.心筋細胞は,直流電気刺激のぺー
シングにより,拍動数依存性に過酸化水素を産生
した.その上清を60mmHgに加圧した内径100μm
未満の冠血管に反応させることにより,冠血管は
上清の容量に依存して拡張を示した.このことか
ら過酸化水素が代謝性冠血管拡張因子である可能
性が示唆された.
71) 単球のNO不全血管内皮細胞への接着にお
ける凝固亢進機序の検討-MCP-1を介するCa 2+ シ
グナルの関与について
(福島県立医科大学第一内科)
阪本貴之・石橋敏幸・坂本信雄・上岡正志・
杉本浩一・大河原浩・丸山幸夫
【目的】今回,単球接着によるNO産生障害血管内
皮細胞の組織因子(TF)発現におけるMCP-1及
びCa 2 + シグナルの関与について検討した.【方
法・結果】L-NAME処理した培養冠動脈由来血
管内皮細胞(EC)とヒト単球との共培養系にて,
L-NAME処理はECのMCP-1発現を亢進させた.
L-NAME処理ECでは無処理ECと比しTF発現の
亢進を認め,その亢進はMCP-1阻害にて打ち消
された.単球接着によるEC内Ca2+濃度はLNAMEおよびMCP-1処理にて有意に増加し,そ
の増加はCa2+ influxであった.【総括】NO産生阻
害によりMCP-1/CCR2を介するCa2+ influxを増加
させ,そのことが単球接着によるECのTF発現亢
進に至ることが示唆され,炎症による凝固亢進の
メカニズムの一部を説明するものと考えられた.
72) 微小管重合と心筋細胞アポトーシスの関連性
(東北大学循環器病態学分野) 佐治賢哉・
鈴木 潤・縄田 淳・杉村宏一郎・福井重文・
佐久間聖仁・白土邦男・下川宏明
心不全では心筋細胞の微小管重合やアポトーシス
が認められるが両者の相互関係は不明である.ラ
ッ ト 単 離 心 筋 細 胞 に T a x o l ( 微 小 管 重 合 ),
Colchicine(微小管脱重合),更にAngiotensin II
(AgII),Isoproterenol(Iso),TNF-αを投与し
アポトーシスをTUNEL法で評価した.Taxol,
AgII, Iso, TNF-αはそれぞれアポトーシスを有意
に増加させた.更にTaxolはAgIIによるアポトー
シスを有意に増加させた.一方,Colchicineは単
独ではアポトーシスに影響を及ぼさなかったが,
AgII, Iso, TNF-αによるアポトーシスを有意に抑
制した.これらの事は心不全における心筋細胞の
微小管重合とアポトーシスの関連性を示唆する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
仙台国際センター(2006 年 2 月)
1135
第 199 回 日 本 循 環 器 学 会 関 東 甲 信 越 地 方 会
2006 年 2 月 4 日 日本大学会館
会長:長 尾 建(駿河台日本大学病院救命救急センター)
1) 頚動脈プラーク性状および将来の虚血性脳血
管イベントとの関連:MRIを用いた前向き試験
(順天堂大学循環器内科学) 高谷典秀・
代田浩之
(Department of Radiology, University of Washington)
Yuan Chun
(Department of Surgery, University of Washington)
Hatsukami Thomas
【目的】MRIを用いた頚動脈プラーク性状の評価
が,将来の虚血性脳血管イベントを予測可能かに
ついて,前向き試験を用い検証した.【方法】頚
部超音波により50-79%狭窄と診断された,連続
154人の無症候性患者が対象.頚動脈MRI撮像後,
虚血性脳血管障害の発生を観察した.【結果】平
均追跡期間38.2ヶ月の間,対象動脈と同側のイベ
ントを12例認めた.Cox regression modelにより,
MRIプラーク性状とイベントの関連を評価したと
ころ,Fibrous capの菲薄化・破裂(p<0.001),
プラーク内血種(p=0.005),最大粥腫面積率
(p=0.004),最大壁厚(p=0.008)が有意に関連
していた.
【結語】MRIによるFibrous capの状態,
プラーク内血種の有無,粥腫や壁厚の定量解析等
の頚動脈プラーク性状の評価が,将来の虚血性脳
血管イベント予測に有用である.
2) Monocrotaline誘発肺高血圧ラットの肺血管
床における骨髄由来細胞の作用についての検討
(東京大学循環器内科) 佐原 真・
佐田政隆・森田敏宏・平田恭信・永井良三
【目的】Monocrotaline(MCT)誘発肺高血圧ラッ
トの肺血管床に対する骨髄由来細胞の作用につい
ての検討.【方法と結果】致死量放射線照射後に
GFPラット骨髄細胞で置換されたキメララットへ
MCT 60mg/kgを腹腔内投与.4週後右室収縮期
圧は著明に上昇し,肺細動脈の中膜は著明に肥厚
した.外膜周囲にはGFP陽性MΦが認められたが,
GFP陽性細胞が肥厚中膜の平滑筋細胞や内皮細胞
に形質転換した所見は殆どなかった.次に放射線
非照射でMCT投与された年長ラットへ,若年ラ
ット骨髄細胞の静注を4週連続で施行.この系で
も若年骨髄細胞が肺細動脈の肥厚中膜や内皮に形
質転換した所見はなかった.また若年骨髄細胞の
投与が肺血行動態や生存率の改善にも寄与しなか
った.【結論】骨髄由来細胞は肺高血圧ラットの
肺血管リモデリングには関与しなかった.
1136
第 199 回関東甲信越地方会
3) 急性心膜炎を契機にマルチスライスCT
(MSCT)
により左前下行枝(LAD)完全閉塞が発見された
一例
(茨城県立中央病院循環器内科) 保坂 愛・
羽鳥光晴・安倍大輔・小形幸代・富沢巧治
5) 急性心筋梗塞後の心室中隔穿孔に対し2度の
心室形成術を施行し救命し得た1症例
(獨協医科大学循環器内科学) 福嶋博道・
稲葉周子・石村公彦・中野滋文・坪光雄介・
森 陽祐・矢部彰久・堀中繁夫・松岡博昭
60歳男性.深呼吸で増強する胸痛を主訴に受診.
急性心膜炎の診断で入院の上,NSAIDs投与にて
胸痛及び心電図所見は改善した.心電図・心エコ
ー上虚血性心疾患の所見を認めなかったが,入院
時胸痛とは異なるごく軽度の労作時胸部違和感が
あるため,MSCTを用いて低侵襲的に冠動脈を評
価したところ,LAD近位部の完全閉塞を認めた.
約15mmの病変で屈曲なく内部のCT値が低いた
め,経皮的冠動脈形成術(PCI)可能と判断,
PCI施行し開存に成功した.本例は急性心膜炎と
冠動脈病変とが合併した稀な症例であり,冠動脈
病変の発見及び病変部の質的診断にも低侵襲の
MSCTが有用であった.
73歳女性.2005/6/30急性心筋梗塞を発症し,
LAD#7-100%に対し血栓吸引療法後25%へ改善.
しかし低血圧,混合静脈血酸素飽和度上昇と心拍
出量増加を認め心エコー施行.心室中隔穿孔と診
断し緊急心室形成術を施行した.術後,慢性腎不
全の増悪にて血液透析を開始するも再び心不全増
悪.心エコー上残存L-Rシャント増加と心プール
シンチQp/Qs=4.0を認め,8/1心室再形成術およ
び僧帽弁形成術を施行した.術後,肺炎・DICを
併発するも薬剤にて改善,カテコラミン持続静注
および強心剤・Amiodaroneの内服にて循環動態
は保たれ,現在維持透析を行っている.今回,急
性心筋梗塞後の心室中隔穿孔に対し2度の心室形
成術を施行し救命し得た症例を経験したので報告
する.
4) 急性心筋梗塞による乳頭筋腱索断裂で僧帽弁
置換により救命しえた高齢者シェーグレン症候群
の2例
(国立国際医療センター腎臓循環器科)
菊地聡子・岡崎 修・海野梨里・田守唯一・
大野邦彦・副島洋行・渡邉剛毅・田中由利子・
樫田光夫・赤塚宣治・廣江道昭
(同心臓血管外科) 木村壮介
(同臨床病理科) 斎藤 澄
6) 薬剤溶出性ステントを用いた冠動脈形成術直
後にステント内血小板血栓を生じた一例
(東京都立広尾病院循環器科) 島田奈都子・
呉 正次・小野川淳・弓場隆生・小宮山浩大・
谷井博亘・辰本明子・小泉章子・田辺康宏・
板倉英俊・山口博明・岡崎英隆・手島 保・
櫻田春水
【症例1】肺結核および肺サルコイドーシスおよ
びシェーグレン症候群の既往がある81歳女性.胸
苦しさを主訴に来院.胸部X線上2年前と著変な
く,心電図上軽度ST-T変化あり,心エコー図で壁
運動と弁異常はなかった.5日後,胸苦しさが増
悪しCCUへ入院.回旋枝閉塞による心筋梗塞で乳
頭筋腱索断裂(PMR)と急性僧帽弁閉鎖不全
(Acute MR)を合併.IABP挿入し僧帽弁置換
(MVR)され救命しえた.
【症例2】甲状腺機能低
下とシェーグレン症候群の既往がある80歳女性.
心原性ショックを伴い第一対角枝閉塞による急性
心筋梗塞でAcute MRを合併.IABP挿入しMVRに
て救命しえた.2症例とも手術標本組織から凝固
壊死を伴う急性心筋梗塞に起因するものと判定.
PMRをMVRにより救命できた高齢者のシェーグ
レン症候群の2例を経験したので報告する.
症例は72歳女性.1ヶ月前より労作時胸痛出現.1
週間前より症状頻回となる.平成17年11月1日深
夜,安静時症状が10分以上持続し近医受診,当科
紹介となる.受診時症状は消失していたが心電図
上前胸部にST上昇を認め,NTG投与にて基線に復
した.ACS疑いにて緊急CAGを施行し,LAD#7
に99%狭窄を認めた.2.5×28mmのDES留置によ
り良好な開通が得られたが,直後に同部に血栓像
を認め,吸引にて白色の微細物質を採取した.最
終造影時は25%狭窄であった.術後経過は良好で
症状再燃なく,CK上昇も認めなかった.7日後の
確認造影にて,#7stent siteは25%で再狭窄は認
めなかった.病理結果にて採取物質は血小板血栓
であった.【結語】DESを用いたPCI直後に急性
期ステント内血栓を合併した症例を経験したので
若干の考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
7) 狭心症にてSVGに留置したステントが大動
脈と胸骨に圧排され発症したと思われた急性心筋
梗塞の一例
(越谷市立病院循環器科) 津田達広・
宮野 宏・木村 徹・参木保至・木下良子
(田中医院) 田中孝和
10) アナフィラキシーショック時にST上昇発
作を合併した一例
(横浜船員保険病院内科) 中戸川知頼・
本郷洋一郎・宮崎直道
(横浜市立大学附属市民総合医療センター循環器内科)
日比 潔・木村一雄
症例は57歳男性.22年前,他院にて狭心症の診断
でCABG(SVG−LAD)を,4ヶ月前,当院にて
不安定狭心症の診断でSVG近位部にPCI(ステン
ト留置)を施行されたが,急性心筋梗塞(前壁)
を発症し当院受診,冠動脈造影でSVGステント部
に高度狭窄を認めPCIを施行した.病変部はバル
ーンの通過が困難でありトルナス併用下にダブル
ワイヤーとしバルーニング,IVUSではステント
の近位部がクラッシュしており,ワイヤーとバル
ーンがステントの外側を通過していたことを確
認,さらに病変部は大動脈に圧排されているよう
であった.サイファーステントを内装するように
留置した.後日,胸部造影CTを施行したところ
SVGステント部付近が大動脈と胸骨に挟まれて位
置しており,その圧力でステントが変形したと考
えられた.
症例は65歳女性.左肘頭骨折で入院中,術後の抗
生剤を内服薬に変更したところ,初回内服1時間
後に全身発赤・掻痒感が出現,更に10分後に心窩
部痛と低血圧・徐脈を認めた.アナフィラキシー
を疑い急速輸液,hydrocortisone 100mgの静注を
施行,この時心電図で下壁誘導のST上昇を認めた
がhydrocortisone 200mgを追加静注しているうち
にST上昇は軽快し低血圧・徐脈も消失,この時点
での心エコー図では左室壁運動は正常だった.
CCU入室後硝酸薬の持続投与を開始,再発作や
心筋逸脱酵素の上昇は認めなかった.1カ月後の
冠拡張薬非投与下での冠動脈造影で右冠動脈#2
に75%の有意狭窄病変を認め冠攣縮誘発試験は施
行しなかった.IVUSでは超音波減衰を伴う偏心
性の粥腫を認めた.特異な誘因でST上昇発作を
来したと思われる一例を経験したので報告する.
8) アンカーバルーンによる冠動脈穿孔を合併し
た一例
(群馬大学循環器内科) 富田智貴
11) 心電図にて診断が困難であった高齢者急性
心筋梗塞の2症例
(東京都老人医療センター循環器科)
大野弘毅・石田純一・猿原大和・木島 豪・
軽部裕也・武田和大・谷口 泰・桑島 巌・
原田和昌
14) 好酸球増多との関連を疑われた難治性冠攣
縮性狭心症の一例
(東京大学循環器内科) 河原崎秀一・
渡辺昌文・藤田英雄・松下匡史郎・福田 平・
宮本千尋・前村浩二・大野 実・平田恭信・
永井良三
【症例1】89歳女性.硝酸薬服用中,6時間持続す
る胸背部痛を訴え救急受診した.心電図変化を認
めなかったがWBC10600,CPK300(MB60)と上
昇し,トロポニンT陽性で心エコーにて左室前壁
の壁運動低下を認めたため,急性心筋梗塞を疑い
緊急冠動脈造影を行った.前下行枝#7に完全閉
塞と右冠動脈より軽度の側副血行を認め,IABP
挿入下にPCI施行した.【症例2】64歳女性.糖尿
病治療中で2日前から数回の労作時胸部圧迫感あ
り.夕方胸部圧迫感と冷汗出現し改善しないため
翌朝近医受診,当院へ搬送された.来院時CK393
(MB48)と上昇していたが胸痛なく,心電図,心
エコー上も有意な変化を認めなかった.慢性期冠
動脈造影にて前下行枝#7に完全閉塞を認めPCI施
行した.急性期心電図変化を伴わない高齢女性の
急性前壁梗塞の2症例を経験したので報告する.
好酸球増多症を伴う治療抵抗性の冠攣縮性狭心症
に対し,ステロイド剤を導入した症例を経験した
ので報告する.症例は再燃する慢性膵炎で入退院
を繰り返していた80歳女性.2005年9月心電図変
化を伴う安静時胸痛を訴え,冠動脈造影施行し,
ニトロール冠注で解除される多発性の冠動脈攣縮
を認めた.冠攣縮性狭心症の診断にて薬物治療を
開始したが,治療抵抗性であった.また,末梢血
中の好酸球は6200/μlと著明に増加しており,喘
息の既往,好酸球性肺炎様のCT所見,多剤薬剤
アレルギーなどから,好酸球増多症候群の合併が
考えられた.その後,好酸球数の低下に伴い狭心
症発作は減少し,好酸球増多と冠攣縮との関連が
疑われた.経口ステロイド剤による治療を開始し
たところ,好酸球数の減少に伴い胸痛発作も軽快
し,退院となった.
12) 意識消失を繰り返した冠攣縮性狭心症の一例
(獨協医科大学越谷病院循環器内科)
善利博子・谷口 勲・瀧澤 圭・藥袋路子・
唐原 悟・長瀬衣代・清野正典・林亜紀子・
清水 稔・酒井良彦・林 輝美・高柳 寛
15) 喫煙を契機に発症した冠動脈血栓が原因と
考えられえる若年者急性心筋梗塞の一例
(千葉市立海浜病院循環器内科) 椎名由美・
大熊麻衣子・浅川雅透・行木瑞雄・相生真吾
症例は85歳男性.前立腺生検前の検査で虚血性心
疾患が疑われ平成17年8月にCAG施行.RCA#2:
100%,LCX#11:75%,#13:75%のニ枝病変で
あった.まずRCAにPCI施行.その後,LCX#11
∼#13に前拡張後,CYHPER 2.5×28mmを留置し
ようとしたが,血管の石灰化と蛇行のためデリバ
リー出来なかった.#12に2.5mmのバルーンを4
気圧で拡張しアンカーテクニックを用いたところ
デリバリーに成功した.しかし,#12より造影剤
の血管外漏出を認め冠動脈穿孔を合併した.硫酸
プロタミン3000単位投与,低圧拡張した2.5mmバ
ルーンを穿孔部に15分留置し止血し得た.止血後
CYPHERをアンカーテクニックを用いず留置を
試みたところ成功し良好な拡張を得た.アンカー
バルーンテクニックは本症例のように冠動脈穿孔
を合併することがあり,その適応は慎重に考慮す
る必要がある.
9) 家族性高コレステロール血症と高ホモシスチ
ン血症を合併した若年発症の急性心筋梗塞の一例
(川口市立医療センター循環器科)
小張 力・野本和幹・榎本光信・佐藤喜洋・
古川清隆・鷲尾武彦・大場富哉
(駿河台日本大学病院循環器科) 渡辺郁能・
久代登志男
症例は24歳の男性.胸痛を主訴に来院し,急性心
筋梗塞の診断にて入院となった.冠危険因子とし
て喫煙(20本/日),家族性高コレステロール血症
(総コレステロール369mg/dl,中性脂肪296mg/dl,
HDLコレステロール29mg/dl,LDLコレステロー
ル242mg/dl)を認めた.緊急CAGを施行したと
ころLAD#7に90%狭窄,LCx#11に完全閉塞と2
枝病変を認め,責任病変#11に対してPCIを施行
し良好に開大した.後日,#7に対してもPCIを施
行した.本症例は,入院時の血中ホモシスチン値
が51.4μmol/Lと高値であり,動脈硬化の促進因
子と考えられた.家族性高コレステロール血症と
高ホモシスチン血症を合併した若年発症の急性心
筋梗塞の一例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は67歳,男性.H14年洞不全症候群にてDDD
植込み術施行.H16年6月17日,胸部圧迫感出現後
意識消失,救急隊到着時pulseless electrical activity
のためCPR下に当院に搬送.来院時,JCSIII-300,
血圧76/45,心電図上DDD pacing 60/分.保存的
治療にて心電図は洞調律に戻り一過性に冠性T波
を認め,意識は改善.第10病日,冠動脈造影で有
意狭窄認めず,Ach負荷施行するも陰性であった.
病歴より冠攣縮性狭心症強く疑い,Ca拮抗薬を
開始し退院.7月21日再び胸痛に続いて意識消失
し当院へ搬送された.心電図上V1∼3ST上昇,緊
急冠動脈造影で多枝に冠攣縮と前下行枝より右冠
動脈に側副血行路を認め,血管拡張剤冠注にて改
善した.難治性冠攣縮性狭心症と診断,Ca拮抗
薬を多剤併用しその後発作は消失した.
13) PCI中HITによる冠動脈内血栓とcoronary
spasmを生じた1例
(昭和大学横浜市北部病院循環器センター)
荒木 浩・落合正彦・緒方信彦・小原千明・
芦田和博・磯村直栄・中島邦喜
症例は60代女性.anterior AMI発症し,LAD6100%にdirect PCIし再疎通に成功した.後日
RCA3-90%とLCX13-90%に対してPCIを施行.そ
れぞれDESを植え込んだ.LCXのPCI中に胸痛と
下壁誘導のST上昇が出現し,RCAにcoronary
spasmが生じていた.ISDN冠注でspasmは解除
したが,今度はLCXのstent内に陰影欠損が出現.
IVUS所見は血栓であった.血小板は33.7万から
18.1万に著減していた.ここでHITを疑い,ヘパ
リン使用を中止してアルガトロバンを静注した.
その後,体外式ペーシングとIABP挿入して冠動
脈内血栓症とcoronary spasmからなんとかbail
outすることができた.その後は続発する塞栓症
も起こすことなく退院となった.後日の検査結果
から抗ヘパリン抗体も陽性だった.不意のcoronary
spasm時にはHITの関与も念頭に置く必要がある.
症例は35歳の男性.喫煙中に胸痛が出現し,翌日
急性下壁心筋梗塞の診断にて入院となった.入院
4日目に施行したCAGでは右冠動脈近位部に拡
張を認め,同部位と末梢に血栓像を認めた.
TIMI grade3の血流が得られていたため,アス
ピリンの内服とヘパリンの持続静注にて治療を継
続したところ,入院12日目のCAGでは,右冠動
脈末梢の血栓は消失し,拡張部位の血栓も退縮を
認めた.その後ワーファリンの内服を継続したと
ころ,3ヵ月後の造影CTにて拡張部位の残存血
栓も消失していた.喫煙と血栓の因果関係および
造影CTによる血栓の評価を含めここに報告する.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1137
16) Warfarinの自己中止後に生じた冠動脈塞栓
症の一例
(東京警察病院循環器センター) 新田宗也・
吉良文孝・野崎みほ・笠尾昌史・白井徹郎
症例は47歳,男性.突然の胸痛にて発症20数時間
後に緊急入院.心電図上心房細動とI,AVL誘導
でのST上昇,心筋逸脱酵素の上昇を認め,急性
心筋梗塞と診断された.冠動脈造影では,左回旋
枝OMの中間部に血流途絶を認めた.本例は,重
症大動脈閉鎖不全,慢性心不全,心房細動にて薬
物治療を受けていたが,自己判断にてwarfarinを
含む,すべての内服薬を中断していた.精査目的
で半年前に施行した冠動脈造影では,今回の閉塞
部位には有意病変はなく,血流途絶像が塞栓を疑
わせたことから,引き続き経食道心エコーを施行
した.その結果,左房内に著明なSECと大動脈弁
に異常索状エコーを認めた.以上の様な経過から,
本例は易血栓形成状態に加えwarfarinの自己中止
により,冠動脈血栓塞栓を引き起こしたまれな一
例と考えられた.
17) 左房内血栓の剥離による右冠動脈起始部へ
の塞栓が原因として考えられた急性心筋梗塞の1例
(東京臨海病院循環器内科) 鬼倉基之・
河野 通・古屋真吾・原澤信介
症例は86歳女性.発作性心房細動・高血圧症で他
医通院中であった.胸背部痛を自覚し,自宅で蹲
っているところを家人に発見され当院に救急搬送
された.当院到着時に胸背部痛・腹痛・腰痛を自
覚していたために,胸部造影CTを施行したとこ
ろ左房内血栓および右冠動脈起始部血栓を認め
た.急性期の心電図と心臓超音波検査で急性心筋
梗塞(下壁梗塞)を示唆する所見を得たために,
緊急冠動脈造影を施行したが有意狭窄は認めなか
った.その後,多臓器不全を呈し第2病日に死亡
した.剖検では下壁と右室の急性心筋梗塞及び左
房内に血栓剥離を示唆する所見を認めたが,右冠
動脈起始部の血栓は認めなかった.血液検査でD
ダイマーの高値も認めたために急性心筋梗塞の原
因として,左房内血栓の剥離による右冠動脈起始
部への塞栓が考えられた症例.
18) 多発性骨髄腫に対する化学療法中,冠動脈
血栓症による急性心筋梗塞を発症した一症例
(NTT東日本関東病院循環器内科)
保坂文駿・森 文章・嵐 弘之・指田由紀子・
上野正剛・板井 勉・大西 哲
我々は多発性骨髄腫に対する化学療法中に冠動脈
血栓症による急性心筋梗塞を来した1例を経験し
たので報告する.症例は69歳女性.平成17年9月
から化学療法施行.11月14日に下壁心筋梗塞を発
症.冠動脈造影の結果,#2以降に多量血栓を認
めたが,粥腫破綻からの血栓形成閉塞所見は認め
なかった.血栓吸引後も多量残存血栓を認めたが,
造影遅延を認めないためIABP挿入にて終了とし
た.また,抗凝固,血栓薬の投与を行い第3病日
にはIABPを抜去.第16病日の冠動脈造影で血栓
像は消失していた.本症例は一般的機序による
ACSではなく化学療法薬による血栓形成からの
AMIと考えられ,IABP挿入と抗凝固,血栓療法
のみで加療し得た稀な症例と考えられ報告する.
1138
第 199 回関東甲信越地方会
19) ITP加療中にAMIを発症し,PSL増量によ
る血小板数増加に伴って心尖部血栓を生じた1例
(東京医科大学第二内科) 川出昌史・
臼井靖博・山田治広・今井靖子・田中信大・
山科 章
(同第一内科) 高久智生・荘司奈穂子・
宮澤啓介
62歳男性.53歳よりITPに対し脾摘およびPSL内
服治療中に,05年8月,急性前壁心筋梗塞を発症
し,左前下行枝にステントを留置.第3病日,血
小板が4000/μlまで低下し,PSLを増量したとこ
ろ第10病日には血小板数が230000/μlまで増加.
当日の心エコーにて心尖部壁在血栓を認め,ワル
ファリンを開始した.PSLの漸減を行いながら出
血傾向および血小板数,PT-INRを頻回にモニタ
ーし,ワルファリン量を調整し血栓は縮小した.
ITPにおける急性冠症候群の合併はまれであり,
血小板減少による出血傾向への対処についての報
告が散見される程度である.本例はPSL増量に伴
う血小板増加に伴って心尖部血栓を生じ,出血,
凝固のバランス調整に難渋したまれな症例と考え
報告する.
20) 心房細動による冠動脈血栓塞栓が原因と考
えられた急性心筋梗塞の2例
(国立病院機構東京医療センター循環器科)
倉田季代子・坂本宗久・中根登喜子・
遠藤彩佳・熊沢佳子・布施 淳・高木英爾・
茅野眞男
【症例1】70歳女性【主訴】胸痛【現病歴】2005
年8月3日10時30分胸痛・呼吸困難のため救急搬
送された.搬入時心電図上心房細動・II III aVF
V3-5のST上昇を認め急性心筋梗塞と判断した.
【経過】直ちに冠動脈造影施行しLAD#7とRCA#3
の血栓によると思われる二枝閉塞を認めPCIを施
行し再灌流を得た.【症例2】57歳男性【主訴】
胸痛【現病歴】2005年8月24日13時30分冷汗を伴
う胸痛を自覚し救急搬送された.搬入時心電図上
心房細動・V2-6でST上昇を認め急性心筋梗塞と判
断した.【経過】直ちに冠動脈造影施行しLAD#7
の閉塞を認めPCIを施行し再灌流を得た.【考察】
いずれの症例も造影・IVUS所見から心房細動に
よる冠動脈血栓塞栓症と判断した.塞栓症危険因
子を有する心房細動症例に対し抗凝固療法が施行
されていなかったことが原因と考えられた.
21) 胸部解離性大動脈破裂を保存的に加療した
一例
(関東中央病院循環器内科) 笠井陽介・
田中治彦・明城正博・松井佑子・清末有宏・
北川容子・田部井史子・伊藤敦彦・池ノ内浩・
野崎 彰・杉本恒明
症例は85歳女性.【主訴】背部痛,【既往歴】C型
慢性肝炎,虫垂炎術後,白内障術後,生活歴,家
族歴に特記事項なし,【現病歴】2005.7.31より背
部痛を自覚.8.1体操教室の途中で背部痛が増悪,
腹痛も出現したためタクシーにて来院.胸部レン
トゲンにて左肺野透過性低下を認め,緊急胸部
CTにてStanford Bの下行大動脈解離および左胸
水貯留を認め,後縦隔穿破と診断した.手術困難
と判断,左胸腔は血胸にて充満され縦隔も右に変
位し呼吸困難となり,ICUにて気管内挿管,呼吸
管理と輸血,降圧をはかり保存的に加療.24日病
日一般病棟へ転棟.解離腔の血栓閉鎖と左胸腔,
後縦隔血腫の吸収を認め3ヶ月後自宅退院.破裂
解離性大動脈瘤を保存的に加療した症例を報告し
た.
22) Stanford B型急性大動脈解離に対する外科
治療
(榊原記念病院) 堀内和隆・下川智樹・
川瀬康裕・宝来哲也・西村健二・竹内 晋・
文元建宇・高梨秀一郎
Stanford B型急性大動脈解離は,原則として降圧
を中心とした保存的治療を行うが,破裂例などは
外科治療の適応である.当院では2005年1月から5
例の急性期手術を経験しており,破裂3例(shock
1例),切迫破裂1例,大動脈径69mm(動脈瘤に
合併)1例であった.全例において,分離肺換気,
左心バイパス(左大腿動脈送血,経肺静脈左房脱
血)下に下行大動脈置換術を施行し,1例に肋間
動脈再建を追加した.在院死亡はなく,脊髄障害
の発生も認められず,良好な成績を収めているの
で報告する.
23) バルサルバ洞付き人工血管を用いて自己大
動脈弁温存大動脈基部置換術および大動脈弓部置
換術を施行した1例
(新潟大学呼吸循環外科) 曽川正和・
林 純一
67歳男性.上行弓部大動脈瘤および大動脈弁閉鎖
不全症(AR)にて手術目的に当科入院した.術
前心エコーにてDd/Ds=5.23/2.88 EF 76% AR2度,
大動脈弁輪径21mm,STJ径38mm,CTにて上行
大動脈瘤の最大径は66mmであった.手術所見.
ARに対しては,自己大動脈弁は3尖あり,各弁
尖に異常はなく,ARの原因はSTJの拡大と考えら
れバルサルバ洞付き人工血管24mmを用いて自己
大動脈弁温存大動脈基部置換術を施行した.
また,
今後の弁輪拡大予防として,大動脈基部に26mm
のリングをつけexternal aortic annuloplastyを追
加した.大動脈瘤は上行大動脈から一部大動脈弓
部に及んでおりhemiarch replacementを施行し
た.術後経食道心エコーにて自然なバルサルバ洞
の形態が観察された.
24) 急性大動脈解離術後遠隔期に発症した上行
大動脈瘤に対して大動脈基部置換術を施行した一例
(自治医科大学外科学講座心臓血管外科部門)
坂野康人・齊藤 力・上西祐一朗・篠原貴子・
大木伸一・三澤吉雄
【症例】50才,男 5年前にスタンフォードA型急
性大動脈解離にて上行弓部大動脈置換術,3年前
に残存胸部解離性大動脈瘤に対して,胸部下行大
動脈置換術施行されている.上行大動脈から大動
脈基部にかけて最大径90mmに瘤化し手術適応と
なった.術前精査にて膜性部中隔欠損型心室中隔
欠損を指摘,手術は大動脈基部置換術,心室中隔
欠損孔直接閉鎖に加え,肺動脈パッチ形成術,左
冠動脈起始部閉鎖,大動脈−冠動脈バイパス術を
施行.手術時間14時間48分,体外循環時間633分,
心筋保護時間302分,逆行性脳灌流併用超低体温
循環停止時間59分と高侵襲であったが,経過は比
較的良好であった.心筋シンチ上虚血性変化も認
めず.冠血行は保たれていた.術後1年を経過し
て撮影した冠動脈CTでもグラフトは良好に開存
していた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
25) 多発性嚢胞腎に併発したStanford A型大動
脈解離の一例
(心臓血管研究所循環器内科) 杉山裕章・
小池 朗・上嶋徳久・及川惠子・及川裕二・
山下武志・小笠原 憲・澤田 準・相澤忠範
(同心臓血管外科) 田邉大明・須磨久善
症例は65歳男性.2005年5月頃まで血圧はほぼ正
常であった.2005年9月頃より労作時前胸部不快
感を自覚し,高血圧に加えて大動脈弁閉鎖不全,
大動脈解離を指摘されたため11月中旬に当院紹介
となった.胸腹部CTにて上行大動脈から両側総
腸骨にかけて解離が見られ,弓部3分枝にも及ん
でいたが主要動脈は真腔から分岐していた.明ら
かなエントリーは不明であり,偽腔開存型であっ
た.また,両側腎臓には大小不同な嚢胞が多数見
られ多発性嚢胞腎と思われた.降圧治療にて良好
な血圧コントロールが得られ,胸背部痛,心タン
ポナーデ,心不全や腹部主要動脈,下肢動脈の阻
血症状なく待機的手術を行った.多発性嚢胞腎に
上行大動脈を含む大動脈解離を合併しながらも軽
微な症状しか呈さなかった本症例は稀少であると
思われ,文献的考察を交え報告する.
26) 多発子宮筋腫の合併で帝王切開出産後に肺
塞栓症を合併した一例
(長岡中央綜合病院循環器科) 田川 実・
中村裕一
(同産婦人科) 本多啓輔
(同小児科) 松井俊晴
症例は33歳女性.妊娠後多発子宮筋腫の腫大にて
自然分娩困難で平成17年7月8日帝王切開にて第一
子出産.しかし,7月10日朝呼吸困難と低酸素血
症を認め当科受診.CTで右肺動脈内と右大腿静
脈に血栓を認め,下大静脈フィルター留置後に当
科転科した.出産直後で子宮筋腫の腫大が著しく
子宮内悪露が残存していてt-PAやウロキナーゼ
の使用が困難で,ヘパリン持続点滴を開始した
(15000単位/日).また,授乳を希望され,小児科
で授乳中は定期的にビタミンKを与えた上で,抗
凝固療法を開始した.その後自覚症状は改善し,
CTで血栓の改善を認め,7月25日下大静脈フィル
ター抜去した.症状の再増悪なく外来通院中であ
る.血栓溶解療法が困難な状態での肺塞栓症に対
する治療方針および授乳や今後の第二子以降の出
産等に対する問題点も含め報告する.
27) 経皮的心肺補助駆動下に組織プラスミノー
ゲンアクチベータを使用し救命し得た超重症急性
肺血栓塞栓症の一例
(北里大学循環器内科学) 西成真琴・
東條大輝・小板橋俊美・加藤伸太朗・
佐藤大輔・佐々木紗栄・河野真紀子・
猪又孝元・庭野慎一・和泉 徹
(同救命救急医学) 吉田 徹・竹端 均・
相馬一亥
28) 術中に発症した重症肺血栓塞栓症に対して
PCPSの挿入および緊急肺動脈血栓吸引術にて救
命し得た一症例
(横須賀共済病院循環器センター内科)
鈴木秀俊・野里寿史・大東寛和・伊藤祐輔・
宮崎晋介・小堀敦志・桑原大志・疋田浩之・
横山泰廣・佐藤 明・高橋 淳
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
症例は76歳女性.左大腿骨骨幹部骨折にて当院整
形外科入院.安静臥床の後,第5病日に観血的整
復固定術を施行.術中,血行動態は安定していた
が,終了直前に呼吸状態の悪化認め,ショック状
態となった.麻酔科医による経食道心エコーにて
右室の著明な拡大を認め,血行動態の破綻を伴う
重症肺血栓塞栓症と診断した.直ちにPCPSを挿
入し,緊急肺動脈造影を施行.右中区動脈・肺底
動脈に巨大血栓を認めたため,血栓吸引術を行っ
た.大量の赤色血栓の吸引に成功し,肺動脈血流
の著明な改善を認めた.右室拡大も消失し,血行
動態・呼吸状態は安定化した.ワーファリンを導
入し,下大静脈フィルターを挿入した後,独歩退
院可能となった.PCPSの挿入および緊急血栓吸
引術は,致死率の高い重症肺血栓塞栓症患者に対
して有効であると考えられる.
29) 劇症型心筋炎後の遷延する心不全に対して
心尖脱血方式のToyobo LVASが奏功した1例
(埼玉医科大学心臓血管外科) 松岡貴裕・
西村元延・今中和人・荻原正規・石川雅透・
山火秀明・枡岡 歩・岡村長門・阿部馨子・
加藤雅明・朝野晴彦・加藤木利行・許 俊鋭
急性心筋梗塞後の心破裂に対して開心術にて二例
を救命できたので報告する.【症例1】58才男性,
胸痛後心停止となり心破裂の診断にて心マッサー
ジ下にPCPS施行.人工心肺下に左室の心破裂部
位をタココンブ(シート状フィブリン接着剤)と
GRFグルー使用し,心筋は切除せず欠損口を補修.
人工心肺を容易に離脱し救命.【症例2】79才男
性,意識消失し血圧50mmHg台で来院.心破裂の
診断にて,症例1と同様の手技行い救命.【まと
め】救命が困難とされる急性心筋梗塞後の心破裂
(acute or blow out type)を救命した.破裂部位
の補修は心筋を切除せず,針糸を使用することな
くタココンブなどの止血修復剤のみで可能で,心
機能を温存できるため有効な手術手技と考えられ
た.
32) 術前心原性shockを合併した後中隔穿孔の
1治験例
(東邦大学大橋病院心臓血管外科)
門磨義隆・尾崎重之・堀見洋継・内田 真・
大関泰宏・島内正起
症例は60歳男性.胸痛を主訴に近医を受診.心エ
【症例】47歳,男性.生来健康.感冒様症状の後,
コー上VSPを認め,心臓カテ−テル検査にて
急速に進行する心不全,心原性ショックのため他
RCA#3 100%,LAD#6 90%を認めた.RCA#3の
完全閉塞による後中隔穿孔の診断で,同日緊急手
院へ緊急入院,経皮的心肺補助装置(PCPS)を
術を施行した.#4PDを中心とする広範な梗塞巣
装着された.カニューレ挿入部からの出血のため
を認め,中隔部の梗塞巣も切除し,馬心膜を用い
PCPSによる補助が困難となり,短期型の補助人
たパッチ閉鎖術,および冠動脈バイパス術
工心臓であるBVS5000の装着手術をうけた.しか
(Rad.A-LAD)を施行した.術後の心エコーおよ
し1ヶ月近くの補助にても心機能回復せず,ポン
び心臓カテーテル検査で,シャントの消失および
プ内血栓・心嚢内出血のコントロール困難とな
bypassの開存を確認し,軽快退院した.VSPは前
り,当院転院,BVS5000に換えて心尖脱血方式の
壁中隔梗塞に合併する頻度が高く,後下壁梗塞に
Toyobo LVASを装着した.心筋炎発症後4ヶ月で
合併したVSPは比較的まれで手術成績も不良とさ
自己心機能の回復がみられ,LVAS補助を離脱し
れている.今回,術前に心原性shockを合併した
えた.【まとめ】劇症型心筋炎による重症心不全
後中隔穿孔を経験し,良好な結果が得られた為,
がPCPS,BVS5000いずれでも補助困難となり,
文献的考察を加えて報告する.
最終的にToyobo LVASによる長期補助が奏功し
た1例を経験した.
30) 急性心筋梗塞に合併した乳頭筋断裂による
ショックの救命例
(榊原記念病院循環器内科) 田中悌史・
小島敏弥・桃原哲也・相川 大・渡辺弘之・
孫崎栄津子・井口信雄・三須一彦・浅野竜太・
長山雅俊・梅村 純・住吉徹哉
(同心臓血管外科) 下川智樹・高梨秀一郎
【症例】79歳,男性.失神を主訴に搬送された.
血圧62/37で心原性ショックと診断した.胸部聴
心肺停止をきたす超重症急性肺血栓塞栓症例は補
助循環下に開胸血栓摘除術の適応とされているが
診上心尖部領域で微弱な収縮期雑音を聴取した.
その手術死亡率は高い.今回我々は経皮的心肺補
心エコー上,僧帽弁両尖に付着する移動性腫瘤と
助(PCPS)駆動下に血栓溶解薬を使用し救命し
僧帽弁逸脱に伴う著明な僧帽弁逆流が認められ,
得た症例を経験した.79歳男性.前日に他院で内
乳頭筋断裂と診断した.緊急冠動脈造影を行い,
痔核に対して手術施行.病室内で倒れ心肺蘇生術
左回旋枝に99%狭窄,対角枝に75%狭窄を認めた.
施行され回復し造影CTで肺血栓塞栓症と診断.そ
気管内挿管,IABP,PCPSを挿入し,緊急手術を
の後ショック状態となり当院救命救急センターへ
行った.冠動脈バイパス術は施行せず僧帽弁置換
搬送.来院直後に心肺停止となりPCPS導入.肺動
脈造影で両上葉動脈末梢の閉塞のみの為血栓摘除
術のみを行った.術後経過は良好であり,発症15
術は困難と判断,t-PAを使用した.PCPSのカニ
日後に退院となった.心筋梗塞に合併する乳頭筋
ューレ挿入部等から大量出血し血圧低下しため輸
完全断裂は当院で経験した心筋梗塞3000例のうち
液・輸血で対応した.約1週間でPCPSを離脱,
2 例 で あ り , 頻 度 は 約 0 . 0 6 7 % で あ る .【 結 語 】
第33病日に自立歩行で退院された.入院中に施行
我々は急性心筋梗塞に合併した乳頭筋断裂による
した肺換気・血流シンチでは右S4・5・8に血
僧帽弁閉鎖不全症を経験したので報告する.
流障害を認めた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
31) 急性心筋梗塞後の心破裂(acute or blow
out type)を外科的に救命した二症例
(慈泉会相澤病院心臓血管外科) 大沢 肇・
藤松利浩・鈴木博之・高井文恵
(同病態診断科) 櫻井俊平・藤本和法
(同循環器科) 有賀雅和・荻原史明
33) 来院直前にCPAとなった急性僧帽弁閉鎖
不全症の1例
(茅ヶ崎市立病院循環器内科) 中川和也・
中村 雅・井上雄一郎・廣江吉隆・和田 篤・
望月孝俊
(同臨床検査科病理) 出張玲子・佐々木毅
57歳の男性.H17.7.26朝より背部痛,翌日の夕方
から呼吸困難,腹痛,喘鳴が出現し,当院救急外
来受診のための車中で意識消失,当院到着時に
CPAを確認.直ちにCPRを開始し,約1時間で自
己心拍再開.この時,心電図は心房細動リズムで
右脚ブロック,胸部X線は右肺優位の肺水腫を伴
った濃度上昇を認めた.胸部CTでは右肺優位の
両側肺水腫と胸水貯留を認めたが明らかな大動脈
解離所見はなく,心エコーは心収縮能正常でIV
度のMRを認めた.入院後はJCSIII-300で自発呼
吸なく,昇圧剤を使いながらも血圧低値で経過し
た.最終的に病状の改善には至らず,第17病日に
永眠.病理解剖を行った結果,明らかな冠動脈病
変はなく,左室壁の著明な肥厚,後乳頭筋壊死と
腱索断裂が認められた.急性MRの原因について
文献的考察を加えて報告する.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1139
34) 標準的CPRに反応しない院外心静止患者
に対するResuscitative Hypothermia First
(駿河台日本大学病院救命救急センター)
多田勝重・長尾 建・向山剛生・冨永善照・
千葉宣孝・蘇我孟群・笠井あすか
(同循環器科) 渡辺郁能・今井 忍・
菊島公夫・渡辺和宏・立花栄三
【症例】30歳台 男性【経過と治療】早朝に突然
けいれん発作が出現し,友人が救急隊を要請した.
Bystander CPRはなく,要請から6分後の救急救命
士による初回心電図モニターは心静止であった.
要請から17分後,救急車内でVFが出現したがAED
に反応せず,要請から23分後に当院救命センター
に心静止の状態で搬送されてきた.Hypothermia
first(急速冷却輸液,緊急PCPS,緊急CAGなど)
の適応と判断し開始した.緊急冠動脈造影では器
質的病変は無く,冠攣縮様所見を得た.収容69分
後に自己心拍が再開したが,意識はJCS I-3Aの状
態で第46病日に慢性期病床に転院した.
35) メディカルコントロール協議会(MC)に
よる一般市民向け大規模AED講習会 −埼玉県
東部地域救急フェスタ−
(春日部市立病院内科) 有馬 健・
宮 典生・古市知広・石井 充
(獨協医大越谷病院救急医学科) 池上敬一
(越谷市立病院) 木村 徹
(越谷保健所) 田辺博義
(春日部保健所) 本多麻夫
(埼玉県立小児医療センター総合診療科)
関島俊雄
【はじめに】埼玉県東部地域MCには12の消防本
部が属し,このワーキンググループが大規模心肺
蘇生法講習会を発案したが,実現には,各消防本
部の同意を得るのは容易ではなかった.【方法】
年に一度開催地を各消防本部で持ち回り.インス
トラクター,用具は全地域より協力.県,医師会,
保健所等の後援を得,資金は企業_医師会の協賛.
【結果】現在までに2度開催.1,2004年9月4
日,越谷市,普通救命講習876名,AED講習645
名,インストラクター130名,スタッフ220名.2,
2005年11月5日,蓮田市,普通救命講習(AED
講習)387名,小児救命講習46名,インストラク
ター110名,スタッフ120名.【考案】単一の病院
や消防本部では不可能な大規模講習会をMC中心
に開催することができた.
36) 院外VF心拍再開後のresuscitative hypothermia first
(駿河台日本大学病院救命救急センター)
蘇我孟群・長尾 建・向山剛生・冨永善照・
多田勝重・石井 充・千葉宣孝・笠井あすか
(同循環器科) 菊島公夫・渡辺和宏・
立花栄三
【症例】年齢50代 男性【現病歴】東京ドームで
巨人応援中に突然けいれんが出現し医務室へ搬送
された.医務室で心停止が確認され,虚脱3分後
にCPRが開始され,虚脱15分後にAEDを開始し,
25分後に自己心拍が再開した.収容後経過と治療)
虚脱43分後の収容時意識レベルJCS III-100,体温
36.9℃,血圧 190/90mmHg,脈拍 137/分,呼吸
16/分.収容後直ちに4℃の細胞外液の投与を開
始しhypothermiaを導入した.緊急CAGでは器質
的狭窄は認めなかった.hypothermiaは34℃・48
時間施行した.第12病日に抜管し,VFの原因は
特発性VFでICD留置後に社会復帰した.
1140
第 199 回関東甲信越地方会
37) 一時間に及ぶ心肺蘇生後,救命および社会
復帰に成功した院外心肺停止の一例
(東邦大学大森病院救命救急センター)
宮本一成・笹尾健一郎・坪田貴也・廣田 直・
内田靖人・吉原克則・本多 満・秦 美暢・
瀧田 渉・横室浩樹・宮崎親男
症例は62歳男性.7月7日16時30分,社内診療所
で胸痛後卒倒し産業医が救急要請.センター情報
から急性冠症候群による心肺停止と判断,抗不整
脈と同時にIABPとPCPSを準備.搬送中AEDにて
心室細動が確認され,複数回の通電が行われたが
除細動不成功のまま17時15分当院到着.17時24分
補助循環確立に成功,しかしその後の除細動にも
抵抗したため緊急心臓カテーテル検査を開始.左
前下行枝近位部完全閉塞を認め,同部位に対して
冠血行再建(ステント留置,術後TIMI III)を行
った後CCU収容.血行再建後洞調律回復に成功
したが,循環動態,体温管理および組織障害物質
除去を目的とした持続血液濾過透析を導入.第25
病日に呼吸器離脱,その後順調に経過し9月6日
独歩退院.1時間に及ぶ院外心肺停止にもかかわ
らず,社会復帰し得た一例であり報告する.
38) Brugada心電図を呈し心室細動(VF)か
ら救命された純粋右室梗塞の1例
(水戸済生会総合病院) 福永 博・
村田 実・大平晃司・千葉義郎
40) 山岳耐久レース中に心肺停止をきたし救命
し得たARVCの疑診例
(青梅市立総合病院循環器科) 高山 啓・
澤田三紀・大友建一郎・秦野 雄・栗原 顕・
北森要一郎・清水雅人・西森健雄・清水茂雄・
坂本保巳
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
【症例】56歳男性【主訴】意識障害【既往歴】発
作性心房細動,小脳梗塞【現病歴】2005年10月10
日山岳耐久レース中に山中で意識消失していると
ころを発見され救急要請された.救急隊によって
搬送中心室細動を認め直ちに除細動(200J)を施
行,洞調律へ復帰し当院救命救急センターへ搬送
された.【入院後経過】経過中,発作性心房細動,
通常型心房粗動及び非持続性心室頻拍を認めた.
心房粗動はカテーテルアブレーションを施行し
た.精査によりARVCが疑われた.電気生理学的
検査で再現性を持って左脚ブロック型の持続的心
室頻拍が誘発されたため,ICDの植え込みを行っ
た.今後致死的不整脈が頻発する可能性があるた
め,注意深い経過観察が必要である.
41) 院外VF患者に対するresuscitative Hypothemia
first
(駿河台日本大学病院救命救急センター)
笠井あすか・長尾 建・向山剛生・冨永善照・
多田勝重・千葉宣孝・石井 充・蘇我孟群
(同循環器科) 渡辺和宏・立花栄三・
菊島公夫
症例は46歳男.2005/10/09 0:30'am胸痛が出現,
1時間後当院に搬送された.心電図所見は心房細
動(115bpm)でiRBBBを呈しV1-3で5mmの
coved type ST上昇が認められたが他の誘導での
患者は20歳代女性.主訴は院外心肺停止.勤務中
ST偏位はなし.WBC 14100/μl,CRP 0.9mg/dl, に卒倒し,Bystander CPRが開始(分後)され,
CPK 56U/l,TpT陰性,UCGでは左室壁運動に異
救急隊到着時(分後)VFであった.AEDを実施
常なし.2時過ぎ突然VFとなりDC施行するも反
(分後)するも反応せず,分後にPEAの状態で収
復性のVFとなり計14回のDCの後洞調律が得られ
容した.Hypothermia first(収容直後から急速冷
た.Brugada症候群が疑われたが,肥満,糖尿病,
却輸液,緊急PCPS,緊急冠動脈造影など)の適
喫煙家などの冠危険因子もあるため11日冠動脈造
応と判断し開始した.心停止56分後に心拍再開し
影検査を施行した.左優位の冠動脈で右冠動脈近
3日間の34℃冷却を開始した.心停止の原因は低
位部の完全閉塞および右室造影にて右室のび慢性
カリウム血症であった.意識状態は,音楽療法を
壁運動低下が認められたため純粋右室梗塞に合併
施行するもJCS I-3Aの状態で留まり,第91病日故
した心室細動と診断した.【総括】純粋右室梗塞
郷に民間航空機を利用し搬送した.
が臨床的に問題となることは殆どないが,VFを
合併しBrugada症候群との鑑別を要した1例を報
告した.
39) 気管支嚢胞の左冠動脈主幹部圧排による急
性心筋梗塞の1例
(東京都立府中病院循環器科) 郡司一恵・
上田哲郎・田中博之・久保良一・小金井博士・
松丸 剛・小池夏葉・大村綾子・小高恵理香・
金子雅史
50歳男性.突然の胸痛を主訴に当院に救急搬送.
急性心筋梗塞・心原性ショックの診断で入院.緊
急冠動脈造影上,左冠尖の圧排像を認め左冠動脈
は主幹部中枢側から閉塞していた.カテーテル治
療を試みたが,主幹部にカテーテル・ガイドワー
ヤーを挿入することができず,治療派不成功.胸
部造影CTを施行,気管分岐部直下に10.1×6.4cm
の腫瘤を認め,大動脈起始部から左心房を圧排し
ていた.ForresterIVの状態で,薬物療法にPCPS・
IABPを併用したが心不全は改善せず,多臓器不
全で第9病日に死亡.剖検では,CTで認めた腫
瘤は気管支嚢胞と診断された.冠動脈は動脈硬化
像に乏しく,気管支嚢胞の冠動脈圧排により急性
心筋梗塞を発症したと思われた.気管支嚢胞によ
る冠動脈の圧排で急性心筋梗塞を来たした例は稀
であり報告する.
42) severe MRと左室流出路圧格差を認め血圧
低下を来たしたタコツボ心筋症の1例
(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)
木内信太郎・小林 裕・大井邦臣・松本知沙・
永田拓也・加藤浩太・相賀 護・曾澤 彰・
高橋英治・生天目安英・森島孝行・喜納峰子・
高澤謙二
(東京医科大学第二内科) 山科 章
症例は75歳,女性.2005年7月30日盆踊り中に胸
痛が出現.近医を受診し,心電図でV2∼V6に陰
性T波,血液検査でトロポニンT陽性のため急性
冠症候群の診断で8月1日紹介入院となった.来院
時胸痛は消失しており,心エコーでは心室基部過
収縮と心尖部の無収縮を認めた.第2病日より収
縮期血圧60mmHgに低下し,うっ血性心不全を合
併した.収縮期雑音認め心エコーではsevere MR
と左室流出路圧格差58mmHgを認めた.第3病日
に冠動脈造影,左室造影検査を行った.冠動脈に
は有意狭窄なく左室造影で心基部過収縮と心尖部
無収縮を認めタコツボ心筋症と診断した.ドパミ
ン,ドブタミン持続点滴とラシックス静注で心不
全の改善を認めた.第8病日の心エコーではmild
MRに改善し,圧格差は消失した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
43) 重症筋無力症の治療中に,多発性冠攣縮に
より発症したと考えられる蛸壺心筋症の一例
(山梨県立中央病院内科) 中村政彦・
河埜 功・沢登貴雄・瀬戸俊邦・相沢一徳
【症例】73歳,女性.【主訴】胸痛.【既往歴】重
症筋無力症(MG)で抗コリンエステラーゼ薬投
与中で’
03年12月から増悪傾向.【現病歴】’
03年12
月胸痛が出現し心電図上V5,6に陰性T波が認めら
れ,心エコー図は壁運動正常で,狭心症を疑われ
加療中の’
04年11月24日朝胸痛が出現し心電図上
I,aVL,V3-6に陰性T波が認められ,急性冠症候
群の診断で入院.急性期冠動脈造影は異常所見な
く左室造影で心尖部を中心の無収縮を認め左室駆
出率43%で,CPK上昇なし.心筋シンチでMIBG,
BMIPP,Tlの順に欠損が大きく回復が遅延した.
回復期左室造影は正常化し右冠動脈血流予備能
4.4と正常で,アセチルコリン負荷で多発性冠攣
縮が認められた.【考察】冠攣縮由来と思われる
蛸壺心筋症の発症時期がMGクリーゼではないが
増悪期に一致し関連性が示唆された.
44) 副腎外褐色細胞腫に合併したたこつぼ型心
筋症の一例
(土浦協同病院循環器センター内科)
小松雄樹・米津太志・角田恒和・鈴木麻美・
梅本朋幸・前田真吾・木村茂樹・大友 潔・
永田恭敏・鈴木健司・家坂義人・藤原秀臣
症例は62歳男性.突然の胸部不快感を主訴に来院.
血液生化学検査にてCK上昇,心電図でST上昇認
め,急性冠症候群の診断にて緊急冠動脈造影検査
施行した.冠動脈に有意狭窄を認めず,左室造影
検査で左室中部の壁運動低下と,代償的な心基部,
心尖部の過収縮を認めたこつぼ型心筋症と診断し
た.発症翌日の超音波検査にて壁運動回復が認め
られた.第6病日に動悸,発汗を伴う高血圧
(270/170mmHg)認め,血中尿中カテコラミン,
尿中VMA増加,MRIで右腎門部に腫瘍,MIBGシ
ンチで右腎門部腫瘍に一致して集積を認め,内分
泌負荷試験の結果,右副腎外褐色細胞腫と診断し
た.内因性カテコラミンとたこつぼ型心筋症の関
与が示唆され,また非典型的な壁運動異常を呈し
たたこつぼ型心筋症の一例と考え報告する.
45) 興味深い心筋シンチグラムの所見を認めた
Mid-ventricular ballooning cardiomyopathyの2例
(日本医科大学集中治療室) 吉川雅智・
村井綱児・加藤浩司・淀川顕司・岩崎雄樹・
山本 剛・佐藤直樹・田中啓治
(同内科学第一) 白壁章弘・高野照夫
(同救命救急センター) 雨森俊介
【症例1】51歳,男性.脱水にて来院.心電図で
V1-5のST上昇を認め緊急入院.冠動脈造影では
正常冠動脈,左室造影ではmid-ventricular部で全
周性に高度壁運動低下を認めた.2週後の左室造
影では壁運動の改善を認めた.【症例2】46歳,
女性.痙攣発作にて入院中,VT/VF認め転院.
前胸部誘導のST上昇を認め緊急心臓カテーテル
検査施行したところ症例1と同様の結果を得た.
2例とも急性期に99mTc-MIBI,123 I-BMIPPの
dual SPECTでmid-ventricular部のmismatchを認
めた.mid-ventricular部で有意にballooningを認
めたこつぼ型心筋症の報告は少なく,今回のシン
チグラム所見は発症機序を探る上で興味深いと考
えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
46) 大腿動脈穿刺後に動脈閉塞を生じ緊急PTA
にて血行再建し得た一例
(聖マリアンナ医科大学東横病院循環器科)
松田央郎・原田智雄・田中 修・水野幸一・
佐々木俊雄・西尾 智・下郷卓史・橋詰万里子
(菊名記念病院循環器科) 宮本 明
(聖マリアンナ医科大学循環器科) 三宅良彦
症例は58歳男性.心房粗動に対するカテーテルア
ブレーション目的で入院となった.右大腿動脈穿
刺にてシースイントロデューサーで動脈を確保,
冠動脈造影を開始しようとしたがワイヤーが進ま
なかった.血管蛇行に伴う操作困難と考えシース
イントロデューサーの交換を行うこととしたが,
この際にシースイントロデューサーが全て抜去さ
れてしまい圧迫止血を行った.良好に触知されて
いた右大腿動脈の拍動が突然触知困難となったた
め,左大腿動脈に血管を確保し総腸骨動脈造影施
行.右外腸骨動脈近位部に完全閉塞を認め緊急
PTAを施行,wall stent留置によりbail outに成功
した.大腿動脈穿刺後に,ワイヤー操作およびシ
ースイントロデューサーによると思われる急性外
腸骨動脈閉塞を経験し緊急PTAが有用であった
一例を経験したので報告する.
47) 右上肢に虚血を認めた血管型胸郭出口症候
群に血管形成術及び血栓除去術施行し血行再建可
能であった一例
(戸田中央総合病院) 谷津尚吾・大内 浩・
杉江正光
症例は24歳,男性.2005年7月右手指冷感出現.8
月右前腕に症状拡大.右橈骨動脈触知せず,指趾
にチアノーゼ認めた.胸部Xpで両側頚肋,血管
エコーでRt Subclavian A(RtSCA)解離及びRt
Axillary A(Rt Ax A)以下閉塞所見認め,血管型
胸郭出口症候群と診断.血管カテ−テル検査でも
同様の所見を認め,血栓閉塞したRt AxA以下の
血栓閉塞に対し Fogarty血栓除去術,解離したRt
SCAに血管形成術及びStentig施行.術翌日にRt
Brachial A(:Rt BrA)以下の再閉塞認め,血栓
除去術及びRt BrA にStentig施行し血行再建可能
であった.術中血栓塞栓症の発症無く,経過は良
好で術後左右上肢の血圧差改善し術11日目退院し
た.
48) QT延長を伴った心筋緻密化障害の一例
(日本医科大学内科学第一) 太良修平・
丸山光紀・小林義典・藤本啓志・小鹿野道雄・
平澤泰宏・大野忠明・高木 元・高野仁司・
安武正弘・本間 博・加藤貴雄・高野照夫
症例は58歳,女性.家族歴として父と兄が突然死
している.めまい感,息切れを主訴に当科受診.
心拡大と心電図で洞性徐脈,QT延長(QTc 460
ms)を認め精査目的で入院.心エコーではEF37%,
びまん性の壁運動低下に加え,心尖部の心筋菲薄
化と著明な肉柱形成を認めた.冠動脈は正常,心
筋生検で特異的変化はなく,その他種々の検査で
心機能低下をきたす要因を認めず,心不全の原因
として心筋緻密化障害が考えられた.めまい感は
洞不全症候群と関連していたためAAIペースメー
カー植え込み術を施行.ペーシング中や運動・エ
ピネフリン負荷でQT時間は短縮,T波波形等か
らQT延長の原因としてNaチャネル遺伝子の異常
が疑われた.心筋緻密化障害も家族性に発生する
症例が報告されており,互いに関連している可能
性も示唆され興味ある症例と考え報告する.
49) 2:1心房粗動に伴う頻脈誘発性心筋障害
の1例
(JR東京総合病院循環器内科) 城田松之・
浅川雅子・碓井伸一・杉下和郎・高橋利之
症例は37歳男性.36歳時に心エコー上僧帽弁逸脱
と僧帽弁逆流を認めたが,左室駆出率(EF)は
64%と正常.血中BNP 21pg/ml.37歳時頻脈,夜
間呼吸困難を自覚.胸部X線写真にて心陰影拡大
と両側胸水,心電図にて2:1心房粗動を認めた.
BNP 1100pg/ml.心エコー上はびまん性左室壁運
動低下(EF 20%).心不全症状改善後,心カテ施
行.心拍出量低下,肺動脈楔入圧上昇,びまん性
壁運動低下(EF 32%)を認め,冠動脈造影は正
常であった.右房高頻度刺激にて洞調律を回復し
た.β遮断薬には認容性がなく,非持続性心室頻
拍に対してアミオダロンを開始した.2ヶ月後心
エコー上EF 40%.その2ヶ月後に自己判断で休
薬 . さ ら に そ の 6 ヶ 月 後 に は EF 59%, BNP
13pg/mlと改善した.以上より,心房粗動に伴う
心筋障害が疑われた.
50) 救急隊到着時に心室頻拍様の心電図波形を
認めたAdams-stokes発作の1例
(多摩南部地域病院循環器科) 桜井 玲・
吉崎 彰・森野知樹・長橋達郎・高田博之
2005年7月に街中で意識を失って倒れ,第三次救
急病院に搬送されたが到着時には洞調律へ戻って
いた.9月10日にも動悸と冷汗が出現し,意識レ
ベルも低下したため救急車を要請した.救急隊の
モニター心電図にて心室頻拍様の波形を認め,心
室頻拍症との連絡で当院救急外来へ搬送された.
来院時の心電図は2:1伝導の心房粗動であり,
そのうち心房細動へ移行した.入院中には意識消
失を起こすような不整脈は認められず,冠動脈造
影,心臓電気生理学的検査を行った.冠動脈には
有意狭窄は認めず,房室伝導は心房頻回刺激
214/分まで1:1伝導を認めた.誘発試験では右
室心尖部と右室流出路からS4刺激まで行うも心室
頻拍は誘発されなかった.心室頻拍様の心電図波
形は通常型心房粗動の1:1伝導と診断し,
isthmus
にブロックラインの作製を行った.
51) 心臓再同期療法中に突然死をきたした心サ
ルコイドーシスの一例
(信州大学循環器内科) 笠井宏樹・
相沢万象・吉岡 徹・永澤孝之・富田 威・
熊崎節夫・小山 潤・渡辺 徳・筒井 洋・
木下 修・池田宇一
(国立病院機構松本病院内科) 矢崎善一
(信州大学救急集中治療医学) 今村 浩
(同保健学科) 本郷 実
症例は66歳男性.平成14年5月起座呼吸にて当科
受診.心エコー上著明な心機能低下を認めうっ血
性心不全の診断にて同日入院となった.心内膜心
筋生検にて肉芽腫性病変を認め,心サルコイドー
シスと診断.薬物治療抵抗性のNYHA III-IV度の
心不全でII度房室ブロックを認め,更に心室内の
非同期性が顕著であったため両室ペーシングを施
行の上β遮断薬,ステロイド薬,在宅酸素療法を
導入.心不全症状はNYHA II度まで改善し,その
後増悪なく経過していたが,平成17年3月心肺停
止状態で救急搬送.心肺蘇生は奏功せず永眠され
た.剖検にて心臓には散在性の肉芽腫が認められ
た.除細動機能を併せ持つ両室ペーシングの本邦
導入も近く,治療デバイスの選択,心サルコイド
ーシス患者のリスク層別化に関しての考察を交え
報告する.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1141
52) 心室頻拍によるelectrical stormの発生によ
り,治療に難渋した心サルコイドーシス症の一例
(国立病院機構長野病院循環器科)
井上桐子・高橋 済・笠井俊夫・竹内崇博・
佐々木康之
症例,49歳,男性.動悸と呼吸苦を主訴に来院.
心電図上持続性心室頻拍(SVT)を認め,心エコ
ーにて心基部側左室中隔の壁厚の菲薄化が観察さ
れた(左室駆出率45%)
.電気生理学的検査では,
電極カテーテルの右室への挿入刺激により多型性
SVTが容易に誘発され,cardioversionでのみ停
止し得た.右室心筋生検標本より非乾酪壊死性肉
芽腫を認めたため,心サルコイドーシス症(サ症)
と診断し,ステロイド加療を開始した.同時に
SVTに対しカルベジロール,アミオダロンの投与
を開始後,SVTのelectrical storm状態を来たし,
各種抗不整脈薬を試すもすべて無効で,アミオダ
ロンの投与中止とプロカインアミドの大量投与
(2000mg/日)にて安定化を得た.心サ症の特筆
すべき一病態として,薬剤抵抗性SVTを有した一
例を報告する.
53) 右房の瘢痕周囲を旋回する心房頻拍を合併
した心室頻拍術後の不整脈原性右室心筋症の1例
(新潟県立中央病院循環器科) 飯嶋賢一・
清水 博・阿部 暁・小川 理・政二文明
右房の瘢痕周囲を旋回する心房頻拍(AT)を合
併した心室頻拍(VT)術後の不整脈原性右室心
筋症(ARVC)の1例を報告する.【症例】77歳男
性.60歳時,ARVCに伴うVTに対し右室流出路に
冷凍凝固術を施行.H17,10月より動悸が持続し,
うっ血性心不全を発症し当科入院.心電図では心
房拍数207/分,通常型心房粗動(c-AFL)様のP
波を呈するATを認めた.AT中にアブレーション
施行,CARTOシステムでのactivation mapは,右
房前側壁の瘢痕周囲を旋回する頻拍周期290msec
のATであり,局所電位はfragmentationを呈した.
同部位より右房後側壁の瘢痕部位に線状焼灼を施
行したところ,通電中に頻拍周期320msecのc-AFL
に移行した.解剖学的峡部を線状焼灼し,頻拍は
停止,以後誘発不能となった.【総括】瘢痕周囲
を旋回するATに対しCARTOシステムは有用であ
った.
54) 小児期に心内修復術を施行された成人ファ
ロー四徴症の右室機能に対するMRI評価による検
討の一例
(昭和大学横浜市北部病院循環器センター)
加藤源太郎・上村 茂・中島邦喜・岡田良晴・
落合正彦
症例は46歳,女性.8歳時心臓カテーテル検査に
てTOFと診断.13歳時初回手術で,開心根治術
を施行された.その後は日常生活には問題なく生
活されていた.3年前より不整脈を自覚し,昨年
9月より動悸が出現.昨年11月に近医受診され,
当院紹介となる.心臓超音波・カテーテル検査に
て 肺 動 脈 弁 閉 鎖 不 全 ( P R ), 三 尖 弁 閉 鎖 不 全
(TR),心室間短絡残存と診断された.Holter心
電図で心室性・心房性不整脈を認め,PR,TRに
基づく右心不全と判断された.術前心臓MRI検査
による計測ではTR逆流分画25%,PR逆流分画
50%であった.上記診断から,手術は肺動脈弁置
換・三尖弁形成術および心室間短絡閉鎖術および
右室縫縮術を施行.術後は極めて順調に経過した.
診断には心臓超音波検査・カテーテル検査の他心
臓MRI検査が極めて有効であった.
1142
第 199 回関東甲信越地方会
55) 慢性透析患者における僧房弁輪石灰化部液
化壊死巣の形成と退縮を経時的に観察しえた1例
(帝京大学循環器科) 渡辺 優・横山直之・
紺野久美子・渡 雄至・本田充喜・小金澤哲・
本吉健太郎・興野寛幸・鈴木伸明・河村 裕・
遠藤悟郎・寺倉守之・上妻 謙・佐川俊世・
山本義人・古川泰司・一色高明
症例は50歳代男性.慢性糸球体腎炎のため,平成
5年に透析導入された.平成15年頃より心エコー
上,僧帽弁後尖基部に腫瘤状の石灰化像を認め,
徐々に拡大傾向を認めたが,無症状であった為,
経過観察していた.平成16年11月の心エコー図検
査にて腫瘤は21×36mm大まで増大した.石灰化
腫瘤の辺縁は平滑で,その中心のエコー輝度は低
かった.心臓CT検査では,僧帽弁後尖背側部の
心筋内に直径3cmの辺縁部に強い石灰化を伴う軟
部腫瘤を認め,心エコー所見と一致していた.ま
た,腫瘤への栄養血管は認めなかった.以上より,
腫瘤は,僧帽弁輪石灰化部液化壊死と診断した.
一年の経過観察後,腫瘤の退縮およびそれに伴う
弁接合不全による僧帽弁逆流の増悪を認めた.本
症例の形成・退縮を経時的に観察しえた報告は無
く,貴重と考え報告する.
58) 巨大左心耳を呈した心外膜部分欠損症の一例
(飯田市立病院循環器内科) 山名祥太・
片桐有一・伊藤健一・源田朋夫・唐沢光治・
山本一也
症例は54歳女性.生来健康であったが,健診の胸
部写真で左第3弓影の突出を指摘され当科受診.
心電図検査,心エコーでは特記すべき所見は認め
られなかったが,胸部CTで左房上部左前方,左
肺動脈左方に5×4cmの内部に血流を有する瘤状
の構造物が認められた.冠動脈CTでは瘤による
冠動脈圧排所見があるものの,冠動脈との交通は
なく,経食道エコーにて左心耳に相当する部分が
瘤状拡大していることが確認された.胸部MRI
T1強調画像で左心耳表面に脂肪織を示す高信号
領域が欠損していることより心外膜部分欠損に伴
う巨大左心耳と診断された.現在は症状なく,無
治療にて外来で経過観察している.本症例は健診
にて異常を指摘され,心外膜部分欠損症と診断に
至った稀な症例と思われ,若干の考察を加え報告
する.
56) 心筋シンチ上虚血陰性であった2例におけ
る一過性心機能低下の意義
(東京慈恵会医科大学青戸病院循環器内科)
寺尾吉生・笠井督雄・宮永 哲・鶴崎哲士・
松山明正・久能 守・今本 諭・武田 聡・
佐藤 周・関 晋吾
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 望月正武
59) 内臓逆位を伴った修正大血管転位の成人症例
(信州大学循環器内科) 村山秀喜・
吉岡 徹・相澤万象・笠井宏樹・富田 威・
熊崎節央・筒井 洋・小山 潤・渡辺 徳・
木下 脩・池田宇一
(同小児科循環器グループ) 岩崎 康・
松崎 聡・小川美奈・北村真友
1例目は66歳女性.労作性狭心症にてATP負荷
心電図同期心筋SPECT(G-SPECT)施行.胸痛
を伴うST低下を認めた.SPECTでは血流低下を
認めなかったが,負荷時にLVEFと拡張能の低下
を認めた.冠動脈造影ではLAD #7 75%,RCA
#4AV 90%の2枝病変であった.2例目は64歳男
性.陳旧性前壁中隔梗塞で腹膜透析導入時の精査
目的にG-SPECT施行.胸痛を伴うST低下を認め
た.SPECTでは前壁中隔の固定性欠損のみで虚
血所見はなかったが,負荷時にLVEFと拡張能の
低下を認めた.冠動脈造影ではRCA #2 90%,
#4PD 90%,LMT 50%,LAD #6 75%,#7 75%,
LCx #13 90%の3枝+左主幹部病変を認めた.血
流画像で虚血を認めない場合でも,一過性の心機
能低下を認めた場合多枝病変を疑う必要がある.
特に胸痛や虚血性ST変化を認めた場合は注意を
要することが示唆された.
31歳,女性.小学校健診の心雑音で検査入院し手
術は不要なものの運動制限の指示を受けた.今回
健診にて心雑音・多血症を指摘され入院した.四
肢チアノーゼ,バチ指あり,3LSBに収縮期駆出
性雑音あり.心電図は,I,aVLで陰性P波,V3∼
5でR波の減高.Holter心電図で房室ブロック等を
認めず.CTで内臓逆位を確認した.心エコー,
心臓カテーテル検査による評価で上下大静脈は左
側に位置する右房に流入し解剖学的左室,肺動脈
に連続しており,肺静脈は右側に位置する左房,
大動脈に連続している事が判った.解剖学的右室
の収縮能は正常であった.又,併存病変として
ASD,VSD,PSを認め,房室弁弁逆流は両側と
も軽度であった.CAGは単冠動脈であった.治
療はVSD/ASD閉鎖+PS解除を検討中.
57) 心アミロイドーシスの診断にMRIが有用で
あった1例
(東海大学循環器内科) 藤林大輔・
神田茂孝・円谷斉子・長岡優多・金 載英・
森野禎浩・出口喜昭・田邉晃久・伊苅裕二
手根部の生検等で原発性アミロイドーシスと診断
された59歳男性.心不全様の症状があり,心アミ
ロイドーシスの合併が疑われた.心電図上伝導障
害はなかったが,心臓超音波にて左室肥大とび漫
性収縮障害(EF45%),心室中隔にSparkling
echoを認めた.確定診断のため,右室側より心
筋生検を施行したが,アミロイド沈着を証明でき
なかった.そこで心臓MRIを行うと,拘束性障害
のflow patternを呈し,遅延造影で左室内膜側が
ドーナツ状にenhanceされる,珍しい画像所見が
得られた.原病の存在から,遅延造影所見は左室
心内膜側のアミロイド沈着,線維化,心筋の脱落
を示唆すると考え,心アミロイドーシスの合併と
判断した.MRI所見からは,左室生検なら組織診
断し得た可能性が高いと思われた.
60) 16列MDCTにてARVCが疑われ,右室生検
にて確定診断された一症例
(新葛飾病院循環器内科) 西本正興・
榊原雅義・平野周太・宮澤拓也・香山大輔・
奥野友信・松尾晴海・朝田 淳・森井 健・
清水陽一
症例は72才,男性.健診にて,心電図異常が指摘
され当院受診.心室性不整脈に対し,20年前より
某大学病院にてベプリコール,リスモダンが処方
されていた.来院時,CLBBBタイプのVPCが頻
発し,胸部不快感も訴えていた.狭心症の否定の
ため,16列MDCTを施行した.冠狭窄はなかっ
たが,右室心筋内に脂肪組織を認め,右室自由壁
は凸凹(scalloping)を呈しており,ARVCが疑
われた.心エコーでは右室の限局性心室瘤を伴っ
た内腔拡大を認め,CAGでは有意狭窄は認めず,
LVGでは壁運動異常が軽度であったのに対し,
RVGにて著明な収縮能低下があり特に下壁で造
影剤のpoolingを認めた.右室心内膜生検では線
維性脂肪組織により,心筋の大半が置換され,そ
の中に肥大し巨大化した心筋線維が認められた.
以上のことからARVCと確定診断した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
61) 悪性関節リウマチに発症した僧帽弁リウマ
トイド結節の一手術例
(日立製作所日立総合病院心臓内科)
山崎 浩・渡辺康志・湯川明和・鈴木章弘・
田中喜美夫
(同心臓外科) 渡辺泰徳
(同病理科) 下釜達郎
64) 急性心筋梗塞後のsubepicardial aneurysm
に対する外科的治療
(昭和大学第一外科) 大野正裕・福隅正臣・
丸田一人・廣田真規・尾本 正・石川 昇・
川田忠典・手取屋岳夫
62) 機械弁によるAVR術後遠隔期にPannus形
成によるPVDに対して再AVRを施行した1手術例
(三井記念病院循環器センター心臓血管外科)
三浦友二郎・木川幾太郎・北村 律・
福田幸人・宮入 剛
65) Re-do CABGを要した川崎病冠動脈疾患の
一症例
(東京女子医大東医療センター心臓血管外科)
池田昌弘・小寺孝治郎・須田優司・
佐々木章史・浅野竜太・片岡 豪・竹内靖夫
70歳 女性 主訴は労作時の呼吸困難.1983年
MS,ASr,TR,LA内血栓に対してMVR(CE29)
AVR(SJM19)TAP(Kay法)施行.その後1990
年M弁位PVD,re-TRに対してre-MVR(SJM27)
TVSI(CE33)施行.AVR術後18年目の2001年よ
り労作時の呼吸困難出現.術後より徐々にA弁位
圧較差が増加していた.2005年呼吸困難増悪
(NYHA 3度)を認め,エコーでA弁圧較差 155
mmHgと増大.弁透視でA弁位SJM弁の片側の
leafletの著明な可動性の低下を認め,PVD,AS
と診断.2005年10月 3rd sternotomyによるre
AVR施行.A弁は1葉が開放,閉鎖障害を伴い,
左室側から弁下に張り出したpannusが原因と考
えられた.A弁切除後SJM 17HPを縫着.術後エ
コーでA弁圧較差75mmHg,EF 68%,NYHA 2度
で術後32病日に退院.A弁位Pannus形成による
PVDについて若干の文献的考察を加え報告する.
症例はMCLSにて8歳時冠動脈バイパス術を施行
された男性.11歳時CAGにてグラフトは完全閉
塞であったが,側副血行路が良好であり,LAD
の病変が進行を認めなかったため,外来経過観察
とした.25歳時胸部不快感出現,負荷心電図にて
V3∼6のST下降を認め,冠動脈病変の進行を認め
たため手術目的に入院した.グラフトのLITA,
GEAはfull skeltonization法にて採集.心膜の癒着
は高度であったが,心拍動下に吸引型deviceを用
いてLITAをLADに,GEAを4PDに吻合した.術
後,側副血行路は消失,狭心症状はなくなり,退
院した.川崎病冠動脈疾患で再冠動脈再建に関す
る報告は少ないが,OPCABにて良好な成績を収
めることが出来た.
63) 再発性心タンポナーデに心嚢ー腹腔開窓術
が奏効した高齢女性の1例
(社会保険中央総合病院内科) 村上 輔
(同循環器内科) 山本康人・田代宏徳・
薄井宙男・市川健一郎・野田 誠
(同心臓血管外科) 恵木康壮・高澤賢次
(東京医科歯科大学循環制御内科) 磯部光章
66) 冠動脈瘤自然退縮後,若年期に狭心症を発
症しCABGを施行した川崎病の1症例
(東京医科歯科大学循環制御学)
大坂友美子・川端美穂子・稲垣 裕・
櫻井 馨・磯部光章
【症例】72歳男性.急性心筋梗塞の診断にて右冠
動脈(#1)に対してPCI施行し,翌日心エコー
にて左室後壁から下壁にかけて心外膜下に心筋の
症例は75歳の女性.【既往歴】72歳から悪性関節
リウマチの診断でステロイドを内服している. 欠損部を認めた.2週間のIABP補助下に全身状態
安定後,発症4週後に待機的に手術施行した.【手
【現病歴】05年4月,心雑音の精査で心エコー図を
術】人工心肺下に,狭窄の認められた回旋枝(#
施行したところ僧帽弁後尖弁輪に付着部をもち,
13)へ静脈グラフトを用いてバイパス術施行後,
直径2cmの可動性の高い腫瘍を認めた.発熱や炎
左室心筋欠損部を切開し,内腔よりウマ心膜パッ
症反応は比較的軽度で,血液培養は陰性のため感
チを用いて閉鎖術を施行した.【術後経過】術後
染性心内膜炎は否定的であった.可動性が高い大
右心不全はみられたが,順調に経過した.【考察】
きな腫瘍であるため手術適応があると考えた.当
院心臓外科にて5月に左房内腫瘍摘出術を行った. 急性心筋梗塞後のsubepicardial aneurysmの治療
は,手術時期と方法に関して現在のところ明確な
病理結果はリウマトイド結節であった.経過良好
基準はない.今回,心筋梗塞急性期離脱後に仮性
で6月に退院した.
瘤破裂の予防のために,発症4週後に待機的手術
を施行し,良好な結果を得たので報告した.
症例は82歳女性.心不全と心嚢水貯留にて他院よ
り紹介となる.既往に心嚢ドレナージ歴がある.
来院時頻脈
(130回/分)
・著明な心拡大
(CTR65%)
・
呼吸困難に加え心エコーにて多量の心嚢水貯留を
認め心タンポナーデと診断.緊急心嚢ドレナージ
を施行し,血行動態は安定した.原因として感染
症・代謝性疾患・膠原病・悪性腫瘍は否定的であ
った.以後の経過で2週間ほどで心タンポナーデ
を繰り返しその都度心嚢ドレナージ治療を要し
た.高齢であり,呼吸状態が悪いことなどから局
麻下で心嚢−腹腔開窓術を実施したところ,全身
状態が改善した.再発性心タンポナーデにドレナ
ージ治療を余儀なくされ高齢者に比較的まれな心
嚢−腹腔開窓術療法が著効した症例を経験したの
で報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
67) CABG術後に冠動脈に加え末梢血管血行再
建を要した症例
(聖路加国際病院ハートセンター内科)
西崎祐史・安斎 均・斧田尚樹・西原崇創・
西裕太郎・高尾信廣・林田憲明
粥状動脈硬化症は冠動脈のみならず全身末梢血管
に及ぶ.CABG後に冠動脈と末梢血管血行再建を
要した症例を示す.1)64歳男性.02年3枝病変で
CABG(LITA to LAD,SVG to RCA)施行.05
年7月心不全で入院.SVG閉塞,左鎖骨下動脈
(SCA)90%狭窄確認.RCA閉塞とSCAにステン
ト使用し一期的血行再建施行.2)63歳男性.93
年腎移植.98年3枝病変でCABG(LITA to D2,
SVC to RCA)施行.04年左間欠性跛行出現.
SVG90%狭窄,LAD近位90%狭窄,左浅大腿動
脈閉塞(SFA)閉塞,右総腸骨動脈(CIA)75%
狭窄(移植腎は右腸骨動脈に吻合)確認.前記病
変に2期的にステント使用し血行再建施行.末梢
動脈硬化性病変(PAD)は心血管イベントや生
命予後と強い相関があり冠動脈疾患患者予後改善
にはPADの診断と血行再建が求められる.
68) 著明なST上昇を伴い,心室頻拍を繰り返
した肥大型心筋症の1例
(昭和大学藤が丘病院循環器内科)
林 誠・本田雄気・河内恵介・太田 圭・
若月大輔・若林公平・清水信行・下島 桐・
浅野冬樹・佐藤督忠・江波戸美緒・東 祐圭・
堤 健・嶽山陽一
症例66歳,女性.af, CHFで近医通院していたが,
H17年10月7日,意識消失,モニター上VT認め当
院救急センターに搬送.DC(150J)でVT停止す
るが,ECG上HR140台のaf, V2-6でST上昇認めた.
AMI疑われたため緊急心カテーテル施行したが冠
動脈は有意狭窄認めなかった.左室造影で著明な
apical hypertrophyを認めた.左室心筋生検では
高度な心筋細胞肥大(30μ)と間質線維化が見ら
れた.その後,ニフェカラント持続点滴からアミ
オダロン(400mg)内服に移行試みるもVTの出現
認め,11月8日,ICD植え込み術施行.内服薬で
のaf rateコントロール困難であったため11月16
日,His束アブレーション施行して経過良好のた
め外来で経過観察とした.今回我々は,著明なST
上昇を伴い,心室頻拍を繰り返した肥大型心筋症
の症例を経験したので報告する.
69) 右室起源持続性心室頻拍を伴った両心室拡
張型心筋症の一例
(日本大学内科学講座循環器内科部門)
深町大介・國本 聡・相澤芳裕・金子堯一・
知久正明・芦野園子・小船雅義・大久保公恵・
橋本賢一・進藤敦史・杉村秀三・中井俊子・
笠巻祐二・小松一俊・渡辺一郎
(同先端医学講座) 斎藤 穎
【症例】25歳 男性【主訴】労作時胸痛・息切れ
【現病歴】生後5ヶ月時に川崎病を発症した.急性
期に冠動脈病変は認めていなかった.半年後の心
【症例】30歳・男性,主訴は動悸・嘔吐.ホルタ
エ コ ー で 左 冠 動 脈 入 口 部 の 軽 度 拡 大 を 認 め , ー心電図上,心室頻拍を認め,精査加療目的で入
CAGを施行した.LAD・CXの分岐部に瘤を認め
院.聴診上過剰心音を聴取し,胸部レ線で,大動
た.3歳児のCAGでは#6に20%狭窄を認めたが,
脈弓の発達不良,心拡大を認め,心電図は,ε
6歳時のCAGではほぼ正常所見に改善していた. (イプシロン)波を認めた.心臓MRIで両心室の
拡大を認め,心エコー上EFは27%であった.心
13歳まで定期的followがされた.2004年(24歳)
室遅延電位は陽性であった.CAG上冠動脈に有
10月頃より労作時に胸痛や息切れを認めるように
意狭窄はなく,右室造影上三尖弁直下に壁運動低
なった.2005年1月,1時間持続する胸痛を生じ精
下があり,同部位を中心に電気生理学検査を施行.
査加療目的に当科入院となった.CAGでLMT
高周波通電により一部心室頻拍は誘発されなくな
25% LAD #9 90% LCX #11 100%の所見であった
った.心筋生検施行し,心筋炎の所見はなかった.
ためCABG(LITA-LAD,RA-D-OM,GEA-15PD)
β遮断剤とアミオダロンの内服下に退院.【まと
を施行した.【結語】川崎病患者は成人期まで長
め】不整脈の発生様式は不整脈源性右室心筋症
期間の心機能の評価,及び冠危険因子を除去すべ
(ARVC)を示唆したが,心機能上拡張型心筋症
く生活指導する必要があると考え症例報告とす
の所見を呈し,本症例は拡張型心筋症とARVCの
混合型と考えられた.
る.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1143
70) 拡張型心筋症に合併した左脚前枝由来の撃
発活動を機序とする心室頻拍の一例
(筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科)
山本昌良・青沼和隆・田上和幸・吉田健太郎・
久賀圭祐・渡辺重行・山口 巖
(水戸済生会総合病院) 村田 実
症例は66歳の男性.拡張型心筋症(DCM:EF30%)
で経過観察中,120bpmの持続性心室頻拍(VT)
を認め,当科紹介入院となった.Burst pacingに
てVTは容易に誘発され,プログラム刺激では誘
発されず,VT中に行ったBurst pacing後のVT復
帰時のreturn cycleは一定であり,VTの機序は撃
発活動と考えられた.左脚前枝のマッピング中,
bumpにてVTは停止した.Pace mappingではVT
と12/12で一致し,同部で通電を開始したところ
VTのaccerelationを認め,VTは根治した.DCM
に合併するVTはリエントリー機序によるものが
多いと考えられるが,本症例は左脚前枝に起因す
る撃発活動によるVTと考えられ,極めて稀な一
例である.
71) 不 整 脈 原 性 右 室 心 筋 症 の 診 断 治 療 に
middiastolic potential mappingが有用だった一例
(昭和大学第三内科) 三好史人・小林洋一・
伊藤啓之・小貫龍也・松山高明・渡辺則和・
河村光晴・浅野 拓・中川陽之・丹野 郁・
片桐 敬
74歳,男性.【主訴】失神.左脚ブロック型の単
形性心室頻拍(VT)と右室脂肪変性を認め,不
整脈源性右室心筋症(ARVC)と診断.心臓電気
生理学的検査では,心室プログラム刺激で,血行
動態の安定した持続性VTが再現性をもって誘発
された.VT中のelectroanatomical mappingでは,
右室下壁側に低電位領域と広範なdiastolic potential
を認めた.右室下壁測のcentral isthmus siteに対
する通電では,VT周期が延長したがVTは停止し
なかった.そこで,middiastolic potentialを指標
にelectroanatomical mappingを再構成し,VTの
exit siteが正常心筋と低電位領域の境界部に存在
すると判断.同部位はconcealed entrainmentを
認め,一回の通電でVTは消失した.ARVCに合
併するVT治療にmiddiastolic potential mappingが
有用と思われた.
72) エピネフリン負荷にて心室頻拍が誘発され
たLQT7の1症例
(自治医科大学循環器内科学) 近藤秀行・
新保昌久・村田光延・三橋武司・島田和幸
(国立循環器病センター心臓血管内科)
清水 渉
症例は31歳女性.中学の検診で心室性不整脈を指
摘され,28歳時に失神のエピソードあり.QT延
長症候群と診断され,内服薬の投与を受けていた
が,今回妊娠のリスク評価を目的に入院した.入
院時の心電図上,著明なU波を伴うQU延長
(QUc 0.80秒)を認めた.病型診断を目的にエピ
ネフリン負荷試験(0.1μg/kg静注)を施行した
ところ,心室頻拍を生じ,交感神経刺激に対し感
受性が強い病型であることが示唆された.心電図
波形の特徴からLQT7を疑い,遺伝子解析にて
KCNJ2の異常を認め,診断が確定した.母親に
も同様の心電図異常と遺伝子異常を認めた.プロ
プラノロールの投与を再開し経過観察としたが,
LQT7は本邦での報告は少なく,病型の特徴や予
後について今後の検討が必要と思われる.
1144
第 199 回関東甲信越地方会
73) 心室頻拍の抑制に低電位領域と瘢痕領域へ
の高周波通電を要した非虚血性心室頻拍の1例
(新潟大学医歯学総合研究科循環器分野)
長谷川美樹・小村 悟・佐藤光希・岡田慎輔・
和泉大輔・岡村和気・山下文男・田邊靖貴・
古嶋博司・相澤義房
(新潟大学保健学科) 池主雅臣
非虚血性心室頻拍(VT)にカテーテル心筋灼焼
術(CA)を施行した.Substrate mapping(SM)
では左室後壁にscar area(SA)とその周囲の低
電位領域(LVA)が同定された.LVAの一部で
刺激-QRS間隔が延長したperfect pace-mapping部
位が同定でき,VT中には同部位で拡張中期電位
が記録された.同部位の通電でVTは徐拍化した
後停止(15秒以上)したが再誘発され,SAと正
常心筋の間に線状通電を行った後に誘発されなく
なった.その後再発したため再度CAを施行し,
SAと判定された部位にも線状通電を延長し,そ
の後VTの誘発と再発はみられなくなった.回路
の一部が心内膜にない可能性のあるVTでSAへの
通電の必要性を示した1例と考えられ報告する.
74) 心房頻拍症による頻拍誘発性心筋症が疑わ
れた一症例
(さいたま赤十字病院循環器科) 大和恒博・
新田順一・田島弘隆・大関敦子・村松賢一・
佐藤 明・松村 穣・武居一康・淺川喜裕
症例は14歳男性.2003年10月に健診で不整脈を指
摘されたが放置.2004年4月頃から,運動中に易
疲労感を自覚.2004年9月,動悸と胸痛を主訴に
当科を紹介受診.心拍数≒150/分の心房頻拍を認
めた.心エコーではLVEDD=65mmと拡大し,
LVEF=14%と低下.拡張型心筋症様の病態と考
え入院加療.pilsicainide,carvedilol,spironoractone,torasemide,temocapril内服で,心拍
数≒100/分にコントロールされ,左心機能も軽度
回復.しかし,回復は不十分であり,洞調律への
復帰が必要と判断し,カテーテルアブレーション
を施行.左上肺静脈基部の前壁寄りを起源とする
心房頻拍に対して局所心筋焼灼術を行った.術後,
左心機能は著明に改善.内服薬は全て中止とした
が,以後の経過は良好.心房頻拍による頻拍誘発
性心筋症の可能性が考えられた.
75) 肺静脈隔離術後の症候性心房性期外収縮に
対してカテーテルアブレーションが著効した発作
性心房細動の一例
(武蔵野赤十字病院循環器科) 鈴木 篤・
丹羽明博・尾林 徹・宮本貴庸・山内康照・
関口幸夫・樋口晃司・久佐茂樹・嘉納寛人・
大山明子
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
症例は63歳女性.2000年4月より発作性心房細動
(PAF)に対し抗不整脈薬を内服していた.2004
年3月より持続性AFとなり当院紹介,同年7月に
肺静脈隔離術(PVI)を施行した.しかし,その
後動悸は残存,ホルター心電図では心房性期外収
縮(APC)が14000/日出現していたためPVIの2nd
sessionを施行.左肺静脈伝導が戻っていたため追
加焼灼し左肺静脈を隔離したが,その後もAPC頻
回に出現していた.このAPCをマップしたところ,
僧帽弁輪前中隔にて局所電位が体表面P波より
30msec先行し,単極誘導がQS-patternを呈する
部位を同定した.同部位にて高周波通電開始した
ところ8秒後にはAPCは完全に消失,その後自覚
症状は完全に消失し,ホルター心電図でもAPC
は11/日のみであった.症候性のAPCに対するア
ブレーションの報告は稀であるため報告する.
76) 96歳の初回ぺースメーカー植え込み症例 (新宿石川病院循環器内科) 横山正義・
柳田尚子
【症例】96歳.女性 生来,元気であった.30歳
ころから心房細動があったが,子供を5人出産し
た.平成17年7月ころより浮腫が認められ,8月
には歩行が苦しくなた.心拍数は30−40bpmでほ
ぼ一定していた.頻拍症は見られなかった.ホル
ターけんさでもP波は認められなかった.意識消
失はないがいつもふらふらし,立ちくらみがあり,
階段を上れなかった.VVIペースメーカー植え込
みにより,CTR縮小し,歩行が楽になり下肢の
むくみが消失した.ペーシング治療に年齢の限界
はないとおもわれた.
77) 抗凝固療法中に電気的除細動直後に左心耳
内血栓が形成された発作性心房細動の1例
(横須賀市立うわまち病院循環器科)
辻 武志・西川 慶・泊口哲也・黒木 茂・
水政 豊・岩澤孝昌・沼田裕一
(浦賀病院) 鳥塚晶久
症例は65歳男性で基礎心疾患なし.浦賀病院にて
発作性心房細動(paf)に対して,ピルジカイニ
ド 150mg分3内服洞調律維持されていたが,pafが
出現し軽快しない為精査治療目的に当科紹介受
診.2005年10月24日 ワーファリン開始.11月10
日PT-INR:2.55となり同日経食道心エコー(TEE)
施行.左心耳内血流速度45.6cm/s,電気的除細
動(DC)360J施行,洞調律に復帰した.直後の
TEEにて左心耳内血流速度17.2cm/s,モヤモヤ
エコーが増強し10分後には左心耳内に新たな血栓
と思われる所見を認めた.除細動後stunning等に
より左房内血流速度低下,モヤモヤエコーが増強
することは知られているが,今回我々はワーファ
リンコントロール下にもかかわらず急速に血栓形
成を認めた症例を経験したので報告する.
78) 誤嚥性肺炎を契機に顕在化したアミオダロ
ン間質性肺炎の1例
(筑波メディカルセンター病院循環器内科)
金本 都・塩塚潤二・木村泰三・森本隆史・
石川公人・文藏優子・野口祐一
(筑波大学循環器内科) 渡辺重行・山口 巖
前壁陳旧性心筋梗塞の93歳,男性.2003年6月に
持続性心室頻拍が認められたためアミオダロン内
服を開始し,ICD植え込みが行われた.2005年7
月誤嚥性肺炎のため緊急入院となったが,気管内
挿管のうえ抗生剤投与を行い速やかに改善傾向と
なった.しかしその後再び発熱し,CTにてびま
ん性スリガラス様陰影が出現した.抗生剤を投与
すると同時に間質性肺炎の可能性を考慮し,直ち
にアミオダロンを中止のうえステロイドパルスを
行った.KL-6は正常値であったがアミオダロン
のDLSTが陽性であったため,その後ステロイド
パルスを2回追加したが改善せず入院から1か月の
経過で死亡した.病理所見は薬剤性間質性肺炎に
矛盾しなかった.アミオダロン間質性肺炎は本例
を含め,様々な経過を辿ることがあり経過観察の
際には充分注意が必要である.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
79) Pilsicainideにより誘発された持続性完全
洞房ブロックの一例
(駿河台日本大学病院循環器科) 坂井義貴・
今井 忍・青山 浩・小森谷将一・池田 敦・
八木秀樹・榎本光信・鈴木一隆・永島正明・
深水誠二・田中秀之・外川 潔・山路聡志・
高世秀仁・松平かがり・高橋直之・杉野敬一・
八木 洋・斎藤文雄・久代登志男
(同救命救急センター) 長尾 建
【症例】71歳女性.眼前暗黒感の原因精査のため
施行したホルター心電図で,最長3.5秒の心房停
止が頻回に出現し,上室性期外収縮の連発を認め
た.洞結節電位直接記録(SNE)記録下に心臓電
気生理学的検査を行なった.心房頻回刺激(RAP)
後の洞結節回復時間はBaseline 1560msec,薬理学
的自律神経遮断後1510msecと正常上限で,洞房ブ
ロックは出現しなかった.Pilsicainide 40mgの静
注後,80/分のRAPにより10秒以上の心停止が出
現し,心室ペーシングを要した.心停止中も周期
約800msecの心房を捕捉しないSNEが記録され,
完全洞房ブロックと考えられた.心房波の出現ま
で約10分を要し,以後,心房または接合部補充調
律が持続し,洞調律回復に約10時間を要した.
【結論】Na チャンネル・ブロッカー投与により
長時間持続した完全洞房ブロック例を経験した.
82) 6F radial approachにて2側枝を有するLAD
分岐部病変に対し2側枝ともmodified crush stentingを施行した1例
(東邦大学医療センター大森病院心血管インターベンション室)
天野英夫・我妻賢司・戸田幹人・中野雅嗣・
新居秀郎・佐藤秀之
(同循環器内科) 山崎純一
【症例】53歳男性【経過】LAD#7 99%狭窄,#D1
【症例】25歳女性【既往歴】24歳 RA疑い【現病
90%狭 窄 , #D2 90%狭 窄 に PCI施 行 . D2に
歴】05年7月より労作時胸痛が出現.ホルター心
Cypher(2.5×18mm)を留置.本幹突出部をバ
電図上,胸痛に一致した心電図変化を認め,精査
ルーンでcrush.次にD1にCypher(2.5×18mm)
加療のため当科に入院.【経過】血液検査所見,
を留置.この時D1が完全閉塞となったが処置は
CT所見から大動脈炎症候群が疑われた.冠動脈
後で行うこととしD1ステントの本幹突出部をバ
造影上左主幹部の99%狭窄と,右冠動脈から左冠
ルーンでcrush.その後本幹にCypher(3.5×
動脈への良好な側副血行路を認めた.10月13日,
23mm)を留置.ワイヤーを再びD2へ通過させ本
patch angioplastyを施行したが,同日ICU帰室後,
幹とD2をバルーンで同時拡張した.次にD1にワ
突然心室細動となり,PCPS,IABP下に緊急冠動
イヤーをクロスさせたがバルーンは通過しなかっ
脈造影を施行.Multiple spasmによる左前下行枝
た.最終的にD1は閉塞にて終了するも#7,D2は
近位部の完全閉塞および左回旋枝・右冠動脈のび
良好な拡張が得られた.【考察】D1は入口部石灰
慢性狭窄を認めた.spasmは治療抵抗性であり,
化のためバルーンが通過しなかったと考えられ
その解除にはニトログリセリン・ベラパミル・ニ
た.対処法としてロータブレータ使用があるが手
コランジルの多剤投与を要した.大動脈炎症候群
技が複雑になると考えられた.【結語】2側枝を含
に関連したと考えられる冠動脈spasmについて考
む分岐部病変に2つのmodified crush stentingを施
行し得た症例を経験した.
察を加え報告する.
80) Tornusカテーテルが不通過であった石灰
化病変に対し,Rotablatorが有効であった1症例
(慈生会病院循環器センター) 松永洋一・
道端哲朗・武 千春・須藤真児・松尾義昭・
岩橋陽介・浅野 浩
(国立国際医療センター循環器科) 樫田光夫
83) Cypher STENT留置に伴い冠動脈穿孔を来
たしたがバルーンカテーテルによる低圧拡張のみ
で止血しえた1例
(日本大学練馬光が丘病院循環器科)
田中俊行・福島聖二・鈴木俊郎・増田尚己・
内山隆久
【症例】78歳の労作性狭心症の男性.CAGにて
LAD seg.6に75%,LCX Seg.11に75%,Seg.13に
石灰化を有する99%狭窄の2枝病変を認めた.
Seg.13はintermediate guidewireが通過したが,
2.5mmと1.5mmバルーンが何れも通過しなかっ
た.tornus貫通用カテーテルに変更したものの,
石灰化病変のSeg.13入口部に食い込まず不通過で
あった.Seg.11へのPCIはSeg.13への副側血行路
を閉塞する恐れあり,この日はSeg.6にPCIを行
い終了した.翌月,国立国際医療センターにて
LCXに再PCIを行った.Rota bar 1.5mmにてablation後バルーンが通過し,Seg.13にcypher stent
2.5×18mm 2本とseg.11に3.0×28mmを留置し終
了した.tornus貫通用カテーテルが石灰化病変に
進入しない場合,Rotablaterが有効である場合が
ある.
75歳男性.間欠性跛行を訴え,冠動脈造影にて左
前下行枝#7に75%狭窄,下肢動脈造影にて両側
外腸骨動脈の閉塞を認めた.カンファレンスにて
先に冠動脈を治療する方針となり,アスピリン
81mgとチクロピジン200mgを1週間内服した後に
Cypher stent留置術を行った.3.0×18mmを留置
したが,血管内超音波検査にて拡張不十分のため
3.5mmバルーンにて後拡張を行ったところ,冠動
脈穿孔,ショックを起こした.バルーンの低圧拡
張と心のうドレナージにより速やかにショックは
回復した.腸骨動脈が閉塞しているためIABPや
PCPSは使用し難く,ヘパリンを中和しバルーン
による低圧拡張を繰り返し止血に成功した.CK
は上昇せず,翌日の造影でステントの開存と止血
を確認,後日,独歩退院した.文献的考察を加え
報告する.
81) IVUSにてentry pointの同定が可能であった
LAD‐CTOの一例
(川口市立医療センター循環器科)
古川清隆・野本和幹・榎本光信・佐藤喜洋・
小張 力・鷲尾武彦・大場富哉
(駿河台日本大学病院循環器科) 渡辺郁能・
久代登志男
84) 浅大腿動脈の長い慢性完全閉塞病変に対し
足背動脈アプローチでカテーテル治療に成功した
1症例
(長野県厚生連篠ノ井総合病院循環器科)
篠崎法彦・一瀬博之・矢彦沢久美子・
島田弘英・星野和夫
症例は39歳男性.一年前より高血圧症と高脂血症
にて近医通院中であった.同時期より労作時胸痛
を自覚していたため平成17年6月当科紹介受診し
た.負荷心筋シンチグラムにて前壁中隔領域に広
範な虚血および再分布を認め,8月10日冠動脈造
影(CAG)を施行した.LAD#6の完全閉塞
(CTO)を認めPCIを施行した.閉塞長は約10mm
であったが,対角枝分岐直後の閉塞(abrupt
type)でありCAG-guideでは真腔を捉えることが
困難であっ た . 対 角 枝 に IVUSが挿 入 可 能 で ,
IVUS-guideにてentry pointを同定し真腔にガイ
ドワイヤーを挿入することに成功した.前拡張後
にDESを留置し良好な開大を得ることができた.
CTOのentry point同定にIVUSが有用であった症
例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
85) 大動脈炎症候群に合併した左主幹部狭窄に
対するpatch angioplasty後にcoronary multiple
spasmを認めた1例
(東京女子医科大学循環器内科学)
笠井夕芙子・今井 拓・新井清仁・亀山欽一・
山口淳一・鶴見由起夫
(同心臓血管外科) 山嵜健二
60歳女性.血液透析患者.2004年夏から両側間欠
性跛行出現,2005年6月右側増悪.ABI右0.43左
0.72.右浅大腿動脈は瀰漫性に90%,左浅大腿動
脈は長い完全閉塞.CT上左膝窩動脈以下は足背
動脈まで造影可能.9月15日右浅大腿動脈にステ
ント留置術施行.9月22日左浅大腿動脈にカテー
テル治療施行.右大腿動脈アプローチで治療を開
始するもワイヤー不通過.膝窩動脈直上まで閉塞
のため膝窩動脈アプローチは不可能.エコーガイ
ド下に足背動脈に4Frシースを挿入し0.018インチ
ワイヤーで病変の通過に成功し前拡張施行.その
後右大腿動脈からワイヤーを通過させ,ステント
挿入,後拡張施行し良好な血流が得られた.術後
ABI右1.15左1.06と改善.近位部アプローチでは
通過不能な病変で膝窩動脈も穿刺不可能な場合,
足背動脈アプローチは有用な方法である.
86) 心室中隔枝冠攣縮が原因の心筋梗塞が疑わ
れた冠動脈拡張症を有する若年男性の1症例
(駿河台日本大学病院循環器科) 隈部威道・
谷 樹昌・菊島公夫・穴澤丈郎・川俣博文・
立花栄三・藤井 毅・松影 崇・松本直也・
佐藤裕一・上松瀬勝男・斉藤文雄・渡辺郁能・
久代登志男
(同救命救急センター) 長尾 建
喫煙歴,高脂血症を有する30歳男性.胸部圧迫感
を主訴に受診.心電図上は明らかな異常は無かっ
たが,白血球数,心筋逸脱酵素の上昇を認めてい
た為に入院となる.心筋逸脱酵素は入院24時間後
にはほぼ正常値に復し,ウイルスペア血清でも有
意な変化を認めなかった.心筋シンチグラフィー
では心室中隔領域に限局したタリウムの取り込み
欠損像を認めた.第28病日での冠動脈造影では左
右冠動脈に壁不整を伴う冠動脈拡張を認めた.血
管内超音波では血管径が最大5.5mmと拡大を認
め,壁不整に一致した部位には偏心性のプラーク
の局在を確認した.アセチルコリン負荷試験では
左前下行枝の第一中隔枝にのみ冠攣縮が誘発され
た.【総括】冠動脈拡張症を有する若年男性に発
症した心室中隔枝の冠攣縮が原因と思われる心筋
梗塞例の1例を報告した.
87) 心嚢液,胸水貯留で発症した悪性リンパ腫
(Primary effusion lymphoma)の一例
(川口市立医療センター循環器科集中治療科)
鷲尾武彦・野本和幹・榎本光信・古川清隆・
佐藤喜洋・小張 力・大場富哉
(駿河台日本大学病院循環器科) 渡辺郁能・
久代登志男
症例は72歳男性.労作時の息切れ,呼吸困難を主
訴に来院した.胸部レントゲン上,心拡大・胸水
貯留を認め,うっ血性心不全を疑い入院とした.
UCGでは心収縮能は保たれていたが全周性の心嚢
液貯留を認めた.心不全に対する加療では心嚢液,
胸水の改善はなく,心タンポナーデを呈したため
心嚢ドレナージを施行した.心嚢液は淡血性を示
し,細胞診にてclass∨ Malignant lymphomaの診
断を得た.胸水からも同様の細胞が検出された.
リンパ節腫大はなくPrimary effusion lymphoma
と診断し,化学療法を開始した.治療後,心嚢液,
胸水は消失し再貯留なく経過している.心嚢液,
胸水貯留にて発症し心不全との鑑別に苦慮した悪
性リンパ腫の一例を経験したので報告する.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1145
88) 心 臓 転 移 を き た し た Alveolar soft-part
sarcomaの1症例
(公立昭和病院循環器科) 玉置 徹・
田中茂博・小出 卓・小阪明仁・石原有希子・
定 利勝・吉良有二
Alveolar soft-part sarcoma(ASPS)の心臓転移
という非常に稀な症例を経験したので報告する.
症例は58歳女性.33歳時左大腿部腫瘤にて発症し,
摘出手術にて確定診断された.その1年後左肺に,
13年後右肺に,17年後脳に転移が認められ,それ
ぞれ摘出手術が行われ,現在まで合併症無く全身
状態は良好であった.発症より25年後,胸部レン
トゲン写真に異常を指摘され,心エコー,胸部
CT,MRIにて心室中隔,左室心尖部に2個の腫
瘤を認めた.心臓カテーテル検査では,壁運動異
常,伝導障害は認めず,中隔と心尖部に左冠動脈
前下行枝より栄養血管を認めた.最大径は約
50mmであり,外科的治療は困難であると判断さ
れた.ASPSは化学療法や放射線療法が無効であ
り,少数ではあるがIFN-αが有効との報告があ
るため,今後その投与を検討する予定である.
91) 乳糜心嚢液貯留を伴ったサルモネラ心外膜
炎の一例
(横浜市立大学市民総合医療センター心臓血管センター)
林 勉・内田啓二・井本清隆・鈴木伸一・
軽部義久・伊達康一郎・郷田素彦・初音俊樹・
南 智行
(横須賀市立うわまち病院循環器科)
黒木 茂・沼田祐一
(横浜市立大学臓器病態治療医科学)
高梨吉則
特に既往のない17歳男性,38度台の発熱を主訴に
来院,心臓超音波検査で心嚢液の貯留を認め急性
心膜炎と診断し入院.心嚢穿刺で血性心嚢液であ
り,溶血と乳糜を認め細菌培養検査は陰性であっ
た.ウィルス性心膜炎としてアスピリンを投与し
たが,第20病日から発熱と炎症反応の再上昇があ
り,第22病日に心嚢ドレナージ,心外膜生検を施
行した.ドレナージした血性心嚢液からサルモネ
ラ菌が検出され,抗生剤を術後のCEZから感受性
のあるCAZに変更した.ドレーン排液の白濁が続
いたため乳糜心嚢合併と診断し低脂肪食とした.
炎症反応は速やかに低下し,ドレーン排液は漿液
性で極少量となり,培養陰性を確認して54病日に
ドレーンを抜去,56病日に軽快退院した.
89) 脳梗塞発症後に発見された大動脈炎症候群
の一例
(杏林大学第二内科) 山田真由美・
竹内敦子・三谷和彦・加地英生・池田隆徳・
坂田好美・四倉正之・吉野秀朗
92) 感染性心内膜炎と化膿性脊椎炎の合併症例
を保存的に治療し得た一例
(横須賀市立うわまち病院循環器科)
西川 慶・泊口哲也・水政 豊・黒木 茂・
岩澤孝昌・辻 武志・沼田裕一
症例は53歳の女性.20歳代から血圧の測定が困難
であった.33歳時に甲状腺機能亢進症の既往あり.
平成17年10月,左片麻痺のため近医を受診し脳梗
塞(右被殻,放線冠)の診断で入院となった.
MRAで大動脈炎症候群を疑われ精査加療のため
当院に転院した.心拍は65/分整,血圧は右上肢
84/60,左上肢84/62,右下肢126/60,左下肢
122/58mmHgで,心雑音はなく,胸腹部に異常は
認めず.左不全片麻痺あり.MRAで腕頭動脈,
左総頸動脈,および左鎖骨下動脈の起始部の閉塞
が認められ,豊富な側副血行を認めた.また右
MCAの高度狭窄を認めた.MRAおよび造影CT
でその他の主要血管に異常は認めなかった.本例
は脳梗塞発症で初めて大動脈炎症候群と診断され
た症例であり,貴重と思われた.
症例は60歳女性.不明熱精査の為行った経食道心
エコー(TEE)にて僧帽弁後尖に径7mmの疣贅
を認めた.血液培養よりStreptococcus oralisが
検出された.また 持続する後頚部痛について
MRIにて精査したところ,C5-6の化膿性脊椎炎が
判明した.感染性心内膜炎に化膿性脊椎炎が合併
したものと判断し,感受性のあるPCGの投与を開
始した.1ヶ月後も骨癒合や炎症反応の改善がみ
られない為,ABPCとCAM併用に変更した.変
更後は順調に改善し,TEEでは疣贅の消失を確
認した.化膿性脊椎炎に関してはフィラデルフィ
アカラーによる固定等保存的治療にて改善した.
現在外来通院中であるが,再燃は認めず,血液培
養でも陰性を確認している.今回我々は,感染性
心内膜炎と化膿性脊椎炎の合併症例を保存的に治
療し得た一例を経験したので報告する.
90) 腹部大動脈グラフト感染の1例
(船橋市立医療センター循環器科)
鶴有希子・小澤 俊・稲垣雅行・福澤 茂・
杉岡充爾・沖野晋一・市川壮一郎・高原善治・
茂木健司・勝股正義・田村 敦
93) 臀部慢性膿皮症が感染源と考えられた感染
性心内膜炎の一例
(千葉市立海浜病院循環器科) 大熊麻衣子・
相生真吾・行木瑞雄・浅川雅透・椎名由美
症例は55歳男性.平成17年2月7日に腹部大動脈瘤
破裂のため,人工血管置換術を施行した.術後,
腎不全を認め,また一過性に麻痺性イレウス,肝
不全を認めた.心エコーで壁運動の異常を認めた
ため,心臓カテーテル検査を施行したところ3枝
病変であり,5月に経皮的冠動脈形成術を施行し
た.8月上旬より38度台の発熱が出現し,持続.
炎症反応の上昇を認め,血培よりstreptococcus
milleri groupが検出され,敗血症のため入院とな
った.CTにて人工血管内にガス像を認め,人工
血管感染が疑われた.癒着が強く,外科的アプロ
ーチは困難であり抗生剤長期投与を行った.しか
し,感染のコントロールはつかず,11月5日に死
亡した.解剖の結果,十二指腸が人工血管と接す
る部位で穿孔していた.貴重な症例を経験したの
で報告する.
1146
第 199 回関東甲信越地方会
症例は知的障害のある50歳男性.3年前より臀部
の慢性膿皮症を認め,他院皮膚科で治療中,発熱
と呼吸困難感が出現し,急性心不全にて入院とな
った.心エコー所見より感染性心内膜炎による急
性大動脈弁閉鎖不全症および僧帽弁閉鎖不全症と
考えられたが,血液培養から起炎菌は検出されな
かった.ペニシリン投与にても炎症反応は増悪傾
向にあったが,ダラシンを投与したところ改善を
認め,大動脈弁兼僧帽弁置換術を施行した.術中
の組織培養からも起炎菌は検出されなかったが,
臀部の膿汁から複数の嫌気性菌が検出された.臀
部の慢性膿皮症を感染源とする,嫌気性菌による
と考えられた感染性心内膜炎を経験したので,こ
こに報告する.
94) 転移性肺がんとの鑑別を要した両側多発性
Vanishing Tumorの一例
(大森赤十字病院循環器科) 寺野敬一郎・
神原かおり・竹村仁志・持田泰行・本宮武司
【症例】93歳,女性.【現病歴】慢性心不全,VVI
ペースメーカー植込み後にて外来通院中.平成17
年9月,腹痛にて消化器科に入院し,補液
1000ml/日を受けたところ,夜間呼吸困難と顔面
浮腫が出現し,心不全増悪の診断で当科に転科し
た.胸部X線写真上CTR75%から79%に拡大し,
胸部X線像およびCTにて両肺野に直径2cm程度の
淡い結節状陰影を数個認めた.一部に胸膜の引き
込み様所見も見られ,転移性肺がんを疑った.し
かし心不全に対して利尿剤による治療を行ってい
たところ,7日後の胸部X線写真で結節陰影は見
られず,CTでも陰影消失を確認した.【総括】画
像上,転移性肺がんを疑わせる,両側多発性結節
状陰影を呈した心不全患者を経験した.心不全治
療にて陰影は速やかに消失し,胸水によるvanishing tumorであることがわかった.
95) 僧帽弁形成術後に生じる左室流出路狭窄:
再手術を行わずに軽快した1例
(慶應義塾大学循環器内科) 渡辺美佳・
片山隆晴・村田光繁・木村謙介・三好俊一郎・
岡部輝雄・岩永史郎・朝倉 靖・吉川 勉・
小川 聡
(同心臓血管外科) 高橋辰郎・四津良平
弁膜症を指摘され受診した49歳女性.僧帽弁逸脱
による重度僧帽弁閉鎖不全(MR)と診断し,
2005年9月16日僧帽弁形成術(MVP,P3楔状切除
とDuran ringによる弁輪形成)を施行した.術直
後より溶血があり,心エコーで中等度のMR,僧
帽弁収縮期前方運動(SAM),左室流出路狭窄
(peak PG=85mmHg)を認めた.Dobutamine,
nicardipine,nitroglycerin,hANPが投与されて
いた.再手術を考慮したが,まず流出路狭窄を悪
化させるこれらの薬剤を中止する保存的治療を行
った.術後6日目の心エコーではMRはごく軽度
に改善,流出路狭窄は消失した.以後は経過良好
で軽快退院した.MVP後のSAMとそれに起因す
る流出路狭窄やMRの発症率は1∼4%と報告さ
れ,通常早期に再手術が行われる.本症例は再手
術を行う前に薬剤変更などの保存的治療が重要で
あることを示した.
96) 心不全発症により発見された高齢者肺動静
脈瘻の一例
(済生会横浜市南部病院) 坂賢一郎・
川浦範之・三橋孝之・邑山美奈子・齊藤俊彦・
中丸真志・猿渡 力
75歳女性.平成17年1月末より湿性咳嗽,全身倦
怠感が出現.3月31日近医を受診し,胸部Xpで右
下肺野に結節影と肺鬱血像を認め,当科受診.鬱
血性心不全の診断で入院.加療にて心不全は改善
したが,低酸素血症は改善せず,精査目的にCT
を施行した.肺底部にA7と下肺静脈の瘻を認め,
A7は18mm,下肺静脈は20mmと拡張していた.
3DCTでA7から下肺静脈への肺内シャントを認め
た.Swan-Ganz catheterを留置し,右下肺動脈に
てwedgeしたところ,SpO2 92%から99%へ上昇.
これにより低酸素血症の原因が肺動静脈瘻である
と確認した.手術室ではwedgeし,シャント血流
を減少させ酸素化を保った状態で,右肺下葉切除
術を施行.術後経過は良好で,低酸素血症とQOL
の改善を認めた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
97) 気管支嚢胞の機械的心臓圧排により発症し
た両心不全の一例
(東京慈恵会医科大学柏病院循環器内科)
滝沢信一郎・鯨岡大輔・南井孝介・東 吉志・
上原良樹・日下雅文・蓮田聡雄・清水光行
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 望月正武
【症例】26歳女性【主訴】起坐呼吸,浮腫【起始
および経過】5日前から息切れを自覚.徐々に息
切れが悪化し顔面,上肢の浮腫が出現.3日前近
医受診し胸膜炎の診断で内服治療開始したがその
後,起座呼吸が出現し当院受診.著明な低酸素血
症を認めうっ血性心不全の診断で緊急入院となっ
た.利尿剤により翌日には顔面,上肢の浮腫は改
善したが,心エコー,胸部CTにて両心房を上方
から圧排する直径約5cmの縦隔腫瘍を認めた.心
房の圧排による心不全と判断し,2日後胸部外科
に転科,縦隔腫瘍摘出術を行った.腫瘍は嚢状で
液体で緊満していた.病理学的には良性の気管支
嚢胞で,摘出後心不全は速やかに改善した.術後
経過良好にて術後13日で退院となった.気管支嚢
胞の機械的心臓圧排により両心不全を発症した貴
重な症例であり報告する.
100) 薬物治療に抵抗しPTRAが奏功した高血圧
性心不全の1例
(国立病院機構災害医療センター)
瀬戸口雅彦・田原敬典・高見澤千智・
角 順子・小川 亨・馬屋原伸・佐藤康弘
(東京医科歯科大学循環制御学講座)
磯部光章
【症例】77歳 女性.【主訴】呼吸困難.【現病歴】
2005年4月10日頃より感冒症状出現.18日夜より
呼吸困難感を認め救急搬送となる.【身体所見】
意識レベルII-20.血圧210/110mmHg.脈拍数
110bpm,整.O2 Sat 100%(O2 10l).心音:III音
聴取.呼吸音:両側に湿性ラ音聴取.臍部に血管
雑音聴取.胸部X線 心胸比65%,肺うっ血あり.
検査成績:BUN 23.2mg/dl,Cr 1.10mg/dl,BNP
543pg/ml.【臨床経過】HHDによるCHFと診断
し,ACEIの投与を行ったところ腎機能が悪化,
血圧コントロールも不良で心不全からの離脱が困
難となった.PRA高値および腹部CTでの両側腎
動脈狭窄より腎血管性高血圧症を疑い,PTRAを
行ったところ,術直後より良好な利尿と降圧が得
られ,心不全症状は改善,独歩退院となった.
98) 孤立性左室心筋緻密化障害により心不全を
発症した成人例
(相澤病院心臓病大動脈センター循環器科)
稲葉俊郎・千菊敦士・平野龍亮・荻原史明・
有賀雅和
(同病態診断科) 藤本和法・櫻井俊平
(同心臓血管外科) 高井文恵・鈴木博之・
大沢 肇・藤松利浩
(相澤病院先進医療研究所) 服部直也
(国立病院機構松本病院循環器科) 矢崎善一
(信州大学循環器内科) 池田宇一
101) 若年性心筋梗塞におけるMetabolic syndrome
の頻度と臨床的特徴
(横浜栄共済病院循環器内科) 石橋祐記・
伊藤晋平・岩城 卓・野末 剛・水口一郎・
三浦元宏・道下一朗
99) 先天性赤芽球癆による心ヘモクロマトーシ
スにて心不全を呈した一症例
(東京慈恵会医科大学循環器内科)
神崎恭子・高塚久史・八木秀憲・芝田貴裕・
望月正武
102) 拡張期肥大型心筋症に対する左室形成術の
経験
(心臓血管研究所付属病院) 山田純也・
須磨久善・高橋明仁・末石通暁・田邉大明
103) Dynamic left ventricular outflow tract
obstruction(DLVOT)の1例
(千葉大学循環病態医科学) 平沼泰典・
浅野達彦・白石博一・小室一成
症例は67歳男性.労作時呼吸困難感を主訴に2002
年5月当科外来受診した.心エコー上DLVOTを認
めDobutamine負荷心エコーで40γ負荷時に最大
圧較差117mmHg以上を記録した.Amlodipine,
Atenolol内服で経過観察されていたが,症状の出
現頻度は減少したものの症状の軽減は認めなかっ
た.今回精査加療の目的で2005年4月当科入院と
なった.入院後AmlodipineをVerapamilに変更
Cibenzolineを追加し症状が軽快し圧較差の改善
を認めた.Atenolol単独ではコントロールできな
かったDLVOTにVerapamil,Cibenzoline が奏効
した一例を経験した.
104) 圧較差の軽減に難渋した閉塞性肥大型心筋
症の一例
(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科)
堀 真規・手塚尚紀・原 久男・野呂眞人・
角田太郎・諸井雅男・中村正人・鈴木真事・
杉 薫
(同腎臓内科) 長谷弘記
【背景】近年,本邦での若年者の虚血性心疾患も
増加しつつあるが,その特徴は明確になっていな
症例は70歳の女性.平成15年7月,閉塞性肥大型
い.【方法】当院において1998年4月から2005年4
心筋症(HOCM)に対し経皮的中隔心筋焼灼術
月までに当院に入院した50才以下の急性心筋梗塞
患者32例を対象とした.入院時の検査値をもとに, (PTSMA)を施行.これにより左室流出路の圧
症例は50歳女性.労作時呼吸困難,発作性夜間呼
較差が90から30mmHgへ低減した.平成17年9月
Metabolic syndromeの頻度,risk factorの頻度を
吸困難あり当院受診.胸部レントゲンで肺うっ血
よりめまいが出現.ホルター心電図上3.5秒の
検討した.また,症例はMS群17例とnon-MS群
を認め入院.心エコー上,左室内腔は拡大し,壁
pauseを認めたためβブロッカーを中止した.そ
15例に分けて患者背景につき比較を行った.【結
運動のびまん性低下を認めた.左室前壁から心尖
の後圧較差が90mmHgと再上昇したため,圧較差
果】1.30歳以下では100%,35歳以下では75%,
部に壁の菲薄化あり,左室後壁,下壁,心尖部に
低減と薬剤副作用からのback upを目的にペース
40歳以下では77.1%,45歳以下では64.7%,50歳
網目状の発達した肉柱を認め,肉柱間隙に流入す
メーカーによる治療を選択した.しかしペースメ
る血流を確認し,孤立性左室心筋緻密化障害
以下では53.1%と若年者であるほどMetabolic
ーカー単独では圧較差の低減は認めなかった.そ
(IVNC)と診断した.心臓カテーテル検査では
syndromeの合併が多かった.2.Metabolic synこでジソピラマイド静脈注射を試みたところ,
冠動脈狭窄を認めなかった.入院中はカルペリチ
dromeの診断基準項目の合併数も若年者であるほ
18mmHgまでの圧較差の著明な低減を示した.そ
ドが著効し,利尿剤,ARBの内服で症状は安定
ど多かった.【総括】若年性心筋梗塞にMetabolic
の後,ジソピラマイド,βブロッカーの内服にて
した.抗凝固剤,β遮断薬を導入し退院となった.
syndromeが高頻度に合併しており,そのコント
経過良好である.PTSMA後,ペースメーカーと
IVNCは未分類の心筋症で,成人例の報告が増え
ロールが重要と考えられた.
内服によって治療し得たHOCMの一例を経験し
ており,稀だが予後不良なため早期診断が重要で
ある.文献的考察を加え報告する.
たのでここに報告する.
症例は22歳男性.生後より貧血指摘されたが,7
歳時に初めて先天性赤芽球癆<Diamond-Blackfan
症候群>と診断された.以降当院小児科で治療抵
抗性のため,頻回の輸血を要していた.今回下痢
症状および労作時呼吸困難を出じたため当院受診
し,胸部単純写真にて心不全の診断で当科入院と
なった.消化器症状は感染性腸炎と診断し抗生剤
にて軽快,心不全は酸素投与にて改善した.心臓
超音波検査では左室壁運動のびまん性低下,また
胸部CTでは心筋への鉄沈着が示唆されるびまん
性の高吸収像を認めたため,心ヘモクロマトーシ
スと判断した.以上より先行感染をきっかけとし
増悪した心不全の原因として,先天性赤芽球癆に
よる心ヘモクロマトーシスが考えられた一症例を
経験したため報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は61歳の男性.平成17年,肥大型心筋症
(HCM)を指摘され,他院で内服加療を受けてい
た.心エコー上,徐々に左室径が拡大し,拡張相
HCMと診断,左室駆出率の低下および,僧帽弁
閉鎖不全症を認め,心不全で入退院を繰り返すよ
うになった.平成17年4月21日,当院を紹介受診,
精査の結果,左室の前壁,中隔の壁運動,viability
の消失を認めた為,同年5月12日,左室形成術の1
法であるseptal-anteriol ventricular exclusion
(SAVE)の適応し,僧帽弁輪形成術と併施した.
拡張型心筋症に対する左室形成術の有効性は報告
されている一方,拡張相肥大型心筋症に対しての
報告はない.拡張相HCMに対する新たな外科的
治療の可能性を示す症例と考えられるので同様の
1例と併せて報告する.
105) Ebstein奇形を伴った拡張型心筋症の1例
(国立病院横浜医療センター循環器内科)
加藤丈二・青崎正彦・田中直秀・岩出和徳・
巽 藤緒・米村文雄
(同統括診療部) 渡辺 勝
(同臨床検査科) 新野 史
(東京女子医科大学循環器内科) 宇都健太
Ebstein奇形を伴った拡張型心筋症患者の死亡例
を経験し,病理解剖所見から考察した.症例は51
歳男性.20歳から心電図異常を指摘され,数回の
動悸を自覚.1993年(38歳)心拡大を指摘され,
同年意識消失にて入院.軽度肺うっ血と持続性心
室頻拍症(VT)が判明し,両心室の拡大・収縮
低下とEbstein奇形,三尖弁閉鎖不全を認めた.
VTに対しAmiodarone内服と1999年植え込み型除
細動器を植込み,心不全に対しCarvedilol・利尿
剤を投与.2005年8月腹水を認め入院し,腸閉塞
を併発し死亡.病理解剖の結果,右心室筋の脂肪
変性を認め,三尖弁付着部は脂肪組織であった.
1999年右心室筋生検から拡張型心筋症と診断した
が,Ebstein奇形を伴った病態に関して組織学的
に考察した.
日本大学会館(2006 年 2 月)
1147
106) 有茎性の左室内血栓に高用量経静脈ヘパリ
ンが著効した一例
(日本医科大学千葉北総病院循環器センター)
西城由之・木股仲恒・山本真功・富田和憲・
小川 紅・村上大介・田近研一郎・徳山権一・
稲見茂信・清宮康嗣・高野雅充・大野則彦・
大場崇芳・野村敦宣・奥村 敏・水野杏一
症例は60歳男性.平成17年7月16日より前胸部圧
迫感,呼吸困難が出現し当院受診.経胸壁心臓超
音波にて心機能低下,左室拡大,前壁-中隔領域
の壁運動低下と同部位に付着する1.4×2.3cmの可
動性を有する有茎性の構造物を認めたため緊急入
院.CT,MRI等より左室内血栓が疑われ,外科的
血栓除去術を検討したが,本人が血栓溶解療法を
希望したためヘパリン投与を3万単位/日で開始し
た.超音波にて経過観察を行ったところ血栓は
徐々に縮小し,投与開始から27日後に施行した超
音波では血栓の完全な消失を認めた.経過中,塞
栓症などの重篤な合併症は認めなかった.冠動脈
造影にて有意な狭窄病変を認めないことより,原
疾患としては拡張型心筋症が考えられた.左室内
血栓の治療法を考慮する上で示唆に富む症例であ
った.
1148
第 199 回関東甲信越地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
第 88 回 日 本 循 環 器 学 会 中 国 ・ 四 国 合 同 地 方 会
2006 年 6 月 2 ・ 3 日 岡山コンベンションセンター
会長:光 藤 和 明(倉敷中央病院循環器内科)
1) 高Lp
(a)
血症の冠動脈疾患患者はanti-metabolic
syndromeの臨床的背景をもちながら冠動脈病変は
重症である
(山陰労災病院循環器科) 笠原 尚・
遠藤 哲・尾崎就一・太田原顕
【背景】われわれはリポプロテイン(a)[Lp( a)]
はインスリン(IRI)と負の相関関係があり,冠
動脈多枝疾患患者で高値であることを示してき
た.【目的】高Lp( a)血症を合併する冠動脈疾患
患者の臨床的特徴を検討すること.【対象】CAG
を受けた男性非糖尿病患者の460例(平均66.3±
11.3才,正常群75例,病変群385例).【方法】病
変群をLp(a)値により高値群(≧30mg),低値群
(<30mg)の2群に分類し臨床的特徴を比較検討
した.【結果】Lp(a),IRIは病変群で正常群に比
し高値であった.Lp(a)の高値群では低値群に比
しBMI,TG,FBS,IRI,HOMA-R,高血圧症合
併率が低値,またHDL-Cは高値でありながら,
冠動脈の平均病変枝数は高い値を示した.【総括】
高Lp( a)血症を合併する冠動脈疾患患者はantimetabolic syndromeの臨床的背景をもちながら冠
動脈病変は重症である.
2) 急性心筋梗塞入院時のPUFAs n6/n3比は,慢
性期の予後に関連する
(三豊総合病院循環器科) 上枝正幸・
道明武範・高石篤志・大西伸彦・岡田知明・
関本員裕・今井正信
3) 当院における心筋トロポニンT検出用試験紙
(トロップTセンシティブ)の有用性
(健康保険鳴門病院) 廣野 明・山口普史・
高森信行・田村克也
【目的】トロップTセンシティブ(以下トロップT)
は急性冠症候群(以下ACS)の診断補助として
広く利用されている.今回我々はトロップTの成
績を検証したので以下に報告する.【対象】当院
でトロップTを測定後に冠動脈造影で冠疾患を鑑
別しえた180例【成績】検査感度は36%,特異度
は92%であった.経時的成績は0∼4時間で感度
21%,特異度84%,4∼12時間で感度55%,特異
度93%であった.ACS症例のトロップT陽性群と
陰性群の比較では病院までの時間,CK,Cre,
BNPに有意差を認めた.非ACS症例のトロップT
陽性群と陰性群の比較では年齢,CK,max CK,
来院時血糖,CRP,BNPに有意差を認めた.【結
論】トロップTはACS発症早期の感度においてや
や難があったが,特異度において優れており初期
診断に有用である事が確認できた.
4) 当院でのACS診断におけるH-FABP測定(ラ
ピチェック®)についての検討
(香川県立中央病院循環器科) 廣田 稔・
野上邦夫・上杉忠久・大西弘倫・武田 光
(岡山大学分子医化学) 廣畑 聡
5) 早期二型糖尿病において血管新生因子は相乗
作用により狭小毛細血管数を増大させる
(岡山大学システム循環生理学) 上月久治・
藤野英己・廣田真規・梶谷昌史・森本太郎・
宮坂武寛・毛利 聡・清水壽一郎・成瀬恵治・
梶谷文彦
糖尿病性の細小血管障害は初期の段階に起こりう
る可能性が指摘されている.我々は血管新生因子
が内腔の狭小な毛細血管の数を増大させるため,
赤血球の流れる毛細血管の動員が障害されるとす
る仮説を提唱している.この仮説を検討するため,
今回,赤血球速度を生体顕微鏡で観察測定し,毛
細血管三次元ネットワーク構造を共焦点顕微鏡に
より構築した.VEGFなど血管新生因子はリアル
タイムPCR,ELISAにより測定した.【結果】
VEGF-Angiopoietin系とそれらの受容体発現が増
大し相乗作用により血管新生が起こり,内腔の狭
小な毛細血管の割合が有意に増大し,赤血球速度
の増大を来すことが示唆された.
6) 当院におけるCypherステント使用症例の検討
(心臓病センター榊原病院循環器内科)
難波経立・村上正明・河合勇介・田原達哉・
吉野智亮・川村比呂志・廣畑 敦・雪入一志・
山地博介・村上 充・難波宏文・山本桂三・
日名一誠・喜多利正
【目的】ACS診断に用いる体外診断用医薬品H【背景および目的】我々は,急性心筋梗塞入院患
FABP測定(ラピチェック ® )の有用性を検討す 【目的】当院におけるCypherステントの使用状況
者の冠動脈プラーク量・状態とPUFAs n6/n3比
が良く相関することを報告してきた.今回,この
ること.【対象及び方法】平成16年11月∼平成17
と再狭窄例について検討する.【対象】2004年6月
比が慢性期の予後に影響しているかどうかを検討
年11月まで,胸部症状を主訴に当院外来を受診し
から2006年3月までに当院でCypherステントを植
した.【方法】129例の急性心筋梗塞連続症例にお
ラピチェックを施行,さらにその後2日以内に冠
え込まれた狭心症および急性心筋梗塞590症例
いて,入院時採血で古典的冠動脈危険因子および
動脈造影を施行した連続68症例.【結果】全68例
(うちFollow up 231症例).【結果】男性470症例
脂肪酸4分画(DGLA,AA,EPA,DHA)を測定,
中陽性45例,陰性23例.陽性例中27例(60.0%), (79.6%),平均年齢67.3±9.7歳,対象病変LMT
それらの値と外来経過中の死亡・心不全入院・狭
陰性例中9例(39.1%)において,冠動脈造影上
19症例,LAD 329症例,LCx 133症例,RCA 185
心症再発・PCIなどのMACE発生を検討した. 責任病変を認めた.AMI症例(32例)において
症例,平均ステント径 2.96±0.40mm,平均ステ
【結果】平均559±380日の経過観察でMACE発生
その感度は80.6%.偽陰性は6例(18.8%)に認め
ント長 22.05±4.62mm,手技成功率は98.9%.
は,AA/EPA比が<2,2∼3,3<の3群で,それ
全て発症2時間以内であった.U-AP症例における
TLRは3例(1.3%)であった.【結論】当院での
ぞれ35,36,57%の発生率となり,比が3以上の
感度は42.9%であった.本検査はその簡便さと検
TLRは1.3%(3/231症例)とCypherステントの成
群で有意に高率にMACEが発生していた.
【結語】
出感度からACS診断において汎用されているが,
績は良好であった.TLR例については若干の考察
PUFAs n6/n3比は,慢性期予後に影響すること
AMI症例での偽陰性やU-AP症例における感度に
を加え報告する.
が示唆された.
ついての検討の報告は少なく,今回我々はそれら
を中心として本検査の有用性について検討したの
で報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1149
7) 当院での待期的PCIにおけるBMS使用の傾向
(倉敷中央病院循環器内科) 宮地 剛・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・羽原誠二・
中村幸伸・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
10) 急性心筋梗塞および急性冠症候群に対する
Sirolimus-eluting stents植え込みの安全性および
有効性
(心臓病センター榊原病院循環器内科)
廣畑 敦・山本桂三・村上正明・山地博介・
難波宏文・雪入一志・川村比呂志・清水明徳・
難波経立・河合勇介・田原達哉・村上 充・
吉野智亮・喜多利正・日名一誠
13) 当院におけるCypher stentの初期および中
期治療成績の検討
(住友別子病院循環器科) 土井正行・
上川 滋・幡中邦彦
8) 何が何でも,DESか? −Cypherステント
の1年間の成績−
(広島市民病院循環器科) 井上一郎・
河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・栗栖 智・
山本佳征・端 孝樹・中間泰晴・木島康文・
香川英介
11) 当院におけるCypherステントの初期および
中期成績
(総合病院岡山赤十字病院循環器科)
吉岡 亮・福家聡一郎・小畠廉平・角南春樹・
川本健治・齋藤博則・佐藤哲也・前川清明・
飛岡 徹
14) 当院におけるCypherステントの使用経験
−遠隔期再狭窄症例の検討−
(福山市民病院循環器科) 河相晴朗・
中濱 一・橋本克史・高村俊行・上田敏行・
岡 岳文・山田信行
【目的】Cypher stent(SES)の初期および中期治
療成績について検討する.【対象と方法】2004年
8月から2006年1月までに当院にてSES留置を試
みた97症例105病変を対象に初期成功率,病変形
【方法】2004年8月から2005年12月までに当院で行
【目的】急性心筋梗塞(AMI)および急性冠症候群
態,および再狭窄率について検討した.【成績】
った冠動脈ステント留置2591病変のうちBMSを使
(ACS)に対してのSirolimus-eluting stents(SES)
留置の安全性および有効性を検討した.【方法】
全症例中,急性冠症候群は24症例28病変(27%)
用した530病変(20.0%)においてその傾向を検
2005年10月∼2006年2月に緊急PCI(stent)を施
であった.石灰化の強い回旋枝屈曲1病変に対し
討した.【結果】DES留置が望ましくないと判断
行したAMIおよびACS患者連続45症例にSES留置
てSES不通過であった.対象血管は,前下降枝47
した分岐部病変232病変(9.0%)
,DESの指摘サイ
を施行.対照群として同年5月∼9月にBare metal
病変,回旋枝25病変,右冠動脈32病変であった.
ズのない対象血管径4.5mm以上73病変(2.8%),
stent(BMS)を留置したAMIおよびACS患者(連
病変形態は,AHA/ACC分類でtypeA 6病変,B1
2.25mm未満114病変(4.4%),術前のため抗血小
続46症例)と手技および院内合併症について比較
27病変,B2 41病変,C 30病変であった.1病変
板薬の長期服用が困難であった症例48病変(1.9%)
,
した.【結果】患者背景,手技成功率,使用デバ
イス,使用stent数,stent長,カテ後Max CK値は
当りの使用本数は1.27本,ステント平均径2.98mm,
病変をDESが通過しなかったためBMSを留置した
両群間で同等であった.前拡張バルーンサイズは
平均長19.7mm,平均拡張圧17.4気圧であった.
症例11病変(0.4%)であった.また52病変(2.0%)
SES使用群が小さく,最高拡張圧はSES群が高か
2006年2月の時点で61病変(59%)に対し6ヵ月後
にBMSとDESのhybrid stentを行った.【結語】
った.院内死亡率,入院中の再インターベンショ
の確認造影を施行し,再狭窄率4.9%(3/61),
DES留置は約19%の症例には種々の理由で不適で
ン 施 行 率 に は 両 群 間 で差はなかった.【結論】
TLR6.6%(4/61)であった.
あった.今後DESの更なる改良が期待される.
AMIおよびACSに対してのSES留置は手技成功率,
院内合併症率においてBMS留置と同様に有効で
あった.
【目的】基本的にPCI症例全例にCypherステント
を留置する戦略で望んだ1年間の成績を検討し,
今後のPCIの参考にする.【成績】758病変にPCI
を施行し,720病変にCypherステント留置可能で
あった(全病変の95%).SATは0.2%,再狭窄率
は4%と,BMS時代の0.6%と21%に比し,低値で
あった.3回以上PCIをうける症例はBMS時代の
2.2%から0.1%へと減少した.【結論】基本的に
PCI症例全例にCypherステントを留置する戦略は
受容できる戦略であると考えられた.
9) 当院における高齢者に対するシロリムス溶出
ステント(SES)を用いた冠動脈インターベン
ションの検討
(国立病院機構岡山医療センター循環器科)
宗政 充・藤本良久・池田悦子・旦 一宏・
赤木 達・徳永尚登・久松研一・宮地克維・
松原広己・三河内弘
【目的】Cypherステント(SES)の遠隔期再狭窄
【目的】当院におけるCypherステントの初期およ
(ISR)の原因を検討した.
【方法】2004年8月から
び中期治療成績について検討する.【方法】2004
2005年12月までにSESを留置し,8ヵ月後にCAG
年8月から2005年8月までにCypherステント留置を
を行った115病変を対象とし,CAGとIVUSでISR
行った118例(平均69歳),144病変について初期
の原因を検討した.【成績】再狭窄率は6.1%(7
および中期のQCAを解析し,再狭窄率およびTLR
病変)で,SESは全て2.5mm径で,4病変は2個以
について検討を行った.【結果】AMI/UAP/AP
上使用した.全てfocalISR(1B3病変,1C3病変,
1/24/119,対象血管はLM/LAD/LCX/RCA/HL
1D1病変)で,1Bはgeographic miss,1Cは1病変
4/66/28/44/1,病変形態はA/B1/B2/C 12/35/43/53
がstent under-expansion,2病変がstent fracture,
であった.pre RD 2.17±0.51mm,pre MLD 0.85±
1Dはgeographic missとunder-expansionが原因で
0.38mm,post MLD 2.13±0.43mmであった.ステ
あった.6病変は再治療を必要とし(5.2%),5病
ント平均長は28.8±14.5mm,平均径2.91±0.40mm
変はSESの再留置,1病変はPOBAを行った.【結
であった.初期成功は94%であった.144病変の
論】SESのISRは,留置手技に起因するものと,
うち,99病変に対し6ヵ月後の確認造影を施行し
stent fractureを来たすような解剖学的な要因によ
た.late lossは0.27±0.42mm,再狭窄率11.1%, るものがあり,至的な再治療法は今後症例を蓄積
TLR 9.1%,6ヶ月MACEは3例であった.【結論】 して検討していく必要があると考えられた.
当院でのCypherステントの成績は良好であった.
12) SES(sirolimus eluting stent)の再狭窄に
ついての検討
(倉敷中央病院循環器内科) 大鶴 優・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・羽原誠二・
中村幸伸・宮地 剛・山田千夏・岡本陽地
【目的】冠動脈インターベンションの検討が少な
い80歳以上の高齢者を対象にしたSES(CypherTM) 【背景と目的】SESの遠隔期再狭窄率は,リアルワ
ールドで適応が拡大するにつれ高くなっている.
の初期成績を検討する.【方法】2004年8月から
2005年12月までの間にSES留置を行ったPCI連続
当院でのSESの再狭窄率を検討した.
【方法】2002
年11月より2005年1月までに当院でSES留置した
86症例,90病変について検討した.【結果】平均
症例で,6-8ヵ月後に冠動脈造影施行した435症例,
年齢83.1歳,男性が52症例,ACS症例は6症例で
648病変について,再狭窄率を検討した.【結果】
使用ステントの平均ステント径は3.2mm,平均ス
糖尿病(14.8% vs 7.7%;P<0.01),維持透析
テント長は22.2mm,標的血管は左冠動脈前下行
枝31病変,左冠動脈回旋枝24病変,右冠動脈29病 (37.5% vs 9.4%;P<0.0001)で有意に再狭窄率が
高かった.分岐部,入口部では有意差認めなかっ
変,左冠動脈主幹部3病変,大伏在静脈グラフト3
た.しかし,RCA,CXの入口部は高い再狭窄率を
病変であった.初期成功率は100%で,院内死亡
認めた.ISRでも高い再狭窄率を認めた(18.5%
が2症例(死因は腎不全と肺炎),院外突然死1症
vs 7.5%;P<0.0001).【結語】SESの再狭窄予測
例を認めた.【結語】高齢者に対するSESを用い
因子として,糖尿病・維持透析・RCA/CXの入口
た冠動脈インターベンションの初期成績は良好で
部・ISR等が考えられる.
あった.
1150
第 88 回中国・四国合同地方会
15) 当院における薬剤溶出ステント(DES)再
狭窄の検討
(近森病院) 要 致嘉・川井和哉・
今井龍一郎・磯谷彰宏・小川雅史・高橋聡介・
中岡洋子・關 秀一・窪川渉一・深谷眞彦・
浜重直久
【背景】DESによりPCI後の再狭窄は減少し,当
院でもその使用頻度は増加傾向を認めている.
【目的】当院におけるDES再狭窄例を検討する.
【方法】2004年9月から2006年2月まで,待期的
PCIにてDESを挿入した359例392病変から,follow
up CAG(164例)にてステント閉塞・再狭窄を認
めた10例(狭窄率6.1%)を検討した.【結果】10
例の内訳は,10例中8例に糖尿病・高血圧を認め
た.3例は慢性腎不全にて維持透析中で,3例はロ
ーターブレターによる前処置を要した.1例は透
析かつロータを要した.他2例はRCA入口部ステ
ント再狭窄,1例はバイパスグラフト入口部ステ
ント再狭窄,1例はパナルジン休薬によるSAT症
例であった.【まとめ】当院におけるDES再狭窄
10例中8例に糖尿病・高血圧を認めた.6例に慢性
透析患者やロータブレターを要する強い石灰化病
変を認めた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) Cypherステントの中期成績
(松江赤十字病院循環器科) 加藤康子・
塩出宣雄・城田欣也・石井裕繁・後藤賢治・
末成和義・西楽顕典・三上慎祐
19) 左主幹部病変へのCypherステントの使用
成績
(松江赤十字病院循環器科) 加藤康子・
塩出宣雄・城田欣也・石井裕繁・後藤賢治・
末成和義・西楽顕典・三上慎祐
22) 当院でのDES時代における慢性完全閉塞に
対する経皮的冠動脈形成術の初期及び慢性期成績
(国立岩国医療センター循環器科)
湯本晃久・河野晋久・高橋夏来・佐藤慎二・
片山祐介・田中屋真智子・白木照夫・斉藤大治
【目的】Cypherステントの中期(6−12ヵ月)成績
を検討すること.【方法】2005年12月までに,当
【目的】左主幹部病変へのCypherステントを用い
【背景】DESの使用にて慢性完全閉塞(CTO)に
科にてCypherステント留置した396例,623病変に
た治療成績をbaremetal(BMS)ステントでの成
おける再狭窄率は減少し,その有用性が示されて
きている.そこで当院でもCTOをPCIの対象病変
つき確認造影での再狭窄率,MACEを検討した.
績と比較検討すること.【方法】当科にて左主幹
として治療を行った.【対象と方法】H17年4月か
【結果】Cypherステント全体の再狭窄率は6.5%
部にCypherステントを用いた38症例(平均年齢
らH18年2月まで当院でPCIを行ったCTO病変,連
(フォローアップ率59.8%)であった.2.5mm未
73.2歳)において6−12ヶ月後の再狭窄率をBMS
満,2.5mm以上3.0mm未満,3.0mm以上の血管径
にて治療した46症例(70.1歳)と比較検討した. 続28症例の治療成績を検討.【結果】患者背景は
年齢74±7.9歳,男性78%.ガイドワイヤー通過
別の再狭窄率は,それぞれ7.1%,8.4%,1.4%で
【結果】Cypher症例においては急性期,慢性期と
率93%,手技成功率は78%であり20例にCypher
あった.ただし,透析症例8病変中4病変にて再狭
もに,重大心血管合併症は認めなかった.フォロ
stentを留置.ステントは2.8±1.0本,総ステント
窄を認めた.ステント血栓症は2病変(0.54%) ーCAG施行した23例中2例に再狭窄(8.7%)を認
長72±31mmであり,総透視時間71±33分,造影
に認めた.【結論】Cypherステントの中期成績は
めた.いずれもFocal病変であり再度PCIにて治
剤使用量227±44mlであった.合併症は11%で発
良好であったが,透析症例では他の症例ほどの再
療可能であった(TLR8.7%).BMSでは再狭窄率
生した.Follow up CAGを施行し得た6例に再狭窄
狭窄抑制効果が認められない可能性が示唆され
47.2%,TLR36.1%であった.【結語】Cypherス
は認めなかった.【結語】当院でのCTO病変への
た.
テントの左主幹部への治療成績はBMSと比較し
治療成績はおおむね良好であった.合併症の発生
良好であった.
があり手技向上の必要があった.観察期間内で
Cypher stentの慢性期成績は良好であった.
17) 左主幹部分岐部病変に対するCypher stent
を用いたT-stentingの遠隔期成績についての検討
(倉敷中央病院循環器内科) 前川潤平・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
20) 左主幹部病変に対するBioMatrixTM stentの
初期成績
(倉敷中央病院循環器内科) 山本浩之・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・福 康志・竹中 創・
廣野明寿・田中裕之・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【目的】左主幹部分岐部病変に対するCypher stent 【背景】左主幹部病変に対するBMSによるPCIの
を用いたT-stenting(provisional & modified T)
長期成績は十分に満足できるものでなく,薬剤溶
の遠隔期成績を検討すること.【対象・方法】当
出性ステントに期待がもたれる.【目的】左主幹
科において2004年8月から2005年8月までの間に上
部病変に対する薬剤溶出性ステントである
BioMatrixTM stentの有効性を検討する.【方法と
記の方法でステントを留置した16症例を対象と
結果】2005.2.25から2006.3.8までに左主幹部に
し,遠隔期の再狭窄率,TLR率に関して検討を行
BiomatrixTM stentを留置した48例を,3∼8ヶ月後
った.【結果】再狭窄率は43.8%(7/16),TLR率
に経過観察した.Stent留置法はStent KBTが35
は37.5%(6/16)であった.左主幹部(LMT)及
例,Y stentが10例,Hybrid Y stentが2例,T
び左前下行枝(LAD)に再狭窄を認めず,再狭窄
部位はすべて左回旋枝(LCx)入口部であった. stent 1例であった.手技成功は47/48(97.9%)
であった.In-hospital MACCEは,0/48であった.
【結語】左主幹部分岐部病変に対してCypher stent
を用いたT-stentingを行った場合においてLCx入 【結語】左主幹部病変に対するBioMatrixTM stent
の初期成績は良好であった.
口部の再狭窄率は高く,特異な再狭窄形態を示し
た.
18) 左主幹部ステント内再狭窄による超高齢者
急性冠症候群に対する薬剤溶出性ステント(DES)
による治療経験
(労働者健康福祉機構愛媛労災病院循環器科)
見上俊輔・佐藤 晃・原田 希・吉野敬子
(同心臓血管外科) 林 雅規・友澤尚文
症例は88歳男性.2001年より 糖尿病,2003年よ
り 高血圧,狭心症,慢性腎不全,下肢閉塞性動
脈硬化症のため加療中.2005年4月13日左主幹部
病変を責任冠動脈とする急性心筋梗塞,心源性シ
ョック,肺水腫のため緊急入院.気管内挿管,
PTA後,左主幹部病変に対してBMS(Bare metal
stent)を用いたStent KBTにてPCIを行った.経
過は良好で同年5月28日軽快退院となったが,6月
22日不安定狭心症,急性左心不全のため再入院.
6月28日再冠動脈造影にて左主幹部体部,分岐部
のステント内再狭窄を認めた.引き続き同部位に
対しDESを用いてModified T stentによるStent in
stentを行なった.再PCI後の経過は良好で現在ま
で狭心症及び心不全の再発は認めていない.今回
DESを用いた超高齢者の左主幹部ステント内再
狭窄に対する治療を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
21) 左主幹部病変を合併した14歳男性の大動脈
炎症候群の1例
(国立病院機構善通寺病院循環器科・臨床研究部)
若山克則・酒部宏一・森下智文・篠原尚典・
福田信夫・田村禎通
(同心臓血管外科) 藤本鋭貴・下江安司・
金香充範
症例は14歳男性.H17年7月に他院を受診し,上
下肢の血圧差,血管雑音,高血圧を認めた.血管
造影検査にて,1)左総頚動脈の閉塞,左鎖骨下動
脈の狭窄,2)左右腎動脈の高度狭窄,3)左冠動脈
主幹部狭窄を認め,大動脈炎症候群と診断された.
左右腎動脈はバルーン拡張術にて急性閉塞をきた
し,ステント留置で改善した.その後,左主幹部
病変に対するバイパス手術(CABG)目的に当院
紹介されたが,CRP 5.6であり,まずステロイド
療法により炎症の鎮静化を行った.H17年11月と
H18年2月の冠動脈造影では左主幹部75%狭窄を
認めているが,CABGは行わず経過観察中である.
大動脈炎症候群は大多数が女性に発症するが,今
回10歳代男性にみられた大動脈炎症候群の一例を
経験したので報告する.
23) 慢性完全閉塞病変に対する経皮的冠動脈形
成術の方針決定にMDCTが有効であった1例
(愛媛大学病態情報内科学) 大木元明義・
岡山英樹・大塚知明・倉田 聖・吉井豊史・
大下 晃・齋藤 実・上谷晃由・檜垣實男
症例は69歳の男性.CCS分類III度の狭心症のため
入院した.冠動脈造影で左前下行枝seg 7で完全閉
塞,右冠動脈から左前下行枝に側副血行路を認め
た.後日,seg 7の慢性完全閉塞(CTO)部位に対
して経皮的冠動脈形成術を施行した.冠動脈造影
上はエントリー部位が不明瞭であったが,あらか
じめMDCTで冠動脈の走行を評価できていたため,
stiffワイヤー(Conquest Pro)を安全に使用する
ことができた.ワイヤー通過後はステントを留置
し,血行再建術に成功した.今回,CTO病変に対
する経皮的冠動脈形成術の方針決定また治療時に
MDCTが有効であった1例を経験したので,文献
的考察を加えて報告する.
24) CTO穿通用ガイドワイヤー(Conquest Pro
8-20TM)の使用経験について
(倉敷中央病院循環器内科) 田中裕之・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【目的】CTOに対するPCIでConquest Pro 8-20TM
を使用し検討を行った.【方法,結果】2005年5月
から2006年2月のCTO病変へのPCI施行例で,い
ずれもConquest Pro 12TMで穿通できなかった病変
に対しConquest Pro 8-20TMを25例25病変に対して
使用した.手技成功は25例中6例でMACEはなく
Conquest Pro 8-20TMの手技に関連した不都合な事
象として血管外へのガイドワイヤーの穿通を5例
認め,2例にプロタミンの中和で軽快した
extravasationを認めた.【結語】Conquest Pro
8-20TMはこれまでのガイドワイヤーでは穿通でき
なかった病変の通過に成功しておりPCIの手技成
功率の向上につながると期待される.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1151
25) CTO病変に対するRetrograde approachの
検討
(倉敷中央病院循環器内科) 田中裕之・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【目的】CTOに対するPCIでRetrograde approach
を行いその検討を行った.【方法,結果】2005年
10月から2006年2月のCTO病変へのPCI施行例71
例72病変のうち,26例27病変に対してRetrograde
approachを行った.14病変は側副血行路を介し病
変までガイドワイヤーが到達し,このうち10病変
(71.4%)で手技成功した.残る13病変は病変ま
でガイドワイヤーが到達しなかった.合併症は,
側副血行路のextravasationを1例,対側冠動脈損
傷にともなうAMIを1例認めた.【結語】CTO病
変に対する新たな治療戦略となるRetrograde
approachは,PCIの手技成功率の向上につながる
と期待される.
28) 女性における急性心筋梗塞治療の変遷と治
療成績 −高知AMI研究会登録調査より−
(高知大学老年病科・循環器科)
田村親史郎・高田 淳
(近森病院循環器科) 川井和哉・浜重直久
(高知医療センター循環器科) 西村直己・
大脇 嶺
(高知赤十字病院循環器科) 西野 潔
(幡多けんみん病院循環器科) 古野貴志
(高知大学老年病科・循環器科) 矢部敏和
(同態情報診断学) 杉浦哲朗
(同老年病科・循環器科) 土居義典
【背景】女性は男性よりも急性心筋梗塞の再灌流療法施
行率が低く,院内死亡率も高い.しかし近年,治療法
の進歩に伴い治療成績の向上が期待される.【方法】
1992年-2004年の登録例2433例のうちの女性758名,73±
10歳について3期に分けて急性期治療,院内死亡率の
変遷を検討した.
【結果】年齢:男性は変化がなかった
が,女性は前期72.6から後期74.4に高齢化した(p=0.04)
.
再灌流療法施行率:若年者および前期高齢者で男性よ
り低率だが,女性全体では前期45%から後期67%へ増加
した(p<0.001)
.院内死亡率:全体に男性より高率だ
が,前期21%から後期15%に減少し,特に後期高齢者で
の改善は顕著であった(前期31%,後期22%)
.
【結論】
男性より高齢化が目立つ女性においても,急性期の再
灌流療法により,治療成績は明らかに向上している.
26) CTO病変に対するELCA 0.9mmの有用性
(倉敷中央病院循環器内科) 山田千夏・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・羽原誠二・
中村幸伸・宮地 剛・岡本陽地・大鶴 優
29) 当院における超高齢者AMI患者のPCI症例
における現状と問題点
(津山中央病院循環器科) 太田 茂・
尾上 豪・清藤哲司・俣野 茂・小松原一正
27) 急性心筋梗塞再灌流後において来院時クレ
アチニン正常高値は炎症マーカーの上昇と心機能
不良を予測する
(徳島県立中央病院循環器科) 奥村宇信・
藤永裕之・斎藤彰浩・蔭山徳人・原田顕治・
井内貴彦・山本 隆・河原啓治
30) ACSからACSへ
(年齢別の再発時期の検討)
(松江赤十字病院循環器科) 後藤賢治・
塩出宣雄・城田欣也・西楽顕典・三上慎祐
当院での超高齢者心筋梗塞(AMI)患者の経皮
的冠動脈インターベンション(PCI)症例におけ
る現状と問題点を検討した.平成17年1月1日から
12月31日までの急性冠症候患者の中で緊急PCIを
【目的】慢性完全閉塞病変(CTO)の冠動脈形成
施行された65例を80歳以上のAMI症例群(超高
術(PCI)におけるエキシマレーザー0.9mmの使
齢者群n=17)と80歳未満のAMI患者(非超高齢
用成績について検討する.【方法】CTOでガイド
者群n=48)に,さらに超高齢者群を生存症例
ワイヤー通過後バルーン不通過であった58症例60
病変に対し,エキシマレーザー0.9mmを用いPCI (n=12)と死亡症例(n=5)とに分け両群間で患
者背景や死亡率などについて比較検討した.超高
を行った.【成績】55病変(91.6%)で至適サイ
ズのバルーン,ステントを留置することができた. 齢者群は非超高齢者群に比し,罹患枝数,陳旧性
心筋梗塞の既往が有意に多かった.超高齢者群で
PCIの合併症として,冠動脈解離,側枝閉塞,う
は救命し得えても,退院時寝たきり率は36.4%で
っ血性心不全,急性腎不全を1例ずつ,slow/no
あり高齢者治療の困難さを示していると考えられ
flowを2例に認めたが,レーザー使用による合併
た.生存症例と死亡症例の検討では,陳旧性心筋
症は認めなかった.【結論】エキシマレーザーは
梗塞の合併と罹患枝数が予後についての重要な要
ガイドワイヤー通過後のバルーン不通過CTOの
因となると考えられた.
PCIにおいて,安全,且つ効果的であると考えら
れた.
31) IABPを併用しPCIを施行した急性心筋梗塞
症例に於る院内死亡率および左心機能の検討
(あかね会土谷総合病院循環器内科)
新居田登三治・作間忠道・徳山丈仁・
岡 俊治・岡田武規・大塚雅也・豊福 守・
平尾秀和・村岡裕司・上田浩徳・正岡佳子・
林 康彦
2000.4-2006.2に,IABPを挿入したAMI連続65例
について,PCI後の院内死亡率,左心機能を検討
した.65例中,来院時心原性ショック32例の院内
死亡率は53%と高率であった.一方,非ショック
33例の梗塞責任病変はLMT3例,LAD近位部25
例,その他5例で,院内死亡率は6%であった.
非ショック前壁梗塞25症例の内訳は,PCI前に
IABPを挿入した17例,PCI中もしくは後に挿入
した8例で,前者の院内死亡率は0%,後者は
13%であった.回復期左室駆出率の平均値は各々,
48%,38%(p=0.11)と前者で良好な傾向であ
った.以上より,非ショック前壁梗塞でも,PCI
前からIABPサポートを行うことが,心機能保持,
予後改善のために重要な治療戦略と成りうる可能
性が示唆された.
32) 発症6ヶ月後に開始した薬物治療により
“blue toe”が改善したコレステロール結晶塞栓症
の1例
(市立八幡浜総合病院内科) 高橋光司・
岩田 猛・上村重喜・溝渕剛士
症例は65歳,男性.左回旋枝を責任血管とする急
性心筋梗塞に対して当院で緊急冠動脈形成術
(PCI)を施行し,さらにその6ヶ月後には右冠動
脈にPCIを行った.その後は近医でfollow-upされ
ていた.2回目のPCI後,数日してから足趾のチ
アノーゼが出現し,次第に痛みを伴うようになっ
た.近くの皮膚科や血管外科を受診し,プロスタ
グランジン製剤を静注され,また抗凝固療法を開
始されたが,“blue toe”は良くならず,腎機能が
徐々に悪化した.発症後,約6ヶ月経って当院を
受診する.生検はしなかったが,病歴や症状,検
査所見(腎機能悪化,好酸球増多)などからコレ
ステロール結晶塞栓症と診断した.薬物治療を変
更したところ,腎機能に改善はないが,
“blue toe”
は明らかに良くなった.
33) カテーテル後止血デバイスに合併した大腿
動脈感染性仮性瘤の2例
(徳島大学病院循環機能制御外科)
来島敦史・浦田将久
(愛媛県立中央病院心臓血管外科) 黒部裕嗣
(徳島大学病院循環機能制御外科)
吉田 誉・加納正志・北市 隆・増田 裕・
北川哲也
【背景】ACS症例が数年後に再びACSを発症する
ことは稀ではなく,“Vulnerable patient”の予見
が試されている.今回われわれは,ACS後のイベ
【目的】来院時Cr正常範囲のAMI患者においてCr
ント(ACS,心臓突然死)発生について検討し
正常高値と炎症反応および慢性期左心機能との関
た.【方法と結果】2000年までに初回PCIを施行
連を検討した.【対象と方法】発症12時間以内に
した2031例のうち,ACS症例863例を対象とした. 【症例1】73歳,男性.近医にてPCI後の右大腿動
脈感染性仮性瘤破裂に対し人工血管置換術,縫工
再灌流に成功したAMI患者連続121症例を,Cr正
追跡期間(平均6.8±4.9年)中,初回治療部位以
常高値群(H群0.9mg/dl≦Cr<1.2mg/dl)と低値
外のACS発生を61例,治療部位のACS再発を10例, 筋移植術を施行された.高熱の持続と排膿を認め
るため当院搬送され閉鎖孔バイパス(大伏在静脈
群(L群Cr<0.9mg/dl)に分類し,来院時WBC,
心臓突然死を9例に認めた.1年以内の発生は5例
グラフト)を施行した.術後下肢虚血,感染の再
CK,退院時LVEFおよびBNPにつき検討した. (6%)であり,51例(64%)は5年後以降に発生し
発はなく術後44日目に転院した.【症例2】67歳,
【結果】WBC[H群10610±4928 vs L群9315±
ていた.60歳未満(n=220),70歳以上(n=361),
女性.冠動脈造影検査後の右大腿動脈感染性仮性
2315,p=0.06],CRP[H群2.1±4.3 vs L群0.8±
その中間年齢群(n=282)の3群に分けてKaplan瘤に対して動脈形成術(大伏在静脈パッチ)を施
1.8,p=0.02]はH群が有意に高値を認めた.退
Meier法でイベント発生を検討すると若年者ほど
行した.開創下に管理していたところ術後13日目
院時LVEF[H群51±7 vs L群57±11,p=0.03], 高率であった(Log-rank p<0.05).【結語】若年
に多量の出血あり緊急再手術(大腿外側を通した
BNP[H群307±315 vs L群173±207,p=0.02]
ACS症例に対する長期にわたる積極的な粥腫安定
大伏在静脈バイパス術)を施行した.術後一部開
はH群が不良であった.【総括】急性心筋梗塞患
治療の必要性が示唆された.
創下に管理中であるが下肢虚血,出血,感染徴候
者での来院時Crの正常高値は,炎症反応の上昇
はなく経過している.いずれの症例も止血デバイ
と関連し再灌流後の慢性期左心機能の不良を予測
スを用いており穿刺部腫脹,発熱時には感染性仮
すると考えられた.
性瘤を疑い早急に診断,加療を行う必要がある.
1152
第 88 回中国・四国合同地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) 造影剤の腎毒性に及ぼすアセチルシステイ
ンの効果:併用療法との比較検討
(県立広島病院循環器内科) 梶原賢太・
岡本光師・末田 隆・橋本正樹・藤井雄一・
槙田祐子・水津純江・岩本明倫
【目的】造影剤による腎機能障害の予防法の比較.
【方法】Cre1.2mg/dl以上で冠動脈造影を施行した
140名をアセチルシステイン(1200mg/day)を検
査日,前日に内服したA群(66名)
,アセチルシス
テインとドーパミン,透析,HANPのどれかを併
用したB群(45名),無処置のC群(29名)に分け
て検査前,24時間後,慢性期(2週間以降)のCre,
Ccrを測定した.
【結果】背景,造影剤量,輸液量
は3群間で有意差なく,検査前のCreはBはAとC
より有意に高値であった(P<0.05).CcrはBはC
より有意に低値であった(P<0.05).慢性期にC
はΔCreがBと比べ有意に上昇した(P<0.05).
ΔCcrはCでA,Bより有意に低下した(P<0.05).
A,B間に有意差はなかった.【結語】造影剤によ
る腎機能障害の予防に際し,アセチルシステイン
単剤と併用療法とで大きな差はなく,両者とも有
効であった.
35) Acetylcysteine vs. hemodialysis to Prevent
Contrast Agent Nephrotoxicity Following CAG
and PCI
(松江赤十字病院) 三上慎祐・塩出宣雄・
城田欣也・石井裕繁・末成和義・後藤賢治・
西楽顕典
We evaluated whether Acetylcysteine (NAC) or
hemodialysis (HD) prevents deterioration in renal
function in patients who underwent CAG. Eightyfour patients received oral NAC and Physiological
saline before and after CAG. These data were
compared with the data of patients who underwent HD after CAG (n=31) retrospectively. The
serum Creatinine (Cr) did not change significantly 24 h and 6 months in the HD group. In NAC
group, Cr decreased significantly 24 h after CAG
from 1.30±0.06 mg/dl at baseline to 1.09±0.09
mg/dl (p<0.01) and 6 months after CAG from
1.29±0.11 mg/dl at baseline to 1.16±0.14 mg/dl
(p<0.01). NAC prevents from contrast nephrotoxicity after CAG.
36) 7.5Frシースレスガイドカテーテルは結構,
役に立つ?
(広島市民病院循環器科) 井上一郎・
河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・栗栖 智・
山本佳征・端 孝樹・中間泰晴・木島康文・
香川英介
6Fr TRIでのPCIを予定した回旋枝#13に90%狭窄
を有する小柄な女性が症例である.ロータブレー
ター後にステント挿入を試みたが,Buddy wire
technique,5 in 6Fr technique,stent re-mount
techniqueいずれも回旋枝近位部を通過不能であ
った.そこで,6Frシースとほぼ同等の外径を有
する7.5Frシースレスガイドカテーテルを用いて,
sea-sow balloon techniqueにより,re-mountした
ステントが通過しステント植え込みに成功した.
7.5Frシースレスガイドカテーテルは結構,役に
立つと考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
37) 右冠動脈起始異常のPCIに難渋した1例
(鳥取県立中央病院循環器科) 那須博司・
吉田泰之・菅 敏光・遠藤昭博
【症例】78歳,女性【既往歴】多血小板血症,痴
呆,脳梗塞後遺症.【主訴】食思不振【現病歴】
平成17年12月23日朝より食思不振となった.担当
医の判断で当院救急外来受診となった.【院内経
過】心超音波臓検査では下壁のakinesisを認めた.
右冠動脈は左バルサルバ洞起始異常で,右冠動脈
の閉塞を確認した.6F, Amplatz1.0ではガイドワ
イヤーを挿入すると造影が困難となった.6F,
カテックス社製NX-BL4に変更して,PCIを施行し
た.Seg1:100%→0%とした.Tsunami2.5/20mm
を植え込んで造影も良好にできた.successful
PCIで終了した.【考案】このタイプの起始異常
には,バルサルバをまたいでなお余裕のある,カ
ーブが長くてしっかり押し付けられる6F, カテ
ックス社製NX-BL4が有用であった.
38) Pinhole rupture後にstent脱落をきたした1例
(鳥取赤十字病院循環器科) 森谷尚人・
縄田隆浩・小坂博基・野口法保・早野 護
症例は76歳男性.High lateral 99%に対してPCIを
施行した.Pre-dilatationののちbare metal stentの
留置を行ったが,inflation直後にpinhole rupture
をきたした.Buddy wireとstentがtrapされ,抜去
困難となった.Guiding cathe. が引き込まれない
ところまで引いて,buddy wireとともにstentを強
引に抜去したところ,テンションがとれたところ
でanchor wireとguiding cathe. がはねてstentが脱
落した.Stentはvalsalvaに落ち,snare wireにて回
収した.本例における問題点について考察する.
39) 待機的PCI施行中に左冠動脈主幹部閉塞を
呈した一例
(香川県立中央病院循環器科) 廣田 稔・
野上邦夫・上杉忠久・大西弘倫・武田 光
(岡山大学分子医化学) 廣畑 聡
症例は61歳男性.慢性腎不全にて週3回の維持透
析施行中の症例.平成17年11月26日胸痛を主訴に
当院受診.その2日後待機的に施行した冠動脈造
影にて回旋枝(#11)に90%狭窄を認めた.責任
病変と判断しPCI施行中,突然の胸苦・心電図上
広範囲なST変化を生じショック状態となり,造
影上左冠動脈主幹部に血栓性閉塞を認めた.一時
ペーシング及びIABP挿入下で前下行枝に対し血
栓吸引・POBA,回旋枝にPOBA・ステント留置
を行い血行動態は改善した.IVUS所見では前下
行枝に明かな病変はなく,翌日施行の確認造影所
見も良好.術後約10日間の経過観察後,退院とな
った.今回我々は,待機的PCI施行中に左冠動脈
主幹部の血栓性閉塞を来たした一症例を経験し,
さらにその原因などについて検討を加えたので報
告する.
40) Pureな右室梗塞にもかかわらずPCPSと右
房ペーシングを必要とした一例
(県立広島病院) 水津純江・岩本明倫・
梶原賢太・槙田祐子・藤井雄一・橋本正樹・
末田 隆・岡本光師
症例は76歳,女性.nodal rhythm(HR60),右側
誘導でのST上昇,右室拡大,無収縮,トロポニ
ンI上昇があり右室梗塞を疑った.自覚症状に乏
しく,発症後2日以上経過,高度肝うっ血,腎機
能低下,CI1.18と著明な循環不全が出現しており,
PCPS挿入した.数日でうっ血,腎機能は改善し
たが,PCPS抜去後は輸液,カテコラミンだけで
は血圧,尿量維持は困難であった.心内心電図に
て心房収縮(40bpm)と心室収縮(60bpm)がわ
かり,そのことにより心拍出量が低下していると
考え,心房中隔ペーシング(120bpm)をしたと
ころ,血圧,尿量は維持され,数日で洞調律に回
復した.左室壁運動低下を伴わない右室梗塞に,
非常に重篤な循環不全を伴い,最終的にはペーシ
ングが著効した症例を経験したので報告する.
41) 当院にて経験した経皮的冠動脈形成術中合
併症の3症例
(国立病院機構岩国医療センター循環器科)
片山祐介・河野晋久・湯本晃久・佐藤慎二・
高橋夏来・田中屋真智子・白木照夫・斉藤大治
経皮的冠動脈形成術(PCI)適応の飛躍的拡大に
より術中合併症の危険性が増加している.我々が
経験したPCIに伴う合併症3症例を報告する.症
例1は屈曲病変のステント内再狭窄に対してステ
ント再留置を試みた際にステント脱落を生じた症
例で,ガイドワイヤの末梢に別のガイドワイヤを
絡ませることでステント回収に成功した.症例2
はガイドワイヤによる末梢冠動脈穿孔を生じた症
例で,大腿部脂肪組織を採取し経カテーテル的に
選択的塞栓止血術を行った.症例3は分岐部病変
のPCIの際に側枝のガイドワイヤ断裂を生じた症
例で側枝閉塞を来たしたために冠動脈バイパス術
とともにガイドワイヤ回収を行った.合併症に対
する様々なトラブルシューティング法についての
情報を得ておくことが重要と考えられた.
42) 特徴的な拡張期僧帽弁前尖運動を呈した大
動脈弁閉鎖不全症の一例
(香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科)
三宅祐一・大森浩二・水川瑞紀・大原美奈子・
竹内浩人・大下 哲・四宮かおり・藤田憲弘・
河野雅和
大動脈弁閉鎖不全(AR)ではjetは僧帽弁前尖を
後方に押すように吹くことが多い.症例は46歳の
女性.心雑音の精査にて,大動脈弁輪拡張症に伴
う高度ARと僧帽弁逸脱による中等度僧帽弁閉鎖
不全(MR)を認めた(初回)
.ロサルタンの投与
開始4ヶ月目にはMRが改善,左室径および左房
径が減少し,僧帽弁前尖が拡張早期の最大開放位
置から後退せず,Mモードでは特徴的な拡張期プ
ラトーを呈した(術前).自己弁温存大動脈基部
再建術後にはARは軽度となり,前尖の特徴的な動
きは消失した(術後)
.3時点のAR jetと心室中隔
の位置関係を比較すると,初回時に比べて術前に
は,jetが中隔のより近傍を中隔に沿って通過して
おり,術後にはARはやや後方に吹いていた.術
前の前尖の特徴的パターンの成因としてAR jetに
よるVenturi効果が考えられた.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1153
43) 重複僧帽弁口の1例
(高知医療センター) 山本美香・山本克人・
川田泰正・吉田俊伸・羽原真人・田口英詞・
大郷 剛・山崎隆志・杉本和彦・西村直己・
大脇 嶺
46) パルス組織ドプラ法による高齢者拡張不全
例における左室拡張性の検討
(国立病院機構東徳島病院循環器内科)
大石佳史・水口幸生・田中英治・惠美滋文・
石本武男・長瀬教夫・大木 崇
症例は45歳男性.動悸を主訴に当院循環器を受診
した.胸部X線ではCTR49%で心拡大認めず,心
電図は洞調律で明らかな異常所見を認めなかっ
た.心臓超音波検査にて僧帽弁に大小二つの僧帽
弁口を認め,小さいほうの弁から重度の僧帽弁逆
流(MR)を認めた.LVDd60mmと拡大を認めた
が左室肥大はなく壁運動は良好であった.経食道
心エコー小さいほうの弁口の弁尖肥厚と腱索断裂
が認められた.また大動脈弁は二尖弁であったが
軽度のARを認めるのみであった.心臓カテーテル
検査では冠動脈に異常なく左室造影でSellers4度
のMRを認めた.Swan-Ganzカテーテルで右心圧,
心拍出量は正常範囲であった.重複僧帽弁口に合
併した腱索断裂によるMRに対し僧帽弁形成術を
施行した.術中所見では二つの弁を仕切る線維性
bridgeを認めCentral typeと考えられた.
【目的】高齢者拡張不全例において,左室長軸方
向における拡張性をパルス組織ドプラ法(TDI)
を用いて検討した.【方法】対象は60歳以上,断
層心エコー法にて左室駆出率(EF)50%以上を示
した74例(平均年齢72.6±7.4歳,60-92歳,男性
39例).左室後壁の運動速波形をTDIにて記録し,
心不全既往より心不全(CHF)群7例と非心不全
(C)群67例とに分け比較検討した.【結果】TDI
により記録された後壁の収縮期波高(Sw),拡張
早期波高(Ew)はともに有意差なし(Sw;CHF
群;6.8±2.3,C群;7.3±2.4cm/s,ns),(Ew:
CHF群;6.3±3.2,C群;7.5±2.5cm/s,ns).一
方,心房収縮期波高(Aw)はCHF群にてAwの
有意な低下を認めた(CHF群;6.9±2.6,C群;
10.0±3.0cm/s,P<0.05).【考察】高齢者拡張不
全例では,心房収縮期の左室壁の拡張性低下がみ
られた.
44) 右心系の拡大と高度三尖弁逆流を示す非弁
膜症性心房細動の検討
(国立病院機構善通寺病院循環器科・臨床研究部)
森下智文・福田信夫・篠原尚典・酒部宏一・
若山克則・田村禎通
47) 64列マルチスライスCTによる冠動脈スク
リーニングの可能性について
(医療法人里仁会興生総合病院心臓血管センター)
藤原恒太郎・畑 隆登・平井章三
1998年1月∼2006年1月の8年間に経験した非弁膜
症性心房細動230例のうち,右心系拡大と高度三
尖弁逆流(TR)を示す17例の特徴について検討し
た.高度TRはカラードプラ法の重症度3/4以上と
し,TRを来たす基礎疾患や三尖弁の器質的異常を
認める例は除外した.年齢は78±9歳と高齢で,男
性(12例)に多かった.胸部X線のCTRは63±6%
で,心エコー上右心系の拡大を認めたが,右室拡
大(右室径/左室径=31±8/47±5mm)に比し右
房拡大(右房容積/左房容積=185±59/165±34ml)
が著名であった.BNP値は214±160pg/mlで,肺
高血圧を認めた例は少なかった(右房・右室圧較
差29±10mmHg).
45) 経胸壁リアルタイム三次元心エコ−図によ
る僧帽弁逸脱の三次元定量解析
(川崎医科大学附属病院循環器内科)
齋藤 顕・渡邉 望・和田希美・岡橋典子・
川元隆弘・豊田英嗣・大倉宏之・吉田 清
【目的】マルチスライスCT(MDCT)の進歩は著
しく,冠動脈疾患の診断能力が飛躍的に進歩して
いる.平成17年10月に当院でも64列MDCTを導入
し,平成18年2月末現在までに150例を越える症例
を経験したので,報告する.【対象】平成17年10
月∼平成18年1月に心臓造影CTが施行された150
症例,男性99名,女性51名,年齢37∼89歳(平均
67.3歳).【方法】GE横川メディカル社製64列
MDCTにて撮影,同社ワークステーションにて解
析を行った.【結果】150症例中,すべての冠動脈
が判読可能な症例は,118例(78.7%),主要3分
枝の何れかの判読が困難な症例は28例(18.7%),
3分枝すべての判読が困難な症例は4例(2.7%)
であった.判読不能症例のうち,2例は息止め困
難症例,1例は著しい石灰化と心房細動を合併し
た症例,1例は体動により,心電同期不能例であ
った.
48) 第2世代256列MDCTの使用経験
(愛媛大学病態情報内科学) 倉田 聖・
齋藤 実・上谷晃由・大下 晃・吉井豊史・
大木元明義・大塚知明・岡山英樹・檜垣實男
(同放射線科) 城戸輝仁・東野 博・
望月輝一
【目的】今回我々は三次元画像解析システムReal
Viewを用いて構築した僧帽弁葉・弁輪の三次元
【目的】256列MDCTは1回転で心臓全体の撮像が
データより弁輪レベルからの弁逸脱の程度を定量
可能である.今回我々は第2世代の256列MDCTを
的に評価した.【方法】対象は僧帽弁逸脱による
使用し,最初の臨床研究を行った.【方法】陳旧
重症僧帽弁逆流患者計13人.心房細動例及び三次
性心筋梗塞2名,狭心症1名を対象とした.Test
元心エコー画像不良例は除外.超音波診断装置は
injection法にて撮像タイミングを確認した後,造
Sonos7500でX4プローブを用いて心尖部から心臓
影剤40-60mlを使用し約1.5秒の心電図同期なしの
全体の画像を取り込んだ.Real Viewを用いて収
本番撮影を行った.ハーフスキャン再構成にて多
縮末期の僧帽弁輪・僧帽弁葉をmanual traceし三
時相再構成をおこない,各時相において冠動脈・
次元画像構築及び解析を行った.【結果】僧帽弁
左心室容量解析を行った.【結果】全ての患者に
輪面積に対する逸脱弁葉面積の割合は20.9±5.8%
おいてbanging artifactの無い画像が得られ,収縮
(前尖22.5±7.3%,後尖19.4±4.0%)であった. 期でも冠動脈評価が可能であった.壁運動,壁厚
また三次元的僧帽弁輪面からの最大逸脱距離は
変化率,左室駆出率など各種心機能パラメータが
8.4±5.8mm(前尖5.7±2.7mm,後尖10.7±6.9mm)
評価可能であり,冠動脈との融合画像の作成も可
であった.【結語】Real viewを用いることで僧帽
能であった.【結語】第2世代256列MDCTは次世
弁逸脱の三次元定量解析が可能である.
代の心臓CT“One-beat whole heart imaging”と
して期待される.
1154
第 88 回中国・四国合同地方会
49) 64列MDCTを用いた心房細動(Af)症例に
おける冠動脈評価について (JA広島総合病院) 國田英司・藤井 隆・
友弘康之・前田幸治・小林正和・関口善孝
64列MDCTを用い動態ファントムを使用した基礎
実験後に平均心拍数100bpm以下のAf患者24症例
(24Pt×14=336 segs)において冠動脈評価を行っ
た.心拍変動変化率をRR-interval variation rate
(RRIVR)=(maximum RR interval-minimum RR
interval)×100/maximum RR interval during the
acquisitionと規定した.全体として評価可能例は
89.0%であった.RRIVR 50%以上では59.5%,
RRIVR 50%未満では93.2%で,Af患者の冠動脈評
価において心拍変動が重要な因子であった.
RRIVRが50%未満であればAf患者においてMDCT
による冠動脈評価の有用性が示唆された.
50) MDCTによる捻れ(Torsion)の検討
(愛媛大学病態情報内科学) 倉田 聖・
齋藤 実・上谷晃由・大下 晃・吉井豊史・
大木元明義・大塚知明・岡山英樹・檜垣實男
(同放射線科) 城戸輝仁・東野 博・
望月輝一
【目的】MDCTにて捻れ(Torsion)の評価が可能
であるか検討し,心筋梗塞患者と正常における
Torsionの違いを検討すること.【方法】対象は
MDCTを撮像した健常人(N群:n=12)と急性心
筋梗塞患者(AMI群:n=5)とした.左室短軸像
で左室の重心からLADを結ぶベクトルを求め,心
基部と心室中部における回転角の差をTorsionと定
義した.1心周期を10 phaseに分割し,各phaseで
検討した.心尖部方向より見て,時計軸方向への
回転を負,半時計方向を正の回転とした.【結果】
N群において心基部は時計軸回転しており(-3.6
±2.5°
)
,心室中部は半時計回転(4.8±3.2°
)して
おり,最大のTorsionは7.5±3.8°であった.最大
のTorsionはAMI群においてN群に比し有意に低値
であった(P<0.05).【結語】MDCTにおいて
Torsionの検討も可能であることが示唆された.
51) 負荷心筋シンチグラフィにおけるアデノシ
ンの使用経験
(住友別子病院循環器科) 幡中邦彦・
土井正行・上川 滋
本邦でも負荷心筋シンチグラフィにアデノシンが
使用可能となった.そこで,2005年9月以降当院
にてアデノシンを使用した負荷心筋シンチグラフ
ィ( 201 Tl)を行った96症例を対象に,その特性,
副作用,忍容性についての検討を行った.全体の
87.5%が有症状であり,熱感,胸部不快の順に多
かった.症状出現時間は開始1∼3分に集中し,10
分以後症状が遷延する症例は認めなかった.平均
で血圧は12.2mmHg低下,心拍数は10.6/min上昇
した.心電図変化を示したものは11例で,ST低
下,右脚ブロック,junctional rhythm,PSVT,
および房室ブロックであった.心電図変化は伴わ
なかったが意識消失発作を認めた症例が1例,ア
デノシン投与中断した症例は2例であった.忍容
性については,検査後のアンケートで全体の約8
割が容認範囲との回答であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
52) LMTのPCI中にSlow-flowを生じた1例−
IVUS及びMDCT所見との対比−
(愛媛大学病態情報内科学) 齋藤 実・
上谷晃由・大下 晃・吉井豊史・倉田 聖・
大木元明義・大塚知明・岡山英樹・檜垣實男
55) PCI前の心臓CTにより多量血栓性病変の性
状を知り得た急性心筋梗塞の2例
(広島市立安佐市民病院循環器科)
長沼 亨・土手慶五・加藤雅也・佐々木正太・
長谷川大爾・松田 理・中野良規
58) 血管内超音波上,石灰化によらない超音波
減衰を示す冠病変の組織性状の検討
(川崎医科大学循環器内科) 山田亮太郎・
大倉宏之・川元隆弘・久米輝善・豊田英嗣・
渡辺 望・小山雄士・和田希美・岡橋典子・
吉田 清
症例は68歳,男性.平成17年10月ACSにて CAGを
【症例1】55歳,男性.左前下行枝Seg6 D1前の完
施行した.LMTにUlcerを伴う75%狭窄に加えLCx
全閉塞.良好な側副血行あり,待機的PCIを選択. 【背景】血管内超音波検査(IVUS)上石灰化がな
の入口部に99%狭窄を認めたため,CABG(LITA心臓CTではS1分岐部の狭窄と近位側に増長する
く減衰を伴った病変(減衰プラーク)をPCIした
LAD,Ao-RA-LCx)が施行された.しかしながら
多量血栓(CT値9.3HU,16.1mm長)を認めた. のちにslow/no reflowを来たした報告を散見する
LITAが閉塞していたため,平成18年2月にLMTに
PIT後,末梢保護下に12mm長のステントを留置,
が,組織性状を検討した報告は少ない.【方法】
対しPCIを施行した.前拡張の際,Slow-flowとな
血栓吸引した.【症例2】57歳,男性.右冠動脈
剖検38例を対象に,左右冠動脈を切り出しIVUS
ったが,ニコランジル冠注にてFlowは改善した. Seg1の完全閉塞.PIT後,末梢保護下に23mm長
にて観察を行った後,組織切片を作成し,IVUS
CABG前に施行されたMDCTではUlcerの対側に
のステントを留置したがSATとなった.心臓CT
上減衰プラークと判断される部位の組織像の特徴
Low densityのプラーク(HU 10)を認め,IVUS
ではステントより近位部の狭窄から末梢側に増長
を検討した.【結果】IVUS上,減衰プラークを27
においても同部にattenuationを伴うLow echoicな
する多量血栓(ステント遠位端からは36.4mm長, 病変認め,同部位のプラーク+中膜面積は11.5±
プラークを認めた.今回我々はLMT-PCI中に
CT値43.1HU)を認めた.血栓吸引後,近位部病
3.0mm2であった.組織性状では12例(44.4%)に
微小石灰化を伴うnecrotic coreを認めた.【結論】
Slow-flowを生じた1例において,その原因となる
変にステントを追加留置した.【結語】心臓CTは
減衰プラークは病理上necrotic coreを高率に認
プラーク性状をMDCTとIVUSで確認しえた症例
血栓量,狭窄部位,狭窄より末梢の情報を知るの
め,これらの病理所見がPCI時のslow/no reflow
を経験したので報告する.
に有用である.
に関与している可能性が示唆された.
53) 冠動脈プラークの経時的性状変化をMSCT
にて観察しえた1症例
(広島大学分子内科学) 北川知郎・
山本秀也・沖本智和・荘川知己・田崎直仁・
杉原正晃・折田裕一・石橋 堅・河野修興
(広島大学病院放射線科) 平井伸彦
60代女性.労作時胸部圧迫感があり,冠動脈造影
検査(CA)を勧められていたが拒否していた.
2003年3月にGE社製16列Multislice CT(MSCT)
を用いて心臓を撮像したところ,LAD#6に有意狭
窄とCT値83HUのintermediate plaqueが描出され
た.2004年4月の心臓CTでは同部のCT値低下
(24HU)とpositive remodelingが認められ,plaque
の不安定化が示唆されたが,CAを拒否され,薬物
治療が継続された.2005年10月の心臓CTでも同部
にCT値13HUのsoft plaqueとpositive remodelingが
認められ,さらに高感度CRPの上昇もみられたた
め,再度CAを勧めたところ,同意が得られた.
CAでは#6の75%狭窄が確認され,血管内超音波
では同部位のhypoechoic areaとattenuationが認め
られた.MSCTにて冠動脈プラークの経時的な性
状変化を観察しえた症例を経験したので報告する.
54) 不安定プラーク診断の可能性について −
冠動脈造影CTとVirtual Histologyの比較−
(三豊総合病院循環器科) 道明武範・
上枝正幸・大西伸彦・高石篤志
急性冠動脈症候群の原因としてプラークの破錠が
重要視されている.その不安定なプラークを,非
侵襲的に評価可能となれば,臨床的に極めて有用
である.心臓CTの領域においては16列,さらに
昨年からの64列Multi-detector row CT(MDCT)
の導入が進み,その時間分解能・空間分解能の向
上に伴いプラークの評価精度が向上しつつある.
またIVUSにおいてVirtual Histologyを使用するこ
とによりプラークの性状が視覚的に捕らえること
が可能となっている.今回我々は16列MDCT画像
と血管内エコー(IVUS-VH:Virtual Histology)
画像を撮影し得た症例を提示し若干の考察を加え
不安定プラークの診断の可能性について検討す
る.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
56) 心臓MSCTで診断された先天性冠動脈瘻の
2例
(さぬき市民病院内科) 井上利彦・
岡内泰弘・小路哲生・和田佳宏
59) Virtual histologyによる病変評価はgray
scale IVUSより優れているか?
(市立宇和島病院循環器科) 渡邊浩毅・
東 晴彦・青野 潤・稲葉慎二・池田俊太郎・
濱田希臣
先天性冠動脈瘻(CAFs)は,冠動脈造影検査を
受けた患者の0.05-0.25%の頻度で見られるまれな 【目的】VH-IVUSによるvirtual histology(VH)が
疾患である.今回,左心系CAFsの2例を経験した
病変の評価に対してgray scale IVUS(GS)より優
ので報告する.症例1は73歳,男性.糖尿病で入
れているか否かを検証した.
【方法】PCI施行時に
院中に左総頸動脈にsoft plaqueを認めた.CADの
VH-IVUSを用いて病変の評価を行った20例で,GS
精査目的で心臓マルチスライスCT(以下MSCT) によりvulnerableと評価された病変,すなわちlipid
検査を施行したところ,左房枝と左房前壁に交通
poolとthin fibrous capあるいはpositive remodeling
を認め,左冠動脈左房瘻と診断した.症例2は56
(index≧1.05)とlarge plaque volume(%plaque
歳,女性.高血圧症で加療中,胸痛が出現した.
volume≧40)による評価とVHによるnecrotic core
心エコー検査では,LAD36mm,LVDd53mm,EF
(NC)とfibro-fatty(FF)の占める割合(%)の
68%,E/A0.85,asynergy認めず,トレッドミル
PCI後のCPK-MB,hsCRP,Blush score, CTFCの
運動負荷試験でも明らかな虚血性変化は認めなか
変化に対する関連性を検討した.
【成績】PCI後の
った.心臓MSCTではLCXと左下肺静脈に交通枝
各指標はGSよりもVHの方の評価因子の方でより
を認め,左冠動脈肺静脈瘻と診断した.
変化が強かったが,今回の検討結果では両方法の
間に有意な差は認められなかった.【結論】従来
のGSによる評価に比しVHによる評価は,少なく
とも同等である可能性が示唆された.
57) 川崎病後遺症による巨大冠動脈瘤の経過を
MDCTで確認しえた1例
(愛媛大学病態情報内科学) 上谷晃由・
齋藤 実・大下 晃・吉井豊史・倉田 聖・
大木元明義・大塚知明・岡山英樹・檜垣實男
(同小児科学) 高田秀実・松田 修・
檜垣高史
60) VH-IVUSによる急性心筋梗塞43症例の
Plaque Characterization
(心臓病センター榊原病院内科) 山本桂三・
河合勇介・難波経立・田原達哉・吉野智亮・
廣畑 敦・川村比呂志・雪入一志・山地博介・
村上正明・村上 充・清水明徳・難波宏文・
日名一誠・喜多利正
(岡山大学保健学科) 草地省藏
症例は21才,女性.3歳時に川崎病を発症したた
め,急性期にγ-グロブリン療法等施行された.
しかし巨大冠動脈瘤が残存し,以後当院小児科で
経過観察されていた.19才時に施行したMDCTで
は壁在血栓を伴う径20mm×37mmの冠動脈瘤を認
めたが,瘤内の造影効果は良好であった.平成17
年11月頃より,労作時息切れを自覚するようにな
った.負荷心電図では前側壁領域にかけ広範な
ST低下を認めた.MDCTでは冠動脈瘤の大きさに
変化は無かったものの,動脈瘤内の造影効果は低
下していた.このため冠動脈造影を施行したとこ
ろ,左冠動脈主幹部の冠動脈瘤入口部に高度狭窄
を認め,CTと同様に瘤内の造影効果が低下し,左
前下降枝剤への血流は低下していた.今回我々は
川崎病後遺症による巨大冠動脈瘤の経過をMDCT
で確認しえた1例を経験したので報告する.
今回我々は,VH-IVUSを急性心筋梗塞(AMI)症
例に用いて,プラーク性状について検討したので
報告する.【対象】2005年6月19日から2006年2月
25日までのAMI,43症例.【方法】VH-IVUSを使
用して,STENT留置直前の責任病変の観察を行っ
た.
【結果】平均血管径は4.1±0.67mm,平均プラ
ーク量は67.5±10.5%,Necrotic Core(NC)含有
率は平均15.9±9.3%であった.NC(%)は血管径
と負の相関(r=-0.49,p<0.01)を示し,プラーク
量(%)とは相関せず,Fibrous成分やFibro-fatty
成分とは負の相関(r=-0.69,-0,67,p<0.01,<
0.01)を示したがDence Calcium成分とは正の相関
(r=0.55,p<0.01)を示した.
【まとめ】不安定プ
ラークにおけるNC成分は血管径の大きさに比例
して減少し,石灰化成分に付随して集積している
可能性が示唆された.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1155
61) Dual-frequency intravascular ultrasound
imaging: A novel approach to plaque vulnerability
(山口大学器官病態内科学) 橋本弦太・
廣 高史・藤井崇史・岡村誉之・山田寿太郎・
福本優作・松h益‡
【目的】1本の血管内エコーカテーテルで二重の周
波数を使用できるシステム(Dual-frequency
IVUS:DF-IVUS)を用い動脈硬化プラークの線
維性被膜の同定が可能であるかを検討した.【方
法・結果】動脈硬化プラーク50切片を,40MHz
ならびに50MHzの周波数でDF-IVUSを施行し,
それぞれの周波数で得たグレイスケール画像をデ
ジタルサブトラクションし,その画像を擬似カラ
ー化した.その結果プラークの表面に境界明瞭な
領域が描出され,同一断面の組織像で同定した線
維性被膜にほぼ一致し,その厚さはr=0.89(p<
0.0001)の精度で有意に相関していた.【結語】
DF-IVUSは線維性被膜の描出に有用であり,不
安定プラークの同定に有用であるかもしれない.
62) Cutting Balloon後の冠動脈内膜をOptical
Coherence Tomographyで評価し得た一例
(川崎医科大学循環器内科学) 久米輝善・
川元隆弘
(和歌山県立医科大学循環器内科学)
赤阪隆史
(川崎医科大学循環器内科学) 大倉宏之・豊
田英嗣・小山雄士・根石陽二・渡辺 望・
スクマワンレナン・岡橋典子・吉田 清
症例は74歳男性.2004年8月,左冠動脈前下行枝
の有意狭窄に対して冠動脈ステント留置術
(ZETA 2.75×15mm)を施行.2005年2月,同部位
にステント内再狭窄を認めたためCutting Balloon
にて血管形成術を施行した.Cutting Balloonによ
る血管形成術前後において,冠動脈を血管内超音
波法,Optical Coherence Tomography(OCT)に
て観察した.血管内超音波では判別が困難であっ
た内膜の裂隙がOCTで観察可能であった.冠動脈
ステント留置後の新生内膜の評価や,血管形成術
後の内膜変化などの観察にOCTが有用であると考
えられる症例を経験したので報告する.
63) Pilsicainide内服にて房室伝導と心室脱分
極・再分極時間の著明な延長とQTdispersionの増
大を認めた1症例
(香川県済生会病院循環器科) 寒川睦子・
豊永慎二・間島圭一・中津高明
【背景】PilsicainideによるQTdispersion(QTd)
の報告は少ない.Pilsicainide内服で房室伝導と
心室脱分極・再分極時間の著明な延長とQTdの増
大を認めた1症例を報告【症例】74歳男性.
Pilsicainide(150mg)内服下で(血中濃度1.46μ
g/ml)PR290,QRS130,VAT120,QTc603,
QaTc382,Tp-Te220(msec),QTd100,QaTd90,
Tp-Ted 100msec.12誘導心電図と12誘導Holerで
Pilsicainide中止後経過を評価.18日後(血中濃
度0.05μg/ml)PR200,QRS195,VAT80,
QTc370,QaTc309,Tp-Te71,QTd40,QaTd20,
Tp-Ted50msecと改善【考察】pilsicainideにて心
室再分極の貫通性,空間的ばらつきが増大する可
能性を示唆.
1156
第 88 回中国・四国合同地方会
64) 洞調律時に室房伝導を認めなかった非通常
型房室結節回帰性頻拍の一例
(鳥取大学循環器内科学) 飯塚和彦・
井川 修・足立正光・矢野暁生・三明淳一朗・
井上義明・小倉一能・加藤 克・田中宏明
(同機能再生医科学再生医療学分野)
久留一郎
症例は40歳女性.発作時の12誘導心電図にて心拍
数151/min,long RP'型頻拍を記録した.心臓電
気生理検査にて,洞調律下に加えた右室心尖部
(RVA)連続刺激で室房伝導を認めなかった.高
位右房からの期外刺激にてAH間隔の明確なjump
upなく頻拍が誘発された.頻拍周期は460ms,頻
拍中の最早期心房興奮部位は冠状静脈洞入口部で
あった.以上より心房頻拍の可能性も考えられた
が,頻拍中RVAからhis束不応期の時相で加えた
単発期外刺激にて頻拍はresetされず,より短い
連結期で加えた際には興奮順序が変わることなく
resetされたことから,頻拍は非通常型房室結節
回帰性頻拍と考えられた.頻拍中に最早期心房興
奮部位に対し焼灼を加え,頻拍根治に成功した.
本症例は洞調律時に室房伝導を認めず,心房頻拍
との鑑別を要し教訓的と考え報告する.
65) 特発性心室細動の一例
(徳島県立中央病院) 山本 隆・原田顕治・
奥村宇信・蔭山徳人・斎藤彰浩・井内貴彦・
藤永裕之・河原啓治
近年,特発性心室細動に対して,心室細動の引き
金となる心室性期外収縮に対するカテーテルアブ
レーションが有効であると報告されている.症例
は50歳,女性.主訴はめまい,失神.平成10年12
月に失神をきたし当院へ搬送された.流出路起源
の心室性期外収縮の頻発を認める以外は異常な
く,β遮断薬の投与で経過観察していた.その後
も動悸後に失神をきたしたことが数回あった.17
年12月に動悸後にめまいがあり,ホルター心電図
で流出路起源の期外収縮から頻拍周期220msの多
形性心室頻拍の発生が認められた.特発性心室細
動と診断し,引き金となる右室流出路起源の心室
性期外収縮に対してカテーテルアブレーションを
行った.右室流出路起源の心室性期外収縮は消失
し,以後めまい,失神の症状は消失している.
66) 異常Purkinje線維の興奮が不整脈発生に関与
したshort-coupled variant of torsades de pointes
の一症例
(岡山大学循環器内科) 伴場主一・
永瀬 聡・西井伸洋・渡辺敦之・村上正人・
多田 毅・大田恵子・酒井芳昭・中村一文・
桜木 悟・草野研吾・大江 透
症例は29歳女性.Polymorphic VT(PMVT)に対
しICDの植込みを施行されている.発作軽減目的
に電気生理検査を施行した.左心室中部中隔に配
置した多極カテーテルにて多源性心室期外収縮の
QRSに必ず先行するPurkinje(P)電位が記録さ
れ,PMVTにおいてもP電位が記録された.P電
位はparasystole様に出現しており,先行する正常
QRSに対して様々な間隔(170-300ms)で出現し
ており,その間隔のばらつきとpurkinje network
における伝導遅延によって様々なcoupling interval
とQRS波形を形成していた.その拡張期P電位を
targetにカテーテル焼灼術を施行した.Purkinje
の異常興奮が出現時相と伝導遅延によって多源性
心室期外収縮を呈した興味深い症例を経験したた
め報告する.
67) 急性冠症候群と思われたBrugada症候群の
1例
(済生会西条病院循環器科) 井添洋輔・
末田章三・福田 浩・大下 晃
症例は,60歳男性.平成18年2月13日夜間に嘔吐,
ふらつきを認めた.症状改善しないため2月14日
朝,救急車で当院に搬送となった.心電図にて
V1-3誘導でSTの上昇を認め,急性冠症候群(ACS)
の疑いで当院脳外科より紹介となった.心エコー
上,異常壁運動認めず,H-FABP(-)で経過観察と
した.6時間後の心電図検査にてI,aVL誘導で
STの上昇を認め,ACSと考え緊急CAGを施行し
た.#4AV:75%,#7:50%を認めた.梗塞血管
の同定は困難であった.
心カテ直後の心電図では,
STの上昇は正常化していた.CPKは1726と上昇認
めたが,MM型が98%を占めた.心筋シンチにて
も欠損部位を認めなかった.今回,ACSによる心
電図変化と考えにくいBrugada症候群の一例を経
験したので報告する.
68) 当院における心房細動に対するアブレーシ
ョンの初期成績
(倉敷中央病院循環器内科) 竹中 創・
藤井理樹・光藤和明・井上勝美・後藤 剛・
門田一繁・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
廣野明寿・田中裕之・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【目的】当院における薬剤抵抗性心房細動に対す
るアブレーションの初期成功率と短期再発率を検
討すること.【方法】当院で心房細動に対するア
ブレーションを行った10人(男性8人,57±5歳)
を対象とした.発作性8例(抗不整脈薬2-6種類),
持続性2例.アブレーションの方法は肺静脈隔離
術を行い,初期成功は1)左心房−肺静脈間の電気
的隔離が完全に出来ること,2)ISP下で冠静脈洞
より頻回刺激を行い心房細動が誘発されないこと
とした.【結果】初期成功は100%であった.1ヶ
月後に6例(60%)は再発なし.再発した4例(40%)
のうち3名は抗不整脈薬内服を再開,1例は頓服で
経過している.いずれも洞調律を維持している.
【結語】薬剤抵抗性心房細動に対してはカテーテ
ルアブレーションが有効であると考えられた.
69) カテーテルアブレーション後心房頻拍が顕
在化し,治療に難渋した症例
(KKR高松病院心臓血管病センター)
松元一郎・伊原かすみ・北泉顕二・澳本定一
症例は20年来血小板減少性紫斑病,橋本病,SLE,
間質性肺炎治療中の70歳男性.当時より発作性上
室性頻拍症が多発しピルメノールを内服していた
が,次第に頻拍発作の頻度が増加したため,カテ
ーテルアブレーションを行うこととなった.電気
生理学的検査(EPS)では,左側潜在性ケント束
を逆行するリエントリー性頻拍が確認され同部位
の焼灼を行った.さらに直後のEPSで房室結節リ
エントリー性頻拍が誘発され,遅伝道路の焼灼も
行った.ところがリエントリー性頻拍は消失した
ものの心房刺激にて容易に非持続性心房頻拍が誘
発されるようになった.治療は一旦終了したが,
術後まもなく持続性かつ薬剤抵抗性心房頻拍発作
が頻発するようになった.上記の如く,多彩な上
室性頻拍が合併していた症例を経験したので報告
する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
70) PV isolationに伴う冠動脈合併症の2例
(心臓病センター榊原病院) 山地博介・
日名一誠・川村比呂志・村上 充・雪入一志・
村上正明・山本桂三・田原達哉・河合勇介・
難波経立・廣畑 敦・吉野智亮・難波宏文・
喜多利正
近年薬剤抵抗性心房細動(AF)に対するPV isolation(PVI)の有効性が報告されている.しか
し肺静脈狭窄,血栓塞栓症などの合併症も報告さ
れている.今回PVIに伴う冠動脈合併症を2例経
験したので報告する.【症例1】50歳男性.薬剤
抵抗性PAFに対するPV isolation(PVI)目的で入
院.RSPVに対するPVI中に一過性に下壁誘導で
ST上昇を認めた.CAGでは有意狭窄は認めず.
【症例2】41歳男性.心房粗細動による心不全の
加療目的で入院.PAFに対するPVIの際のCAGで
は有意狭窄は認めなかった.PVI後にATが出現
したため2週間後に再度EPSを施行.その際の冠
動脈造影にて右冠動脈の完全閉塞が判明し後日
PCIを実施した.これまでPVIに伴う冠動脈合併
症の報告は数例しかなく,冠動脈閉塞症例は報告
はない.興味ある症例と思われたので報告する.
71) 心臓腫瘍と関連した心室頻拍に対してカテ
ーテルアブレーションを行った一例
(山口大学循環病態内科学) 沢 映良
(同保健学科) 清水昭彦
(同循環病態内科学) 上山 剛・吉賀康裕・
鈴木慎介・杉 直樹・松h益‡
患者は21歳男性.失神を伴う持続性心室頻拍のた
め入院.入院時,右脚ブロック・北西軸の心室性
期外収縮をトリガーに3∼4連発の多形性心室頻拍
や持続性単形性心室頻拍が反復性に出現してい
た.心臓超音波にて中隔壁の輝度上昇を認め,心
臓CTでhypervasucularな心臓腫瘍が指摘された.
冠動脈造影では,左前下行枝から腫瘍への栄養血
管による腫瘍濃染像を認めた.心室頻拍は誘発さ
れるが持続せず,期外刺激法で生じる心室エコー
が臨床不整脈のトリガーの心室性期外収縮と一致
した事から,その心室エコーをターゲットのカテ
ーテルアブレーションを行い,心室エコーは消失
し心室頻拍は誘発不能となった.今回,心臓腫瘍
に関連したと考えられる左室起源心室頻拍に対し
てカテーテルアブレーションを行い良好な経過を
得た症例を経験したので報告する.
73) 右心耳ー右心室間副伝導路に対するカテー
テルアブレーション後に出現した右心耳を起源と
する心房頻拍の1例
(あかね会土谷総合病院) 平尾秀和・
村岡裕司・徳山丈仁・岡 俊治・岡田武規・
大塚雅也・豊福 守・作間忠道・上田浩徳・
正岡佳子・林 康彦
9歳頃にWPW症候群を指摘され,中学生頃より動
悸発作が出現するようになった.Δ波から右前∼
前側壁の副伝導路が疑われた.頻拍は心拍数150/
分の順行性房室回帰性頻拍であった.逆行性伝導
は三尖弁輪前側壁に認め,複数回通電を施行した
が再発を繰り返し,最終的に右心耳入口部floorで
副伝導路の離断に成功した.約3ヵ月後に140/分
のlong RP' tachycardiaの出現を認めた.副伝導路
の再発は認めず,心房頻拍と診断した.頻拍は右
心耳入口部floorに最早期興奮部位を認め,post
pacing intervalが頻拍周期とほぼ一致し,局所電
位がfragmentした部位での通電でアブレーション
に成功した.右心耳-右室副伝導路心房端に対す
るアブレーション後に同部位を起源とした心房頻
拍の出現を認めた症例を経験したので報告する.
74) アルドステロンの培養心筋細胞ギャップ結
合に及ぼす影響の検討
(山口大学器官病態内科学) 鈴木慎介・
大草知子・佐藤孝志
(名古屋大学環境医学研究所) 李 鍾国・
安井健二・児玉逸雄
(山口大学器官病態内科学) 松h益‡
ラット新生仔培養心筋細胞を用いて,アルドステ
ロン(ald)のconnexin(Cx)43発現量に及ぼす影
響を検討した.aldを添加して,Cx43蛋白,mRNA
量,興奮伝播速度(CV)を測定した.10-8M Ald
添加ではmRNAは24時間後に1.2倍に増加し(p<
0.01)
,Cx43蛋白はmineralocorticoid receptorを介
して約1.3倍に増加した(p<0.05).10-4M Ald添
加では,glucocorticoid receptorを介してCx43蛋
白は40%に抑制された(p<0.05).CVは,10-8M
Ald添加で1.25倍増加した(p<0.01).Aldは濃度
依存性に心筋細胞のCx43の発現量に影響を及ぼ
し,電気生理学特性を変化させる可能性が考えら
れた.
72) リズムコントロールを目的とした持続性心
房細動に対する高周波カテーテルアブレーション術
(福山循環器病院循環器内科) 川上 徹・
山里 亮・河野浩貴・竹林秀雄・赤沼 博・
岡本賢三・大橋紀彦・佐原伸二・井田 潤・
治田精一
(同心臓血管外科) 島倉唯行
75) 熱ショック蛋白誘導を用いた心房電気的リ
モデリング改善の可能性
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
加藤 克・井川 修・足立正光・矢野暁生・
三明淳一朗・井上義明・小倉一能・田中宏明・
飯塚和彦・重政千秋
(鳥取大学遺伝子再生医療学分野) 久留一郎
自覚症状の強いあるいは心機能低下例に合併した
持続性心房細動は洞調律の復帰と維持でQOLの
改善が期待できる.当院で持続性心房細動に対す
るリズムコントロールを目的として心房細動の器
質に対する高周波カテーテルアブレーション術
(以下RFCA)を施行した4例を報告する.拡張型
心筋症の57歳男性.頻脈誘発性心筋症を発症した
59歳男性.拡張型心筋症の56歳男性.自覚症状の
強い慢性心房細動の62歳男性.これらのうち1例
はRFCA中に,3例は電気的除細動で洞調律に復
帰.洞調律を維持,QOLの改善を認めた.当院
での経験は慢性心房細動でも洞調律に復帰し維持
可能な症例もあり,QOLを高めることが可能で
あると考えられる.心房細動の器質に対する
RFCAは有効な治療の選択肢の一つである.
心房細動によるチャンネルの減少は電気的リモデ
リングの機序の一つであり,その予防のためにチ
ャンネルを増加する薬剤の開発が期待されてい
る.HSP70の誘導薬であるゲラニールゲラニール
アセトン(GGA)が心房に特異的に発現するカリ
ウムチャンネル(Kv1.5)を増加させることを報
告する.培養細胞を用いた発現実験からHSP70の
誘導は細胞内小胞体・ゴルジ体でのKv1.5の蓄積
と成熟Kv1.5蛋白の増加および細胞膜でのIkur電
流の増加を起こす.GGAは低濃度領域(0.1∼0.4
μM)でKv1.5蛋白の安定化により細胞膜でのIkur
電流を増加した.ラットに24時間GGAを投与する
と心房でのHSP70とKv1.5蛋白の発現が増加した.
以上からGGAはHSP誘導により臨床使用濃度で心
房電気的リモデリング改善効果を示す可能性が示
唆された.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
76) 多枝冠攣縮から心室細動をきたした冠攣縮
性狭心症の1例
(鳥取大学循環器内科学) 田中宏明・
井川 修・足立正光・矢野暁生・三明淳一朗・
井上義明・小倉一能・加藤 克・飯塚和彦・
久留一郎・重政千秋
症例は51歳男性,主訴は意識消失.午前9時頃前
胸部痛の出現.胸痛は徐々に増悪し,意識消失を
生じた.救急隊到着時心室細動を認め,DCにて
洞調律に復した.来院時12誘導心電図上,全胸部
誘導の著明なST上昇を認め,亜硝酸薬静注にて
速やかに改善した.冠攣縮性狭心症が疑われたた
め亜硝酸薬,Ca拮抗薬,K受容体開口薬の持続静
注施行したところその後ST上昇は認めなかった.
冠動脈造影検査では有意狭窄は認めず.Ca拮抗
薬内服下に施行したアセチルコリン負荷試験で
は,左右冠動脈共に20μgにて冠攣縮が誘発され
た.臨床電気生理検査では心室性不整脈は誘発さ
れなかった.心室細動の原因として多枝冠攣縮が
考えられたためICD植え込み術施行となった.多
枝冠攣縮から心室細動をきたし,薬剤にて困難な
症例を経験したので報告する.
77) 広範囲のright atrial standstillおよび洞停止
を伴った右房後側壁を起源とする心房頻拍の一例
(島根県立中央病院循環器科) 金本将司・
小田 強・久岡隆行・板垣和男・和田靖明・
大野 誠
症例は59才,女性.拡張型心筋症で外来通院中.
約8ヶ月前より心房頻拍が出現するのに伴い心不
全症状が出現,頻拍に対するアブレーション目的
で当院に入院した.EPS中,臨床上認めた頻拍は
持続しており,Electro-anatomical mappingによ
る右房内のマッピングでは,右房後側壁を最早期
とする周期280msの心房頻拍と判断した.尚,後
下壁,側壁に広範囲のscar領域を認め,同領域で
は刺激も捕捉されなかった.頻拍は右房後側壁の
局所通電により停止したが,洞停止となった.そ
のため,DDDペースメーカーを植え込んだ.
78) 左上肺静脈局所起源発作性心房頻拍が心房
細動の発生,維持に関係した一例
(岡山大学循環器内科学) 酒井芳昭・
伴場主一・西井伸洋・平松茂樹・渡辺敦之・
村上正人・永瀬 聡・桜木 悟・中村一文・
草野研吾・大江 透
31才女性.20才頃より動悸を自覚.平成17年8月,
健康診断で心電図異常を指摘され,近医を受診.
発作性心房頻拍(PAT),心房細動(PAF)の診
断となり当科紹介受診となる.左房起源と思われ
るPATに対しablationを施行.PAT時の最早期興
奮部位が左上肺静脈(LSPV)内であり,PAFは
すべてPATに引き続き出現した.AF中のmappingではLSPV入口部周囲は特にlow voltageであ
り,fractionated potentialも認められた.AF中に
LSPV isolationを施行したところLSPV入口部通電
中にAFはATに収束し,isolation完成後にLSPV内
局所電位波高は徐々に減高した.同部focal ablation
を追加することによりPAT及び持続するPAFは出
現しなくなった.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1157
79) 心破裂を合併したたこつぼ型心筋障害の一例
(川崎医科大学循環器内科) 山田亮太郎・
大倉宏之・川元隆弘・久米輝善・豊田英嗣・
渡辺 望・小山雄士・和田希美・岡橋典子・
吉田 清
【症例】71歳女性.朝の農作業後,突然前胸部痛
が出現し近医を受診された.心電図にて前胸部誘
導のST上昇を認めたため急性心筋梗塞を疑われ
当院に救急搬送された.緊急冠動脈造影では明ら
かな狭窄を認めなかったが,左室造影にて心尖部
を中心に冠動脈支配領域に一致しない左室壁運動
障害を認めたため,たこつぼ型心筋障害と診断し
た.CCU入室2時間後(発症後約12時間)に突然
ショック,心停止となった.心エコー図検査にて
全周性の心嚢液貯留を認め心破裂と考えられた.
直ちに蘇生処置を行いPCPSを装着するも翌日死
亡した.【考察】たこつぼ型心筋障害は数週間の
経過で壁運動が改善する比較的予後良好な疾患と
して考えられている.今回たこつぼ型心筋障害に
心破裂を合併したと思われる稀有な症例を経験し
たので報告する.
80) 心筋炎の関与が疑われたたこつぼ型心筋障
害の一例
(徳島厚生連麻植協同病院循環器科)
三河純一・角谷昭佳・井内敦彦・阿部美保・
河野和弘
症例は73歳女性.平成16年12月17日に夫が他界し
た.12月19日より呼吸困難感が出現し,心電図異
常を指摘され当科紹介となった.緊急心臓カテー
テル検査では,冠動脈に有意狭窄を認めず,アセ
チルコリン負荷テストで,左冠動脈前下降枝の90
%狭窄が誘発された.左室造影は心尖部を中心と
した収縮能の低下を認め,いわゆるたこつぼ型心
筋障害様の形態を示した.CK最大値は316IU/lと
軽微だった.6日目の心エコーで壁運動は改善し
ていたが,心筋の肥厚および心嚢液貯留を認めた.
17日目に再度心臓カテーテル検査を行ったとこ
ろ,心尖部の壁運動異常は改善していた.心筋生
検組織は心筋繊維の肥大などを認めたが,炎症細
胞浸潤ははっきりしなかった.なおコクサッキー
B5型ウイルスの有意な上昇を認め,経過から心
筋炎の関与を疑ったので報告する.
81) 巨大陰性T波が発見の契機となったたこつ
ぼ型心筋症の1例
(市立宇和島病院循環器内科) 東 晴彦・
池田俊太郎・青野 潤・稲葉慎二・渡邊浩毅・
濱田希臣
【症例】77歳,女性【主訴】意識障害【現病歴】
2005年12月8日,夜になっても部屋の電気がつか
ないため知人が訪問すると部屋で倒れており,当
院救急外来へ搬送された.来院時JCS 100,頭部
CT検査で右視床出血を認めたため同日緊急入院
した.心電図でI,II,aVL,aVF,V2∼V6で巨
大陰性T波とQT時間の著明な延長を認めた.心
電図異常のため脳神経外科から当科を紹介受診し
心エコー図検査を施行した結果,心尖部の無収縮
と心基部の過収縮を認めたためたこつぼ型心筋症
と診断した.たこつぼ型心筋症の心電図は経時的
に変化することが知られている.今回われわれは
脳出血を契機に発症したと考えられ,心電図と心
エコー図の経時的変化を観察し得たたこつぼ型心
筋症の1例を経験したので文献的考察を加えて報
告する.
1158
第 88 回中国・四国合同地方会
82) 劇症型心筋炎を発症した15歳少年の1例
(市立宇和島病院) 青野 潤・渡辺浩毅・
東 晴彦・稲葉慎二・池田俊太郎・濱田希臣
症例は15歳,男性.平成17年3月1日より発熱,嘔
吐を主訴に近医で通院加療中であった.3月5日20
時頃より,呼吸困難が出現し近医を受診し,当院
救急外来に搬送された.受診時収縮期血圧は触診
で50~60mmHg,脈拍は180回/分とショック状態
であった.ICUへ直接搬入し人口呼吸管理,昇圧
剤等の点滴治療を開始し,心臓カテーテル検査を
施行した.左右冠動脈に有意狭窄を認めず,左室
造影では全体的な壁運動の低下を認めた.2週間
IABPによる循環補助,人工呼吸器管理を施行し
た.薬物コントロール施行し心エコー上壁運動改
善を認め,トレッドミル負荷心電図でもBruce 2
クリアしたため4月14日に当科を退院した.劇症
型心筋炎を発症した15歳少年の1例を経験したの
で報告する.
83) SLEを基礎疾患に持つ劇症型心筋炎に対し
ステロイドパルス療法が著効した一例
(山口県立総合医療センター循環器内科)
宮野 馨・山縣俊彦・中尾文昭
24歳女性.20歳時にSLE発症,ステロイドによる
内服治療が行われていた.発熱・心窩部痛にて近
医より当院紹介.来院時,心エコーでは全体的な
左室収縮能の低下(EF 30%)を認め,心筋は浮
腫状であった.翌日,BP 81/47mmHgと低下し
心原性ショックが疑われ,緊急心臓カテーテル検
査施行.冠動脈造影は異常なく,左室造影にて心
筋壁運動の著明な低下認め,劇症型心筋炎と診断
した.PCPS・IABP・気管内挿管下にICU入室し,
インデラルの持続点滴を開始(第1病日).心筋
生検にてリンパ球を中心とした著明な炎症細胞浸
潤が認められ,メチルプレドニゾロン1g/日によ
るステロイドパルス療法を施行(第3-5病日).第
10病日,EF60%と著明に改善した.経過中SLE
の活動性の亢進はなく,慢性期の抗体価の上昇か
らコクサッキーウイルスが原因と考えられた.
84) Amplatzer septal occluderを緊急避難的に
使用し救命しえた84歳ASDの一例
(総合病院岡山赤十字病院循環器科)
佐藤哲也・小畠廉平・角南春樹・吉岡 亮・
川本健治・福家聡一郎・齋藤博則・前川清明・
飛岡 徹
(岡山大学心臓血管外科) 赤木禎治・
佐野俊二
症例は84歳女性.既往歴にうっ血性心不全.平成
18年1月初めより呼吸困難出現し,増悪するため8
日救急車で当院外来受診.受診直後呼吸停止した
ため挿管.心電図にて右房右室負荷,胸部X線に
てCTR 82%,肺動脈陰影拡大,著明な肺紋理増強
を認め,経食道心エコーにて18×23mmの心房中
隔欠損症(ASD)を認めた.人工呼吸器管理下に
血管拡張薬,利尿剤,強心剤等投与したが,十分
な血圧,酸素飽和度を維持できず,血小板減少な
ど全身状態は徐々に悪化した.救命のため,第17
病日Amplatzer septal occluderによるASDのカテ
ーテル閉鎖術施行.直後より血行動態劇的に改善.
翌日抜管でき,胸部X線上肺紋理増強も劇的に改
善し,後日徒歩退院できた.以上,緊急避難的に
カテーテルによるASD閉鎖術施行し,救命しえた
超高齢者の一例を報告する.
85) 健診時の心電図異常にて発見された成人三
心房心の一例
(笠岡第一病院循環器内科) 阿曾沼裕彦・
原田和博・浦川茂美・酒井芳昭
【症例】56歳,女性【主訴】労作時呼吸困難【現
病歴】小学生の頃から激しい運動にて息苦しくな
るため運動を避けていたが,日常生活に支障なか
った.H17年初旬頃から坂道を上がると息苦しく
て休まなければならなくなった.H17年11月15日
健診にて心電図異常を指摘され当院受診.【経過】
経胸壁心エコーにて左心房内に隔壁を認め,三心
房心を疑い経食道心エコー施行.拡大した副腔と
本来の左心房を隔てる異常隔壁,ならびに副腔か
ら本来の左心房への血流を認め,三心房心と診断
した.血流速度は2.21m/secであり,交通口の直
径は12.9mmであった.心臓カテーテル検査等を
行いLucas-Schmidt分類の1aと診断した.比較的
まれな先天性心疾患である三心房心を成人期に診
断した症例を経験したので報告する.
86) 大動脈,大動脈弁のhomograft,僧帽弁置換
術後5年後に死亡したウィリアムス症候群の剖検
所見
(県立広島病院循環器内科) 梶原賢太・
岡本光師・末田 隆・橋本正樹・槙田祐子・
藤井雄一・水津純江・岩本明倫
症例は21歳男性.ウイリアムス症候群の大動脈弁
上狭窄に対しPTAの既往あり.2000年に感染性
心内膜炎を罹患し,他院にてBentall術(同種の
血管,大動脈弁を移植),僧帽弁置換術(機械弁)
施行される.術後にくも膜下出血発症し,気管切
開し,在宅酸素療法,経管栄養始まる.2004年12
月9日に発熱認め,呼吸状態悪化し入院した.心
エコーでは大動脈弁の高度狭窄を認め,左室心筋
の著明な肥大と下大静脈の拡張を認めた.感染は
治療抵抗性で,2005年1月8日に死亡した.剖検
では著明な心筋肥大を認め,大動脈弁は石灰化が
高度に進み,弁の可動性はほとんど認めなかった.
左肺は隔壁形成を伴う胸膜炎のために膿胸とな
り,右肺は心不全によるうっ血を認めた.【結語】
大動脈,大動脈弁,僧帽弁置換術後のウイリアム
ス症候群の剖検例を経験したので報告する.
87) 成人修正大血管転位症の1症例
(喜多医師会病院循環器内科) 西村和久・
井上勝次・日浅 豪・山田忠克・住元 巧
症例は34歳,男性.幼少時より修正大血管転位症
と診断され心室中隔欠損症(VSD)と完全房室ブ
ロックを合併していたため5歳時に他院にてVSD
閉鎖術とペースメーカーリードの挿入を施行され
た.その後は自覚症状なく通常の生活が送れてい
た.しかし,平成13年11月にうっ血性心不全のた
め当院に入院し内服加療を開始された.平成18年
1月17日に慢性心不全と修正大血管転位症の精査
目的で入院した.心エコーでは解剖学的右室の拡
大とびまん性壁運動低下,III度の三尖弁閉鎖不
全を認めた.心臓カテーテル検査を施行し,肺高
血圧(51mmHg)と解剖学的右室の拡大やびまん
性壁運動低下,冠動脈造影検査でもanomaly(前
下行枝が右冠動脈から分岐)を認めた.3D-CTや
3Dエコーも同時に施行し,画像所見などを中心
に報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
88) 成人期の心房中隔欠損症に対するカテーテ
ル閉鎖術:Amplatzer Septal Occluderによる初期
成績
(岡山大学医学部歯学部附属病院循環器疾患治療部)
赤木禎治
(岡山大学小児医科学) 大月審一
(同循環器内科) 細木信吾・櫻木 悟・
谷口 学・丸尾 健
(同心臓血管外科) 笠原慎吾・
(同循環器内科) 石野幸三
(同心臓血管外科) 佐野俊二
【背景】小児期の心房中隔欠損症(ASD)に導入され
たカテーテル治療は,成人期の同疾患にも有効性が高
いことが報告されているが,国内での経験はない.
【対象】2005年10月より当院でカテーテル治療を施行
された20歳以上のASD 9例について初期治療成績を検
討した.年齢は21∼84歳(平均42歳)で,ASDの欠損
孔径は17mmから21mm(平均19mm),Qp/Qsは2.1か
ら3.2(平均2.4).これらの欠損孔に対して20mm(3
例)
,22mm(3例)
,もしくは24mm(3例)のAmplatzer
Septal Occluderで閉鎖術を行った.【成績】全例カテ
ーテル閉鎖術は可能であった.24時間後の経胸壁心エ
コーで8例は完全閉鎖,1例はわずかな残存短絡を認め
た.デバイス脱落,不整脈などの合併症は認めなかっ
た.【結論】成人の心房中隔欠損症においてもカテー
テル閉鎖術は有効である.
89) MDCTによる評価が石灰化心膜の状態把握
に有用であった収縮性心膜炎の1例
(愛媛県立今治病院循環器科) 河野珠美・
松岡 宏・川上秀生
(西条中央病院内科) 中村真胤
(愛媛県立今治病院循環器科) 小松次郎・
伊藤武俊
患者は80歳,男性.主訴は労作時息切れ.平成14
年胸水貯留の精査目的で他院より紹介.胸部X線
で心膜石灰化を認め,収縮性心膜炎を疑い入院.
単純CT検査で右室前面を中心に心膜石灰化を認
めた.心臓カテーテル検査等で収縮性心膜炎と診
断し,利尿剤投与で胸水の消失を認めたため,以
後外来通院中であった.平成18年2月,再度胸水
貯留を認め,再入院.心膜石灰化の範囲の拡大を
疑い,単純MDCTを施行.VR像で右室前面に著
明な石灰化を認めたが,左室側には石灰化はなく,
その範囲は以前と著変ないと思われた.ドプラ検
査でも右室流入路波型は拘束性障害を示したが,
左室流入路波型は拡張障害のみであった.利尿剤
増量と塩分制限,体重管理で胸水の減少を認めた
ため退院した.収縮性心膜炎の石灰化心膜の範囲
の把握にMDCTが有用であった.
91) 腎梗塞で発見された左房粘液腫の一例
(高知大学老年病科・循環器科) 星川英里・
矢部敏和・濱田知幸・田村親史郎・谷岡克敏・
大川真理・松村敬久・北岡裕章・西永正典・
土居義典
(同外科(二)) 割石精一郎・笹栗志朗
症例は38歳女性.突然の左眼視野障害と頭部MRI 【対象】当科で手術した腹部大動脈瘤(含 総腸骨
での多発性斑状影を認めたことから多発性硬化症
動脈瘤)100例中,待機単独手術58例.【方法】開
が疑われ,当院眼科へ紹介入院となる.ステロイ
腹法で手術し,IMAは原則再建.術後6時間で飲
ドパルス療法が施行されたが症状の改善はみられ
水,内服開始.翌日より食事,離床を基本として
なかった.入院第10病日,突然持続性の腹背部痛
いる.理学療法士が1対1で歩行指導.退院前に
が出現し,造影CTにて左腎梗塞と診断された. CT撮影.
【結果】在院死亡なし.食事は79.3%(46
聴診および心電図検査では異常を認めなかった
例),歩行は87.9%(51例)が術翌日に開始できた.
が,原因精査のために施行した心エコー図検査で
術後5日以上の絶食や一旦食事開始後に再絶食を
心房中隔に付着する径3×4cmの左房内腫瘤を認
要した症例は4例しかなく,全て保存的に軽快.
め,準緊急的に腫瘍摘出術が行われた.腫瘍は病
以後のイレウス反復例はない.退院は最短5日で,
理組織診で粘液腫と診断された.眼症状について
10日以内が70.6%(41例),15日以内が91.3%(53
も,最終的に虚血性視神経症と診断され,多発塞
例).術後合併症は乳びのう胞1例.一過性腎機能
障害3例.PAf3例.不眠などの精神障害は7例(12.0
栓症を合併していたと考えられた.左房粘液腫に
%)のみでいずれも軽微.
【結語】AAA術後の早期
合併する比較的稀な塞栓症について,若干の文献
離床は安全に行え,消化管機能の回復や精神症状
的考察も踏まえて報告する.
など予防や軽減,早期退院の実現に有効であった.
92) Primary cardiac lymphomaによる心タンポ
ナーデの一例
(松江赤十字病院循環器科) 西楽顕典・
塩出宣雄・城田欣也・石井裕繁・後藤賢治・
末成和義・三上慎祐
【症例】症例は90歳男性.2006年1月10日頃より下
腿の浮腫と倦怠感を自覚するようになった.呼吸
困難も出現したため1月29日に当院を受診した.
中等度の胸水と大量の心嚢液の貯留を認めたが血
行動態は安定していた.入院後次第に低血圧傾向
となったため,翌1月30日に心嚢穿刺を行うため
に心カテーテル室に入室した直後に心肺停止とな
った.直ちに心肺蘇生と心嚢液ドレナージを行っ
たが,自己心拍は再開せず死亡した.病理解剖の
結果Primary cardiac lymphomaによる心タンポナ
ーデが死因であると診断した.【結語】非常に稀
な原因による心タンポナーデ症例を経験した.
90) Harmonic scalpelが有用であった慢性収縮
性心膜炎の一手術例
(徳島県立中央病院心臓血管外科)
市川洋一・浦田将久・筑後文雄
(同循環器科) 山本 隆
93) 三尖弁腱索に発生したPapillary fibroelastoma
の1手術例
(心臓病センター榊原病院心臓血管外科)
都津川敏範・杭ノ瀬昌彦・吉鷹秀範・
津島義正・南 一司
症例は71歳の女性.食欲不振・全身倦怠感が出現
し,精査目的に当院内科に紹介.UCGにて心膜肥
厚と右室拡張障害を認め,心臓カテーテル検査で
右室拡張末期圧の上昇とdip-and-plateau型圧曲線
を認めた.慢性収縮性心膜炎と診断し,胸骨正中
切開にて手術を施行した.心拍動下にharmonic
scalpelを用い,心膜切除術を施行.心外膜の肥厚
もワッフル状に切開を行った.術中よりdip-andplateau型圧曲線は消失.心拍出量も著明に改善
し,術後経過は良好であった.収縮性心膜炎手術
に際して,心膜切除さらに心外膜及び脂肪の切開
にharmonic scalpelが非常に有用であり,安全か
つ容易に手術を施行することができたので報告す
る.
今回我々は三尖弁腱索に発生したPapillary fibroelastomaの1例を経験したので報告する.症例は
69歳,男性.既往歴にC型慢性肝炎あり.H17年
8月全身倦怠感が出現し,9月に胸部不快感も認
められた.冠動脈造影では有意狭窄なく経過観察
となっていたが,10月になり胸部不快感が再度出
現.心エコーで右心室に可動性のある1cm大の
腫瘤を認め,準緊急で腫瘍摘出術を施行した.腫
瘍は三尖弁前尖の腱索から発生しており,腱索部
分を含めて切除した.術後大きな合併症もなく,
術後15日目に退院となった.病理組織学検査で,
腫瘍表層はendocardial cellに被覆され,被覆細胞
下は硝子化と粘液状変化を伴う基質からなってお
り,papillary fibroelastomaと診断した.三尖弁
腱索から発生したPapillary fibroelastomaは稀で
あり,文献的考察と共に報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
94) 標準開腹法による腹部大動脈瘤手術におけ
る早期離床の検討
(近森会近森病院心臓血管外科) 池淵正彦・
末澤孝徳・入江博之
(同循環器内科) 關 秀一・窪川渉一・
川井和哉・浜重直久
95) 大動脈瘤治療時endograftのporosityはsac
pressureに関係するか?
(川崎医科大学胸部心臓血管外科) 金岡祐司
(Montefiore Medical Center) 大木隆生
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
種本和雄・正木久男・浜中荘平
動脈瘤に対する血管内治療(EVAR)後のsac
pressureは治療経過を観察する上で重要な予測因
子である.AneuRxはType4及び5のendoleakを軽
減するためにグラフトの素材をlow porosityの
Resilient AneuRxに変更した.慢性イヌ動脈瘤モ
デルを使ってStandard AneuRx(STA)とResilient
AneuRx(RSA)の治療後のsac pressureを比較
検討した.RSAを用いた方がSTAを用いたよりも
EVAR後のsac pressureは低値であった.グラフト
素材のporosityはEVAR後のsac pressureを左右す
る重要な因子のひとつと考えられた.Low porosity
のグラフトの方がsac pressureは低く,EVARの
deviceとしてはlow porosityのほうが有用である
と思われた.
96) 外傷性胸部大動脈損傷に対するステントグ
ラフト内挿術
(国立病院機構岡山医療センター心臓血管外科)
中井幹三・越智吉樹・岡田正比呂
鈍的外傷による胸部大動脈峡部損傷では,骨折な
どの多発外傷を随伴することが多いため,人工心
肺使用手術と比べて出血性合併症を軽減できるス
テントグラフト(SG)内挿術の治療効果が注目さ
れている.今回,交通事故により本外傷を負った
3例を経験し,SG内挿術により良好な結果を得た
ので報告する.症例1は,76歳男性.空腸穿孔を
合併.症例2は,67歳女性.肺挫傷・下腿開放性
骨折・前腕骨折を合併.症例3は,73歳女性.頚
椎亜脱臼骨折・大腿骨骨折・肋骨骨折を合併.受
傷からSG内挿までの時間は,各々12,16,14時
間,出血量は,平均約500mlであった.全例,初
期成功が得られ,SG内挿術に伴う合併症を認めな
かった.術後平均観察期間1年6ヶ月間で3例と
もエンドリークやSG移動などの合併症は認めてい
ない.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1159
97) 重症肺炎を合併したMarfan症候群症例に
対する大動脈基部置換手術
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
金岡祐司・浜中荘平・稲垣英一郎・正木久男・
種本和雄
(同循環器内科学) 岡橋典子・山田亮太郎・
吉田 清
【症例】症例は31歳,男性,Marfan症候群.呼吸
困難で発症し,他院でレジオネラ肺炎として加療
されていたが軽快しないため転院となった.気管
切開されており人工呼吸中であったが心エコーで
AAE,massiveARで上行弓部に解離を認めた.
感染のコントロール,気管切開部の閉鎖を企図し
たが心不全のコントロールがつかずに手術を行っ
た.リファンピシン含浸のGelweave Valsalva
graftとON-X valveを用いて大動脈基部置換を行
った.
98) 胸部下行置換後の吻合部瘤破裂に対してオ
ープンステントを用いた1例
(倉敷中央病院心臓血管外科) 菅野勝義・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
中村裕昌・古川智邦・松下明仁・砂川玄悟・
村下貴志
胸部下行大動脈置換後に仮性大動脈瘤破裂を発症
した患者に対し,外科的ステントグラフト留置術
を施行し救命し得た1例を経験した.患者は69歳
女性,他院にて10年前に胸部下行大動脈瘤に対し
人工血管置換術施行.喀血を主訴に来院,ショッ
ク状態,CTで中枢側吻合部の破裂と診断し,緊急
手術施行した.破裂部位は小湾側にあるため直視
は不可能で血管内より内視鏡を用いて破裂部位を
確認した.視野が深く,癒着もあるため正中から
の末梢側吻合は不可能と判断し,ステント付きグ
ラフト(30mm)を人工血管吻合部に内挿した.瘤
化した弓部大動脈は人工血管で置換した.術後,
対麻痺,人工血管感染,エンドリークを認めなか
った.本症例においてステント付きグラフトの使
用は救命に有効であった.
99) 腹部手術既往を有する腹部大動脈瘤の手術
アプローチ選択について
(倉敷中央病院心臓血管外科) 中村裕昌・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
古川智邦・松下明仁・砂川玄悟・村下貴志・
菅野勝義
【目的】開腹歴を持つ腹部大動脈瘤に対して,到
達法の比較検討を行った.【対象】2000年1月より
2006年2月までに施行した腹部大動脈瘤手術のう
ち,緊急を除く開腹歴の既往のある60例.正中切
開到達法(A群)は25例,後腹膜到達法(B群)
は31例,傍腹直筋到達法は4例であり,A群,B群
について比較検討を行った.【結果】悪性疾患の
切除術の既往はB群で多かった(A群2例,B群16
例,P<0.01)が,手術時間・出血量に差は認め
なかった.消化管合併症は5例,3例であった.水
分,食事開始時間に差は認めなかった.A群に腸
管損傷をきたし手術を中止した症例が1例,死亡
はB群で1例あった.【結語】癒着が強い症例に対
して後腹膜到達法で行うことにより,腸管損傷を
きたすことなく安全に手術を行なえる.
1160
第 88 回中国・四国合同地方会
100) 当 院 に お け る 重 症 急 性 大 動 脈 解 離 症
(Stanford A)の治療成績
(広島市立広島市民病院心臓血管外科)
柚木継二・吉田英生・久持邦和・二神大介・
海老島宏典・峰 良成・大庭 治
【目的】急性大動脈解離症(Stanford A)の手術
成績は安定しているが,重症例(ショック・高齢
者・臓器虚血合併)は不良である.今回当科の
Stanford A症例を検討したので報告する.【対象】
1992年1月より2006年3月の期間で施行した胸部大
動脈瘤手術は476例で,この期間に手術した
Stanford A 85例を対象とした.【結果】重症例は
58例(80歳以上7例,ショック40例,臓器虚血例
24例,重複あり).年齢は28∼89歳(平均66歳).
虚血臓器は冠動脈2例,頸動脈18例,腸管0例,腎
5例,四肢4例(重複例あり).術式は基部再建併
施10例,弓部置換併施61例.手術成績は全体で6
例/85例(7.1%),対象群0例/27例(0%),重症群
6例/58例(10.3%),臓器虚血群5例/24例(21%)
であった.【まとめ】臓器虚血例は重篤であり,
手術適応・時期を含めて検討する必要がある.
101) 慢性大動脈解離に対する末梢側double barrel
吻合の経験
(島根県立中央病院心臓血管外科)
糸原孝明・北野忠志・山内正信・中山健吾
DeBakey IIIb型慢性大動脈解離に対し,置換部位
を下行大動脈までにとどめ,末梢側吻合をdouble
barrelに行った2例を経験した.【症例1】61才男
性.H11年DeBakey IIIb型解離発症.H16年腹部
大動脈瘤57mmと拡大したため,Yグラフト置換
術施行(中枢側double barrel吻合)
,H17年11月弓
部大動脈瘤65mmと拡大したため,超低体温循環
停止下に下行大動脈置換術施行.
【症例2】72才女
性.H13年DeBakey IIIbR型解離発症し,解離腔
が血栓閉塞した上行大動脈が拡大したため,上
行・弓部大動脈置換術施行.H18年2月弓部大動
脈瘤65mmと拡大したため,部分体外循環下に下
行大動脈置換術施行.2例とも末梢側はdouble
barrel吻合した.手術を分割することで低侵襲で,
対麻痺回避が可能であった.
102) 胸部下行大動脈のpenetrating atherosclerotic
ulcer(PAU)が慢性期に破裂にいたった一例
(広島市立安佐市民病院心臓血管外科)
柴村英典・内田直里・岩子 寛・嶋田徳光
103) Bentall手術後に,急性大動脈解離IIIb-Rを
発症したマルファン症候群の1例
(広島市立安佐市民病院心臓血管外科)
嶋田徳光・内田直里・柴村英典・岩子 寛
32歳女性.高度大動脈弁閉鎖不全を伴う大動脈弁
輪拡張症に対してBentall手術行い,第27病日に
退院した.第39病日に急性大動脈解離IIIb-Rを発
症.下行大動脈にエントリ−を持ち,偽腔は高度
に真腔を圧排し,腎動脈の末梢で腹部大動脈真腔
は閉塞していた.来院時のCTで弓部大動脈にも
解離進展を認め,また来院後も背部の疼痛持続し
ていたため,中枢側解離の進展および下半身臓器
虚血の進展を危惧して,緊急手術となった.胸骨
正中切開にて弓部置換術+open stent grafting施
行した.術中ステントグラフトが偽腔内挿入にな
ったため,心臓を脱転してpull through法に準じ
て胸部下行大動脈へステントグラフトを固定し
た.術後経過は良好であった.手術適応および手
術方法について討論したい.
104) 脊 髄 梗 塞 を 合 併 し た 急 性 大 動 脈 解 離
(Stanford B型)の一例
(川崎医科大学循環器内科学) 鼠尾晋太郎・
岡橋典子・小山雄士・豊田英嗣・渡辺 望・
川元隆弘・大倉宏之・吉田 清
症例は70歳男性.約10年前から高血圧を指摘され
ていたが放置していた.2006年2月19日椅子に座
った際,突然,冷汗を伴った激しい背部痛を自覚
し近医を受診した.胸腹部造影CTにて大動脈弓
遠位部から総腸骨動脈にかけての急性大動脈解離
(Stanford B型)を認め,当院へ救急搬送された.
入院時,臓器虚血症状はなく,降圧療法を開始し
たが,入院4時間後より両下肢のしびれ,脱力感
を自覚し,胸腰髄MRIでは下部胸髄から上部腰髄
にかけて梗塞像を認めた.前脊髄動脈領域の虚血
をきたしたものと考え,脊髄ドレナージ,ステロ
イドパルス療法を施行した.今回,我々は急性大
動脈解離に脊髄梗塞を合併した稀有な症例を経験
したので報告する.
105) DES時代のCABG −当院における近況−
(国立病院機構岩国医療センター心臓血管外科)
大谷 悟・村上貴志・山本 剛・小山 裕
【目的】DESの発売と共にCABGを取り巻く環境は
胸部下行大動脈の無症状のfocal ulcerationが破裂
大きく変化した.CABGの激減という悲観的な意
した症例を経験したので報告する.症例は82歳,
見も聞かれる中,当院では増加傾向にある【治療
男性.検診にて径4.5cmの遠位弓部大動脈嚢状瘤
戦略】CABG+DES(hybrid therapy)を積極的に
を指摘されており,保存的に経過観察を行ってい
導入【成績】CABG症例をDES導入前群(以下BD
た.無症状で経過していたが,半年後突然の背部
群),DES導入後群(以下AD群)で比較.平均症
痛が出現し,出血性ショックの状態で救急搬送さ
例数:AD群はBD群の151%(76/50.25),平均
れた.緊急CTで弓部大動脈の瘤ではなく胸部下
graft枝数は両群間で有意差を認めないものの一
行大動脈のpenetrating atherosclerotic ulcerの破
枝bypassの増加傾向を認めた.死亡・合併症は有
裂と診断,緊急胸部下行大動脈人工血管置換術を
意差認めず(AD群:中枢神経系の合併症認めず)
施行した.術後経過は良好であった.半年前の 【まとめ】循環器内科と心臓血管外科がCABG,
CTでは胸部下行大動脈の径は正常であったが, DESそれぞれの特徴を再認識することにより高
幅11mm,深さ7mmの潰瘍を認めており,この病
次元での治療が可能である.結果,high risk症例
変が進行したため破裂にいたったものと考えられ
をより安全に施行できると考える.また従来型
た.
STENTの適応であった病変がDESの不適病変と
なることもありCABGの適応について再考の余地
がある
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
106) 特発性血小板減少性紫斑病,胆嚢炎を合併
した冠動脈疾患に対し,OPCAB,胆摘,脾摘を
一期的に施行した1例
(愛媛大学第二外科) 流郷昌裕・今川 弘・
塩崎隆博・河内寛治
109) 慢性維持透析患者における心臓手術の検討
(近森会近森病院心臓血管外科) 池淵正彦・
末澤孝徳・入江博之
(同循環器内科) 關 秀一・窪川渉一・
川井和哉・浜重直久
112) HOCMに合併したMR,Afに対して僧帽弁
置換術およびMaze手術等を施行した1例
(徳山中央病院循環器内科) 藤井佳美・
小川 宏・分山隆敏・高木 昭・岩見孝景・
木村征靖・明石晋太郎・松田 晋・宮崎要介
症例は73歳男性.平成16年10月,胆嚢炎,血小板
減少症の精査目的で当科に紹介され,術前精査に
て特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と判明した.
また術前よりanginaを認め,CAGにて3枝病変を
認めたため,OPCABの適応と判断した.また
ITPについては,ステロイド療法の効果も少ない
ため,脾摘術の適応と判断した.この症例に対し
て,二期的手術では,脾摘術を先行した場合には
周術期のcoronary event発生の危険があり,また
OPCAB先行では血小板減少に伴う術後出血の可
能性があるため,一期的手術を行う方針とした.
同年11月29日,OPCAB+胆嚢・脾臓摘出術を施
行した.術後,anginaは消失,血小板数は20万/
mm3以上に上昇し,経過良好にて12月28日に転院
した.
当科の心臓手術693例のうち,術前から維持透析
中の33例(待機29例,緊急4例)を検討(術直前の
透析導入例を含まず)
.手術はCABG19例,CABG
+AVR2例,AVR6例,MVR4例,MVR+TAP1例,
MAP1例(虚血性MR).術前合併疾患は高血圧30
例(90.9%),糖尿病9例(27.2%),脳梗塞7例
(21.2%)で,PCI既往6例(18.1%),CABG既往1
例(3.0%).CABGのうち待機例の3例に心拍動
下手術.手術室抜管が16例(待機14,緊急2例).
在院死亡は待機例2/29例(6.8%),緊急例2/4例
(50.0%).術後合併症はPAf11例(33.3%),痙
攣やミオクローヌス発作9例(27.2%),せん妄8
例(24.2%),胸水貯留8例(24.2%:うちドレナ
ージ4例)など.透析症例の心臓手術は合併症が
多い傾向にあったが,緊急に比し待機手術の死亡
率は低く,時期を逸さずに待機的に手術を行うべ
きである.
HOCMに合併したMRとAfに対して,MVRおよび
Maze手術等を施行し良好な結果を得たので報告
する.【症例】61歳女性.HOCMに合併するMR,
TR,CHFのため当院通院中であった.1年前よ
りAfが出現.その後CHFの増悪のため入退院を繰
り返していた.1ヶ月前より心不全症状が増悪し
たため入院.右心カテでlow output,又MR2∼3°
を
認めた.EFは良好であった.MVR,TAP,左房
縫縮術およびMaze手術を施行.経過良好で心不
全症状も消失,CO2.5から3.5へと著明な改善を認
めた.【まとめ】MR,Afによるlow outputがCHF
増悪の原因と考えられた.薬剤によるコントロー
ルが困難な場合,手術によってoutput増加を図る
ことがHOCMの心不全治療に有用と考えられる.
110) 僧帽弁輪拡大のみによる僧帽弁逆流症例の
1手術例
(県立広島病院胸部心臓血管外科)
浜中喜晴・三井法真・平井伸司・上神慎之介・
松浦陽介
113) 左室流出路狭窄を伴う僧帽弁閉鎖不全症に
対する手術症例
(倉敷中央病院心臓血管外科) 村下貴志・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
中村裕昌・古川智邦・松下明仁・砂川玄悟・
菅野勝義
107) 両側内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術
(倉敷中央病院心臓血管外科) 松下明仁・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
中村裕昌・古川智邦・村下貴志・砂川玄悟・
菅野勝義
多枝病変の冠動脈バイパス術において両側内胸動
脈使用により良好な成績が期待される.当科での
2001年1月1日から2005年12月31日までの単独冠動
脈バイパス手術施行455例のうち両側内胸動脈グ
ラフトを使用した117例を対象とし成績を評価し
た.117例のうち72例で両側内胸動脈をin situとし
て使用し,45例で内胸動脈をfree graftとして使用
した(左内胸動脈6本,右内胸動脈39本).近接期
グラフト開存率はin situ両側内胸動脈で98.6%であ
り,左内胸動脈のみなら100%であった.Free graft
は84.4%であった.両側内胸動脈使用の遠隔期心
イベント回避率は95.2%と良好な成績を得た.遠
隔期生存率は95.2%(追跡期間19.6±15.7ヶ月)
であった.
【はじめに】僧帽弁逸脱や虚血性を原因としない
僧帽弁輪拡大のみを病因とする僧帽弁逆流症例が
Rankinらによって21例報告されている.その特徴
は若い(平均60歳)女性に多く(95.2%),弁尖
が小さく,高い合併症率(高血圧,慢性腎不全な
ど)を有しており,急性発症(33%)で左室機能
不全(33%)を呈する頻度が高いという.今回原
因のはっきりしない弁輪拡大症例を経験したので
報告する【症例】20歳女性.身長148.5cm,体重
43kg.全身倦怠感を訴え受診,心エコー検査で
僧帽弁弁輪拡大を認め僧帽弁逆流4度,EFは65%
と保たれていたが,LVDd:66.8mm,LADs:56.7
mmと著明な拡大を認めた.手術では弁尖に異常
を認めず,人工弁輪を用いた弁輪縫縮のみで逆流
は消失した.術後LVDd:45.9mm,LADs:38.8mm
と縮小し,軽快退院した.
108) 虚血性僧帽弁逆流に対し僧帽弁形成術,左
室形成術を施行した一例
(徳山中央病院循環器内科) 宮崎要介・
小川 宏・分山隆敏・高木 昭・岩見孝景・
木村征靖・明石晋太郎・松田 晋
111) 僧房弁形成術とmaze手術により発作性心
房細動のコントロールが良好となった症例
(総合病院福島生協病院) 湯谷 剛・
石橋 寛
(JA広島総合病院心臓外科) 中尾達也
症例は63歳男性.陳旧性心筋梗塞による急性心不
全で入院した.心臓カテーテル検査で#6 100%を
認めたがviabilityに乏しくPCIは施行しなかった.
合併症で心房粗動を生じアミオダロンを投与した
が間質性肺炎を発症した.このためのprecapillary PHと虚血性僧帽弁逆流によるpost capillary
PHのため著明な肺高血圧(肺動脈収縮期圧:約
100mmHg)を認め,慢性心不全の増悪で入退院
を繰り返すようになった.薬物療法では心不全の
コントロールが困難であったため外科的治療を考
慮した.ニトロプルシッド負荷による僧帽弁逆流
消失により,虚血性僧帽弁逆流による肺動脈圧低
下(約20mmHg)を確認できたため,僧帽弁形成
術,左室形成術を施行した.術後は壁運動に変化
はなかったが,肺動脈圧の低下と心拍出量の増加
により薬物療法での心不全のコントロールが可能
となった.
症例は72歳女性.高血圧,僧房弁閉鎖不全症を呈
し,発作性心房細動による胸部不快感,動悸を繰
り返し,薬物療法が行われていたが,コントロー
ル困難で度々直流除細動が行われていた.経胸壁
心エコー及び経食道心エコーにより,僧房弁前尖
の逸脱と診断し,平成16年僧房弁形成術とmaze
手術が施行された.術後発作性心房細動による症
状は消失し,現在では薬物療法も不要であり,日
常のQOL著しく向上した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
患者は82歳,女性.術前NYHA 4,心エコーにて
僧 房 弁 弁 輪 石 灰 化 ( M A C ), 収 縮 期 前 方 運 動
(SAM),左室流出路狭窄(LVOTO),僧房弁後
尖の逸脱を認めた.手術は,体外循環開始後,上
行大動脈を遮断.上行大動脈を切開し,経大動脈
弁越しに前尖弁輪部の石灰化を切除し,前尖の可
動性を改善させた.また,左室中隔心筋を切除し,
LVOTOを解除した.僧房弁弁輪部は約32mmと
拡大しており,Physio ring 26mmを縫着した.
P3交連部近くに腱索断裂を認め,同部の弁尖を
切除した.術後の心エコーでは前尖の可動性は改
善し,LVOTOは解除され,流速4.2m/sから
1.9m/sまで軽減した.MRとSAMは軽度残存した
が,NYHA1まで自覚症状が改善した.
114) 三次元画像解析ソフトReal View®を用いた
人工弁輪サイズの計測
(川崎医科大学附属病院循環器内科)
岡橋典子・渡辺 望・和田希美・久米輝善・
川元隆弘・豊田英嗣・大倉宏之・吉田 清
(川崎医科大学医用工学) 小笠原康夫
【背景】近年,僧帽弁疾患に対し弁形成や弁輪形
成が積極的に行われるようになってきた.我々は,
経胸壁リアルタイム3D心エコー図画像により僧帽
弁,弁輪の形状を定量解析できるソフトを開発し
た.【目的】臨床用人工弁輪を用いて,三次元定
量解析ソフトReal View®による計測値の精度を検
証する.【方法】ファントム実験装置を用いて,
既知のサイズの人工弁輪(Physio Ring24-36mm)
の三次元画像を記録した.Real View ® を用いて各
弁輪の周囲長,リングサイズを計測し既知のサイ
ズと比較した.【結果】計7サイズの弁輪周囲長,
リング径はそれぞれy=1.01x+0.55,r=0.98,y=
0.93x+0.32,r=0.98と良好な一致を認めた.【結論】
Real View®により正確に人工弁輪のサイズを計測
することができ,術前・術後を含め,様々な僧帽
弁疾患の形態的評価に貢献すると考えられる.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1161
115) SJM弁(HP)による大動脈弁置換術施行5
年後に弁機能不全を認めた一剖検例
(島根県立中央病院循環器科) 大野 誠・
小田 強・久岡隆行・板垣和男・和田靖明・
金本将司
(同心臓血管外科) 中山健吾・山内正信・
北野忠志・糸原孝明
74歳女性.2000年3月より労作時狭心症状を自覚
していた.11月に市中病院へ精査目的にて紹介さ
れ,severe ASとAP(LAD#7:90%)を指摘され
た.同院にてAVR(SJM弁HP)+CABGを施行さ
れた.2005年12月に突然呼吸苦を訴え当院へ緊急
搬送された.外来検査にて心不全増悪を認め当科
入院となった.心エコー上著明なLV-Ao圧較差と
左室後壁の無収縮を認めた.大動脈人工弁機能不
全,OMIに伴う慢性心不全の増悪と診断し心不全
治療を開始した.ADLの低さなどから手術適応は
ないと判断し内科治療継続で経過をみるも心不全
軽快みられず,入院12日目に永眠された.剖検に
て大動脈機械弁の両側hinge部にpannusの過増生
を認め,著明な弁の開閉制限を来していた.
118) Porcelain aorta,高度僧房弁輪石灰化を伴
うAS,MR症例に対する2弁置換術の1例
(倉敷中央病院心臓血管外科) 砂川玄悟・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
中村裕昌・古川智邦・松下明仁・村下貴志・
菅野勝義
大動脈遮断不可能なporcelain aorta及び大動脈弁
・僧帽弁輪の高度石灰化を有する症例を経験した
ので報告する.74歳女性.労作時胸痛があり,エ
コーでsevere AS,moderate MRを指摘され,CT
で大動脈・大動脈弁・僧帽弁輪の高度石灰化を認
めた.手術 低体温下で循環停止し,上行大動脈
を切開.上行大動脈は石灰化内膜のみを一部切除
し,残した外膜を内側に折りたたみ,フェルトで
補強して人工血管と吻合した.大動脈弁は冠動脈
の下部に石灰化がなかったため,Freestyle弁19
mmを使用.僧帽弁に関しては前尖を全て切除し,
後尖は弁輪石灰化除去が困難なため弁尖そのもの
にMosaic 25mmを縫着.更にPVL予防目的で後尖
側のみ人工弁cuffに心膜パッチを縫着し,これを
左房壁に縫着した.
121) 右総腸骨動脈瘤静脈穿破の一例
(徳島赤十字病院心臓血管外科) 大谷享史
症例は79歳,男性.労作時,食後に胸腹部の圧迫
感があり,狭心症を疑い緊急入院.胸部写真で軽
度のうっ血像を認め,入院後に腹部血管雑音が増
強.血管造影を施行.右総腸骨動脈瘤から静脈へ
のシャントを認め,右総腸骨動脈瘤破裂と診断.
緊急手術を施行.動脈瘤は腎動脈下から,両側内
腸骨動脈まで認めた.手術は経腹膜経路で,腎動
脈下と両側内外腸骨動脈で遮断.切開すると,動
脈瘤内に,6∼7mm大の穿破孔を認めた.6Frの
バルーンにて出血をコントロールしながら,穿破
孔を閉鎖.Y graftで置換.術前の容量負荷によ
る,急性心不全のため,少量のカテコラミン,利
尿剤を必要としたが,翌日抜管し,術後9日目に
退院した.穿破孔からの出血を,バルーンにてコ
ントロールすることで良好な視野での手術が可能
となり救命できた.
116) 大 動 脈 弁 狭 窄 症 の 急 速 な 進 行 を 認 め た
Scheie症候群の1例
(高知大学老年病科・循環器科) 濱川公祐・
久保 亨・田村親史郎・寺内靖順・大川真理・
松村敬久・北岡裕章・矢部敏和・高田 淳・
西永正典・土居義典
(同心臓血管外科) 割石精一郎・笹栗志朗
119) 大動脈基部拡大に対する外科治療
(倉敷中央病院心臓血管外科) 古川智邦・
小宮達彦・田村暢成・坂口元一・小林 平・
中村裕昌・松下明仁・村下貴志・砂川玄悟・
菅野勝義
【対象・方法】2000年1月から2006年3月までの間
に,当科で大動脈基部再建術を行った大動脈弁輪
症例は28歳男性.14歳時にScheie症候群(ムコ多
拡張症例(計23例)について,Bentall(機械弁+
糖症1型)の確定診断をうけている.ムコ多糖症
stented生体弁)群(7例)
・Bentall(stentless生体
は合併する心疾患として弁膜症が最も多いが,弁
弁)群(9例)
・Remodeling群(5例)
・Reimplantation
膜症の外科的治療の報告は比較的まれである.本
群(2例)に分けて,術中・術後成績を比較検討
した.【結果】術中および術後出血は,Bentall
症例は2004年3月より当院でフォローアップとな
り,心エコー検査にて左室−大動脈平均圧較差 (stentless生体弁)群で少ない傾向で,特にMiniroot法で手術を行った症例では,術中出血量を他
39mmHgの大動脈弁狭窄症を認めていた.2005年
群の1/2∼4に抑えることが出来,手術時間も短い
11月に失神発作があり,入院精査にて大動脈弁狭
傾向であった.【考察】Freestyle弁を使用した
窄症は心エコー上で平均圧較差64mmHgと進行を
Mini-root法によるBentall手術は出血量の減少や
認めた.それ以外の失神の原因は指摘できなかっ
た.その後も,労作時に繰り返す失神を認め, 手術時間短縮に有用な手法であると考えた.
2006年2月に大動脈弁置換術を施行し術後経過は
良好である.大動脈弁狭窄症の急速な進行を認め
たScheie症候群の1例を経験したので若干の考察
を加えて報告する.
足部難治性潰瘍を伴ったPNに対して血行再建術
を行い良好に経過した1例を経験したので報告す
る.症例は64歳,男性.5年前にPNと診断され
治療を受けていたが,6ヶ月前から左足部に潰瘍
形成あり,治癒しないため紹介入院となった.動
脈造影では左下腿3分枝は閉塞し,collateralにて
足関節付近の足背,後脛骨動脈描出.安静時疼痛
あり,TcPO2が左足背1mmHg,左下腿5mmHg
と低値.患肢温存のため血行再建術を行った.
saphenous vein graftを用いて,左膝下膝窩-前脛
骨動脈バイパス術,第4趾切断術施行.術後安静
時疼痛は軽快し,潰瘍も治癒傾向がみられた.術
後動脈造影でもbypass graftは良好に開存してい
た.PNに伴う重症虚血肢に対しても,血行再建
術を考慮すべきである.
117) 大動脈弁狭窄症に対する当院の手術戦略
−弁選択基準 1.3×BSA cm2の有用性−
(山口大学器官病態外科学心臓外科)
鈴木 亮・村上雅憲・小林俊郎・白澤文吾・
伊東博史・美甘章仁・濱野公一
120) 交通外傷による右室破裂から救命し得た
Fallot四徴症根治術後の1例
(岡山大学心臓血管外科) 藤井泰宏・
佐野俊二・赤木禎治・石野幸三・泉本浩史・
笠原真悟・神吉和重・吉積 功・黒子洋介・
桜井 茂
123) 臍帯静脈グラフトによる大腿膝窩動脈バイ
パス術後に動脈瘤形成および破裂を生じた一例
(県立広島病院胸部外科) 三井法真・
濱中喜晴・平井伸司・森藤清彦・上神慎之介
【背景】当院では大動脈置換術(AVR)の際,機
械弁の場合は1.3×体表面積cm2以上の幾何学的弁
口面積を有する人工弁,高齢者では生体弁を選択
することとしている.【目的】大動脈弁狭窄症
(AS)に対するAVR症例において,当院の弁選択
基準が遠隔期の心機能,予後に影響するか否かを
知ること.【対象と方法】当院でASに対して施行
したAVR96例を対象とした.当院における弁選
択基準で2群に分類し遠隔期の予後,心機能を比
較検討した.【結果】術前状態は両群間に有意差
を認めなかった.累積生存率,及び心関連イベン
ト回避率は基準未満の人工弁を使用した群で悪化
した.また,遠隔期の圧較差が基準未満の人工弁
を使用した群で有意に高かった.【結語】当院に
おける弁選択基準は妥当であった.
1162
第 88 回中国・四国合同地方会
35歳,男性.8歳時にFallot四徴症根治術を施行
されている.2005年11月,バイクで転倒.他院に
救急搬送され,胸部造影CTにて右室壁破裂,左
胸内気腫,右肋骨骨折が確認されたが,心タンポ
ナーデへの進行は回避されていた.当院搬送され,
同日緊急右室修復術を施行した.覚醒下にF-Fバ
イパスで体外循環確立後,全身麻酔を導入した.
右室前面に2箇所裂傷を認め,それを縫合閉鎖し
た.肺損傷は認めなかった.術後,尿量確保が困
難で一過性に透析を要し,また炎症反応の改善に
は時間を要したが,有意な心室性不整脈の合併を
認めることなく術後40日目に軽快退院した.Fallot
四徴症根治術後であったことが外傷性心破裂をき
たしたにもかかわらず救命可能であった要因と推
測され,画像診断の重要性および治療上の注意点
等について報告する.
122) 足部難治性潰瘍を伴った結節性動脈周囲炎
(PN)に対して血行再建術を行った1例
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
久保陽司・正木久男・柚木靖弘・田淵 篤・
金岡祐司・濱中荘平・稲垣英一郎・種本和雄
症例は79歳,男性.12年前に左腋窩大腿動脈バイ
パスおよび臍帯静脈グラフトによる両側大腿膝窩
動脈(F-P)バイパス術を施行した.6年前の血
管造影にて左F-Pバイパスグラフトに瘤形成を認
めたため,臍帯静脈グラフトをダクロン製人工血
管にて置換した.この際末梢側は臍帯静脈グラフ
トを一部残してこの断端に新たな人工血管を吻合
した.今回左下腿部の腫脹,疼痛を主訴に他院へ
入院,著明な貧血を認めたが,諸検査にて原因は
特定できず当院へ転院となった.転院後のCTに
て左F-Pバイパスグラフト末梢端に動脈瘤形成を
認めたが,破裂の所見は明らかでなかった.1週
間後左臀部から大腿部の腫脹,疼痛とともに再度
貧血を生じた.CTおよび血管造影にてこの動脈
瘤の破裂と診断,動脈瘤を含めて残存する臍帯静
脈グラフトを人工血管にて置換した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
124) 下大静脈内進展腎腫瘍の外科切除症例の検討
(広島大学病院心臓血管外科) 渡橋和政・
末田泰二郎・岡田健志・今井克彦
【目的】下大静脈内進展腎腫瘍の外科切除症例を
検討した.【対象・方法】対象は29症例.進達度
(Novick分類level 1-4)は8,9,9,3例.単純
遮断(S群)10例,部分バイパス(P群)6例,循
環停止(C群)13例で腫瘍を摘出.【結果】P群
の1例が術中肺塞栓で死亡.手術時間はC群で長
かった(S群,P群,C群:345.3,441.7,537.3
分)が出血量はP群で多かった(1940.0,2970.0,
2313.3mL).S群の1例が局所再発した腫瘍の肺
塞栓で死亡.C群では進達度が高いが(平均level
1.5,1.8,3.0),局所再発が少なく(20.0,16.7,
0.0%),5年生存率は良好であった(50.0,20.0,
80.0%).【結語】C群では侵襲が大きく手術時間
は長いが,術中肺塞栓を回避し無血視野で腫瘍を
完全摘出でき予後が良好であった.
125) 化膿性脊椎炎を合併した腸球菌による感染
性心内膜炎の一例
(徳島県立中央病院循環器科) 原田顕治・
藤永裕之・奥村宇信・蔭山徳人・斎藤彰浩・
井内貴彦・山本 隆・河原啓治
(同心臓血管外科) 市川洋一・筑後文雄
感染性心内膜炎(IE)に化膿性脊椎炎(PS)の
合併報告例は少なく,その起因菌が腸球菌である
例は稀である.今回我々はそのような症例を経験
したので報告する.66歳,男性.平成17年11月下
旬から腰痛が出現し近医入院.発熱,呼吸困難も
出現し起立不能となる.平成18年1月23日に当院
内科へ不明熱精査にて入院となる.心臓超音波検
査にて僧帽弁前尖および大動脈弁に疣腫の付着を
認め,高度の弁逆流を伴っていた.血液培養で
enterococcus faecalisが検出され,IEと診断し当
科転科となる.MRIにても腰椎にPSの合併所見
も認めた.高度の心不全に加え,疣腫による塞栓
の危険性が高く,両弁置換術が施行された.術後
は良好に経過し,PSは保存的に加療中である.
感染経路は不明だが,歯周病を認めることや,糞
便処理作業への従事等との関連も考慮される.
127) 健常者に発症した難治性MRSA感染性心内
膜炎の1例
(岡山労災病院循環器科) 加地容子・
津田佳穂・難波靖治・大家政志
症例は52歳男性.遷延する40度代の発熱と右前胸
部の腫脹を主訴に当院受診.受診時,血液検査に
て白血球数,CRP値の上昇を認め,胸部CT,MRI
にて右大胸筋膿瘍を認めたため精査目的にて入院
となった.入院後,静脈血培養にてMRSAが検出
され,心臓超音波検査にて重度僧帽弁逆流と僧帽
弁前尖に付着する疣腫を確認され感染性心内膜炎
の診断となった.バンコマイシン2g/day投与に
て感染徴候改善せず,リネゾリド1200mg/day投
与にて一旦熱型,炎症所見とも改善を認めたが,
その後,再び39度代の発熱を認めたため心臓血管
外科受診し僧帽弁形成術施行となった.今回我々
は健常人に発生したMRSAを起炎菌とした感染性
心内膜炎の一例を経験したので若干の文献的考察
を加えて報告する.
128) 最近経験した感染性心内膜炎の2例
(広島市民病院) 二神大介・吉田英生・
久持邦和・柚木継二・峰 良成・海老島宏典・
大庭 治
感染性心内膜炎は,器質的心疾患が素地となり,
弁膜または弁輪部に感染巣を有し,急激な発症,
急速な心不全の進行を特徴とする病態である.今
回,我々は経過の特異的な感染性心内膜炎の症例
を2例経験したので報告する.症例1は53歳男性.
透析性脊椎症にて入院中,原因不明のCRP上昇を
認めた.精査中にMRIにて化膿性脊椎炎,心エコ
ーにて大動脈弁に疣贅を認めた.化膿性脊椎炎が
原因の感染性心内膜炎と考えられ,準緊急手術に
て疣贅切除,大動脈弁置換術を施行し,その後の
経過は良好であった.症例2は26歳女性.生来健
康であったが,原因不明の発熱続き,精査の心エ
コーにて三尖弁に疣贅,三尖弁逆流を認めた.器
質的心疾患のない原因不明の感染性心内膜炎であ
り,準緊急に疣贅切除,三尖弁形成術を施行し,
経過良好であった.
126) 明らかな基礎心疾患のない三尖弁感染性心
内膜炎の1例
(高知大学老年病科・循環器科)
坂本知代・濱川公祐・田村親史郎・大川真理・
山崎直仁・松村敬久・北岡裕章・矢部敏和・
高田 淳・西永正典・土居義典
129) 心筋内膿瘍を合併した人工弁感染性心内膜
炎の一例
(川崎医科大学循環器内科学)
尾長谷喜久子・宮本欣倫・大倉宏之・
渡辺 望・岡橋典子・川元隆弘・豊田英嗣・
吉田 清
症例は57歳男性,高血圧の加療中.2005年8月よ
り38度台の発熱を認め,近医にて抗生剤等の処方
をうけたが改善が見られなかった.10月より血管
炎の疑いでプレドニゾロン内服を開始し一旦解熱
したが,プレドニゾロン減量とともに再び発熱を
認めた.2006年2月になり血液培養を施行したと
ころEnterococcus faecalisが同定され,心エコー
にて三尖弁,僧帽弁,大動脈弁に疣腫を認めたた
め,感染性心内膜炎と診断し当科に紹介となった.
三尖弁は3cmを超える疣腫であった.抗生剤多剤
併用による治療を開始し経過観察中である.明ら
かな基礎心疾患のない成人が,3つの弁に疣腫を
持ち,しかも三尖弁に巨大な疣腫を認めることは
稀な病態であると考えられ,若干の考察を加えて
報告する.
症例は82歳男性.62歳時に大動脈弁狭窄に対し機
械弁への弁置換術を施行.今回,一週間続く39度
の発熱を主訴に来院.心エコー図上,大動脈弁通
過血流速度の増加,弁透視にて弁の開放制限をみ
とめ,人工弁感染性心内膜炎として治療を開始し
た.翌日,多発脳梗塞を発症.経食道心エコー図
(TEE)にて,人工弁に付着する疣贅と弁輪部膿
瘍が観察された.脳梗塞急性期であり,内科治療
を続けたが,疣贅,弁輪部膿瘍ともに除々に拡大
し,心筋内に膿瘍腔を形成,MRI上で新たな脳梗
塞像が出現したため,TEEガイド下に心筋内膿瘍
を切開排膿し,疣贅の付着した人工弁を摘出,生
体弁による再弁置換を行った.TEEにより病巣を
明瞭に評価しえたため,脳梗塞の比較的急性期に
外科的治療に踏み切ることができた症例を経験し
たので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
130) ペースメーカー植え込み術後約6年経過し
てペースメーカーリード感染を発症した1症例
(島根大学医学部附属病院循環器内科)
平野能文・島田俊夫・石橋 豊・村上 陽・
公受伸之・吉冨裕之・落合康一・佐藤秀俊・
坂根健志・高橋伸幸・國澤良嗣・小谷暢啓・
徳丸 睦
(同循環器・消化器総合外科) 菊地慶太・
金築一摩・山下暁立
77歳女性.高度房室ブロックにて1999年9月某市
立病院で永久ペースメーカー植え込み術施行後創
部MRSA感染発症.当科でシステム全摘出及び再
手術施行.術後感染徴候なし.2005年7月12日ペ
ースメーカーポケット部に小豆大の皮下膿瘍出
現,8月1日入院.動脈血培養で表皮ブドウ球菌検
出.経胸壁,経食道心エコー上疣贅,膿瘍の所見
なし.8月5日電池交換,皮膚感染巣デブリードメ
ント施行.抗生物質を長期点滴するも動脈血培養
上表皮ブドウ球菌陽性持続.9月7日CRP1.3mg/dl
と上昇し再入院.手術創部腫張,疼痛あり.動脈
血培養上表皮ブドウ球菌陽性であった.4週間
GM,VCMを点滴するも動脈血培養は陰性化せず.
ペースメーカーリード感染と判断,11月10日シス
テム全摘出及び心筋電極手術施行.至適時期を逸
さず手術を行うことの重要性を再認識した.
131) 大腸癌に合併したStreptococcus bovisによ
る感染性心内膜炎の1例
(山口大学循環病態内科学) 深川靖浩・
三浦俊郎・末冨 建・渋谷正樹・河村修二・
小林茂樹・村田和也・藤井崇史・松h益‡
症例は元来健康な62歳の女性.平成17年11月9日
に呼吸苦が出現した.急性左心不全,重症僧帽弁
閉鎖不全症,感染性心内膜炎の診断にて,精査加
療目的に当科紹介入院となり,準緊急で僧帽弁置
換術が施行された.術後に貧血の精査として下部
消化管内視鏡検査を施行した結果,上行結腸に進
行癌を認められた.今回,術前の血液培養の結果,
Streptococcus bovisが検出され,消化管の検索を
行ったところ,結腸癌の合併を認め,切除術を施
行した.感染性心内膜炎の原因が結腸癌からの
Streptococcus bovisによる感染と考えられる一症
例を経験したので報告する.
132) 多彩な症状を呈した感染性心内膜炎の一例
(松山赤十字病院循環器病センター)
堀本拡伸・石橋美奈子・塩見哲也・堺 浩二・
高橋 優・久保俊彦・今村義浩・芦原俊昭
29才女性.主訴は2週間前から持続する39度の不
明熱.心エコーで左房後壁に可動性疣贅を認め,
血液培養で黄色ブドウ球菌を検出し急性感染性心
内膜炎と診断.僧帽弁前尖の逸脱と閉鎖不全
(MR),後壁の壁運動低下と心嚢水貯留を認めた.
入院翌日に意識レベルが低下.頭部MRIで右頭頂
葉と脳幹部に出血性梗塞を認めた.抗生物質多剤
併用するも熱発持続.入院5日目に心房細動とな
り血行動態が悪化.心嚢穿刺を施行し350mlの血
性心嚢水を吸引後,洞調律に復帰し血行動態は安
定.以後炎症所見,全身状態は改善.入院30日目
の心エコー上疣贅は消失.心臓カテーテル検査で
はMR4度で後壁の壁運動低下あり.冠動脈に狭
窄なく塞栓による心筋梗塞と判断.心筋梗塞,出
血性心外膜炎,出血性脳梗塞を合併し内科的に治
療した急性心内膜炎の症例を報告する.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1163
133) 拡張相肥大型心筋症の外来経過観察中に心
尖部血栓を合併した一症例
(川崎医科大学循環器内科) 吉村雄樹・
渡辺 望・川元隆弘・豊田英嗣・小山雄士・
久米輝善・和田希望・岡橋典子・齋藤 顕・
大倉宏之・吉田 清
症例は,62歳男性.1984年に拡張相肥大型心筋症
(ASH)と診断され当科外来でβ-blockerおよびワ
ーファリンにて内服加療中であった.INRは2.0前
後でコントロールされていた.2006年2月定期受
診時の心エコー図にて心尖部に2.0×2.0cm大の血
栓を認め緊急入院となった.ヘパリン12000IU/日
の投与を開始しワーファリンを2mg/日に増量し
INR2.5∼3.0で抗凝固療法を強化た.心エコー図で
は徐々に血栓は縮小し第15病日に消失した.経過
中,明らかな塞栓症のイベントは認めなかった.
抗凝固療法を行っていたにもかかわらず心尖部血
栓を認め内科的治療にて軽快した稀有な症例と考
え報告した.
136) デスミン蓄積が原因と考えられた拡張型心
筋症の一例
(岡山大学循環器内科) 大郷恵子・
多田 毅・草野研吾・酒井芳昭・伴場主一・
西井伸洋・渡辺敦之・平松茂樹・永瀬 聡・
中村一文・桜木 悟
(岡山理科大学理学部臨床生命科学科)
由谷親夫
(岡山大学循環器内科) 大江 透
症例は60歳,男性.主訴は全身倦怠感と呼吸困難.
平成元年より心電図異常を指摘され,平成11年に
拡張型心筋症との診断をうけた.平成17年,精査
加療のため当科紹介入院.家族歴に心臓病なし.入
院時身体所見に異常なく,心電図は洞調律で不完
全左脚ブロック,心エコーで左室の拡大とびまん
性の収縮低下(駆出率35%)を認めた.冠動脈造
影は正常.右室心内膜心筋生検にて多数の心筋細
胞内に好塩基性物質の沈着を認めた.また電顕で
は同部位にグリコーゲン顆粒の増加とフィラメン
ト状の物質の沈着を認め,デスミンの蓄積が疑わ
れた.免疫染色では,沈着物質はデスミン陽性で
あった.筋症状やCPK上昇は認めず,筋電図を含
めた神経学的検査でも全身のミオパチーの所見は
認めなかった.デスミン蓄積による拡張型心筋症
と考えられた一例を経験したので報告する.
139) 12歳男児の四肢末端痛により診断に至った
ファブリー病の1家系
(高知大学老年病科・循環器科)
寺内靖順・久保 亨・馬場裕一・星川英里・
大川真理・山崎直仁・松村敬久・北岡裕章・
矢部敏和・高田 淳・西永正典・土居義典
ファブリー病は,主に心・腎・脳血管が障害され
る予後不良なX連鎖性遺伝のライソゾーム病であ
るが,近年酵素補充療法が可能となり予後の改善
が期待できるものとなった.今回我々は,12歳男
児の四肢末端痛をきっかけにファブリー病の診断
に至った1家系を経験したので,若干の考察を加
えて報告する.症例は12歳男児とその母親(48歳)
である.男児は手掌・足底の疼痛を認めるものの,
心・腎などの臓器障害はみられていない.母親は
生来健康であるが,思春期に同様の疼痛があり成
人後は自然軽快している.数年前より労作時の息
切れ(NYHA2度)が目立つようになり,今回心
エコーにて著明なび漫性心肥大(最大壁厚25mm)
が確認された.両者は酵素活性の低下などにより
ファブリー病と診断され,酵素補充療法を行って
いる.
134) ステロイド治療の効果判定にPET-CTが有
用であった心サルコイドーシスの1例
(徳島大学生体情報内科学) 重清友理・
岩瀬 俊・藤村光則・赤池雅史・東 博之・
松本俊夫
137) 無痛性甲状腺炎にて急性増悪したと考えら
れる拡張型心筋症の一例
(香川県立中央病院循環器科) 上杉忠久・
廣田 稔・大西弘倫・野上邦夫・武田 光
(岡山大学分子医化学) 廣畑 聡
症例は71歳女性.平成17年11月より数回の失神発
作が出現したため当科に緊急入院.病棟モニター
にて失神の前兆感に一致したparoxysmal AV block
による6秒間のasystoleを認めた.入院時より両
下肢に皮疹の出現を認め,同部位の皮膚生検を施
行したところ真皮内に多数の類上皮細胞肉外腫を
認め,心病変を合併したサルコイドーシスと診断
した.PET-CTにおいて縦隔・腹部大動脈周囲リ
ンパ節へのFDGの集積ならびに心臓における斑状
のFDGの集積を認めたが,Ga-scnitiでは縦隔リン
パ節に軽度の集積を認めるのみであった.ステロ
イド投与1ヶ月後のPET-CTにてリンパ節への
FDGの集積は消失し,心臓への集積も低下した.
PET-CTは心サルコイドーシスにおけるステロイ
ド治療の効果判定に有用である可能性がある.
56才女性.既往歴に特記すべき事はない.約1ヶ
月前から全身倦怠感を感じていたが,突然の動悸,
その後の呼吸苦が出現し起座呼吸にて救急搬送さ
れた.心電図では脈拍150の心房粗動,胸部写真
では心拡大と胸水・肺うっ血が見られ,心エコー
では左室拡張末期径64mmと拡張し,左室壁運動
は全周性に低下.EF=28%と拡張型心筋症様の
所見であった.患者はBMI=17とやせが目立ち,
手指振戦も見られ甲状腺機能亢進を疑わせる外見
で,血液検査でもfT3,fT4の上昇TSHの低下が
認められた.甲状腺機能亢進による心不全の増悪
と考えられたが,その原因(バセドウ病・甲状腺
中毒症・橋本病)によっては治療が異なるため注
意を要す.今回拡張型心筋症をベースに無痛性甲
状腺炎により心不全が増悪したと思われる症例を
経験したので報告する.
135) 診断・治療方針の決定に苦慮した心サルコ
イドーシスの3症例
(喜多医師会病院循環器内科) 井上勝次・
日浅 豪・西村和久・山田忠克・住元 巧
138) 半年以上の経過にて自然軽快した産褥性心
筋症の一症例
(鳥取大学循環器科) 加藤 順・井上義明・
石田勝則・衣笠良治・加藤雅彦・矢野暁生・
井川 修・重政千秋
(同女性診療科) 三宅法子・寺川直樹
(鳥取大学医学部医学系大学院再生医療分野)
久留一郎
141) 2D Tissue Tracking法による肥大型心筋症
における左室捻れ運動の検討
(山口大学器官病態内科学) 田中健雄・
村田和也・野瀬善夫・深川靖浩・橋本 亮・
赤川英三・波多野靖幸・國近英樹
(山口大学医学部附属病院検査部) 田中伸明
(山口大学器官病態内科学) 松h益‡
産褥性心筋症は明らかな心疾患の既往のない健康
女性が妊娠末期から産褥期にかけて原因不明の心
不全を発症し,病態として拡張型心筋症に類似す
る疾患である.症例は29歳女性.人工授精にて双
胎妊娠と診断され,当院女性診療科にて平成17年
3月29日に帝王切開術を施行された.4月15日より
夜間呼吸苦が出現し,胸腹水貯留が認められたた
め,心不全疑いにて当科紹介となった.心エコー
にて左室拡大,心嚢液貯留,左室壁運動のびまん
性低下を認め,産褥性心筋症と診断した.当科転
科後,利尿薬投与にてうっ血,心不全症状は改善
したが,左心機能の改善は認めなかった.退院後,
定期的な心エコー検査にて約8ヵ月後に左心機能
が正常に回復した.本症の頻度は,妊娠3000∼
4000例に1例と報告されており非常に稀であるの
で報告する.
肥大型心筋症(HCM)7例,健常者(N)10例を
対象とし,Bモード画像上で心筋の任意の点を自
動追尾する2D tissue tracking法(HITACHI
EUB-8500)を用いて左室捻れ運動について検討
した.【方法】心基部と心尖部の短軸断層像を一
心周期記録し,前壁,側壁,後壁,心室中隔の心
内膜側に4点を指定し自動追尾を行い,フレーム
毎に4点とその中心とのなす角度の平均を自動計
算して心基部と心尖部の回転角度を求め,その角
度差を左室捻れ角度として算出した.
【結果】HCM
群とN群では,左室駆出分画に差はみられなかっ
た.心基部の回転角度はHCM群でN群より大であ
ったが,心尖部の回転角度に差はなく,左室捻れ
角度はHCM群で大であった.【結語】肥大型心筋
症では,心基部の回転角度の増大により,健常者
に比して左室捻れ運動が大きいことが示された.
症例1は51歳の女性.48歳時に完全房室ブロック
(C-AVB)に対し恒久式ペースメーカー植え込み
術(PPM)を施行されたが,持続性心室頻拍が
出現したため,現在ICD,ステロイド治療を行い
経過良好である.症例2は54歳,女性.42歳時に
C-AVBに対してPPMを施行された.心エコー検
査で心室中隔基部の菲薄化,心拡大を認めたため,
ステロイド治療を開始し現在通院加療中である.
症例3は70歳の女性.C-AVBに対してPPM(VVI)
を施行されたが,慢性心不全の増悪を認めたため
DDD modeに変更し,在宅酸素療法を開始した.
現在もNYHA IIIの心不全症状が持続している.
今回我々は診断・治療方針の決定に苦慮した心サ
ルコイドーシスの3症例を経験したので報告す
る.
1164
第 88 回中国・四国合同地方会
140) 家族性肥大型心筋症による重症右心不全に
ヒト心房性利尿ペプチドが有効であったと考えら
れた1例
(徳島大学臓器病態治療医学) 福田大和・
山田博胤・山口浩司・小柴邦彦・河野智仁・
添木 武・若槻哲三・伊東 進
症例は62歳女性,右室優位の家族性肥大型心筋症
のため,平成16年より右心不全症状にて入退院を
繰り返していた.平成17年5月の退院後から,外
来にてヒト心房性利尿ペプチド(hANP)を間歇
的に投与したところ,心不全が原因の入院を約8
カ月間回避できた.経過が良好であるため,平成
17年11月よりhANPの間歇的投与を中止したとこ
ろ,平成18年1月,右心不全の急性増悪に左心不
全を合併して入院となった.集学治療病棟にて人
工呼吸管理のもと,カテコラミン,利尿剤,PDE
阻害剤,hANPの静脈的投与ならびにNO吸入等
の集学的治療で救命に成功した,一般に心筋症に
よる右心不全は治療抵抗性であるが,本症例にお
いては外来におけるhANPの間欠的投与が有効で
あったと思われ,文献的考察を含め報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
142) 肥大型心筋症患者の収縮不全における酸化
ストレスによるDNA傷害の関与
(岡山大学循環器内科) 木村英夫・
中村一文・永瀬 聡・桜木 悟・草野研吾・
大江 透
我々は拡張型心筋症患者の心筋細胞で酸化ストレ
スによるDNAのダメージを示す8OHdGが増加し
ていることを示した.今回,肥大型心筋症患者の
心筋細胞核内DNAで酸化ストレスによるダメー
ジを調べた.心筋生検検体をHCM患者から採取
し,酸化ストレスによるDNAのダメージを示す
8OHdGに対する抗体で免疫染色を行い,8OHdG
陽性の心筋細胞核の割合を調べた.心筋生検では
肥大型心筋症患者で心筋細胞核内DNAのダメー
ジはコントロールに比較して強く,左室収縮力が
低下した状態である拡張相肥大型心筋症では更に
強く認めた.肥大型心筋症の心不全を発症に酸化
ストレスによるDNAの傷害が関与する可能性が
示唆された.
143) 大動脈弁置換術後に発症したmidventricular
obstructに対して治療効果を認めた1例
(あかね会土谷総合病院循環器内科)
徳山丈仁・林 康彦・正岡佳子・上田浩徳・
作間忠道・村岡裕司・平尾秀和・豊福 守・
大塚雅也・岡田武規・岡 俊治
症例は大動脈弁狭窄症による心不全症状を認め当
院へ精査加療目的に紹介となった82歳女性.心不
全のコントロール後,大動脈弁狭窄症に対して大
動脈弁置換術および左室流出路部分の心筋切除術
を施行.術後2週間ほどの心エコー検査にて
midventricular obstructを認めた.その後,徐々
に心腔内圧較差増悪し,心不全症状を再発.これ
に対して施行した経皮的中隔心筋焼灼術,右室ペ
ーシングが圧較差を改善させることができた1例
を経験したので報告する.
144) 愛媛県における肺梗塞の現状―アンケート
調査から
(済生会西条病院循環器科) 井添洋輔・
福田 浩・大下 晃・末田章三
145) ボセンタン水和物で慢性肺塞栓が軽快した
一例
(津山中央病院循環器科) 尾上 豪・
清藤哲司・俣野 茂・小松原一正
症例は76歳女性.平成11年より近医にて慢性肺塞
栓との診断で加療中,平成17年5月23日突然呼吸
困難増悪,当院救急搬送,入院となった.入院後
感染を契機に呼吸状態悪化したと考え,挿管,人
工呼吸管理,抗生剤投与等にて加療し病状軽快,
5月31日抜管となった.入院前より労作時呼吸困
難症状(NYHA classIII)を認めていたため,肺
動脈性肺高血圧の治療の適応と考え,ボセンタン
水和物内服開始となった.ボセンタン水和物内服
開始後,右心カテーテル所見,BNP値,自覚症
状の改善を認めた.今回慢性肺塞栓による肺動脈
性肺高血圧に対しボセンタン水和物が有効である
一症例を経験したので報告する.
146) Bosentanとsildenafilの併用が効を奏した
慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の一例
(岡山大学循環器内科) 溝口博喜・
草野研吾・谷口 学・小川愛子・中村一文・
桜木 悟・大江 透
症例は39歳女性.1998年に労作時息切れのため近
医を受診.慢性肺血栓塞栓症と診断され下大静脈
内フィルターを留置された.この時の肺動脈圧
(PA圧)は72/29 mean43mmHgであったためベラ
プロストとワルファリンの内服を開始した.症状
は改善したが,2004年頃より呼吸困難感が再増悪.
肺動脈血栓内膜除去術も考えられたが困難と判断
され,内服加療目的のため当院紹介.当院入院時
のPA圧は107/34 mean65mmHg,BNP 816pg/ml,
CO 2.9L/min,6分間歩行240mと増悪していた.
Bosentanとsildenafil内服後はPA圧71/27
mean45mmHg,BNP 40.7pg/ml,CO 4.3L/min,
6分間歩行330mまで改善した.また自覚症状も著
明に改善した.一般的にCTEPHは有効な治療法
が確立されていないが,Bosentanとsildenafilの
内服が治療の一つとなりうることが示唆された.
147) 肺動脈性肺高血圧症患者に対するエポプロ
ステノール持続療法導入時にボセンタンを併用し
た3症例
(国立病院機構岡山医療センター循環器科)
池田悦子・宮地克維・旦 一宏・徳永尚登・
赤木 達・久松研一・宗政 充・藤本良久・
松原広己・三河内弘
【目的】愛媛県における肺梗塞の実態調査を行う
こと.【方法】愛媛県の循環器科21施設と血管外
科8施設に過去3年間(2003−2005)の肺梗塞症
今回我々は,肺動脈性肺高血圧症患者に対するエ
例数と治療状況・治療方法・治療成績をアンケー
ポプロステノール(PGI2)持続静注療法導入時
トにて行った.【結果】回答率は,循環器科が
に,ボセンタン(Bos)内服の併用が有効であっ
61.9%,血管外科が12.5%で,全体で48%(14/29)
た3症例を経験したので報告する.症例1は27歳女
であった.過去3年間で122例の肺梗塞が診断さ
性.入院時肺動脈(PA)圧は82/37(50)mmHg.
れ,死亡率は15.6%であった.血栓溶解療法を
PGI2開始後7日目にBosを開始した.併用により
PA圧は72/35(47)→67/32(42)mmHgと低下
61.5%,血栓吸引破砕を25.4%,フィルター留置
した.症例2は34歳女性.入院時PA圧は103/42
が27.9%,外科手術例が4.9%であった.整形外
科・一般外科・脳神経外科手術後に併発を多く認 (66)mmHg.PGI2開始翌日にBosを開始した.
併用によりPA圧は88/36(56)→62/32(44)
めた.グリーンフィルド・ギュンターチューリッ
mmHgと低下した.症例3は36歳女性.入院時推
プ・回収型フルターが主に使用されていた.【総
定PA圧は95mmHg.Bos開始後8日目にPGI2を開
括】肺梗塞は希な疾患ではなく,今後も診断・治
始した.併用によりPA圧は90/48(68)→75/31
療の工夫が必要と思われた.
(47)mmHgと低下した.いずれもPGI2とBosの
併用により短期間で肺動脈圧は低下し,血行動態
の破綻は来さなかった.PGI2導入時のBos併用は
安全,かつ有効と考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
148) 脳出血後に発症した再発性肺梗塞の一例
(岡山医療センター循環器科) 永井正浩・
松原広己・川合晴朗・池田悦子・旦 一宏・
赤木 達・徳永尚登・久松研一・宮地克維・
宗政 充・藤本良久・三河内弘
73歳 女性.平成17年2月急性肺血栓塞栓症のた
め当院入院.下大静脈フィルター留置の上,血栓
溶解を施行.その後外来にてワーファリンの内服
を継続していた.平成18年2月5日,意識レベル低
下し救急受診,脳出血と診断された.当院脳神経
外科へ入院,安静加療とともにワーファリン内服
を中止されていた.2月10日離床した際に呼吸困
難,胸部圧迫感出現,造影CTにて再発性肺塞栓
症と診断した.脳出血合併のため,血栓溶解療法
は施行できず,カテーテルにてIVCフィルター中
枢側を造影,血栓残存の無いことを確認の後,肺
動脈内の血栓吸引術を施行.その後,低分子ヘパ
リン持続投与を少量より開始,2月18日よりワー
ファリンの内服を再開した.脳出血の拡大を認め
ることなく血栓の縮小と肺動脈圧の低下を得るこ
とができた.
149) 当院での下大静脈フィルター留置の現状
(三豊総合病院循環器科) 高石篤志・
上枝正幸・道明武範・大西伸彦・今井正信
肺動脈血栓塞栓症予防のための下大静脈フィルタ
ー留置について,当院の現状を報告する.当院で
は2001年1月から2006年2月までの間に57例に下大
静脈フィルターを挿入した(平均年齢74.1±13.8
歳,男女比14:43).年度別では2001年から順に4,
5,5,6,31,6例と近年著明に増加していた.ま
た,フィルター留置契機について,DVT発見時
点での一次予防的な留置例の割合は2001年から順
に0%,0%,0%,50%,74%,100%であった.
以上より,近年下大静脈フィルター留置の症例,
特に各手術前などの一次予防的な留置例が増加し
ていることが判明したが,一方で遠隔期のフィル
ター血栓閉塞の可能性について言及した報告もあ
ることから,当院での客観的なフィルター導入基
準を早急に確立することが重要であると考えられ
た.
150) 肺塞栓症の死亡率低下に唯一,寄与してい
るのは下大静脈フィルターである?
(広島市民病院循環器科) 井上一郎・
河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・栗栖 智・
山本佳征・端 孝樹・中間泰晴・木島康文・
香川英介
症例は20歳代の男性である.整形外科的手術後の
急性肺塞栓症を起こし,一時的下大静脈フィルタ
ーを挿入された.血栓溶解療法などで血行動態が
落ち着いたため,一時的下大静脈フィルターの抜
去を予定されたが,血栓閉塞をきたしていた.何
とか一時的下大静脈フィルターを抜去できたが,
下大静脈は閉塞したままであった.若年でもあり,
下大静脈の開在が必要と判断し,カテーテルによ
る血栓破砕術を行い,幸いにも下大静脈の開在が
えられた.本例は家族性AT III欠損症であった.
下大静脈フィルターが有害となる場合もあること
を教えられた.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1165
151) 急性肺塞栓症の外科治療の経験
(鳥取大学器官制御外科学器官再生外科学)
西村謙吾・原田真吾・藤原義和・丸本明彬・
中村嘉伸・上平 聡・金岡 保・松田成人・
石黒真吾
(同病態情報内科学) 井川 剛・矢野暁生・
井川 修・重政千秋
31歳,女性.2005年11月30日に左アキレス腱断裂
にて手術を受け,術後ギプス固定を受けた.12月
6日より突然呼吸困難出現.12月9日,急性肺塞栓
症疑われ当院を紹介された.精査にて右心房,肺
動脈本幹,両側肺動脈,左ヒラメ筋静脈から膝か
静脈に血栓を認めたため,左ヒラメ筋静脈を塞栓
源とした急性肺塞栓症と診断し,麻酔導入前に
PCPSを挿入して体外循環心停止下に血栓除去術
を施行した.術中右心房内浮遊血栓による脱血不
良を引き起こし血行動態の維持に難渋したが,術
後37日目に軽快退院した.
152) 急性肺血栓塞栓症におけるBNP測定の臨
床的意義
(津山中央病院循環器科) 清藤哲司・
尾上 豪・俣野 茂・小松原一正
【目的】急性肺血栓塞栓症(APTE)患者における
BNP測定の臨床的意義について検討した.
【方法】
当院に入院したAPTE患者のうち,BNPを測定さ
れた9例につき検討した.
【成績】AaDO2(肺胞気
動脈血酸素分圧較差)とBNP値は有意な相関を示
した.AaDo2の開大は,高度のガス交換障害を反
映しており,BNP増加は,肺血管抵抗増大に伴う
右室壁ストレスの増大によりもたらされる.すな
わち,これらが増大するほど,広汎な肺塞栓が生
じていると考えられる.文献の結論に反し,BNP
低値例で,ハイリスク例が多い傾向を認めた.急
激に循環虚脱に陥った患者では,BNPが十分に分
泌される前に採血されたと考えられ,一方BNP高
値例では,以前から肺塞栓を繰り返し,徐々に右
室が伸展された可能性が考えられた.
【結論】BNP
低値例でハイリスク例が多い傾向を認めた.
153) 卵巣静脈と肺塞栓症の密接な関連
(広島市立安佐市民病院循環器科)
松田 理・土手慶五・加藤雅也・佐々木正太・
長谷川大爾・中野良規・長沼 亨
症例は45歳女性.平成17年11月26日に突然息切れ
を自覚し近医を受診した.貧血を認め鉄剤を内服
したが軽快しないため11月30日に当院を紹介され
た.造影CTで急性肺塞栓症と診断し,右卵巣静
脈内に血栓を認めたため永久的下大静脈フィルタ
ーを留置した.後日,子宮筋腫および右卵巣静脈
を摘出した.当院で過去2年間に15症例の急性肺
塞栓症を造影CTで診断し,卵巣静脈内に血栓を
認めたものは本症例のみであった.12例に下肢深
部静脈血栓症を認め,5例に永久的下大静脈フィ
ルターを留置したが1例に対して右卵巣静脈内に
フィルターを誤留置した.15例のうち2例は塞栓
源が不明であった.【考察】急性肺塞栓症として
卵巣静脈血栓症も塞栓源となりえることを十分念
頭に置く必要がある.
1166
第 88 回中国・四国合同地方会
154) 多枝病変で胸部症状を主訴に来院した肺塞
栓症の1例
(徳島赤十字病院循環器科) 甘利留衣・
日浅芳一・高橋健文・三木 俊・宮崎晋一郎・
小倉理代・宮島 等・尾原義和・弓場健一郎・
鈴木直紀・細川 忍・岸 宏一・大谷龍治
症例は77歳男性.2006年1月より労作時胸部不快
感が出現するようになった.運動負荷心電図にて
虚血性変化を認めたため,不安定狭心症として1
月30日に入院し冠動脈造影を施行した.左前下行
枝近位部を含む主要3枝に高度狭窄を認めたため
後日PTCA予定とした.しかし入院時より軽度の
低酸素血症に加えて心エコーで肺高血圧の所見を
認めたことから,肺塞栓症を疑い2月1日に造影
CTを施行.両側肺動脈内に血栓像を多数認め,
肺血流シンチグラムでも両側肺末梢に血流欠損が
確認された.症状は主に肺塞栓症によるものと考
え,ワーファリンによる抗凝固療法を開始した.
以後胸部症状は消失し低酸素血症も改善,2月8
日の心エコーでも肺高血圧の所見は認めなかっ
た.下肢血管エコーで左ヒラメ静脈に血栓を認め,
肺塞栓症の原因と考えられた.
155) 外傷後下肢静脈血栓により肺動脈血栓症を
繰り返した一症例
(三豊総合病院循環器科) 岡田知明・
高石篤志・道明武範・大西伸彦・上枝正幸・
今井正信
症例は65歳女性で,左腓骨骨折に対する修復手術
前検査で左下腿静脈血栓及び右肺動脈内血栓を確
認した.術直前,肺動脈血栓塞栓症(PTE)再発
予防のために一時的下大静脈フィルターを留置し
たが,術後抗血栓療法にもかかわらず下肢静脈血
栓の増大がみられ,長期間のフィルター留置を必
要とした.さらにフィルター抜去後ショックを伴
う肺動脈血栓症を発症し,状態安定に長期間を要
した.一時的下大静脈フィルターは各手術後の
PTE予防のために用いられているが,本症例のご
とく,フィルター抜去タイミングの判断が困難で
あったり,抜去後に血栓塞栓症を発症する場合も
あり,慎重な適用の判断が必要と考えられた.
156) 急性肺塞栓症の診断にポータブル心エコー
図が有用であると考えられた症例
(川崎医科大学循環器内科学) 森田康子・
齋藤 顕・大倉宏之・川元隆弘・渡辺 望・
岡橋典子・今井孝一郎・久米輝善・吉田 清
症例は63歳男性,起床時より胸部不快感,呼吸困
難感を自覚しその後,失神をきたし,当院を紹介
受診.肺塞栓を疑い,肺血流シンチグラフィーを
施行した直後に心肺停止となった.ポータブル心
エコー図では著明な右心負荷所見を認め肺塞栓と
診断した.直ちにIABP,PCPS挿入,血栓溶解療
法,経カテーテル血栓吸引術を施行した.第5病
日にはPCPSを離脱し救命することができた.ポ
ータブル心エコー図はベッドサイドでも施行可能
で急速に血行動態の悪化する重症肺塞栓症の診断
に極めて有用であり,肺血流シンチグラフィーに
先立ち施行すべきであると考えられた.
157) 右房内血栓遊離のため再塞栓をきたした
APTEの1例
(愛媛大学病態情報内科学) 齋藤 実・
岡山英樹・上谷晃由・大下 晃・吉井豊史・
倉田 聖・大木元明義・大塚知明・檜垣實男
症例は43歳,男性.交通事故のため近医にて安静
臥床で入院していた.第3病日にトイレへ立とう
とした瞬間に突然,意識消失発作をきたした.心
エコーを含む諸検査よりAPTEが疑われたため,
同日15時ごろ当科へ救急搬送された.造影CTお
よび心エコーでは左右両肺動脈に多量の血栓を認
め,さらに右房内にも浮遊する血栓を認めた.プ
レショックの状態であったため,直ちにPCPSを
留置し,ICUにて18時より血栓溶解療法を施行し
た.20時30分,突然血圧が低下し,ショックとな
った.心エコーで右房内血栓が消失していたため,
再塞栓が原因と考えられ緊急で血栓吸引術を施行
し,救命に成功した.今回我々は右房内血栓遊離
のため再塞栓をきたしたAPTEの1例を経験した
ので報告する.
158) 慢性肺血栓塞栓症に血栓溶解療法が有用で
あった1例
(島根大学循環器内科) 伊藤早希・
公受伸之・石橋 豊・島田俊夫・村上 陽・
吉冨裕之・落合康一・佐藤秀俊・坂根健志・
高橋伸幸・國澤良嗣・平野能文・菅森 峰・
小谷暢啓・徳丸 睦
症例は50才男性(長距離トラック運転手).平成
17年2月より労作時の息切れあり(H-J3度),増悪
するため入院.仕事中に下肢腫脹著明となる事あ
り.動脈血ガス分析はPO2:80.9,A-aDO2:26.1.
エコーで左室圧排像と肺高血圧(TR圧較差54
mmHg)あり.肺血流シンチで左肺上葉/下葉(S6)
/右肺上葉以外の血流低下著明.造影CTで右肺動
脈本幹前壁,左肺動脈遠位−葉間肺動脈に血栓像
を認め経過より慢性肺血栓塞栓症と診断した.
DVT
は認めず,易血栓性を来す疾患なし.D-dimer軽
度持続高値で線溶系活性化状態を認めtPAによる
血栓溶解を試みた所,D-dimer上昇と血栓縮小を
認め肺高血圧の改善をみた.再発を繰り返す肺塞
栓の可能性が示唆され,CTEPHにおいてもDdimerを指標とした血栓溶解療法が有効であった.
160) 腹部鈍的外傷に続発した急性心筋梗塞の1例
(岡山労災病院循環器科) 小西祐輔・
加地容子・津田佳穂・難波靖治・大家政志
症例は69歳男性.労作性狭心症,糖尿病にて当院
外来通院加療を行っていた.2004年12月28日単車
運転中に停車していた自動車に追突,救急車にて
搬入された.来院時腹部全体に圧痛があり筋性防
御が認められた.腹部CT施行し小腸穿孔と診断
され外科にて緊急開腹術が行われることとなり心
電図検査を行ったところII,III,aVF誘導にてST
上昇が認められ,心エコーでは左室壁運動は下壁
領域で無収縮であり急性心筋梗塞と診断,血行動
態は安定しており一時ペーシング下で開腹術を行
った.発症21日後に冠動脈造影を行ったが右冠動
脈に有意狭窄は認められなかった.外傷に続発す
る急性心筋梗塞の報告は比較的まれである.今回
我々は腹部の鈍的外傷に続発した心筋梗塞の1例
を経験したので若干の文献的考察を加え報告する
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
161) 器質的狭窄を有さない右冠動脈の造影時に
心室細動が誘発された1例
(市立八幡浜総合病院内科) 高橋光司・
岩田 猛・上村重喜・溝渕剛士
164) 我 が 国 の ス タ ン ダ ー ド な 循 環 器 診 療 と
は?−アンケート調査からの解析
(済生会西条病院循環器科) 末田章三・
福田 浩・井添洋輔・大下 晃
症例は35歳,男性.新規発症の糖尿病で入院中,
冠動脈疾患が疑われたため冠動脈造影検査を施行
した.右冠動脈造影時,A社のJR4を操作すると
カテーテルが右冠動脈近位部から起始している円
錐枝に入り込みやすく,カテーテル先端圧も“楔
入”圧パターンを呈した.“楔入”圧とならない
程度にカテーテルを抜き,手押しでやや弱めに造
影剤を注入したが,カテーテルは円錐枝に少し入
り,本幹は層状に造影されるのみであった.その
ため少し長めに造影剤を注入したところ,心電図
上QRS幅が徐々に延長し,突然心室細動になっ
た.電気的除細動後にカテーテルをB社のJR4に
交換したが,それは円錐枝に入り込まず,造影自
体も問題なかった.
【目的】我が国における一般的な循環器診療を検
索すること.【方法】対象は,中国四国地区の心
臓カテーテル検査が可能な120施設に,過去3年
間の心臓カテーテル検査総数・冠動脈形成術総
数・選択的冠攣縮誘発負荷試験総数・トレッドミ
ル運動負荷試験総数・ホルター心電図総数をアン
ケートにより調査した.また,創設母体・JSIC
研修施設・研修関連施設の有無・心臓外科併設の
有無でも比較検討した.【結果】1)アンケート回
収率は38%.2)検査件数は施設間格差が著明で,
バランスのとれた施設の方が少なかった.3)冠動
脈造影検査と冠動脈形成術との間には有意の正の
相関関係を認めた.4)過換気・寒冷昇圧負荷試験
はほとんど施行されていなかった.【結論】今後
は,人種特異性を考慮した循環器科医の育成が必
須と思われた.
162) 心電図にて梗塞部位の診断が困難であった
急性心筋梗塞の1例
(愛媛県立中央病院) 泉 直樹・大島弘世・
松中 豪・平松伸一・森あい子・田中正道・
広瀬英軌・佐伯秀幸・鈴木 誠・風谷幸男
165) DES植え込み後に診断した冠攣縮性狭心
症の1例
(愛媛県立今治病院循環器科) 中村真胤・
松岡 宏・川上秀生・小松次郎・伊藤武俊
症例は41歳,男性.主訴は胸痛.平成15年5月31
日に突然の胸痛のため当院救急外来を紹介受診し
た.トロポニンT陽性,心電図にてI,II,III,
aVF,V2∼V6誘導でST低下とaVR誘導でST上昇
を認めたことから左主幹部病変あるいは3枝病変
を疑った.緊急冠動脈造影では左冠動脈前下行枝
Seg.6に90%狭窄,右冠動脈Seg.2に50%狭窄を認
めた.責任病変はSeg.6と判断し冠動脈形成術を
施行した.慢性期に施行した心臓MRI検査では前
壁中隔だけでなく下壁にも造影効果を認め下壁梗
塞の合併が疑われた.慢性期の冠動脈造影では右
冠動脈に器質的狭窄は認められず冠攣縮を認め
た.急性期の心電図変化の原因として右冠動脈の
冠攣縮が関与したと思われる1例を経験した.
163) 多臓器不全で来院した陳旧性前壁梗塞を伴
う急性後壁梗塞の1例
(近森病院循環器科) 磯谷彰宏・川井和哉・
窪川渉一・關 秀一・今井龍一郎・高橋聡介・
小川雅史・中岡洋子・要 致嘉・深谷眞彦・
浜重直久
症例は高血圧・糖尿病・腎障害・陳急性心筋梗塞
のある80才男性.胸痛はなく,全身倦怠・食欲不
振のため救急入院した.入院時血圧132/86,脈拍
54/分・整,血液検査ではCPK・LDH上昇
(1434,
3187)
,CRP上昇(12.4)と共に著明な肝・腎障害
(GOT2081,GPT851,Bil.5.3,ALP801,BUN85.1,Cre3.5)
を認めた.敗血症・脱水による多臓器不全を疑い
血液透析を含む保存的治療を開始.心電図でV2-6
の異常Q波,心エコー図で前壁・後壁とも高度の
壁運動低下を認め透析中の血圧低下を反復するた
め第10病日に冠動脈造影を施行,LAD・RCAの
90%狭窄・LCxの完全閉塞を認め,2枝のPCIを施
行し血行動態は安定した.陳旧性前壁梗塞に急性
後壁梗塞を合併した場合,著明な血行動態の悪化
や多臓器不全を来しながら心電図変化は軽微なこ
ともあり,注意が必要と思われた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
患者は69歳,男性.平成16年8月頃より胸痛が出
現したため近医を受診し,狭心症と診断され投薬
を受けたが軽快せず,平成17年3月16日に精査加
療目的で入院した.CAGでLAD#7 99%,LCX#13
90%の狭窄を認めたためCYPHERを留置した.退
院後,胸痛は無く,6ヶ月後のCAGではSTENT留
置部位に再狭窄は認めなかった.平成18年1月16
日より胸痛が頻発するため不安定狭心症の診断で
1月24日に入院した.CAGではSTENT留置部位に
再狭窄を認めず,新規病変も認めなかった.しか
し,
Ach負荷試験ではRCA#1で完全閉塞をきたし,
LCAがSTENT留置部以外に99%狭窄をきたした.
同時にST上昇と胸痛を認め,冠攣縮性狭心症と診
断した.PCI施行前には診断し得ず,DES植え込
み後に冠攣縮性狭心症と診断した症例を経験した
ので報告する.
166) Cypher stent留置部にstent断裂と巨大冠動
脈瘤を生じた一例
(山口大学医学部附属病院第2内科)
岡村誉之・藤井崇史・山田寿太郎・廣 高史・
福本優作・橋本弦太・松h益‡
167) Sirolimus-eluting stent植込み後の再狭窄部
位を血管内視鏡で観察し得た1例
(愛媛県立今治病院循環器科) 川上秀生・
松岡 宏
(西条中央病院内科) 中村真胤
(愛媛県立今治病院循環器科) 小松次郎・
河野珠美・伊藤武俊
患者は71歳,男性.インスリン療法中.平成17年
2月,#3の99%狭窄にsirolimus-eluting stent
(SES)を挿入.平成18年10月の確認造影では
stent中央部に軽度の再狭窄を認めたが経過観察.
平成18年2月の確認造影で同部位に90%の再狭窄
を認め,再PCIを施行.PCI前のIVUSではstent内
部に著明な新生内膜の増生を認めた.血管内視鏡
ではSES挿入部位はすべて黄色調の新生内膜を認
め,再狭窄部位は全周性に黄色調の内膜様物質が
内腔に突出している所見を認めた.血小板血栓ま
たはフィブリン血栓による再狭窄と判断し,同部
位にPOBAを施行,25%以下に改善.POBA後の
血管内視鏡では,再狭窄遠位部にPOBAにより剥
がれたと思われる血栓様物質を認め,POBA部は
黄色調内膜の下に剥き出しのstent strutsを認めた.
SES再狭窄の成因に血栓の関与が示唆された.
168) 当院におけるSirorimus-eluting stent fracture
によるステント内再狭窄症例
(国立病院機構岩国医療センター循環器科)
高原政宏・片山祐介・河野晋久・湯本晃久・
佐藤慎二・高橋夏来・田中屋真智子・
白木照夫・斉藤大治
Sirorimus-eluting stent(SES)の再狭窄の一因と
してstent fractureが報告されている.当院におけ
るSES再狭窄のいうち明らかなstent fractureを生
じた症例において,冠動脈造影像およびIVUS像
における特徴の観察を行った.冠動脈造影像によ
る特徴ではstent内でいわゆるhinged-motionを生
じている部位で再狭窄を強く生じていた.IVUS
によりstent内の狭窄部を観察すると明らかにstent
stratの消失した部位を認め,stent stratは完全に
離断されたものと思われた.この結果からstent
fractureによる再狭窄の少なくとも一因は,基本
的にはstent gapによるsirorimusの不足と同様と考
えられるため,現時点ではfracture部を中心とした
SES再留置が適当と考えられた.
169) Cypher Stent留置後のStent Fractureの検討
(倉敷中央病院循環器内科) 門田一繁・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・藤井理樹・
加藤晴美・山本浩之・福 康志・竹中 創・
廣野明寿・田中裕之・池田篤史・前川潤平・
前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・宮地 剛・
山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
73歳男性.労作性狭心症の診断でCAGを施行,
RCA Seg2にLCxから側副血行を伴う慢性完全閉
塞病変とLAD Seg7に高度有意狭窄病変を認めた. 【目的】Cypher stent留置後のstent fractureおよび
RCAに対して待機的PCIを施行,近位部にもびま
fractureに伴う再狭窄の頻度とその病変部位との
ん性の高度狭窄が有りCypher stent 3個を留置し
関連について検討する.【対象と方法】対象は当
良好な拡張を得た.3週間後,LADに対してPCI
院でSESの留置を行い,6ないし8ヶ月後にCAGを
を施行した.この際RCA近位部のCypher stentの
行った1365病変.
【結果】全体での再狭窄率は11.1
心周期に伴う変形を認めたがstent内に狭窄はなか
%であった.Stent fractureは2.0%(27病変)で認
った.8ヵ月後,労作時の胸痛の再発を認めCAG
め,再狭窄は0.7%(10病変)で認めた.右冠動脈
を行った.CAGでは同部に17×9mmの冠動脈瘤
のStent fractureの頻度は3.9%で,左前下行枝の
を認め,IVUSでは瘤部分のstentは断裂していた. 1.2%,左回旋枝の0.2%に比べ,有意に高かった
またLADのstent内再狭窄を認めた.LADに再PCI (P<0.01)が,stent fractureに伴う再狭窄の頻度
を行い,冠動脈瘤に対してはPTFE stentを留置し
に違いはなかった.【総括】stent fractureは希な
瘤閉鎖を行った.Cypher stent留置後慢性期にス
現象ではなかった.Stent frcatureをきたす要因と
テント断裂と冠動脈瘤を生じた一例を経験したの
stent fractureをきたし,再狭窄をきたす要因と
で報告する.
には違いがある可能性が示唆された.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1167
170) 当院慢性透析患者におけるCypher stent治
療成績
(川島循環器クリニック) 八木秀介・
池田康将・木村建彦・西内 健
173) Debulking-StentにおけるDrug Eluting Stent
留置の有効性―Baremetal Stentとの比較―
(市立宇和島病院) 池田俊太郎・東 晴彦・
青野 潤・稲葉慎二・渡邊浩毅・濱田希臣
【背景】透析患者の冠動脈病変は高度石灰化,複
【目的】複雑病変に対しDCAあるいはRotablator
雑病変が多いが,Cypher stent再狭窄については
が有効であるがDrug-Eluting Stents(DES)の留
十分検討されていない.【目的】透析患者におけ
置により更なる慢性期再狭窄率の軽減が期待され
る.Debulking-DESの有効性をBaremetal Stent
るCypher stentの初期および中期成績を検討する
留置群(Debulking-BMS)と比較し検討した.
こと.【方法】2004年8月から2005年7月まで当院
【方法】当院でDCAかつ/またはRotablatorを施行
にて待機的PCIを施行し,6ヶ月後再造影を施行
し得た透析患者連続28例44病変を検討.【結果】 し引き続きDESの植え込みを施行した連続34例
(Debulking-DES群)を対象とした.BMSを留置
平均年齢61歳,男性26名(92.9%),平均透析年
した(Debulking-BMS群)42名を対照としclinical
数6年,糖尿病性腎症17例(60.7%)であった.新
【成績】
規病変32(72.7%),BMS再狭窄病変12(27.3%) 及びangiographicalなoutcomeを比較した.
院内MACE発生率は両群間で差はなく,6ヶ月
であり,TypeB 27病変(59.1%),TypeC 18病変
後のlate loss及び再狭窄率はDebulking-DES群で
(40.9%)と複雑病変が多かった.初期成功率は
有意に低値であった.Kaplan-meier分析では
100%であり,亜急性血栓性閉塞は認めなかった.
MACE-free率はDES留置群で有意に低率であっ
6ヶ月後の再狭窄は,全例中9症例9病変(20.1%),
た【結論】Debulking-DESは主要心事故を抑制し
う ち 新 規 病 変 5 ( 1 5 . 6 % ), B M S 再 狭 窄 病 変 4
その有効性が期待される.
(33.3%)であった.【結論】透析患者においても
Cypher stentは有用であった.
171) ロータブレーター後のダイレクト SES ス
テンティング
(国立病院機構岡山医療センター循環器科)
藤本良久・松原広己・宗政 充・宮地克維・
久松研一・徳永尚登・赤木 達・旦 一宏・
池田悦子・川合晴朗・永井正浩・三河内弘
174) 高度屈曲病変に薬剤溶出性ステントを留置
した1症例
(徳島赤十字病院循環器科) 宮崎晋一郎・
日浅芳一・小倉理代・宮島 等・尾原義和・
弓場健一郎・鈴木直紀・高橋健文・細川 忍・
岸 宏一・大谷龍治
【目的】シロリムス溶出ステント(SES)は,冠
動脈石灰化病変への留置が困難な場合がある.今
回,石灰化病変に対するロータブレーター(Rota)
後のdirect SES stentingに関して検討した.【方
法】左前下行枝に高度石灰化を伴う23例に対して,
7Frガイドカテーテル(Q curve)を使用し,Rota
に続きSESを留置した.【結果】最終Rota burr径
は1.75mm(14例)
,2.0mm(9例)であった.21例
(91%)においてdirect SES stentingに成功した.
拡張不十分と判断された6例(29%)には後拡張
を追加した.使用したSES径は3.0±0.3mm,SES
総長は38±17mm,SES個数は1.6±0.6個であった.
また,慢性期確認造影の施行された全例にて再狭
窄はみられなかった.【総括】高度石灰化をとも
なう病変に対して,Rota後のdirect SES stenting
は,多くの症例で可能かつ有効である.
【症例】71歳女性.【現病歴】2005年11月に急性前
壁心筋梗塞を発症しPCIを施行した.12月に残存
枝のPCI目的にて入院となった.
【冠危険因子】高
血圧.LCX#11の90%狭窄に対しPCIを施行.病変
部位を前拡張した後Cypherを留置したが,その直
後に胸部症状が出現した.造影では側枝閉塞及び
ステント近位部の狭窄病変を認めた.IVUSでは解
離や血腫などの所見はなく屈曲病変をステントに
より伸展させたことによるアコーディオン現象と
考えられた.LCXの血流は異常がないことから症
状はステント留置による側枝閉塞が原因であると
判断し,POBAを施行したところ再潅流が得られ
症状も消失した.【結語】高度屈曲病変にCypher
留置を行った結果,近位部に狭窄病変を疑わせる
所見を認めた.今後は血流遅延や屈曲部のステン
ト断裂による再狭窄に注意が必要と考えられる.
172) SOT(Sotto Oku Technique)−2.5mm未
満の病変に対するCypherステント留置法とその
成績−
(広島市民病院循環器科) 井上一郎・
河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・栗栖 智・
山本佳征・端 孝樹・中間泰晴・木島康文・
香川英介
175) 分岐部病変に対するCrush stentの経験
(済生会山口総合病院) 河原慎司・
小野史朗・塩見浩太郎・河端哲也・中原貴志
【目的】2.5mm未満の病変に対するCypherステン
ト留置法とその成績を検討し,今後の治療に役立
てる.
【方法】2.5mm未満の病変に対して,2.5mm
のCypherステントを6気圧で初期留置し,2.0mm
もしくは2.25mmのバルーンで高圧拡張を行った
30例について,その急性期および慢性期成績を検
討した.【成績】全例とも冠破裂や急性冠閉塞な
どの急性期合併症を起こすことなく手技成功をみ
た.また,亜急性冠閉塞もなく経過した.慢性期
再狭窄も現在のところ,認めていない.【結論】
SOT(Sotto Oku Technique)受容できる戦略で
あると考えられた.
1168
第 88 回中国・四国合同地方会
DESの導入により重症病変や複雑病変に対しても
積極的にPCIが行われるようになった.分岐部病
変のPCIに関してこれまで様々な方法が試みられ
てきたが,依然として再狭窄の問題が取りざたさ
れている.DESを用いた分岐部病変に対する治療
戦略のひとつとしてCrush stent法が報告されてい
る.手技的には簡便であるが,CrushによるStent
形状の変形が問題視されている.今回,当院で経
験した分岐部病変に対するDESを用いたCrush
stentについて報告する.2004年8月より5症例に
Crush stentを施行し,初期成功率は100%でいず
れもPCI後の経過は良好である.Crush stentは手
技が簡便で素早く行える利点を有しているが,遠
隔期の成績に関しては不明であり,その適応に関
しては慎重に検討する必要があると思われる.
176) 分岐部病変に対するHybrid Y stentingの治
療成績
(倉敷中央病院循環器内科) 羽原誠二・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
薬物溶出性ステントの使用により分岐部病変の本
幹の再狭窄率は低下することが報告されている
が,側枝の入口部の再狭窄率は依然として高く,
解決すべき課題も多い.当院において,本幹に
Cypher TM stent,側枝にDriver TM stentを用いY
stentingを施行した18病変(LMT/LAD/LCX/RCA
=3/11/2/2病変)について初期成績,慢性期成績
について報告する.初期成功率は100%.8ヶ月後
のフォローアップを施行した10病変の内3病変に
再狭窄を認めTLRを必要とした.再狭窄の部位は
側枝入口部1例,側枝ステント内1例,分岐部1例
であった.症例数も少なく今後更なる検討を要す
るが,Hybrid Y stentingは分岐部病変に対し有効
な戦略の一つとなる可能性がある.
177) underexpansionによるCypher STENT植え
込み症例の急性期および慢性期成績
(山陰労災病院循環器科) 遠藤 哲・
尾崎就一・太田原顕・笠原 尚
【 目 的 】 underexpansionで の Cypher STENT
(SES)留置例の急性期および慢性期の成績を検
討する事.
【対象】5例/6病変.平均年令;63才.
基礎疾患;UAP/AP/silent CAD;1/3/2病変.
責任血管;LAD/LCX/RCA=3/2/1病変.病変
分類;Type A, B1/B2, C=2/3病変,ISR 1病変.
方法;SESは12気圧未満で留置し,高圧後拡張を
行う場合はSES径よりも小さなバルンを用いた.
平均観察期間は7ヶ月である.【結果】1)使用し
たSES径は2.5mm;3病変,3.0mm;3病変であ
った.2)全例とも留置直後は25%狭窄以下で終
了した.3)慢性期の狭窄率は全例が50%以下で
あった.4)MACEの発生は認めていない.【結
論】underexpansionによるSES植え込みは安全で
再狭窄予防に有効と思われる.
178) 新規右冠動脈入口部にcypherステントを
留置した症例の遠隔期成績の検討
(倉敷中央病院循環器内科) 中村幸伸・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・宮地 剛・
山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【目的】cypherステントを右冠動脈入口部初回病
変に対し留置した症例の遠隔期成績を検討する.
【対象】2004年3月から2005年9月に当院で右冠動
脈近位部の新規病変に対して,右冠動脈入口部に
Cypherステントを留置した82症例.
【方法と結果】
入口部病変が25例,非入口部病変が57例であった.
8ヶ月間のフォローアップ期間中,再狭窄は8.5%
( 7症例)に認めた.入口部病変の再狭窄率は
12.0%(3/25例),非入口部病変の再狭窄率は
7.0%(4/57例)であった.ステントフラクチャ
ーを9例で認め,そのうち再狭窄は2例に認めた.
【結語】右冠動脈入口部にcypherを留置した症例
ではステントフラクチャーが比較的多く認められ
たが遠隔期成績は比較的良好であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
179) TaxusTM stentの有用性(当院における使用
経験)
(倉敷中央病院循環器内科) 羽原誠二・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
182) 冠動脈陽性リモデリング部位の病理組織性
状に関する検討
(川崎医科大学循環器内科学) 久米輝善・
大倉宏之・川元隆弘
(和歌山県立医科大学循環器内科学)
赤阪隆史
(川崎医科大学循環器内科学) 豊田英嗣・
渡辺 望・小山雄士・根石陽二・岡橋典子・
スクマワンレナン・吉田 清
Paclitaxelを利用したDrug eluting stent(DES)
の中でもTaxus TM stentは優れた臨床成績を示し 【背景】血管内超音波による冠動脈リモデリング
様式と病理組織学的性状を直接比較した報告は少
ている.当施設では2004年2月∼3月に8症例8病変
ない.【方法】非心臓死剖検34例を対象に,冠動
においてTAXUSTM stentを留置した.病変の内訳
脈を切り出し血管内超音波を用いて冠動脈リモデ
はde novo 2例,In stent restenosis 3例,In stent
リング様式を評価した.病変部の外弾性板面積と
reocclusion(CTO)2例,CTO 1例であった.8
近位部の対照外弾性板面積との比が1.05以上拡大
ヵ月後フォローアップの時点では1例のみ再狭窄
している場合を陽性リモデリング(PR)とし,PR
をきたし,TLRを必要とした.その症例以外は
部位の病理組織学的検討を行った.【結果】PRは
1.5年後フォローアップの時点でも再狭窄は認め
20剖検例に34病変認めた.PR部の全プラーク面積
TM
ていない.日本においてはTAXUS stentはまだ
に占める各組織性状の占有率はFibrous 59±21%,
保険承認されておらず,承認までしばらく待たな
Fibrofatty19±11%,Calcium 5±8%,Necrotic
ければならないが,良好な成績が期待できる.
core 18±16%であった.【結論】明らかな虚血性
心疾患イベントの既往がない症例においても,
PR部位にはfibrotatty,necrotic core組織を認めた.
180) LITA中間部の狭窄部にCypherステントが
十分に拡張できなかった一症例
(国立病院機構岩国医療センター循環器科)
高橋夏来・河野晋久・白木照夫・
田中屋真智子・湯本晃久・片山祐介・佐藤慎二
183) Sirolimus-eluting stent留置後の新生内膜反
応の病理学的特徴 −bare metal stentとの比較
において−
(倉敷中央病院循環器内科) 中村幸伸・
(松江赤十字病院循環器科) 三上慎祐・
塩出宣雄
(倉敷中央病院循環器内科) 井上勝美・
光藤和明
患者は2005年4月にLMT-LAD:90%狭窄による
ACSのためLITA-LADの緊急CABG施行した症例
である.術後はグラフトには良好な血流を認めて
Sirolimus-eluting stent(SES)留置後2ヶ月ならび
いたが,5か月後の造影検査ではLITAグラフトの
に4ヶ月の剖検例の冠動脈病理像をbare metal stent
中間部は75%狭窄をきたしていた.これに対して (BMS)との比較に於いて検討した.SES留置部
PCIを施行,Cypherステントの留置を試みたが, では2ヶ月を過ぎてもステントの大部分が露出し
22気圧の高圧をかけてもストラットが十分に拡張
ており,フィブリンの析出反応が主体で,平滑筋
細胞の増生や内皮細胞の再生像はほとんど認めら
できなかった.その原因として,CABGに使用し
れず,これらの所見はBMS留置後の7~10日目に
たクリップがLITAを挟んでいることや,心外膜
がLITAを挟んでいることなどが考えられた. 相当し,更にリンパ球,マクロファージ,および
多核異物巨細胞の高度の浸潤を認めた.4ヶ月を
LMT-LADに対するPCIを施行したが,予測され
経過してもSES留置部では新生内膜の形成は極め
たとおり3か月後にはLITAは閉塞した.高圧にて
て乏しく,ステントの大部分は被覆を受けないま
もストラットが拡張しなかった一例を経験したの
まの状態であったが,同時期のBMS部に於いて
で報告する.
は,多形性の平滑筋細胞群の高度の増生を認めた.
以上より,SESは血管壁に於ける修復過程に著明
な抑制(遅延)がみられ,ステント血栓症の危険
が長期に渡って及ぶ可能性が示唆された.
181) Cypher stent植込み部位が血管内視鏡で興
味ある所見を呈した狭心症の1例
(愛媛県立今治病院) 小松次郎・松岡 宏・
川上秀生・中村真胤・伊藤武俊
症例は72歳女性.主訴は心電図異常.精査目的で
平成16年9月12日に当院を受診し,ATP-Tl負荷シ
ンチグラフィで左前下行枝領域の虚血所見を認め
たため,冠動脈造影を施行した.Seg.6に75%狭
窄を認めたため,平成16年10月26日にPCI施行し,
Cypher stent 3.5×28mmを留置した.以後本人の
了解を得て,1ヶ月,6ヶ月,12ヵ月後に冠動脈造
影を施行し,同時にIVUS,血管内視鏡検査で
Cypher stent留置部位を観察した.IVUSでは6ヶ
月後から新生内膜が認められた.血管内視鏡では
Stent stratは6ヵ月後から新生内膜で被覆されて
いたが,プラークの黄色度は進行傾向にあり,血
栓は全期間を通じて認められた.Cypher留置後
の経時的な興味あるIVUSおよび血管内視鏡所見
を観察しえたので,若干の考察を加えて報告す
る.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
185) 留置後9ヶ月で血栓性閉塞をきたしたcovered stentの一症例
(香川県立中央病院循環器科) 大西弘倫・
廣田 稔・上杉忠久・野上邦夫・武田 光
(岡山大学分子医化学) 廣畑 聡
186) 心不全を繰り返すベッカー型筋ジストロフ
ィー患者に心臓再同期療法を行った一例
(国立病院機構岡山医療センター循環器科)
川合晴朗・赤木 達・松原広己・池田悦子・
徳永尚登・久松研一・旦 一宏・宮地克維・
宗政 充・藤本良久・三河内弘
症例は48歳男性.22歳頃にベッカー型筋ジストロ
フィーと診断された.以後在宅治療されていたが,
44歳時に意識消失発作にて当科入院.心電図で持
続性心室頻拍及び心エコーにて著明な左心機能の
低下を認め,ベッカー型筋ジストロフィーによる
二次性心筋症と診断した.状態改善し在宅治療可
能となったが,その後徐々に状態が悪化し入退院
を繰り返すようになった.平成18年1月に再び心
不全の増悪にて入院.入院後心不全は改善したが,
同様の治療では今後も心不全の増悪が懸念された
ため心臓再同期療法を施行した.心臓再同期治療
後,自覚症状及び心拡大の改善が認められた.ベ
ッカー型筋ジストロフィーによる二次性心筋症に
対して心臓再同期療法が奏功した例は稀であり,
若干の考察を加えここに報告する.
187) CRTに際して左上大静脈(PLSVC)経由
で左室リードを留置した拡張型心筋症(DCM)
の一例
(岡山医療センター循環器科) 旦 一宏・
松原広己・永井正浩・川合晴朗・池田悦子・
赤木 達・徳永尚登・久松研一・宮地克維・
宗政 充・藤本良久・三河内弘
78才,男性.昭和56年より,DCMのため当院加
療中.平成17年11月17日心不全増悪による肺水腫
のため救急搬送された.人工呼吸管理下でカテコ
ラミン等により加療した.抜管後,pauseが頻発
したため,平成17年12月12日ペースメーカ(DDD)
を植え込んだが,静脈造影でPLSVCを認めたため,
右鎖骨下静脈approachとした.β−遮断薬の投与
を開始したが,心不全増悪のため継続困難であっ
た.カテコラミンの減量すら困難であったため,
平成18年2月8日CRTを施行した.右上大静脈経
由では冠静脈分枝内での左室リードの固定が困難
で,閾値も高かった.PLSVC経由に変更するこ
とで,同じ分枝内でも左室リードがしっかり固定
され,閾値も改善できた.
188) Narrow QRS に対し心臓再同期療法を施行
した 2 症例
(岡山大学循環器内科) 西井伸洋・
草野研吾・多田 毅・大田恵子・村上正人・
平松茂樹・渡辺敦之・伴場主一・永瀬 聡・
中村一文・桜木 悟・大江 透
冠動脈穿孔はPCIにおける最も重篤な合併症の一
つである.この冠動脈穿孔に対し本邦では一昨年 【症例1】72歳,女性.EF 20%の拡張型心筋症で,
NYHA III度,徐脈性心房細動が認められ,QRS
の5月よりcovered stentが保険償還され現在まで
幅は100msであった.急性効果による血行動態の
約250本使用されている.その初期成績において
確認では,自己のQRSと比較して,右室ペーシ
は良好な結果が報告されているが,長期成績につ
ングでは悪化したが,両心室ペーシングでは変化
いては不明な点も多い.今回我々は留置後9ヶ月
なかった.しかし,心拍数を上げると心拍出量の
で血栓性閉塞をきたしたcovered stentの一症例を
上昇が得られたため,心臓再同期療法を施行し自
経験したので報告する.症例は48歳男性.平成17
覚症状の改善が認められた.
【症例2】62歳,男性.
年5月左冠動脈回旋枝Seg13に対しPCI施行した
EF 30%の拡張型心筋症で,NYHA III度,洞性徐
際,同部位より造影剤の漏出を認めcovered stent
を使用し止血.IVUSでstentの良好な留置を確認, 脈が認められ,QRS幅は110msであった.急性効
果による血行動態の確認では,自己のQRSと比
PCIを終了した.留置9ヵ月後AMIを発症.造影
較して,右室ペーシングでは悪化したが,両室ペ
でstent内の血栓性閉塞を認めた.血栓吸引を行
ーシングでは変化なかった.しかし,心房が
い冠血流が再開したがstent再狭窄は認めなかっ
standstillに近い状態で,心房ペーシングが不確
た.発症1ヶ月前にaspirin,ticlopidineの内服を
実であり,心拍数を保つため心臓再同期療法を施
中断しておりその影響を疑った.
行し,自覚症状の改善が認められた.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1169
189) 当院における心臓再同期療法施行症例
(心臓病センター榊原病院内科)
川村比呂志・田原達也・雪入一志・山地博介・
山本桂三・村上 充
(同外科) 津島義正
(同内科) 日名一誠
当院では平成16年4月5日から現在までに22症例に
Medtronic社Insync8040による心臓再同期療法
(以下CRT)を施行した.平均67.9±9.7歳(男女
比,15:7),基礎疾患は拡張型心筋症(13例),
陳旧性心筋梗塞(5例)などであった.新規埋め
込み症例やupgrade症例の違い,左室leadを留置
する心静脈やCRT時調律,房室結節切断術施行
の有無によるNYHA,BNP,EF,MR,QRS時間,
心胸比の変化などに対する影響をまとめた.また
冠静脈洞の選択や左室lead挿入手技,左室leadの
選択など実際の植え込み手技に関する考察も報告
する.
190) 2Dストレイン法による心臓同不全の評価
ー心臓再同期療法前後での検討
(土谷総合病院) 正岡佳子・林 康彦・
上田浩徳・作間忠道・村岡裕司・豊福 守・
平尾秀和・大塚雅也・岡田武規・三浦健太郎・
岡 俊治・徳山丈仁
2Dストレイン法は超音波スペックルの動きをフ
レーム毎にトラッキングする新しい方法であり短
軸方向の同期不全の診断が可能である.当院で
CRT施行前と退院前に左室短軸像を良好に記録
できた18例を対象としCRT前後の心臓同期不全
の程度を2Dストレイン法により検討した.前壁
中隔と後壁間,中隔と側壁間の最大ストレイン値
に到達するまでの時間差はCRT後のLVEFの増加
と有意な相関を認めた.CRT後LVEFが10%以上
増加した短期改善群(9人)では非改善群(9人)
に比べ前壁中隔と後壁,中隔と側壁の最大ストレ
イン値に到達するまでの時間差が有意に長かっ
た.2Dストレイン法は左室同期不全をより鋭敏
に診断可能であり,CRTの症例選択及び効果判
定に有用であると考えられ報告する.
191) 当施設におけるICD植込み症例の作動状況
に関する検討
(山口大学循環病態内科学) 杉 直樹・
(同保健学科) 清水昭彦
(同循環病態内科学) 上山 剛・吉賀康裕・
沢 映良・鈴木慎介・松h益‡
当施設におけるICD植込み患者の作動状況を基礎
疾患別に検討した.【対象・方法】1996∼2005年
に日本のガイドラインに準じてICD植込みを施行
した58例(男49例,女9例).対象を特発性群,虚
血性群,非虚血性群の3群に分けて,植込み適応
とその後の作動状況を検討した.【結果】症例は
非虚血性心疾患群が54%を占め,虚血性心疾患は
10%以下であった.植込み適応は95%がクラスI,
5%がクラスIIであった.平均37ヵ月年の経過観
察中,特発性18%,虚血性20%,非虚血性29%に
適切作動を認めた.クラスIIの適応例には作動を
認めなかった.【総括】ICD作動状況に基礎心疾
患群別で有意差は認めなかった.植込み症例の
54%を占める非虚血性群で観察期間中死亡例がな
く,その29%に作動が認められており,ICDの予
後改善効果は優れていると推測できた.
1170
第 88 回中国・四国合同地方会
192) ペーシング治療をせずに20年超経過してい
る完全房室ブロックの1例
(市立八幡浜総合病院内科) 高橋光司・
岩田 猛・上村重喜・溝渕剛士
症例は47歳(現在),女性.24歳時,感冒に罹患
した後,完全房室ブロックを指摘され,一時ペー
シングを施行されたことがあるが,その後は無治
療である.3回の出産歴あり.4年前,当院婦人科
で卵巣嚢腫茎捻転に対する手術施行時に一時ペー
シングを行った.その後,鉄欠乏性貧血のため症
状が一時的に増悪した以外は特に変わりなく経過
している.24時間心電図検査では総QRS数,補
充調律の平均心拍数(HR),最小HRはそれぞれ
65,160,47/分,34/分であり,また心房−心室
同期は認めないが,最大HRは103/分であった.
これまでAdams-Stokes発作は一度もない.現在,
NYHA分類のclass IIであり,血中ANP,BNP濃
度はそれぞれ36pg/ml,110pg/mlである.
195) 高度の睡眠時無呼吸を合併した完全房室ブ
ロックの1例
(三豊総合病院循環器科) 関本員裕・
上枝正幸・高石篤志・大西伸彦・道明武範・
岡田知明・今井正信
症例は60歳男性,1年前に高度房室ブロックによ
る徐脈,心不全で入院歴あり.入院後数日で房室
ブロック消失し,冠動脈造影,左室造影に異常な
く,電気生理検査での房室伝導に障害なし,心筋
炎,サルコイドーシスなどの所見も無いため退院.
平成18年初頭から徐脈を再び自覚するようになり
再受診,完全房室ブロックを認めた.しかし当初
PMの手術決心がつかず,1ヶ月を経て倦怠感増
強で再入院,総心拍4万に低下していた.VDD
ペ−スメ−カ−埋め込み後症状改善.睡眠時無呼
吸を心配されていたため,ポリグラフ検査を行っ
たところ,AHI 29,無呼吸最長2分8秒,SPO2最
低68%と高度の睡眠時無呼吸状態であり,房室ブ
ロック誘発に関連していることが疑われた.
193) 当院における心房細動患者管理の問題点
−抗凝固療法中心として−
(高松赤十字病院循環器科) 末澤知聡・
十河泰司・多田典弘・畠添敏光・松原一志
196) Tinedリードが三尖弁にトラップされるも
pacing可能であった1症例
(総合病院庄原赤十字病院) 杉野 浩・
黒川純一・中河啓悟
対象は当科外来通院中で心房細動を認める患者男
性111名,女性59名,計170名(平均71.5歳).心
房細動の種類は発作性21%,持続性8%,永続性
68%であった.基礎疾患(リスク評価)は,弁膜
症33%,高血圧44%,糖尿病24%,脳血管障害の
既往12%,心不全10%,冠動脈疾患9%であった.
ワーファリンは97%,抗不整脈剤 は26%の症例で
使用されていた.ワーファリンが使用されていな
い3%,5例に関しては,そのうちリスク評価上使
用されなくてはならない群においてなぜ使用され
ていないか背景をみた.また今回リスク評価とし
て,脳血管障害の既往を認めた12%,24名につい
てその脳血管障害が起きた時の心房細動の種類,
抗血栓療法の有無,外来followの有無などについ
て検討した.以上心房細動患者管理の問題点につ
いて若干の考察を加えて報告する.
症例は77歳男性.徐脈性心房細動による心不全の
ため,VVIペースメーカー埋込みを行った.
Guidant社製のTinedリード(4457)を使用し,
左鎖骨下静脈穿刺法を用いた.中等度の三尖弁閉
鎖不全があり,右心房拡大が著明であったため,
リードの位置決めに難渋した.右心室内のリード
を一旦右心房へ引き戻そうとした際にリード先端
部が三尖弁中隔尖下にTrapされて抜去出来なく
なった.各種カーブのスタイレット使用し,引き
抜き・押し込み・回転等試みるも,リード先端は
移動不能であった.幸いTrap部位で心室ペーシ
ングが可能であり,かつ基礎疾患が徐脈性心房細
動であったため,そのまま同リードを使用し手技
を終了した.以後一時ペーシング不全を認めたが,
慢性期には刺激閾値も正常化し,臨床経過は良好
であった.
194) 薬物療法が無効であったHOCMに対して,
右室pacingとβ遮断薬の組み合わせが著効した1例
(倉敷中央病院循環器内科) 大鶴 優・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・羽原誠二・
中村幸伸・宮地 剛・山田千夏・岡本陽地
197) 恒久的ペースメーカー植え込み術後に右室
穿孔をきたした1例
(近森病院) 今井龍一郎・深谷眞彦・
川井和哉・窪川渉一・關 秀一・磯谷彰宏・
中岡洋子・高橋聡介・小川雅史・要 致嘉・
浜重直久・末澤孝徳・池淵正彦・入江博之
78歳女性.平成15年9月労作時息切れにて近医受
診,閉塞性肥大型心筋症と診断された.β遮断薬
内服でも効果がなく当科紹介された.当院初診時
心エコー上左室内圧較差77mmHgでありジソピラ
ミドを追加した.平成15年11月自覚症状改善,左
室内圧較差18mmHgであった.平成17年5月左室
内圧較差81mmHgと増悪したため,平成17年6月に
経皮的中隔心筋焼灼術を施行したが効果はなかっ
た.以後も徐々に症状が増悪した.平成17年11月
右室一時ペーシング+βブロッカー静脈内投与を
行ったところ左室内圧較差が130mmHgから50
mmHgと改善したため,DDDペースメーカー植
え込み+β遮断薬(メトプロロール120mg)内服
を行った.自覚症状改善し,現在心エコー上左室
内圧較差18mmHgである.
症例は71歳女性.洞機能不全症候群に対して平成
17年10月20日に恒久的ペースメーカー(DDD型,
心室リードはscrew-in型を使用)植え込み術を施
行した.術前の心エコー,冠動脈造影では有意な
所見は認められなかった.10月25日にペーシング
不全が出現.刺激閾値の上昇(双極で3.75V 単
極は7.5Vでも無効)とリード抵抗の低下(599Ω
→207Ω)がみられた.10月27日になると胸部レ
ントゲン写真にて心室リードの明らかな心外突出
が認められたため,10月28日に開胸下にリード抜
去術を施行.心室リードは5cmも右室心尖部を
穿孔していた.心室リードを抜去後,心房ペーシ
ング(AAI)のみとした.恒久的ペースメーカー
リードによる右室穿孔は稀なので,文献的考察を
加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
198) 植込み後1年経過した冠静脈洞内ペーシン
グリードの抜去が可能であった1例
(徳山中央病院循環器内科) 木村征靖・
小川 宏・分山隆敏・高木 昭・岩見孝景・
明石晋太郎・宮崎要介・松田 晋
心室再同期療法(CRT)の普及に伴い冠静脈洞
内にペーシングリード(LV lead)を留置する症
例が増加した.しかしリード閾値の上昇やペース
メーカー(PM)感染のためPMの再植込みが必
要な症例もあり,今後LV leadの抜去が可能かど
うかの判断に苦慮する可能性がある.今回,植込
み後1年経過したLV leadの抜去が可能であった1
例を経験したので報告する.症例は78歳,男性.
拡張型心筋症で加療中に徐脈性心房細動を認め
PMを植込まれた.しかし次第に心機能は低下し
入退院を繰り返していた.心室同期不全も認めた
ため平成17年1月にLV leadを追加しCRTを行っ
た.その後心不全の悪化はみられなかったが,平
成18年1月にPM感染とLV leadの閾値上昇のため,
LV leadの抜去および対側から新規にLV leadを追
加し再度CRTを施行することができた.
199) Double SVCの患者にペースメーカー植え
込み術を行った1例
(倉敷中央病院循環器内科) 竹中 創・
藤井理樹・光藤和明・井上勝美・後藤 剛・
門田一繁・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
廣野明寿・田中裕之・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
【症例】80歳,男性【主訴】失神発作【現病歴】
高血圧,脳梗塞後遺症にて加療中の患者.平成17
年初めより失神発作を繰り返していた.また9月
末より食欲低下を認めた.近医で心電図を行った
ところ完全房室ブロックを認め当科紹介となっ
た.【入院後経過】右鎖骨下よりアプローチした.
造影をおこなったところ上大静脈は左右2本認め
た.右鎖骨下静脈よりVDDペースメーカーを挿
入し終了した.【結語】極めて稀なdouble SVCを
持つ患者に対しペースメーカー植え込みを行った
ので報告した.
200) ペースメーカ植え込み術後,13ヵ月でリー
ド断線を来たした1症例
(愛媛県立三島病院) 大島清孝・本田俊雄
症例は88歳女性.2004年10月に完全房室ブロック
加療目的のためにペースメーカ(VDD)の植え
込み術を施行した.退院後,老人施設にて生活を
され,2005年6月の定期検査では異常は認められ
なかった.2005年12月11日頃より顔面浮腫,食欲
不振が出現し当科を受診.心電図にて完全房室ブ
ロックを認めたため緊急入院した.入院後,電圧
を最大にしたところペーシングが再開したが,抵
抗は2200Ωと著明に上昇していた.胸部X線写真
では明らかにリードが引き伸ばされており,断線
の原因と考えられた.12月16日ペースメーカ植え
込み術を施行したが,透視下では収縮期にリード
が引き伸ばされていた.ペースメーカリード断線
の報告は多数あるが稀なケースと考えられ報告し
た.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
201) ヘリ搬送にて早期に再灌流できた急性心筋
梗塞の2例
(高知医療センター循環器科) 川田哲史・
杉本和彦・川田泰正・吉田俊伸・羽原真人・
田口英詞・大郷 剛・山本美香・山崎隆志・
山本克人・西村直己・大脇 嶺
山間僻地で発症した急性心筋梗塞に対し,医師ピ
ックアップ方式のヘリ搬送を行い,救命した2例
を経験した.症例1は56歳,女性,雪かき中に胸
痛が出現し他院受診後,前壁梗塞の診断にてヘリ
搬送.左前下行枝#6の100%閉塞に対してPCIを
施行し0%まで開大し終了.症例2は81歳,女性,
小脳出血のため他院に入院中.胸痛の出現と共に,
心拍数30台,収縮期血圧50台のショック状態とな
り,下壁梗塞の診断にてヘリ搬送.右冠動脈#3
の100%閉塞に対して,PCIを行い0%まで開大し
終了した.いずれの症例もヘリ搬送により搬送時
間が短縮され,症例1においては発症から約2時間
で再灌流でき良好な経過をとった.症例2は循環
器専門医が同乗し,合併した完全房室ブロック・
ショックにも対応しながら搬送可能であり,発症
から約3時間で再灌流に成功した.
202) 心肺停止にて搬送された急性心筋梗塞に対
する再疎通・低体温療法の試み
(広島大学分子内科学) 石橋 堅・
山本秀也・沖本智和・荘川知己・田崎直仁・
北川知郎・河野修興
(同高度救命救急センター) 谷川攻一
平成17年12月から平成18年2月までに,心肺停止
にて発症した急性心筋梗塞例を4例(女性1例)経
験した.平均年齢は61.8歳,救急車による搬送は
3例であった.救急隊到着時間は平均3分40秒であ
ったが,by-standerによるCPRは1例も行われなか
った.3例にVfを確認,電気的除細動が施行され
た.来院時の心電図はAsystole2例,PEA1例,Vf1
例で,発症から心拍再開まで時間は平均28分45秒
であった.全例にPCIを行ったが,病変は右冠動
脈1例,左前下行枝3例であった.PCI後は全例
JCS3-300で,低体温療法を行った.初回の頭部
CTでは異常なく,後に虚血性変化,浮腫等を認
め,全例高次脳機能障害を呈した.心拍再開に約
40分を要した1例は肺炎,心不全の増悪のため第
16病日に死亡した.1例は発語が可能なまで改善,
寒い雪の日の屋外での心肺停止症例であった.
203) G2005 ACLS Pulseless Arrest Algorithmの
疑問:院内ウツタイン記録では除細動直後の脈拍
触知可48%
(心臓病センター榊原病院心臓血管外科)
津島義正・都津川敏範・南 一司・
杭ノ瀬昌彦・吉鷹秀範
院内心肺蘇生報告のためのガイドライン「院内ウ
ツタイン様式」を採用し,2003年5月から全症例
を把握検証してきた.2006年2月までの連続120件
のCPRでは,初期調律VF/VTは48件(40%)であ
った.このうち除細動直後に心拍再開のため,心
マッサージが不要であったものは23件(48%)で
あった.G2005 ACLS Pulseless Arrest Algorithm
ではショック後,脈拍触知することなく2分間の
CPRを即座に再開することを勧めている.しかし,
きちっとモニターされている院内心停止の早期除
細動例では,ショック直後のパルスチェックが許
容されると考えられた.
204) 当院におけるBLS講習会とAED使用経験
(マツダ株式会社マツダ病院) 住居晃太郎・
五明幸彦・清水嘉人・久留島秀治・三玉敦子
当院でのBLS講習会について報告する.当院では
各階に1台AEDが配置されており,病院職員が実
際に使えるようにBLS講習会を開いて心停止発見
からAED使用までの救命の連鎖を実習している.
BLSマネキン1台で講習者5名に2時間の講習を実
施している.H17年8月より月2回開催し,H18年3
月まで75名が修了した.実施したアンケートによ
ると,心肺蘇生の経験は73%が経験あり.講習後,
救命処置をリーダーになって行なう自信があると
の解答が84%であった.予習のテキストを配布し,
プレテストを行ったがほぼ全員役に立ったと答え
た.実際に当院で発生した心室細動に対し4例の
AED使用経験を含めて報告する.
205) 院外心肺停止で搬送され救命しえた4症例
(国立病院機構呉医療センター循環器科)
中谷和弘・山下泰史・篠原主一・西山浩彦・
松本健吾・川本俊治
院外心肺停止で搬送され救命しえた4症例を報告
する.【症例1】66歳男性.銭湯にて意識消失,心
肺停止となりby stander CPRが施行され,救急要
請.救急搬送中Vfが出現し救命士による徐細動が
施行され24分後当院搬送.【症例2】53歳女性.胸
痛にて救急搬送中に意識消失,Vfとなり,救命士
による徐細動が施行され15分後当院搬送.
【症例3】
43歳男性.海釣り中に意識消失,心肺停止となり
by stander CPRが施行され 救急要請.初回心電
図Vfであり救命士による徐細動が施行され26分後
当院搬送.【症例4】14歳男性.自宅で意識消失,
心肺停止となり父親にてCPRが施行され救急要
請.初回心電図Vfであり救命士にて徐細動施行さ
れ25分後当院搬送.4症例ともに脳機能障害を残
さず独歩退院した.
206) 高血圧患者における血漿ウリジン定量の臨
床的意義
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
浜田紀宏・水田栄之助・嘉悦康博
(鳥取大学再生医療学) 杉原志伸・山本康孝
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
加藤雅彦・足立正光
(山陰労災病院循環器科) 太田原顕
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
井川 修・重政千秋
(鳥取大学再生医療学) 久留一郎
【目的】高血圧患者において,血漿ウリジン濃度と血
圧,肥満度,糖・脂質代謝との関連を検討する.【方
法】外来通院中の降圧薬を投与していない高血圧患者
(n=36)に対し,空腹時採血を行い,生化学検査なら
びにインスリンを測定し,HOMA-IRを算出した.更
に血漿の一部を用い,空腹時ウリジン濃度を定量した.
【成績】血漿ウリジン濃度は収縮期血圧,body mass
indexと有意な正相関を示した.更に空腹時血糖との
関連を認めなかったが,インスリン濃度,HOMA-IR
とウリジン濃度とは有意な正相関を示した.脂質,尿
酸値との関連は認められなかった.【結論】高血圧患
者は,インスリン感受性の低下に従い骨格筋ピリミジ
ン代謝が亢進し,血漿ウリジン濃度が上昇しやすいこ
とが示唆された.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1171
207) 高血圧患者におけるアディポネクチン値の特
徴とカンデサルタン投与の影響:ICARE研究第一報
(博愛病院循環器内科) 田中保則・北村郁代
(鳥取赤十字病院 循環器科) 縄田隆浩・
小坂博基
(野島病院内科) 宮崎 聡
(西伯病院内科) 広兼祐二
(山陰労災病院循環器科) 太田原顕
(済生会境港病院内科) 山崎純一
(日南病院内科) 高見 徹
(鳥取大学循環器内科) 浜田紀宏・
山本康孝・園山一彦・久留一郎
Adipocytokineの一つであるアディポネクチンはメタボ
リック症候群のマーカーであり,薬剤投与によるアディ
ポネクチンの上昇はインスリン抵抗性の改善につなが
る.そこで我々は多施設共同研究から高血圧患者のアデ
ィポネクチンを検討し,さらにARBであるカンデサル
タンの効果を検討した.46例の高血圧患者ではアディポ
ネクチンは中性脂肪ならびにHDL/中性脂肪比に相関し
たが,総コレステロール値やHDLとは相関が無かった.
さらにアディポネクチン低値群では中性脂肪とHDL/中
性脂肪比が有意に低かった.カンデサルタン投与にて30
名(65%)の症例でアディポネクチンの上昇がし,その
上昇はカンデサルタン用量に依存する傾向があった.ア
ディポネクチンの減少は高血圧患者のインスリン抵抗性
に関連しカンデサルタンはこれを上昇させた.
208) 入院中のDASH食による血圧・糖脂質代謝
に及ぼす影響
(国立病院呉医療センター循環器科)
山下泰史・中谷和弘・西山浩彦・篠原主一・
松本健吾・川本俊治
【背景】近年DASH食はその降圧効果及び脂質低
下作用が報告され始めている.【目的】短期間に
DASH食が血圧及び糖脂質代謝に与える影響を検
討する.【方法】対象は心疾患にて入院中の患者
24例(男13,女11).心臓食(1500-1600kcal,塩
分5-7g)を開始し,A群(n=14):day5-8 DASH
食に変更,B群(n=10):day5-8心臓食を継続と
し,変更前後の血圧・脈拍・電解質・糖脂質に関
し て 比 較 し た .【 結 果 】 A 群 で は 収 縮 期 血 圧
(131.1±9.4→120.4±9.7mmHg,p=0.0041)は有
意に低下した.またTC(169.9±13.1→151.9±
13.6mg/dl,p=0.0024)も有意に低下した.B群
ではそのよ う な 変 化 を 認 め な か っ た .【 結 論 】
DASH食は短期間でも降圧作用が期待でき,脂質
代謝に影響を及ぼすことが示唆された.
209) 本態性高血圧患者の動脈硬化における早朝
高血圧の意義 ―頚動脈エコーとCAVIを用いた
検討―
(愛媛大学第二内科) 倉田美恵・大藏隆文・
渡邉早苗・三好賢一・入田 純・真部聖子・
福岡富和・檜垣實男
本態性高血圧患者の動脈硬化における早朝高血圧
の意義について検討するため,高血圧患者27名を
対象とし,頚動脈エコー,CAVI(cardio ankle
vascular index)および24時間血圧測定を行った.
検査時正常血圧群と高血圧群の比較検討では,
CAVIの値に有意な差は見られなかった.一方,
早朝正常血圧群と比較して,早朝高血圧群では
CAVIは有意に高値であった.頚動脈エコーの各
指標においても,検査時正常血圧群と高血圧群と
の間に有意な差は見られなかった.一方,早朝高
血圧群では,早朝正常血圧群と比較して,有意な
cross-sectional distensibility coefficient(CSDC)
の低下および硬化度指数βの増大を認めた.早朝
高血圧を有する患者では動脈硬化の有意な進展を
認め,早朝高血圧は動脈硬化を増強させる危険因
子の一つであると思われた.
1172
第 88 回中国・四国合同地方会
210) 血圧(高血圧)と重力の多体問題
(白石生物物理研究所) 白石彰徳
213) DMとHTを合併した重症OSAS患者にテル
ミサルタンとCPAPの併用療法でHOMA−IRが改
善した一例
(中川循環器科内科・OSASセンター)
中川真吾
重力(G)と血圧の多体問題はGが多粒子状態に
対応せずマクロ系で単一,ミクロ系ではGが存在
せず,血圧の連続測定が可能なことである.iG
(iso-G:白石)が多体性重力として機能する方程 【目的】重症OSASにHTとDMを合併した患者に
式を定義し多体問題を解決する.低周波心音の周
テルミサルタンとCPAP療法の併用でHOMA-IR
波数(fq)を計測し多体性重力方程式(白石) の改善と降圧をきたした一例を報告する.【症例】
n
X ), n( 1 , 2 , 3 . . . n ), C n = 4 n , 44歳174cm98Kg腹囲90cm血圧160/110 既往歴38
i G = π 2 × C n H(
X=fq/360は熱平衡状態の多体系空間のエネルギ
歳境界型DM現症糖尿病指摘されるも放置.日中
ーポテンシャルCnHn(X)がπ2(加速度定数:白
傾眠ありPSG検査入院となる.【経過】PSGにて
石)を変調し熱状態方程式が成立する.n=2(2
AHI66.7血糖155HOMA-IR8.8AUTOCPAPにてタ
粒子状態空間)でfq=96,iG=10.997ならばBPは
イトレーションAHI2.7に改善3ヶ月後血糖
149.5mmHgであり,血圧の多体問題はiGの多体
132HOMA-IR4.6血圧140/100まで改善テルミサル
性により解決する.血圧はiGのポテンシャルエネ
タン40mgを夜間投与し3ヶ月後血糖116HOMAルギーによる変調情報として高状態密度の圧力熱
IR1.7血圧120/72に改善した.【考察】テルミサル
平衡状態に関する生体の点滅信号である.
タンの化学構造は,チアゾリジン誘導体と類似し
PPARAγという受容体に結合して活性化し脂肪
細胞の分化を誘導し糖代謝を改善したと考察す
る.またOSASを合併していたためCPAPにより
睡眠構築が正常化したことに寄りより効果的であ
ったと考察する.
211) 正常血圧または軽症高血圧糖尿病の左室拡
張障害
(香川大学総合診療部) 舛形 尚・千田彰一
(坂出市立病院循環器科) 吉原夕美子・
吉川 圭・藤田憲弘
(香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科)
河野雅和
正常血圧または軽症高血圧の糖尿病患者の心エコ
ー所見を年齢層別に検討し,糖尿病の左室肥大と
左室拡張障害について検討した.対象は40歳代糖
尿病(DM):19例と非糖尿病(Non-DM):9例,
50歳代DM:19例とNon-DM:13例,60歳代
DM:21例とNon-DM:15例,70歳代DM:18例
とNon-DM:19例であり,左室駆出率55%以上と
左室収縮能は保たれていた.Mモード法で心室中
隔壁厚,左室後壁厚を計測し,相対的壁厚,左室
重量係数を算出した.左室拡張能は左室流入血流
速波形からE波高,A波高,E/Aで評価した.左
室肥大指標は各年齢層でDMとNon-DMの間で有
意差は認めなかった.しかしE/Aは50歳代以上の
年齢層でDMはNon-DMに比して有意に低値であ
った.正常血圧または軽症高血圧糖尿病における
左室拡張障害には左室肥大よりも心筋障害の関与
が大きいと考えられた.
212) 閉塞性睡眠時無呼吸症候群に伴った両心不
全と肺高血圧症にCPAP療法が著効した一例
(県立広島病院) 水津純江・岩本明倫・
梶原賢太・槙田祐子・藤井雄一・橋本正樹・
末田 隆・岡本光師
214) 僧帽弁形成術により睡眠呼吸障害が改善し
た1例
(愛媛県立三島病院内科) 本田俊雄・
大島清孝
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
林 秀行・浜中荘平・種本和雄
僧帽弁閉鎖不全により心不全を発症し,薬物治療
後に僧帽弁形成術を受けた患者で手術後に睡眠呼
吸障害が改善した1例を経験したので報告する.
症例は67歳,男性.僧帽弁閉鎖不全症で外来通院
していたが,心房細動の合併を機に心不全を発症
し,入院した.薬物療法で心不全は落ち着いたが,
僧帽弁逆流はIII度であり,僧帽弁形成術,左房
縫縮術,Maze手術を受けた.簡易型睡眠障害診
断器(モルフェウス)を用いて睡眠呼吸障害につ
いて検査した.手術前後で中枢型無呼吸指数は
32.2から2.8,AHIは37.2から25.8へ改善した.更
に,酸素療法の追加により中枢型無呼吸指数は0,
AHIは0.2へ改善した.心不全に合併した睡眠呼
吸障害に対して,手術療法,酸素療法が有効な症
例を経験した.
215) 心疾患における中枢性無呼吸成分の規定因
子の検討
(愛媛大学病態情報内科) 西村和久・
倉田 聖・大木元明義・大塚知明・岡山英樹・
檜垣實男
(喜多医師会病院循環器内科) 吉井豊史・
井上勝次・日浅 豪・山田忠克・住元 巧
症例は,56才,女性.無呼吸低呼吸指数(AHI)
44に加え,BMI42.5kg/m2の高度肥満があり,肥
満低換気症候群(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)で 【背景】睡眠呼吸障害(SDB)は中枢型と閉塞型
に分類されるが,両者は混在し,しばしば同一患
あった.両心不全で入院し,低酸素血症に対して
者で認められる.【目的】心疾患患者における中
酸素投与するとCO2ナルコーシスとなった.人工
枢性無呼吸成分の規定因子について検討するこ
呼吸器装着にて改善したが,その後,肺高血圧発
と.【方法と成績】対象はSDB精査のため簡易型
症.バイレベル型CPAPをほぼ24時間装着するこ
モニタリングを行った連続138名の心疾患患者
とで,速やかに二酸化炭素分圧が低下,酸素分圧
(平均年齢68歳)
.無呼吸低呼吸指数>15のSDBは
が上昇し,肺高血圧も消失,日中の血圧も正常化
75例(54%)に認められ,そのうち22例(29.3%)
した.現在も在宅にて固定型CPAPを継続するこ
は中枢型無呼吸優位,53例(70.7%)は閉塞型優
とで心不全,肺高血圧などは再発していない.心
位であった.単変量解析では中枢性無呼吸指数
不全,肺高血圧の患者において,睡眠時無呼吸症 (CAI)と年齢(P=0.04),LVEF(P=0.0002),
候群を発見,診断することは非常に有益である.
BNP(P<0.0001)の間で有意な相関を認めた.多
変量解析ではBNPがCAIを予測する唯一の独立し
た規定因子であった(standard coefficient=0.40,
P=0.001).【結論】BNPは中枢性無呼吸成分を規
定する因子である可能性が示唆された.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
216) 睡眠呼吸障害を合併した慢性心不全患者に
おける夜間在宅酸素療法の有用性 −医療経済学
的効果からの検討−
(喜多医師会病院循環器内科) 日浅 豪・
西村和久・井上勝次・山田忠克・住元 巧
【目的】睡眠呼吸障害(SDB)を合併した慢性心
不全(CHF)患者に対する夜間在宅酸素療法(HOT)
の医療費抑制効果について検討すること.【方法】
対象はSDB(apnea-hypopnea index:AHI 20以上)
を合併した左室駆出率45%以下のCHF患者8例
(男性5例,平均年齢74歳).HOT開始前後の連
続12ヵ月間の医療費を調査し,HOTが医療費に
どのような影響を与えたかを検討した.【成績】
治療前後でAHIは32.2から9.1に有意に低下した
(p<0.001)が,心機能は不変であった.HOT開
始前6ヶ月間の医療費は一人平均881280円で
HOT開始後は477090円に減少した.入院回数は
平均2回/6ヶ月間から0.25回/6ヶ月間に減少し
た.【結論】HOTはSDBを合併したCHF患者の医
療費を抑制し,生活の質を改善することが示唆さ
れた.
217) 当院における急性心不全についての検討
(松江赤十字病院循環器科) 西楽顕典・
塩出宣雄・城田欣也・石井裕繁・後藤賢治・
末成和義・三上慎祐
【目的】当施設における急性心不全患者の特徴を
検討すること.【方法・結果】2004年4月∼2005年
12月までの期間で,急性心不全のために入院した
232症例の臨床的特徴について検討した.平均年
齢は73±13歳であった.心不全の原因は収縮不全
が81例(35%),拡張不全が47例(20%),弁脈症
が36例(16%),頻拍性不整脈が28例(12%),徐
脈性不整脈が12例(5%),その他のものが28例
(12%)であった.心不全の誘因は感染が23例
(10%),心筋虚血と頻拍がともに15例(6%),誘
因が不明のものが111例(48%)であった.
【結語】
心不全の原因として収縮不全が最多であり,心不
全の誘因は不明であることが最多であった.心不
全の各原因群間での比較検討を現在進行中であ
る.
218) 慢性心不全に対する夜間酸素療法の効果に
ついて
(KKR高松病院心臓血管病センター)
伊原かすみ・北泉顕二・松元一郎・澳本定一
Cheyne-Stokes呼吸に代表される中枢型睡眠時無
呼吸を合併する慢性心不全患者は,生命予後が不
良であることが知られている.これに対し,夜間
酸素療法が睡眠呼吸障害を軽減させ,予後を改善
させると報告されている.当院においても夜間酸
素療法を開始した16名の検討では,無呼吸低呼吸
指数(AHI)は全例で改善を認め,15名の症例で
は臨床症状の改善とともに,BNP値,CRP値お
よび自律神経機能の改善を認めた.しかしながら,
AHIの改善を認め,十分な心臓リハビリテーショ
ンを行ったにもかかわらず,次第に病状が悪化し
た1症例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
219) 原発性アルドステロン症により慢性心不全
の増悪を来たした一症例
(愛媛県立中央病院循環器科) 福田高彦・
広瀬英軌・大島弘世・森あい子・田中正道・
佐伯秀幸・松中 豪・平松伸一・鈴木 誠・
風谷幸男
症例は59歳の男性.陳旧性心筋梗塞,慢性心不全
などで外来通院中であった.H17年4月頃より労
作時の息切れの増強を認めるようになり,平成17
年10月13日,精査加療目的に入院.入院時の血液
検査でレニン活性が1.1ngAI/ml/h,アルドステ
ロンが44.5ng/dlとアルドステロンの上昇および
アルドステロン/レニン活性比の上昇を認めた.
腹部CT,アドステロールシンチ,副腎静脈のサ
ンプリングにより,左副腎線種による原発性アル
ドステロン症と診断.11月24日,腹腔鏡下左副腎
摘出術を施行.手術前後でBNP値は404.3pg/mlか
ら179.5pg/mlまで低下.労作時の息切れも著明に
改善した.原発性アルドステロン症の合併により
慢性心不全が増悪したと考えられる一例を経験し
たので報告する.
222) FDG-PETにおいて胸腹部大動脈に集積亢
進を認めた初期大動脈炎症候群の一例
(徳島大学病院循環器内科) 田中 修・
岩瀬 俊・藤村光則
(同血液内科) 橋本年弘
(同循環器内科) 若槻哲三・赤池雅史・
東 博之
(同内分泌・代謝内科) 松本俊夫
症例は72歳女性.平成18年2月初旬より38℃台の
発熱が持続.血管雑音は聴取せず,血圧の左右差
もみられなかったが,赤沈が著明に促進し
(140mm/hr),CRPの上昇(14.4mg/dl)を認め
た.CT,MRAおよび血管造影では,大動脈とそ
の分枝に狭窄および拡張病変はみられなかった
が,FDG-PETにおいて大動脈弓部から腹部大動
脈にかけて動脈壁に炎症によると思われる強い集
積亢進を認め,大動脈炎症候群と診断した.本例
のように虚血症状を認めず,動脈の形態変化が乏
しい発症初期段階における大動脈炎症候群の診断
は一般的にきわめて困難であるが,FDG-PETは
炎症の有無と病変部位を同時に評価でき,大動脈
炎症候群の早期診断に有用と考えられた.
220) 心不全における筋小胞体Ca2+放出チャネル
安定化機序の検討
(山口大学器官病態内科学) 内海仁志・
矢野雅文・山本 健・立石裕樹・望月 守・
野間利至・徐 暁娟・小林茂樹・池田安宏・
大草知子・松h益‡
223) 超高齢者の経皮的腎動脈拡張術(PTRA)
の特徴 −「左」上腕・橈骨動脈アプローチ法の
有用性について−
(香川井下病院循環器内科) 松村憲太郎
221) 腎移植患者の総腸骨動脈狭窄に対して,腎
保護のためにガードワイヤーを用いてステント植
え込みを行った1例
(徳島赤十字病院循環器科) 當別當洋平・
日浅芳一・弓場健一郎・宮崎晋一郎・
宮島 等・小倉理代・尾原義和・鈴木直紀・
高橋健文・細川 忍・岸 宏一・大谷龍治
224) 確定診断困難であった左肺野異常陰影の二例
(総合病院岡山赤十字病院循環器科)
小畠廉平・佐藤哲也・角南春樹・吉岡 亮・
川本健治・福家聡一郎・齋藤博則・前川清明・
飛岡 徹
【目的】80歳以上の超高齢者のPTRAの特徴及び
左上腕・橈骨動脈アプローチ法の有用性について
検討した.【対象】6年間にPTRAを施行した59例
心筋筋小胞体のCa2+放出チャネルであるリアノジ
ン受容体(RyR)内の特定領域(CPVTの突然変 (男36,女23,平均77±9歳).65歳未満の若年
異集合部位)のドメイン連関障害は,心不全にお (Y)群6例,65歳以上79歳以下の高齢(O)群28
ける拡張期Ca2+ leakの重要な要因である.今回,
例,80歳以上の超高齢(VO)群25例.【結果】初
回PTRA46例,再PTRA13例(28%),不成功1例.
このドメイン連関障害を是正することにより不全
アプローチは大腿22例,上腕/橈骨26/11例(63%),
心筋細胞機能を改善しうるか否かを検討した.
VO群で上腕・橈骨アプローチ64%.再PTRA率は
【結果】1.ドメイン連関障害を是正するアミノ酸
Y群33%,O群21%,VO群20%.初回PTRAの
配列がRyR内に内在されていた.2.このアミノ酸
stent使用39例(87%),coronary stent31例,末
配列を治療ペプチドとして不全心筋細胞内に導入
梢stent8例,direct stent18例.【結語】超高齢者
することにより,細胞内Ca 2 + transient,cell
shortning,細胞生存率のいずれも改善した.【結
でも左上腕・橈骨動脈穿刺でPTRAが十分可能で
語】RyR内の特定チャネル制御ドメイン連関障害
あり,術後安静不要の点からも優れている.
の是正による細胞内Ca2+ handlingの改善は,心不
全や致死的不整脈の新たな治療戦略として期待で
きる.
60歳男性.9年来の維持透析の既往あり.1997年
に左総腸骨動脈(CIA)の慢性完全閉塞のためF-F
bypass,1999年に右腎移植を施行した.2005年4
月より右下肢に間歇性跛行が再発.ABIは右0.64,
左0.63と低下.下肢エコーにて右CIAに高度狭窄
を認めた(収縮期最高流速は狭窄部の中枢側で
200cm/s,末梢側で388cm/s)
.下肢血管造影では
右CIAに高度石灰化を伴う75%狭窄病変を認め,
カテーテルインターベンションの適応と考えられ
た.移植腎の動脈吻合が右外腸骨動脈にあり,腎
への塞栓症が問題となるため,移植腎動脈をガー
ドワイヤーにて閉塞し,Palmaz stentにてPTAを
行った.移植腎の動脈吻合部周辺に新規病変をき
たした場合,インターベンション時に塞栓をきた
す可能性もあり,ガードワイヤーを用いた治療は
移植腎を保護する上で有用と考えられた.
一例目は79歳男性.平成17年7月上旬より血痰出
現し,下旬より発熱,喀血があり,31日当院呼吸
器科に紹介入院.胸部X線にて左肺門部に腫瘤陰
影を認め,単純CTにて下行大動脈に接していた.
第2病日,軽度の喀血からショック状態となり永
眠.剖検にて下行大動脈の嚢状動脈瘤破裂,左肺
への穿通,下葉の血液による緊満,胸腔内巨大血
腫を認めた.二例目は70歳男性.平成17年9月下
旬より血痰出現.その後発熱,胸痛出現し,30日
当院呼吸器科に紹介入院.胸部X線にて左下葉の
腫瘤陰影を認め,CTにて下行大動脈に接し造影
効果を認めた.抗生剤で加療し炎症反応改善する
も浸潤影の周囲への波及を認め,大動脈瘤を否定
できずCCUにて加療.その後完治し,結局肺膿
瘍と診断.以上,自覚症状,画像所見が類似し,
異なる疾患であった二例を報告する.
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1173
225) 開心術を施行した慢性透析患者の石灰化お
よびCa・P代謝について
(心臓病センター榊原病院) 清水明徳・
河合勇介・難波経立・田原達哉・川村比呂志・
廣畑 敦・雪入一志・山地博介・村上正明・
村上 充・難波宏文・山本桂三・日名一誠・
喜多利正
【目的および対象】慢性透析患者で心臓病センタ
ー榊原病院にて開心術を施行した45症例につい
て,石灰化およびCa・P代謝について検討した.
【結果】胸部CTで大血管,弁,冠動脈の石灰化の
程度を判定した.開心術を施行した慢性透析患者
のほとんどの症例で大血管・冠動脈・大動脈弁・
僧帽弁に石灰化を認めた.大血管・冠動脈の石灰
化部位と手術を必要とするような動脈硬化病変と
が一致しないことが多かった.大動脈弁・僧帽弁
については石灰化の強い病変に重症な弁膜症を認
めた.Ca,P,intact PTH,副甲状腺切除術の既
往などCa P代謝のコントロール不良の既往と動脈
硬化や石灰化病変について明らかな関係は認めら
れなかった.透析歴については透析歴5年未満と
5年以上で検討したところ透析歴5年以上で石灰
化の程度は明らかに強かった.
226) 腸骨動脈慢性閉塞病変に対しエコーガイド
下にて安全にPTAを施行しえたPADの1例
(松山市民病院循環器科) 中村陽一・
高橋 昇・小松須美生・高岡聖子
血管内治療の進歩により高度閉塞病変に対しPTA
が行われる傾向にある.【症例】53歳男性.250m
歩行にて左大腿痛が出現.安静時ABIは右0.97,
左0.53であった.負荷後ABIは右0.96,左測定不
能であった.血管エコーでは左腸骨動脈領域の閉
塞所見であった.MDCTでは左外腸骨動脈の約
8cm長の屈曲した閉塞病変であった.東芝社製
exario,5MHzコンベックスプローブにより閉塞
病変は鮮明に描出しえた.0.018”トレジャーを使
用し逆行性にアプローチするが偽腔にワイヤーが
進むことをエコーにより確認した.対側アプロー
チに変更し順行性に真腔を選択しえた.閉塞部に
はSmart stentを挿入し安全に安心して手技を終
了した.術後ABIは0.97まで改善した.【結語】
エコーガイドは安全にガイドワイヤーをナビゲー
トでき,かつストラテジーの決定に有用であっ
た.
227) P C I 後 生 じ た 心 タ ン ポ ナ ー デ の 1 ヵ 月 後
Dressler症候群を発症した1例
(山陰労災病院循環器科) 角田宏明・
遠藤 哲・笠原 尚・尾崎就一・太田原顕
228) 急性心筋梗塞後の自由壁穿孔後に仮性心室
瘤を形成し救命しえた1例
(山口大学循環病態内科学)
木原千景・村田和也・杉 直樹・橋本弦太・
山田寿太郎・岡村誉之・小林茂樹・河村修二・
大草知子
(同器官病態外科学) 高橋雅弥・伊東博史・
美甘章仁・濱野公一
(同循環病態内科学) 藤井崇史・松h益‡
症例は74歳男性.1982年に冠動脈バイパス術を受
けた.2006年1月胸部絞扼感を主訴に来院.冠動
脈造影では左回旋枝#12の完全閉塞を認め,心エ
コーで左室後側壁の壁運動低下と後壁側にecho
free spaceを認めた.Oozing ruptureの可能性が考
えられたが,心臓術後の心膜癒着により心嚢液増
加傾向はなく血行動態が安定していたため保存的
加療により経過観察とした.2週間後の心エコー
にて左室後壁に仮性心室瘤を認め,カラードプラ
ーにて同部と左室間に血流を認めたため遅発性の
自由壁穿孔と診断し,外科的閉塞術を施行した.
術中所見では心臓後壁に約5mm大の穿孔腔を認
めた.左回旋枝#12閉塞によるOozing ruptureか
らの遅発性自由壁穿孔を発症したが,術後の癒着
のために仮性心室瘤を形成し救命しえた稀な1例
を経験した.
229) PCI後に形成された仮性心室瘤を発見し治
療しえた1例
(高知赤十字病院内科・循環器科)
高橋純一・西野 潔・森下奈苗・山下潤司・
森本啓介・木村 勝
(近森病院心臓血管外科) 入江博之
症例は75歳男性.平成17年9月7日より心窩部痛,
微熱が出現.症状が増悪し当院に救急搬送となっ
た.心電図では全誘導でのST上昇を認め,聴診
にて心膜摩擦音を聴取.エコーにて心嚢液の貯留
を認めたため,急性心外膜炎と診断し加療を行な
った.入院時よりエコーにて左室後側壁の壁運動
の低下も認めていたため,虚血性心疾患の関与も
疑い,症状改善後に心臓カテーテル検査を施行し
た.左回旋枝#12に99%狭窄を認め,同部にPCI
を行ない10月13日に軽快退院となった.10月18日
に外来受診をした際,エコーにて左室後側壁領域
に心室瘤を認めた.翌日に準緊急的に手術を行な
い救命しえたが,組織診断で仮性心室瘤と診断さ
れた.今回,PCI後の外来フォロー中に仮性心室
瘤を発見し治療しえた比較的稀な一例を経験した
ので,文献的考察も含め報告する.
230) 診断困難であった仮性心室瘤の1例
(市立三次中央病院循環器科) 福田幸弘・
田中幸一・田坂浩嗣・福山耕治
【症例】84歳女性.【主訴】発熱 全身倦怠感.
症例は64歳女性,平成17年8月1日心電図上急性心
【既往歴】大動脈弁置換術施行歴.【現病歴】平成
筋梗塞と診断され当院へ搬送された.緊急カテー
16年11月21日 発熱にて近医より紹介された.初
テ ル 検 査 に て 左 前 下 行 枝 の 高 度 狭 窄 を 認 め , 回入院中の検索では熱源が特定できなかった.抗
POBA施行するも拡張不十分なためCypherステン
生剤加療したが,軽快傾向にあるものの,微熱と
ト留置された.施行後12時間後より血行動態不良
全身倦怠感が残存していた.約2ヶ月で退院.4ヶ
となり,心嚢液貯留を認め心嚢ドレナージを行っ
月後,三尖弁閉鎖不全による右心不全が悪化し,
た.その後経過良好で8月13日退院した.9月2日
別施設に入院した際に,僧帽弁輪に近接した左室
再び胸痛が出現し,心嚢液の貯留と炎症反応の増
後壁に3.5×30mm径の左室と交通のある仮性心室
悪を認めた.心筋梗塞の再発や膠原病は否定的で
瘤を指摘された.感染兆候は消失していた.手術
あり,Dressler症候群と考えられた.アスピリン
加療は希望されず,当院にて外来通院中である.
投与と入院安静にて軽快した.外傷後の心タンポ
CTエコーフォローしているが,現時点では仮性
ナーデにおいて術後残存した血清浸出液が自己免
心室瘤の拡大傾向は確認されていない.若干の考
疫的機序により収縮性心膜炎を生じることが報告
察とともに報告する.
されている.本症例ではDressler症候群発症の誘
因としてPCI後の心タンポナーデが関与している
可能性があると思われる.
1174
第 88 回中国・四国合同地方会
231) 26歳前壁中隔急性心筋梗塞に対して血栓吸
引療法後に緊急CABGを施行した一例
(国立病院機構岩国医療センター循環器科)
錦みちる・河野晋久・白木照夫・
田中屋真智子・湯本晃久・片山祐介・
佐藤慎二・高橋夏来
26歳男性.平成17年6月右精巣梗塞にて右精巣除
睾術施行,以後抗血小板薬を内服していた.平成
18年1月運動中に胸痛を認め救急車で来院.搬送
途中にVfとなりDC施行,洞調律となる.来院時
の心電図では胸部誘導でST上昇,心エコーにて
LAD領域の壁運動低下を認め急性心筋梗塞と診
断,緊急心臓カテーテル検査を施行したところ♯
6入口部で完全閉塞していた.血栓吸引にて
TIMI2となるが若年で急性心筋梗塞を発症してい
ることから凝固能異常が疑われ,また血栓閉塞時
には致死的になると思われたためステント留置は
行わず緊急CABG(LITA-LAD側側吻合)を施行
した.今回我々はLAD♯6が責任病変の急性心筋
梗塞を発症した26歳の症例に対し,緊急CABGを
選択した一例を経験したので報告する.
232) 心房細動に合併した心筋梗塞の病態と予後
(広島市立安佐市民病院循環器科)
松田 理・土手慶五・加藤雅也・佐々木正太・
長谷川大爾・中野良規・長沼 亨
心房細動による心原性脳塞栓症の頻度は増加し
て,冠動脈塞栓による心筋梗塞も重要な病態であ
る.【目的】冠動脈塞栓症の病態と予後について
検討した.【方法,結果】過去10年間の急性心筋
梗塞のうち冠動脈塞栓症は15例で,経食道心臓超
音波検査を施行できた11例中10例に左心耳血栓を
認めた.冠動脈近位部に塞栓を認めた8例はすべ
て冠動脈形成術を施行したが,2例は院内死亡し
た(max CPK 3500±1900mg/dl).冠動脈末梢の
塞栓6例には冠動脈形成術を行わず抗凝固療法を
施行し,すべて軽快退院した(max CPK 1700±
470mg/dl).【結論】心房細動に合併した冠動脈
塞栓は中枢型と末梢型に病態がわかれ,予後は大
きく異なる.
233) 急性心筋梗塞で発症した巨大右冠動脈瘤の
一例
(心臓病センター榊原病院循環器内科)
河合勇介・喜多利正・日名一誠・難波宏文・
清水明徳・山本桂三・村上 充・村上正明・
山地博介・雪入一志・川村比呂志・吉野智亮・
廣畑 敦・田原達哉・難波経立
症例は26歳男性.持続する胸痛を主訴に近医受診
し,心電図と血液検査にて下壁の急性心筋梗塞が
疑われ当院紹介.心エコーでは左心室下壁の壁運
動障害と,右心房と右心室を圧排する巨大な腫瘤
を認めた.腫瘤は造影CTにて50×45mm大の右
冠動脈瘤であることが判明し,冠動脈造影検査で
は瘤より末梢側が造影されず,巨大冠動脈瘤によ
る急性心筋梗塞と診断した.瘤径大きく,破裂の
危険性もあり緊急手術を行った.人工心肺下で瘤
切除,右冠動脈再建(瘤の中枢側と末梢側の冠動
脈を端々吻合),冠動脈バイパス術(胃大網動
脈−右冠動脈後下行枝)を施行した.術後の冠動
脈造影では再建した右冠動脈には狭窄はなかった
が,バイパスグラフトは閉塞していた.若年発症
の極めて大きな冠動脈瘤であり,若干の文献的考
察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
234) 急性冠症候群(ACS)におけるバルーン
拡張後の追加血栓吸引療法について
(中国労災病院循環器科) 木阪智彦・
榎野 新・本藤達也・松田圭司・冨永晃一・
丸橋達也
237) 冠動脈形成術時の微小塞栓
(川崎医科大学循環器内科学) 川元隆弘・
大倉宏之・小山雄士・久米輝善・岡橋典子・
豊田英嗣・吉田 清
240) ニコランジル経静脈前投与によるno/slow
reflowの予防効果
(国立病院機構岡山医療センター循環器科)
藤本良久・河合勇介・久松研一・宗政 充・
宮地克維・徳永尚登・赤木 達・旦 一宏・
池田悦子・永井正浩・川合晴朗・松原広己・
三河内弘
冠動脈形成術(PCI)施行時に血管内超音波(IVUS
【目的】ACSに対する血栓吸引療法では,病変不
;Volcano Therapeutics社製)による組織性状診
通過にて十分な吸引ができないことがある.【方
断(VH)とドプラガイドワイア(DGW)にて高
【目的】経皮的冠動脈形成術(PCI)時のno/slow
法】ACS(19例)に対してバルーン拡張(POBA) 輝度信号(HITS)検出を試みた2症例につき報告
reflowは予後不良因子とされるが,満足のいく予
前後で2回ずつThrombuster II血栓吸引を施行. する.【症例1】68歳男性.不安定狭心症で左前下
防策は確立されていない.ニコランジル経静脈投
得られた血栓量をgrade 0∼3と定義し検討した. 行枝に75%狭窄を認めた.IVUSではプラーク面積
与を行い,no/slow reflowに対する予防効果を検
2
その後全例ステントを留置した.【結果】対象例 (PA)10.1mm ,プラーク面積率(%PA)75%で,
討した.【方法】PCIの適応とされた,408例(急
VHでNecrotic Core領域(NC)は31%であった. 性心筋梗塞症64例,狭心症344例)を対象とし,
ではPOBA前の血栓grade合計は2.1±2.1,POBA
ニコランジル投与群(N群:206例)と非投与群
ステント(Cypher 2.5×18)留置時多数のHITSを
前後の合計は4.4±2.8で有意に多かった(p<
(C群:202例)に分類.N群にはバルーン拡張直
観察した.【症例2】63歳男性.狭心症で左前下行
0.01).Thrombuster II病変部非通過群は通過群
前に,ニコランジル6mgを経静脈投与した.【結
枝に同様に75%狭窄を認めた.PA 5.4mm2,%PA
よりPOBA前の吸引血栓量が有意に少なく(p<
果】no/slow reflowはN群9例(4.4%)vs. C群31例
57%で,VHでNCは2%であった.ステント(Cypher
0.01),POBA後吸引量が増加する傾向がみられ
(15.3%);(p<0.001)に出現.急性心筋梗塞症例
2.5×28)留置時にHITSは観察されなかった.
た(p=0.058).【結語】急性冠症候群において,
にてN群1例(3.7%)vs. C群11例(29.7%);(p<
特に非通過例ではバルーン拡張後の追加血栓吸引 【結語】VHによるプラーク性状診断にて微小塞栓
0.01).狭心症例にてN群8例(4.5%)vs. C群20例
物質を生じうる高リスクプラークを同定できる可
療法が有用である可能性が示唆された.
(12.1%);(p<0.05)と有意にN群が低かった.
能性が示唆された.
【総括】PCI時における,ニコランジル経静脈前
投与は,no/slow reflowに対する予防効果として
有効である.
235) 発作性心房細動により血栓閉塞を起こした
急性冠閉塞の一症例
(島根大学循環器内科) 安達和子・
佐藤秀俊・徳丸 睦・小谷暢啓・菅森 峰・
平野能文・国澤良嗣・高橋伸幸・坂根健志・
落合康一・吉冨裕之・公受伸之・村上 陽・
石橋 豊・島田俊夫
238) FILTRAPの使用成績
(倉敷中央病院循環器内科) 福 康志・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・竹中 創・
廣野明寿・田中裕之・田場正直・池田篤史・
前川潤平・前川祐子・羽原誠二・中村幸伸・
宮地 剛・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優
241) 塩酸サルポグレラートの心筋虚血再灌流時
の心筋内毛細血管保護効果についての検討
(川崎医科大学循環器内科) 根石陽二・
渡辺 望・豊田英嗣
(同医用工学) 小笠原康夫
(同循環器内科) 久米輝善・
スクマワンレナン・築地美和子・川元隆弘・
大倉宏之・吉田 清
症例は81歳女性.4年前より心不全,発作性心房
細動にて当院外来で加療中であった.初回の発作
時に電気的除細動にて洞調律となり,以後ワーフ
ァリンにてINR 1.00∼1.80にコントロールされて
いた.2006年1月23日朝より突然の胸痛・意識レ
ベルの低下を認め,当院救急外来に搬送.来院時
徐脈性心房細動を認めたため,体外式ペーシング
下に心臓カテーテル検査施行し右冠動脈に100%
の閉塞を認めた.まずthrombusterにより血栓吸
引で良好な血流再開を認めた.血管内エコーでは
病変部は明らかな異常は認めず,血栓は病理組織
診で新鮮血栓であった.今回我々は発作性心房細
動により形成された心内血栓にて急性冠閉塞を起
こしたと考えられる症例を経験したので報告す
る.
【目的】フィルターデバイスであるFILTRAPの当
院での使用成績を検討する.【対象と方法】2005
年9月から2006年2月までに当院にてPCIを施行し
た748症例のうち,FILTRAPを使用した29症例
(全体の3.9%)33病変を対象とし,初期成績を検
討した.【結果】29症例のうち緊急の症例は6症例
であった.手技成功率は100%であった.MACE
はなく,minor complicationとして側枝閉塞1例を
認めた.【総括】FILTRAPの初期成績は良好であ
った.当院での適応範囲内では,FILTRAPの使用
により問題となるような合併症を起こすことなく
PCIを終了させることができた.今後も症例を増
やしてFILTRAPの適応および有効性について検討
を加えたい.
【目的】塩酸サルポグレラートが,虚血再灌流時
の心筋内毛細血管の形態学的変化に影響を与える
か否かを共焦点レーザー顕微鏡を用いて検討する
ことである.【方法】麻酔下開胸ラットの左前下
行枝を虚血再灌流施行(7分−3分)後に,
Langendorffモード下に摘出心へ造影剤を注入し
心筋内血管を染影し固定する.ホルマリン固定後
スライス標本を作製し,共焦点レーザー顕微鏡で
三次元構築した画像から一定容積内の毛細血管容
量の解析を施行し,塩酸サルポグレラート(SG
群)および生食(CT群)投与間で比較検討した.
【結果】虚血再灌流後の毛細血管容量解析の結果,
SG群ではCT群に比し血管容量が有意に多かった
〔10.7±7.7% vs. 15.1±5.8%(p<0.01)〕.【総括】
虚血再灌流時の毛細血管容量比の減少は塩酸サル
ポグレラートにより軽減された.
236) 多量血栓からPCI failureとなりPCPSで救
命し得た症例
(広島市立安佐市民病院循環器科)
中野良規・土手慶五・長沼 徹・松田 理・
佐々木正太・加藤雅也
239) 血栓多量の拡張性病変で,血栓吸引療法で
終了したAMI症例に関する検討
(倉敷中央病院循環器内科) 岡本陽地・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・加藤晴美・山本浩之・福 康志・
竹中 創・廣野明寿・田中裕之・田場正直・
池田篤史・前川潤平・前川祐子・羽原誠二・
中村幸伸・宮地 剛・山田千夏・大鶴 優
242) Framingham risk scoreと冠動脈内皮機能
の関係
(広島大学分子病態制御内科学) 寺川宏樹・
上田健太郎・曽我潤子
(同心臓血管生理医学) 西岡健司・日域大輔
(同分子病態制御内科学) 三保成正
(同心臓血管生理医学) 梅村隆史・
東 幸仁・吉栖正雄
(同病態臨床検査医学) 大島哲也
(同分子病態制御内科学) 茶山一彰
【症例】56歳男性.高血圧症,高脂血症,糖尿病
にて近医通院中.突然の胸痛にて緊急入院.右冠
動脈seg 1に多量血栓による完全閉塞を認め,PCI
開始.RCA ositialに一部解離を形成したが,病 【目的】血栓多量の拡張病変に対する血栓吸引療
法の初期及び遠隔期成績の検討.【対象と方法】 【目的】Framingham risk score(FRS)と冠動脈
変部をGuide wire通過した.PIT 1クール施行し
たが末梢のflowを認めず,解離をステントで開大. 2001年3月から2005年12月までの急性心筋梗塞
内皮機能との関連についてはあまり知られておら
1409例のうち,血栓多量の拡張性病変に1.5mmバ
thrombusterで吸引し,血餅がとれたが,slow
ず今回両者の関連について調べた.【方法】冠動
ルーンで拡張後血栓吸引療法を施行したが,至適
脈に有意狭窄を認めない115例(男性72例,女性
flow改善せず.IABP留置しCCUに帰室.大量補
サイズでのバルーン拡張およびステント留置を行
43例)を対象に,FRSを評価した.冠動脈造影に
液にても血圧を保てず乏尿持続し,人工呼吸器管
っていない8例(54±18歳,男性8例)について検
て左冠動脈にアセチルコリン(ACh 3,30μg/min)
理,PCPS開始した.1週間後にPCPS離脱でき,
討した.【結果】全て右冠動脈であった.3例に
を投与し,定量的冠動脈造影およびドプラワイヤ
独歩にて第66病日に退院した.【考察】PCI手技
ICTを併用し,PCI後血流は改善(TIMI 0→2±1)
による冠血流速度から冠血流量を計測しその変化
の発達により近年心筋梗塞の合併症頻度は減少し
した.全例抗凝固療法を行なった.慢性期に
率を冠動脈内皮機能とした.【成績】FRSは男性
ているが,多量血栓によりPCI failureとなり,右
CAGを施行した7例では,1例を除き血栓は完全
6.6および女性9.4であり,ACh30μg/minの冠動脈
室梗塞を合併する症例を経験した.右室梗塞によ
に消失し良好な開存を認めた.【結語】多量に血
内皮機能と有意な負の相関を認めた(男性:r=
り血行動態破綻をきたした症例には機械的循環補
栓を伴う拡張性病変に対し急性期に血栓吸引療
-0.37,p=0.0014;女性:r=-0.41,p=0.0067).
助が有効である.
法,術後に抗凝固療法を行い,慢性期に良好な開 【結論】FRSはかかる症例の冠動脈内皮機能につ
存を得ることが出来る可能性が示唆された.
いても重要な情報を示してくれる.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
岡山コンベンションセンター(2006 年 6 月)
1175
243) 冠動脈れん縮を合併した自然発症冠動脈解
離の1例
(呉共済病院) 檜井俊英・松尾修介・
蓼原 太・辻山修司
【症例】42歳,女性.【主訴】前胸部痛.【経過】
生来健康で冠危険因子なし.激しい前胸部痛を訴
えて受診,心電図は前胸部誘導のST上昇を認め
た.急性前壁心筋梗塞の診断でt-PA投与し冠動
脈造影施行した.左冠動脈前下行枝に解離による
狭窄を認めた.右冠動脈および左回旋枝は異常な
し.胸痛及び心電図が改善したため保存的治療と
なる.冠拡張剤内服加療を行っていたが,CCU
入院中の第6病日に胸痛出現し下壁誘導のST上昇
を認め,NTG舌下により改善した.冠動脈造影
にて経過観察を行ったが,自然治癒が見込まれず
徐々に偽腔の拡大を認めた.第14病日に超音波ガ
イド下に冠動脈ステントの留置術施行し以後経過
良好にて退院となる.冠れん縮に関連した冠動脈
解離による急性心筋梗塞の1例を報告した.
244) 冠攣縮性狭心症発作中の自律神経変動−典
型的な一症例についての分析
(金子循環器科内科) 金子 仁
246) 思いがけず冠攣縮誘発試験がその診断に有
用であった2症例
(広島大学分子病態制御内科学) 曽我潤子・
寺川宏樹・上田健太郎
(同心臓血管生理医学) 西岡健司・日域大輔
(同分子病態制御内科学) 三保成正・
中田篤範・中野由紀子
(同心臓血管生理医学) 東 幸仁・吉栖正雄
(同病態臨床検査医学) 大島哲也
(同分子病態制御内科学) 茶山一彰
冠攣縮誘発試験は安静時胸痛の精査のため行われ
る検査であるが,それ以外の症例についてあまり
施行されていない.今回冠攣縮誘発試験を施行し
思いがけず陽性であった2症例を経験した.症例1
は81歳男性.左室びまん性の収縮不全による心不
全のため入院.冠動脈造影にて有意狭窄の認めな
かったためエルゴノビンによる冠攣縮誘発試験を
施行したところ左冠動脈前下行枝にびまん性の冠
攣縮を認めた.βblockerを中止し血管拡張剤を追
加し退院.症例2は58歳男性.労作時胸痛および
負荷心電図陽性にて血管拡張剤内服下に冠動脈造
影施行した.有意狭窄を認めなかったため倍量の
エルゴノビンによる冠攣縮誘発試験にて右冠動脈
に冠攣縮が誘発された.種々の心疾患における冠
攣縮の関与は実際にはもっと多いのかもしれない.
247) 冠攣縮に関する全国アンケート調査から
(済生会西条病院循環器科) 末田章三・
福田 浩・井添洋輔・大下 晃
安静時におこる狭心症は冠状動脈の異常収縮(攣
【背景】中国四国地区における冠攣縮意識調査と
縮)に起因することが明らかとなり,一般的に
負荷試験状況を把握する目的でアンケート調査を
Vasospastic angina(VSA)と呼称されて,日本
行ったが施設間格差が著明であった.また,2006
人 に 多 い 狭 心 症 と し て 注 目 さ れ て 来 て い る . 年度発足のガイドライ作成班のひとつに『冠攣縮
VSAの起因が冠動脈の比較的太い枝の攣縮によ
性狭心症の診断と治療に関するガイドライン』決
るものである事は,発作中のST上昇という特徴
定した.【目的】ガイドライン作成前の我が国の
から一般的に認められているが,何がそれを誘導
循環器科医の冠攣縮に関する意識調査と選択的冠
するかはまだ確定されたものでなく,複合的な原
攣縮誘発負荷試験状況を把握することである.
因について研究が進められつつある.その原因の
【対象】日本循環器学会教育施設832施設と日本循
一つとして,以前よりVSAの一種である夜間狭
環器学会教育関連施設286施設である.【方法】
心症に自律神経の不安定な変動が関与すると言わ
2005年度の観血的・非観血的検査総数と冠攣縮に
れている.筆者は最近典型的な夜間狭心症の一例
関する意識調査をアンケートにて行った.【結果】
を経験し,その発作を捉えることが出来た.そこ
2006年1月4日にアンケートを送付したが,2月
で発作中の自律神経緊張の変動を非線形モデルで
25日現在で108/1118(9.7%)の回答率である.
あるLorenz plot法を用いて解析し,興味ある結
学会当日には,5月末までの結果を報告したいと
果を得たので報告する.
思っている.
245) アセチルコリン(ACh)負荷試験にてショ
ックを呈した4症例の検討
(済生会西条病院循環器科) 大下 晃・
末田章三・福田 浩・井添洋輔
【背景】ACh負荷試験は泰江先生が報告され,我
が国の多くの施設で冠攣縮誘発負荷試験として日
常臨床で使用されている.又,薬剤の作用時間は
短く,比較的安全な検査とされている.【目的】
1991年から2006年2月末までに1075例のACh負荷
試験を経験した.その中で,左冠動脈負荷試験施
行の際に,左主幹部しか造影されないショック症
例を4例経験した.この4症例から学んだ対処方
法を検討した.【結果】1)血圧維持が治療の上で
最優先課題で,硝酸薬の冠動脈内投与は血圧上昇
後に行う,2)ノルアドレナリンの大動脈内投与を
用意,3)20-30秒後にテストショットを行う,4)
DCの準備をすること,5)点滴を全開で施行する.
【総括】ACh負荷試験も安全な検査ではなく,万
全の準備が必要と思われる.
1176
第 88 回中国・四国合同地方会
〈抄録未提出〉
159) 肺動脈血栓症を合併した下肢静脈血栓症に
対するヘパリン療法によりHITが誘発された1例
(松山市民病院循環器科) 高岡聖子・
中村陽一・高橋 昇・小松須美生
184) 当院1例目の急性心筋梗塞患者に対する自
己骨髄単核球細胞移植治療報告
(愛媛県立中央病院循環器内科) 鈴木 誠・
大島弘世・森あい子・田中正道・広瀬英軌・
佐伯秀幸・松中 豪・平松伸一・風谷幸男
(同心臓血管外科) 日比野成俊・佐藤晴瑞
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
第 142 回 日 本 循 環 器 学 会 東 北 地 方 会
2006 年 6 月 10 日 岩手医科大学創立60周年記念館
会長:伊 藤 宏(秋田大学内科学講座循環器内科・呼吸器内科学分野)
1) 巨大な心室瘤を認めた心サルコイドーシスの
一例
(福島県立医科大学第一内科) 浅野智之・
鈴木 均・神山美之・金城貴士・山口 修・
国井浩行・石川和信・矢尾板裕幸・石橋敏幸・
丸山幸夫
3) 経過中,無脈性電気活動を来した心不全の一
剖検例
(岩手県立中央病院循環器科) 腰山 宏・
高橋 徹・近藤正輝・三浦正暢・湊谷 豊・
花田晃一・高橋務子・八木卓也・野崎哲司・
野崎英二・田巻健治
5) 冠動静脈瘻の破裂により心タンポナーデをき
たした一例
(平鹿総合病院第二内科) 相澤健太郎・
武田 智・佐藤貴子・遠藤秀晃・深堀耕平・
伏見悦子・高橋俊明・関口展代・林 雅人
(同心臓血管外科) 加賀谷聡・相田弘秋
症例は58歳女性.40歳代に検診で心電図異常,5
年前に近医で不整脈を指摘されたが,明らかな心
不全症状はなかった.平成17年9月の検診で両側
肺門部リンパ節腫脹を指摘され,13年前より存在
する頬部紅斑の皮膚生検にてサルコイドーシスと
診断された.平成18年1月当科紹介となり,心エ
コー上中隔から左室後下壁の基部よりに菲薄化と
瘤形成認められ入院した.心臓カテーテル検査に
て冠動脈に有意狭窄なかったが,左室造影にて心
エコーと一致した部位に40×35mmの巨大心室瘤
認められた.ホルター心電図では非持続性心室頻
拍認められ,ステロイド療法を開始した.自然経
過にて巨大心室瘤を来した心サルコイドーシス例
は稀であり,本疾患の進展過程を考える上で興味
深い症例と思われ報告した.
症例は67歳女性.13年前年心房中隔欠損閉鎖術.
その後毎年の検診では異常は指摘されていなかっ
た.1年前から階段降で呼吸困難出現した.歩行
時呼吸困難,起座呼吸出現し当科受診入院した.
心エコーにて左室の広範囲の壁運動低下,駆出率
23%,左室内径4.9/4.4cmであった.ハンプ,カ
テコラミンによる治療を開始し,うっ血肝の改善
し,経口摂取可能となるまで軽快した.第7病日,
昼食2時間後,突然胸部苦悶感出現し意識消失し
た.心電図モニター上無脈性電気活動(PEA)
の状態となったため,ただちに心肺蘇生開始した
が,蘇生せず2時間半後死亡確認した.病理解剖
を行ったところびまん性の心筋変性を認めた.初
期治療に反応したにもかかわらず,突然PEAと
なり救命し得なかった心不全症例を経験したので
病理解剖の結果とあわせて提示する
症例は76歳女性.発作性心房細動で近医通院中.
2005年8月14日朝トイレで倒れているところを発
見され,近医に救急搬送された.受診時は血圧
70/30mmHg,心電図では心拍数90/分,完全右脚
ブロックであった.全身状態不良のため,当科へ
紹介.心臓超音波検査,胸部CTで心嚢液の貯留
を認め,心タンポナーデによるショックとの診断
で入院.抗凝固剤を服用中であったことと,昇圧
剤に反応がみられたことから,心嚢穿刺は行わな
かった.慢性期に施行した冠動脈造影にて,左右
冠動脈から肺動脈へ交通する,巨大な瘤状の冠動
静脈瘻が認められた.瘤破裂による心タンポナー
デと考えられたため,2005年9月7日に当院心臓血
管外科にて瘻の閉鎖手術が行われた.術中所見で
は破裂部位は特定できなかった.術後経過は良好
であり,現在は外来通院中である.
2) 両上下肢脱力により胸部殴打を機に発症した,
たこつぼ心筋症の一例
(秋田赤十字病院循環器科) 勝田光明・
照井 元・青木 勇・猪股陽子
4) 抗パーキンソン病薬(カベルゴリン)内服中
止で心臓弁膜症が改善した一症例
(国立病院機構仙台医療センター循環器科)
鈴木景子・尾上紀子・田中光昭・馬場恵夫・
谷川俊了・渡辺 力・篠崎 毅
6) MD-CTが診断に有用であった,バルサルバ
洞動脈瘤を来した感染性心内膜炎の一例
(福島県立医科大学第一内科) 金城貴士・
中里和彦・金子博智・斎藤修一・及川雅啓・
小林 淳・高野真澄・矢尾板裕幸・石橋敏幸・
丸山幸夫
症例は72歳,女性.2005年12月5日,両上下肢に
力が入らず転倒し,胸部を強く殴打した.翌日も
両上下肢脱力としびれ,胸痛あり救急搬送となる.
習慣として毎日アルコールを摂取.高血圧症,狭
心症,鬱病にて近医からの処方を受けていた.来
院時心電図はII,III,aVf,V1-6 ST上昇,CK
2064 IU/L,HFABP陽性であり心エコーでは心尖
部に無収縮領域を認めた.急性心筋梗塞疑いで心
臓カテーテル検査を施行,冠動脈は#13に75%狭
窄を認めるのみで,左室造影で心尖部に限局した
冠動脈領域とは無関係な無収縮領域を認めた.心
筋シンチの所見もあわせ,たこつぼ型心筋症と診
断.筋力低下は,アルコール性末梢神経障害と診
断した.CK上昇はフルボキサミンによる横紋筋
融解症であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
79歳女性.2年前よりパーキンソン症候群に対し
てカベルゴリンが投与されていた.急性化膿性耳
下腺炎治療目的に当院に入院したが,その経過中
に急性心不全を発症.心臓超音波検査で著明な左
室拡大と僧房弁逆流(grade III)を認めた.左室
駆出率は65%と正常で,壁運動異常も認めなかっ
たため,僧房弁閉鎖不全による急性心不全と判断
して薬物治療を行った.安定期に心カテーテル検
査が行われ,僧帽弁置換術の適応のある重症僧房
弁閉鎖不全症と診断された.しかし,カベルゴリ
ンによる可逆性の僧房弁閉鎖不全症の可能性も考
えたため,カベルゴリンを中止したしたところ再
検した心臓超音波検査では,僧房弁逆流の著明な
低下(grade I)を認めた.
症例は糖尿病をもつ46歳女性.左上肢蜂窩織炎発
症後心不全を来し,心エコー上IEの診断にて当
科紹介,転院となった.体表面および経食道心エ
コーにて右冠尖の破裂,左冠尖・無冠尖に疣贅の
付着と重度大動脈弁逆流を認めた.右バルサルバ
洞近傍に拡張期流入血流を伴う多房性の腔を認
め,右冠動脈近位部の瘤形成を疑ったが,確定診
断には至らなかった.胸部造影MD-CTにて右バ
ルサルバ洞の瘤と右冠動脈は分離可能で,冠動脈
瘤形成は除外しえた.抗菌薬投与で発熱は改善し
たが,心不全のコントロールが困難であり,準緊
急にて外科的修復術を行った.術中所見では,外
側前方にバルサルバ洞動脈瘤の形成を認めた.ま
た,瘤下方から右室への穿通を認めた.大動脈弁
置換・大動脈壁形成術,および右冠動脈バイパス
術を施行した.
岩手医科大学創立60周年記念館(2006 年 6 月)
1177
7) Clostridium tertiumを起因菌とする感染性心
内膜炎の一例
(仙台市医療センター仙台オープン病院)
三浦 裕・浪打成人・杉江 正・王 文輝・
加藤 敦・金澤正晴
10) ピタバスタチンは心機能を改善するか?
(本荘第一病院循環器科) 鈴木 泰・
金子順二
(秋田大学内科学講座循環器内科学分野)
伊藤 宏
【症例】60歳男性【病歴】12年徐脈性心房細動に
【目的】ピタバスタチン(Ps)の心保護作用につ
てペースメーカー留置.17年7月微熱,小発疹, き 検 討 .【 方 法 】 総 コ レ ス テ ロ ー ル ( T C ) ≧
関節痛で当院受診し,CRP4.8mg/dl,RA陽性,
220mg/dlの心疾患症例で,51例はPs2mg/日を3
脾腫を認めた.8月に両肺野浸潤影出現,抗生剤
ヶ月投与,12例はスタチン非投与の対照群とし,
投与で軽快も炎症反応は持続した.18年1月三尖
前後で血清脂質,血漿BNP,心エコー指標を測
弁にvegetationを確認し入院した.
【経過】38℃台
定し比較.【結果】TC,中性脂肪(TG)はPs投
の発熱を認め,血液培養でClostridium tertium
与3ヶ月で有意に低下,血漿BNPは,投与後3ヶ
(グラム陽性嫌気性桿菌)を複数回検出した.PCG
月で有意に改善,心エコー指標はE/A,左室重量
1200万単位/日,GM180mg/日の投与により解熱
係数(LVMI)が有意に改善も,対照群はどの指
しvegetationは縮小した.血液培養及び臨床経過
標も改善を認めず.疾患別検討では,虚血性心疾
よりClostridium tertiumを起因菌とする感染性心
患(IHD),左室肥大性心疾患(LVH),弁膜症
内膜炎と判断した.【考察】Clostridium tertium
(VD)いずれでも同等のTC改善効果あるが,血
は血液培養から分離されるのは稀であり,心内膜
漿BNP,E/Aは,IHD群,LVH群でのみ有意に改
善.また,PsによるTC改善度と,BNP,E/A,
炎の起因菌として検出された報告は過去に無い.
LVMI改善度間に相関関係認めず.【結論】Psの
多彩な症状を呈し,不明熱の原因診断について注
心保護作用は,おもに拡張障害改善で,脂質低下
意を喚起する症例であった.
作用を介さない直接的作用を示唆.
8) 多発性塞栓症を生じた感染性心内膜炎の1例
(岩手県立宮古病院循環器科) 門馬大輔・
中村明浩・伊藤俊一・後藤 淳・星 信夫
症例は25歳女性.5歳より僧帽弁逸脱症にて小児
科で経過観察されていた.平成18年2月中旬より
約1週間続く発熱のため当院救急外来受診し,不
明熱の精査で当院内科に入院.心尖部に収縮中期
クリック,収縮後期逆流性雑音を聴取し,血液培
養にてStaphylococcus aureusが検出されたことか
ら,感染性心内膜炎の疑いで3月初旬に当科入院.
両手指,足底を中心に点状から拇指頭大のJaneway
皮疹,右眼瞼結膜に点状出血を認め,CTでは,
両側胸水,脾膿瘍,右頭頂葉に梗塞巣と思われる
low density area,心エコーでは僧帽弁前尖に細
菌性疣贅を認めた.全身に塞栓症を合併した感染
性心内膜炎と診断し,アンピシリン,ゲンタマイ
シンにて加療した.今回,我々は,感染性心内膜
炎により多発性の塞栓症を来たした症例を経験し
たため報告する.
9) アンギオシールによる止血後5日目に急性動
脈閉塞を生じた1例
(秋田組合総合病院循環器科) 松岡 悟・
新田 格・阿部 元・田村芳一・斉藤 崇
(秋田大学循環器内科学分野) 伊藤 宏
症例は67歳の糖尿病の男性,16年4月に下壁梗塞
を発症.平成17年12月29日に左浅大腿動脈からの
アプローチで#11∼#13へ薬剤溶出性ステントを
留置し,アンギオシールを使用して止血した.止
血後は足背動脈の触知良好であった.退院後平成
18年1月3日朝より左下肢の知覚鈍麻および脱力
を生じ12時に受診,当初足背動脈は弱く触れ,脳
梗塞の疑いで他科へ入院.23時頃に症状増悪し足
背動脈は触知不能となる.緊急下肢動脈造影によ
り左浅大腿動脈穿刺部での閉塞を認めた.引き続
き血栓除去術を行ない,血栓とともにアンギオシ
ールのアンカー部分が中央部で「く」の字に強く
折れ曲がった状態で取り出された.17年6月29日
の造影では同部位に狭窄は認めていない.変形し
たアンカーおよびアンカーによる動脈壁の損傷が
血栓性閉塞の原因と考えられた.
1178
第 142 回東北地方会
11) 安静心電図同期123I-MIBI(MIBI)心筋シン
チグラフィを用いた左室拡張能評価
(市立秋田総合病院循環器科) 中川正康・
藤原敏弥・宗久雅人・大楽英明
(きびら内科クリニック) 鬼平 聡
(秋田大学内科学講座循環器内科学分野)
伊藤 宏
安静心電図同期MIBI心筋シンチグラフィを用い,
左室拡張能指標としてpeak filling rate(PFR)を
算出し,その意義について検討した.R-R分割数
を8,16,32と増加させるにつれてPFRは有意に
高値となり,心不全56例を対象とした検討では
R-R32分割でのみBNP高値群(>200pg/ml)で
PFRが有意に低値を示した.左室収縮能の保たれ
た心不全72例での検討では,BNP高値群では低
値群に比し左室駆出率には差を認めなかったが,
PFRは有意に低値を示した.また左室収縮能が保
たれた左室肥大29例の検討では,心不全既往例で
は非既往例に比しPFRは有意に低値を示した.安
静心電図同期MIBI心筋シンチグラフィより算出
したPFRは左室拡張能指標として有用であること
が示唆された.
12) 女性心不全患者の予後予測因子の検討
(山形大学第一内科) 小山 容・竹石恭知・
有本貴範・新関武史・野崎直樹・広野 摂・
渡邉 哲・二籐部丈司・角田裕一・久保田功
【背景】女性の心疾患患者が増加しているが,特
に心不全症例に関しては男性に比較して充分に検
討されていない.当院における女性心不全患者の
臨床的特徴と予後予測因子について検討を行っ
た.【方法と結果】女性患者80名,男性患者128名
において心筋障害マーカーである血清中のヒト心
臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)濃度を測定して,
前向きに追跡調査を行った.女性患者では,男性
患者と比較してより高齢であり,弁膜症の割合が
多く,拡張型心筋症は少ない傾向であった.女性
患者と男性患者の間で心血管イベントの発生率に
有意差はなかった.女性心不全患者において,
Cox比例ハザードモデルによる多変量解析にて
H-FABPは独立した予後予測因子であった(P=
0.02).【結論】H-FABPは女性心不全患者におい
ても有用な予後予測因子である.
13) 当院におけるCRT(cardiac resynchronization therapy)症例の検討
(東北厚生年金病院循環器センター内科)
三引義明・菊田 寿・山口 済・山中多聞・
菅原重生・片平美明
(同循環器センター心臓血管外科) 篠崎 滋
【目的】当院におけるCRTの成績について検討
【対象】2004年7月から2006年1月までにCRTを行
った9症例【方法】手術手技の問題点,CRTの効
果,術後の心イベントにつき検討【結果】手術手
技は当初は左室リード植え込みに時間を要した
が,次第に短縮された.特にOTWリードが使用
可能となって平均手術時間は短縮した.ノンレス
ポンダーは9例中3例あった.平均12ヶ月の観察期
間で,1例は心不全で退院不能.心不全での再入
院が3例.死亡は3例,突然死はなく,いずれも心
不全死であった.【考察】OTWリードは手技時間
の短縮に有用であった.ノンレスポンダーの予測
にティッシュドップラーエコーは有用であると考
えられた.重症心不全を対象にしているため,長
期予後は不良だった.今後は心不全が重症化する
前にCRTの適応を考えるべきかもしれない.
14) 内服管理下に妊娠,出産し得た閉塞性肥大
型心筋症の一例
(秋田大学循環器内科学分野) 石田 大・
小熊康教・宗久佳子・大場貴喜・小山 崇・
土佐慎也・飯野健二・小野裕一・渡邊博之・
小坂俊光・長谷川仁志・伊藤 宏
30歳女性.家族歴あり.23歳時に閉塞性肥大型心
筋症と診断.以後近医で内服加療を受け,左室内
圧格差約60mmHg程度で症状なく経過していた.
2005年8月に妊娠が判明し,当院紹介受診.胎児
への影響を考慮し妊娠第4週から内服を中止した
ところ,圧格差が約100mmHgに増大.労作時の
動悸息切れも出現したため,妊娠第9週atenorol
50mg/日を追加.以後症状消失し,圧格差も80
mmHg程度へ改善したことから,内服下に妊娠を
継続する方針とした.妊娠後期にdisopyramide
200mg/日とverapamil 120mg/日を追加したが,
妊娠33週頃より肺うっ血が出現したため,2006年
3月に妊娠33週6日で全身麻酔下帝王切開を施行.
無事男児を出産し,母体の心不全も加療により改
善した.閉塞性肥大型心筋症症例の妊娠報告は稀
であるため,文献的な考察を加えて報告する.
15) 電気的除細動無効のVfに対してPCPS,
IABP
下でのPCIが有効であった急性心筋梗塞の一例
(弘前大学第二内科) 横田貴志・横山 仁・
須藤直行・樋熊拓未・田村有人・堀内大輔・
芦立俊宗・加藤千里・花田裕之・長内智宏・
奥村 謙
症例は82歳男性.胸痛にて近医受診し,心電図上
V1-5にてST上昇を認め,AMIの診断にて当院へ
紹介となった.救急車内にてVf となり,自動体
外式除細動機(AED)を5回施行した.いったん
洞調律へ復するも,当院搬送直後より再びVfとな
った.薬剤投与下に電気的除細動を3回行うもVf
停止せず,原因疾患への加療が必要と判断した.
心臓マッサージを行いながらカテラボ室へ移動
し,PCPS,IABP下で冠動脈造影を施行.左前下
行枝の完全閉塞を認め,PCIを行った.その間Vf
継続していたが,再灌流後に洞調律となり,血行
動態が安定し救命することができた.電気的除細
動にて停止しないAMIからのVfに対し,速やか
なPCPS,IABP下でのPCIがVf停止および救命に
有効であった症例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) ステント留置8年後にステント血栓症によ
ると思われる急性心筋梗塞を発症した1例
(寿泉堂綜合病院循環器科) 岩谷真人・
鈴木智人・湯浅伸郎
(秋田大学第二内科) 伊藤 宏
症例は72歳男性,8年前にAMIとなり#3に3.0
mmのWictor ステントを留置した.LADはCTO
だった.半年後のfollow up時は再狭窄を認めず,
チクロピジンを中止した.5年前からはアスピリ
ンも中止していた.平成18年3月28日,重症左心
不全を伴うAMIで入院,#2に75%狭窄,#3ス
テント部に血栓および造影遅延を認めた.IVUS
ではステントは拡張不十分であり,ステントの内
外に血栓を認めた.吸引カテで血栓を吸引した後,
#2にあらたにステントを留置し,Wictorステ
ントは4.0mmバルーンで拡張した.2日後の確認
造影ではWictorステント内の血栓は消失してい
た.ステント留置8年後にステント血栓症による
と思われるAMIを発症した症例を経験したため
報告する.
17) 当科におけるCypher Stentの使用成績と再
狭窄例の検討
(東北大学循環器病態学分野) 圓谷隆治・
越田亮司・中山雅晴・多田博子・伊藤健太・
高橋 潤・安田 聡・柴 信行・小丸達也・
加賀谷豊・下川宏明
当院では2004年9月−06年3月まで94症例106病変
に対してDES(Cypher)を留置した.総使用本数
は136本(平均1.3本/病変)であり全例留置に成
功した.合併症は術後CK上昇1例,亜急性血栓症
を呈し遠隔期にstent malapositionを認めた1例で
あった.確認造影(7-9ヶ月後)は06年3月末まで
に43症例において施行され,4症例4病変に対して
再狭窄を認めTLRを施行した(3.8%).現在まで
植え込み手技,留置後の投薬管理とも安全に施行
され,遠隔期成績は良好である.TLRを施行され
た1例は若年時より加療されている1型糖尿病例で
あった.他の3例は右冠動脈入口部病変例,慢性
完全閉塞病変例,stent fractureを呈した維持透
析例であった.これら再狭窄例に対しての考察を
加え,当院におけるCypherの使用成績について
報告する.
18) 急性心筋梗塞の急性期マーカー,ビリルビ
ン,ビオピリンの変化とその臓器局在
(福島県立医科大学第一内科) 国井浩行・
石川和信
(東京医科歯科大学難治疾患研究所遺伝生化学部門)
山口登喜夫
(いわき市立総合磐城共立病院循環器科)
小松宣夫・市原利勝
(福島県立医科大学第一内科) 丸山幸夫
【背景】ヘム代謝物であるビリルビン(BR)及びその
抗酸化作用によって発生するビオピリン(BYN)の
急性心筋梗塞患者(AMI)における動態と組織局在性
について検討した.
【方法】連続113例のAMI.第1,2,
3,7,14病日に血清BR,血漿および尿中BYNを測定
した.急性期死亡した剖検患者の心,肺,腎,肝,大
動脈を免疫組織化学により検討した.【結果】BR,
BYNはAMI発症第1日に上昇し,第3病日にピークを形
成,第14病日に正常化した.3因子は良い相関を示し
た.BYN値は急性期死亡,心機能障害と相関した.免
疫組織化学ではBYNの発現を梗塞心,腎尿細管,大動
脈壁,肺に認めた.
【結語】BR,BYNがAMIの急性期
マーカーとして短期予後と心機能障害に関与した.BR,
BYNの発現局在は梗塞心の他,腎,大動脈,肺でも
認められ急性心不全の全身への影響が推定される.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
19) 有床診療所におけるdoor to balloon time
(みやぎ東部循環器科) 石丸 剛・
菊地雄一・永沼 徹
早期再灌流は,急性心筋梗塞において生存率を改
善するといわれる.米国心臓病学会のガイドライ
ンでは,バルーンによる再灌流までの時間は90分
以内であるべきと勧告している.当院で2005年1
月から同年12月まで来院した55例の緊急に経皮的
冠動脈形成術を行った急性心筋梗塞についてdoor
to balloon time(DBT)を検討した.DBTの平均
時間は42分(中央値36分)であり,90分以内の症
例は54例,院内死亡3例であった.DBTを短縮さ
せるため,診療所の搬入口・救急外来からカテー
テル検査室までの距離が短く設計されている.ま
た搬入時から職種を越えて協力することにより短
時間で心電図検査・心エコー図検査等を行い,即
座に冠動脈造影,経皮的冠動脈形成術を行えるよ
う努めている.
20) 再灌流後ST上昇が遷延した急性心筋梗塞
の1例
(弘前大学循環器・呼吸器・腎臓内科)
横山公章・樋熊拓未・横山 仁・花田裕之・
長内智宏・奥村 謙
慢性腎不全で透析中の53歳男性.胸痛を主訴に近
医受診し,急性心筋梗塞として当院紹介受診.緊
急心臓カテーテル検査施行し,右冠動脈#3に完
全閉塞あり,POBA行ったところ#4AVが血栓性
に閉塞.責任病変にはstentを留置し,末梢の血
栓を低圧で破砕したところ側枝の閉塞はあるもの
の#4AV本幹はTIMI3の血流が得られた.症状も
改善したが,STは再上昇しむしろ上昇度は時間
とともに悪化した.時間をおき再造影しても造影
所見に変化はなかったためSTは上昇していたも
のの手技終了とした.ICU入室後,当院受診時
5.1mEq/Lだった血清カリウムが8.1mEq/Lに上昇
していたことが判明.緊急透析を行い透析後には
STは基線に復した.閉塞血管の再灌流後にST上
昇が続き血管形成終了の判断に苦慮した症例を経
験した.
21) CPAから蘇生し,ICD植え込みを施行した
多発性冠攣縮性急性冠症候群の一例
(東北厚生年金病院循環器センター循環器科)
山口 済・菊田 寿・亀山剛義・山中多聞・
三引義明・菅原重生・片平美明
22) 高位起始を示した右冠動脈を責任病変とす
る急性心筋梗塞の1症例
(山形県立日本海病院内科循環器科)
桐林伸幸・宮本卓也・池田真梨子・高橋 大・
小熊正樹
65歳,男性.作業中に意識消失し救急搬送された.
来院時JCS 300,左片麻痺を伴っていたが,意識
レベルと麻痺は自然軽快した.心電図上完全房室
ブロックとII,III,aVF誘導のST上昇あり,心臓
カテーテル検査を行った.左冠動脈は,通常起始
を示し狭窄を認めず.右冠動脈は右冠尖から起始
していないため,大動脈造影を施行した.右冠動
脈は高位起始を示し,大動脈遠位部左側方から起
始していることが判明した.選択的造影にて右冠
動脈右室枝分岐直後での血栓性完全閉塞を認め,
同責任病変に対し血栓吸引後ステント留置術を施
行した.血栓性脳塞栓を併発した,右冠動脈高位
起始を示した急性心筋梗塞の1症例を報告する.
23) 急性心筋梗塞を発症した巨大右冠動脈瘤の
一例
(福島県立医科大学第一内科) 及川雅啓・
高野真澄・山口 修・中里和彦・大杉 拓・
小林 淳
(済生会福島総合病院循環器科) 渡辺正之
(福島県立医科大学第一内科) 石川和信・
矢尾板裕幸・石橋敏幸・丸山幸夫
AMIを発症した巨大右冠動脈瘤の一例を報告す
る.【症例】52歳男性.前胸部痛にて来院.冠動
脈造影にて#2の完全閉塞と多量の血栓を認め,
PTCRを施行した.第10病日の心エコーにて,心
外側から右房を圧排する球形の直径3.5cmの異常
構造物を認め,辺縁明瞭,内部エコーは軟で,胸
部造影3D-CTにて外径4cm,内腔7mmの辺縁に
血栓を伴う巨大右冠動脈瘤と診断した.第25病日
の冠動脈造影にて,#2は拡張病変で血流速度は
著明に低下していた.本症例は無症候性に存在し
た巨大冠動脈瘤において,血流うっ滞が血栓形成
に関与し,急性心筋梗塞を発症したものと考えら
れた.抗凝固療法中の第60病日に再梗塞を来たし,
PTCRを施行した.今後の再梗塞・冠動脈瘤破裂
の可能性を考え,巨大冠動脈瘤に対して冠動脈瘤
切除及び右冠動脈バイパス術を施行した.
24) 急性心筋梗塞症(AMI)への静注血栓溶解
療法(IVT)の有用性の検討-direct PCI(d-PCI)
との無作為化比較試験(岩手医科大学第二内科・循環器センター)
金矢宣紀・伊藤智範・小林 健・木村琢巳・
菅原正磨・那須和広・房崎哲也・赤津智也・
新沼廣幸・中村元行
【症例】60歳代の男性,心房細動による心不全の
ため当科へ平成18年2月入院.第3病日,歯磨き
【目的】d-PCI(D)と比較したIVT(T)の有用性
中に突然の意識消失,駆けつけた職員により発見
について検討する.【対象】当センターへ90分以
された.VFと診断し,電気的除細動施行するも, 内に搬入可能な施設を受診し,発症6時間以内,
その後PEAとVFを繰り返し,30分後に血圧の保
70歳以下のAMI93例.
【方法】インターネットweb
持が可能となった.CAGにて,右冠動脈#2-3
上で症例登録と無作為化を行い,D群はd-PCIを,
90%,前下降枝#6 75%を認めた.ISDN冠注に
T群はモンテプラーゼ27500IU/kgを静注後,冠動
脈造影施行し必要あればPCIを追加した.退院時
て25%への改善を認めた.その後も,VT繰り返
と6ヶ月後に冠動脈造影と左室造影を施行した.
し,ICUでの管理を要した.諸薬剤内服にて発作
【結果】初回冠動脈造影時TIMI-3達成率は,T群が
は見られず,電気生理学検査ではVT誘発見られ
D群よりも有意に高率であった(47.8 vs 4.3%:
なかったものの,第35病日にICD植え込みを施行
p<0.001).6ヶ月後の左室駆出率(EF)はT群が
し,障害を残さず退院となった.本症例は,多枝
D群よりも有意に高値であった(62.0±9.8 vs 55.5
(少なくとも2枝)のspasmによるVF,CPAと考
±11.4%:p<0.05).多変量解析では,IVTはEF
えられ,CAGにて有意狭窄を確認できた貴重な
改善に寄与する独立した因子であった(オッズ比
症例と考えられたためここに報告する.
5.87,95%CI:1.51-22.9,p=0.01).【結語】AMI
へのPCIバックアップ下でのIVTはd-PCIに比べ
慢性期の心機能を改善させる可能性がある.
岩手医科大学創立60周年記念館(2006 年 6 月)
1179
25) 急性冠症候群様に発症した好酸球性心筋炎
の一例
(東北大学循環器病態学分野) 湊谷 豊・
高橋 潤・中山雅晴・遠藤秀晃・菅井義尚・
若山裕司・柴 信行・下川宏明
【症例】64歳女性【主訴】胸痛【現病歴】2005年
10月より左前 腕 腫 脹 が 出 現 し , 好 酸 球 増 多 症
(WBC10000,Eos.30%)を認め当院神経内科入
院.【経過】入院6病日目に突然呼吸苦・胸痛が出
現.心電図V4-6誘導でST低下,血清トロポニンT
陽性,肺うっ血著明であったため急性冠症候群と
考え,緊急冠動脈造影を施行.しかし有意狭窄病
変を認めず,左室壁運動は正常.心エコーで心内
膜側が高輝度を呈し,著明な壁肥厚が認められ,
好酸球性心筋炎に伴う急性左心不全を疑った.ス
テロイド投与により血中好酸球の減少と共に肺う
っ血は速やかに軽快した.心筋生検では好酸球の
心筋浸潤が認められ確定診断に至った.【結語】
急性冠症候群様に発症し,ステロイド治療により
良好な経過をたどった好酸球性心筋炎の一例を報
告する.
26) 当院におけるMDCTを用いた冠動脈造影
CTによる冠動脈スクリーニングの現状
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一・
米川 力
【目的】冠動脈造影(CAG)検査設備のない当院
ではMDCTを用いた冠動脈造影CT(CTCA)に
よる冠動脈評価を行っている.その現状を報告し,
CTCAにおける冠動脈スクリーニングの役割につ
いて考察.【対象と方法】対象は平成16年6月15日
より同18年3月30日までに16列及び64列MDCT
(東芝社製)を用いて行ったCTCA 211例(男性
106例,女性105例,平均年齢67歳).各冠動脈の
狭窄率やプラークを評価,主要冠動脈に関し全て
で評価可能な症例を患者診断可能例として患者診
断率を検討.【結果】患者診断率は81.0%(=
171/211例)であった.高度狭窄が疑われCAGが
施行された30例中13例で冠動脈形成術や心臓バイ
パス術が行われた.【結語】胸痛患者やハイリス
ク患者の冠動脈スクリーニングにおいて,CTCA
は有用な検査であることが示唆された.
27) 当施設におけるマルチスライスCT(MSCT)
による冠動脈病変の評価
(山形大学第一内科) 岩山忠輝・
二籐部丈司・青柳拓郎・加藤重彦・田村晴俊・
西山悟史・角田裕一・渡邉 哲・広野 摂・
野崎直樹・竹石恭知・久保田功
当施設でMSCTと侵襲的冠動脈造影をほぼ同時期
に施行できた連続40症例を検討した.疾患は虚血
性心疾患30例(CABG術後5例含),弁膜症3例,
心筋症5例,心筋炎1例,肺高血圧症1例.用いた
CTは TOSHIBA社 Aqullion 64, SIEMENS社
Somatom sensation 64,解析ソフトはAMIN社
Zio station M-900 Quadraを使用.狭窄度評価は
冠動脈をAHA分類によるセグメントに分け,
high-moderate quality画像の得られた部位で,
curved MPR像を用いて評価した. 75%以上を有
意狭窄とした場合,全セグメントにおける感度
75%(19/25),特異度 91%(326/358)であった.
MSCTは冠動脈狭窄のスクリーニングとして有用
であった.
1180
第 142 回東北地方会
28) 肺高血圧症を伴った片側肺動脈無形成症の
一症例
(東北大学大学院循環器病態学)
杉村宏一郎・及川美奈子・出町 順・
福本義弘・縄田 淳・佐藤公雄・佐久間聖仁・
下川宏明
31) 近位部肺動脈瘤を伴う特発性肺動脈性肺高
血圧症の3例
(東北大学循環器病態学分野) 出町 順・
縄田 淳・杉村宏一郎・鈴木 潤・福本義弘・
佐藤公雄・佐久間聖仁・白土邦男・下川宏明
症例は66歳の女性.両下腿に浮腫と胸部の重苦感
から他院を受診し右肺動脈閉塞と肺高血圧症の診
断を受け,2005年8月15日,当科紹介となった.
入院時所見では頻脈を認め,胸部 Erbの領域に収
縮期雑音と3音を聴取した.入院時はNYHA3度,
6分間歩行にて300m歩行後に失神を認めた.心臓
カテーテル検査にて肺動脈圧75/25(45)mmHg
と肺高血圧症を認め,肺動脈造影と胸部造影CT
検査にて右肺動脈が欠損しているため片肺動脈無
形成症と診断した.肺高血圧症に対しボセンタン
の内服を開始し退院となった.片肺動脈無形成症
は先天性心疾患の0.4%と稀な疾患である.肺高
血圧症を合併したことから予後は不良と考えられ
る.ボセンタンによる治療を行っているが今後も
慎重な経過観察が必要である.
著明な肺動脈拡大を伴った特発性肺動脈性肺高血
圧症(IPAH)の3例を報告する.症例1は13才,
女性.6才時に診断され,治療を受けていた.12
才の秋頃から症状の増悪があり当院へ紹介され
た.症例2は19才,男性.11才時に診断され,治
療を受けていた.NYHA II度で経過していたが,
肺動脈拡大が著明となり16才時に当院へ紹介され
た.症例3は71才,女性.50才時に診断され治療
を受けていたが,右心不全増悪のため入院した.
利尿剤,ベラプロスト内服開始等で右心不全は改
善したが,その後,肺動脈拡大による気管支狭窄
が明らかとなり,閉塞性肺炎で死亡した.症例1,
2も肺動脈拡大による気管支狭窄,混合性換気障
害を認ている.肺高血圧症例中に長期経過中,肺
動脈拡大が著明となる例があり,心,縦隔形態の
変形についてフォローが必要である.
29) エンドセリン受容体拮抗薬によりエポプロ
ステノール持続静注療法から離脱しえた特発性肺
動脈高血圧症の一例
(福島県立医科大学第一内科) 金城貴士・
中里和彦・小林 淳・斎藤修一・石川和信・
矢尾板裕幸・石橋敏幸・丸山幸夫
(白河厚生総合病院) 五十嵐盛雄・斎藤富善
32) 脳梗塞急性期における血漿フィブリンモノ
マーの測定は長期再発イベントの予測に有用である
(山形大学循環呼吸腎臓内科学分野)
田村晴俊・広野 摂
(公立置賜総合病院内科) 奥山英伸
(山形大学循環呼吸腎臓内科学分野)
西山悟史・劉 凌・竹石恭知・久保田功
症例は39歳 女性.20歳よりアジソン病.2004年
11月発症の特発性肺動脈高血圧症で,エポプロス
テノールの持続静注療法を導入,携帯用持続ポン
プでのエポプロステノール静注を継続し外来通院
となっていた.2005年12月,自宅にて留置カテー
テルが抜けてしまい当科に緊急入院となった.以
前にも留置カテーテル損傷での入院歴がありカテ
ーテルトラブルも少なくないことから,ボセンタ
ンへの切り替えを行った.125mg/日より開始し,
肺動脈圧の増悪がないことを確認しながらエポプ
ロステノールの減量を開始した.ボセンタンを
250mg/日まで増量,エポプロステノールを4
ng/kg/minまで減量した後,ベラプロスト 60ug/
日の内服へ切り替え,持続静注療法からの完全離
脱に成功した.
【目的】脳梗塞症例の長期予後予測に対する凝固
線溶マーカーの有用性を検討【方法】急性期に凝
固線溶マーカーの採血とTEEが施行された連続
156例(68±13歳,男性104例,心房細動84例)の
長期予後を調査(平均観察期間353日).コックス
比例ハザード解析を用い以下の因子が再発イベン
トに与えた影響を検討[高血圧/糖尿病/心内血栓
/頚動脈有意狭窄病変/大動脈弓部病変の存在,抗
血栓薬の使用,フィブリンモノマー(FM)
/PAI-1/Dダイマーの高値]【成績】FMが11μ
g/ml以上の高値を示した群(53例,71±63μ
g/ml)は低値群(103例,4±3μg/ml)に比し有
意に再発率が高かった(25% vs 5%).FM高値は
脳梗塞再発の独立した危険因子であった(ハザー
ド比5.017(1.428-17.624),P=0.0098).【結論】
脳梗塞急性期におけるFMの測定は再発イベント
の予測に有用である.
30) 肺高血圧症に対するボセンタンの使用成績
(東北大学循環器病態学分野) 縄田 淳・
出町 順・福本義弘・杉村宏一郎・佐藤公雄・
鈴木 潤・佐久間聖仁・下川宏明
エンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタンは,
強力な肺血管拡張作用により肺高血圧症の血行動
態を改善する薬剤であり,本邦では2005年6月よ
り使用可能となっている.今回,当科においてボ
センタンの投与を行なった肺高血圧症患者18症例
に対し,その効果と安全性に対する評価を行なっ
た.血液BNPは,投与1ヵ月後,14例中7例にお
いて,30%以上の改善を認めた.ボセンタン投与
後3-6ヶ月の心臓カテーテル検査を実施した6例中
3例において,25%以上のPVR改善を認めた.18
症例中,6例に血圧低下と体重増加,肝機能障害
が出現し,うち2例は中止した.PGI2持続静注9
例中3例では,ボセンタン投与開始日より,頭痛,
紅潮感が出現し,PGI2の速やかな減量にて軽快
した.以上を踏まえ,本薬剤の投与方法に関する
検討も行なう.
33) 筋肉運動後にCPK高値を示し部位診断に
99m-Tc燐酸塩によるシンチグラフィーが有用だ
った横紋筋融解症の一例
(青森県立中央病院循環器科) 曾田悦久・
福士智久・吉町文暢・坂本幸則・藤野安弘
【症例】20歳男性【主訴】褐色尿 両上肢筋肉痛
【経過】平成17年5月11日より自衛隊某部隊の本格
的な訓練が開始された.13日早朝より褐色尿出現,
朝の訓練終了後,駐屯地医務室受診,
CPK2000IU/L
以上 Cr1.2mg/dl尿中潜血4+であり当院紹介とな
った.受診時CPK 145800IU/L myoglobin 11300
ng/ml,現症から運動誘発性横紋筋融解症と診断
し入院となった.入院後大量輸液療法及びHDF
を施行した.HDFは第4病日に離脱,輸液療法は
第7病日に終了とした.第6病日99m-Tc燐酸塩シ
ンチグラフィー施行,両上肢の上腕三頭筋,三角
筋に骨外集積みとめ,今回の責任部位と診断した.
【まとめ】横紋筋融解症は急性腎不全の原因とな
りこれを予防することが治療の主目的であり早期
診断早期治療が必要である.部位診断に99m-燐
酸塩シンチグラフィーが有用であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) 僧帽弁輪縫縮術が奏効した拡張型心筋症の
一例
(市立秋田総合病院循環器科) 宗久雅人・
中川正康・藤原敏弥・大楽英明
(同心臓血管外科) 星野良平
(中通総合病院心臓血管外科) 大内真吾・
神垣佳幸・大久保正
(きびら内科クリニック) 鬼平 聡
(秋田大学循環器内科学) 伊藤 宏
症例は30代女性.拡張型心筋症(LVDd69mm,
EF30%)に僧帽弁閉鎖不全症3度を合併し,
NYHA4度の心不全にて当科入院となった.内科
的加療にてNYHA3度まで改善したものの,僧帽
弁閉鎖不全症3度は残存した.僧帽弁閉鎖不全は
弁輪拡大が主な要因と判断し,低心機能ではあっ
たが僧帽弁輪縫縮術を施行した.術後経過は良好
で,MRは1度まで改善,BNPも低下しNYHA1度
となり独歩退院となった.外来フォローアップ10
ヶ月でBNPの上昇や心不全増悪なく経過してい
る.重度の僧帽弁閉鎖不全症を合併した拡張型心
筋症例に対する,早期の僧帽弁輪縫縮術が非常に
有効であった症例を経験したので報告する.
35) 僧帽弁形成術の早期中期成績について
(福島県立医科大学心臓血管外科学講座)
佐藤善之・佐戸川弘之・佐藤洋一・高瀬伸弥・
渡辺俊樹・若松大樹・黒澤博之・村松賢一・
五十嵐崇・籠島彰人・横山 斉
(同循環器内科) 高野真澄・丸山幸夫
近年,積極的な僧帽弁形成術の適応拡大が進んで
いる.当科における早期,中期成績を報告する.
【症例】過去5年間に施行された待機的僧帽弁形
成術例39例(男:女 2:1,平均62.1歳).基
本術式として,1)前尖逸脱に対する人工腱索,
2)後尖逸脱に対するQuadrangular resection,
3)リングによる弁輪縫縮術,4)心房細動合併
例へのMAZE手術を選択している.追跡率100%,
平均追跡期間17か月(1∼53ヶ月).【結果】入院
死亡は認めなかったが,1例に僧帽弁置換術(12
病日)を要した.外来加療例での心不全,心臓死,
弁関連合併症(再手術,塞栓症)発生は認めなか
った.【結語】僧帽弁形成術症例は安定した早期,
中期成績を示していた.自験例での更なる遠隔期
follow upを継続したい.
36) 右 室 梗 塞 と 心 タ ン ポ ナ ー デ を 合 併 し た
Valsalva洞動脈瘤破裂に対し,大動脈基部置換術
にて救命し得た1例
(東北厚生年金病院) 篠崎 滋
症例は32歳,男性.突然の胸部痛で発症した.
ECGで2,3,aVfのST上昇,UCGで心嚢液貯留と
RCCの拡大があった.造影CTではValsalva洞動
脈瘤を合併した急性大動脈解離として当院に紹
介,搬送された.緊急手術を施行したところ,
RCCの巨大なValsalva洞動脈瘤が心外膜下に破裂
し,右室が著しく圧排されていた.大動脈基部置
換術を施行したが,術後は右室梗塞によるLOSと
ミオグロビン血症による急性腎不全を呈した.
7PODにIABPから離脱,14PODにHDから離脱,
16PODにRespiratorから離脱することができた.
全身所見,術中所見,切除した上行大動脈壁の病
理組織学的所見から,臨床的にEhelars-Danlos症
候群のtype4に合致する所見であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
37) 大動脈縮窄症術後再狭窄に伴い,術後18年
目にクモ膜下出血を発症した一例
(脳神経疾患研究所付属総合南東北病院小児心臓外科)
森島重弘・小野隆志
(同小児・生涯心臓疾患研究所) 中澤 誠
(同心臓血管外科) 菅野 恵・緑川博文・
石川和徳
40) ARに伴う重症左心不全に対し,大動脈弁
置換術,及び左室形成術(Overlapping法)が有
効であった一例
(福島県立医科大学心臓血管外科)
籠島彰人・佐戸川弘之・佐藤洋一・高瀬信弥・
渡辺俊樹・若松大樹・佐藤善之・黒澤博之・
村松賢一・五十嵐崇・横山 斉
症例は18歳男性.生後13日目に大動脈縮窄複合の
診断にて鎖骨下動脈フラップ術,肺動脈絞扼術を
施行.生後3ヶ月時に心室中隔欠損孔閉鎖術が行
われた.その後,上半身の高血圧を認め,大動脈
縮窄の再狭窄と診断され,降圧剤の投与を行い経
過観察されていた.18歳時大動脈縮窄再狭窄の治
療目的に当院紹介.心臓カテーテル検査を行った
ところ下行大動脈血圧差80mmHg.上行大動脈か
ら下行大動脈にバイパス手術を予定した.手術待
機中,腕立て伏せしている最中に激しい頭痛を認
め,クモ膜下出血と診断され,脳動脈瘤クリッピ
ング術を施行した.クモ膜下出血後の血管攣縮に
よる脳梗塞を併発したが,杖歩行可能まで改善し
退院となった.大動脈縮窄再狭窄を来した若年成
人が等尺性運動をきっかけにクモ膜下出血を発症
した1例を経験したので報告する.
内科的治療抵抗性の重症左心不全に対し,大動脈
弁置換術,及び左室形成術が有効であった一例を
報告する.症例は30歳男性.1998年より大動脈閉
鎖不全症(二尖弁:Seller's IV)と,それに伴
う心不全にて他院で加療されていた.経過中に心
不全による入退院を繰り返し,左心機能の低下
(LVEF18%)と,左室の高度拡大(LVDd 90,Ds
80mm)を来たし,カテコールアミン離脱困難と
なり,大動脈弁置換術(機械弁),及び左室形成
術(左室overlapping法)を施行した.術後2日間
のPCPS補助を要したが,術後経過は良好であり,
心不全症状は著明に改善した(NYHA:IV→II度,
BNP:5,680→1,090単位).
38) 肺胞内出血にて発症した再発性大動脈解離
の一例
(秋田大学第二内科) 土佐慎也・渡邊博之・
宗久佳子・飯野健二・小坂俊光・長谷川仁志・
伊藤 宏
41) 大動脈瘤破裂症例の発症前状況調査(降圧
治療状況,瘤の認識,喫煙状況)
(脳神経疾患研究所附属総合南東北病院心臓血管外科)
菅野 恵・石川和徳・緑川博文
71歳女性.平成14年大動脈解離にて上行大動脈置
換術施行.平成17年7月呼吸困難を自覚し,近医
にて心不全加療を受けるも改善なく当科紹介とな
った.胸部X線写真では,右中下肺野に浸潤影と
胸水貯留を認め,転院後,血痰が認められるよう
になった.気管支鏡では右中下肺野気管支より
oozing タイプの出血が観察されたが,出血源は
同定できなかった.心エコーにて,上行大動脈と
グラフト間の偽腔,その近位部の内膜剥離,右肺
動脈内に流入する連続性の高速短絡血流を認め
た.そのため再発性大動脈解離と診断し手術を勧
めるも同意得られず,その後永眠された.剖検で
は,大動脈―右肺動脈瘻と右肺に限局した肺胞内
出血が確認された.喀血の原因として大動脈解離
からの肺胞内出血を示した例は稀であったため報
告する.
39) 心不全を合併した重度大動脈弁狭窄に対し
経皮的大動脈弁形成術(PTAV)を行いAVRにも
ちこめた1例
(坂総合病院循環器科) 佐々木伸也・
小幡 篤・渡部 潔・渋谷清貴
84歳女性.うっ血性心不全にて入院.最大圧較差
102mmHgの重度ASと診断され手術を勧めたが,
希望されず一時退院.約1ヶ月で心不全再発し再
入院した.手術を希望されAVRが予定されたが,
左室能はEF21%まで低下し,入院安静下でも心
不全が増悪.カテコラミンからの離脱が困難とな
った.この症例に対し,IABP下にて経皮的大動
脈弁バルーン形成術(PTAV)を施行.末梢動脈
用PTAバルーン(14,18mm)を用いて計3回施
行し,心拍出量,収縮期動脈圧,圧較差の改善を
確認し合併症なく終了した.術後2週間で右心負
荷は消失.EF40%まで改善し,AVR+MV plasty
を施行.術後経過良好で退院となった.本症例で
は,心不全と左室能低下を伴った重度ASで,一
時不可能とされたAVRへの橋渡しとしてPTAVが
有用であった.
自験例で真性大動脈瘤破裂症例の発症前状況(降
圧治療状況,瘤の認識,喫煙状況)を調査した.
対象は平成17年末までに緊急手術を行った真性大
動脈瘤破裂症例で,上行大動脈瘤1例,弓部大動
脈瘤8例および腹部大動脈瘤17例の計26症例であ
る.胸部の瘤では全例で発症前高血圧が確認され
たが,降圧治療を受けていた症例は上行大動脈瘤
症例1例と弓部大動脈瘤症例の2例のみであっ
た.定期的通院歴を有していたものも4例のみで
あった.腹部大動脈瘤破裂症例で発症前通院歴を
有するものは10例で,降圧剤内服症例は6例のみ
であった.破裂前に瘤の存在が認識されていたの
は弓部大動脈瘤の1症例と腹部大動脈瘤の2症例
のみ(全体の11.5%)であった.喫煙歴は24例
(92.3%)に認め破裂直前までの喫煙は84.6%(22
例)と高率であった.
42) 蕁麻疹の出現に伴い7秒の心停止を認めた
神経調節性失神の1例
(仙台市立病院循環器科) 佐藤弘和・
八木哲夫・山科順裕・住吉剛忠・田渕晴名・
石田明彦・滑川明男
(伊藤医院) 伊藤明一
36歳の男性.3週前から蕁麻疹と咽頭部不快感が
出現し,近医で加療中であった.深夜に蕁麻疹と
咽頭部痛の増悪がありNSAIDを内服した.その
直後に失神があり,当院の救急外来を受診した.
来院時意識清明で血圧正常範囲であったが,心電
図上約7秒の洞停止を認めペースメーカーを挿入
した.入院後も蕁麻疹と咽頭部不快感の出現後に
洞停止を繰り返した.臨床心臓電気生理検査上は
明らかな洞不全症候群の存在は否定的であった.
HUT試験では約50mmHgの血圧低下を認め,陽
性であった.皮膚科での治療が奏効し,蕁麻疹が
出現しなくなり,1週間モニター観察を行うも,
終日洞調律で経過し,徐脈性不整脈の出現は見ら
れなくなった.
岩手医科大学創立60周年記念館(2006 年 6 月)
1181
43) ブルガダ型心電図における心室細動誘発性
の検討−加算平均心電図遅延電位と薬物負荷試験
の有用性―
(東北大学循環器病態学分野) 福田浩二・
熊谷浩司・若山裕司・菅井義尚・藤田 央・
下川宏明
Brugada症候群の診断法として,プログラム刺激
による心室細動(VF)誘発が広く行われている
が,その誘発性に対する有用な指標は未だ不詳.
Brugada症候群が疑われ,当院においてEPSを施
行した15例(症候性5,無症候性10)に関して,
VF誘発性に対するLate Potentials(LP),薬物負
荷検査(pilsicainide)の有用性を検討した.VF
誘発群6名(症候性2,無症候性4)は非誘発群
に比しLP陽性率が高く(83% vs. 33%),特に
RMS40は有意に低下していた(14.5 vs. 24μV; P
<0.05).薬物負荷陽性率も誘発群で高く(100%
vs. 22%),薬物負荷・LPともに陽性とした場合
のVF誘発に対する感度は83%,得意度89%であっ
た.薬物負荷・LPの組み合わせはVF誘発性の良
い予測因子となる可能性がある.
46) Focal Atrial Tachycardia 13症例の検討
(仙台市立病院循環器科) 山科順裕・
八木哲夫・石田明彦・滑川明男・田渕晴名・
住吉剛忠
(伊藤医院) 伊藤明一
Focal Atrial Tachycardia(AT)の13症例につい
て検討した.平均年齢は44.5歳(21歳-74歳).9
例で明らかな基礎心疾患を認めず,未治療の心室
中隔欠損症, 頻拍誘発性心筋症,肥大型心筋症
がそれぞれ1例で,心房中隔に瘤状変性を認めた
例が1例存在した.全例心房頻拍中にElectro
Anatomical Mapping Systemを用いて頻拍起原を
同定した.最早期心房興奮部位は,心房中隔7例,
左房天井部2例,左上肺静脈1例,僧帽弁輪部1例,
右心耳基部1例,三尖弁輪部1例であった.全症例
で頻拍はFocal patternを示した.全例最早期興奮
部位での局所通電で根治した.Thoracic veinsが
心房性不整脈のmajor sourceであることは知られ
ているが,Focal ATの頻拍起原はThoracic veins
以外に存在する例が多かった.
49) 大心静脈前心室中隔枝へ挿入した多電極カ
テーテルが起源の推定に有用だった症候性心室性
期外収縮の1例
(東北公済病院循環器科) 大友 淳・
杉村彰彦・福地満正
(東北大学循環器病態学分野) 若山裕司・
熊谷浩司・下川宏明
【症例】63才女性.動悸を主訴に来院しホルター
心電図で21,489/日の心室性期外収縮(PVC)を
認めた.PVCは左脚ブロック+下方軸型,I誘導=
R型,V3=R/S>1,R波の移行帯=V1/V2,V1のR
波高≧0.2mV,atenololおよびmexiletineは無効だ
った.動悸症状が著明なためアブレーション(AB)
目的で入院となった.右室流出路(RVOT)の
pace mapが6-8/12のため,次に3.4French16極カ
テーテルを大心静脈の前心室中隔枝(GCV-AIV)
へ挿入した.PVC時AIV分岐部がRVOTより最早
期で,同部位のpace mapは8-10/12だった.透視
下でRVOTのABカテーテルをAIV分岐方向に近づ
け,PVC時の局所電位が20ms先行し,pace map
が8/12の部位で通電したが無効だった.PVCの起
源は左室流出路である可能性が考えられた.【結
語】RVOTとGCV-AIV電位の比較はPVCの起源の
推定に有用である.
44) 両心室ペーシングが有効であった拡張相肥
大型心筋症の1例
(東北大学循環器病態学分野) 藤田 央・
若山裕司・熊谷浩司・福田浩二・菅井義尚・
苅部明彦
(仙台市医療センター仙台オープン病院循環器内科)
王 文輝
(東北大学循環器病態学分野) 下川宏明
47) 孤立性発作性心房細動例における抗不整脈
薬療法の再発予防効果と症候性血栓塞栓症との関連
(岩手医科大学内科学第二講座) 佐藤嘉洋・
小松 隆・橘 英明・小澤真人・中村元行
45) ICD植え込みにより突然死1次予防に成功
した慢性心不全の1例
(国立病院機構仙台医療センター)
日下 玄・尾上紀子・田中光昭・馬場恵夫・
谷川俊了・渡邉 力・篠崎 毅
48) 右室流出路起源PVCのcatheter ablationに
より短期間で心機能改善を認めたPVC-induced
cardiomyopathyの一例
(仙台循環器病センター循環器科)
藤森完一・鈴木 太・福島教照・南雄一郎・
小林 弘・藤井真也・八木勝宏・内田達郎・
廣澤弘七郎
51) 不整脈源性右室心筋症に対しカテーテルア
ブレーションを施行した一例
(仙台市立病院) 住吉剛忠・八木哲夫・
石田明彦・滑川明男・田渕晴名・山科順裕・
小川佳子・佐藤弘和
(伊藤医院) 伊藤明一
症例は73歳,女性.'02年より労作時息切れ出現.
'05年12月近医でHolter心電図上約50000/日のPVC
と非持続性心室頻拍(NSVT)を認め,当院へ紹
介された.'06年1月精査加療目的で当院入院.心
臓カテーテル検査では,冠動脈は正常で,左室造
影上びまん性壁運動低下(EF 36%)を認めた.
PVCの形態はLBBB+下方軸型(PVC1)とRBBB+
下方軸型(PVC2)の2種類で,特にPVC1は頻発
しており,多形性NSVTのトリガーとなっていた.
1月16日PVCに対してcatheter ablation施行.PVC1
は右室流出路起源でpace-map法により高周波
ablationに成功した.PVC2は起源が同定できず放
置した.術後PVC2は残存したが,PVC1,NSVT
は認められなくなり,3日後の心エコーで既に左
室収縮能が改善していた.短期間で心機能改善が
確認されたPVC-induced cardiomyopathyの貴重な
症例であった.
59歳男性,不整脈源性右室心筋症に伴う薬剤抵抗
性心室頻拍(VT)に対しカテーテルアブレーショ
ンを施行.右室ペーシング中にCARTOを用い右
室をmappingすると,右室下面の壁運動異常に一
致した低∼無電位領域(scar)を認めた.誘発さ
れたVTは左脚ブロック,上方軸,CL:350msで
VT中に三尖弁輪とscarの間に拡張中期電位を記録
した.同部への通電によりVTは停止,この点を含
め三尖弁輪からscarに線状焼灼を追加した.続い
て左脚ブロック,下方軸,CL:280msの血行動態
が不安定なVTが誘発,pace mappingでは右室流出
路(RVOT)自由壁が良好であった.肺動脈(PA)
からRVOTの間に小さな低電位領域を認め,この
部位を含めPAからRVOTに洞調律中に線状焼灼を
施行しこのVTは誘発不能となった.次に誘発され
たVTはCLが短く血行動態が破綻するためICD植
え込みを行なうこととした.
【目的】孤立性発作性心房細動(AF)における抗
不整脈薬療法の再発予防効果と症候性血栓塞栓症
との関連を検討する.【方法】孤立性AF210例
【症例】73歳女性【現病歴】1993年心不全発症, (男性150例,女性60例,年齢68±12歳)を対象に
非再発群,再発群,慢性化移行群に振り分け予後
1994年近医で拡張相肥大型心筋症の診断,1998年
房室ブロックでペースメーカ植え込み(DDD). を比較した.【成績】(1)観察期間60ケ月の症候
性血栓塞栓症の経時的回避率は,A群99%,B群
2005年心房細動を契機に心不全入院を繰り返し,
同年11月入院後はカテコラミン依存状態となっ
85%,C群,78%でありC群で有意に低値であった
た.両心室ペーシングを含めた心不全加療目的で
(P<0.01).(2)アスピリン内服例における年間
2006年1月当院転院.【入院時所見】心電図:心房
発症率は,A群0.9%,B群3.2%,C群7.8%でありB
細動,右室ペーシング,心エコー:LVDd47mm, 群ならびにC群で有意に高値であった(P<0.05).
EF33%,採血:BNP>2000pg/ml【入院後経過】
しかし,ワ−ファリン内服例における年間発症率
2006年2月13日両心室ペースメーカ植え込み施行.
は,A群0%,B群1.4%,C群1.1%であり,各群間
術中及び術直後に心室細動発作を生じ,蘇生処置
に有意差を認めなかった.【結論】孤立性AFの長
で回復.心不全管理に難渋し,カテコラミン長期
期予後は抗不整脈薬療法の治療成績に影響され,
投与を要した.心エコーでは両心室ペーシングで
再発例には抗凝固療法が必要である.
左室中隔の壁運動及び駆出率の改善を認めた.カ
テコラミンを漸減しながらACE阻害剤,ベータ
遮断薬を導入,リハビリ継続中である.
【症例】36歳男性.平成10年感染性心内膜炎によ
る僧房弁閉鎖不全兼大動脈弁閉鎖不全に対して二
弁置換術施行,術後に左室駆出率と左室内径は正
常化した.平成15年頃より再び心不全症状と著明
な左室拡張末期径の拡大(79mm),左室駆出率
の低下(16%),BNPの上昇(410pg/ml)を認め
た.βblockerを導入し心不全はコントロールさ
れていた(NYHA II)が,平成17年10月,24連発
の非持続性心室頻拍を認めた.突然死リスク評価
目的の電気生理学的検査によって心室細動が誘発
されたため,同年12月ICDを植え込んだ.平成18
年2月に持続性心室頻拍のstormが発生しICDは適
切に作動した.【結論】適切なリスク評価を行う
ことによって,慢性心不全患者の突然死一次予防
は可能である.
1182
第 142 回東北地方会
50) ICD頻回作動に対し緊急アブレーションを
施行した陳旧性心筋梗塞後心室頻拍の1例
(仙台市立病院循環器科) 小川佳子・
石田明彦・八木哲夫・山科順裕・田渕晴名・
住吉剛忠・滑川明男
(伊藤医院) 伊藤明一
症例は63才男性.38才時,下壁梗塞に冠動脈バイ
パス手術を施行.55才時に初回心室頻拍(VT)発
作を認め当院へ紹介,アミオダロンが無効で植込
み型除細動器(ICD)を植込んだ.ソタロール内
服で7年間にICD作動は3回のみだったが,H17.3月
VT,ICD作動頻回となり入院.リドカイン,ニフ
ェカラント静注を行ったが無効,2時間で60回の
ICD作動を認め,薬物治療の限界と考え緊急カテ
ーテルアブレーションを施行した.VTは少なくと
も3種類以上で,心拍数130-250/分,血行動態が安
定しない為洞調律中にCARTOを用い左室のmappingを行った.左室下壁には広範に低電位領域を
認め,同部には洞調律中に多数の遅延電位,拡張
中期電位を認めた為,同領域を囲みその両端を僧
帽弁輪まで伸ばすように線状焼灼を行った.アブ
レーション後,ICDの作動する持続性VTは認めら
れなくなった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
52) 左室前側壁起源の副収縮性心室性期外収縮
に対して高周波カテーテル アブレーションが有
効であった1例
(岩手医科大学内科学第二講座) 橘 英明・
小松 隆・佐藤嘉洋・小澤真人・中村元行
症例は63歳,男性.主訴は動悸発作.平成17年5
月頃から動悸が出現し,ホルター心電図で心拍数
160-170/分 の incessant型 非 持 続 性 wide QRS
tachycardiaを認め,心電図所見から副収縮性心室
性期外収縮が示唆された.心臓カテーテル検査で
は冠動脈に異常なく,臨床心臓電気生理学的検査
を施行致したところ,電気刺激では誘発できず,
イソプロテレノール負荷にて誘発が可能であっ
た.また,ATP5mgの急速静注にて非持続性
wide QRS tachycardiaの一過性停止を認めた.左
室のpace mapping後前側壁で12/XIIのperfect
mappingが得られる部位を認め,体表面心電図の
QRS波に約35msec先行していた.同部の高周波
通電にて非持続性心室頻拍は消失した.基礎心疾
患を認めない副収縮性心室性期外収縮の1例を経
験し,その機序として撃発活動が推測された.
55) 右房後壁のcritical channel同定にCARTO
systemが有効であった非通常型心房粗動の1例
(弘前大学第二内科) 木村正臣・岩佐 篤・
佐々木真吾・小林孝男・堀内大輔・奥村 謙
開心術後に出現した心房粗動(AFL)例.Halo,
10極電極カテーテルを右房,冠静脈洞に挿入後,
下大静脈−三尖弁輪間峡部(isthmus)より
entrainment ペーシングを施行.当初はexact
entrainmentを認めたが,その後のペーシング中
に粗動周期が280msecより220msecに短縮した.
右房自由壁での興奮様式は不変であったが,
isthmusからのペーシングにてentrainment with
fusionを認めた.CARTO systemによる右房内マ
ッピングの結果,右房後壁にcritical channelを有
し上大静脈周囲を旋回するAFLであり,三尖弁輪
周囲の旋回はbystanderであると判明した.同部
での通電中に粗動周期は再び280msecへ延長し,
通常型AFLに移行した.isthmusでの線状焼灼に
てAFLは停止した.右房後壁のcritical channel同
定には,CARTO systemが極めて有効であった.
53) 薬剤抵抗性の左心室瘤起源心室頻拍にアブ
レーションが奏功した1例
(東北大学循環器病態学分野) 熊谷浩司・
若山裕司・福田浩二・菅井義尚・下川宏明
68歳,男性.感染性心内膜炎により大動脈弁置換
術を施行,5年前に心室細動にてICDを植え込ま
れ,アンカロンを内服していたがKL-6上昇し中
止した.3ヶ月後,左脚ブロック型,上方軸の心
室頻拍(VT:周期 350msec)が出現しICD頻回
作動し入院となり,カテーテルアブレーションを
施行した.右室心尖部からの心室早期刺激にて
VTは誘発され,経心房中隔穿刺後,CARTO シ
ステムによる両心室マップにて心尖部左心室瘤に
早期興奮部位を認めた.同部位の詳細なマップに
てVT中,中拡張期電位(MDP)と,同部位での
concealed entrainmentを認め,MDP-QRS時間と
刺激-QRS時間がほぼ一致し(80msec),PPIも
VT周期に一致.同部位の通電にてVTは停止した.
大動脈弁置換術後の薬剤抵抗性の心室頻拍に対し
経心房中隔穿刺による左室アプローチは有効であ
った.
54) 左後中隔副伝導路の焼灼にmulti-directional
catheterが有用だったmultifiberを有する潜在性
WPW症候群の1例
(東北公済病院循環器科) 大友 淳・
杉村彰彦・福地満正
(東北大学循環器病態学分野) 菅井義尚・
熊谷浩司・下川宏明
【症例】59才女性.発作性上室性頻拍(PSVT)の
アブレーション目的で入院となった.電気生理学
的検査でPSVTは正常伝導路を順行伝導し,左側
副伝導路(AP)を逆行伝導する房室リエントリー
性頻拍と診断された.アブレーションはカテーテ
ル(CT)を経大動脈的に逆行性に左室へ進め,右
室ペーシング下に心房の最早期興奮部位(ER)で
行った.ERは僧帽弁輪(MA)後側壁で,同部位
の通電でERはMA後壁へ変化した.次にMA後壁
で通電し,ERは更に左後中隔へ変化した.左後中
隔でCTが十分に固定できないためmulti-directional
CTに変更した.変更後CTの固定は良好となり,
左後中隔の通電でAP伝導は完全に離断され,AP
はmultifiberと考えられた.【結語】左後中隔AP
のアブレーションでCTの固定が不十分な場合,
multi-directional CTは有用である.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
岩手医科大学創立60周年記念館(2006 年 6 月)
1183
第 95 回 日 本 循 環 器 学 会 北 海 道 地 方 会
2006 年 6 月 17 日 札幌市教育文化会館
会長:西 村 正 治(北海道大学第一内科)
1) 冠拡張症を有する急性心筋梗塞に対し待期的
に治療を行った1例
(北海道循環器病院) 明上卓也・岡林宏明・
山崎香子・儀間 充・田中秀一・舟山直樹
症例は49歳男性.2006年1月9日午前3時頃,12時
間ほど持続する胸部症状を自覚し近医を受診し,
心精査を勧められ1月11日に他院受診した.急性
心筋梗塞と診断され当院紹介となった.緊急冠動
脈造影を施行したところ,左右冠動脈いずれも拡
張病変を有し,今回の責任病変は左前下行枝#7
と考えられた.造影上血栓量が大きいと考えられ,
さらに血管径が非常に大きく,TIMI3の血流を得
られていることから,急性期はこのまま終了し,
点滴,内服による血栓溶解療法にて対処した.そ
の後MDCTによる経過観察で,血栓の縮小化を
認めた.約3週間後に冠動脈造影を再検し,内腔
の拡大を認めたが,依然残存狭窄があり,待期的
にPCIを施行した.以上,本症例に対し文献的考
察を加えて報告する.
2) 若年発症の左冠動脈主幹部冠動脈瘤の1例
(帯広厚生病院第二内科) 山下智久・
佐藤直利・梅澤耕学・青木敬則・舟山真希・
前田卓人・茂庭仁人・永原大五・高橋 亨・
坂本賢一・林 学・鹿野泰邦
(同心臓血管外科) 渡邉 徹・伊藤昌理・
山内英智
【症例】38歳,男性.2006年2月2日,初めて嘔気
を伴う胸部絞扼感を自覚.安静15~20分にて軽快
したため放置したが,その後も2日に1回程の胸痛
を自覚していた.2月18日,就寝時に今までで最
も強い胸痛を自覚し,近医を受診.受診時には症
状はおさまっており,心電図上所見なく一時帰宅.
2月20日,トレッドミル検査施行され,陽性所見
を認め,2月23日当科紹介受診,不安定狭心症疑
いにて同日当科入院となった.冠動脈造影にて
LMTの冠動脈瘤と#6,#13に75%狭窄,#14に
90%狭窄を認めた.冠動脈瘤内の乱流による血栓
形成とそれによるACSをきたす可能性があり,
外科的治療が最善と判断し,心臓血管外科転科と
し,CABGを施行した.若年発症かつLMT病変
とまれな冠動脈瘤であり,興味ある症例と考え,
若干の考察を加え報告する.
1184
第 95 回北海道地方会
3) 孤立性左冠動脈入口部狭窄の1例
(旭川厚生病院循環器科) 木島 基
(市立旭川病院内科) 貴田岡享
(旭川厚生病院循環器科) 太田貴文・
塩越隆広・小川裕二・加藤淳一
症例は51歳,女性.平成17年11月初旬より労作時
の頚部絞扼感・前胸部圧迫感を自覚していた.11
月29日に当科外来を受診,不安定狭心症の疑いで
同日当科入院した.冠動脈造影では左冠動脈入口
部に81%狭窄を認めたが,他は有意狭窄を認めず,
孤立性左冠動脈入口部狭窄と診断した.CABGの
適応と判断し,
12月22日にCABG×2
(LITA→LCX,
RITA→LAD)を施行された.平成18年1月17日
に術後グラフト造影を施行したが左冠動脈起始部
の狭窄は退縮しており,グラフトはいずれも先細
り像を呈していた.孤立性冠動脈入口部狭窄にお
いて,狭窄部位の退縮を呈した症例は稀であり,
若干の文献的考察を加えて報告する.
4) Anomalous CXにDESを留置した急性心筋梗
塞の一例
(KKR札幌医療センター) 簗詰徹彦・
合田 晶・斉藤俊一・白井真也・堀川 敬
【症例】85歳女性【現病歴】ダンス練習中に胸部
圧迫感を自覚したため近医を受診.心電図異常
(II, III, aVF, V2-6 ST低下)を指摘されて当院紹
介受診となり,急性冠症候群の診断で即日入院と
なった.【入院後経過】トロポニンTの上昇を認
め,心エコーで後壁壁運動の消失が確認された.
緊急CAGの結果,右冠動脈起始部からanomalous
Cxが分岐しており,その中央部に99%狭窄あり
と判明した.同部位にDESを留置,以後良好な
経過を辿った.【考察】highly angulated lesion を
有するanomalous Cxに対してのPCIは,その走行
異常と病変部位の複雑性から時に施行上の制約が
ある.64列マルチスライスCTによる冠動脈の詳
細な評価が有用であった症例を経験したので報告
する.
5) 冠危険因子数と冠動脈硬化の相関について:
連続835症例の冠動脈造影からの検討
(時計台記念病院循環器センター)
浦澤一史・佐藤勝彦・本間之子
(北海道大学循環病態内科学) 相馬孝光・
石森直樹・筒井裕之
【目的】冠危険因子(RF)の存在が冠動脈狭窄に
与える影響を検討する.【方法】平成13年8月から
平成17年7月までの間に北海道大学病院循環器内
科においてCAGを施行した連続835症例において,
喫煙,高血圧,高脂血症,糖尿病の有無と狭窄病
変数との間の相関を検討した.【結果】RF数の増
加に伴いCAG上での狭窄数は増加した.RF数と
AHA 25%以上の狭窄数との相関はr=0.9885,50%
以上ではr=0.9996,75%以上ではr=0.9975と,何
れも極めて強い相関を示した.One-Way-ANOVA
から,それぞれのRFの存在は75%以上の狭窄数
を有意に増加させる因子であることが示された
(p<0.001).また,多変量ロジスティック解析の
結果から,RFの中でDMが最も狭窄数増加に寄与
する因子であることが示された.【結語】本研究
はRFのコントロールの重要性を示している.
6) 上行大動脈高度石灰化を伴う大動脈弁狭窄お
よび不安定狭心症に対しCABGとAVRを同時に行
った超高齢者の1例
(北海道がんセンター心臓血管外科)
岡 潤一・明神一宏・石橋義光・石井浩二・
川崎正和・國重英之
【対象と方法】88歳男性.2005年9月19日より胸痛
発作が頻回となる.エコーでEF30%,心尖部
dyskinesisでCTにて同部位に著明な石灰化あり.
大動脈弁狭窄症(圧較差70mmHg)も併存.冠動
脈造影#5:90%,#6:100%,#11:99%,#13:75% .
9月28日当科へ手術目的で搬送.9月30日 冠動脈
バイパス術3枝(LITA→D1&LAD,RITA→HL)
+大動脈弁置換術(CEP弁 21mm)を施行.上行
大動脈の石灰化著明で送血管は弓部大動脈に留
置,大動脈遮断は腕頭動脈の直下で行なう.大動
脈遮断時間126分,体外循環時間172分.【結果】
経過は順調で当日抜管し2日後にICU退室.術後
カテではLITA,RITAは開存,EF47%と心機能
改善し術後30日に軽快退院.【結語】超高齢者の
UAPおよびsevere AS症例に外科治療を行い良好
な結果を得た.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
7) 特発性血小板減少性紫斑病に対する心拍動下
冠動脈バイパス術の一例
(北晨会恵み野病院心臓血管外科) 大川洋平
(同第一内科) 竹村嘉枝・佐藤亜紀・
森平雅彦・吉江浩光・片岡 亮
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した狭
心症に対して心拍動下冠動脈バイパス術
(OPCAB)
を施行し良好な結果を得たので報告する.症例は
67歳,男性.平成18年01月当院内科にて冠動脈造
影施行.有意狭窄を認めたため手術目的で当科へ
転科.転科時血小板3万/μlと低値.他の凝固系
や血液検査には異常を認めず,抗血小板抗体は陽
性.輸血歴なし.以上より出血傾向は軽微ではあ
るがITPと診断した.手術前にγグロブリン投与
(20g/day)を2日間施行,さらに術中に血小板を
輸血した.術式は血小板消費を減らすために
OPCABを選択した.術後経過は良好であった.
術後のグラフト造影では全てのグラフトの開存を
認めた.血小板は術直後12万/μlであった.ITP
を合併した症例に対する外科治療においては術前
のマネージメントと術式の選択に対する配慮が重
要と思われた.
8) 乳頭筋接合術およびOverlapping型左室形成
術術後拡張能の検討
(北海道大学循環器外科) 夷岡徳彦・
松居喜郎・村下十志文・椎谷紀彦・国原 孝
(池上総合病院ハートセンター) 須藤幸雄・
志村信一郎
近年拡張機能障害が心不全症状の程度や予後に大
きく影響を与えることが明らかにされてきた.一
方,心不全に対する左室形成術は左室収縮機能を
改善させうるが,容積縮小の結果,拡張能を傷害
する懸念がもたれる.そこで,我々が施行した
overlapping型左室形成術(OLVP)および乳頭筋
接合術(PMA)による左室形成術が左室拡張能
に与える影響を,術前後にUCGにて拡張能評価
可能であった14例について,非虚血群6例と虚血
群8例に分けて比較,検討し,若干の文献的考察
を加えて報告する.
10) 意識障害,神経学的focal signを主症状と
したStanford A型急性大動脈解離2症例
(岩見沢市立総合病院内科) 小岩弘明・
吉村治彦・會澤佳昭・鈴木章彦
13) 68歳で初めて診断されたファロー四徴症の
一例
(NTT東日本札幌病院) 田口幸枝・
宮本憲行・鈴木喜之・甲谷哲郎・富田籌夫
症例1は50歳台男性.高血圧で近位通院中.仕事
中に胸苦,嘔吐の後意識消失した.救急搬送時,
血圧150/80mmHgで,Japan Coma Scale2-3の意
識障害と左不全麻痺を認めるも胸背部痛の訴えは
なかった.脳神経障害が疑われ,脳CT,MRI後,
胸部造影CTを施行.両側総頚動脈解離を伴う
Stanford A型大動脈解離を認めた.症例2は50歳
台女性.左上下肢脱力,右顔面のしびれを主訴に
当院脳神経外科入院中.血圧の変動に伴い症状の
増悪軽快を繰り返した.入院3日目に胸部重苦感
を訴え,胸部CTで両側総頚動脈解離を伴う
Stanford A型大動脈解離と診断された.2症例と
も,来院時神経学的異常が前面に出ておりまず脳
血管障害が疑われており注意を要する.若干の文
献的考察を加え報告する.
症例は68歳女性.幼少時より「心臓が悪い」と言
われており,蹲踞姿勢で改善する発作性呼吸困難
を時々自覚していた.15年程前より近医にて心臓
弁膜症として加療されていたが,2006年3月10日
頃より息切れ・倦怠感が出現.徐々に増悪し14日
夜には起座呼吸となり,精査加療目的で15日当科
紹介入院.胸骨左縁に最強点をもつ全収縮期雑音
を聴取し,胸部X線写真で心拡大を認めた.心エ
コー図検査にて,12mm大の心室中隔欠損
(Kirklin2型)・右室肥大・右室流出路狭窄(圧較
差113mmHg)・大動脈騎乗の所見を認め,ファロ
ー四徴症を基礎疾患とする心不全と診断した.高
齢成人におけるファロー四徴症の生存症例は極め
てまれであり,文献的考察を加え報告する.
11) 感染性心内膜炎を契機に発見された左冠尖
バルサルバ動脈瘤の一症例
(北海道社会保険病院心臓血管センター心臓内科)
西村邦治・五十嵐慶一・古谷純吾・四戸力也
14) 当科における成人先天性心疾患:心臓カテ
ーテル検査
(北海道大学小児科学分野) 村上智明・
上野倫彦・武田充人・八鍬 聡・武井黄太
症例は38歳男性.1年前の健康診断では異常を指
摘されなかった.39℃台の発熱と関節痛出現し近
医受診,NSAIDSを処方され改善した.2週間後
に再度39℃台の発熱認め当院受診,WBC,CRP
高値を認め入院となった.経胸壁,経食道心エコ
ーにて左冠尖からのAR II°の出現と左冠尖近傍に
疣贅を認めたため感染性心内膜炎(IE)と診断
した.血液培養は経過を通じて陰性だったが循環
器学会のIE治療のガイドラインに則り抗生剤を
投与した.症状,炎症は改善したがARはIII°に
増悪した.CTでは左冠尖に21×18mmの未破裂
バルサルバ動脈瘤と36×21mmの前縦隔腫瘍を認
めた.抗生剤での炎症コントロール後に大動脈弁
置換,前縦隔腫瘍摘出,バルサルバ動脈瘤パッチ
閉鎖術を施行した.術後経過は良好で合併症なく
退院となった.文献的考察を加えて報告する.
【目的と方法】手術成績の向上・内科管理の進歩
および出生数の減少により,我が国における先天
性心疾患患者における成人(18歳以上)の占める
割合は増加し50%を越えている.当科における過
去10年間の心臓カテーテル検査を成人先天性心疾
患の観点から検討した.【結果】10年間で1300例
の心臓カテーテル検査が施行されていた.成人患
者はのべ82例(6.4%)であり,増加する傾向に
あった.最高齢は65歳であった.心臓カテーテル
検査の目的は,術後評価・治療,術前評価,川崎
病合併症等で術後評価・治療が増加傾向にあっ
た.カテーテル治療は10例(12.1%)に施行され
増加傾向にあった.【結論】当科での成人例に対
する心臓カテーテル検査について検討した.患者
のプロファイルから今後さらに増加することが予
想され対応が必要であると考えられた.
9) 外傷性僧帽弁閉鎖不全症が疑われたクレチン
症の1例
(札幌中央病院心臓血管外科) 櫻田 卓・
大澤久慶・荒木英司
12) 左単冠動脈症の2例
(北海道社会保険病院心臓内科) 石丸伸司・
古谷純吾・野口晋佐・管家鉄平・西村邦治・
四戸力也・五十嵐慶一
症例は44歳,女性.クレチン症で小児期に加療を
受けていた.身長120cm,体重38kg.平成18年2
月17日に自動車運転中に後方より追突される.事
故後より呼吸苦を自覚するも経過観察.3月1日未
明に呼吸困難となり救急車で当番病院へ搬送され
る.肺水腫の状態でただちに気管内挿管となるが
100%酸素の人工呼吸器治療でも低酸素血症が進
行.心エコー検査で僧帽弁後尖の腱索断裂による
MR4度と診断.手術加療が必要と判断され当院へ
転院となり緊急手術となった.術中所見では後尖
中央部の腱索断裂であり,同部位のQuadrangular
resection & suture,28mm C-E Physio Ringによ
る弁輪縫縮を行った.術中経食道エコーで逆流が
ないことを確認し手術を終了した.術後経過は良
好であり退院時の経胸壁心エコーでMR1度の所
見であった.
左単冠動脈症は右冠動脈が先天的に欠損する先天
性冠動脈奇形である.その頻度はおおむね0.02∼
0.1%で,本症のおよそ40%が他の心奇形を合併
すると報告されている.合併心奇形の重症度が予
後を規定する因子とされ,心奇形を合併しない単
冠動脈症は予後良好と考えられてきたが,近年,
本症における突然死,虚血性心疾患の発症が報告
されその病態が注目されている.今回われわれは
本症の2例を経験したので若干の文献的考察を加
え報告する.症例1は75歳女性.労作時の胸痛を
主訴に来院.前下行枝,回旋枝に狭窄を認めPCI
の適応と考えられた.症例2は73歳男性.同様に
労作時の胸痛を主訴に来院.LMT近傍の#6に
99%狭窄を認め,冠動脈バイパス術の適応と考え
られた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
15) ピルジカイニド負荷試験(ブルガダ症候群)
の心室細動誘発性に関する検討
(北光記念病院) 大久保健史・四倉昭彦・
吉田 泉・櫻井正之
(北海道大学循環病態内科学) 横式尚司・
筒井裕之
【目的】ブルガダ症候群を疑われた症例でのVf誘
発性およびピルジカイニドが誘発性に与える影響
を検討する【対象】ブルガダ症候群を疑われEPS
を実施した連続52症例【方法】無投薬下で右室心
尖部・流出路からプログラム刺激を施行しVfを誘
発を試みた.Type 2/ Type3症例ではピルジカイ
ニド50mg静注を行い,心電図上Type 1となった
場合を負荷陽性と定義し,Vf非誘発例では再誘発
を行った【結果】無投薬下で15例にVfが誘発され,
このうち6例にピルジカイニド負荷を実施,全例
が陽性であった.無投薬下のVf非誘発例37例中29
例でピルジカイニド負荷試験を行い,15例が陽性,
Vfは10例で誘発された.ピルジカイニド負荷試験
はVf誘発に関して感度94%,特異度72%,陽性適
中率76%,陰性適中率93%であり,Vf誘発性を予
想しうる優れた負荷試験といえる.
札幌市教育文化会館(2006 年 6 月)
1185
16) 遅延造影MRIとelectroanatomical mapping
によりVT substrateを推定し,カテーテルアブレ
ーション治療したorganic VTの1例
(旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科)
松田夏菜子・坂本 央・井川貴行・
杉山英太郎・齋藤江里香・松木孝樹・
山内敦司・小倉幸恵・八巻 多・太田久宣・
田邊康子・藤野貴行・竹内利治・佐藤伸之・
川村祐一郎・長谷部直幸・菊池健次郎
(富良野協会病院循環器科) 名取俊介
(旭川赤十字病院循環器内科) 寺島慶明・
土井 敦・西宮孝敏
症例は71歳男性.平成12年,PCVの多発があり近医に
て精査.左室後側壁に壁運動低下を認め,右冠動脈
#2に75%狭窄があり,再灌流したOMIと診断されて
内服治療された.平成17年,HR200のsustained VTが
出現して旭川赤十字病院に搬送され,DCにて洞調律に
戻る.当科に転院となったが,左室後側壁は瘤状でび
まん性に左室壁運動が悪く,造影MRIでは左室後側壁
の心内膜側と中隔基部の中層に遅延造影(DE)を認め
た.ICD植込み術後にも薬剤難治性にVTが頻回出現し
たため,electroanatomical mappingを用いてカテーテ
ルアブレーション治療を施行した.VT時のactivation
mapにてexitと予想された部位にlow voltage zoneがあ
り,この部分はDEを認めた部分に一致していた.遅
延造影MRIはVT起源を反映する可能性が考えられた.
17) 当科における心房細動に対するカテーテル
アブレーションの治療成績の検討
(札幌医科大学第二内科) 古堅 真・
下重晋也・山本均美・村中敦子・金子尚史・
桜井聖一郎・藤井咲子・藤井徳幸
(帯広厚生病院循環器科) 永原大五
(札幌医科大学第二内科) 江口麻里子・
若林 剛
(手稲渓仁会病院循環器科) 宮本憲次郎
(札幌医科大学機器診断部) 湯田 聡
(同救急集中治療部) 長谷 守
(同第二内科) 橋本暁佳
(土浦協同病院循環器センター内科)
鵜野起久也
(札幌医科大学第二内科) 土橋和文・
島本和明
【目的】心房細動のカテーテルアブレーション
(ABL)の治療成績を検討.【方法】平成13年12
月より発作性および持続性心房細動に対しABL
を受けた初回治療の連続症例52例(男性39名,女
性13名,平均年齢53.8±11.歳)を対象とし,平成
16年7月以前の個別肺静脈隔離術を受けた群(IPI
群)17名と平成16年8月以降の拡大肺静脈隔離術
を受けた群(EPI群)35名について,初期成功率,
洞調律維持率,合併症の比較検討を行った.【結
果】初期成功率はIPI群88.2%,EPI群100.0%,
洞調律維持率はIPI群64.7%,EPI群77.1%,合併
症はIPI群2例(11.8%),EPI群6例(17.1%)で,
いずれも有意差はなかった.肺静脈狭窄はIPI群
の1例で認めたが重篤な合併症は両群で1例もなか
った.【結論】EPIにより有意差はないものの成
功率の向上傾向が示唆された.
1186
第 95 回北海道地方会
18) 左室内血栓を認めた下肢急性動脈閉塞の一例
(市立札幌病院循環器科) 淀井景子・
穴田真奈美・遠藤将吾・安本篤史・福島 新・
岡田昌子・玉田 淳・陰山 研・五十嵐康巳・
福田洋之・加藤法喜
(同救命救急センター) 松井俊尚
(同心臓血管外科) 宮島正博・村木里誌・
渡辺祝安
症例は51歳女性.I型糖尿病にて40歳頃からイン
スリン治療を開始されていた.H18年1月,他院
にて亜急性甲状腺炎治療中に心不全を発症.利尿
薬等にて治療中に右下肢の急性動脈閉塞を発症し
手術目的にて当院搬入となった.緊急血栓除去術
を施行し,外腸骨動脈から浅大腿動脈までの多量
の血栓を除去した.搬入時の経胸壁心エコーにて
左室心尖部に可動性の腫瘤を認めたため,塞栓源
と疑われ準緊急的に開胸下左室内腫瘤除去術を施
行し,径2×2cmの腫瘤を摘出した.病理組織所
見は層状のフィブリン塊であり血栓と診断され
た.経食道心エコーで左房内血栓を認めず,術後
経過は良好であったが,血栓の再発の可能性があ
るため,現在ワーファリンにて治療中である.壁
運動正常例での心室内血栓は稀であるため,若干
の考察を加え報告する.
19) 閉塞端不明な浅大腿動脈閉塞病変に対し,
体表面超音波ガイド下でワイヤー操作を行い,
PTAに成功した一例
(社団カレスサッポロ北光記念病院)
野崎洋一・高木 康・大艸孝則・大久保健史・
秋野正敏・四倉明彦・吉田 泉・河合裕子・
川島敏也・櫻井正之
70歳代男性.間歇性跛行と左足潰瘍があり.前医
で,左外腸骨動脈の狭窄と右浅大腿動脈の閉塞病
変に対し,PTA施行した.今回,左浅大腿動脈の
閉塞病変に対し,PTA施行することとなった.血
管造影上,左総大腿動脈から大腿静脈に動静脈瘻
があり,また,左浅大腿動脈は深大腿動脈分岐部
で閉塞しており,閉塞端の同定が難しかった.体
表面超音波で,浅大腿動脈と深大腿動脈を描出し,
超音波ガイド下でワイヤー操作を行い,浅大腿動
脈の選択に成功し,さらに,超音波ガイド下に閉
塞部のワイヤー操作を行い,穿通に成功.ステン
ト留置し,良好な開大を得た.浅大腿動脈は,体
表面超音波で良好な描出を得ることができるた
め,カテーテルインターベンションにおいて,良
好なガイドとなり,成功率の向上に寄与すると考
えられる.
20) Cardiac Disturbance Syndromeを呈した若
年ARASの1例
(市立千歳市民病院循環器科) 尾崎威文・
本間恒章・堀本和志
症例は38歳女性.起坐呼吸にて当科紹介救急搬送.
血圧192/120mmHgと高血圧とともに,左室駆出
率28%とびまん性の心収縮能の低下と肺うっ血を
認め,心不全として入院治療.冠動脈造影でも有
意狭窄なく,心筋症を疑い心筋生検しているが,
異常所見を認めなかった.腎動脈造影にて左腎動
脈狭窄を認め,腎動脈形成術(PTRA)を施行し
たところ,血圧コントロールが安定するとともに
ほぼ正常にまで心機能の回復を認めた.血管内超
音波検査では動脈硬化性腎動脈狭窄(ARAS)で
あった.今回,比較的若年者でARASからCardiac
Disturbance Syndromeを呈し,PTRAが著効した
症例を経験したので報告する.
21) 急性肺塞栓症の治療経過にヘパリン惹起性
血小板減少症(HIT)を合併した1例
(札幌徳洲会病院循環器内科) 小野欧美・
佐藤俊也・長島雅人
症例は30歳代女性.平成16年7月10日他院にて帝
王切開にて出産.7月27日に労作後の意識消失が
あり,その後から頻脈,息切れ,右悸肋部痛が出
現.7月29日に近医受診し当院へ紹介された.心
エコーで肺高血圧症(推定肺動脈圧58mmHg),
胸部CTにて肺塞栓症と診断した.緊急肺動脈造
影を行い,右肺動脈主幹部と上行枝下行枝,左下
行枝に大量の血栓を認めた.Pigtailカテーテルと
8F Thrombusterを用いた血栓破砕吸引を行った.
後療法にはウロキナーゼとヘパリン,ワーファリ
ンを使用した.徐々に血小板数が低下し8月7日
には4.4万になった.HITを疑いヘパリンを中止
したところ血小板数は正常化した.右肺底動脈の
血栓以外はほぼ消失し8月30日に退院した.ヘパ
リンPF4抗体が陽性であった.
22) コレステロール塞栓症に強皮症腎クリーゼ
を合併した一例
(手稲渓仁会病院腎臓内科) 竹中 裕・
滝沢英毅・高田 珠・山地 泉
(同循環器科) 大本泰裕・村上弘則・
田中繁道
コレステロール塞栓症に強皮症腎クリーゼを合併
した一例を経験した.症例は60歳女性.心カテー
テル検査の数日後より,発熱,blue toe,好酸球・
CRP・Cr上昇を認め,コレステロール塞栓症と診
断.プレドニゾロン開始し軽快したが,1ヶ月後
腎不全増悪を伴う高血圧緊急症を発症.皮膚組織
でcholesterol crystalを確認し,腎組織の proliferative arteriopathyおよび血清抗Scl-70抗体陽性
とあわせ強皮症腎クリーゼと診断した.皮膚所見
は強皮症に典型的でなく,皮膚病変が乏しく臓器
病変が主体となるsystemic sclerosis sine sclerodermaに相当すると考えた.コレステロール塞栓
症と強皮症腎クリーゼの合併は報告が無く,ステ
ロイドが強皮症腎クリーゼ発症に関与した可能性
を考えた.
23) 慢性関節リウマチに合併した心アミロイド
ーシスにより,重症心不全をきたした一例
(札幌医科大学第二内科) 伊藤孝仁・
太田英喜・舟山直宏・岡部瑞恵・坂本 淳・
橋本暁佳・東浦勝浩・島本和明
症例は57歳,女性.16歳時,慢性関節リウマチの
診断を受け,55歳時直腸生検よりアミロイドーシ
スと診断.平成18年1月3日,発熱,咳,呼吸困難
出現.肺炎・心不全と診断,人工呼吸器管理とな
った.BNP1383pg/ml,心エコー上,左室駆出率
26%,全周性壁肥厚を認めた.利尿剤,アンジオ
テンシンII受容体拮抗薬を開始後,心不全は軽快,
左室駆出率40%,BNP728pg/mlまで改善し,肺
動脈楔入圧6mmHg,心係数2.17L/分/m2であっ
た.MRIにて前壁・後側壁にアミロイド沈着を疑
う遅延造影像を認め,心筋脂肪酸代謝シンチグラ
ムにて同部位の集積欠損を認めた.慢性関節リウ
マチの長期罹患により心アミロイドーシスを合
併,重篤な心不全を発症した例を経験した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
24) Churg-Strauss症候群により僧帽弁弁尖の
著明な肥厚をきたした重症僧帽弁狭窄症の一例
(北海道大学循環病態内科学) 平林 鑑・
南田大朗・長津明久・三山博史・三浦真健・
古本智夫・小野塚久夫・岡本 洋・筒井裕之
(北海道大学病院循環器外科) 杉木宏司・
村下十志文
(北海道大学分子診断病理学) 石津明洋
症例は71歳女性.56歳時Churg-Strauss症候群
(CSS)と診断され以降ステロイド内服を継続.平
成15年急性AR,MRを生じAVR及びMAPを受けた
が,病理所見でG
(-)
桿菌が検出されIEとして加療
が行われた.その後CRPは陰性化したものの置換
弁の動揺が生じ,平成16年re-AVRとなった.平成
17年に入り僧帽弁尖の急速な肥厚と狭窄の出現・
進行が認められ11月当科入院.IE再発が疑われエ
ンピリック治療が行われたがCRPは陰転化せず,
MSも増悪したため本年1月MVRを施行された.摘
出弁の病理標本でeosinophilic major basic protein
(+),術前高値を示したMPO-ANCAは術後著明
に低下した.本症の弁病変にCSSの関与が強く疑
われ,極めて稀な症例と考えられたので報告する.
25) ステロイドが奏功した滲出性収縮性心膜炎
の一例
(小笠原クリニック札幌病院循環器科)
今村英一郎
症例は65歳男性.平成16年に食道癌根治術の既往.
平成18年3月より労作時息切れと動悸あり,近医
にて両側胸水と心膜液貯留を認め,当院へ紹介入
院.発熱,CRP高値,ST上昇,血圧78/48などの
所見から急性心膜炎,心タンポナーデと診断.心
嚢ドレナージにて膿汁様の心膜液を排液し,培養
でStreptococcus陽性.心膜液,胸水の細胞診は
クラスⅠだった.抗生剤,NSAIDを投与したが,
その後は心膜液の再貯留がないにもかかわらず発
熱と胸水増加傾向が続き,下腿浮腫も出現.胸部
CTで 心 膜 肥 厚 を 認 め , 右 室 圧 波 形 は dip and
plateauを示し,滲出性収縮性心膜炎と診断.抗
炎症作用を期待してプレドニゾロン30mgを開始
したところ,約1週間後より尿量が増加して自覚
症状が改善,2週間後の胸部CTで心膜肥厚は明
らかに改善していた.
27) MRIが診断に有用であった高齢者重複大動
脈弓の1例
(国立病院機構函館病院循環器科)
安在貞祐・宮田 真・石田紀子・長嶋健一郎・
小室 薫・伊藤一輔
(同臨床研究部) 米澤一也
症例は66歳女性.10年前から右側大動脈弓と診断
されており,他院で定期的にMRI検査を受けてい
た.3-4年前から嚥下困難あり.平成18年2月精査
求め当科外来を初診.単純胸部X線写真では胸部
下行大動脈の右方変位を認めた.心エコー法では
上行大動脈と左室の位置関係は正常であった.
MRI検査を施行したところ,重複大動脈弓と右側
胸部下行大動脈を認めた.食道バリウム検査では
明らかな大動脈による圧排所見を認めなかった.
重複大動脈弓が高齢で確定診断されたまれな症例
と考えられたので文献的考察を含め報告する.
28) 心サルコイドーシス診断における18F-FDG
PETとMRI併用の有用性 (北海道大学第一内科) 大平 洋・
辻野一三・渡部 拓・五十嵐正・池田大輔・
伊東直史・神垣光徳・坂上慎二・西村正治
(北海道社会保険病院循環器科) 石丸伸司
(北海道大学循環病態内科学) 三浦真健
(同放射線科) 大山徳子
(同核医学診療科) 玉木長良
心サルコイドーシス診断における18F-FDG PETと
MRI併用の意義について検討した.サルコイドー
シスと診断され,12誘導心電図,ホルター心電図,
心エコーのいずれかに異常を認めた18症例に対し
て,同時期に 1 8 F-FDG PETとMRIを撮像した.
18
F-FDG PETは12例で陽性,MRIは1例にT2WIで
活動性病変を反映するとされる高信号領域を認
め,6例に造影遅延相で線維化病変を反映すると
される高信号領域を認めた.18F-FDG PET単独陽
性例は6例,MRI単独陽性例は1例,両検査陽性
例は6例だった.どちらか一方が陽性であった例
は18例中13例に達した.両検査は異なる機序で異
常を検出するため,併用することで心サルコイド
ーシスの陽性診断率を上げられる可能性があると
考えられた.
26) 無症候性のLMT病変に対し64列MDCTが有
用であった一例
(北晨会恵み野病院第一内科) 佐藤亜紀・
原口嘉枝・森平雅彦・吉江浩光・片岡 亮
(同心臓血管外科) 大川洋平
(旭川医科大学第一内科) 菊池健次郎
症例は66才男性.H8年に#6の心筋梗塞に対しPS
stent 3mmが留置された.著変なく経過していた
が外来follow up MDCTにてLMT50%の狭窄病変
が検出された.Toshiba Aquilion64のplaque view
で詳細に検討するとLMT病変には線維性プラー
クが多く,一部ソフトプラークも検出された.
CAGでもMDCT同様に53%(AHA75%)の狭窄病
変が確認され,OPCAB×4(LITA-LAD,RAOM-LCX,GEA-4PD)を施行した.本症例は,
無症状でありながら64列MDCTにてLMT病変が
検出され,更にプラーク性状の解析も行いイベン
ト発症前に手術を施行し得た症例であったため若
干の文献的考察も含めて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
札幌市教育文化会館(2006 年 6 月)
1187
第 200 回 日 本 循 環 器 学 会 関 東 甲 信 越 地 方 会
2006 年 6 月 17 日 コクヨホール
会長:斎 藤 穎(日本大学先端医学講座)
1) ペースメーカーリードに巨大疣贅が付着した
感染性心内膜症の一例
(足利赤十字病院循環器科) 山岸民治・
林田健太郎・伊澤良兼・新村大輔・杵渕 修・
飯田隆史・山根正久・横塚 仁
(同心臓血管外科) 田野敦子・堤 浩二・
高橋隆一
3) Corynebacterium Pseudodiphtheriticumによ
る感染性心内膜炎の一例
(亀田総合病院循環器内科) 熊坂礼音・
長堀 亘・一原直昭・大野正和・佐藤俊一・
吉川俊治・アルゴハリーマグディ・荒川鉄雄・
鈴木 誠・松村昭彦・橋本裕二
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
症例は44歳男性.主訴は発熱.SA blockのため恒
久ペースメーカー植え込み術施行の既往あり.平
成17年10月37-38℃の発熱の反復のため,当院受
診.心エコーでは,右房内のペースメーカーリー
ドに疣贅の付着を認め,感染性心内膜炎を疑い,
入院.血液培養で3回Staphylococcus epidermidis
を認め,PCG2,400万単位/日投与を開始したが,
疣贅の増大傾向を認めた.そのため人工心肺下に
ペースメーカーリード抜去術を施行した.術後,
著明な改善が認められた1例を経験したので報告
する.
症例は72歳男性.2006年1月初旬より全身倦怠感,
その後,側頭部の痛みと右視力低下出現し1月18
日当院眼科受診.39度台の発熱,側頭部痛から側
頭動脈炎を疑われ,内科入院となったが,血沈亢
進なく,側頭動脈炎は否定的だった.一方,経胸
壁心エコーで疣贅は明かでなかったが,僧帽弁逸
脱症と発熱および塞栓所見を認め,感染性心内膜
炎を強く疑い,抗生物質3剤による加療を開始し
た.第3病日に血液培養よりグラム陽性桿菌,第5
病日にCorynebacteriumと確認されampicillinの単
剤投与とし,4週間の投与で血液培養陰性を確認
した.
その後の培養結果で起炎菌はCorynebacterium
Pseudodiphtheriticum(CP)と同定された.CPは
頻度の低い起炎菌であり,文献的考察を加えて報
告する.
2) 細菌性疣贅が発症に関与した急性心筋梗塞の
一例
(牛久愛和総合病院内科循環器科)
兒玉 理・山崎 明・飯野 均・栗原正人・
阿部正宏・土肥敏樹
4) 若年にて感染性心内膜炎と大動脈解離を来た
し救命しえた大動脈2尖弁の一例
(深谷赤十字病院循環器科) 小暮真也・
樋口京介・茂木陽一・佐川尚規・関口 誠・
宮嶋玲人・奥村 渉・長谷川修一・大島伸浩・
山崎雅夫
【症例】76歳女性.【主訴】全身の疼痛.【現病歴】
2005年11月16日頃から倦怠感,食欲不振が出現.
同18日全身の疼痛を主訴に当院に救急搬送され
た.【経過】炎症所見と脱水を認めた.また心電
図で広範囲のST上昇を認め,心エコ−図で広範
前壁の無収縮と軽度の大動脈弁閉鎖不全症を認め
た.重症感染症による脱水から急性心筋梗塞を発
症したと考えられた.緊急心臓カテーテル検査で
左冠動脈前下行枝segment6に閉塞を認めた.経
皮的冠動脈インターベンションの際吸引した血栓
から細菌性疣贅が確認された.入院時の動脈血か
ら黄色ブドウ球菌が検出された.7日後,死亡し
た.病理解剖の結果,死因は右室膿瘍からの浸出
性破裂による心タンポナーデであった.細菌性疣
贅が原因の急性心筋梗塞で,右室膿瘍による破裂
から心タンポナーデを来たした稀な症例を報告す
る.
1188
第 200 回関東甲信越地方会
34歳女性.Turner症候群および大動脈二尖弁を指
摘され他院にて経過観察されていた.突然のめま
いと失神を発症.JCS1,頭部MRIにて新鮮多発
性脳梗塞を認め,さらに胸腹部CTにて上行大動脈
から左総腸骨動脈まで動脈解離を認めた.心エコ
ーでは,大動脈弁の疣贅と,上行大動脈のIntimal
Flapを認めた.血液培養ではStrptococcus
Agalactiae GroupBを認めた.以上より感染性心
内膜炎とI型大動脈解離を伴った大動脈二尖弁の
診断とした.第2病日に緊急開胸手術を施行.疣
贅を伴う大動脈二尖弁と,上行大動脈にある解離
の流入部を認めた.大動脈弁置換術および上行大
動脈置換術を施行し,術後経過も問題なく退院と
なった.
5) 心膜炎を合併した成人発症スチル病の一例
(秀和綜合病院循環器内科) 大野篤行・
後藤 亮・萩元宣彦・安達 進
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
(同膠原病内科) 宮坂信之
症例は22歳男性,39度の発熱及び全身の関節痛を
主訴に当院外来受診,抗生剤等を処方したが改善
せず入院となった.入院翌日,胸痛,心電図で広
範囲にST上昇を認め,心エコーで心嚢水貯留が
認められた.強い関節炎症状,特異的な皮疹やフ
ェリチン異常高値などから成人発症スチル病と診
断し,ステロイドパルス療法および免疫抑制剤の
投与などにより病態は改善した.心膜炎を合併し
た成人発症スチル病の症例報告は文献上稀であり
ながら,活動性が高いときには注意すべき重症合
併症の一つであり,臨床の初期段階より疑うこと
が重要と思われる.しかし,疾患特異的な臨床症
状や検査所見は少なく,診断は必ずしも容易では
ない.臨床の初期段階で疑わしい症例については
血清フェリチン値が鑑別に有用であった一例を今
回経験したため報告する.
6) 劇症型心筋炎によるSIRSに伴う急性呼吸不全
に対しPCPSを使用し救命し得た一例
(済生会神奈川県病院内科) 荒木基晴・
塚原玲子・小野邦春・石盛 博・朴 理絵
45歳男性,発熱,呼吸困難を主訴に近医にて上気
道炎との診断で加療を受けたが改善せず,救急外
来受診.心電図上,II, III, aVF, V4, 5, 6 ST上昇,
心エコーではび慢性左室壁運動低下を認め,急性
心筋炎の診断にて緊急入院となる.第3病日に
SIRSに伴う急性呼吸不全を合併し,人工呼吸器
管理下(Fio2;1.0,PEEP;7cmH2;O)において
も著しい低酸素血症(Pao2;55.7mmHg)を認め,
動脈血酸素化,高濃度酸素投与による肺障害予防
目的にてPCPSを導入.動脈血の酸素化は維持さ
れたが,その後も左室壁運動の著明な低下を認め,
PCPSを継続すると共にγグロブリン大量療法,
CHDFの導入を行った.第8病日になり左室壁運
動の改善を認めPCPSの離脱に成功し,第34病日
退院となった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
7) 心肺蘇生・自動体外式除細動の連鎖が救命・
社会復帰を可能にした劇症型心筋炎の一例
(北里大学循環器内科学) 翁 祖誠・
竹端 均・猪又孝元・小板橋俊美・
加藤伸太朗・品川弥人・東條大輝・青山直善・
和泉 徹
(同救命救急医学) 吉田 徹・相馬一亥
症例は51歳,女性.社交ダンス演技終了直後に意
識消失・心肺停止に陥った.一観客が直ちに心肺
蘇生を行い,自動体外式除細動器を作動させた.
除細動後,電気収縮解離を繰り返し,救急隊によ
る心肺蘇生下で当院搬送.来院時は除細動維持が
困難な心室頻拍を認め,直ちに経皮的心肺補助を
導入した.冠動脈造影と心筋生検より劇症型心筋
炎と診断.γグロブリン大量療法を併用し,1週
間の経過にて心機能は改善し経皮的心肺補助を離
脱できた.その後は合併症や後遺症なく,社会復
帰が可能となった.本疾患は心ポンプ失調または
致死的不整脈が基本病態であり,後者は突然死の
原因として重要である.特に,除細動への反応に
乏しいことから,心肺補助循環導入への橋渡しと
しての心肺蘇生の連鎖が救命・社会復帰の鍵を握
ることを再確認した一例である.
8) 簡便かつ応用範囲のひろい“loop technique法”
を用いた僧帽弁形成術
(慶應義塾大学外科(心臓血管)) 工藤樹彦・
四津良平・古梶清和・安西兼丈・
保土田健太郎・鈴木 亮・山崎真敬
(同循環器内科) 岩永史郎
(北里研究所病院循環器科) 赤石 誠
10) MSに合併した左房内巨大浮遊血栓の1例
(東日本循環器病院心臓血管センター循環器内科)
遠田賢治・松山優子・野本文子・山内貴雄・
阿部 了・藤田直也
(同心臓血管外科) 山本信行・須藤恭一・
贄 正基
症例は66歳女性.リュウマチ熱の既往あり.51歳
時にMSを指摘,PTMCを施行されている.以降
ワーファリン内服中であったが,平成17年12月脳
梗塞発症し近医へ入院となった.平成18年3月近
医での心エコー検査にて左房内巨大浮遊血栓が存
在し,僧帽弁へ疳頓しかけており,当院紹介とな
った.当院での心エコーにても左房内4.0×3.0cm
の巨大浮遊血栓が確認され,緊急カテーテルにて
冠動脈病変のないことを確認し,緊急手術を行っ
た.左房内の血栓は卵状であり,一部茎を伴って
いた.おそらく左心耳内にて栄養血管を経て巨大
化した血栓が左心房内に遊離したものと考えられ
た.経胸壁心エコー,経食エコー,カテーテルに
ても遊離巨大血栓が明瞭に記録でき,手術にて実
際の血栓も記録できたため,報告する.
13) Amplatzer septal occluderによる経カテーテ
ル心房中隔欠損孔閉鎖術を施行した成人の2症例
(埼玉医科大学循環器内科) 山崎哲郎・
中島淑江・茆原るり・関 憲司・川浪二郎・
山田裕一・小宮山伸之・松本万夫・西村重敬
(同小児心臓科) 竹田津未生・小林俊樹
(同心臓血管外科) 松村 誠
【症例1】35歳女性.経食道エコー(TEE)では欠
損孔の大きさが経胸壁エコー(TTE)よりも大き
く14×21mmで,心房中隔はややフロッピーな動
きであったが,欠損孔周囲の中隔リムは十分な長
さを有しカテーテルによる手術適応と判断した.
術中サイジングバルーンを用いた欠損孔のストレ
ッチ径は27mmであり,30mmのデバイスを選択し
た.
【症例2】45歳女性.発作性心房細動とASDを
指摘され,TEEでは卵円窩型で欠損孔は10×8mm
と小さく,欠損孔周囲の中隔リム長は十分な距離
があり,カテーテル治療の適応と判断し16mmの
デバイスを選択した.Amplatzer septal occluder
による心房中隔欠損孔閉鎖術において,術前の欠
損孔の大きさと位置,十分なリム長を確認して適
切なデバイスを選択することにより治療を行なえ
ば,低侵襲で合併症も少ない治療が可能である.
11) 重症大動脈狭窄症を有した血液透析患者の
2剖検例
(虎の門病院循環器センター内科)
千原典夫・前原晶子・土肥智貴・増田 純・
藤本 肇・藤本 陽・三谷治夫・石綿清雄・
大野 実
14) 冠動脈肺動脈瘻に由来する冠動脈瘤により
心タンポナーデを発症した1例
(長野中央病院循環器科) 山本博昭・
河野恆輔・牧内雅信・三浦英男・新井智恵子・
甲田 隆
(同心臓血管外科) 伊庭 裕・八巻文貴
Gore-tex糸を用いた僧帽弁形成術で,正常腱索の
長さに合わせた人工腱索loop(s)をベンチ上で作
製し弁尖逸脱部に縫着する“loop technique法”
の有用性を報告する.現在まで連続7例に本法に
よる形成術を施行.全て腱索断裂による比較的広
範囲の後尖逸脱であり,6例は4対(8本),1
例は8対(16本)の人工腱索再建を施行した.7
例中6例はPort-Access MICS法での手術が可能
であった.術後の心エコーでは従来のresection
suture法と比較し,後尖の開閉運動が認め血行動
態的に優れた術式と思われた.本法は簡便・迅速
に逸脱部位の修復・調節が可能であり,胸骨正中
切開はもとよりport-access MICSにおいても大変
有用な応用範囲の広い僧帽弁形成術である.
重症大動脈弁狭窄症(AS)は血行動態が破綻した
際に,回復が困難である.透析中で重症ASを有
し,心筋虚血にて死亡した2剖検例を検討した.
【症例1】81歳男性(透析6年),重症AS,冠攣
縮性狭心症あり.心不全となり,透析中に血圧低
下,同日心停止に至る.【症例2】74歳男性(透
析9年),重症ASと左前下行枝に有意狭窄,心尖
部梗塞を呈していた.心不全となり,呼吸補助に
より一時改善するも急死した.死因は急性虚血性
腸炎による出血であった.【考察】この2症例は
解剖所見でいずれも広範な急性心内膜下虚血を呈
しており,急変時の血圧低下に伴い発症し,CPR
にても回復しない血行動態の原因となっていたと
考えられる.一般に,冠血流は低血圧状態でも保
たれるが,透析,重症ASの際には冠予備能が低下
していることが示唆された.
症例は54歳男性.胸痛を主訴に当院へ紹介となる.
来院時血圧40台でエコー所見から心タンポナーデ
と診断し心嚢ドレナージを施行,血圧は100に回
復した.CTでは肺動脈基部前面に血腫を認め冠
動脈肺動脈瘻を疑い心カテーテル検査を施行し
た.冠動脈造影では左右の冠動脈から肺動脈にい
く冠動脈瘻があり左からの瘻孔は瘤状に拡大して
いたため,同部位からの破裂と考えて緊急手術を
施行.手術では心表面のLAD近傍と円錐枝近傍
に2ヵ所,内腔に血栓をともなう約30mmの瘤が
存在してその壁から出血していた.心拍動下に瘤
を切除し瘻孔を縫合閉鎖した.術後の造影では瘤
は消失していたがLADからPAへの瘻孔の遺残を
認め,コイル塞栓術を施行した.冠動脈肺動脈瘻
による冠動脈瘤破裂例の手術およびコイル塞栓術
による根治例は稀と考え報告した.
9) Bechet病を合併した大動脈弁疾患に対する弁
置換術−Subannular ring reinforcement法の検討−
(東京女子医科大学心臓病センター心臓外科)
東 隆・山崎健二・宮城島正行・小林健介・
山崎琢磨・作山隆二・川合明彦・青見茂之・
遠藤真弘・黒澤博身
12) 僧帽弁置換術施行7年後に弁周囲逆流を生
じ溶血性貧血をきたした一例
(東京都立府中病院循環器科) 大村綾子・
小池夏葉・金子雅史・松山優子・小高恵理香・
小金井博士・久保良一・田中博之・上田哲郎・
稲葉茂樹
15) 急性心筋梗塞発症を期に発見された特発性
巨大左心耳瘤の1例
(日立製作所日立総合病院心臓内科)
山内理香子・渡辺康志・山崎 浩・湯川明和・
鈴木章弘・田中喜美夫
心血管Bechet病に合併したAR(III度以上)に対
し機械弁を用いてAVRを施行した際に術後縫合弁
輪部のdetachmentが問題になる.大動脈壁・弁輪
部組織における慢性炎症,弾性線維の破壊・変性
により組織が脆弱化していることが原因と考えら
れているが,当院ではそれを回避するために
Subannular ring reinforcement法を考案し大動脈
弁輪組織を補強リングと人工弁輪とで挟み込むこ
とで強固な固定を可能とした.2004年に施行した
一例の中期遠隔成績が良好であることより本症例
に対する術式として妥当性があると判断し,同様
の術式を第二例目に適応した.結果,弁周囲逆流
を防ぎ良好な結果を得ることができた.
症例は69歳女性.既往歴に慢性関節リウマチあり.
1998年5月僧帽弁閉鎖不全症に対し,僧帽弁置換
術施行(Medtronic29M)
.その後経過良好であっ
たが,2005年6月より貧血,LDH高値が出現.
徐々に増悪し,心不全症状の出現もあり,同年10
月22日当科入院.入院時,血液像鏡検にて赤血球
の機械的な破砕像あり.心臓超音波にて人工弁の
弁座の一部が弁輪部より離開し弁周囲逆流を生じ
ている所見が得られた.輸血,利尿剤投与にて一
時的に貧血及び心不全の改善が得られたが,再度
貧血の進行を認め,再弁置換術施行となった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は59歳男性.高血圧と高尿酸血症で近医にて
投薬されていたが,これまでX線写真を撮影され
たことはない..家族歴に特記事項はない.06年3
月,安静時胸痛が出現し,急性心筋梗塞の診断で,
緊急PCIを左回旋枝の閉塞に対して行った.胸部
X線写真にて,左第3弓の突出を認めたため,造
影CT検査を行ったところ,肺動脈幹の左側に左
房と交通を有するmassを認めた.待機的PCIを左
前下行枝の残存狭窄に対して行った.その際に肺
動脈造影を行ったところ,本来の左房の左外側に
これからの流入血を有し,左房と同等の大きさの
瘤を認めたため,特発性巨大左心耳瘤と診断した.
本例は文献的検討などから,抗凝固療法を行い保
存的に経過を観察する方針となった.
コクヨホール(2006 年 6 月)
1189
16) 急性冠症候群を発症しCypher stent留置術
を施行した単冠動脈の一例
(都立豊島病院循環器科) 村井典史・
渡部慎吾・古賀規貴・山田眞平・冨澤珠実・
岩上昌義
(東京医科歯科大学循環器内科) 磯部光章
19) 肺血栓塞栓症に対して下大静脈フィルター
留置後,その中枢側に静脈血栓症をきたした骨髄
線維症の1例
(群馬県済生会前橋病院循環器内科)
須賀俊博・菊池由紀・宮崎昌久・広井知歳・
池田士郎・福田丈了
22) 卵円孔を介して左房に連続する巨大血栓を
認めた肺血栓塞栓症の一例
(榊原記念病院循環器内科) 伊藤 恵・
内野悠一・高見澤格・相川 大・桃原哲也・
渡辺弘之・井口信雄・三須一彦・長山雅敏・
浅野竜太・梅村 純・住吉徹哉
症例は66歳男性.2005年9月15日胸焼け様胸部症
状,冷汗が出現し1時間ほど持続した.その後も
100m程度の歩行で同様の胸焼け様の症状出現.
10月4日近医より急性冠症候群を疑われ当科紹介
受診.来院時,トロポニンT陽性,心電図上poor
R progression,V1~4でSTの上昇を認め,同日緊
急カテーテル検査施行.冠動脈造影では,左前下
行枝#7より右冠動脈を分枝するLipton分類で
L2A型の単冠動脈であり,右冠動脈分枝より近位
側に#6 90%の狭窄病変を認めた.同部位を責
任病変と判断したが,TIMI3の冠血流が確保さ
れていたため,心不全の治療を先行し待機的に冠
動脈形成術を予定した.心不全が軽快した10月12
日#6に対してCypher stentを留置し,術後良好
に経過した.
症例は53歳女性,骨髄線維症を基礎疾患に持ち,
過去に肺血栓塞栓症(PE),及び深部静脈血栓症
(DVT)を発症し永久型の下大静脈フィルター
(IVCF)留置を行っている.良好にワーファリン
コントロールされていたが,平成17年2月CTで永
久型IVCF中枢側に血栓が認められた.一時型
IVCF追加使用下に経カテーテル血栓溶解療法を
実施したが肺出血を合併した.一時型IVCFを永
久型として留置し,抗凝固療法で血栓は消失した.
骨髄線維症は易血栓性疾患であるが,本邦で骨髄
線維症にPE・DVTを合併した報告は少なく,更
にIVCF中枢側の血栓再発,肺出血の合併,2つ目
のIVCF留置など,稀な症例を経験したので考察
を加え報告する.
症例は62歳,男性.2005年11月下旬より労作時の
息苦しさ,左下腿浮腫が出現した.12月9日失神
発作のため近医を受診したところ,心電図異常を
指摘され当科入院となった.入院時の心電図で右
心負荷所見,経胸壁心エコーで右房内に可動性の
ある異常構造物,肺血流シンチで区域性の欠損像
を認めた.造影CTでは両側主肺動脈末梢及び左
大腿静脈に血栓像を認め,深部静脈血栓症に伴う
肺血栓塞栓症と診断し,同日一時的IVC filterを
留置した.経食道心エコーを施行し,右房から開
存する卵円孔を介して左房へ突出する約8cmの血
栓像を認めた.左心系への血栓塞栓の可能性があ
り,同日心内血栓除去術を施行した.術後ワルフ
ァリンの導入をして退院とした.巨大心内血栓に
関して良好な画像所見・術中所見が得られた症例
であり報告する.
17) 喘息様症状から診断されたKommerell憩室
の一例
(横浜栄共済病院循環器内科) 森菜津子・
野末 剛・石橋祐記・伊藤晋平・岩城 卓・
水口一郎・三浦元宏・道下一朗
20) 急性肺梗塞を合併した,総大腿動脈瘤の1例
(苑田第一病院循環器科) 鴛海元博・
柏木秀彦・後藤 豊・北村克弘・苑田一郎
(昭和大学心臓血管外科) 手取屋岳夫・
廣田真規
23) 門脈圧亢進症を伴う著明な肺高血圧症の一例
(昭和大学第三内科) 正司 真・鈴木 洋・
川又朋章・三好史人・西村英樹・茅野博行・
濱嵜裕司・酒井哲郎・小林洋一・片桐 敬
症例は67歳女性.高血圧,気管支喘息にて近医通
院中.平成17年6月呼吸困難を認め当院紹介受診.
身体所見ではラ音を聴取せず,血液検査では炎症
反応なし.胸部レントゲンでは左第1弓の突出を
認めた.胸部CT上右鎖骨下動脈の起始異常を認
め,Kommerell憩室から分岐していた.数年前よ
り嚥下困難,食事中の嘔吐も認めており,vascular ringが気管と食道を圧迫しているためと考え
られた.吸入ステロイド,テオフィリン,ロイコ
トリエンの内服を中止したが症状の増悪は認めな
かった.近医で気管支喘息と診断されていたが右
鎖骨下動脈の起始異常を伴うKommerell憩室によ
る症状と考えられ,このような血管の異常も気管
支喘息の鑑別診断として必要であると思われ報告
した.
急性肺梗塞の塞栓源の約90%は下肢・骨盤内の静
脈に起因するとされている.一方,大腿動脈瘤は
比較的まれな疾患であるが,末梢への血栓・塞栓
また破裂などの合併は報告されているが,瘤自体
の静脈圧迫による血栓形成さらに肺梗塞合併の報
告は,調べ得た限りでは認めなかった.今回,
我々は急性肺梗塞を合併し,原因の血栓形成が総
大腿動脈瘤による圧迫であると考えられた,極め
てまれな1例を経験した.治療は,肺梗塞の原因
が明らかに右総大腿動脈瘤及びこれによる静脈血
栓であると判断した.このため,一時的な下大静
脈フィルターを挿入した後,緊急的に総大腿動脈
瘤切除,人工血管置換術+静脈血栓除去術を施行
した.
18) 肺静脈瘤の一例
(東京警察病院循環器センター) 吉良文孝・
新田宗也・野崎みほ・笠尾昌史・白井徹郎
21) ステロイド内服が有効と考えられたコレス
テロール結晶塞栓症の1例
(東京大学循環器内科学) 菊池宏信・
渡辺昌文・田中隆久・山下尋史・平田恭信・
永井良三
(同腎臓・内分泌内科学) 山田秀臣・
堀 雄一
症例は55歳,男性,会社員.高血圧,高脂血症,
心筋梗塞に対する薬物療法中で状態は安定してい
たが,今回胸部レントゲン写真上異常影を指摘さ
れ精査入院となった.異常影は右中肺野の中枢側
に2×2cm程度の円形陰影として認め,肺腫瘍と
の鑑別を必要とした.造影CTにて造影され,そ
の出現時間関係は肺動脈,異常影,大動脈の順で
あったことから肺静脈瘤が疑われた.確定診断目
的にて行われた肺動脈造影にて右上肺静脈瘤
(saccular type)と診断された.本例では肺静脈
圧上昇を来たす後天的要因はなく,成因は先天的
なものと考えられた.現在,約2年経過している
が,この間造影CT上拡大傾向にあり,無症候性
であるが外科的治療の適応につき考慮中である.
肺静脈瘤はまれな疾患であり,その特徴的画像所
見とともに報告する.
1190
第 200 回関東甲信越地方会
症例は59歳女性.喫煙歴と糖尿病・高血圧・高脂
血症の合併あり.不安定狭心症で当科入院.冠動
脈造影にて3枝病変を認め,冠動脈バイパス術を
施行した.術後の確認造影ではグラフトの血流は
良好.退院時Cre 0.95.退院後1-2ヶ月にわたり,徐々
に腎機能・炎症所見の増悪(Cre 2.57,CRP 4.71)
と,足趾の黒化および一部壊死の進行を認め,精
査目的にて当科入院.足趾皮膚生検によりコレス
テロール結晶塞栓症(CCE)と診断された.プレ
ドニン30mg内服を開始し,腎機能・炎症反応・
臨床所見は改善(Cre 1.61,CRP 0.05)した.CCE
は結晶塞栓による動脈閉塞と慢性炎症に起因する
とされている.ステロイド・血漿交換等の治療例
があるが,有効性には議論がある.我々はステロ
イドが有効であった1例を経験したため報告する.
症例は51歳男性.20歳代から大酒家であり,46歳
時には糖尿病を指摘され内服加療を行っていた.
平成18年1月上旬から感冒様症状が出現し,2月に
入ってからは呼吸苦,胸痛も合併し2月7日に当院
を受診した.心電図で胸部誘導における軽度の
ST低下とTroponin-Iの上昇を認めたため急性冠
症候群を疑い緊急入院となった.心臓カテーテル
検査では冠動脈に有意狭窄は認めなかったが,右
心カテーテルで肺動脈収縮期圧が90mmHgと著明
な上昇を認め,造影CTでは肺動脈血栓は認めな
いものの腹部に門脈圧亢進症を示唆する脾門部の
shuntを確認した.肺高血圧症に対してはプロス
タグランジン製剤,エンドセリン受容体拮抗薬の
投与を行った.今回本邦では比較的稀である,門
脈圧亢進症を伴う著明な肺高血圧症の一例を経験
したため文献的考察を交えて報告する.
24) 頭蓋内腫瘍生検後に頚静脈血栓および肺血
栓塞栓症を発症した一例
(東京女子医科大学病院循環器センター循環器内科)
鈴木 太・長嶋道貴・新井清仁・保坂元子・
栗原朋宏・山口淳一・上野敦子・石井康宏・
高木 厚・鶴見由紀夫・萩原誠久・笠貫 宏
頭蓋内腫瘍生検後に頚静脈血栓症及び肺血栓塞栓
症を発症した一例を報告する.症例は31歳・男性
で,松果体部腫瘍(胚種)生検術後に突然の呼吸
困難で肺塞栓症を発症した.低酸素血症と肺高血
圧を呈し,造影CT上左内頚静脈および両側肺動
脈に血栓像が認められた.周術期のため血栓溶解
療法を行わず,一時的静脈フィルターを上大静脈
に留置したうえでカテーテルにより肺動脈と左内
頚静脈の血栓吸引を行った.ヘパリンおよびワー
ファリンによる抗凝固療法と一時的静脈フィルタ
ーの使用により肺血栓塞栓症の再発はなく経過
し,左内頚静脈および肺動脈の血栓は消退した.
本症例では先天性凝固能異常は認められず,頭蓋
内腫瘍や頭部手術に伴う血流停滞や凝固能異常に
より頚静脈血栓が形成され,肺血栓塞栓症を発症
したと推察した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
25) たこつぼ型心筋症の再発を認めた一症例
(東邦大学医療センター大森病院循環器センター内科)
川瀬共治・小林建三郎・南條修二・
湯澤ひとみ・伊賀 淳・鈴木健也・伊藤 博・
斉藤早代子・高村和大・井上有知・原 文彦・
久武真二・岡野喜史・山科昌平・中野 元・
山崎純一
症例(58歳女性)は,慢性腎不全のため維持透析
中の2002年12月2日胸痛を主訴に当院受診.心電
図上胸部誘導でST上昇及び心エコーで心尖部の
無収縮と心基部の過収縮を認めた.心臓カテーテ
ル検査にて冠動脈造影では有意狭窄を認めず,心
筋血流シンチグラムQGS解析にて,たこつぼ型
心筋症と診断し,保存的加療にて改善し2003年2
月9日退院した.外来経過観察中の2005年11月7日
透析後,嘔気が続くため11月10日当院受診し,心
電図,心エコーにおいて前回入院時と同様の所見
を認めたため緊急入院となった.入院時,心尖部
の無収縮とI-123MIBG心筋シンチにおいて,重度
の心尖部交感神経障害が繰り返されたたこつぼ型
心筋症の再発症例を経験したので報告する.
26) 高度石灰化を伴うLMT分岐部病変に対し
Rebirthを用いてstent deriveryを行った一例
(新葛飾病院循環器内科) 宮澤拓也・
榊原雅義・平野周太・西本正興・香山大輔・
奥野友信・松尾晴海・朝田 淳・森井 健・
清水陽一
症例は88歳女性.冠危険因子:高血圧,糖尿病.
糖尿病コントロール目的に他院入院中であった
が,不安定狭心症を発症し当院に転院後,冠動脈
造影を行った.左冠動脈主幹部∼前下行枝∼回旋
枝に高度石灰化を認め,左冠動脈主幹部に潰瘍形
成を伴う75%狭窄,前下行枝Seg6に90%,Seg7
に75%,回旋枝Seg11に90%,Seg13に90%狭窄を
認めた.待機的にPCIを行った.各狭窄部に
POBAを行った後ステント留置を試みたが不通過
のため,Rebirthを子カテとして用いてステント
のderiveryに成功した.LMT分岐部はcrush
stentingを行った.Rebirthは血栓吸引カテのひと
つであるが,バルーンおよびステント挿入時の強
力なバックアップカテーテルになり得る.
27) LAD及びLCx入口部病変に対し,DESによ
るSKSを行い良好な拡張を得た1例
(東邦大学医療センター大森病院心血管インターベンション室)
新居秀郎・我妻賢司・佐藤秀之・天野英夫・
中野雅嗣・戸田幹人
(同循環器内科) 山崎純一
症例は47歳男性.平成17年8月にAMIの診断で,
culprit RCAに対しprimary PCI施行.同年10月よ
り胸部圧迫感を認め,再造影でLAD seg.6及びLCx
seg.11入口部病変の進行を認め,PCIの方針となっ
た.PCIはIABPサポート下に経橈骨動脈アプロー
チで行い,まずLAD及びLCx方向へワイヤーをク
ロスオーバーし,LAD及びLCx入口部に対して
POBA施行した.LMTが4mm以上の径を有するた
め,その後LMTからLAD方向にCypher3.5/23mm,
LMTからLCx方向にCypher3.0/23mmによるSKS
(simultaneous kissing stent)をmax 16 atmで施
行し,良好な拡張を得た.今回我々はLAD及び
LCx入口部病変に対し,DESによるSKSで良好な
拡張を得た1例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
28) LMT-AMIに対するステント治療を行った連
続7例の検討
(埼玉県済生会栗橋病院循環器科)
寺嶋 豊・太田吉実・田中嗣朗・金井佐恵子・
作田晶子・高良綾子・遠藤康弘
31) 川崎病罹患後遠隔期に冠攣縮性狭心症を発
症した若年女性の一例
(済生会宇都宮病院循環器科) 鎌田浩史・
菅野康夫・八木 崇・太田賢一・寺本洋之・
家泉泰宏・植村昭穂・野間重孝
【目的】LMTを責任病変とするAMIに対する急性
期治療及び予後の検討をした.【方法】2005年2月
から2006年1月の12ヶ月間にAMIで当院に入院し
た150例中,LMTが責任病変であった7例に対し,
患者背景,治療方法,予後について検討した.
【結果】全例ショック状態であり,緊急カテーテ
ルを施行し,LMTの完全閉塞ないし99%狭窄を
認め,ステント治療及びIABP挿入を行った.発
症より再灌流までの時間は平均165分であった.
急性期30日予後は全例生存であり,5例が生存退
院した.死亡例は透析中の血圧低下により死亡し
た症例と心原性ショックにより死亡した症例の2
例であった.【結論】LMT-AMIは心原性ショッ
クを伴い予後不良であるが,ステント治療は有用
な手段であり早期の再灌流療法を施行することが
重要であると思われた.
症例は17歳女性.14歳時に川崎病と診断され,ア
スピリンおよびガンマグロブリン大量療法がなさ
れた.平成17年11月,前胸部痛の精査目的で当院
を受診した.狭心症が疑われ冠動脈造影検査を施
行したところ,冠動脈に瘤や石灰化,および有意
な狭窄病変は認められなかった.アセチルコリン
負荷試験で50μグラムの左冠動脈内注入にて胸痛
の出現,および心電図でI,aVLにST低下が認め
られた.冠動脈は瀰漫性に高度の狭小化を呈し,
硝酸イソソルビドの冠注で改善した.以上の所見
より冠攣縮性狭心症と診断した.川崎病は冠動脈
の炎症を来たす疾患であり,遠隔期に虚血性心疾
患や冠動脈瘤といった心合併症を起こすことはよ
く知られている.しかしながら,冠攣縮性狭心症
を来たしたとの報告はなく,非常に稀かつ興味深
い症例と考えられた.
29) 慢性期の閉塞機序としてCypher stentのrecoil
が主因と考えられた維持透析患者へのPCIの一例
(群馬大学循環器内科学) 柳沢三朗・
西村 茂・直田匡彦・富田智之・中野明彦・
長谷川昭・倉林正彦
58歳男性.左下肢clitical limb ischemiaの診断で
CAGを行いRCA#2に高度石灰化を伴った90%狭
窄を認めたためPCIを施行した.IVUSにて180∼
270°の石灰化を認めたが,バルーンによる前拡張
が有効だったためrotablatorは行わず,cypher
stent 3.0×28mmを20atmで留置.MSAは5.6mm2
だったが,6ヵ月後のCAGで無症候性にstentの近
位部から完全閉塞していた.re-PCIではpenetrationにConquest Proを要し,前拡張後のIVUSで
は全長に渡るstent recoilを認めた.cypher stent
は病変遠位部まで挿入できず,Driver stent 3.0×
30mmを留置した.cypher stentの慢性期ステン
ト内血栓症の原因として抗血小板剤の中断や不十
分拡張が注目されているが,高度石灰化病変では
recoilが主因となる場合があり,rotablatorによる
debulkingを考慮するべきである.
30) Oozing ruptureに対して心膜穿刺が奏功した
ものの慢性期に再度心タンポナーデ症状を呈した
心筋梗塞の1例
(国立機構災害医療センター循環器科)
小川 亨・佐藤康弘・瀬戸口雅彦・角 順子・
馬屋原伸・田原敬典
(国立病院東京災害医療センター心臓血管外科)
塚本三重生・進藤正二
(東京医科歯科大学循環制御学講座)
磯部光章
【症例】68歳女性.【主訴】胸痛.【現病歴】2005
年11月13日旅行中に初発の胸痛が出現したものの
旅行を継続し14日帰宅,15日に当院を初診した.
心電図から亜急性期の心筋梗塞と診断され入院.
【臨床経過】来院時ショックであり,心エコー上心
膜液(PE)を認めたため,心嚢穿刺とドレナージ
を施行しICUに入院.その後PEの再貯留傾向を認
めず,oozing typeの心破裂と診断した.リハビリ
後の21日に冠動脈造影を行い,LCxとRCAの2枝に
狭窄を認めたため,責任病変であるLCxにPCIを行
い,RCAへは待機的にPCIを予定した.12月6日,入
浴中に意識消失しているところを発見され,PEの
再貯留もあり緊急手術となったが,心膜内に新鮮
な出血はなく,
血栓除去にて血行動態は改善した.
32) 巨大血栓を伴う高齢者急性心筋梗塞の2例
(都立老人医療センター循環器科)
木島 豪・軽部裕也・石田純一・猿原大和・
武田和大・谷口 泰・原田和昌・桑島 巌
責任血管の血流が保たれた心筋梗塞症例におい
て,急性期冠動脈形成術(PCI)と内科的治療の
優劣については,一定の見解が得られていない.
右冠動脈内に巨大血栓を有し,急性期冠動脈造影
上TIMI3の血流を認めた心筋梗塞の2症例を経験
したので報告する.【症例1】83歳男性.緊急冠動
脈造影上RCA#2に99%の血栓性病変を認めたが
TIMI3であった.遠位保護下に血栓吸引,ステン
ト留置術を施行した.【症例2】84歳女性.緊急冠
動脈造影上RCA#1に99%の血栓性病変を認めた
がTIMI3であった.PCIは施行せず,抗凝固療法
を開始した.慢性期冠動脈造影上,血栓は完全に
消失し器質的狭窄も認めなかった.巨大血栓を有
し,急性期造影上TIMI3の急性心筋梗塞2症例を
経験した.このような症例に対する遠位保護を含
めたPCIの適応について考察する.
33) サイファーステントにおけるポリマーの剥落
(千葉大学循環病態医科学) 福島賢一・
小林欣夫・中山 崇・黒田央文・小室一成
(千葉市立青葉病院内科) 栗山根廣
症例は75歳男性.経皮的冠動脈形成術の既往があ
り,不安定狭心症にて入院となった.冠動脈造影
にて右冠動脈(RCA)中間部ならびに後側壁枝
にそれぞれ90%のステント内再狭窄を認めた.バ
ルーンによる前拡張の後に3.0×33mmのサイファ
ーステント(SES)がRCA中間部に留置された.
引き続き右後側壁枝に対して2.5×18mmのSESを
留置しようとしたが,RCA中間部にて強い抵抗
がありステントが末梢へデリバリーできなかっ
た.このため右後側壁枝の病変は2.5mmのバルー
ンによる拡張のみで手技を終了した.最終的に
RCA中間部ならびに後側壁枝は25%狭窄に改善
した.デリバリーできなかったSESを走査電子顕
微鏡にて観察したところステントストラットの表
面のポリマーの剥落が多数見られた.
コクヨホール(2006 年 6 月)
1191
34) 抗リン脂質抗体症候群を背景に発症した急
性心筋梗塞の一例
(自治医科大学大宮医療センター循環器科)
吉田昌史・宮原尚子・小林信彦・菅原養厚・
安 隆則・久保典史・百村伸一・齋藤宗靖
今回我々は抗リン脂質抗体症候群を背景に発症し
た急性心筋梗塞症例を報告する.患者は冠危険因
子を有さない59歳女性.胸部圧迫感を主訴に救急
受診し,心電図上 I, aVL, V5-6 にて ST上昇,超
音波検査で左室側壁の壁運動低下を認めた.心臓
カテーテル検査では冠動脈本幹には病変無く,鈍
縁枝の閉塞のみであったため保存的に加療.ヘパ
リン投与前の採血でAPTTの延長と血小板低下を
認めたことから抗リン脂質抗体症候群が疑われ,
抗カルジオリピン(β2GPI)抗体,ループスア
ンチコアグラント,いずれも陽性であった.また,
抗核抗体および抗SS-A抗体陽性,涙腺・唾液腺
の分泌能低下も認められ,シェーグレン症候群の
合併も示唆された.抗血小板薬とワーファリンに
よる加療で血栓症の再発は見られていない.
37) たこつぼ心筋症に完全房室ブロックを併発
し,右冠動脈に有意狭窄を認めた1例
(帝京大学循環器科) 本吉健太郎・
上妻 謙・遠藤悟郎・興野寛幸・渡 雄至・
紺野久美子・本田充喜・小金澤哲・河村 裕・
山川 健・寺倉守之・佐川俊世・古川泰司・
一色高明
症例は83歳女性.2005年8月自宅にて意識消失を
繰り返し,当院救命救急センターに搬送.搬入時
の意識レベルはJCS I-1,心電図上完全房室ブロ
ックが認められ,循環器科紹介となった.血清ト
ロポニンI 8.52ng/mlと高値で,心エコーにて心
尖部の壁運動低下を認め,直ちに緊急冠動脈造影
を施行したところ右冠動脈近位部の75%狭窄を認
め,Tsunami 3.0×20mmステントを留置した.
術後の左室造影でたこつぼ心筋症の壁運動を示
し,心筋シンチグラムや心電図変化からもたこつ
ぼ心筋症であると考えられた.PCI2日後より洞
調律に回復し,その後は房室ブロックの出現を認
めなかった.2006年2月に冠動脈造影を施行し,
ステント内再狭窄を認めず,アセチルコリン負荷
試験も陰性であった.一過性完全房室ブロック原
因判断に難渋する症例であったため報告する.
35) 冠攣縮性狭心症を合併した家族性Brugada
症候群の1例
(新潟市民病院循環器科) 保坂幸男・
高橋和義・小澤拓也・尾崎和幸・三井田努・
小田弘隆
38) Cypher stent留置後慢性期にステント内再
狭窄を来たしIVUSにてStent fractureを認めた一例
(川崎社会保険病院循環器科) 福永俊二・
村松俊哉・伊藤良明・平野敬典・古瀬祥之・
折田智彦・池田 竜
冠攣縮性狭心症に対する治療薬は,Brugada型心
電図を顕著化すると推測されている.今回,
Brugada症候群と冠攣縮性狭心症の合併例で,冠
攣縮性狭心症に対する治療薬の投与前後での心電
図変化と心室性不整脈の誘発性を検討した.57歳
男性.父が48歳で突然死し,弟は冠攣縮性狭心症
を合併したBrugada症候群.現病歴は,胸痛後失
神し入院した.ピルジカイニド負荷でBrugada型
心電図が顕著化し,エルゴノビン負荷で冠攣縮が
誘発され,プログラム電気刺激で心室細動が誘発
された.ニコランジル,ニフェジピン,硝酸イソ
ソルビドの投与前後で,心電図変化と心室性不整
脈の誘発性に変化を認めなかった.Brugada症候
群症例での冠攣縮性狭心症に対する治療薬投与の
安全性に関して,更に検討する必要がある.
6ヶ月前に初回治療時の診断カテーテル検査で,
#7にtotal,#9にsubtotalな病変が認められた.
#13にも有意な狭窄が認められた.その後#7に対
してPCI施行された.病変部にCypher stentを挿
入し,良好な拡張が得られた.後拡張後のIVUSで
は拡張良好,Malappositionもなく,Stent fracture
もなかった.その6ヶ月後,経過観察冠動脈造影
を行ったところ,#7のCypher stent内にfocalな
再狭窄が認められため,PCIを施行した.IVUS所
見では,stent欠落していて新生内膜増殖が見られ
た.stent fractureによる新生内膜増殖と考え,
Cypher stentを再挿入し,良好な拡張が得られた.
Cypher stent留置後慢性期にステント再狭窄を来
たしIVUSにてStent fractureを認めた一例を経験
した.
36) 急性冠症候群を来たした左冠状動脈主幹部
動脈瘤の1例
(国立病院機構茨城東病院循環器内科)
鯨岡武彦・悦喜 豊・瀬口秀孝
39) 心膜炎徴候にて発症した右房原発血管肉腫
の1症例
(東京慈恵会医科大学柏病院循環器内科)
滝沢信一郎・上原良樹・名越智古・南井孝介・
東 吉志・伊藤高史・鯨岡大輔・日下雅文・
蓮田聡雄・清水光行
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 望月正武
症例は65歳,女性.既往歴として高血圧,高脂血
症があり,平成8年5月には急性心筋梗塞を発症し,
責任病変の#6に対しstent留置を施行した.平成
17年2月23日より労作に伴う胸痛が出現し,頻回
となり2月25日に受診された.急性冠症候群の診
断にて緊急CAGを施行し,#1-2:75%,#5:95%,
左冠状動脈主幹部狭窄部の遠位側に冠状動脈瘤を
認めた.#5に対し,IABP下に3.0mmバルーンに
てpre dilation施行後,4.0×8mm ML stentを留置
し,右冠動脈に対しては後日PCIを施行した.フ
ォローアップのCAGでは動脈瘤の増大,再狭窄
は認めなかった.以上,急性冠症候群を来した左
冠状動脈主幹部動脈瘤の症例を経験したので,若
干の文献的考察を加え報告する.
1192
第 200 回関東甲信越地方会
【症例】34歳男性【主訴】背部痛,左肩痛【起始
および経過】2005年10月微熱,背部痛,左肩痛に
て近医受診.心電図,心エコーより心膜炎の疑い
で当院紹介受診し入院した.保存的治療で改善し
19日後退院.その後外来にて経過観察を行ってい
た.
12月上旬胸部X線写真で右第1弓の突出が出現.
CTおよび心エコーにて右房近傍に腫瘍を,また肺
野に多発結節影を認めたため精査入院となった.
心臓カテーテル検査では右冠動脈,右内胸動脈よ
り右房の腫瘍に栄養血管を認めた.多発性肺転移
を伴う心臓原発腫瘍と判断し,胸腔鏡下肺切除術
を行い血管肉腫と病理診断した.右房の原発巣へ
の放射線照射を行い腫瘍の縮小を認め,化学療法
目的に他院に転院した.心膜炎徴候にて発症した
右房原発血管肉腫の症例を経験したので報告する.
40) 心不全徴候で発症し急激な進行を来した心
臓原発骨肉腫の一例
(小田原市立病院循環器内科) 木村裕一郎・
竹内一郎・小島時昭・島村浩正・清水規隆・
川口竹男
症例は22才男性.約1ヶ月前より呼吸苦が出現,
次第に増悪し起座呼吸となり入院.入院時両肺野
の浸潤影と,心エコーで左房内に径5.5cm大の腫
瘤を認め,僧帽弁口流入障害による急性左心不全
と診断し,緊急腫瘍摘除術を施行した.腫瘍は左
房後壁より発生し黄白色,弾性硬で一部は右上肺
静脈に嵌頓していた.病理学的には軟骨や骨性分
を含む異形性の強い紡錘細胞の増殖を認め骨肉腫
と診断した.術後1ヶ月で頭痛,嘔吐,左不全片
麻痺が出現し,右頭頂葉に径4cm,後頭葉に2cm
大の転移巣を認め摘出術を行った.しかし,その
後も胸椎転移を来たし対麻痺出現,頚椎へも転移
を認め放射線治療を追加するも,左房内再発に加
え,多発骨転移,腎,副腎など全身転移を来たし,
5ヶ月の経過で死亡した.若年者の心臓原発骨肉
腫は極めて稀であり報告する.
41) 心嚢液貯留で発見された心臓血管肉腫に対
して,放射線療法,免疫療法が著効し経過良好な
1例
(日本医科大学集中治療室) 加藤浩司・
山本 剛・藤田進彦・岩崎雄樹・吉川雅智・
佐藤直樹・田中啓治
(同放射線科) 宮下正夫
(同内科学第一) 高野照夫
【症例】35歳 男性【現病歴】胸痛出現を主訴に近
医受診.近医での心臓エコー検査で心嚢液貯留な
らびに右房内腫瘤認め当院紹介受診.【入院後経
過】穿刺心嚢液は血性であった.造影CT,MRI,
Gaシンチ等の検査から心臓血管肉腫が強く疑わ
れた.手術療法による摘出術を試みるも心外浸潤
が疑われ,生検のみで閉胸.生検の結果は血管肉
腫であった.その後放射線療法により右房内腫瘤
の縮小を認め退院.さらに丸山ワクチンによる免
疫療法を行った.現在1年経過しているが腫瘤は
さらに縮小しており経過良好である.【考察】心
嚢液貯留で発見された心臓血管肉腫に対して,放
射線療法,免疫療法が著効し経過良好な1例を経
験したので報告する.
42) 偶発的に発見された無症候性左室内心臓腫
瘍の一例
(自治医科大学循環器内科) 中神理恵子・
村上義昭・村田光延・北條行弘・山本啓二・
三橋武司・島田和幸
79歳女性.2005年9月9日,非定型肺炎のため他院
へ入院.その際施行された心エコー図検査で左室
内腫瘤を指摘,精査加療目的に10月25日当科転院
となった.自覚症状はなく,身体所見も異常を認
めず,血液検査・胸部レントゲン・心電図上異常
も認めなかった.心エコー図で左室機能正常,左
室心穿部前壁側壁寄りに約5mmの茎を持つ30×
8mmの細長い腫瘍を認めた.表面は軽度の凹凸
があり,エコー輝度はやや上昇,可動性は極めて
良好で心内の血流に合わせて行き来していた.頭
部MRIや胸腹部CTにて明らかな塞栓症や他臓器
腫瘤の所見は認めなかったが,将来的に塞栓症を
起こす可能性を考え11月2日,外科的腫瘍摘出術
を行った.腫瘍は組織上脂肪腫と診断された.左
室原発の腫瘍はまれであり,貴重な症例と考え報
告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
43) 心筋抑制性自己抗体に対するの免疫吸着療
法を施行した拡張型心筋症の一例
(慶應義塾大学呼吸循環器内科)
福永朝子・内藤広太郎・長友祐司・家田真樹・
安斉俊久・岩永史郎・吉川 勉・小川 聡
(同内科学) 熊谷裕生
(北里研究所メディカルセンター病院循環器内科)
馬場彰泰
(平塚市民病院循環器科) 栗田康生
【背景】拡張型心筋症(DCM)の患者において約
85%に何らかの自己抗体が存在し,これらが心不
全や不整脈の発症の増悪因子となるとの報告があ
る.ドイツを中心にDCM患者に対する免疫吸着
療法が試みられており有効性が確認されている.
【症例】53歳,女性.2002年,DCMと診断.薬物
療法で改善を認めず両室ペーシング導入後,更な
る心機能改善目的で2006年1月計3回の心筋抑制性
自己抗体に対する免疫吸着療法を行った.その結
果β1受容体抗体価は300倍から20倍に血漿BNP
値は1933pg/mlから1058pg/mlに低下した.特記
すべき副作用は認められなかった.【結語】DCM
に対し免疫吸着療法を行った本邦初の症例を経験
した.今後は,自覚症状,心エコー,心プールシ
ンチ,血漿BNP値測定などによる経過観察を行
い,本治療法の有用性を評価する必要がある.
44) 多胎妊娠を契機に急性心不全を発症し,原
因に心筋緻密化障害が考えられた低左心機能の一例
(東京医科大学第二内科) 橋本 剛・
石山泰三・冬野隆一・山田治広・後藤知美・
橋村雄城・山下 淳・川出昌史・上山直也・
小林秀行・進藤直久・田中信大・平野雅春・
山科 章
46) 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に経皮的中
隔心筋焼灼術(PTSMA)とdual chamber pacing
(DDD pacing)を併用した2例
(日本大学練馬光が丘病院循環器科)
鈴木俊郎・福島聖二・増田尚己・田中俊行・
永島正明・内山隆久
HOCMに対するPTSMAは有用であるが左室内閉
塞の再発が問題である.PTSMAとDDD pacingの
併用は左室内閉塞を相乗的に予防する可能性があ
る.症例1は68歳女性.2003年より呼吸困難が出
現.2004年12月にPTSMAを行い左室内圧格差は
120から0mmHgまで改善した.術後に洞性徐脈で
失神したためDDD pacingを追加した.NYHA心機
能分類3から1,BNPは1800から12ヵ月後541pg/ml
まで改善した.症例2は69歳女性.発作性心房細
動を合併し2005年11月に緊急入院.12月にPTSMA
を行い左室内圧格差は170から100mmHgまで改
善.洞性徐脈のためDDD pacingを開始.左室内
圧格差は30mmHgまで低下し,NYHA4から2,
BNPは2550から2ヵ月後1570pg/mlまで改善した.
PTSMAとDDD pacingの併用は重症のHOCMの
左室内閉塞を安定して低減させ,再発を予防でき
る可能性がある.
47) 心室中隔中部に限局した菲薄化を認めた心
サルコイドーシスの一症例
(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)
吉田雅伸・生天目安英・小林 裕・喜納峰子・
森島孝行・高橋英治・曾澤 彰・木内信太郎・
相賀 護・小平真理・加藤浩太・永田拓也・
松本知沙・高沢謙二
(東京医科大学第二内科) 山科 章
34歳女性,スキーインストラクター.双胎妊娠,
切迫早産の診断にてH17年12月(30w4d)産科入
院.入院後も呼吸苦,下腿浮腫を自覚していた.
第33病日(35w1d)胎児心拍低下を認め緊急帝王
切開術を施行.術後の胸部X線写真にて両肺野に
うっ血像を認め,聴診上gallop rhythmであり急性
心不全の診断にて循環器科転科となった.UCGで
は局所壁運動障害はなく左室壁厚も正常であった
が,LVEFは20%と低下していた.心不全軽快後,
心臓MRIでは心筋中層にdelayed enhanceを認め,
心尖部に発達した肉柱を認めた.CAGは正常冠動
脈であった.心筋生検では軽度の線維化を認めた
が,炎症性細胞浸潤はなかった.退院時のUCGで
はLVEF40%まで改善.肉柱間に血流シグナルが認
められた.心不全の原因として左室緻密化障害の
関与が考えられた一例を経験した.
症例は70歳女性.1991年食欲不振,咳認め,近医
受診し心電図上VT認め,当院精査入院.その後
心筋生検で心サルコイドーシスと診断された.以
後外来通院中であったが,度々VT出現し徐々に
VTに対する薬物コントロール不良となり心不全
増悪を来たすため,2004年3月ICD植込み術施行.
その後もVT頻発するため2005年5月当院入院加
療.同入院時よりステロイド10mgアミオダロン
150mg導入.その後VT出現認めていないが,低
左心機能による心不全増悪にて入院を繰り返して
いる.本症例は大動脈弁輪部より心尖部寄り
3.4cmの心室中隔中部近傍に限局した4mmの菲薄
化を認めた.通常本症は心室中隔基部の菲薄化が
特徴であるが,心室中部に限局した菲薄化は非常
に稀であり,文献的考察を加えて報告する.
45) 溶連菌感染後に急性心筋梗塞様の左室壁運
動異常を呈した急性心筋炎の1例
(長野厚生連篠ノ井総合病院循環器科)
一瀬博之・島田弘英・矢彦沢久美子・
篠崎法彦・星野和夫
48) 頻回の輸血に伴うヘモジデローシスが心不
全の原因と考えられた1例
(公立昭和病院循環器科) 小出 卓・
田中茂博・玉置 徹・小阪明仁・石原有希子・
定 利勝・吉良有二
症例は33才男性.39度の発熱と咽頭痛あり2004年
9月21日当院内科を受診.CRP26.6 WBC23000と上
昇あり急性咽頭炎で内科入院.抗生剤の点滴で解
熱したが,9月25日から39度の発熱,膝・足関
節・指関節痛が出現.9月27日から呼吸困難,血
圧70台に低下あり循環器科に転科.心電図は23aVf
でST上昇・R波減高あり,心エコーはびまん性の
壁運動低下と後下壁の高度壁運動低下,緊急冠動
脈造影は正常で急性心筋炎と診断.ASO 671(入
院時)→4158(第21病日)と有意な上昇あり,リ
ウマチ熱の診断基準を満たし抗生剤点滴,アスピ
リン内服開始しステロイドパルス療法を施行.心
不全に対してドパミン,ドブタミン,カルペリチ
ドを開始し心不全改善.溶連菌感染との関連が示
唆される急性心筋炎で心筋梗塞様の局所壁運動異
常を呈した希な症例を報告する.
64歳女性.14年前に血液疾患を指摘され輸血を頻
回に施行された.5年後肝障害を認めたため肝生
検を施行,輸血に伴うヘモジデローシスと診断さ
れた.その後,糖尿病も併発し外来通院となって
いた.2005年11月頃より労作時の呼吸苦と胸部レ
ントゲン上右胸水の貯留を認め,心エコー上も全
周性に壁運動の高度の低下を認めたためうっ血性
心不全の診断で2005年12月15日当科入院となっ
た.入院後,安静及び利尿剤の静注で胸水は消失
し,症状は改善した.利尿剤を内服へと変更後も
症状の増悪なく経過したため2006年1月15日退院
となった.冠動脈造影検査では,冠動脈に有意狭
窄は認められず,心筋生検で心筋細胞内及び間質
にヘモジデリン沈着を認めたことから,ヘモジデ
ローシスに伴う心筋症が心不全の原因と考えられ
た.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
49) メタボリック症候群と肥大型心筋症を合併
したCD36欠損症
(東京女子医科大学卒後臨床研修センター)
今村有希子
(東京女子医大学付属青山病院循環器科)
島本 健・伊原俊一・坂井理映子・渡邉裕太・
真中真美・小野紀世子・遠藤美穂・川名正敏
症例は51歳男性.夜間の無呼吸を主訴に入院し,
閉塞型睡眠時無呼吸症候群と診断しCPAPを導入
した.入院時,BMI33.6,腹囲110.5cm,血圧146/78
mmHg,採血上TG 275mg/dl,FBS 115mg/dl,
HOMA-R 8.29でメタボリック症候群と診断した.
また心電図上I, aVL, V2-6で陰性T波,心エコー上
著しい心肥大を認め肥大型心筋症が疑われた.
BMIPP-Tl二核種心筋シンチグラフィーでは
BMIPP無集積を認め,採血上CD36タイプIの欠
損を認めた.CD36は酸化LDLのスカベンジャー
受容体の一種で長鎖脂肪酸の取り込みに関与す
る.またCD36分子異常ではインスリン抵抗性,
粥状硬化性心血管疾患や心筋症をきたすことが報
告されている.本症例はメタボリック症候群と肥
大型心筋症を合併したCD36欠損症であり,稀有
な症例であるため考察を加え報告する.
50) 冠動脈バイパス術前後で左室収縮特性を比
較した虚血性心筋症の1症例
(新潟大学第一内科) 柏村 健・小玉 誠・
伊藤正洋・田中孔明・保屋野真・三間 渉・
大野有希子・広野 暁・大倉裕二・加藤公則・
塙 晴雄・相澤義房
【背景】重症心不全の左室収縮特性として,頻脈
時の機械的交互脈や,収縮性復元曲線でのtau値
の上昇などの特徴がみられるが,虚血性心疾患と
の関連は明らかでない.【症例】66歳男性.左室
壁運動低下の原因精査のため入院し,冠動脈造影
で3枝病変がみられ,左室造影で拡張末期容量係
数169ml/m 2 ,駆出率29%であった.機械的交互
脈が右房刺激110/分で出現し,tau値253msであ
った.分枝を含む5枝バイパスを行い,3週間後に
再度心臓カテーテル検査を施行し,すべてのバイ
パスは開存していた.左室容積と駆出率に変化は
なかったが,機械的交互脈は130/分まで出現せず,
tau値も163msと改善していた.【結語】機械的交
互脈や収縮性復元曲線により,虚血性心疾患の心
機能を評価できる可能性がある.
51) 腎細胞癌摘出後に左心機能の改善をみた拡
張型心筋症様心不全の一例
(稲城市立病院内科) 山川裕之・稗田宏子・
若林行雄・小泉和正
(同循環器科) 白木裕人・関 智織・
横溝和美・織田 豊・近藤信介
(同泌尿器科) 松崎章二
(慶應義塾大学病院放射線科) 中原理紀
38歳男性.2005年7月上旬より起座呼吸が出現し
同月22日当院受診.心エコーにて低心機能および
左室璧菲薄化を認めた.CRPの軽度高値が持続,
多汗,多血症も伴うため,心不全との関連を疑い
全身検索を進めた.体部CTにて腎細胞癌を確認,
同年10月に当院泌尿器科にて腎細胞癌摘出術を施
行.摘出後CRPは正常化.心プールシンチによる
LVEFは15%から35%まで上昇,心エコー上も壁
菲薄化の改善を認めた.腎細胞癌は多様なサイト
カインを産生することが知られている.また,サ
イトカインは心筋障害をもたらし,心不全発症へ
の関与が示唆されている.本症例は腎細胞癌摘出
後各種サイトカインの低下とともに心機能の改善
を認め,腎細胞癌がサイトカインを介して心不全
発症に関与する可能性を示唆する貴重な症例と考
える.
コクヨホール(2006 年 6 月)
1193
52) 大動脈弁置換術後の急性のstuck valveに対
し,ウロキナーゼが著効を示した一例
(群馬県立心臓血管センター循環器内科)
入江忠信・磯部直樹・栗原 淳・山下英治・
田所寿剛・高松寛人・芝崎太郎・吉村裕子・
野 健一・村上 淳・安達 仁・夛田 浩・
外山卓二・内藤滋人・星崎 洋・大島 茂・
谷口興一
症例は83歳女性.平成7年直腸癌の摘除および人
工肛門造設術を受けた.また,平成9年大動脈弁
狭窄症にて弁置換術(21SJM)を受け,以後warfarin内服し経過良好であった.平成17年11月1日
人工肛門部にヘルニアが出現し嵌頓したため近医
入院.手術を受けるためwarfarinは中止になった.
11月8日人工肛門再造設術を受けたが,術後2週間
程で重症心不全を発症し,11月24日当院転院.心
エコーと弁透視の結果,血栓によるstuck valveと
診断した.緊急手術の適応と考えられたが,再手
術例でかつ高齢であることから手術が延期され
た.血栓溶解目的にてurokinase投与したところ,
翌日には弁機能が改善,2日後には心不全も改善
した.血栓性の人工弁機能不全に対して血栓溶解
療法を施行した報告は少なく,本症例では著効を
示したため報告した.
53) バルサルバ洞動脈瘤に多発性冠動脈瘤を合
併した1症例
(獨協医科大学越谷病院循環器内科)
善利博子・谷口 勲・新健太郎・藤掛彰則・
清野正典・虎渓則孝・唐原 悟・市原美知子・
清水 稔・酒井良彦・林 輝美・高柳 寛
55) 重症心機能低下例に対する心拍動下僧帽弁
手術
(湘南厚木病院心臓血管外科) 水野友裕
通常,僧帽弁手術では術野確保のため人工心肺使
用下に大動脈遮断,心停止下に行う.上行大動脈
病変や重度左心機能低下を合併することの多い虚
血性心筋症では,大動脈遮断,心停止を行うこと
で周術期LOS,脳梗塞が懸念され,手術リスクを
高める原因となる.当院では積極的に大動脈非遮
断,心拍動下僧帽弁形成術を行っており,2症例
を供覧する.
【症例1】OMI後の低左心機能,MR,
TR,左室瘤,Af,上行大動脈石灰化,ASOを合併.
2枝CABG,MVP,TAP,MAZE,左室形成術を
心拍動下に一期的に施行.【症例2】LVEF16%,
LVDd87mmのDCM,MRに対し心拍動下MVP,
TAP施行.ともに良好な術後経過であった.こ
の手技では,大動脈弁手術以外すべての心臓外科
手術が大動脈遮断なしで心拍動下に行えるため,
重症例でも周術期LOS,塞栓症のリスクが軽減で
きる.
58) Hybrid治療による血行再建術が奏効した高
齢者心源性ショックの救命例
(社会保険中央総合病院循環器内科)
田代宏徳・薄井宙男・山本康人・吉川俊治・
市川健一郎・野田 誠
(同心臓血管外科) 恵木康壮・高澤賢次
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
息切れを主訴に近医より紹介受診となった79歳男
性.来院時血圧91/66mmHgで胸部症状持続し心
電図上洞性頻脈で心室内伝導障害と前胸部誘導で
虚血性ST低下を認めた.胸部X-Pにて肺うっ血を
認め,AMIによる心源性ショックと診断.IABP
挿入下にCAGを施行しLADとLCXの本幹が起始
部から完全に閉塞しRCAからLAD・LCX本幹へ
jeopardized collateralを伴っていた.三枝病変に
よるAMIに対しLADへのPCIは成功せず,
Supported PCPSによるPCIも考慮したがLAD領
域に緊急CABGを実施.Off-pump下にLITAを
LADに吻合し,一枝バイパス術後IABP下に経過
観察.第8病日にRCA起始部(#1)と遠位部
(#3)にPCIを施行後IABP離脱可能となり計3回
の血液透析のみで社会復帰.重症三枝病変による
AMIにCABGとPCIによるhybrid治療を行い救命
しえた症例を経験したので報告する.
56) 重症虚血肢に対し,脛骨・腓骨動脈以下の
血行再建にて救肢した3症例
(昭和大学第一外科) 福隅正臣・廣田真規・
大野正裕・大井正也・丸田一人・尾本 正・
石川 昇・川田忠典・手取屋岳夫
59) 無症候性心筋梗塞による心室中隔穿孔を伴
った左室下壁心室瘤の1例
(新潟県立中央病院循環器科) 飯嶋賢一・
阿部 暁・小川 理・清水 博・政二文明
(同心血管呼吸器外科) 中山 卓・岡崎裕史
症例は54歳,女性.2004年腹部大動脈瘤破裂にて
人工血管置換術を施行.家族歴に父と同胞3人中2
人に突然死を認めた.2006年11月頃より狭心痛出
現,当科に紹介受診となった.心電図上I度房室
ブロック,II,III,aV F V 56 に陰性T波を認めた.
胸部レントゲン写真では心胸郭比63%,胸椎側弯
を認めた.心臓超音波検査上,直径4cm×5cmの
無冠尖動脈瘤とII度の大動脈弁閉鎖不全症がみら
れた.同年2月大動脈造影施行しバルサルバ洞無
冠尖動脈瘤を,左右冠動脈造影にて多発性冠動脈
瘤,左前下行枝末梢に99%狭窄を認めた.また頭
部MRIにて左内頚動脈と後交通脳動脈の分岐部に
約1cm大の未破裂脳動脈瘤がみられた.バルサル
バ洞動脈瘤と動脈瘤多発を呈した興味ある症例を
経験したので報告する.
【症例1】69歳女性.右第1趾の糖尿病性壊疽に
感染を合併していたが,大腿−足背動脈バイパス
により血行再建した後に,Maggot Debridement
Therapy(MDT)を施行し右第1趾のみの切断
で治癒した.【症例2】68歳男性.閉塞性動脈硬
化症による右第5趾の壊死に対し,大腿−膝窩動
脈バイパス及び膝窩−足背動脈バイパスを施行し
治癒できた.【症例3】69歳男性.左足趾から足
底にかけての糖尿病性壊疽を認めたが,大腿−膝
窩動脈バイパス,膝窩−足背・後脛骨動脈バイパ
ス及び外科的debridementを施行.その後にMDT
を行い足関節以上の切断を免れた.下肢の壊死を
伴う重症虚血肢に対し,脛骨・腓骨動脈以下に血
行再建を行い救肢した3症例を経験した.そのう
ち2例は糖尿病性壊疽であったが,MDTを併用
することで良好な結果が得られた.
症例は67歳男性.冠危険因子は高血圧症と高脂血
症.従来,胸痛の既往はない.胸骨左縁第3肋間
の汎収縮期雑音を指摘され,精査目的で当科紹介.
胸部X線では心胸郭比57%と心拡大と肺野の血管
陰影の増強を認めた.心電図ではII・III・aVFに
異常Q波と陰性T波,V2-6にST低下を認めた.心
エコーでは心基部側の下部中隔と下壁の菲薄化と
心室瘤を認め,瘤の心尖部側の辺縁部に心室中隔
穿孔によるシャント血流を認めた.心臓カテーテ
ル検査ではシャント率49%,肺体血流比1.98であ
った.冠動脈造影では左前下行枝#6.,右冠動脈
#4.AVの閉塞を認めた.以上より,心室瘤切除
術・心室中隔パッチ閉鎖術,左前下行枝に冠動脈
バイパス術を施行した.高度なシャントを伴う心
筋梗塞による心室穿孔で無症候例は稀と考え報告
する.
54) 右下肢巨大血管腫により慢性心不全をきた
した1例
(順天堂大学ハートセンター循環器内科)
西野顕久・鈴木宏昌・金村俊宏・松永江律子・
柳沼憲志・高谷典秀・横山 健・太田 洋・
戸叶隆司・中里祐二・代田浩之
57) 心タンポナーデと両側胸水で発症しドレナ
ージとゲフィチニブ投与で1年以上経過良好な肺
癌心膜浸潤の1症例
(社会保険横浜中央病院循環器科)
中野義望・大岩功治・藤江俊雄・岩本康人・
佐藤一人
60) Off-pump CABGにおける中枢側自動吻合
器PAS-PORTTMの使用経験
(東京医科大学心臓外科) 金森太郎・
安田 保・伊藤茂樹・西田 聡・菊池祐二郎・
渡邊 剛
症例は24歳女性.主訴は労作時の息切れ.1986年
より右下肢の腫脹が出現し,徐々に歩行困難とな
った.1993年生検で血管腫と診断されたが,本人
の希望で保存的治療となった.2005年より息切れ
が増悪,下肢腫大著明となり,右下肢切断術目的
に入院した.胸部X-Pで心拡大,肺うっ血を呈し,
心エコー上LVDd/Ds 64/41と拡大していた.右心
カテーテルでは心拍出量14.0L/min,肺動脈圧41/26
mmHgであった.術後,心拍出量5.2L/min,肺動
脈圧18/9mmHgとなり症状も消失.LVDd/Ds 51/35
と正常化しBNPは640pg/ml→40.6pg/mlと改善し
た.本例は右下肢巨大血管腫が原因で慢性心不全
を呈したが,血管腫の切除により症状および血行
動態が著明に改善した.
症例は64歳女性,2004年11月より呼吸困難を自覚
し一ヵ月後当院を受診,著明な両側胸水と心拡大
を認め心不全を疑い入院した.心エコー上多量の
心嚢液を,胸部CTでは右下肺に腫瘤陰影を認め
肺癌を疑い両側胸腔ドレナージを施行した.しか
し呼吸困難は増悪,頻脈や血圧低下より心タンポ
ナーデと診断し心嚢穿刺とドレナージにて著明な
改善を得た.以後化学療法を経てゲフィチニブの
経口投与を開始したところ,現在まで1年以上の
経過を経たが心膜炎や胸膜炎の再発を認めない.
心タンポナーデを来たす原因は多種多様であるが
悪性腫瘍の心膜転移は予後不良で,ドレナージを
行うことで短期予後は改善できるが平均余命は4
ヶ月といわれている.今回ドレナージ治療により
症状の劇的改善と適切な抗癌剤投与により長期生
存を経験したので報告する.
1194
第 200 回関東甲信越地方会
【目的】OPCABにおいてside clampを回避するう
えで,中枢側自動吻合器の果たす役割は大きい.
SVG用の中枢側自動吻合器PAS-PORTTM(PP)の
使用経験を報告する.【対象・方法】2005年9月か
ら2006年2月の間に当科でOPCABを施行した29例
中23例にPPを使用した.平均67歳(男22女1),
緊急手術3例(AMI 1例,uAP 2例).【結果】総中
枢側吻合数は27本で,吻合手技に難渋することは
なかったが,SVGの血管径が細く,使用不可能で
あったものが4本あった.総末梢側吻合数は51本
(LAD 2本,D or HL 8本,CX17本,RCA24本),
術後早期のグラフト開存率は100%であった.1
例のみ中枢側吻合部に50%狭窄を認めた.【結語】
安全,かつ短時間で中枢側吻合を可能にしたPP
は有用と考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
61) 右心不全優位の両心不全を呈した三尖弁・
僧帽弁閉鎖不全症の1例
(心臓血管研究所付属病院循環器科)
松野俊介・相良耕一・上嶋徳久・小笠原憲・
澤田 準・相澤忠範
(同心臓血管外科) 田邉大明・須磨久善・
高橋明仁
症例は69歳男性.2003年より心房細動と弁膜症を
他院にてフォローされるも薬物療法による心不全
管理は困難であり,2005年5月に当院紹介受診.
経胸壁心エコー上接合不全による重度の三尖弁閉
鎖不全,中等度の僧帽弁閉鎖不全および右心系の
著明拡大を認めた.以後も両心不全症状が徐々に
進行したため2006年3月14日に当院にて三尖弁
輪・僧帽弁輪形成術およびメイズ手術を施行.術
後は洞調律で経過し,利尿剤による心不全管理は
良好となった.本症例の三尖弁閉鎖不全の原因と
しては,左心系への負荷の波及よりも右室心筋障
害による右室拡張が疑われた.術中に施行した右
室心筋生検の病理組織学的結果および文献的考察
を含めて報告する.
62) 内科医が納得する動脈グラフト吻合法Distal吻合をコブラヘッド様 に作成する幾何学的
考察
(慈泉会相澤病院心臓血管外科) 大沢 肇・
藤松利浩・高井文恵
(同病態診断科) 櫻井俊平・藤本和法
(同循環器科) 有賀雅和・荻原史明
冠動脈バイパス術後のグラフト造影が積極的に行
なわれていることで,動脈グラフトのDistal吻合
部の引きつれや,50%以下の狭窄の存在が明らか
になってきた.その結果,循環器内科医の冠動脈
バイパス術への心証を悪くし,心臓外科手術の症
例が減ってる可能性がある.我々は,動脈グラフ
トのdistal吻合においてCAG上循環器内科医が納
得する形態で,狭窄や引き連れのないコブラヘッ
ド様に作成することを試みた.吻合法を幾何学的
に分析しheel 3針にhead 5針,その間2針ずつとい
うシンプルな方法でおこない,動脈graftのdistal
吻合がコブラヘッド様に作成された.動脈グラフ
トの吻合法は,幾何学的考察を加えることで循環
器内科医が満足できる吻合が可能と考えられた.
63) 大動脈手術後にヘパリン起因性血小板減少
症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)を
合併した2例
(榊原記念病院心臓血管外科) 西村健二・
下川智樹・川瀬康裕・堀内和隆・竹内 晋・
村田将光・尾澤直美・文元建宇・新本春夫・
高梨秀一郎
【目的】大動脈手術後にHIT2症例を経験したので
報告する.【症例1】58歳,女性.急性大動脈解離
に対して緊急に上行大動脈人工血管置換術を施行
した.11,13病日に血小板減少を認めたため,HIT
を疑い,HIT抗体を提出し,13病日からアルガト
ロバンを開始した.HIT抗体は強陽性であった.
その後は血小板数も回復し,ワルファリンの内服
に切り替え36病日に退院となった.
【症例2】76歳,
女性.胸部大動脈瘤に対して下行大動脈人工血管
置換術+CABG1枝を施行した.28病日に血小板
減少を認め,HITを疑い29病日からアルガトロバ
ンを開始した.HIT抗体は強陽性であり,32病日
から血小板数の回復を認めた.現在も入院加療を
継続している.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
64) 静脈穿破を来たした大動脈瘤症例の検討
(船橋市立医療センター循環器科)
神作幸子・福澤 茂・稲垣雅行・杉岡充爾・
沖野晋一・市川壮一郎・鶴有希子
(同心臓血管外科) 高原善治・茂木健司・
勝俣正義・田村 敦
67) B型急性大動脈解離による心タンポナーデ
を合併した一例
(埼玉医科大学心臓血管外科) 松岡貴裕・
今中和人・阿部馨子・岩崎美佳・三浦純男・
岡村長門・枡岡 歩・石川雅透・荻原正規・
加藤雅明・西村元延・朝野晴彦・加藤木利行・
許 俊鋭
【目的】当センターにて経験した静脈穿破を来し
た大動脈瘤の2症例を報告する.【症例】61歳と79
歳の男性.両例に呼吸苦と下腿浮腫を認め,1例
は臍下,他1例は左鼠径部に瘤とbruitを触知し,
連続性雑音を聴取した.また両例に心不全,腎不
全を認めた.1例は造影CT,他1例は血管造影に
て動静脈婁を術前に診断し,両例ともY字グラフ
ト置換と静脈穿孔部閉鎖を施行した.いずれも術
後3週間以内に独歩退院となった.【結語】動脈瘤
の静脈穿破は胸腔内や腹腔内への破裂と比べ初期
の循環動態が安定している場合が多いが,看過さ
れると高心拍出量性心不全,腎障害,肝機能障害
を併発し治療が困難になり得る.突然発症する高
心拍出量性心不全の徴候,bruit,thrill等の所見
にて本病態を疑った場合は造影CTや血管造影に
よる早期診断が重要である.
心タンポナーデはA型急性大動脈解離にはしばし
ば合併するが,B型においては極めて稀である.症
例は59歳男性.夜間突然背部痛出現.CT上血性心
嚢水貯留が見られ,B型解離もあったが早期血栓
閉鎖型と考えられた.経食道エコーで遠位弓部小
弯側に6×8mmのULPと血栓化した偽腔をみとめ,
発症約10時間後の再検CTで心嚢水の増加や解離腔
の拡大はなかったが,心嚢水の量が多い上,原因
が不明瞭なため,同日開胸手術を施行した.心嚢
内には凝血塊を含む450mlの血性心嚢水が貯留し
ていた.上行・近位弓部大動脈に異常はなかった
が,肺動脈前面に血腫を認めた.しかし血腫を除
くと肺動脈自体に出血源なく,他にも明らかな異
常なく手術を終了した.術後順調に退院し,降圧
治療で経過観察中だが再発は見られていない.
65) 発症まで経時的に造影CTを施行できた急
性大動脈解離の一例
(君津中央病院循環器科) 芳生旭志・
上原雅恵・野島愛佳・藤本善英・山本雅史・
氷見寿治
68) SLE加療中に腹部大動脈瘤破裂が発生し術
後3枝病変に対しPCIを施行した1例
(上尾中央総合病院心臓血管外科)
遠藤由樹・外山聡彦・高沢有史
(同循環器内科) 齋藤雅彦・西村昌雄
症例は高血圧の既往のある77歳女性.昼食後,胸
部圧迫感,背部痛,左顎痛あり近医受診.心電図
上ST-T変化認めなかったがNTG舌下にて症状や
や軽快したため当科紹介受診となった.来院時は
症状軽快傾向,体動,深呼吸で前胸部痛,左前胸
部,左背部に圧痛を認めた.心電図,心エコーに
異常なく,造影CTにて明らかな解離認めなかっ
た.帰宅2時間後,階段昇降した際に胸背部痛,
意識消失発作認めたため再度救急受診.造影CT
にて上行大動脈の解離を認めた.発症までに経時
的に造影CTを施行することができたので報告す
る.
症例は49歳女性.24歳時よりSLEの診断にてステ
ロイドの内服を開始していた.本年1月腰背部痛
を主訴に近医受診し,腹部造影CT検査施行した
ところ腹部大動脈に最大径50mmの動脈瘤がみと
められ破裂の所見が確認された.同日緊急手術施
行し,腎動脈下より人工血管にて両側総腸骨動脈
まで置換した.術後冠動脈精査のため冠動脈造影
CT検査施行したところ3枝病変が認められたため
PCI施行し,患者は経過良好にて退院となった.
腹部大動脈瘤に冠動脈病変が合併した報告は多数
存在するが,今回我々はステロイド導入中の患者
に腹部大動脈瘤の破裂が生じ,さらに冠動脈病変
が合併した症例を経験し良好な結果を得ることが
できた.術中所見と文献的考察をあわせ,ここに
報告する.
66) 瘤径50mmで切迫破裂をきたした胸腹部大
動脈瘤の一手術例
(杏林大学心臓血管外科) 中村益夫・
窪田 博・戸成邦彦・遠藤英仁・須藤憲一
69) 大動脈基部の拡張により右冠動脈入口部が
圧排され,心筋虚血を認めたMarfan症候群の一例
(旭中央病院循環器センター内科)
櫛田俊一・小寺 聡・佐藤寿俊・橋本 亨・
神田順二・鈴木 勝
症例は53歳女性.身長152cm,体重36kg,体表面
積1.26m2.徐々に増強する胸痛を主訴に近医整形
外科受診,胸部レントゲン上縦隔陰影の拡大を認
めたため当院受診.CTにて胸腹部大動脈瘤切迫
破裂と診断,翌日緊急で下行大動脈置換術を行っ
た.順調に経過し独歩退院.動脈瘤瘤径(絶対径
または体表面積に対する相対径)と破裂のリスク
の評価に関して文献的考察を加えて報告する.
症例は24歳男性.父がMarfan症候群であり,本
人も18歳まで他院にて毎年心エコーでfollowされ
ていたが,異常を指摘されていなかった.平成17
年10月頃より臥位呼吸困難を自覚.平成18年1月
に症状の増悪のため当院受診し,心エコーにて大
動脈基部拡張とARIV度を認め入院となった.利
尿薬,カテコラミンの点滴静注による心不全の治
療後,両心カテーテル検査を施行.大動脈基部は
最大径8cmと拡大し,右冠動脈入口部は圧排され
末梢の血流が低下し,左冠動脈より側副血行路を
受けていた.心電図同期Tc-MIBI SPECTにて下
壁の壁運動低下と虚血を認めた.平成18年2月に
Bentall手術を施行した.大動脈基部の拡大によ
り冠動脈入口部が変形し心筋虚血を生じた稀な症
例を経験したため報告する.
コクヨホール(2006 年 6 月)
1195
70) 治療に難渋した著明な薬剤性低カリウム血
症の1例
(東京都立大塚病院内科) 坂口友理・
大渕信久・伊藤鹿島・柳瀬 治
症例は80歳女性.軽度肝機能障害に対してグリチ
ルリチン製剤が投与されていたが,高血圧・浮腫
を認めるようになったため,ループ利尿薬,サイ
アザイド系利尿薬が追加処方された.次第に脱力
感を自覚し,嘔吐を繰り返すようになったため当
院の救急外来を受診した.著明な低カリウム血症
をはじめとする種々の電解質異常を認め,心電図
にてQT延長を認めた.入院後よりR on Tから頻
回に心室頻拍を起こし,その都度,電気的除細動
を施行した.カリウムの補正を試みたが血清カリ
ウム濃度の上昇は鈍く,正常範囲になるまで7日
間で計768mEqのカリウム製剤を要した.本症例
は,併用注意の薬剤によって偽アルドステロン症
にとどまらず,著しい電解質異常をきたした症例
である.警鐘的な症例であると考え,報告する.
71) 経鼻的持続陽圧呼吸により房室ブロックが
消失した睡眠時無呼吸症候群の一例
(青梅市立総合病院循環器科) 杉山知代・
高山 啓・秦野 雄・栗原 顕・北森要一郎・
澤田三紀・清水雅人・西森健雄・清水茂雄・
大友建一郎・坂本保己
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
症例は51歳男性.48歳時に下壁心筋梗塞に対し冠
動脈ステント留置術の既往がある.ホルター心電
図で夜間就寝中にのみ房室ブロック(最大RR間
隔6.1秒)を認めた.電気生理検査では洞結節回
復時間(SNRT)900ms,A-H時間135ms,H-V時
間45ms,Wenckebach AVBレート150bpm,房室
結節有効不応期300msと洞機能・房室伝導能は正
常であり,pilsicainide負荷にても房室ブロックは
誘発されなかった.肥満(BMI37)・いびき・両
側扁桃腫大を認め,簡易検査でRDI(respiratory
disturbance index)43.7と高値であり,閉塞性睡
眠時無呼吸症候群(oSAS)と診断された.経鼻
的持続陽圧呼吸(nCPAP)導入によりRDIは4.9
へ著明に改善するとともに夜間の房室ブロックは
消失した.SASに対するnCPAPが房室伝導障害
に対しても有効であった.
72) 洞不全症候群を伴う発作性心房細動に対し
て肺静脈隔離術を施行した一例
(東京慈恵会医科大学循環器内科)
柴山健理・伊達太郎・稲田慶一・神崎恭子・
松尾征一郎・山根禎一・杉本健一・宮崎秀和・
八木秀憲・宮永 哲・望月正武
【症例】58歳男性 【主訴】動悸,めまい【経過】
4年前より頻回に眩暈を伴う動悸発作を自覚して
いた.他院で洞不全を伴う発作性心房細動(AF)
と診断され当院紹介となった.ホルター心電図上,
AF停止時に眩暈を伴う10.5秒の洞停止が認めら
れ,ペースメーカー植え込み術を勧めたが本人は
希望しなかった.そこで,AFの根治を目的とし
たカテーテル肺静脈隔離術を施行し,全4本の肺
静脈に対して両方向性電気的隔離に成功した.術
直後に一過性にAFが認められたものの,その後6
ヶ月の経過観察中抗不整脈薬無投薬下でAFの再
発は認められず症状も消失した.【考察】洞不全
伴う発作性AFに対しては通常ペースメーカー植
え込み下に抗不整脈薬治療が選択されるが,肺静
脈隔離術によるAF根治術も治療法の一つとして
考慮する余地があるものと考えられた.
1196
第 200 回関東甲信越地方会
73) ループス腎炎による慢性腎不全を合併する
発作性心房粗細動に対しカテーテルアブレーショ
ンを施行した1例
(国立国際医療センター腎臓循環器科)
上村宗弘・岡崎 修・安田理世・海野梨里・
田守唯一・大野邦彦・副島洋行・渡邉剛毅・
田中由利子・樫田光夫・赤塚宣治・廣江道昭
【症例】46歳女性.
【主訴】透析(HD)開始時の動
悸.【既往歴】15歳:全身性エリテマ トーデス
(SLE),21歳:ループス腎炎.28歳:慢性腎不全
でHD導入.プレドニン5mg併用.44歳:発作性心
房細動(Paf)で右上肢脱力感と構語障害の一過性
脳虚血発作(TIA)のためワーファリンでの心拍
数コントロール施行.
【現病歴】透析開始時に2:1
の発作性心房粗動(PAFL)を合併.心エコー図で
僧帽弁閉鎖不全(MR)II度,中等度の三尖弁閉鎖
不全(TR)と肺高血圧(PAH)
:58.2mmHgに進展
し,PAFLに対し高周波カテーテルアブレーショ
ンを施行.上室期外収縮,洞調律で退院.
【まとめ】
ループス腎炎に透析中PafとPAFLを合併.ステロ
イド併用しPAH及びTIAを既往し,PAFLによる頻
脈性心不全のリスクを軽減する目的で三尖弁-下大
静脈峡部線状焼灼術を施行しえた症例である.
76) 巨大Eustachian Ridgeを有する峡部の焼灼
難渋例に対しカテーテル反転手技が有効であった
心房粗動の一例
(武蔵野赤十字病院循環器科) 嘉納寛人・
山内康照・関口幸夫・鈴木 篤・樋口晃司・
高村千智・大山明子・久佐茂樹・宮本貴庸・
尾林 徹・丹羽明博
(結核予防会複十字病院循環器科) 鈴木文男
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
症例は70歳男性.平成18年1月より動悸発作が出現し,
心電図で通常型心房粗動と診断され,精査加療のため
当院入院となった.心房粗動に対してカテーテルアブ
レーションを施行.三尖弁輪下大静脈間峡部の線状焼
灼により心房粗動は停止した.その後,冠静脈洞ペー
シングを行うと峡部の伝導ブロックは不完全であった
ため追加焼灼を施行した.峡部の下大静脈側を焼灼す
ると完全伝導ブロックを作成できたが,通電を終了す
るとすぐに伝導再発が認められた.右房造影では大き
なEustachian ridge(ER)が認められた.そこでアブ
レーションカテーテルを反転させてこのERの三尖弁
輪側に圧着し焼灼行ったところ,完全伝導ブロックの
作成に成功した.ERが大きい症例に対してはカテー
テルの反転手技が有効であることが示唆された.
74) 濃厚な突然死の家族歴を有する閉塞性肥大
型心筋症に対し予防的ICD植込みを行い救命でき
た1例
(東京都立広尾病院循環器科) 小宮山浩大・
岡崎英隆・弓場隆生・辰本 明・小泉章子・
谷井博亘・田辺康宏・山口博明・呉 正次・
手島 保・櫻田春水
(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
平岡昌和
77) 大動脈弁閉鎖不全症を伴った重症心筋症に
対して,心臓再同期療法を併用した積極的手術治
療が奏効した一症例
(さいたま赤十字病院循環器科) 大和恒博・
新田順一・田島弘隆・後藤文洋・大関敦子・
村松賢一・佐藤 明・松村 穣・武居一康・
淺川喜裕
(同心臓血管外科) 由利康一・田村文彦
(帝京大学心臓血管外科) 禰屋和雄・
上田惠介
69歳,男性【家族歴】父62歳,兄28歳,弟52歳で
心臓突然死【経過】pafを伴う閉塞性肥大型心筋
症の患者.VT/Vfは認められなかったが突然死の
家族歴を有することからEPSを施行しVfの誘発を
認めた.Amiodarone導入するも再びVfが誘発さ
れたため平成10年予防的ICDを移植.その後paf
に対して平成15年4月と同年8月に肺動脈隔離術施
行.以後pafは消失していたが,平成17年がpaf再
発.平成18年1月心房細動を伴う心不全にて入院.
Amiodaroneを中止しpilsicindeを導入したところ
平成18年2月VT stormが出現しICD頻回作動とな
った.濃厚な突然死の家族歴を有するHCMの症
例にICD予防的植込みが有効であった1例を経験
したので報告する.
症例は73歳男性.64歳時に左脚ブロックを伴う左心機
能低下と肺気腫を指摘.69歳頃から大動脈弁閉鎖不全
症も指摘されるようになり,心不全による入院を繰り
返すようになった.心臓カテーテル検査上,EF=26%,
LVESVI=106.8ml/m2,AR III度と判明.心電図では
QRS幅0.197秒の左脚ブロックが認められ,カラー組
織ドプラー法では心基部後壁は心基部中隔よりも収縮
期波ピークのタイミングが124msec.遅れることが確
認された.平成17年9月,保存的治療では心不全コン
トロールが困難と考え,大動脈弁位人工弁置換術・僧
帽弁形成術に加えて,術中に左室高位後壁・下壁・右
房に心筋電極を縫着し,心臓再同期療法を行った.術
後6か月の評価では,自覚症状はNYHA III度→I度に
改善.CTRは62%→54%へ,BNPは700pg/ml→
136pg/mlに,それぞれ改善した.
75) 心房中隔欠損症術後に出現した3種類の心
房粗動と峡部起源心房頻拍のカテーテルアブレー
ションに成功した1例
(防衛医科大学校第一内科) 雨宮 妃・
原 幹・濱部 晃・楠原正俊・大鈴文孝
(防衛医科大学校防衛医学研究センター)
高瀬凡平
(結核予防会複十字病院循環器科)
鈴木文男
78) 蘇生後の小児閉塞性肥大型心筋症に対し
ICD埋込み術を施行した一例
(東邦大学大橋病院メディアセンター循環器内科)
若田能里・根本尚彦・諸井雅男・中村正人・
鈴木真事・杉 薫
症例は71歳男性.心房中隔欠損症術後の心房粗動
(AFL)のため心臓電気生理検査を行い3種類の
AFLを認めた.AFL1は通常型で高周波通電(RF)
により峡部伝導block lineを作成した.AFL2は右
房自由壁の2つのdouble potential (DP) line(前方
lineは心房切開線,後方はcrista terminalisと推定)
の周囲を各々旋回するmacro reentryでDP line間
を結ぶRFにより停止した.次にRFでつながった
DP line全体を旋回するAFL3が誘発されDP lineか
ら下大静脈までのRFにより停止した.Follow up
時には峡部block line中隔側にDPを認め期外刺激
によりDP間隔が延長し同部位を最早期興奮部位
とする心房頻拍(AT)が誘発された.ATは局所
のRFにより消失した.以上,3種類の術後AFLと
峡部起源ATのカテーテルアブレーションに成功
した1例を経験したので報告する.
症例は14歳男児.健康診断で心電図異常指摘され,
他院で閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と診断さ
れ以後外来通院していた.平成18年2月マラソン
中に意識障害となり教員のCPRと救急隊のAED
により洞調律となった.入院時左室流出路圧較差
100mmHg,心室中隔の壁厚41mmで典型的な
HOCMの所見を呈しており家族歴(姉15歳突然
死),若年発症などの突然死のrisk factorがある
ため,ICD-DDDを植え込んだ.HOCMの治療は
心肺蘇生歴のある場合,成人ならばICDの適応で
ある.しかし,小児のICD埋込みに関してはevidenceが少なくまた,成人に比べて合併症が多い
などという問題点がある.今後,HOCMの管理
や精神的ケアやobstructionそのものに対する治
療など多くの問題点を含む症例を経験したので報
告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
79) 持続性心室頻拍を伴う心筋炎を合併した多
発性筋炎の一例
(日本医科大学内科学第一) 吉田明日香・
宮内靖史・小原俊彦・清野精彦・小林義典・
高野照夫
(日本医科大学武蔵小杉病院内科)
竹永清人
(日本医科大学内科学第二) 永山 寛・
山崎峰雄
(同病理部) 田村浩一・杉崎祐一
症例は46歳,女性.平成14年より高CPK血症を指摘.
平成17年10月5日に心拍数230bpmの持続性心室頻拍に
よる失神のため前医へ搬送.頻拍停止後精査目的で当
院に転院.入院時,CPK1764,CKMB36,トロポニン
T0.13.近位筋の筋力低下を認め,筋電図,筋MRI,
筋生検より多発性筋炎と診断.左室びまん性壁運動低
下(EF24%)を認めたが冠動脈に有意狭窄を認めず,
心筋生検で炎症細胞浸潤を認めたことより,多発性筋
炎に合併した心筋炎と診断.まずICDを植え込み,ス
テロイドとシクロスポリンの併用を開始.心筋逸脱酵
素は正常範囲に低下し,開始前に頻発していた非持続
性心室頻拍も減少した.しかし,平成18年2月24日電
気収縮解離となり死亡した.重度の心筋炎・心筋障害
を合併した多発性筋炎を経験したので報告する.
80) Electrical storm から救命しえた先天性QT
延長症候群の一例
(横須賀共済病院循環器センター内科)
大東寛和・横山泰廣・鈴木秀俊・伊藤祐輔・
宮崎晋介・小堀敦志・松戸裕治・野里寿史・
桑原大志・疋田浩之・佐藤 明・高橋 淳
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
症例は23歳女性.1年前に先天性QT延長症候群
(LQTS)と診断.平成17年11月23日睡眠中に突然
胸部不快が生じ,君津中央病院を受診.心電図に
てVTの頻発を認め,緊急入院となった.リドカイ
ン,アテノロールなど投与もVT,VFを繰り返し,
頻回のDCショックが必要であったため,当院へ
緊急転院となった.徐脈が増悪因子の一つと考え
られ,イソプロテレノールを投与したところVTは
減少した.臨床状況などよりLQT3と推定し,メ
キシレチンを投与したところQTcの短縮を認め,
VTは消失した.メキシチール内服に加え,ICD
植え込み術を施行し退院となった.現在家族も含
め原因遺伝子検索中である.今回我々は臨床状況
より遺伝子型を推定し,electrical stormから救命
し得たLQTSの一例を経験したので報告する.
81) 心不全を繰り返す陳旧性心筋梗塞症に対し
CRTを施行し,Real time 3Dエコーにて壁運動の
改善を評価した一例
(聖路加国際病院ハートセンター内科)
西原崇創・増田慶太・斧田尚樹・渡辺圭介・
安斎 均・西裕太郎・高尾信廣・林田憲明
(聖路加国際病院生理機能検査室)
服部加奈子
心不全を繰り返す陳旧性心筋梗塞症に対し,CRT
(心臓再同期療法)を施行し,Real time 3Dエコー
にて壁運動を評価した一例を経験したため報告す
る.【症例】69歳男性.【病歴】98年 急性前壁心
筋梗塞症,同年多枝病変にてCABG施行 その後
も心不全歴あり.05年12月呼吸困難を主訴に来院.
胸部X線上,心拡大,肺うっ血を認め急性心不全
にて入院.心電図は徐脈性心房細動,左脚ブロッ
ク,心エコーにて前壁の壁運動低下と左室径の拡
大,中等度のMRを認め,3Dエコーでは壁運動の
dyssynchronyを認めた.以上からdyssynchrony
の改善を目的としてCRTを施行し,改善を見た.
3Dエコーのdyssynchronyの指標であるSDIにつ
いて本症例をもとに若干の考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
82) 心房中隔欠損症(ASD)手術後に心室性
頻拍(VT)を認めた一症例
(杏林大学第二内科) 水野宜英・坂田好美・
山根 忍・古谷充史・佐藤一樹・南島俊徳・
宮山和彦・谷合誠一・池田隆徳・吉野秀朗
平成9年に心房中隔欠損症にてパッチ閉鎖術を施
行した22歳男性.以後,小児科外来にて経過観察
されていた.平成11年1月,平成13年2月に心室性
頻拍(VT)を認め救急外来を受診し電気的除細
動を施行し洞調律に改善していた.今回は平成17
年11月8日夕方17時頃から動悸の出現,消失を繰
り返していた.11月9日0時頃から左肩痛,1時頃
から嘔吐,吐き気を認めたため当院救急を受診し
た.心電図上VTを認めたためDC100Jにて洞調律
に改善したが精査加療目的に入院となった.心エ
コーとMRIにて右室の拡大と肉柱形成が著明であ
った.心筋生検を右室中隔部より施行した結果,
脂肪浸潤の出現等から不整脈源性右室心筋症
(ARVC)と診断された.その後,アミオダロン,
β遮断薬の使用およびアブレーションを施行し
VTの出現はなく外来にて経過観察をしている.
83) 頻拍誘発性心筋症にカテーテルアブレーシ
ョンが有効であった一症例
(信州大学循環器内科) 吉岡 徹・
富田 威・堀田正二・相沢万象・笠井宏樹・
熊崎節央・筒井 洋・小山 潤・渡辺 徳・
矢崎善一・木下 修・池田宇一
(同救急集中治療医学) 永澤孝之・今村 浩
(同保健学科) 本郷 実
59歳男性.2005年3月中頃より労作時呼吸困難を
自覚.次第に増悪するため4月27日前医を受診.
心不全徴候あり入院となった.心電図では150bpm
の心房頻拍を認めたため,レートコントロールを
試みるも不十分であったため,5月12日当院紹介
入院.転院時のBNPは196pg/ml,心エコーではび
まん性の左室収縮能低下(EF17%)を認めた.冠
動脈造影,心筋生検では異常なく,頻拍誘発性心
筋症と診断した.抗不整脈薬を順次使用したが効
果なく,6月17日カテーテルアブレーションを施
行.心房中隔右房側起源の異所性調律を認め,同
部位に通電を行なった.以後,心房頻拍の再発は
なく,2ヶ月後のBNPは16pg/mlと速やかに正常化
し,8ヶ月後の心エコーではEF62%に改善した.
84) 両心室ペーシングが有効であった心室頻拍
を合併したischemic DCMの一例
(昭和大学藤が丘病院循環器内科)
秋田 亮・下島 桐・太田 圭・若月大輔・
東 祐圭・堤 健・嶽山陽一
症例は69歳男性.42歳時前壁中隔心筋梗塞,56歳
時下壁心筋梗塞,56歳時心臓バイパス術の既往.
69歳時Holter心電図で非持続性心室頻拍(VT)
を認め少量β遮断薬を開始したところ心不全が増
悪し入院した.心電図で1度房室ブロック,QRS
幅0.16sの完全左脚ブロックを認めた.UCG上全
周性に壁運動低下しEF20%でありischemic DCM
の状態であると判断した.EPSでVTを誘発した
ところHR160−220の持続性VTが数個誘発され
た.また両心室(BIV)ペーシングの急性効果を
確認したところ自波で535mmHg/sであったdp/dt
がRVペースで503mmHg/s,LV単独ペースで
725mmHg/s,BIVペースでは750mmHg/sと上昇
し左室単独ペース,BIVペースが血行動態改善に
有効であった.VT合併のischemic DCM症例であ
り両心室ペーシングおよびICDが有効であると判
断した.
85) WPW症候群を合併したHOCM患者にカテ
ーテルアブレーションをDDDペースメーカー植
込み術を施行した一例
(埼玉医科大学循環器内科) 堀田ゆりか・
松本万夫・加藤律史・須賀 幾・飛梅 威・
西村重敬
70歳男性.平成12年に心雑音を指摘され近医受診.
HOCM,WPW症候群と診断されβ遮断薬の内服
を開始されたが,平成17年7月頃より労作時呼吸
困難が出現し当院紹介受診.心エコー上圧較差
90mmHgであり,流出路狭窄の軽減が必要と考え
られたがHR40回/分であり,β遮断薬の増量は困
難であった.Kent束は左室中中隔と診断し,ま
ず同部位に対してアブレーションを施行.しかし
圧較差の軽減は軽度でありDDDペーシングテス
トを施行し,圧較差90mmHgから19mmHgへ減少.
有用性が示唆されDDDペースメーカー植込み術
施行.その後圧較差6mmHgまで減少し呼吸困難
も消失した.カテーテルアブレーションとDDD
ペースメーカー植込み術がWPW症候群を合併し
たHOCM患者に有効であった一例を経験した.
86) 成人MCLSに対するMRIによる画像評価
(昭和大学横浜市北部病院循環器センター)
岡田良晴・中島邦喜・加藤源太郎・大山伸雄・
伊藤篤志・丸田一人・上村 茂・落合正彦
(昭和大学第一外科) 手取屋岳夫
症例は39才,男性.不安定狭心症にて発症し緊急
入院.緊急をCAGを行ったところ#2:99%(冠
動脈瘤+),#4PD:%,#6:冠動脈瘤,#7:
100%,#11:90%であった.形態上はRCAと
LADに冠動脈瘤を認め,瘤末梢に高度狭窄を伴
っていた.以上よりMCLSを疑いPCIは行わなか
った.病歴にて幼児期に不明熱の既往があった.
冠動脈瘤の評価としてMRIを行った.RCAの瘤
は血栓にて高度狭窄,LADの瘤は血栓は認めな
かった.治療はCABG4枝(LITA-LAD,RITAD1,Ao-RA-OM,RGEA-RCA)を施行.瘤は硬
化著明であり放置した.成人期に発見された
MCLSに対しMRI検査が診断に有用であった.
87) 左冠動脈主幹部natural dissectionによる急
性冠症候群を保存的に経過観察し自然寛解を確認
しえた一例
(東海大学八王子病院循環器内科)
幡 芳樹・藤倉寿則・河野康之・松崎 淳・
源河朝広・及川恵子
症例は43歳女性.2005年12月16日約30分持続する
左前胸部痛あり近医受診.ECGにて前胸部誘導で
ST上昇あり,急性冠症候群の診断にて当院紹介,
緊急CAGとなる.CAG上,左冠動脈前下行枝近位
部に90%狭窄を認めた.血栓吸引後のIVUS像で
は,狭窄部位も含めほとんどプラーク像を認めず,
左冠動脈主幹部から前下行枝にかけてnatural
dissectionを認めた.自然治癒を期待し,保存的
に経過観察,12月24日にCAG施行.主幹部から
左前下行枝への血管解離は残存しており前下行枝
入口部に新たに75%狭窄を認めた.1月31日再度
確認造影を行ったが,左冠動脈主幹部から前下行
枝にかけての狭窄,dissectionは消失していた.
左冠動脈主幹部natural dissectionを保存的に経過
観察し自然寛解を確認しえた一例を, IVUS ,
Volcanoの経過も踏まえて報告する.
コクヨホール(2006 年 6 月)
1197
88) 64列Multislice CTが診断・治療に有用であ
った糖尿病に伴う無症候性心筋虚血の一例
(大崎病院東京ハートセンター循環器内科)
石下晃子・長嶋浩貴・柿澤祥子・岡田綾子・
大道近也・上野秀樹・田中 健・石井康宏・
上松瀬勝男
(同心臓血管外科) 遠藤真弘
91) 埋め込み型左室補助人工心臓(LVAS)装
着下に口腔内全抜歯を施行した重症虚血性心不全
患者の一例
(東京医科歯科大学循環器内科) 櫻井 馨・
大坂友美子・飯田啓太・松原清二・
大西健太郎・佐々木毅・勝野哲也・小菅寿徳・
稲垣 裕・川端美穂子・蜂谷 仁・鈴木淳一・
畑 明宏・平尾見三・磯部光章
症例は46才男性.糖尿病で治療中.典型的な胸部
症状なし.64列Multislice CT冠動脈造影で右冠動
脈近位部に狭窄を認めた.Plaqueは一部低CT値
を示し,Positive Remodelingを認め,Vulnerable
Plaqueである可能性が高いと考えた.カテーテル
冠動脈造影では右冠動脈狭窄は75%弱であった
が,血管内エコーで多量の偏心性Plaqueを認めた.
RI検査で右冠動脈領域の虚血が認められた.冠
動脈形成術の適応と判断し同部位に対して薬剤溶
出性Stentを留置しPlaqueは良好にカバーされ治
療を終了した.Multislice CTによる冠動脈評価
は,放射線被爆と造影剤の問題はあるものの,糖
尿病に伴う無症候性冠動脈病変を検出するばかり
でなくPlaqueの質的診断をも可能にすることによ
って診断および治療方針を決定するうえで臨床上
有用であると考えられた.
末期的な重症心不全患者の救命・治療においての
LVASの役割は,心臓移植のドナー不足もありそ
の役割は非常に大きくなってきている.今回我々
はLVAS装着中の患者において,凝固療法継続下
に口腔内全抜歯を行った症例を経験したので報告
する.症例は虚血性心筋症に対してLVAS装着を
行った37歳男性.術後LVASのみで循環動態は安
定化したが,心機能の改善は認めず心移植の登録
を行った.口腔内の残歯は24本あり,全て抜歯を
要するう歯のため4回に分けて抜歯が行われた.
止血のためには圧迫,安静が重要であり,出血が
持続する場合は数日禁食とすることによりワーフ
ァリン内服継続下(PT-INR3.1)に抜歯が可能で
あった.当初はワーファリンを漸減し低分子ヘパ
リンの併用を行っていたが,途中からはワーファ
リンの内服は継続したままで抜歯を行った.
89) 右冠動脈に特異な狭窄形態を認めたPCIの
1例
(筑波大学臨床医学系内科) 木村泰三・
武安法之・渡辺重行・大塚定徳・星 智也・
相原英明・美崎昌子・青沼和隆・山口 巖
【症例】73F.【現病歴】1992年9月infAMI.血小
板数90万/μl以上のため緊急CAG施行せず.本態
性血小板血症と診断し,内服加療開始.同年11月
28日CAG Seg.2に血栓を伴う99%狭窄.2004年8
月RCA領域に虚血所見を認め,11月27日CAG
Seg.2に特異な形態の75%狭窄.【MSCT】右冠動
脈近位部に50-75%狭窄.【心筋灌流MRI】下後壁
に梗塞と虚血所見.【PCI,IVUS】IVUSではれん
こん状と表現し得る4-5条におよぶ多孔性の内腔
が観察され,近位部および遠位部ではお互いの腔
が融合していた.PCIは6FMach1 FR4,Forte
Floppy Markerを使用.1条の内腔を進めたが末
梢は閉塞しており,途中から屈曲走行させること
で狭窄部をcrossし得た.QM4.5×15を用いて前
拡張後Driver 4.0×24を留置し,良好な拡張を得
た.【結語】血栓変性が関与した特異な狭窄形態
を呈した症例として報告する.
90) 空腹および糖負荷FDG-PETが有用であっ
た肺癌を合併した急性心筋梗塞の一例
(旭中央病院循環器センター内科)
小寺 聡・佐藤寿俊・櫛田俊一・橋本 亨・
神田順二・鈴木 勝
(旭中央病院PET画像診断センター)
吉田勝哉
(同放射線科) 梅原 功
症例は73歳の男性.急性心筋梗塞で入院した際,
偶然右肺門部に腫瘤影を指摘された.回旋枝S13
の完全閉塞にPCIを行った後,肺腫瘤の質的診断
目的で空腹状態の全身PET/CT検査を行った.左
肺門部にFDGの集積増強を認め肺癌と診断した.
心筋は後下壁に集積を認めた.さらに退院時,心
筋Viability評価の目的でブドウ糖負荷心筋
PET/CT検査を行った.健常心筋がFDGを取り込
み,後下壁の病変部は取り込み低下領域として認
められた.空腹時と糖負荷時のFDG-PETは鏡面
像の関係となっていた.
1198
第 200 回関東甲信越地方会
92) 小口径人工血管の実用化への基礎研究
(東京大学マテリアル工学専攻) 三浦龍志・
牧田鹿文彦・エサンホ・深沢今日子・
金野智浩・高井まどか・石原一彦
現在本邦でも虚血性心疾患推定罹患数が100万人
を超え,CABG数は年間2万件を突破している.
心臓だけに限らず血行再建を要する手術は増加し
ているが,自己移植して使用できる生体血管には
限りがある.代用となる小口径人工血管が望まれ
るが,長期臨床使用できる小口径人工血管は未だ
存在せず,実用化への研究開発は急務である.長
期開存性の低さは小口径人工血管実用化への大き
な問題であり,人工血管内腔面の抗血栓性向上や
人工血管/生体血管コンプライアンスミスマッチ
改善などが必要と考えられている.我々は,内腔
面を抗血栓性のある生体適合性ポリマーでコーテ
ィングし,また力学的特性を生体動脈に類似させ
コンプライアンスミスマッチを減少し,小口径人
工血管の開存性を向上させ得る研究について報告
する.
94) 慢性心房細動に対するワーファリン投与と
TS-1(抗腫瘍薬)の併用にて前縦隔血腫を生じ
た1症例
(獨協医科大学循環器内科) 矢野秀樹・
堀中繁夫・石村公彦・植竹修一郎・錦見俊雄・
松岡博昭
症例は74歳,男性.器質的心疾患のない慢性心房
細動に対してワーファリン投与中に胃癌が発見さ
れワーファリン中止後,平成17年12月15日に胃切
除施行し,ワーファリン再投与とした.平成18年
1月9日より後療法としてTS-1を投与開始.2月中
旬より胸部不快感出現し,胸部X-Pにて心陰影の
拡大とPT-INRの著明な延長(11.4)を認め,胸
部CTにて右前縦隔に径60mmの血腫が認められ
た.TS-1は5FUのプロドラッグであるが,肝代謝
酵素であるCYP2C9活性を抑制することが報告さ
れており,同酵素で代謝されるワーファリン代謝
が阻害され血中濃度が増加し,縦隔血腫が生じた
ものと考えられた.ワーファリン投与中に抗腫瘍
薬併用する場合には十分な注意が必要と考えられ
た.
95) 原因不明失神の患者における加齢にともな
うHead-up tilt tests(HUT)陽性率の減少
(駿河台日本大学病院循環器科) 鈴木一隆・
斎藤文雄・今井 忍・小森谷将一・八木秀樹・
坂井義貴・池田 敦・鈴木輝彦・山路聡志・
外川 潔・青山 浩・高世秀仁・松平かがり・
高橋直之・久代登志男
(日本大学練馬光が丘病院内科) 永島正明
HUTに対する反応の加齢に伴う変化を原因不明の
失神例196名を対象に検討した.30分間安静仰臥
位後,80度頭位挙上を30分行なった.陰性例には
イソプロテレノール(ISP)を持続点滴し再度頭
位挙上を15分行なった.失神を認め収縮期血圧70
mmHg未満となった場合をHUT陽性とし神経調節
性失神(NMS)と診断した.年齢によって4グル
ープに振り分けた(A群 30歳未満,B群 30∼49歳,
C群 50∼69歳,D群 70歳以上).HUT陽性率は加
齢とともに有意に減少した[A群63%,B群50%,
C群40%,D群31%]
.NMSの誘発にISPを必要とし
た率は加齢とともに有意に増加した[A群13%,B
群17%,C群40%,D群45%].原因不明の失神患
者に対するHUTでは,加齢とともにNMS誘発率
は減少し,ISP負荷を必要とする例が多くなった.
93) X線CTによるペースメーカー偽抑制
(新宿石川病院内科) 横山正義・柳田尚子
近年,X線CTによるペースメーカー偽抑制が報
告されている.われわれもCTによる偽抑制の実
験的研究を行った.ペースメーカー感度を変更し
ながら新しいペースメーカーのCT撮影を行っ
た.感度0.25mV,0.50mVで偽抑制を認めた.感
度1.0mVでは偽抑制を認めなかった.感度
0.75mVが分岐点であった.ペースメーカーの直
上にマグネットを置き,デマンドペースメーカー
を固定型に変更すると偽抑制は生じなかった.偽
抑制が生じるのは回路部で,電池部の撮影では,
偽抑制を認めなかった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
第 127 回 日 本 循 環 器 学 会 東 海 地 方 会
2006 年 6 月 17 日 名古屋国際会議場
会長:安 藤 太 三(藤田保健衛生大学心臓血管外科)
1) 64列MDCTによる心電図同期画像にて僧帽弁
後尖に付着する疣腫を確認し得た感染性心内膜炎
の一例
(国際医療福祉大学附属熱海病院内科)
小林 泉・重政朝彦・生駒英子・岡田興造・
糟谷 深
3) 僧帽弁口血流速波形が正常パターンを示した
大動脈弁置換術後高齢者の一例
(藤田保健衛生大学第二病院坂文種報徳会病院循環器内科)
向出大介・田畑智継・横井博厚・藤原稚也・
田村研治・渡邉淳志・木下幸輔・杉下義倫・
野村雅則
症例は70歳代男性 他院で痔核手術施行後約2カ
月間発熱持続.精査加療目的に入院.体温38.5度.
心尖部にLevine3/6収縮期逆流性雑音.白血球数
9200/μl(好中球92%),CRP9.5mg/dl.血液培
養から腸球菌検出された.心エコーで僧帽弁に約
14mmの疣腫,僧帽弁逆流が認められ,感染性心
内膜炎と診断された.CT・MRIでは脾膿瘍,無
症候性脳梗塞を認め,手術治療の適応と考えられ
た.64列MDCTを用いた心電図同期造影CT検査
施行.冠状動脈に有意狭窄は認められなかった.
RR10分割下の一部の時相で明瞭に後尖に疣腫が
描出された.心電図同期64列MDCT画像で,僧
帽弁に付着する疣腫の描出が可能であった.治療
にあたり重要な情報が得られる有用な検査法とな
る可能性が示唆された.
症例は79歳男性.既往歴に特記すべきこと無し.
大動脈弁閉鎖不全症にて,平成16年に大動脈弁置
換術を施行した.術後の経過は良好で,約一年後
に経過観察のための心エコー検査を施行したとこ
ろ,僧帽弁口血流速波形の拡張早期(E)波高
91.9cm/sec,心房収縮期(A)波高74.0cm/secと
E>Aパターンを示し,偽正常化が疑われた.し
かしながら,開心術の影響と考えられる心室中隔
のflat motionを認める以外,左室径は正常で,
EF60%と左室収縮力も良好であった.さらに,E
波の減速度が194msec,E波と拡張早期僧帽弁輪
運動速度(E')の比E/E'は5.5,TEI-indexは0.28
といずれも正常値を示した.以上のことから,本
例は高齢で開心術後であるものの,左室拡張末期
圧や左房圧の上昇は考えがたく,僧帽弁口血流速
波形のパターンは正常パターンと考えられた.
2) リウマチ性連合弁膜症に対し,リアルタイム
3D心エコーと心電図同期3D-CTで弁石灰化を評
価した1例
(名古屋大学循環器内科) 平敷安希博・
井澤英夫・山田高資・村瀬洋介・小林正和・
大島 覚・浅野展行・西澤孝夫・磯部 智・
小川恭弘・近藤隆久・飯野重夫・因田恭也・
奥村健二・室原豊明
4) 起炎菌不明で,ペニシリンアレルギーを示し,
大動脈人工弁置換により改善した感染性心内膜炎
の1例
(名古屋掖済会病院循環器科) 奥村尚樹・
野田友則・清水真也・奥村貴裕・舟橋栄人・
石原大三・淡路喜史・祖父江俊和・加藤林也
【症例】74歳 女性【現病歴】僧帽弁大動脈弁の
連合弁膜症で以前より当院外来通院していた.平
成17年夏頃より,労作時呼吸困難が増悪し,
NYHA III度となり,手術を勧められていた.平
成18年1/17呼吸困難症状が強くなり,当院救急外
来受診し,心不全と診断し入院加療とした.【経
過】連合弁膜症に対し手術適応と考え術前評価を
行った.両弁の高度石灰化を認めたため,詳細な
評価が必要と考え,リアルタイム3D-エコーと心
電図同期3D-CTで評価を行った.本症例は,それ
らより,大動脈の動脈硬化による高度石灰化,僧
帽弁および大動脈弁周囲に限局した石灰化である
と診断した.【結語】エコーとCTによる3次元的
な解剖学的評価は,術前評価としてより有用な情
報が提供できると考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は55歳男性.呼吸苦にて来院.心エコーにて
severe AR,無冠尖にvegetationを認めた.心不全
症状あり,心不全治療とともに血液培養施行後,
抗生剤PCG+ISPによるempyric therapyを開始し
た.抗生剤開始後10日目に全身に皮疹出現し,ペ
ニシリンアレルギーが疑われたため抗生剤を
TEIC+GMに変更.その後発熱はしばらく持続し
たが徐々に感染症状落ち着き,皮疹も落ち着いた
ため入院3週間目にAVR施行.この間,2箇所から
3回血液培養を行ったが全て陰性であった.術中
に採取されたvegetationの病理標本でも病原体は
不明であった.弁は全体にfibromyxomatous degeneration,hyalinosisが目立っていた.術後は順調に
経過し,退院となった.起炎菌不明でペニシリン
アレルギーを示し,待機的大動脈人工弁置換によ
り改善した感染性心内膜炎の一例を報告する.
5) PRSPによる三尖弁位の感染性心内膜炎の一例
(名古屋市立大学病院循環器内科)
恒川岳大・坂田成一郎・若見和明・浅田 馨・
宮部浩道・向井誠時・佐伯知昭・小林建二・
大手信之・木村玄次郎
45歳男性.原因不明の40度の発熱,指関節痛のた
め,当院紹介受診.収縮期雑音を聴取され,心エ
コーでは三尖弁前尖に疣贅を認められた.ペニシ
リン,カルベニン耐性肺炎球菌が血液培養から検
出された.バンコマイシン治療に抵抗性であり三
尖弁置換術が施行された.手術所見では心内シャ
ントは認めなかったが,三尖弁中隔尖の付着位置
異常を認め,Ebstain奇形の存在が疑われた.術
後感受性のあるバンコマイシンをはじめとする薬
剤に副作用を呈し治療に難渋した.三尖弁位のペ
ニシリン耐性肺炎球菌による感染性心内膜炎の報
告例は少なく,貴重な症例を経験したので報告す
る.
6) PCPSサポート下緊急手術にて救命し得たIE,
VSD,ARの一例
(市立四日市病院心臓血管外科) 伊藤 豊・
為西顕則・岡本 浩
症例は26歳男性.平成18年1月25日,発熱あり.
28日,右片麻痺を発症.近医受診し,IE,AR,
脳梗塞の診断.抗生剤治療後,手術目的にて2月7
日,当院転院.22日,手術予定としていた.術前
の心エコーにてVSDも指摘される.18日,心原
性ショックによると思われる突然の心停止を来た
し,PCPS挿入.翌19日,緊急手術(AVR,VSD
閉鎖術)施行.術中にPCPS離脱し,以後,経過
良好.3月16日,リハビリ目的にて転院となった.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1199
7) 大動脈弁逆流を伴った未破裂無冠バルサルバ
洞動脈瘤に対し大動脈弁形成と瘤パッチ閉鎖を行
った1例
(名古屋第一赤十字病院心臓血管外科)
伊藤敏明・中山雅人・萩原啓明・阿部智伸・
中山智尋・吉住 朋
【目的】大動脈弁逆流を伴う無冠バルサルバ洞動
脈瘤手術例の報告.【症例】53才女性.平成18年
1月高血圧と左胸部痛の精査の結果,左心房を圧
排する無冠洞動脈瘤,中等度大動脈弁逆流と診断
され手術へ紹介.【手術】無冠尖と右冠尖のフリ
ーエッジ長が等しかった.一方無冠尖弁輪は著明
に拡大していた.右冠洞のサイズを目安に作成し
た人工血管パッチを大動脈内側より弁輪を利用し
て縫着し無冠尖の弁輪縫縮と交連間距離の短縮を
はかり,同時に瘤のexclusionを行った.【結果】
大動脈弁逆流はわずかに残ったが,瘤は消失し三
冠尖の形態上のバランスも良好となった.
8) 大動脈弁輪拡大による高齢者AVRの検討
(名古屋第二赤十字病院心臓血管外科)
岡田典隆・田嶋一喜・寺澤幸枝・田中啓介・
臼井真人・酒井喜正・井尾昭典
狭小大動脈弁輪に対するAVRにおいて,ステン
トレス生体弁を用いる方法もあるが高齢になるほ
ど手術を簡略化し手術侵襲を可及的に抑制するこ
とも必要である.我々は基本的にNicks法で弁輪
拡大を行ってステント付き生体弁によるAVRを
行うようにしている.【対象】2000年1月以降,当
科で施行した70歳以上の生体弁AVR80例のうち
弁輪拡大を行った10例.年齢70歳∼85歳.【結果】
全例出血合併症など無く経過順調であったが,人
工透析の1例が術後10日目にHDの心室細動で死亡
した.術後EOA indexは0.90∼1.07.85歳の症例
が術後約2年で非心臓死したが,他の8例は平均
3.0年を経過して心イベントなく良好である.【総
括】全例が術前に何らかの合併疾患を有していた
ことを考慮すれば結果は十分満足できるものであ
った.
9) 大動脈弁閉鎖不全による心不全で判明した大
動脈炎症候群の1例
(豊橋市民病院心臓外科) 小林頼子
(名古屋大学胸部機能外科学) 大島英揮・
碓氷章彦・秋田利明・上田裕一
症例は64歳女性.軽度の大動脈弁閉鎖不全を指摘
されていたところ,突然心不全をきたし入院.心
拡大や左心機能の低下を認めなかったが手術適応
と判断し大動脈弁人工弁置換術を施行した.上行
大動脈は軽度拡大しており,白色を呈していた.
組織学的診断にて大動脈炎症候群と判明した.
1200
第 127 回東海地方会
10) 超高齢者(91歳)に対して僧帽弁形成術を
行った一例
(聖隷浜松病院心臓血管外科) 成瀬代士久・
小出昌秋・山崎 暁・渡邊一正・松尾辰朗・
杉浦唯久
(聖隷三方原病院循環器科) 宮田晴夫・
杉浦 徹・齋藤希人・内山理恵・山下省吾・
徳田道史
症例は91歳女性,ADLは全自立.平成17年7月よ
り浮腫,呼吸苦が出現した.7月21日心不全の診
断にて他院入院となった.心エコー上僧帽弁後尖
逸脱を認め,severe MR,EF72%であった.薬物
療法にて呼吸苦はNYHA4度が3度となったがADL
はほぼ寝たきりとなり薬物療法のみでは心不全の
コントロールは困難であった.12月24日手術目的
にて当院当科転院となり12月26日僧帽弁形成術施
行.P2を中心とした逸脱がみられ,前乳頭筋から
の腱索が1本断裂していた.後尖矩形切除+弁輪
形成を行った.術後創部治癒遅延はあったが,心
臓リハビリは順調に進みADLは全自立となり術後
97日目に自宅退院となった.90歳以上に僧帽弁形
成術を行った報告はほとんどなく,若干の文献的
考察を加え報告する.
11) 僧房弁形成術を施行した骨異形成症候群の
一例
(静岡市立静岡病院心臓血管外科)
野村亮太・島本光臣・山崎文郎・藤田章二・
中井真尚・升本英利・岩倉具宏・糸永竜也
【症例】52歳,女性.母親,長男に青色強膜あり.
本人は青色強膜,骨折歴があり骨異形成症候群と
診断されていた.以前より高血圧にて内服加療中
であった.2006年2月起座呼吸,夜間の咳を主訴
に近医受診し僧房弁閉鎖不全症を指摘された.精
査にて4度の僧房弁閉鎖不全症と診断され,当科
にて僧房弁形成術を施行した.その後大きな合併
症なく経過し第20病日に退院となった.術後の超
音波検査にて1度の僧房弁閉鎖不全症を認め,外
来にて経過観察中である.青色強膜を合併した僧
房弁閉鎖不全症に対する治療につき考察した.
12) 左室壁運動異常を伴った右室粘液腫の1例
(名古屋共立病院循環器内科) 青山 徹・
森下哲司
(名古屋大学循環器内科) 石井秀樹・
鳥越勝行
(名古屋共立病院病理部) 浅井昌美
(同循環器内科) 堀 浩
【症例】54歳男性【主訴】労作時呼吸困難【現病
歴】生来健康.H17年3月下旬頃から労作時呼吸
困難を認めるようになり,H17年4月2日に当院受
診.【経過】心不全と診断し心エコーを行ったと
ころ左室のびまん性壁運動低下(EF30%)と右室
内に可動性の腫瘤(径3∼4cm)を認めたため,緊
急的に腫瘍除去術を施行した.腫瘤は三尖弁の腱
索と一部右室の自由壁に付着しており病理診断の
結果粘液腫と診断した.術後は良好でβ-blocker
を含めた心不全治療を行ったところ9ヵ月後には
左室壁運動は正常化した.【考察】心臓粘液腫は
75%が左房に,18%が右房に,右室と左室にそれ
ぞれ4%の頻度で発生すると言われており,右室
原発は非常に稀である.【結語】左室壁運動異常
を伴った右室粘液腫の1例を経験した.
13) 急性心筋梗塞を契機に診断された右房血液
嚢腫の1例
(富士市立中央病院循環器科) 小菅玄晴・
森 力・荒瀬聡史・荒巻和彦・三川秀文
(同心臓外科) 儀武路雄・田中 圭
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 望月正武
【症例】64歳 男性.【現病歴および経過】平成17
年10月28日急性心筋梗塞にて来院,右冠動脈
#1 完全閉塞に対しdirect PCIを行った.来院時
の心エコーにて,右房内に18×13mm大の腫瘍陰
影を認めた.入院中右房腫瘍も精査を行い,IL-2
レセプター796,他腫瘍マーカーは陰性であった.
他臓器への塞栓症は見られなかった.11月9日残
存狭窄である左冠動脈回旋枝 #11 90%狭窄に対
しPCIを行い一旦退院となった.平成18年2月23
日右房腫瘍摘出術目的で再入院,3月2日右房腫瘍
摘出術を施行,腫瘍は右房中隔側に茎を有し,一
部三尖弁輪に覆いかぶさっていた.完全切除に成
功,手術標本より心臓腫瘍では比較的稀な心膜嚢
腫を認めた.心筋梗塞にて偶然発見された右房心
膜嚢腫の1例を経験したので文献的考察を加え報
告する.
14) 再発した脳動脈塞栓症により死亡したと思
われる巨大左房粘液腫の一例
(岐阜県立岐阜病院循環器科) 加藤 崇・
渡邉崇量・鈴木荘太郎・割田俊一郎・
小島 帯・廣瀬武司・岩間 眞・小野浩司・
高橋治樹・瀬川知則・松尾仁司・渡辺佐知郎
(岩砂病院内科) 藤澤 攻・長野俊彦
(岐阜心血管研究所) 皆川太郎
症例は41歳,女性.39歳に子宮筋腫手術の既往.
平成17年9月11日より,右半身の違和感と構音障
害に気付き9月24日当科受診.右上下肢バレー徴
候陽性であった.経胸壁心エコーにて左房内に直
径20mm大の可動性の高い腫瘤を確認,diffusion
MRIにて左被殻外側から放射冠にわたるhigh
intensity areaを認めたため,左房粘液腫の脳動
脈塞栓による脳梗塞が疑われ入院.経食道心エコ
ーでは左房内に,基部が僧帽弁後尖まで続く径
25mm×35mmの腫瘤を認めた.離断飛散する可
能性もあったため,心臓血管外科にて手術を予定.
待期中に突然,昏睡状態となったため,MRIを施
行したところ右半球全体及び左半球2/3の広範な
梗塞巣を認めた.急変後,17時間にて死亡した.
可動性の高い左房粘液腫による両側の脳動脈塞栓
により死亡したと思われる症例を経験した.
15) Aeromonas Sobriaが検出された特異な経
過をたどった収縮性心膜炎の一例
(岡崎市民病院循環器内科)
安田信之・田中寿和・日比野道敬・平井稔久・
三木 研・神谷裕美・丹羽 学・石川清猛・
岩瀬敬佑・田中哲人・藤田雅也
70歳,男性,生来健康で既往歴もなかったが入院
一ヶ月前より咳,浮腫出現し外来受診,胸水,腹
水,心嚢水貯留を認め精査目的にて入院となる.
血液培養,心嚢水よりAeromonas属Sobriaが検出
され,それによる敗血症と心膜炎を認めた.
Aeromonas属は自然界に広く存在し食中毒の起
炎菌として知られているが,外傷例を除けば健常
人における敗血症は稀であり,白血病,肝硬変患
者などのCompromised hostに発症することが多
いとされているが本症例では悪性腫瘍や肝硬変,
胆道系疾患,再生不良性貧血,重症糖尿病,腎不
全等基礎疾患は認められなかった.今回我々は特
発性心膜炎にAeromonas sobriaによる敗血症を併
発し収縮性心膜炎に至ったと考えられる稀な症例
を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) EUS-FNA施行後,細菌性心外膜炎に罹患
した1症例
(岐阜大学再生医科学循環病態学)
青山琢磨・高木 希・竹山俊昭・大野 康・
川崎雅規・土屋邦彦・荒井正純・竹村元三・
西垣和彦・湊口信也・藤原久義
【症例】62才,男性【主訴】前胸部痛【現病歴】
平成17年6月,近くの病院にてCEA高値を指摘さ
れ,当院消化器内科紹介となった.EUS-FNAを9
月5日に施行.9月12日前胸部痛を生じ,当院高次
救命センターへ救急搬送されたが,不穏であり,
心臓カテーテル検査は未施行.心電図上,ほぼ全
誘導でST上昇,CRP高値を認め,急性心外膜炎
疑いにて入院,抗生剤を投与開始した.9月20日,
血圧低下,頻脈を呈し心タンポターゼをきたした
ため,心嚢ドレナージ術施行.心嚢液の細菌培養
より.K.rhinoscleromatisが検出された.【結語】
心外膜炎の原因として特発性,ウイルス感染によ
るものが多いとされている.本症例において
EUS-FNA施行直後,細菌性心外膜炎に罹患して
おり,その因果関係は強いと考えられ,非常に稀
な症例と考えられたため報告した.
19) 感染性がもっとも疑われた胸腹部大動脈瘤
の一例
(名古屋大学胸部機能外科) 横手 淳・
碓氷章彦・大島英揮・秋田利明・上田裕一
感染性大動脈瘤は比較的早期に手術介入を要す
る.しかし体外循環や人工血管使用などのため,
その時期・方法は十分に検討する必要がある.今
回我々は胸腹部大動脈瘤に対し,感染兆候消失後,
人工血管置換術を行い良好な結果を得たので報告
する.症例は58才男性.平成17年末からの体重減
少・発熱・腹痛のため受診.CTで周囲に浮腫状
変化を伴う胸腹部大動脈瘤を認め,感染性瘤とし
て抗生剤投与を開始した.第80病日,体外循環下
に人工血管置換術を施行した.術後経過は良好で
あった.動脈壁は肉眼的には炎症性変化を呈して
いた.病理検査では,全層にわたる炎症細胞の浸
潤を認めるが,菌体などを確認することはできな
かった.
17) 胸腹部大動脈瘤再手術後2年で生じた吻合
部仮性瘤に対して大動脈ステントを併用して閉鎖
した1例
(愛知医科大学心臓外科) 川口 鎮・
平井雅也・青山貴彦・成宮千浩
20) 破裂性腹部大動脈瘤術後に下半身麻痺をき
たした1例
(名古屋大学血管外科) 新美清章・
児玉章朗・山之内大・服部圭裕・佐藤俊充・
小林昌義・山本清人・古森公浩
患者はH14年3月他院にて慢性解離性大動脈瘤
(DAA IIIb)切迫破裂に対し下行大動脈置換,
胸腹部大動脈瘤縫縮,肋間動脈再建.H16年1月
胸腹部大動脈瘤の拡大に対し大動脈置換,腹腔動
脈再建の2度の手術を受け術後対麻痺を認めた.
H18年2月より左腰背部痛出現,貧血が進行.
CTにて胸腹部大動脈瘤置換部の中枢吻合部の仮
性動脈瘤の診断にて,当院紹介となった.3月3
日同部にステントグラフト内挿術を施行したが,
末梢吻合部からもleakを認めたため3月22日右側
臥位で第8肋間左Stoney切開にて循環停止下に
術中エコーにて大動脈と腹部臓器の位置関係を確
認し末梢吻合部からのleakを縫合閉鎖した.復温
後,体外循環からの離脱は良好であった.術後は
経過良好で4月12日に退院となった.開腹アプロ
ーチ,術中エコーに若干の知見を得たので報告す
る.
症例は75歳,男性.腎動脈下腹部大動脈瘤,両総
腸骨動脈瘤,両内腸骨動脈瘤にて近医より2005年
8月23日手術目的にて紹介,入院となった.入院
翌日午後4時血圧70台とショック状態となり,
AAA破裂の診断で緊急手術施行.Y型人工血管置
換+IMA再建術施行した.中枢側吻合は腎動脈
下大動脈,末梢側吻合は右側は外腸骨動脈,左側
は外腸骨動脈の石灰化が強いため大腿動脈に端側
吻合した.両内腸骨動脈は動脈硬化病変が高度で
再建できなかった.術後対麻痺,排尿排便困難出
現し,脊髄麻痺と膀胱直腸障害と診断した.保存
的治療,リハビリ施行し,対麻痺は軽度改善する
も,膀胱直腸障害は改善しなかった.10月11日リ
ハビリ目的にて転院となった.腹部大動脈瘤術後
の対麻痺は極めて稀であるので報告する.
18) Bentall術後27年の間に仮性瘤に対し3回の
修復を要した1例
(静岡市立静岡病院心臓血管外科)
升本英利・島本光臣・山崎文郎・藤田章二・
中井真尚・糸永竜也・野村亮太
21) 立ちくらみと腹痛で救急搬送されたStanford
A型急性大動脈解離と巨大腹部大動脈瘤の1例
(公立陶生病院心臓血管外科) 市原利彦・
佐々木通雄・堀 浩明
(名古屋大学胸部機能外科) 上田裕一
S53Bentall手術(Bjork-Shiley 27mm+woven
【目的】重複大動脈瘤の管理,治療に難渋するこ
Dacron 30mm).S63パンヌス形成による弁機能
とがある.同時の有症状か,瘤の形態で,治療方
不全に対しパンヌス除去.H9RCA,LCA吻合部
針が決定される.緊急時の重複大動脈瘤に対する
仮性瘤にて再手術.RCA入口部閉鎖し#2への
治療方針を検討する.【対象】症例は75歳男性.
SVGバイパス,LCA入口部に人工血管interpose.
既往歴は高血圧である.突然胸部から腹部にかけ
H12 遠位側吻合部仮性瘤にて再手術(2nd).H17
て異和感を覚え,救急車にて搬送された.来院時
LCAへの人工血管吻合部仮性瘤にて再手術
意識清明,症状も軽減し,胸部X-Pは縦隔のやや
(3rd).低体温循環停止にて胸骨切開し出血に対
拡大を認めた.腹部の有症状部にエコーにて腹部
処した.
大動脈瘤を認め,胸部CTにてStanford A解離性
大動脈瘤で軽度の心嚢水貯留をみた.ICU入室後
全身管理後準緊急手術とした.【結果】腹部大動
脈瘤人工血管置換術と同時に上行大動脈人工血管
置換術を施行した.第30病日独歩退院となった.
【考察・結語】重複大動脈瘤の緊急手術は治療方
針に難渋することに遭遇する.初発から診断,手
術適応などを含め討論したい.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
22) 血栓性腸骨動脈閉塞を合併したIII型急性大
動脈解離の一例
(春日井市民病院循環器科) 内田一生・
寺沢彰浩・近藤圭太・田近 徹・篠田典宏・
森本竜太・石川真司・三輪 新
症例は73歳男性.平成18年2月24日,突然の呼吸
苦を自覚し救急受診した.CT検査にて急性大動
脈解離(左鎖骨下動脈分岐直後から左総腸骨動脈
まで偽腔あり,DeBakeyIIIb)と診断した.第一
病日に右下肢痛とともに右大腿動脈レベル以下で
の拍動触知不可となった.大動脈および腸骨動脈
造影にて右内腸骨動脈分岐直後の外腸骨動脈に血
栓像を伴った動脈閉塞を認めた.右大腿動脈を切
開しフォガティカテーテルにて血栓除去を行い,
血流の再開を得たとともに右下肢痛は消失した.
急性大動脈解離に伴う血流低下は偽腔の進展,拡
大による真腔の圧排によるものが多いが,本症例
の様に血栓によるものもあり,治療方針の決定の
ため積極的な血管造影が必要であると考えられ
た.
23) 播種性血管内凝固症候群DICを合併し,再
解離を繰り返した,急性大動脈解離の一例
(静岡市立静岡病院) 小野寺修一・
牧野有高・杉山博文・井口守丈・横山 拓・
大谷速人・嶋根 章・村田耕一郎・
小野寺知哉・滝澤明憲
64歳女性,C型肝硬変,総胆管結石,高血圧の既
往がある.平成18年2月3日,自宅にて腰背部痛
が出現した.近医受診し,急性大動脈解離ⅢB型
と診断され,当院搬送となった.CTでは,大動
脈弓遠位部から,腎動脈分岐下まで解離を認め,
偽腔は血栓閉塞していた.第8病日のCTでは,
腎動脈分岐下の偽腔が,開存していた.第15病日
に,腰背部痛が出現した.CT上偽腔は,血栓閉
塞しているものの,拡大していた.第26病日に血
尿,鼻出血が出現,DICを合併した.CTでは,
偽腔はすべて開存し真腔を圧迫していた.血液製
剤,輸血療法により,DICをコントロール後,偽
腔は再び血栓閉塞した.第49病日から,症上フリ
ーとなり,リハビリ施行後の第104病日に自宅退
院となった.
24) 著明なDICに陥った右冠動脈閉塞を伴う急
性A型大動脈解離に対する外科治療経験
(浜松医科大学) 鈴木卓康・数井暉久・
山下克司・寺田 仁・鷲山直己・阿久澤聡
症例は78歳,女性.急性A型大動脈解離を発症し
近医に搬送.右冠動脈の虚血による右心不全,完
全房室ブロックを認め,一時的ペーシング,挿管
管理の状態で当科へ搬送された.搬送時,血圧は
70∼80mmHgのショック状態であり,血小板は1
万/μlであった.同日緊急手術を施行した.右冠
動脈起始部には全周性に解離かおよび,内腔の閉
塞を来たしていた.断端形成後,上行大動脈∼部
分弓部大動脈置換および冠動脈バイパス(SVGRCA)を行った.人工心肺離脱後に大量血小板
輸血を行い止血に難渋することなく手術を終了し
た.術後右心不全で難渋したものの合併症なく救
命することができたので文献的考察を加え報告す
る.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1201
25) ステントグラフト留置術後瘤化により手術
を要した大動脈解離3例の経験
(三重大学胸部心臓血管外科) 澤田康裕・
下野高嗣・小津泰久・平野孝嗣・駒田拓也・
小野田幸治・新保秀人
当科では,1997年7月より大動脈疾患治療におけ
る経カテーテル的ステントグラフト留置術
(EVAR)の低侵襲性に着目し,放射線科と共同
し胸部大動脈疾患の治療体系に導入してきた.今
回当科における大動脈解離に対するEVAR後瘤化
によりsurgical conversionとなった3例について
報告する.Surgical conversionとなった3例の手
術成績は良好であった.初期成績では急性期治療
における内膜損傷が,超遠隔期成績では真性瘤と
同様にsecondary endoleakが改善すべき問題点で
あり,何れもより優れたstent-graftの開発が重要
と考えられた.
28) HIV感染による肺高血圧症の一剖検例:
PGI2の効果および特異な死因について
(名古屋市立大学循環器内科) 武田泰子
(国立病院機構名古屋医療センター循環器科)
有田編理
(名古屋市立大学循環器内科) 武田 裕・
山本浩司・緒方正樹・伊藤立也・杉浦真人
(国立病院機構名古屋医療センター感染症科)
横幕能行
(名古屋市立大学循環器内科) 福富達也
(国立病院機構名古屋医療センター臨床検査科)
森谷鈴子
(同血液内科) 濱口元洋
(同循環器科) 北野知基
今回我々はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染による肺
動脈性肺高血圧症(PAH)に対しエポプロステノール
(PGI2)を導入し経過中に壊死性心外膜炎を併発した症
例を経験した.患者は41歳女性でHIVによるPAHに対し
平成16年12月にPGI2を導入した.一旦は在宅治療が可
能となったが翌年10月に右心不全増悪とともに心嚢水
が増量した.12月にはタンポナーデとなり,ドレナー
ジを行ったがPHクライシスで死亡した.病理解剖では
心嚢内出血を認め,壊死性心外膜炎の病理診断を得た.
顕微鏡所見では肺細動脈だけでなく心膜にも血管腫様
病巣を認めた.HIVよるPAHは予後不良であるが,
PGI2で長期生存が可能となれば肺細動脈以外にも血管
病変を形成する可能性を示す症例であったと考える.
31) 帝王切開術後に肺高血圧をきたした一例
(名古屋第一赤十字病院) 椎野憲二・
永廣尚敬・山村由美子・関根 愛・片岡義之・
加藤サラ・鬼頭哲太郎・牧野光恭・花木芳洋・
神谷春雄・大野三良
症例は31歳,女性.実妹が原発性肺高血圧症,母
親が妊娠後の心臓疾患死の家族歴を持つ妊婦であ
る.平成17年12月,切迫早産のため妊娠31週で入
院.第9病日に腰椎麻酔下帝王切開術施行.血圧
低下により術中痙攣を起こし全身麻酔に移行.昇
圧剤等で回復したが呼吸循環状態が徐々に悪化
し,第18病日に肺塞栓症を疑われ,抗血栓療法を
行った.呼吸状態悪化し第21病日に人工呼吸管理
として,肺動脈造影検査を行ったが明らかな血栓
像は認めず,著明な肺高血圧を示した.その後血
圧が維持できずPCPSを導入したが,第26病日に
死亡.病理解剖を施行して,慢性反復性肺血栓塞
栓症の像を認めた.病理所見と血液検査により先
天性の凝固異常が病態の原因となったことが示唆
された.
26) ベラプロスト,ボセンタンの併用療法が効
果不良であった特発性肺動脈高血圧症の1例
(豊橋市民病院循環器内科) 竹内豊生・
大野 修・成瀬賢伸・冨田崇仁・林 雄三・
榊原貴司
29) 右鎖骨下静脈閉塞を認めた肺血栓塞栓症の
一例
(労働者健康福祉機構中部ろうさい病院循環器科)
新井孝典・丸井伸行・加藤真隆・天野哲也
(碧南市民病院) 杉浦厚司
32) 当科にて経験した肺血栓塞栓症の1手術例
(岐阜大学高度先進外科) 福本行臣・
宮内忠雅・島袋勝也・岩田 尚・竹村博文
27) Epoprostenolを減らさなければならないと
き:治療に難渋した肺高血圧症の3例
(名古屋市立大学循環器内科) 武田泰子・
武田 裕・山本浩司・緒方正樹・伊藤立也・
杉浦真人・福富達也
30) Paget-Schroetter症候群に対して上大静脈
にシャフト付き一時的フィルターを留置し血栓溶
解療法を行った一例
(順天堂大学医学部附属静岡病院)
一瀬哲夫・宮崎彩記子・宮崎忠史・林 英守・
伊藤誠悟・川村正樹・小島 諭・諏訪 哲・
櫻井秀彦・住吉正孝
33) HIT,右房内腫瘤を合併した広汎型急性肺
血栓塞栓症の1例
(三重大学循環器内科学) 太田覚史・
山田典一
(桑名市民病院循環器科) 金剛まり子
(三重大学循環器内科学) 石倉 健・
土肥 薫・谷川高士・北村哲也・中村真潮・
伊藤正明・井阪直樹
(三重県病院事業庁) 中野 赳
【症例】30歳代 女性.【主訴】安静時呼吸困難.
【既往歴】特記すべきことなし.現病歴;椎間板
ヘルニアに対する治療を他院外来にて施行中であ
症例は26歳ブラジル人女性.20歳頃全身倦怠感あ 【症例】TM,53歳,男性.職業:事務職【現病
歴】動悸,労作時息切れを自覚.肺血栓塞栓症の
ったが,腰痛の増悪を認めたため,入院の上安静
り.平成17年11月27日心窩部膨満感にて受診.心
加療中であった.入院3日後の朝に突然の呼吸困
疑いにて精査.【理学所見】酸素飽和度:90%
電図:右心負荷所見.心エコー:右心拡大と左室
腔の圧排,三尖弁逆流Ⅳ°
(圧較差75mmHg)
.BNP (room air)肺血流シンチ:両側下肺の欠損像. 難を自覚したため,精査を行われたところ肺血栓
塞栓症の疑いにて当院へ緊急搬送された.エコー
血液検査:凝固異常は認めず.右心カテ:肺高血
631pg/mL.二次性の鑑別を施行したが,有意な
上右室負荷所見あり,CT検査にて両主肺動脈内
所見なく,特発性肺動脈高血圧症と診断した. 圧を認める.冠動脈造影:正常冠動脈.【入院後
に陰影欠損を認めたため肺動脈血栓塞栓症と診断
経過】労作後の左前腕倦怠感,浮腫を自覚してい
PGI 2 誘導体ベラプロストとET受容体拮抗薬ボセ
した.体外循環下に血栓除去術を施行して術後経
たことから,胸郭出口症候群を疑い,Wright
ンタンで治療開始した.肺動脈圧の一時的な改善
過は良好であった.摘出標本は新鮮血栓の診断で
testを行ったところ,左橈骨動脈の脈拍減弱を認
は認めたが[103/50mmHg(第6病日)→84/54
あった.手術適応が難しい肺血栓塞栓症であるが
めたため,左鎖骨下動静脈圧迫によるうっ帯,血
mmHg(第45病日)],再度右心不全が悪化し,第
本症例の詳細と文献的考察を加えて報告する.
栓形成を考え,両鎖骨下静脈DSAを行ったとこ
78病日,永眠した.近年,機序の異なる治療薬が
開発され,その併用療法が注目されている.今回, ろ , 右 鎖 骨 下 静 脈 の 閉 塞 を 認 め た . P a g e t Schroetter 症候群による,左鎖骨下静脈閉塞に
我々はベラプロスト,ボセンタンの併用療法が効
合併した慢性肺塞栓症を経験した.
果不良であった特発性肺動脈高血圧症の1例を経
験したので報告する.
当院においてエポプロステノール(PGI2)持続
静注療法治療を行った肺高血圧症(PH)例で同
薬の減量あるいは中止が必要であった4症例を経
験した.4例中3例はPGI2により肺水腫が出現し,
肺静脈閉塞性疾患(PVOD)あるいは肺毛細血管
腫症(PCH)と考えられた.他の1例は高用量の
PGI2を投与していたところ心拍出量は増加した
が右心不全は増悪し,同薬の減量で右心不全が改
善したため高拍出性心不全を来たしていたものと
考えられた.PHの原因が肺毛細血管または肺静
脈にありPG2が無効かむしろ病態を悪化させる可
能性があることや,肺細動脈が主体であっても高
用量PGI2が過度な心拍出量増加を引き起こす可
能性があることを考慮し,PGI2を減量あるいは
中止するべき場合があることを示すものであった
と思われる.
1202
第 127 回東海地方会
64才の男性,高血圧で近医通院中の患者.左上肢
の腫脹を主訴に来院した.数日前に左上肢を外
転・外旋位で寝ていたとのこと.造影CT,左上
肢静脈造影で,左鎖骨下静脈は血栓閉塞を認めた.
明らかな病因はなく,左上肢の肢位による機械的
閉塞に起因する考えPaget-Schrotter症候群と診断
した.永久的フィルターや,回収型の一時的フィ
ルターは設置が難しく,長期成績が不明なことと,
右房内への落下が危惧され,右鎖骨下静脈より上
大静脈にシャフト付きのNeuhaus Protect® filter
(Toray)を挿入した.その後,ヘパリン併用下
にウロキナーゼ7日間投与行ったところ浮腫は軽
快した.血栓溶解療法後の静脈造影では,左鎖骨
下静脈の狭窄は認めたが,浮遊血栓は認めずフィ
ルターを抜去した.その後,ワーファリンを導入
し経過良好で退院となった.
【症例】49歳女性【現病歴】呼吸困難後失神発作
きたし近医入院.CTにて肺血栓塞栓症,深部静脈
血栓症,右房内血栓と診断,未分画ヘパリンによ
る治療開始.治療10日目に血小板数46.1万から1.8
万に減少.HITを疑い当院へ搬送.【転院後経過】
抗凝固薬をアルガトロバンに変更し,血小板数は
速やかに改善,以後ワルファリンに切り替え治療
続行.この間,肺動脈内血栓は減少も右房内腫瘤
は増大.経食道心臓超音波検査上有茎性腫瘤であ
り腫瘍も考え,切除術予定するも術直前に無症候
性に肺動脈内に遊離塞栓.その後,塞栓子は縮小
傾向で右房内腫瘤再発もなし.
【考察】今回,HIT,
右房内腫瘤を合併した広汎型急性肺血栓塞栓症の1
例を経験したので報告する.右房内腫瘤としては,
腫瘍もしくは血栓の二つの可能性が考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) 内視鏡補助による肺動脈塞栓症の血栓除去術
(豊橋ハートセンター心臓血管外科)
青木雅一・西村善幸・馬場 寛・橋本昌紀・
大川育秀
急性肺動脈血栓塞栓症における外科的治療は,体
外循環下に肺動脈を切開して血栓除去を行うのが
一般的である.しかしながら,その視野の悪さか
ら術中の合併症として肺動脈の損傷が問題とな
る.より安全で確実に血栓除去を行う工夫として,
当院では間欠的循環停止下に内視鏡を用いて肺動
脈内腔を確認しながら血栓除去を行っている.最
近,経験した症例を提示しながら,この手技につ
いて報告する.症例は88歳,女性,off-pump CABG
術後5日目に離床開始したが,その頃より徐々に
呼吸状態が悪化.術後14日目MDCTで両側の広
範にわたる肺動脈血栓を認めたため,同日,外科
的血栓除去術を施行.手術は体外循環確立後20℃
の超低体温下に肺動脈を切開し間欠的循環停止を
繰り返して,内視鏡補助下に肺動脈内の血栓を除
去した.
35) 膝下静脈瘤が原因となり,心肺蘇生を要し
た急性肺血栓塞栓症の1例
(豊橋市民病院循環器内科) 榊原貴司・
大野 修・成瀬賢伸・冨田崇仁・林 雄三・
竹内豊生
49歳女性,既往歴に特記事項なし.平成17年12月
15日午前5時より呼吸困難,一過性意識消失発作
を主訴に当院救命科受診.心臓超音波検査上の右
室負荷,D.D dimmerの上昇などより肺血栓塞栓
症と診断されて入院となった.同日14時頃排便後
呼吸困難が増悪し,そのまま心肺停止となったた
めCPRを行いPCPSを挿入.肺動脈造影検査で両
側肺動脈末梢に多数の透亮像を認めた.心拍は速
やかに再開し翌日PCPSを離脱.その後血行動態
は安定した.原因精査目的で下肢静脈造影検査を
施行したところ,左膝下静脈に静脈瘤を認めた.
これが肺血栓塞栓症の原因と考え2月15日左膝窩
静脈結紮術施行した.今回膝下静脈瘤が肺血栓塞
栓症の原因となった比較的まれな症例を経験した
ため報告する.
36) 当院における深部静脈血栓症および肺血栓
塞栓症についての検討
(公立陶生病院心臓血管外科) 堀 昭彦・
佐々木通雄・市原利彦
【背景】近年,深部静脈血栓症(DVT)および肺
血栓塞栓症(PE)の概念と病態が一般にも広ま
り,患者数の報告も年々増加傾向にある.【目的】
当院におけるDVT,PEの経験症例を検証し,予
防,診断,治療における妥当性を検討する.【方
法】2002年1月から2005年10月までの下肢静脈エ
コー施行例1646例と1999年1月から2004年4月まで
の期間のPE50症例につき検討した.【結果】2002
年の下肢静脈エコー導入後に院内発生したPEは1
例でエコー未施行症例であった.PEに対して外
科的治療を行ったのは3例であるが,治療成績は
良好とはいえなかった.【考察】下肢静脈エコー
は院内発症のPEに対して予防効果が高いことが
推測された.PEの外科的治療の適応については
今後のさらなる課題と考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
37) 末梢型慢性肺血栓塞栓症の1手術例
(藤田保健衛生大学心臓血管外科)
佐藤雅人・安藤太三・秋田淳年・栃井将人・
近藤ゆか・星野 竜・服部浩治・西部俊哉・
山下 満・入山 正
肺高血圧症を合併した慢性肺血栓塞栓症は,内科
的治療に抵抗性である.本症に対する唯一有効な
治療法として血栓内膜摘除術があり,当科でも
2001年8月より積極的に行っているが,血栓の閉
塞形態が末梢型の症例は手術適応も含めて議論の
多いところである.今回,手術が有効であった末
梢型の1症例を報告する.症例は42歳女性.呼吸
困難を主訴とし,他院で本症の診断を受け当科に
紹介となった.術前平均肺動脈圧は63mmHg,肺
血管抵抗は1170ダインであった.超低体温間歇的
循環停止下両側肺動脈血栓内膜摘除術を施行,術
後15日間のPCPS,18日間のIABPによる循環補助
を必要としたが軽快し,退院した.術後平均肺動
脈圧は25mmHg肺血管抵抗は408ダインと著明な
改善がみられた.
38) 外傷性胸部大動脈損傷の一例
(愛知医科大学心臓外科) 平井雅也・
川口 鎮・青山貴彦・成宮千浩
16歳,男性.バイク運転中,自動車と衝突し救急
搬送.来院時,意識JCS 2,HR 140,BP 79/20.
胸部Xpで左血胸,縦隔陰影拡大を認め,CTで胸
部大動脈損傷と診断.他に,前額部挫傷,左大腿
骨骨折,左足開放性骨折あり.来院後,循環動態
は良好で安定していたため,整形外科での左下肢
の治療を先行した.手術:体外循環を開始後,左
第4肋間開胸.左胸腔内には700mlの血液が貯溜.
超低体温循環停止下に大動脈を切開すると,動脈
管索末梢でほぼ完全に内膜は断裂しており,胸腔
側で2mmほどの連続性を認めるのみ.20mm人工
血管を吻合した.術後の循環動態は良好.翌日,
気管内チューブ抜去.CK 13043,ミオグロビン
3106にてwash out開始し,腎不全発症することな
く経過した.2週後,骨折部の治療のため,整形
外科に転科になった.
39) 右房までおよぶ下大静脈腫瘍塞栓を伴う腎
癌の一症例
(社会保険中京病院心臓血管外科)
杉浦純也・櫻井 一・阿部知伸・水谷真一・
加藤紀之・澤木完成・櫻井寛久
(同外科) 松田眞佐男・京兼隆典
(同泌尿器科) 絹川常郎・藤田高史
【症例】64歳男性 左腎癌にて04/4/27左腎摘出術
施行.06/1/27腹部造影CTにて右房まで達する下
大静脈腫瘍塞栓を認めた.2/20下大静脈腫瘍塞栓
摘出術施行.【手術】術中エコーにて腫瘍栓は右
腎静脈合流部から右房内まで達していた.上行大
動脈送血,上大静脈・右大腿静脈より脱血カニュ
ーレを挿入し,下大静脈の腫瘍栓の上下・右腎静
脈を遮断して,体外循環を開始した.右腎静脈合
流部から頭側へ下大静脈前壁を切開して腫瘍栓を
摘出した.【術後経過】POD1で抜管し,POD2で
ICU退室.POD14に造影CT施行.【考察】術式の
選択は腫瘍栓の浸潤範囲が最大の因子である.今
回の症例では腫瘍栓が右房に達していたが,肝臓
を引き下げることにより心嚢内で下大静脈の遮断
が可能であった.体外循環を用いることにより,
安全に手術を行うことができた.
40) コレステリン塞栓症の2例
(豊橋市民病院) 波多野友紀・渡邊 孝・
村山弘臣・木田直樹・小林頼子・松村泰基・
大原啓示・小林淳剛
【症例1】75歳男性.狭心症にてCAG施行したと
ころ,PCI不適合三枝病変のため,CABG予定で
あったが,発熱,腎不全,両足趾に紫斑出現.皮
膚生検にてコレステリン塞栓症と診断.上行大動
脈が塞栓源と考え,手術を断念.【症例2】70歳
男性.心筋梗塞にてPTCA施行.3枝病変のため,
CABG予定するも,腎機能障害,両足底に紅斑出
現.生検にてコレステリン塞栓症と診断.全身の
動脈硬化が著しく,再発のリスクが高いと考え,
手術を断念.【考察】2例ともに,検討の結果,
現在主流である保存的治療のみを選択したが,塞
栓源が腎動脈下に特定される場合においては手術
成績は比較的良好との報告もある.症例ごとに,
塞栓源の部位を特定し,部位別のリスクアセスメ
ントをしたうえで,最適な治療戦略を検討すべき
と考える.
41) 経過中にコレステリン塞栓症を引き起こし
たB型解離の一例
(名古屋第二赤十字病院循環器内科)
山本崇之・泉 雄介・橋本踏青・松本正弥・
青山 豊・小椋康弘・鈴木博彦・山下健太郎・
村松 崇・立松 康・七里 守・吉田幸彦・
三輪田悟・平山治雄
背部痛を主訴に来院した62歳男性.CT上大動脈
弓部から左腎下縁レベルまでの解離を認めた.解
離の影響から入院後腎機能の悪化をみたものの次
第に軽快.第7病日以降はさらなる悪化は認めな
かった.しかし,第11病日から再び腎機能が悪化.
フォローアップのMRIでは解離腔の拡大や偽腔の
血栓化の進行は認めなかった.腎機能の悪化と一
致して好酸球の増加があり,両下肢にlivedo様皮
疹を認め,その部分の生検にて真皮深部の小動脈
にコレステリン裂隙を含む塞栓の形成を認めた.
以上よりコレステリン塞栓症と診断し,経口プレ
ドニゾロンを開始.その後腎機能は改善.現在外
来にてプレドニゾロンを漸減しているところであ
る.以前にカテーテル治療や血栓溶解療法を受け
た既往はなく,大動脈解離がコレステリン塞栓症
を引き起こしたものと考えられた.
43) Intermediate artery一枝病変による急性心
筋梗塞後僧帽弁乳頭筋断裂に対する一治験例
(藤田保健衛生大学病院心臓血管外科)
星野 竜・秋田淳年・栃井将人・近藤ゆか・
服部浩治・佐藤雅人・西部俊哉・山下 満・
安藤太三
症例は71歳女性.2006年3月より胸痛を認めてい
たが放置.一週間後突然動悸と息切れを認め近医
受診.急性心筋梗塞および心不全と診断され当院
緊急入院.入院後心不全増悪し,IABP使用.精
査よりIntermediate artery一枝病変による急性心
筋梗塞後僧帽弁乳頭筋断裂と診断し,緊急手術
(僧帽弁置換術および冠動脈バイパス術1枝)を
施行.断裂した乳頭筋は前および後乳頭筋と分離
したその中央に位置する乳頭筋で,その腱索断端
は後尖のmiddle scallopに付着していた.術後血
行動態は著明に改善.僧帽弁乳頭筋断裂は急性心
筋梗塞の重篤な合併症であり急激な血行動態の悪
化をきたし,外科治療が必須の病態である.した
がって,迅速かつ積極的な診断,治療が重要と考
える.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1203
44) 急性心筋梗塞後左室自由壁破裂に対する外
科治療経験
(岡崎市民病院心臓外科) 平岩伸彦・
湯浅 毅・大原康壽・保浦賢三
(同循環器科) 田中寿和
【目的】急性心筋梗塞の合併症の一つである左室
自由壁破裂(FWR)の外科的治療成績は未だ不
良である.今回,当施設におけるFWRの外科的
治療成績を検討した.【対象】1999年∼2005年に
FWRで外科的治療を行った8例.【結果】平均年
齢68.6歳(44∼77歳),男女比は3:5であった.
術前循環補助はIABPのみ1例,PCPSのみ1例,両
者併用6例であった.生存5例(62.5%),死亡3例
(37.5%)であり,術中死亡はなかった.死因は
PCPS離脱不能,縦隔炎,肺炎各1例であった.
中枢神経障害の合併は2例で認め,死亡した.【結
語】FWRは術前ショックをきたす例が多いが,
早期診断及びショックへの速やかな対応により中
枢神経障害の合併が減り,予後改善に寄与したと
思われた.
45) 急性A型解離性大動脈瘤破裂と誤診した左
室自由壁破裂の一救命例
(名古屋徳洲会総合病院) 坂倉玲欧・
大橋壯樹・朝倉貞二・吉田 毅・岡 藤博・
清水宏哉
【症例】64歳男性.一過性意識消失にて救急搬送.
来院直後心肺停止状態となり,PCPSを挿入.造
影CTにて,急性A型解離性大動脈瘤破裂による
心タンポナーデと診断し,緊急手術を施行した.
【手術】心嚢内に大量の血腫と新鮮血を認めた.
上行大動脈に解離は認めず,左室側壁鈍縁枝領域
の心筋梗塞と左室自由壁破裂を認めた.壊死部を
切開し,左室内腔の健常部に馬心膜パッチを縫着
し,切開部を縫合閉鎖した.IABPを挿入し,人
工心肺より離脱した.PCPSも抜去し手術を終了
した.【術後経過】ICU帰室後4日目にIABPを抜
去しその後経過良好でリハビリ中である.【結語】
心タンポナーデを合併した急性A型解離性大動脈
瘤破裂と誤診した左室自由壁破裂の症例に対しパ
ッチ閉鎖術を行い,良好な結果を得た.
46) 冠動脈バイパス術後の下肢筋力低下に対す
る電気刺激療法の効果
(豊橋市民病院リハビリテーションセンター)
神谷昌孝
(名古屋大学保健学科) 山田純生
(豊橋市民病院循環器内科) 大野 修
(同心臓血管・呼吸器外科) 渡邊 孝
【目的】心臓外科周術期において,両側下肢筋に
電気刺激療法(ES)を適用した場合の下肢筋力
維持・増強効果,および心血管系に及ぼす影響に
ついて検討した.【方法】豊橋市民病院心臓血
管・呼吸器外科にて冠動脈バイパス術を施行され
た11例の入院患者を対象とした.術前および退院
時に,割り付け結果を知らない一名の理学療法士
が患者の下肢等尺性筋力を測定した.またES施
行時の心電図変化,心拍・血圧反応について検討
した.【成績】対照群の筋力が17%低下したのに
対し,ES群の筋力低下は2%にとどまった.安全
性に関しても,特に悪影響は認められなかった.
【結論】ESは心臓外科周術期の下肢筋力低下に対
する理学療法介入として,効果的かつ安全に施行
することが可能であった.
1204
第 127 回東海地方会
47) 第一期両側肺動脈絞扼術の後に段階的根治
術を施行した総動脈幹症の1例
(三重大学胸部心臓血管外科) 高林 新・
梶本政樹・新保秀人
(同小児科) 大橋啓之・澤田博文・
三谷義英・駒田美弘
総動脈幹症(I)に対し,3ヶ月,4kgで段階的根
治の一期手術として両側肺動脈絞扼術(ePTFE2
mm幅テープLt.:12mm,Rt.:14mm)を施行し
た.一期術後挿管時間:3h,ICU滞在期間:2dで
あった.10ヶ月,5.4kg(SpO 2 :81%,MPAP:
98/45,LPAP:15/11,RPAP:70/40mmHg,
PAI:256mm2/m2)で,後壁は自己心膜,前壁は
ePTFE1弁付きパッチを用いた肺動脈再建法で根
治術を施行した.根治術後挿管時間:16h,ICU
滞在期間:2dで,UCG上術後遺残短絡を認めず,
肺動脈の圧較差は30mmHg以下で逆流を認めなか
った.第一期両側肺動脈絞扼術を施行することで
根治術前の肺高血圧,心不全を軽減しうる本戦略
により,総動脈幹症の外科治療成績が向上する可
能性が示唆された.
48) 周術期に多臓器不全を合併した成人の
{S.L.L.}
DORV PAに対するRastelli手術施行例
(あいち小児保健医療総合センター心臓外科)
佐々木滋・前田正信・岩瀬仁一・鵜飼知彦
(同循環器科) 安田東始哲・福見大地・
沼口 敦・足達信子・長嶋正實
31歳の男性({S.L.L}DORV PA)で幼少時にright
original BT shunt手術を施行された.数年前から
喀血症状が出現し,最近になり一層増強して来た
ためcollateralにcoil塞栓を施行しleft modified BT
shuntを追加し,その後にconventional Rastelli手
術を施行した.術後は多量のcollateralによる循
環不全に陥りまた肺炎を発症,制御不能の全身性
の炎症,肝不全,腎不全などを併発,呼吸・肺機
能も低下したまま多臓器不全へと移行しCHDFを
施行した.術後40日目になってようやく腎不全か
らも離脱し次第に軽快した.成人の先天性心疾患
に対しては特有の全身諸臓器への異常も伴いうる
ため,周術期には細心の注意が必要である.
49) 三尖弁活動性心内膜炎に陥った成人ファロ
ー四徴症手術にGlenn Shuntを応用した経験
(三重ハートセンター心臓血管外科)
河瀬 勇
(自治医科大学心臓血管外科) 河田政明
(豊橋ハートセンター心臓血管外科)
橋本昌紀・西村善幸
(三重ハートセンター循環器科) 鈴木啓之・
前野健一・西川英郎
【目的】活動期細菌性心内膜炎に対する手術成績
はいまだに不良である.今回我々は,成人ファロ
ー四徴症に三尖弁心内膜炎を併発し塞栓症・感染
コントロール不良にて準緊急手術を要する症例を
経験した.【方法】感染コントロールに重点を置
きファロー四徴症根治術・三尖弁形成術に臨ん
だ.三尖弁は弁形成とし,狭小化した三尖弁を代
償するためBidirectional Glenn Shuntを作成した.
【成績】心内形成を完了後体外循環離脱できず,
Bidirectional Glenn Shuntを作成しIABP補助下に
離脱できた.術後,リハビリテーション・感染コ
ントロールを継続し状態改善中である.【結論】
三尖弁活動性心内膜炎手術において広範囲弁切除
が必要な場合,Bidirectional Glenn Shuntの応用
は急性期治療として有効と思われた.文献的考察
を加え報告する.
50) Epoprostenolが運動耐用能を増大させた
Fontan手術後の一例
(名古屋市立大学循環器内科) 武田泰子・
武田 裕
(同心臓血管外科) 浅野實樹
(同循環器内科) 山本浩司・緒方正樹・
伊藤立也・杉浦真人
(同小児科) 水野寛太郎
(同循環器内科) 福富達也
(同心臓血管外科) 三島 晃
複雑先天性心疾患に対する最終手術としてFontan
手術が施行される症例が増加しているが,手術遠
隔期においても死亡率が高く,運動耐容能および
QOLも低い.今回我々はFontan手術後の症例に対
しエポプロステノール(PGI2)による肺動脈拡張
療法を施行し,運動耐容能および心拍出量の変化
をみた.症例は21歳の男性で完全大血管転移+左
室低形成に対し11歳時にFontan手術を行ってい
る.日常生活には支障はなかったが運動耐容能は
健常者の50%程度となっていた.この症例にPGI2
を投与したとこ運動耐容能は健常者の60%程度に
上昇し,心拍出量も6.5→7.3L/minに増量した.
PGI2がFontan手術後の運動耐容能およびQOL改
善をもたらす可能性を示すものと考えられた.
51) 小児の感染性心内膜炎に対し大動脈弁形成
を施行した2例
(名古屋市立大学心臓血管外科) 水野明宏・
浅野實樹・中山卓也・石田理子・野村則和・
三島 晃
【症例1】12歳,男児.経過中に2度脳塞栓症を発
症.23病日に手術施行.術中所見は僧帽弁前尖及
び弁輪を破壊するvegitation,左心室瘤,大動脈
弁無冠尖の穿孔を認めた.大動脈弁形成,僧帽弁
人工弁置換,心室瘤修復を施行.【症例2】1歳,
男児.出生時より心室中隔欠損指摘されていた.
経過中に多呼吸,喘鳴著明.48病日に手術施行.
術中所見は大動脈弁右冠尖,肺動脈弁左感染を穿
孔させるvegitation,VSDを認めた.大動脈弁形
成,肺動脈弁形成,心室中隔欠損閉鎖を施行.2
例とも経過は良好であった.小児の感染性心内膜
炎に対し大動脈弁形成を施行した2例を経験した
ので報告する.
52) SNP解析による心房細動患者の遺伝因子
の同定 −第一報−
(名古屋大学) 山内正樹・安井健二・
室原豊明・神谷香一郎・横田充弘・児玉逸雄
【背景および目的】心房細動は発症の予測が困難
であり,脳梗塞後に診断されることが多い.私た
ちは心房細動患者の遺伝子背景を調べることによ
り発症リスクを明らかにするため,今回の臨床研
究を計画した.【対象および方法】対象は65歳未
満発症で,器質的心疾患を認めない心房細動発症
者と年齢,性,疾患危険因子を一致させた非発症
者とする.段階的関連解析法を用いて心房細動の
遺伝的検索(一塩基多型(SNP)解析)を行う.
少人数(各群100人ずつ)で約200種のSNPを解析
して候補SNPを抽出し,ついで大人数(各群600
人ずつ)でそのSNPの関与を統計解析により検証
する.【経過】約15施設から研究協力の承諾をう
け,平成18年4月末よりデータ収集が始まってい
る.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
53) Marshall veinが起源と考えられた発作性心
房細動の一例
(社会保険中京病院循環器科) 奥村 聡・
佐藤文明・安藤啓一郎・仁瓶宗樹・加田賢治・
坪井直哉
(名古屋第二赤十字病院) 吉田幸彦
(刈谷総合病院) 田中厚司
症例は57才男性.頻発する心房細動の発作があり,
カテーテルアブレーション目的で紹介された.左
右の上下肺静脈にLassoカテーテルを挿入し,
CARTOを用いて両側肺静脈の電気的隔離術を施
行.しかし,術後心房細動の発作が頻発した.
Holter心電図では上室性期外収縮が頻発.再アブ
レーション目的で入院.CARTOを用いて上室性
期外収縮の起源をマッピングすると,左房後側壁
の僧帽弁輪近傍で再早期興奮が記録された.同部
位の通電で上室性期外収縮の頻発は一過性に抑制
されたが,再発した.同部位近傍の冠状脈洞内の
通電により上室性期外収縮は生じなくなった.術
後,上室性期外収縮,心房細動の発作はともに生
じなくなった.期外収縮の発生部位から,本例の
心房細動の発生にはMarshall veinが関与してい
ることが示唆された.
54) 経食道IBエコーによる左心房筋の評価−心
房細動の有無による比較−
(岐阜大学再生医科学循環病態学)
久保田知希・川崎雅規・森 麗・岩佐将充・
安田真智・石原義之・田中新一郎・
大久保宗則・八巻隆彦・小塩信介・青山琢磨・
土屋邦彦・荒井正純・西垣和彦・竹村元三・
湊口信也・藤原久義
症例1:42歳,女性,
【疾患】心房細動,高血圧症,
【心房細動の既往】20年,【心エコー所見】LAD=
43,LVDD=47,EF=0.64,【IB value】37.73,症
例2:63歳,男性,【疾患】僧帽弁逸脱症,高血圧
症,【心房細動の既往】なし,【心エコー所見】
LAD=45,LVDD=59,EF=0.74,【IB value】
26.90,結果:心房細動を有する症例ではIB値が
高く,心房細動のない症例ではIB値は低かった.
心房筋のremodelingを経食道IBエコーによって
評価できた.
55) 左心耳起源異所性心房頻拍の一例
(愛知県立循環器呼吸器病センター循環器科)
吉田直樹・村上善正
(アラバマ大学バーミンガム病院) 山田 功
(愛知県立循環器呼吸器病センター循環器科)
岡田太郎・二宮雄一・郷地朋子・前川博信・
渡辺康介・浅井 徹・梅田久視・谷 智満・
横家正樹・松下豊顯・清水 武・外山淳治
症例は37歳,女性.主訴は動悸.ホルター心電図
で発作性上室性頻拍が認められた.EPSでは,正
方向性房室リエントリー性頻拍が誘発され,左側
側壁の副伝導路の離断にて同頻拍は根治できた.
EPS中にCS遠位部を最早期とする異所性心房頻拍
(EAT)も誘発されたが経過観察とした.術後,労
作でEATが起きるため再セッションを施行.EAT
は,I, aVLともに陰性P波であり,左心耳起源が疑
われた.また,EATは心房のプログラム刺激で誘
発・停止が可能であり,少量ATPでも停止可能で
あった.CARTOを用いてEATのアクチベーショ
ンマップを作成した.左心耳前壁側に最早期興奮
が認められ,同部への通電でEATは誘発不能とな
った.左心耳起源のEATは比較的稀な症例であり,
若干の文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
56) 15年間反復性の出没を繰り返した左房起源
薬剤抵抗性心房頻拍の一例
(静岡済生会総合病院不整脈科・循環器内科)
黒田裕介・小坂利幸・横山恵理子・竹本芳雄・
鈴木智之・山田 実
(名古屋大学環境医学研究所循環器分野)
児玉逸雄
(順天堂大学付属静岡病院循環器内科)
住吉正孝
症例は18歳,男性.3歳時に心房頻拍(AT)と診
断され種々の抗不整脈薬が投与されたが全て無
効.ATは自然停止後,一発の洞調律をトリガーに
再出現する反復性の出没を繰り返した.P波の極
性はI,II,III,aVF,aVL,V1で陽性.下壁誘導
のP波高は洞調律時に比し平低化していた.冠静
脈洞興奮は近位から遠位へと伝播した.CARTO
にてマッピングすると右房内には早期興奮部位が
認められず,右上肺静脈下部と左房接合部近傍に
最早期興奮部位が同定された(P波に20ms先行).
高周波通電にてATは停止するものの容易に再出
現し完全な停止には広範囲の通電を要した.AT
の機序はtriggered activityと推定され,病巣が広
範囲に及んでいたことが薬剤抵抗性の一因となっ
ていた可能性が示唆された.
57) 診断に苦慮したlong RP' tachycardiaの1例
(国立病院機構名古屋医療センター循環器科)
松平京子・有田編理・林 睦晴・山本春光・
野田浩範・稲垣将文・富田保志・北野知基
54歳女性.心不全にて紹介され入院中,心拍数
160bpm,long RP’のnarrow QRS tachycardiaを
incessantに繰り返し,発作中のP波はⅠ,Ⅱ,Ⅲ,
aVL,aVFにて陰性,V1で陽性.EPSでは頻拍が
incessantに出現し詳細な検査は困難であったが,
右室心尖部刺激時と頻拍中の心房興奮様式は同様
で,左側後側壁に最早期興奮部位を認め,頻脈中
のVA時間は180msと長く,減衰伝導特性の存在
も示唆された.頻拍中にHis束の不応期に与えた
右室,左室からの期外刺激では心房早期興奮現象
ははっきりしなかった.左室後側壁の副伝導路に
よるAVRTを疑い,同部位に通電後VA伝導は消
失し頻拍は誘発されなくなり左室後側壁の緩徐伝
導特性を持つ潜在性副伝導路によるAVRTと診断
した.
58) 心外膜起源が疑われたが,心内膜側からの
通電が有効であった心室性期外収縮の一例
(名古屋掖済会病院循環器科) 奥村貴裕・
清水真也・野田友則・奥村尚樹・舟橋栄人・
石原大三・淡路喜史・祖父江俊和・加藤林也
症例は40歳男性.労作時の動悸とめまいにて来院.
心電図にてVPC(RBBB型,下方軸)2段脈あり.
2005.12.7に心臓電気生理検査を施行.心外膜起源
の可能性を考え,電極カテーテルを前室間静脈
(AIV)に留置し,マッピング施行.AIVはVPCの
QRS onsetから-23ms先行し,AIVペーシングでペ
ースマップは11/12と良好であった.肺動脈内で
は,AIVより5~6ms遅れていたが,pre-potential
が大きい為,通電施行.通電でVPC消失したが,
20分後に再発した.LCC直下でマッピングしVPC
onsetより-39ms先行するpre-potential(+)の部位
で通電施行.通電直後にVPC消失し,以後誘発不
能となった.以後現在に至るまでVPCは出現して
いない.
59) 上方軸を呈した左室流出路心室頻拍の1例
(愛知県厚生連加茂病院循環器センター循環器科)
重田寿正・金子鎮二・神谷宏樹・井関 淳・
篠田政典・金山 均
来院時,HR 210上方軸 右脚ブロック型のVTで
あった(QRS 118msec).血圧80台だったため電
気的除細動を施行した.後日のEPSで,RVA extra
でVTは再現性をもって誘発された.べラパミル感
受性VTを第一に考え,左室後中隔領域のマッピン
グを行った.同領域でconcealed entrainmentし,
PPI一致するところで通電したがVTは誘発された.
通電後のVT波形を前と比較すると,Ⅱ誘導でプ
ラスの成分が出現しており,軸が少し変化した.
左室内をさらに詳細にマッピングしたところ,
LVOT LCCでconcealed entrainmentしPPIも一
致,先行度-67msecのところがあり,VT中に通電
したところ約2秒で頻拍は停止した.その後VTは
誘発されなくなった.今回われわれは,上方軸を
呈したVTで,左室流出路に起源を有した1例を経
験した.若干の文献的考察を含め,報告する.
60) Brugada症候群が疑われた高齢者心室細動
の一例
(県西部浜松医療センター) 岡田耕治・
澤崎浩平・山本和彦・原田 憲・武藤真広・
杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
症例は82歳男性.心不全にて入院.心電図では
V1-V3でBrugada様のST上昇を認めた.入院当日
VFとなり,アミオダロン開始.心不全軽快後,
EPS施行.ピルジカイニド負荷にてV1-V2のSTは
coved型に上昇.RVOTからの期外刺激によりVF
が誘発され,ICDを植え込んだ.1ヶ月後にICD
が頻回作動となり再入院.心電図では,PVCが出
現しTdPを繰り返していた.アミオダロンは中止
し,Brugada症候群によるVF stormと考え,90/
分でAV pacingを行いICDの作動は抑制されてい
る.本症例は,今回の入院まで失神の既往はなく
突然死の家族歴も認めず,かつ高齢であり典型的
な心電図ではなかったが,V1-V3でのST上昇およ
びNaチャンネルブロッカーに対する反応より
Brugada症候群によるVF発作と考えられた.高
齢で発症した稀な1例と考え報告する.
61) 経心房中隔的と逆行性に左室に侵入した2
本のカテーテルからの通電により根治した瘢痕性
心室頻拍の一例
(山田赤十字病院循環器科) 坂部茂俊・
笠井篤信・角田健太郎・仲田智之・坂井正孝・
大西孝宏・西山 敦・説田守道
症例63才男性.2003年1月に心室頻拍出現.冠状
動脈に有意狭窄なし.左室後壁にdyskinesisあり.
3月にICDを植込み1年以上良好に経過したが
2004年11月にElectrical stormを生じた.同年11
月,翌年9月にアブレーションを施行.ともに逆
行性に挿入したナビスターで洞調律時のsubstrate mapを基に,左室基部側壁から後壁の低電
位領域内に存在する孤立性遅延電位に対し通電し
たが側壁寄りのsharpな電位は消失せずVTを繰り
返した.12月に3回目のセッションを試みた.経
心房中隔的にナビスターを,逆行性に8mmチッ
プのアブレーションカテーテルを挿入.ナビスタ
ーをガイドに8mmカテ−テルの通電で孤立性遅
延電位は消失し4連刺激でも心室頻拍は誘発され
なかった.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1205
62) 催不整脈性右室心筋症に合併した“focal
VT”の一例
(静岡済生会総合病院不整脈科・循環器内科)
竹本芳雄・小坂利幸・横山恵理子・鈴木智之・
黒田裕介・山田 実
(名古屋大学環境医学研究所循環器分野)
児玉逸雄
症例は36歳男性.平成9年に心室頻拍(VT)に対
しablationを施行.平成17年VTが再発.VTはrate
200/minで左脚ブロック・上方軸波形を示した.
右室造影上,前壁基部及下側壁に壁の膨隆を認め,
同部位では広範に分裂した電位が記録された.
Isoproterenol投与下のプログラム刺激,頻回刺激
にてVTは誘発.VTは右室側壁より巣状に伝播し
右室内の興奮伝導時間100msと頻拍周期を満たさ
なかった.Ablation部位では分裂電位は認められ
ず,単極誘導は“QS pattern”を呈し“focal VT”
と考えられた.右室生検にて間質の脂肪浸潤,線
維化を認め催不整脈性右室心筋症(ARVC)と確
定.ARVCに伴うVTは通常macroreentry性であ
り稀な症例と考えられた.
63) VT stormに対してアブレーションが有効
であった一例
(名古屋大学医学部付属病院循環器内科)
北村和久・因田恭也・海野一雅・嶋野祐之・
平敷安希博・高木克昌・原田修治
(名古屋大学環境医学研究所) 山内正樹・
辻 幸臣
(名古屋大学医学部付属病院循環器内科)
高田康信・近藤隆久・室原豊明
(名古屋第一赤十字病院循環器科)
鬼頭哲太郎・神谷春雄・大野三良
症例は58歳,男性.拡張型心筋症による心不全の
ため他院に入退院を繰り返していた.動悸にて入
院した際,心電図モニター上持続性心室頻拍から
心室細動へと移行し直流除細動を施行.さらに抗
不整脈薬の持続点滴が行われた.薬物抵抗性のた
め,当院へ転院しICD植え込みを行った.植え込
み後もVTによるelectrical stormを繰り返し,
ICDが頻回作動したためカテールアブレーション
を行ったところ,不整脈の著明な改善を認めたた
め報告する.
64) 大動脈弁置換術後慢性心不全症例に合併し
た発作性心房細動に肺静脈隔離術が奏効した一例
(名古屋第二赤十字病院循環器センター内科)
橋本踏青・村松 崇・吉田幸彦・泉 雄介・
松本正弥・山本崇之・青山 豊・小椋康弘・
鈴木博彦・山下健太郎・立松 康・七里 守・
平山治雄
症例は79歳の女性.大動脈弁閉鎖不全を基礎疾患
とする慢性心不全で前医にて計3回の入院加療歴
あり,大動脈弁置換術(AVR)目的で当院へ紹
介された.'05.12月に心不全増悪のため当院に入
院.薬物治療で軽快した後,12.26にAVRを施行
したが術前より発作性心房細動が頻回に生じ,薬
物治療ではコントロール困難であった.一旦ICU
から退室可能となったがすぐに増悪し再入室の上
気管内挿管とIABPを留置した.心房細動のリズ
ムコントロールが今後の心不全治療には必要と判
断し,1.6に人工呼吸,IABP使用下で肺静脈隔離
術を施行.術後SVPCの散発を認めたが一貫して
洞調律の維持に成功し得た.その後心不全の薬物
コントロールも容易となり状態は安定した.
1206
第 127 回東海地方会
65) 頻拍起源の同定にuser defined mapが有用
であった異所性心房頻拍の一例
(三重大学地域医療再生プロジェクト(不整脈センター))
藤井英太郎
(同循環器内科学) 高村武志・藤本直紀・
栗田泰郎・山中 崇・太田覚史・土肥 薫・
谷川高士・北村哲也
(同臨床検査医学) 大西勝也
(同循環器内科学) 山田典一・伊藤正明・
井阪直樹
(三重県病院事業庁総括医療監) 中野 赳
症例は61歳女性.32歳頃より,労作時等に数秒から数
分の動悸発作があった.発作時ホルター心電図上,心
拍数160/分のlong RP'頻拍を認めた.抗不整脈薬が投
与されるも発作抑制は困難で,毎日発作を認めるよう
になったため,2006年2月1日にEPSを施行した.ペー
シングでは頻拍は誘発されず,イソプロテレノール負
荷でも,数連発の心房頻拍を認めるのみであった.心
房頻回刺激にて心房性期外収縮(APC)の頻発を認め
たため,CARTO systemのuser defined mapを作成し
たところ,APC起源が右房側壁で,上大静脈との境界
部に存在した.洞調律時のCARTO activation mapも
作成し,APC起源が洞結節から離れていることを確認
し,APC起源に対してカテーテルアブレーションを施
行したところ,APCは出現しなくなった.以後,無投
薬にて動悸発作を認めていない.
66) 心房頻拍のアブレ−ションにより著明な心
機能改善が認められたtachycardia induced cardiomyopathyの一例
(県立循環器呼吸器病センター) 郷地朋子・
岡田太郎・吉田直樹・前川博信・二宮雄一・
渡辺康介・浅井 徹・梅田久視・谷 智満・
横家正樹
(アラバマ大学バービンガム病院) 山田 功
(県立循環器呼吸器病センター) 松下豊顯・
村上善正・清水 武
【症例】70歳女性.不整脈,慢性心不全にて近医通院
中.平成17年より労作時,夜間の呼吸苦が増悪し当院
を受診.心不全にて入院となった.心電図上,多発す
る心房期外収縮(PAC)・心房頻拍(AT)を認め,心
エコーでは壁運動は瀰漫性に低下.左室駆出率(EF)
は19%,BNP値は5270pg/mlであった.カルペリチド,
ジキタリス,カルベジロールにて加療を開始.心不全
症状の軽快後も,依然心房頻拍による頻脈(150/分)
認め,カテーテルアブレーションを施行した.
PAC/ATの起源は左房後壁に認めCARTOガイド下に
根治に成功.同時に心房粗動も認められたため三尖
弁−下大静脈間の線上焼灼を施行した.以後PAC/AT
の再発は認めず退院.退院直前のEFは依然19%と低
値であったが,徐々に改善.平成18年3月には47%,
BNP値は286pg/mlと著明な改善を認めた.
67) 心房粗動に対する解剖学的峡部アブレーシ
ョンの1か月後に稀有型房室結節リエントリー性
頻拍を来たした例
(県西部浜松医療センター循環器科)
武藤真広・岡田耕治・澤崎浩平・山本和彦・
原田 憲・杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
症例は78歳,女性.心房粗動(AFL)に対して解
剖学的峡部(isthmus)に線状アブレーション
(RFAC)を施行.房室結節を介する室房伝導(VA)
が認められたため,イソプロテレノールの十分な
負荷を行ったが,他の上室性頻拍は誘発されず.
RFCA後,自覚症状は完全に消失したが,1ヵ月後
より動悸発作が再発し再RFCAを施行.AFLの再
発が疑われたがisthmusの両方向性ブロックが確
認された.今回は高位右房,右室からのペーシン
グでincessantに頻拍が出現.VAのjump upが認め
られ稀有型房室結節リエントリー性頻拍(uncommon AVNRT)と診断,RFCAを行い誘発不能に.
以後,動悸の出現は認めていない.AFLのRFCA
から1か月後にuncommon AVNRTを来たしたが,
本症例ではヒス束が非常に低い部位に存在してお
りisthmusのRFCAが何らかの影響を与えたのか
もしれない.
68) 偽性心室頻拍を来し,カテーテルアブレー
ションを施行した間歇性WPW症候群の一例
(公立陶生病院循環器科) 長内宏之・
味岡正純・浅野 博・中島義仁・三宅裕史・
中谷理恵・横井健一郎・植村祐介・加藤勝洋・
神原貴博・水野 亮・酒井和好
症例は60歳,男性.当院呼吸器科に間質性肺炎で
入院中に動悸発作あり,心電図にて200bpmを超す
wide QRS tachycardiaを認めた.血圧低下もあり,
電気的除細動を行った.入院時心電図はnarrow
QRSであったが,除細動後の心電図では,typeA
WPW症候群を認めた.根治を目的に後日カテー
テルアブレーションを施行した.大動脈の蛇行あ
り,経中隔アプローチから弁上アプローチにて左
後壁ケント離断に成功した.本症例は間歇性
WPW症候群に偽性心室頻拍を合併した比較的稀
な症例と考えられた.
69) 心室再同期療法(CRT)により先天性心
疾患(CHD)術後心不全の劇的な改善を得た1例
(社会保険中京病院小児循環器科)
大橋直樹・松島正氣・西川 浩・久保田勤也
(同心臓血管外科) 櫻井 一・水谷真一・
加藤紀之・澤木完成・櫻井寛久・杉浦純也
(あいち小児保健医療総合センター循環器科)
福見大地
症例は19歳,男性,修正大血管転換・心室中隔欠
損・肺動脈狭窄.8歳8ヶ月時フォンタン手術(右
心耳―肺動脈直接吻合)を施行.術後10年頃より
心不全が出現.心臓カテーテル検査で,心不全は,
単心室修復をした上下心室の心室同期不全による
ものと判断し,両心室ペーシング(BVP)を試み
た.BVPによりdp/dtの上昇と,組織ドップラー
イメージで心室間伝導遅延の短縮を確認し,術後
10年5ヶ月(19歳1ヶ月)時,TCPC conversion
(心外導管による大静脈―肺動脈連結法への転換)
+房室弁形成+CRTを施行した.術前のNYHA分
類はIII度であったが,術後I∼II度と著明に改善
した.本症例の様に,特殊な心内構造から心室同
期不全を来たした術後心不全に対しても,CRT
は非常に有効であった.
70) CRT植え込み8か月後に心臓突然死した
一例
(山田赤十字病院循環器科) 坂部茂俊・
笠井篤信・角田健太郎・仲田智之・坂井正孝・
大西孝宏・西山 敦・説田守道
症例63才男性.1990年に鬱血性心不全で入院,拡
張型心筋症と診断された.薬物療法を行ったが
1993年から入退院を繰り返し2005年3月にも心不
全で入院.CRTを考慮したが入院中に持続性心
室頻拍を生じた.アミオダロンを開始し,内服下
のEPSでVTが誘発されなかったためQOL改善を
優先してCRT導入.入院中にVTの再発認めず
ICD追加なしで退院.退院後はNYHA2度まで症
状改善し喫茶店経営を再開するなどQOLは向上
した.またVTを疑う症状なくPMのventricular
high rate episodeに180bpm以上の頻脈は記録さ
れなかった.しかし約8ヶ月後12月1日に乗用車内
で突然死した.PMが廃棄され心室頻拍の記録は
ないが,脳血管障害等疑う所見なく心臓性突然死
と考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
71) 体外式両室ペーシングにて改善した重症心
不全の一例
(小牧市民病院循環器科) 三井統子・
戸田夕紀子・上山 力・中野雄介・早川誠一・
今井 元・水野智文・川口克廣・近藤泰三
74) ペースメーカー植え込み後,金属アレルギ
ーによる接触性皮膚炎を起こした一例
(小牧市民病院循環器科) 上山 力・
戸田夕紀子・中野雄介・三井統子・早川誠一・
今井 元・水野智文・川口克廣・近藤泰三
【目的】重症心不全患者に対し体外式両室ペーシ
ングが著効した一例を経験したので報告する.
【総括】58歳男性.二度のOMIにて心機能著しく
低下,左室瘤来たし左室形成施行後.今回心不全
悪化にて入院,薬剤で軽快認めなかった.心電図,
組織ドップラーではCRTの適応にはなかったが,
EPSにてdp/dtの著明な改善あり,CRTの適応が
示唆された.しかし入院中胆嚢炎を来たし感染コ
ントロールできず,感染下にCRT植込はハイリ
スクと判断した.鼠径部より一時的な体外式両室
ペーシングを施行,心不全改善した後胆摘術行い,
次にCRT植込を施行した.
症例は75歳の女性.平成16年10月に高度房室ブロ
ックのためDDDペースメーカー植え込み術を施
行した.平成17年8月よりペースメーカー部の圧
痛,発赤,腫脹を認めた.抗生剤内服で一過性に
改善を認めるも再発し,創部培養も陰性であった
ため金属アレルギーを疑いパッチテスト施行.
titanium,epoxyにて陽性反応をみとめた.平成18
年1月にジェネレーター部の皮膚自壊を認めた
為,同年2月13日胸部外科にてジェネレーター部
をpolytetrafluoroetyleneシートにて被覆し左腹直
筋直上に植え込みとなった.その後の経過では皮
膚症状の再発をみとめていない.
72) CRTDが著効した薬剤抵抗性重症心不全2
症例の経験
(岐阜県立岐阜病院循環器科) 廣瀬武司・
加藤 崇・鈴木荘太郎・渡邉崇量・小島 帯・
割田俊一郎・岩間 眞・小野浩司・高橋治樹・
瀬川知則・松尾仁司・渡辺佐知郎
75) ペースメーカーによる心拍コントロールが
効果的であった心アミロイドーシスの一例
(三重大学循環器内科) 山中 崇・
藤本直紀・栗田泰郎・谷川高士・北村哲也・
伊藤正明・井阪直樹
症例1は69歳男性.平成10年拡張型心筋症,完全
房室ブロックを指摘され,ペースメーカー植え込
み術を施行される.平成17年12月心不全増悪のた
め入院,内服加療にても改善を認めず.経過中,
心室頻拍あり,内服薬での加療は限界のため,平
成18年1月ICD植え込み,左室リードを心房ポー
トに接続してCRTDを開始した.術後より,自覚
症状の改善を認め,約2週間後に退院,現在,外
来通院中である.症例2は57歳男性.拡張型心筋
症,心房細動の加療を受けていた.平成16年10月,
心室細動のため,ICD植え込みを施行.平成17年
8月より心不全症状出現にて入院となる.治療奏
功せず,また,電池交換時期であったため,これ
を機にCRTDを施行.術直後より心不全改善,12
月23日退院.現在通院加療中である.
73) CRTへのup gradeが有効であった連合弁
膜症による心不全の一例
(公立陶生病院循環器科) 長内宏之・
味岡正純・浅野 博・中島義仁・三宅裕史・
中谷理恵・横井健一郎・植村祐介・加藤勝洋・
神原貴博・水野 亮・酒井和好
症例は59歳,女性.平成15年,完全房室ブロック
にてDDDペースメーカを留置されている.この
時・度AR,MR,・度TRを指摘されている.薬
物療法で心不全はコントロールされていたが平成
17年12月心不全症状の悪化にて入院となった.右
心不全症状強く利尿剤の増量でも改善不良であっ
た.手術は極力したくないとの患者に意向にて,
左室収縮能はEF50%と比較的保たれているもの
のCRTへのup gradeをおこなった.術後良好な利
尿効果が得られ,心不全の改善を得た.エコー上
はMRは・度に減少していた.退院後も心不全症
状なく394pg/mlから88pg/mlに改善している.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
【患者】74歳 男性【主訴】労作時呼吸困難【現
症】生来健康も,2004年7月より労作時呼吸困難
を自覚したため当科入院.心筋及び胃幽門部生検
より全身性アミロイドーシスと診断した.10月洞
不全症候群を認め,永久ペースメーカー植え込み
術(DDD)施行となった.その後心不全の増悪
を認め,12月9日入院となった.【経過】入院後利
尿剤投与にて症状やや軽快したが,浮腫残存した.
状態確認目的にて右心カテーテル検査施行した.
ペースメーカー設定を行いつつ,S-Gカテーテル
にて肺動脈圧,肺動脈楔入圧,心拍出量を測定,
同時に動脈圧を測定した.結果,AAIモード心拍
80拍/分設定時に心拍出量3.72L/分と最も安定し
ていた.【結語】心アミロイドーシスのような拘
束型心筋症には,AAI,VVIの設定とともに,心
拍数の設定も重要と考えられた.
76) ホルター心電図装着中に異型狭心症に起因
すると考えられる完全房室ブロックにより急死し
た統合失調症の1例
(掛川市立総合病院循環器科) 佐々木洋美・
内山博英
(菊川市立総合病院内科) 鈴木敬太
(追手医院) 木村明夫
(掛川市立総合病院循環器科) 林英次郎・
吉田誠司
55才男性.統合失調症の為に内服治療中で胸痛の
既往無し.定期検診心電図で単発性の心室性期外
収縮を指摘され精査目的に紹介.洞調律時心電図,
トリプルマスター負荷心電図,一般血液検査で異
常は認められず.ホルター心電計装着にて帰宅.
翌朝心配停止状態で発見された.ホルター心電図
ではchannel1でのST上昇に引き続いて房室ブロッ
クが出現増悪して完全房室ブロックとなり,補充
収縮も認められなかった.最初のST上昇が発現し
てから約20分の経過でP波並びにQRS波が完全に
消失した.異型狭心症に起因する心臓性突然死で
は心室細動の報告が認められるが完全房室ブロッ
クから心停止に至る症例は少ない為に報告した.
こうした経過を辿った要因の一つに統合失調症に
対する薬剤が影響している可能性が推測された.
77) 透析による低血圧に対してマレイン酸エナ
ラプリルを用いた使用経験
(富士病院循環器科) 白坂和信
透析日の朝はかなり高い血圧にコントロールされ
ている患者を多く見かける.循環血液量が減り血
圧が下がるにつれ,降圧剤の濃度が下がれば血圧
が維持されるのではないかと考えた.腎排泄性で,
最近あまり透析では用いられることが少なくなっ
たマレイン酸エナラプリル(レニベース)を用い
てみた.エナラプリルの肝代謝活性物は,蛋白結
合率が低くよく透析される.本年の1月3日から
5月4日まで,32才から90才までの男女9例づつ,
透析歴3ヶ月から27年の,透析により血圧低下し
た症例18例(内10例は糖尿病)に投与した.方法
は 降圧剤変更以外はドライウエイト等は変更せ
ず.投与前と投与開始後1週間の週初め(中2日)
のチャートを比べ評価した.全例で透析前の高血
圧,透析時と終了後の低血圧を改善することを経
験し,有用性を確認した.
78) 腎機能障害患者の冠動脈造影における重炭
酸ナトリウム前投与の腎保護効果
(公立陶生病院) 水野 亮・味岡正純・
植村祐介・加藤勝洋・神原貴博・横井健一郎・
中谷理絵・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
一般的に造影剤使用に伴って腎機能悪化が起こる
ことが知られており,慢性腎不全患者におけるカ
テーテル検査の施行を困難にしてきた.Gregory
らによると,重炭酸ナトリウムを使用することで,
慢性腎不全患者におけるカテーテル検査後の腎障
害 合 併 を 有 意 に 抑 制 で き る .( Prevention of
Contrast-Induced Nephropathy With Sodium
Bicarbonate(JAMA,May,19))この論文を元
に,当院において,H17年4月1日∼H18年3月31日
にカテーテル検査を実施した慢性腎不全患者に対
し,腎機能障害を予防する目的で重炭酸ナトリウ
ムを投与し,腎障害合併率を検討したので報告す
る.
79) 透析患者の冠動脈バイパス術後に合併した
難治性心室頻拍に対しニフェカラントが有効であ
った1例
(愛知県厚生連加茂病院心臓血管外科)
外山真弘・下村 毅・高木 靖
症例は61歳女性.糖尿病性腎症による慢性腎不全
で透析導入されている.急性心筋梗塞の診断で
IABP support下に緊急CABGを行った.術中より
VT,VFが多発し,リドカイン,マグネシウム,
メキシレチンの投与は無効で,ニフェカラントを
通常量の0.3mg/kg単回静注したところ効果があ
ったため,その後0.4mg/kg/hで持続投与を開始
した.ICUへ搬送後もVTの出現は抑制されてい
たが,透析症例であることからニフェカラントの
蓄積を考慮し次第に減量して翌日には中止した.
しかし,第3病日からVTが頻回となったため,ニ
フェカラントを半量の0.2mg/kg/hで持続投与し
たところVTを抑制可能であった.その後は投与
量を0.13mg/kg/hとして約1週間持続投与した
が,QTcは0.5以下で推移し効果も持続していた.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1207
81) 急性圧負荷が心房興奮伝播に及ぼす影響−
家兎潅流心圧負荷モデルを用いた検討−
(名古屋大学細胞生物物理学) 山本 充
(名古屋大学環境医学研究所) 植田典浩・
本荘晴朗・神谷香一郎
(名古屋大学細胞生物物理学) 曽我部正博
(名古屋大学環境医学研究所) 児玉逸雄
【目的】本研究では家兎潅流心を用いて急性心房
圧負荷モデルの作成を行い,圧負荷に伴う心房自
由壁における興奮伝導の変化を光シグナルマッピ
ングシステムを用いて検討した.【方法・結果】
左房自由壁に双極電極を配置し,基本刺激(S1)
間隔を200msから80msまで変化させて刺激を行
い,低圧時(3-4cmH2O)と高圧時(9-10cmH2O)
の条件で,興奮伝播の記録・解析を行った.低圧
時(S1=200,80ms)及び高圧時(S1=200ms)
の場合,興奮は刺激点から放射状に一様な伝播パ
ターンを示した.しかし,高圧時に高頻度刺激
(S1=80ms)を行った場合,伝導速度が著しく低
下する領域が出現し,その領域を起点とするリエ
ントリーが形成された.(n=2)【結語】急激な伸
展刺激は心房筋の興奮伝導の不均一性を増大し,
不整脈発生の基質を形成することが示唆された.
82) ニフェカラントのHERGチャンネルに対す
るagonist作用について
(名古屋大学環境医学研究所液性調節分野)
森島幹雄・丹羽良子
(同循環器分野) 石黒有子・原田将英・
高成広起・山本 充
(同液性調節分野) 辻 幸臣・本荘晴朗・
神谷香一郎
抗不整脈薬ニフェカラントは,心筋IKrチャネルを
抑制する.同薬剤は,軽度脱分極レベルではIKr
を逆に増強すると報告されているが,その詳細と
抗不整脈作用に果たす役割については不明であ
る.
本研究ではアフリカツメ蛙に発現させたHERG
電流(IKrクローン)を用い,ニフェカラントに
よるIKrアゴ二スト作用を解析した.HERG電流ア
ゴニスト作用は,あらかじめ脱分極したのち−50
mV付近で最も著明に観察され,その作用は1−2
分間で消失した.モデルシミュレーションでは,
薬物結合チャネルの活性化電位依存性を過分極シ
フトするとIKrアゴニスト作用の特徴をよく再現
できた.本研究の結果から,ニフェカラントによ
るIKrアゴニスト作用は,抗不整脈作用に影響す
ると考えられた.
83) 心室再分極の空間的不均一性および動的不
安定性に及ぼすbepridilの効果
(静岡済生会総合病院不整脈科・循環器内科)
小坂利幸・横山恵理子・竹本芳雄・鈴木智之・
黒田裕介・山田 実
(名古屋大学環境医学研究所循環器分野)
児玉逸雄
【方法】Bepridil(B)投与下に電気生理検査を施
行 し た 8 例 の 右 室 流 出 路 ( R V O T ), 心 尖 部
(RVA)より単相性活動電位(MAP)を記録し早
期刺激法にてMAP持続時間(MAPD90)の回復
過程を求めた.無投薬の10例を対照(C)とした.
【結果】RVOTでのS1-MAPD90はC群に比しB群
で延長していたが,RVAでは差を認めなかった.
MAPD回復曲線の最大傾きはRVOT,RVA伴にB
群で平低化していた.S1のQT dispersion(QTD)
とT波の頂点から終点までの時間(Tp-e)はB群
で大きかったが,S2によるQTD,Tp-e増加はB
群で少なかった.【結論】Bは心室再分極の空間
的不均一性を増大するが,APD回復過程の平低
化を介して期外刺激で誘発される再分極の動的不
安定性を軽減する.
1208
第 127 回東海地方会
84) 心肺停止で発症し,好酸球による心筋障害
が原因と考えられた1例
(春日井市民病院) 篠田典宏・寺沢彰浩・
近藤圭太・内田一生・田近 徹・森本竜太・
石川真司・三輪 新
87) 僧帽弁縫縮術とMaze手術により改善した
拡張型心筋症の重症心不全の1例
(半田市立半田病院) 杉浦剛志・志水清和・
植田次郎・谷口俊雄・宮城元博・西村光滋・
中島 徹
症例は70歳男性.平成17年3月22日運動中,心室
細動となり,蘇生され救急搬送された.来院時,
心不全を発症,心臓超音波にて左室壁運動はび漫
性に低下,左室駆出率(EF)は50%だった.入院
後心不全は改善せず,EF 30%と低下.末梢血好
酸球増多(4000/ul),心筋生検で好酸球の浸潤を
認めた.また,血清eosinophilic cationic protein
29.4ug/lと上昇し,好酸球による心筋障害が心室
細動,心不全の原因と診断した.好酸球増多の原
因は特発性と考えられた.ステロイド投与により
EF 51%と改善.心不全もコントロールされた.
心室細動に対しては植え込み型除細動器(ICD)
を植え込んだ.心室細動で発症した好酸球による
心筋障害の稀な1例を経験したので報告した.
今回われわれは拡張型心筋症による重症心不全の
患者に対し僧帽弁縫縮術およびMaze手術を施行
し,良好な結果を得たので若干の考察を加え報告
をする.症例は55歳男性で,45歳から拡張型心筋
症を診断され内服治療をうけていたが,平成17年
12月27日に慢性心不全増悪にて他院入院加療をう
けた.状態改善しないため平成18年1月13日当院
入院.2型呼吸不全を呈し腎機能低下を認めたた
めNIPPV管理およびCHDFによる除水を開始し
た.その後,状態は改善しつつあったが,同年2
月9日呼吸状態悪化し,重度の僧帽弁逆流症を認
め保存的加療では心不全管理困難となり2月16日
僧帽弁縫縮術およびMaze手術を施行した.術後
の経過は非常に良好であり,術後第30病日退院と
なり外来フォローとなった.
85) 日本循環器学会東海支部ACLSコースの歩み
(名古屋大学胸部機能外科) 鈴木秀一・
上田裕一
(三重大学第一内科) 石倉 健
(国立病院機構静岡医療センター循環器科)
横山広行
(名古屋大学循環器内科) 奥村健二
(岐阜大学再生医科学再生応用(循環内科学))
西垣和彦・藤原久義
(愛知県病院事業庁長) 外山淳治
(三重大学第一内科) 谷川高士
(岐阜大学再生医科学再生応用(循環内科学))
牛越博昭
(名古屋大学救急集中治療部) 真弓俊彦・
有嶋拓郎
88) 造影MRI delayed enhance 画像による心
臓サルコイドーシスの検討
(藤田保健衛生大学循環器内科) 依田竜二・
皿井正義
(同衛生学部診療放射線技術学科) 安野泰史
(同循環器内科) 加藤 茂・元山貞子・
植村晃久・井上薫里・宮城島賢二・加藤靖周・
平光伸也・佐藤貴久・森本紳一郎・菱田 仁
日本循環器学会では2002年8月より心肺蘇生法普及委員会を組織し,
本邦における心血管疾患による死亡率を減らすことを目的として米国
心臓協会(AHA)による「心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガ
イドライン」を医療従事者等に広く普及させるべく活動を開始してい
る.東海支部としても2003年11月30日に第1回目のACLSコースを開催
し,2006年3月までに合計7回のACLSコースを開催してきた.1,2回
目は心停止中心のコースであったが,3回目からは徐脈・頻脈・脳卒
中等を含むAHA ACLSプロバイダーコースにて開催してきた.現在ま
でのコースでは,受講により循環器専門医の単位として10単位認めら
れている.さらなる普及が心血管疾患の救命に寄与すると考え,今後
も定期的に東海支部としてACLSコースを開催していく予定である.
86) 平成17年 当院院外心肺停止症例(CPA)
症例の成績
(トヨタ記念病院循環器科) 横田成紀・
宮田紳治朗・紅林伸丈・吉川大治
(同産業医学科) 高村 淳
(同循環器科) 杉野茂生
(同統合診療科) 武市康志
(同循環器科) 石木良治
(同統合診療科) 岩瀬三紀
以前は心肺停止症例というと心拍再開を得られなかったり,
仮に救急外来で心拍再開が得られたとしても後遺症として
重篤な意識状態を認め,極めて予後不良であった.近年,
救急救命士による包括的除細動の実施,AEDの普及,BLS
やACLS等救命措置法の普及により以前より社会復帰を果た
す症例が増加している様に思われた.今回,我々は平成17
年1年間に当院救急外来受診した心肺停止症例の成績を解析
した.平成17年1年間に当院救急外来受診した心肺停止症例
は115例であった.生存退院された例は15例(13.0%),社会
復帰した例は8例(7.8%)であった.発症時目撃者の有無が
予後に極めて相関していた.心室細動,心室頻拍に対する
救急隊による包括的除細動は59%の症例で成功しており,成
功例の社会復帰率は70%であった.急性心筋梗塞,異型狭心
症などの心肺停止の原因が心疾患と判明した症例は11例
(23.4%)であり積極的治療を行った症例での社会復帰率は
82%と極めて高率であった.一方心肺停止の原因が同定でき
なかったものは68例(59.1%)であり予後は不良であった.
【目的】造影MRI delayed enhance(DE)画像を用
いて心臓サルコイドーシス(心サ症)を検討した.
【方法】心サ症と診断された4例(臨床診断群3例,
組織診断群1例)と心サ症疑い3例(心臓以外の臓
器で病理組織学的にサルコイドーシスと確診しえ
たが心サ症診断の手引きを満たさない症例).【成
績】DE陽性は,臨床診断群2/3例,組織診断群
1/1例(PSL内服中),心サ症疑い3/3例であった.
臨床診断群のDE陰性例はPSL内服中であった.こ
れらの所見は,心室中隔で6例中5例(83%),下
壁で6例中1例(16%)に認めた.心サ症疑い症例
には,心電図,心エコー図がいずれも正常な症例
が1症例含まれていた.【結論】心電図,心エコー
図所見が正常で臨床診断群に該当しない心サ症疑
い例もDE陽性であった.造影MRI DE画像は心サ
症の早期診断に有用であることが示唆された.
89) 拡張不全患者の入院時リスク評価:シスタ
チンC濃度測定の有用性
(藤田保健衛生大学循環器内科) 中野 禎
(同保健学研究科クリティカルケア学)
石井潤一
(同循環器内科) 奥村雅徳・成瀬寛之・
森 義久・松井 茂・尾崎行男
(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院循環器内科)
野村雅則
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菱田 仁
【背景】シスタチンC(CysC)はクレアチニン(Cr)
より精度の高い腎機能の指標と考えられる.【目的】
拡張不全患者の入院時予後評価における血清CysC測
定の有用性を検討した.【方法】慢性心不全増悪で入
院した249例で入院時CysC,CrとBNP濃度を測定した.
【結果】1)EFにより拡張不全群と収縮不全群に分類し
た.2)
観察期間中に104例の心事故を認めた.3)
年齢,
性別,既往歴,NYHA分類,EFと生化学指標を独立
変数としたステップワイズCox比例ハザード解析で
は,拡張不全群においてもCrではなく,CysCが心事
故の独立した規定因子であった.4)
心臓死と心事故の
発生率は,CysC>1.18mg/l(中央値)の拡張不全群
は中央値以下の拡張不全群に比べて有意に高かった.
【総括】収縮不全群と同様,拡張不全群においても
CysC測定は入院時心リスク評価に有用であると考え
られた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
90) 心エコー図法による安静時左室壁運動の
2D strain rate 解析による狭心症の診断
(柿原クリニック) 柿原理一郎
心エコー図法による狭心症の診断には負荷心エコ
ー法が不可欠であるが,2D strain rate 法による
安静時左室壁運動を解析し狭心症の診断が可能か
を検討した.【方法】症例はPCIを受けた33例(A
群)とCAG正常の30例(B群)を対照とした.そ
れぞれのstrain rateの平均値,最小値,最少時間
について比較検討した.【結果】平均値の比較で
はA,B群間に有意差を認め最適点から境界
値=−0.416104以上を狭窄例とした場合に感度
87.9%,特異度83.3%であった.最少値でも2群
間に有意差を認め同様に境界値=−0.750891以上
で感度69.7%,特異度93.3%であった.最少時間
では2群間に有意差は認められなかった.【結論】
2D srain rate 平均値と最少値による安静時画像の
解析は狭心症を診断できる可能性があると考えら
れる.
93) 心機能測定装置による循環動態評価 −ス
ワンガンツカテーテル,心エコーとの比較−
(藤田保健衛生大学病院) 木村 央・
平光伸也・宮城島賢二・森 一真・鈴木奈美・
山田 晶・依田竜二・加藤 茂・加藤靖周・
植村晃久・森本紳一郎・菱田 仁
【目的】今回,タスクフォースモニター(T-F)
(CN.SYSTEM社,Austria)を用いて心拍出量を
測定し,スワンガンツカテーテル(S-G)のデー
タと比較検討した.【対象と方法】当院に入院し
S-Gが挿入された33例(男性23例,平均年齢63±
8歳)を対象とした.症例の内訳は,急性心筋梗
塞が11例,心不全が23例であった.また,同時期
に心エコーが行われた21例(男性12例,平均年齢
67±9歳,急性心筋梗塞6例,心不全15例)を対象
とし,S-Gで測定された心拍出量(CO)と,心
機能測定装置,心エコーで測定されたCOとの相
関を検討した.【結果】S-GのCOとT-FのCOとの
間には,r=0.662,P<0.0001の相関が認められた.
またT-FのCOと心エコーのCOとの間には,
r=0.723,P<0.0002の相関が認められた.【結語】
T-Fで測定したCOは,S-G,心エコーでのデータ
と良好な相関が認められており,非侵襲的な心拍
出量の測定法として利用できる可能性がある.
96) 心尖部の収縮が保たれた,たこつぼ心筋障
害の1例
(社会保険浜松病院循環器内科) 吉原 修・
若林 康
症例は84歳の女性.当院整形外科にて右大腿骨頚
部内側骨折の手術を施行された翌日よりモニター
心電図上,陰性T波を認め12誘導ECG,血液検査,
心エコー図より急性冠症候群を疑い当科に転科と
なった.同日施行した冠動脈造影では有意狭窄を
認めず,左室造影ではAHA分類のSegment 2及び
4の無収縮とSegment 1, 3, 5の過収縮を認め,た
こつぼ心筋障害の亜型と診断した.左室壁運動は
転科翌日の第2病日から改善を示し第13病日には
正常化した.本症例のような心尖部の収縮が保た
れた症例は,たこつぼ心筋障害の亜型と考えられ
ているが過去の報告例も少なく,独立した病因を
もつ新しい疾患カテゴリーの可能性を指摘した文
献も認められる.病態解明の点からも今後同様の
症例の積み重ねが重要と考えられる.
91) アルコール性心筋症に横紋筋融解を合併し
た一例
(県西部浜松医療センター循環器科)
澤崎浩平・岡田耕治・山本和彦・原田 憲・
武藤真広・杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
94) 弁手術後に胸腔ドレーン挿入を契機として
発症したタコツボ心筋症の1例
(市立四日市病院心臓血管外科) 岡本 浩・
為西顕則・伊藤 豊
(同循環器科) 内田泰寛
97) ペースメーカー植え込みを要したたこつぼ
心筋症の一例
(三重県立総合医療センター循環器科)
森木宣行・渡辺清孝・熊谷直人・中森史朗・
尾邉利英・沖中 務・矢田隆志・小西得司
【現病歴】意識消失【嗜好】普段1日ビール6缶
程度の飲酒【現病歴】H18年明けより,家で酒ば
かり飲んでいた.H18.1.初旬,会社の駐車場でう
つぶせに倒れているところを発見され,当センタ
ーに救急搬送,入院となる.【入院後経過】心エ
コーにて心基部以外はakinesisであり,CPKの上
昇認めたが,分画ではMBの上昇認めず,骨格筋
由来の筋融解と考えられた.第3病日にはCPKは
31370IU/Lにまで達した.原因はアルコール多飲
による筋細胞の代謝障害による横紋筋融解と心筋
症と考えられ,大量補液により加療を続行した.
その後全身状態改善し,第15病日冠動脈造影を施
行したが,冠動脈は正常であり,左室造影では壁
運動はほぼ正常にまで改善した.今後断酒の必要
性があり,アルコール専門病院へ転院となった.
我々は弁手術後,胸腔ドレーン挿入を契機として
本症を発症した症例を経験したので報告する.症
例は77歳女性,AS,MSR,TR,afにて06年2月
14日,AVR(Primaplus 21),MVR(CEP 25),
TAP(Cosgrove 32)
,modified Mazeを行った.術
後2PODにICUから病棟へ転棟予定であったが,右
胸水貯留に対しドレーン挿入後,急にLOS状態に
陥った.心臓エコー,心臓カテーテル検査にてた
こつぼ心筋症と判明したが,血行動態の維持には
IABP,人工呼吸管理を要した.その後,徐々に収
縮異常は消失し,術後一ヶ月で行った心臓カテー
テル検査では,asynergyはなく,EF57%であった.
手術や術後の処置に伴う本症の報告例は稀である
が,これらは非常に大きなストレスであるので,
周術期における原因不明の心不全では,本症も常
に念頭に置いておく必要があると思われる.
症例は83歳女性.これまで脈拍の異常を指摘され
たことはない.2005年12月8日より全身倦怠感,
下痢,嘔吐出現.症状改善せず,食事摂取不可能
となり12月9日救急車で来院.検査所見では炎症
反応の上昇,心筋逸脱酵素およびトロポニンIの
上昇を認め,糞便培養よりサルモネラを検出した.
心電図では広範誘導でのST上昇認め,完全房室
ブロックであった.冠動脈造影では正常冠動脈で,
心基部の過収縮および他の部位の壁運動低下をみ
とめ,たこつぼ心筋症と診断した.心機能は回復
するも,完全房室ブロックは残存し,1ヵ月後
DDDペースメーカーを経静脈的に挿入し,退院
となった.4ヶ月経過後も心房センシング,心室
ペーシング100%である.永続的な完全房室ブロ
ックを伴ったたこつぼ心筋症を報告する.
92) 右室内狭窄を伴った肥大型心筋症の一例
(労働者健康福祉機構浜松労災病院)
河本 章・尾関真理子・神田 宏・
小野澤陽子・窪田康信・森田泰弘・三羽邦久・
高橋正明
95) 64列MSCTにより診断し得たたこつぼ型心
筋症の1例
(山本総合病院循環器科) 堀口昌秀・
世古哲哉・矢津卓宏・竹内正喜・市川毅彦
98) Evaluation of Left Ventricular Diastolic
Dysfunction by Doppler imaging in Patients with
AMI
(岐阜県立多治見病院循環器科) 矢島和裕
(名古屋市立大学臨床病態内科学) 大手信之
(岐阜県立多治見病院循環器科) 吉田哲郎・
小栗光俊・村井俊介・加藤公彦・日比野剛・
横井 清
症例は65才女性.45才時に検診で心雑音を指摘さ
れ,精査の結果,肥大型心筋症と診断された.60
才頃より労作時呼吸困難を自覚した.65才時,発
作性夜間呼吸困難を主訴に来院した.胸部X線所
見ならびに動脈血液ガス所見より,うっ血性心不
全と診断されて入院した.うっ血性心不全の原因
は,diastolic dysfunction,diastolic filling period
の減少,afterload mismatchなどが考えられ,治
療開始後,症状は速やかに消失した.慢性期に,
肥大型心筋症によるsymptoms,complications,
deathを防ぐ目的でmedical therapyを開始し,経
過良好であった.本症例においては,心室中隔お
よび左室心尖部に肥大を認めると共に,右室中部
にも肥大と狭窄を認めた.肥大型心筋症の多様な
肥厚分布の一形態を示した症例と考えられ,報告
する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は63歳,女性.主訴は安静時胸痛.2005年11
月24日,近医を定期受診し待合いで雑誌を読んで
いた際,突然前胸部痛を自覚.心電図上,広範囲
にSTの上昇を認め,急性冠症候群の疑いにて当
院に救急搬送された.来院時,心電図上aVRを除
く全誘導でST上昇を認め,心エコーでは左室前
壁から心尖部に高度壁運動の低下を認めた.血液
検査では心筋逸脱酵素の上昇は認めなかった.64
列MSCTによる冠動脈造影では,冠動脈に狭窄は
認めず,同時に施行された左室造影にて左心室心
尖を中心とした無収縮と左室基部の過収縮が観察
され,たこつぼ型心筋症と診断された.経カテー
テル的冠動脈造影,及び左室造影でも同様の所見
であった.64列MSCTにて非侵襲的に診断し得た
たこつぼ型心筋症の1例を経験したのでここに報
告する.
AMIの左室拡張障害については十分に解明され
ていない.【方法】急性期にPCIを行い再灌流に
成功した連続56人を対象とし2週間後に心臓カテ
ーテル検査を行った.左室弛緩時定数τはカテ先
マノメーターを使用して左室圧曲線から求めた.
血流ドプラ法にて僧帽弁通過血流速度からE,A
波高を,組織ドプラ法により僧帽弁輪部の拡張早
期(E’),心房収縮期(A’)心筋移動速度を測定
した.【結果】経過中の最大CK値,LDH値はτ
と有意に相関した.τはEおよびE’と有意な相関
を示さなかったが,AおよびA’と良好な相関を示
した.【結語】AMI亜急性期の左室弛緩障害は梗
塞の大きさに依存する.この病態は血流および組
織ドプラ法による拡張早期指標E,E’よりも心房
収縮期指標A,A’により強く反映された.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1209
99) 左回旋枝を責任枝とする急性心筋梗塞診断
におけるposterior chest leadsの有用性の検討
(市立伊勢総合病院循環器科) 伊藤偉織・
小川英美喜・清水啓之・江見吉晴・森 拓也
【目的】LCXを責任病変とする後壁心筋梗塞にお
けるposterior leadsの有用性を検討する【方法】
LCXに経皮的冠動脈形成術を行なった1枝病変の
患者33名を対照とした.通常の12誘導心電図に加
え,posterior leadsを測定し15誘導とした.心筋
梗塞の症例では冠動脈造影にてLCXの完全閉塞を
確認した後に,狭心症の症例ではLCXに対する
balloon inflation中に15誘導を記録し,ST部分が
基線より0.5mm(0.05mV)以上上昇している場
合にST上昇とした.【結果】33症例中,12誘導で
ST上昇がみられたのは18例(54.5%)で,15誘導
でST上昇がみられたのは23例(69.7%)であった.
【結論】LCXを責任病変とする急性心筋梗塞の診
断において,標準の12誘導にposterior leadsを追
加することにより診断の感度を改善できる可能性
がある.
100) 肥 大 型 心 筋 症 に pure right ventricular
infarctionを合併した一例
(安城更生病院循環器センター循環器科)
子安正純・田中美穂・村田欣洋・河合秀樹・
堀部秀樹・簗瀬正伸・竹本憲二・野々川信・
度會正人
患者は67歳男性,主訴は嘔吐.既往歴は閉塞性動
脈硬化症にて内服中.平成18年3月26日21時より
突然の嘔吐,翌日他院を受診,心電図変化を認め
当院へ搬送となる.心電図はjunctional rhythm,
LVH RVH,V1-4で陰転T波と認める.心エコー
上は左心室肥大を著明に認めるも左室壁運動障害
は認めず.CPK 1090 IU/l,TnT 12.98と上昇.緊
急CAGを施行,non-dominant RCA#1にて閉塞.
同部位へPCIを施行,RV branch方向へPOBA,
TIMI2 flowにて終了.Peak CPK 2728 IU/l,
CKMB 386 IU/l. PAfを頻発,ニフェカラント,
対外式ペーシング等にて状態は改善.第27病日に
CAGを施行,POBA部の開存を確認.
101) 2枝同時血栓によるAMIに対し,IABPが奏
功した一例
(藤枝市立病院循環器科) 長谷部秀幸・
細萱直希・佐野圭太・内藤昭貴・渡邊明規・
高山眞一
【はじめに】多枝の同時閉塞や同時血栓は稀であ
る.今回,RCAとLCAの本幹に同時に血栓を認め,
IABPが奏功した例を経験し,ここに報告する.
【症例】41歳男性,屋外で作業中に激しい胸痛,
失神が出現し来院した.下壁誘導でのST上昇と完
全房室ブロックを認め緊急CAGを行った.
【経過】
#1と#3に血栓による99%狭窄と#7の血栓を認め
た.失神した時に転倒しており,頭蓋内出血の存
在を危惧し,まずIABPを開始した.速やかに血
栓の減少(#7は血栓消失)と冠血流の改善が得
られ,慢性期には有意狭窄は消失した.【考察】
諸検査の結果,同時血栓の原因として塞栓は否定
的で,脱水及びAMIに伴う凝固異常(プロスタ
サイクリン活性の低下,トロンボキサンB2の増加)
などの関与が疑われた.多枝同時血栓に対し,
IABPが有効である可能性が示唆された.
1210
第 127 回東海地方会
102) Cabrol術後で大動脈−左冠動脈主幹部バイ
パスの血栓性閉塞による急性心筋梗塞症例
(静岡県立総合病院循環器科) 吉谷和泰・
土井 修・吉田 裕・森脇秀明・板垣 毅・
鏑木敏志・為清博道・三宅章公・植松 学・
角 順子・渡辺大基
105) 急性心筋梗塞クリティカルパスの遠隔期予
後評価に対する有用性
(聖隷三方原病院循環器科) 山下省吾・
宮田晴夫・杉浦 徹・齋藤希人・徳田道史・
内山理恵・上原明彦
(なるみやハートクリニック) 宮澤総介
症例は54歳女性.32歳時にAAE,ARのためCabrol
術施行された.2006.1.29朝起床後より胸痛出現.
当院ER受診.心電図はV1でST上昇,II,III,aVF
でST低下を認め,心エコーでは左冠動脈支配領
域の壁運動低下を認めた.緊急CAG施行したと
ころ,大動脈-左冠動脈主幹部バイパスの閉塞を
認め,血行動態が安定しないためIABP,PCPS装
着しPCI施行した.血栓吸引を行い,vision 4.0/18
mm挿入,マーベリック6.0/20mmで拡大拡張し
た.Max CPKは13048,max CKMBは1759と高値
を示したが,術後の経過は良好で,大きな合併症
もなくリハビリを行い独歩で退院となった.
Cabrol
術後の左主幹部閉塞という稀な症例に対して早期
にPCPS supportを施行しPCIによって救命しえた
症例を経験したので若干の考察を加え報告する.
当院では再灌流療法に成功した急性心筋梗塞
(AMI)患者に,10日間のクリティカルパスを使用
している.以前我々は,入院後第3病日までにバ
リアンスが生じやすいことを報告し,第3病日の
アウトカム達成の有無がその後の入院期間に影響
を与えることを報告した.今回,我々はクリティ
カルパスを使用したAMI患者の遠隔期予後につい
て検討した.対象はクリティカルパスを使用した
AMI患者100名で,アウトカム達成群,非達成群に
おける1年後のMACEについて比較を行った.心
血管イベントに伴う死亡率は,前者で0%,後者
で5%,また,入院を必要とした心不全発症率は
前者で3%,後者で29%と有意差を認めた.クリ
ティカルパス3病日のアウトカム達成の有無が長
期の心血管イベントに影響を与え,クリティカル
パスが長期予後評価に有用であると考えられた.
103) 非ST上昇型ACSにおける早期侵襲的治療
の効果予測:心筋型脂肪酸結合蛋白と心筋トロポ
ニンT測定の有用性
(藤田保健衛生大学循環器内科) 成瀬寛之
(同保健学研究科クリティカルケア学)
石井潤一
(同循環器内科) 奥村雅徳・中野 禎・
中村 祐・森 義久・松井 茂・尾崎行男
(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院循環器内科)
野村雅則
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菱田 仁
106) 急性心筋梗塞再灌流療法時におけるニコラ
ンジル併用の効果について:QGSを用いた検討
(愛知県厚生連合会昭和病院) 林 大介・
石川眞一・斉藤二三夫・真野謙治・内川智浩・
宮垣義実
【目的】非ST上昇型ACSに対する早期侵襲的治療の治
療効果予測にH-FABPとcTnTの入院時測定が有用か
否かを検討.【方法】発症6時間以内の非ST上昇型
ACS162例をInvasive群(126例)と非侵襲的治療(No
invasive)群(n=26)に分類,入院時H-FABPと
cTnT濃度と6ケ月以内の12例の心事故(心臓死7例,
心筋梗塞の再発5例)との関係を検討.
【成績】1)入
院時H-FABP(>6.2ng/ml)とcTnT(>0.01ng/ml)
の上昇例ではInvasive群(n=136)の心事故の発生頻
度はNo invasive群に比べて有意に低かった.入院時
H-FABPとcTnTの非上昇例ではInvasive群とNo invasive群の心事故の発生頻度に有意差を認めなかった.
【結論】入院時H-FABPとcTnTが上昇している発症6
時間以内の非ST上昇型ACS症例では早期侵襲的治療
の治療効果が大きい可能性が示唆された.
104) ST上昇型急性心筋梗塞発症後6ヶ月以内
の心リスクとHMGB1(High-Mobility Group Box
1)濃度との関係
(藤田保健衛生大学循環器内科) 松井 茂
(同保健学研究科クリティカルケア学)
石井潤一
(同循環器内科) 成瀬寛之・森 義久・
中野 禎・奥村雅徳・中村 祐・尾崎行男
(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院循環器内科)
野村雅則
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菱田 仁
HMGB1(high mobility group box 1)は最近,炎症性
サイトカインとして注目されている.【目的】ST上昇
型急性心筋梗塞(STEAMI)発症後6ヶ月以内の心リ
スクと血清HMGB1濃度との関係を検討した.【方法】
発症24時間以内に入院したSTEAMI 84例を対象とし
た.入院時血清HMGB1濃度を測定し6ヶ月間の経過
を観察した.【結果】1)30例で血清HMGB1濃度が検
出(>0.3ng/ml)された.2)観察期間中に14例の心
事故(心臓死10例,心筋梗塞4例)が発生した.2)
Cox比例ハザ−ド解析の結果ではHMGBI検出が心事
故(相対危険度4.31,P=0.01)の独立した規定因子
であった.3)HMGBI検出群は非検出群に比べて有
意(P=0.01)に心事故のリスクが高かった.【総括】
HMGB1が入院時に検出されたST上昇型AMI患者の
6ヶ月以内の心リスクが高い可能性が示唆された.
2001.1∼2006.3までのPCIを行ったAMI118例の
内,PCI後より硝酸イソソルビドを使用したC群
78例,ニコランジル(N)4mg/hを72時間持続静
注したN群40例を対象とした.3週間後と半年後
にCAGと血流シンチを行った.結果,梗塞領域
の血流は,C群ではRCA22例中4例,LAD33例中6
例で悪化したが,N群ではRCA14例,LAD8例全
例で悪化せず.RCA病変では,C群N群ともにEF
の変化はないが,EDVはC群で16cc増加したがN
群で増加せず.LAD病変では,C群のEFは変化
しないが,N群では10%改善.EDVはC群では
16cc増加,N群では17cc減少.PCI直後からNを
持続静注することでも,左室リモデリングを抑制
できる可能性が示唆された.
107) 巨大冠動脈瘤を合併した不安定狭心症の1例
(名古屋共立病院循環器内科) 森下哲司・
青山 徹
(名古屋大学循環器内科) 鳥越勝行・
石井秀樹
(名古屋共立病院循環器内科) 堀 浩
【症例】79歳男性【主訴】胸部圧迫感【現病歴】
H17年1月頃から時に労作時胸部圧迫感を認めて
いたが次第に頻回になった.不安定狭心症を疑わ
れ当院紹介となり,H17年3月3日心臓カテーテル
検査となった.【経過】CAGにてLMT を含む3枝
病変を認め,また#6 justに径25mmの巨大冠動脈
瘤を認めた.同日CABG(RITA-#8,SVG-#9#14,SVG-#3-#4PD)を行ったが冠動脈瘤の結
紮は不可能であった.3/19にバイパス血流が良好
であることを確認後,LMT∼#6にかけてcovered
Stentを留置し瘤への血流を遮断できた.【結語】
巨大冠動脈瘤を合併した不安定狭心症に対し冠動
脈バイパス術とcovered Stent留置を行うことで
改善することができた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
108) Acute coronary syndromeを発症し緊急の
経皮的冠動脈形成術を施行した患者での造影剤性
腎症の発生と予後
(朝日大学附属村上記念病院循環器内科)
辻本悟史・元廣将之・丸山勝也・安部美輝・
酢谷保夫・加藤周司
【背景】待機的な心臓カテーテル検査時に造影剤
性腎症(CIN)を発生した患者では予後不良と報
告されている.しかし,緊急の経皮的冠動脈形成
術(PCI)を施行した患者でのCINの発生率や予
後は不明である.【目的,方法】acute coronary
syndrome(ACS)に対して緊急のPCIを施行した
連続107症例でのCINの発生率や予後を調査した.
CINはPCI後2日以内に,血清クレアチニン(Cr)
濃度の25%以上の上昇と定義した.【結果】29症
例でCINは発生した(27%)
.CINを発生した患者
ではPCI後1日目よりCrが上昇し,30日目まで持
続し(1.83±1.33 VS 1.04±0.71mg/dl,p=0.01),
さらに院内死亡率において有意に高かった(24%
VS 15%,p<0.01).【結語】CINはACSを発症し
緊急のPCIを施行した患者には高率で出現し,CIN
の発生は高い院内死亡率や長期間の腎障害を示唆
された.
109) 急性冠症候群患者におけるADAMTS13測
定の臨床的意義
(藤田保健衛生大学循環器内科) 成瀬寛之
(同保健学研究科クリティカルケア学)
石井潤一
(同循環器内科) 奥村雅徳・中野 禎・
中村 祐・森 義久・松井 茂・尾崎行男
(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院循環器内科)
野村雅則
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菱田 仁
【目的】ACSにおけるADAMTS13の測定意義を検討.
【方法】発症24時間以内のACS109例(ST上昇型 59例)
と正常群25例でADAMTS13抗原量とVWF活性値を測
定.【結果】1)ACSにおけるADAMTS13とVWFは負
の相関を示した(r=-0.30,P<0.01).2)ST上昇型と
非ST上昇型ACSのADAMTS13は正常群に比べて低値
であった(P<0.01).ST上昇型と非ST上昇型ACSに
は有意差を認めなかった.3)ST上昇型ACSのVWFと
VWFのADAMTS13に対する比(VWF/ADAMTS13)
は非ST上昇型に比べて高値であった(P<0.01).4)
17ヶ月間の経過観察中に19例の心事故(心臓死2例,
再梗塞14例,心不全による入院3例)を認めた.5)
VWF/ADAMTS13>2.0(中央値)のACSの心事故の
リ ス ク は 2 . 0 未 満 の A C S よ り 高 か っ た .【 総 括 】
ADAMTS13とVWFの組み合わせはACSの予後評価に
有用である可能性が示唆された.
110) OCT(Optical Coherence Tomography)に
よる急性冠症候群(ACS)病変の観察症例
(藤田保健衛生大学循環器内科) 奥村雅徳・
尾崎行男・菅 志乃・中野 禎・井上薫里・
佐藤貴久・松井 茂・成瀬寛之・加藤 茂・
平光伸也・石井潤一・菱田 仁
症例1は51歳の男性,右冠動脈近位部の90%狭窄
によるACSに対し,PCI前にOCT,IVUSを施行し
た.OCTでは340度のplaque arcを持つlipid-rich
plaqueを認め,このplaqueの破綻像と65μm以下
のcap thicknessを観察した.症例2は33歳の男性,
ACSで入院後,左冠動脈回旋枝近位部の90%狭窄
に対しPCI前にOCT,IVUSによる観察を行った.
OCTではplaque arcは325度で,plaque rupture像
および65μm以下のcap thicknessが確認された.
IVUSではいずれのcaseでもthin-cap fibroatheroma
(TCFA)の観察は困難であったが,OCTでは
plaqueの破綻と65μm以下のcap thicknessを容易
に観察でき,ACSをより正確に診断できる可能性
が示唆された.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
111) 急性冠症候群の入院時心リスク評価:血清
シスタチンC濃度測定の有用性
(藤田保健衛生大学循環器内科) 中野 禎
(同保健学研究科クリティカルケア学)
石井潤一
(同循環器内科) 奥村雅徳・成瀬寛之・
森 義久・松井 茂・尾崎行男
(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院循環器内科)
野村雅則
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菱田 仁
【背景】シスタチンC(CysC)はクレアチニン(Cr)
より正確に糸球体濾過値を評価できる腎機能の生化学
マーカーとして期待される.【目的】ACS患者で入院
時血清CystatinC濃度と6ケ月以内の心臓死との関係を
検討した.【方法】ACS139例で,血清CysCとCr濃度
を入院時に測定した.
【結果】1)
血清CysC濃度はCr濃
度と有意な正相関を示した.2)
6ケ月の観察期間中に9
例の心臓死を認めた.3)
年齢,性別,発症からの時間,
心電図所見,既往歴,CysCとCrを独立変数としたス
テップワイズCox比例ハザード多変量解析では,CysC
濃度が心臓死の独立した規定因子であった.4)CysC
濃度>1.0mg/l症例の心臓死のリスクはCysC濃度が
1.0mg/l以下の症例に比べて有意に低リスクであった.
【総括】血清CysC濃度の入院時測定はACS患者のリス
ク層別化に有用である可能性が示唆された.
114) stent留置により形成されたアコーディオ
ン現象が慢性期にstentの変形によって改善され
た一例
(静岡済生会総合病院循環器内科)
滝川道生・堀崎孝松
症例は67歳男性.心不全精査目的に冠動脈造影を
施行したところ右冠動脈#1に90%病変を認め,
冠動脈形成術を施行したがIVUS上同部位に病変
を認め無かった.抹消の石灰化の影響を受け形成
された自然なアコーディオン現象と考えられた.
その後,負荷心筋シンチにて後側壁領域に虚血を
認め,虚血を誘発していると考えられたその自然
なアコーディオン現象解除目的にCYPHERを留
置したところ,CYPHERの近位部にアコーディ
オン現象を認めた.しかし,9ヶ月後のフォロー
アップの冠動脈造影にて右冠動脈#1に留置した
CYPHERが変形した事により,そのp近位部に形
成されていたアコーディオン現象が改善し,
CYPHER変形による再狭窄も認めなかった一例
を経験した.
112) 治療に難渋した特発性冠動脈解離の一例
(愛知県立循環器呼吸器病センター循環器科)
前川博信・梅田久視・郷地朋子・吉田直樹・
二宮雄一・渡辺康介・岡田太郎・浅井 徹・
谷智 満・横家正樹・村上善正・松下豊顯・
清水 武
115) 冠攣縮部の器質的狭窄が2年の経過で進行
し完全閉塞を生じた糖尿病の1例
(掛川市立総合病院循環器科) 林英次郎・
内山博英・佐々木洋美
(ながおか内科) 長岡憲康
(掛川市立総合病院循環器科) 吉田誠司
症例は47歳女性,持続する胸痛にて来院.心電図
にてII,III,aVFにてST上昇を認め,AMIを疑い
緊急CAGを施行した.RCA seg1∼3に広範な高度
狭窄を認めた(TIMI2flow)
.当初spasmを疑った
がIVUS所見にて冠動脈解離を認めた.seg2にて
偽腔への造影剤漏出所見を認めたため,同部位に
BMSの留置を行った.しかし,proximal側への血
腫shiftにより狭窄が進行したため,BMSを追加留
置した.心電図,症状の改善を認めTIMI3flowが
得られたため手技を終了した.1週後,f/uCAGに
てRCAはIVUS上,一部血栓化を認めた.しかし,
CXseg13に狭窄の進行を認めIVUS上同部位におい
ても解離が存在した.幸い狭窄は中等度であった
ため経過観察とした.その後,経過は良好である.
今回,我々は複数枝にわたる興味深い特発性冠動
脈解離を経験したので報告する.
58才男性.糖尿病,高脂血症,発作性心房細動,
気管支喘息あり.2004年にRCA#1の50%狭窄と
アセチルコリン負荷による99%spasmと診断され
て治療開始され以後胸痛発作無し.2006年2月9日
眩暈出現し10日受診.心電図で洞停止と房室接合
部調律,I, II, aVl, aVfでのST低下を指摘.CAG
では#1の完全閉塞とRCA末梢側へのLCAからの
良好な側副血行が認められ,洞結節枝灌流は保た
れていた.#1にPCIを施行.LVGでは壁運動正常.
Dual心筋シンチでは下壁でのTl低下あるもPYP集
積無し.peakCPKとWBCはいずれも受診時の
381IU/lと7800.2週間後のEPSではSNRT6.3sec
でありペースメーカーを移植した.RCA#1は無
症候性のVSA発作を繰り返しつつ器質的狭窄が
進行していたと考えられた.洞結節枝灌流が維持
されていた事より洞不全とRCA閉塞ととの関連
性は低いと考えられた.
113) PCI後再狭窄を繰り返した大動脈炎症候群
の1例
(静岡県立総合病院) 三宅章公
116) 当院における血栓吸引カテーテルthrombusterの使用経験
(静岡市立静岡病院) 村田耕一郎・
島津修三・橋口直貴・出山順太郎・矢野利明・
小野寺修一・杉山博文・嶋根 章・
小野寺知哉・滝澤明憲
我々は,bare metal stent留置後(LCX,RCA)の
in stent restenosisに対しdrug eluting stentを留置
し,その後2度にわたって再狭窄を生じた大動脈
炎症候群の患者を経験した.この度は再狭窄を予
防するためPCIを施行する2週間前よりsteroidの内
服を開始し,ESRが20mm以下になるようにコン
トロールを行った後,改めて同部位に対しPCIを
施行した.以後,steroidの内服は続けたまま,4
ヵ月後にfollow-upカテーテル検査を施行したと
ころ,LCXに再閉塞を認めたが,RCAに再狭窄
は認めなかった.Steroidによる抗炎症作用によっ
て再狭窄が一部予防できた可能性が示唆された.
【目的】AMIに対する緊急PCIでのthrombusterの有用
性を評価.【方法】2002年10月より2005年12月まで
ACSで緊急PCIを施行した255症例中,初回AMIで
thrombusterを用いた108例(T群)と血栓吸引を施行
しなかった73例(N群)を比較.【結果】T群に1枝病
変が多く(69 vs. 48%,p<0.01),PCI前の造影で
TIMI flow 0-1の割合が多かった(80 vs. 56%,p<0.01).
T群でthrombuster後バルーン使用は60%,N群でPCI
開始時のバルーン使用率93%よりも少なかった
(p<0.01)が,ステントと最終TIMI flow 3の割合は
同様(95 vs. 93%,p=ns;97 vs. 90%,p=ns).Peak
CK及 び CK-MBは T群 で 大 き か っ た ( 3739 vs.
2426U/L,p<0.01;364 vs. 213U/L,p<0.01).follow-up CAGはそれぞれ78例(72%),51例(70%)で
施行され,再狭窄率に差はなかったが,TLR及び
TVRはT群に少なかった(13 vs. 27%,p=0.04;13 vs.
31%,p=0.01).【結語】当院ではthrombusterの使用
は血栓性閉塞病変に対して多かったが,CKやCK-MB
を小さく抑えることはできなかった.末梢が確認で
きバルーン使用は少なくdirect stentingが可能.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1211
117) 当院に於けるMULTI-LINK PIXELの初期治
療成績
(中部ろうさい病院循環器科) 横井公宣・
安藤博彦・新井孝介・植谷忠之・天野哲也・
加藤真隆・丸井伸行・南木道生
120) 難治性VT,左心室瘤,MR及びOMIに対し,
VT cryoablation,SAVE,MAP及びCABGを施行し
た1例
(市立四日市病院) 為西顕則・岡本 浩・
伊藤 豊
食生活の欧米化・冠動脈CTなど非侵襲的検査の
進歩・薬剤溶出性ステントの登場などによりPCI
の件数は増加している.PCI症例では女性・高齢
者・糖尿病など小血管患者の占める割合が高いた
め,小血管用に開発されたMULTI-LINK PIXEL
を植え込む事の有効性・安全性を当院にて施行さ
れた連続した25症例をレトロスペクティブに追跡
する事により検討した.その結果,良好な初期治
療成績と術後30日後の時点での低いMACE発生
率によって有効性・安全性は高いと考えられた.
今後はより多くの症例数における術後180日後の
時点でのMACEの評価および無作為化対照試験
の実施による評価を行う事が望まれる.
【症例】59歳,男性【現病歴】平成14年5月,広範
囲前壁心筋梗塞発症.入院中にVTあり,ICD植
え込み術施行.以後作動頻回.平成17年8月,VT
頻回にて入院.薬物治療行うが,作動頻回にて当
科紹介.【手術】12月22日,VT cryoablation,
SAVE,MAP及びCABGを施行.CPB時間228分,
AoX時間40分.【術後経過】うっ血性心不全の薬
物治療及び膿胸併発し,長期治療となるも徐々に
回復.【結論】難治性VT,左心室瘤,MR及び
OMIに対し,VT cryoablation,SAVE,MAP及
びCABGを施行した1例
118) 当院での冠動脈インターベンションにおけ
る血栓吸引療法にて採取された組織と臨床所見の
検討
(岡崎市民病院循環器内科) 日比野通敬・
田中寿和・平井稔久・安田信之・三木 研・
神谷裕美・丹羽 学・石川清猛・岩瀬敬佑・
田中哲人・藤田雅也
121) 入院中心肺停止となり蘇生後緊急CABGに
て対応できた2症例
(春日井市民病院心臓血管外科) 高味良行・
増本 弘
(同循環器科) 寺沢彰浩・田近 徹
【目的】急性冠動脈疾患における血栓吸引療法に
おいて採取された組織の性状と臨床所見,冠動脈
造影所見との検討を行うことによって今後の治療
方法に有効な所見が得られるかどうか考察した.
【方法】採取した吸引物を組織学的に検討し,臨
床所見,冠動脈造影所見,再狭窄率,左室収縮率
などとの比較を行った.【成績】採取物は組織学
的にplaque+thrombus群とthrombus群に大別可
能であった.患者の身体所見や血液データ,左室
収縮率,臨床所見にもは2群間で有意な差はなか
った.しかしbinary restenosisに関してはthrombus群の方がplaque+thrombus群よりもbinary
restenosisの率は高かった.【結論】急性冠動脈
症候群では血栓吸引療法で採取された組織の所見
の相違がbinary restenosisの差として反映される
可能性が示唆された.
119) 当院における慢性完全閉塞病変再開通率の
変遷(ストラテジーの選択を中心に)
(公立陶生病院) 神原貴博・味岡正純・
水野 亮・植村祐介・加藤勝洋・横井健一郎・
中谷理絵・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
第 127 回東海地方会
23歳男性.既往歴・家族歴に特記事項なし.冠危
険因子は1日2本の喫煙(3年間)のみ.健康診断
で心電図異常と肝酵素上昇を指摘され受診.運動
負荷シンチで下壁と心尖部に集積低下を認めた.
心臓カテーテル検査を施行したところ#1∼2にび
まん性の99%狭窄,左前下行枝にもびまん性の
90%狭窄を認め,血管内超音波ではそれぞれに全
周性のプラークを認めた.病変部全長にSTENT
を留置して血行再建を行った.後日,抗カルジオ
リピン抗体陽性と判明した.冠危険因子が少ない
若年発症の心筋梗塞であり,抗リン脂質抗体症候
群がプラーク形成に関与していると疑われる興味
深い症例を経験したために報告した.
124) 3D-IB-IVUSとMDCTによる冠動脈プラー
クイメージ
(岐阜大学医学部附属病院第二内科)
八巻隆彦・川崎雅規・大久保宗則・石原義之・
森 麗・岩佐将充・安田真智・久保田知希・
田中新一郎・小塩信介・土屋邦彦・西垣和彦・
竹村元三・湊口信也・藤原久義
【症例1】79歳男.平成17年1月29日AMI・心不全
にて入院.2月24日トイレで心肺停止に陥り,挿
管・心肺蘇生.心電図II, III, aVFのST上昇を認 【目的/方法】同一患者の同一病変に対しIntegrated
め緊急CAG.#1へPCI.石灰化が強くワイヤー
backscatter血管内超音波(IB-IVUS)とマルチデ
とローターヘッドが切断され遺残.#6にも有意
ィテクターCT(MDCT)を施行.IB-IVUS画像
狭窄があるため緊急手術.off pumpでLITA-LAD
にて冠動脈プラークの組織性状を診断.IB-IVUS
を吻合.右冠動脈を切開し,遺残物除去,自己心
との比較によりMDCTにおけるプラーク性状の
膜でパッチ閉鎖.独歩退院.【症例2】73歳男.糖
Hounsfield number(HU)を決定.組織性状別に
尿病性腎症にて平成15年5月から血液透析.平成
カラーコード化したMDCTの長軸,短軸像を三
17年9月20日透析中胸痛を認めAMIにて入院.10
次元化したIB-IVUS画像と比較した.【結論】IB月3日心停止.挿管され緊急CAG.冠動脈病変高
IVUSにおけるIB値とMDCTにおけるCT値を比較
度で,緊急手術.on-pump beatingでLITA-LAD, すれば,臨床においてMDCTによるプラークの
SVG-4P吻合.11月1日循環器科へ転科しLCX, 組織性状診断が可能であることが検証された.そ
RCAへのPCIが順次追加された.患者層が重症化
れらの比較に基づいて構築されたMDCT長軸断
しているため,入院中とはいえ心停止となりえ,
面像は3D IB-IVUS像をよく反映していた.
緊急手術を含め迅速な対応をとれることが肝要で
ある.
122) CABG後10年以上経過したGEA graftの造
影所見
(名古屋第一赤十字病院心臓血管外科)
吉住 朋・伊藤敏明・中山雅人・阿部智伸・
萩原啓明・中山智尋
当施設でCABG後10年以上経過し,造影したGEA
CTOに対するguide wire不通過症例の大多数が,
graftが3例あり,開存性について検討した.【症
内膜下腔へと進入したwire先端を真腔内に復帰さ
例1】手術時55歳男性.H7年,APにCABG×3
せることが出来ないことで発生していた.wire操 (LITA-LAD,SVG-PL,GEA-4PD)施行.術後早
作から内膜下腔が拡大し,結果的に真腔を捕らえ
期CAGで各graft開存.H17年,APを疑いCAG施
る こ と が 困 難 に な る こ と が 多 か っ た . 近 年 , 行.SVG狭窄.LITA,GEAは完全開存.【症例2】
ConquestPro(Asahi-Getz Brz.)などの穿通性に
手術時59歳男性.H6年APにCABG×2(LITA-LAD,
優れたwireの登場によって,内膜下腔を拡大する
GEA-4PD)施行.術後早期CAGで各graft開存.
ことなく短期間のwire操作で真腔を捉えることが
H16年,APを疑いCAG施行.LITA,GEAは完全
可能となった.当院におけるConquest Proによる
開存.LCXに新規病変.
【症例3】手術時52歳男性.
CTO病変の治療成績を検討するため,2005年1月
H6年APにCABG×3(LITA-LAD,SVG-D1,
1日∼2006年4月31日に,当院のCTOに対するPCI
GEA-PL)施行.術後早期CAGにてLITA,GEA
症例64症例のうち,Conquest Proを使用した23例
開存.SVG閉塞.H17年,無症状であるが,術後
について,PCI治療成績を検討したので報告する.
10年以上経過.本人の希望ありCAG施行.LITA,
GEA完全開存.SVG閉塞.経験した術後10年以上
経過したGEAは3例とも開存良好であった.GEA
は長期開存が期待できるgraftだと考えられる.
1212
123) 若年で多枝心筋梗塞を発症しIVUSでプラ
ークを確認した抗リン脂質抗体症候群の関与が疑
われる1例
(磐田市立総合病院循環器内科) 渡辺知幸・
鈴木信吾・坂本篤志・菅野大太郎・上杉 研・
仲野友康・鈴木厚子
125) 冠動脈リモデリングとプラーク組織性状の
関連 −IB-IVUSを用いた検討−
(岐阜大学再生医科学循環・呼吸病態学第二内科)
石原義之・川崎雅規・大久保宗則・森 麗・
岩佐将充・安田真智・久保田知希・
田中新一郎・八巻隆彦・小塩信介・土屋邦彦・
西垣和彦・竹村元三・湊口信也・藤原久義
【目的】冠動脈リモデリングとプラーク組織性状
の関連を検討した.【方法】29患者,29の中等度
狭窄病変を対象としたIVUSを行い,IB-IVUS
(integrated backscatter-IVUS)にて解析,組織性
状を評価.40MHz IVUSカテーテルからRF信号を
とりだし,そのIB値よりプラーク組織を石灰化,
線維組織,脂肪組織に分類.プラークの%lipid
area(lipid area/plaque area),%fibrous area
(fibrous area/plaque area),vessel area,lumen
area, plaque burden, eccentricity index,
remodeling indexを求めた.【結果】vessel area
と%fibrous area(r=-0.49,P<0.01),vessel
areaと%lipid area(r=0.51,P<0.05)に相関関
係を認めた.【結語】冠動脈の中等度狭窄病変で
は血管断面積が増大するほどプラーク全体に占め
る脂質成分の割合が大きかった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
126) 当院におけるMDCTと冠動脈造影の比較検討
(市立島田市民病院循環器科) 金森範夫・
堂山 清・福岡良友・樋口博一・松岡良太・
久保田友之・荒木 信・谷尾仁志・近藤真言
【目的】当院における16列MDCTの冠動脈狭窄診
断能を検討した.【方法】対象は虚血性心疾患を
疑われてCTAを施行した108名のうち1ヶ月以内に
冠動脈造影(CAG)を施行しえた30名.評価病変
はAHAのseg1∼13を評価した.狭窄率50%以上を
有意狭窄とした.【結果】3名が不良画像により判
読不能であった.27名のうちCAGで冠動脈病変を
認めたのは19名(70.1%)であった.CTAでは全
376セグメントのうち判読可能なセグメントは336
セグメントであった.判読可能なセグメントにお
ける感度,特異度,陽性適中率,陰性適中率はそ
れぞれ97.6%,93.9%,69.0%,99.6%であった.
【結論】16列MDCTは冠動脈疾患の診断に有用で
あると考えられた.
127) Slow Flow症例におけるMSCT所見の検討
(藤田保健衛生大学循環器内科) 井上薫里・
元山貞子・皿井正義・佐藤貴久・成瀬寛之・
石井潤一・尾崎行男・菱田 仁
【目的】経皮的冠動脈形成術(PCI)施行時にslow
flowを認めた症例のマルチスライスCT(MSCT)
所見を検討した.【方法】PCI施行前,2週間以内
にMSCTを施行しえた31例.急性心筋梗塞7例,
不安定狭心症10例,安定狭心症14例.PCI施行時
にslow flowを認めた症例の責任病変のMSCT所
見を検討した.新規病変のみを対象とし,再狭窄
部位は検討から除外した.【結果】3例(急性心筋
梗塞2例,不安定狭心症1例)でslow flowを認め
た.3例とも,責任病変にMSCTでソフトプラー
クを認めた.MSCTでソフトプラークを認めなか
った15例では,slow flowを認めなかった.
【結語】
MSCTでソフトプラークを認めるとPCI施行時に
slow flowをきたす可能性があると思われた.
128) slow flow発生症例における,64列MDCT所
見の考察
(中部ろうさい病院) 安藤博彦・丸井伸行・
加藤真隆・天野哲也・植谷忠之・新井孝典・
横井公宣・南木道生
slow flowはPCIによる合併症であり,ときに広範
な心筋障害を起こすことがある.今回我々は当院
で施行した78例のPCI施行症例について,slow
flowを起こした群(n=12)とslow flowを起こさ
なかった群(n=66)に分け,MDCTにおける病
変部のプラークの性状を解析した.その結果
slow flow群では非slow flow群に比べ,総プラー
ク量に占めるソフトプラーク量の割合が有意に高
いことが示された.以上よりMDCTを用いてプ
ラークを解析することにより,slow flowを起こ
しやすいプラークを認識できる可能性があること
が示唆された.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
129) small vesselに対するDESの使用成績
(公立陶生病院) 加藤勝洋・味岡正純・
水野 亮・植村祐介・神原貴博・横井健一郎・
中谷理絵・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
Bare Metal Stent(BMS)を用いた small vessel
に対するステントの留置は再狭窄率が高かった
が,Drug Eluting Stent(DES)の留置によって
良好な結果が報告されている.今回small vessel
に対するDESの成績について検討する.対象は
2001年1月から2005年7月までに2.5mm径のステン
トが留置された96症例123病変を対象とした.
BMSは50症例67病変に留置され,平均年齢は
70.7±8.6歳,再狭窄率は50.7%であった.その一
方でDESは46症例56病変に留置され,平均年齢
は69.5±10.1歳,再狭窄率は10.7%であった.
small vesselに対するDESの成績はBMSと比較し
て良好であった.
130) び慢性冠動脈病変におけるシロリムス溶出
性ステントのfull lesion coverage stentingとspot
stentingの比較
(豊橋ハートセンター循環器科) 児玉淳子・
木下順久・寺島充康・加藤 修・松原徹夫・
土金悦夫・江原真理子・武田吉弘・那須賢哉・
田中延宜・村田 朗・藤田浩志・佐藤公洋・
鈴木孝彦
【背景】び慢性冠動脈病変におけるシロリムス溶
出性ステントのfull lesion coverage stenting(FC)
とspot stenting(SP)の予後は現在まで明らかに
なっていない.
【目的・方法】病変長が50mm以上
のび慢性病変に対してFCを行った68病変(64人)
とSPを行った42病変(41人)でステント留置1年
以内の合併症とMACEの発生率を比較検討した.
【結果】FC群では平均ステント数は2.5±0.9,平均
ステント長は65.3mm(51-138mm),SP群では平
均ステント長は18.0mmであった.亜急性血栓症
はFC群の1例に生じたがSP群では認められなかっ
た.2群間で心筋梗塞発生率や死亡率に有意差は
認められなかったが,FC群はSP群よりTLR率が
高い傾向にあった.(19.1% vs. 7.1%;p=0.09)
【結論】び慢性病変に対するfull lesion coverage
stentingは必ずしも有用とは言えなかった.
131) 当院における silorimus-eluting stent(CypherTM)
留置例の中期成績
(三重ハートセンター生理機能検査部)
内田文也
(同循環器科) 西川英郎・鈴木啓之・
前野健一
(同生理機能検査部) 辻井正人・西山優子
(同看護部) 山本嘉恵
133) LMTにCypher stent留置後SATを併発した1例
(名古屋第一赤十字病院) 永広尚敬・
椎野憲二・山村由美子・関根 愛・片岡義之・
加藤サラ・鬼頭哲太郎・牧野光恭・花木芳洋・
神谷春雄・大野三良
(名古屋大学病院) 北村和久
症例は55歳,男性.平成17年11月胸痛・呼吸苦を
主訴に近医受診.急性心筋梗塞と診断されるも本
人の希望で内服にて帰宅.数日後再び呼吸苦出現
し,近医受診後救急車にて搬送.心不全にて人工
呼吸管理下ICU入院.心不全コントロール後,12
月に冠動脈造影施行したところ左冠動脈主幹部
(LMT)より回旋枝(LCX)入口部及び前下行枝
(LAD)中間部に高度狭窄認められ,LADにPCI
施行,Cypher stent留置して拡張.平成18年1月に
はLMTよりLCX入口部に対しPCI施行,Cypher
stent留置しKBTにて良好な開存が得られた.退
院後,右鼠径部に皮下膿瘍認められ全身麻酔下切
開排膿術施行.抜管後に突然の肺水腫認め,
Stent閉塞疑い,冠動脈造影施行.LMTに血栓閉
塞認め,再度PCI施行した.LMTにCypher stent
留置後感染を機にSATを併発した症例を経験し
たので報告する.
134) CYPHERTM留置後4ヶ月にて再閉塞から心
原性ショックに陥った透析患者の1剖検例
(公立陶生病院) 横井健一郎・味岡正純・
水野 亮・植村祐介・加藤勝洋・神原貴博・
中谷理絵・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
CYPHER留置4ヶ月後に急性心筋梗塞で死亡し
た透析患者の一剖検例を経験した.平成17年3月
不安定狭心症のため右冠動脈入口部の90%狭窄に
SESを留置した.同年7月急性心筋梗塞を来し緊
急PCIを行った.同部の高度狭窄を認めSESを留
置したが心原性ショックが遷延し翌日死亡した.
剖検でSES留置部分は,二重のステント間に肉眼
的に明らかな薄い膜を認めた.病理学的には内膜
の繊維性肥厚と考えられた.ステント周囲の冠動
脈は石灰化が非常に高度であった.最初に留置し
たSESを電子顕微鏡下で観察すると,ステントの
血管壁側のポリマー層が剥脱し金属面が剥き出し
になっている部分を認めた.deliveryの際固い血
管壁で削げ落ちたと思われる.DESによるPCI特
有の問題として,ポリマー層を傷つけない留置法
を今後検討する必要がある.
135) 当院DES治療におけるチクロピジン合併
症と予後について
(市立島田市民病院循環器科) 福岡良友・
堂山 清・金森範夫・樋口博一・松岡良太・
久保田友之・荒木 信・谷尾仁志・近藤真言
【背景】Drug eluting stent(DES)を用いる際に,
本邦で使用できる抗血小板剤はアスピリンを除い
てはチクロピジンのみである.チクロピジン使用
【目的】Cypher留置例の病変性状を解析し,術後
例での副作用発現率,心血管イベントの発生率を
6ヶ月・1年の臨床経過を検討.【対象】2004年11
報告した臨床研究は多い.【目的】当院DES治療
月5日から2006年2月29日までのPCI連続490例, におけるチクロピジン合併症と予後について検討
Cypher留置367例442病変,平均年齢68.3歳.【結
する.【対象】当院でDES留置を行った連続42例
果】AP83%,AMI4%で,糖尿病34%.long
に対してチクロピジンの副作用発現率および,心
lesion(>30mm)11%,LMT5%,CTO11%,分
血管イベント発生率〈亜急性血栓閉塞(SAT),
岐部22%に留置.MACEは6ヶ月1.0%,1年2.9%. 標的血管再血行再建(TVR)
〉を調査した.
【結果】
SATはアスピリン・シロスタゾール服用下1例, チクロピジンによる副作用発現率は21%で,発現
プロテインC欠損症1例の計2例(0.5%).再狭窄
までの期間は大部分が2ヶ月以内であった.心血
はLMTのY-stenting1例,stent fracture2例の計3
管イベントに関してはSATの出現はなく,6ヶ月
例(0.8%).【結論】中期成績は良好も,今後晩
後の冠動脈造影が施行できた症例では,チクロピ
期ステント血栓症の発症や再狭窄を来たす病変の
ジンが継続不可能となった6例を含めて再狭窄は
解析が必要.
認めなかった.
名古屋国際会議場(2006 年 6 月)
1213
136) 定量的冠動脈造影(QCA)を用いたSirolimusEluting Stet(SES)の評価
(藤田保健衛生大学循環器内科) 菅 志乃・
尾崎行男・奥村雅徳・中野 禎・井上薫里・
佐藤貴久・松井 茂・成瀬寛之・加藤 茂・
石井潤一・平光伸也・菱田 仁
139) delivery困難な症例に対して"Rebirth"を用
いてCYPHERTMを留置する新しい試み
(公立陶生病院) 植村祐介・味岡正純・
水野 亮・加藤勝洋・神原貴博・横井健一郎・
中谷理絵・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
近年,SESは盛んに用いられている.2004年10月
から2005年6月までにSESを植え込んだ症例の内8
ヶ月後の造影を行った107症例122病変について
QCAを用いて評価した.参照血管径(RD pre)
は2.48±0.47mm,最小内径(MLD pre)は0.93±
0.29mm,MLD postは2.29±0.40mm,MLD follow upは2.12±0.49mmであった.Acute gain
(MLD post minus MLD pre)は1.37±0.43mm,
late loss(MLD follow-up minus MLD post)は
0.17±0.41mmであり,late lossの少なさがSESの
慢性期の良好な臨床成績に結びついていることが
示唆された.
2004年8月にdrug-eluting stent(DES)が認可さ
れ,様々な病変にも使用されている.現在使用さ
れているCypher TM はデリバビリティが悪いこと
が指摘されており,特に高度石灰化病変では,石
灰化によってステントそのものが変形,リコイル
を起こす可能性があることや,そのデリバリーに
おいて,ステント表面が石灰化によって擦過され,
ポリマーの剥離,ステント表面の露出といった現
象が起こる可能性が指摘されている.こうした病
変に対して,血栓吸引カテーテルである
RebirthTMを子カテとして用いて,CypherTMを病
変部にデリバリーすることを試み,良好な血流を
得た5症例を経験し,有用なストラテジーと考え
られたためここに報告する.
137) Delayed stent fracture following sirolimuseluting stent implantation:4 cases reports
(愛知県立循環器呼吸器病センター循環器科)
郷地朋子・梅田久視・吉田直樹・前川博信・
二宮雄一・渡辺康介・岡田太郎・浅井 徹・
谷智 満・横家正樹・村上善正・松下豊顯・
清水 武
近年sirolimus-eluting stent(SES)留置後の再狭
窄の一因としてDelayed stent fracture(DSF)が
注目されているが,詳細なメカニズムは十分に明
らかにされていない.当院においても5症例に
DSFを認めたので検討した.責任血管は右冠動脈
3例,回旋枝1例,左前下行枝1例.全例が屈曲病
変であり,3例で屈曲が複数存在した.Total
stent length(mm)は,それぞれ31, 64, 41, 82, 23
で4例がmultiple stentingであった.Stent diameter
(mm)は3.5, 3.5, 3.0, 3.0, 2.5,Maximum pressure
(atm)は,14, 16, 16, 18, 22.5症例中,3例で
hinge motionを認めた.Overlap-edgeでのDSFは
3例で認めた.再狭窄は2例で認め1例で再PCIを
施行した.複数の高度な屈曲病変にmultiple
stentingを施行する際は,overlap-edgeのDSFを
念頭に置く必要があると思われる.
138) 糖尿病患者におけるCypher stentの成績
(小牧市民病院循環器科) 川口克廣・
水野智文・松野記代子・戸田夕紀子・
中野雄介・上山 力・三井統子・早川誠一・
今井 元・近藤泰三
【目的】糖尿病(DM)患者における薬剤溶出ステ
ントの治療成績を非糖尿病(nDM)患者の成績と
比較検討すること.
【方法】対象は,DM群62例80
病変,nDM群70例94病変.ステント再狭窄病変
は除外した.【結果】DM群,nDM群で臨床的背
景,血管径,狭窄長,術前の最小血管径・狭窄度,
ACC/AHA分 類 に 差 は な か っ た . Acute gain
(DM群;1.83mm,nDM群;1.75mm)は有意差
はなかったが,late loss(DM群;0.26mm vs. n
DM群;0.08mm;p=0.3)はDM群が大の傾向で
あった.慢性期再狭窄率はDM群8.8%,nDM群
4.2%(p=0.6)で,有意差はないもののDM群で
高い傾向を示した.【総括】非糖尿病群に比べる
と,糖尿病群の薬剤溶出ステントの成績は劣るも
のの,従来のデバイスに比べると良好であり,糖
尿病群においても薬剤溶出ステントの有用性が示
された.
1214
第 127 回東海地方会
140) 薬剤溶出性ステントによる前下行枝起始部
病変の治療
(県西部浜松医療センター循環器科)
山本和彦・澤崎浩平・岡田耕治・原田 憲・
武藤真広・杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
〈抄録未提出〉
132) 分岐部病変に対するCYPHER T M のsingle
stent PCIの成績
(公立陶生病院) 中谷理絵・味岡正純・
水野 亮・植村祐介・加藤勝洋・神原貴博・
横井健一郎・三宅裕史・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
〈演題取り下げ〉
42) 総腸骨動脈のCTOにPTAを行いIABP挿入
を要した重症心不全の1例
(公立陶生病院) 三宅裕史・味岡正純・
水野 亮・植村祐介・加藤勝洋・神原貴博・
横井健一郎・中谷理絵・長内宏之・中島義仁・
浅野 博・酒井和好
80) ミコナゾール・ゲルとワーファリンの併用
により著明にPT‐INRが上昇した一例
(豊橋市民病院心臓血管呼吸器外科)
木田直樹・矢野 隆・渡邊 孝・村山弘臣・
大原啓示・小林淳剛
今回我々は,前下行枝起始部病変に対して薬剤溶
出性ステント(DES)を主幹部から病変部にか
けて留置する新たな治療戦略を血管内超音波
(IVUS)により検討した.2004年6月から2006年1
月までに前下行枝起始部病変を有する26人の患者
に対して,主幹部から病変部にかけてDESを留
置し,回旋枝に対してはstrutをバルーン拡張し
た.12人で追跡造影が終了したが,ステント本幹
には再狭窄はなく,1人で回旋枝入口部にfocalな
再狭窄を認めたのみであった.IVUSによる評価
では主幹部,前下行枝および回旋枝入口部の最小
内腔面積は術直後とほぼ同等であった.以上より,
前下行枝起始部病変に対して薬剤溶出性ステント
を主幹部までカバーする留置方法は,安全かつ有
効であると考えられた.
141) 慢性完全閉塞病変に対するDrug-Eluting
Stentの初期及び遠隔期成績
(豊橋ハートセンター循環器内科)
藤田浩志・木下順久・寺島充康・児玉淳子・
佐藤公洋・村田 朗・田中延宜・那須賢哉・
武田吉弘・江原真理子・土金悦夫・松原徹夫・
加藤 修・鈴木孝彦
【目的・方法】当院の慢性完全閉塞病変(CTO)
に対するDESの初期・遠隔期成績につき検討し
た.対象はPCIを施行したCTO 292病変(CTO群)
とCTO病変を除いたtype-C 744病変(non-CTO
群).両群をSES群,BMS群,stent非使用群に分
類し,初期成績,急性期・遠隔期(6ヵ月後)の
cardiac eventの比較を行った.【結果】急性期
cardiac eventとして冠穿孔の発症がCTO群で
non-CTO群に比し有意に高率であったが,死亡
含めた他のeventでは差はなかった.DES使用に
よる急性期cardiac eventの増加はなかった.6ヵ
月後のMACEはBMS群,stent非使用群でCTO群
がnon-CTO群より有意に高頻度で認められたが,
SES群ではCTO群,non-CTO群で差はなかった.
【結論】DESのCTO病変への使用は,初期成績に
影響することなく遠隔期のMACEを減少させ,
non-CTO病変と同等の遠隔期成績を得られた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
第 101 回 日 本 循 環 器 学 会 近 畿 地 方 会
2006 年 6 月 24 日 神戸国際会議場
会長:大 北 裕(神戸大学呼吸循環器外科学)
1) シ ロ リ ム ス 溶 出 ス テ ン ト の Jailed Side
Branchに対する内膜増殖抑制及び狭窄退縮効果
(大阪労災病院循環器科) 玉井敬人・
西野雅巳・松岡 研・加藤弘康・江神康之・
習田 龍・山口仁史・田中健二郎・棚橋秀生・
田内 潤・山田義夫
【目的】今回我々はシロリムス溶出ステント(SES)
におけるJailed Side Branchの内膜増殖抑制及び
狭窄退縮効果をBare Metal Stent(BMS)と比較
した.【方法】対側枝をjailする形でLADにステン
トを植え込み対側枝に対して後拡張を行った非糖
尿病患者連続17例を対象とした.6ヶ月後の冠動
脈造影で対側枝の後拡張部をSES,BMS群間で比
較した.【成績】SES群で対側枝の内膜増殖は少
ない傾向にあり(33% vs 73%),狭窄退縮は有意
に高かった.(33% vs 0%,p<0.05)【結論】SES
はJailed Side Branchに対して内膜増殖抑制及び
狭窄退縮効果をもつ可能性が示唆された.
2) 当院におけるCypher stentTMの治療成績
(市立加西病院内科) 安積 啓・上月 周・
川森裕之・河合恵介・北崎和久・森 益規・
山辺 裕
3) ステント内再狭窄に対するシロリムス溶出性
ステント留置後の新生内膜増殖−血管内視鏡によ
る観察−
(関西労災病院循環器科) 粟田政樹・
小谷順一・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
大西俊成・飯田 修・井藤紀明・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・永田正毅
【目的】ステンレスよりも薄いコバルトを材質と
【背景】ステント内再狭窄(ISR)病変に対するシ
したステントを用いて,急性心筋梗塞における安
ロリムス溶出性ステント(SES)留置後の新生内
全性と有効性を検討した.【方法】急性心筋梗塞
膜増殖は明らかでない.
【対象と方法】ISRに留置
に対してDriverTMステントを留置した48症例56病
したSES(n=11)およびde-novo病変に留置した
変および同社製のS670TMステントを留置した52症
SES(n=20)を対象に内視鏡所見からストラット
例60病変の初期および遠隔期成績を比較検討し
の被覆状態を4段階に分類(Grade 0:被覆なし, た.
【結果】ステント長は有意にコバルトステント
Grade 1:被覆されるが新生内膜内に埋没していな
の方が長くなった(22.3±5.5mm VS 17.5±4.2mm:
い,Grade 2:ストラットは埋没しているが観察可
P<0.001)が,ステント径,初期留置成功率に有
能,Grade 3:新生内膜内に埋没しストラットが観
意差を認めなかった.また6ヶ月時点での再狭窄率
察不可)し比較検討した.
【結果】観察期間4±1 (17.4% VS 25.0%:P=NS)
・再治療率(8.3% VS 9.6
ヶ月における結果は,
Grade 0 = ISR versus de-novo:
%:P=NS)や,死亡(8.3% VS 5.8%:P=NS)および
0 vs 5 %,Grade 1 = 82 vs 75%,Grade 2 = 9 vs 20%, ステント血栓症(2.1% VS 1.9%:P=NS)に関して
Grade 3 = 9 vs 0 %で差を認めなかった(p=0.4). も有意差を認めなかった.【結語】急性心筋梗塞
【結語】SESによるISR治療はde-novo病変と同様
に対するコバルトステントの留置は,ステンレス
の強力な新生内膜抑制効果を示した.
ステントとの比較において同等の成績を示した.
4) DES時代におけるステント内再狭窄に対す
る治療成績の検討
(康生会武田病院循環器センター)
谷口琢也・伊藤一貴・小出正洋・中村玲雄・
入江秀和・木下法之・田巻俊一
(京都府立医科大学循環器内科学)
沢田尚久・松原弘明
【目的】Cypher stent TM の治療成績を検討する.
【対象】2004年7月3日より,2005年12月13日まで
でCypher stentTMの留置を施行した連続PCI症例,
99症例152病変.【患者背景】男性77例女性22例, ステント内再狭窄をきたした病変に治療を行い,
初期成功を得,フォローアップが可能であった
平均年齢69歳.緊急病変は8症例.RCA 33%:
LAD 44%:LCx 20%:LMT 3%であった.【結果】 162病変について検討した.再々狭窄率は42.6%
初期成績は100%で,mionor comlicationを5%に認 (69/162)であった.使用したデバイス別の検討
では,POBA群で56.9%(41/72),perfusion balめた.追跡冠動脈施行例(平均追跡期間は5.9ヶ
loon群で42.9%(6/14),cutting balloon群で
月)は,68例(98病変)であり,再狭窄例5.9%を
17.6%(3/17),BMS群では62.5%(10/16),DES
認め,TLRは,4.4%であった.MACEは2例の死
群では20.9%(9/43)であった.再々狭窄の有無
亡例があった.【結語】Cypher stentTM の治療成
で検討したところ,再々狭窄のない群では初回治
績は良好であった.今後さらなる長期成績の検討
療の際にステント拡張圧がより高く,後拡張を追
が必要である.
加した病変が有意に多かった.本研究では,ステ
ント内再狭窄に対する治療成績においてDESは
cutting balloonと同等であるが,それを越えるも
のではないと考えられた.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
5) 急性心筋梗塞に対するDriverTMステントの初
期及び遠隔期成績:S670ステントTMとの比較検討
(関西労災病院循環器科) 南口 仁・
小谷順一・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
粟田政樹・大西俊成・飯田 修・井藤紀明・
世良英子・赤堀宏州・永田正毅
6) シロリムス溶出性ステント内新生内膜被覆状
態は64列マルチスライスCTで評価しうるか?
(東大阪市立総合病院循環器科) 芥川 修・
酒井 拓・国重めぐみ・松尾安希子・
西部 彰・中川雄介・波多 丈・木島祥行
(国保中央病院放射線科) 大倉 亨
(東大阪市立総合病院放射線科) 居出弘一
症例は70歳男性,主訴は狭心症精査.冠危険因子
は高血圧,糖尿病,肥満.2004年11月の冠動脈造
影にて右冠動脈の完全閉塞病変認めた.同病変に
近位部よりbare metal stent(Driver 4.0×30mm)
とsirolimus-eluting stent(Cypher 3.0×28,2.5×
23mm)をタンデムに留置した.2005年7月に64
列マルチスライスCTを施行した(Toshiba
Aquilion 64).息止めは約8秒間,使用造影剤は
約40mlであった.Driver stent内部には新生内膜
増殖を明らかに認めるも内腔は保たれていたが,
Cypher stent内部は新生内膜増殖を全く認めなか
った.Cypherのstent strutへの慢性期の内皮被覆
状態は糖尿病患者においても最小限であることが
示唆された.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1215
7) ステント留置後の新生内膜における定量及び
定性的評価
(関西労災病院循環器科) 世良英子・
小谷順一・粟田政樹・南都伸介・上松正朗・
両角隆一・大西俊成・飯田 修・井藤紀明・
南口 仁・赤堀宏州・永田正毅
10) VH IVUSによる冠動脈内lipid poolの評価に
ついて−Gray scale IVUSとの対比
(康生会武田病院循環器センター)
入江秀和・伊藤一貴・小出正洋・宮井伸幸・
谷口琢也・中村玲雄・木下法之・田巻俊一
【背景】Lipid poolは急性冠症候群の発症に関与し
ている.Virtual Histology IVUS(VH-IVUS)は
【目的】血管内視鏡診断によるステント内新生内
後方散乱信号を使用し,プラークを線維症,繊維
膜(NIH)の程度の定量化を試みること.【対象
脂質,石灰化,脂肪壊死に分類できる.【方法】
と方法】62ステントエッジ近傍のNIHを血管内視
経皮的冠動脈形成術を施行した120例を対象とし,
鏡にて分類し,エッジより5mm以内における
Gray scale IVUSにより16例でlipid poolが観察さ
NIHの最大厚を血管内超音波(IVUS)にて計測
れ,これらをVH IVUSで検討した.【結果】プラ
した.【結果】ステントストラットがNIHに埋没
ーク全体とlipid pool部分の性状を比較検討する
し確認できないもの(n=38),NIHに埋没してい
と繊維脂質の割合が22.2±13.2 vs. 44.1±21.4
るがストラットは可視できるもの(n=8),NIH
(P=0.013),石灰化 3.8±4.3 vs. 0.0±0.0(P=
に埋没していないもの(n=11)のNIHの最大厚
は,それぞれ0.43±0.25mm,0.20±0.27mm, 0.013),脂肪壊死 9.1±8.0 vs. 0.4±1.0(P=0.003)
であり,lipid pool内は繊維脂質の割合が有意に
0.12±0.17mmであったが,留置直後と同様の所
高く,石灰化と脂肪壊死の割合が有意に低値であ
見を呈した5部位の計測は不可能であった.これ
らの分類におけるNIH厚は,ストラットの透過あ
った.【結語】VH IVUSを使用することにより冠
るいは被覆状態により有意に異なった(P<
動脈粥状硬化のより詳細な評価ができる可能性が
0.0001).【結論】血管内視鏡によるNIH評価は, 示された.
その厚さと関係する可能性がある.
8) 冠動脈プラークを新規画像診断法で評価しえ
た1例:64列MDCT,VH-IVUS,IB-IVUSの比較
(大阪警察病院心臓センター内科)
小松 誠・小笠原延行・平山篤志・児玉和久・
上田恭敬
(東大阪市立総合病院循環器科) 芥川 修・
木島祥行
冠動脈プラークを64列MDCT,VH-IVUS,IB-IVUS
で比較しえた1例についてそのプラークを比較検
討し報告する.78歳男性,労作時胸痛にて受診,
冠動脈CTで右冠動脈に亜閉塞を認め,Plaque Map
では石灰化及びsoft-intermediate plaqueを認めた.
そこで運動負荷シンチグラムを施行,下壁に虚血
を認めたためPCI目的で入院となった.VH-IVUS
では,fibrous-fibrofatty plaqueにnecrotic coreと
石灰化を認めた.IB-IVUSでもfibrous-fibrofatty
plaqueを認め,おおむねこれらの局在は一致し
た.
9) Virtual Histology IVUSを使用した冠動脈病変
の評価
(康生会武田病院循環器センター)
入江秀和・伊藤一貴・小出正洋・宮井伸幸・
谷口琢也・中村玲雄・木下法之・田巻俊一
【背景】急性冠症候群の発症には脆弱なプラーク
の破綻が関与している.Virtual HistologyTM IVUS
(VH IVUS)では,IVUSの後方散乱信号を組み合
わせることにより,プラーク内の線維症,繊維性
脂肪組織,石灰化,脂質壊死を診断できる.【方
法】経皮的冠動脈形成術が施行された連続80例を
対象とした.IVUSから得られたデータをVH
IVUSで解析し,そのプラーク成分の割合と冠動
脈危険因子との関係を比較検討した.【結果】プ
ラーク成分の割合は70歳以下と比較して70歳以上
で有意に石灰化成分の割合が高く(10.1±12.9%
vs. 15.7±11.1%,P<0.05),また残存病変と比較
して新規病変で線維性脂肪組織の割合が有意に高
値であった(9.4±12.3 vs. 17.4±21.6,P<0.05).
【結語】VH IVUSの使用により責任病変のプラー
クの組織学的特徴が明らかにされた.
1216
第 101 回近畿地方会
13) 心房細動を合併した心筋梗塞患者でのジピ
リダモール負荷心筋シンチ時にみられた興味ある
心拍変動について
(康生会武田病院不整脈科) 吉田由紀・
全 栄和
(京都大学循環器内科学) 岸本千晴
(厚生会武田病院循環器科) 中村玲雄・
伊藤一貴
【症例】62才,男性.心房細動を合併した陳旧性
心筋梗塞(平成10年に発症).冠動脈の再評価目
的でジピリダモール負荷タリウム心筋シンチを行
った.前:BP126/86mmHg,HR72/分でaf.ジ
ピリダモールの静注(0.56mg/kgを4分間で静注
の標準方法)後も10分間にわたって,ほぼHR62/
分,血圧120-130/76-85mmHgと一定であった.
シンチの結果は,下壁の欠損像と側壁に再分化が
みられた.【考察】ジピリダモールの作用機序は,
内因性のアデシンを介すことによるとされてい
る.一方,アデノシンには,中枢性と末梢性のレ
セプターが存在し,血管拡張作用は主に前者に,
徐脈作用は主に後者に属する,と考えられている.
本患者でみられたジピリダモール静注後の規則的
R-Rについて若干の考察をまじえて報告する.
11) 50歳未満の若年急性心筋梗塞についての検討
(大阪警察病院心臓センター) 上田恭敬・
小笠原延行・大薮丈太・岡田佳築・奥山裕司・
小松 誠・岡 崇史・大森洋介・村川智一・
平山篤志・児玉和久
14) 運動時無症候性ST上昇を認めた症例
(和歌山県立医科大学循環器内科学)
上野悟史・島本幸子・辻岡洋志・黒井章央・
財田滋穂・久保隆史・津田和志・羽野卓三・
赤阪隆史
1999年7月∼2005年11月における50歳未満の急性
心筋梗塞66症例について背景因子を検討し,その
うち梗塞責任血管の血管内視鏡検査を施行した20
症例については血管内視鏡所見をも検討し,発症
機序について考察した.背景因子では,喫煙,肥
満,高脂血症の頻度が50歳未満の症例で,同時期
の50歳以上の症例に比して大であった.50歳未満
の症例で,黄色プラークを認めた14例と認めなか
った6例を比較すると,黄色プラークを認めた方
が年令が高値となった以外に,背景因子に差を認
めなかった.以上より,50歳未満の急性心筋梗塞
症例では,喫煙,肥満,高脂血症の関与が大きい
と考えられたが,その中でもより若年の症例では
黄色プラークを認めずに発症する頻度が大きく,
プラークよりも血液の血栓源性の関与が示唆され
た.
40歳男性.1997年より朝の歩行中に胸痛を自覚す
るようになったが,安静で消失するため放置.
2004年心電図でST低下を指摘され運動負荷試験
を施行された.V2∼V6でST低下を認めたため,
狭心症を疑い冠動脈造影を施行したが有意狭窄は
認めなかった.2005年心電図で陰性T波を指摘さ
れ,再度運動負荷試験を施行された.無症状だが,
V4∼V6でST上昇を認めた.Brugada症候群が疑
われ入院.しかしBrugada様心電図は認めなかっ
た.ドブタミン負荷心エコーでは明らかな異常は
認めず.冠動脈造影中運動負荷かつ,過換気試験
を施行したところ,無症状だが心電図上V2∼V3
でST上昇し左前下行枝に99%狭窄を認めた.無
症候性であったために診断に苦慮した運動誘発性
冠攣縮性狭心症の一例を報告する.
12) 安静時心エコー図を用いて負荷なしに狭心
症を診断する:閉塞性動脈硬化症患者における検討
(関西労災病院循環器科) 大西俊成・
上松正朗・南都伸介・両角隆一・小谷順一・
粟田政樹・飯田 修・井藤紀明・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・永田正毅
(同生理検査室) 小林直子・大野弥生・
大畑早苗・山崎その子・孫 東淑
15) 二枝同時閉塞による急性心筋梗塞のため重
症心不全をきたした症例
(京阪奈病院) 竹中琴重・北口勝司・
尾崎春信・竹中洋幸・山内亮子・多田英司・
石井賢二
閉塞性動脈硬化症(PAD)患者は,高率に冠動脈
疾患(CAD)を合併するが,運動耐容能が低い.
組織ドプラ法(TDI)による安静時等容性拡張期
陽性速度(陽性VIR波)の検出は狭心症の診断に有
用である.本研究では心エコー図検査にTDIを加
えることにより負荷なしでCADを診断できるか検
討した.
【方法】PAD患者50症例においてTDIを用
いて心尖部アプローチにより弁輪部と左室中間部
においてVIRを検出した.CADは冠動脈造影により
確認した.
【結果】28症例(56%)がCADを有した.
ルーチン検査では感度39%,特異度100%.TDIを
加えると感度75%,特異度64%でCADを予測し得
た.
【結論】心エコー図にTDIを加えることにより
負荷なしでPAD患者に合併するCADを診断し得る.
症例は糖尿病の58歳女性.前胸部痛出現2時間後
に前ショック状態で救急来院.ECG上V2-6, II・
III・aVFのST上昇,CRBBBを認め,緊急カテー
テル検査施行,左前下行枝と右冠動脈の二枝閉塞
を認めた.PCI直前に心停止となりIABPとpacingを挿入,左前下行枝にステントを留置した.
一時心不全改善するも,数日後AVブロックと血
圧低下の為,右冠動脈にステントを留置した.血
行動態は改善したが,心室性頻拍が頻発,発熱を
契機に心不全再悪化,IABP再挿入した.1ヶ月
心機能低迷が続いたが,HDFが有効であった.
次第に心不全は改善しForresterI型で退院され
た.二枝同時閉塞からの心筋梗塞による重症心不
全に治療が難渋した症例を経験したため,報告す
る.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) DES留置(左冠動脈主幹部)から1ヵ月後,
SATを来たした症例における遠隔期内視鏡所見か
らの検討
(河内総合病院心臓センター内科)
林 隆治・石河珠代・岩田昭夫・市川 稔・
林 英宰・三嶋正芳
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
上田恭敬・平山篤志・児玉和久
症例は60歳代男性.1994年,近医にて左主幹部
病変に対し,CABGを施行した.2005年7月2日心
不全症状を訴え近医受診し精査施行したところ,
バイパスグラフトは機能不全の状態であった.7
月11日左冠動脈主幹部へCypher stent留置行った.
7月14日,総胆管結石由来の急性胆管炎を発症し
た.7月21日,内視鏡的乳頭括約筋切開術を予定
し塩酸チクロピジン,アスピリンを中止した.6
日後,亜急性血栓閉塞を発症し,POBAにて再疎
通が得られた.2005年9月より当院へ通院開始し,
12月26日Cypher stent留置後のfollow up冠動脈造
影を施行し,血管内視鏡にてCypher stentの内膜
増生を観察した.左冠動脈主幹部へのCypher stent
留置6ヵ月後の内膜増生の状況を血管内視鏡で観
察しえたので,その所見を若干の文献的考察を加
えて報告する.
17) 胃大網動脈-右冠動脈グラフト狭窄に対し
Cypherステントを留置した1症例
(三木市立三木市民病院循環器科)
平山園子・新名尚史・銕 佑介・工藤宏計・
中川雅之・江尻純哉・大橋佳隆・市川侍靖・
高月清宣・粟野孝次郎
症例は49歳男性.平成16年7月にCABG(右内胸
動脈-#8,左内胸動脈-#13,大伏在静脈-#15,胃
大網動脈-#4PD)及びDor手術後,当院心臓血管
外科にて内服加療中であった.平成18年1月頃よ
り労作時胸痛の増悪みとめ不安定狭心症として精
査加療目的にて入院.冠動脈造影上,右内胸動
脈-#8,左内胸動脈-#13,大伏在静脈-#15は良好
な開存認めるも,胃大網動脈-#4PDに90%の狭窄
を認めたため同部位に対しインターベンション施
行した.ガイドカテーテル内にサポートカテーテ
ルを通し更に穿通カテーテルにより胃大網動脈を
選択し,IVUS下にCypherステント3.0×13mmを
留置し良好な拡張を得た.今回我々は,胃大網動
脈-右冠動脈グラフト狭窄に対しCypherステント
を留置した1症例を経験したので報告する.
18) 血管内視鏡のみによって不安定プラーク破
綻を同定し得た1例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
東 大里・小松 誠・上田恭敬・奥山裕司・
小笠原延行・柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・
大薮丈太・岡田佳築・村川智一・根本貴祥・
松井万智子・平山篤志・児玉和久
60歳男性.糖尿病内服治療中.H17. 12. 17前壁急
性心筋梗塞を発症.完全閉塞の#6に対し再潅流
療法施行し,ステントを留置した.約1ヶ月後に
三冠動脈に対しIVUS(VH, IB),内視鏡,CTを
施行したところ,内視鏡のみでRCAに黄色プラ
ーク破綻および血栓を認めたが他のモダリティで
は明確な所見を認めなかった.プラーク破綻の同
定に血管内視鏡が極めて有用であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
19) 左主幹部分岐部再狭窄病変に対し方向性冠
動脈アテレクトミー単独で良好な拡張を得た一例
(神鋼加古川病院内科・循環器科)
河崎 悟・角谷 誠・伴 親徳・工藤順弘・
開發謙次・武居明日美・大西祥男・宇高 功
22) 塞栓が原因と考えられた左前下行枝の急性
心筋梗塞で対照的な転帰を迎えた2例
(京阪奈病院) 竹中洋幸・北口勝司・
尾崎春信・竹中琴重・山内亮子・多田英司・
石井賢二
症例は54歳男性.平成17年9月に労作性狭心症で
入院.左冠動脈#5 75%にたいして方向性冠動脈
アテレクトミー(DCA)を施行した.DCA3ヶ月
後の冠動脈造影では再狭窄は認めなかったが,平
成18年2月24日に労作時胸痛を訴え入院.入院後
安静時胸痛が出現したため,平成18年2月26日に
緊急冠動脈造影を行う.#5 90%,#6 75%,#11
just proximal 75%を認めたため,左冠動脈主幹
部から前下行枝および左冠動脈主幹部から回旋枝
の2分岐部病変に対してDCAを行い良好な拡張を
得られた.薬剤溶出性ステント(DES)出現後
も分岐部病変にたいする治療方法は確立されてお
らず,DES留置後長期にわたる抗血小板療法の
必要性も考慮すると,本症例のような若年症例で
はDCA aloneも重要な治療戦略と考えられるた
め,若干の文献的考察も加え報告する.
急性心筋梗塞(AMI)では早期の血行再建が予
後改善に繋がると考えられている.今回塞栓が原
因と考えられた左前下行枝のAMIに対して急性
期カテーテル的血行再建を試み,対照的な転帰を
迎えた2例を報告する.1例目は冠動脈瘤内血栓
からの塞栓によるAMIと考えられた症例でバル
ーン拡張で冠動脈は抹消塞栓による血流不十分な
結果で終了したが,慢性期は冠動脈血流・左室壁
運動共に著明な改善を認めた.2例目は心房細動
による左房からの塞栓によるAMIと考えられた
症例でやはりバルーン拡張では冠血流不十分であ
ったため積極的に血栓溶解剤を冠動脈内投与し
た.しかし,帰室直後に出血性心タンポナーデで
死亡した.塞栓が原因のAMIに対する早期血行
再建は困難な症例が多く,積極的な治療にも注意
が必要と考えられた.
20) 心房細動による心腔内血栓より急性心筋梗
塞を発症したと考えられた1症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
村川智一・奥山裕司・上田恭敬・小松 誠・
小笠原延行・柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・
大薮丈太・岡田佳築・根本貴祥・平山篤志・
児玉和久
23) 不安定狭心症へのPCI翌日に血管攣縮およ
び末梢塞栓による急性心筋梗塞を発症した本態性
血小板増多症の一例
(赤穂市民病院循環器科) 高見 充・
革嶋恒明・瀬野匡巳・安部博昭・藤井 隆
(同心臓血管外科) 藤井公輔・渡田正二
症例は66歳女性.収縮性心膜炎・慢性心房細動に
て外来通院中で心不全増悪による入院を繰り返し
ていた.今回は全身倦怠感を主訴に来院,慢性心
不全の増悪として加療目的に入院となった.入院
翌日より意識レベルの低下を認め慢性硬膜下血腫
を確認,脳外科にて血腫除去術を施行した.その
後心不全加療を継続していたが,胸痛の訴えがあ
り心電図にてST上昇を認めた.心カテ施行した
ところsegment 7に完全閉塞を認めた.赤色血栓
を吸引,吸引のみで良好な再疎通を得た.同部位
をIVUS及び内視鏡で観察したが,plaque rapture
像を認めなかった.この間ワーファリンを中止し
ていた.心房細動から生じた心腔内血栓により急
性心筋梗塞を発症したと考えられる症例を経験し
たので文献的考察を交えて報告する.
21) 心筋梗塞を繰り返すSLEの1例
(みどり病院) 稲波 宏・廣田一仁
SLEの死因の一つは心筋梗塞である.1年の間
に2度の心筋梗塞を発症しリツキシマブの投与を
行った若年女性の臨床経過を報告する.【症例】
34歳女性.26歳時,習慣性流産を経験し抗リ
ン脂質抗体症候群と診断される.28歳時,SLE
と診断.経口ステロイド5ヶ月投与後無効のため
中止.エンドキサンパルス療法を繰り返しながら
4年間経過.04年9月(32歳)労作性狭心症
出現.12月10日広範囲心筋梗塞のため心肺停
止.蘇生後責任病変(#6)にステント留置を行
った.05年7月再び狭心症出現し1ヵ月後に同
じ部位に閉塞をきたした.PCI後,血管炎の予
防と血栓閉塞回避のためリツキシマブを投与.6
ヵ月後のCAGでは内膜の肥厚を軽度を認めるの
みであった.
症例は本態性血小板増多症でフォロー中の66歳男
性.前胸部痛あり受診し,心電図でII, III, aVfで
T波陰転化,トロポニンT陽性を認め緊急CAGを
施行した.右冠動脈#2 99%狭窄認めPCI施行,
Bare metal stent留置しTIMI3のflowを得たが
IVUSでは血管内膜下にhematomaを認めていた.
翌日早朝より再度胸痛あり心電図でII, III, aVfで
ST上昇認め再度CAG施行した.造影上,右冠動
脈ステント留置部から末梢にかけて高度の血管攣
縮ならびにdistal embolismを認めた.血栓吸引施
行後もflow改善認めなかったが,アルガトロバン
およびニコランジルなどの投与によりTIMI3に改
善した.本症例では血小板増多症に加え血管攣縮
も心筋梗塞発症に関与した稀な症例と考えられ報
告する.
24) 左冠動脈前下行枝の冠攣縮性狭心症発作の
翌日に右冠動脈の冠攣縮を来した一例
(北野病院循環器内科) 佐々木健一・
猪子森明・春名徹也・中野公郷・中根英策・
細川了平・永井邦彦・西 仁勇・田中 希・
野原隆司
72歳女性.4年前と2年前に失神発作がありECG
モニター監視,トレッドミル,脳血管精査を行っ
たが異常は認められていない.本年1月,駅の階
段を上ったところで眼前暗黒感を自覚した.立位
で症状が繰り返すため近医を受診した際に前胸部
誘導でのST上昇を指摘された.翌日当院を受診
した際にはV 1-3 のT波陰転化を認め,心エコーで
前壁中隔の壁運動低下が認められ,CKの上昇は
ないがTropTは陽性であった.急性冠症候群を疑
い冠動脈造影を施行したが,検査前から70台の血
圧低下を認めた.カテコラミン点滴を行っていた
が,その後に呼吸困難感とともに心電図上II, III,
aVFのST上昇を認め,右冠動脈造影でびまん性の
冠攣縮を認めた.ISDN投与にて心筋虚血は改善
し,器質的狭窄は認めなかった.2枝の重篤な冠
攣縮を連日来したまれな症例であり報告する.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1217
25) 健診を契機に診断された若年者冠攣縮性狭
心症の1例
(奈良県立奈良病院循環器科) 中川顕志・
井上文隆・長崎宗嗣・中川陽子・大森佐和子・
濱野一將
(同救命救急センター) 佐々木弥寿延
症例は24歳,男性.健診心電図でV1-V3誘導の
QSパターンを指摘されて精査目的に来院した.
冠危険因子なし.胸痛などの自覚症状はなかった.
トレッドミルテストは陰性であったが,BMIPP
心筋シンチで下壁の虚血が疑われたため冠動脈造
影を施行した.冠動脈に有意狭窄を示さなかった
が,アセチルコリンを10μg冠注後右冠動脈にび
まん性の攣縮が誘発された.治療として硝酸薬テ
ープおよびニコランジル内服を開始した.
BMIPP心筋シンチの集積低下部が攣縮を示した
右冠動脈の灌流領域であることから,本例は自覚
症状を全く示さなかったが,無症候性虚血を発症
していた可能性がある.【結語】健診心電図から
偶然に診断された若年者冠攣縮性狭心症の1例を
経験した.
26) ヘパリン不使用冠動脈造影にても冠動脈内
血栓が惹起された抗ヘパリン-抗PF4複合体抗体
(HIT抗体)陽性の一例
(宝塚市立病院循環器科) 大西 衛・
植田充典・堤千佳子・澁谷真彦・廣本憲司・
小田成彦・高橋敬子
28) PCIを選択しなかったLMT責任ACSの一例
(兵庫県立淡路病院循環器科) 名村宏之・
小川啓子・井上拓海・楠本洋一郎・吉野直樹・
上田亮介・岡本 浩・桜本博也・宝田 明
(同心臓外科) 杉本貴樹
80歳男性.自動車運転中に30分間の胸痛あり救急
外来受診.来院時胸痛なし.心電図ST変化なし.
トロポニンIのみ軽度(2.4ng/ml)上昇.右radial
arteryより冠動脈造影施行.よく見ると左冠動脈
主幹部に造影剤のぬけあり冠血栓と考え入院,ヘ
パリンの全身投与をおこなった.翌日の冠動脈造
影でも同じ造影所見がえられ,IVUSで主幹部に
石灰化と高度の狭窄を認めた.既往に大腸がん手
術歴があり血中CEAは36であった.昨今LMTに
たいするPCIはACS,とくにAMIの例でおこなわれ
るようになってきているが,日頃からPCI施行の
適応をさまざまな症例を想定して検討しておくべ
きと考えられる.本例は3日後待期的CABG施行
を選択した.
29) PCIにて改善した重症虚血性MRの一例
(兵庫県立姫路循環器病センター循環器科)
衣笠允雄・林 孝俊・池田嘉弘・山田慎一郎・
岩田幸代・山城荒平・水谷和郎・岡嶋克則・
月城泰栄・松本賢亮・赤神隆文・熊谷寛之・
井上通彦・村井直樹・玄 陽平・梶谷定志
64才女性,
不安定狭心症にて緊急冠動脈造影
(CAG)
施行.左冠動脈前下行枝#6に99%狭窄を認めstent
を留置し十分な拡張を得た.回旋枝#11にplaque
shiftを疑う所見があり#11にstentを留置.その後
両stent内に血栓像を認めショック状態となりIABP
挿入.ヘパリン起因性血小板減少性血栓症(HITT)
と考えアルガトロバン(Arg)投与開始.再度造
影で冠動脈内血栓は残存も冠動脈血流が得られシ
ョック状態脱出.Arg持続投与のうえ第8病日にヘ
パリン不使用CAG施行,血栓像は認めない.IVUS
にてstentの良好な拡張を確認する.しかし再び心
電図ST上昇と冠動脈内血栓を生じ血圧低下を来し
再びIABP挿入,Arg持続投与を続行.経過中著明
な血小板低下はないがHIT抗体陽性であった.ヘ
パリン不使用であってもHITT病態を生じたHIT
抗体陽性例を経験したため報告する.
症例は74歳女性.糖尿病,高血圧,高脂血症で近
医加療中.平成17年11月上旬から胸痛を自覚.そ
の後呼吸困難出現するも放置.11月22日になり症
状増悪し近医受診したところ,不安定狭心症,重
症心不全が疑われ救急搬送となった.来院時
NYHA 4度.MR4度,心電図上23aVF,V3∼6にて
ST低下.心エコーにて下壁から側壁の壁運動低下
を認め,気管内挿管下に緊急CAGとなった.LAD
90%,LCx(dominant)99%と多枝病変認め,虚
血によるMR悪化と判断し,IABP挿入下にLCxに
対しPCIを行った.IABPは第5病日に,気管内チ
ューブも第7病日に抜去となり,MRも4度から2度
に改善.その後残存病変のLADに対して12月5日に
PCIを行い,心不全のコントロール良好であった
ため退院となった.急性重症虚血性MRに対しPCI
を施行し,MRが改善した一例を経験したので報
告した.
27) PCI後末梢塞栓を示した1例-vertual histology
により組織性状を評価しえた1例
(奈良県立奈良病院循環器科) 井上文隆・
長崎宗嗣・中川陽子・大森佐和子・濱野一將
(同救命救急センター) 佐々木弥寿延
30) 待機的PCI中に心タンポナーデによるショ
ックとなり,緊急手術にて心外膜に巨大血腫を認
めた症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
柏瀬一路・上田恭敬・小笠原延行・大森洋介・
大薮丈太・岡田佳築・村川智一・根本貴祥・
松井万智子・奥山裕司・平山篤志・児玉和久
【症例】症例は78歳,男性.主訴は胸痛.狭心症
の診断で当科に紹介された.冠動脈造影はseg6-8
90%びまん性狭窄およびseg 13 50%狭窄を示し,
seg6-8にPCIが施行された.約6ヵ月後の追跡冠
動脈造影でseg13の狭窄は75%に増悪していた.
Seg13病変部のPCI前のIVUS(Volcano社製)に
よるvirtual histology(VH)解析では,比較的軟
らかい組織とされる線維性脂質組織が26%であ
り,病変部にシモフリ状に分布していた.POBA
後に同病変は末梢塞栓を示した.本例の責任病変
は数ヵ月間に増悪し,POBAにより末梢塞栓を示
したことから,柔らかい粥腫病変であったと考え
られる.【結語】VHによる評価で線維性脂質部が
病変部にシモフリ状に分布する例ではPCIにより
末梢塞栓をおこす可能性がある.
1218
第 101 回近畿地方会
症例は70歳女性.2ヶ月前に強い胸痛を自覚し当
院受診.下壁陳旧性心筋梗塞にて心臓カテーテル
検査を施行したところ,右冠動脈の閉塞に加えて
第一対角枝の狭窄病変を認めた.第一対角枝に対
して待機的PCIを施行.バルン拡張しステントを
挿入した直後に胸痛出現しショックになった.心
エコーにて心タンポナーデと診断したが,冠動脈
造影ではPCI施行部位のワイヤー穿孔や冠破裂は
認めなかった.心嚢穿刺にて約500mlの心嚢液を
排液したところ,一時的に血圧は回復するも,数
分後に再び血圧低下と心嚢液の増加を認め,出血
の持続が疑われたため,緊急手術を施行.術中所
見にて前側壁の心尖部からmid領域の心外膜直下
に巨大血腫を認めた.
【考察】PCI施行部位のワイ
ヤー穿孔や冠破裂による出血とは違う原因で心タ
ンポナーデになったと考えられた.
31) baPWVが正常でかつ頚動脈病変が軽微で
あった陳旧性心筋梗塞の一症例
(近畿大学堺病院循環器科) 井野 光・
島田誠二郎・杉村圭一・濱 純吉
本症例は平成9年発症の陳旧性心筋梗塞(前壁)
で,当時seg7の100%閉塞の1枝病変に対してステ
ント留置を行い,その後2度同部位の再狭窄を認
めた症例である.冠危険因子は糖尿病,高脂血症
が存在するが,baPWVは両側共正常で,頚動脈エ
コー上軽度のIMC肥厚と僅かなプラークを認めた
のみであった.PWVは心血管危険因子を持つ症例
で高値であり,動脈硬化進展の指標になるといわ
れ,また頚動脈壁肥厚やプラークの存在が心血管
イベント発症の危険因子となることは諸研究によ
り確認されている.近年,心血管危険因子の評価
としてPWVや頚動脈エコーが日常的に行われてい
るが,本症例のように心血管イベントと冠危険因
子を有するにも関わらず,両検査所見に異常を認
めない例も存在し,心血管病変の予測には多角的
な観点が必要であると考えられた.
32) 左鎖骨下動脈完全閉塞に対するPTAおよび
CRTにより心不全の改善が認められたバイパス
手術後低心機能の一例
(康生会武田病院循環器センター)
小出正洋・伊藤一貴・宮井伸幸・中村玲雄・
入江秀和・木下法之・仁科尚人・山口和重・
全 栄和・橋本哲男・田巻俊一
(京都府立医科大学循環器内科学) 谷口琢也
症例は83歳の男性で,72歳時にCABG(LITA-#8,
SVG-#3+#12),82歳時にDDDペースメーカー植
え込み術を施行された.H16年8月の冠動脈造影
では,#2;100%,#5;75%,#6;90%,#7;
100%,#9;99%,#11;100%,LITA;patent,
SVG;100%,左鎖骨下動脈起始部;90%であっ
た.H17年6月に心不全を発症したため,薬物や
IABPで治療を行ったが改善が認められなかった.
coronary steal syndromeおよび心室内伝導障害が
病態の増悪因子と考えられたため,第10病日に左
鎖骨下動脈起始部の完全閉塞に対してPTA,第
15病日に両室ペースメーカーによる心臓再同期療
法を施行した.これらにより,心不全の改善が認
められた.
33) 急性心筋梗塞に合併した心破裂に対して心
嚢内へfibrin-glue注入を行った一例
(天理よろづ相談所病院循環器内科)
樋口貴文・田巻庸通・本岡眞琴・和泉俊明・
泉 知里・日村好宏・玄 博允・小西 孝
急性心筋梗塞に合併した左室自由壁破裂に対して
心嚢ドレナージの後,心嚢内へfibrin-glue注入に
より治療を行ったので報告する.症例は73歳,女
性.前日から左肩痛が繰り返すため当院を受診,
外来待合にてショック状態となっているところを
発見された.心電図,心臓超音波検査により急性
心筋梗塞,心タンポナーデと診断した.体外補助
循環,心嚢ドレナージを施行し,血行動態の改善
が得られた.緊急手術が検討されたがショック状
態遷延のため瞳孔散大し対光反射も消失していた
ため低酸素脳症が進行していると判断されたため
ドレナージのみで保存的に治療を行った.第3病
日に心嚢ドレーン排液減少してきたため心嚢内へ
fibrin-glue注入した後ドレーンを抜去した.約1
ヶ月経過するが新たな心合併症等は発生していな
い.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) PETによりviabilityを認めたLAD領域への
冠動脈バイパス術を施行した1例
(三菱京都病院心臓血管外科) 津丸真一・
中島博之・辻井英治・板垣 忍
【症例】74歳,男性.平成17年11月16日,呼吸困
難を主訴に来院.心不全にて当院循環器内科入院,
11月29日心臓カテーテル検査を施行.3VDであり
手術適応にて当科紹介.LADの描出ないもの,PET
にてviabilityを認めたため,血行再建を行うことと
した.
【手術】脳梗塞の既往のため,off pumpおよ
びon-pump beatingを組み合わせてCABGを行った.
LADに関しては術中15mHzの血管エコーであらか
じめ内腔を確認した.
【術後経過】合併症なく,20
日目に退院.
【結語】従来の方法ではviabilityなし
と判定された領域をFDG-PETによりviabilityあり
と判断し血行再建を行った.術後壁運動は改善し,
心不全は回避できている.
35) グラフトのinflowに脾動脈を用いて冠動脈
バイパス術を行った一手術例
(神戸労災病院心臓血管外科) 田中亜紀子・
山田章貴・井上享三・大加戸彰彦・脇田 昇
症例は75歳男性.冠動脈造影で左冠動脈主幹部な
らびに右冠動脈の狭窄を指摘され,手術適応とな
った.術中のepiaortic echoにて上行大動脈に粥腫
の存在が確認されたため大動脈遮断は行わないこ
ととし,on-pump beatingにて冠動脈バイパス術を
行った.グラフトは左内胸動脈,左橈骨動脈,大
伏在静脈を採取していたため,後者2つのグラフ
トのinflowに脾動脈を用いることとした.脾動脈
に大伏在静脈を端側吻合吻合し,これを横隔膜を
通過させて右冠動脈に吻合した.橈骨動脈は大伏
在静脈に端側吻合してY-composite graftを作成し,
この末梢側を左回旋枝に吻合した.術後経過は良
好で,造影CTにて良好なグラフト開存を確認し
た.本症例を若干の文献的考察を加え報告する.
36) 急性心筋梗塞を合併した発作性心房細動に
対して肺静脈隔離術を施行した1例
(大阪府済生会泉尾病院) 藤田昌哲・
吉長正博・松井由美恵・梅田達也・荘田容志・
石原昭三・宮村昌利・唐川正洋
症例は56歳男性.平成18年1月18日突然の胸痛,
嘔吐を認め当院へ救急搬送された.来院時,心房
細動を認めV2∼V5でST上昇を認めたため急性心
筋梗塞と診断し緊急冠動脈造影検査を施行した.
Seg#7に完全閉塞を認めたため,血栓吸引後に
POBAを施行し再灌流に成功した.経過中,洞調
律に復したことから発作性心房細動と診断し,β
遮断薬の投与および抗凝固療法を開始した.しか
し,発作が頻回であり,左室駆出率が35%と低左
心機能のため抗不整脈薬の投与が難しいことから
発作性心房細動に対する肺静脈電気的隔離術を施
行した.発作性心房細動に対する治療は薬物療法
が基本であるが,本例のような低左心機能例では,
治療に難渋する場合も多くアブレーション治療は
新しい治療の選択肢と思われる.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
37) 肺 静 脈 隔 離 術 に 加 え て 左 房 中 隔 起 源 の
APCに対するアブレーションを施行した発作性
心房細動の一例
(大阪府済生会泉尾病院循環器科)
宮村昌利・吉長正博・松井由美恵・梅田達也・
荘田容志・石原昭三・藤田昌哲・唐川正洋
40) His束電位が低位で記録され,二重心房応
答を介して誘発された非通常型房室結節リエント
リー性頻拍の一例
(済生会京都府病院循環器科) 石橋一哉
(亀岡市立病院循環器科) 松尾龍平・
栗山卓弥
症例は56歳女性.薬剤抵抗性発作性心房細動(AF)
に対して平成17年8月11日に広範囲同側肺静脈電
気的隔離術(PVI)を施行した.10日後にAFが再
発し9月12日に2回目のPVIを施行したところ,責
任肺静脈である右肺静脈に伝導再開を認めたため
高周波通電を行い電気的隔離に成功した.しかし,
その後もAFが再発し薬剤抵抗性であったため,1
月19日に3回目のアブレーションを施行した.肺
静脈には伝導再開を認めなかったが,カテーテル
挿入部近傍の左房中隔に起源を有するAPCからAF
への移行を認めた.同部位への高周波通電により
APCおよび心房細動は消失した.以後は再発なく
経過良好である.肺静脈に加えて,左房中隔を起
源とするAPCがAFのtriggerであった稀な症例を経
験したので報告する.
症例は77才男性.発作時心電図はlong RP型の上室
頻拍.His束電位は低位で記録.心房早期刺激では
AH jumpを認めず,頻拍時の最早期興奮はHis束近
傍.心室早期刺激により誘発された頻拍はVA1A2V
で開始.A1,A2はいずれもHis束近傍が最早期興
奮.頻拍時の心室刺激にて奇異性心房捕捉は認め
ず,短い連結期の心室刺激にて心房は捕捉.さら
に短い連結期の心室刺激にて心房は捕捉されるこ
となく停止.ATP静注にて頻拍は房室ブロックに
て停止し,停止直前にAV間隔は著明に延長した
が,心房周期の延長は軽度で,VA間隔は徐々に
短縮.以上から房室結節内に下位共通路を想定し,
二重心房応答を介して誘発された非通常型房室結
節リエントリー性頻拍と診断.ATPによる頻拍停
止機序から,本例の遅伝導路のATP感受性は房室
結節下位共通路に比し低いことが推察された.
38) Maze術後僧房弁輪を旋回する心房頻拍を
生じた一例
(兵庫県立姫路循環器病センター循環器科)
衣笠允雄・山城荒平・水谷和郎・岡嶋克則・
林 孝俊・池田嘉弘・山田慎一郎・岩田幸代・
月城泰栄・松本賢亮・赤神隆文・熊谷寛之・
井上通彦・村井直樹・玄 陽平・梶谷定志
41) カテーテルアブレーションが有効であった
冠静脈洞近位部起源心房頻拍の一例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
松井万智子・奥山裕司・岡 崇史・上田恭敬・
小松 誠・小笠原延行・柏瀬一路・大森洋介・
大薮丈太・岡田佳築・村川智一・根本貴祥・
平山篤志・児玉和久
(大阪大学循環器科) 水野裕八
症例は62歳男性.04年に僧房弁閉鎖不全症,三尖
弁閉鎖不全症,心房細動に対して,僧房弁形成術,
三尖弁縫縮術,Maze術[右側左房切開をLSPV,
LIPVの左端まで延長し,切開線の両端をAtricure
にて高周波アブレーション(RA),また,切開線
と僧房弁間はRA施行し,弁輪部に対しCryoAを
追加]を施行した.05. 12. 動悸を主訴に受診.心
房頻拍(AT)認め,心不全出現した.DCで洞調
律に復し改善したが,投薬下にAT再発し,06. 2.
カテーテルA(CA)を施行した.LIPVの下の切
開線とRAの接合部に伝導再開を認め,同部位通
電の通電で後壁の隔離に成功したがATは停止せ
ず,僧房弁輪への線状焼灼にて頻拍停止した.今
回MAZE術後に生じたATに対しCAに成功した一
例を経験した.
症例は69歳女性.平成16年6月頃より動悸を自覚
し,近医受診したところ狭いQRSの頻拍(160bpm)
と診断され,disopyramideを処方された.同年12
月頃より薬物治療抵抗性となり根治治療目的で当
院紹介.I II III aVf誘導でQRS波より約140msec
遅れて陰性P波を認め,左室側副伝導路を介する
房室回帰性頻拍と推定した.心房早期刺激で頻拍
は容易に誘発され,心房最早期興奮部位は冠静脈
洞近位部であった.右室ペーシング中に室房伝導
が認められたが,低ペーシングレートで容易に
Wenckebach様となった.また心房最早期興奮部
位はヒス束領域にあり,頻拍中の最早期興奮部位
は異なっていた.冠静脈洞起源心房頻拍と診断,
最早期興奮部位を目標に通電を行ったところ初回
通電開始後即座に頻拍は停止,その後誘発不能と
なった.現在まで再発を認めていない.
39) 下大静脈フィルター留置後通常型房室結節
回帰性頻拍に対してカテーテルアブレーションを
施行した一例
(兵庫県立姫路循環器病センター循環器科)
熊谷寛之・山城荒平・水谷和郎・岡嶋克則・
林 孝俊・池田嘉弘・山田慎一郎・岩田幸代・
松本賢亮・赤神隆文・井上通彦・村井直樹・
衣笠允雄・玄 陽平・梶谷定志
42) 洞機能不全を合併したBrugada症候群の一例
(六甲アイランド病院循環器科)
河合真理子・石川優子・則定加津子・
岩井健二・大久保英明・三上修司・土井智文・
井上智夫
(鳥取大学第一内科) 飯塚和彦・井川 修
症例は47歳女性.30歳時より年に数回の動悸を自
覚していた.44歳時,卵巣嚢腫摘除術後に肺動脈
血栓塞栓症を発症し,下大静脈フィルター留置後,
近医外来経過観察となった.平成17年9月頃より
月に数回の動悸を認めた.近医で指摘された発作
性上室性頻拍治療目的で平成18年1月入院となっ
た.下大静脈フィルター留置後のため,経大腿静
脈アプローチは不可能と判断し,右内頸静脈およ
び右鎖骨下静脈からのアプローチを選択した.右
内頸静脈から心内に留置した電極カテーテルによ
り頻拍は通常型房室結節回帰性頻拍と診断した.
右鎖骨下静脈よりアブレーションカテーテルを挿
入し遅伝導路の焼灼を行い,頻拍の根治に成功し
た.右内頚静脈,右鎖骨下静脈アプローチは経大腿
静脈アプローチが困難な症例に有用と考えられた.
症例は32歳男性,意識消失発作を主訴に来院.来
院時心電図は接合部調律であり右脚ブロック型を
呈し右側胸部誘導でcoved型ST上昇を認めBrugada
型心電図であった.また,Holter心電図にて約4秒
の洞停止を認め洞機能障害を示唆した.電気生理
学的検査を行ったところ洞房伝導時間103.66ms,
洞結節回復時間2976ms,Wenckebach block rate
120ppmであり洞機能不全を認め,心室頻拍や心
室細動の誘発も認めた.薬剤負荷試験,加算平均
心電図での心室遅延電位の検出などの結果より
Brugada型心電図を呈した当症例は洞機能不全を
合併したBrugada症候群と診断しICD植え込み術
を施行した.患者は1年前から躁鬱病に対して抗
鬱薬を処方されており,抗鬱薬の不整脈に対する
副作用についても検討する必要があると思われ文
献的考察を加えて報告する.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1219
43) 順行性および左側逆行性slow pathway
(SP)の双方が関与したAVNRTにAblationを施行
し双方のSPを切断できた1例
(大手前病院循環器科) 伊藤賀敏・
山本和美・山田貴之
(博愛会病院循環器科) 土谷 健
症例は56歳女性.高位右房からの期外刺激でAH
jumpに続き通常のslow-fast型AVNRTが生じた.
右室pacingでは左後側壁に心房内最早期興奮を認
めた.室房伝導時間は220msと長く,期外刺激の
連結期短縮に従い伝導時間が延長したため左側
slow pathway(SP)の逆伝導と判断した.右室
pacing終了時に逆行性左側SP伝導に続き順行性
fast pathway−逆行性左側SPと興奮伝播した後に
順行性SPを下行して通常のslow-fast型AVNRTへ
と移行した(頻拍周期548ms).高周波通電は通
常のSlow potential記録部位にて出力20Wで行い,
通電中に接合部調律と下壁誘導で陰性P波を有す
る心房調律を認めた.通電により順行性及び左側
逆行性SPの双方とも切断でき,3ヶ月の経過で
再発を認めない.
46) 髄膜腫摘出後に心室性期外収縮が著減した
一症例
(国立病院機構大阪医療センター循環器科)
篠田幸紀・久米清士・片岩秀朗・小向賢一・
種池 学・山戸昌樹・佐々木典子・山元博義・
廣岡慶治・陳 若富・川口義廣・楠岡英雄・
安村良男
(同臨床研究部) 是恒之宏
症例は62才男性.2004年2月頃から疲労時に動悸
を覚えるようになったため当科を受診した.高血
圧と心室性期外収縮(VPC)を認めたためカルベ
ジロールを開始した.疲労時や飲酒後に動悸は残
存したが,動悸時にピルジカニドを頓用して日常
生活はほぼ問題なく過ごせていた.2005年10月,
食事と飲酒後に嘔気,めまいが出現し,以後数日
間持続した.頭部CTにて3.5×4.5×3.5cm3の髄膜
腫がみつかり10月24日に摘出した.以後,動悸の
出現はほぼ消失した.初診時のホルター心電図で
は一日約4000発のVPCを認めたが,腫瘍摘出後の
2006年1月19日のホルター心電図ではVPCはほぼ
消失していた.心拍変動の比較では摘出後は摘出
前に比し,HF成分は増加し,LF/HF比は減少し
た.VPCと脳腫瘍との関係が示唆された症例を経
験したので報告する.
44) 多発性心室性期外収縮を有する心機能低下
例にカテーテルアブレーションを施行し,心機能
改善を認めた1例
(神戸大学循環呼吸器病態学) 安立恭子・
吉田明弘・大島規広・福沢公二・高野貴継・
木内邦彦・觀田 学・高見 薫・江本憲昭・
横山光宏
47) 左上大静脈遺残を合併した通常型房室結節
回帰性頻拍の一例
(大阪警察病院心臓センター) 奥山裕司・
岡 崇史・松井万智子・上田恭敬・小松 誠・
小笠原延行・柏瀬一路・大森洋介・大薮丈太・
岡田佳築・村川智一・根本貴祥・平山篤志・
児玉和久
(大阪大学付属病院循環器内科) 水野裕八
【症例】52歳,男性.【主訴】眩暈,全身倦怠感.
【現病歴】20歳頃より健診で不整脈を指摘されて
いた.平成17年7月,眩暈,倦怠感,下肢浮腫が
出現し,近医でホルター心電図を施行したところ
心室性期外収縮(PVC)25000個/日を指摘され,
心エコー図検査で心拡大,心機能低下を認めたた
め,当院紹介となった.冠動脈造影及び心筋生検
を行うも,虚血性心疾患,二次性心筋症は否定的
で拡張型心筋症と診断された.右室流出路起源と
考えられるPVCに対しカテーテルアブレーション
施行したところ,PVCは著減し,術後10日目の心
エコー図検査にて,左室駆出率が48%から55%に
改善し,自覚症状も消失した.
【結語】多発性PVC
が原因と考えられる心機能低下に対しカテーテル
アブレーションを施行し,心機能改善を認めた1
例を経験したので報告する.
症例は37歳女性,発作性上室性頻拍根治手術目的
に紹介となった.antecubital veinよりNIHカテー
テルを冠静脈洞に挿入して造影を行ったところ,
冠静脈洞近位部が拡大していた.左上大静脈遺残
PLSVCを疑い,ラジフォーカスワイヤーを用い
て探ったところ,大心静脈から鎖骨下静脈へと通
じるPLSVCの存在が明らかとなった.頻拍は通常
型房室結節回帰性頻拍であった.遅伝導路の焼灼
を試みたが,拡大した冠静脈洞入口部にしばしば
カテーテル先端が落ち込み難渋した.6箇所目の
通電後,プロタノール静注下にも単一エコーのみ
となったため終了した.【まとめ】PLSVCを合併
した通常型房室結節回帰性頻拍症例を経験した.
解剖学的特長のためカテーテル操作がやや煩雑で
あったが,通常の解剖学的位置で遅伝導路焼灼が
可能であった.
45) 心室頻拍発作を繰り返した左室後壁特発性
憩室症の一症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
松尾浩志・奥山裕司・上田恭敬・小松 誠・
小笠原延行・柏瀬一路・大森洋介・大薮丈太・
岡田佳築・村川智一・根本貴祥・松井万智子・
肥後友彰・平山篤志・児玉和久
(大阪大学病態情報内科学) 岡 崇史
67歳男性.平成15年秋に2日間持続する頻拍によ
ると推定される頻脈誘発性急性心不全のため近医
に入院し加療.軽快後更なる精査加療のため当科
を紹介受診した.電気生理検査を行ったが頻拍は
誘発されなかった.冠動脈疾患は認められず,左
心機能も全体として保たれていたため,メキシレ
チン内服で経過観察としていた.平成16年9月22
日,頻拍発作再発のため当科に入院となった.電
気生理検査にてHR;202/分のwide QRS tachycardia
が容易に誘発され心室頻拍と診断,
CARTO mapping
で左室後壁に最早期興奮部位をみとめ頻回に通電
するも頻拍は再発を繰り返した.左室造影上再早
期興奮部位に相当する部位に憩室をみとめた.以
後も発作が頻回で前失神を伴うためICDの植込を
施行した.
1220
第 101 回近畿地方会
48) フ ァ モ チ ジ ン 投 与 中 に Q T 延 長 に よ る
Torsades de pointesを発症した一例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
小笠原延行・上田恭敬・奥山裕司・小松 誠・
柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・大薮丈太・
岡田佳築・村川智一・根本貴祥・松井万智子・
平山篤志・児玉和久
症例は95歳女性.他院にて平成17年10月よりファ
モチジン投与を受けていた.平成18年1月18日
自宅にて意識消失発作認め,近医救急搬送.頭部
CT施行中に意識消失,呼吸停止認め心肺蘇生受
けた.心室頻拍の診断にて,リドカイン静注,ベ
ラパミル静注にて一旦改善したが,翌日再び頻拍
発作出現したため当院紹介受診.入院時心電図で
はQTc 640msecと延長認めた.血清K 3.3mEq/l
Ca 8.0mg/dlと低下あり.Mg正常であった.電解
質補正を行うもQT延長は改善せず,薬剤投与に
てTdp再現するため,一時ペーシング挿入しTdp
は消失した.QT延長原因薬剤と考えられるファ
モチジン中止にて経過観察を行い,徐々にQT延
長の改善を認め,以降Tdp再発認めず,QTc
520msecとなり退院となる.QT延長の原因として
ファモチジンが関与した可能性があり報告する.
49) 虚血性心筋症に合併した難治性心室頻拍の
1症例
(大阪警察病院心臓センター) 岡田佳築・
奥山裕司・上田恭敬・小松 誠・小笠原延行・
柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・大薮丈太・
村川智一・根本貴祥・平山篤志・児玉和久
症例は65歳男性.陳旧性心筋梗塞,完全房室ブロ
ックにて外来通院中の平成17年6月14日に動悸を
認め来院.心電図上心室頻拍を認め,DC shock
で洞調律に復帰.ICD植え込みを受け退院となっ
た.平成17年8月3日,動悸発作出現しICDによる
ATP・cardio-versionが複数回行われるも頻拍は
停 止 せ ず 当 科 受 診 . DC shockが 無 効 で あ り ,
lidocaine静注にて心拍数は150→100/分へと低下.
8月10日,頻拍のまま電気生理検査施行.CARTO
mapping上心尖部起源の心室頻拍を認めアブレー
ション施行.両心室側より通電を行い,一時的に
頻拍の停止を得られるもセッション内再発を繰り
返した.以後内服治療を強化,9月上旬より徐々
に心拍数は低下し最終的に心室頻拍は停止した.
虚血性心筋症に合併した難治性心室頻拍の症例を
経験したので報告する.
50) 慢性期にペースメーカーアレルギーによる
皮膚自壊を繰り返した一例
(京都府立医科大学循環器内科学)
大川善文・白石裕一・白山武司・坂谷知彦・
万井弘基・山本 卓・松原弘明
【症例】72歳男性【主訴】ペースメーカー(PM)
移植部皮膚自壊【現病歴】洞不全症候群に対し,
平成7年PM移植.平成16年,皮膚自壊し本体抜
去,反対側に移植.しかしここも4ヶ月で皮膚自
壊し,当院入院.1cmの孔,浸出液を認めたが発
熱などの理学的所見に異常無し【検査所見】血液
上炎症反応は軽度【経過】皮下からの圧迫壊死が
原因と考え,再度システム全抜去,初回埋め込み
時のリードを用い,大胸筋下にゴアテックスにく
るみ移植したが,三ヶ月間に二回,創部離開を生
じた.アレルギーの関与を疑い,predonisolone
30mgを内服したところ,創部の治癒を認めた.
全経過を通じて細菌培養は陰性.皮下組織は肉芽
で好酸球,リンパ球の浸潤は少数.パッチテスト
陰性【考察】原因としてステロイドの反応性から
アレルギーの関与が考えられた.
51) 運動療法により薬物抵抗性心房粗動が著明
に改善した一例
(京都府立医科大学循環器内科学)
福居顕介・白石裕一・白山武司・坂谷知彦・
万井弘基・山本 卓・東 秋弘・松原弘明
【症例】53歳女性【主訴】動悸【現病歴】連合弁
膜症に対しH4PTMC,H8DVR施行するも直後か
ら弁逆流あり.H12心不全,H13再度MVR,以後
非通常型心房粗動(PAFL)が出現.多剤不整脈
薬無効で電気的除細動を繰り返し当院入院.【現
症>頻脈以外特記すべき所見無し【検査】血液検
査上異常無し.心電図上心拍数130毎分の2:1伝
導のPAFL.導入前CPX peakVO2 21ml/kg/min
AT 15ml/kg/min 心エコー著変無し【経過】AT
処方による運動療法(30W,30分,週三回の有酸
素運動)導入.入院後もPAFL頻発,ホルター上
症状に一致したPAFLを日中頻回に認め,連発性
心房性不整脈も211回あったが,リハビリ8週後,
10秒以上続くPAFLは消失,連発性心房性不整脈
37回と減少.それに伴い,自覚症状も改善.【考
察】運動療法により難治性心房粗動の改善を認め
た.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
52) 薬剤抵抗性のelectrical stormに対し高頻度
ペーシングが著効したたこつぼ心筋症の一例
(神戸大学循環呼吸器病態学) 谷口 悠・
吉田明弘・高見 薫・篠原正和・福沢公二・
志手淳也・横山光宏
55) 脳塞栓,冠動脈塞栓症を初発とした感染性
心内膜炎の一例
(高槻赤十字病院循環器内科) 石山賢一・
大中玄彦・大塚宏治・木全 玲・桑原佳宏・
曽和晃正
症例は71歳,女性.虫垂炎術後に突然の心室細動
を来し,除細動後の心電図で前胸部誘導にST上
昇を認めたため急性心筋梗塞を疑われ当院搬送と
なった.冠動脈造影上有意狭窄を認めず,心エコ
ー図検査での壁運動異常からたこつぼ心筋症と診
断した.造影検査中から頻回の心室細動を生じ,
以後electrical stormの状態となった.各種抗不整
脈薬が無効であり,PCPS,IABPの補助循環を使
用したがstormからの離脱は得られず,電気的除
細動を数十回要した.一時的ペーシングカテーテ
ルを留置し,心房(冠静脈内)心室(右室)高頻
度ペーシング(ppm)を開始したところ,以後心
室細動を認めず,stormからの離脱に成功した.致
死性不整脈に対しペーシングが著効した一例を経
験したため報告する.
67歳女性.H17年11月13日に右前頭葉脳梗塞のた
め入院.37度台の発熱及び炎症反応(WBC8800/
μl,CRP3.1mg/dl)が持続したため抗生剤を投与
された.12月10日前胸部痛を自覚し,心電図にて
V1∼V4のST上昇,CK1416IU/l,CK-MB146IU/l
と上昇を認めたため,前壁中隔心筋梗塞と診断し
た.緊急冠動脈造影を行い,左前下行枝,回旋枝
の分岐部に塞栓様の陰影欠損を認めた.TIMI3血
流を認めたため,ウロキナーゼ24万単位を冠注し
た後,IABPを挿入した.術後心エコーによる精
査にて大動脈弁の疣贅を認めたため,感染性心内
膜炎の多発塞栓症による脳塞栓,冠動脈塞栓と診
断した.抗生剤投与されており,血液培養所見は
陰性であった.脳梗塞を初発とし,引き続き急性
心筋梗塞を発症した感染性心内膜炎の一例を経験
したので報告する.
53) 植え込み型除細動器植え込み術を施行した
41歳修正大血管転位症の1例
(大阪警察病院心臓センター) 大薮丈太・
奥山裕司・上田恭敬・小松 誠・小笠原延行・
柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・岡田佳築・
村川智一・根本貴祥・松井万智子・平山篤志・
児玉和久
56) 敗血症性肺塞栓症を合併した右心系感染性
心内膜炎の一例
(神鋼病院循環器科) 破磯川実・新井堅一・
岩橋正典・宮島 透
症例は41歳男性.39歳時に動悸・息切れを主訴に
来院.心エコー図検査で中等度三尖弁閉鎖不全症
を伴う修正大血管転位症と診断し,投薬加療を行
っていた.ホルター心電図でめまい感を伴う非持
続性心室頻拍が記録されたのを機会に心臓カテー
テル検査を行った.中等度以上の三尖弁閉鎖不全
があり,機能的左室は高度に拡大し,収縮能が低
下していた(駆出率27%).心室電気刺激では心
拍数220の非持続性心室頻拍が誘発され,動悸と
前失神を伴っていた.また複数の心房頻拍が誘発
され,後日心房頻拍に対する経皮的カテーテル心
筋焼灼術を試みたが無効であったため,薬物治療
を試みることとした.症候性の非持続性心室頻拍
については植え込み型除細動器植え込み術を施行
した.頻脈性不整脈を合併した修正大血管転位症
を経験したので報告する.
54) 感染性心内膜炎より脳梗塞と急性心筋梗塞
を発症し心破裂した一例
(京都第二赤十字病院循環器科) 中西直彦・
塩野泰紹・大槻悠美・武智紀一・鈴木健之・
西堀祥晴・松尾あきこ・井上啓司・田中哲也・
藤田 博・井上直人
75歳男性.発熱を主訴に他院入院後,2回の脳梗
塞と急性心筋梗塞発症し当院に転院.現症,皮膚
粘膜に点状出血,2音減弱と拡張期雑音.心電図
上,胸部誘導でST上昇.心エコー図では高度大
動脈弁逆流と大動脈弁に疣贅あり.感染性心内膜
炎からの心・脳梗塞と診断した.保存的治療中,
第5入院病日に突然の心肺停止となった.蘇生成
功せず,引き続き病理解剖施行した.病理解剖に
て左室自由壁の破裂を認め直接死因と診断され
た.大動脈弁の疣贅,疣贅と同様構造物で塞栓さ
れた脳血管,心筋および肺内血管を認めた.また,
胃幽門部にBorrman3型の進行胃癌を確認した.
進行胃癌を基礎疾患に持ち,感染性心内膜炎より
心筋梗塞および脳塞栓症を発症し,自由壁破裂に
より突然死した症例を経験したため,病理学的な
考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
症例は32歳男性.生活歴に覚醒剤の常用があった.
発熱を自覚し救急外来を受診,来院時,意識混濁
(JCS 20),血圧低下(BP 78/44)があり,胸部レ
ントゲンで多発する浸潤影を認めた.血液検査上
WBC:13300,CRP:27.99と高値で,敗血症性
ショックと診断され入院となった.翌日の心エコ
ーで三尖弁前尖に12×8mmの疣贅を認め,三尖
弁感染性心内膜炎と,それに起因する敗血症性肺
塞栓症と診断した.血液培養検査でMSSAが検出
され,抗生物質の投与を行い,第4病日にはカテ
コラミンから離脱,第16病日には炎症反応の陰性
化を認めた.一ヶ月後の胸部CTで結節陰影はほ
ぼ消失しており,退院後の心エコーで三尖弁前尖
の疣贅は4×2mmと著明に縮小していた.本邦で
右心系感染性心内膜炎の報告は少なく,若干の文
献的考察を加えて報告する.
57) 急速な進行を呈したMRSA感染性心内膜炎
の一例
(和歌山県立医科大学循環器内科学)
有田 祐・松尾好記・辻岡洋人・久保隆史・
黒井章央・間生 孝・林 泰・高橋千都・
島本幸子・財田滋穂・今西敏雄・津田和志・
羽野卓三・友渕佳明・赤阪隆史
(同心臓血管外科学) 岩橋正尋・岡村吉隆
症例は75歳,男性.糖尿病性腎不全の既往あり.
透析中の胸部圧迫感を主訴に当科を紹介された.
入院後,40℃の熱発と心雑音の増強が出現した.
心エコーで僧帽弁後尖に直径5mmの疣贅と,軽
度の僧帽弁逆流が認められた.感染性心内膜炎と
診断し,ペニシリンGの投与を開始した.血液培
養にてMRSAが検出されたため,塩酸バンコマイ
シンの投与を行ったが,疣贅は急速に増大し,直
径2cmに達した.また,僧帽弁後尖が穿破し,僧
帽弁逆流の増大により心不全管理が困難な状態と
なった.発症から第5病日に緊急手術を施行した
ところ,著しい僧帽弁後尖の破壊と弁輪部から左
房後壁にかけての膿瘍形成が認められた.急速に
進行し心エコー所見を上回る弁破壊を認めた
MRSA感染性心内膜炎を経験したので若干の文献
的考察を加えて報告する.
58) 感染性心内膜炎との鑑別が困難であった卵
巣癌による非細菌性心内膜炎の1例
(国立病院機構大阪医療センター循環器科)
久保典代・佐々木典子・小向賢一・山戸昌樹・
山元博義・廣岡慶治・陳 若富・川口義廣・
楠岡英雄・安村良男
(同臨床研究部) 是恒之宏
32才女性.2005年9月末より下肢の腫脹,疼痛,
微熱を繰り返し,11月8日多発性脳梗塞を発症.
心エコー上,大動脈弁の疣贅様エコーを認め,感
染性心内膜炎疑いで当院に転院.血液培養陰性.
抗生剤で炎症反応および麻痺症状は一時軽快し
た.肺塞栓症を合併した深部静脈血栓および右卵
巣腫瘍と診断した.月経開始後多発性脳梗塞を再
発,肺塞栓症悪化とともに炎症反応再然,肺炎,
両側腎梗塞,脾梗塞を認め,さらにDICを発症し
た.ヘパリン・FOYの使用でDICは軽快し,12月
両側卵巣+子宮全摘術を施行.明細胞腺癌と判明
し,術後凝固能異常は速やかに軽快,大動脈弁の
疣贅様エコーも縮小した.明細胞腺癌に起因する
凝固能異常により脳梗塞をはじめとした全身塞栓
症を反復し,経過から心臓の疣贅様エコーは非細
菌性心内膜炎と考えられた.
59) 左肩急性化膿性関節炎と脳膿瘍を合併した
活動性感染性心内膜炎に対する僧帽弁形成術の経験
(神戸大学呼吸循環器外科) 宗像 宏・
岡田健次・国久智成・森本直人・前川貴代・
北原淳一郎・松森正術・浅野 満・
川西雄二郎・田中裕史・中桐啓太郎・
山下輝夫・大北 裕
【症例】元来健康な70歳,女性.突然左肩関節痛
が出現,左肩関節腱板断裂・上腕骨頭下方亜脱臼
に対し手術予定であった.10日後より40度の発熱
が出現,左肩急性化膿性関節炎と診断,切開排膿
術を施行した.また血液培養にてMRSAが検出さ
れた.翌日,左片麻痺・意識障害と心不全症状が
出現,CTで側頭葉の脳膿瘍,心エコーで僧帽弁
逆流,後尖逸脱,疣贅15mmが発見された.緊急
的に僧帽弁形成術を施行,逆流の消失と心不全の
改善を認め,脳病変の変化を認めなかった.2ヶ
月抗生剤投与を行なっているが感染の再発はな
く,左上肢不全麻痺を残すのみである.【結語】
左肩化膿性関節炎と脳膿瘍を合併した重篤な症例
であったが,手術時期の判断,術式の選択,補助
手段に検討を要した.
60) 左室中間部から基部領域に一過性の風船様
壁運動異常を呈する心筋障害の検討
(康生会武田病院循環器センター)
小出正洋・伊藤一貴・宮井伸幸・中村玲雄・
入江秀和・木下法之・橋本哲男・田巻俊一
(京都府立医科大学循環器内科学) 谷口琢也
【背景】冠動脈に有意狭窄病変が認められないが,
左室中間部から基部に一過性壁運動障害が認めら
れた8人(Group-Mid)とたこつぼ型心筋障害が
認められた26人(Group-Apex)を比較検討した.
【結果】左室造影ではGroup-Midで左室中間部か
ら基部,Group-Apexでは左室心尖部に風船様の
壁運動障害が認められた.Tl像では,Group-Mid
で左室中間部から基部,Group-Apexで左室心尖
部に集積低下が認められた.BMIPP像では,いず
れのグループでもTl像と比して高度で広範囲な集
積低下が認められた.両グループとも壁運動障害
は1ヶ月以内,TlおよびBMIPPの集積異常も3ヶ月
以内に正常化した.【結論】この心筋障害はたこ
つぼ型心筋障害の亜型であることが示唆された.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1221
61) タコツボ型心筋症における心筋障害のMRI
による描出
(国立循環器病センター心臓内科)
野口輝夫・後藤葉一
(同放射線診療部) 山田直明
【目的】MRIを用い,たこつぼ心筋症における心
筋障害の特徴を明らかにする【方法】たこつぼ心
筋症7例に,ガドリニウム造影MRIを施行した.
MRIは造影前,造影剤注入2,5,10,20分後に
撮影した.造影の評価には,左室前壁の心尖部と
心基部に関心領域を設定し信号強度を測定した.
撮影は発症7日以内と,発症後1−2ヶ月に施行
し造影の経時的変化を検討した.【成績】たこつ
ぼ心筋症患者では,造影剤注入10分以内の造影に
おいて心尖部は心基部より著明に高い信号強度を
示す傾向があった.また,心筋梗塞に対応する遅
延造影は認めなかった.造影の異常は心収縮力が
回復した後も数ヶ月以上持続した【結論】たこつ
ぼ心筋症における心筋障害を早期遅延造影MRIで
描出できた.心尖部を中心とした造影効果は発症
後数ヶ月以上持続した.
62) 著明な左室流出路狭窄をきたしたたこつぼ
心筋症の一例
(六甲アイランド病院) 石川優子・
河合真理子・則定加津子・岩井健二・
大久保英明・三上修司・土井智文・井上智夫
症例は69歳女性.胸痛,心電図でST上昇を認め
急性心筋梗塞疑いにて救急搬送された.心エコー
にて心尖部を中心とした広範囲な壁運動低下,基
部の過収縮を認め,たこつぼ型心筋症が強く疑わ
れた.また僧帽弁前尖の収縮期前方運動,左室流
出路狭窄を認め左室流出路圧較差100mmHgであ
った.緊急冠動脈造影検査,左室造影検査の結果
たこつぼ型心筋症と診断した.来院時より低血圧
を呈し,補液とともにpropranolol静注したとこ
ろ僧帽弁前尖の収縮期前方運動は軽減,左室流出
路圧較差も44mgと改善し,その後も圧データを
モニターしながら補液したが血行動態は安定し退
院した.著明な左室流出路狭窄をきたしたたこつ
ぼ型心筋症において,充分な補液とβ遮断薬によ
り改善した一例を経験したので報告する.
63) 急性期に著明な左室流出路圧較差と高度僧
帽弁閉鎖不全症を認めた興味深いタコツボ型心筋
症の1例
(大津赤十字病院循環器科) 佐藤民恵・
冨岡宣良・二井理恵・原 正剛・下山 寿・
森川 雅・渡邊 裕・廣瀬邦彦
64) 多発性転移性脳腫瘍にたこつぼ心筋症を合
併した1症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
大森洋介・上田恭敬・奥山裕司・小松 誠・
小笠原延行・柏瀬一路・岡 崇史・大薮丈太・
岡田佳築・村川智一・松井万智子・平山篤志・
児玉和久
75歳,女性.肺癌に対して,外来にて化学療法中
であった.平成16年9月7日に意識レベルJCS200
と低下認め,当院救急搬送となった.到着時,12
誘導心電図上四肢誘導と胸部誘導にてST上昇認
め,トロポニンT陽性であったために,急性心筋
梗塞を鑑別する目的で緊急心臓カテーテル検査施
行した.冠動脈には有意狭窄認めず,左心室造影
で心尖部を中心に広範囲な壁運動の低下を認めた
ために,たこつぼ心筋症と診断した.意識レベル
低下の原因精査目的の頭部CT上,同年6月に認め
なかった出血を伴う多発性転移性脳腫瘍を認め
た.転移性脳腫瘍がたこつぼ心筋症の誘因と考え
られる稀な症例を経験したので,報告する.
65) 顕微鏡的多発血管炎治療中に心房壁内血腫
をきたし突然死した一例
(東大阪市立総合病院循環器科) 酒井 拓・
国重めぐみ・芥川 修・松尾安希子・
西部 彰・中川雄介・波多 丈・木島祥行
(同臨床病理科) 那須拓馬・玉井正光
症例は82歳女性,主訴は四肢筋力低下.平成17年
1月より四肢脱力感が進行,精査目的で10月に神
経内科入院.神経生検の結果は多発単神経炎と小
血管フィブリノイド壊死.MPO-ANCA陽性から
顕微鏡的多発血管炎と診断,ステロイド治療開始.
10月31日胸痛出現,心電図・心エコーは急性前壁
梗塞に矛盾せず.緊急冠動脈造影施行したが,冠
動脈に有意狭窄認めず.CPK上昇も軽微でたこ
つぼ心筋症類似疾患と考えた.その後,腎不全が
進行し,透析カテーテルを留置した右下肢の深部
静脈血栓症を発症.平成18年1月13日透析中に突
然心室細動に陥り死亡.剖検の結果,左心房から
左室後壁に及ぶ壁内血腫を認めた.顕微鏡的多発
血管炎加療中に生じた心筋内血腫のために突然死
した一例を経験した.
66) 肥大型心筋症における心内膜下虚血の検
出:QGSプログラムを用いた検討
(松下記念病院循環器科) 川崎達也・
赤壁佳樹・山野倫代・三木茂行・神谷匡昭・
杉原洋樹
【目的】肥大型心筋症(HCM)における心内膜下
虚血の検出にQGSが有用か否かを検討.【方法】
75歳女性.甲状腺機能低下症にて治療中,持続す
壁厚20mm以下の非閉塞性HCM 26例に運動負荷
る前胸部痛で来院.来院時第3肋間胸骨右縁と心
TF心筋シンチグラムを施行し,QGSにより負荷
尖部を中心にした収縮期雑音を聴取,心電図上I,
II,III,aVF,V3∼6誘導でST-T上昇を認めた. 後と安静時のEDVとESVを算出.心内膜下虚血
の有無は,短軸中心より放射状に引いた100本の
心エコー検査上は心基部の過収縮と心尖部の壁運
各直線上での最大TFカウントで囲まれた面積を
動低下と左室流出路圧較差,高度の僧帽弁閉鎖不
算出し,負荷後像と安静時像における各15断面の
全を認めた.緊急冠動脈造影では有意狭窄なくタ
面積和の比で判定.【結果】心内膜下虚血を9例に
コツボ型心筋症と診断した.さらに左室造影検査
で左室流出路に約80mmHgの圧較差を確認した. 認めた.EDVの変化率は両群間で有意差なし.
低拍出持続するため,翌日からβ遮断薬投与した
ESVの変化率は心内膜下虚血を認めた群で高値
(33±7% vs 13±3%,p=0.009).ROC曲線から決
ところ血行動態改善,心エコー検査での圧較差と
定した最適な分割値は17%で,心内膜下虚血の検
僧帽弁閉鎖不全も軽減した.左室流出路圧較差を
出に対する感度は89%,特異度は82%であった.
認めるタコツボ型心筋症に早期からβ遮断薬投与
し圧較差が減少した症例を経験したので若干の考 【総括】壁厚20mm以下のHCM患者において,
QGSは心内膜下虚血の検出に良好な診断能を有
察を加え報告する.
することが示唆された.
1222
第 101 回近畿地方会
67) 著明な左室内圧較差を認めた2症例の臨床
経過と治療について(HOCMとsigmoid septum)
(国家公務員共済組合連合会) 山内亮子・
北口勝司・尾崎春信・竹中洋幸・竹中琴重・
多田英司・石井賢二
HOCMの症例は70歳男性,既にHOCMと診断さ
れ薬物療法をうけていた.労作時呼吸困難を主訴
に入院,左室内圧較差は推定156mmHgと著明に
上昇しており,収縮期血圧70mmHg以下が持続し
たため,DDDペースメーカーを植え込んだ.術
後,左室内圧較差は推定33mmHg,収縮期血圧
100mmHg前後に改善した.Sigmoid septumの症
例は89歳女性,心不全悪化のため他院に入院して
いたが,血圧低下と徐脈の精査目的で当院へ搬送
された.心エコーにて左室肥大はないが,sigmoid septumを 認 め た . 左 室 内 圧 較 差 は 推 定
267mmHgと著明に上昇していたが,心不全が軽
快するとともに,ほぼ消失した.同様の病態を呈
したにもかかわらず,異なる臨床経過を経た興味
深い症例を経験したので報告する.
68) カルベジロールの増量により心不全が代償
されたアドリアマイシンによる薬剤性心筋症の1例
(京都府立与謝の海病院循環器科)
横井大祐・計良夏哉・竹田光男・西川 享・
阪本 貴・木村晋三
症例は54歳男性.平成6年発症の非ホジキンリン
パ腫で総投与量800mgのアドリアマイシンによる
治療歴がある.平成17年5月に心不全を初発し,
薬剤性心筋症と診断され,カルベジロール
1.25mg投与下で退院し,当院に紹介されたが,
NYHAIII度であった.外来にてカルベジロール
の漸増を試みたが3.75mgにて心不全が増悪した
ため,入院加療とした.低用量のカルペリチド投
与下に,低血圧にて投与を断念していたACE阻
害薬を導入し,1ヵ月の入院期間でカルベジロー
ルを10mgまで増量して退院した.退院後4ヵ月で
20mgまで増量したところ現在まで心不全の急性
増悪はなく,NYHAII度,BNPは500台,左室内
径短縮率=21%である.アドリアマイシン心筋症
に対するカルベジロールによる治療についての症
例報告は散見する程度であるため文献的考察を加
えて報告する.
69) 心室細動を発症した心尖部肥大型心筋症の
1例
(兵庫医科大学内科学冠疾患CCU科)
岡 克己・清水宏紀・金森徹三・古川善郎・
舛谷元丸・大柳光正
(同循環器内科) 松本実佳・増山 理
症例は53歳男性.高血圧に対し内服加療中であっ
た.2006年1月テニス中に突然意識消失を来たし
Bystander CPR施行後に救急車内で心室細動
(VF)
を確認,DCによる除細動で心拍再開し搬送入院
となった.入院時,意識清明,心電図では2:1−
3:1心房粗動(AFL)であったが自然に洞調律へ
回復した.血液,生化学検査に異常なく,心エコ
ーでは左室壁運動異常は認めなかったが心尖部に
限局した壁肥厚を認め心尖部肥大型心筋症
(APH)
と診断した.心臓造影MRIでは心尖部の乳頭筋に
沿った浅い層に造影遅延を認めた.アミオダロン,
カルベジロールの内服を開始,
AFLに対してTA-IVC
isthumusにlinear ablation施行後,ICD植え込みを
行った.APHは比較的予後良好とされているが,
本症例のように致死的不整脈をきたすこともあ
り,若干の文献的考察をふまえて報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
70) 左側副伝導路焼灼後に左室流出路狭窄が著
明に増悪した肥大型心筋症の一例
(亀岡市立病院循環器科) 松尾龍平
(済生会京都府病院循環器科) 石橋一哉
(京都第一赤十字病院循環器科) 島 孝友
(明石市立市民病院循環器科) 平崎智士
73) 多臓器不全をきっかけに判明したミトコン
ドリア心筋症の一例
(滋賀医科大学呼吸循環器内科) 國友健生・
藤井応理・谷口 晋・山本 孝・高島弘行・
松本鉄也・蔦本尚慶・堀江 稔
(同救急集中治療部) 江口 豊
76) 発症にアレルギー機序の関与が疑われた,
心筋炎を繰り返した1症例
(神戸労災病院内科) 小澤 徹・石川 彰・
稲本真也・小田明彦・堂本康治・中島健雄・
伊阪大二・増田 茂・櫨木暢子・野上祥子・
大西一男
症例は56才男性.主訴は胸部圧迫感,動悸.以前
よりWPW症候群を指摘.一ヶ月前より労作時の
胸部圧迫感,動悸を頻回に自覚.心エコー検査に
てS字状中隔,左室心基部の全周性肥大及び左室
流出路の軽度の圧較差(PG=22mmHg)を認めた.
冠動脈は正常.左側前側壁の副伝導路に対して高
周波アブレーションを施行したところ,翌日には
左室流出路のPGが38mmHgとやや増大した.その
後も胸部圧迫感を自覚するためアテノロール,ジ
ルチアゼムの投与を開始したが,PGが170mmHg
と増悪し,僧帽弁収縮期前方運動(SAM)が出現.
メトプロロールに変更したが,5ヵ月後にはPG
は210mmHgとさらに増大し,僧帽弁逆流の増悪
を認めた.その後Ia群抗不整脈薬を併用し,経過
観察中である.本例では副伝導路焼灼により左室
収縮性が向上し,SAMの出現が流出路狭窄を増
悪させたと考えられた.
症例は49才女性.以前より原因不明の心機能低下
を指摘されていた.平成17年10月完全房室ブロッ
クのためペースメーカー植え込み術を受けてい
る.平成18年1月24日より感冒様症状が持続.1月
31日には嘔吐,下痢を主訴に近医入院し点滴加療
受けるも,翌日重度の肝腎不全(GOT13100IU/L,
GPT5167IU/L,BUN62mg/dl,Cr2.6mg/dl),
DICを併発,多臓器不全のため当院へ緊急搬送.
著明な心機能低下(EF 17%,BNP 11600pg/ml),
乳酸アシドーシス(Lac120mg/dl)を認め,ICU
にて緊急透析,血漿交換,人工呼吸管理を行った.
持続透析を行い徐々に乳酸アシドーシスは改善,
15病日に透析離脱した.遺伝子解析を行いミトコ
ンドリアDNA3243の点突然変異を認め,ミトコ
ンドリア病の確診を得た.非常に重篤な臨床経過
をたどった稀な症例を経験したため報告する.
23歳の女性.主訴は胸痛.17歳時と20歳時に心筋
炎の既往がある.20歳時の2回目の胸痛と今回は
共に鼻炎薬内服直後に症状が出現し,今回は数時
間単位で劇症型へ発展した.心電図は130/分,洞
調律,wide QRSで広範囲の誘導においてSTの上
昇を呈していた.心エコーにおいて左心室壁運動
は全体的に低下し,冠動脈造影では有意狭窄はな
く,臨床的に急性心筋炎とみなし管理を開始.第
2病日より血行動態が不安定になったが,人工呼
吸,IABP,少量カテコラミン投与,CHDFにて
管理したところ,発症後6日間で血行動態は安定
した.ペア血清による各種ウイルス抗体価の有意
な上昇を認めず,胸痛の発症直前に内服された鼻
炎薬がDLST で陽性を示し,心筋炎の発症にアレ
ルギー機序の関与が考えうると思われた.
71) サルコイドーシス性拡張型心筋症に対する
SAVE(septal anterior ventricular exclusion)手
術の1例
(大阪医科大学胸部外科) 柳楽知義・
佐々木智康・堀本佐智子・得丸智弘・
吉井康欣・大門雅広・小澤英樹・近藤敬一郎・
勝間田敬弘
(同循環器内科) 村上省吾・寺崎文生・
北浦 泰
74) 治療に難渋した心不全を発症した多発性骨
髄腫の一例
(愛仁会高槻病院) 高井栄治・大末剛史・
藤野雅史・中田恭介・田村大介・梶浦 恭
77) 心不全患者の予後予測におけるBNP値と医
療費の関係
(松下記念病院循環器内科) 山野倫代・
川崎達也・赤壁佳樹・三木茂行・神谷匡昭・
杉原洋樹
45歳,男性.サルコイドーシスによる拡張型心筋
症,MR,TR,DDD植込み後であった.心室中
隔から前壁にかけてdyskinesis,下側壁はmild
hypokinesisであり,SAVE手術を選択した.手術
は心停止下に僧帽弁輪を26mm C-E Physio ring
で,三尖弁輪はDeVega法を用いて径25mmまで
縫縮した.心筋再灌流後LADの15mm左側を心尖
部下壁から第2対角枝手前まで切開し,心尖部心
室中隔を隔離するように80×15mmのパッチを縫
着した.心室修復後,両心室ペーシングに転換し
た.術前後でNYHA 4度から2度,EF 11%から
28%,EDV 320mlから215mlに変化した.選択的
な心室中隔隔離によるSAVE術,両側房室弁の強
縫縮,両室ペーシングへの転換が有効であった.
72) 経過中,末梢血好酸球増加を認めなかった
好酸球性心筋炎の一例
(大津赤十字病院循環器科) 二井理恵・
佐藤民恵・原 正剛・下山 寿・森川 雅・
冨岡宣良・渡邊 裕・廣瀬邦彦
症例は59歳女性.主訴は呼吸困難.05年4月上旬
頃より感冒症状があり,その後呼吸困難が出現し
4月26日受診.心不全にて緊急入院.心電図で前
胸部誘導のST上昇と完全房室ブロックを認め,
心エコーでは前壁中隔の壁運動低下を認めた.心
不全は改善したが完全房室ブロックが遷延したた
め5月6日心カテーテル検査を施行.冠動脈に有
意狭窄を認めず,心筋炎が疑われたため右室心内
膜生検を行った.結果,好酸球浸潤を認め,好酸
球性心筋炎と診断し,プレドニゾロン内服を行っ
た.末梢血中の好酸球増加は認めなかった.治療
後TcPYP,Gaシンチ上のhot lesionは消失し,好
酸球浸潤も消失した.経過中末梢血中の好酸球増
加を全く認めなかった好酸球性心筋炎の一例を経
験したので文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
【症例】76歳 男性【既往歴】平成6年 多発性骨
髄腫(ベンスジョーンズ蛋白λ型)【現病歴】貧
血,腎障害なく,Stage 1Aと診断され,外来にて
経過観察されていた.平成16年9月,胸水出現し
入院,右心カテにて異常なく,利尿剤にて軽快し
退院した.しかし,以後,食欲不振,体重減少あ
り,労作時倦怠感が持続した.17年3月10日より,
労作時息切れ,動悸悪化し入院.両心不全を呈し,
人工呼吸管理下に,利尿剤,hANP,カテコラミ
ン,アルブミン製剤などにて治療したが,ショッ
クの進行,腎不全,乏尿となった.ECUMを導
入し,4月9日呼吸器を一時離脱するも,18日永
眠された.病理解剖の結果,形質細胞腫の縦隔,
心嚢への浸潤と全身性アミロイドーシスを認め
た.考察心不全の原因は,心臓の続発性アミロイ
ドーシスと考えられた.
75) 心室細動の除細動後に脳低体温療法を行っ
た肥大型心筋症の1例
(京都府立与謝の海病院循環器科)
計良夏哉・竹田光男・西川 享・阪本 貴・
木村晋三
(京都府立医科大学循環器病態制御学)
白石裕一・山本 卓・白山武司・松原弘明
症例は40歳男性.34歳時に肥大型心筋症と診断さ
れ,発作性心房細動を認めたため抗不整脈薬の投
与を受けていた.動悸を自覚したため,平成16年
10月28日の未明に救急受診したところ受付窓口で
意識消失し,卒倒した.心室細動を認め,電気的
除細動に成功したが,意識障害が遷延した.冷罨
した生理食塩水1000mLの急速点滴後に,3点式ク
ーリングと表面冷却法を用いて治療開始から4時
間で34℃に達し,36時間持続した後に48時間かけ
て復温した.鎮静剤中止後に意識回復し,植え込
み型除細動器の植え込み手術を行い,後遺症なく
退院した.脳低体温療法はAHA2005ガイドライ
ンでは,クラスIIaに位置づけられた.適応患者
の転院は困難と考えられ,循環器救急施設は本治
療法への対応が要求されることになり,若干の文
献的考察を加えて報告する.
【背景】心不全患者におけるBNP値は予後予測に
有用であるが,治療に要した医療費の影響は明ら
かではない.【方法】対象は心不全で当科に緊急
入院し,かつ退院が可能であった112症例.退院
時に測定したBNP値の中央値と入院中に要した
総医療費の中央値で対象を4群に分類.心臓死,
心不全の増悪による再入院をエンドポイントと
し,予後を前向きに追跡した.【結果】平均2.1年
の観察期間中,心臓死19例,再入院22例を認めた.
死亡率は,高BNP値+高医療費群27%,高BNP値
+低医療費群22%,低BNP値+高医療費群13%,
低BNP値+低医療費群6%であった.再入院率は,
高BNP値+高医療費群27%,高BNP値+低医療費
群22%,低BNP値+高医療費群13%,低BNP値+
低医療費群16%であった.【結論】心不全患者の
予後は,要した医療費にかかわらず,低BNP群
で良好であった.
78) MRI tagging法を用いた左室拡張機能評価
の試み
(松下記念病院循環器科) 三木茂行・
赤壁佳樹・山野倫代・川崎達也・神谷匡昭・
杉原洋樹
(山近医院) 川崎信吾
【目的】MRI tagging法を用いて左室拡張機能の
評価を試みる.【対象】健常者,高血圧性心肥大
(HHD),肥大型心筋症(HCM)各1例.【方法】
GE社製Signa Advantage1.5Tを使用し左室短軸断
面におけるtagging画像を撮像.tag交点の変位よ
り一心周期にわたる円周方向ひずみを各領域別に
(前壁,中隔,後壁,側壁)time courseで表示し,
その微分値によりstrain rateを算出し比較検討し
た.【結果】健常者では拡張期円周方向ひずみ
0.23-0.38(23-38%)の拡張を示した.HHDでは健
常者と同様0.19-0.33であった.一方HCMでは肥大
部位である前壁0.07,中隔0.26であり,前者におい
て円周方向ひずみが低下していた.HHDではstrain
rateは2峰性の値を示した.以上MRI tagging法
を用いた左室拡張機能評価の試みを報告する.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1223
79) 高拍出性心不全を呈した巨大腎動静脈瘻の
一例
(大阪大学附属病院循環器内科) 四條崇之・
牧野信彦・坂田泰彦・坂田泰史・樋口義治・
中谷大作・肥後修一朗・溝手 勇・堀 正二
(同泌尿器科) 木内 寛・西村和郎・
市丸直嗣・高山仁志・中山雅志・奥山明彦
82) 肥大型閉塞型心筋症に僧帽弁穿孔を合併し
た一例
((財)天理よろづ相談所病院循環器内科)
本岡眞琴・樋口貴文・田巻庸道・三宅 誠・
和泉俊明・泉 知里・日村好宏・玄 博允・
小西 孝
(同心臓血管外科) 上原京勲・西村和修
85) 僧帽弁狭窄症,慢性心房細動に伴った左房
内巨大血栓により急性左心不全を呈した一症例
(兵庫医科大学循環器内科/冠疾患・CCU科)
岩破俊博・中尾伸二・岡 克己・李 正明・
舛谷元丸・辻野 健・大柳光正・増山 理
(同循環器外科) 良本政章・光野正孝・
宮本裕治
症例は58歳女性.労作時の呼吸苦を主訴に来院.
胸部X線にて著明な心肥大を認めた.胸部診察に
て収縮期雑音,腹部診察にて左側腹部血管雑音聴
取した.心臓超音波検査にて左室内腔拡大と軽度
の僧帽弁逆流を認めた.心カテーテル検査では僧
帽弁逆流軽度であったが,心係数9.1l/min/m2と
高心拍出状態であった.腹部造影CT検査では,
大動脈から分枝した拡大・蛇行した左腎動脈が腎
外で腎静脈に直接還流し,下大静脈へと巨大な瘤
を形成しながら流入し腎動静脈瘻を形成してい
た.この腎動静脈瘻が高拍出性心不全の原因と考
えられたため,当院泌尿器科にて左腎摘出術施行
した.それにより心不全コントロールは良好とな
った.高拍出性の遠心性心肥大では,動静脈短絡
の可能性があることが示唆された興味深い症例と
いえる.
症例は55歳男性,以前から肥大型閉塞型心筋症で
外来通院中であった.入院数日前より感冒様症状,
顔面浮腫を認めたため当科受診,胸部レントゲン
上著明な肺うっ血を認め緊急入院となった.入院
時の心エコーで僧帽弁逆流がIV度に増悪しており,
前尖中央に疣贅様のひらひらエコーがあり,その
部位より逆流が生じており,前尖の穿孔が疑われ
た.血液培養を繰り返したがすべて陰性であり,
炎症反応も陰性化した.手術適応と考え,また炎
症反応ないことより,心臓カテーテル検査を施行
した.左室流出路圧較差40mmHg,僧帽弁逆流
IV度を認めた.その後僧帽弁置換術が施行され
た.術中所見において,僧帽弁前尖にはpauchの
形成と,径10mmの穿孔を認めた.同部は赤色,
黄色に変性しており,陳旧性の感染性心内膜炎が
原因と考えられた.比較的稀な合併であると考え,
報告した.
症例は68歳男性.50歳時に僧帽弁狭窄症,心房細
動を指摘され,以後近医にて加療されていた.
2005年9月下旬,起床後より呼吸困難出現し前医
に救急搬送された.うっ血性心不全と診断され,
心エコーにて左房内に巨大な腫瘤認め精査のため
当院CCU紹介入院となった.入院時の胸部X線で
は著明な肺水腫を認め急性左心不全を呈してい
た.当院心エコーで腫瘤は左心耳から連続する茎
を有しており,大きさは約20mm×40mmで,性
状より血栓と診断した.この浮遊した血栓が僧帽
弁狭窄部位にかん頓しては外れる様子が観察さ
れ,これが急性左心不全の原因と考えた.僧帽弁
推定弁口面積は約1.5cm2であった.循環器外科に
より左房内血栓摘出が行われ,救命できた一症例
を経験したので報告する.
80) 心室中隔欠損症によるEisenmenger症候群
に対してBosentanを導入した一例
(市立岸和田市民病院循環器) 馬場 理・
門田 真・森脇総治・塩路圭介・竹内雄三・
上垣内敬・松田光雄
83) 経皮的大動脈弁バルーン形成術にてめま
い・失神が改善した,腎不全合併大動脈弁狭窄症
の一例
(公立八鹿病院循環器科) 中村浩彰・
渋谷 純・鯉田五月
症例は58歳女性.以前より心室中隔欠損症指摘さ
れており,手術を薦められていたが拒否していた.
平成14年の時点で心エコー上,Eisenmenger化が
疑われていた.その後,近医に通院していたが,
平成17年,うっ血性心不全にて当院救急搬送され
た.心不全は,利尿剤,カテコラミン投与にて軽
快.心不全コントロール後の心臓カテーテル検査
にてEisenmenger症候群と診断した.HOTに加え,
Beraprost,Nifedipine導入の上,一旦退院.
Bosentan発売に伴い導入.Swan-Ganzカテーテ
ルでの肺動脈圧および肺血管抵抗の評価および6
分間歩行での運動耐容能の評価を行った.結果,
Beraprost,Nifedipine導入後,肺動脈圧および肺
血管抵抗の減少および運動耐容能の改善を認めた
が,Bosentan導入前後では著変なく,はっきり
とした効果は認められなかった.
症例は,88歳女性.5年前より大動脈弁狭窄症を
指摘されていた.軽労作での呼吸困難,うっ血性
心不全増悪による入院の既往があり,手術を勧め
られるも拒否されていた.前日より安静時呼吸困
難を自覚し,外来を受診.待合室にて失神し,緊
急入院となる.安静時呼吸困難は酸素投与,カテ
コラミン投与などにより改善するも,ふらつき・
眩暈の為に坐位を取ることが不能となった.大動
脈弁置換術を勧めるも,同意を得られず.また腎
機能低下(Cr2−3台)を合併.そこで経皮的大
動脈弁バルーン形成術を行い,自覚症状の改善を
得ることが出来た.この治療法は長期成績に問題
があり,小児を除いて,適応は限定的である.し
かし,本症例のように合併症を伴う高齢者に対し
ては,自覚症状改善を目的とした姑息的治療とし
て有効であると考えられた.
81) 診断および治療に難渋した高齢者の肺高血
圧症の一例
(愛仁会高槻病院) 大末剛史・梶浦 恭・
高井栄治・田村大介・中田恭介・藤野雅史
84) 大動脈弁無冠尖と弁輪部周囲の腫脹により
急速に増悪した急性心不全の一例
(京都第一赤十字病院循環器科)
宮川浩太郎・鳥居さゆ希・西澤信也・
肌勢光芳・白石 淳・兵庫匡幸・八木孝和・
島 孝友・河野義雄
(同救急部) 有原正泰
(同心臓血管外科) 高橋章之・中島昌道
(同検査部病理) 加藤元一
87) 血栓弁による僧房弁位人工弁機能不全の一
症例
(神戸市立中央市民病院循環器内科)
北井 豪・谷 知子・田邊一明・八木登志員・
大野布美恵・谷美菜子・片山美奈子・
木下 慎・尾田知之・江原夏彦・民田浩一・
加地修一郎・山室 淳・盛岡茂文・木原康樹
(同心臓血管外科) 岡田行功
症例は64歳の女性.主訴は呼吸困難と動悸.身体
所見と胸部X線所見から急性心不全と考えて行っ
た心エコー図にて,心室中隔基部から大動脈弁弁
輪部,大動脈弁無冠尖,僧帽弁前尖に及ぶ広範囲
の腫脹と高度の大動脈弁逆流を認めた.感染性心
内膜炎に伴う弁輪部膿瘍を疑ったが血液培養は陰
性であった.エンピリック治療開始後も腫脹は進
行し,第3病日に完全房室ブロックとなったため
大動脈弁・僧帽弁置換術と永久ペースメーカ留置
術を行った.病理組織では微小膿瘍と形質細胞や
多核巨細胞などの浸潤を認めたが,PCR検査など
から抗酸菌感染は否定的で,MPO-ANCA陽性,
PR-3 ANCA陰性であった.大動脈弁と弁輪部周
囲の腫脹に伴う大動脈弁逆流と完全房室ブロック
により急速に増悪した急性心不全症例を経験した
ので報告する.
症例は77歳女性.70歳時僧帽弁閉鎖不全症にて僧
帽弁(B-S弁)置換術を施行し,近医にて加療を受
けていた.2005年4月頃より労作時呼吸困難が出
現し,6月の経胸壁心エコー図にて人工弁異常が
疑われたが保存的に加療されていた.2006年1月
心不全にて入院となり,心エコー上人工弁の血栓
弁が疑われ当院転院となった.血行動態が安定し
ていること,腎障害があることなどにより抗凝固
療法の強化による内科的加療を行った.1月27日
の経食道心エコー図では僧帽弁及び弁輪に血栓の
付着を認め,僧帽弁流入血流速波形の異常を認め
たが,2月21日には血栓はほぼ消失し,僧帽弁流
入血流速波形も改善していた.内科的治療にて血
栓弁が合併症なく改善し,また診断に経食道心エ
コー図が有用であった貴重な症例であり報告する.
症例は73歳女性.呼吸困難を主訴に来院.低酸素
血症,心エコーにて右心系の拡大,左心系の圧排
および著明な肺高血圧を認めた.肺動脈造影を施
行したが血栓を認めず,肺動脈圧62/32(40)で
あった.胸部胸部造影CT,肺換気血流シンチで
異常を認めず,肺機能検査も正常であった.抗核
抗体640倍,抗セントロメア抗体のみ高値であっ
たが,膠原病性を示唆する臨床症状に乏しかった.
ベラプロスト,ボセンタンを導入したが,肺高血
圧の改善は得られず永眠された.剖検肺に肺中小
動脈の壁肥厚(Heath-Edwards分類4度)を認め
た.多臓器に膠原病性を示唆する病理所見は認め
なかった.診断及び治療に難渋した高齢者の肺高
血圧症の一例を経験したので文献的考察を加えて
報告する.
1224
第 101 回近畿地方会
86) 僧房弁置換術後遠隔期に高度の溶血性貧血
をきたした一例
(天理よろづ相談所病院循環器内科)
三宅 誠・樋口貴文・田巻庸通・本岡眞琴・
和泉俊明・泉 知里・日村好宏・玄 博允・
(同心臓血管外科) 小西 孝・上原京勲・
西村和修
78歳女性.23年前に僧房弁置換術を受け外来通院
中.中等度大動脈弁狭窄症も存在する.平成17年
夏より全身倦怠感と労作時息切れを自覚.同じ頃
より溶血性貧血が出現し次第に進行.平成18年1
月に精査加療目的で入院.経食道心エコー図で人
工弁の弁輪から吹く有意な僧房弁逆流を認めた.
他に溶血をきたす原因がなく僧房弁位人工弁逆流
および/または大動脈弁狭窄症が原因の機械的溶
血と考え2月に手術実施.術中所見で人工弁縫着
輪の一部が内膜に覆われず露出しており,その外
側で左室と左房が交通しているのを確認した.そ
のため僧房弁については人工弁縫着輪の再縫着術
をおこなった.大動脈弁については大動脈弁置換
術をおこなった.術後に溶血性貧血は著明に改善
した.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
88) 慢性虚血性僧帽弁逆流2症例のドブタミン
負荷組織ドプラ心エコー図法による検討
(神戸大学循環呼吸器病態学) 辰巳和宏・
川合宏哉・片岡俊哉・大西哲存・田中秀和・
横山光宏
【症例1】73歳男性,陳旧性下壁心筋梗塞,中等度
の虚血性僧帽弁逆流を認めた.ドブタミン負荷心
エコー図にて,左室駆出率は29%から39%と増加,
僧帽弁のtenting areaは1.4cm2から1.1cm2に減少,
僧帽弁逆流率は54%から33%と著明に改善した.
【症例2】73歳男性,陳旧性前壁心筋梗塞,高度の
虚血性僧帽弁逆流を認めた.ドブタミン負荷心エ
コー図にて,左室駆出率は20%から28%と増加,
僧帽弁のtenting areaは2.4cm2から2.1cm2に減少,
僧帽弁逆流率は70%から60%と改善は軽度であっ
た.2症例の僧帽弁逆流減少度と局所壁運動の変
化との関係について左室短軸における前部中隔,
側壁,後壁,下壁のstrain rateを用いて考察,報
告する.
89) 虚血性僧帽弁逆流と心室頻拍に対して外科
手術が有効であった1症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
肥後友彰・上田恭敬・奥山裕司・小松 誠・
小笠原延行・柏瀬一路・大森洋介・大薮丈太・
根本貴祥・松井万智子・松尾浩志・平山篤志・
児玉和久
(大阪大学病態情報内科学) 岡 崇史
(大阪警察病院心臓センター心血管外科)
大竹重彰
74歳男性,後側壁と下壁陳旧性心筋梗塞を基礎疾
患とする慢性心不全NYHA3度で外来経過観察中.
MRは虚血性僧帽弁逆流(IMR)と考えられ心エ
コー上は3度,年々増悪傾向で加療目的にて入院.
またモニター心電図で非持続性心室頻拍(NSVT)
をみとめた.左室造影で下壁領域に心室瘤・MR
3度,VT誘発検査で心拍数270回のVTが誘発され
た.僧帽弁輪形成術・MAZE手術・三尖弁輪形成
術ならびに,VTの起源が心室瘤にある可能性を考
え心室瘤切除術を追加施行した.術後MRは消失,
VT誘発するも薬剤負荷下でもVPB one echoすら誘
発されずICD植込みを施行せずに退院とし,
Holter
心電図による経過観察を施行する方針となった.
IMR・VTの治療に開心術が有効であった一症例を
報告する.
90) 当院で経験した虚血性僧帽弁閉鎖不全症例
についての検討
(神戸赤十字病院) 川平敏博・築部卓郎・
小川恭一
(兵庫県災害医療センター) 林 太郎・
小澤修一
開院以来,当院で経験した虚血性僧帽弁閉鎖不全
症例10例について検討を行った.待機手術症例は
6例(男性5例:女性1例,平均年齢67歳)で全例
僧帽弁形成を行い,CABG平均3.3本,一例にPV
isolationを同時に行い,術後3例にIABP補助を要
した.緊急症例は4例(男性3例:女性1例,平均
年齢76.5歳)であり,全例とも僧帽弁形成を行い,
CABG平均2.25本,1例に左室瘤合併切除を行っ
たが,2例は術前よりIABP・PCPS補助下であり,
術後も同補助を要した.待機症例は全例軽快退院
となり,緊急症例においても,術前CPR後で術後
脳死症例を除き,術前よりの心原性ショックから
の離脱可能であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
91) 大動脈弁置換術後に人工弁脱落を認めた1
症例
(大阪警察病院心臓センター) 根本貴祥・
上田恭敬・奥山裕司・小松 誠・小笠原延行・
柏瀬一路・岡 崇史・大森洋介・大薮丈太・
岡田佳築・村川智一・松井万智子・大竹重彰・
平山篤志・児玉和久
症例は56歳女性.既往歴 大動脈炎症候群(PSL
10mg内服中)11年前に大動脈弁閉鎖不全症に対し
大動脈弁置換術を施行.1年前より徐々に呼吸困
難感,体重増加を認めた.同年,12月5日,呼吸
苦増強し当院受診.来院時,胸部レントゲン上心
拡大と著明な肺うっ血を認め急性心不全の診断に
て緊急入院となった.心エコー上AR3度,MR2度
でA弁のperivalvular leakを認めた.心不全加療の
後の心臓カテーテル検査時の弁透視にて人工弁が
部分的に脱落している像を認めた.弁膜症に対す
る再手術予定にて入院待機中に大動脈弁の完全脱
落によりショックとなり緊急手術施行,三弁に対
しそれぞれAVR,MAP,TAP施行となった.今回
我々は大動脈炎症候群を合併した完全な大動脈弁
脱落を経験したため,文献的考察を加え報告する.
92) 三尖弁置換術の検討
(兵庫県立姫路循環器病センター心臓血管外科)
圓尾文子・向原伸彦・吉田正人・尾崎喜就・
本多 祐・金 賢一・溝口和博・井上 武・
深瀬圭吾・三里卓也・北村アキ
94) ルーリッシュ症候群に対するカテーテル治療
(関西労災病院循環器科) 飯田 修・
南都伸介・上松正朗・両角隆一・小谷順一・
粟田政樹・大西俊成・井藤紀明・大島英子・
南口 仁・赤堀宏州・永田正毅
【症例】78歳 男性【既往歴】65歳 前立腺肥大
75歳 白内障【危険因子】高血圧 糖尿病【現病
歴】3年前より間歇性跛行を訴えていたが内服加
療にて放置していた.その後症状増悪あり,今回
近医より紹介入院となった.【現症】入院時ABPI
右0.56左0.52両側大腿動脈は微弱に触知【経過】
入院後の血管造影検査では,腹部大動脈遠位部か
ら両側外腸骨動脈まで完全閉塞病変であった.本
症例は,通常外科的バイパス術であるが,患者の
強い希望もありカテーテル治療を施行した.カテ
ーテル手技は左上腕動脈と両側大腿動脈の両方向
性にてアプローチした.その後CTOワイヤーに
て病変部位を通過させ,バルーンとステント使用
にて0%に開大した.カテーテル治療施行後,両
側ABIは0.8迄改善し跛行も消失し,術後2日後に
退院となった.
95) 重症虚血肢に対して下肢動脈インターベン
ションを施行し救肢し得た1症例
(関西労災病院循環器科) 赤堀宏州・
南都伸介・上松正朗・両角隆一・小谷順一・
粟田政樹・大西俊成・飯田 修・井藤紀明・
世良英子・南口 仁・永田正毅
当科では三尖弁輪形成術(TAP)で治癒し得な
いと考えられる三尖弁閉鎖不全(TR)症例に対 【症例】65歳男性【主訴】安静時下肢痛[既往歴]
しては三尖弁置換術(TVR)を選択している. 50歳時 高血圧,57歳時 2型糖尿病,55歳時
これらの手術成績を評価することとした.2000年
糸球体性腎炎により人工透析導入【現病歴】65歳
1月から2005年12月までの間に手術を施行した10
時に右下腿踵部潰瘍のため右後脛骨動脈に対し
症例を対象とした.男性3名,女性7名,平均年
PPI既往がある.同年,6月より左第2趾に潰瘍を
認めた為緊急入院となった.【経過】入院後下肢
齢65.8歳であった.TRの原因としては左側弁膜
動脈造影では,左前脛骨動脈に99%の狭窄を認め
症にともなう二次性が8例,心房中隔欠損術後が
1例,Ionescu–Shiley弁の破綻が1例であった. た.また入院時に測定した創部付近の皮膚還流圧
初回手術が2例,再手術症例が8例でそのうち初 (SPP)は30mmHgと低値を示し,創傷治癒には
血流不十分と判断した.そのため,同部位に対し
回手術時にTAPを施行されたものが3例あった.
同側浅大腿動脈穿刺にてカテーテル治療を施行し
使用人工弁は生体弁が1例,SJM機械弁が1例で
た.左前脛骨動脈の狭窄をバルーンのみで25%に
あった.縦隔炎による手術死亡が1例あった.出
拡張し終了とした.カテーテル治療後のSPPは
血性胃潰瘍および心不全により長期呼吸管理を要
90mmHgにまで上昇を認め,足趾切断せず壊死部
した1例を含めて全例軽快退院した.
のデブリードマンのみで,病変部に肉芽を形成し
創傷治癒を認めた.
93) 頸動脈閉塞患者における僧帽弁置換術の一例
(天理よろづ相談所病院心臓血管外科)
岡田達治・西村和修・上原京勲・根本慎太郎・
植山浩二・岩倉 篤
症例は62性才女性,大動脈炎症候群により頸部3
分枝がいずれも閉塞,13歳時左脳梗塞の既往あり.
ダイアモックス負荷脳血流シンチグラフィーでは
梗塞巣以外には血流低下域なし.僧帽弁閉鎖不全
症による心不全に対して機械弁による弁置換術を
施行.術中INVOS使用,人工心肺中IABP併用,
体外循環中中等度低体温,灌流圧を平均70mmHg
以上,Ht 25%以上を保持する方針で手術を施行
し,術後合併症は脳梗塞を含めみられず,良好な
経過であった.
96) B型解離性大動脈瘤再解離による腹部大動
脈狭窄に対しPALMAZステント留置が有効であ
った1症例
(洛和会音羽病院心臓病センター)
富士榮博昭・山崎武俊・皿澤克彦・稲井理仁・
北川元昭・高橋伸基・浜中一郎・赤城 格・
田邉昌人・平岡勇二・上田欽造
高血圧,狭心症の既往がある79歳女性.突然の前
胸部痛にて他院受診.胸部CTで左鎖骨下動脈分
岐から腎動脈上部までの解離性大動脈瘤を認め,
当院へ搬送.ニカルジピンによる降圧治療を行っ
ていたが,第4病日腹痛,血圧低下,乏尿を認め
たため,造影CTおよび大動脈造影施行にて腹腔
動脈分岐部直上より偽腔による腹部大動脈真腔の
著明な狭小化を認めた.圧較差は32mmHg(72/46
→44/37).偽腔拡大による腹部臓器虚血,ショッ
ク状態と判断,外科的手術を勧めたが拒否,救命
目的でPALMAZ 8.0×33.4mmステントを狭窄部
に留置し,圧較差の消失および血行動態の改善を
認めた.解離性大動脈瘤による狭窄症状に対する
緊急処置としてPALMAZステント留置が有効で
あった症例を経験したので報告する.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1225
97) 胸部大動脈瘤に合併した急性B型大動脈解
離の一例
(神戸大学呼吸循環器外科学) 浅野 満・
岡田健次・山下輝夫・中桐啓太郎・田中裕史・
川西雄二郎・松森正術・宗像 宏・森本直人
100) 冠動脈病変及び膝窩動脈瘤を合併したバー
ジャー病の1例
(京都大学循環器内科学) 只野雄飛・
阿部 充・古川 裕・中川義久・木村 剛・
北 徹
103) 心窩部痛により発症した大動脈炎症候群の
一例
(三菱京都病院循環器科) 横松孝史・
吉田 章・三木真司・溝口 哲・河野 裕・
大野美紀子・別府浩毅
【症例】71歳,男性.突然の背部痛で発症,急性
B型大動脈解離と遠位弓部の真性瘤(径75mm)
を認めた.降圧安静療法中に解離が進展し右腎動
脈と左下肢の灌流不全を生じた.緊急血管内治療
施行するも両下肢血流低下あり右腋窩大腿動脈バ
イパス(AxFB)を施行.動脈瘤壁にEntry,右腎
動脈灌流不全は残存,左腎動脈はAxFBから逆行
性還流,腹腔動脈と左下肢は偽腔灌流の状態であ
った.4週間後,左側開胸下に下行大動脈人工血
管置換術を施行.体外循環はAxFBと左大腿動脈
から送血,主肺動脈脱血で確立し低体温循環停止,
逆行性脳灌流を併用し,臓器灌流不全なく良好に
経過した.【考察】本症例は解離進展や血管内治
療により臓器灌流が複雑で灌流不全のハイリスク
症例であった.術前評価,体外循環や補助手段の
工夫により臓器灌流不全を回避した.
症例は38歳男性.平成6年12月に左足趾に疼痛を
伴う潰瘍が出現し,動脈造影検査等にてバージャ
ー病と診断され,腰部交感神経ブロック,点滴及
び内服治療などにより加療されていた.平成17年
7月になり右足趾の潰瘍が出現し疼痛が悪化した
ため,精査加療目的に当科に入院となった.動脈
造影検査にて,無症候性に左前下行枝にバージャ
ー病の血管病変に類似したコークスクリュー様の
側副血行路を伴う閉塞病変を認めた.閉塞性動脈
硬化症の除外目的に施行した全身動脈CTにて,
右膝窩動脈遠位部に直径5cmの動脈瘤を認めた.
バージャー病にコークスクリュー様の側副血行路
を伴う冠動脈病変の合併,及びバージャー病に動
脈瘤の合併はいずれもまれであり,若干の文献的
考察を加えて報告する.
症例は45歳の女性.本年2/23昼頃より心窩部に差
し込むような痛みが出現し,徐々に増悪したため
27日に当院内科を紹介受診.腹部エコーや上部消
化管内視鏡検査で異常所見を認めず,CTにて下
行大動脈・左房の背側辺りに約5cmに渡る偏心性
の壁肥厚を認め当科紹介となった.画像的には一
見大動脈解離様であり当初は鎮痛で経過観察して
いたが,赤沈の亢進や発熱等の炎症所見も明らか
となり,2日後のCTで大動脈壁が全周性に更に肥
厚してきた所見を認めたため大動脈炎症候群と診
断しステロイドの投与を開始した.その後症状・
炎症所見は沈静化に向かい,画像的にも改善が認
められた.大動脈炎症候群の症状は多彩であるが,
今回心窩部痛により発症し,病変が下行大動脈に
限局する比較的稀な一例を経験したので報告す
る.
98) カテーテル困難な術前症例に対してMDCT
を用いて冠動脈疾患をスクリーニングした一例
(和歌山県立医科大学循環器内科学)
柏木 学・財田滋穂・小林克暢・九鬼新太郎・
島本幸子・高橋千都・久保隆史・笠松 謙・
今西敏雄・津田和志・羽野卓三・赤阪隆史
101) 動脈瘤の再発を繰り返した血管Behçet病
の一例
(大阪医科大学第一内科) 宮本裕之・
星賀正明・發知淳子・柚木孝仁・武田義弘・
新名荘史・田中宏治・宮崎憲彦・保田 一・
有城久美子・岡部太一・中小路隆裕・
成山 仁・根来伸行・石原 正・花房俊昭
104) 診断に苦慮した胸部大動脈瘤
(新宮市立医療センター循環器内科)
吉岡 慶・山本克浩・山下浩司・河村晃弘・
峯園浩二
(同心臓血管外科) 水元 亨・安達勝利
(同放射線科) 秦 良行
(関西医科大学心臓血管病センター内科)
岩坂壽二
症例は81歳女性.1998年より高血圧症を指摘,
2005年11月に胸部X線,CT上,上行大動脈に
60mm下行大動脈に45mmの大動脈瘤認めたため
当院受診.瘤形成はValsalva直上から3分岐に及
んでいた.本症例では心カテーテル検査による瘤
破裂の危険性が高く,また冠危険因子が軽度であ
ったため,冠動脈CTにて冠動脈スクリーニング
を行った.CT 上明らかな有意狭窄を認めなかっ
たため冠動脈造影を行わずに人工血管置換術を施
行した.本症例のようにカテーテル検査が高リス
クで,冠危険因子が軽度な症例においては,冠動
脈CTにてスクリーニングを行う適応となると考
えられる.石灰化病変は評価できない等制限もあ
るが,心筋シンチなど他の非侵襲性検査と組み合
わせることで,今後さらに正確な評価が期待でき
ると考えられる.
99) 下肢閉塞性動脈硬化症患者における耐糖能
(関西労災病院内科) 高原充佳・池田雅彦・
五郎川伸一
(同循環器科) 赤堀宏州・飯田 修・
南都伸介
【目的】閉塞性動脈硬化症(PAD)患者における
耐糖能の検討【方法】下肢動脈造影検査でPAD
が確定した患者連続101例中,糖尿病と確認でき
ない38例に75g経口ブドウ糖負荷試験を実施し
た.【成績】糖尿病型15.8%,境界型31.6%,正常
型52.6%であり,約半数に耐糖能異常を認めた.
63例の既知の糖尿病患者を加えると全体の68.4%
に糖尿病を,境界型を加えると全体の80.2%に耐
糖能異常を認めた.境界型群では,isolated IGT
パターンを認め,正常型群に比し,insulinの総分
泌量は多く,Insulinogenic indexで見た初期イン
スリン分泌は低値を示した.【結論】PAD患者で
は耐糖能異常者が多数潜在し,インスリン追加分
泌低下に伴う食後過血糖がPADの進展に影響す
る可能性が示唆された.
1226
第 101 回近畿地方会
46歳男性.04年12月腰痛にて近医受診.CT上腎
動脈分枝直下に大動脈嚢状瘤を認め,某救命セン
ターにて右大腿動脈よりステントが留置された.
翌年5月右大腿動脈穿刺部の仮性動脈瘤が出現し
人工血管置換術を施行.軽度の炎症所見を認めた
が,アフタ潰瘍などBehçet病に特徴的な主症状に
乏しく,ステロイド投与は行わなかった.同年7
月腰痛出現しCT上新たにステント近位部にも動脈
瘤を認め,又9月には大腿動脈人工血管近位部に
動脈瘤の再形成を認めた.繰り返す動脈瘤形成と
HLA−B51(+)から血管Behçet病と診断しプレ
ドニン 60mg/日を開始.その後漸減し現在プレ
ドニン 15mg/日で炎症所見は陰性化,動脈瘤の
増大,再形成はない.本症の外的刺激に対する易
反応性を再認識させられた一例として報告する.
102) 急性動脈血栓症の一例
(近畿大学高血圧・老年内科) 前嶋哲也・
甲斐達也・田中康史・中納一衛・北山耕司・
有馬秀二・金政 健
急性動脈閉塞症の術後,急性動脈血栓症をきたし
たと考えられた稀有な症例を経験したので報告す
る.症例は,60歳男性.歩行途中に突然両下肢の
しびれが出現し,徐々に筋力が低下し歩けなくな
ったため近医に搬送,腹部下肢造影CTにて総腸
骨動脈分岐直上部での急性動脈閉塞症の疑いにて
他医に搬送され緊急手術(血栓吸引術)を施行さ
れたが,術後程なく両下肢しびれ再出現し,歩行
困難となったため当院当科入院となる.入院中に
施行された下肢MRAにて両側腸骨動脈分岐部直
上に狭窄像を認めた.その後の腹部大動脈造影検
査では,下肢MRIと一致して両側総腸骨動脈直上
に75%の偏心性の狭窄を認めた.また左総腸骨動
脈にも50%の狭窄及び潰瘍像を認め,外科治療の
運びとなった.
症例は79歳男性.平成17年9月頃より嗄声を認め
胸部CTにて5cmの嚢状瘤を大動脈弓部に認めた.
手術目的に心臓血管外科紹介となり,術前カテー
テル検査を施行.大動脈造影で弓部の瘤が確認で
きず,改めて3DCTおよび経食道エコーを施行し
た.大動脈弓部前面に異常血管への血流を認め,
瘤はその異常血管に付着している可能性が確認で
きた.再度大動脈造影を施行しこの異常血管を選
択的に造影できた.異常血管は大動脈弓部前面に
起始し肺動脈への血流を認め,著明な蛇行を伴い
途中に瘤の付着を認めた.治療は大動脈側の異常
血管をコイル閉塞した.この異常血管は起始部,
長さ,蛇行の形状より大動脈管開存症とは考えに
くくこの異常血管に瘤形成を伴った興味深い症例
と考え報告する.
105) 術前診断に経食道心エコー図検査が有用で
あった大動脈基部限局性解離の一例
(神戸大学循環呼吸器病態学) 神野 歩・
藤岡由夫・當銘成友・原 哲也・大西哲存・
田中秀和・川合宏哉・川嶋成乃亮・横山光宏
(同呼吸循環器外科学) 大北 裕・
田中裕史・森本直人
32歳女性.切迫流産にて近医産婦人科に入院,妊
娠35週にて前期破水を発症し,他院に緊急搬送さ
れ,緊急帝王切開術が施行された.術後,胸部X
線上心拡大,肺うっ血を認め,心エコー図にて心
膜液を認めたため,当院緊急入院となった.心電
図上広範囲に陰性T波とQT延長を認め,心エコ
ー図にて左室拡大,大動脈基部の拡大,大動脈弁
逆流,心膜液貯留を認めた.造影CTでは明らか
な大動脈解離はなかったが,経食道心エコー図検
査にて大動脈基部の限局性解離を認めたため,心
臓血管外科にて自己弁温存大動脈基部置換術を施
行した.胸痛などの症状のない大動脈基部限局性
解離の術前診断は造影CTを用いても非常に困難
であり,その文献的報告例は少ないため,病態の
考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
106) A型急性大動脈解離に対しBentall手術,弓
部全置換術を併せて施行したMarfan症候群の1手
術例
(神戸労災病院心臓血管外科) 山田章貴・
脇田 昇・田中亜紀子・井上亨三・大加戸彰彦
【症例】54歳,女性,急性心不全で緊急搬送され
た.171cm,42Kg,クモ状指,高度の漏斗胸を
認めた.解離は上行大動脈から総腸骨動脈分岐部
に及び,心エコーにて大動脈基部の著名な拡大,
高度ARを認め緊急手術となった.洋梨状に拡大
した大動脈基部にentryが存在,解離はRCA入口
部からLCA入口部まで3/4周に及び,無冠尖と左
冠尖との交連部は完全にdetachしていた.
Bentall手術,弓部全置換を併せて施行し,体外
循環時間283分,大動脈遮断時間214分,選択的脳
灌流時間85分,下半身循環停止時間52分であった.
高度の漏斗胸のため呼吸循環不全が遷延したが,
術後54日目に独歩退院した.水晶体亜脱臼,組織
診断上嚢胞性中膜膜壊死像を認めMarfan症候群
と診断された.
109) 消化器症状にて発見された右房内腫瘍患者
の1例
(近畿大学奈良病院循環器内科) 羽場一直・
上森宣嗣・平井 拓・胡内一郎・横田良司・
城谷 学・服部隆一
(同心臓血管外科) 西脇 登・平間大介
症例は38歳,女性.患者は1999年頃より抑欝状態
となり心療内科に通院したが,徐々に症状は軽減
し通院を中断した.2005年1月頃より,易疲労感
を自覚し再び心療内科に通院し,内服治療を受け
た.同年6月頃より腹部膨満感,食思低下を自覚
し,近医(内科)を受診した.腹部エコーにて腹
水を指摘され,当院消化器内科に紹介となった.
再度腹部エコーを施行したところ,心嚢水貯留を
認め,心エコーを施行した.心エコーにて右房内
腫瘍を認めた.右房内腫瘍摘出術を行い,組織診
の結果,粘液腫であった.
107) ウェートリフティング中に発症したA型急
性大動脈解離の1手術例
(神戸赤十字病院/兵庫県災害医療センター)
林 太郎・川平敏博・築部卓郎・小澤修一・
小川恭一
110) 検診での胸部X線異常陰影を契機に発見さ
れた心膜嚢胞の一例
(松下記念病院循環器科) 赤壁佳樹・
宮井伸幸・川崎達也・山野倫代・三木茂行・
神谷匡昭・杉原洋樹
【症例】患者は65歳男性.普段よりスポーツジム
に通い健康管理を行っていた.発症当日はウェー
トリフティング(60kg)中に突然胸背部痛と左
下肢のしびれが出現.近医に救急搬送され,A型
急性大動脈解離と診断.緊急手術目的にて当院救
急搬送となった.来院時,意識は清明であったが,
左大腿動脈の拍動は微弱であった.左大腿動脈送
血,SIVC脱血による体外循環で超低体温循環停
止下に弓部大動脈内を検したところ弓部分枝の分
岐部の内側に縦方向に長さ3cmのintimal tearを認
めた.手術は選択的脳灌流法下に上行弓部大動脈
全置換術と大動脈弁吊り上げ術を行った.術後経
過は良好である.
症例は32歳女性.検診の胸部X線で,右の心横隔
膜角に位置する異常陰影を指摘され当科を受診し
た.生来健康で明らかな胸部症状はない.身体学
的所見に特記すべき異常を認めず.心電図では非
特異的なST-T変化を認めた.BNPは10.1pg/mlで
あった.心エコー図検査で,右房に接する表面整
で境界明瞭な51mm×26mmの嚢胞性病変を認め
た.内部は低エコー輝度を示し,明らかな隔壁や
血流シグナルは認められなかった.本病変は,
MRI T1強調画像で低信号を,T2強調画像で高信
号を示し,脂肪抑制法では信号が抑制されないこ
とから,心膜嚢胞と診断した.心膜嚢胞の発生頻
度は,10万人に1人程度で縦隔腫瘍の7%を占める
ことが報告されている.若干の文献的考察を加え
て報告する.
108) 外科的摘出を余儀なくされた血栓捕獲IVC
filterの1例
(兵庫県立淡路病院外科) 野村拓生・
杉本貴樹・北出貴嗣
(同循環器科) 櫻本博也・名村宏之・
宝田 明
111) 心 タ ン ポ ナ ー デ を 契 機 に 発 見 さ れ た
Primary effusion lymphomaの1症例
(大阪市立総合医療センター循環器内科)
柚木 佳・大橋潤子・藤本浩平・嶋村浩市・
白井直哉・小松龍士・坂上祐司・成子隆彦・
伊藤 彰・土師一夫
症例は68歳女性,左下肢腫脹に対する精査で巨大
子宮筋腫による左腸骨・大腿静脈血栓症と診断
し,右内頚静脈よりtemporary IVC filter挿入下
に子宮摘出術を行った.術後IVC造影にてfilterの
kinkingと大きな陰影欠損を認めた.filterを動か
すことが危険と判断し,外科的摘出を行った.腹
部正中切開・開腹にてKocher授動を行い,両側
腎静脈及びその末梢のIVCを露出した.filter上下
でIVCをクランプ,縦切開にて血栓を捕獲したfilterを一塊として摘出した.filter内には器質化血
栓と新鮮血栓が充満し,90度kinkingして先端は
卵巣静脈内に陥入していた.IVCを縫合し,右大
腿静脈より永久filterを留置して手術を終了した.
術後経過良好で合併症なく退院した.本症例につ
き報告する.
症例は76歳女性.平成17年7月頃から労作時息切
れ,呼吸困難が増強し,当院を受診した.胸部レ
ントゲン上,著明な心拡大があり心エコー図検査
で全周性に30−40mmの心嚢液貯留と右心系の虚
脱所見を認めた.心タンポナーデと診断し,心嚢
ドレナージを施行したところ血性心嚢液が約
1300ml排出され,速やかに自覚症状は改善した.
心嚢液の細胞診でリンパ腫様細胞が多数見られ,
各種画像診断からも原発巣は不明であり,また可
溶性IL-2レセプター抗体が842U/mlと上昇してお
りPrimary effusion lymphomaと診断して化学療
法を行った.Primary effusion lymphomaは一般
的に予後不良とされているが,化学療法施行後,
心嚢液は消失し良好に経過している.心タンポナ
ーデを契機に発見されたPrimary effusion lymphomaの1症例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
112) 心膜剥離術を施行するも経過不良であった
放射線性収縮性心膜炎の一例
(愛仁会高槻病院) 藤野雅史・梶浦 恭・
高井栄治・田村大介・中田恭介・大末剛史
【症例】62歳 男性【主訴】咳嗽【既往歴】食道
癌,肺結核【現病歴】平成16年1月より労作時呼
吸困難出現.入院され,当初アルコール性心筋症
を疑い,利尿薬にて軽快退院した.9月胸水再貯
留を認めた.CTで心膜肥厚,右心カテーテル検
査で肺高血圧,dip and plateau 認め,収縮性心膜
炎と診断した.その後心不全症状繰り返し,10月
再入院した.薬剤抵抗性のため,心膜剥離術を施
行し,心不全は改善したが,dip and plateauは残
存していた.平成17年4月拡張障害の悪化を認め,
心嚢開窓術施行した.術後,一時改善したが,全
身状態不良であり,心不全の寛解,増悪を繰り返
し,12月永眠された.食道癌に対する放射線照射
後発症した,経過不良な収縮性心膜炎の一例を経
験したので報告する.
113) 心停止下,超音波メスによる心膜切除が有
効であった収縮性心膜炎の一例
(大阪市立大学附属病院心臓血管外科)
西平守和・福井寿啓・柴田利彦・佐々木康之・
平居秀和・細野光治・元木 学・尾藤康行・
高橋洋介・末廣茂文
症例は64歳,男性.2005年9月頃より下腿浮腫お
よび労作時呼吸困難が出現し徐々に増悪傾向にあ
った.心エコー検査で収縮性心膜炎が疑われたた
め心カテーテル検査を受けたところ,心室圧の
Dip and plateau等の特徴的所見を認め慢性収縮性
心膜炎と診断された.2006年1月,当院にて心膜
切除術を施行した.肥厚した心膜が高度に癒着し
ていたが,超音波メスを使用することで出血量は
少なく,比較的容易に癒着剥離が可能であった.
また人工心肺による体外循環を用い心停止とする
ことで心臓の脱転も容易となり左房後面を除くほ
ぼすべての心膜切除が可能であった.術後経過は
良好であり自他覚所見は共に改善した.今回我々
は心停止下に超音波メスによる心膜切除が有効で
あった収縮性心膜炎の一例を経験したので文献的
考察を加えて報告する.
114) 右室流出路原発の心臓未分化肉腫の一例
(京都大学心臓血管外科学) 島本 健・
仁科 健・丹原圭一・丸井 晃・佐地嘉章・
池田 義・米田正始
症例は43歳男性.本年9月22日運動時の意識消失
を認め,その後易疲労感の増悪を認めたため本院
受診.精査の結果,心エコーにてmassiveTR,右
室流出路から肺動脈をほぼ閉塞する腫瘤を認め
た.突然死のリスクを考慮し,診断のついた10月
5日緊急にてPCPSを挿入後,翌日に開心術下に
腫瘤切除術を施行した.術後の病理検査にて心臓
原発のundifferentiated cardiac sarcomaと診断さ
れた.心臓原発腫瘍の頻度は,剖検例で0.001−
0.03%,その内悪性腫瘍は37%と稀であり,発見
が遅れやすいことや切除に根治性がないことが多
く予後不良である.本症例はその病状の進行の速
さから術前より悪性腫瘍が強く疑われたが,本人
や家族の希望も強く腫瘤切除術が施行された.現
在化学療法+放射線療法が最大限に施行され,術
後3ヶ月現在再発は認められていない.
神戸国際会議場(2006 年 6 月)
1227
115) キャッスルマン病様症状を呈したIL-6産生
心臓粘液腫の1例
(京都大学医学部付属病院心臓血管外科)
森嶌淳友・島本 健・丸井 晃・佐地嘉章・
丹原圭一・仁科 健・米田正始
キャッスルマン病とは原因不明のリンパ増殖性疾
患で食思不振,体重減少,貧血を認め,IL-6過剰
産生により形成されるものがある.今回我々はキ
ャッスルマン病様症状を呈したIL-6産生の心臓粘
液腫の1例を経験した.症例は78歳,男性.3年
前より貧血指摘され精査するも異常を認めず経過
観察されていた.平成17年8月頃より食欲低下,
体重減少,微熱を認め,同年9月肺炎にて入院と
なった.抗生剤にて炎症反応減少するも完全に消
失せず,炎症反応高値,体重減少,高ガンマグロ
ブリン血症,骨髄生検での形質細胞増加,IL-6高
値からキャッスルマン病と診断された.胸腹部
CTにて左房内腫瘤を認め,同年11月28日腫瘍を
完全切除した.病理にて粘液腫と診断された.術
後,IL-6の低下,炎症反応の消失,貧血の改善を
認め,術後18日目に退院した.
116) 心肺停止患者に対するbystander-CPRによ
り後遺症なく退院した1症例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
青野悟志・大森洋介・奥山裕司・上田恭敬・
小松 誠・小笠原延行・柏瀬一路・平田明生・
大薮丈太・岡田佳築・村川智一・松井万智子
症例は51歳の男性.当院にて平成12年より特発性
拡張型心筋症にて外来通院中であった.平成18年
2月7日,11時45分に駅構内で意識消失(JCS300),
転倒するところを,偶然通りかかった麻酔科医師
に発見され,救急車が到着する11時56分まで心肺
蘇生術施行された.救急車内の心電図上心室細動
を認めたため,AEDを用いた4回目の電気的除細
動にて12時06分心拍再開,心房細動となった.当
院到着後,意識レベル回復,蘇生後脳症もなく経
過している.今回の症例は,心停止に陥った直後
からbystanderによる心肺蘇生を行い,脳などの
重要臓器に後遺症を起こさなかった1例である.
本症例を含む,当院に心肺停止で救急搬送された
患者の予後の検討と,若干の文献的考察を加えて
報告する.
118) 院外心肺停止後脳低体温療法が奏効し社会
復帰に成功した肥大型心筋症の一例
(市立堺病院循環器内科) 佐藤正岳・
谷和孝昭・塚本幸資・小原章敏・青木隆明・
河本 巖
(同救急集中治療科) 植松正保・堤千賀子
症例は63歳女性.2005年9月24日駅で意識消失を
来たし,bystanderによる心肺蘇生が施行された.
救急隊到着時Vfが確認され,DCを施行,心拍再
開,自発呼吸を得た.発症後約30分当院到着時は
JCS300で自己心拍,自発呼吸が認められた.両
上肢屈曲位,両下肢硬直を呈する徐皮質姿位を来
たし,低酸素脳症と判断.体温34度を目標とした
低体温療法を開始した.9月27日に復温.10月2日
に意識状態の改善を認めた.10月3日には抜管,
初めは短期の記憶障害が認められたが,時間経過
とともに改善を得た.CAGでは冠動脈有意狭窄
認めず,肥大型心筋症ならびにこれによるVfが原
因と判断し,ICD埋め込みを施行後退院.現在元
気に通院中である.以上,院外心肺停止後,除皮
質硬直を来たしたが低体温療法により社会復帰に
成功した1例を経験したので報告する.
119) 急性心筋梗塞(ショック・院外心肺停止)
の蘇生後心不全にPDEIII阻害薬とβ遮断薬併用が
有効であった一例
(大阪府立中河内救命救急センター)
中井健仁・木村武量・田伏久之
症例は60歳男性.胸痛,ショックのため救急搬送
途中にVFとなり搬入された.来院時VF,心静止
を繰り返し,心停止から35分後にPCPS 導入,自
己心拍再開後冠動脈造影を実施した.LAD Seg6
99%を認め,ステント留置,IABPを追加した.3
病日にPCPS,9病日にIABP,10病日に人工呼吸
器を離脱したが,12病日に心不全再燃し再挿管,
さらにショック状態となり,IABPを再開した.
気管切開を実施して16病日にIABPを離脱,ハン
プ・ACEIにPDEIII阻害薬併用開始,17病日カテ
コラミン離脱後,β遮断薬を導入するも心不全再
燃中止,29病日に再度β遮断薬を導入,33病日に
人工呼吸器離脱,病棟内歩行可能となり転院,独
歩退院された.蘇生後心不全に難渋した症例を経
験したので報告する.
117)「低体温療法」が奏功し社会復帰可能とな
った若年ブルガダ症候群の1例
(京都第二赤十字病院循環器科) 塩野泰紹・
中西直彦・大槻悠美・鈴木健之・西堀祥晴・
松尾あきこ・井上啓司・田中哲也・藤田 博・
井上直人
(同救急部) 北村 誠
30歳の男性.父親が30歳代で突然死している.痙
攣しているところを家人に発見され救急要請.救
急隊到着時,心肺停止状態.心電図にて心室細動
を認めたため救急隊員により除細動施行.蘇生後
の心電図からブルガダ症候群が疑われた.蘇生直
後より,硬直性の痙攣と発熱を呈し重度の脳機能
障害が疑われたため「低体温療法」を開始した.
「低温期」は35度,3日間とした.合併症なく順調
に経過し,第30病日,後遺症なく独歩退院の運び
となった(第20病日,ICD植え込み術施行).今
回,「低体温療法」が奏功した若年ブルガダ症候
群の1例を経験した.「低体温療法」は,ICUや脳
外科領域において使用されることが多い脳蘇生療
法の1つである.当科での「低体温療法」の経験
をまとめ,若干の文献的考察を加えて報告する.
1228
第 101 回近畿地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
第 100 回 日 本 循 環 器 学 会 九 州 地 方 会
2006 年 6 月 24 日 鹿児島県市町村自治会館
会長:坂 田 隆 造(鹿児島大学循環器・呼吸器・消化器疾患制御学)
1) 冠動脈造影検査中に円錐動脈に楔入し,胸部
誘導にてST上昇を認めた1例
(新日鐵八幡記念病院) 鍵山俊太郎・
古賀徳之・加世田繁・石原嗣郎・川副信行・
佐渡島省三
症例は73歳男性.2006年1月31日PCI後フォロー
アップのため冠動脈造影検査(CAG)を施行し
た.マルチパーパスカテーテルを使用し,LCA
造影に引き続きRCA造影を行う際,カテーテル
が円錐動脈に楔入し,直後から心電図上V1-4に
かけて著明なST上昇を認めた.LCA再造影では
著変を認めず,RCA再造影で円錐動脈に造影遅
延を認めた.胸痛などの症状はなく経過観察し,
徐々にST上昇は改善し,5分後のRCA造影にて円
錐動脈の造影遅延は消失した.カテーテルにより
円錐動脈のスパズムが誘発されたと考えられた.
円錐動脈は,LCAへの側副血行として重要と考
えられてきたが,生理的意義は不明な点が多い.
円錐動脈の急性閉塞による同様の心電図変化を呈
した症例報告は2例あり若干の文献的考察を加え
て報告する.
3) ベントール手術後のグラフト-SVG吻合部狭
窄により生じた急性冠症候群に対しPCIを施行し
た一例
(藤元早鈴病院循環器科) 剣田昌伸
(同心臓血管外科) 松元仁久
(同循環器科) 有馬良一・川添 晋・
木原浩一
5) LH-RH誘導体(酢酸リュープロレリン)使
用中に発症した閉経前心筋梗塞の一例
(熊本市立熊本市民病院循環器科)
小野敬道・角田 等・森上靖洋・木村義博・
外村洋一
(同薬剤部) 宮添哉子
【主訴】胸部圧迫感【家族歴】なし【既往歴】RA:
31歳(PSL 3mg内服),妊娠4回(1回自然流産),
62歳男性.急性大動脈解離にて,平成7年上行大
46歳:子宮内膜症にて酢酸リュープロレリン使用
動脈置換術を施行.その後,弓部大動脈拡大にて
中【現病歴】胸痛の既往(-).○月○日午後8時胸
平成17年3月23日弓部及び大動脈基部置換術を施
痛で来院.心電図上V2-6にT波の先鋭化所見あり,
行.術後リハビリ目的で,同年4月19日に当院転
AMIの診断で緊急入院【経過】CAG上Seg.7 99%
院.その後,5月11日に胸部圧迫感,5月12日には,
(TIMI I)を認め同部位に対してPCI施行【考案】
失神発作,呼吸苦が出現し,ショック状態となり,
本症は高度な冠危険因子を認めない
(HT
(-)
,
DM
(-)
,
ECG上,著明なST低下を認めた.ACSと診断し,
HLP(-),タバコ(3本/日程度),抗リン脂質抗体
冠動脈造影を施行.人工血管とSVGの吻合部が高
症候群(-))閉経前発症心筋梗塞例である.RAは
度狭窄であった.同部位に,PCI(ステント植え
コントロール良好.estradiol:8.0以下pg/ml,
込み)を施行.狭窄部は,拡張良好となり,冠動
progesteron:0.1以下ng/ml,LH:2.4mIu/ml,
脈の血流も改善し終了.その後,症状も消失し,
FSH:9.1mIu/mlであり酢酸リュープロレリン投
順調にリハビリを行ない(peak CK 2407),6月7
与によるAccelerated Atherosclerosisの関与を疑
日退院となった.今回,人工血管とグラフト吻合
った.酢酸リュープロレリン投与による黄体機能
低下が発症に関与したと考えられたAMIを体験
部狭窄により生じたACSにPCIを施行した一例を
したので報告する.
経験したので,報告する.
2) 右冠動脈円錐枝(conus branch)閉塞によ
り前胸部誘導および右胸部誘導でST上昇が認め
られた症例
(九州厚生年金病院総合診療部) 香月俊輔・
菊池 幹・三宅 純・菊池 裕
4) 64列マルチスライスCT(MSCT)が診断に
有用であった急性冠症候群(ACS)の1症例
(長崎記念病院循環器科) 深江貴芸・
吉武孝敏・松下哲朗
(長崎大学第二内科) 池田聡司・河野 茂
6) 心電図異常を契機に診断された瘤状変化を伴
った両側冠状動脈肺動脈瘻の一例
(国家公務員共済組合連合会千早病院循環器科)
中野真樹子・中須賀一太・久保田聡子・
江島準一
症例は発作性心房細動加療中の77歳,女性.夕方
に突然心窩部痛が出現し当院救急搬送された.来
院時の心電図にて心房細動及びV1∼V3・V3R∼
V6R誘導でST上昇を認めたため急性心筋梗塞を
疑い緊急冠動脈造影を施行した.左冠動脈には狭
窄を認めず,右冠動脈Seg.1に75%狭窄および円
錐枝に100%閉塞を認めた.血栓性閉塞が考えら
れた為,血栓吸引術行ったところ右冠動脈Seg.1
は0%となったが円錐枝は100%閉塞のままであっ
た.術後4日後の心電図ではSTの上昇は平坦化し
ていた.右冠動脈円錐枝が閉塞するとV1∼V3誘
導でST上昇が認められたとの報告があるが,右
冠動脈円錐枝の閉塞で右胸部誘導のST上昇が示
された報告は無く,右胸部誘導記録の有用性が示
唆される.
症例は57歳,男性.冠危険因子に高血圧症,喫煙
あり.平成17年8月26日に胸痛を30分程度自覚し
当院急患外来受診.心電図にてII, III, aVFにST
低下を認め急性冠症候群(ACS)で入院後,冠
動脈造影検査(CAG)施行し回旋枝Seg.13に50%
狭窄を認めた.また胸部症状も全く消失している
ため経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の
適応とせず,十分な薬物療法で経過観察.入院中,
胸部症状は全く認めず,CPKなどの逸脱酵素の
変動及び心電図変化も認めなかった.3週間の外
来観察後,64列マルチスライスCT(MSCT)を
施行.MSCTにて回旋枝Seg.13 50%病変は完全
閉塞を来たしており,再度CAG施行し完全閉塞
病変を確認後,同病変に対してPCI施行し,完全
血行再建が出来た.今回,64列MSCTが診断に有
用であったACSの1症例を報告する.
【症例】71歳女性,13年前より高血圧治療中.平
成17年11月,近医で心電図異常を指摘され当科紹
介.心エコーでび慢性の壁運動低下(EF54%),
24時間心電図で心室性期外収縮頻発,非持続性心
室頻拍,恒常性ST低下を認めた.鑑別診断のた
め,心臓カテーテル検査施行.瘤状変化を伴う両
側冠状動脈肺動脈瘻を認めた.O2studyで有意な
O2 step up認めず,Qp/Qs:1.2程度であった.患
者の外科的治療の同意を得られず,一旦退院とな
った.3ヶ月後も,無自覚症状で増悪傾向なく経
過している.【結語】元来高血圧心臓病があり,
心電図異常を契機に瘤状変化を伴う両側冠状動脈
肺動脈瘻の症例を経験した.瘤状に拡大した異常
血管の破裂の報告例もあり,今後外科的治療も検
討すべきと考えられる.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1229
7) 抗血小板薬抵抗性が原因となり頻回にステン
ト血栓症を起こした一例
(沖縄県立中部病院) 梶原光嗣・仲里 淳・
高橋孝典・和気 稔・近藤承一・平田一仁
10) 当院で経験した難治性冠攣縮性狭心症の一例
(熊本赤十字病院循環器科) 坂梨剛史・
山室 惠・小出俊一・外牧 潤・角田隆輔・
緒方康博
13) bystanderによるAED使用にて心肺蘇生に
成功し冠動脈バイパス術を施行した1例
(熊本赤十字病院心臓血管外科) 平山 亮・
小柳俊哉・鈴木龍介・渡辺俊明・野畑一郎
症例は84歳男性.頻回におきる胸痛のため当院受
診.心電図前胸部誘導にてST低下を認め,冠動
脈造影(CAG)を施行した.左前下行枝6番に
99%狭窄を認め,経皮的冠動脈形成術(PCI)を
行ない,最終的に2.75mmのステントを植込んだ.
PCI治療後3日,42日目に2度のステント血栓症を
起こし血行再建を必要としたが,3度目のPCIで
はステントを使用せず,ワーファリンを追加投与
しその後イベントの発生は認めていない.経過中
アスピリン,チクロピジン,シロスタゾール3剤
併用下でも,ステント血栓症を繰り返したため,
抗血小板薬抵抗性を疑い,薬剤服用下にADPに
よる血小板機能を検査したところ,血小板機能が
抑制されていないことが示された.抗血小板薬に
対する抵抗性はPCIの大きな問題となってきてお
り文献的考察を加えて報告する.
【症例】54才 男性.冠攣縮性狭心症に対し加療し
ていたが,平成16年10月胸痛自覚しNTG服用す
るも無効で当院ER受診.【経過】緊急冠動脈造影
を実施した結果,硝酸イソソルビド(ISDN)冠
注後でもLADの閉塞を認め,Nicorandil冠注にて,
有意狭窄消失し,冠攣縮による冠動脈閉塞と判断
した.退院後も内服継続していたが平成17年11月
NTG舌下でも胸痛消失せず受診.冠動脈造影を
実施した結果,LADとRCAの閉塞を認めたが
ISDN,Vit.E,ニトロプルシドなど多剤使用し冠
攣縮を解除できた.詳細な問診にて非典型的胸痛
時もNTG舌下を多用していたことが判り,NTG
の使用方や禁煙の必要性を再度説明して退院とな
った.【結語】難治性冠攣縮性狭心症を経験した
ので報告する.
AEDの使用にて早期除細動を行うことで高い救
命率が得られるため,わが国でも非医療従事者に
よるAED使用が2004年7月1日から認められるよ
うになった.症例は67歳,女性.2005年10月20日,
プールで水泳中の心肺停止,施設職員のAED使
用にて心肺蘇生に成功した.救急搬送後,冠動脈
造影にて三枝病変を認め,4枝冠動脈バイパス術
を施行した.心筋梗塞にも至らず,神経学的後遺
症も残さず自宅退院となった.
8) 無痛性冠れん縮が原因と考えられた失神発作
の一例
(宮崎循環器病院循環器科) 黒木健吾・
矢野理子・三嶋和也・宮本宣秀・竹永 誠
11) 心原性ショックを伴った急性心筋梗塞に関
する院内死亡の予後規定因子
(社会保険小倉記念病院循環器科)
福地浩平・白井伸一・安藤献児・山田貴之・
酒井孝裕・曽我芳光・合屋雅彦・岩淵成志・
横井宏佳・安本 均・野坂秀行・延吉正清
14) IABP駆動下のヘリコプター搬送により救
命し得た急性冠症候群の2症例
(済生会熊本病院心臓血管センター循環器科)
吉田和子・名幸久仁・澤村匡史・中尾浩一・
本田 喬
(同心臓血管外科) 上杉英之・出田一郎・
平山統一
症例は62歳男性.平成17年1月,日中に気分不快,
冷汗に引き続き失神発作を来たした既往あり.そ
の後症状なく経過していたが平成18年3月,日中
【目的】心原性ショックを伴った急性心筋梗塞
に再び気分不快,冷汗が出現した後,失神発作を
(AMI)は再還流療法を施行しても死亡率が高い.
来たした.直後の近医往診時,徐脈,血圧低下を
今回,院内死亡の予後規定因子を検討した.(対
認めていた.原因精査のため当院へ搬送入院.理
象)1995年1月から2004年5月までの2730例の
学的には有意な所見認めず心電図も正常であっ
AMI患者中,ショック状態での来院は238人であ
た.心原性の精査目的で行った心臓カテーテル検
った.【結果】238名中院内死亡は90人(38%)に
査にて冠動脈に有意狭窄は認めなかった.しかし
認めた.院内死亡の予後規定因子は慢性腎不全
エルゴメトリンにより左回旋枝#15に冠れん縮が (CRF)(Cre1.5mg/dl):〔Hazard Ratio(HR)
誘発され,それに伴って著明な徐脈,血圧低下か
4.767,C.I:2.120-10.716,p=0.0002〕と左主幹部
ら意識消失を来たした.ISDNの冠動脈注入によ
病変(LMTD)〔HR3.411,C.I:1.622-7.121,
り回復した.この間,気分不快のみで胸痛の出現
p=0.0012〕であった.一方予後良好な規定因子
はみられなかった.本例の失神発作は,日中に発
は完全房室ブロックと1枝病変だった.【結論】
生する無痛性の冠れん縮が原因と考えられた.
心原性ショックを呈するAMIの院内死亡に関す
る予後規定因子はCRF及びLMTDであった.
9) ドブタミン負荷心エコー直後に経験した冠攣
縮性狭心症の一症例
(豊見城中央病院) 長谷川悠・玉城正弘・
新城哲治・新崎 修・嘉数真教・嘉数 敦
71歳男性,既往歴に高血圧,糖尿病あり.胸痛で
他院にて冠動脈造影を施行し,#7 90%狭窄を認
めPCI施行目的に紹介された.当院にて冠動脈造
影を施行し,狭窄50%へ改善あることから,PCI
は施行せずに手技を終了した.虚血の有無を確認
するためにドブタミン負荷心エコー施行したが,
虚血所見は誘発されなかった.ところが,試験終
了直後にいつもの胸痛が出現し,心エコーにて前
壁中隔の著明な壁運動能異常が認められた.後日,
アセチルコリン負荷試験にて左冠動脈に冠攣縮が
誘発され,冠攣縮性狭心症の確定診断となった.
ドブタミン負荷心エコーは器質的冠動脈疾患の有
無を診断するのに有用な検査であるが,本症例の
ように冠攣縮が誘発されることもあることがあ
り,施行時には注意を要すると思われ報告する.
1230
第 100 回九州地方会
【症例1】50代男性.発症16時間後にA病院に緊急
搬送された急性心筋梗塞症例.左前下行枝完全閉
塞に対しステントを挿入し再潅流に成功したが,
slow flow出現したためIABP留置.ICU入室後に
血圧低下を来たし,心タンポナーデと診断.
IABP駆動下に当院へヘリコプターにより搬送さ
れ,手術室へ直接入室し,左室修復術を施行.経
過良好にて退院となった.【症例2】80代女性.3
枝病変に伴う不安定狭心症に対しA病院にて経皮
的冠動脈形成術施行を試みるも,呼吸循環動態保
てない状況であり,気管内挿管,IABP挿入し,
ヘリコプター搬送要請.当院搬送翌日に緊急冠動
脈バイパス術を施行し,経過良好にて退院となっ
た.【結語】IABPを駆動させた状況で,ヘリコプ
ター搬送したACSの2例を経験したので,安全性,
搭載上の問題点を含めてその実際を報告する.
12) 心肺蘇生後に腹腔内出血を認めた心原性心
肺停止症例の一例
(北九州市立八幡病院循環器科) 大江学治・
加来京子・佐貫仁宣・津田有輝・原田 敬・
大江春人
15) SLEに合併した急性心筋梗塞に対するPCI
後に突然対麻痺を生じた1例
(国家公務員共済組合連合会千早病院循環器科)
新海健太郎・中野真樹子・中須賀一太・
久保田聡子・江島準一
症例は40歳男性,ゴルフ練習場で心肺停止となり
救急要請,bystander CPRが行なわれた.心室細
動を認め除細動施行,心静止となりCPR下に来院.
腹部に異常を認めなかった.来院後再び心室細動
となり除細動成功,呼吸・心拍再開し緊急冠動脈
造影を行なった.左冠動脈主幹部に75%狭窄を認
め,急性冠症候群と診断しIABP挿入,引き続き脳
低温療法を施行した.二日目より血圧低下,貧血,
腹部膨満出現.腹部CTで大量の腹腔内出血を認め
たが,出血源不明であった.緊急開腹手術施行し,
胆嚢と肝右葉の間の肝被膜に裂傷を認め,止血に
成功した.以後経過良好で,軽度の神経学的後遺
症を残し転院となる.本症例は心臓マッサージに
よる肝損傷が出血原因と思われた.心肺蘇生法の
合併症に関する文献的考察とともに報告する.
症例は,56歳女性.30歳時にSLEと診断され,以
後ステロイド内服加療されていた.平成18年1月,
後下壁の急性心筋梗塞を発症し紹介入院.緊急冠
動脈造影にて左冠動脈回旋枝(13)の血栓性完全
閉塞を認めた.血栓吸引,血栓溶解およびステン
ト留置の併用療法を施行し良好な再灌流を得た
が,術後2日目に突然対麻痺が出現した.発症経
過,神経学的所見,MRI検査より,原因として前
脊髄動脈閉塞症が最も考えられた.SLEは,全身
の血管炎,血栓症など多彩な臨床症状をきたすこ
とが知られている.本症例はSLEに合併した急性
心筋梗塞治療後に突然対麻痺を生じ,脳血管や脊
髄動脈に対するシャワー塞栓と髄液検査上CNS
ループスの所見を認めておりCNSループスによ
る横断神経炎との鑑別に苦慮した稀な例であった
ため報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
16) Cypher stent留置後にStent fractureが認め
られた2症例の検討
(福岡大学循環器科) 高宮陽介・
池 周而・柳大三郎・岩田 敦・西川宏明・
新村英也・白井和之・朔啓二郎
19) 酸化ストレスマーカーであるD-ROMsは,
高感度CRPと相関する
(産業医科大学第二内科) 山下和仁・
亀崎文彦・太崎博美
【目的】冠動脈疾患患者において,酸化的ストレ
症例1は左主幹部から回旋枝にわたり出現した新
スマーカーとしての血清中の活性酸素代謝産物
規病変に対してBare−metal stentを留置された
(D-ROMs)と高感度CRPとの関係について検討し
70歳男性(左前下行枝はバイパスにより保護). た.【方法及び結果】心臓カテーテル検査を行っ
stent内再狭窄に対してCypher stentを留置した
た131人について,血清脂質,hsCRP,D-ROMs
が,慢性期に再狭窄をきたし,同部位における
を測定.その結果,D-ROMs平均値は333U,hsCRP
IVUS所見でStent fractureが認められた.症例2
中央値は0.14mg/dLであった.D-ROMsは,log
は陳旧性心筋梗塞の既往のある70歳男性.労作性
(hsCRP)と正の相関(r=0.479,p<0.0001)を認
狭心症の診断にて冠動脈造影を施行,屈曲の強い
め,hsCRP値によって3群(A;<0.1,B;0.1≦,
左前下行枝Seg7に新規病変を認め,Cypher stent
0.3>,C;0.3≦)に分けて検討したところ,Dを留置した.慢性期には再狭窄はなかったが,透
ROMs値はC群において有意に高値を示し,3群間
視上stentの断裂が疑われ,IVUSでStent fracture
に有意差を認めた(p<0.0001)
.
【結論】酸化的ス
が確認された.Cypher stent留置後にfractureを
トレスは,炎症マーカーであるhsCRPと相関し,
きたした2症例について,文献的考察を加えて報
心血管イベントの高リスク群において増強してい
告する.
る.D-ROMsテストは,そのような患者のスクリ
ーニング法として簡単で有用な方法と考えられ
る.
17) 当院における分岐部病変に対するCypher
の治療成績
(国立病院機構大分医療センター循環器科)
前田拓哉
20) FFRおよびpressure-derived CFR測定にお
けるニコランジル冠注の有用性
(大分大学感染分子病態制御講座)
河野嘉之・田村 彰
(大分市医師会立アルメイダ病院循環器科)
安部雄征
(大分中村病院循環器科) 渡邉 充
(大分大学感染分子病態制御講座) 門田淳一
当院にて分岐部病変に対してCypherを使用して
PCIを施行し,慢性期再CAGを施行し得た32病変
の治療成績について検討した.患者背景は,平均
70.2歳,男性78.8%.病変はACSが12.1%,再狭窄
に対する治療が18.2%含まれ,部位はLAD が 【目的】Fractional flow reserve(FFR)とpressure-derived coronary flow reserve(pCFR)測定
51.5%と最多,LMT 33.3%,LCx 12.1%,RCA
におけるニコランジル冠注の有用性をパパベリン
3.0%であった.治療はsingle stent+KBTが75.8%,
冠注と比較検討.【方法】対象は虚血性心疾患患
CrushやY stentといったmulti stentが24.4%であ
者15例.冠動脈造影検査の際,50%以上の狭窄を
った.KBT時の本幹拡張径は平均2.9mm,側枝
有する20枝において,ニコランジル冠注(右冠動
は2.3mm,同時拡張圧は平均9.3atmであった.初
脈1.5mg,左冠動脈2mg)およびパパベリン冠注
期成功率は93.9%,MACEは6.0%(死亡1例,
(右冠動脈8mg,左冠動脈12mg)によるFFRと
SAT 1例)
,再狭窄は本幹6.0%,側枝21.2%であり,
pCFRの同時測定をpressure wireを用いて施行.
TLRは15.2%であった.分岐部病変へのPCI は 【成績】ニコランジル冠注およびパパベリン冠注
Cypherを用いても,特に側枝入口部での再狭窄
によるFFRおよびpCFRは良好な正の相関を示し
において未解決の問題がある.
た(r=0.97,p<0.0001,r=0.96,p<0.0001).ニ
コランジル冠注による副作用は認めなかった.
【結論】ニコランジル冠注はFFRならびにpCFRの
測定に有用である.
18) Drug-eluting stent時代にDCAは不要か?
-当科の現状(健康保険人吉総合病院循環器科)
岡 秀樹・尾畑憲司・外山研介
薬剤溶出ステント(DES)が冠動脈カテーテル治
療(PCI)の主流となり,技術的/時間的要素を
考慮すると,方向性冠動脈粥腫切除術(DCA)は
不要といえる.ただ,分岐部病変への対応や
DES留置後の長期に渡る強力な抗血小板療法の必
然性を考えると,患者背景などによってはDCAも
依然重要な治療手技となりうる.平成17年度の当
科PCI64例中5例(7.8%)にDCAを実施した.男
性4例(40歳代2例,50歳代1例,60歳代1例)と70
歳代女性1例で,いずれも左前下行枝病変(40歳
代の1例はステント内再狭窄)を標的とし,ステ
ントを使用/追加せずに手技を完遂でき,施術後
の%plaque areaは40%未満となった.追跡造影を
施行できた4例中再狭窄は1例で,虚血所見が証明
されず再PCIは行っていない.比較的若年の左前
下行枝病変症例へのDCAは依然検討すべき治療
戦略である.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
21) チクロピジン投与中のOPCAB施行例でア
プロチニンが有効であった一例
(福岡大学心臓血管外科) 岩橋英彦・
田代 忠・森重徳継・財津龍二・伊藤信久・
赤須晃治・竹内一馬
チクロビジン投与中の手術は,大量出血を伴い難
渋することがしばしばである.今回我々はアプロ
チニンを投与することにより出血を最小限にコン
トロールできたので報告する.65歳,男性.
H17.2.17狭心症にて近医に入院.DES挿入目的に
チクロピジン200mg/dayを投与されていた.
H17.2.20 CAGにて3VDを認めたが,CAG中に胸
痛を認めたためIABPを挿入し,H17.2.21当院緊
急入院.翌日緊急OPCABを施行した.手術開始
時とグラフト吻合後にアプロチニン50万単位ずつ
の合計100万単位を投与したところ,出血量は330
gと少量であり安定した手術を施行できた.若干
の文献的考察を加え報告する.
22) 腎移植後患者に対するoff pump CABGの
経験
(福岡大学心臓血管外科) 林田好生・
森重徳継・岩橋英彦・竹内一馬・伊藤信久・
田代 忠
近年,腎移植患者数は増加しており,これらの患
者において心血管系の合併症は主要な死亡原因の
1つであると報告されている.しかし,それらに
対する開心術の報告は少ない.我々は腎移植後患
者に発症した虚血性心臓病に対し,off pump
CABGを施行した.症例は56歳,男性.1976年よ
り慢性糸球体腎炎による慢性腎不全に対し,血液
透析を行っていたが,2000年11月に死体腎移植を
受けた.術後,移植腎機能は良好に維持されてい
た.2005年1月に虚血性心臓病と診断され,2005
年9月にoff pump CABGを行った.免疫抑制剤は
術中よりタクロリムスとソルコーテフの静注を行
い,経口摂取開始後,術前同様の免疫抑制療法を
再開した.明らかな拒絶反応や腎機能低下を認め
ず,術後20日目に軽快退院した.若干の文献的考
察を加えて報告する.
23) 急激な肝機能障害にて診断された急性心筋
梗塞後心室中隔穿孔の一例
(熊本大学医学薬学研究部心臓血管外科)
松川 舞・森山周二・國友隆二・坂口 尚・
萩原正一郎・高志賢太郎・片山幸広・
有馬利明・川筋道雄
(同循環器内科) 小江陽子・小川久雄
65歳男性.胸部不快と全身倦怠感出現し,近医受
診し前壁心筋梗塞の診断で,緊急冠動脈造影施行.
LAD#7完全閉塞認め,PCI/ステント術施行.発
症4日目GOT1007/GPT1841と上昇認め,その後も
急速に進行する肝機能障害のため,当院紹介入院.
来院時,全収縮期雑音を聴取し,UCG上心尖部よ
りの中隔にmassiveな左-右シャントを認めた.緊
急心臓カテーテル検査ではQp/Qs4.7,左-右シャ
ント率70%であった.IABP挿入下の加療でうっ血
および低心機能に改善みられず,準緊急的にパッ
チ閉鎖術を施行.術後心機能および肝機能はすみ
やかに改善し,経過良好で自宅退院となった.急
激な肝機能障害の原因として,薬剤性肝障害およ
びショック肝が推測された.全身血行状態を改善
する事で良好な経過をえることができたため報告
する.
24) 感染性心内膜炎が原因の冠動脈塞栓・心筋
梗塞・左室破裂の治療経験
(久留米大学外科) 高良慶子・田山栄基・
千原新吾・庄嶋賢弘・高木数実・横倉義典・
吉川一洋・堀 英嗣・青柳成明
(みぞぐち循環器内科) 溝口敬一郎
症例は72歳の女性.2005.10月頃から37℃代の不
明熱があった.12/26に旅行中に胸背部痛を自覚
して近医を受診したところ心電図にてV1∼4のT
波が陰転化しV2∼6のR波が減高していた.心エ
コーで高度のMR,胸写で肺鬱血を認めた.AMI
による乳頭筋断裂・MRが考えられ当院に紹介と
なった.CAGではLAD末梢が閉塞(塞栓)して
おり,心エコー上は僧帽弁にvegetationを伴った
MRを認めた.血液培養ではG陽性球菌が検出さ
れた.抗生剤加療と心不全のコントロールを行っ
ていたが,12/28に突然ショックになり緊急手術
を行った.AMI後の左室前壁にoozing typeのLV
ruptureを認めた.同部位を自己心膜によるパッ
チで被覆止血し,MR,IEにMVR(ATS27mm)
を行った.術後経過は良好であった.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1231
25) Enclose2 anastomosis assist deviceの初期
使用経験
(福岡和白病院心臓血管外科) 松山重文・
濱田正勝・川内義人・土井一義
CABGにおける大動脈遮断を回避するための中枢
側吻合deviceの一つであるEnclose2 anastomosis
assist deviceについて初期使用経験を報告する.
2005.5月∼2006.2月にEnclose2を使用した21例
(男:女 18:3,年齢68±7歳),34枝について検
討した.緊急症例が3例あり,その3例はすべて
on-pump beating CABG,それ以外はすべてOffpump CABGであった.使用graftは大伏在静脈
(SVG)が19枝,橈骨動脈(RA)が15枝であった.
吻合直後のgraft血流量はSVG 23±13ml/min,
RA 17±6ml/min.術後CAGは15例23枝(SVG 14
枝,RA 9枝)に施行.SVGはすべて良好に開存
していたが,RAに1枝閉塞,1枝狭窄を認めた.
術後塞栓症の発生なく,deviceに起因すると思わ
れる合併症の発生も認めなかった.Enclose2は大
動脈遮断を回避するための有用なdeviceであると
考えられた.
26) 慢性心不全患者における温熱療法の酸化ス
トレスに及ぼす急性効果
(鹿児島大学第一内科) 藤田祥次・
木原貴士・宮田昌明・福留 剛・池田義之・
新里拓郎・窪薗琢郎・桑波田聡・濱崎秀一・
尾辻 豊・鄭 忠和
【背景】慢性心不全患者では酸化ストレスは増大
しており,心不全の増悪因子としても重要な役割
を担っている.我々は慢性心不全患者における温
熱療法の効果を報告し,心不全症状の改善のみな
らず心機能・末梢血管機能・神経体液性因子・交
感神経系の改善効果を証明してきた.【方法】慢
性心不全患者13名に温熱療法(乾式サウナ60℃・
15分間+出浴後30分間の保温)を施行した.初回
温熱療法の前後で,酸化ストレスのマーカーであ
る血中ヒドロペルオキシドを測定し比較検討し
た.【結果】慢性心不全患者の血中ヒドロペルオ
キシドは正常値より増大しており,温熱療法後に
有意に減少した(485±107U to 464±99U,p<
0.05)
.
【結論】温熱療法の急性効果の一つとして,
慢性心不全患者で増大している酸化ストレスを減
少させる可能性が示唆された.
28) 高齢者の薬物治療抵抗性心不全患者に対す
る疾患管理(Disease Management)の有用性
(医療法人春陽会うえむら病院循環器科)
森 裕之・大賀雅信・松本 学・上村春甫
慢性心不全患者は,その生命予後が不良であるば
かりでなく心不全増悪による入退院を繰り返すこ
とが多い.今回,初診以来20余年を経て高血圧性
【目的】Diastolic Color Kinesis(DCK)は局所拡
心筋症となり,β遮断薬を含む薬物療法とablate
張動態が簡便に観察できることから虚血の検出,
& pace therapyを併用しても1年半の間に7回の入
肥大心における降圧剤の効果などに利用されつつ
退院を繰り返した81歳,女性の薬物抵抗性心不全
ある.今回,慢性維持透析患者において透析前後
の症例を経験した.7回目の入院時は重症心不全
でのDCKの変化について検討した.【方法】対象
の 状 態 で あ り , 血 管 拡 張 薬 , カ テ コ ラ ミ ン , は全身状態の安定した慢性維持透析患者14名(女
PDE阻害薬など併用し急性期から離脱できた.
性8名,平均年齢68±7歳),透析直前と直後30分
退院後は外来で治療薬服用の指導や塩分,水分制
以内に心エコー諸指標,左室短軸像のColor
限とともに体重の定期的測定などを繰り返し説明
Kinesis diastolic index(CK-DI)を求めた.【成
し疾患管理を厳重に行うことにより,その後1年
績】心エコー諸指標(E/A,ICT,IRT,Tei index)
半の間入院することなく経過した.看護師や薬剤
では透析前後で有意な差を認めなかったが左室局
師も加えた治療体制などを含む疾患管理が慢性心
所の平均CK-DIでは透析後に有意に低下した.
不全対する薬物治療の効果を最大限に引き出し, (44±10%→37±12%:p=0.01)【結論】透析に
て左室の拡張動態は変化する.よって透析患者に
再入院抑止に有用であった.
おけるCK-DIでの諸評価には測定する時相を一致
させる必要がある.
29) 総腸骨動静脈瘻シャントにより急性増悪を
来したうっ血性心不全の一例
(新杏病院循環器科) 佐多直幸・慶児知利・
堀之内尚志・網谷 滋・宮原健吉
(同心臓血管外科) 茂原 淳・森山由紀則
(鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学)
田中康博・坪内博仁
30) 当院における左室拡張能の検討ー偽正常化
をいかに判別し得るか?ー
(親仁会米の山病院循環器科) 崎山博司・
佐田耕一郎・山本憲彦
【背景】心不全患者の治療にはACE阻害薬は不可
欠の薬剤であるが咳嗽により中止せざるを得ない
症例も多い.【対象】エナラプリルを投与した心
不全患者100例(虚血性心疾患34例,心臓弁膜症
22例,心房細動19例,高血圧性心疾患11例,心筋
症9例,その他5例)【方法】エナラプリル投与前
のBNPを測定.投与後の咳嗽出現の有無を経過
観察.【結果】咳嗽のためエナラプリル中止を要
した例は12例であった.咳嗽出現群ではBNPお
よびNYHA分類が低かった(197±79 vs 737±721
pg/ml,1.8±0.6 vs 2.6±0.9,ともにp<0.05).咳
嗽出現群ではNYHA分類III度以上の症例は1例の
み,BNPが300pg/mlをこえる例はなかった.【結
論】重症心不全患者ではACE阻害薬による咳嗽
の出現頻度は低い.
【目的】左室拡張能の測定する上で,偽正常化の
現象は判別しにくい.当院にて超音波検査のパラ
メーターの中から,偽正常化を判別し得るか,検
討した.【対象】当院にて2005年10月∼2006年2月
の間に超音波検査を実施した665件のうち,左室
流 入 心 房 波 時 間 ( T M A ), 肺 静 脈 心 房 波 時 間
(PVA)を検出した56件(男性:34件 女性:22
件)【方法】56件のうち肺静脈血流波S/D≦1で
あった16件のTMAとPVAの差を分析・検討した.
【結果】1. TMA-PVA≦-20msecならば偽正常化の
所見といえる.2. TMA-PVA≧20msecの場合,正
常拡張能といえる.3. -20msec<TMA-PVA<
20msecならば,他の指標を参考に診断しなくて
はならないといえる.【結語】左室拡張能の偽正
常化を判別するのに,TMPとPVAの差は有用な
指標である.
第 100 回九州地方会
32) 低用量の薬物負荷コントラスト心エコー
(MCE)にて治療方針を検討した重症大動脈弁狭
窄症(AS)の1症例
(福岡大学病院臨床検査部) 佐光英人
(同循環器科) 三浦伸一郎・西川宏明・
新村英也・岩田 敦・朔啓二郎
【背景】低心機能で圧較差の軽度な重症ASの治療
方針に苦慮した症例を経験したので報告する.
心不全の原因として,動静脈シャント疾患がある
【症例】慢性糸球体腎炎にて21年間維持血液透析
が,総腸骨動静脈瘻による心不全の例は比較的稀
を施行されている49歳男性.2002年近医にてAS
である.今回我々は総腸骨動脈瘤の静脈穿通によ
を指摘された.2005年4月より労作時呼吸困難,
る急性心不全を経験したので報告する.症例は64
透析時の胸痛が出現し入院となった.冠動脈造影
歳,男性.心不全,右総腸骨動静脈瘻,両側動脈
にて虚血性心臓病は否定されたが,心エコーにて
瘤(径58mm)を指摘され当科紹介入院.入院時,
LVDd 74mm,LVDs 65mm,EF 26%を呈する低
呼吸苦と腹部膨満感を訴え,心不全に対して利尿
心機能を認めた.また最大圧較差57mmHgのAS
剤治療を開始した.心臓カテーテル検査で総腸骨
を認めた.低用量のドブタミン負荷MCEを行い,
動静脈瘻を認め,シャント率:80.6%,Qp/Qs:
若干の心筋viabilityは認めたが,圧較差や弁口面
5.0,総腸骨静脈の瘤前後での O2 step upを認め
積に著変は認めなかった.重度の心筋障害合併例
た.治療を継続するも,胸腹水は増加し右心不全
であり,大動脈弁置換術にても予後の改善が期待
のコントロールが困難となったため,手術を施行
されないため薬物療法を強化し保存的加療となっ
した.動脈瘤は,人工血管で置換し,瘻孔を直接
た.【結語】低用量の薬物負荷MCEは重症ASの
縫合閉鎖した. 以後,症状は消失し経過良好で
治療選択に,安全かつ有益であった.
ある.
27) アンギオテンシン変換酵素阻害薬による咳
嗽の出現頻度:心不全患者での検討
(健康保険八代総合病院) 定永恒明・
坂本知浩
1232
31) 慢性維持透析患者における透析前後での
Diastolic Color Kinesisの変化
(長崎市立病院成人病センター循環器科)
二宮暁代・矢加部和明・福川史生
(長崎大学付属病院第二内科) 池田聡司・
河野 茂
33) 大動脈弁狭窄症に合併した心内膜下梗塞で
ショックを呈した一例
(国立病院機構熊本医療センター循環器科)
村上和憲・宮尾雄治・梶原一郎・大庭圭介・
田中朋子・福嶋隆一郎・藤本和輝
【はじめに】重症の大動脈弁狭窄症(AS)は外科
的治療に負うところが大きいが,今回,長年手術
を拒否した患者で心内膜下梗塞を起してショック
を呈した症例を経験した.【現病歴】朝方より数
分程度の意識消失発作あり.その後胸痛が出現し,
心電図にてI, V3-6でST低下を認めたため,当院
へ救急搬送された.【経過】CK3947,CKMB612,
Troponin T(+)のため,緊急心カテを施行した.
BP80/59,p75/minと,血圧低下を認めたため,
速やかにIABPを挿入した.冠動脈造影では有意
狭窄を認めなかったため,心内膜下梗塞と診断し
た.IABPとカテコラミンで内科的に治療し一時
は小康状態となったが,第10病日血圧が急激に低
下し死亡した.【考察】本症例のように病態が悪
化したASは緊急で外科手術をした方がよかった
のか,考えさせられる症例であった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
34) 胸部外傷後慢性期に大動脈弁閉鎖不全症を
きたした一例
(福岡大学筑紫病院内科第一) 熊谷尚子・
児玉 直・志賀悠平・土屋芳弘・三原宏之・
山之内良雄・浦田秀則
症例は20歳男性.18歳時,交通外傷による気管損
傷,肺挫傷で手術を施行した.2006年3月感冒の
ため近医受診した際,心雑音を指摘され,胸壁心
エコーにて軽度の大動脈弁逆流症を認め,当科へ
紹介された.経食道心エコーにて先天性弁膜奇形
(ニ尖弁,三尖弁など)の可能性は低く,病歴及
び診察所見から外傷による大動脈弁の弁損傷によ
る閉鎖不全症と思われた.現在,心不全もなく自
覚症状もないため,経過観察中であるが,今後の
展開も含め,まれな症例として報告することとし
た.
37) Barlow症候群に対する僧帽弁形成術の経験
(宮崎医科大学第二外科) 矢野義和・
中村都英・矢野光洋・児嶋一司・遠藤穣治・
古川貢之・松崎泰憲・鬼塚敏男
症例は40歳男性.体動時の息切れと呼吸苦を主訴
に近医を受診し,僧帽弁閉鎖不全症(MR)と診
断され,手術目的にて入院となった.心エコーと
【目的】各種心筋症を合併した僧帽弁閉鎖不全症
左室造影にて前後尖ともに弁腹が弁輪より左房側
に対し僧帽弁形成術を施行した症例を検討した.
に膨隆し,高度のMRを伴うBarlow症候群と診断 【方法】2000年7月から2006年2月のうち該当症例9
された.術中所見では僧帽弁弁輪拡大とA2,P2, 例を検討した.平均62.2歳,男性7例,病因は特
P3の高度の逸脱を認め,後尖のP2,P3の一部を
発性4例,虚血性4例,拡張相肥大型心筋症1例で
切除し,McGoon法にて縫縮した.前尖は切除せ
あった.手術はPhysioringを用いた弁輪形成8例
ず,A2を左室側へ折りたたみ縫縮した.逆流テ (24-26mm),自己心膜弁輪及び弁形成1例であり
ストにて逆流認めず,Cosgrove Ring(28mm) 5例でCABG施行した.【成績】病院死亡はなく,
annuloplastyを追加し手術を終了した.術後エコ
平均在院日数は29±17日で入院中の1例を除き8例
ーにてMR認めず,経過良好にて退院し,現在外
独歩退院した.心機能はエコー上有意差を認めな
来通院中である.
かったが,MRは術前4度5例,3度4例から術後消
失3例,1度5例,2度1例へと改善した.遠隔期死
亡は2例認め,術後3ヶ月目と6年4ヶ月目の心室細
動が契機であった.【結論】重症心不全を呈した
拡張型心筋症を伴う僧帽弁閉鎖不全症に対する弁
輪形成術の早期成績は良好であった.
35) 僧帽弁狭窄症例における血行動態異常の決
定因子:機能的僧帽弁口面積の重要性
(鹿児島大学循環器呼吸器代謝内科学)
仲敷健一・尾辻 豊・植村 健・湯浅敏典・
桑原栄嗣・高崎州亜・窪田佳代子
(鹿児島大学病院検査部) 水上尚子
(鹿児島大学循環器呼吸器代謝内科学)
木佐貫彰・鄭 忠和
38) 多発性骨髄腫を合併した僧房弁置換術の1例
(医療法人愛心会大隅鹿屋病院心臓血管外科)
野口 亮・中山義博・永末裕友・永田武士・
峰松紀年
(医療法人徳洲会名瀬徳洲会病院循環器内科)
生野俊治
36) ミコナゾ−ルゲル口腔内塗布により出血傾
向をきたした大動脈弁置換術後の2症例
(久留米大学医学部附属医療センター循環器科)
原田晴仁・池田久雄・宮本哲哉・加藤宏司・
森田博彦・伊原智映・古賀義則
39) 術後早期より再度悪化を認めた機能性僧帽
弁逆流症の一例
(ひがし成人・循環器科クリニック)
東 隆行
【症例】71歳男性【現病歴】2005年3月頃より労作
時呼吸困難を自覚し近医を受診,精査施行.
【目的】僧帽弁狭窄(MS)症例における血行動
MRIII°を認め同時に,多発性骨髄腫(MM),
態異常の機能的僧帽弁口面積MVAと解剖学的
IgG,κ型,StageIIを指摘された.長期間の化学
MVAの役割を検討すること.【方法】48例のMS
療法を行う為,僧房弁置換術を先行させることと
症例において2Dエコー法で解剖学的MVAを,ド
プラ法による連続の式で機能的MVAを測定.連
した.【経過】手術はMMの出血傾向を考慮して
続波ドプラ法により左房左室間(LA-LV)圧較差
生体弁による僧房弁置換術,及び三尖弁輪縫縮術
と肺動脈収縮期圧(PAP)を計測した.
【結果】1) を施行.術後ドレーンからの出血が多かったが合
LA-LV平均圧較差は機能的MVA(r=0.61,p<
併症なく経過し軽快退院した.【考察】MM患者
0.0001),解剖学的MVA(r=0.52,p<0.0001)
では,血小板機能異常による出血傾向,易感染性,
とも有意な正相関を認めた.2)PAPは,機能的
過粘調症候群等の合併症がある.しかし,血小板
MVA(r=0.36,p=0.01),解剖学的MVA(r=
0.31,p<0.05)とも有意な正相関を認めた.3) 輸血,人工心肺使用中の浸透圧管理,術後γグロ
ブリンの使用等で合併症を回避でき長期予後の望
しかし,多変量解析で機能的MVAがLA-LV平均
圧較差およびPAPの独立した決定因子であった. めるMM患者では開心術の適応となり得ると考え
られた.
【結論】機能的MVAがMS症例における血行動態
異常の有意かつ独立した因子である.
【症例】69歳,女【現病歴】平成16年3月後壁心筋
梗塞を発症し,その後虚血性僧帽弁逆流(MR)
循環器領域におけるワーファリンの使用は日常的
による心不全のため同年7月僧帽弁輪リング固定
である.一方,種々の真菌症に対して用いられて
術及び冠動脈バイパス術を近医で受けた.しかし,
いる抗真菌薬ミコナゾールには,ワーファリン作
術後早期にはすでに左室容積の増大,僧帽弁後尖
用の増強作用が報告されているが,実際の日常臨
の可動制限と中等度のMRを認め,術後1年目に
床の場においてはあまり知られていない.今回,
は心不全症状を呈して外来を受診した.【身体所
ワーファリンを内服していた大動脈弁置換術後の
見・検査所見】心音 Levine3/IVの全収縮期雑
2症例では,ミコナゾールゲルの口腔内塗布を行
音を心尖部で聴取した.肺音 異常なし.心エコ
っていた.両症例ともミコナゾール合計使用量が
ー図にて更にMRの増悪(高度MR)を認めた.
約800mgに達した時に,口腔内粘膜下出血,皮下
出血および腹腔内出血を来たした.ミコナゾール 【まとめ】本症例での僧帽弁輪リング固定術後の
MR悪化の原因としては(1)リング固定術後,
およびワーファリンを直ちに中止したが,PT弁輪後方の前方移動による乳頭筋を含むmitral
INRの上昇は一ヶ月ほど遷延化した.たとえ,ミ
complexの変位によるtethering(2)術後も早期
コナゾールの局所投与であってもワーファリン作
より進行した左室リモデリングによるtethering
用の増強作用が強く認められ,両薬剤の併用には
が原因と考えられた.
注意が必要である.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
40) 各種心筋症による重症心不全症例の僧帽弁
閉鎖不全に対する形成術の検討
(長崎大学医学部歯学部附属病院心臓血管外科)
多田誠一・江石清行・山近史郎・山口博一郎・
山根健太郎・泉 賢太・高井英明・谷川和好・
小野原大介・松丸一朗
41) SAMを伴うHOCM,MRに対して僧帽弁
double orifice techniqueが有効であった一例
(久留米大学外科学) 庄嶋賢弘・福永周司・
田山栄基・岡崎悌之・有永康一・小須賀智一・
明石英俊・青柳成明
症例は68歳,男性.軽労作での胸部圧迫感,狭心
痛を自覚し入院した.TTEではSAMを伴う
HOCMを認め,高度の左室流出路狭窄(左室流
出路圧較差 86mmHg),MRIII°を呈していた.
SAMの制御,収縮期僧帽弁接合の改善,左室流
出路拡大を目的にdouble orifice techniqueによる
僧帽弁Edge-to-edge repair,myectomy/myotomy
を施行した.術後のTTEではSAM及びMRは制御
できており,左室流出路狭窄は改善(圧較差
19mmHg)していた.術後経過は良好で,術後20
日目に退院となった.器質的変化の少ない僧帽弁
であれば HOCM,MRに人工弁置換術を行うより
も今回の方法は術後のQOLを向上させる上で非
常に有効であった.SAMを伴うHOCM,MRに対
する手術に関して若干の文献的考察を加えて報告
する.
42) 僧帽弁形成術後SAM(Systolic Anterior
Motion)4症例の検討
(佐賀大学胸部外科) 古賀清和・
古川浩二郎・岡崎幸生・大坪 諭・池田和幸・
麓 英征・三保貴裕・伊藤 翼
1996年からdegenerative MRに対して僧帽弁形成
術を施行した47例中4例にSAMを経験した.全例
女性.術前心エコーでは平均LVDd43.75(41-49)
mmで全例LVEF70%以上であった.手術は2例
に矩形切除(P2)+Cosgrove RingにてMAPを行
い,1例はPhysio RingにてMAPのみ,1例は
Barlow’s typeで前尖への人工腱索および矩形切
除(P2)+Physio RingによるMAP施行した.
SAMは全例CPB離脱後に見られカテコラミンの
中止と輸液負荷にて改善しsecond pumpは必要な
かった.術後β-blockerは3例に投与し2例は
SAMの再発見られず,1例のみがLVOTOが認め
られるも圧較差は改善傾向である.カテコラミン
の中止と輸液負荷にて改善するSAMは短期的に
は経過良好であった.術中所見を含めて検討す
る.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1233
43) 僧帽弁逆流症を合併した重複僧帽弁口の治
験例
(九州大学心臓外科学) 安藤恒平・
中島淳博・益田宗孝・藤田 智・江藤政尚・
塩瀬 明・田ノ上禎久・富田幸裕・富永隆治
症例は46歳男性.半年前より咳・痰・労作時息切
れを自覚.安静時にも呼吸困難感を生じるように
なったため,他院を受診し心エコー上3度の僧帽
弁逆流を認められた.短軸像にて僧帽弁の開口部
が2ヶ所認められ,副僧帽弁口腱索の断裂と逆流
を認めた.主僧帽弁には逆流は認めず,十分な弁
口面積があったため,手術にて逆流を伴う副僧帽
弁を閉鎖した.術後僧帽弁逆流は消失し,経過良
好であった.今回文献的考察を加えて報告する.
46) 急激に悪化した若年性進行性拡張型心筋症
の2例
(鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学)
俣木浩子・佐多直幸・東福勝徳・川畑和代・
福岡嘉弘・塗木徳人・鹿島克郎・田中康博・
坪内博仁
拡張型心筋症(DCM)の増悪因子について種々の
報告があるが明らかではない.今回急激に悪化し
た若年性DCMを経験したので報告する.症例1
は17歳の男性.心室中隔欠損症の根治術後,年1
回通院していたが,H15年,DCMと診断された.
H17年6月,心室細動による意識消失を起こし,
当院へ搬送された.心エコー上,LVEF 15.0%
(Dd 81mm,Ds 75mm)の著明な左室機能低下と
うっ血性心不全を認めた.心不全のコントロール
困難となり,左室補助ポンプ下にて待機中である.
症例2は16歳の男性.生来健康.H16年4月,検
診で心電図異常を指摘された.心エコー上,H16
年8月,LVEF 49%,H17年9月28%,H19年1
月7.6%と急激な進行性の左室機能低下を認める.
現在内服で心不全のコントロールを行っている.
49) 失神を繰返す大動脈弁狭窄合併心室中部閉
塞型心筋症の1例
(社会保険大牟田天領病院) 宮崎勇次・
大庭圭介・石坂 浩・松山公士
症例は73才,女性.今回,入浴時に再現性を持っ
て出現する眼前暗黒感・失神の精査目的に入院と
なった.心臓カテーテル検査を含めた心精査の結
果,心室中部閉塞型心筋症(MVO)と軽度大動脈
弁狭窄(AS)を認め,圧較差はMVO:47mmHg+
AS:42mmHgで総圧較差は90mmHgに及んだ.
これが失神の原因と考えβ-blocker(テノーミン)
を少量より導入した結果,テノーミン25mgにて
エコー上の圧較差はMVO:7.3mmHg+AS:
23.2mmHgで総圧較差30.5mmHgまで改善すると
共に,入浴時の失神の完全な抑制をみた.以上よ
り,入浴に伴う血行動態の変化が圧較差増大を招
き症状出現に至った病態が推察される.
44) 人工弁周囲逆流に対して5回目の僧帽弁置
換術を行った1例
(県立宮崎病院心臓血管外科) 上田英昭・
久 容輔・荒田憲一・金城玉洋
47) 左心室内に有茎性の可動性血栓を認めた拡
張型心筋症の一例
(日本赤十字社長崎原爆病院内科)
冨地洋一・高橋和宏・伊藤達郎・森 秀樹
50) 睡眠呼吸障害が遷延した劇症型心筋炎の一例
(九州厚生年金病院内科) 山本雲平・
毛利正博・阿部弘太郎・伊藤浩司・菊池 幹・
宮田健二・折口秀樹・野間 充・山本英雄
症例はS52年に初回のMVRを施行された.人工
弁周囲逆流によりH2年,H10年,H14年に再
MVRを施行された.経過観察中のH17に鬱血性
心不全で入院となり,精密検査で再度人工弁周囲
逆流と診断され,手術を目的に入院となった.手
術所見は,前交連領域で僧帽弁位の人工弁は左室
からの逆流を確認できた.左房壁の脆弱性が度重
なる人工弁周囲逆流の原因となっていると考えら
れた.通常の手順で人工弁を僧帽弁位に縫着した
後に,人工弁弁輪にスカート状に縫合した馬心膜
を,左房壁に弁輪周囲の組織を補強する目的で縫
合した.術後1年目の心臓超音波検査では,人工
弁周囲逆流はなかった.
症例は51才男性.1999年,心エコーでびまん性の
壁運動低下,左室駆出率44%であり,拡張型心筋
症の診断を受けた.食欲低下,全身倦怠感あり
2006年1月19日に来院.拡張型心筋症とうっ血性
心不全の診断で入院となった.入院時の心エコー
では左室駆出率15%と低下がみられ,左心室内に
直径3cm程度の高輝度腫瘤影がみられた.有茎可
動性で球状を呈しており形態的に粘液腫の可能性
も考えられたが血栓症を念頭に置きヘパリンを一
日7000単位投与.2週間後の心エコーでは腫瘤影
の消失を認めた.造影CTで全身動脈検索を行っ
たが血栓塞栓はなく,症状もないことから経過観
察の方針となった.左心室内に有茎性の可動性血
栓がみられ,粘液腫との鑑別に苦慮した一例を経
験したため報告する.
症例は63歳,女性.平成17年6月中旬より全身倦
怠感出現,次第に増悪し近医受診後紹介入院.冠
動脈造影,検査所見等より心筋炎と診断.その後
ショックとなり経皮的心肺補助装置(PCPS)等
にて加療し全身状態は改善した.入院時より睡眠
時無呼吸認め,全身状態が改善した7月15日に簡
易型アプノモニター施行した所,AHI(無呼吸低
呼吸指数)80/ hと中枢性優位の著明な睡眠呼吸
障害(SDB)を認めた.その後左室収縮能は改
善したが8月4日AHI 74.1/h,8月26日AHI 54.5/h,
12月13日AHI 45.3/hとSDB遷延しており現在夜間
酸素投与中である.心不全への睡眠呼吸障害の合
併は良く知られているが,本例では心機能改善後
も睡眠呼吸障害が遷延しており興味深い症例と考
え報告する.
45) 大動脈炎症候群による大動脈人工弁離脱に
対し大動脈基部置換術を施行した一症例
(熊本大学心臓血管外科) 坂口 尚・
萩原正一郎・森山周二・高志賢太郎・
國友隆二・川筋道雄
(同循環器内科学) 本村一美・小川久雄
48) 両室肥大型心筋症での右室流出路狭窄に対
しシベンゾリンが奏効した一症例
(国立病院機構鹿児島医療センター第二循環器科)
田中秀樹・薗田正浩・玉井 努・馬渡誠一・
下川原裕人・平峯聖久・東 健作・中村一彦
51) たこつぼ型心筋症を契機に診断された褐色
細胞腫の一例
(鹿児島市立病院循環器科) 大蔵 聡・
今村正和・尾辻秀章・中村大輔・内匠拓朗・
豊永浩一・李 相崎・戸田 仁
【症例】55歳の男性が労作時の息切れを訴え,当
科に入院してきた.胸部聴診では胸骨左縁第4肋
間に収縮期駆出性雑音を聴取し,胸部レントゲン
では著明な心拡大を認めた.心エコーでは両室の
肥厚と内腔狭小化を認めた.右室造影では右室心
尖部から流出路に至る強い狭窄を認め,心内圧測
定では右室流出路にて180mmHgの圧較差を呈し
た.左心系では圧較差は認めなかった.右室の心
内膜下生検では心筋細胞は著明な肥大と配列異常
を呈した.両室肥大型閉塞性心筋症と診断した.
臨床症状と圧較差の軽減のためにシベンゾリンの
内服で治療した.以後心エコー図での右室流出路
の圧較差は40mmHgに低下し,臨床症状も消失し
た.両室肥大型閉塞性心筋症は稀な疾患であり,
本症例のようにシベンゾリンが奏功した報告も少
ない.希少な症例であり報告する.
症例は21歳女性.平成17年1月頃より数分の動悸,
頭痛が出現.6月18日の夜間より胸痛,動悸,頭
痛,嘔気を認めた.以後胸痛は毎日夜間に数時間
持続した.7月9日に前医を受診し,心電図上ST上
昇,採血でトロポニンT陽性を認め,急性心筋梗
塞,心筋炎を疑われ当科紹介となった.来院時の
心エコー図所見からたこつぼ型心筋症と診断し
た.入院後の採血で血中ノルアドレナリンの異常
高値を認め,尿中VMAも高値であった.腹部MRI
では左副腎周囲に径4cmのT1強調画像で低信号,
T2強調画像で高信号の腫瘤を認めた.123I-MIBG
シンチで同部位に集積を認め,褐色細胞腫と診断
した.カテコラミンによる心筋障害と診断し,腫
瘍摘出術が施行され,病理組織学的に傍神経節腫
瘍と診断された.たこつぼ型心筋症を呈する症例
では褐色細胞腫も鑑別する必要がある.
大動脈炎症候群によると思われる大動脈人工弁離
脱に対し大動脈基部置換術を施行し,経過良好な
症例を経験した.症例は,51歳女性.平成16年9
月ARに対しAVR(SJM23)を施行した.平成17
年2月人工弁周囲より逆流を認め,re-AVR(SJM
23)を施行した.病理組織診より炎症性疾患が疑
われステロイド投与を開始した.同年6月人工弁
の動揺を認め,9月弁周囲からの逆流も認めるよ
うになったため,大動脈基部置換術(Carboseal
弁付きグラフト25mm)を施行した.病理組織診
で動脈壁への炎症性細胞の強い浸潤を認め,さら
に血液検査などより大動脈炎症候群と診断した.
術後23日目に自宅退院した.ステロイドを含む内
服加療中であるが,吻合部の逆流や仮生瘤の形成
もなく経過している.
1234
第 100 回九州地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
52) 左室流出路圧較差を伴うたこつぼ型心筋症
にシベンゾリン内服が有用であった一例
(九州厚生年金病院内科) 阿部弘太郎・
山本英雄・伊藤浩司・山本雲平・菊池 幹・
宮田健二・折口秀樹・野間 充・毛利正博
症例は52歳,女性.高血圧症で通院していたが,
胸痛の既往はない.買い物中に突然強風が吹き驚
いた後に,突然の胸部圧迫感と息切れを自覚した.
来院時の心電図で,四肢・胸部誘導でのST上昇
とトロップT陽性を認め,急性心筋梗塞疑いで入
院となった.心臓カテーテル検査では,冠動脈に
有意狭窄を認めず,左室造影では基部以外にび慢
性の壁運動低下を認めた.左室造影時に圧格差は
ほとんど認めなかった.入院2日目に安静時に胸
痛を認め,心臓超音波検査で左室流出路に
32mmHg(バルサルバ手技で66mmHg)と圧較差
を認めた.シベンゾリン100mg内服し,2時間後
には胸痛も消失し左室流出路圧較差は8mmHg
(バルサルバ手技で15mmHg)と減少した.左室
流出路圧較差を伴うたこつぼ型心筋症にシベンゾ
リン内服が有用であった一例を報告する.
53) 心破裂をきたしたタコツボ型心筋症の1例
(大分市医師会立アルメイダ病院)
篠崎和宏・安部雄征・麻生崇則・矢野庄司
(大分医科大学第二内科) 田村 彰
症例は90歳女性.腰痛にて前医入院中に胸部不快
感出現,心電図上V2-4 ST上昇認め当院転院.冠
動脈造影にて有意狭窄認めず,Cr 1.6mg/dlと腎
機能障害認めるため左室造影は施行しなかったが
心エコー上特徴的な壁運動異常よりタコツボ型心
筋症と診断した.心電図上V2-4 ST上昇遷延,R
波減高認めたが,有意な心筋逸脱酵素の上昇なく
(第7病日にpeak CK 274 IU/l)
,心不全症状認めな
かったため収縮期血圧120-100mmHgに血圧コント
ロールし経過観察した.第8病日に突然心肺停止
となり,モニター上electro mechanical dissociation
呈し,心エコー上心嚢液貯留及び左室の虚脱認め
たため左室自由壁破裂から心停止となったものと
考えられた.タコツボ型心筋症は予後良好な疾患
と考えられているが心破裂から死亡に至った症例
を経験したので報告する.
54) 胸痛や左室壁運動低下が心電図変化に先行
した,たこつぼ心筋症
(鹿児島市医師会病院) 砂川 亘・
松下大輔・土器屋富美子・青木正明・
小畑八郎・山口 剛・鳥居博行
今回我々は,胸痛や左室壁運動低下が心電図変化
に先行した,たこつぼ心筋症の1例を経験した.
症例は,73歳女性で心因性ストレスを契機に胸痛
が出現した.来院時には,心電図上ST-T変化を認
めず,心エコー上心尖部を中心としたびまん性の
壁運動低下を認めた.たこつぼ心筋症特有の心電
図変化が出現したのは,入院後,数十時間を経過
してからであった.たこつぼ心筋症の症例は多数
報告されているが,今回の症例の様に遅発性の心
電図変化を呈する症例の報告はほとんど見られな
い.たこつぼ心筋症の成因は解明されていないが,
いまだに冠攣縮説も完全に否定されていない.こ
の症例はその点からも大変興味深い症例であると
考えられたので若干の文献的考察を含め報告す
る.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
55) 心臓MRIがステロイド治療の効果判定に有
用であった心サルコイドーシスの3例
(琉球大学循環系総合内科学)
長浜一史・垣花綾乃・武村克哉・東上里康司・
伊敷哲也・奥村耕一郎・神山朝政・大屋祐輔・
瀧下修一
心サルコイドーシスに対し心臓MRIのGd遅延造影
を行った3例について検討した.いずれも他臓器
のサルコイドーシスと診断され,ステロイドは未
使用だった.症例1は70歳女性.主訴は息切れ.
左室瘤があり,心臓MRIで左室瘤に一致して高信
号域を認めたが,Gd遅延造影は陰性であった.ス
テロイド治療開始後も息切れは持続し,MRI所見
に変化を認めなかった.症例2は55歳女性で心不
全例.Gd遅延造影は陽性であり,ステロイド治療
後に減弱した.その後,心不全は再発していない.
症例3は67歳女性の失神例.ホルター心電図で心
室頻拍が検出された.Gd遅延造影は陽性で,ステ
ロイド治療後に改善した.その後,失神の再発は
ない.以上より,心臓MRIによるGd遅延造影は心
サルコイドーシスのステロイド治療の適応および
効果判定に有用である可能性がある.
56) 急性下壁梗塞様心電図を呈した心サルコイ
ドーシスの1例
(大分大学感染分子病態制御講座)
宮本久美栄・田村 彰・河野嘉之・直野 茂・
神徳宗紀・門田淳一
症例は60歳,女性.動悸を主訴として入院.入院
時心電図にて下壁誘導ST上昇,側壁誘導ST低下
を認めた.胸痛の既往はなし.心臓超音波検査に
おいて心基部の後部中隔から下後壁にかけて壁菲
薄化と瘤形成を認めた. 冠動脈造影にて冠動脈
に有意狭窄を認めなかった.Holter心電図にて持
続性心室頻拍を頻回に認めた.胸部CTにて両側
肺門部リンパ節腫大を認めた.Gaシンチグラム
では心臓の取り込みは認めなかった.経気管支的
肺生検の結果,サルコイドーシスの確診を得た.
ステロイド療法を開始1ヶ月後に血圧の低下を認
める持続性心室頻拍が出現したため,植え込み型
除細動器植え込み術を施行した.心サルコイドー
シスの症例は心筋梗塞様心電図を呈することがあ
るが,本例は急性心筋梗塞に極めて類似した心電
図を呈したためここに報告した.
57) 大動脈弁閉鎖不全症の経過中に偶然発見さ
れた心アミロイドーシスの1例
(久留米大学第三内科) 塚川絵里・
長田克則・竹内智宏・宮崎 宏・金谷誠司・
大内田昌直・甲斐久史・今泉 勉
(同病理学) 加藤誠也
症例は69歳男性.高血圧の既往があり40歳代より
加療開始する.平成17年1月に大動脈弁閉鎖不全
症(AR)と徐脈性心房細動を指摘されペースメ
ーカー植え込みを勧められるも施行せず.10月頃
より労作時の胸部不快感が出現し再入院精査を行
い冠動脈1枝病変とARを指摘されたが内服加療
を希望する.しかし平成18年1月になり症状の増
悪,BNP1090と上昇,肝機能障害が出現し緊急
入院となる.入院時の心電図は心房細動と低電位
を認め左室肥大の所見は乏しかった.また心エコ
ー図では左室内腔は拡大しEF44%,ARとMRを
認めた.ARの経過や重症度と心電図所見に解離
がある事より2次性心筋症の合併を疑い心筋生検
を行ない心アミロイドーシスと診断した.今回
ARの経過中に偶然に心アミロイドーシスが発見
された症例を経験したので報告する.
58) 粘液水腫心筋症の1例
(九州厚生年金病院内科) 関塚友美・
折口秀樹・毛利正博・山本雲平・山本英雄
62歳女性,全身倦怠感と全身浮腫で発症.高血圧
の既往なく,心電図は低電位.FT 4 0.05ng/dl,
TSH237.6μU/mlの甲状腺機能低下があり,心エ
コーで著明な心嚢液貯留と心室中隔肥厚18mm,左
室後壁肥厚17mm,
著明な壁運動低下
(LVEF=37%)
を認めた.MRIでは正常心筋との性状差異は不明
であった.甲状腺ホルモン補充によって心エコー
上,心嚢液消失し,壁運動も改善,症状は消失し
た.心肥大は一時,非対称性心室中隔肥大となり,
さらに改善中である.粘液水腫心の心エコー上の
特徴に心嚢液貯留があるが稀に心肥大を伴い,高
血圧性心臓病や非対称性心室中隔肥大を伴った肥
大型心筋症との鑑別を要することがある.甲状腺
ホルモン補充でこれらの所見は正常化する可能性
があり,注意を要する.
59) 著明な心機能低下を認めたアレルギー性肉
芽腫性血管炎の一例
(熊本大学循環器内科学) 福永 崇・
永吉靖央・杉山正悟・吉村道博・小川久雄
症例は33歳男性,30歳より喘息の診断を受け,ス
テロイド吸入やβ刺激薬の加療を受けていた.平
成18年2月に両下肢のしびれを自覚するようにな
った.その後徐々に呼吸困難感が出現し,近医に
て胸水貯留,心拡大を指摘され,うっ血性心不全
の診断で2006.2.23当科紹介入院となった.入院時
の採血にて白血球12300/ul,好酸球52%と著しい
好酸球の増加を認めた.胸水にも多量の好酸球を
認めた.心エコーではびまん性の著明な左室壁運
動低下(EF31.9%)を認め,好酸球性心筋障害が
疑われた.精査の結果,アレルギー性肉芽腫性血
管炎と診断し,ステロイドによる加療を開始した.
その後徐々に心機能は改善し,心拡大や胸水貯留
は改善を認めた.心機能改善にステロイド療法が
有効であった一例を経験したので報告する.
60) M a r f a n 症 候 群 患 者 の 術 後 に み ら れ た
nifekalant(N)により惹起されたTorsade de
Pointes(TdP)
(済生会熊本病院心臓血管センター内科)
小田川幸成
(同外科) 出田一郎・遊佐裕明・上杉英之・
三隅寛恭・平山統一
(同内科) 本田俊弘・古山准二郎・
田山信至・本田 喬
III群抗不整脈薬は有用な薬剤であるがTdP等の
副作用には注意を要する.今回,nifekalant(N)
によりTdP生じた症例を経験したので報告する.
【症例】術後Marfan症候群の33歳男性.今回,さ
らに腹部大動脈へのY-graftingを施行した.術中
よりVT/VFが散発し,Nが投与(0.39mg/kg/hr)
された.VT/VFは抑制されたが,20時間後ECG上
QT延長(QT 0.60s,QTc0.66s)が確認された.約
5時間の中断後,再度0.2mg/kg/hrにて開始.しか
し,その5時間後にTdPが頻発する様になった.N
を中止し120/分のVVI overdrive pacingにてVTは消
失した.今回のNによるQT延長,TdPは術後一過
性にみられた腎機能低下と関連した可能性が考え
られた.【考察,結語】QT延長をきたす薬剤の使
用にあたっては,排泄系である腎機能,肝機能
(一過性,永続性)への配慮が必要と考えられた.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1235
61) II度房室ブロックを背景にニューキノロン
tosufloxacinによるQT延長でtorsades de pointesを
きたした一例
(宮崎大学第一内科) 星子新理・川越純志・
鬼塚久充・小山彰平・井手口武史・名越康子・
辰元 信・岩切弘直・伊達晴彦・今村卓郎・
北村和雄
(早田病院) 早田泰英
65) 左室中隔Purkinje線維起源の多形性心室頻
拍(VT)とVerapamil感受性VTが高周波通電で
一期的に根治できた一例
(県立宮崎病院循環器科) 柳田葉子・
(博愛会病院) 土谷 健
(県立宮崎病院循環器科) 福永隆司・
中川 進
症例は突然死の家族歴を有し心肺停止を生じた17
症例は63歳女性.05年9月下旬より徐脈を自覚.
歳女性.器質的心疾患は認めない.Pilsicainide
失神を伴うようになったため,10月初旬,近医受
の静脈内投与により再現性を持って短時間持続す
診.このときに2:1のII度房室ブロックを指摘さ
る多形性VT(RBBB型)が反復して生じ,これ
れ,ペースメーカー植え込み術を施行予定された
らが停止後にRBBB+LAD型の持続性VTが生じ
が,上気道症状に対して処方されたtosufloxacin
内服後,torsades de pointesを生じるようになり, Verapamilで停止した.頻拍中の左室中隔map当科紹介入院.入院時心電図上2:1のII度房室ブ
pingでは,多形性VT中にPurkinje電位(P波)が
ロックを認め,QTc時間は延長しており,torsades
拡張期全期に渡り認められた.VT初期には同じP
de pointesが頻発していたため,Mgの持続点滴と
波間伝導パターンが認められたが,その後は心拍
心拍80/分の心室ペーシングを行うことでQTは短
毎のP波間の伝導様式の変化に伴いQRSが変化し
縮し,心室頻拍の出現も治まった.第6病日に恒
た.持続性VT中は左室中中隔で拡張後期電位
久的ペースメーカー(DDD)植え込みを行った.
同剤によるtorsades de pointesは稀であるが,基 (LDP)−P波の関係を認めLDP部位での通電でVT
は停止したが,その後のPilsicainide負荷では多
礎に徐脈性疾患が存在する場合は慎重な投与が必
形性VTも誘発されなくなった.2ヶ月の経過で再
要である事を示唆する教訓的な症例であったた
め,報告する.
発を認めない.
62) 細胞内外のマグネシウム濃度低下による心
筋細胞活動電位の変化と催不整脈性
(大分大学循環病態制御講座) 嶋岡 徹・
竹田幸代・磯本正二郎・小野克重
低Mg血症は不整脈発生の成因となり得る.本研
究では,無Mg食によって低Mg濃度ラットを作成
し,心電図と細胞電気生理学的手法を用いて低
Mg血症の不整脈基質を検討した.ラットの血清
Mg濃度は,無Mg食の投与開始8週間で0.67mg/dl
(対照:2.30mg/dl)に低下し,細胞内Mg濃度は
4.42mg/dl(対照:6.92mg/dl)に低下した.テレ
メトリー送信器による心電図の連続測定によって
同ラットで上室性期外収縮の多発を記録した.単
離心筋細胞の活動電位持続時間(APD90)は110%
延長した.一方,L型Ca2+電流は30.2%減少した.
以上の結果より,低Mg血症で観察される上室性
期外収縮はL型Ca2+電流の減少と共に何らかの外
向き電流値の減少が原因であることが示唆され
た.
66) 心房粗動,洞不全症候群に高周波カテーテ
ル心筋焼灼術,ペースメーカー植込み術を行った
Ebstein奇形の一例
(熊本大学循環器内科学) 森久健二・
山部浩茂・永吉靖央・杉山正悟・吉村道博・
小川久雄
症例は66歳女性.32歳時よりEbstein奇形を指摘
されていたが,平成18年2月より2:1の房室伝導
を呈する心房粗動が頻回に出現するようになり,
またカルディオバージョンによる頻拍停止時に3
秒程度の洞停止を伴うため精査加療目的で2月28
日に当院に入院となった.電気生理検査では三尖
弁輪を反時計方向および時計方向に旋回する2種
類の心房粗動が誘発された.心房粗動に対しては
下大静脈三尖弁輪峡部に線状焼灼を行ない,心房
粗動の誘発は不能となった.電気生理検査中の頻
拍停止時に最大5.4秒の洞停止を認め,高周波カ
テーテル心筋焼灼術後に心拍数40∼50/分程度の
倦怠感を伴う洞性徐脈が続いたため恒久的ペース
メーカー植込み術を施行した.心房リードは右心
耳に心室リードは心尖部の中隔寄りに留置し良好
な閾値を得た.
68) 7年持続した慢性心房細動に対しCFAEsを
指標とした焼灼により根治した1例
(福岡大学循環器科) 村岡聡一・
熊谷浩一郎・松本直通・安田智生・中島英子・
高嶋英夫・林ちはる・朔啓二郎
症例は44歳の男性.10年前から発作性心房細動に
対し抗不整脈薬の投与を受けていたが,7年前か
ら慢性化,洞調律化を本人が強く希望したためア
ブレーションを行なった.初回よりPV antrum
isolation(PVAI)と,LA roof及びmitral isthmus
の線状焼灼を行った.しかし,PV-LA伝導の再発
を繰り返したため,3回のsessionを行った.その
後も再発するため4回目のsessionを行なったが,
PV-LA伝導再開はみられず,線状焼灼の作成も確
認されたため,complex fractionated electrograms
(CFAEs)を指標としたablationを行った.右心
耳内を通電中に心房細動は心房頻拍へ移行した.
術後は無投薬下で洞調律を維持している.
CFAEsを指標としたアブレーションはPVAI無効
例の次のオプションとして有効であることが示唆
された.
69) 心室頻拍が診断の契機となった肢体型ジス
トロフィーの一例
(雪の聖母会聖マリア病院循環器内科)
大江健介・田代英樹・貞松研二・山本邦彦
肢体型ジストロフィーは,常染色体劣性遺伝であ
り,心電図異常や心エコー異常を高率に合併し,
伝導障害を伴う心筋症を合併することもある.今
回われわれは,心室頻拍が診断の契機となった肢
体型ジストロフィーの一例を経験したので報告す
る.症例は,41歳の男性.拡張型心筋症,心室頻
拍,完全右脚ブロックをみとめ,内直筋障害,外
眼筋障害,姿勢筋障害を認めたため,神経筋疾患
を疑い筋生検を施行した.筋生検迅速検査の結果
は,緩徐進行型のジストロフィー(特に肢体型ジ
ストロフィー)が疑わしいという結果であった.
心室頻拍が診断の契機となった肢体型ジストロフ
ィーは稀なためここに報告した.
63) 徐脈頻脈症候群患者の心房細動出現と心房
内伝導遅延の対するスタチンの効果
(長崎大学医学部歯学部附属病院第三内科)
小宮憲洋・柴田理也子・深江学芸・
中尾功二郎・瀬戸信二・矢野捷介
67) Antidromic AVRTとUncommon AVNRTを
合併した一例
(九州大学病院病態修復内科学) 安田潮人・
加治良一・伊東裕幸・安田雄一郎・中村洋文・
辛島詠士・島津秀樹・丸山 徹
70) ファロー四徴症根治術後遠隔期に生じた大
動脈弁閉鎖不全に対する一手術例
(佐賀県立病院好生館心臓血管外科)
片岡浩海・樗木 等・内藤光三・坂口昌之・
白馬雄士
徐脈頻脈症候群患者の心房細動出現と心房内伝導
遅延の対するスタチンの効果を検討した.54人の
徐脈頻脈症候群患者をスタチン内服群(男10人,
女10人,平均年齢69歳)とスタチン非内服群(男
20人,女14人,平均年齢72歳)に分け,心房細動
の出現と加算平均心電図からfiltered P-wave
durationを計測した.発作性心房細動は,スタチ
ン内服群(30%)よりスタチン非内服群71%)で
有意に多かった(P<0.05).慢性心房細動への
移行はスタチン内服群(10%)とスタチン非内服
群(12%)で差がなかった.洞調律下のfiltered
P-wave durationは,経過観察期間前後で2群間
に差を認めなかった.スタチンは徐脈頻脈症候群
患者の発作性心房細動の出現を抑制したが,心房
内伝導遅延の進行には影響しなかった.
29歳男性.中学生時にWPW症候群を指摘され年
1回程度の動悸発作.20歳から頻度増加.29歳時
に Wide QRS tachycardia発作を週に3回認め,
当科入院.顕性A型WPWで,電気生理学的検査
に て Wide QRSの antidromic AVRT, 数 発 の
Orthodromic AVRTが誘発.左側壁副伝導路を高
周波焼灼後,イソプロテレノール下右室期外刺激
に て Uncommon AVNRTが 誘 発 , Common
AVNRTは誘発不能.Slow pathway アブレーショ
ン後,頻拍は誘発不能となった.電気生理学的に
は不応期の長い逆行性房室結節速伝導と伝導時間
が長く不応期の短い逆行性房室結節遅伝導に左側
壁房室副伝導路を合併していたため,より頻度の
少ないAntidromic AVRTとUncommon AVNRTを
併発したことが考察された.
症例は,64歳,男性.平成2年,ファロー四徴症
に対して,VSD閉鎖術,右室流出路形成術を施
行された.その後,外来で経過観察中であったが,
心エコー上,徐々に大動脈弁閉鎖不全(AR)が
出現し,平成18年2月の心エコーで,重度のARと
診断され,手術目的に入院となった.平成18年2
月20日大動脈弁置換術(SJM 25mm)を施行した.
術中所見では,大動脈弁輪径の拡大(26mm)を
認めたが,弁尖の逸脱所見はなく,3尖ともに軽
度の肥厚を認めるのみであった.摘出した弁尖の
病理組織診断は,degenerative valveであった.
手術後は特に合併症なく経過し,術後15日目に独
歩退院した.ファロー四徴症根治術後遠隔期の大
動脈弁閉鎖不全治療例は,比較的稀れであり,若
干の文献的考察を含めて報告する.
1236
第 100 回九州地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
71) 左上大静脈遺残を伴う冠静脈洞型心房中隔
欠損症の一例
(長崎大学医学部歯学部附属病院小児科)
南 一敏・山本浩一・本村秀樹・森内浩幸
(同心臓血管外科) 山近史郎
74) ペースメーカーscrew-in leadによる右室穿
孔の一例
(沖縄県立南部医療センター循環器科)
松岡満照・知念久美子・當真 隆・砂川長彦
(同心臓血管外科) 摩文仁克人・久貝忠男
冠静脈洞型心房中隔欠損症は,冠静脈洞型心房中
隔欠損症,左上大静脈の左房開口,冠静脈洞の欠
損症を合併した症例として報告されたのが最初で
ある.これらは発生学的に一連のスペクトラムを
形成するものであり,在胎第10∼11週に左房と静
脈角左角の間にあるleft atriovenous foldの発育不
全により生じるとされている.二次孔型心房中隔
欠損症の診断は,胸部理学的所見・心電図・経胸
壁心エコー検査により比較的容易に行えるが,冠
静脈洞型心房中隔欠損症は,心房中隔欠損症の約
0.2%程度と非常に希であり,その部位の解剖上,
診断が困難であることが多い.今回,左上大静脈
残遺を伴う冠静脈洞型心房中隔欠損症の診断に,
経食道心エコー・心臓MRIの検査が有用であった
症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて
報告する.
症例は94歳女性.本年2月14日ふらつき感が出現
し近医で完全房室ブロックと診断され2月21日に
永久ペースメーカ植込術を施行.翌日にペーシン
グ不全をきたし右室穿孔と判明し当院に紹介.血
圧170/80mmHgで心拍数40bpm.軽度の心不全を
認め心エコーでは少量の心嚢液貯留と圧較差
30mmHgの大動脈狭窄症があり心尖部壁運動低下
が認められた.同日一時ペースメーカを挿入し翌
日に当院心臓血管外科にて手術を施行.硬膜外麻
酔下に左第4肋間開胸で施行.穿孔部位は周囲が
浮腫状で脆弱.閉鎖後もoozingが続くためタココ
ンブで止血.その後心筋電極を装着.心室穿孔の
合併症は良く知られているが実際には稀であり最
近5年間の医中誌の検索では12例の報告でscrewin leadは5例.その報告のほとんどが65歳以上で
あり老年者では注意が必要と思われた.
72) MDCTにより両大血管右室起始症および総
肺静脈還流異常症を指摘された42歳男性
(県立宮崎病院) 柳田葉子・福永隆司・
中川 進
75) EDSを用いた経静脈リード抜去について
(社会保険小倉記念病院循環器科)
山田貴之・合屋雅彦・安藤献児・安本 均・
延吉正清
生後間もなく心雑音を指摘され,2歳時に大血管
当院での植え込みDeviceの創部感染における
転位症,心房中隔欠損症,心室中隔欠損症と診断
EDS(Electrosurgical Dissection Sheeth:Cook
された.手術は行われなかったが,成長発達に問
社製)を用いたリード抜去の経験について報告す
題はなく,日常生活レベルで困難を来すことはな
る.2005年4月より2006年1月までに当院において
かった.平成17年10月脳膿瘍加療目的にて入院と
12症例22本のリード抜去を施行した.平均年齢74
なった際,MDCT(3DおよびMPR)にて心奇形
歳,心室リード13本,心房リード8本,CSリード
の再評価を行った.両大血管右室起始症,心房中
1本であり,植え込まれてからの年数は平均8.3年
隔欠損症,心室中隔欠損症(Noncommitted), (0.8-20.1年)であった.うち15本9症例について
総肺静脈還流異常症(上心臓型),左上肺静脈左
EDSを使用したが,全症例において抜去可能で
心房間シャント,末梢性右肺動脈狭窄症,右側大
あり.術中術後にtamponadeなどの合併症を認め
動脈弓,総頚動脈・鎖骨下動脈起始異常と診断さ
なかった.また抜去により創部感染のコントロー
れた.心エコー上,四弁の機能異常は認めず,壁
ルが可能であり,全症例において術後に新たに
運動は良好であったが,総肺静脈などの評価は困
Deviceを植え込んで退院可能であった.【結語】
難であった.本症例のような自然歴を有する成人
EDSを用いてのリード抜去は重大合併症も認め
複雑心奇形の報告は稀であり,MDCTが形態評
ず,有用であると考えられた.
価に有用であったため報告した.
73) 遠隔期に狭心痛を伴った川崎病性冠動脈瘤
の一例
(長崎大学医学部歯学部附属病院小児科)
山本浩一・本村秀樹・森内浩幸
(国立病院長崎医療センター小児科)
手島秀剛
76) 上大静脈症候群の治療方針決定に経静脈的
腫瘤生検が有効であった一例
(宮崎医科大学第一内科) 小山彰平・
名越康子・辰元 信・井手口武史・川越純志・
鬼塚久充・岩切弘直・伊達晴彦・今村卓郎・
北村和雄
川崎病による冠動脈瘤の多くは,遠隔期に退縮し
造影上径が正常化することも多いが,ときに狭窄
を起こし虚血の原因となる.今回我々は造影上明
らかな冠動脈の狭窄病変を欠いたが,血流うっ滞
を認めた労作性狭心痛を呈した症例を経験した.
動脈瘤部の遠隔期血管内皮障害や退縮による血行
力学的変化が原因と考えた.症例は20歳女性で5
歳時に川崎病に罹患し,左冠動脈主幹部から前下
行枝近位部にかけて紡錘状の動脈瘤を残した.抗
血小板剤の投与のみで無症状に経過したが,19歳
頃から労作時に軽度の胸痛を認めた.トレッドミ
ル検査で胸痛と共に側壁領域のST低下が誘発さ
れた.冠動脈造影を施行したところ,瘤部から分
岐する回旋枝は狭窄部を欠いたが,屈曲蛇行し造
影のうっ滞を認めた.β阻害薬及びニコランジル
による薬物療法で症状は消退した.
68歳女性.99年子宮体部高分化型腺癌に対し
子宮全摘術の既往がある.05年8月頃から顔面
浮腫を自覚.近医の心臓超音波検査にて右房内に
3∼4cm大の腫瘤を認め,当科に紹介された.
胸部CTでは左内頸静脈,左鎖骨下静脈,上大静
脈,右房内に連続性のある腫瘤を認め,上大静脈
症候群と診断した.CT,ガリウムシンチ,FD
G−PETでは,血管内腫瘍と血栓の鑑別が困難
であった.治療方針の決定のため,右鎖骨下静脈
アプローチにて経静脈的に腫瘤の生検を行った.
その結果病理組織診断にて高分化型腺癌と判明
し,化学療法を行ったところ,腫瘍は縮小し,顔
面浮腫も著明に改善した.上大静脈症候群の治療
方針決定に経静脈的腫瘤生検が有効であったと考
えられたため,これを報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
77) 診断に心エコー法が有用であった食道粘膜
下血腫の一例
(国立病院機構鹿児島医療センター第一循環器科)
小瀬戸一平・中島 均・瀬戸口学・余 波・
河野美穂子・石澤宗純・吉野聡史・山下 誠・
松岡 樹・皆越眞一
症例は67歳,男性.7年前に大動脈弁置換術を施
行,C型肝炎あり.ワーファリンとアスピリンを
服用していた.平成17年9月,嚥下時の咽頭から
胸部にかけての疼痛が出現.数日後には吐血が出
現したため近医を受診,食道粘膜血腫を疑われ当
院へ紹介された.心エコー図にて左房後方と下行
大動脈間にマスエコーを認め,食道がんを疑がい
CT検査と胃カメラを施行した.造影CTでは食道
内腔に突出するmassエコーを認め,食道壁内血
腫が示唆された.胃カメラにて食道の線状潰瘍と
粘膜下血腫を認めた.2ヶ月間経静脈栄養を行い,
順調な経過をとった.食道粘膜下血腫は稀に見ら
れる疾患であるが,ワーファリン投与中の患者に
おいては念頭に置くべき疾患と思われる.今回は
心エコー所見がその診断のきっかけとなった.
78) 重症高血圧に発症した若年性ラクナ梗塞の
一例
(公立学校共済組合九州中央病院)
吉松正憲・冨永光裕・藤島慎一郎・河野 修・
竹迫仁則・大森 将
症例は24歳男性.2年前に初めて210/100mmHgの
高血圧を指摘されるも,定期通院せず.数ヶ月前
より,口渇著しくスポーツ飲料を異常に摂取(23L/日)していた.平成17年11月3日左半身のし
びれ,脱力が出現し緊急入院.左不全片麻痺と左
半身の感覚異常と著しい高血圧(242/152mmHg)
を認めた.頭部CT,MRIにて大脳基底核に新旧
の点状の梗塞巣を認め,ラクナ梗塞と診断した.
糖尿病(空腹時血糖 338),高脂血症(LDL-C 223,
TG 311),著しい肥満(BMI 33)と喫煙歴を認め
た.血管炎や凝固系異常などはなく,通常の成人
に見られる脳梗塞と同様の原因が考えられた.高
血圧も本態性と判断した.ラクナ梗塞の発症機序
を考える上で興味深く,また24歳という年齢で多
発性ラクナ梗塞を発症するのは非常に稀だと思わ
れ報告する.
79) 無治療にて病態の増悪を認めず,長期生存
している原発性肺高血圧症の一症例
(長崎大学医学部歯学部附属病院第二内科)
浦田淳吾・池田聡司・古賀聖士・関田孝晴・
千々岩理佐・河野 茂
症例は51歳の男性.血痰と労作後の疲労感(NYHA
I-II度)を主訴に1988年に当院初診.PaO2 59torr
の低酸素血症,平均肺動脈圧61mmHgと高度の肺
高血圧を認め,原発性肺高血圧症の診断で治療開
始となった.当初は外来治療を継続していたが,
2 年後より通院を自己中断し無治療であった.
2005年11月に血痰を主訴に16年ぶりに当院を受
診.PaO2 56.8torr,平均肺動脈圧58mmHgと著
変なく,症状も初診時と同様,血痰と労作後の軽
度の疲労感(NYHA I-II度)を認めるのみであっ
た.原発性肺高血圧症は進行性で予後不良の疾患
であり,本症例のように長期間無治療でありなが
ら症状や血行動態の悪化もなく経過する例は非常
に珍しく,貴重な症例であると思われたため報告
する.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1237
80) 当院における静脈血栓塞栓症に対する下大
静脈フィルター挿入による初期成績について
(浦添総合病院循環器内科) 小村泰雄・
大城康一・旭 朝弘・嘉数 朗・比嘉章子
近年静脈血栓塞栓症(VTE)は増えつつあると認
識されてきているが,発生症例に対する治療法は
確立されていない.当科では積極的に回収可能型
下大静脈フィルター(ギュンターチューリップ)
を留置し,抗凝固療法施行後回収する方向で対応
している.平成17年4月より平成18年3月までで
計30症例にフィルター留置し,うち16例に回収試
み15例で回収できた.回収を試みなかった理由は
経過中の原疾患の回復が乏しくDNRとなったもの
がほとんどであった.フィルター挿入後再度の肺
塞栓を認めたものはなく,回収手技に合併症は一
例気胸を認めた.回収不能は特に若い患者である
場合などでは問題であり,検討したため報告す
る.
81) TrapEase下大静脈フィルターの 中期ー長
期成績
(長崎神経医療センター) 恒任 章・
古殿真之介・白石嘉憲・品川達夫
【目的】TrapEase下大静脈フィルターの中期ー長
期成績を検討する.【方法】2002年12月から2005
年10月に肺塞栓症(PE)and/or 深部静脈血栓症
(DVT)にて当院へ入院中,TrapEaseを植え込ん
だ連続10症例において,PE再発,DVT再発,抗
凝固薬継続の有無,フィルターの移動・破損・血
栓閉塞に関して,retrospectiveに検討した.追跡
期間は平均16(5-29)ヶ月.【成績】PE再発はな
し.DVT再発は2例(2例ともワーファリン再開
後に改善).ワーファリン中止3例,継続7例(う
ち2例はINR未測定).フィルターの移動は認めな
かったが,破損(fracture)を2例に認めた.7-13
ヶ月後に造影CTを確認し得た4例では,フィルタ
ーの血栓閉塞は認めなかった.【結論】TrapEase
下大静脈フィルターは,肺塞栓症再発を予防する
が,破損しやすい可能性がある.
82) 急性肺血栓塞栓症の治療中にヘパリン起因
性血小板減少症(HIT)を合併し治療に難渋した
一例
(九州労災病院内科) 村岡秀崇・高津博行・
黒田智寛
83) ワルファリン中止後数日で発症した末梢動
脈塞栓の二例
(北九州市立八幡病院循環器科) 藤田弘之・
加来京子・佐貫仁宣・津田有輝・原田 敬・
大江春人
症例1は79歳男性.心房細動,脳梗塞にてワルフ
ァリン内服中,抜歯のため3日間休薬していた.
突然右上肢のしびれ,冷感出現し当院受診.右橈
骨動脈触知不可で手指チアノーゼ,握力低下と知
覚鈍麻認めた.血管エコーにて上腕動脈末梢側か
ら橈骨動脈にかけてひも状血栓像を認め,心原性
末梢塞栓と診断し血行再建術施行.症例2は93歳
女性.慢性心房細動等にて加療中,大腿骨骨折に
て当院入院.ワルファリン休薬及びヘパリン持続
点滴下で骨接合術施行.術後4日目突然右前腕の
疼痛と冷感出現し当科紹介.右橈骨動脈及び上腕
動脈触知不良でチアノーゼ,握力低下と知覚鈍麻
を認めた.血管エコーにて右上腕動脈以下が血栓
性に完全閉塞し,血栓除去術施行.心房細動によ
る塞栓症のうち末梢塞栓の頻度は11%とその報告
は少なく文献的考察を含め報告する.
84) トレッドミル歩行後の下肢動脈血流波形を
用いた間欠性跛行の評価
(福岡市医師会成人病センター) 藤浦芳久・
上野高史・池口正知・島松淳一郎・南條泰輝・
古藤文香・梅田文雄
閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療が広く普及
しているがその適応を決めるのは容易ではない.
我々はトレッドミル歩行後に超音波検査を行い,
動脈血流波形にて治療法選択及び治療効果判定を
行った.200m歩行で間欠性跛行を認める症例で,
血管造影では(Lt)CIA,EIAに75%狭窄を認める
もABIは0.92であった.そこで歩行後の血流波形
を評価したが,直後の波形はpost stenotic pattern
を呈し正常波形へ回復するのに9分間を要した.
血管内治療の適応と判断しステント留置術を行い
同検査を再検したところ,下肢痛は出現せずpost
stenotic patternも認めなかった.以上より,間
欠性跛行の評価にはトレッドミル歩行後の動脈血
流波形の観察が有用である事が示唆された.
85) 血管エコーによる急性動脈閉塞と閉塞性動脈
硬化症との鑑別
(急性動脈閉塞を示唆する4 Criteria)
(済生会熊本病院心臓血管センター内科)
田上 望・西上和宏・本田 喬・本田俊弘・
松田宏史・堀内賢二・中尾浩一・平山統一・
三隅寛恭
71歳女性.平成17年12月中旬,左下肢深部静脈血
栓症,急性肺血栓塞栓症にて入院.一時的下大静 【目的】血管エコーによるAAOの診断基準を作成
し,ASOとの比較によりその妥当性を検討.【対
脈フィルター挿入し,血栓溶解療法,抗凝固療法
象と方法】AAOと確定診断された12例,完全閉塞
を開始した.ヘパリンの長期投与を余儀なくされ
を有するASO12例を対象とした.診断基準は,血
ていたところ,1月初旬に急激な血小板減少を認
管壁における外膜と近接する内膜描出,血管内構
め,経過からHITを疑った.多量の血栓残存もあ
り,恒久的フィルターに変更し,直ちにヘパリン, 造物の低輝度エコー,血管内構造物の可動性,血
管拍動の存在の4項目とした.それぞれの項目及
ワーファリン中止,アルガトロバン開始した.一
び陽性項目数につきASOとAAOを比較.【結果】
旦血小板数は回復したが,その後再度減少,左下
内膜描出はAAO12例とASO1例,血管内構造物低
肢からフィルター内にかけて新たに血栓形成を認
輝度エコーは11例と2例,血管内構造物可動性は9
めた.アルガトロバンのみでは困難と判断し,ワ
例と0例,血管拍動存在は12例と0例であった.
ーファリンを再開,PT-INR2∼3でコントロール
AAOでは陽性項目3項目が12例,4項目が8例,
した.その後は血小板数回復し,新たな血栓形成
ASOでは陽性項目0項目9例,1項目3例であった.
も認めていない.今回我々は急性肺血栓塞栓症に
陽性項目3項目以上をAAOとした場合,診断感度特
HITを合併し治療に難渋した症例を経験したため
異度共には100%である.【結語】本研究で作成し
報告する.
た診断基準は,AAO診断に有用であると思われる.
1238
第 100 回九州地方会
86) 浅大腿動脈領域における自己拡張型Nitinol
Stent留置とStent Fractureについての検討
(社会保険小倉記念病院循環器科)
曽我芳光・安藤献児・白井伸一・山田貴之・
小田代敬太・岩淵成志・横井宏佳・安本 均・
野坂秀行・延吉正清
【対象】2004年1月から2005年12月に当院で浅大腿
動脈に自己拡張型nitinol stentを留置し,血管造
影による追跡評価が可能であった34症例(39肢,
ステント54本)について検討した.【方法】透視
下6-inchでstent fractureを評価し,血管造影上
50%以上の狭窄を再狭窄として評価した.【結果】
患者背景は男性81%,平均年齢71±7才.平均追
跡期間9.0±3.6ヶ月.Stent fractureは9肢(22%)
に認めた.Stent fracture群はそうでない群と比
較し再狭窄が有意に多く(P=0.003),一次開存
率は有意に低かった(P=0.01).【結語】浅大腿
動脈のnitinol stent留置はfractureの危険性があ
り,高率に再狭窄と関与すると考えられた.
87) 腎動脈ステント留置術におけるIVUSの有
用性
(北九州市立八幡病院循環器科) 佐貫仁宣・
加来京子・津田有輝・原田 敬・大江春人
腎動脈ステント留置術におけるIVUSの有用性につ
いて検討した.症例は,平成16年12月から平成18
年3月の間に当院にて施行した15症例.このうち
ステント留置前・後にIVUSを施行した症例は11
例(73%)であった.11例中IVUSにてsoft plaque
が認められた3例においては,distal protection
deviceを使用した.11例中5例では,留置後の
IVUS上ステント拡張不十分で後拡張を追加した.
術後の造影上slowもしくはno flowとなった症例
は認めなかった.腎動脈ステント留置術での
IVUS併用は,合併症発生の低減や良好なステン
ト拡張を得るうえで有用と考えられたので,報告
例も含め考察し報告する.
88) 上腸間膜動脈の高度狭窄病変に対しステン
トを留置することにより症状が改善した腹部アン
ギーナの1例
(熊本大学循環器内科学) 上村孝史・
小島 淳・永吉靖央・杉山正悟・吉村道博・
小川久雄
症例は67歳男性.7年前に直腸癌の手術時に患部
の摘出とともに下腸間膜動脈根部を結紮された.
5年前よりテニス中の下腹部痛を自覚していたた
め他院にて上部・下部消化管内視鏡検査を繰り返
し施行されたが,いずれも異常が認められず放置
されていた.当科にてトレッドミル運動負荷試験
を行ったところ下腹部痛が出現し,運動中止後安
静にて症状は消失した.腹部造影CTを施行した
ところ上腸間膜動脈近位部に高度狭窄病変を認め
たため腹痛の原因は腹部アンギーナと考えられ
た.後日,同部に対しステント留置術を行い拡張
に成功した.術後に再度運動負荷試験を行ったが
下腹部痛は出現しなかった.下腹部痛の原因が上
腸間膜動脈の高度狭窄であった腹部アンギーナを
診断し,ステント留置術にて加療しえた貴重な症
例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
89) 急性心筋梗塞の発症にて診断された感染性
心内膜炎の一症例
(北部地区医師会病院) 亀谷良介・
村重明宏・大塚敏之・藤井由美子・末冨 建・
高芝 潔
症例は48歳男性,頚部の痛みと持続する発熱を認
め当院整形外科へ紹介となった.化膿性椎間板炎
の診断にて入院,
血液培養検査陽性
(Streptococcus
bovis)で,多剤の抗生剤投与を受けるが改善は
認められなかった.第9病日,突然の胸痛と心電
図にてSTの上昇,心エコー上壁運動異常を認め
た.また,僧帽弁前尖に大きな疣贅を認め,感染
性心内膜炎に合併した急性心筋梗塞と診断した.
緊急冠動脈造影検査の結果,LAD#8に塞栓によ
ると思われる完全閉塞を認め,吸引とバルーンに
よる拡張で閉塞は改善した.また右足に冷感あり,
下肢動脈エコーにて膝窩に塞栓によるものと思わ
れる閉塞も認められた.抗生剤の大量投与を開始
するが感染のコントロールは難しく,大きな疣贅
で既に塞栓症を起こしていることから,外科的治
療を行った.
90) 診断に苦慮し多彩な臨床像を示した感染性
心内膜炎の1例
(沖縄県立中部病院循環器科) 仲里 淳・
梶原光嗣・高橋孝典・和気 稔・近藤承一・
平田一仁
92) Bentall術後4年後に歯科インプラント術を契
機に人工血管周囲炎を生じ,菌血症に至った一症例
(九州大学循環器内科) 西坂麻里・
日浅謙一・多田英生・戸高浩司
(同形態機能病理学) 長田盛典
(済生会二日市病院) 安藤真一
(九州大学形態機能病理学) 居石克夫
(同循環器内科) 砂川賢二
68歳男性.平成12年大動脈弁輪拡張症に対し
Bentall手術を受けた.平成17年,前歯インプラ
ント術を受け以降,発熱,皮膚の局所的炎症を生
じた.入院精査にても感染源は不明.抗生剤で炎
症反応は軽減したが,右後頭葉脳出血を発症,保
存的治療を受けた.血液培養でStaphylococcus
capitisを認め,当科に紹介入院となった.心エコ
ー上,疣贅は明らかでないものの,人工血管周囲
とその周囲の空隙に血流交通を疑わせる所見を認
めた.VCM,ABK開始後,炎症は改善した.
Bentallの再手術はリスクが高く,炎症がコント
ロールされつつある感染性心内膜炎として内科的
治療の方針となった.しかしながら右頭頂葉に広
汎な出血性梗塞を生じ死亡に至った.剖検にて人
工血管周囲炎の所見を認め,今回の菌血症の主座
と考えられた.
93) 感染性心内膜炎に対する外科治療
(社会保険小倉記念病院心臓血管外科)
曽我欣治・岡林 均・羽生道弥・野本卓也・
梅原英太郎・上能寛之・中野穣太・北村英樹・
松尾武彦・甲斐正嗣
症例はFelty症候群,陳旧性心筋梗塞の既往があ
【目的】感染性心内膜炎(IE)に対する手術成績
る71才女性.入院2日前より発熱し,悪寒戦慄を
を検討する.【方法】2004年11月までの左心系感
伴う40度の発熱,意識レベル低下を認めたため当
染性心内膜炎に対する弁手術連続96例(男 69例,
院受診.来院時,血圧150/50mmHg,脈拍数164
女 27例)を対象とし,生存群(A群:n=92)と
整,呼吸数42回,体温40度であった.理学所見上,
死亡群(D群:n=4,4.2%)に分け手術死亡に影
眼瞼結膜と指先部に点状出血を認めるが,心雑音
響する因子を検討した.【結果】D群はA群に比し
は聴取せず.熱源検索のため胸腹部CTを施行. EuroSCOREが高く,年齢に差を認めないものの
65歳以上,WBC>9000,透析例,LVEF<40%,
脾臓および両側腎臓に梗塞所見を認めた.感染性
2弁置換,術中輸血,術後感染症が多かった.D
心内膜炎を疑い,経胸壁,経食道心エコーを行っ
群に術前IE関連イベント(脳梗塞,塞栓症,膿
たところ,わずかな僧帽弁閉鎖不全と僧帽弁後尖
瘍)を認めず,初発から手術までの日数,起炎菌
にvegetation様構造物を認め,血液培養から黄色
種,活動期IE,CRP,DM,NYHA classに差を
ブドウ球菌が検出されたため,感染性心内膜炎と
認めなかった.【結論】成績は比較的良好であっ
診断し抗生剤にて加療した.経過中にvegetation
た.活動期IEは危険因子ではなかったが,60代,
が塞栓子となり,脳梗塞や心筋梗塞を発症するな
術前WBC高値,透析例,2弁置換はリスクとな
ど多彩な経過をとった感染性心内膜炎を経験した
る.
ので,文献的考察を加え報告する.
91) 僧房弁に巨大疣腫を生じ多発性塞栓症によ
り急激な経過で死亡したMSSAによる人工弁感染
性心内膜炎の一例
(国立病院機構九州医療センター循環器科臨床研究部)
宮田恵里・佐藤真司
(聖峯会マリン病院) 井口孝介
(国立病院機構九州医療センター循環器科臨床研究部)
光武良亮・大場豊治・福島幹生・麻生明見・
木村好邦・横山晋二・森 超夫・中村俊博・
松本高宏
(同病理部) 上杉憲子・中島 収
(同循環器科臨床研究部) 冷牟田浩司
症例は64歳男性。12年前に僧帽弁置換術を受け経過は順
調であった。当科入院3日前、発熱と全身倦怠感、食欲
低下にて近医に入院。3日後Osler結節が出現し感染性
心内膜炎を疑われ当科転院となった。同日経食道心エコ
ーにて人工弁のvegetationと高度のMRが確認され、血液
培養からメチシリン感受性ブドウ球菌MSSAが検出され
た。直ちに治療を開始したが、入院翌日に多発性脳梗
塞・脳出血を発症した。感受性のある強力な抗生剤治療
にもかかわらずvegetationは日毎に増大し、心不全、敗
血症、DICの進行から多臓器不全となり入院6日目に死
亡した。剖検では脳、心、腎、脾に菌塊による多発性塞
栓症、肺出血を認めた。集中治療にもかかわらず全身の
塞栓症が進行し、急激な経過で死亡に至ったブドウ球菌
による急性感染性心内膜炎の一例を報告する。
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
94) 真性多血症の同種骨髄移植後,慢性GVHD
により血性心嚢水貯留をきたした一例
(浜の町病院内科) 中川兼康・臼井 真・
福山香詠・片岡 仲・縄田涼平・衛藤徹也
症例は52歳,女性.1999年に真性多血症と診断さ
れ2003年4月に白血化したため,同年7月に同胞よ
りHLA一致の同種末梢幹細胞移植を受けた(前
処置BU/CY,GVHD予防 CSP/sMTX).急性
GVHDは2°で,day100以降に皮膚,肝,消化器
等の症状で慢性GVHDが続き,FK506,PSL等で
コントロールされていた.2005年4月に心嚢水貯
留による心タンポナーデとなり当科で心嚢穿刺を
施行した.心嚢水は淡血性で,細菌培養,細胞診
は陰性であった.同年9月,11月にも同様の経過
で心嚢穿刺を施行した.心嚢水のコントロールに
苦慮していたが,12月より慢性GVHDによる
BOOPの治療のために行われたmPSL 125mg×3
日間,続くPSL 2mg/kg/日の投与により心嚢水
も消失した.この経過より,血性心嚢水貯留は慢
性GVHDの一症状であったと推測された.
95) 収縮性心外膜炎に蛋白漏出性胃腸症を合併
した一例
(鹿児島大学消化器疾患生活習慣病学)
川崎大輔・網屋 俊・川畑和代・慶児知利・
塗木徳人・鹿島克郎・田中康博・坪内博仁
症例は29歳の男性.平成16年3月頃より低蛋白血
症(血清総蛋白4.0)と全身の浮腫を認め,8月
精査目的で当科入院となった.各種検査により蛋
白漏出性胃腸症と診断されたが原因は不明であっ
た.利尿剤で症状の改善を認め経過観察としたが,
内服コンプライアンスは不良であった.平成18年
1月18日浮腫増強,胸水貯留を認め,再精査およ
び治療目的にて当科へ入院となった.心エコーに
て収縮性心外膜炎(CP)疑われ,心臓カテーテ
ル検査施行.右房圧の上昇(19mmHg)等,著明
な拡張障害を認めCPと診断した.CPによる右心
不全の結果,腸管浮腫,蛋白漏出性胃腸症を合併
し,低蛋白,低アルブミン血症が出現したと考え
られた.平成18年4月心膜剥離術の予定である.
蛋白漏出性胃腸症を認めるCPはまれで,興味深
い症例と考えられた.
96) 心膜除去術が左室収縮能改善に有効であっ
た心膜著明石灰化を呈する収縮性心膜炎の一例
(九州大学循環器内科学) 鬼塚 健・
西坂麻里・長澤志麻子・竹本真生・久保田徹・
戸高浩司
(同心臓外科学) 江藤政尚・富田幸裕・
富永隆治
(浜の町病院循環器内科) 臼井 真
(九州大学循環器内科学) 砂川賢二
症例は64才の男性.咳,痰,歩行時息切れを主訴
に近医受診,胸部X線写真上,全周性の心膜石灰
化と大量の胸水を認め,収縮性心膜炎と診断され
た.ツ反等,結核関連検査は全て陰性であった.
同時に薬剤抵抗性の心房粗動頻脈を認めていた.
利尿剤内服のみでは症状の改善が得られず,左室
駆出分画にも低下を認めるようになったため,当
院に紹介入院となった.心房粗動に対しカテーテ
ル焼灼術を施行し,洞調律に復した.しかし心機
能,心拍出量に改善は乏しく,徐々に胸水の増加
を認め,カテコラミンの補助を要していた.内科
的治療の限界と判断し心膜切除術を施行したとこ
ろ,圧所見のみならず駆出分画にも大きな改善を
認めた.一般に影響しないとされる収縮能の改善
機序に対し考察したい.
97) 手術中の心膜小切開およびA型解離発症を
機に収縮性心膜炎となり治療を要した慢性B型解
離の経験
(済生会熊本病院心臓血管センター外科)
上杉英之・平山統一・三隅寛恭・出田一郎・
遊佐裕明・佐々利明
【症例】69歳女性,拡大傾向のある慢性B型解離
に対し,左側開胸,超低体温循環停止にて遠位弓
部∼胸部下行大動脈人工血管置換術を施行した.
心膜は左心耳ベント挿入部位のみの切開とした.
術中経食道エコーにて上行大動脈への解離進展が
認められたが,術後には血栓化し拡大傾向ないた
め経過観察していた.心不全,呼吸不全が遷延し,
心エコー上収縮性心膜炎の所見を認めたため術後
25日目に心膜剥離術を施行した.心嚢膜は硬く肥
厚し心臓を圧排していた.心嚢膜を可及的に切除
し,肥厚した心外膜も可及的に剥離した.呼吸不
全が遷延したが術後96日目に転院となった.【考
察】開心術において心膜切開後の炎症が起因と考
えられる心嚢液貯留を稀に経験する.本症例は心
膜小切開であったが,A型解離の影響も相まって
心膜炎を起こしたものと考えた.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1239
98) 左室肥大を伴う本態性高血圧患者における
HDL-C及びインスリン抵抗性の役割について
(大分赤十字病院循環器科) 阿南 太・
大石健司・手嶋泰之・岩尾 哲
(大分医科大学循環病態制御講座)
油布邦夫・中川幹子・米持英俊・犀川哲典
(同第一内科) 篠原徹二・高橋尚彦・
原 政英・吉松博信
【目的】未治療本態性高血圧患者において左室肥
大の独立因子としてHDL-C,インスリン抵抗性,
夜間血圧との関連性について検討した.【対象】
未治療本態性高血圧患者80例【方法】心臓超音波
(+)
検査で左室心筋重量係数が125g/m2以上をLVH
125g/m2未満をLVH(-)とし2群間における比較検
討を行った.【結果】1.夜間収縮期・拡張期血圧
はLVH(+)がLVH(-)に比し有意に高値を示した.
2.HDL-CはLVH(+)がLVH(-)に比し有意に低値
を示し,空腹時インスリン値,HOMA指数は有
意に高値を示した.3.多変量ロジツティック回帰
分析では,左室肥大に対しHDL-C,HOMA指数,
夜間収縮期血圧が独立した因子として抽出され
た.【総括】未治療本態性高血圧患者において左
室肥大は低HDL-C,HOMA指数,夜間収縮期血
圧が独立した予測因子であることが判明した.
99) メタボリックシンドローム診断における微
量アルブミン尿は感度が低く,高血圧罹病期間に
関連していた
(長崎大学循環病態制御内科学)
戸田麻衣子・芦澤直人・瀬戸信二・矢野捷介
101) 副腎腺腫摘出後に高カリウム血症が持続し
た原発性アルドステロン症の1例
(九州大学病態機能内科学) 鬼木秀幸・
松村 潔・藤井弘二・岡 匡代・樋口香苗・
飯田三雄
【症例】75歳男性【現病歴】2006年1月27日に胸痛
腺腫摘出術後に高カリウム血症が持続した原発性
が出現するも放置.2月16日,胸痛が持続するた
アルドステロン症の1例を経験したので報告する. め,胸腹部造影CTを施行したところ早期血栓閉
症例は66歳男性.1995年頃から150/90mmHgの高
塞型急性大動脈解離(スタンフォードA型)を認
血圧を指摘され,2004年11月に左副腎腺腫による
めていた.保存的に加療されたが,同18日再び胸
原発性アルドステロン症と診断された.副腎腺腫
痛を自覚.胸腹部造影CTにて心嚢液を伴う偽腔
摘出術後,血圧は低下し,血清カリウム値は
開存型急性大動脈解離(スタンフォードA型)へ
3.5mEq/lから3ヶ月後には6.2mEq/lまで上昇し
移行している事が確認された.【経過】左大腿動
た.術後の血漿アルドステロン濃度は正常下限で
脈送血,右房脱血,左室ベント挿入下に超低体温
あり,rapid ACTH試験によるコルチゾールの反
循環停止法を用いて緊急上行大動脈置換術を施行
応はピークの出現が軽度遅延していた.血清クレ
した.術後呼吸不全があり長期人工呼吸器管理と
アチニン値も1.03mg/dlと軽度上昇していた.本
なったものの,特に大きな合併症なく軽快退院と
症例の高カリウム血症を特定の原因で説明するの
なった.【考察】早期血栓閉塞型急性大動脈解離
は困難であり,低アルドステロン血症,潜在的な (スタンフォードA型)において偽腔開存型へ移
行する可能性があり厳重な管理が必要と考えられ
副腎皮質機能低下,腎機能低下などが複合的に関
た.
与した可能性が考えられた.
102) Cushing 症候群手術前後のAdiponectin, Leptin
の動態を検討できた一例
(長崎大学循環病態制御内科学)
高木麻夕子・芦澤直人・瀬戸信二
(長崎市立市民病院循環器科) 鈴木 伸
(長崎大学循環病態制御内科学) 矢野捷介
【目的】微量アルブミン尿のメタボリックシンド
ロームの診断的価値を検討した.【方法】90名 【目的】グルココルチコイドはLeptinの発現を増
(男:56,62.3歳 女:34,65.5歳)の外来加療中
加し,Adiponectinの発現は抑制する.Cortisol過
の高血圧患者の尿中微量アルブミン量を測定し,
剰状態であるCushing症候群患者の手術前後にお
日本版メタボリックシンドローム診断基準に適合
けるLeptinとAdiponectin動態を検討した.
【症例】
するか検討した.【成績】メタボリックシンドロ
46歳女性 35歳頃から高血圧を指摘され,内服治
ームと診断できたのは男性:39.3%,女性:11.8%
療中であった.44歳になって急激な体重増加,尿
であり,微量アルブミン尿(30~300mg/g Cr) 糖陽性で左副腎腫瘍によるCushing 症候群と診断.
の診断感度は26.3%,特異度は73.1%であった. 身長148.2cm,体重58.2kg,血圧4剤投与下で
一方,高血圧罹病期間15年以上では15年未満に比
160/96mmHg,FBS 161mg/dL.術後6か月後に
べ微量アルブミン尿が高度であった(64.9 vs 16.7
は体重47.5kg,インスリン中止にても血糖正常化
mg/g Cr).【結論】現行の微量アルブミン尿の基
し,アムロジピン2.5mg/日のみで血圧130/80
準では感度に問題があったが,高血圧罹病期間と
mmHg程度にコントロールされた.また,血清
関連していた.
Leptin(8~12ng/mL)およびAdiponectin(4.1~
18.9μg/mL)濃度はそれぞれ術前 24.8,6.0から
術後 6.0,8.1に変化した.
100) β-estradiol modulates expression of low
voltage-activated α1H T-type Ca2+ channel
(大分大学循環病態制御講座)
ファルザナマルニ
(同脳・神経機能統御講座) 内納智子
(同循環病態制御講座) 鄭 明奇・
王 岩・磯本正二郎・小野克重
The study was aimed to investigate the mechanism
of estrogen and its derivative on the T-type Ca2+
channel expression using patch clamp technique.
T-type Ca2+ channel α1 subunits, α1G and α1H,
were transfected into HEK 293 cells. By pretreatment
with β-estradiol for 24 hrs, the expression of the
α1H T-type Ca2+ channel was suppressed in a
dose-dependent manner. Steady-state inactivation
and activation curves were significantly shifted
in the depolarized potential. No significant effect
of β-estradiol was observed in the α1G T-type
Ca2+ channel expression. β-estradiol modifies the
expression of the α1H T-type Ca2+ channel but
not the α1G T-type Ca2+ channel.
1240
第 100 回九州地方会
104) 偽腔開存型へ移行した早期血栓閉塞型急性
大動脈解離の一例
(大隅鹿屋病院心臓血管外科) 永末裕友・
中山義博・峰松紀年・野口 亮
103) 四肢の急性虚血を合併したStanford A型急
性動脈解離の2症例
(国立病院機構熊本医療センター)
岡本 実・毛井純一・岡本 健・高本やよい
105) 急性大動脈解離(Stanford A,早期血栓閉
塞型)の保存的治療法についての検討
(飯塚病院心臓血管外科) 岩井敏郎・
安藤廣美・内田孝之・安恒 亨・出雲明彦・
稲留直樹・近藤潤也・福村文雄・田中二郎
【目的】急性大動脈解離(Stanford A,早期血栓
閉塞型)の治療法についてはいまだ議論の続いて
いるところであるが,今回当施設における上記疾
患の治療結果について報告する.【方法・結果】
2003年1月から2006年3月までに上記診断にて12名
入院.ショック状態ではなく,心電図変化,心タ
ンポナーデ,大動脈弁閉鎖不全症ないことを確認
した上で保存的降圧療法を施行した.経過観察中
1例上行大動脈におけるULPの拡大傾向みられ手
術を行い退院.1例脳梗塞合併症例でCTフォロー
にて増悪所見なかったが突然の心タンポナーデ・
CPAにて死亡.その他の患者は現在経過安定し
ている.【結語】DeBakeyIII型からの逆行性解離
であることが明らかで,偽腔が狭小かつすみやか
に消失する症例では保存的降圧療法は許容される
が,他は手術を考慮すべきと思われる.
106) 胸部大動脈瘤破裂に対する緊急ステントグ
ラフト内挿術の1例
(済生会熊本病院心臓血管センター外科)
出田一郎・平山統一・三隅寛恭・上杉英之・
下川恭弘・遊佐裕明・田中睦郎
【症例1】68歳女性,突然右上肢の冷感疼痛脱力を
【症例】75歳男性【主訴】背部痛【現病歴】間質
主訴に緊急入院.上腕動脈閉塞の診断で血管造影
性肺炎にて前医入院中,背部痛出現し精査にて胸
施行.腕頭動脈の完全閉塞と上行大動脈解離と診
部下行大動脈瘤破裂の診断を得た.手術目的にて
断.手術は腕頭動脈内膜に異常無いため上行置換
当科紹介.【経過】胸膜石灰化あり肺と胸膜の癒
術施行.人工心肺離脱後右上腕動脈の拍動は確認
着が推定された.左開胸による手術では侵襲が過
できたが,手術終了時再び閉塞.上腕動脈よりフ
ォガティーカテーテルを用い血行改善できた. 大と判断,緊急ステントグラフト内挿術を選択し
た.ステントを緊急で準備,連結作成し,オート
【症例2】57歳男性,突然の腰痛出現.歩行中右下
クレーブ滅菌,カテ室でステント骨格に人工血管
肢の知覚障害運動障害が徐々に進行し近医入院後
を被せステントグラフトを作成,破裂部位に内挿
右下肢の虚血と診断され緊急搬送となった.来院
した.術後9日目に継続治療のため紹介医へ転院
時右下肢はチアノ−ゼを呈し,運動知覚障害ミオ
となった.【結語】胸部大動脈瘤破裂に対し緊急
グロビン尿を認めた.CT上急性解離にともなう
ステントグラフト内挿術を施行した.ステントグ
右総腸骨動脈閉塞と診断.側副血行路で浅大腿動
ラフト内挿術は当日急患にも対応可能であった.
脈は造影されていたため,左大腿動脈送血で上行
破裂性動脈瘤に対するステントグラフト内挿術は
置換術と人工心肺離脱中にF-F bypass作成した.
血行動態改善までの時間短縮が得られ,予後の改
2例とも術後四肢の血行は改善した.
善が期待できる.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
107) 胸部大動脈破裂に対するEndovascular repair
(EVAR)の一例
(久留米大学外科学) 田中厚寿・赤岩圭一・
大塚裕之・尾田 毅・石原健次・廣松伸一・
明石英俊・青柳成明
胸部大動脈破裂に対してEVARを施行したので報
告する.症例は,80才,女性.突然の胸痛,背部
痛を認めたため当院救命センター搬入となった.
搬入後造影CTにて明らかな破裂部位指摘出来な
かったが,縦隔内への出血のないこと,胸腔内へ
の出血を認めることより左鎖骨下動脈より末梢か
らの出血と判断しEVAR可能と判断し,緊急で
EVARを施行した.内挿はZone 2まで行った.又
同時に開胸下に血腫除去,胸腔ドレナージを行い
手術を終了した.術後経過は良好で,リハビリ目
的に内科転科となった.
108) 急性大動脈解離を契機に大動脈炎症候群と
診断された高齢男性の1例
(新日鐵八幡記念病院循環器科) 岡 英明・
鍵山俊太郎・加世田繁・石原嗣郎・古賀徳之・
川副信行・佐渡島省三
(小倉記念病院心臓外科) 岡林 均・
羽生道弥・曾我欣治
(同病理科) 横田忠明
症例は82歳男性.平成14年に不明熱で入院歴あり.
平成17年11月8日突然の胸痛後一過性の意識消失
と左片麻痺が出現し当院に搬送された.来院時症
状は消失しておりTIAが疑われMRAを施行,右
総頸動脈の描出不良を認めた.胸部X線で縦隔陰
影が拡大しており造影CTでDeBakeyII型の大動
脈解離を認めた.同日他院にて上行弓部大動脈置
換と大動脈弁吊り上げ術を施行された.大動脈の
組織標本にて内膜の線維性肥厚と中膜の弾性線維
断裂及び多核巨細胞浸潤を認めた.術後遷延する
炎症所見と発熱がありMRAで胸腹部大動脈拡張,
頸部血管エコーで左総頸動脈内中膜複合体(IMC)
のび慢性肥厚を認め大動脈炎症候群と診断した.
ステロイド内服にて炎症所見と発熱は速やかに改
善した.高齢男性の大動脈炎症候群は稀であり,
文献的考察を加え報告する.
109) MDCTによるAdamkiewicz動脈の3次元的
評価が有用であった2症例
(福岡和白病院心臓血管外科) 土井一義・
川内義人・濱田正勝・松山重文
胸腹部の複雑大動脈病変に対し,
術前に64列MDCT
で3次元的にAdamkiewicz動脈(AKA)を同定し,
手術戦略決定・対麻痺予防に有用であった症例を
報告する.【症例1】63才,男性.遠位弓部,胸部
下行,腹部の多発性真性大動脈瘤に対し,正中ア
プローチで弓部全置換術施行.下行大動脈瘤に対
し20cmのlong elephant trunkを挿入,その遠位端
は,下行大動脈瘤の遠位側,AKA分枝部の中枢
側に位置するようにした.【症例2】59才,男性.
3腔解離のChronic Stanford B大動脈解離の下行
大動脈近位部での切迫破裂に対し,左開胸・低体
温循環停止下open proximal法にて下行大動脈置
換術施行.肋間動脈再建はせず,遠位側は真腔と
偽腔に血流を確保するよう吻合し,L1レベルの
偽腔より分枝するAKAへの血流を確保した.2例
ともに術後対麻痺は認めなかった.
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
110) 胸部大動脈手術における人工血管の種類の
検討
(小倉記念病院心臓血管外科) 松尾武彦・
岡林 均・羽生道弥・曽我欣治・野本卓也・
上能寛之・中野穣太・北村英樹・甲斐正嗣・
梅原英太郎
当科では胸部大動脈手術においてコラーゲン被覆
人工血管(Hemashield;H群)の使用を原則とし
ていたが,心嚢水の貯留,炎症反応の高値遷延,
不明熱など人工血管由来と思われる合併症のため
在院日数が延長することがある.2004年1月から
2006年3月までの胸部大動脈手術113例について
2006年1月から採用したゼラチン被覆人工血管
(Gelweave;G群)と比較し,術後合併症に関し
検討を加えた.症例はH群;胸部大動脈瘤65例,
大動脈解離37例.G群;胸部大動脈瘤3例,大動脈
解離8例.術式はH群;弓部置換術80例,上行置換
13例,基部再建9例.G群;弓部置換術10例,基部
再建1例.結果は術後7日目から21日目のWBC,CRP,
発熱とも有意差なし.ドレーン排液量,心嚢水貯
留,心嚢ドレナージも現在のところ有意差なし.
今後症例を積み重ね検討する必要がある.
111) 上行大動脈仮性瘤に対する再上行置換術後
17日目に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を併
発した1例
(県立宮崎病院心臓血管外科) 荒田憲一・
久 容輔・吉川弘太・金城玉洋
113) 心室性頻拍(VT)発作が原因と推測され
た左室内血栓の一手術例
(大分大学心臓血管外科) 和田朋之・
宮本伸二・穴井博文・田中秀幸・竹林 聡・
森田雅人・岩田英理子・首藤敬史・葉玉哲生
54歳男性.数年前から動悸を自覚.近医にて頻回
のVTと診断.洞調律.精査中,Saddle embolism
を発症し,血栓除去術施行.心臓超音波にて,僧
帽弁後尖直下左室壁在血栓及び左室心基部心筋の
菲薄化を認めた.準緊急手術目的で当科紹介.左
房アプローチで内視鏡補助下に僧帽弁口から血栓
除去術施行.術後約12時間まで全く不整脈を認め
なかったが,突然sustained VT出現.細動から心
停止に至り,カウンターショック無効で,開胸心
マッサージ施行.著しい低Mg血症が判明し,Mg
静注にてVT発作消失.その後,アミオダロン400
mg/日,メキシレチン300mg/日併用内服でVT発
作は抑制されており,ICD植え込みの予定である.
血液凝固検査で異常を認めず,VTによる血液う
っ滞と部分的左室壁運動低下が血栓形成の原因と
考えられた.
114) 慢性腎不全・好酸球増多症患者に合併した
僧帽弁尖組織原発の心臓粘液腫の一例
(九州大学心臓外科学) 藤田 智・
塩瀬 明・江藤政尚・田ノ上禎久・中島淳博・
富田幸裕・益田宗孝・富永隆治
69歳男性.平成13年急性大動脈解離に対して上行
【症例】64歳男性.脳梗塞を発症し入院加療中心
置換術をうけ,平成14年中枢側吻合部の破綻によ
臓エコー検査にて僧帽弁前尖に有茎性腫瘤を指摘
ってBentall手術を受けた既往があった.今回, された.血液培養は陰性でありエコー上腫瘤の形
末梢側吻合部に40mm大の仮性瘤を認めたため, 態は経時的に変化し最終的に棍棒状の形態を呈し
平成17年9月8日再上行置換術を施行した.術後
た.好酸球増多症の並存があり血栓が疑われたが
CTでleakは消失,手術結果は良好であった.し
腫瘍との鑑別は困難であった.腫瘤摘除術及び僧
かし,術後17日目突然大量の血便を認め,上部下
帽弁形成術を施行した.組織学的には粘液腫であ
部消化管内視鏡でびまん性の粘膜出血がみられ,
った.
末梢血検査で血小板数1000を呈した.その3日前
の血小板数は22.9万であった.抗血小板抗体陽性,
PAIgGが陽性で特発性血小板減少性紫斑病と診
断,ステロイド投与,血小板輸血を行い血小板数
14万まで回復した.心,大血管手術術後経過中に
ITPを併発した症例はまれである.ITPが術後合
併症として起こりうることを知らせる症例であっ
た.
112) 救命し得なかった腹部大動脈瘤破裂手術症
例10例の検討
(飯塚病院心臓血管外科) 安恒 亨・
安藤廣美・内田孝之・岩井敏郎・福村文雄・
田中二郎
115) 左房原発悪性線維性組織球症の一例
(長崎光晴会病院循環器センター外科)
里 学・末永悦郎・瀬名波栄信・古舘 晃・
松山重文・古賀秀剛
(同内科) 岩崎義博・片山敏郎・山本唯史
腹部大動脈瘤破裂に対する手術成績は,未破裂瘤
待機手術と比較して極めて不良である.当科で過
去5年間に緊急手術を行った腹部大動脈瘤破裂34
例中,救命に至らなかった10例について検討を行
った.男性9例,女性1例,平均年齢75.0歳(61−
93歳)
.瘤径は平均8.36cm(6.1−11cm)で,全例
が術前ショック状態であった.高齢,合併疾患,
手術拒否等の理由で4例が経過観察中であったが,
未破裂の段階で待機的に手術を行い得たと思われ
る症例も少なからず存在しており,治療成績自体
の向上とともに,地域における未破裂動脈瘤に対
するスクリーニング・フォローアップ体制の確立
が重要と考えられた.
原発性心臓腫瘍は稀な疾患であり原発性心臓悪性
腫瘍は 20 %程度の頻度,悪性線維性組織球症
(MFH)は4%程度であると報告されている.今
回我々は72歳,男性の左房原発MFHを経験した.
術前は粘液腫を疑い,塞栓症及び僧帽弁陥頓の回
避のために初回手術を施行した.術中所見で悪性
腫瘍が強く疑われ,術後免疫組織学所見を含めた
病理診断でMFHと診断した.2ヵ月後に局所再発
のため再手術,11ヵ月後に局所再々発が明らかと
なり腫瘍増大による左房内腔,肺静脈の閉塞によ
る呼吸困難のために19ヶ月後に再々手術を施行し
た.再々手術前のCTで膵遠隔転移がみられてい
たが術後急速に増大し初回手術より22ヶ月後に腫
瘍死となった.極めて希少な症例であり報告す
る.
鹿児島県市町村自治会館(2006 年 6 月)
1241
116) 頻発する脳梗塞で発見された左室乳頭状線
維弾性腫の1例
(嬉野医療センター心臓血管外科)
高松正憲・須田久雄・力武一久
(同循環器内科) 波多史朗・岡 浩之・
中田智夫
症例は50歳女性.平成16年脳幹梗塞,平成17年10
月30日右半身脱力あるも点滴加療にて症状消失.
平成17年11月3日再度右麻痺出現し,当院神経内
科緊急入院.入院後のCTでは新たに右頭頂葉の
脳梗塞も出現し,心源性脳塞栓が疑われた.心エ
コーにて左室心尖部に直径3cmの浮動性腫瘤を認
め,血栓または腫瘍が疑われ,抗凝固療法を行う
も一週間後の心エコーで変化無く,心腫瘍の診断
にて当科紹介,11月11日準緊急で体外循環下に腫
瘍摘出術施行.直径3cmの境界明瞭な黄色軟性腫
瘤を摘出,病理診断は乳頭状線維弾性腫であった.
術後経過良好で,脳梗塞リハビリ目的に11月21日
当院神経内科転科となった.乳頭状線維弾性腫は
比較的稀な心臓腫瘍であり,若干の文献的考察を
加えて報告する.
117) 右房内腫瘤を形成した悪性リンパ腫の1例
(鹿児島大学消化器疾患生活習慣病学)
上野雄一・東福勝徳・佐多直幸・網屋 俊・
福岡嘉弘・鹿島克郎・田中康博・坪内博仁
心臓腫瘍の発生頻度は低く,さらに悪性は全心臓
腫瘍の2∼5%ときわめて希である.今回,右房
内に腫瘤を形成し,化学療法が著効した悪性リン
パ腫を経験したので報告する.症例は78歳の男性.
労作時の息切れにて近医受診し,胸水貯留と右房
内に突出する腫瘤を認め当科入院となった.胸腹
部造影CTにて,心嚢内及び右房内腫瘍,胸水,
腹腔内リンパ節腫脹を認め,右房内腫瘍の右室流
入障害による右心不全を認めた.胸水の細胞診,
胃隆起性病変部の生検による免疫染色,リンパ球
表面マーカーにてCD3陰性CD20陽性であったこ
とより,悪性リンパ腫(B cell)と診断した.化
学療法を開始し,1クール終了後より著明な心嚢
内及び右房内腫瘍の縮小,腹腔内リンパ節腫大の
消失,右心不全及び胸水の改善を認め,現在も継
続治療中である.
〈抄録未提出〉
64) キサンチン誘導体の投与が有効であった頸
部脊椎損傷後アトロピン耐性高度徐脈の一症例
(健康保険八代総合病院循環器科)
坂本知浩・定永恒明・岡崎智樹・角田 等
1242
第 100 回九州地方会
Circulation Journal Vol. 70, Suppl. III, 2006
Official Journal of the Japanese Circulation Society
JA PA
SE
CULATIO
CIR
N
ETY
CI
SO
Circulation
Journal
NE
Circulation Journal 第三種郵便物認可 平成18年10月20日発行
Vol.70 Supplement III
地方会記事
第141回日本循環器学会東北地方会
2006年2月4日 仙台市 仙台国際センター 会長 丸山 幸夫………………………………… 1127
第199回日本循環器学会関東甲信越地方会
2006年2月4日 千代田区 日本大学会館 会長 長尾 建……………………………………… 1136
第88回日本循環器学会中国・四国合同地方会
2006年6月2・3日 岡山市 岡山コンベンションセンター 会長 光藤 和明 ……………… 1149
第142回日本循環器学会東北地方会
2006年6月10日 盛岡市 岩手医科大学創立60周年記念館 会長 伊藤 宏…………………1177
第95回日本循環器学会北海道地方会
2006年6月17日 札幌市 札幌市教育文化会館 会長 西村 正治 …………………………… 1184
第200回日本循環器学会関東甲信越地方会
2006年6月17日 港区 コクヨホール 会長 斎藤 穎 ………………………………………… 1188
第127回日本循環器学会東海地方会
2006年6月17日 名古屋市 名古屋国際会議場 会長 安藤 太三 …………………………… 1199
第101回日本循環器学会近畿地方会
2006年6月24日 神戸市 神戸国際会議場 会長 大北 裕 …………………………………… 1215
第100回日本循環器学会九州地方会
2006年6月24日 鹿児島市 鹿児島県市町村自治会館 会長 坂田 隆造 …………………… 1229
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