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平成元年神審第35号 旅客船緑風防波堤衝突事件 言渡年月日 平成元

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平成元年神審第35号 旅客船緑風防波堤衝突事件 言渡年月日 平成元
平成元年神審第35号
旅客船緑風防波堤衝突事件
言渡年月日
平成元年9月27日
審
判
庁 神戸地方海難審判庁(今橋勝、藤井春三、坂本公男)
理
事
官 有福章
損
害
船首部を圧壊、乗客1名が死亡、13名及び乗組員3名が打撲傷などを負った
原
因
操船不適切(主因)
主
運航管理不十分(一因)
文
本件防波堤衝突は、夜間、津名港入航の際、操船が適切でなかったことに因って発生したが、運航管
理が不十分であったこともその一因をなすものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
理
由
(事実)
船
種
船
名 旅客船緑風
総
ト
ン
数 87トン
長
さ
幅
27.26メートル
5.90メートル
深
さ
2.76メートル
機 関 の 種 類
ディーゼル機関2個
出
力
1,103キロワット×2
人
A
名
船長
受
審
職
海
技
免
状 四級海技士(航海)免状
指定海難関係人
B社
職
B社代表者C
名
事件発生の年月日時刻及び場所
平成元年2月2日午後6時36分半ごろ
兵庫県津名港
1
緑風の来歴、構造及び航海設備
(一)
来歴及び就航状況
緑風は、昭和60年1月D社(大阪市)で建造された、最大とう載人員が、旅客150人、船員
4人の計154人である。平水区域を航行区域とする旅客船で、B社が、航海速力30ノットの新
高速艇として大阪・洲本航路、神戸・洲本航路に配船していた。
(二)
船体構造及び航海設備
緑風は、平甲板V型の軽合金製で、甲板下は、船首の方から順に、倉庫、ボイドスペース、機関
室並びに倉庫及び操舵機室に区画され、ボイドスペースから船尾付近にかけての甲板上が長さ約2
1メートルにわたってほぼ船幅一杯の前部及び後部客室となっており、前部客室が66人、後部客
室が84人の定員で、各客室内には、船横方向の各列の中央に4個、左右両舷に各2個の座席がそ
れぞれ設備され、前部客室後部の上が操舵室となっており、長さ約4メートル幅約3.20メート
ルの同室には、前部の中央とその左右にそれぞれ固定したいすが設置され、中央のいすが操縦席で、
その前方に磁気コンパス及び操舵スタンドが、右舷側のいすの前方に機関操作盤が、左舷側のいす
の前方にレーダー、船内放送用テープレコーダー、無線電話がそれぞれ装備され、前壁の上部に、
右舷側からロラン、舵角指示器、風向風速計がそれぞれ取り付けられており、後部に海図台とソフ
ァーが設けられていた。
2
B社の業務内容、運航管理等
(一)
業務内容、就航船舶及び航路
B社は、明治20年9月に成立し、神戸市中央区海岸通5番地に本店を、大阪市、洲本市、徳島
市などに支店を、大阪市(天保山)、津名町(淡路島)及び小松島市などに営業所をそれぞれ設置
したほか、神戸市に神戸フェリーセンター駐在員を配置し、資本金5億円で、海陸運送業及び倉庫
業、船舶貸渡業、海運代理店業、輸送機器、機械装置、工器具備品及び不動産等の物件リース業、
石油製品の販売業、不動産の売買、賃貸、仲介及び管理並びに旅行あっせん業等を行うため、Cが
代表取締役社長に選任されて経営に従事し、このうち海上運送業においては、高速艇を大阪港-津
名港-洲本港間及び神戸港-津名港-洲本港間の各航路に、旅客船兼自動車渡船を神戸港-徳島港
間、大阪港-徳島港間、大阪港-小松島港間及び深日港-徳島港間の各航路にそれぞれ就航させて
いたが、高速艇による旅客運送の需要が好調であったことから、従来使用していた25ノット級高
速艇2隻のほかに、昭和60年から同61年にかけて、30ノット級の新高速艇緑風、光風、海風、
順風及び清風の5隻を就航させた。
(二)
運航管理、安全運航に関する教育及び指導
同社は、これら各船の安全運航のため、運航管理規程のほか、運航基準、作業基準、事故処理基
準及び船内巡視実施要領を作成のうえ関係官庁の承認を受け、運航管理者として船舶部長Eを選任
し、前記各支店及び営業所に各1人の副運航管理者と若干名の運航管理補助者を配置して運航管理
業務を行い、高速艇には、船長、機関長及び甲板手ないし甲板員の3人を乗り組ませていたが、船
長への登用については、同艇の運航に慣れさせるため、一定期間を甲板員又は甲板手として乗船さ
せたのち、登用前約1箇月間は、ベテラン船長の指導の下に研修航行を行わせるようにしており、
安全教育については、全船長及び陸側の機関整備員を年1回適当な時期に集合させて安全協議会並
びに懇談会を開催し、安全運航上の諸問題の討議等を行っていた。
また、運航に関しては、運航基準中に各航路における航行経路を定め、各変針地点の方位、距離、
針路、航程、所要時間及び速力を明示し、風向、風力により第2基準経路をも示していたほか、運
航中止、基準経路変更、航行継続の中止及び錨泊、避難、臨時寄港等の各条件を規定し、地点と時
刻とを定めて運航管理者と連絡することとしていたが、防波堤入口(以下「関門」という。)付近
の航行については、船長の判断に任され、関門内における速力を10ノット以下とすることを規定
しただけで、E運航管理者が運航に必要な情報の収集及び伝達を行い、操船上の参考となる事項に
ついて各船長に連絡することとしていた。
(三)
就労態勢及び運航状況
新高速艇の稼働は、1日約16時間で、乗組員については、半日交代で1日8日間の乗船勤務に
4日間連続して従事したのち、1日の休養をとる、いわゆる4労1休の就労態勢がとられていた。
ところで同社は、新高速艇の運航時刻表を、各港の関門から関門までの基準航路を30ノット、
関門内を10ノットの速力でそれぞれ航走するものとした所要時間と各港別に定めた停泊時間と
によって作成し、当初は余裕をもった運航が行われていたものの、機関出力の経年低下により、本
件発生当時、緑風の航行速力が平均28ノットとなっていたため、停泊時間を2分間と定められた
津名港の着、発時刻は、2分ないし5分の遅れを生ずることが常態となっており、次の寄港地であ
る神戸、大阪又は洲本の各港における停泊時間を短縮して全体を調整することにしていたことから、
実態速力に応じた余裕のある時刻表の改正は全く考慮されていなかった。
3
津名港の入航法及び防波堤延長工事
津名港入航に当たっては、F社岸壁北東端からほぼ北東微東(磁針方位、以下360度分法による
ものは真方位、その他は磁針方位である。)に370メートルばかりにわたって築造された志筑外南
防波堤の北端と同港北部の埋立地南端からほぼ南西に180メートルばかりにわたって築造された
志筑外北防波堤の南端との間の関門を通航し、西方800メートルばかりの専用桟橋に向かうことと
なるが、両防波堤が一線上になく、志筑外南防波堤北端に設置された同防波堤灯台から北微東2分の
1東160メートルばかりに志筑外北防波堤の南端が位置していたことから、洲本港方向から同防波
堤関門に接近する基準針路338度により関門に直角に入航する態勢とするためには、約80度転す
る必要があり、また、夜間の入航時には、志筑外南防波堤灯台、志筑外北防波堤の南端付近に敷設さ
れた志筑灯浮標(群閃赤光、毎6秒に2閃光)間を通航することとなり、同灯浮標が潮汐の干満及び
潮流により多少の移動は避けられなかったから、これに著しく接近して航行することもあったうえに、
関門付近で同業他社船と競合するおそれもあったが、運航基準では前広に入航態勢とする針路とし、
適宜減速するようになっていなかったため、関門を入るまでしばしば減速せずに航行しており、更に、
志筑外南防波堤の北東端からほぼ東微南の方向に、長さ約140メートル幅約80メートルの区域が
平成元年1月27日防波堤延長工事区域に指定されて5個の灯浮標(橙色光、毎4秒に1閃、光達距
離2キロメートル)が設置され、E運航管理者は、同設置についての兵庫県からの告示を入手した際、
その写を各船に配布したものの、従来の針路法で洲本方面から入航すると、同防波堤灯台から東2分
の1南150メートルばかりに設置された最も須方沖合の同灯浮標が、関門に接近するまでこれを閉
そくする常態にあったので、高速力のまま接近することは危険であったか、依然船長の操船の裁量の
範囲内にあるものと判断し、操船上の問題点についての検討を行わなかった。
4
受審人Aの経歴及び緑風機関長及び甲板員の各乗船時刻
受審人Aは、昭和42年B社に入社し、甲板員ついで甲板手として旅客船兼自動車渡船及び高速艇
にそれぞれ乗船し、同53年から高速艇の船長となったが、その後も旅客船兼自動車渡船の航海士と
しての職を執ったこともあったことから、高速艇の船長としての通算乗船期間は約6年となっており、
本船には、同63年12月中旬固定チームの先任船長として乗船し、本件発生当日、徳島県徳島市の
自宅を発し、午後0時25分洲本州発の本船に機関長Gとともに便乗し、同便が神戸港に到着したと
ころで、同機関長とともに前任者と交代のうえそれぞれの職を執り、また、甲板員Hは、同3時20
分洲本港発神戸港行きの便から甲板員の職を執った。
5
本件発生に至る経過
緑風は、旅客15人を載せ、船首0.83メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、翌平成
元年2月2日午後6時21分ごろ、定刻を1分遅れて洲本港内港B社桟橋を発し、津名港経由神戸港
に向かった。
A受審人は、操縦席で操船に当たり、桟橋からいったん左舷後方に後退したのち、機関を10ノッ
トばかりの微速力前進にかけて進行した。
G機関長は、離岸の際、船首で係留索を放して操舵室に戻り、右舷側のいすに腰を掛けて機関の操
作に当たり、H甲板員は、船尾で離岸作業に当たり、洲本港内港防波堤入口の少し手前で操舵室に戻
り、左舷側のいすに腰を掛けて見張りに当たった。
同6時22分ごろ同入口を通過したとき、A受審人は、操舵用リモートコントローラーを操作して
徐々に右転し、針路を同港沖防波堤の南東端沖合に向け、機関を20ノットばかりに増速し、同時2
3分ごろ同港外北防波堤灯台から東微北230メートルばかりのところに達したとき、針路を北東に
定め、機関の回転数を徐々に増加するように命じ、同時25分ごろG機関長が回転数を毎分1,40
0に整定し、28ノットばかりの全速力で進行し、同時28分半少し過ぎ、針路を北2分の1東に転
じ、沿岸ののり棚から約1海里の距離を保ち、津名港佐野南防波堤にほぼ向首して続航した。
同6時33分少し前、A受審人は、津名港塩田南防波堤灯台(以下「航路標識及び防波堤について
はその名称中の津名港を省略する。)を左舷正横1.8海里ばかりに通過したとき、針路を志筑外南
防波堤灯台の灯光に向首する北西4分の3北に転じたところ、間もなくほぼ正船首1海里ばかりのと
ころに、200トンばかりの小型船が紅灯と作業灯らしい白灯をそれぞれ揚げて停留しているのを認
め、これを漂泊しているものと判断した。
また、H甲板員は、津名港まで1.5海里ばかりに接近したので、レーダーのレンジを3海里から
1.5海里に切り換え、引き続きレーダー監視と見張りとに当たった。
同6時34分半ごろA受審人は、前示漂泊船を正船首500メートルばかりに認めたとき、港内に
尼崎西宮芦屋港に向けて出航中のフェリーボート(I社2,992総トン数)の灯火を初めて認め、
これと接近しないように、また、前示漂泊船も避けるため少し左転し、同時35分ごろ同漂泊船を右
舷側50メートルばかりに見て航過したところで右舵をとり、再び志筑外南防波堤灯台に向首して続
航し、同時35分少し過ぎ、同灯台から南東微南750メートルばかりの地点で、針路を最も東方沖
合にある前示工事用灯浮標の灯光に向首する北西微北4分の3北に転じたところ、関門付近に同フェ
リーボートを認めた。
A受審人としては、同フェリーボートを替わしてから短時間のうちに同関門のほぼ中央に向首しな
ければならなかったから、速やかに減速し、安全な針路として進行する必要があったのに、減速する
ことなく、同船を右舷側に替わすつもりで少し左転し、いったん同船の船尾方向に向ける態勢とした
のち、少し右転した。
同6時36分ごろA受審人は、志筑外南防波堤灯台から東微南4分の3南240メートルばかりの
ところに達したとき、前示フェリーボートが完全に替わったので、針路を北西微北に転じたところ、
志筑灯浮標の灯光を船首少し右舷側300メートルばかりに認めたが、同針路が志筑外北防波堤の南
西端付近に向首してることに気づかず、同端及び同灯台間のほぼ中央に向首する態勢とすることなく
進行中、間もなくH甲板員及びG機関長が船首方至近距離に迫った同外北防波堤をほとんど同時に認
め、
「危ない。」を叫び、機関停止としたが、その直後、同6時36分半ごろ、本船は、津名港志筑外
北防波堤南西端から5メートルばかりの同防波堤に、原針路、全速力のまま、ほぼ直角に衝突した。
当時天候は晴で、風力3の西北西風が吹き、海上は平穏で、潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果、本船は船首部を圧壊し、後部客室中央の最前列にいた乗客J(当時17才)
、同K(当
時64才)が衝突の衝撃で同座席前方至近のついたての激突し、Jが頭蓋骨骨折、脳挫傷により、K
が脳幹、上部頚髄損傷によりいずれも死亡したほか、乗客13人及び乗組員3人がそれぞれ全治3箇
月から3日間の打撲傷などを負った。
6
B社の事件後の事故防止対策
(一)
旅客船の事故防止についての報告書
B社は、本件発生の重大性を厳粛に受けとめ、神戸海運監理部長から「輸送の安全確保に関する
命令」及び神戸海上保安部長から「旅客船の事故防止について」のそれぞれ改善計画に対する報告
書が求められ、各項目別に次のとおり事故防止対策の改善実施報告書をまとめ、これを実施した。
(1) 従業員の再教育について、可及的速やかに全乗組員に対し、安全運航に係る基本的事項並びに
海上交通法規及び海事関係法規に関する臨時研修と定期研修を実施する。
(2) 安全運航指導体制の確立については、新たに安全運航の指導に当たる職員を選任し、その指導
の強化を計る。
(3)
安全運航マニュアルを新規に作成して安全運航の手引き及び安全教育の資料とする。
(4) 機器類の整備について、像静止双眼鏡を導入するほか、出港時の船橋と前、後部間の相互通話
装置(L社製トムキャット8HS-818型トランシーバー)の備付け及び津名港に無線海岸局
の設置
(二) 高速艇安全運航マニュアル同社では本件発生にかんがみ、有識者の意見を徴して、従前の運航
基準及び作業基準とは別の高速艇の乗組員を対象とした安全運航マニュアルを作成したが、その概
要は、
(1)
発航前の点検及び情報収集
(2)
乗組員の職務分担
(3)
操船上の留意事項
(4)
乗客の乗下船及び案内
(5)
指揮命令系統
(6)
号令、報告及び復唱
(7)
見張り体制
(8)
船長操船区間
(9)
操舵交代引継事項等
(10)
関係各港へ入航態勢とする地点、同針路及び減速地点の明示であった。
(三)
運航時刻表の改訂
運航時刻表については、洲本港-津名港間は近距離であるところから従前と同じ運航時間とし
たが、神戸港-津名港間では2分間、大阪港-津名港間では3分間それぞれ従来より余裕時間を
見込んだ時刻表の改訂が行われ、平成元年7月20日より実施された。
(原因)
本件防波堤衝突事件は、高速力で運航される定期旅客船において、夜間、津名港へ入航の際、減速の
うえ防波堤入口のほぼ中央に向首する安全な針路とすることなく、約28ノットの全速力のまま進行し
たことに因って発生したが、運航管理が不十分で、前広に入航態勢とする針路とし、適宜減速する運航
基準を規定していなかったこともその一因をなすものである。
(受審人等の所為)
受審人Aが、高速力の定期旅客船を操船し、夜間、津名港に入航する場合、前広に減速し、防波堤入
口のほぼ中央に向首する安全な針路で進行すべきであったのに、これを怠り、志筑灯浮標の灯光を右舷
船首に見てさえおれば安全に入航できるものと憶断し、28ノットの全速力で入航しようとしたことは
職務上の過失であり、その所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項
第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
指定海難関係人B社が、高速力で運航される定期旅客船に対し、運航管理規程・運航基準において、
入航時の減速地点、船位確認、針路選定などについて各船船長の判断にゆだね、各港毎の特性に則した
詳細な同基準を作成していなかったこと及び実態速力に応じた余裕のある時刻表を作成しなかったこ
とは、本件発生の原因となるが、本件発生後、事故再発防止対策を実施している点に徴し、特に勧告は
行わない。
よって主文のとおり裁決する。
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