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【調査報告】劇映画に登場する炭鉱労働
はじめに 【調査報告】劇映画に登場する炭鉱労働 榊 正 澄 てきた遠賀川の川船頭という新旧勢力の対決を描いている。「川艜(ひ らた)」、「五平太舟」と呼ばれた遠賀川の川舟の動く映像は存在しない 可能性が高く、こうした劇映画の場面は往時の姿を想像することの一助 となろう。また鉄道開業当時の小型の蒸気機関車が登場するが、これも 観光用の大型機関車しか動態保存されていない現在では撮影困難で、鉄 明治・大正から昭和三十年代まで日本のエネルギーを支えてきた筑豊 炭田で働く人々の間には、厳しい労働環境(災害の多い暗黒の坑内での 石炭採掘および酷暑酷寒の遠賀川での長時間連続の石炭輸送)により「川 道史の映像資料としても貴重ではないかと思われる。 一.龍虎傳 間 分 作 督 演 封 切 製 作 映像ソフト 上映時 区 原 監 主 七十四分 白黒・スタンダード 岩下俊作「龍虎傳」 森一生 片岡千恵蔵、嵐寛壽郎 昭和二十二年(一九四七)四月 大映(京都撮影所) VHSビデオ化(キネマ倶楽部・現在入手不能) 筋気質」と呼ばれる独特の気風が生まれ、その荒々しさは「古いタイプ の男らしさ」の一つの典型として、たびたび映画化されてきた。 筆者が保有する(一作品を除く)映像ソフトという極めて限定された 範囲であるが、紹介してみたい。もちろんフィクションの世界であって 記録映画ではないため、学問上の資料にはならないが、炭鉱労働(採掘 および輸送)が大衆文化の代表的存在である劇映画の世界でどのように 描かれてきたか、現時点で整理しておくことにそれなりの意味はあるの ではないかと考える。 九作品のうち四作品が明治二十四年一八九一に開業した筑豊興業鉄道 の中間鉄橋架設工事をめぐる鉄道工事業者とそれまで石炭輸送を独占し ─ 41 ─ 直方の祭の夜に現れた関東生まれの流れ者(片岡千恵蔵)は危機を ・解説によると「明治二十(注・原文のまま)年の頃、新興の石炭町 ックスもピストルで、という「時代劇」で、その点でも興味深い作 であるため、刀ではなく棒を使っての立回り、両雄対決のクライマ ・GHQが封建主義追放のためにチャンバラ映画を禁止していた時代 ・当時の大映(東映は昭和二十六年一九五一の発足)の二大スターで 品である。 救われた恩人(嵐寛壽郎)が親分の仇であることを知り...」とある。 ・セリフを確認すると冒頭部分は次の通りで、筑豊・直方の町からス トーリーが始まることがわかる。 「炭坑の町らしくて」、「この遠賀 ッフは大変苦労したという。最後の場面でも、走る機関車の先頭に ある、片岡千恵蔵と嵐寛壽郎は極端に仲が悪く、森監督はじめスタ ・最初は多賀神社のご神幸(行列や本殿が出てくる)、最後は田川の 龍虎両雄が並べばよさそうなものだが、片岡千恵蔵がさっそうと立 川の川筋で」 、 「すぐ直方から逃げなくては」 川渡り神幸祭が登場し、戦後間もない直方ロケには多数の見物人が ・嵐寛壽郎(元は関東の侠客で今は元士族の炭鉱主の片腕)が鉄道工 っているのに嵐寛壽郎は後方の車両に座っている。 店(経済産業省認定・近代化産業遺産)や古い民家の前を勢いよく 事への協力依頼のため、他の炭鉱主のところを回るのに乗合馬車を 集まったという。武者人形を飾る筑前の山笠が旧福岡銀行直方南支 走り、 「バレン」を飾る豊前の山笠との民俗文化の違いもよくわか 利用しているが、道路に材木を置いて馬車の通行を妨害するなど、 切 昭和三十一年(一九五六)十二月 東宝 DVD化(入手可能) 円谷英二 本田猪四郎 黒沼健 カラー・スタンダード 八十二分 分 製 作 映像ソフト 区 上映時間 封 二.空の大怪獣ラドン この作品での川艜の船頭たちのいやがらせは、なかなかしつこい。 る。 ・ 祭 の 奉 納 相 撲 に「 大 利 根 」 と 名 乗 っ て( 関 東 出 身 の た め か ) 土 俵 に上がる片岡千恵蔵の相手は「福智山」(直方市の東部にある標高 九百メートルの山の名)である。 ・五平太舟(と本作では称している。帆は張っていない小型のもの) や、坑夫が背中に石炭を背負い坑口から出てくる小さな炭坑が登場 する。終戦直後にどこでロケしたのであろうか。 ・鉄道工事の描写もレール敷設で一斉にツルハシを振り下ろす場面な ど非常にリアルである。 ・健在な香春岳の一の岳、生きているボタ山など、写真でなく「動く 映像」として見ることができるのは今となっては貴重で、娯楽映画 佐原健二、白川由美 主 演 といえどもタイムマシンのようなものである。最後に活躍する機関 ・「ゴジラ」(一九五四) 、「ゴジラの逆襲」(一九五五)に続く東宝怪 原 作 監 督 特技監督 車(国鉄ではなく炭鉱のもの)も牧歌的である。 ─ 42 ─ ニチュア)や「大濠公園・新天町商店街」(実写)も登場する。九 ポーツセンター」(大相撲九州場所を開催)を破壊する。 「東中洲」(ミ ・前半部はラドンが登場せず、すべて阿蘇山に隣接する炭鉱でストー 州各地の名所が登場するため、九州の映画館主から歓迎されたとい 獣映画で初のカラー作品。 リーが展開する。古代の巨大トンボの幼虫メガヌロンが坑内(炭鉱 う。 切 松竹(京都撮影所) 昭和三十三年(一九五八)十月 百六分 不明 筆者は大幅短縮版のVHSビデオを入手したが、録画経緯は VHSビデオ、DVDとも市販されていない 作 映像ソフト 封 製 三.女侠一代 夫・警官)や炭鉱住宅(家族)を襲う場面はホラー映画のようであ る。実際には盛んに噴火している火山のすぐ近くに炭鉱があること は落盤の危険が高いため、ありえない。 ・本作品の舞台は筑豊ではなく、川筋気質を描いているわけではない が、当時まだ現役で稼動していた九州の炭鉱をカラー動画で見るこ とができる点で、極めて貴重な作品である。 ・炭鉱のロケ地は長崎県北松浦郡鹿町町の「日鉄鉱業加勢炭鉱」(北 松炭田)で、生きているボタ山、坑外を走行中の炭車、坑口、事務 上映時間 白黒・スタンダード 所、病院、炭住など、撮影用のオープンセットや最近流行のCGで 火野葦平「女侠一代」 内川清一郎 分 清川虹子(島村ギン)、三國連太郎(吉田磯吉) 作 はなく、現実に稼働している炭鉱施設が次々に登場する。坑内の場 区 原 面は撮影所内のセットであろうが、これもていねいに作られていて 督 監 主 演 迫力がある。日本映画の全盛時代で多額の製作予算が投入されてお ・「どてら婆さん」と呼ばれた若松の工事請負業の島村ギンの生涯を 描いた作品である。「龍虎傳」と同じく鉄道工事業者と川船頭の対 り、後の子供向けのチープな特撮作品とは出来が異なる。 ・施設だけでなく、エキストラとして撮影に協力し事務所前に集合し 立が描かれているが、こちらは前半部で終わる。 ・同一の原作を用いながら東映の「緋牡丹博徒 二代目襲名」(後述) は立回りが見せ場の任侠映画、松竹の「女侠一代」は女の一代記の ているのは本物の炭鉱夫たちであり、これまたカラー動画で見るこ ・後半部は炭鉱から離れ、 「阿蘇山」から現れた怪獣ラドンが佐世保 メロドラマになっており、映画会社の個性があらわれていて興味深 とができるのは貴重。 市上空から「針尾無線塔」 (真珠湾攻撃のニイタカヤマノボレの命 ・ 山 田 五 十 鈴、 近 衛 十 四 郎、 森 繁 久 弥 な ど 共 演 者 も な か な か 豪 華 だ い。 完成したばかりの「西海橋」を破壊、福岡市に飛来して天神の「岩 が、白黒の地味な映画で有名監督の作品でもないため、今後松竹が 令を発信したことで有名な国指定重要文化財)の上を通過し、前年 田屋百貨店」 、 「西鉄福岡駅」 (まだ高架でなく地上駅の時代)や「ス ─ 43 ─ DVDを発売するとも思えないのが残念である。 ・鉄道工事を妨害する木屋瀬の川艜の船頭の親分(近衛十四郎、山田 五十鈴の夫妻)のところに乗込みタンカをきる名場面は原作には出 車で、現在のように蒸気機関車が登場する場面は大井川鉄道でのロ ケに頼らざるを得ない、ではないところに実物が使えた古い映画の 価値がある。 間~筑前埴生間)は平成十七年二〇〇五公開の「ALWAYS 三 丁目の夕日」の冒頭シーンに登場する。昭和三十三年一九五八、集 ・炭鉱とは関係のない余談であるが、島村ギンが施工した中間鉄橋(中 ・ヒロインのモデルになった西村ノブさんは、明治四十四年一九一一 団就職で青森から上京する少女(堀北真希)が乗車する列車が日本 てこない。彼女は炭鉱夫でも川船頭でもないが、これも「川筋気質」 に五十歳で亡くなっており鉄道が開通した当時は三十歳だったわけ 最大の旅客用蒸気機関車C六二型に牽引されて鉄橋を渡る。鉄橋は としてよいであろう。 で「婆さん」はいささか可哀そうであるが、その服装と気っぷのよ 実写、列車は模型、煙はCGで合成され、本物に見える。 昭和三十九年(一九六四)九月 東映(東京撮影所) VHSビデオ、DVDとも市販されていない 百分 白黒・シネマスコープ 岩下俊作「龍虎傳」 小林恒夫 四.竜虎一代 さから畏敬の念を込めた愛称だった。原作の島村ギンも『明治十二 年一八七九に十八歳で嫁入りした』となっており、年齢設定はモデ ルと合わせてある。 ・原作者の火野葦平が開通式で鉄道院総裁の祝辞の代読をする福岡県 知事の役で登場している。 ・吉田磯吉(この映画では島村ギンを襲撃から救う川船頭として登場 し、のち大侠客として再登場する)と島村ギンは当時の若松の有名 人で、 たびたび映画化された 「花と龍」 でも重要な役で登場している。 ・白帆を張った川艜など当時の遠賀川の風景がうまく再現されてい 鶴田浩二、佐久間良子 主 演 た。鉄橋架設工事はどこでロケしたのかわからないが実物の鉄橋を ・「女侠一代」と同じく、ビデオ・DVDはない。緋牡丹博徒や網走 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 区 分 原 作 監 督 使っていて迫力があった。 DVDを発売するとは思えない幻の作品であり、筆者は封切当時見 番外地などのシリーズものでもない地味な作品のため、東映が今後 り、今では下り線だけになっている線路上のトラスが両方にある。 て お ら ず、 映 像 ソ フ ト も 存 在 し な い た め、 参 考 資 料 の 紹 介 に 留 め ・ラストの場面(大正七年一九一八)は本物の中間鉄橋でロケしてお 上り線をシベリア出兵に向かう兵士を乗せた列車を牽引するのは、 る。 ・大映の「龍虎傳」と同じ原作で、鉄道工事業者と川船頭の対立する 現在JR九州肥薩線の観光列車と同じ大正生まれの八六二〇型。撮 影当時は若松機関区所属で香月線や室木線を走っていた現役の機関 ─ 44 ─ り脚色されている。文芸映画ではなく娯楽映画なので製作された時 主題は同じだが題名が変えられ、資料のあらすじを読む限り、かな はり東映作品のほうがぴたりと決まっている。なお後の方で出て来 みタンカを切るシーンは松竹の「女侠一代」を踏襲しているが、や 持って川艜の船頭の赤不動組の親分(石山健二郎)のところに乗込 る看板には「遠賀川石炭運搬取扱業 赤不動組」と書いてある。 ・「龍虎傳」の主役の嵐寛壽郎(川艜の船頭の妨害で負傷し、工事を 代を反映して内容は変わり、チャンバラもある。共演は藤純子、千 ・東映が時代劇映画から任侠映画に路線を変更した初期の作品で、主 ではなく大阪の女侠客で登場) 、「竜虎一代」の娘役の藤純子が堂々 葉真一、天知茂など。 演の鶴田浩二と佐久間良子は前年の名作「人生劇場 飛車角」で飛 車角とおとよを演じたコンビ。ちなみに宮川は高倉健、吉良常は月 の主役、と勢揃いしている。 ・映画の途中で時代背景を説明する場面があり、字幕が出る。 の「仁義なき闘い」などの実録映画とは全く異なる。 映画のパターンでいわば歌舞伎のようなものであり、その後の東映 の後に倒し、観客はカタルシスを得る、というのがこの時代の仁侠 ろうとする主役が新興勢力の悪玉の悪業に耐えるが最後に大立回り 分」の役を何度も演じたがこの作品でも貫禄十分。古い任侠道を守 ・ 晩 年 の 嵐 寛 壽 郎 は 東 映 の 任 侠 映 画 で「 悪 い 親 分 に 殺 さ れ る 良 い 親 矢野組に譲る川辺組長)、 「任侠一代」の主役の清川虹子(島村ギン 形龍之介であった。 昭和四十四年(一九六九)四月 東映(京都撮影所) DVD化(入手可能) 九十五分 カラー・ワイド 火野葦平「女侠一代」より(タイトルの表示) 五.緋牡丹博徒・二代目襲名 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 区 分 原 作 小沢茂弘 藤純子(緋牡丹のお竜)、高倉健 『幕末から明治にかけて日本有数の炭田が九州筑豊地方に開発され、 遠賀川流域は異様な活況を呈していた。 』 督 演 監 主 (ボタ山の空撮)(坑内で刺青を入れた坑夫がツルハシをふるって石 『掘り出された石炭は、川舟によって遠賀川を下った。だが』 (複数の川舟を棹であやつる船頭と岸から綱を引く人夫。小型の舟 く馬が劇映画に登場するのは極めて珍しく、貴重である。 (坑内の炭車を馬が牽引している) ・坑内のシーンはおそらく撮影所のセット撮影であろうが、坑内で働 炭を掘っている) ・わざわざ「より」と強調している通り、全国各地を旅する緋牡丹博 徒シリーズ(全八作)の一本(四作目)として「川艜の船頭の妨害 を克服し鉄道工事を完成させた女親分」という設定を原作から借り ただけで、当然一代記ではなく、見せ場は緋牡丹のお竜さんの熊本 弁(人吉出身の設定)のタンカと、ラストの大立回りのチャンバラ である。 ・矢野組の法被を着たお竜さん(本名は矢野竜子)がダイナマイトを ─ 45 ─ 『鉄道の出現は川船頭にとって生活権に拘わる大問題であり、彼等 は生命を賭して鉄道建設に反対し、必死の抵抗を繰り返した。』 (鉄道工事の現場。川辺組の親分(嵐寛壽郎)が図面を見ながら技 師と打合せている。 「筑豊本線工事川辺組」の看板が見える) 『急速な時代の流れと共に、石炭の運搬は川舟から鉄道にとって代 ろうとしていた。 』 分吉田磯吉(若山富三郎)、筑豊興業鉄道の建設工事を請負い女侠 ・実在の人物では、作者の両親の玉井金五郎・マン夫妻、若松の大親 炭積込みの沖仲仕「ごんぞう」の作業風景をカラー動画で見ること の人力による石炭荷役の利権争いが舞台で、これも「川筋気質」の 作。 ・赤不動組と矢野組は途中で和解し、最後の中間鉄橋の下での果し合 一代の主役となった島村ギン(小津安二郎映画の常連の高橋とよ) で帆は張っていない) いの相手は鉄道工事の受注に汚い手を使った荒木田親分(悪役の常 が登場する。 演 督 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 分 作 主 区 原 監 吹タエ)、小林旭(塙竜五郎)、大竹しのぶ(牧織江) 田中健(伊吹信介)、仲代達矢(伊吹重蔵)、吉永小百合(伊 浦山桐郎 昭和五十年(一九七五)二月 東宝 DVD化(入手可能) 百八十三分 カラー・ワイド 五木寛之「青春の門」第一部・筑豊篇 七.青春の門(東宝版) 周辺に各地から人々が集まってきた様子がわかる。 ・玉井金五郎の出身地は愛媛県の松山で、石炭景気にわく筑豊とその ができる点で貴重な作品である。 流れをくむものであろう。炭鉱と同じく全く姿を消してしまった石 ・炭鉱は登場しないが、筑豊炭田の石炭を全国に搬出していた若松で 連・天津敏)である。 ・映画の終盤で「筑豊本線開通」の記念式典の場面となる。どこかの 会社専用線の所有であろうか、小型の蒸気機関車が数両の旧型客車 を牽引して走る。会場の木造駅舎も、いかにもそれらしい雰囲気が ある。 DVD化(入手可能) 百十二分 カラー・ワイド 火野葦平「花と龍」 マキノ雅弘 高倉健(玉井金五郎)、星由里子(玉井マン・東宝) 昭和四十四年(一九六九)五月 東映(東京撮影所) 六.日本侠客伝・花と龍 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 区 分 原 作 監 督 主 演 ・東映の任侠映画全盛時代の日本侠客伝シリーズ全十一作中の第九 ─ 46 ─ 吹タエ)、若山富三郎(塙竜五郎)、杉田かおる(牧織江) 佐藤浩市(伊吹信介)、菅原文太(伊吹重蔵)、松坂慶子(伊 昭和五十六年(一九八一)一月 東映(東京撮影所) DVD化(入手可能) 百四十分 カラー・ワイド 五木寛之「青春の門」第一部・筑豊篇 蔵原惟繕・深作欣二 八.青春の門(東映版) 演 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 区 分 原 作 監 督 主 東映とも映画化は第二部・自立篇まで。以下第三部・放浪篇、第四部・ 堕落篇、第五部・望郷篇、第六部・再起篇、第七部・挑戦篇までが 画であるため、映像資料としての価値は低い。 ・「川筋気質」の代表として登場するのは炭鉱夫の伊吹重蔵、労働者 のスト破りも行う侠客の塙竜五郎のほか、若い頃には遠賀川の川船 頭であった老侠客で筑後出身の矢部虎(東宝版は藤田進、東映版は 鶴田浩二)の三人である。 九.三たびの海峡 ・ 第 一 部・ 筑 豊 篇 は テ レ ビ ド ラ マ と し て 一 九 七 六 年・ 一 九 九 一 年・ され、逃走して日本女性と結婚して現在の韓国へ帰った(二度目の 開業)の大河小説。玄界灘を渡り(最初の海峡)筑豊の炭鉱で働か 「新装決定版」として講談社文庫から出版されている。第八部・風 平成七年(一九九五)十一月 製作・「三たびの海峡」製作委員会、配給・松竹 封 切 製 作 映像ソフト 上映時間 区 分 原 作 監 督 主 演 ・原作は五木寛之の大河小説「青春の門」の第一部・筑豊篇で東宝・ 雲篇の週刊現代への連載は終了したが単行本として出版されていな ・原作は箒木蓬生(九州大学医学部卒、福岡県中間市で精神科医院を 二〇〇五年の三回放送されたが、第二部・自立篇まで制作したのは 海峡)主人公が数十年後に日本へ戻って(三度目の海峡) ・・・ と展 VHSビデオ化(中古品市場で入手可能) 百二十三分 カラー・ワイド 箒木蓬生「三たびの海峡」 神山征二郎 三國連太郎 い。 一九七六年版のみ。 ・舞台となる炭鉱は「長峰市の高辻炭鉱」と架空のものになっている 開する。 存在、女性の職場としての選炭作業、終戦を迎えた際の混乱、など が、 香 月 線( 昭 和 六 十 年 一 九 八 五 廃 線 ) の 終 点 に あ っ た 大 辻 炭 鉱 ・軍隊が鎮圧のため出動した米騒動、坑内災害の発生、朝鮮人坑夫の 炭鉱の歴史が伊吹家の年代記として描かれる。主人公の伊吹信介は ・主人公(三國連太郎)がかつて働いていた高辻炭鉱を訪ねていく途 (貝島鉱業)がモデルではないかと思われる。 市に移住し、早稲田大学進学のため上京するまですべて筑豊でドラ 中で著名な炭鉱史跡が次々に登場する。地理的には全く脈絡がない 田川地区の炭鉱で育ち、義母タエの発病により塙竜五郎の住む飯塚 マが進行する(若松も舞台となる)が、炭鉱が終末を迎えた後の映 ─ 47 ─ が炭鉱の跡地の雰囲気を出すための映画のウソ、と割り切れば、映 像としてまとめて見ることができるのは便利である。 ①住友忠隈炭砿のボタ山(飯塚市忠隈、昭和四十年一九六五閉山) 折尾駅で筑豊本線に乗換えた主人公が長峰駅のホームで下車(実 際は飯塚駅の上りホームで進行方向が逆だが、地元の人間しかわ からない)したとき背後に見える。 ②三菱飯塚炭礦巻上機台座(飯塚市平恒、経済産業省認定・近代化 産業遺産、昭和三十六年一九六一閉山) 主人公がタクシーで通り過ぎる。この道路は昭和六十三年一九八 八に廃線となった上山田線の跡地。 ③旧海軍志免炭鉱の竪坑櫓跡(糟屋郡志免町、国指定重要文化財、 昭和三十九年一九六四閉山) 主人公の重要な目的地である高辻炭鉱の朝鮮人墓地のそばにある (ことになっている) 。 ・主人公が序盤と終盤に通る「長峰駅」は平成二十三年二〇一一の十 月に解体された旧直方駅舎の駅名看板を換えて撮影された。駅前ロ ータリーの坑夫像(平成八年一九九六に遠賀川河川敷に移転)も写 っているが、どちらも今は見ることのできない貴重な映像である。 まとめ とりとめのない紹介となったが、炭鉱史研究の参考資料の一助となれ ば幸いである。 ─ 48 ─