...

平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業 「救急医療や術中の危機

by user

on
Category: Documents
24

views

Report

Comments

Transcript

平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業 「救急医療や術中の危機
管理番号 24-019
平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業
「救急医療や術中の危機的出血において、
血液製剤・輸液を急速に加温して注入する装置システムの開発」
研究開発成果報告書(概要版)
平成 26 年 2 月
委託者
委託先
経済産業省
株式会社メテク
目次
1. 研究開発の概要 ......................................................................................................................... 3
1.1 研究開発の背景・目的及び目標 .......................................................................................... 3
1.2 事業実施(研究開発)体制 ................................................................................................. 5
1.3 成果概要 .............................................................................................................................. 8
1.3.1 開発製品「急速輸液装置」 .......................................................................................... 8
1.4 当該研究開発の連絡窓口 .................................................................................................... 9
2. 1次試作機の性能評価 ............................................................................................................ 10
2.1 送液ポンプの流量制御実験 ............................................................................................... 10
2.2 高効率加温器の設計・試作・評価 .................................................................................... 10
3. 2次試作機の設計、製造、性能評価 ..................................................................................... 11
3.1 筐体設計 ............................................................................................................................ 11
3.2 加温器の設計、製造 .......................................................................................................... 11
3.3 送液ポンプの設計、製造 .................................................................................................. 11
3.4 気泡除去ポンプの設計、製造 ........................................................................................... 12
3.5 気泡検知器の設計、製造 .................................................................................................. 12
3.6 ディスポセット ................................................................................................................. 13
3.7 加温性能 ............................................................................................................................ 15
3.8 送液ポンプの流量性能 ...................................................................................................... 16
3.9 岡山大学での評価 ............................................................................................................. 17
4.
3 次試作機の設計、製造、性能評価 .................................................................................... 18
4.1
3 次試作機の装置本体 ..................................................................................................... 18
4.2
3 次試作機のディスポ ..................................................................................................... 19
4.3
送液ポンプの性能............................................................................................................ 19
4.4
加温器の性能 ................................................................................................................... 20
4.5
機械的安全性試験............................................................................................................ 20
4.6
電気的安全性試験............................................................................................................ 20
4.7
ソフトウェア ................................................................................................................... 21
4.8
岡山大学での評価............................................................................................................ 22
4. 5.全体総括(委託事業の振り返り) ....................................................................................... 23
1
2
1. 研究開発の概要
1.1 研究開発の背景・目的及び目標
1.1.1
研究開発の背景
日 本 麻 酔科 学 会に よ る麻酔 関 連 偶発 症 例調 査 によれ ば 、 術中 心 停止 の 3 分 の 1 ,周 術 期死 亡 の
半数が出血に伴う循環血漿量減少、出血性ショックによるものと報告されている。こういった
危機的大出血を伴う症例は外傷、肝移植、産科手術、大血管手術をはじめとして多くあり、急
速輸液装置は救命救急、手術麻酔の領域における治療機器として重要な役割を担う。現在本邦
で 行 わ れる 急 速輸 液 法 は、 以 下 の 3 つ に分 け られる 。

シ リ ン ジ( 注 射器 ) を用い た 用 手ポ ン ピン グ


加 圧 バ ッグ を 用い た 輸液
加 圧 式 の急 速 輸液 装 置
と こ ろ が、 ポ ンピ ン グや加 圧 バ ッグ は 加温 が できず ( 加 温用 回 路を 別 に必要 と す る )、 冷た い 血
液 製 剤 など を その ま ま状態 で 輸 血し て しま う と急激 な 低 体温 に よっ て 、不整 脈 か ら心 停 止を ひ
き 起 こ し 、ま た 凝固 障 害、ア シ ド ーシ ス が進 行 し、患 者 の 予後 は 悪化 す る( 表 1-1「 術中 低 体温
の 弊 害 」を 参 照)。 またポ ン ピ ング は 多大 な マンパ ワ ー を要 す るた め 、多く の 病 院で 救 急医 や 麻
酔 科 医 が不 足 して い る本邦 の 状 況で は、1 人の 患者 の 危 機的 出 血が 救 命救急 セ ン ター や 手術 室 全
体 に と って も 危険 な 局面を 生 み 出す 要 因に な ってい る 。 加圧 式 の 急 速 輸液装 置 に して も 以下 の
よ う な 欠点 が 挙げ ら れる。
① 大 型 で 重く 、 機動 性 に乏し い
② 輸 液 速 度が 不 安定 、 急速輸 液 時 の加 温 性能 が 不十分 ( 参 考文 献 )
③ 流 速 調 整が で きず 、 注入量 が 記 録さ れ ない
④ 空 気 混 入の 危 険性 が 排除で き ず 、安 全 性に 問 題があ る
⑤ プ ラ イ ミン グ 、導 入 に時間 が か かる
⑥ 1 パ ッ グず つ 輸液 ・ 輸血バ ッ グ の付 け 替え を せねば な ら ず、 大 量出 血 時に手 間 が かか る
こ の よ うに 既 存の 急 速輸液 装 置 は欠 点 が多 く 、医療 現 場 のニ ー ズを 充 分に満 た し てい な いこ と
か ら 、 そも そ も急 速 輸液装 置 そ のも の がま だ 本邦で 広 く 普及 し てい る とは言 い が たく 、 未だ シ
リ ン ジ によ る 用手 ポ ンピン グ や 加圧 バ ッグ な どで対 処 し てい る 施設 も 多い。 ま た本 邦 では 以 前 、
ロ ー ラ ーポ ン プ式 輸 血装置 が 販 売さ れ てい た が気泡 検 知 器の 構 造の 問 題から 患 者 への 空 気混 入
に よ る 死亡 事 故が 複 数報告 さ れ た。 こ うし た 事故や 、 外 科、 産 科領 域 で術中 の 大 量出 血 によ り
患 者 が 死亡 し 、刑 事 事件に ま で 発展 し たケ ー スが相 次 ぎ 、日 本 麻酔 科 学会と 日 本 輸血 細 胞治 療
学 会 は 2007 年 に共 同 で「 危 機 的出 血 の対 応 ガイド ラ イ ン」 を 発表 し た。こ の 中 で急 速 輸液 装 置
の 使 用 に関 し ては 使 用者の 責 任 のも と 、充 分 な注意 を 払 って 使 用す る よう記 さ れ てい る 。ま た
同 様 に 日本 産 科婦 人 科学会 も 「 産科 的 危機 的 大出血 へ の 対応 ガ イド ラ イン」 を 発 表し 、 危機 的
出 血 へ の対 応 ガイ ド ライン が 各 学会 で 整備 さ れたが 、 根 本的 な 治療 機 器とも い え る急 速 輸液 装
置 に 関 して は 、安 全 に使用 で き る機 器 がな い ことか ら 、 ガイ ド ライ ン 上も積 極 的 な使 用 を推 奨
す る の では な く、 使 用上の 注 意 を喚 起 する に とどま ら ざ るを 得 ない 状 況があ る 。
一 方 、 欧米 に 目を 向 けると 既 に 安全 な ロー ラ ーポン プ 式 急速 輸 液装 置 が広く 普 及 して お り、 本
邦 の 急 速輸 液 は著 し く遅れ て い ると 言 わざ る をえな い 。 この よ うに 安 全に使 用 で きる 急 速輸 液
装 置 の 速や か な医 療 現場へ の 導 入は 、 本邦 の 救急医 療 、 手術 麻 酔の 現 場にお い て 喫緊 の 課題 で
あ り 、 各関 係 学会 か らの早 期 導 入の 要 望も 多 く、我 々 は 本邦 の 医療 現 場にマ ッ チ した 急 速輸 液
3
装 置 の 一刻 も 早い 導 入を目 指 す 必要 が ある 。
・
・
・
・
・
・
心筋酸素消費量の増大(不整脈の発生)
凝固障害
アシドーシスの進行
創部治癒の遷延
免疫力の低下(感染症の増加)
麻酔覚醒遅延
表 1-1.術中低体温の弊害
1.1.2
研究目的及び目標
わが国で、現在主に使用される急速輸液装置は、大柄で重く、加温や流速が不十分であり、空
気混入の危険性があり、準備時間がかかるなどの安全面の課題が残されている。これらを解決
し、小型軽量で、大規模災害時の使用まで想定したローラーポンプ式急速輸液装置の開発を行
う 。 日 本麻 酔 科学 会 や各関 係 学 会か ら の迅 速 な導入 要 望 に応 え るた め 、 2 年 以 内 で( 平成 25 年
度 中 に )要 素 開発 か ら PMDA の 認 可 申 請 を 目指す 。 平 成 26 年 度 に上 市予 定 と する 。
標記目的を達成するため、本研究開発では、要素技術の評価、試作機の開発及び評価,量産機の開発及び
評価、薬事申請を順次実施し、上市を目指す。
今年度は以下に示す設計・評価を行い、薬事申請を行うこととした。
(ロ ー ラ ーポ ン プ式 急 速輸 液 装 置の 量 産試 作 機の設 計 ・ 製造 ・ 評価 )
① 1 次 試作 機 の性 能 を評価 す る 。
② 1 次 試作 機 の評 価 結果か ら 、 2次 試 作機 を 設計、 製 造 する 。
③ 2 次 試作 機 の性 能 を評価 す る 。
④ 2 次 試作 機 の評 価 結果か ら 、 量産 試 作機 を 設計、 製 造 する 。
⑤ 量 産 試作 機 の性 能 を評価 す る 。
⑥薬 事 申請 を行う。
⑦プロジェクトを管理・運営する。
実 施 内 容を 下 記に 示 す。
①1 次試 作 機の 性 能評 価
基本性能(加温性能、ポンプ流量制御性能等)について1次試作機の評価項目をリストアップし、
評価を実施する。
② 2 次 試作 機 の設 計 、製造
平 成 2 4 年 度 で の 要 素 技 術 の 評 価 で 出 た 課 題 (加 温 効 率 の 向 上 、 輸 液 ポ ン プ の 流 量 補 正
等 )及 び 1次 試 作機 の 性能 評 価 結果 に より 得 られた 課 題 によ り 、2次 試 作機 及 び 血液 回 路
を 製 造 する 。
2 次 試 作機 は 、機 構 部性能 確 認 、血 液 回路 と の装着 確 認 用と し て 1 台 、電 子 部 ・ソ フ ト
ウ ェ ア 性能 確 認用 と して 1 台 、病 院 での 評 価用と し て 1 台 の 計3 台 製造す る 。
血 液 回 路の 試 作型 を 作成し 、 血 液回 路 を量 産 試作す る 。
③2次試作機の性能評価
要素技術の評価による課題、1次試作機の性能評価結果による課題の解決確認、血液回路の装置
への装着性及び基本性能(加温性能、ポンプ流量制御性能等)について2次試作機の性能評価項目
をリストアップし、評価を実施する。
4
神戸国際医療交流財団及び岡山大学は、使用者の立場で血液回路を含む2次試作機をユーザーの
立場で、水道水又は模擬血液を用いて評価し、改良点をメテクに助言する。
④量産試作機の設 計、 製造
2 次 試 作機 の 性能 評 価結果 に よ り設 計 をし 直 し、量 産 試 作機 及 び血 液 回路を 製 造 する 。
量産試作機は、金型を試作し、量産機とほぼ同等の方法で製造する。機構部、電子部、
電 源 部 の設 計 を修 正 し 、機 構 部 性能 確 認・血 液 回路 と の 装着 確 認用 と して 1 台 、電子 部 ・
ソ フ ト ウェ ア 性能 確 認用と し て 1 台 、 病院 で の評価 用 と して 1 台の 計 3台製 造 す る。
筐 体 の 量産 試 作型 を 作成す る 。
血 液 回 路の 量 産試 作 型を作 成 し 、血 液 回路 を 量産試 作 す る。
⑤量産試作機の性能評価
これまでに得られた知見から量産試作機の性能評価項目をリストアップし、市場で使用できるレ
ベルであることの評価を実施する。
神戸国際医療交流財団及び岡山大学は、使用者の立場で血液回路を含む量産試作機をユーザーの
立場で評価し、改良点をメテクに助言する。
⑥ 薬 事 申請
独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談の上、医療機器製造販売承認申請書を作成
し 、 薬 事申 請 する 。
⑦プロジェクトの管理・運営
メテクは、プロジェクトを円滑に推進するため、一連の研究全体についてミーティング、打ち合わ
せ、技術相談等研究開発を統括し、設計管理ファイルを作成する。
神戸国際医療交流財団は、試作機、量産試作機の性能評価項目の助言をし、メテク、岡山大学と連
携してスムーズに性能評価できる体制を整える。
1.2 事業実施(研究開発)体制
(1) 研究組織及び管理体制
1)研究組織(全体)
研究組織を下図に示す。
5
乙
株式会社 メテク
再委託
再委託
公益財団法人 神戸国際医療交流財団
国立大学法人 岡山大学
総括研究代表者(PL)
公益財団法人 神 戸 国 際 医 療 交 流
財団・研 究員・武富 太 郎
副総括研究代表者(SL)
株式会社 メテク・開発部長付・近藤光
2)管理体制
①事業管理機関
[株式会社 メテク]
社長
経営管理部
経理グループ
開発部
再委託
公益財団法人
神戸国際医療
交流財団
国立大学法人
岡山大学病院
6
②(再委託先)
公益財団法人 神戸国際医療交流財団
理事長
医療機器開発推進部
事務局
岡山大学
国立大学法人
岡山大学
岡山大学
事務部長
学長
大学院医歯薬学総
合研究科
麻酔・蘇生学
(2) 管理員及び研究員
【事業管理機関】 株式会社
①管理員
メテク
氏 名
所属・役職
実施内容(番号)
近藤 光
内藤 忠幸
開発部 部長付
経営管理部 経理グループ グループ長
⑦
⑦
所属・役職
実施内容(番号)
②研究員
氏 名
近藤
中川
林
吉岡
武井
西川
船本
野上
北島
川上
光 ( 再 ) 開発部 部長付
正樹
開発部 課員
保夫
開発部 課員
憲昭
開発部 課員
通泰
開発部 課員
敏博
開発部 課員
泰介
開発部 課員
雄司
開発部 課員
穂高
薬事・品質保証部
奈津子
薬事・品質保証部
薬事グループ
薬事グループ
課員
課員
③⑤⑥
①②③④⑤⑥
①②③④⑤
①②③④⑤
①②③④⑤
①②③④⑤
①②③④⑤
⑥⑦
⑥
⑥
【再委託先】
公益財団法人 神 戸国 際 医療 交 流財 団
氏 名
武富 太郎
所属・役職
研究員
実施内容(番号)
③⑤⑦
7
1.3 成果概要
1.3.1 開発製品「急速輸液装置」
【訴求ポイント】
本邦で現在主に使用される急速輸液装置は、サイズが大きく、加温や流速が不十分であり、空気混入の危険
性、セットアップに時間がかかるなどの安全面の課題が残されている。これらの問題を解決した安全かつ小型
で、大規模災害時の使用まで想定したローラーポンプ式急速輸液装置の開発を行う。学会等の要望に応えるた
め、2016 年度内の上市を目指す。
ディスポを簡単に装着でき、危機的出血時にも迅速に対応できる。
出血量に応じて、急速輸液用のハンドルでローラーポンプの流量設定ができる。
血液の保存温度4℃を体温まで加温して、患者に急速輸液できる。
ローラーポンプ方式のため、輸液した量を管理できる。
急速輸液用ハンドル
ローラーポンプ
加温器
製品名
急速輸液装置
クラス分類
クラス III
製造販売業者
販売業者
株式会社メテク
未定
上市計画
薬事申請時期
上市時期
国内市場
許認可区分
一般的名称
加温ハイフロー輸液ポンプ
承認
申請区分
改良
製造業者
株式会社メテク
その他(部材供給) なし
2015
2016
-
年
年
8
月
月
海外市場(具体的に:
2016 年
2017 年
中国・アジア諸国
-
)
月
月
1.4 当該研究開発の連絡窓口
連絡窓口を下記に示す。
所属: 株式会社 メテク 埼玉事業所 開発部
氏名: 近藤 光
電話: 049-223-0241
FAX: 049-224-0173
E-mail: [email protected]
住 所 : 〒 350-0833 埼玉県川越市芳野台 1-103-66
9
2.
1次試作機の性能評価
本装置の主要な機能である送液ポンプと加温器の性能について評価した。
送液ポンプの流量制御実験
2.1.1 実験目的
ローラー式ポンプにより低流量から高流量までの流量制御が実現できるか確認する。
2.1
2.1.2 まとめ
ローラー式ポンプにより低流量から高流量までの広範囲流量制御出来る事を確認した。
高効率加温器の設計・試作・評価
2.2.1 目的
簡単に、かつ、確実に加温バッグを加温器にセットできるように構造設計及び試作を行い、加
温性能の再評価を行う。
2.2
2.2.2 まとめ
簡単に、かつ、確実に血液回路を加温器にセットできる構造とした。この状態での加温性能は、
ほぼ目標値を満足できる結果となった。
10
3.
2次試作機の設計、製造、性能評価
1次試作機の性能評価により得られた課題を基に 2 次試作機の設計、製造を行った。
3.1
筐体設計
1 次試作機では加温器や血液ポンプの性能は出る事を確認したが、装置サイズが大きく IV ポー
ルへの固定が難しい事が課題であった。2 次試作機は IV ポールへ固定可能なサイズで、かつ、IV
ポールに固定できる重量の装置を設計、製造した。設計、製造した 2 次試作機を図 3-1 に示す。
図 3-1
2 次試作機外観写真
3.2
加温器の設計、製造
平成 24 年度は流量 500mL/min で温度上昇 35℃以上になる事を確認したが、加温器サイズが
大きいため装置サイズも大きかった。そこで、加温器を小型化する目的で加温バッグを 2 枚に分
ける方式を採用した。その結果、2 次試作機加温器サイズは 1 次試作機に比べて小型化できた。
3.3
送液ポンプの設計、製造
平成 24 年度は流量の性能が出る事は確認したが、ポンプチューブをセットする方法はオートロ
ーディングを採用した為、ワンタッチ装着は難しかった。そこで、ポンプチューブをロータとス
テータの隙間にセットする方式を採用しワンタッチ装着可能な構造とする。ポンプチューブの装
着手順を図 3-4 に示す。
11
(a)チューブ未装着
(b)チューブ隙間にセット
(c)ポンプカバーを閉める
図 3-4 ポンプチューブの装着手順
3.4
気泡除去ポンプの設計、製造
送液ポンプと同じ構造とした。
3.5
気泡検知器の設計、製造
平成 24 年度はバネ力でチューブを挟む構造を採用したが、ディスポをワンタッチ固定する事が
困難であった為、スリットにチューブを挿し込む方式を採用した。本装置に気泡検知器の外観を
図 3-5 に示す。
(a)チューブ装着前
(b)チューブ装着時
図 3-5 気泡検知器とチューブ装着の様子
12
3.6
ディスポセット
平成 24 年度は装置にワンタッチで血液回路カセットを装着できる構造を提案したが、装置を
IV ポールに固定する事が出来なかったため、リザーバーや患者ラインなどの検討が不十分であっ
た。本年は IV ポールに装置を固定し実際の臨床使用状態を想定したディスポセットを試作した。
試作したディスポセットを図 3-6 に、ディスポセットを装置に装着した様子を図 3-7 に示す。
図 3-6 試作したディスポセット
13
図 3-7
2 次試作機にディスポをセットした様子
14
3.7
加温性能
目的
設計製造した加温器と加温バッグを用いて、流量 500mL/min で温度上昇 35℃以上になること
を確認する。
3.7.1
3.7.2
結果
実験の結果、流量 500mL/min で温度上昇 35℃以上になることを確認した。
3.7.4 まとめ
2 次試作機の加温性能は流量 500mL/min で温度上昇 35℃以上である事を確認した。
15
3.8
送液ポンプの流量性能
目的
設計、製造した送液ポンプとポンプ用チューブを組み合わせて低流量から高流量までの流量制
御できるか確認する。
3.8.1
3.8.2
結果
実験の結果、試作した輸液ポンプを用いて低流量から高流量の範囲で制御できることを確認し
た。
3.8.4
まとめ
ローラー式ポンプにより、低流量から高流量までの広範囲流量制御できる事を確認した。
16
3.9
岡山大学での評価
2013/9/3 に岡山大学の病院で 2 次試作機を評価した。その評価結果と問題点について概説する。
岡山大学の病院で医療従事者に 2 次試作機を評価して頂いた結果,装置が大きいという意見を頂
いた。急速輸液装置が使用される手術現場は複数の ME 機器を同時に使用するため,医療従事者は
できる限り小型な急速輸液装置を求めていることが分かった。
2 次試作機が大きくなった原因としてはスライド式のドア、専用輸液スタンドと装置本体の固定、
フック、取手が考えられる。スライド式のドアは装置横方向に開閉する構造となっており,ディ
スポ装着時にドアを開き,ディスポ装着完了後ドアを閉じるが、ドアの開閉量が大きかったこと
により,大きな印象を医療従事者に与えてしまったと思われる。また,2 次試作機は図 3-13 に示
すよう専用輸液スタンドに装置本体を固定する構造である。細い円筒形ポールに送液部・加温部
等,全ての機能が収納された装置本体が固定されていることなども大きな印象を与えた原因の一
つと考えられる。さらに薬液バッグを吊るすフックが十文字型に配置されていたことや取手が装
置本体から大きく飛び出していたことなども大きな印象を与えた原因として考えられる。
そこで,2次試作機の台車と装置本体との空間を有効利用する形状として,小型になるよう設計、
製造することにした。この設計は、2 次試作機の構成から大きな変更となるため、3 次試作機を設
計、製造し、形状と性能を確認し、その後、量産試作機を作成することとした。
従って、実施計画中の「量産試作機」は、
「3 次試作機」として報告する。
専用
輸液スタンド
装置本体
図 3-13
急速輸液装置 2 次試作機の外観図
17
4.
3 次試作機の設計、製造、性能評価
4.1
3 次試作機の装置本体
3 次試作機の基本構成,小型化の工夫について説明し,その後各部について概説する。
3 次試作機の外観図を図 4-1 に示す。3 次試作機は装置上部,装置下部,台車,ポールから構成さ
れる。装置下部に加温部を収納することで,2 次試作機と比較して小型な装置を実現した。2 次試
作機では装置本体と台車との間に図 4-2 に示す空間がある。3 次試作機では装置本体と台車との
間の空間に加温器を設置することで,装置横方向の使用空間と占有床面積を減少した。また,薬
液バッグを吊るすフックを一文字に配置し,取手を小さくした。
ポール
装置上部
装置下部
台車
図 4-1
急速輸液装置 3 次試作機の外観図(ディスポ未装着)
装置本体と台
車との空間
図 4-2
急速輸液装置 二次試作機の装置本体と台車との空間
装置上部の側面には図 4-3(装置側面の拡大図)に示すよう送液ポンプ,気泡除去システム,
気泡検知器,バルブが組み込まれている。装置下部に加温器が収納されており,加温器内部には
さらに温度センサ・圧力センサ・漏血検知器が組み込まれている。
18
気泡除去ポンプ
気泡バルブ
気泡センサ1
気泡センサ2
静脈バルブ
送液ポンプ
図 4-3
気泡センサ3
急速輸液装置 3 次試作機装置上部の側面図
4.2
3 次試作機のディスポ
3 次試作機のディスポは 2 次試作機と同様,リザーバ,加温バッグ,チャンバ,流路チュー
ブから構成される。リザーバに充填された血液製剤は送液ポンプにより加温部,チャンバをへて
患者へと輸液される。ディスポ内に発生した気泡は気泡除去ポンプ,気泡バルブからリザーバへ
と排出する。リザーバからは血液製剤と生理食塩水を充填するため,それぞれ 3 本・1 本のビン
針が接続されている。
4.3
送液ポンプの性能
1 分間の流量試験を実施して,3 次試作機の流量精度を評価した。。試験の結果,全ての条件で
判定基準を満足することが分かった。
4.3.1 目的
3 次試作機の患者側出口流量と、設定流量に対する流量誤差率を求める。
4.3.2
結論
1 分間の流量試験を実施して流量を測定し、精度を評価した結果,3 次試作機のローラポンプの
流量性能と精度は全ての条件において仕様を満足した。
19
4.4 加温器の性能
4.4.1 目的
設計、製造した加温器と加温バッグを用いて、流量 500mL/min で流出温度が 37℃以上になる
か確認する。
4.4.2
まとめ
流量が 500mL/min までの範囲は流出温度 37℃以上となり仕様を満足するが、500mL/min を超え
ると 37℃には達しないことがわかった。
4.5 機械的安全性試験
4.5.1 目的
機械的ストレスを受けても、受容できないリスクが生じないかどうか確認する。
4.5.2 方法
IEC60601-1:2005 に基づき、表 4-2 の項目について試験を行った。
表 4-2 機械的強度試験の項目
ME 機器の種類
試験項目
押付け
衝撃
手荒な取扱い
移動形
4.5.3
まとめ
機械的安全性試験の結果、機械的ストレスを受けても受容できないリスクは生じないことを
確認した。
4.6 電気的安全性試験
4.6.1 概要
急速輸液装置の 3 次試作機の電気的安全性についての試験を行った。今回は製品仕様、IEC
60601-1:2005 から一部抜粋し、その項目が仕様を満たしているか評価を行った。評価項目は以下
の 4 項目である。
(1) 電源入力
(2) 耐電圧
(3) 漏れ電流
(4)保護接地回路抵抗
(1)は製品仕様、(2)~(4)の項目は、IEC 60601-1:2005, JIS T 0601-1:2012 による。
4.6.2 結論
急速輸液装置の 3 次試作機は、電気的安全性の評価項目の全てにおいて仕様を満足した。
20
4.7 ソフトウェア
4.7.1 概要
急速輸液ポンプ SL1 のソフトウェアは下記の制御を行う。
1)設定流量に合わせて流量制御を行う。
2)緊急時に、急速レバーを回すことで高速に血液を送液する。
3)加温制御を行う。
4)気泡検出時は、自動でクランプを閉じる。
5)各種設定のキー制御を行う。
6)LCD 表示の制御を行う。
7)機器の状態を常にチェックして各状態に応じた警報制御を行う。
4.7.2
主な仕様
主な仕様を下表に示す。
項目
仕様
各種キースィッチの制御
一定時間毎にキーをスキャンして押さえていればその機能に対応した制御を
行う。
内部設定 DIPSW の制御
DIPSW をスキャンしてその機能に対応した制御を行う。
血液ポンプ低流量制御
設定された流量に対してポンプを制御する。
血液ポンプ高流量制御
急速レバーを回している間は、高速にポンプを制御する。
気泡除去ポンプ制御
クランプの開閉をし、気泡を除去するポンプを制御する
加温制御
設定された温度に対して、温度制御をする。
LCD の制御
LCD の表示制御
代表灯制御
代表灯(緑、黄、赤)制御
バッテリ制御
バッテリ電圧を監視して警報発生及びポンプ停止制御する。
気泡検出制御
チューブ中の気泡をチェックして警報制御する。
カバー検出制御
カバーの開閉状態をチェックして警報制御する。
閉塞検出制御
チューブの閉塞状態をチェックして警報制御する。
回転検出制御
1回転毎に回転をチェックして、回転の動作確認をする。
音制御
各状態に応じて音質制御を行う。
RTC 制御
カレンダー制御を行う。
EEPROM 制御
初期データ及びイベント宇発生時の保存制御を行う。
通信制御
RS-232 を用いて、ログの取得を行う。
21
4.8
岡山大学での評価
3 次試作機を岡山大学で評価を行ったところ、装置の幅を狭めて占有床面積を少なくしたこと
から、他の手術機器の間に設置することができるので、市場に受け入れられる可能性が高く
なったことが分かった。
今後は、3 次試作機の性能、耐久性などを十分に評価し、ディスポの評価も行い、市場に受け
入れられる装置とディスポとして量産試作機をまとめ、さらに量産機として仕上げていく。
22
5.全体総括(委託事業の振り返り)
(1) 当初目標達成度に関する自己評価
(a) 当初目標(委託事業初年度開始時)
本邦で現在主に使用される急速輸液装置は、大柄で重く、加温や流速が不十分であり、空気混
入の危険性、セットアップに時間がかかるなどの安全面の課題が残されている。
これらの問題を解決した安全かつ小型軽量で、大規模災害時の使用まで想定したローラーポン
プ式急速輸液装置の開発を行う。学会等の要望に応えるため、3 年以内の上市を目指す。
(b) 自己評価点
C:当初目標には未達だった。
(c) 自己評価理由
量産試作機の評価が終わり、薬事申請が完了する予定だったが、未達だった。
2 次試作機を岡山大学と評価したところ、他の多くの手術用装置との場所の取り合いで、手術
室の現場に配置するには、難しいことが分かった。
また、ディスポ(血液回路)を迅速に装置にセットし、3 分以内に急速輸液を開始できるよう
にするには、装置の形状とディスポの形状を見直す必要があることが分かった。
そこで、量産試作前に、試作をやり直し、3 次試作として設計し直し、再評価することになっ
た。このことにより、計画は遅れているが、2016 年度には上市へ漕ぎ着けたい。
(i)装置
多くの手術用装置の間に配置できるように、台車の幅と装置本体の幅を狭くするため、大
幅な設計変更が必要となった。
(ii)ディスポ
装置に 1 分以内にワンタッチで装着でき、生理食塩水でのプライミングが 2 分以内で完了
できるように、ディスポの形状を簡素化するための設計変更が必要となった。
23
Fly UP