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プロジェクト事例〈アジア2〉

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プロジェクト事例〈アジア2〉
事例 18
東ティモールにおける農業者育成プロジェクト
財団法人 オイスカ
事務局次長 木附 文化
1.プロジェクトの概要
2003年7月から、
3ヶ月弱の研修コースを4回行った。
(1)プロジェクト実施の背景
1回平均15名の研修生で、
約60名の研修修了生が卒業
2002年、長い独立戦争の末独立した東ティモール
している。
は、青少年時代から独立戦争に従事し、学校教育す
ら受ける機会のなかった若者が数万人おり、このよ
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
うな人々に生計を立てる道を指導することは急務で
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
ある。何よりも食べることが重要であり、自ら汗を
農業は、実際に身体を動かし、土を作り作物を作
流し、田畑を耕して生活の糧を得る基本を作ること
る活動に従事しなければ身につかない。
したがって、
が国づくりの最も重要な一歩である。幸い、まだ土
野外の農場現場での訓練は最も重要な要素である。
が豊かで個人所有の土地があり、それを田畑に転換
それは、3ヶ月という短い期間ではあるが、若者が農
できることなど農業を振興するための有利な条件が
業実践に必要な
「熟練技術」
を身につける場であり、
ある。また、軍隊的生活の中で鍛えられた上意下達
常に作物に触れ、作物の面倒を見ながら、必要な作
の行動のあり方に理解が早いことから、コミュニテ
業を遅滞無く行うことを学ぶ場である。ただ、研修
ィの中核になる意欲ある若者が効果的な研修を受け
終了後そのような現場の活動を自ら考え行うため、
ることにより、研修修了生が中心となり、他の若者
その作業の意味、意義、基本的な理論をあらかじめ
を建設的活動に巻き込むことができる環境がある。
研修生に伝える時間は多くとった。
(2)プロジェクトの目的と目標
(2)訓練等の計画と準備
農業技術研修を行い、研修受講者がその終了後、
このバウカウの研修センターは日本政府の資金援
自分の土地を耕し、
そこで農業生産を効果的に行い、
助で建設したが、建設を始めたのが2002年であり、
生計を立てることができるようになること。
その時点では農場用地は石だらけのジャングルだっ
また、その研修受講者が他のコミュニティ構成員
たので、農場用地の木を切り、石を取り出す作業を
に好ましい影響を与えること。
オイスカ派遣員が先頭に立って行った。近隣の農夫
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
を雇って若干のお金を落とすことにもなったので、
東ティモールの首都ディリから車で約1時間走っ
近隣の村人の理解・支援が得られるようになった。
たところにある、バウカウの国道沿いに建設した農
訓練等の計画は、オイスカが長年行ってきた経験
業開発研修センターで実施。ここは農場、研修生宿
をもとに作成した。
舎、食堂、炊事場、事務所、講堂、指導員宿舎など
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
が整えてあり、一回15人ぐらいの研修生、約15人の
野外における訓練および教室での勉強と同時に、
管理責任者、スタッフ、指導員が寝泊りし、活動を
他の人々との協力、農業の意義、苦労、苦心して目
行うことができる。日本から、研修所所長1名、イン
的を達成することの重要さ、意義、手っ取り早い儲
ドネシア語英語通訳1名、日本人ボランティア1名、
けに走らないということの大切さなど、いろいろな
インドネシア人技術指導員1名、
東ティモール人指導
基本的な考え方についても指導した。
員兼コーディネータ1名、スタッフ9名が活動(2004
さらに、
企業などで実践されている5S(整理、
整頓、
年5月現在)。
スタッフは最初から9名いたのではなく、
清潔、清掃、しつけ)を徹底し、作業の無駄を省いて
初期の研修を終了した者からさらに技術を深化させ
手際よく効率よく行うことを指導した。
たいという意欲のある若者が、自発的にセンターに
また、技術研修以外の生活に関するさまざまな問
残ってセンター業務を手伝ってきた。
題については、必要に応じて所長自ら、もしくは指
82
事例 18
導責任者、あるいはスタッフ長などがコミュニケー
に管理職にあたるものがきちんと説明責任を全うで
ションを図り、
誤解や不満が生じないように努めた。
きるかどうかも問題である。管理職がまったく農業
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
を知らないのではなく、ある程度現場に対する広い
卒業生が農業を実践するために、卒業生に対する
経験や知識をもち、かつ渉外活動もできる人材を育
鍬、スコップの提供(一人各一丁ずつ)、50ドルの資
成することが急務である。
金提供、穀物、野菜などの種の提供、卒業生の農業
また、学校のように、毎年、毎回同じ研修を繰り
現場の巡回指導などを行った。
返す資金の手当てができればよいが、それが充分で
また、日本人がいなくなっても研修が継続できる
きない場合、やはり、農場からの生産、売り上げを
ように、スタッフの能力強化を日々行っている。
伸ばす努力も必要である。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
3.プロジェクトの評価
オイスカの場合、他の国でも研修活動を続けてき
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
ているが、この東ティモールの研修の成功は、ひと
70%の卒業生が積極的に農業に取り組み、その多
つには、
管理指導を行った新屋敷均 元オイスカ事務
くが一人ではなくグループを作り、他の農民を巻き
局長の技量によるものである。技術のある人材を活
込んで新しい野菜などを作り始めている。今まで草
用する、5S の徹底、研修を行う者受ける者のコミュ
地だったところを耕し、また、ごく限られた種類の
ニケーションの徹底、渉外活動の充実はこの指導者
野菜などしか作っていなかったところに、新しい野
の技量・特徴が生きた結果である。このような研修
菜栽培を導入している。独立後間もない国であり、
が長期的に生かされ、さらに大きなインパクトを与
食べることが最も優先する国の状況からこのプロジ
えるためには、このような方法論を踏襲できる現地
ェクトはきわめて有益な活動であったといえる。
の管理指導者をいかに育成するかが課題である。
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
立発展性
研修生が技術だけでなく他の人々と協力すること
の重要性を学び、そのことを納得して実践する研修
卒業生が多かったことから、きわめて大きなインパ
クトを与えつつある。農業を欲する環境、農業ので
きる環境がもともと存在したこともインパクトが大
きかった理由である。この研修の技術指導は、イン
ドネシアのオイスカ研修卒業生があたった。長年現
場での農業を実践してきた優秀な指導員であり、何
よりも東ティモールの状況を知っている指導員であ
ったため、今後このような人材に対し適切な場を与
えれば、自立的発展の大きな要素となることがわか
った。東ティモールにも同じような指導者が育つ可
写真 研修修了生が新しい農業技術を活用して野菜
能性が大きい。
作りに取り組んでいる
4.教訓・提言
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
技術だけなら、上記のようにインドネシアなどの
指導員が活躍できるし、今後東ティモールの人材も
育っていくだろう。しかし、これから自立発展を目
指すためには、いかに優秀な管理職を得るかが問題
である。それと同時に、継続した活動を続けるため
83
事例 19
東ティモールマウベシ郡コーヒー生産者協同組合支援事業
特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター
代表理事 井上 礼子
1.プロジェクトの概要
活は年々脅かされている。
米の購入すらままならず、
(1)プロジェクト実施の背景
トウモロコシ、タロイモを主食とする生活を送って
東ティモールは、2002 年 5 月に念願の独立を果た
いるが、乾季にはそうした食糧さえ事欠き、三回の
したばかりで世界で最も新しく、面積は四国程度の
食事もままならないことも多い。従来この地域の農
小さな国である。ポルトガルの植民地として約 500
民は、米国の NCBA(National Cooperative Business
年、
その後はインドネシアの軍事支配の下で 25 年間。
Association;アメリカ全国協同組合事業協会)のも
1999 年 9 月、住民投票で独立を求めた東ティモール
とに組織されている CCT(Cooperative Cafe Timor;
の人々は、さらなる暴虐の下に置かれた。アジア太
ティモール・コーヒー協同組合)にコーヒーをチェリ
平洋資料センターは、
暴動直後の 10 月に日本の他の
ー(赤い果肉つきの実)のまま売るか、あるいは石や
NGO とともに市民平和プロジェクトを立ち上げて緊
木臼を使った原始的な方法で果肉を除去したパーチ
急救援にかけつけた。当センターはその後の国連統
メント(皮付き種子)を仲買人に販売していた。
治時代を通じて、東ティモール・リキサ県で学校再
当センターは ATJ と協力して、この農民たちが自
建、学校への机椅子の提供と農村青年を対象とした
分たちでコーヒーを加工し、輸出までを担うことで
木工技術の研修を行った。
その生活を改善すると共に、国づくりに向けた意欲
政治的な主権を回復した後も東ティモールは深刻
をもってもらおうと考えてプロジェクトを開始した。
な貧困問題に直面した。経済分野での自立と貧困問
(2)プロジェクトの目的と目標
題の解決が緊要となり、国際社会の支援が引き続き
本プロジェクトは、独立直後の東ティモールで、
必要とされていた。農業生産量を引き上げ、国内産
コーヒー農民が生産者協同組合を組織して、コーヒ
の米や食品の流通を円滑化し、基本食料の収量を増
ーの実を果肉除去し、
すぐれた品質のグリーン豆(生
やすことで食糧自給を実現すると同時に、外貨取得
豆)に加工し、
輸出することによって生活を改善する
の数少ない手段のひとつであるコーヒー豆の品質改
ことである。同時にコーヒーの収入で野菜・果樹な
善と収量の引き上げは、新生東ティモールの経済に
どの栽培を行って、コーヒーだけに依存せずに生活
とって重要な課題であった。
できるようになり、東ティモールの農村発展のひと
当センターはそのような認識のもとで、2002 年初
つのモデルとして提示することを目的とした。
めから日本のフェアトレード団体である ATJ(オル
具体的な目標は以下のとおりである。
タ・トレード・ジャパン)と東ティモールの全国的な
① アイナロ県マウベシ郡のコーヒー生産者約
NGO であるヤヤサンハクの協力により、アイナロ県
200-400 世帯を集落ごとにコーヒー生産者協同
マウベシ郡でコーヒー生産農民の支援を決定した。
組合へと組織し、各組合が自分たちでコーヒー
マウベシ郡は標高 1300∼1700 メートルの山間地
の加工作業を行い、加工場を運営できるように
に位置し、寒暖の温度差が激しいため質の高いコー
指導すること。
ヒーを生産することができる。1 万 7000 人の人口の
② 各生産者協同組合が連合を形成し、
互いに協力し
大半はコーヒー生産農家である。地域の農家は市場
合って、日本への輸出に耐える品質のコーヒー
へのアクセスもないため、年に 1 回しか収穫のない
を生産し、輸出までの工程を担えるようになる
コーヒーに年間収入の大半を依存しており、稲作に
こと。
適さない高地のため、コーヒー収入は主食である米
③ 生産者協同組合として地域に見合った有機農業
の購入にも欠かせない。しかし低迷するコーヒー国
を発展させること。
際市場価格のあおりを受け、コーヒー生産農家の生
84
事例 19
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
よって異なるので一律ではない)。これは、通常、農
(a)実施場所 アイナロ県マウベシ郡
家が同量のコーヒーをマウベシの市場で仲買人に販
(b)実施体制
売する場合の収入約88ドルに比べると約4倍の収入
現在、首都ディリとマウベシに事務所を置き、日
となった。
本人スタッフ 2 名がそれぞれに常駐。他に東ティモ
ール人スタッフ 3 名を雇用。日本人スタッフ 1 名と
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
東ティモール人スタッフ 1 名の計 2 名が常時、生産
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
者協同組合の活動に直接共同する体制をとっており、
この技術訓練は、農民が自らを生産者協同組合に
他の 1 名が講師の派遣、研修プログラムの準備など
組織し、自分たちの畑で収穫したコーヒーを自分た
を行う。他の 1 名(東ティモール人、女性)は生産者
ちで加工し、
自分たちで販売できるようになること、
の女性のためのプログラムを準備、他の 1 名が資材
そのプロセスを自ら管理できるようになるという目
調達・会計業務などに当たっている。夏季の加工作
的のための手段である。
業シーズンには ATJ スタッフが加工作業の指導のた
(2)訓練等の計画と準備
めに参加し、その下で指導員を 5-6 名雇用。
まず、コーヒー豆の加工場の設計・建設の指導を
(c)財政規模
した。加工場へは水場から竹やパイプを使って水を
2003-4 年の各年間実施予算は約 1800 万円で、そ
引き、コーヒー洗浄のための水槽を作った。また、
のうち約 200 万円が自己資金、約 1600 万円が JICA
倉庫の建設には地元の資材を活用した。
技術協力草の根パートナー型による支援に拠ってい
コーヒーの加工に関する技術訓練としては、①メ
る。予算の使途は加工場の機材費、車両などの購入
ンバーが持ち込んだコーヒー豆を秤で計量する方法、
費、現地事務所の維持費、交通費、専門家派遣、ワ
②その量を記帳する方法、③計算機を使っての合計
ークショップなどの開催費用である。ただし、コー
の出し方や検算の方法、④加工作業(洗浄、機械を使
ヒーの生産と輸出に直接関わる経費(コーヒー豆の
って果肉除去、ファーメンテーション(発酵)、虫食
輸送、加工場における灯油代、文具など)ならびに
い豆や割れ豆の選別除去作業、天日の下での均一な
ATJ スタッフの旅費等はコーヒーの売上に含み、予
乾燥など)である
算には含まない。
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
(d)活動内容
コーヒーの収穫期が 6 月から始まるため、4−5 月
東ティモール・アイナロ県マウベシ郡で 2002 年 6
に集中的にワークショップを開催し、実際の道具を
月 34 家族を対象にしてコーヒー加工場を設置し、
使ったり、内容を絵で書いて加工場に張り出して指
ATJ スタッフが日本市場で通用するコーヒー豆をう
導した。また、加工作業中もスタッフが巡回指導し
るための加工技術を教えることを実験的に開始し、
6
た。そのほか、現在計画中のことではあるが、東テ
トンのコーヒー豆の日本への出荷に成功した。今後
ィモール内の他の産地を訪問したり、他国のコーヒ
プロジェクトとして実施可能と判断し、2003 年 3 月
ー産地を見学することで視野を広げ、意欲を引き出
末 JICA の草の根パートナー型技術協力事業に決定。
し、一層の技術改善に結びつけたいと考えている。
2003 年 4 月より事業を 6 つの集落(ルスラウ A、
さらに、農業の多角化のため、コーヒーシーズン
ルスラウ B,リタ、クロロ、ハトゥブティ、レボテロ)
終了後の雨季が始まる 10-11 月から農業プログラム
に拡大した。集落単位ごとに生産者グループを組織
を開始した。これは各グループがコーヒーの売上の
し、コーヒー果肉除去施設を設置した。6 月より 9
一部を積み立て、プロジェクト事業費あわせて種子
月まで ATJ のスタッフが加工作業を指導し、
同年秋、
や農機具を購入し、グループで野菜の栽培を行うプ
約 36 トンのコーヒー生豆を ATJ 社が買い取り、
日本
ログラムである。コーヒー加工で排出される果肉を
に輸入することができた(Cafe Rai Timor の名称で
堆肥として使用し、空いた土地を使って豆や野菜の
販売)
。フェアトレード価格での買い取りの結果、コ
栽培を行い、コーヒーの単一栽培からの脱却を目指
ーヒー農家 1 世帯あたりの売上は平均約 359 ドルに
している。堆肥作りなどの研修もグループ単位で行
なった(実際には所有するコーヒーの木の収穫量に
った。
85
事例 19
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
発展、③組織運営の発展が課題である。
2004 年、簡単な規約を定めて前年のグループを生
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
産者協同組合へと組織し、6 グループで生産者協同
立発展性
組合連合とした。規約の中で生産者協同組合連合は
地域では、現在、生産者共同組合に参加していな
以下を目的として活動することを定めた。
い農民たちからも注目されており、他の集落にも同
① マウベシ地域の農民の生活改善と自立的な発展
様の支援を行って欲しいと言う声が多い。しかし、
② 地域の農民が作った有機コーヒーを自分たちで
日本におけるフェアトレード・コーヒーの市場が未
加工し、コーヒー農園を改善して東ティモール
だ充分に育っていないため、プロジェクト対象地域
のコーヒーが世界の消費者の間で高い評価を得
を拡大した場合に生産されたコーヒーを販売しきれ
られるようにすること
るかどうか、すなわちマーケットの確保が、支援の
③ 地域における多角的な有機農業の発展
ための資金手当と同時に地域内で拡大するための課
この規約に基づいて、各グループごとに代表・副
題となっている。
代表・会計を選出し、各グループの三役が集まる代
表者会議を定期的に開き、そこで基本的なことを決
4.教訓・提言
定するという仕組みをつくった。この代表者会議で
まず第一に、このプロジェクトは技術研修それ自
専任されたコーディネータが各グループ間、あるい
体を目的としたものではなく、コミュニティー開発
はグループ内の問題の解決に当たることとした。現
の一環として、地域の中にあった産業を育成発展さ
在メンバーは約 200 世帯である。生産者協同組合が
せるために技術研修を行っていることが特徴であり
6 つあり、それぞれにコーヒー加工場もあるため、
重要な点であると考える。例えば、各加工場には計
互いの加工場を見学しあったり、代表者会議で失敗
量担当者、記帳担当者を任命し、その担当者を対象
の原因を報告しあったりすることが互いの刺激とな
として計算機の使い方、帳簿の記帳の仕方を指導し
って良い効果をもたらしている。
た。そうした活動がそれぞれの農民の生業に直接結
びついていることから、学ぶ農民側も真剣で習得は
3.プロジェクトの評価
非常に早く、コーヒー収穫期の 3 ヶ月が終わる頃に
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
は担当者が自ら計算機を使って、各メンバーのコー
本プロジェクトは 3 年目を迎えており、生産者協
ヒー豆の量や収入をただちに計算して伝えるくらい
同組合も組織され、加工作業に関しては中心メンバ
になっている。加工作業に関しても同様であり、こ
ーが熟達し、かなり自立的に行えるようになり、2
ちらがびっくりするほどよく覚え、しっかりと作業
年続けて良質のコーヒー豆を 30 トン以上日本に輸
を行う。
出することができた。東ティモールの経済にもささ
技術研修を行っても、その技術を生かして就労す
やかながら寄与することができ、同国農業省などか
る道が準備されていなければ、研修は生きたものに
ら高い評価を受けている。
ならないし、援助がある期間しか継続しないという
しかし、土地がやせていること、異常気候(雨季の
ケースが多い。そのため、継続性のある産業活動の
開始が大幅に遅れ、一度雨が降ってから再び晴天が
なかに位置づけられた技術研修であるということが
続くなど)のため、
農業プロジェクトは未だ収入増に
重要である。
結びつく段階には至っていない。さらに、民主的な
第二に、プロジェクトのオーナーシップは基本的
決定、グループ資金の使い方に関する予算づくりや
に農民の側にあり、こちらはそれを助けると言う点
会計報告など、組織運営に関してはまだ成果をあげ
が重要であると考える。ただし、当該プロジェクト
てはいない。代表者会議や各生産者協同組合の会議
地域のように、長く軍事的支配下に置かれ識字率も
に当センターのスタッフが参加して、問題点や改善
低い地域では、民主的な決定やグループ資金の運用
点を指摘することで、かろうじて民主的に規約に則
などを初めとする運営能力の育成は、技術の研修よ
った運営が保障されている現状にある。今後は、①
りも難しく、かつ重要である。その点で現地 NGO(当
コーヒー畑の改善、②環境に適した多角的な農業の
プロジェクトの場合、
ヤヤサンハク)の協力は有効で
86
事例 19
ある。
第三に、とくに東ティモールのように人材も限ら
れる小さな国では、同様のプロジェクトを行ってい
る他の国の援助機関や NGO、あるいは行政機関との
協力のもとで人的資源を有効に生かすように技術協
力に取り組むことが必要である。例えば、コーヒー
畑の改善に関しては日本から専門家を派遣するより
も現地でコーヒー関連のプロジェクトを行っている
ポルトガル政府のミッションの協力を得て行う計画
である。
写真 1 大工の指導を受けて倉庫を建設
写真 2 コーヒーの加工に関するワークショップ
写真 3 加工作業の様子
87
事例 20
フィリピン共和国ケソン市、パヤタスごみ処分場周辺コミュニティでの医療及び収入向上プロジェクト
特定非営利活動法人 アジア日本相互交流センター ICAN
代表理事 龍田 成人
プロジェクトマネージャー 伊藤 洋子
1.プロジェクトの概要
のニーズにこたえるために、ハンディクラフトなど
(1)プロジェクト実施の背景
の手工芸品や服飾を教える職業訓練を開始すること
フィリピン共和国マニラ首都圏ケソン市にあるパ
にした。最初は、とにかく、ゴミに依存しなくても
ヤタス地区にはケソン市のゴミが集積されるゴミ集
食費が得られるように、家計が厳しい家庭の女性た
積場があり、毎日数千トンのゴミがそこに運び込ま
ちに少しでも収入の足しになる技術を取得させるこ
れている。そのゴミ捨て場の周辺には約 1 万人の低
とを目的に始めたが、2001 年に職業訓練履修者の中
所得者層が居住しており、
住民の 2∼3 割の人々はゴ
からグループを作って組織化する者たちが現れた。
ミ捨て場で拾ったリサイクルできるゴミを換金する
これを機に、新たにこのグループを核として、共同
ことで生計を立てている。ゴミ拾い以外の職を持つ
作業所を開設して安定した収入を得られるようにす
住民の多くも一時雇用や非専従労働であり、安定し
ることと、将来、そのグループがパヤタス地域の住
た収入を得られていない。地域住民の多くは学歴が
民に対して、技術指導や医療支援の面で社会貢献で
低く、特別な技術を持たないので、都市部で安定し
きるように機能させることが上位の目標になった。
た仕事を見つけることは困難である。
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
地域住民の生活環境は劣悪で、栄養状態も悪いた
(a)実施場所 フィリピン共和国マニラ首都圏
めに様々な病気に苦しんでいる。ゴミ捨て場は腐敗
ケソン市パヤタス地区
により発生したメタンガスが発火していつも煙って
(b)実施体制
おり、この煙による大気汚染がひどいため、気管支
日本人職員:プロジェクトマネージャー(2000 年∼)
を患って命を落とす大人も多い。また、非常に衛生
インターン
状態が悪いために子供も慢性的な下痢や高熱などで
2∼4 名(2000 年∼)
フィリピン人職員:
死亡するケースもある。乳幼児の栄養不良率も 25%
調整員(組織作り)
1 名(2002 年∼)
以上と深刻である。
看護師
1 名(2003 年∼)
非常勤医師
2名
(2003 年∼)
当法人は 1997 年より現地 NGO(SALT foundation)
と協力して、パヤタス地区のうち最もゴミ捨て場に
カウンターパート:自助グループ 15 名(2001 年∼)
近い第 2 地区の地域住民(約 4000 名)に対して、週 1
ケソン市保健局
度の医師による無料診療、乳幼児の栄養補給食の提
(2003 年∼)
(c)活動内容
供などの医療支援を行い、2000 年までにこれらの医
第一期 緊急支援に伴う訓練とグループ形成期
療サービスは第 2 地区の住民に浸透するようになっ
(2000 年 8∼12 月)
ていた。
崩落事故から 1 ヶ月過ぎた 2000 年 8 月。
何でも収
2000 年 7 月、パヤタスのゴミ山が崩落し、200 名
入が得られる技術を習得したいという女性たちの切
以上の住民が犠牲になるという痛ましい災害が起き
羽詰ったニーズにこたえるために、日本人職員およ
た。この災害をきっかけとして、周辺住民の女性た
びインターンがハンディクラフト、ぬいぐるみなど
ちを中心にゴミ拾い以外で収入を得るためのハンデ
のワークショップを開催した。
毎週1回(計13回) 実
ィクラフトや服飾などの製作技術を覚えたいという
施し、延べ 47 名の女性たちが受講した。受講に当た
ニーズが当法人に寄せられるようになった。
っては、最も厳しい環境にある無職の家庭、母子家
(2)プロジェクトの目的と目標
庭、全員がゴミ拾いの家庭などの女性を優先した。
崩落事故から 1 ヶ月過ぎた 2000 年 8 月、
女性たち
職業訓練履修者の中から 15 名ほどが自助グループ
88
事例 20
を形成していった。
第二期 グループの成長期 (2001 年∼2002 年)
2001 年には自助グループが作業所を開き、習得し
2004 年 9 月現在、これらの研修を受けた者のうち
た技術を使って製作した商品を販売することで収入
5 名が、常時コミュニティヘルスワーカーとして以
が得られるようになった。自助グループ内で選挙が
下の医療支援を支えている。
行われるなどの組織化も進んだ。この頃になると、
a 無料診療 週 2 日 40 名/日ほどの受診者
○
自助グループメンバーが周辺住民への職業訓練の講
b 保健指導 週 1 回
○
師を務めるようになった。2001 年から現在に至るま
c 栄養不良児のための給食 週 5 日 20 名
○
で月に 2 回程度、周辺住民のニーズに応えて、ぬい
d 家庭訪問
○
ぐるみ、服飾、ビーズアクセサリー、山岳民族の手
e ケアセンターの管理
○
地域地図作り、人口データの入手法、
モニターの仕方、上手な話し方
看護師などとともに巡回
織布を使ったハンディクラフトなど個別のコースを
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
実施した。平均 10 名程度の受講者がある。
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
2002 年からはグループの組織化に秀でた調整員
本プロジェクトには、3 つの訓練が含まれている。
を雇用し、自助グループのメンバーを対象に労働倫
① 収入向上のための技術を身につけるための訓
理・価値・規律、チーム作り、自己評価法、計画立
練
案法などの研修を行い、グループの運営能力向上を
② 自助グループの運営能力と技術指導力の向上の
図った。また、毎週水曜日には ICAN の職員とのグル
ための訓練
ープミーティングが定着した。
第三期 地域へ貢献するグループへの発展期
(2003 年∼2004 年)
2003 年になると、自助グループから作業所の自主
③ コミュニティヘルスワーカーとしての技術を身
につける訓練
これらの訓練は、パヤタス地区でも弱い立場にある
運営や医療援助活動への参加などに意欲的な意見が
人々が技術を身につけ、自助グループに加わり、自
出されるようになった。これまでの活動を続けると
立して、今度は自分が弱い立場の人々を支える側に
ともに、8 月に ICAN が地域の医療ネットワークの一
回るという「受益の循環(サイクル)」の重要な位置
翼を担うコミュニティケアセンターを同地区(住民
を占めている。
4000 名)に開設したのを機に、グループのメンバー
を中心として 18 名の住民が、2003 年 10 月∼2004
(a) 自助グループの位置づけ
年6月の間に合計33回のヘルスケアのトレーニング
を実施した。これによって、メンバーの多くはコミ
自助グループ
ュニティヘルスワーカーとして必要な基本的なヘル
(作業所)
ヘルス
ワーカー
スケアの知識や技術を身につけた。講習内容は以下
の通り。
自活
① 感染症等
売上げ
コレラ、腸チフス、結核、はしか、デング熱、
技術
指導
ケア
センター
無料診療
保健指導
栄養改善
周 辺 住 民
肺炎、エイズ、寄生虫、高熱、下痢と脱水症状
(b) 受益の循環
② 処置方法
蒸気吸入、予防接種、包帯の巻き方、
グループ
技術
訓練
産前産後のケア、傷の消毒法、
皮膚から異物を取り除く方法
社会的
③ ヘルスケアの知識
弱者
栄養学、安全な水を得る方法、トイレの大切さ、
経口補水液の作り方、家族計画
指導者訓練
メンバー
医療、技術支援
ヘルスワーカー
技術指導員
図1 自助グループの位置づけと受益の循環
④ その他の知識
89
事例 20
(2)訓練等の計画と準備
ケアセンターの活動は地域で評価されつつあり、受
本プロジェクトはゴミ山の崩落災害を機に緊急に
診者も増加し、
公的診療所とも連携が進みつつある。
始まったため、準備期間がほとんど無かった。2001
また、地域内での NGO や住民組織との間に協力関係
年に自助グループが形成した後は、この自助グルー
を築いたことで、より効果的な活動ができるように
プの成長にあわせて毎年事業目標と計画を見直した。 なった。設定した目標は達成されつつある。
2003 年からは自助グループも計画作成段階から評
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
価まで関わり、住民参加型の手法で実施した。
立発展性
なお、
2000 年 7 月∼2003 年 6 月までは国際ボラン
地域で必ずしも高い評価を得ていなかった女性た
ティア貯金から、2003 年 11 月∼現在までは JICA 草
ちが自助グループを作り、そのグループが地域社会
の根技術支援から資金的な支援を受けた。
に貢献する姿は、地域に少なからずインパクトを与
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
えた。作業所で、ケアセンターで、自助グループの
周辺住民への効果的な訓練の実施には、住民の組
メンバーの自信に満ちた姿が見られた。
織化や積極的な参加が欠かせない。重点地区の住民
医療支援を受けた患者が回復し、
職業訓練を経て、
とミーティングを開き、住民に必要な技術や収入向
自助グループのメンバーになり、さらに、技術訓練
上につながる技術などを話し合った。また、パヤタ
の指導者やコミュニティヘルスワーカーとして、コ
ス地区の NGO や住民組織との間でインターエージェ
ミュニティに貢献する事例も現れ始めている。
ンシーミーティングを開き、お互いの情報交換を行
また、自助グループは作業所の製作品の販売によ
うようにした。これを機にフランスの NGO である
り一定の収入を確保しており、2005 年からは作業所
VIRLANIE などとの連携が進み、他の NGO が組織化し
を組合として法人登記する見込みである。持続的に
た地域での住民への指導も可能になった。
地域への貢献プログラムに参加できる仕組みができ
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
つつある。
周辺住民への技術訓練では、単に技術を学ぶだけ
ではなく、仕入れと売上げの関係、経理方法、マー
4.教訓・提言
ケティングなども学習した。
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
ヘルスワーカーのトレーニングでは、学んだ病気
資金や人材が限られた中でのプロジェクトである
の知識や看護の仕方などを受講者がケアセンター患
ため、
大人数に対する技術訓練ができていなかった。
者に対して説明する機会を設けて、受講者のやる気
習得した技術で作製できる商品の販路に限界があり、
や自尊心の向上を図った。
訓練への参加人数が想定よりも低かった。
また、自助グループへのリーダーシップ研修等を
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
通じて、計画立案、事後評価、作業所運営等につい
今回のプロジェクトでは、他の住民から評価され
て学び、グループへの帰属意識や団結力を高めた。
ていなかった女性たちがグループを作り、チームと
その結果、自分たちの活動であるという意識が現わ
して一つ一つ課題を解決していった。その過程で、
れ、メンバーのほとんど(15 人中 13 人)が、コミュ
女性たちは自信をつけ、地域社会に貢献するまでに
ニティヘルスワーカーや技術訓練指導員として地域
成長した。深刻な貧困状態に立たされた人々は経済
への貢献活動に積極的に参加している。
的だけでなく精神的にも抑圧されており、自分自身
の尊厳を見失っている場合が多い。本当に必要なの
3.プロジェクトの評価
は、時間がかかっても、人々が自信や尊厳を取り戻
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
し、自分本来の姿を回復することのように思う。
限られた資金や人材の中、緊急支援の訓練から形
成した自助グループのメンバー15 名を軸に事業を
最後に、本プロジェクトは、以下のスタッフの努
展開した。メンバーの積極性を引き出すことで、専
力の賜物である。深く感謝する。
門家の協力も得て、4000 名の居住する地域の医療支
プロジェクトマネージャー
援と技術指導のシステムが構築されつつある。
特に、
インターン 佐藤未希、園原ゆりえ、棚橋大介、竹内弥生、
90
伊藤 洋子
事例 20
田村陽子、渡辺奈美子、礒谷在帰子、仲間陽子、宮地厚
調整員
Marites D. E.Cangao、Noel D. G. Felicaiano
看護師
Mariditha C.Corpuz
写真 1 医療支援を受ける女性とその子ども
写真 2 結核から癒えた女性は職業訓練を経て自助グ
ループのメンバーに加わった。
91
事例 21
フィリピン共和国における技術指導プロジェクトの実施とフェアトレード
特定非営利活動法人 第3世界ショップ基金
河村 恭至
1.プロジェクトの概要
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(1)プロジェクト実施の背景
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
フィリピン共和国ミンダナオ島で、看護婦として
フィリピン国内における草紙製品の市場はあまり
医師であるご主人の仕事を手伝っていたロレッタ・
大きくないため、日本などの外国の市場で通用する
ラフィスーラ氏は、産業がなく、島を離れる若者た
商品開発を念頭においてスタートした。日本の専門
ちが多いこの島を若い人たちが希望を持てる島にし
家から技術や知識を学び技術水準を高めること、現
たいと考え、1989 年 SHAPII を設立した。
地の人々の技術水準をできるだけ発揮しやすい製造
ラフィスーラ氏の住む町は、人口約 2 万人の農業
設備を整える工夫を一緒に考えること、日本市場で
と漁業を主要産業とする中規模の町である。当基金
求められる品質の水準を学んでもらい、一緒に商品
が本プロジェクトを始めた 1991 年当時、フィリピ
開発すること、を念頭においてプロジェクトを実施
ン共和国政府による 6 段階のランクで 5+と最下位
した。
近くにランクされていた。上下水道、電気、公共交
(2)訓練等の計画と準備
通機関など全てが必要十分の 10%程度にすぎず、
現地のリーダーと日本の専門家、当基金の三者で
栄養状態も十分でないこの町では、当時は出稼ぎに
協議して、短期的に解決可能な課題を見つけ、その
出る以外に現金収入を得る道はなかった。
解決のための計画を立案し、その計画が実施された
ラフィスーラ氏が始めたのは、「農民の敵」と言
後、次の計画を立案、実施する、という持ち寄り型
われた現地の雑草、コゴン草を使って紙作りを行う
かつヒューリスティックス1な進め方を採用した。
事業である。翌 1990 年の当基金とラフィスーラ氏
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
現地の人々との関係を、単に紙の生産技術の移転
との出会いから、その後現在まで 15 年に及ぶ協働
が始まった。
という単機能の関係にとどめることなく、また、単
(2)プロジェクトの目的と目標
にフィリピンの貧困地域に対して仕事づくり支援を
当基金の最大の特徴は、1986 年から日本国内で
するという一方的な関係にとどめることのない、双
フェアトレード事業を実践している第 3 世界ショッ
方向的かつ多様な関係にすることが、関わる人々の
プのプロジェクト部門として始まった点にある。技
モチベーションを持続させ、訓練後も自発的に事業
術移転プロジェクトは、第 3 世界ショップが持つ日
が継続発展すると考え、実践している。
本市場を活用した商品開発や、その後の製造輸出事
例えば本プロジェクトに関しては、プロジェクト
業に直結する可能性を有している。本プロジェクト
開始から 4 年が経った 1995 年に SHAPII がコーディ
の目標も、日本をはじめとした市場に製品が流通し、 ネーター役を担い、無医村地域への医療プログラム
持続的に現地に雇用を創出し続ける事業にすること
を行った。当基金は日本人医師を派遣するなどして
としてスタートした。
協力した。また、1999 年、2000 年と協力していた
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
だいた日本の専門家は和紙作りの専門家であるが、
フィリピン共和国ミンダナオ島にある SHAPII の
この和紙作りという日本の伝統産業文化は、現在、
工場で実施。草紙の製造技術の訓練と製造設備の供
担い手不足という危機を迎えている。本プロジェク
与を中心に、活動内容は地域の問題解決全般に広が
トの未来には、国内だけでは担い手が足りない日本
った。
1
ヒューリスティックス Heuristics
問題解決法のひとつ。経験に基づいて適切だと考えられる方法につい
て試行錯誤を繰り返しながら、問題の解決法を導く。
92
事例 21
の伝統産業を、広く世界をフィールドとして後世に
ジェクト前にはわずか 10 人足らずしかいなかった
継承する新たなモデルとなる可能性が秘められてい
ワーカーが、数年後には 150 人を超えるまでに成長
るという夢を、協力していただいている日本の専門
した。
家も、それを学ぶフィリピンの職人たちも共有し、
1990 年代後半には、その活動がフィリピン国内
その夢の実現に向かって協働している。2000 年か
でも高く評価され、地元住民からも大きな期待を受
らは、地元で学費がなくて学べない子供達のための
けるようになっていた。その結果、SHAPII には地
奨学金プロジェクトを SHAPII がはじめたため、当
元住民が現金収入を求めて殺到する状況となった。
基金でもカンパを日本国内で募り、協力している。
収入に比べてワーカーが多すぎるため、1 人 1 人に
このように、プロジェクトに関わる人どうしが夢
はフィリピン政府が定めている最低賃金程度しか支
や志を共有して相互の地域の問題解決に協力し合う
払うことができなかったが、他に期待できる職場の
関係をマッチングしていく工夫をしていくことは、
ない地元住民の SHAPII への期待はとどまらず、そ
こうしたプロジェクトを成功させる上で大変効果的
の期待に応えるだけの雇用と収入を作り出すことが、
だと考えている。
SHAPII の課題となった。2000 年には、SHAPII で仕
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
事を得る人の数は 300 人を超え、当時のラフィスー
短期間である程度の成果が出るプロジェクトを実
ラ氏はこう語っていた。
施し、その成果を実感することで関わる人々のモチ
「現時点のわたしの願いは、すべてのワーカーに、
ベーションは持続し高まる。また、そうした小さな
生活するのに十分な給料を出すことです」
成功事例の積み重ねや関わる人々の活力が、新たに
そして、ラフィスーラ氏と当基金とで話し合った
人が集まってくる求心力になる。
結果、生産物である紙そのものの品質のさらなる向
ものの作り手が最も成果を実感できるのは、作っ
上と生産効率の向上が経済性の向上に結びつくと考
たものが売れることであるため、第 3 世界ショップ
え、1999 年より、次なる技術移転プロジェクトに
では、SHAPII の製品を輸入することにより、
取り組むこととなった。
SHAPII の活動を経済面と精神面の両方で支援して
2004 年現在、SHAPII で仕事を得る人の数は 400
いる。自分たちが生まれ育った町で、自分たちのま
人を超えている。ほんの 15 年前まではほとんど産
わりにある草花を使って作った製品が、海を越えて
業と呼べる産業がなかった小さな町で、一人の女性
日本の人たちに評価され、売れ続けていることは、
が、自分の生まれ育った町で仕事と希望を得られる
現地の作り手たちの何よりの励みになっている。
地域にしたいと願った夢は、確実に広がっている。
ラフィスーラ氏は、さらに求心力を高めるため、
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
事業によって生まれた余剰の使い方についても面白
立発展性
い取り組みをしている。それは、余剰を三分割し、
上述のとおり、本プロジェクトにより当基金とと
3 分の 1 は SHAPII の内部留保とし、3 分の 1 はワー
もに成長してきた SHAPII は、地元住民では知らな
カーの貢献度に応じて分配し、3 分の 1 は地域の問
い人がいないほどのインパクトを地域に与えている。
題解決のために使う、という試みである。これは第
単に現金収入を得られるというだけでなく、医療や
3 世界ショップが日本において実践している経営方
教育など、地域の人々の生活水準の向上に多様な貢
針をラフィスーラ氏が聞いて真似たものであるが、
献をしている。
これがワーカーたちのモチベーションをあげるとと
表題について説明をする代わりに、ラフィスーラ
もに、地域の中で SHAPII の名を知らしめ、SHAPII
氏が当基金にあてたメッセージを以下に紹介する。
が地域で求心力を持つ結果につながっている。
「私は、それぞれのフィリピン人たちが、自分の国
と、自分たちがフィリピン人であることに誇りを持
3.プロジェクトの評価
ってほしいと思っています。そして威厳を持って、
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
自分たちを国際社会の輪の中の一つに数えてほしい
1991 年、当基金が機材提供と技術協力を行った
と思います。私たちの国に満足のいく給料の仕事が
ことにより SHAPII の事業化は劇的に進んだ。プロ
ないということで、他の国で生活しようとしている
93
事例 21
フィリピン人たちが搾取され、傷つけられていると
していくことにより、生産量だけでなく紙の品質も
いうことを聞きたくないのです。フィリピンの人々
高めることである。例えば、紙の品質を測るいくつ
の発展というのが、私が紙作りを始めた本当の動機
かの基本的要素の 1 つとしてインクのにじみ止めが
です。でも今では、私は手漉き紙の魅力にすっかり
あげられる。現時点では簡単な挨拶状程度にしか対
とりつかれてしまいました。最近では、この仕事は
応できないため、主に非日用品の商品開発が行われ
私たちの生活そのものになっています。私たちを知
ているが、細かい文字を細いボールペン等で書ける
ることで、人間はすばらしいものを作り出すことが
程度の品質の紙をある程度の量を作ることができれ
できるのだとみなさんを驚かせたいと考えていま
ば、用途が広がることによるマーケットの拡大がで
す。」
きる。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
4.教訓・提言
本プロジェクトのように、関わる人たちの多くが
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
ボランティアで協力する場合、注意すべきなのは
本プロジェクトの中心にあるのが、草紙の製造、
「自己実現」という言葉を誤解した関わり方だと考
及び草紙から作られた商品の生産である。草紙の製
える。「自己実現」を「自己満足」と誤解して、一
造工程は、原料の刈り取り−>乾燥−>切断−>化
方的な訓練に終わっても訓練をした側だけが自己満
学処理
(蒸解)
−>叩解−>漉き上げ−>乾燥、で、
足してしまうことがある。しかしそれではプロジェ
最も重要な工程と言われているのが「叩解」と言わ
クトは成功しない。言い換えると、自己実現とは自
れている。この工程で草の繊維が柔らかくなり、繊
分が貢献することができる自分以外の存在を意識す
維同士が絡みやすくなるが、逆にこの工程が不十分
るところから始まり、自分以外の存在から役に立っ
だと紙はバサバサで弱いものになるため、品質に大
たときちんと評価されるまでやり続けることで達成
きく影響する。そして、この叩解には機械が使われ
されるものと考える。
ているが、機械の性能だけでなく、その機械を扱う
そのような自己実現を達成するためには、やって
職人の技術が大きくその出来を左右する。
あげる、という一方的な姿勢では難しい。一緒に仕
1999 年、生産能力と品質向上を目的として、当
事をすることを通じて、お互いが自己責任に基づい
基金はこの叩解に使用する機械(ビーター)を供与
て自立度を高めながら、一方でお互いを必要とし、
した。そして 2000 年には、山梨県在住の和紙づく
磨き合う関係を作ることが、自己実現にもプロジェ
りの専門家、笠井伸二氏を派遣し、ビーターの使用
クトの成功にも必要と考える。第 3 世界ショップと
方法の基礎を教えた。
SHAPII との関係はその好例と言える。
笠井氏が指摘した問題点は次のとおり。
上述のような関係を育てるためには、プロジェク
・ 原料の煮熟方法
トの実践にあたってお互いに獲得できるもの、獲得
・ 原料の水洗い不足
したいもの、を明確にしておき、随時検証していく
・ ビーターに入れる原料の濃度と水量
プロセスが必要である。プロジェクトに関わる人は
・ フライバーロールの下げ方不足
みな、自分は何を獲得したら成功と言えるのかを自
・ 晒しの方法
分自身で明確にしておき、期間を区切って検証をし
これらはメモにして生産者に渡したが、実際に
ていくとよい。一緒に働くことで相互に獲得したい
やって見せなければ通じないなど、まだまだこれら
ものをきちんと獲得し合える関係が、多様な交換が
の問題点は改善されていない。生産者からも、この
成立する関係であり、そのような関係のもとに行う
ビーターを導入することにより生産量は上がったが、 プロジェクトは持続し、発展していくことが期待で
品質の幅には効果が表れていない、という自己評価
きる。
が寄せられており、まだビーターの性能を十分生か
このように、関係づくりを意識することが開発プ
しきれていない、と笠井氏は指摘する。
ロジェクトの成功には必要であり、逆に言えば、そ
従って、本プロジェクトの現時点における課題は、 ういう関係を世界の様々な地域の人々と日本の人々
1999 年に供与したビーターの使い方をさらに訓練
との間に作り、育てていくことが、このようなプロ
94
事例 21
ジェクトを実践する意義であると、私たちは考えて
いる。
写真 1 ラフィスーラ氏
写真 4 カード
写真 2 医療プログラム
写真 5 カレンダー
写真 3 押し花つけ
95
事例 22
フィリピン共和国における職業訓練向上計画プロジェクトの実施
千葉職業能力開発促進センター 久米 篤憲
(元 JICA 専門家 カリキュラム・教材開発)
1.プロジェクトの概要
介する PDM を参照願いたい。
(1)プロジェクト実施の背景
本プロジェクトの協力要請が日本政府に対して行
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
われたのはアキノ政権の末期であり、事前調査に入
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
ったのはラモス政権発足後 6 ヶ月後の 1992 年 12 月
要請内容は TESDA の職業訓練実施・研究開発部門
のことである。
である国家技術職業教育訓練機関(NITVET)において、
ラモス大統領は一定の経済成長を維持するととも
以下の分野にかかる技術移転によりフィリピンの職
に、国際競争力を持つための中期フィリピン開発計
業訓練を向上させることにあった。
画(1993-1998)の 3 つの大きな柱の1つが人材開発
① 訓練施設管理者の教育訓練(教材・機材管理、
のための効果的な戦略の開発であるとし、大きくマ
訓練生管理、指導員訓練の企画・運営等)
ンパワーの育成の必要性を述べている。その実現に
② 訓練施設の指導員を対象とした指導員向上訓練
あたってはこれまでの殻に閉じこもることなく構造
(新技術訓練、教材開発、指導技法訓練)
改革も視野にいれたスケールの大きなものとなって
③ 訓練施設管理者および指導員を対象とした
いる。その具体的なものの1つに TESDA(技術教育技
情報処理(各種データ処理及び分析)
能開発庁)の誕生がある。
「職業訓練向上」の名称を冠したプロジェクトで
TESDA は貿易の自由化と国際競争への挑戦に見合
あることから、従来の職業訓練プロジェクトと異な
う労働力を形成する国の指導的基幹として、また、
り、職業訓練のハードからソフトの技術移転を重要
職業訓練の実施機関として 1994 年 8 月 25 日付けで
視した点が特徴である。具体的には、機械技術や電
法律により規定され、これまでの職業訓練を中心と
気技術といったスキルや知識(ハード面)の技術移転
して実施してきた NMYC(全国労働力青年評議会)、教
から職業訓練のニーズ把握からカリキュラム開発、
育・文化・スポーツ省の専門職業教育、そして労働
実施の指導法、訓練の評価の手法(ソフト面)を技術
雇用省の養成工プログラムの機能を総合して発足し
移転の主体に据えたことである。これらの手法を
た。このことにより、これまであった正規技術教育
TMC(Training Management Cycle)というシステムと
と非正規技術教育との壁を緩和することにもなった。 して体系化した。図 1 は TMC のコンセプトを表した
(2)プロジェクトの目的と目標
もので、訓練の実施評価(訓練受講者の目標達成度)
フィリピン政府の要請を受けて具体的な目標や目
を受けて、
「実施したコースはニーズを満たしたか」
、
的を PCM(プロジェクトサイクルマネージメント)手
満たしていない場合は「用いた教材の問題なのか」
、
法を用いて PDM(プロジェクト デザイン マトリッ
「指導時間(カリキュラム)に過不足があったのか」
、
クス)として構築した。末尾に PDM を紹介する。
「指導した方法(講義や実習)に問題があったのか」
(ちなみに、本プロジェクトは JICA が PCM 手法を始
などを検証して次回の訓練にフィードバックするこ
めて導入して構築した経緯がある。
)
とを前提にしている。
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
プロジェクトでは、訓練管理、カリキュラムと教
プロジェクトはフィリピンの首都マニラにある
材開発、機械、金属、制御の 5 分野に派遣された専
TESDA の職業訓練実施・研究開発部門である国家技
門家の指導のもとで、C/P(カウンターパート)が TMC
術職業教育訓練機関(NITVET)に新築された家屋にて
の流れで訓練コースを開発し、試行訓練(Trial
実施された。
Training)に施設管理者や指導員を参加させて実施
実施体制や活動内容については、同じく末尾に紹
し、TMC の普及を図った。
96
事例 22
な目標達成率は 90%である。
平成 10 年 10 月に行われた終了時評価ミッション
訓練ニーズの把握
は、
「当初計画されたプロジェクトの目標は達成され、
さらに、上位目標に向かっている現状からプロジェ
クトは成功したと判断できる。その上で、今後とも
訓練コースの設定
継続して上位目標に向けて、フィリピン側の努力を
望みたい。
」と提言している。
プロジェクト成功の原動力になったのは言うま
カリキュラムと教材作成
でもなく、優秀な人材(カウンターパート、専門家)
が揃っていたと言うことであるが、それにもまして、
訓練の実施
フィリピン側に職業訓練を根底から見直そうとす
る体制と日本からの技術を吸収しようとする姿勢
があったからだと思える。
訓練の評価
JICA における長い職業訓練分野での技術協力の
図1.TMC コンセプト
歴史の中で、ソフトの技術移転を中心としたプロジ
ェクトは今回が始めてでもあり、専門家集団にもか
(2)訓練等の計画と準備
なりの戸惑いがあったことも事実である。このたび
プロジェクトの期間を大別すると、創世記と発展
の経験により、これからの職業訓練分野での技術協
期とに分けることができよう。
力に新たな方向性を示すことができた点で日本側
創世記の 3 年間は TMC のコンセプトをカウンター
にとっても貴重な体験ができたと思われる。
パート全員にとにかく理解させることに全力が注が
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
れ、この期間に派遣された長期専門家とカウンター
立発展性
パートが共に訓練センターや企業を訪問し、具体的
開発途上国に限らず、本邦における職業訓練に関
な技術移転項目を洗い出すベンチマークサーベイや
しても、国の経済発展を支援する人材育成の計画や
技術移転の教材整備等準備に費やされた。
実施に関しては、官庁や中央組織のリーダーシップ
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
が重要な要素となる。しかし、中央による掛け声や
プロジェクトの発展期には、全国の訓練センター
指示は、時としてトップダウンの体制を醸成してマ
から多くの指導員や管理職を招集して、TMC セミナ
ンネリ化を促し、訓練現場に勤務する指導員の自発
ーに参加させ、プロジェクトで製作したビデオで
的な活動を阻害する。この点、TMC による訓練の準
TMC のコンセプトを紹介し、試行訓練にて体験させ、
備・実施・評価などは指導員が先頭に立つこと(ボ
TMC マニュアルを利用して現場で応用させるという
トムアップ)を示唆しているために、指導員に対し
流れを構築する取り組みがなされた。
て大きなインパクトを与えたものと判断している。
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
また、技術協力の最終課題はプロジェクト終了後
プロジェクト期間の修了を控えた時期に、実際に
の自立性(Sustainability)である。
試行訓練に参加し受講した指導員や管理職が勤務
この命題を解く鍵は、このフィリピンにおいては
する訓練センターを訪問し、フォローアップ訓練を
施設管理者をはじめ TESDA の指導者の TMC に対する
実施した。
認識とそれを支える努力いかんにかかっている。
そのため、プロジェクトの最終段階において、ロ
3.プロジェクトの評価
ーカルの訓練施設長に対して、TMC のコンセプトと
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
その仕組みを理解するためのセミナーを実施した。
プロジェクト期間中の試行訓練受講者目標の
少なくともこのセミナーを継続して行い、一人でも
1145 名に対して、
実際には延べ 1029 名が受講した。
多くの施設長が TMC を理解し、その推進力になって
受講者の中には数回受講した者が存在するが、単純
もらいたいと願っている。また、協力対象となった
97
事例 22
機械、金属加工、制御分野の関係指導員だけでなく、
広く全職種の指導員を対象とした TMC 訓練を継続し
に留まることができなかった。
まず、指導員に求められる能力・資質として①十
て実施し、普及に努めてもらいたい。
分な専門的技量を有していること ②効果的な指導
ができること ③訓練受講者に対して公平であり向
4.教訓・提言
上心を持たせるような姿勢であること が挙げられ
(1)プロジェクトおよび訓練実施上の問題点・課題
る。
議論はこの①と②の優先度にあった。
図1の
「TMC
TESDA の発足に伴い、フィリピンにおける職業訓
コンセプト」を借りれば、第 3 ステップの訓練の実
練の包括的な実施体制が出来上がりつつあるが、公
施に対する技術(スキル)
移転と第 1 ステップから第
共職業訓練施設にみられるような施設設備、機材の
5 ステップ全体の技術移転のどちらを優先させるか
老朽化に対しどのように対応していけるのか、マン
と言い換えることができるだろう。具体的には「指
パワーの育成の鍵を握る職業訓練指導者の養成を
導員として十分な専門的技量を有していない者に対
どうするのか、職業訓練の最終目標である卒業生の
して指導法を優先しても指導内容が向上するとも思
就職率の向上は可能なのか等多くの課題を抱えて
えない」という生の意見がある一方、「ニーズ調査の
いる。
把握からコース設定、
カリキュラム編成と教材開発、
また、TESDA は、情報発信基地としての役割上か
訓練の実施、そして評価の方法までを体系的に指導
ら情報システムの改善とコンピューター化が急務
しなければ、プロジェクトの主旨やフィリピン側か
とされている。
らの要請に応えられない」
という論点の相違である。
長期的にはフィリピンの労働法典にうたわれて
いずれにしても同時進行で技術移転が行われて、そ
いるように、教育制度も国が文化的、経済的な発展
れなりの成果を見たと信じている。
をしていくためには、最適な労働力の配置、開発、
フィリピンの生産現場に根ざした技術に関するス
利用という見地から計画されるべきものであるし、
キルアップは現地の指導員の自己啓発に期待する部
専門的な職業に就く人々の養成機関である大学を
分が大きいし、現地指導員の自負と責任でもある。
含めその総合的な労働力開発計画を策定する機関
それより、どの職業訓練コースが重要なのか、国の
として TESDA が位置づけられているからには、
TESDA
経済発展戦略や地域の地場産業などのニーズに着眼
本庁の指導体制そのものの強化が最も重要な課題
したコース開発やそのカリキュラム編成を指導員が
であると思われる。
できるようになることはスキルアップと同様に重要
また、指導員は訓練施設や企業において人づくり
である。でなければ、訓練コース実施による目的達
を担う人材であり、能力開発のリーダーとしての役
成評価や改善がなされないからである。この議論は
割を演じることとなる。
今後もいたるところで展開されるだろう。
工業立国を目指すフィリピンにおいて、いま望ま
プロジェクトが終了して 5 年が経過したが、その
れるのは単なる生産現場の労働力となる技能工の
後の評価が行われていない。その後 TMC は、JICA の
養成ではなく、能力開発のリーダーを養成すること、 集団研修コース「職業訓練向上セミナー」として、
人材育成の中核となる指導員を養成することであ
その成果を世界各国の多くの途上国指導員に紹介し
る。
てきた。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
また、私個人としても、JICA 専門家として 3 年に
本 プ ロ ジ ェ ク ト の 特 徴 で あ る TMC(Training
渡って UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)教
Management Cycle)の普及については派遣された専
育局本部で TMC を紹介し、実際に看護師養成コース
門家間でも大きな議論が続いた。
案件を立ち上げた経緯がある。
その背景には、職業訓練指導員の役割の捉え方に
この TMC のコンセプトやそこに用いられている幾
それぞれ個人差があったからだと思える。
つかの手法などが、他の職業訓練分野をはじめとし
「指導員が日常業務で最も費やす時間は、訓練の準
た技術協力に応用、
実践されることを期待している。
備と実施、そして評価(テスト等)である」という共
通した認識はあったが、このプロジェクトではそれ
98
事例 22
表 PDM(プロジェクト デザイン マトリックス)
プロジェクトの要約
目標・成果の指標
上位目標:
フィリピンにおける職業訓
練管理者および指導員の訓練
実施能力の向上に貢献する。
1.カリキュラムおよびソフト
ウエアの開発に関する能力
指標データ入手手段
外部条件
NITVET-TESDA
1.TMU の定例化
の年次報告
(TMU:TMC 管理ユニット)
1)TMC の活動計画
2)TSC の報告書
1.試行訓練
(TSC:TMC 運営委員会)
2.試行訓練実施
の向上
2.管理者および指導員の資
質の向上
2.機械器具の
整備
3.訓練に必要な
十分な予算
プロジェクト目標:
TMC を基に、現状の職業訓
練コースのカリキュラム、教
材開発などを行い、
NITVET-TESDAの管理者および
指導員に対して職業訓練を実
施するために必要な能力の向
上に寄与する。
1.C/P が企画した試行訓練
成果:
1.TMC に基づき管理者訓
練・指導員訓練を実施す
ることが可能な C/P を育
成する。
2. TMC に基づき管理者訓
練、金属加工、機械、制
御の各分野の訓練コース
を開発する能力が向上す
る。
1.C/P により開発された試行
活動:
TMC に基づく管理者訓練の
調査・企画・開発・実施・評
価のための以下の項目にかか
る技術移転
①TMC 委員会の運営
②基礎調査の実施
③ニーズ調査の実施
④訓練の企画
⑤カリキュラム・教材
の開発
⑥試行訓練の実施
⑦評価
投入:
前提条件
(日本側)
1.TMU とスタッフの
の実施。
2.プロジェクト修了時までに
C/P が TMC を熟知し、自ら
カリキュラム、教材開発を
行える。
3)モニタリングシート
4)プロジェクトの
実施報告書
5)年次計画書
6)基礎調査
7)基礎調査報告書
8)プロジェクトの
実績報告書
1)TMC 活動計画
訓練コースおよびそれに伴
2)TSC 報告書
う教材教具
3)モニタリング報告書
2.TMC 等の十分な技術移転
3.教材の管理、活用状況
1.長期専門家
4)プロジェクトの
7 名/年 × 5 年
4 名/年 × 1 月
3.研修員の受入 3 名/年 × 2.5 月
4.供与機材
のための予算
の確保
1.C/P の転職
防止
2.十分な予算の確
保
実績報告書
(リーダー、調整員、専門家)
2.短期専門家
への参加
配置
2.十分なバックグ
ランドを持った
C/P
3.試行訓練に必要
なスペース
(フィリピン側)
4.TESDA の設立が
1.カウンターパート 30 名
プロジェクトに
2.予算(ローカルコスト)
影響を与えない
3.土地及び建物
こと
十分なスペースと快適環境
99
事例 23
フィリピンにおける手工芸品実務者育成事業
特定非営利活動法人 地球ボランティア協会
専務理事 稲畑 誠三
1.プロジェクトの概要
金協力の援助を受けた。
(1)プロジェクトの実施背景
「一日も早く収入を増やし雇用をもたらす措置を
表 1 プロジェクト概要
強く望む」――これはフィリピン国バタンガス州タ
ナワン市住民の声だ。現地のカウンターパートが同
期 間
2004 年 4 月∼2005 年 3 月(1 年間)
市で行なった調査結果で判明したことである。
タナワン市は最近になり、州の産業中心地となっ
た新興工業地区である。
しかし、
不安定な経済情勢、
実施場所
フィリピン国バタンガス州タナウワン市
費用総額
1200 万円
直接裨益者
58 名
雇用のミスマッチにより、地域住民の雇用・収入は
不安定な状況にある。常勤の工場労働者の平均収入
は月 5000 ペソ、農家の平均収入は月 3000 ペソ(1 ペ
現地カウンターパートと共同実施
ソ=約 2.5 円)。同市では家族は平均して 6 人。5 人
実施体制
※詳細は表 2 参照
家族における貧困ラインが月 7000 ペソであり、
それ
を大きく下回っている。住民は安定した雇用と収入
1.
を強く望んでいるのである。
(1 期生の募集及びトレーニング、センター設備
上記の問題をどう解決するのか。市場のニーズに
手工芸品実務者育成センターの設立・稼動
の配置、スタッフの選考・配置、センターシス
応え、地域住民の雇用を促進する斬新なプログラム
テム、方針・手順の制定、システム導入・審査)
を実施することが、上記の問題に対する正しい解答
2.
のひとつであろう。
(市場評価の実施、製品開発、量産開始)
(2)プロジェクトの目的と目標
3.
目的(上位目標):対象地域の住民の所得向上が達
活
成される。
目標(プロジェクト目標):1 年後にタナワンのコ
動
ミュニティにおいて、手工芸品生産のための能力開
内
発が軌道に乗り、実務者が育成される。
容
製品のマーケティング
(マーケティング、販路開拓)
4.
1 期生 58 名の輩出
(次期訓練生の募集及びトレーニング、卒業生に
よる訓練生の指導)
5.
今回、プロジェクト内容を「手工芸品実務者育成」
とした理由は、以下の通り。
製品ラインを設置
センターの活動と連携した協同組合の設
立・登録
(情報提供、コミュニティ会議、中心グループの
① 市場のニーズに答え、
地域住民の雇用を促進でき
形成、2 つの協同組合設立・登録)
る。
6.
② 地域の資源(人・もの・ネットワーク)を活用でき
バランガイ(最小規模の行政単位。日本の
町村程度の大きさ)へのプロジェクト・起
る。
業家精神の浸透
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
(情報提供・教育キャンペーン、バランガイ行政
プロジェクトの実施場所、活動については表 1、
機関にプロジェクトの支援を要請)
実施体制については表 2 にそれぞれ詳細が示してあ
る。フィリピンの現地 NGO、KHFI(Kabalikat sa
Hanapbuhay Foundation)が当協会のカウンターパー
トである。この事業は外務省の日本 NGO 支援無償資
100
事例 23
表 2 実施体制
KHFI(現地カウンターパート)
地球ボランティア協会(GVS)
両団体のミッション・長期計画に沿った優先プロジェクトの協議
計画段階
プロジェクトサイトの候補地リストアップ
プロジェクトサイトのスクリーニング
プロジェクトサイトでの個別インタビュー
ワークショップへの人員の派遣
ワークショップ(参加者・問題・目的分析等)
プロジェクトの要約検討
質的・量的情報入手のための調査
プロジェクトの要約をもとにした投入計画・
プロジェクトの要約作成
資金計画・技術サポート等を検討
資金開拓
プロジェクトの内容に関する協議、活動計画表の作成
活動計画に沿った運営管理
実施段階
現地人スタッフによる通常モニタリング
(毎週)
評価段階
中間・終了時・事後評価の実施
日本人専門家・ボランティアの派遣
日本人スタッフによる定期モニタリング
評価への人員の派遣
(2)訓練等の計画と準備
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
手工芸品実務者センターを新たに建設し、織物・
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
このプロジェクトにおいて職業訓練はもっとも重
木工製品作成に必要な機器を導入した。訓練の計画
要な位置づけにある。手工芸品の実務者を育成する
は現地カウンターパート KHFI を中心に、
地球ボラン
ことがこのプロジェクトの一番の目的であり、その
ティア協会(英語名 Global Voluntary Service;略
成功を裏付けるためにマーケティングや実務者育成
称 GVS)も参加し決定した。実際の訓練コースの概要
センターの設立を並行して進めている。
は表 3 のとおりである。これらの実務的訓練に平行
して、働くことに対する前向きな価値観を身につけ
るための時間も提供されている。
表 3 訓練コース概要
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
コース名
(a)専門家の派遣
コース目標
訓練内容の質の向上を目的に、日本から専門家を
基本的な手織り工芸
発展的な手織り工芸
手織りの基本動作・基本的デザイン
の習得など
派遣し、手工芸品製作の指導にあたっている。専門
家は日本シルバーボランティア協会の協力で紹介を
機織りのデザイン習得・デザイン分
受けた京都の木工製品専門家を本協会が選定し、技
析など
術、知識・ノウハウの向上に努めた。
(b)マーケティング手法の導入
セルロース系繊維の
染色
地域原産繊維(アバカ)
の染色
家具、戸棚の製作
原材料への前処理・染色の習得など
製作された手工芸製品を市場に送り出すことで、
常に市場・顧客からのフィードバックを受けること
ができる。このフィードバックを次の訓練の計画に
原材料への前処理・染色の習得など
反映させている。
(c)協同組合の設立
製図・製作のための技術・安全な
プロジェクト対象住民の間で協同組合を設立する
ことにより、住民同士の横のつながりを構築し、プ
作業の実施など
ロジェクトへの参加意識の向上を達成する。これに
手工芸品の製作
品質の高い手工芸品製作の技術習得
101
より心理的な面で、効果的な訓練が可能になると考
事例 23
える。また、協同組合の設立は下記に述べるように
品の加工に利用できるテーブルソーが単に固定丸の
プロジェクトの継続性も考慮している。
こぎりとして使われていたこと。工具の電源コード
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
のソケット部が壊れたまま使用されていたことなど
(a)協同組合の設立
である。工具の寿命・使用上の安全管理の面から問
プロジェクトが軌道に乗り始めると、われわれ
題があった。これらの問題に対応するために機械工
GVS やカウンターパートである KHFI の手を離れ、参
具の整備、作業場の清掃、参加者向けの研修日の設
加者が主体的に運営をしていけるようになるために、 定などを行う予定である。
協同組合を設立している。
また、更なる研修の充実を目的に、機械工具の追
(b)訓練生のサイクル確立
加や、施設の改善も検討中である。
実務者育成センターを卒業した参加者が次の訓練
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
生の指導にあたることにより、継続的なプロジェク
当協会がこのプロジェクトを実施してから得られ
トの発展を可能にしている。
た教訓は二つある。
まず一つ目に、プロジェクト参加者が研修日誌と
3.プロジェクトの評価
もいうべき記録をつけることの効果である。日誌に
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
その日行った作業や習得した技術、
感想などを記し、
このプロジェクトの妥当性に関しては、このプロ
指導員がコメントを書き加えて返却する。これによ
ジェクトが現在も進行中(執筆時点)であるため現段
り書きためた日誌が本人にとってテキストになる上
階での評価は難しいが、現時点でもこのプロジェク
に、
指導員との密なコミュニケーションも成り立ち、
トは地域において優先度が高く、意味のあるものと
指導が継続的に生かされていく。
して継続している。
二つ目の教訓は参加者が自分の基本工具セットを
また、目標達成度は現時点ではほぼ達成されてい
コース修了時に所有できることによるインセンティ
ると見ている。プロジェクト目標である実務者の育
ブ向上の効果である。プロジェクトの研修コース開
成は計画通り軌道に乗り始めており、第一期生 18
始時に基本工具セット(鋸、鉋、のみ、金槌、きり、
名がすでに研修コースを終えていて、2004 年度中に
スコヤ、スケール、小刀、釘抜きの 9 点セット)をそ
58 名の実務者が育成される予定で進んでいる。活動
れぞれ与え、各々の責任において管理・整備を行い
計画の成果も問題なく進行している。
ながら使用していく。これにより道具に対する維
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
持・管理意識が生まれることはもちろん、技術の成
立発展性
長への向上心も生まれる。またこの基本セットさえ
現在までにこのプロジェクトが地域に与えたイン
持っていれば基礎的な作業はできることから、研修
パクトとしては、住民の意識向上が挙げられる。地
コース修了者の自立発展にも寄与することができる
域に手工芸品センターが設立されたことや、高価な
のである。
機械工具が何台も導入されたことにより、個々の研
修生のプロジェクトへの参画意識が醸成され、彼ら
の間の連帯感も強まっている。
自立発展性に関しても、プロジェクトが進行中の
現時点では評価は難しいが、プロジェクト参加者に
よって設立された協同組合が今後主体的にこの事業
を先導してくれることを期待している。
4.教訓・提言
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
知識と良い習慣の不足から不適切な工具の使い方
写真 木工製品製作の作業風景
を一定期間続けていた例があった。例えば、木工製
102
事例 24
フィリピン西ネグロスにおける養蚕プロジェクト
財団法人 オイスカ
事務局次長 木附 文化
1.プロジェクトの概要
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(1)プロジェクト実施の背景
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
サトウキビの島といわれたフィリピンネグロスは、
特にスタッフ養成のための研修を最重点項目とし
砂糖の国際価格の下落が、サトウキビプランテーシ
た。養蚕は生き物が相手であり、約一ヶ月の間、蚕
ョンで働く人々の生活に甚大な影響を与えた。農業
の管理、育成に集中しなければならない。病気にか
労働者としてしか働くことを知らない多くの農民は、 からないように気を張って、場合によっては夜を徹
現金収入が途絶えることによって、生活が困窮し、
して仕事をしなければならない。熟練技術と同時に
日々の食料の確保にも難儀するようになった。その
そのような気持ちのこめ方、献身、気配りの大切さ
ため、オイスカでは1981年4月、食糧自給のための農
を研修において伝えた。たとえば、農家を巡回し言
業を促進するため、
農民の現場研修を行うとともに、
葉で技術や知識を伝えるだけでなく、場合によって
現金収入を得ることができるように地場産業を振興
は鍋釜もって泊り込みでも指導するという意気込み
することを検討した。
が重要であるということを本研修の要諦とした。
(2)プロジェクトの目的と目標
さらに、蚕を買い上げ、それを糸にして販売する
地域住民が、地道に働くことを学び、蚕を飼い繭
ところまで、プロジェクト内活動としているが、ス
を作り販売する技術を学び、養蚕事業に参加し、実
タッフの中から研修生を選んで、製糸機械運転など
際に現金収入を得ることができるようにする。農民
の研修も行った。
から買い上げた繭を糸にして販売し、最終的に地場
(2)訓練等の計画と準備
産業として定着させる。近隣の住民は、貧困故に森
養蚕技術および普及について学ぶ研修員は、まず
林を伐採し、まきや生活資材に活用するが再植林の
バゴ研修センターでの総合農業研修受講生から選ば
習慣がない。そのような近辺の山々に桑を植え、緑
れた。農業は実際に身体を動かし、土を作り作物を
で覆って、その効用を得ることなどを目標とした。
管理し育てる活動に自ら従事しなければ身につかな
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
い。したがって、野外の農場現場での訓練は最も重
フィリピン西ネグロス州バゴ市タブナンに1981
要な要素である。汗をかき、熟練技術を身につける
年オイスカ農業研修センターを設立。この地域の飢
ことをいとわない人間を育成することを目的とする。
餓から農民を救うために、総合農業、特に食糧生産
養蚕プロジェクト参加農家は、養蚕だけでなく日
のための研修を行う基盤を築いた。センター所長渡
ごろは農業も行っているので、そのような農家に対
辺重美が中心となりプロジェクト活動を開始。日本
する指導力充実を目指して総合農業(稲作、蔬菜、畜
から養蚕の専門家を短期的に繰り返し派遣し、この
産など)も一通り学ぶことを前提とし、
その卒業生の
センター施設と、すでに農業研修を受けた研修生の
中から養蚕研修員を選び、バゴにおける養蚕実践を
中からさらに養蚕技術研修生を選考し養蚕研修を実
通じた現場研修を継続的に行った。その中から、日
施。卒業生をスタッフ(管理部員、普及員、巡回指導
本の養蚕農家に1年間派遣し、
さらに技術を高める研
員)として雇い、プロジェクトを推進した。養蚕プロ
修機会を与えた。多くの場合、日本にある技術はそ
ジェクトは、最初数軒の参加農家を募り、1990年開
のままフィリピンなどの地域に移転できないが、養
始したが、次第に農家数を増やしてきた。2003年度
蚕に関しては応用や修正は極小ですみ、ほぼそのま
は27名のスタッフが、約200戸の農家を巡回し、また
まネグロスで実践できる。したがって日本の養蚕篤
定期的なワークショップを実施して、
桑の植え付け、
農家のもとでの研修が、研修生のしっかりした動機
蚕を飼う方法を指導し、繭の生産を行っている。
付けを前提として行われた。
103
事例 24
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
ロスの地域にも及んでいる。このプロジェクトで生
研修が、技能の習得だけでないことを強調した。
産する生糸はフィリピン全体の生産量の90%近くに
特に日本の養蚕農家は、長年養蚕を続け、高い技術
及んでいること、また高い潜在需要が見込まれるこ
を持っている農家であると同時に、
基本的な考え方、
とから、西ネグロス州政府はもとより、中央政府も
信念を持っている。たとえば蚕は生き物であり、養
このプロジェクトに注目し、生糸を使ったシャツ、
蚕を成功させるためには真の「愛情」
を蚕に注ぐこと
民族服の生産を奨励している。
が重要だとか、「蚕」と会話する気持ちでいろいろな
今後の重要課題は、自立発展のためのフィリピン
作業に専念せよとか、常に経営者として考えながら
の人材育成を強化することである。プランテーショ
作業を行えとか、3歩ですむところを5歩歩いて作業
ンの農業労働者のメンタリティ、生き物を一定期間
するようではだめでそれぐらいの合理化を考えよ、
集中的に管理し、育てるという考えなどの基本を身
などといった考え方である。養蚕農家によって使う
に着けた農家が生まれてきたことから、もうしばら
言葉は少しずつ異なるが基本は同じである。そのよ
くは技術指導、舵取りを手伝いながら自立発展して
うないろいろな養蚕農家で研修を受け、心構え、経
いくことを期待している。
営、技能、知識を学ぶことを強調した。
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
4.教訓・提言
研修を受けてプロジェクトに従事しているスタッ
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
フの能力強化を行い、スタッフがこの養蚕プロジェ
1980年代から農業研修を行い、農民の自立、食糧
クトを成功させるために、お互いに話し合うことを
自給達成を目指して研修活動を続けてきた。そのよ
習慣づけ、いかに協力しあうかなど、継続的に努力
うな地道な活動が実を結んだといえるが、これだけ
している。
プロジェクト活動そのものが研修であり、
の時間と資金、エネルギーがかかったということも
勉強の機会であることを強調する。つまり、一定の
事実である。人が技術を身につけ、新しい考え方を
研修コースを終えて、スタッフとなっても、プロジ
知り、自分の生活を変え、それが次第にコミュニテ
ェクトを推進する中でさらに上級の技術や心構え、
ィに広がっていく。
そして、
そのような流れの中で、
考え方、管理、運営能力、お互いの協力の効率化を
養蚕業というプロジェクトが導入され、その中で研
達成することを要諦とする。日本人指導員がいなく
修活動を続けた。このような研修を意義有らしめる
なっても研修が継続できるように力を入れている。
ために、ベクトルを同じ方向に向け、力と時間をか
け、全体を変えていく必要がある。
3.プロジェクトの評価
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
人材育成、地場産業の成功のためには、十分な時
現金収入の道が少なかったサトウキビの島に新し
間をかけ、時間がかかっても地道に情熱の火を絶や
い地場産業を導入し、生産物(生糸)が国外市場では
さずに続けていくことのできる指導者、そのような
なく、国内でも高い需要があることから、このプロ
時間がかかることを容認できる体制が必要である。
ジェクトはきわめて妥当なプロジェクトであった。
このプロジェクトが今日までほぼ成功しているのは、
社会的に大きなインパクトを与え、
約200戸の養蚕プ
上記したように、時間をかけてきたせいでもある。
ロジェクト参加農家の収入は向上した。ただ、現在
また、
研修と同時に多くの農家に桑を植えてもらい、
のところ、日本人指導者の経費は外から投入を継続
養蚕のシステムを構築してきたため、もし、今まで
し、かつ研修センタースタッフの経費も全額プロジ
の道程で頓挫するようなことがあれば、再び多くの
ェクトによる収入でまかなうところまで到達してい
農家が路頭に迷い、単に経済的な問題だけでなく地
ない。後数年努力することによってプロジェクトの
域において大きな社会問題も引き起こす可能性・リ
完全自立が得られることを期待している。
スクもあった。研修を行えば、それだけで必ず何ら
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
かのプラスがあるだろう、失敗しても人材は残るか
立発展性
ら必ずプラスが残るであろう、というだけですまな
西ネグロスの養蚕プロジェクトの成功が、東ネグ
いこともある。
104
事例 25
フィリピン共和国マニラ市・トンド地区における小規模職業訓練プロジェクト
特定非営利活動法人 金光教平和活動センター
事務局長 西村 美智雄
1.プロジェクトの概要
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
(1)プロジェクト実施の背景
(a)実施場所 マニラ市トンド・バルート地区
マニラ市トンド・バルート地区のパラダイス・ハ
(b)実施体制
イトは、かつてマニラ首都圏が排出する総ゴミの
カウンターパート:SRD コンコウキョウセンター
1/3 が廃棄される巨大なゴミ集積地”スモーキー・
スタッフ:ソーシャルワーカー1人(事業監督)
マウンテン”と呼ばれた地区である。当時この周辺
縫製トレーナー1人
では地方から流入してくる人々がスラムを形成し、
日本人職員:KPAC 事務局職員
ゴミの中から廃品を回収して生計を立てていた。
プロジェクトのアウトライン、具体的な訓練項目
1995 年の強制撤去に際して 3000 世帯が退去させ
及び組み立て、必要な資機材、経費についてをソー
られ、その後の再開発事業に伴って、跡地には 5 階
シャルワーカー、SRD スタッフ及び日本人職員と共
建の公営アパート 28 棟が建てられた。
現在では当時
に協議した。ソーシャルワーカーは縫製トレーナー
居住していた人々や新たに流入してきた人々で約
と共に全体企画に従って受講者の選定基準、訓練項
4000 世帯、2 万 4 千人のコミュニティが形成されて
目及び日程、さらに訓練終了後のフォロー、市場開
いる。政府は当初、新設のアパートに住民を入居さ
拓に関する研究を行った。
せる計画だったが、もとより賃借料を支払える人々
日本人職員は、資金及び資機材の調達に関する事
は皆無に近く、住民は依然ゴミの収集、港湾労働な
務を担当し、縫製トレーナーは主に現地人の専門家
ど不定期就労の機会を待つしかない。一定の収入を
を委嘱し、受講者の指導を行った。また、折々に訪
得る機会を持っている者は地域全体の約 1/3 程度で、
問する日本人ボランティアがその都度指導に当た
平均的な月収は 5500 ペソである。
ることになった。
金光教平和活動センター(略称/KPAC)
は 1989 年、
(c)活動内容
主に就学前教育施設として SRD コンコウキョウセン
表 1 訓練工程及び訓練内容
工 程
タ ー (Self Reliance and Development Konkokyo
Center, Inc./略称 SRD)を設立し、以来毎年 200 人
前後の幼児教育、奨学金給付事業などを実施する傍
ら、地域住民の生計向上のための取り組みを進めて
いる。
本プロジェクトは 1996 年 12 月から開始し、受講
生の受け入れは 1997 年度から行った。
(2)プロジェクトの目的と目標
コミュニティの主婦の多くは家庭にあって家事に
従事しており、夫や家族のわずかな収入で生計を立
てている。このプロジェクトは、彼らに新たな収入
の道をつけると共に、女性たちが生き甲斐と自立心
を培うものであり、段階的に技術を習得させ、縫製
技術者の組合の組織化及び組合における受注・製造、
指導者養成、または就職の斡旋を目指す。
105
訓練内容
オリエンテーション、規則、安全保護
オリエンテーション
のための説明
ミシンの使用部分の各名称を教え、機械の維持説明
ボビン、ミシン針の扱い方、糸の通し方の指導
紙を使用して直線縫いの練習、ミシン針なしで布を縫
う直線縫いの練習
ミシン針を付けて紙と布上を直線縫いする練習
体の測定法の指導
型紙の作り方、カットの仕方、縫い方の指導
訓
練 縫製作品の種類
項 ・パジャマ作成
目 ・袖付き丸首ブラウス作成
・襟付きスポーツブラウス作成
・鉛筆書きでのスカート作成
・プリーツ・スカート作成
・ドレス(四角襟付き、カーブ襟、ベビー・カラー、
チャイニーズ・カラー、長袖)作成
・シャツ作成
・パンツ作成
訓練の評価
縫製プロジェクトにおける記述試験
事例 25
訓練は、原則 1 クラス 10 人編成で、年間 2 コース
また、訓練を修了してもミシンを使用できること
を実施、1 コースは 3 か月である。
など、会場を開放することでいつでも学習できる環
境を提供している。
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
一定の訓練を修了した者には、近隣の保育園や学
SRD が就学前教育、奨学金給付など、直接子ども
校から受注する制服などの製造スタッフに就くこ
に対する援助を根幹にした活動を進めていく上で、
と、縫製トレーナーのアシスタントから正規のトレ
母親らが自ら技術を習得することによって、教育の
ーナーとして活動する道を開き、幾人かは自分でミ
重要さを認識し、共同体に参画することの意識向上
シンを購入して自宅で縫製の仕事を行っている。
を促すことを可能とする。また技術の向上によって
独自に収入の道を開いたケースについては追跡
収入を拡大することで、わずかではあるが、SRD の
的に調査してそのノウハウを反映させるなど、持続
他の事業を経済的に補完することが可能となる。
的な事業の推進を図っている。
(2)訓練等の計画と準備
また、外部の縫製工場や素材を扱う業者などから
事業資金は、1996 年度の国際ボランティア貯金寄
資機材の提供や指導を受けるための交渉を行い、ミ
付金配分金から 99 万 9 千円の交付を受けて訓練用
シン、はさみ、布地などの無償提供や市場開拓の方
ミシンを調達し、人件費、教材、その他の資機材、
法、その可能性などについても助言を得ている。
諸費は自己資金を充てた。
全体の計画は、上述したように、SRD スタッフ、
3.プロジェクトの評価
ソーシャルワーカー、そして日本人職員による協議
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
によって決定し、ソーシャルワーカーが中心となっ
プロジェクト開始から 2003 年度までに 169 人が
て受講者の選定及び適性調査を行った。
受講、124 人が修了した。修了率は 73.4%である。
受講者は、地域周辺の 129 のバランガイ(最小の
行政区)から 15 歳以上の読み書きができる女性を選
表 2 修了者数及び独自に収入を得ている者の割合
定することとした。
年度
訓練用ミシンは 11 台を現地調達し、SRD センター
の 2 階 35 ㎡の部屋を会場に充てた。プロジェクト
を開始した当初は、供給電力の容量制限もあって、
初級段階の訓練として足踏み式のミシンを使用し
たが、次第に訓練の進捗度に合わなくなり、順次電
動ミシンに切り替え、現在はすべて電動ミシンを使
用している。
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
多くの受講生が初等教育以上の教育を受けてお
修了者数
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
合 計
21
16
7
28
24
21
7
124
収入を得ている
者の割合
42.8%
75.0%
85.7%
0%
0%
14.3%
0%
31.1%
表 2 に見られるように、約 7 割の受講生が訓練を
らず、理論的な理解が及びにくいため、それぞれの
終えても独自の収入を得ていないのが現状である。
受講生が耐えられる程度の内容であるかを検証し
とくに 2000 年度からは、現地通貨の下落傾向によ
ながら個別指導に当たることが必要となった。縫製
って仕事を得ることが困難になっている。しかし、
作業は各人の「器用さ」などの能力によって進歩の
2001 年からは近隣の保育園、学校などから受注した
度合いが異なり、一人ひとりの個性・能力に合った
制服等の製造で 300∼500 着程度を出荷できるよう
指導法を工夫しつつ進めた。
になった。毎年複数の施設からの受注、問い合わせ
受講生の中には、家庭の事情等によって欠講せざ
等があり、製造作業にはその都度修了者を臨時に雇
るを得ない者があり、こうした受講生には家庭訪問
用して対応している。
や個別の相談を行い、なるべく修了まで訓練を受け
このように、本プロジェクトは現地のスタッフ及
られるよう側面的な援助を行っている。
106
事例 25
び受益者による主体的な取り組みを前提に、試行錯
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
誤を繰り返しながら自らの開発と発展を目指して
SRD が所在するトンド・バルート地区は、そもそ
取り組むことを基本姿勢としており、当初掲げた技
も外部からの流入者によって形成された都市型スラ
術の習得、組合の組織化及び受注・製造に関しては
ムの典型的なモデルである。本プロジェクトをはじ
一定の成果を挙げたものと考えられる。
め、SRD のすべての事業は地元住民の現状から出発
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
した地域開発の取り組みであり、規模はごく小さな
立発展性
ものであって、その基盤は盤石ではないが、こうし
元来、学習、訓練というものを経験していない家
た市民レベルの地道な自己開発がやがて地域全体の
庭の主婦を対象にした本プロジェクトは、当初は受
向上に繋がっていくことを期待するものである。
講者の欠講やモチベーションが低く、なかなか進捗
今後は、当該地で活動している国内外の大小様々
しなかったが、スタッフが根気よく接し、子どもの
な NGO との相互の情報交換など、連携強化と協働の
教育のことや家庭での諸問題などについて相談・助
道を開いていくことが必要であろう。
言することで次第に出席率が向上していった。
地道に努力して技術を習得することが、各人の生
きる張り合いとなり、子どもや家庭によい影響を与
えることに繋がっており、地域住民にもあきらめず
努力することで発展の可能性があることを徐々に示
すものとなっている。
しかし、事業規模が小さく、広く地域一般を対象
にし、公益性が低いため、地域全体の経済効果や社
会的モラルの向上といった大きな影響力にはなり得
ているとは言い難い。行政の手の届きにくい貧困地
区にあっては、自分たちで立ち上げ、少しずつ積み
上げ、小さな成果でも、それを獲得していく喜びを
活力としてステップアップしていかなければ、自立
発展性を望むことはできない。
写真 SRD コンコウキョウセンター2 階の縫製教室
4.教訓・提言
(1)プロジェクト及び訓練実施上の問題点・課題
受講生のほとんどは、ミシンは無論、はさみや生
地を購入する経済的余裕がない。SRD でははさみを
貸与し、古着を使って日常の練習を行うことを奨励
しているが、絶対数が不足しているために思うに任
せないのが問題である。それがために、受講生のモ
チベーションの低下や途中離脱という結果を招いて
いる。
プロジェクトを運営していく能力に関しては、ス
タッフのこれまでの経験と学習によって培われた基
盤があり、本プロジェクト程度の規模であれば継続
していくことは可能である。今後、資機材の充実と
より洗練された指導者の養成及び確保が求められる。
107
事例 26
ベトナム リプロダクティブ・ヘルス・プロジェクトの人材養成
財団法人ジョイセフ
事務局長 石井 澄江
ベトナムプロジェクト支援室 浜野 けい子
1.プロジェクトの概要
て多いが、その多くがベトナム戦争時に暫定的に行
・プロジェクト対象地区:ベトナム北中部ゲアン省
われた医療教育しか受けていない為、コミューン
(村)での医療従事者の技術レベルの低さが以前から
全域 19 郡 469 コミューン(村)
問題とされてきた。
・対象人口:285 万人(1999 年フェーズⅡ開始直前)
政府はコミューンでの安全なお産を推進するため
・プロジェクト裨益者:ゲアン省の出産可能年齢女性
に、施設分娩率を 2010 年までに 85%まで引き上げ
・プロジェクト実施期間:
フェーズ I 1997 年6 月∼2000 年5 月(3 年間)
る目標を設定しており、一方で、農村での施設分娩
フェーズⅡ 2000 年 9 月∼2005 年 8 月(5 年間)
の多くが実施されるコミューン・ヘルス・センター
(CHC)の助産スタッフの技術レベルが低いため、
同じ
・プロジェクトの目的:
く 2010 年までに産科専門教育を受けた準医師ある
上位目標 ゲアン省の出産可能年齢女性のリプロ
1
ダ ク テ ィ ブ ・ ヘ ル ス (Reproductive
いは、3 年以上の助産教育を高校卒業後受けた中等
health:略称 RH、性と生殖に関する健康)
助産師をすべての CHC に配置することを目標にして
が改善される
いる。
プロジェクト目標 ゲアン省でのリプロダクティ
ゲアン省は、人口に対する助産師数は平均であっ
ブ・ヘルス・サービスが改善される
たが、
短期(4 ヶ月∼1 年以下)の助産教育を受けただ
けの速成コースで資格をとった初級助産師が多く、
(1)プロジェクト実施の背景
再教育の必要性が高い状況であった。また CHC の施
ベトナム社会主義共和国(以下
「ベトナム」
に省略)
設は 1980 年代政府の指導のもとに、
地元住民の労働、
は低所得国であるにも関わらず、低予算で効率的に
資材で建てられたもので、老朽化が進み、雨漏りや
全国に保健サービスを提供してきた。一人あたり
カビ、機材の欠損など状況は劣悪であった。施設分
GDP は US$331(1998)で低所得国に属するが、乳児死
娩の拠点となる CHC の状況を改善することが、政府
亡率は 31 (1998)、妊産婦死亡率は 160 (1998)と母
の目標を達成する前提条件として急務であった。
子保健指標はマクロ経済指標が同等の他国と比べて
(2)プロジェクトの目的と目標
2
良い状況にある 。医療従事者の数も近隣諸国と比べ
こうした背景を踏まえ、
1997 年 6 月から 2000 年 5
月まで JICA リプロダクティブ・ヘルス・プロジェク
1
リプロダクティブ・ヘルスとは、妊娠・出産のシステムおよびその
機能とプロセスにかかわるすべての事象において、単に病気がないあ
るいは病的状態にないということではなく、身体的、精神的、社会的
に良好な状態(well-being)にあることをいいます。
(WHO)
リプロダクティブ・ヘルスには以下のことが含まれます。
・人々が安全で満足のいく性生活をもてること
・子どもを産む可能性をもつこと
・子どもを持つか、持たないか、子どもを持つならいつ、何人産むか
を決める自由を持つこと
・男女ともが、自分の選んだ、安全かつ効果的、また安価で利用しや
すい出生調節法についての情報を得、またその方法を入手すること
ができること
・すべての女性が安全な妊娠・出産を享受でき、カップルが健康な乳
児をもつための、適切なヘルス・ケア・サービスを入手できること。
(http://joicfp.or.jp/jpn/whats_joicfp/katsu_kihon_3.shtml より抜粋)
ト(フェーズ I)が日本政府の協力のもとに開始され
た。フェーズ I では、ゲアン省 19 郡中 8 郡 244 コミ
ューンを対象に、コミューン・レベルでの出産環境
の改善を目指して、CHC の助産師・準医師の再教育
(一ヶ月)、CHC への機材供与・施設改善をパッケー
ジとした技術協力が行われた。
フェーズ I における短期間での成果が評価され、
2000 年 9 月からゲアン省全 19 郡 466(2004 年現在
469)コミューンを活動対象として新たにフェーズⅡ
が開始した。
「ゲアン省でのリプロダクティブ・ヘル
2
UNDP(国連開発計画)「人間開発報告書 2000」p.200-228、一人あた
り GDP が同程度のケニア(US$334)やトーゴ (US$333)では、乳児死亡
率・妊産婦死亡率はそれぞれケニア 75, 590、トーゴ 81, 480 である。
ス・サービスが改善される」ことをプロジェクト目
標とし、PDM が作成され 7 つの成果(目標)に絞られ
108
事例 26
た(PDM 成果 0−6)。
年以上の途上国援助経験を有す NGO のジョイセフが
① ゲアン省の母子保健・家族計画(MCH/FP)センター
全面的に協力している。ジョイセフ内には、ベトナ
及び郡保健センター(DHC)の運営管理・ガイダン
ムプロジェクト支援室が設置され、層の厚い専門家
ス・モニタリング能力が向上する(PDM 成果 0 お
ネットワークを活かした専門家の人選・派遣支援、
よび 2)
日本でのカウンターパート研修実施など、人材養成
② コミューン・レベルでの安全で清潔なお産が推進
支援をはじめ、情報収集、データ分析、広報資料制
される(PDM 成果 1)
作など、
プロジェクトへの幅広い支援を行っている。
③ 人工妊娠中絶件数減少のため、MCH/FP センタ
(e)活動内容
ー・スタッフのガイダンス・モニタリング能力
現地関係者と日本人専門家が共同して作成した詳
が向上する(PDM 成果 3)
細な PDM に従って 7 つの成果に絞られ、それぞれの
④ 女性連合を中心とした地域保健活動による
活動が計画された。主な活動は、助産師の再教育を
IEC(Information Education and Communication
中心とした多様な人材養成、MCH/FP センター及び郡
:広報啓発活動)の強化(PDM 成果 4)
の各種専門技術および運営管理能力の強化、機材の
⑤ MCH/FP センター及びいくつかの郡保健センター
供与、CHC 施設の改善、住民による地域保健活動の
(DHC)における生殖器感染症(RTI)減少に向けて
推進である。
の能力が向上する(PDM 成果 5)
⑥ 保健情報管理システム(HMIS)の向上(PDM 成果 6)
2.プロジェクトにおける人材養成の実施
(3)プロジェクトの実施体制・活動内容
(1)プロジェクトにおける人材養成の位置づけ
(a)プロジェクト実施体制
プロジェクト当初より、人材養成はプロジェクト
最高意思決定機関として省合同委員会を組織し、
の最重要課題であった。国や省政府が定めた保健体
省、郡、コミューンの各行政レベルに関係セクター
制の枠組みの中で、国家の保健目標との整合性を重
(行政、保健セクター、人口・家族計画セクター、住
視し、
ゲアン省の女性の RH が最大限に推進できる方
民組織)からなる運営委員会を組織した。総数 1967
法を目指す。どのようにしたら全ての住民に国の目
名が運営にかかわっている。
標とする RH サービスを届けることができるか。
また、
(b)カウンターパート
その質を最大限に高めるにはどのようにしたらよい
ゲアン省:プロジェクトの最高意思決定機関は、
か。国や地方行政が定めた「本来業務」を実現する
年度初頭の定期開催と必要に応じて開催する省行政
ための普及及び運用に関する技術協力がプロジェク
(人民委員会)および上記関係セクター代表からなる
トの核となる活動である。したがって、本来地方行
プロジェクト合同委員会であるが、日常のプロジェ
政府がしなければならない「本来業務」を効果的に
クト運営管理業務は MCH/FP センター所長およびセ
実現していくために、人材養成を行う。それによっ
ンタースタッフで構成される省運営委員会(PSC)が
て、継続性・自立発展性の高いプロジェクトを目指
担当する。したがって、日常的活動はゲアン省
している。
MCH/FP センターがカウンターパート(C/P)としての
(2)人材養成の計画と準備
責任を担っている。
村レベルの施設分娩の質の向上からプロジェクト
(c)現地プロジェクト事務所
を開始したが、
最終的には対象地域全体の RH の推進
2004 年 10 月現在、5 名の日本人長期専門家(チー
を MCH/FP センターが中心となって行えるよう、省・
フアドバイザー、調整員、保健師、助産師、保健医
郡・コミューンの各行政レベルでプロジェクトの自
療統計システム専門家)と 5 名のローカルスタッフ
立・継続を視野にいれた人材養成を多角的に行った。
が常勤。PSC およびセンタースタッフと協力して日
① CHC 助産師(または産科準医師)の再教育による
常の業務にあたっている。
CHC での分娩介助技術の向上
(d)日本国内の支援体制
② 地域の RH 推進拠点としての MCH/FP センターの
本プロジェクトは、JICA と NGO との連携で実施さ
技術および運営管理能力の強化
れており、人口、リプロダクティブ・ヘルスで 30
③ CHC および MCH/FP センターの間で、CHC の日常
109
事例 26
業務を指導する立場にある DHC の指導能力強化
践につなげられるよう具体的に検討してもらうよう
④ サービスの利用者である女性および地域住民に
にしている。さらに、同じ研修目的であれば、でき
対する IEC 推進に関する人材養成・組織作り
るだけ共通の場所を視察するように工夫することで、
フェーズ I では、住民への裨益を優先するかたち
帰国後研修員同士が同じ目的のための行動を起こし
で、
①の CHC スタッフ再教育を中心に行った。
また、
やすい環境を作るよう配慮した。
コミューン・レベルでの女性連合を対象とした IEC
(b)参加型の重視
セミナーも実施。フェーズⅡでは、対象地域を拡大
研修は参加型を取り入れ、経験・体験をとおした
したことから、新規参入郡に対する CHC スタッフ再
学習の多用で、学びから実践へ移行しやすいように
教育を実施する一方で、プロジェクトの自立・継続
工夫。計画立案に関しては、参加型を取り入れるこ
を視野にいれた省・郡レベルの運営管理能力強化に
とでオーナーシップを高め、プロジェクトに対する
力点をおき、また、
「安全で清潔なお産」ばかりでな
主体的な取り組みが促されるようを開始時より配慮
く、
ゲアン省が抱える RH 課題への幅広い取り組みに
している。
関連した技術指導・人材養成を実施するよう計画さ
(4)プロジェクトで実施した人材養成プログラム
れた。
先述の(2)で述べた人材養成の種類にしたがっ
計画の立案は、長期派遣専門家チームとプロジェ
て実施したワークショップ・セミナー、研修は、フ
クトの実質的運営主体である省運営委員会(MCH/FP
ェーズ I では 2 年半に延べ 144 コース 7,204 名、フ
センター所長以下で構成されている)が協議して計
ェーズⅡでは 2004 年 3 月 31 日までの約 3 年半で延
画・立案し、省合同委員会の承認を得て実施してい
べ 247 コース 17,556 名に対して実施した。
(文末の
る。
表参照、フェーズⅡのみ)
(3)効果的な人材養成を行うための取り組み
(5)人材養成の定着・継続に向けた取り組み
(a)専門家指導・C/P 研修の有機的連携
(a)C/P・長期専門家・短期専門家共同による実
1)短期派遣専門家による指導
施マニュアルの作成
短期専門家には、各専門分野に関するプロジェク
人材養成の最重点となった CHC 助産スタッフの再
トの計画立案に際して、専門家の立場からの助言を
教育では、
UNFPA(国際人口基金)が作成したカリキュ
求めるとともに、長期派遣専門家と協力して、プロ
ラムの改定とともに、
コースの準備段階(講師の手配、
ジェクトが計画した研修・ワークショップにおいて
移動手段・宿泊場所・会場などの準備、評価方法な
専門家としての指導を依頼した。同一の短期専門家
ど)に関する実施マニュアルを作成した。また、IEC
が継続的に指導することで、専門家のプロジェクト
に関しても、実際の試行のプロセスをドキュメント
の理解が深まり、C/P との関係も強化され、適切な
するとともに、実施のためのマニュアルが作成され
提言・フォローアップを可能とした。また、いくつ
つつある。さらに、さまざまな形で現地スタッフが
かの分野では、経験の蓄積・移転のためのマニュア
終了後利用できるドキュメントを作成した。
(例/CHC
ル作成も依頼した。指導内容の積み重ねの効果が得
スタッフ再教育カリキュラム、CHC モニタリングチ
られている。(平均 10 名の短期専門家を毎年派遣)
ェックリスト、RH 講義用エプロン式教材活用マニュ
2)カウンターパート研修
アル、RH シナリオ集、その他各種アクションプラン
日本でのカウンターパート研修に関しては、4 週
など)
間から 6 週間の視察型研修、あるいは、滞在型の技
(b)指導員の養成研修
術研修を組み合わせて実施。プロジェクトが伝えた
ルーティンでの活用を促し、さらに、研修を継続
い日本の経験を中心に、研修員の専門分野に応じた
できるように、特にフェーズⅡでは省・郡レベルの
きめの細かなプログラムを作成している。特に、現
スタッフの TOT(Training of Trainers:指導員養成
地を訪問した短期専門家から受け入れ協力を得るこ
研修)に力を入れた。MCH/FP センタースタッフおよ
とで、ゲアンの実情にあった視察・研修プログラム
び DHC スタッフのキャパビル(Capacity Building:
を実現している。帰国前には、研修員に「行動計画」
能力向上)をプロジェクトの重点活動項目のひとつ
を作成してもらい、日本で学んだことを帰国後の実
とした。
110
事例 26
3.プロジェクトの評価
4.教訓・提言
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
(1)プロジェクトの人材養成の問題点・課題
プロジェクトの終了は、
2005 年 8 月 31 日である。
① 学んだ内容を学習者が実践に移すためには周り
2003 年 8 月に実施された中間評価調査団の評価では、
の理解・サポートが必要となる。研修を受けた
プロジェクトの進捗は順調であり、妥当性、目標達
ものが、他のスタッフと内容を共有することが
成度も高く評価された。妥当性に関しては「相手国
重要である。モニタリングなどをとおした継続
および受益者ニーズの視点」と「プロジェクト計画」
的なフォローが重要。センタースタッフ、DHC ス
の両方の視点で妥当であるとされた。また、目標達
タッフの役割が大きい。
成度に関しても、ゲアン省は、国家 RH10 ヵ年戦略で
② プロジェクトがモデル郡で蓄積した経験をもと
目標とされている指標のほとんどをすでに達成して
に、ゲアン省全体に活動を広げるためには、行
いることに加えて、プロジェクトの成果指標に関し
政のコミットメントと同時に、すでに研修を受
ても、中間評価の段階で終了時には概ね達成と予
けた人材が中心となって、今後も継続的に人材
測・評価された。
の養成を実施していくことが必要である。
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
③ 学んだ内容がルーティンの中に位置づけられて
立発展性
いないと、継続が難しい。特に IEC に関しては、
(a)インパクト
予算、人員の配置など、その重要性に関する認
① 国家RH 10 ヵ年戦略への実践モデルとしての提言。
識をより一層高める必要がある。女性連合が今
同戦略策定に際して、プロジェクトの経験が取
後中心的な役割を担うとしても、医療セクター
り入れられた。
からの専門的な協力が不可欠である。IEC は、国
② 国家 RH 10 ヵ年戦略の中間評価(2005 年)
時には、
のガイドラインにも MCH/FP センター、
DHC や CHC
プロジェクトの経験を再度提供することが政府
の TOR(Terms of Reference: 業務実施内容)とし
から期待されている。
て明記されているので、医療セクターの自覚を
③ ゲアン省の経験は、他省からの関心も高く、プロ
促していく必要がある。
ジェクトは、積極的に他省やマスメディア、他
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
の援助機関に紹介する活動を行っている。(北部
JICA のベトナム・リプロダクティブ・ヘルス・プ
30 省を対象とする RH 経験交流セミナー、HMIS
ロジェクトの特徴としていくつかの点が指摘できる。
ゲアン省改良集計ソフト普及経験交流セミナー、 その中に広域な地方展開型であることと、
「本来業
中絶軽減に関するメディアセミナーなど)
務」に的を絞ったサービスの向上を図る「普及型」
(b)自立発展性
プロジェクトであることが人材養成と大きく関連し
① 省人民委員会の RH 推進に関する強いコミットメ
ているので、その点に関する教訓・提言を述べる。
ント(人員および予算的な裏づけ)があり、プロ
ベトナムにおいても人口の多いゲアン省全体
ジェクトの実施主体を地方行政へ移管するため
(2003 年現在 469 コミューン 298 万人)をカバーする
の条件が整いつつある。
プロジェクトであることと、その全てのコミューン
② MCH/FP センター主導で、RH 推進活動を実現する
に JICA の協力が直接提供されている点である。
この
ための人材が育つとともに、今後、ベトナム側が
広域な地方展開型プロジェクトを可能にし、プロジ
主体に人材養成を行っていく基礎ができつつあ
ェクト終了後の継続性を確保しているのはプロジェ
る。
クトの内容が「本来業務」に的を絞っているからで
③ 保健省もゲアン省 MCH/FP センターの実績を高く
ある。
評価。3 年続けて表彰された。
多くの途上国において、中央レベルの国家開発計
画・戦略・政策そして実施に向けての基準などは国
際機関やドナーの協力で美しいものが出来上がって
いる場合が多い。問題はこれらの中央レベルでの決
定が住民に届いていないところにある。人材養成に
111
事例 26
あたり、プロジェクトで心がけていることは、中央
レベルにおける人材養成に関わる「政策」であり、
地方行政府として義務付けられている「基準」であ
る。これらをどのようにして地方レベルで達成する
かが問題であり、それがプロジェクトをして「普及
型」と言わしめている点である。
中央政府の政策を地方レベルで実施しながらその
経験を基本に中央政府に対し、実践的な提言とフィ
ードバックを行っている。その結果が中央政府の政
策に反映されるというプロセスである。
人材養成も本来地方行政府がしなければならない
写真 1 参加型ワークショップ
「本来業務」であれば、地方行政府にとっては負担
が軽いし、継続の可能性も高い。プロジェクトを通
して、最大の効果を生み、住民にまで届く質の良い
サービスを可能にする人材養成の手法について、プ
ロジェクトから多くの貢献が可能となる。
写真 2 骨盤モデルを使った指導
写真 3 長期専門家による HMIS 研修
112
事例 26
表 人材育成リスト フェーズⅡ
実施年
研修の種類
2000
郡運営委員会(DSC)メンバー対象オリエンテーション・ワークショップ
2000
コミューン運営委員会(CSC)メンバー対象オリエンテーション・ワークショップ
コース数
参加者数
1
63
US$計
608
19
1,178
11,376
2001
新規郡11郡 DSC メンバーによる継続8郡プロジェクト地区視察(国内移動セミナー)
1
61
1,333
2001
TOT。5 郡 DHC 及び MCH/FP センタースタッフ対象 IEC 研修(マギーエプロン)
2
15
2,584
2001
MCH/FP センター及び DHC スタッフ対象人工妊娠中絶調査研修(中絶データの入力・分析)
4
10
5,891
2001
CHC スタッフ再教育 (第1回∼6回まで)
6
145
34,517
2001
11 郡 DSC と MCH/FP センターPCM ワークショップ
2
40
1,895
2001
モデル 4 郡他対象モニタリング手法研修(計画立案・実施およびマニュアル作成)
2
41
2001
愛育班モデル郡モデルコミューンオリエンテーション
4
200
2001
19 郡 DSC 対象、愛育班活動紹介オリエンテーションセミナー
1
56
2001
MCH/FP センター及び 9 郡 DHC 医師対象、コルポスコープによる RTI 診断技術研修
1
13
774
C/P予算
898
C/P予算
2001
HBMR 活用推進モデル 2 郡 DHC・CHC オリエンテーション・ミーティング
1
13
36
2001
6 郡コミューン、ハムレット女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ
7
1,936
17,727
2001
選出ボランティア対象、愛育班モデル郡モデルコミューンオリエンテーション
3
245
2002
省・郡愛育班推進関係者対象、TOT ワークショップ
1
10
2002
両親学級モデル 2 郡対象ワークショップ(両親学級既存プログラムの見直し)
1
11
42
2002
モデル 2 郡及び MCH/FP センター対象中絶調査及びアクションプラン作成研修
1
20
1,721
C/P予算
625
2002
TOT。5 郡DHCおよびMCH/FPセンタースタッフ対象、IEC 技術研修
1
14
266
2002
タイ国コンケーン県 JICA 母子保健事業視察(MCH/FP センター及び 4 郡 DHC)
1
8
11,844
13,245
2002
新規 11 郡 DSC メンバーによる南部ベトナム視察研修。(トラベリングセミナー)
2
41
2002
モデル郡モデル3コミューン女性連合メンバー対象、愛育班員研修
1
42
568
2002
CHC スタッフ再教育(第7回∼10回まで)
4
96
13,848
2002
MCH/FP センタースタッフおよび3郡 DHC スタッフ対象人工妊娠中絶カウンセリングワークショップ
1
12
929
2002
モデル 6 郡・MCH/FP センター対象、HMIS整備に向けたコンピュータ操作・維持管理技術研修
2
18
1,609
2002
コミューン・ハムレット女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ
18
6,630
19,522
2002
新規 11 郡 DHC および継続6郡、省病院の医師対象。コルポスコープによる RTI 診断技術研修
1
18
1,226
2002
継続 8 郡 CHC 再教育受講生対象リフレッシャー研修
13
419
7,319
2002
PSC、DSC、MCH/FP センター、女性連合他対象地域保健推進セミナー(医療セクターと地域住民の連携)
1
100
1,519
2002
活動別年次アセスメントミーティング(各モデル郡 2002 年まとめ及び 2003 年活動計画策定協議)
5
8
227
2002
省レベル RH 啓蒙活動(RHコンテスト:歌・寸劇・クイズ)
1
190
6,336
2002
MCH/FP センター、省病院、予防医学センター他対象 RTI 調査事前研修(調査・診断・検査技術)
3
20
5,076
2003
PSC、DSC、他省プロジェクト関係者対象セミナー:クライアント・フレンドリー・サービス理解促進
1
110
829
2003
愛育班モデルコミューン対象ワークショップ:問題把握と解決へ向けて
1
43
530
2003
愛育班モデルコミューン指導者対象ワークショップ(行政の役割)
1
8
126
2003
TOT.19郡 DHC 及び MCH/FP センタースタッフ対象産後ケア研修(ガイドライン作成)
1
40
1,524
2003
TOT。省女性連合、5 郡女性連合 IEC 担当対象 IEC 技術研修
1
18
960
2003
モデル 3 郡及び MCH/FP センター対象のリナックス OS とネットワーク入門研修。
1
8
1,102
2003
14 郡 DHC 統計担当者対象、HMIS 推進 PC 研修(Windows の基本操作と PC による統計集計)
3
27
2003
MCH/FP センター及び DHC スタッフ対象モニタリング手法研修(継続的フォローアップ活動の意義と技能)
3
45
1,041
2003
山岳 10 郡 DHC 対象のハムレットヘルスワーカー(自宅分娩介助者)教育のための TOT
1
20
453
2003
19 郡機材管理担当者対象、機材維持管理研修
1
37
561
2003
コミューン運営委員会(CSC)対象 FP との連携強化ワークショップ
19
1,528
4,557
保健局予算
2003
TOT。14 郡女性連合対象マギーエプロン活用法研修(活用ガイドブック作成)
2
24
747
2003
19 郡 DHC 統計業務担当者対象、HMIS 推進ソフトウェア紹介・活用研修
4
40
300
2003
MCH/FP センタースタッフ対象クライアント・フレンドリー・サービスワークショップ
1
25
141
2003
TOT。CHC 助産スタッフ再教育受講生リフレッシャーコース教育案策定研修
1
25
551
2003
コミューン対象マギーエプロン活用普及のための IEC ワークショップ
44
1,407
9,370
2003
モデル 6 郡他統計担当者対象。HMIS フォローアップ研修(報告書データの品質改善)
1
16
82
2003
HMIS ネットワーク研修(HMIS 病院管理システム導入予定 DHC 対象。概要紹介)
2
16
267
2003
モデル6郡 DHC および MCH/FP センタースタッフ対象コンピュータ管理研修(WindowsXP と HMIS ソフト)
1
7
C/P予算
2003
CHC スタッフ再教育 (第 11 回)
1
26
C/P予算
2003
8 郡 DSC メンバー他省運営関係者対象 PCM ワークショップ(モニタリング・評価手法)
2
37
2003
活動別年次アセスメントミーティング(各モデル郡 2003 年まとめ及び 2004 年活動計画策定協議)
5
8
2003
DHC 主催 CHC 助産スタッフリフレッシャーコース
15
240
2003
18 郡 DHC 集計担当者対象ソフトウェア再教育研修
4
34
547
2004
山岳地域 6 郡女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ(中絶と避妊)
9
1,500
15,554
2004
19郡 DHC の MCH/FP データ集計担当者対象保健統計分析研修:MCH/FP ソフトウェアの使い方
4
57
547
2004
TOT。省・郡女性連合と MCH/FP センタースタッフ対象 IEC 教材の発展的法研修
1
22
524
2004
IEC 教材制作:村レベルで活用できる RH シナリオ集作成(公募)
1
489
19,064
2000
C/P 研修(MCH/FP センター副所長 2 名:産科技術、病院管理、地域保健、他)
1
2
2001
C/P 研修(保健省、ゲアン省プロジェクト関係者:地域保健推進法および保健統計視察)
1
5
2002
C/P 研修(MCH/FP センター助産師:助産技術、看護、クライアント・フレンドリー・サービス)
1
1
2002
C/P 研修(MCH/FP センタースタッフ他:地域保健推進法および保健統計視察)
2003
C/P 研修(MCH/FP センター産科スタッフ4名:産科技術研修)
1
4
2004
C/P 研修(MCH/FP センタースタッフ、保健省スタッフ他:地域保健推進法、中絶予防、他)
1
10
247
17,556
合計
5,208
C/P予算
8,658
4
236,804
事例 27
日本・マレーシア技術学院プロジェクト
宮城労働局職業安定部長 辻川 英高
(元JICA専門家・チーフアドバイザー)
1.プロジェクトの概要
(b)実施体制
(1)プロジェクト実施の背景
プロジェクト実施主体は人的資源省労働力局と国
1980 年代後半以降マレーシア経済は、外国資本の
際協力事業団(JICA)である。
導入策もあり、1997 年のアジア金融危機に至るまで
・JMTI の訓練指導員等スタッフ:104 人(職業訓練指
急速に成長を続けた。
この間労働力が逼迫し、
また、
導員 74 人、技術相談部門 8 人、管理部門 22 人)
外国人労働力への依存度が高まったことにより、
・プロジェクト技術協力専門家:7 名(チーフアドバ
1990 年代初頭に、ハイテク分野の開発と省力化を志
イザー、業務調整員、訓練計画、電子、コンピュー
向する経済に政策転換することとなった。第 7 次マ
タ、
生産、
メカトロニクス)(以上は 2003 年 1 月現在)
レーシア計画(1996-2000 年)では、ハイテク分野に
そのほかに、シニアボランティアとして日本語教
外資を積極的に導入し、併せて、労働者の技能レベ
育(2001 年 1 月まで)と個別専門家派遣として技術相
ルを向上することにより、製造工業分野を再構築す
談(ECS)(2002 年 2 月以降)がある。各技術専門家の
ることに重点が置かれた。人的資源省労働力局は、
カウンターパートは常時 15 人から 20 人に及ぶ。
人的資源開発計画の目標を達成するために、高度技
(c)活動内容
能訓練センター(ADTEC)を設置することとし、
その一
JMTI は、高卒者を対象に 3 年間の全日制訓練(デ
施設として日本・マレーシア技術学院(JMTI:Japan-
ィプロマコース)を提供するほか、
技術相談部門があ
Malaysia Technical Institute)を設置することとし
り事業所在職者等を対象に短期訓練を実施している。
た。1998 年 1 月に 5 年間の政府間プロジェクトとし
技術協力の内容は、職業訓練を専門とする日本人技
て技術協力が開始された(1998 年 1 月∼2003 年 1 月)。 術専門家による技術移転、マレーシア人訓練指導員
また、5 年間の技術協力終了後、1 年間のフォローア
の日本における訓練、日本政府供与による訓練用ハ
ップ協力が行われた(2003 年 1 月∼2004 年 1 月)。
イテク機材の活用である。ディプロマコースの訓練
(2)プロジェクトの目的と目標
生には日本語クラスが必修となっており、また、3
JMTI の目標は、電子、コンピュータ、生産及びメ
年次修了前の事業所実習(10 週間)は日系企業の協
カトロニクスの先進技術分野における高度技能者の
力を得ることにより、日本的な労働倫理観と規律に
養成である。また、地域の産業、特に中小企業の発
関する意識の醸成が試みられている。
展を支援することも目的としており、在職者に対し
プロジェクト目標を実現するために、下記の活動
て監督者訓練や技能向上訓練を提供し、また、管理・
が行われた。
監督者に対して個別に技術相談サービスを提供する。 ① JMTI において体系だった職業訓練を計画する。
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
② 有能な訓練生が入校できる方策を確立する。
(a)実施場所
③ 電子、コンピュータ、生産及びメカトロニクスの
当初は CIAST(首都クアラルンプール近郊にある
各分野における有能な指導員を必要数育成する。
職業訓練指導員・上級技能訓練センター)の仮キャン
④ 各分野における必要な訓練コースを確定し、
準備
パスで発足したが、計画より 1 年遅れて 2000 年 1
し、実施する。
月に現在地に移転した。マレーシアにおける電子産
⑤ 訓練のための適切な施設、機材、設備を設置し、
業の中核地域であるペナン州のブキット・ミニャッ
活用する。
ク工業団地にある。敷地は 6.5 ヘクタールあり、ペ
⑥ 組織、職員、予算の観点から、JMTI が良好に運
ナン州開発事業団(PDC)を通じてペナン州政府から
営される。
贈与された。
114
事例 27
表
JMTI の入校・修了状況
入校者数(人)
修了者数(人)
電子科
コンピュータ科
メカトロニクス科
生産科
合計
1998 年 7 月
58
2001 年 6 月
21
15
―
―
36
1999 年 1 月
31
2000 年 12 月
17
11
―
―
28
1999 年 7 月
64
2002 年 6 月
14
20
10
12
56
2000 年 7 月
131
2003 年 6 月
37
44
17
21
119
2001 年 7 月
142
2002 年 7 月
196
2003 年 7 月
196
合計
89
90
27
33
239
合計
818
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(NOSS)に従って計画される必要があるが、4 分野の
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
一部で NOSS が未整備であったことから、
労働力局の
<高卒3年制ディプロマコース>
NOSS 委員会に技術専門家が参画して新たに策定さ
4学科(各学科各学年の定員50名、全校で600人)
れた。企業訪問は、主として訓練計画専門家がスタ
・電子技術工学科(工業電子技術専攻、通信技術専攻)
ッフを同行しつつ行い、JMTI の広報、企業ニーズの
・情報技術工学科(コンピュータ技術専攻、情報処理
把握、訓練生の事業所実習への協力依頼を行った。
技術専攻)
現地日系企業の協議会を通じて、同様の活動を行っ
・生産技術工学科(高度生産技術専攻、高度材料処理
た。また、技術諮問委員会を有効に活用している。
技術専攻)
(b)JMTI 入学志望者の応募資格を規定した上で、
・メカトロニクス技術工学科(自動ロボット技術専
広報宣伝活動を行い、応募者の選考を行う
攻、高度メンテナンス技術専攻)
資質ある入校生を確保するために、5 教科の成績
訓練期間:高校卒業者等を対象に3年間の訓練(1年
について高卒良レベル以上に設定された。応募はイ
1400時間、3年合計4200時間)を実施する。ただし、
ンターネットを通じて行うことができる。JMTI の知
短大、高専卒業者については2年。
名度を高めるために、各州の高校の進路指導担当教
取得可能資格:人的資源省労働力局より産業工学デ
諭を対象に、現地で入校促進セミナーを開催した。
ィプロマが授与される。この資格は NVTC(国家職業
また、新聞とラジオによる広報も行っている。2002
訓練審議会の技能検定、最高度は Level5)の Level4
年に目標定員が達成された。
及び人事院の技能者資格に相当するものと認められ
(c)訓練指導員を対象にカリキュラム開発、専門
る。
技術、教材開発、教授方法、授業準備方法、
(2)訓練等の計画と準備
コース管理方法、訓練評価方法に関する技術
JMTI は、施設、設備、機材等のハード面と訓練指
移転を行う
導員の資質・能力等のソフト面とによる総合的なプ
コンピュータ科においては、地域住民対象のコン
ロジェクトであり、2 カ国が役割を分担して行うも
ピュータリテラシー講座である ICT(Information &
のと、一体的に協力して行う活動とがある。日本側
Communication Technology)セミナー、また、第三国
は訓練指導員への技術移転を内容とするソフト面が
研修を実施する水準に達している。
中心であり、
ハード面での協力は機材供与があるが、
(d)訓練コースのカリキュラムを開発し、実施し
結果として機材全体の 4 分の 3 はマレーシア側が負
必要に応じて改訂する。
担し、施設はマレーシアが全額負担している。
サービスの内容を変化する企業ニーズに合わせ、
(a)国内産業の現状と産業界のニーズを把握し、
訓練内容を策定する
訓練内容を迅速に改訂するために、技術諮問委員会
が設置されている。同委員会は学識経験者と企業か
上記 Level4 を保証する訓練内容は、
職業訓練標準
らの代表により構成されている。
115
事例 27
(3)効果的な訓練等を行うための取組み
ロマを授与する施設として相応しくあるためには、
(a)提案した技術基準等
修士以上の学位を取得した指導員がある程度必要で
当初の 5 年間という協力期間の中で、技術移転の
ある。
活動は前半と後半とで、その内容を区別することが
3)日系企業との連携
できる。前半は、訓練計画の策定、訓練生の募集要
企業との連携の重要性に鑑み、ペナンの日系企業
件の設定、
訓練機材の調達計画が主たる活動であり、
の会合に出席して協力を求めた。また、技術諮問委
後半は、広報活動、指導員の専門性の向上、訓練コ
員会にオブザーバー委員としてマレーシア日本人商
ースの運営、訓練機材の管理と保全が主たる活動で
工会議所(JACTIM)から出席を得た。企業ニーズに対
ある。指導員の主体性を引き出すことを重視し、そ
応する訓練内容、事業所実習のあり方、採用を可能
のために助言することを心がけたが、多くの場合助
にする方策等に関し意見を交換し、
助言を得ている。
言にとどまらず、実際にやって見せるという方法で
(4)訓練等の定着・継続に向けた取組み
効果を得る努力が行われた。
修了生の就職を確保するために、企業のニーズを
各専門家が提案した技術基準と呼べるものは、文
把握し、
これに応える職業訓練を行う必要があるが、
書化されたものであり、専門家が単独で作成する場
これに加えて、直接的な営業活動が重要である。企
合、または、指導員と共同して作成する場合とがあ
業に対する営業活動の観点からは Job Fair(就職面
る。主に次のものがある。①カリキュラム、シラバ
接会)、また、企業からの技術的評価の獲得の観点か
ス、②訓練教材、③NOSS(National Occupational
らは ABU ロボコン初参加を重点的に取り組んだ。ロ
Skill Standard)。
ボコンの取組みは、指導員と学生双方の物作りに対
チーフアドバイザーである専門家からは、訓練修
する動機付けを高める効果を意図したものでもある。
了者の就職システムに関する助言が行われた。
(a)Job Fair(就職面接会)
(b)他の援助機関等との連携
企業と 3 年生が一堂に会する就職面接会が 2002
1)英文参考書の供与
年以降行われている。企業は、地域の企業(日系企業
職業訓練用英文参考書が海外職業訓練協会(OVTA)
を含む)を中心にクアラルンプールからの参加もあ
より供与された。内容は、生産分野、電子分野、メ
る。訓練生は JMTI に加えて、マレーシア北部の複数
カトロニクス分野に係る参考書(技術、理論)、作業
の訓練校からの参加がある。課題は、毎年これを継
分解表、実習課題シート及びワークショップ・マニ
続して実施することである。
ュアルである。国内で調達できるマレー語のテキス
(b)ロボコン参加
ト、
参考書は、
質的にも量的にも不十分であるので、
JMTI の訓練生と指導員とを問わず、3 つの基本方
英文のテキスト、
参考書の調達に努める必要がある。
針、①理論に偏らず技能をもってアピールする
各専門家は国立図書館で検索し、また、インターネ
(Employability)、②課題探索から問題解決の努力
ット上で外国文献を検索し、購入に努めているが制
(チャレンジ精神)、③整理整頓から正常な運転、運
約がある。このような状況の中で、海外職業訓練協
営の確保まで(メンテナンス精神)をより分かりやす
会から JMTI に供与された英文参考書は、
図書室に配
いものとする意味もあり、2002 年来ロボットコンテ
置され、適切な管理のもとで、指導員と訓練生双方
ストへの挑戦を働きかけてきた。
「ものづくり」が好
に活用されている。
きで、失敗を恐れず、試行錯誤のできる JMTI の訓練
2)カウンターパートの修士号取得を目的とした留学
生であって欲しいと思う。ポリテクニック、大学に
職業能力開発総合大学校(研究課程)と大分大学
遅れをとらない JMTI であって欲しいという願いが
(修士課程)に 5 名が留学した。JMTI は、高度技能者
ある。2003 年の国内予選に初参加した。
を養成する職業訓練センターであり、当施設を修了
すると産業工学ディプロマ(準工学士相当)
の称号が
3.プロジェクトの評価
付与されるが、訓練を担当する指導員はほとんど全
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
員が大卒(学士)以下である。産業界のニーズに即応
(a)妥当性
した高度で効果的な訓練を実施でき、かつ、ディプ
JMTI で育成される高度技能者は、電子とコンピュ
116
事例 27
ータ分野では 2001 年に、また、他の 2 分野では 2002
術の移転が後から行われる事態になり、高度技術の
年に最初の修了生を送り出したところであり、産業
移転が当初計画通りにはできなかった。また、カウ
界での評価が定着するまでには至っていないが、
ンターパートの予期しえない異動が多かったことが
Level4 を取得した高度技能者が 2003 年 6 月までに
あり、電子、メカトロニクス、生産の各分野の技術
239 名養成されている。
移転期間が圧縮された。さらに、マレーシア側のカ
(b)目標達成度
ウンターパート配置では、
指導員数が計画に満たず、
訓練機材の整備の遅れについては、近隣の職業訓
なかでも十分な技術経験を期待される J4 グレード
練校での派遣研修や、運営予算により少数の機材を
(短大卒、10 年以上の経験)の指導員配置が少なかっ
別途購入することなどで対処されたが、限界があっ
たことは、技術移転の阻害要因となった。
た。人事異動については、対象指導員数が多いこと
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
もあって、ある程度は仕方のないことであるが、留
(a)教訓
学のほか、予期せぬ突然の異動があり、技術移転を
① 効果的なプロジェクト運営のため、
技術諮問委員
中断せざるを得なかった例がある。コンピュータ科
会は有効である。
以外の3分野については、
技術移転のスケジュールが
② 技術諮問委員会分科会は、
各分野に対するヴィジ
圧縮されたことにより、専門技術の一部で技術移転
ョンと経験をもつ委員が、産業界のニーズ、カ
が遅れた。そのため、相手国側から協力期間の延長
リキュラム、シラバスに対しアドバイスを行う
の要望があり、産業界の新たなニーズを採り入れた
ことを通じて、プロジェクトに貢献した。
上で1年間、専門家の人数を半分にしてフォローア
③ 施設建設の遅れは、
プロジェクトの円滑な遂行に
ップ協力が行われた。フォローアップのテーマは、
大きな影響があることから、遅れのないよう充
機械保全技術(メカトロニクス工学)、熱処理、材料
分留意して計画、調整し、工事進捗状況のモニ
試験、FMS保守技術(生産工学)、電子制御ロボット製
タリングをきちんと実施すべきである。
作技術(電子工学)である。
④ 訓練機材の調達は技術移転に影響しないよう十
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
分留意して計画、発注されるべきであり、発注
立発展性
後の搬送についてもよく監視すべきである。
(a)インパクト
(b)提言
JMTI には技術相談部門があり、事業所を対象に短
① JMTI は新しい技術の動向に留意すること
期訓練を実施しており、
これが JMTI に対する産業界
② マレーシア側は鍵となるカウンターパートの人
の評価に寄与することが期待される。JMTI の活動に
事異動は計画的に実施すること
関して、労働力局傘下の ADTEC 等の職業訓練機関が
③ 人的資源省、公共サービス局は、JMTI 指導員の
JMTI の成果を吸収して活用することにより、制度的、
更なる教育に配慮すること
技術的に向上し、マレーシア全体としてより多くの
高度技能者を輩出することが期待される。
(b)自立発展性
マレーシア政府の政策に合致しており、制度的支
援、
予算的支援は引き続き確保される見込みである。
但し、供与されたハイテク機材の保守管理費用につ
いて、有償修理が迅速に実施できるよう、マレーシ
ア側で制度化が必要である。
4.教訓・提言
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
マレーシア側の施設建設や、訓練機材調達と配置
写真 ペナン州住民対象のコンピュータ・
が遅れた。この結果、高度技術の基盤になる汎用技
リテラシー・セミナー(JMTI・ICT セミナー)
117
事例 28
ミャンマー国における女性を対象とした裁縫技術訓練と識字による自立支援事業
特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン
理事・事務局長 新石 正弘
海外事業担当 山内 千里
1.プロジェクトの概要
②識字教育や技術訓練、地域にとっての新しい適正
(1)プロジェクト実施の背景
技術の紹介など、地域の女性がより多くの情報に
1991 年末から 92 年にかけてミャンマー連邦国ラ
接することで、学ぶ意欲や自信を高める。
カイン州北部から約 25 万人のイスラム系住民がバ
③技術修得、収入向上の機会を提供して、生活に困
ングラデシュに難民として流出した。その後、両国
窮する女性の自立を支援する。
政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が協力し
④技術訓練・識字クラスへの参加を通じて、異なる
て難民帰還・再定住促進事業が開始され、2001 年ま
民族の女性がともに学ぶ機会を持ち、各民族の融
でに約 23 万人が帰還・再定住した。しかし、帰還地
和を促進し、共生を目指す。
は厳しい自然条件とインフラも未整備の辺境地域で、 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
雇用機会も乏しく生活は厳しい。再び難民が流出し
(a)実施場所
ないためにも、
地域人口 80 万人の 8 割を占めるイス
ラカイン州マウンドー地区にある BAJ 技術センタ
ラム系住民と仏教徒のラカイン人など様々な民族間
ー内の裁縫訓練コース用研修棟及び同地区内の各村
での融和を進め、地域住民の生活向上のための支援
で訓練コースのために提供されたスペース。
が必要である。
(b)実施体制
ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ)は、1995 年 1
1)事業運営費
月より UNHCR の事業実施団体として、車両等機械類
事業運営費は表 1 の通り。2000 年後半から 2001
の修理・整備、機械技術に関する地域青年への技術
年は BAJ 自己資金のみでの運営であった。
研修、学校や小規模橋梁の建設、また所得向上と地
2)資機材の調達
域経済の活性化を目指した農機具等の貸出しなど多
事業運営費での購入のほか、文化服装学院より中
岐に渡る事業を展開してきた。
古業務用足踏みミシン 20 台、
新聞に掲載された呼び
この地域の多くの女性は、宗教的・文化的理由か
かけに応えた一般家庭と企業より裁縫セット 1950
ら社会的に弱い立場にあり、幼少より水汲み、薪集
箱、BAJ 裁縫ボランティアなどから布・ボタンの寄
め、食事、掃除、洗濯、育児など家事一切を引き受
附をいただいた。
け、
教育や技術修得の機会に恵まれていない。
また、
3)スタッフ・派遣専門家・現地スタッフ
雇用は家事手伝いや日雇い仕事などに限られており、
本事業のための長期専門家及び現地調整員は 4 名、
更に多数を占めるイスラム教徒の女性は自由な外出
短期専門家は 6 名である。
も困難である。BAJ は、1998 年から地域の女性の自
現地スタッフは、当初の 1 名から徐々に増えて現
立支援を目的として裁縫技術の研修を開始し、これ
在は、プロジェクトコーディネーター1 名、技術訓
までに延べ約 500 名以上の研修を実施した。同時に
練部門 6 名、収入向上部門 4 名に、フィールドコー
受講女性の収入向上のための様々な取り組みを行っ
ディネーター1 名の計 12 名で、すべて地元の出身者
てきている。
である。
(2)プロジェクトの目的と目標
4)運営体制
本事業は「女性の自立支援」を目的として、以下
マウンドー事務所が事業実施し、シトウェ及びヤ
を目標としている。
ンゴン事務所が後方支援、東京本部は物資調達、資
①対象地域の女性に裁縫の基本的な知識と技術を広
金調達、専門家や裁縫サポーター(ボランティア)と
める。
の連絡調整を行う。2003 年 3 月以降は、本事業のた
118
事例 28
めの日本人現地常駐スタッフはいない。現地スタッ
2)対象地域
フ、マウンドー技術センターのプログラムマネージ
当初は BAJ 技術センターのみで行っていたため、
ャーが運営管理を担う体制を取っている。
また、
2003
マウンドー町在住者だけが対象であったが、次第に
年 8 月からは、フィールドコーディネーターが識字
周辺村落にも呼びかけて行った。また、2002 年末か
や簡単な計算の指導、個人で開業するための基礎知
らは南部のインディン村など、遠方で支援の行き届
識、ファッションや保健衛生についての情報提供を
いていない村落でも技術研修を実施している。
行っている。
3)裁縫技術訓練
(c)活動内容
手縫いの基礎、裁縫道具の使い方、刺繍、子供服・
1999 年に日本人専門家によるトレーナー養成を
婦人服。小物の製作、ミシンの保守管理、使用・調
兼ねた 1 年間の長期コースを実施した。研修修了者
整法、ミシン縫い、子供服・婦人服の作成の他に、
の中から 4 名のアシスタントを採用し、2001 年から
品質管理、帳簿のつけ方などを指導。
特に経済的に困難な状況にある女性を対象に裁縫技
4)菓子作り技術訓練
術訓練を行い、識字クラスも開始した。2002 年末か
仕立ての仕事が無い時やすぐに現金が必要な時に、
らは、イスラム系村落で手縫い技術訓練コースを開
少ない元手で収入を得る方法として、保存が可能な
講し、2003 年からはお菓子作り訓練も開始した。ま
菓子作りを教えている。仕入れ、調理、販売のそれ
た、コース修了者が修得技術を生かして収入を得ら
ぞれと、衛生教育、帳簿つけ、接客方法なども指導。
れるよう、様々な支援を行っている。
5)識字教育
1)募集
ミャンマー語の書き方、読み方、会話、簡単な計
訓練生募集は、村長、村の開発委員会、教師、そ
算(加減乗除)を学ぶ他、材料の買い付け、注文のと
の他関連組織の協力を得て、
村をいくつかに分けて、
り方、接客、帳簿の付け方などを指導する。写真や
各グループ毎に説明会を開催する。その後、各申込
絵、図を多用した教材の工夫や、外部講師を招いた
者の家庭を訪問して面接を実施し、経済状態や困窮
り、すでに小規模で商売を始めている女性を訪問す
具合を確認して参加者を決定する。選考条件は、①
るなど、参加者の関心を広げる工夫を行っている。
経済的な困窮度 ②技術修得への意欲 ③年齢(16
1999 年から現在までに実施した訓練コースの詳
∼40 歳) ④低学歴(無学歴∼小学校 3 年生程度)
細は表 2 の通りである。
⑤毎日通学できる健康状態 ⑥女性の世帯主を優先
であり、宗教は問わない。
表 1 事業運営費
事業費総額
事業費収入内訳(円)
期間
備考
助成団体名
(円)
自己資金
助成金
(1US$=¥110.-で計算)
1
1998.6 ∼1999.3
13,520,166
7,920,166
5,600,000
外務省 NGO 補助金
ミシン整備&計画立案等,技術指導,調整各 1 名
2
1999.4 ∼2000.3
19,133,000
9,619,000
9,514,000
外務省 NGO 補助金
縫製技術 1 名,計画立案・機材整備 1 名の派遣等
3
1999.1 ∼1999.12
572,000
-
572,000
UNHCR
教材費,施設増設工事費の一部等(5,200US$)
4
2000.1 ∼2000.12
187,000
-
187,000
UNHCR
教材費(1,700US$)
5
2001.10∼2002.3
4,487,243
3,516,243
971,000
東京国際交流財団
縫製技術兼ベンガル語通訳 1 名,裁縫技術 1 名
6
2002.7 ∼2003.6
7,874,923
4,060,923
3,814,000
郵政事業庁国際ボ
調整 2 名、裁縫技術 1 名、現地傭人費、機材/教材
ランティア貯金
費
7
2002.10∼2003.3
1,423,052
732,476
690,576
東京国際交流財団
国内活動のための支援
8
2003.4 ∼2004.3
4,677,596
1,538,548
1,714,000
RIJ(国際難民奉仕
現地スタッフ雇用,技術・評価専門家派遣,機材・
1,425,048
会)、都生活文化局
教材費
24,487,624
―
計
51,874,980
27,387,356
119
―
事例 28
表 2 訓練コースの詳細
No
年
1
1999
2
3
4
5
6
〃
〃
〃
〃
2000
7
〃
8
2001
9
〃
10
〃
11
2002
12
〃
13
14
15
〃
〃
2003
16
17
18
19
〃
〃
〃
〃
20
〃
21
〃
22
〃
23
〃
24
〃
25
〃
26
27
〃
〃
訓練コース
デザインと洋裁訓練長期コース
(12 ヶ月)
手縫いコース(2 週間)
手縫いコース(2 週間)
仕立て方短期コース(2 週間)
仕立て方短期コース(2 週間)
デザインと洋裁訓練長期コース
(9 ヶ月)
99 年卒業生対象
フォローアップコース(1 ヶ月)
IGA 参加者のための
フォローアップコース(5 週間)
99&00 年卒業生対象
フォローアップコース(8 週間)
デザインと洋裁訓練長期コース
(5 ヶ月)
01&02 年卒業生対象
フォローアップコース(2 ヶ月)
デザインと洋裁訓練長期コース
(5 ヶ月)
フォローアップコース(2 週間)
手縫い・刺繍コース(2 週間)
デザインと洋裁訓練長期コース
(5 ヶ月)
フォローアップ刺繍コース(1 日)
フォローアップコース(7 日)
OJT(1 ヶ月)
フォローアップコース(1 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
基礎手縫い&御菓子作りコース
(2 ヶ月)
フォローアップコース(2 週間)
長期コース(5 ヶ月)
応募者数
(名)
100
受講者数
(名)
20
WS
WS
WS
WS
WS
24
23
20
23
135
24
23
20
23
30
全希望者
全希望者
No.2 受講者中の全希望者
No.3 受講者中の全希望者
BAJ WS
14
14
No.1 と No.6 受講者中の全希望者
BAJ WS
14
14
No.1 と No.6 受講者中の全希望者
BAJ WS
22
22
No.1 と No.6 受講者中の全希望者
BAJ WS
230
20
コースに識字教育を導入。
BAJ WS
19
19
No.6 と No10 受講者中の全希望者
BAJ WS
230
29
BAJ WS
インディン村
BAJ WS
29
27
170
29
27
30
No.11 受講者中の全希望者
希望者全員
インディン村
インディン村
BAJ WS
BAJ WS
27
20
28
26
27
20
28
26
希望者全員
No.13 受講者中の全希望者
No.14 受講者中の全希望者
No.15 受講者中の全希望者
2 名は遠距離のため通学困難
実施地
BAJ WS*
BAJ
BAJ
BAJ
BAJ
BAJ
パンドビン
村
ニャウンチ
ャン村
バゴナ村
計
水野専門家面接により選抜
10
130
10
10
イタリア村
シュエザ・カ
パゴン村
シュウェザ・
グナ村
BAJ WS
BAJ WS
−
備 考
10
220
10
10
30
−
−
30
30
565
(のべ人数)
No.14 受講者全員
フォローアップコース参加者等の
重複分を除くと約 300 名となる
*BAJ WS:BAJ マウンドー技術センター
(ワークショップ)
120
事例 28
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
3.プロジェクトの評価
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
訓練で習得した裁縫技術を使って収入を得る機会
(a)妥当性
を提供し、参加女性の自立を促す。
現地のイスラム系女性は外出が自由にはできない
(2)訓練等の計画と準備
状況なので、親戚以外から外部の情報を得ることの
本事業は UNHCR を中心とする地域開発プログラム
できる訓練参加は貴重な体験であり、また、家庭で
の一環でもあり、特定の現地政府カウンターパート
作業できる裁縫を自立の手段としたのは適切である。
機関はない。現地の BAJ スタッフが中心となって、
町の市場には既に男性のテーラーも多いので、必ず
コース毎に成果や課題、地域の状況を確認しながら
しも裁縫が最良の選択とは言えないが、社会的には
計画を策定して準備する。他機関・団体のプロジェ
野菜販売などよりは
“良い仕事”
とみなされており、
クトなどとの調整を行った後、現地政府機関の実施
女性が自ら社会参加するための動機付けとしては妥
許可を得てから実施している。
当な選択と言える。
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
訓練コース内容については、毎回の訓練修了後に
訓練コース期間中から、研修終了後の収入向上の
受講者からのフィードバックを得て漸次改善してい
ための準備と研修参加者の間でのネットワーク作り
る。その結果、訓練卒業生のインタビューではコー
を心がけている。
スへの満足度が高く、卒業後にテーラーの仕事に従
(a)収入向上支援
事する女性が少なくないことからも内容はほぼ妥当
個人で仕立て注文がない場合や、ミシン購入資金
と言えよう。
を稼ぎたいなどの希望者には、BAJ 技術センターに
(b)目標達成度
おいて、BAJ が地域で受けた注文品やヤンゴンや東
1999 年度の長期コース修了生の半数以上、また短
京で販売する製品を製作して収入を得ることができ
期コース修了生の 3 割以上がミシンを購入し、卒業
るように支援している。
後も裁縫に従事して収入の機会を得ている。また外
(b)ミシン購入支援
への販売はしないが家族の衣類や枕カバーなどを作
修了者中のミシン購入希望者に分割支払いでの購
って家計支出軽減に寄与している場合もある。フォ
入支援を行っている。
ローアップコースの開設や収入向上の機会を提供す
(c)店舗運営支援
ることで、参加者の技術は確実に向上しつつあり、
研修修了生を対象にテーラーショップの運営を支
全部の修了者が経済的に完全な自立を果たすのは容
援する。外部からの受注を受けやすくし、実際の経
易では無いが、ある程度の収入向上は図られつつあ
験を積むために 2000 年から店舗を開設し、
機材貸与、
る。
技術・運営指導、家賃補助などを行って支援した。
一方で、この地域には「何とか生活できれば女性
これまで多くの修了生が店舗運営を経験した。
は働くべきではない」という特有の認識もあり、技
(4)訓練等の定着・継続に向けた取組み
術修得が収入向上の意欲に結びつかない場合もある。
地元出身の講師を育成してきたので、訓練コース
地域社会全体が変化していくのは、まだ長い時間が
を地域の女性が主導的に推進することが可能となっ
かかると思われる。
た。2002 年末からは、イスラム系住民の村で女性を
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
対象にした訓練コースを実施しており、参加者の家
立発展性
族や村の男性の理解と協力を得るための働きかけも
(a)インパクト
行っている。また、研修修了生が作品を地元で販売
これまでの訓練参加者の 7 割は非識字者だが、技
できるように、ネットワーク担当職員が地域のニー
術を修得して所得向上へ結びつけるためには、簡単
ズや価格の情報を提供し、修了生が互いに協力し易
な読み書きや計算が非常に大切となる。2001 年以降
い環境作りを心がけている。
のコースでは毎日 30 分の識字教育を実施した結果、
コース修了後は参加者が読み書きを修得し、受講に
よって生まれた知識欲や自立に向けた活動に大きな
121
事例 28
影響を与えた。
とが多く、得た利益や家計貢献度などが分からない
この地域ではイスラム系住民と仏教徒のラカイン
ことが多い。今後この点を改善できれば、継続性に
人の間で緊張関係があり、居住地域も明確に分かれ
も繋がっていく余地がある。店舗運営に携わった修
ている。しかし、参加者はコース中の共同作業を通
了生は、裁縫技術の他、店舗管理、顧客対応なども
じて異なる民族同士でも互いに協力でき、より効果
実地に訓練されるので、一定の管理能力ができつつ
的な仕事や学習ができることを学んだ。この地域で
ある。また、経験の長い女性と経験の乏しい女性と
は、これまで両民族の女性同士が一緒に学ぶ機会は
を組み合わせることで、技術面でのノウハウの移転
なかったが、コースで親しくなった女性たちがお互
が行われ、継続的な活動に役立った。
いの言葉を教えあうこともあり、地域の平和構築へ
また、ミシン基金を設立して購入希望者に貯金を
の好影響は小さくない。
奨励して自宅での開業を勧めた。
既に 67 名がミシン
また、この地域の女性にとって人前での発言は考
を購入したことは、今後の継続性に明るい希望を持
えられない事であったが、発言して自分の意見を述
たせるものである。
べたり、当初は喧嘩ばかりしていた参加者がコース
を通じて次第に穏やかになるなどの変化もあった。
4.教訓・提言
インストラクターによれば、公共の場におけるマナ
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
ーや人との接し方など基本的なコミュニケーション
① 対象地域はイスラム文化の影響が大きく、
女性が
の方法を指導してきたことの成果であるという。
外部の情報に触れたり自由に行動したりするこ
本事業の評価調査団に対して、多くのイスラムの
とは大きく制限されている。プロジェクトによ
女性は就学経験がなく、参加者の多くが訓練コース
り技術修得や女性の自信創出という効果が出て
がこれまでの人生で最も楽しい経験であったと述べ
きてはいるものの、地域男性の理解と協力を得
ている。技術の修得のみならず、自らの生活圏で出
られるかどうかが女性の自立に大きく関わって
会うことのない他民族や BAJ スタッフとの交友、時
いる。地域男性への更なる働きかけも重要であ
には外国人との接触機会を得たことは、受講者にと
る。
って貴重な体験となっている。当初は、村の女性の
② 近い将来、
この地域から UNHCR の撤退が予想され
技術訓練に非常に消極的であった村の指導者層(男
ているので、BAJ も今後は本プロジェクトを長期
性)も、
訓練に参加した女性たちの変化を見て技術訓
的に継続することはできない。本プロジェクト
練に積極的になった例も聞かれるようになった。
の今後の目標をどうするか、限られたプロジェ
また訓練参加者の多くは姉妹がいることから、家
クト期間後に何を残していくか、などが大きな
庭内で裁縫技術が普及した例もあり、今後、直接受
検討課題である。
講できなかった希望者への機会の拡大に繋がってい
③ 今後は、
訓練に参加した多くの女性をまとめてい
くことを期待したい。
くリーダーの存在が重要となるので、技術研修
(b)自立発展性
だけではなく、リーダーを育成していくことも
地域のイスラム女性は生活上の制約が多いので、
大切な課題である。
意識的に、参加者間のネットワークや家族の協力の
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
取り付けなど、コース参加者が裁縫を続けていける
① 国境に近く民族間の緊張があり、
当局の移動許可
環境作りに努力してきた。技術面では、本事業によ
も毎回必要な地域である。BAJ がイスラム系の
る裁縫技術訓練の結果、意欲的な卒業生はテーラー
村々でプロジェクトを直接実施できるようにな
を営業できる程度の技術を修得している。これは適
るには、何年かの「準備期間」が必要であった。
宜実施しているフォローアップコースや、日本で本
BAJ が本地域に入って 7 年の間に、様々な開発事
事業を支える裁縫サポーターによる見本帳、短期専
業を通じて地域の人々や現地政府に BAJ につい
門家派遣による技術支援などがレベルの向上に有効
ての理解が深まり、ようやく村での事業が可能
に働いていると思われる。収入向上面では、個人で
となった。地域の状況と外部者に対する受容性
受注販売している修了生は帳簿や記録をつけないこ
を考慮しながら、事業内容を検討することが重
122
事例 28
要である。
② 裁縫技術訓練は「技術修得の機会」である以前に
「外部の情報に触れる新鮮な機会」であった。
外部情報に触れる機会の創出は、外部者の支援
として重要な役割である。
③ 本事業実施以前には、
現在のような成果を得られ
ることは予想できなかったが、今後は、プロジ
ェクト修了後に何を残すかを意識的に追求し、
明確な目標設定をしていくことが必要である。
④ 日本で本プロジェクトを支えるボランティアの
裁縫サポーターが生まれ、その中の約 10 名が現
地を訪問して技術指導や交流を行った。研修参
写真 1 自分の作品を着てうれしそうな参加者たち
加者と日本のサポーター間での相互理解や絆が
生まれつつあるのは、大変意義深いことである。
写真 2 訓練修了後に仕立屋を営んでいる
123
事例 29
ミャンマー・シトウェ市における技術訓練学校運営事業
特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン
理事・事務局長 新石 正弘
海外事業担当 山内 千里
1.プロジェクトの概要
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
(1)プロジェクト実施の背景
(a)実施場所
シトウェ市はミャンマー西部のラカイン州の州都
ミャンマー連邦ラカイン州シトウェ市
で、以前はアキャブ島とも呼ばれ首都ヤンゴンから
(b)実施体制
は飛行機で約 1 時間余である。月一回の貨客船しか
カウンターパート:国境地域民族開発省教育訓練局
通っていなかったが近年橋ができて、乾季なら車で
(Ministry of Progress of Border Areas and
も行けるようになった。ラカイン州には、ラカイン
National races and Development Affairs,
王朝の歴史を持つ仏教徒のラカイン人とイスラム系
Department of Education and Training /略称:DET)
ベンガル人が主に住んでいる。経済的には貧しくマ
日本人職員:プロジェクトマネージャー、
ラリアの多いことでも知られている。
現地調整員、短期専門家
近年、ミャンマー全体の経済発展に伴い、当地で
現地職員数:
もようやく車両や船舶が増加し、電気製品等の普及
講師・インストラクター11 名(主任講師 1 名、自
も目立つようになってきたが、これらの整備や修理
動車・電気・溶接各 3 名、英語 1 名)
、
ができる技術者はまだ非常に少ない。そしてその多
補助員 3 名(自動車 2 名、溶接 1 名)
、
くは徒弟制度で技術を修得した人たちで、理論は学
モニタリング員 1 名、事務職員 5 名、
んでいないため新しい技術への対応には限界がある。
補助職員 4 名(警備員、運転手、清掃員)
当地には、シトウェ大学があるが一部の青年しか
この他に BAJ ヤンゴン事務所では、
DET との連絡、
行けず、
多くは教育を受ける機会に恵まれていない。
調整、資機材調達と輸送手配、人員移動等の後方支
また大学の理工学部でも予算難などのため、理論中
援、JICA 現地事務所との連絡、調整を行う。BAJ 東
心で実習や実験などはほとんどないと言われている。 京本部事務所では、JICA との契約交渉、報告、連絡、
地域青年が技術を体系的に学習して実習もできる教
経理取りまとめを行うとともに、専門家派遣調整、
育機関はなく、勉学も就職も困難で、地域内の技術
資機材調達と輸送等の後方支援を行っている。
レベルも停滞したままの状況である。
表 1 主な事業資金
(2)プロジェクトの目的と目標
スキーム名
ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ)は、このよ
うな状況を改善し、地域青年に“学び”
、
“考える”
事業期間
機会を提供し、彼らが将来の地域の発展を担ってい
く力となることを目的として、2001 年に BAJ シトウ
事業費
草の根無償資金 JICA 草の根技
協力
術協力
2001 年 3 月∼
2003 年 4 月∼
2002 年 12 月
2006 年 3 月
US$188,829
5000 万円
ェ技術訓練学校(BAJ Sittwe Technical Training
(3 年間総額)
School、略称 STTS)を開設した。
備 考
当プロジェクトは、中央の開発から取り残されて
施設建設・機材
技術訓練学校の
運営等
きた辺境地域の青年に技術と知識を学ぶ機会を提供
(c)活動内容
することを目標とし、技術を学んだ青年の就労機会
技術訓練は、1 期 6 ヶ月で 95 名の青年を対象に自
が拡大し、その青年を介して地域の技術が向上する
動車修理(35 名)、溶接・切断技術(30 名)、電気技術
ことを上位目標とする。
(30 名)の 3 コースを開講し、2004 年 7 月までに 4
124
事例 29
期が終了した。入学者は、シトウェから 1/3、ラカ
まだ承認が得られていない。今後も実現を目指して
イン州から 1/3、
DET の推薦によるミャンマーの国境
DET との調整を継続していく予定である。
地域の青年(孤児や片親の青年が多い)が 1/3 の割合
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
としている。
(a)理論を重視したカリキュラム
ミャンマーの地方では、技術の習得は専ら、工場
などで徒弟制度の中での実地訓練を通して行われて
表 2 既に終了したコースと卒業生数
自動車
電気
溶
合
いる。理論も含めて体系的に技術を学ぶことができ
整備
技術
接
計
るのは、大学進学者などのごく限られた人たちであ
32
26
29
87
る。実地訓練のみで経験に頼ってばかりでは、新し
25
24
23
72
第 3 期(03.5.5∼03.11.14)
30
23
30
83
には限界がある。当事業では、理論学習と実習の両
第 4 期(04.1.12∼04.7.30)
28
16
14
58
方に重点が置かれている。また、ミャンマーの初等
115
89
96
300
中等教育では、暗記学習が主で、一般的に青年は自
第 1 期(01.9.13∼02.3.15)
第2期
(02.3.27∼02.12.16)
合
計
い発想が生まれにくい。また、現地にとっての新し
い機器の修理・整備や、新しいものを創造していく
ら考え、創造していくことに慣れていない。訓練生
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
ひとりひとりに“考える力”を培うことも STTS の目
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
的の一つである。
(b)適切な機材設備の中で行う実習訓練
本プロジェクトにおける訓練は、既述したように
(Practical & On the Job Training / OJT)
その中心をなすものである。
知識と技術を体得し、技術を実際に活用できるよ
(2)訓練等の計画と準備
全体計画については、BAJ と DET、JICA との協議
うになるためには、理論を理解し、実習を通じて確
に基づいて決定されている。具体的なシラバス等に
認することが不可欠である。そして実習訓練を行う
ついては、STTS のミャンマー人教職員が中心になっ
ためには、適切で必要十分な設備、機材、工具を必
て計画を立案し、準備する。その過程においては、
要とする。STTS では、工具、機材、設備を適切に使
ミャンマーでの教育課程、他の技術訓練校や大学の
いこなすことができるようになることも重要な課題
教育内容、地域のニーズなどが考慮される。日本人
の一つである。STTS の機材・設備については、主に
駐在員やプロジェクトマネージャーも検討に加わっ
ミャンマー国内で調達が容易な機材・工具を揃えて
ており、短期派遣専門家は助言を行っている。
訓練生の卒業後に備えているが、一部に日本製の機
材・工具も使用している。STTS では、適切な設備、
各コースの目標は次の通りである。
機材、工具を備えた実習場・小規模工場を学校内に
① 自動車修理:日本の 3 級整備士レベルの知識と技
設置し、実習訓練において十分な実地体験ができる
術の習得
② 溶接・切断技術:車両ボディや船体の修理、旋盤
ように努めている。また同時に、地域社会からの修
を使った簡単な機械部品の製作ができる能力の
理などの仕事も受付け、理論と実地の違いと関連性
習得
を学びながら、生きた技術の習得と多くの経験が得
られるよう工夫している。
③ 電気技術:基本的理論の理解と基本的な屋内配線
(c)外部講師による特別講義・実習、施設見学等
や電気器具修理のできる能力の習得
訓練生の視野を広げ、自ら考え創造する力を培う
④ その他のコース:訓練生の要望に応じて英語クラ
ために、専門分野の理論と実習だけでなく、外部講
スを開講している。
また、シトウェの人口の約半分を占めるミャンマ
師による特別講義を実施している。日本からの専門
ーの市民権がないイスラム系ベンガル人のコース参
家による講義・実習、シトウェ大学教授、国連機関、
加、および女性を対象とする訓練コースの実施を
NGO 職員などによる特別講義、地域の造船所、銀行、
STTS 開設当初から提案しているが、時期尚早として
空港の見学などを行っている。これまでに、日本人
専門家 7 名を含む 25 名の専門家が各専門分野、
周辺
125
事例 29
知識や一般教養を習得するための特別講義を行って
を習得するのは不可能だが、訓練コース中により多
きた。また、成績優秀者を対象に自動車運転教習も
くを吸収し、
“自ら考えることができる”素地を作る
行っている。今後も地域のニーズ、訓練生たちの要
環境作りを目指している。これまでに 4 期約 300 名
望に基づいて、積極的に副次コースの開講を行って
あまりの青年が卒業しており、地域青年に専門技術
いく。
と知識を学ぶ機会を提供するという目標は、徐々に
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
達成できるようになってきている。
STTS は基本的にミャンマー人教職員によって実
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
施され、また、卒業成績優秀者の中から数名の助手
立発展性
を採用している。そのため訓練生や DET との意思疎
(a)インパクト
通が円滑に行われ、地域の条件や環境を考慮した技
学ぶことも就職もできず、日々を無為に過ごすし
術を開発・指導することが期待されている。
かなかった青年たちに技術を学ぶ機会を提供し、地
日本からの短期専門家の派遣や、他のプロジェク
域の企業に優秀な人材を提供することができた。ま
トでミャンマーに滞在する BAJ 技術スタッフによる
た卒業生たちが地元の企業で更に実地経験を積むこ
技術指導も行っており、常に外部の情報や最新技術
とにより、地域全体の技術力の向上が期待できる。
に触れて講師陣が技術向上を図れるように限られた
(b)自立発展性
予算内で心がけている。
ミャンマー人講師陣の育成のために、日本から技
日本人常駐スタッフは調整員として、ミャンマー
術専門家の派遣やミャンマー国内の研修への積極的
人教職員の管理、調整、また各々の能力向上の促進
な参加など、将来的な自立発展性を確保するための
を図る。継続的な人材育成のためには、中、長期に
努力を行っている。また、カウンターパートである
わたり、学校が継続していくことが望ましい。STTS
DET への事業引渡しに備え、運営会議にて情報共有
は、将来は DET に引き渡されて継続運営される予定
と今後に向けての協議を行っていく他、引渡しの前
だが、将来の DET への運営引渡しが円滑に行われる
に 3 年間の準備期間を設け、その間 DET から順次教
よう、日本人スタッフには主にファシリテーション
職員及びマネジメント職員を派遣するよう調整中で
の役割が期待されている。プロジェクトマネージャ
ある。今後 3 年後には DET が事業を引き継ぎ、継続
ーは全体を統括し、モニタリング等を参考にしてプ
して学校の運営をしていくことを目指して努力中で
ログラムの軌道修正等も行っている。
ある。
3.プロジェクトの評価
4.教訓・提言
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
(a)妥当性
(a)相手国の実情と日本側としての立場
当地の殆どの教育機関は設備・機材が未整備であ
根本的には、相手国政府担当機関の予算や人員が
り、また理論と実習の両方を体系的に学習できる技
十分でなく、まだ明確な政策がない場合に、日本側
術教育機関がない。当プロジェクトでは、理論と実
はどうすべきかという問題がここでもある。①ない
習を組み合わせた授業を行い、併設の実習場・小規
からやるべきでない ②無理にでも相手国政府から
模工場で実地訓練の機会を豊富に提供することによ
要請を取り付けて、それに基づき実施 ③何もしな
って、知識を実地に応用する力をつけていくことを
ければ地域青年たちは技術習得の機会がないままな
目指している。
現在、
多くの青年達は就職もできず、
ので相手国政府の了承を取り実施、など様々な立場
勉学の機会も十分にない状況であるが、将来的な地
がある。BAJ の本プロジェクトでの立場は③である。
域の発展を見据えて、
プロジェクトを実施している。
しかし、日本政府の中には、公的な資金を使う場合
(b)目標達成度
は、何年後かの現地側カウンターパートへの引渡し
当プロジェクトは開始後 3 年が経過したが、地域
後の維持管理計画が最初の企画段階で明確にできな
のニーズに合致した授業が行えるよう教授内容や設
ければ、公的資金を使って事業を始めるべきでない
備の充実に努めてきた。6 ヶ月で十分な知識と技術
という意見もある。
現在 BAJ は JICA と協同して本事
126
事例 29
業を行い、相手国政府機関との交渉、将来の引渡し
など、状況に応じて柔軟に対応できる NGO の利点と
政府機関としての JICA の利点を組み合わせ、
地域の
青年たちの将来にとって大いに役立つ事業にして行
きたいと望んでいる。
(b)問題点・課題
① DET の予算や人員が少なく、職業訓練教育に関す
る方針や展望が明確でない。
② 国全体が雇用問題を抱えている状況下で、
卒業生
の就職先確保は容易なことではない。
③ DET へ引渡し後の学校運営のための資金と人材
の継続的な確保に不安がある。
写真 1 自動車整備実習の様子
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
本プロジェクトについては、日本大使館や JICA
の協力を得られたが、公的資金を使う場合には、日
本政府の担当官によって見解がかなり異なるので、
プロジェクト実施前によく打ち合わせを行い、プロ
ジェクトの可能性について調整しておくことが肝要
である。
さらに、プロジェクト開始前からカウンターパー
トとプロジェクト引渡し後の運営について協議し、
引渡し前に十分に準備期間を設けるべきである。
写真 2 学校校舎の前でスタッフ、訓練生とともに
127
事例 30
ミャンマー・ヤンゴン市における障害者支援事業
特定非営利活動法人 難民を助ける会
常任理事・事務局長代行
堀江 良彰
海外事業担当 松山 恵子・加藤 美千代
1.プロジェクトの概要
などの取りまとめを行うとともに、
専門家派遣調整、
(1)プロジェクト実施の背景
資機材調達等の後方支援を行っている。
ミャンマーの身体障害者は 200 万人前後(人口の 3
(c)活動内容
∼5%)に上ると推定され、
その中にはポリオ(小児麻
職業訓練は、1 期 3 ヵ月半で約 30 名の障害者を対
痺)や発達障害のほか、
ミャンマー政府と少数民族と
象に理容・美容コース(定員 15 名)、洋裁コース(定
の紛争で使用されている地雷による障害者も多数存
員 15 名)の 2 コースを開講し、
年間約 90 名が訓練校
在するといわれている。
を卒業する。
2003 年までの訓練生の 70%がビルマ族
障害者に対するミャンマー政府の福祉政策は、現
であるが、チン州、カチン州など全国各地からの障
在も基本法制定すら進んでおらず、国営と民間も含
害者が受講している。障害の原因としてはポリオ
めて障害者を支援する施設や団体も数えるほどしか
(40%)、地雷(18%)などがあげられる。
ない上に、社会的偏見も根強く残っているため、大
多数の障害者は家の中に取り残された状態が続いて
表 1 2003 年度における事業資金
スキーム
フェリシモ
名
地球村基金
2003 年 10 月
事業期間
∼2004 年 3 月
いる。
(2)プロジェクトの目的と目標
難民を助ける会は、こうした状況を改善し、障害
者の精神的・社会的・経済的自立を支援することを
2003 年 4 月
∼2004 年 3 月
事業費
50 万円
910 万円
備 考
助成期間は 2003 年
10 月∼2004 年 12 月。
助成金額 200 万円の
うち、
150 万円は 2004
年度に活用とした。
職業訓練校運営費、
資機材等に充当。
職業訓練校運営
費、モデルショッ
プ費、資機材費な
どに充当。
目的として、2000 年にヤンゴン市に職業訓練校を開
設した。目的は以下のとおりである。
① 障害者およびその家族の生活水準の向上
② 技術の習得および生きる希望や自信の回復
自己資金
③ 他の障害者の存在を知ることによる相互扶助
精神の向上
また、エンパワメントされた障害者自身が各地域
で活動をすることによって、ミャンマー社会におけ
表 2 既に終了したコースと卒業生数
る障害者の地位が向上することを目標としている。
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
(a)実施場所 ミャンマー連邦ヤンゴン市
(b)実施体制
カウンターパート:ミャンマー社会福祉局、
保健省、
ミャンマー障害者連盟
日本人職員:現地調整員、短期専門家
職員数:
洋 裁
理容・美容
合 計
2000 年
28
33
61
2001 年
41
28
69
2002 年
39
41
80
2003 年
41
41
82
合 計
149
143
292
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
講師・インストラクター7 名(うち障害者 5 名)
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
モデルショップ 2 名(うち障害者 2 名)
本プロジェクトにおける訓練は、既述したように
事務職員 3 名(警備員、調理師等)
その中心をなすものである。
難民を助ける会東京本部では、報告、連絡、経理
128
事例 30
(2)訓練等の計画と準備
なく職業訓練を効果的に受けるためにも訓練生自身
全体計画については、難民を助ける会ミャンマー
の自信回復とエンパワメントは重要である。毎朝の
事務所の職員(含ミャンマー人職員)の意見を尊重し、
モーニングトークを通して自己発露の機会を作るほ
東京本部、一部の卒業生との協議に基づいて決定さ
か、
寮生活を通して社会適応能力を身につけている。
れている。障害者関連の団体や短期派遣専門家はア
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
ドバイザーとして検討に加わり助言を行っている。
職業訓練はミャンマー人講師によって実施されて
各コースの目標は次の通りである。
おり、卒業成績優秀者の中から数名の助手を採用し
(a)洋裁
ている。また、日本および現地の短期専門家を招聘
ミャンマーで普段着として利用される洋服やミャ
し、現地の技術を大切にしながら、技術の向上を図
ンマーの伝統衣装、ドレス製作など、自立してお店
っている。
を開くのに必要な技術を身につける。
日本人常駐スタッフは調整員として、ミャンマー
(b)理容・美容
人スタッフの管理、調整、また各々の能力向上の促
ミャンマーの理容・美容技術に加えて、他店との
進を図る。スタッフの能力開発や人材育成に力をい
差別化を図るために日本のサービス技術も身につけ
れているため、プロジェクトの企画、実行、運営、
る。
会計、評価にはミャンマー人スタッフが中心となっ
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
て関われるような環境を作っている。
(a)カリキュラム
理容・美容コース、洋裁コースとも将来的には訓練
洋裁のコースでは、競合店が多いことから差別化
校の外に独立したショップを開き、自立発展を図る
を図るために「文化式」(型紙を使った縫製技術)を
とともに、ミャンマーの障害者の自助組織の中核と
取り入れ、丁寧かつフィット性を高めた仕上がりを
しての機能を果たすように計画している。
理容・美容
目指すカリキュラムを組んでいる。
のショップは 2005 年 3 月の開始を予定している。
理容・美容コースでは、ミャンマーの技術に加え、
日本のサービス技術(ひげそりなど)
もカリキュラム
3.プロジェクトの評価
に含んでいる。
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
(b)モデルショップでの実習訓練
(a)妥当性
技術を身につけただけでは、自立して店舗を持ち
ミャンマーには障害者を支援する国営ならびに
経営することは難しい。訓練生からも「お店を開く
民間の施設がほとんど存在していない。
自信がない」
という声を聞く。
難民を助ける会では、
当プロジェクトでは、現場で即戦力として使える
職業訓練プログラムを行うと同時に、ビジネス手法
技術を身につける授業を行い、さらに実習訓練で自
の伝達や卒業生に対するアドバイスを行うなど、よ
立への自信を身につける訓練も行っている。
り実践に即した包括的なアプローチをとっている。
障害者が積極的に社会に進出することによって、
3 ヵ月半の訓練を終了した卒業生の一部は、モデ
経済的・精神的・社会的な自立を促進し、障害者基
ルショップで一般の客を相手に実習を積む。家に引
本法も制定されていないミャンマーで障害者の地位
きこもりがちであった障害者が、接客技術を身につ
向上を目指してプロジェクトを実施している。
けるのにも役立っている。
(b)目標達成度
(c)外部講師による特別講義・実習
当プロジェクトは開始後 4 年が経過しこれまでに
2003 年には洋裁の日本人専門家を 2 回ミャンマー
292 名が卒業したが(2003 年 12 月まで)
、卒業生の
に派遣し、生徒を指導するアシスタントやスタッフ
7 割近くが技術を活かして収入を得ているという調
の訓練にあたった。
査結果が出ている。家族の手を煩わすことなく、一
(d)訓練生のエンパワメント
般公務員の給与よりも高い収入を得ている卒業生も
訓練生となる障害者のなかには、身体的な障害を
おり、収入の面では自立して家族に貢献している。
持つことに起因して、精神的または社会的に自立す
また、卒業生による自助組織の設立や他の障害者
る意識が低い者もいる。卒業後の生活のためだけで
のために働く姿も見られることより、プロジェクト
129
事例 30
の目的はある程度は達成できていると考えられる。
目標としている障害者の地位向上は、4 年という短
期間で成し遂げられることではなく、長期的な視野
で取り組んでいる。
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
立発展性
(a)インパクト
訓練生はミャンマー全土から集まっており、卒業
後地域に戻った卒業生が自立した生活を送ることは、
地方における偏見や差別をなくし、障害者に対する
新たな認識をもたせるきっかけとなっている。
(b)自立発展性
写真 1 洋裁コースで学ぶ訓練生たち(2004 年 10 月)
将来的な自立発展性を確保するために、ミャンマ
ー人障害者の講師育成に努めている。
それと同時に、
障害者の自助組織への支援を行い、将来的に自分た
ちで活動を繰り広げることができるようアドバイス
などを行っている。エンパワメントされた卒業生が
各地域で自助組織を設立することを期待している。
政治状況が不安定であり民間の福祉団体の設立や
運営が難しいミャンマーにおいて、当事業の現段階
での現地へのハンドオーバーはまだ考えていないが、
将来は、ミャンマー政府の決定にある程度従わざる
を得ないものの、障害者の自助組織になんらかの形
で引き継いでいきたいと考えている。
4.教訓・提言
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
① 職業訓練コースを受講できる障害者はある程度
軽度の障害者に限られる。家族への負担も大き
写真 2 理容・美容コースの訓練風景(2003 年)
い重度の障害者の社会復帰や経済的自立への支
援が課題である。
② 訓練校ではビルマ語を使用している。ミャンマ
ー全土から訓練生を募集しているので、ビルマ
語を話せない障害者への対応を考えなければな
らない。
③ 首都以外の地域に住む障害者のエンパワメント
ならびに支援を進める必要性がある。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
障害者支援の分野は、長期的な事業となる場合が
多い。財政確保に向けた長期的展望や計画が必要で
ある。
130
事例 31
ヨルダン 職業訓練技術学院プロジェクトの実施
千葉職業能力開発促進センター 梅本 清
(元 JICA 専門家・チーフアドバイザー)
1.プロジェクトの概要
職
種:機械加工科、溶接科、塑性加工科
(1)プロジェクト実施の背景
定
員:各科定員 30 名(1 学年 15 名×2)
ヨルダンは 1946 年イギリスの委任統治から正式
(b)向上訓練(短期)
に独立し、その後、4 次にわたる中東戦争による領
対
象:在職者
土縮小とパレスチナ難民の受け入れ、また湾岸戦争
職
種:機械加工科、溶接科、塑性加工科
による周辺諸国からの援助停止による経済的打撃を
定
員:各科 10 名
受けるなどして、苦難の道を歩んでいる。
現在、ヨルダンでは職業教育制度の大規模な見直
面積は北海道とほぼ同じで、中東諸国では珍しく
しを行っており、これらに関しても当プロジェクト
非産油国であり、天然資源に乏しく経済的な自立が
の目的も大きく関わっている。ヨルダンの教育制度
困難で、海外からの援助に頼らざるを得ない状況で
と技能資格は図 1 のように 5 段階の技能資格①スペ
ある。GDP の産業別比率を見てみると、第 1 次産業
シャリスト②テクニシャン③クラフトマン④スキル
3.5%、第 2 次産業 25.2%、第 3 次産業 71.3%であ
ドワーカー⑤セミスキルドワーカーとなっており、
る。主な天然資源はリン鉱石で日本の企業も進出し
STIMI はクラフトマンレベルの技能者養成に関わっ
ている。機械製造業は未熟だが、一方で観光産業が
ている。当国においては、学歴がそのまま技術者の
近年顕著な伸びを見せている。貿易収支は赤字で観
格付けになることが認識されてきたが、最近 VTC(職
光収入や海外出稼ぎ労働者からの送金に頼っている
業訓練公社)を中心として技能検定制度を含む職業
のが現状である。一方、ヨルダン政府は WTO(世界貿
構成法の導入を図っており、今後、企業における全
易機関)に加盟するなどして、
製造分野の強化策を打
ての技術系社員は技能資格証書取得する義務がある
ち出している。人口増加率は 3.1%で、20 歳以下の
方向に向かっている。
人口が 60%に達しており、特に 15 歳から 24 歳まで
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
(a)プロジェクトの実施場所
は 25.0%に達している。
アンマン市中心からほぼ 40km南に位置してい
このような状況のもとで、ヨルダン政府は国内産
業の振興、特に工業製品の品質向上による輸出競争
るアンマン市サハーブ地区工業団地
力の強化及び雇用拡大を図るため、わが国にプロジ
(b)プロジェクトの実施体制
1)スタッフの配置
ェクト方式技術協力の要請を行った。1997 年 10 月
より 5 ヵ年の協力が開始された。
日本側専門家:チーフ・アドバイザー他 7 名
(2)プロジェクトの目的と目標
ヨルダン側:カウンターパート 28 名、事務員 14 名
2)ヨルダン側投入
当プロジェクトの目的は職業訓練技術学院
施設:約 2 億円(50%は世界銀行からの融資)、1998
(Specialized Training Institute for Metal
年 11 月完成
Industries:STIMI)を設立し、ヨルダンの製造業、特
に金属加工分野における技能者の養成及び資質向上
人員配置:カウンターパート 28 名、事務員 14 名
を図るため必要な訓練コースを実施することになっ
学院運営管理諸費用:実施機関‐職業訓練公社
(VTC)
3)日本側投入
た。開設した訓練職種は以下のとおりである。
長期派遣専門家:チーフ・アドバイザー、調整員、
(a)養成訓練
訓練計画、機械加工、溶接、塑性加工
訓練期間:第 1 学年‐12 ヶ月間 STIMI にて訓練、
短期派遣専門家及び据付技師派遣:必要時 3∼4 名
第 2 学年‐企業にて 6 ヶ月間 OJT 訓練
対
機械供与:調査車両、視聴覚機器、訓練機材等
象:中等教育修了者(18 歳以上)
131
事例 31
カウンターパート日本研修:4 名/年
企業での OJT 訓練を実施することとした。
実施機関:国際協力事業団(JICA)
(b)向上訓練
支援機関:厚生労働省、雇用・能力開発機構
向上訓練については日頃から関係企業、団体等と
の連絡を蜜にし、STIMI が外部に対して提供できる
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
訓練コースを常に準備し迅速に対応できるようにし
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置付け
ておき、企業や団体等から訓練の申し込みがあると
ヨルダン政府は WTO に加盟、技能検定制度を設定
訓練内容の詳細を両者で詰め、具体的なコースを設
するなどして、
製造業分野の強化を打ち出しており、
定した。
このように当初の計画に組み込んだもの(レ
現在の労働人口 91 万人のうち、職業訓練校卒は 1
デイメードコース)だけでなく、企業、団体等から新
万 7000 人にとどまっている。また、高学歴志向のた
規相談がある場合でも積極的に対応している(オー
めクラフトマンが不足しており、
職業訓練公社(VTC)
ダーメードコース)。
所管の職業訓練センターでは、
金属・機械加工分野に
(3)効果的な訓練を行うための取り組み
ついてはこれまで中卒者を対象とした施設しかなか
(a)訓練管理専門家の派遣
ったため、国内においては STIMI がクラフトマン養
プロジェクトを立ち上げる場合、事前にその国の
成の唯一の実践的な訓練施設である。
ニーズを把握した後、
訓練計画を作成、
訓練を実施、
(2)訓練等の計画と準備
その成果を確認し、評価するというプロセスを経る
(a)養成訓練
が、決められた期間内に効果的な訓練を実施するた
養成訓練のカリキュラム開発のためにプロジェク
めには、計画の段階が非常に重要になる。ヨルダン
ト開始当初、企業に対し訓練ニーズ調査を行った。
の場合、訓練管理専門家を派遣し、訓練計画、実施、
その結果、計画段階では中卒者を受け入れる案もあ
評価のプロセスを体系化し、効率的な訓練を実施し
ったが、企業側のニーズもあり高卒者に対する 18
た。
ヶ月間の訓練コースを開設した。
全訓練期間のうち、
(b)カウンターパートへの効果的技術移転
前半の 12 ヶ月間は学院内での訓練を実施すること
専門家の日常業務は、訓練計画、テキスト、指導
とし、カリキュラムは各科共通科目として数学、コ
案、視聴覚教材等の作成の他、カウンターパートへ
ンピューター、技術英語等の一般科目に加え、機械
の技術移転を行う。この技術移転指導を行う場合、
製図や ISO 基準等の基礎学科と各科に必要な専門学
専門家は事前にカウンターパートにインタビューし、
科と実技からなっている。また、後半の 6 ヶ月間は
彼らが有している専門分野の不足部分又は未修得分
図1:ヨルダンの教育制度と技能資格
132
事例 31
野を一ヶ月ごとに確認し、それに基づいて指導計画
画部門長、各科主任の出席のもと、事前に日本側と
を作成し、計画的に技術移転を行った。
ヨルダン側で議題を調整し、会議では学院長がイニ
(c)企業、団体へ訪問
シャチブをとり、日本人専門家はアドバイザーとし
カウンターパートへの効果的な技術移転は、彼ら
て協力し訓練がスムーズに実施されるようにした。
と常に密接な連携を図る必要がある。
(d)専門家会議
指導員は施設内での訓練が主要な業務であるとい
週一回を原則とし、プロジェクトを期限内に実施
う意識が強く、直接訓練生を指導すること以外に関
出来るように、プロジェクト実施上の諸問題を共有
心と経験が乏しい傾向があるが、専門家はカウンタ
し、ともに解決するための専門家会議を実施した。
ーパートとニーズ調査、卒業生の評価等を行うため
(e)職業訓練公社(VTC)との密接な連携
に積極的に企業団体等を訪問しその実態を把握しカ
プロジェクトサイトはアンマン郊外のサハーブ地
リキュラムに反映することとした。
区工業団地の一角にあり、チーフ・アドバイザーと
(d)機械、工具等の入手方法の実態調査
カウンターパートの学院長は施設内で業務をとるこ
STIMI の機器等は日本から供与されたものだが、
ととしているものの、チーフ・アドバイザーはプロ
消耗品等は現地で調達する必要があるため、現地の
ジェクトを円滑に実施・運営するために上部組織の
機工具店を調査し、現地調達を心がけた。
職業訓練公社(VTC)の担当者と密接な連携をとる必
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
要がある。その為、担当部長の部屋に週 2,3 回同室
(a)養成訓練
し、VTC の総裁、副総裁とプロジェクトをスムーズ
訓練実施期間中に、訓練計画確定後変更が生じた
に運営するための協議をできるだけ多く持つように
場合にその都度訓練計画部門が各科と調整した。12
した。
ヶ月間の学院内での訓練が終了すると 6 ヶ月間の
(f)合同委員会の開催
OJT 訓練に入る。
STIMI の運営状況、プロジェクトの進捗状況、今
OJT 訓練については訓練計画部門を中心に、企業
後に必要なアクションプラン等を確認するため、
VTC
訪問スケジュールを作成した後、各専門家とそれぞ
総裁、副総裁、その他局長級、STIMI から学院長他、
れのカウンターパートが企業訪問を行いながら、
OJT
日本人専門家、
そしてオブザーバーとして JICA ヨル
に適切な企業、団体を選定した。OJT 訓練中は専門
ダン事務所長が出席し、合同委員会を開催した。
家と各科の指導員が 2 週間に 1 度程度企業訪問し、
(g)技術交換のための出張
企業との意見交換や訓練生へのアドバイスを行った。
一方、訓練生は 3 週間に 1 度来院し、企業での訓練
日本の ODA によるプロジェクトを成功させるため
には、被援助国の自助努力が欠かせない。
実施状況を報告し、
必要であれば補講を行った。この
その為、VTC 総裁、学院長、訓練計画部門長及びチ
OJT 訓練は卒業生の就職先の開拓に大いに役に立っ
ーフ・アドバイザー、訓練計画専門家が過去の日本
た。
の援助によるプロジェクトの成功例を見るために、
(b)向上訓練
マレーシアの労働省の職業訓練部署、CIAST(マレー
養成訓練での 6 ヶ月間の企業おける OJT 訓練は訓
シア職業訓練指導員上級技能訓練センター)、
練生の企業の実情把握に役立つだけでなく、STIMI
JMTI(日本・マレーシア技術学院)等を見学し、
ヨルダ
の PR 効果もあり、
訓練生の就職先の開拓だけでなく、
ン関係者に STIMI を成功させるために一層の自助努
企業からの向上訓練受講に大いに貢献した。知名度
力を促した。
の高まりとともに、企業、公共機関からの訓練依頼
(h)第 3 国研修「CAD/CAM」の実施
も増え、具体的には政府関係職員、国連パレスチナ
STIMI は金属加工分野で中東地域では最新で高度
難民救済事業機関(UNRWA)の指導員、EU-NGO パレス
の設備を備えており、中東地域での中心的役割を果
チナ難民キャンプ等からの研修依頼、大学からの卒
たすことが期待されている。
中東諸国 22 カ国に呼び
業研究実施の申請等が増加してきた。
かけ 16 名を受け入れて実施し、成功裏に終了した。
(c)訓練会議
5 回実施を予定している。
週一回を原則とし、専門家全員、学院長、訓練計
133
事例 31
(i)他機関との連携
きる。
日本から供与された機器により STIMI は中東地域
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
でも金属加工分野では屈指の訓練施設となった。国
立発展性
内の先端企業、国内の研究機関及び国際機関から業
STIMI はヨルダンにおける金属加工分野のクラフ
務連携の問い合わせや研修依頼があり、可能な限り
トマンレベルの技能者を養成するという VTC の政策
これらの機関に協力することとした。
に貢献しているし、唯一の施設でもある。現在、VTC
(j)実習収益の確保
は今後 2 年間に同レベルの 3 訓練施設を新設する計
プロジェクトを日本との約束どおり実施するため
画である。STIMI はこれら新設施設のモデルケース
にヨルダン政府は業務運営費を特別に計上しており、 として捉えられている。また、STIMI は VTC 傘下施
協力期間中は訓練実施等には支障をきたしていない
設の指導員の養成も行っており、その一方で向上訓
が、ヨルダン国は資源に恵まれていないため訓練施
練では近隣アラブ諸国や UNRWA の指導員の研修も行
設自ら収益をあげ、管理・運営費を確保しなければ
っており、2002 年には CAD/CAM に関する第 3 国研修
ならない状況にある。特にプロジェクト終了後は積
を実施し、高い評価を受けた。
極的に収益をあげる必要があるため、専門家が滞在
当プロジェクトは、アクションプランに基づいて
している間に、企業、関連機関からの研修要請をで
実施され、STIMI の管理・運営も確立されており、
きるだけ受け入れ、外部からのより高度で幅の広い
訓練に必要な機材も予定通り設置された。
要請に応えられる技術を指導した。
STIMI の指導員もクラフトマンレベルの技能者を養
成できる知識・技能を有するレベルまでになった。
3.プロジェクトの評価
VTC は今後、STIMI を有効に管理・運営のための予算
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
及び人の配置を約束した。
ヨルダンの社会開発計画(1999∼2003)によると、
労働力の人材開発のための戦略の目的の一つは、労
4.教訓・提言
働市場からの要請に基づく訓練計画の質の向上及び
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
量の拡大を図ることとしている。さらに、新社会・
(a)技能者の評価制度の確立
経済への移行計画では貧困対策と雇用対策の拡大を
当プロジェクトは金属加工分野におけるクラフト
あげている。これらを達成する手段として、
今まで職
マンレベルの技能者養成施設として日本が協力して
業訓練は実施されて来たし、
現在も実施されている。
きたものである。しかしながら、全般的に見てこの
このような国の政策の元で、
職業訓練公社(VTC)の政
国は高学歴、ホワイトカラー指向であり、プロジェ
策のなかで STIMI はクラフトマンレベルの技能者養
クト関係者の努力にもかかわらず期待した程入学希
成のための特別な施設として位置付けられている。
望者が集まらなかったことにその結果が現れた。協
ヨルダンの製造業は 2000 年の資料によると、
1999
力期間中、
職業訓練公社(VTC)を中心に技能検定制度
年の GDP の 15.6%を、
雇用面では 12.1%を占めてお
の確立を図るなどして、技能者評価の制度を確立す
り、機械加工、塑性加工及び溶接技術分野の職業訓
る努力がなされているが、早急にクラフトマンへの
練は産業の基礎として金属加工業だけでなく、その
評価を確立し、STIMI への入学希望者が増加するよ
他の製造業の分野でも大いに役立っている。2000 年
う努力する必要がある。
から 2002 年間にプロジェクトが実施した企業に対
(b)高等教育機関への進学への道の開拓
する調査結果によると、STIMI の卒業生を受け入れ
現在、ヨルダンの教育制度と技能資格は図 1 のよ
た企業及び OJT の訓練生を受け入れた企業の訓練生
うに制度化されようとしている。STIMI の入学資格
の能力に対する評価は高い。
は高卒で、1 年 6 ヶ月の訓練を受けクラフトマンレ
また、日本のヨルダンへの技術援助は、調査結果
ベルのグレード 2 の資格を付与される。訓練生の中
からも企業からのニーズにマッチしていることがわ
にはより高度の教育を希望する者もおり、現状では
かる。以上のことから日本からの技術援助は目標を
より高度の教育・訓練を受けることができないため、
達成しているとして、協力の妥当性は高いと評価で
中退する者もいる。専門家チームはプロジェクトが
134
事例 31
終了するに当たり、VTC に対し文部省等と協力し、
より高度の教育の受講可能な制度の確立を提言し
た。
(c)指導員の定着
ヨルダンでは公務員の国内企業への流出だけでな
く、この国の公務員制度が公務員の海外での有限勤
務を認めているため、多くの公務員が海外勤務をし
ている。当プロジェクトの関係者も近隣諸国へ所謂
出稼ぎに出ている者もおり、これは優秀な人材の海
外流出問題としてヨルダンにとっては非常に残念な
ことである。ヨルダンの諸状況を考えるとやむをえ
ない面も有るが、今後は STIMI の発展のためにも流
出防止対策をとる必要がある。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
写真:NC 旋盤実習
5 年間という限られた期限内でプロジェクトを完
成させるためには、専門家だけでなく、受け入れ国
の全般的な協力と自助努力が重要である。当プロジ
ェクトが得た教訓は、期限内で終了するためには以
下のようなことが必要であった。
① 受入国の関係組織、機構の把握と人脈の把握
② カウンターパートとの親密な連携業務
③ 技術移転手法の確立
④ 業務に必要な英語力
⑤ 異文化の理解
⑥ JICA、大使館担当者との情報交換
⑦ カウンターパーの転職防止
⑧ 技能尊重風土の醸成
⑨ 機器等に必要な部品の入手経路の確立
(特に日本から供与された機器等の部品)
⑩ コース開発に係る詳細なニーズの把握
135
事例 32
UNRWA 職業訓練支援の実施
(UNRWA:国連パレスチナ難民救済事業機関)
千葉職業能力開発促進センター 久米 篤憲
(元 JICA 専門家・職業教育管理)
1.プロジェクトの概要
きた。
(1)プロジェクト実施の背景
(2)プロジェクトの目的と目標
はじめに、国連パレスチナ難民救済事業機関
ここからは、小職が担当した 3 年間の活動をプロ
(UNRWA)に関する基礎的な情報を紹介する。
ジェクトと位置付けて報告する。
(a)設立経緯
小職派遣前までの専門家派遣は、UNRWA が設置す
1948 年のイスラエル建国とともに第 1 次中東戦争
るシリアのダマスカス訓練センター及びヨルダンの
が勃発し、イスラエルによって追放されたパレスチ
ワディシール訓練センターに限られていたが、小職
ナ人約 75 万人が難民としてヨルダン、シリア、レバ
に対する案件要請書には以下のような主旨の目的が
ノン、ヨルダン川西岸及びガザ地区に流出した。
記載されていた。
UNRWA は、これら難民の救済を目的として 1949
「今後、職業訓練分野に対する協力効果をさらに高
年の国連総会決議(302-Ⅳ)により設立、翌 1950 年
めるためには、これまでの技術協力に加え、各校が
から活動を開始。更に 1967 年の第三次中東戦争勃
地域社会のニーズに対応した教育体制を整備するこ
発に際し、イスラエルに占領された西岸等より約 35
とが重要であり、UNRWA 各職業訓練の運営面での支
万人のパレスチナ人が流出、新たな難民が発生した
援を行う専門家派遣が必要であると思料される。
」
ことにより、UNRWA の救済事業は拡大した。
以上の要請目的に対して次のような目標を設定し
(b)UNRWA の事業内容
て活動した。
UNRWA は主に、前記した 3 ヶ国 2 地区に居住する
(a)訓練管理システム(TMC)の導入
パレスチナ難民を対象に、教育、医療・保健、福祉
特に訓練指導員の日常業務に注目し、その役割を
活動を実施している。
体系化する。すでに、
「フィリピン職業訓練向上プロ
① 教育:小・中学校(男女)及び職業訓練校を運営。
ジェクト」(JICA プロ技)にて TMC(Training
教員にはパレスチナ人を雇用。
Management Cycle)としてサンプルが構築されてい
② 医療・保健:診療所、母子保健センターを運営。
るので、UNRWA の職業訓練分野における在来手法と
保健・衛生の他、家族計画の指導・実施及び衛
融合を図り再構築する。構築後は、指導員への再教
生環境向上の活動を実施。
育(訓練指導技法)セミナーとして定着を促す。
③ 救済・福祉:老人、寡婦、身体障害者等貧困下に
(b)施設運営システムの改善
置かれているパレスチナ難民に対し、食料及び
業務計画・実施・評価・改善の取り組みを、日本
住居を提供。
の訓練施設で利用している職員会議や委員会の規程
(c)我が国との関係
集を翻訳、導入することで UNRWA 内の組織運営上の
① 1953 年より、毎年支援金を拠出。
改善を図る。
② 1973 年より UNRWA の活動及び予算審議を監督す
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
る諮問委員会に参加。
専門家としての活動範囲は、UNRWA の活動範囲で
(d)JICA 援助の背景
あるヨルダン、シリア、レバノン、ガザ地区、ヨル
1986 年に当時の安部外相による中東諸国歴訪の
ダン川西岸地区であったが、通常はヨルダンの首都
折、日本政府として UNRWA 援助を開始する公約に端
アンマン市にある UNRWA 教育局本部ビルに執務室を
を発している。
具体的には JICA が 1986 年 12 月から
提供してもらっての活動となった。
計 12 名の長期個別派遣専門家を継続的に派遣して
活動に際して、UNRWA 側から指定されたカウンタ
136
事例 32
ーパート(目的達成の為に協力し合うパートナーの
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
意)は教育局長(UNESCO が派遣したイギリス人)と技
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
術教育職業訓練部長(UNRWA 職員のパレスチナ人)の
UNRWA 傘下の 8 ヶ所の職業訓練センターには約
2 名であった。
5000 名以上の若者が訓練を受講している。訓練の形
教育局長はイギリス国内で一般教育に長く携わっ
態も技術革新という時代を背景としての企業ニーズ
た経験を有する方で、UNRWA 傘下の小・中学校約 640
を受けて、従来の中卒対象の技能(スキル)訓練コー
校と職業訓練センター8 校の責任者として多忙を極
ス(2 年間)に加えて、高卒者を対象とした技術(IT
めておられた。
関連や CAD など)分野のコースを増設してきた経緯
技術教育職業訓練部長は、小職が着任した時期に
がある。
は人事異動の為に空席で、後任の部長も事情があっ
(2)訓練等の計画と準備
て 1 年間で退職、その後任が着任した時期に小職の
職業訓練スペシャリストは 8 訓練センターが開設
任期が修了したこともあり、業務遂行に良好なパー
する 58 種類の訓練コースを 14 系に区分けし、その
トナーシップを構築できた時間は限られていた。
系ごとに 1 名が配属されている。
実際の活動は、技術教育職業訓練部長およびその
TMC 導入に際して、実際に 2 つの方法を用いた。
代行と協議して、派遣目標達成のため TMC 導入に尽
① 職業訓練スペシャリストの JICA 集団コース「職
力した。具体的には技術教育職業訓練部に配属され
業訓練向上セミナー」への参加を計画・申請し
ている技術教育職業訓練スペシャリスト(以下、
職業
た。
訓練スペシャリスト)に対する技術移転を介して、
彼
実際には限られたコース定員の枠を取得するの
らから 8 訓練センターの指導員を教育することとし
が困難であり、3 年間の派遣期間中に 2 名を参加さ
た。
せた。
図 1 は TMC の概念(コンセプト)を示すもので、職
② 8 訓練センターの指導員を対象に TMC セミナーを
業訓練指導員の日常的な役割に対して、訓練評価を
ヨルダンで開催する。
重要な位置付けとして、良質な訓練提供への改善活
日頃の職業訓練スペシャリストへの技術移転の成
動を主眼としている。
果に対する評価も踏まえて、彼らを講師にしたセミ
ナーを計画した。実際には予算の問題で、JICA 予算
と UNRWA 予算で各 1 回、
計 2 回のセミナーを実施し、
8 訓練センターの副校長全員と主任(科長レベル)指
導員の計 40 名を指導した。
①訓 練 ニ ー ズ 把握
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
職業訓練スペシャリストへの技術移転を効果的に
②訓練プログラム開発
進めるためには彼らの学習意欲(モチベーション)
を
高める必要がある。その為に、まず何を技術移転す
るのかを明確にしたのが「表 1」にある TMC に関す
③カリキュラム&教材開発
る技術移転の項目一覧表である。
スペシャリストは教育局長に対して活動報告の義
④訓練実施
務を与えられており、指導員への教育や新たなカリ
キュラム開発及び改善が活動の主体である。
そこで、
ある程度の技術移転の結果を受けて、意欲のあるス
⑤訓練評価
ペシャリストに対して、実際の指導機会を与えるこ
図1:TMC 概念
とで実績を出させると共に、意欲の低い者に対して
は「セミナーを担当することで実績につながる」と
いう刺激を与えながら指導を行った。
137
事例 32
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
はこれらの成果を踏まえて、
「今後は UNRWA の自助努
TMC という日本の職業訓練をモデルに再構築した
力が求められる時期」として専門家派遣をひとまず
システムを簡潔に述べるのは容易ではない。しかも
終了した。
時と場所、対象者を変えて繰り返し説明するのはよ
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
り困難を要するものである。そこで、英語版とアラ
立発展性
ビア語版で TMC 紹介ビデオを作成した。その内容は
UNRWA の職業訓練は、ヨルダンに設置した教育局
指導員の日常業務を再確認することと、その業務の
勤務の職業訓練スペシャリストによって、カリキュ
進め方(手法)を完結に 20 分で紹介したものである。
ラムや教材開発がなされ、各訓練センターの指導員
ビデオは時代的な背景を反映させて、VHS テープと
に配布される。言わばトップダウン方式である。今
CDR に記録して各訓練センターはじめ関係者に配布
回導入を計った TMC は、訓練の準備・実施・評価と
した。
いう役割以上に指導員の業務見直しを視野に入れた
さらに、セミナー用教材の整備として、職業訓練
システムであり、地域産業ニーズに見合うカリキュ
スペシャリストがセミナーを担当するときの教材を
ラムや教材の改善ができることを狙っている。言わ
英文でパワーポイント教材として開発した。実際の
ばボトムアップがインパクトである。しかし、UNRWA
セミナーは受講者の英語力の問題があるためにアラ
が運営する 8 訓練センターでカリキュラムを統一す
ビア語で実施される。スペシャリストへの技術移転
ることは修了証書との関係で重要であるために施設
の際には、開発した英文教材を、彼らがアラビア語
ごとのカリキュラム変更は困難であるが、近い将来
の教材に翻訳する時点で大きく進展した。
在職者への短期間訓練の提供には TMC が大きな効力
これらの開発教材が、
専門家の帰国後に改善され、
を発揮すると期待している。
継続的に利用されれば TMC の定着が期待されると願
っている。
4.教訓・提言
(1)プロジェクトおよび訓練実施上の問題点・課題
国際協力機構(JICA)派遣による紛争地域への協力
3.プロジェクトの評価
支援は、外務省の渡航安全情報の判断及び、JICA と
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
これまでの約 18 年間に及ぶ JICA 支援に対して、
専門家の契約もあることで大きく制限された。
「現地
その内容や成果について総合的に妥当性や達成度を
へ出かけて行ってより詳しく現状把握して活動に反
評価した報告は無いようだ。ただ、派遣された専門
映させたい」と願っていたが、結局 3 年間の任期内
家各自の業務報告書からその成果を読み取るか、以
にガザや西岸地区への出張は不可能であった。
下のような主観的な評価がある。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
(a)教訓として
JICA の長期派遣専門家が活動した UNRWA 傘下の訓
「技術移転に対する、出たとこ勝負からの脱却」
練施設にはテキストや指導案などの教材が整備され
ており、機械工具の整理・整頓という指導員への躾
小職は過去、ネパール、フィリピンそして今回と
教育の成果さえも確認できる。また、専門家派遣と
計 9 年間の専門家派遣を経験した。その経験をも踏
同時期にはじまった「UNRWA 特設」と呼ばれる本邦
まえて、以下に自ら教訓とするところを述べたい。
研修の受け入れは、8 訓練センターや UNRWA 教育局
延べ 9 年間の派遣中に出会った多くの専門家や
本部などからの参加者が延べ 200 名を超えている。
JOCV 隊員(青年海外協力隊員)たちとの会話から、派
彼らの中から訓練センターの校長や主任指導員にな
遣現場において「聞かれたら教える」とか「間違っ
った者も少なくない。
ていたら正してやる」といった『出たとこ勝負の技
術移転になりがちだ』
との共通した悩みがよく出た。
小職の訓練システム構築活動に関しても、看護分
野のスペシャリストが TMC を応用して看護師育成訓
出たとこ勝負の技術移転の弊害は、たまたま出くわ
練コースを開発したことや、ビデオや教材整備の成
した問題の解決にはなるが、その他の潜在的な問題
果が確認された。
や根本的な問題が見落とされる。結果、派遣期間中
に相手の要求に沿って技術移転したにもかかわらず、
UNRWA 側は継続して支援を依頼しているが、JICA
138
事例 32
相手の技量をどの程度伸ばしたかという評価さえも
困難にする。
その対策には、自らが指導する対象者の到達すべ
きイメージをどれだけ明確に描けるかが重要とな
る。小職の場合、職業訓練のカリキュラム開発手法
として開発された CUDBAS(クドバス)と呼ばれる職
務分析手法を用いて「技術移転項目一覧表」を作成
することで計画的な技術移転を試行してきた。この
手法はヨルダン派遣中に 20 名を越える JOCV 隊員に
指導しながら、各自の「技術移転項目一覧表」を共
に作成することでその効果を確認できたと自負し
写真 1 自動車整備訓練風景
ている。
表 1 には、
小職が実際に活動に用いた
「UNRWA
職業訓練スペシャリストに対する技術移転項目一
覧表」を紹介した。この表を英訳、拡大したものを
常時執務室に掲示しておいたために、職業訓練スペ
シャリストなどが常時「これは何だ、どういう意味
だ」と説明を求めてくる。その度に彼らの既得知識
や経験を評価できると共に、その場で技術移転が進
んでいくという利用法が特に効果的であった。
(b)提言
海外技術協力の目的で派遣される方々の多くが
専門分野におけるスペシャリストであっても、誰か
に指導するとなると別のノウハウが必要となる。そ
れは「有名な野球やゴルフのプレーヤーが必ずしも
写真 2 TMC セミナー風景
優秀なコーチとなりえない」のと同じことで、何を
指導するのか、それらをどの順番で指導するのかと
言った問題が立ちふさがる。前記したように、今後
の JICA 派遣その他で途上国の現場で技術移転がな
される場合その活動が「出たとこ勝負」にならない
様にするには技術移転を体系的に進めるノウハウ
が求められると思われる。
紙面の都合で詳細は書けないが、機会があれば
JICA 機関紙フロンティア 2004.6 no59 に今回の提言
内容を紹介しているので参照していただきたい。尚、
同内容は JICA のホームページにも紹介されている
ので参照願いたい。
http://www.jica.go.jp/jicapark/frontier/0406/08.html
139
訓練評価
6
訓練実施
5−1
5
方法を知って
いる
いる
指導員評価の
知っている
評価について
カリキュラム
6−3
る
いる
6−2
て講義が出来
OHPを使っ
5−3
情報(テキスト
を含む)シート
の作成が出来
る
4−3
来る
表の作成が出
期間訓練計画
3−3
っている
決定方法を知
訓練生定員の
2−3
いる
ついて知って
企業ニーズに
1−3
ABILITY−3
ついて知って
実技指導法に
5−2
作成が出来る
作業手順票の
4−2
職務分析手法
を用いてカリ
キュラム編成
が出来る
3−2
方法を知って
訓練生評価の
6−1
て知っている
講義法につい
作成が出来る
訓練指導案の
4−1
知っている
発手法について
カリキュラム開
3−1
が出来る
が立てられる
教材開発
4
カリキュラム
開発
3
設置目標設定
訓練コースの
が必要か、仮説
どんなコース
2−1
2
訓練コース
設計
ている
いる
2−2
について知っ
地域のニーズ
1−2
ABILITY−2
ついて知って
国のニーズに
1−1
ABILITY−1
来る
教材評価が出
6−4
パソコンを使
って(パワーポ
イント等)講義
が出来る
5−4
る
の作成が出来
OHPシート
4−4
出が出来る
な運営費用の算
コースの大まか
2−4
いる
ついて知って
個人ニーズに
1−4
ABILITY−4
出来る
コース評価が
6−5
が出来る
を進めること
グループ討議
5−5
作成が出来る
パソコン教材
4−5
人員の概算を作
成できる
施設、設備、機材、
コースに必要な
2−5
る
いて知ってい
文献調査につ
1−5
ABILITY−5
UNRWA職業訓練スペシャリストに対する技術移転項目一覧表
職業訓練
ニーズ調査
1
仕事
表1
事例 32
クできる
フィードバッ
評価の結果を
6−6
ている
の仕方を知っ
効果的な質問
5−6
成が出来る
演習課題の作
4−6
ている
について知っ
聞き取り調査
1−6
ABILITY−6
が出来る
報告書の作成
6−7
ができる
発表会の運営
5−7
作成が出来る
ビデオ教材の
4−7
いる
ついて知って
質問紙調査に
1−7
ABILITY−7
いる
効果を知って
ビデオ教材の
5−8
出来る
調査の計画が
1−8
ABILITY−8
査が出来る
ってニーズ調
演習課題によ
1−9
ABILITY−9
事例 33
飢えの問題を自立的に解決するための農村指導者養成
準学校法人 アジア学院
校長 田坂 興亜
1.沿革
ほとんどの研修生は、国内に飢えている人口を多
準学校法人アジア学院は 1973 年に西那須野の地
く抱えた国々から来日しており、有畜複合型の有機
に設立され、今日まで 31 年にわたって、有機農業に
農業の技術を習得すると共に、飢えの問題の根底に
基礎をおいて、自給をめざす食糧生産を推進する農
ある社会・経済的要因をコミュニティーに基礎を置
村指導者を養成してきた。2004 年の時点で、短期の
いて、どのように解決して行けば良いのかを真剣に
訓練を受けたものも含めると、51 ヶ国、1009 名の卒
模索している。そのため、アジア学院で行う研修の
業生がアジア、アフリカ、太平洋諸島などの途上国
プログラムも農業技術の移転、訓練にとどまらず、
で、飢えの問題を自立的に解決するために活動を展
社会・経済的な要素も含めた総合的な内容となって
開している。
いる。
創立当初は、
「東南アジア農村指導者養成所」とい
う名前が示すように、アジアの国々からの研修生を
対象にしていたが、1970 年代前半には、アフリカで
深刻な飢餓の問題が発生し、アフリカ諸国からも研
修生を受け入れてほしい、との要請があったので、
1976 年からアフリカからも研修生を受け入れるよ
うになり、今日にいたっている。
2.2004 年度の研修生
今年度の研修生は、アフリカのウガンダ、カメル
ーン、ガーナ、ザンビア、ナイジェリアから各 1 名、
写真 1 2004 年度入学式
アジア諸国からは(括弧内は人数)、スリランカ(1)、
3.研修プログラムの概要
バングラデシュ(4)、インド(3)、ミャンマー(2)、ネ
研修プログラムは、フィールドでの実習、教室で
パール(2)、フィリピン(4)の 16 名、これに日本人の
研修生5名が加わって12月までの研修を続けている。 の座学、見学旅行の三つの要素から構成されている
さらに、過去の研修生の中から、それぞれの国に帰
が、その中で一番大きな部分を占めるのは、
研修生が
国後非常に良い働きをしている卒業生をトレーニン
自ら実践することによって学ぶ方式のプログラムで、
グ・アシスタント(TA)として招く制度があり、今年度
「ぼかし」と呼ばれる堆肥の作り方、
「マルチ」と呼
はインド、スリランカ、フィリピン、ミャンマーから
ばれる地表をわらや引き抜いた雑草で覆って水分の
4 名の TA が研修の手助けをすると同時に、自分自身
蒸発を防ぎ表土の流出を防ぐ方法、ニワトリ、豚、
さらなる研修を重ねている。また、昨年度の日本人
牛の飼育(乳搾り、
子豚の去勢、
ニワトリの解体作業、
研修生の中から 1 名が、グラジュエート・インター
豚舎からの排泄物によるバイオガスの活用などを含
ン(GI)として、二年目の研修を続けている。日本人
む)等々、有畜複合型農業の技術は、現場での毎日の
の研修生のほとんどが、将来、青年海外協力隊や国
実践によって初めて習得が可能となる。夏季に東北
際協力 NGO などで活動したいという夢を持っている
地方の有機農家に泊りがけで行なわれる農業実習も
ので、特に農業の背景なしに入学した学生たちは、
将
この中に入るであろう。今年度は山形県の庄内地方
来必要となる農業や畜産の技術などを充分に身に付
と置賜地方の二箇所で行われた。
けたいという理由から二年目の研修を希望している。
141
これら実習の基礎となるのが教室内での講義、ワ
事例 33
ークショップ、ディスカッションなどで、筆者担当
物、ニーム、レモングラス、マリーゴールドなどが
の”Danger of Chemical Farming”,“Development
ここでは活用できる。この農場を共同運営している
and Environment”やアジア学院の創設者である高
修道会にはアジア学院の卒業生が三人もおり、ここ
見敏弘氏による「指導者論」
、農場・畜産担当スタッ
での研修に協力している。
フによる講義等それぞれの分野においてスタッフに
よる講義が行なわれているが、カバーできない分野
4.卒業生に見る研修の成果
については、外部から専門家を講師として招いて行
(1)マレーシアの事例
なっている。
今年は UNESCO アジア文化センターの支
マレーシア政府は、2002 年 8 月に有機農産物の認
援により、韓国自然農業の第一人者で今年度の日韓
証制度を導入したが、その開始に当たって、首都ク
国際環境賞の受賞者である趙漢珪氏とフィリピンで
アラルンプールでセミナーを開いた。政府側は法律
水撃ポンプなどの適正技術を開発・普及させている
を作ることはできても、まだ有機農業を実践する農
イゼンガ・オーケ氏を招き、特別講義と実習を行な
家がきわめて少ないため、堆肥の作りかたなどの技
った。
術面では NGO に期待を寄せている。有機農法のノウ
ハウを持った NGO である CETDEM(Center for
Environment, Technology and Development,
Malaysia;マレーシア環境技術開発センター)は、ア
ジア学院の 1994 年度の卒業生であるシュ・ルアン・
タンさんが夫のガーミット氏と共にリーダーとして
率いている。タンさん自身がマレー語、英語、中国
語で堆肥の作り方についての手引書を作り、農民た
ちに実際の指導をしてきた。
(2)ミャンマーの事例
写真2 稲刈り
ミャンマー中部にピンマナという町があり、その
さらに、キャンパスの外に出かけていって学ぶ見
近郊のイエジンで、YMCA の農場を拠点にして、アジ
学旅行がある。
埼玉県小川町の金子農場、
田下農場、
ア学院の 1994 年卒業生メルヴィン氏が有機農業の
西那須野近隣の帰農志塾、ウィンドファミリーなど
発展に尽くしている。ミャンマーの軍事政権はその
それぞれ独自の有機農法を行なっている農場の見学、 経済政策の失敗のために、国内は大変なインフレに
また、足尾銅山や水俣などの近代化・工業化の過程
見舞われており、農民が化学肥料や農薬を購入する
で生じたいわゆる「公害」の現場の見学、さらには、
ことは困難となっている。そこで、化学肥料や農薬
「生協」などを通して行われている生産者と消費者
に依存せずにできる農業、つまり、鶏糞と稲わらか
の間の流通における提携の試みなど、社会・経済の
ら堆肥をつくる、というような有機農法を実践する
仕組みについても学ぶ機会が設けられている。
農家が増えてきている。
メルヴィン氏は YMCA の理事
4 月から 12 月まで、西那須野のキャンパスで営ま
で、戦前に農業学校で、今で言う「有機農法」を習
れるこれらの研修に加え、フィリピンのネグロス島
得した 70 才すぎの老人たちと共に、
農民たちの先頭
北部のバコロド付近にカトリックの修道会と共同で
に立って、
有機農業による食糧の自給に務めている。
農場と研修センターを開設し、1996 年以降、日本が
実際、聴いてみると、この地域ではコメの自給が達
冬を迎える一、
二月に仕上げの研修を行ってきたが、
成されているということであった。
メルヴィン氏は、
今年は財政難からこの部分の研修を日本人の研修生
2003 年度にはその息子をアジア学院の研修生とし
のみに限定せざるを得ない状況にある。このネグロ
て送り、土壌を豊かにしながら持続的な食糧生産を、
ス島での研修は、熱帯の国々から来た研修生にとっ
この地域でさらに発展させようとしている。
て、母国に近い環境で研修最後の仕上げをするとい
う意味がある。たとえば、防虫効果のある熱帯の植
142
事例 33
(3)タイの事例
動するリーダーの育成を精力的に行ってきた。2004
タイには、北部の古都チェンマイにチョムチュア
年 7 月からは、JICA のサポートにより、このアラハ
ンという 1988 年度の卒業生が ISAC(Institute for
バード農科大学を中心に三つの拠点にモデル農場を
Sustainable Agriculture Community) という NGO
開き、そこで有畜複合型の有機農法に基礎をおいた
を作って有機農業の推進を行っている。
しかし、有機
農村開発のための農村指導者養成を行うプロジェク
農業を実践している農家の周辺で、みかん農園が農
トが三カ年計画で始まっている。アジア学院のイン
薬を大量に使用しているため、これに対して、地域
ド人卒業生ミシュラ氏(1989 年卒)が若手の教員と
の仏教のお坊さんを中心に農民による抗議活動を行
してすでに活動を始めており、アジア学院の職員三
っている。お坊さんが中心にいることで農民が一つ
浦照男氏が、この 4 月からプロジェクトマネージャ
にまとまり、周辺との摩擦を最小限にして活動して
ーとして派遣された。また、2002 年度の日本人研修
いる。また、東北タイには、バムルン・カヨタとい
生川口景子さんが、アジア学院でさらに一年間イン
う 1989 年度の卒業生がいて、1990 年代に東北タイ
ターンとして研修を重ねた上で、アラハバードに派
の貧しい農民数万人を率いて政府に農業政策の転換
遣され、このプロジェクトの助手を務めている。
を迫り、ついに国家農業基本法の策定に農民代表の
このプロジェクトの特徴は、アジア学院がインド
参加をタイ政府に認めさせた。
から西那須野の地に招いて過去 30 年かけて行って
きた 200 名の農村指導者養成を、インドの社会的・
(4)インドの事例
自然環境下で、毎年 200 名ずつの研修を三年間に渡
インドは国土の大きさと共に人口も多く、特に飢
って行うことができるという点で、極めて大きな波
えに直面している人口を多く抱えているため、飢え
及効果が期待されている。
の問題の解決が大きな課題である。
過去 31 年間にア
ジア学院で研修を受けた卒業生の数もインドが一番
多く、200 名を越えている。
「緑の革命」と呼ばれる「多収穫品種」の小麦、
稲が導入されて、インド全体での穀物の収穫量は大
幅に増加したにもかかわらず、依然として多くの
人々が飢えに苦しんでいるのは、人口の増加も一つ
の要因ではあるが、それだけでなく、
カースト制度を
含む社会的な差別が大きな貧富の格差を生み出し、
貧しい人々が都市のスラムに流入することによって、
本来食糧の生産者であった農村人口が、都市の食糧
写真 3 アラハバード近郊の農家で、畑の状況を説明して
消費者に転ずる状況などの社会的経済的要因がから
いるミシュラ氏
んで、飢えの問題を深刻なものとしている。そうし
(5)バングラデシュの事例
た状況の中で、社会の底辺にいる人々を助ける活動
がマザーテレサの団体など様々な NGO や国際機関に
バングラデシュも、インド同様、貧困と飢えの問
よって行なわれているが、ここでは、アジア学院の
題が深刻な国の一つである。この国でも多収穫品種
卒業生や元職員が関わっているアラハバード農科大
の稲が導入されて、コメの増収が図られてきたが、
学の取り組みを紹介したい。
社会・経済的また宗教を含む文化的な背景が複雑に
関係して、飢えの問題は解決がなかなか困難である。
アラハバードは、
インドの東北よりの地域で、大河
ガンジスとヤムナー河が合流する地点にある。アジ
たとえば、貧しい農民が多収穫品種の稲を栽培する
ア学院の元職員である牧野一穂博士は、この大学
ためには、種籾や化学肥料を借金をして購入しなけ
の”Non-Formal Education Program”として、特に
ればならない。ところが、地域で金貸しをしている
ミゾラム、ナガランド、マニプールといったインド
人たちは 120∼180%もの高い利息を要求する「高利
の北限地域で、貧しい農民たちの自立をめざして活
貸し」の場合が多く、貧しい農民は、生産したコメ
143
事例 33
の大半を借金のかたに持ってゆかれるため、手元に
(6)韓国の事例
はほとんど残らない、あるいは借金だけが残るとい
韓国は、
目覚しい経済面での発展によって、もはや
う 現 実 がある 。 ( 文 献”Past Roots, Future of
「途上国」とは言えない国である。しかし、北朝鮮
Foods―Ecological
and
では多くの人々が飢えており、解決のメドは立って
Innovations in Four Asian Countries” Pesticide
いないように見受けられる。また、韓国の国内でも
Action Network(PAN) Asia and the Pacific, 2003.)
都市と農村の格差は大きく、農村部では安い輸入食
こうした状況から脱却するために、多くの NGO が
糧の流入によって農民が窮地に立たされている。そ
様々の取り組みを行っているが、ここでは、
アジア学
うした中で活動しているアジア学院の卒業生の事例
院の卒業生が指導的役割を演じている二つの団体の
を紹介したい。
Farming
Experiences
事例を紹介したい。
李愛利さんは 1993 年度のアジア学院卒業生であ
その一つは、プロシカという「しにせ」の NGO で、
るが、ソウルから車で北へ 2 時間ほど走り、
「38 度
有機農業を基本とした農民の自立のためのトレーニ
線」と書いた大きな表示の手前で東に向かい、さら
ング、農村開発、マイクロクレジットなど総合的な
に 30 分ほど山の中に入った鄙びた小さな山村にあ
活動を行なっている。この NGO で有機農法を様々な
る社会福祉施設 Si Gol Zip で働いている。この施設
試行錯誤の末に確立したのは、現在も非常勤講師と
では半数が精神障害者という 30 人が共同生活を送
してアジア学院での訓練プログラムに関わっていた
っている。その共同体を経済的に支えているのが、
だいている村上真平氏で、彼は熱帯環境下での有機
自家製のみそ、しょうゆである。この村の農民は、
農業の実践に関する第一人者である。
この NGO には、
米国や中国から輸入されてくる安い大豆に太刀打ち
1984 年度の卒業生ディパック氏が指導的な立場で
できず大豆の生産をやめていたが、李さんが有機農
活動しており、今年度もその中堅職員がアジア学院
法による大豆生産を指導した上で、生産された大豆
で学んでいる。
を買い上げ、これを原料にしょうゆとみその生産に
もう一つは、比較的新しい NGO で、アジア学院の
着手した。みそ、しょうゆの作り方はアジア学院で
1979 年の卒業生サイモン・アドヒカリ氏がリーダー
学んだというよりも、現地で伝統的に行われてきた
の BASSA という NGO である。この NGO は宿泊施設を
ものである。家屋の屋上に陶器の大きなつぼがずら
備えた研修センターを持っており、NGO のワーカー
りと並べてあり、この中でしょうゆが熟成して行く。
のためのセミナー等を行うとともに、近隣の農民の
生産したみそ、しょうゆはソウルや近郊の都市で高
ための様々なトレーニング・プログラムを行ってい
く売れるため、その収入で共同体全員の生活が維持
る。このセンターには有機農法による作物栽培のモ
されている。つまり、NGO として自立した運営を行
デル農場や養魚場があり、アジア学院と同じような
っているわけで、日本の NGO にとっても学ぶべきも
農村指導者養成が、実習を伴って行えるようになっ
のが多い。
ている。有機農業のほかに簡易トイレの作りかたの
展示もあり、糞尿の垂れ流しによる伝染病の蔓延を
防ぐための衛生教育も行われている。
写真 5 屋上にずらりと並んだしょうゆのつぼ
このように、李さんの活動はアジア学院で学んだ
写真 4
有機農法を地域農民に「技術移転」して、輸入大豆
BASSA によるワークショップ
144
事例 33
によって壊滅状態にあった地域の大豆生産を復活さ
動してきたアジア学院の卒業生たちが手を携えて協
せると共に、有機農法で生産した大豆を用いた食品
力することにより、飢えのない、平和な世界を創っ
加工によってみそ、
しょうゆを作り、これを販売して
て行くために貢献できればと願っている。
心身障害者と共に生きる共同体を持続的に維持、運
営するという点で、実にみごとな NGO の実践が行わ
れている。
(7)アフリカの事例
ケニアでは、オモト・チタイ(1984 年卒)、ピータ
ー・チャンディ(1990 年卒)といった卒業生がアジア
学院で学んだことを、アフリカという気候風土や植
生が日本とは全く違う環境に合わせて応用すること
により、
有機農業を村人と共に実践・普及している。
たとえば、日本で用いていた稲わらの代わりにとう
もろこしの茎を使って堆肥を作ったり、農薬の代わ
りに現地にあるハーブを用いてコーヒー栽培を行っ
ている。また、植林のための苗木作りを、まず婦人
たちのグループで行い、さらにその夫たちをも巻き
込んでその運動を広げて行っている。
ウガンダには、カンディガ・サムソンという 2003
年度の卒業生がいて、北部ウガンダでの NGO 活動を
行なっている。
この地域は過去 18 年にわたる戦争の
ために多くの人々が難民となっているので、彼は日
本と地元の NGO の協力のもとで、シェルターを作っ
て難民の子供たちを戦乱から保護する活動を行なっ
ている。
最近彼から届いた手紙によると、彼自身と違
う「アコリ」という部族の人たちの中で活動する上
で、アジア学院で学んだ PRA という、住民参加型の
プロジェクトの進め方に関するトレーニングが大い
に役立っている、ということである。彼は、この手紙
の中で、「私は、世界で一番幸運な人間だ!」とアジ
ア学院で学ぶ機会を与えられたこと、そして、
そこで
学んだことを生かして人々のために役立つ活動を行
なえる喜びを表している。
5.これからの課題
上記以外にも多数に上る好事例があるが、飢えの
問題解決のための農村リーダーの養成という使命を
31 年にわたって行ってきた成果が、その卒業生によ
って、
世界各地の途上国で実を結びつつある。
今後、
この人材育成の事業をさらに継続すると共に、スリ
ランカのような、タミールとシンハリ族との内戦が
終結したあとの復興に、両方の種族の居住地域で活
145
事例 34
職業訓練について考える−パレスチナとレバノンでの経験から
特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン
事務局長 田中 好子
1.ガザにあるろう学校での職業訓練
近い現在の状況でも安定して継続できる要素になり
パレスチナ自治区のガザにある「アトファルナろ
ました。
幸いにも初期立ち上げの資金(機材や材料な
う学校」は、1992 年に当会が現地の NGO と一緒に開
どと専門家の雇用)には世界銀行の支援を得ること
校しました。
最初は 28 人の生徒から出発した学校が
ができ、本格的な機械も導入できました。指導者に
10 年間で生徒数 250 人、地域の聴覚障害者センター
は比較的高給を払ったことも良かったと思います。
へと発展しています。長年、小学校の課程を終えた
ろう学校の卒業生、また地域の聴覚障害者は、こ
子どもたちの将来をどうするかが大きなテーマでし
こで訓練を受けながら、同時にお小遣い程度とはい
たが、数年前にようやく中学校の課程を始めること
え賃金をもらうことができます。自立しようとして
ができました。今後も子どもたちの将来は最も重要
いる若者にとっては大きなチャンスとなりました。
な課題の一つであり続けます。
現在では 70 人以上がここで働いています。
ガザは、1967 年よりイスラエルの軍事占領下にあ
職人が高齢化し技術が失われかけていた伝統的な
り、インフラが整備されていない上に地場産業もな
手織物がありましたが、このアトファルナの職業訓
く、成人男性の失業率が 7 割以上になっています。
練所に技術が伝えられました。複雑な糸掛けの過程
こうした場所で十代の聴覚障害の若者たちが職につ
も、聴覚障害の人たち独特の勘の鋭さで、難しい職
くこと自体、非常に厳しいのは言うまでもありませ
人技を習得しました。それでも原料の綿糸を入手す
ん。これまでに成人の聴覚障害者の作業所に弟子入
るのに困難を抱えています。
りをする、パン屋で修行する、美容師の見習いにな
民族衣装で有名な手刺しの刺繍も、それをアレン
るなどさまざまな試行を重ねてきましたが、コミュ
ジして製品化することで、ガザを訪れる国際機関の
ニケーションの難しい聴覚障害者の受け入れはなか
関係者など外国人のみやげ物として評判が高まりま
なか進みませんでした。
した。
刺繍や陶芸はほかの団体でも作っていますが、
1997 年に学校が移転したのに伴い、作業所を学校
縫製や品質の確かさ、品数の多さで、アトファルナ
の中につくり、学校教育の延長として職業訓練を実
は後発ながら、
トップに躍り出ることになりました。
施することになりました。顔見知りのスタッフや同
現在、職業訓練の製品は「アトファルナ・クラフ
じ聴覚障害の子どもどうしならば手話によるコミュ
ト」として販売され、その収入は学校の運営資金の
ニケーションに問題がないうえに、孤立しがちな障
30%を確保するほどになっています。こうした成功
害者にとって情報交換をし、自由に話し合える場に
の背景には、子どもたちの進路に悩み、また学校の
もなるからです。
運営資金に悩みぬいたスタッフたち、特に校長であ
内容としては、木工、縫製、刺繍、陶芸、手織物、
り理事長である、ジェリー・シャワさんの努力を抜
パン作りなどさまざまな種類があります。まず指導
きには語れませんし、事業目的がはっきりしていた
者という人材面では、こうした事業に賛成してくれ
ことが何よりだったと思います。
た腕のよい聴覚障害者の職人さんや、以前はイスラ
エルに出稼ぎに行っていたが、封鎖によって職を失
2.難民キャンプの女性支援
った一般の職人さんたちを現地で確保したことがポ
当会では 20 年前からパレスチナの刺繍製品に関
イントでしょう。ガザはこの数年、人や物の出入り
わってきました。もともと扱ってきたのは、レバノ
が極端に制限され、外国人の立ち入りも簡単ではあ
ンにあるパレスチナ難民キャンプの女性たちが作っ
りません。現地の人材と現地で入手できる材料、ま
てきたものです。ここでも、伝統的な民族衣装の刺
た伝統的な技術を中心にすえることで、戦争状態に
繍の技術を若い世代に伝えつつ、収入を作り出すた
146
事例 34
めに、海外やレバノンの余裕のある階層の人たちに
の現地の人々には難しいものと写ります。技術指導
販売しています。刺繍はほかに技術のない女性たち
という点ではこうしたことは非常に重要なポイント
が家で少しずつ作業できるもので、長年、難民キャ
ではありますが、見方を変えて、その努力がどれだ
ンプでのわずかな収入のひとつとなってきました。
け報われるのかという観点にたったとき、その努力
夫を亡くし子どもを抱えた女性たちが、物乞いや売
はもしかしたら無駄になるかもしれない、と思うこ
春をしなくて済むようにと始められ、規模が拡大し
とがあります。というのも手間ひまをかけた手刺し
てきたものです。レバノンには、人口比で1割に達
の刺繍であるパレスチナの製品の価格は、布地や糸
するパレスチナ難民が暮らしています。1948 年に難
が輸入品であること、現地の物価水準などから相対
民になって以来 50 年以上、
故郷に帰ることを許され
的に高価です。また一点一点色やデザインが微妙に
ず、二世代目、三世代目の難民たちの多くが難民キ
違うことが手作りの特徴です。そして、たとえば同
ャンプに住んだままですが、彼らは市民権がなく、
じ先進国でも、ヨーロッパ人たちが求めるものは、
70 種類以上の職種に就くことが禁じられ、土地も持
こうした色やデザインの美しさであって、日本人の
てないために、最低レベルの生活を余儀なくされて
求めるような縫製の堅牢さではありませんから、今
います。
後長期にわたって、安定して日本で売れるという展
ここで、私たちは、現地の NGO と一緒に、幼稚園
望がないとしたら、時間をかけ苦労したことは無駄
や子ども歯科、補習クラスなどの事業を進めてきま
に終わってしまうかもしれないのです。こう考える
した。技術指導をし、刺繍製品を作り出すことは、
とマーケットの安定的な確保を抜きにした技術指導
やはり現地の社会福祉 NGO が生活に苦しむ女性たち
はないのですが、私たちの側にそれに対応する能力
に収入を作り出し、同時に幼稚園などの運営資金の
はまだまだ不足しています。
足しにすることから始まっています。
また、大量注文に応える現地の能力にも限界があ
忘れてはならない大事なことは、パレスチナの刺
って、ビジネスにならない難しさがあります。ガザ
繍は、大英博物館でも評価される美しい伝統文化を
とレバノンを比較したときにいえることは、職業訓
継承していることです。そして、それを見た人の「惨
練が単独で存在するのではなく、その後のシステム
めで哀れな難民」という先入観を覆す力を持ってい
が機能しているかどうかで、技術指導の効果に差が
るように思います。
援助・被援助という関係の中で、
出るということに尽きると言えます。その一方で、
先進国、経済強国に住む私たちは、難民となった人
刺繍の美しさの点に関しては手工業的なレバノンの
たちに優越感を持ちがちですが、相手がこうした美
ほうに軍配を上げざるを得ないというのが、もうひ
しいものを作り出す人たち、文化を持つ人たちであ
とつの経験なのです。
るという認識を持つと、その関係性にも変化が生じ
ると信じています。
4.ニーズにあった技術とは何か?
パレスチナ難民キャンプで国連機関が実施してい
3.これまでの経過と問題点
る職業訓練は、理容とか自動車修理、配管などの分
このレバノンでの刺繍プロジェクトとの関係は長
野です。果たして現代的なニーズと見合っているの
いので、日本から縫製の専門家を派遣した経験もあ
かどうか疑問を感じます。難民の人たちがキャンプ
り、また製品の開発についての注文も出してきまし
の外でも生活できるようにするためには、もっと別
た。しかし結果的にそれほどの効果を挙げるにいた
な、高度な技術が必要とされるのが現状です。とい
っていません。確かに日本で売りやすいもの、日本
うのも狭いキャンプの中での需要はすでにいっぱい
人の好むものはありますが、果たしてそれでよいの
になっていますし、貧しい人たちの間でわずかなお
かどうか、という非常に大きなテーマに直面するか
金が動いているだけに過ぎないからです。
らです。たとえば、袋物の縫製についていえば、日
そもそも IT が進んでいる現状では、
たとえば自動
本人はマチのあるもの、ポケットの多いものなどを
車修理ひとつでも、これまでのような技術で対応で
好みますし、裏地の付け方ひとつにも注文は多々あ
きる範囲はどんどん狭められています。ガザのろう
ります。当然、手間がかかりますし、大雑把な感覚
学校で行っている補聴器の修理についても、デジタ
147
事例 34
ル化が主流になっている現在、これまでの修理技術
では対応ができなくなっています。そして、ヨーロ
ッパの補聴器メーカーの協力を得て新たな技術習得
をしながら対応しており、企業との連携も欠かせま
せん。
5.マーケットを作る意味
私たちは、子どもの教育や福祉分野を中心に活動
している NGO なので、技術指導や職業訓練はそもそ
も専門外であり、派生して出てくる事業としてしか
扱っていませんが、以上のようなことからこれまで
の職業訓練のあり方については、少し再検討すべき
時期だと感じています。かつて、レバノンで縫製の
訓練と子ども服の製品化に少し関わったことがあり
写真 1 陶器の絵付けをする若い聴覚障害者
ましたが、このときには市場調査ができなかったた
めに失敗した経験もあります。
2 年程前にもレバノンの難民キャンプで、新たに
青少年の職業訓練を検討したことがありました。現
地の希望は携帯電話の修理でした。インフラの整っ
ていない難民キャンプでは固定電話を持つことは非
常に難しく、人々は割高でも携帯電話を持たざるを
得ません。日本と違って、中古の携帯電話が売買さ
れている状況です。しかもヨーロッパのシステムで
すと、中のチップを入れ替えればいくつかの国で使
用ができます。残念ながら日本のシステムと現地の
システムが異なる上に、日本からの技術者の派遣が
現実的でなかったのでこれは実現できませんでした
が、そのときに、日本側のイメージの貧困さを再認
写真 2 木製のらくだ置物の彩色作業
識しました。
こうした経験から、今後、職業訓練分野での協力
には、マーケットを確保する、新しい技術を見つけ
出す、何年間かの収入を保障する、現地での人材確
保のための支援をするなど、より広範で、重層的、
長期的な視点が欠かせないと思っています。その上
で初めて、技術指導が生きてくると思うからです。
写真 3 刺繍をする地元の聴覚障害者
148
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