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欧州の繊維及び衣料メーカー に関する調査

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欧州の繊維及び衣料メーカー に関する調査
欧州の繊維及び衣料メーカー
に関する調査
2006 年 2 月
日本貿易振興機構
市場開拓部
ジェトロ輸出促進課 宛
アンケート返送先 FAX 03-5572-7044
(平成 18 年 4 月現在)
● ジェトロ海外マーケティング調査報告書のご利用アンケート ●
~「欧州の繊維及び衣料メーカーに関する調査」について~
本レポートをご利用頂き、誠にありがとうございました。
ジェトロの今後のサービス向上に向けて、皆様のご意見を伺いたく存じますので、アンケートにご記入下さいま
すようご協力お願い申し上げます。
■ 質問1: 今回の調査報告書は、ポスト ATC になって、欧州主要アパレル企業の商品調達戦略にどのような
変化があるかをヒアリングして、日本企業進出の余地を探ることを目的としてジェトロが調査を行いました。
この調査報告書について、総合的にどの程度満足されましたか?(○をひとつ)
4:満足
3:まあ満足
2:やや不満
1:不満
■ 質問2: 上記のように判断された理由、またその他本報告書に関するご感想をご記入下さい。
■ 質問3:その他、ジェトロへの今後のご希望等がございましたら、ご記入願います。
ふりがな
お名前
会社・団体名
部署
役職
住所
TEL
FAX
★今後、お客様のご関心のあると思われるジェトロおよび関係機関の各種事業、各種アンケート調査等のご案
内の可否につき、該当欄に✔をご記入願います
e-mail
http://
< 送付可
送付不可
>
★ ご記入頂いたお客様の情報は適切に管理し、ジェトロのサービス向上のために利用します。
お客様の個人情報保護管理者:市場開拓部 輸出促進課長 TEL:03-3582-5313
★ ご協力ありがとうございました。
日本貿易振興機構(ジェトロ)輸出促進課 〒107-6006 東京都港区赤坂 1-12-32 アーク森ビル 6 階
E メール: [email protected]
ウェブ: http://www.jetro.go.jp/jetro/activities/export/
本報告書に関する問合せ先:
日本貿易振興機構(ジェトロ)
市場開拓部 輸出促進課
〒107−6006
東京都港区赤坂 1−12−32
アーク森ビル 6 階
TEL:03-3582-5313
FAX:03-5572-7044
本報告書の無断転載を禁ずる
【免責事項】
ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、
あるいは懲罰的損害及び利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、或いは
その他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえ、
ジェトロがかかる損害の可能性をしらされていても同様とします。
2
目次
要約
4
I) 序章: 数量制限に伴う繊維及び衣料の貿易
A. 2005 年 1 月 1 日以降の競争の状況
B. EU−中国間の貿易紛争
7
9
II) EUの小売業者及び衣料メーカーの調達方針に関する現在のトレン
ド
A.
B.
C.
D.
企業の調達方針に影響を及ぼす主な要因
ATC撤廃による影響
サプライヤーとしての中国: 機械及び脅威
日本のサプライヤーに対するEUの企業の関心
14
15
16
18
III) 事例分析:企業A及び企業Bの調達方針
A. 調達戦略とその実情
B. 調達戦略における将来の可能性
20
23
3
要約
調査の実施
本調査は、欧州の繊維及び衣料メーカーを対象にして、ブリュッセルの Grayling Public
Affairs 社が行ったものである。本調査実施にあたり、まずアンケートを繊維業界に属する複数
のメーカーに送付した上で、情報を得るために当該企業に直接、コンタクトを取った。しかし、
残念ながらⅢ)で記載する「企業 A」と「企業 B」の2社のみが、EU の小売業者及び衣料メ
ーカーの調達方針についての現状認識を示すことに合意するにとどまった。
尚、アンケートに対する回答内容に対する事実の整合性については各自で判断願います。
調査に協力して頂いた両社は、ジェトロに対して企業秘密を守るよう明確に求めているため、
本報告書を公表するにあたっては企業名を記載できない。
上記 2 社以外からの調査協力への拒否の理由
企業 A 及び企業 B 社以外の全ての企業が、本調査への協力を拒否した理由は以下の通りであ
る。
(1)アンケート内容に記載されている類の情報を提供することは会社方針に反する。
(2)求められた情報は秘匿性が高いものである。
特にカテゴリー4(高級)企業が、頑なに協力を拒否する姿勢を示した。
本調査は、彼らによれば、高度にセンシティブな問題についての見解を調べるものであり、
欧州メーカーとしては調達方針(製品の調達先及び価格)の詳細事項を簡単には公開できない
としている。
調達方針の主な決定要因
本調査結果によれば、調達方針を決定する主な要因は以下の通りである。
1.低価格及び金額に見合う価値。すなわち、メーカーは中国において、割安な価格で高級製品
を買い付けることが可能。
2.中国サプライヤーの量産能力。
3.発注製品の納品に対する信頼性。
4.ファッション及びデザイン面はメーカーの優先事項とはならない一方、欧州メーカーの対外
イメージ及び CSR 政策上の理由から、現在は社会及び環境条件が比重を占めるようになってい
る。
ATC 終了後
繊維および衣料に関する協定(以下、ATC)終了によって、調達要因に関する調査対象にな
ったメーカーのスタンスが根本的に変わったとは言えない。
4
しかし、上記企業はサプライヤーの地理的選択について異なった対応を示している。企業 A
が重点的に中国からの調達を行った一方、企業 B は数量制限に伴う問題を予測して実質的に調
達先を分散させた。一般的に、上記企業は中国のみを主要な調達先とすることが危険であるこ
とを認識している。他のアジア諸国、すなわちインド及びバングラデシュ、タイが中国に代わ
る可能性がある。
サプライヤーとしての中国:可能性及び脅威
圧倒的な競争上の利点の大きさにより、繊維分野で中国が EU の重要な貿易相手となったこ
とは明確である。欧州衣料メーカー及び小売業者が中国のサプライヤーを選ぶ理由は簡単であ
る。すなわちコスト・ベネフィット及び品質の良さ、納期、信頼性である。中国は特別なパー
トナーであるが、欧州メーカーは視点を広げながら、他の新興国との貿易振興に伴う利益も慎
重に見極めようとしている。
日本の繊維サプライヤーをどのように評価しているか
日本の繊維サプライヤーに関し、インタビューを行った企業全てが、それほど大きな規模で
ないとしても、日本のサプライヤーと取引を行った経験がある。
日本で調達を行う理由は、独自性(他をもって代えがたい)という基準及び日本市場に向け
た製品が大きな役割を担う一方、やはり日本製品の高品質性と優れた機能にある。
しかし、日本のサプライヤーは中国の価格と品質レベルとは異なるため、両社を単純に比較
することはできない。現在のところ、欧州企業は日本のサプライヤーが独自性のあるかつ革新
的な製品を提供するという点で日本製繊維に関心を寄せている。
i)企業 A の見解
企業 A は今まで日本で繊維の調達を行った経験は少ない。ごく少量のアマ糸の取引を行った
だけであると同社は述べた。しかし、同社は日本製繊維の質について高く評価している。日本
製繊維が高品質で優れた特徴を持っている、と同社は述べた。また、日本が他の国では入手不
可能な繊維製品を提供でき革新的であるという事実を認識している。同社は日本製繊維の縫製
をインドネシア及びベトナムで行っているが、中国の工場が良質の製品を提供できるならば中
国でも縫製を行うことも考えられる、と明確に述べている。
しかしまた、この企業は日本製繊維が非常に高価であるということも強調している。より良
い価格で高品質の製品を求めている中間的な市場をターゲットにしていることを考えると、日
本メーカーが同社の主要サプライヤーになる可能性は低い。また、日本のサプライヤーは最も
効率的な方法で繊維を売っていないと、同社は強調した。欧州の繊維メーカー及び小売業者と
の関係を強化するために、日本のサプライヤーも特別な展示会及び見本市に参加したり、また、
欧州メーカーが日本製繊維の利点をより良く認識するよう促すべきである、というのである。
結論として、同社は日本製繊維の調達に関心を高めているが、現在の市場価格では難しいだろ
う。
5
ii)企業 B の見解
企業 B は既に日本製繊維の調達を行っているが、日本市場をターゲットにした衣料の製造の
みに使われており、極めて限られた範囲でしかなされていないと説明している。
同社は、日本製繊維の衣料縫製を日本及び中国、タイで行っている。またハードウェア(サ
ッカーボール)及び靴も日本で製造しているが、非常に少量である。同社が日本製の繊維を使
用する理由は日本でのみ入手可能という希少性にあり、また地域市場の需要を満たすためでも
ある。すなわち、同社の場合、品質が優れているという理由ではなく、市場のトレンドに合わ
せて日本製繊維の調達を行っている、と結論付けることができる。
上記理由はこの企業が「御社が日本製の繊維を調達し、その繊維を中国の工場で縫製する可
能性はありますか?」という質問に否定的な回答したことで確信できる。同社は日本製繊維が
中国製と比べて、品質の違いはないが価格が非常に高いと述べている。従って、日本の繊維メ
ーカーがこの企業とビジネス関係を発展させる可能性は非常に低いと言えるだろう。
結果として、欧州企業が日本の繊維サプライヤーの能力について十分な情報を得ていないた
め日本を調達先に考えていないことが多い、ということが言え、日本の業界は、欧州繊維衣料
メーカーの認識及び意識レベルを向上させる必要がある。
日本貿易振興機構(ジェトロ)
市場開拓部
2006 年 2 月
6
序章: 数量制限撤廃後の繊維及び衣料の貿易
I.
A.
2005 年 1 月 1 日以降の競争動向
ATC の終了は、市場競争を全体的に様変わりさせ、世界規模の繊維及び衣料産業を大きく再
編することになった。
貿易パターンの変化:中国及びその他
割当制限撤廃以降、中国が勝利者となることが数年前より予想されていたが、繊維及び衣料
輸入が急増しコントロールできなくなったことについては、まだ多くの人々から過小評価を受
けている。
米国及びEU双方は、対中繊維特別セーフガード措置を課し、中国の輸出を個別に制限する
交渉を行い合意した。上記の対応は、欧米諸国の環境が、
(中国からの輸入を)まだ受け入れる
態勢を整えていないことを示唆する。
しかしながら、上記の展開は事前に予想されていたことである。割当制限制度から完全な自
由貿易に移行することによって、経済的に大きな変化が如実に現れる。上記の影響は、第一に
繊維及び衣料生産者の実質的な競争力が明るみに出ることである。かつて数量制限は、当該国
の輸出力を弱めることで競争に対する障壁として機能していたが、その撤廃によって繊維及び
衣料業界が単一の市場に変形した。
従って、中国のサプライヤーが新制度の下、最も成功することになっても驚くべきではない。
中国が繊維及び衣料品に関して競争力を蓄積していることは長年言われてきた。生産面の低
コストで有利になり、経済発展及び社会基準の恩恵を受けて、中国の生産者は事実上無数の品
目を納入するようことが可能になり、量産能力も身に付けていった。低価格で大量の製品を作
ることが可能になったため、中国は確固とした市場のリーダーになったのである。
しかし、本報告書の後半で述べるとおり、中国の輸出増加を防ぐための短期的な制限策がと
られることになった。特に、中国の輸出が自主的に制限されることになった。上記の出来事は
EUの小売業者を震撼させ、中国への事業集中に政治的なリスクが伴うことが強調された。そ
の結果、小売業者は調達先変更を考えざるを得なくなった。
統計によると、中国は今や他国の追随を許さないリーダーとなり、繊維及び衣料品の最も重
要な買い付け先として認識されている。EUへの輸出総額の中で中国が占める割合は、2004 年
(1 月∼5 月)の 18%から 2005 年(同時期)の 27%に増えた。
数量制限がない場合の小売業者の選択:複数の要因
中国が世界的な繊維及び衣料の提供者として台頭したからといって、今後も他の国々が小売
7
業者にとって信頼の置ける調達先となりうるという事実を軽視してはならない。
企業が調達方針を決める際、生産コスト及びその価格への影響が主な要因として考慮される
一方、他の決定要因も存在する。
トルコはEU小売業者を惹きつけるのに成功した最たる例である。同国はEUの輸入総額の
約 16%(2004 年の 14%と比較のこと)のシェアを有している。そして、EUと関税同盟を締
結すると同時に、欧州市場に隣接することで運送コストを軽減し、その結果製品の国際価格を
下げることで利益を増やした。同国の国際貿易関係の安定性、そしてEU機関及び加盟国との
良好な関係によって、同国は引き続きEU小売業者の主要サプライヤーとなることができる。
インドの場合、中国と同種の利益を受けているため(生産低コスト及び量産能力)、EUへの
輸出において安定した地位を保っている。バングラデシュについても同様で、EUの輸入市場
において常に5%のシェアを有している。
しかしながら、割当制限制度撤廃によって、調達先の決定要因が商品の単価だけではなくな
ってきていることが明らかになったのも重要である。地理的な隣接性に加えて、自由貿易協定
の存在がサプライヤー選択に当たり重要である。ATC終了に対する特定の国々の強い抵抗は、
法制上の環境が、政治及び経済上の安定とともに重要な要素となることを示している。
自由化の「敗者」
割当制限の撤廃によって、前記以外の多くの国はEUへの輸出を劇的に減少させることにな
った。例えば、モロッコ及びチュニジアは長年欧州と大きな貿易関係を築いてきたが、統計で
は数年後に生産減少に直面する見込みである。上記の国は、中国に比べると高すぎ、「ニッチ」
市場に合わせて産業を方向転換することもできなかった。
EUの繊維及び衣料生産者がとりうる解決策は、高級繊維の生産及び「ニッチ」の活用だろ
う。
大部分のEU産業は、急激な中国の輸出に対抗できる手筈を整えていなかった。従って、E
U機関がEU産業に引き続き関心を持つよう、つまり中国からの輸出を制限するように集中的
なロビーイングを行わざるを得なかった。
割当制限の撤廃によって東南アジア諸国からのEUへの輸出もまた大幅に減少した。上記諸
国は、以前EU小売業者の確実な仕入先と見なされていたが、中国製品と真っ向から競争する
ことになった。2005年1月1日より上記諸国におけるEUの発注が減少し始めたことは当
然の成り行きである。
8
B.
EU−中国間の貿易紛争
ATC 終了に伴い、中国を原産とする 35 品目の繊維製品の輸入が自由化されたが、その後中
国製製品の輸入が急増したため、欧州委員会は 2005 年 4 月に中国製繊維製品に対する特別セ
ーフガード措置に関するガイドラインを発表した。これは、中国製繊維製品の輸入量が一定水
準を超えた場合に欧州委員会が域内市場の被害状況の調査を実施し、ひいては当該製品の輸入
に制限措置(セーフガード)を発動できることを定めたもので、中国の WTO 加盟議定書の繊
維限定制限措置条項(TSSC)に基づく。実際に、当該繊維製品に対する輸入割当廃止後の 3
ヵ月間で 9 品目の輸入数量が急増したため、欧州委員会は同年 4 月 24 日にこれらの輸入によ
る域内市場の被害調査を開始し、5 月 27 日にこれら品目のうち T シャツとアマ糸に関して、セ
ーフガード発動の手続きの一環である正式協議を申し立てた。その後、欧州委員会と中国との
協議の結果、両者は 6 月から 9 月までで、特定の繊維製品の輸入に関する 2008 年末までの取
り決めに関して一定の合意に達した。これらの合意内容については覚書(memorandum of
understanding)に記載されているが、主な合意の内容は以下のとおり。
・ 2005 年 1 月 1 日以降輸入が自由化された繊維製品 35 品目のうち 10 品目について、中国は
2005∼2007 年の 3 年間、輸出増加率を前年比 8.0∼12.5%に制限する(12 ページ表①参照)
。
・ EU は現在実施しているこれらの品目に関する調査を中止する。
・ 輸入割当は 2005 年 6 月 11 日より適用するものとし、EU と中国は合意した輸入量の水準
を運営・監視するために、必要な行政措置を同時に導入する。
・ 同合意の対象外の品目および 2008 年については、EU は中国の WTO 加盟議定書 242 条に
基づき、セーフガードなどの権利の適用の範囲で制限措置を実施する。
第三国からの特定繊維製品の輸入のための共通ルールに関する理事会規則(EEC)No 3030/93
の付則Ⅱ、Ⅲ、Ⅴを改正する 2005 年 7 月 8 日付欧州委員会規則(EC)No 1084/2005(2005
年 7 月 9 日付官報 L177 掲載)
2005 年 7 月 8 日には、欧州委員会規則(EC)No 1084/2005 が採択された。同規則では EU
と中国間の合意内容が具体的に規定され、規則(EEC)No 3030/93 の付則 II、III ならびに IV
が修正された。EU・中国間の合意の対象となる繊維製品の輸入には、中国当局が発行する輸出
ライセンスの提出に対して EU の当局が輸入ライセンスを発行するという二重監視制度が
2005 年 7 月 20 日より適用されることになった。また、中国を原産とする繊維製品の輸入に対
する以下のような具体的なルールが規定された。
1.EU・中国間の協議における合意の対象となる品目の輸入
一般的に、これらの輸入には輸入ライセンスが必要となる(下記の(a)の場合を除く)。輸入
ライセンスの授与に関しては以下のようなルールが適用される。
ⅰ)2005 年 6 月 11 日より前に船積みされた製品の場合:
これらの輸入は当該の合意の対象とはならず、いかなる制限も受けない。また、自動的に
輸入ライセンスが授与される。ただし、これらの製品が域内で自由流通するには監視書類
の提示が必要。
ⅱ)2005 年 6 月 11 日から 7 月 12 日の間に船積みされた製品の場合:
9
これらの輸入には輸入ライセンスが必要となる。輸入ライセンスは特に制限なく自動的に
授与されるが、当該の輸入数量は 2005 年の輸入割当数量に算入される※。
ⅲ)2005 年 7 月 12 日から 7 月 19 日までに船積みされた製品の場合:
これらの輸入には輸入ライセンスが必要となる。輸入数量は、2005 年の輸入割当数量に算
入される。輸入制限数量が上限に達した場合には、輸入ライセンスは授与されない※。
ⅳ)2005 年 7 月 20 日以降船積みされた製品の場合:
輸入ライセンスは、中国側が発行する有効な輸出ライセンスがありかつ輸入制限数量に達
していない場合に限り発行される。
※上記ⅱ)およびⅲ)の場合について、中国の所轄当局が 7 月 20 日から発行する輸出ライ
センスの対象数量を算出するために、2005 年 6 月 11 日から 7 月 19 日までの間に船積みされ
る製品に対し輸入業者は輸入ライセンスを 8 月 15 日(後に 9 月 20 日に延長)より前に加盟国
の所轄当局に申請しなければならない。
2.2005 年 7 月 12 日より前に輸入された製品については、監視制度など現状の取り決めが引
き続き適用される。
3.EU・中国間の協議における合意の覚書の対象とならない繊維製品(輸入割当の対象となる
10 品目以外の製品)の輸入に対する制度には基本的に変更はない。
なお、この欧州委員会規則(EC)No 1084/2005 は、2005 年 7 月 12 日より施行された。
第三国からの特定繊維製品の輸入のための共通ルールに関する理事会規則(EEC)No 3030/93
の付則 V、VII、VIII を改正する 2005 年 9 月 12 日付欧州委員会規則(EC)No 1478/2005(2005
年 9 月 13 日付官報 L236 掲載)
欧州委員会規則(EC)No 1084/2005 の施行後、7月 22 日に中国製のセーターの輸入数量
が割当枠を超えたため輸入ライセンスの発給が停止されたが、これに続いて 8 月 8 日にはズボ
ンが輸入停止となり、8 月 22 日にはシャツ・T シャツ、ブラウス、ブラジャー、アマ糸などの
品目についても割当枠を超えた。規則(EC)No 1084/2005 では、7月 11 日までに中国から出
荷された製品に関しては、当該の輸入数量が 2005 年の輸入割当数量に算入されるものの、輸
入ライセンスは特に制限なく発給されると規定されていたため、同規則の施行を目前に中国か
らの出荷が急増し、このような事態に発展したと見られる。この結果、輸入割当枠を超過した
製品は EU 各地税関で足止めされ、秋・冬物製品が品薄となることを懸案した欧州の小売業業
界団体の間では、柔軟に輸入品の供給を認めるよう要請する動きも見られた。
これらの動きを受け、9月5日には EU・中国間で新たな合意が締結された。具体的には、
税関で足止めされた商品の半数のうち、ズボンとブラジャーについては 2006 年の割当数量か
ら合意された数量を、またセーターについては一部(2006 年の数量の 5%まで)を 2005 年割
当数量に繰り入れることとなった。これ以外の品目およびセーターの一部については木綿織物
の 2005 年の割当数量から充当される。また、足止めされた残り半数については、輸入割当数
量を無条件に追加することで合意した。
10
同合意を受け、2005 年 9 月 12 日に欧州委員会規則(EC)No 1478/2005 が採択された。規
則(EC)No 1478/2005 では、先の EU・中国間の新たな合意内容に基づき、2005 年から 2007
年の新たな輸入割当数量とともに割当数量の品目間の振替ならびに域外加工貿易(OPT)に関
する輸入品の扱いなどが規定され、規則(EEC)No 3030/93 の付則 V、VII、VII が置き換え
られた。
同規則に基づく輸入割当数量の引き上げによって、2005 年 7 月 19 日までに船積みされた製
品および 2005 年 7 月 20 日以降に中国政府による有効な輸出ライセンスの下で出荷された製品
で、規則(EC)No 1084/2005 で規定された輸入割当数量を超過する輸入に対してもライセン
スが発給されることになった。また、2005 年 6 月 11 日から 7 月 19 日までの間に船積みされ
た製品に対して必要とされる輸入ライセンスの発給申請期限は、2005 年 9 月 20 日までに延長
された。これらの措置によって、税関で足止めされた大量の製品が正式に域内に輸入される見
通しである。
2005 年∼2007 年の新たな輸入割当数量は付則 V に記載されている。また、輸入割当数量の
輸入年次や品目間の移動に関しては、以下のような具体的な措置が規定された(付則 VIII)。
割当数量の前倒し・持ち越し
・ 翌年の割当数量から 5%までを当該年の割当数量に前倒しで利用できる。
・ 当該年の割当数量から 7%までを翌年の割当数量に持ち越しできる。
これらは 2006 年および 2007 年にも適用される。
品目間の割当数量の振替え
・ Tシャツ、セーター、ズボン、ブラウス、ドレス、ブラジャー:各品目の 4%までを同品目
間で振替えることができる。
・ 木綿織物、ベッドリネン、台所用リネン、アマ糸・ラミー糸:各品目の 4%までを同品目間
で振替えることができる。
・ 木綿織物の 2005 年の割当数量から 2,073 トンを予備枠として確保し、他の品目で輸入枠が
必要となった場合、これらに振替えることができる。
ただし、このような振替を行う場合には、欧州委員会による事前認可を必要とし、振替の実施
は公表されるものとする。
なお、この欧州委員会規則(EC)No 1478/2005 は、2005 年 9 月 14 日より施行された。
11
輸入数量制限の対象となる中国製繊維製品品目と輸入割当数量(2005∼2007 年)
2006 年
品目
単位
2005 年
6 月 11 日∼
12 月 31 日
トン
GROUP I A 2(2a 含) 木綿織物
20,212
61,948
T
シャツ
1,000
枚
GROUP I B 4
161,255
540,204
セーター
1,000 枚
5
118,783
189,719
ズボン
1,000 枚
6
124,194
338,923
ブラウス
1,000 枚
7
26,398
80,493
GROUP II
ベッドリネン
トン
20
6,451
15,795
A
台所用リネン
トン
39
5,521
12,349
GROUP II
ドレス
1,000 枚
26
8,096
27,001
B
ブラジャー
1,000 枚
31
108,896
219,882
アマ糸・ラミー糸
トン
GROUP IV 115
2,096
4,740
出所:欧州委員会規則 No 1478/2005
表①
2007 年
69,692
594,225
219,674
382,880
88,543
17,770
13,892
29,701
248,261
5,214
このほか、同規則では、加工を目的としてEUから中国に材料を輸出し完成品を中国から再
輸入する域外加工貿易(OPT)について、通常の輸入制限枠とは別に再輸入製品の割当数量を
新たに規定した(付則 VII)。
域外加工貿易による中国からの再輸入繊維製品に対する輸入割当数量(2005∼2007 年) 表②
2006 年
2007 年
品目
単位
2005 年
6 月 11 日
∼
12 月 31 日
T シャツ
1,000 枚
GROUP I B 4
208
408
449
セーター
1,000 枚
5
453
886
975
ズボン
1,000 枚
6
1,642
3,216
3,538
ブラウス
1,000 枚
7
439
860
946
GROUP II
ドレス
1,000 枚
26
791
1,550
1,705
B
ブラジャー
1,000 枚
31
6,301
12,341
13,575
出所:欧州委員会規則 No 1478/2005
小売業者:将来への課題
中国製品の差し止めに関する大変危機的な状況は、9 月 12 日の合意をもって回避されたが、
EUの小売業者は 2005 年の終わりまで引き続き品不足に直面するだろう。秋物と冬物に関す
る限り、大多数の業者は「中国と似通った国」
(バングラデシュ、パキスタン、スリランカ)の
製品を再発注あるいは輸送する必要があった。
更に一般的に言えば、繊維危機によって、中国への集中にリスクが伴うこと、一国への依存
12
が過多になると多くの問題が生じることが明らかになった。
9 月 30 日、欧州議会は、中国とEU双方が公正に競争できるように多数の社会基準を中国の
生産者に課すことを求めた。その半月前、EUは中国のポリエステル長繊維織物の輸入に対し
て、14.1∼56.2%のアンチダンピング税を 5 年間賦課することを決定した(又、EU は、2005
年 3 月、同国からのポリエステル短繊維の輸入に対しても、4.9∼49.7%のアンチダンピング税
の賦課を決定済み)。履物分野に関するEUの調査によると、今後数ヶ月の間に中国は靴に対し
て高い関税を掛けられることになると思われる。
***
13
II.
EU の小売業者及び衣料メーカーの調達方針に関する現
在のトレンド
A. 企業の調達方針に影響を及ぼす主な要因
1.
第一要因
当然のことながら、欧州企業の調達方針に影響をもたらすもっとも重要な要因は価格及び金
額に見合う価値(value for money)に関するものである。従って、サプライヤーの選択は、大
体は生産コストが低い国の比較優位がもたらす製品価格に基づくところが大きい。最終的に選
択されるには、サプライヤーは「低価格で多数の品目を迅速に納入する能力」が備わっていな
ければならない。
i)
主な要因である価格
サプライヤー選択の際に、大部分の企業が主な要因として考慮するのはコストである。上記
選択方法は企業間で異なるが(企業 B は香港の「子会社」にサプライヤー選択を任せ、企業 A
は独自のサプライヤーに生地の選択を委ねている)、企業にとって価格は最大要因であるという
ことができる。
ii)
金額に見合う価値
価格とともに品質が選考上の非常に重要な要因であるとされる。EU の企業にとってサプラ
イヤー選択の際に主な要因となるのは、価格あるいは品質よりも重大な「金額に見合う価値」
(価格と品質の比率)である。
iii)
納入能力
二社の調査によって、サプライヤー選択の際に主な基準として考慮されるのは、大量の納入
ができる能力であることが分かった。実際に、これらの企業は、上記企業の需要に応えられる
ような大量納品の能力があるサプライヤーを選んでいる。
iv)
サプライヤーへの信頼
信頼もまた大きな要因である。大部分の EU 小売業者は長期的な関係を築くことを望んでい
るため(サプライヤーを「転換」することは高額なコストが掛かる)、信頼のできるパートナー
と関係を確立することに重要性を見出している。
2.
第二要因
上記 4 つの要因に加えて、EU の企業は他の多数の基準を考慮に入れている。下記の基準は
決定的ではないが重要であると見なされている。
14
i)
ファッション性及びデザイン
最新のファッション及びデザインは EU の企業にとって重要な要素であることは明白である
が、サプライヤー選択においてまだ大変重要であるとは言えない。それは、大部分の企業が「金
銭に見合う価値」に基づいてサプライヤーを選択しているからである。特殊なデザインが求め
られるのはもっと後の段階なのである。
ii)
中国における労働条件
調査対象のうち 1 社は「中国における労働条件」が大きな要因であると述べた。ナイキの事
件があるように、大企業は中国への発注が長期的には企業イメージの脅威になりうることを認
めている。中国の工場あるいは直営店で児童労働が行われていることが非難されてから、ナイ
キは「グローバルな社会実践(global social practice)」を立ち上げて、企業の社会的責任がそ
の調達方針に重要な役割を担っていることを実証した。
B.
ATC の終了による影響
1.
限定的な影響
ATC 終了によって世界規模の繊維及び衣料貿易に僅かな変化が生じたに過ぎないことが統
計で明らかになった一方(第 1 部参照)、EU の企業は数量制限が解かれてもその調達方針には
ごくわずかな影響しか及んでいないと述べている。
i)
変わらない調達方針
我々の調査でも、数量制限の撤廃による企業の調達方針への影響は大きくないことは明らか
である。「金銭に見合う価値」は、2005 年 1 月 1 日以前に既に主要な要因となっていて、数量
制限の撤廃後も依然として重要である。
ii)
サプライヤーの地理的選択:僅かな変化
企業によっては ATC の終了を受けて供給国の選択方法を変えることになった。他方で中国及
びバングラデシュに調達を集中させた企業もある。輸出能力がかつては数量制限によって制限
されていたため「当然」である。この場合、調達方針の変化は、世界的な繊維及び衣料産業に
おける大きな変化を反映している。興味深いことに、数量制限の解放が EU と中国の大きな貿
易紛争をもたらすことを予測して中国での調達を削減した企業もある。
2.
現在のトレンドの確認
ATC 終了の限定的な影響の主な理由はより広い文脈で捉えられなくてはいけない。調査対象
になった企業を含め、大企業はサプライヤーと長期的な関係を築き、当然のことながらそれぞ
れの考えに基づき世界規模でサプライヤーとのネットワークを作ることを好む。
15
i) 一国依存の限界
ATC 終了による限定的な影響は数多くの要因によって説明できる。一般的に、EU の企業は
調達先を一ヵ所に依存することを望んでいない。中国に関して言えば、この傾向は、EU と中
国の貿易紛争等の政治的危機を回避するために大企業は複数の供給国を選択することになる。
ⅱ)
大企業の調達方針
上記の文脈で EU の企業はむしろ多様かつ補足的な調達方法を選択する。実際に、中国に代
わる調達国(パキスタン、インド、バングラデシュ)が存在し、大企業の調達方針の主な特徴
はサプライヤーと長期的なビジネスのパートナーシップを築くことである。
C. サプライヤーとしての中国:機会及び脅威
1.
中国のサプライヤー:安全な賭け
比較優位の大きさによって中国が繊維分野で EU の貿易パートナーになったことは間違いな
い。欧州の衣料メーカー及び小売業者が中国を調達先に選んだ主な理由は明白である。すなわ
り、コスト効果及び高品質、納期、信頼性である。
i)
コスト効果及び品質利益
欧州企業が提供する衣料品のカテゴリーやスタンダードとは関係なく、彼らは調達製品の金
銭に見合う価値をサプライヤー選択の主な基準としている。実際に、中国はあらゆる品質及び
価格レベルにおける衣料及び人工繊維の製造を最良に行うと認められている。一人当たりの労
働コストは低賃金や高生産能力を背景に実に低く、中国のサプライヤーが最良の価格で高品質
の製品を供給することを可能にしている。更に、抜きん出た国内人口に支えられた大きな生産
基盤及び国内市場を背景に、中国の工場は経済規模から利益を享受している。
ii)
納期に対する満足
製品の品質及び価格比率に加えて中国のサプライヤーは納期に関して非常に信頼できる。実
際に調査を行った企業は、納期に関する問題は一度も起こったことがないことを認めた。中国
の大規模かつ多様、ますます統合された産業基盤が意味するところは、衣料の製造に必要な材
料を当地で調達できるため、他の国からの製品輸入に伴う付加コスト、リスク、調達時間及び
納期の長期化を回避できることである。また、中国は物理的インフラに投資することで輸入及
び輸出を迅速化しようとしている。更に、調査企業は、割り当て撤廃に伴い実施された中国か
らの輸入数量制限の実施による納期の遅延は言及されなかった。
iii)
信頼できるサプライヤー
中国のサプライヤーの強みは、欧州企業と長期的なビジネス関係を確立する能力が備わって
いることである。実際に、ビジネス関係は信用に基づかなくてはならない。そして、中国製繊
16
維製品の価格及び品質に関する中国サプライヤーの信頼性は、納期と同様に明確な利点である。
結果として、欧州衣料メーカーは、サプライヤーとバイヤーの間の長期的な関係につながるた
め、中国サプライヤーを「安全な賭け」であると見なしている。
2.
中国のサプライヤーへの一極集中に伴うリスク
現在中国のサプライヤーは、欧州の衣料メーカーの「特別のパートナー」になっているとし
ても、同時にこの関係は潜在的に危うい可能性もある。実際にインド及びバングラデシュが中
国の後に続いている。中国の比較優位は確実であるが、欧州メーカーはその動向に依然として
注意し、他の新興国とのビジネス関係を発展させる利点について綿密に見極めを行っている。
i)
欧州メーカーの最近の懸念に関する受身の姿勢
中国のサプライヤーに対して再び起きている批判は、特に社会的責任等、欧州メーカーの最
近の懸念にまだまだ対応できていないことである。最近数年にわたってほぼ全ての欧州企業は、
例えば被用者が安全な労働条件の下で働いていること、人道的に処遇され適切な報酬を受けて
いることを保証する基盤を提供するための実践規範(code of practice)を設けている。また最
近、一部の企業は中国における労働超過時間の削減計画を実施した。欧州の企業は環境に関す
る自主的なコミットメントに見合うよう取り組んでいる。結果的に、中国のサプライヤーがこ
うした安全及び社会、環境要件にそぐわない場合、欧州企業は困難に陥る。調査企業は、中国
のサプライヤーがより責任を持つよう訓練されるべきだと提言している。
欧州企業と中国のサプライヤーの間で問題となるのは、後者が積極的なアプローチを欠いて
いることである。実際に、欧州企業は中国のサプライヤーが、ファッション及び技術のトレン
ドに関してもっと先を見通す能力を持つべきだと主張している。
ii)
新しい競争相手の出現
中国は現在最大の衣料輸出国であり、今後も成長することが見込まれるが、今後数年間で同
様に経済成長が期待できる国も存在する。多くの研究でインドが中国に次ぐとされているが、
バングラデシュ及びパキスタン、エジプト、トルコ等の他の多くの国も考慮に入れられる。世
界貿易機構(WTO)が行った研究によると、インドは 2010 年までに繊維の国際ビジネスのシ
ェアを 3%から 5%に増加することが予想される。
いずれにせよ、上記諸国は特に運輸と物流、そして総労働時間を削減し労働生産性を向上す
るための労働者の訓練及び処遇などのインフラに対する投資が必要になる。更に、品質改善、
そして産業エキスパートの育成及び世界的なバイヤーとの関係強化、国際的な投資の誘致によ
って、規模の経済の実現が容易になり輸出市場を拡大するだろう。かつて競争の当事者は国で
あると言われていたが、割当制限撤廃後の現在のシナリオの中の競争の舞台で主役を担ってい
るのは企業である。
iii)
貿易紛争の脅威
繊維分野において ATC 終了が「ビッグ・バン」であることは予測されていなかった。しかし、
中国で調達を行いつつ貿易紛争を確実に予想した欧州の衣料産業界の中には、2005 年 1 月 1
17
日以降に同国からの調達量を減少させたところもある。
従って、中国が欧州のビジネスパートナーにとって建設的な関係を保つか脅威となるかが問
題である。驚くべきことに、調査対象企業は貿易紛争に関わるリスク、そして中国と EU の継
続的な政治的緊張は一時的なものであるとみなしており、結果的に日常のビジネスに過度な影
響はないと考えている。
上記評価には 2 つの主な理由がある。
1.調査を行った企業は大企業であり、小さな失敗を解決できる。
2.上記企業はサプライヤーを他地域に分散させている。これによって、上記の事態が起こった
時に中国製品に過度に依存した場合ほどは深刻な影響を受けずに済む。
D. 日本の繊維サプライヤーに対する EU 企業の関心
1.
日本からの僅かな調達
調査対象になった衣料メーカーは、以前アマ糸等の日本製繊維を使用したことがある。しか
し、上記調達は両社にとってわずかなものであった。欧州メーカーが日本製繊維を買い付ける
主な理由は、日本製が本来備えている特徴にある。
実際に、企業 A は、他国と比べると日本製繊維の品質が良く、あるいは優れた特徴を持って
いることを認めている。第二に、両社は上記のような繊維が日本でのみ入手できるという日本
製繊維製品の独自性を重視している。第三に、企業 B が挙げた理由は、特に日本市場をターゲ
ットにした縫製を行うため日本製繊維を調達したというものである。こうして同社は日本市場
のトレンドに対応しているのである。しかし、いずれの企業も繊維調達合計の内訳として、日
本製繊維のシェアを見積もることが不可能であるとしている。
2.
日本製繊維に関する EU 企業の留保
日本製製品に関する欧州の衣料メーカーのイメージは、価格が大変高いというものである。
たとえ欧州企業が日本で調達された繊維製品を価格と品質の比率で判断するとしても、一定の
価格を境にコスト増加は品質向上に比例しないようである。結果的に、企業 B は日本製繊維を
調達し中国の工場で衣料の製造を行う際に利用するという案の可能性を否定した。企業 B は、
中国製繊維の価値を日本製と同等に見なしているため、上記調達に全く利益を見出していない。
企業 A の観点はあまり急進的ではなく、上記のような案を少なくとも考慮していると言及し
ている。しかし、同社がこの案を受ける場合、数多くの要件を優先することになる。すなわち、
価格が低く日本のメーカーが独自の革新的な繊維を提供すれば、受け入れると思われる。
3.
日本の繊維サプライヤーの将来の可能性は?
欧州の衣料メーカーは、日本製繊維の買い付けに利点があることを認識していない。なぜな
らば、マーケティング及び宣伝に問題があるからだと思われる。実際に、アンケートへの回答
を断った企業の中には、日本製繊維についてアプローチがあったのは初めてであると答えたと
ころがあった。例えば、特別な展示会に参加するなどして日本企業が欧州メーカーと対話を始
めることで状況は変わるだろう。それによって、日本メーカーがその繊維をスケールメリット
が大きい中国での衣料縫製に使用する等のビジネスを提案することができるようになる。更に、
18
日本のサプライヤーはステップバイステップのアプローチとりながら、徐々に価格を下げるこ
とも考えられる。
***
19
III.
事例分析:企業 A 及び企業 B の調達方針
企業 A は、欧州のファッション業界における先端的な小売業者である。現在、同社は洋服や
子供服、時計など数多くの販売拠点を欧州諸国(ベルギー、ドイツ、フランス、アイルランド、
ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ハンガリー、スイス、
スペイン、チェコ)に展開し、3 万人以上を雇用している。
企業 B は、スポーツ用品業界で世界の先頭に立ち(全世界のスポーツ用品市場の 15%)、事
実上世界各国で調達可能な製品ポートフォリオを幅広く提供している。同社の戦略は以下の通
りである。
「競争上の地位を高め財務能力を向上すべく、継続的にブランド及び製品を強化する」。
同グループの 2004 年純売上高は 64 億 7,800 万ユーロであり、純利益は 3 億 1,400 万ユーロで
ある。
A.調達戦略とその実情
1.
調達戦略
ⅰ)調達方針
企業 A の調達方針は、同社の欧州本部内の営業部が策定するもので、グローバルかつ多様な
ものである。
開発途上国にとって長年制限されてきた市場が開放されるに伴い、企業 A はグローバルな調
達が小売市場で競争力を維持するために絶対的に必要であることを理解している。
結果として、同社が販売している衣料の約 55%は国際市場におけるサプライヤーから直接買
い付けたものである。中国のサプライヤーのシェアは 30%で、その他インド(6%)、バングラ
デシュ(3.2%)、べトナム(2.5%)、韓国(2.4%)となっている。同社はまたパキスタン及び
タイで少量の調達を行っているが、フィリピンはもはや供給国とはなっていない。
同社は世界的な購買ネットワークを持っていて、そのうち 2 つは北京と上海にある。同社の
スタッフもまたサプライヤーと密に連携を取っている。
残りの 45%の衣料は、国際市場におけるサプライヤーから直接買い付けたものではなく、欧
州で企業 A の製品をコレクションとして提供する輸入業者あるいは衣料生産者が調達したもの
である。
国際市場にサプライヤーを分散させることによって、企業 A の調達方針は繊維及び衣料協定
の終了に伴う大きな影響を受けずに済んだ。実際に同社は 60 ヵ国から材料を買い付けている。
例えば、中国での調達が割当制限撤廃後に増加したとしても、バングラデシュでも同様の傾向
が見られる。
それとともに、企業 A の仕事を担うサプライヤーの総数は 1996 年以降減少している。サプ
ライヤーの数は 1996 年から 2004 年にかけて 80%まで減らすこととなった。この目的は選択
したサプライヤーと長期的な協力関係を築くことにある。実際に、企業 A はサプライヤーへの
信頼がメーカー選択の際に最も重要な基準の一つとして挙げている。また、サプライヤー数を
減少させるという戦略によって、企業 A は供給国の繊維及び縫製業界により良い影響をもたら
すことができる。
これに対して、企業 B 及びその子会社の調達方針は、ドイツにあるグループの本社が取り決
20
める。同社は、65 ヵ国で製造を行う個別のサプライヤー800 社と取引を行っている。その中で
60%はアジア(中国 164 社、韓国 61 社、日本 57 社、インドネシア 34社、タイ 32 社、台湾
23 社、フィリピン 19 社、ベトナム 17 社、マレーシア 17 社、インド 16 社、他のアジア 8 カ
国 45 社である)にある。上記以外では米国(153 社)、欧州(150 社)、アフリカ(41 社)。こ
れは、アジアが優位に立つ世界規模の調達と言える。
企業 B は、サプライヤーから生地を買い付ける際、貿易業者あるいは仲介業者を全く利用し
ない。実際に生地選択は、香港を本拠地とした完全な子会社を通して全て行う。この子会社は
世界規模の調達を請け負い、その事務所は中国及びブラジル、インドネシア、韓国、パキスタ
ン、台湾、タイ、トルコ、ベトナムにある。
ⅱ)サプライヤー選択の基準
企業 A の事業方針は「あなたのお金でベストのファッションを」提供することである。実際
に、同社は良い価格で高品質の製品を求める市場の中間層をターゲットとしている。故に、サ
プライヤー選択の際、金銭に見合う価値(あるいは価格と品質の比率)を主な基準にするので
ある。
これに対して、企業 B の主な方針のひとつは、供給網全体を通して、サスティナビリティー
及びセルフ・ガバナンスを行うことである。従って、同社はサプライヤーの結束に焦点を当て、
調達組織はサプライヤーとの戦略的パートナーシップを確立することをねらいとしている。
そのために、サプライヤー選択の第一基準は、供給品の質及び納期、信頼性の有無の査定で
ある。同選択に当たり、企業 B は労働環境規則も考慮に入れる。調達される製品の価格及び数
量も(サプライヤーの量産能力を鑑みて)、重要な基準である。調達される衣料のデザインある
いはファッション性は同社にとって重要な基準ではない。
2.中国における調達とその問題点
ⅰ)中国における調達の特徴
企業 A が中国で調達する繊維及び衣料は、もともとは量産市場に向けられたものであった。
同社が買い付けを行った品目は、コート及びジャケット(外出用)ズボンである。ニットウェ
ア及び下着、アクセサリー、水着については、インドがニットウェアの主なサプライヤーで、
バングラデシュが下着のサプライヤーであるが、中国でも部分的に買い付けられている。
中国で買い付けられた製品の価格帯は、商品の質が平均的であることを考えるとかなり安い
(コートは 5 から 15 ドル、ズボンは一着 5 から 10 ドル)。企業 A が中国において製品を 30%
調達することを選んだ理由は金銭に見合う価値の良さである。
企業 A のスタッフが中国でサプライヤーを選択したのは随分前のことである。当初の基準は
サプライヤーの評判と信頼性であった。ビジネスパートナーを選択するに当たり、同社はサプ
ライヤーへの発注を含むテスト・ランを行い、成功した場合に完全な契約に進む。
一般的に、企業 A は特に納期に関しては中国のサプライヤーに満足している。平均的な納期
は2ヵ月で、同社は完全に満足している。しかし、今夏の中国からの輸入に対する数量制限の
導入に伴い、納期がもはや確固たるものではないという小さな不都合が連続して起こった。に
もかかわらず、同社は大企業である故、10 万着のセーターの納期が遅れてもビジネスに大きな
影響はなかった。
21
一方、中国で企業 B が調達した繊維及び衣料は、主として市場の上層及び中間層向けのもの
である。実際に、企業 B は中国で調達された衣料製品及び繊維の質は、総合的に見て平均ある
いはそれ以上の位置づけであると評価している。同社は中国で靴及び繊維(不織布は少量、ニ
ットウェアは皆無)を買い付けている。
上記製品に関し、価格は買い付け製品の質によるので、同社は価格帯を示すことができない。
いずれにせよ、同社は、価格が安く、価格と品質の比率が高いと述べている。
同社は中国での市場調査を機会に同国のサプライヤーと取引を始めた。同社が採用した第一
の選択基準はサプライヤーの評判と信頼性である。一般的に、同社は特に納期に関して中国の
サプライヤーに満足している。納入が短期間で行われ、他の供給国に比べると迅速であると考
えられている。
割当制限撤廃の数ヵ月後に導入された中国からの輸入量制限によって、同社が深刻な遅延を
被ることはなかった。なぜならば、税関当局で差し止められた数量はごくわずかであったから
である。更に、同社は上記の貿易摩擦が ATC 終了後に起こると予測し、それに応じて中国のサ
プライヤーからの調達を減らしたのである。事実、中国のサプライヤーのシェアは割当制限撤
廃前 50%であったが、現在 50%を下回っている。インドネシアは、同社の調達が ATC 終了前
は 20%未満であったが現在 20%以上になっていることから、上記の調達戦略の恩恵を受けた
と言える。
ⅳ)中国における調達での問題点
中国製衣料に関して企業 A が直面する大きな問題は、中国のサプライヤーが欧州市場の需要
を予測するほどの積極的なアプローチを導入できないことである。実際に中国は韓国とは異な
り技術あるいはファッションの潮流で頂点に立ったことはないようである。
中国製品の購買に付随する大きな脅威が、企業Aにとっては労働及び環境関連の法制度であ
ることが分かった。
労働法制に関して、企業 A は最低限の社会基準を保証するガイドラインを包含する商品の供
給に関する行動規範を発行した。このガイドラインが実際に提供されているかを査察訪問して
調査するために設立された専門機関がモニタリングを行っている。
環境法制に関しては、
「一般的な納品指示書」の中に、環境整合性に焦点を当てたガイドライ
ンと使用する材料に関する明確な指示が盛り込まれている。企業 A は、欧州製品安全ガイドラ
イン及び「Öko-Tex スタンダード 100(有害物質を排除するための世界的検査基準)
」等の欧
州あるいは国際基準を遵守しない中国のサプライヤーを懸念している。同社は、深刻な侵害が
増加しているため、サプライヤーに環境責任について訓練と教育を施すべきであると勧告して
いる。
他に、中国のサプライヤー自体に直接関係しないが、人民元の為替相場が不安定であること
が同国での調達に関わる大きな問題である。企業 A は決裁通貨をユーロにすることを望んでい
るが、中国側はドルによる取引をしばしば求めてくる。
企業 B にとって、中国からの衣料及び繊維調達に関し直面する大きな問題は、中国のサプラ
イヤーが企業 B としての企業の社会的責任、特に製品の安全及び労働条件に関して、常に遵守
するとは限らないことである。
2005 年末までに同社はそのサプライヤーに対して業務ガイドライン、いわゆる雇用基準
(SOE)を実施する予定である。上記基準の深刻なあるいは連続的な違反を犯した場合、当該
サプライヤーとの調達契約を終了することになる。
22
これは 2004 年に実際に起こっている。ある中国サプライヤーが賃金の不当な支払い、労働
時間の超過、労働時間記録の誤り、二重帳簿、児童の労働、健康及び安全面の条件侵犯を行っ
たのである。同年中国のサプライヤー22 社との取引関係が事前承認監査後に拒否された。
同社によると、中国のサプライヤーはコンプライアンス能力を欠き、人材及び健康、安全管
理制度に関して一貫性を欠き不適当であることがしばしばある。
2004 年に企業 B は 164 箇所の中国の工場のうち 53 箇所を視察した。中国において、履物材
料の業者及び主要履物サプライヤーに対してコンプライアンスの訓練を実施した。
B.調達戦略における将来の可能性
1.中国の後に続くのはどこか?
中国と同様の可能性を持つ国は他にどこかという質問に対して、企業 A はバングラデシュの
みを信頼できる競争相手として挙げた。
実際に、多数の欧州衣料メーカー及び小売業者がバングラデシュで既に生地を買い付けてい
て、同国は高い量産能力を持つという結論が出ている。
企業 A はまた、中国以外の新しい調達先として、中国と比べると利益よりも問題の方が多い
ものの、インド及び中南米を挙げた。インドについては、技術的な問題を指摘し、中南米につ
いてはサプライヤーに融通が利かないことや衣料製品の価格が高いと述べている。
中国以外からの調達を考える際、企業 A は自由貿易協定あるいは地域貿易協定の重要性をあ
まり見出していない。なぜならば、同社は貿易摩擦及び政治的緊張の継続をビジネスへの深刻
なリスクであると見なしていないからである。中国及び他の国からの調達は数量制限撤廃に伴
う影響を受けなかったため、同社は他国との上記協定を考慮に入れる意向はない。
同じ質問に対して企業 B は、インドのみを信頼できる調達先として挙げた。その理由は、イ
ンドは量産能力があり、価格が実質的に低いことである。上記の回答は中国及び韓国、インド、
タイ、トルコ等の同社の現在の供給国を比較すると、インドのシェアが比較的低いため驚くべ
き結果である。更に、中国に続く国としてインド以外全く挙げられなかったことから、同社は
中国以外の国に調達先を大幅に移し変えることを考えていないことが伺える。
中国以外の調達国を考えた際、企業 B は自由貿易協定及び地域貿易協定の比重の大きさを見
出していない。
なぜならば、企業 B は貿易摩擦及び政治的緊張の継続をビジネスに対する深刻なリスクと見
なしていないからである。中国及び他の国からの調達は、割当制限撤廃に伴う影響を受けなか
ったため、同社は上記のような他国との協定を調達方針の重要な要素とは考えていない。実際
に、同社は新しい供給国を最終的に選択するのは、調達上のあらゆる諸特徴を包含する総合的
な視点であると説明した。
2.日本はビジネスパートナーとなるか?
企業 A が日本から繊維の調達を行った経験は非常に乏しい。ごく少量のアマ糸の取引を行っ
ただけであると同社は述べている。しかし、同社は日本製繊維の質について非常に高い評価を
している。すなわち、品質が高く、特徴が優れていると述べた。また、日本が技術革新的で他
の国で入手不可能な繊維製品を提供しているという事実も認識している。同社は日本製繊維製
品をインドネシア及びベトナムで縫製し、用意提案があれば中国の工場で縫製を行うことも考
23
えられると言明した。
しかしまた、企業 A は日本製繊維が高すぎると強調した。企業 A が適度な価格で質の高い製
品を求めている市場の中間層をターゲットにしていることを考えると、日本が現在のところ主
要サプライヤーになることはできない。また、同社は日本のサプライヤーが最も効率的な方法
で繊維の販売を行っていないと主張している。実際に、特別展示会あるいは見本市に頻繁に参
加して、欧州の繊維メーカー及び小売業者との関係を強固にする機会を得るべきである。そう
することで日本製繊維の利点への認識が高まるだろう。
結論として、企業 A は日本製繊維の調達を増やすことに関心はあるものの、現在の市場価格
では考えられないと言える。
それに対して企業 B は、日本製繊維の調達を既に行ったことがあるが、これは日本市場をタ
ーゲットにした衣料の縫製のみに使われるため、そのシェアはわずかである。
同社は日本製繊維を日本及び中国、タイでの衣料縫製に使用している。また、日本でハード
ウェア(サッカーボール)及び靴の買い付けを行っているが、ごく少量である。企業 B が日本
製繊維を使用する主な理由は、日本でのみ入手できるという希少性、地域市場の需要に合わせ
た製造である。故に、同社は、品質(優れた特徴など)ではなく、市場のトレンドに対応する
ために日本製繊維の調達を行っていると結論付けることができる。
上記結論は、同社が「日本製繊維を調達し、中国の工場において衣料の縫製に使用しますか?」
という質問に、
「いいえ」と答えたことで確信できる。同社は、日本製繊維は品質の面で中国製
と変わらないが、価格が非常に高いと主張している。結論として、日本の繊維メーカーが企業
B と取引関係を発展できる可能性は非常に限られていると言える。
以
上
24
Fly UP