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世界初の D 級アンプの PWM 回路を研究
Chap t Chapter Chapter C r e t p a hapter er Chapter Chapter Ch 第 5 章 1977 年に誕生した初期型を再現 世界初の D 級アンプの PWM 回路を研究 渡辺 明禎 Akiyoshi Watanabe 世界で初めてオーディオ用 D 級パワー・アンプを 市販したのは,1977 年,日本のソニーでした. PWM 回路を再現 製品の開発期間,それ以前の先人たちのトライアル を考えると,D 級アンプ(ディジタル・アンプ)の歴史 はとても長いことになります. 回路を組むといっても,図 1 に示す回路を組むのは 実質不可能でしょう.今回は動作原理の概要を知りた ここでは,世界初の市販 D 級パワー・アンプの紹 介とその動作原理を実験してみたいと思います. いだけなので,図 2 に示すように思いっきり簡略化し ました. 搬送波となる方形波は,第 2 章で製作した三角波発 振回路の方形波出力を使いました.最初は動作原理を 世界初の D 級パワー・アンプ TA − N88 世界初の市販 D 級アンプ TA − N88(ソニー)の電源 電圧は± 80 V で,8 Ω負荷で 250 W もの出力が出ま 表 1(1) TA − N88 の仕様 項 目 条 件 値 した(表 1).搬送波の周波数は 500 kHz で,周波数帯 域は 5 ∼ 40 kHz,SN 比は 110 dB と,現在のオーディ 出力 @RL = 8 Ω, 1 kHz オ用 D 級パワー・アンプと遜色ありません. SN 比 TA − N88 の簡略回路を図 1 に示します.この回路 を見たとき,はて?どのように動作するのだろう?と, 周波数特性 + 0.5 dB,− 1 dB, 8 Ω 5 Hz ∼ 40 kHz 入力感度 50 kΩ THD = 0.5 % すぐには分かりませんでした. 前述の三角波比較方式,自励発振方式とは異なって いるように思えます.その動作原理に興味を持ち,動 作解析しようと思いました. 250 W + 250 W 20 Hz ∼ 20 kHz 160 W + 160 W ―― 110 dB 1.4 VRMS ダンピング・ファ 1 kHz,8 Ω クタ 20 サイズ ―― 480[W ]× 80[H ] × 360[D]mm 質量 ―― 11 kg VDD(+80V) 12Ω 820p 2SA899 75Ω 0.001μ − 330Ω 51k − 2SA706 2SC1124 470Ω 220μ 47Ω 2SA706 33Ω 1S1555 2SA473 2.2Ω 2SJ28 2SC1173 2SK82 2.2Ω 2SA 473 V-FET スピーカ 出力 S 0.047μ 33Ω 0.32μ 470Ω + + S 2SJ28 S 47Ω 12Ω オーディオ 2SC1904 積分器 入力 コンパレータ フローティング電源 0.22μ 2SC1124 2SC1173 1S 1587 2SK82 S VSS 2k フローティング電源 (−80V) 500kHz 方形波8VP-P 51k 図 1(1) 世界初の市販 D 級パワー・アンプ TA − N88 のパワー・アンプ部の回路 V − FET (Vertical FET) とは,パワー MOSFET のさきがけとなった接合型のコンプリメンタリ・パワー FET である 130 2008 年 3 月号 hapter Chapter Chapte C r e t p ter r Chapte Cha r Chapter Chap 知りたいので,PC のサウンド・デバイスで解析でき るように,搬送波の周波数は条件 ( 1 第 2 章の表 1 参照) は,入力信号の電圧レベルに従い,オン・デューティ は変化し,PWM 波が得られます. の 3.8 kHz としました.従って,図 2 の回路の積分用 コンデンサ C2 は 0.1 μF としました. ● アナログ信号はどのように出力されるか 製作した実験回路の部品配置,配線を図 3 に示しま 次はアナログ信号がどのように出力されるかです. アナログ信号に関係する部分だけに着目すると,図 5 の等価回路となります. す. 動作原理を調べる 従って,ゲイン G[倍],低周波のカットオフ周波 数 fL[Hz]は以下のようになります. ● 入力電圧が 0 V の場合 れ挿し込みます. 図4 ( a)にその結果を示します.IC 1a の非反転端子 R3 ≒ 5.5 = 14.9 dB R2 1 fL = 2 π C1R2 = 48 Hz 実際に,ゲインの周波数特性をとると,図 6 の結果 となり(搬送波周波数は 38 kHz とした),当然のよう に良く一致します. は 0 V なので,仮想零点の原理で IC1a の反転入力端子 は 0 V です.従って,IC1a の出力は搬送波の方形波を ● 自励発振型だ! 積分した波形,すなわち三角波となります. IC1b によるコンパレータの比較基準電圧は 0 V なの さて,この状態での周波数スペクトラムを図 7 に示 します.アナログ入力信号の 500 Hz,搬送波の まず,入力電圧が 0 V の場合です.サウンド出力の 全ミュート・チェック・ボックスにチェックを入れる と,出力電圧が 0 V となります.サウンド出力 L チャ ネルは D6 に挿し込みます.サウンド入力 R チャネ ルは A3 ,サウンド入力 L チャネルは J8 にそれぞ G=1+ で,IC1b からは,方形波が出力されます.そのオン・ 3.8 kHz,イメージなどのスペクトラムが観測できま デューティは 50 %なので,平均出力電圧は 0 V です. す. そこで,三角波発振回路につないでいる R2 を GND ● 入力信号として 500 Hz の正弦波を入力した場合 次に,入力信号として 500 Hz の正弦波を入力した に接続してみてください.そのときのスペクトラムを 図 8 に示します.13 kHz の信号のほかに,500 Hz の信 場合です.サウンド出力を 500 Hz の 0.3 VRMS にします. 号成分もほぼ同じ大きさで含まれています.どこから 1 5 A3 51k 7 6 4 C 2 2200p C1 1.5μ J I GND C 3 0.1μ 8 C4 出力 (PWM) J8 I C1b (0.1μ) 0.1μ −VCC R2 R 3 10k TL062 2.2k (テキサス・インスツルメンツ) 三角波発振回路 J5 へ(方形波) C2 はブレッド ボードの端 子番号 −5V C4 R2 R1 2008 年 3 月号 C1 三角波発振器の J5 へ 図 2 TA − N88 の動作を実験する回路 動作原理だけに着目するために思いっきり簡略化した R3 10 2 D6 I C1a 1 R1 3 I C1 サウンド 入力へ(Lch) +VCC + − サウンド 入力へ(Rch) アナログ 信号入力 Vin F G H コンパレータ C3 A B C D E 積分回路 サウンド 出力へ(Lch) 10 1 の三角波と 500 Hz の信号が重畳されて,図 (b)のよう に三角波が 500 Hz の周期で変化します.この波形と 0 V の交点でコンパレータ出力は反転するので,出力 5 +5V 5 転端子は 500 Hz,0.3 VRMS となります. それが,IC1a の出力端子に重畳されるので,図 (a) + − 結果を図 4 (b)に示します.仮想零点の原理で,IC1a の非反転端子と反転端子の電圧は常に同じなので,反 図 3 実験回路の部品配置と配線 131 特 特 集 集 高 高 効 効 率 率 パ パ ワ ワ ー ー ・ ・ ア ア ン ン プ プ の の 作 作 り り 方 方