Comments
Description
Transcript
凝集型ソフトマター添加潤滑油の高圧物性と衝撃 EHL
A28 凝集型ソフトマター添加潤滑油の高圧物性と衝撃 EHL 油膜形成 High Pressure Properties of Lubricating Oil containing Aggregate type Soft Matter and its EHL Oil Film Formation under Impact Contact 佐賀大(正)*馬渡 佐賀大(非)原 俊文 豊 佐賀大(非)山田 佐賀大(正)張 知弘 波 佐賀大(非)坂本 洋平 佐賀大(正)大野 信義 Toshifumi Mawatari, Tomohiro Yamada, Yohei Sakamoto, Yutaka Hara, Bo Zhang, Nobuyoshi Ohno Saga University はじめに 自動車の低燃費化や省エネルギー化への取り組みの一つが,低粘度エンジンオイルの適用である 1).しかし,様々 な構成要素の潤滑を要求されるエンジンオイルにおいて,低粘度化は油膜形成能力の低下をもたらし,摩耗や焼き付 きなどトライボ損傷の発生原因となり得る.こうした表面損傷の発生を防止するため,ポリマー系添加剤 2)をはじめ とした種々の潤滑油添加剤が使用されているが,近年,金属接触をともなう領域で油中の単一分子が凝集体膜を形成 し,潤滑機能を果たすソフトマター系添加剤が開発され,これを添加したエンジンオイルも市販化されている. 本研究では,過酷な潤滑条件下で分子凝集体膜を形成するソフトマターを添加したエンジンオイルの高圧粘度・高 圧密度試験と衝撃弾性流体潤滑(EHL)油膜厚さ観測試験を行い,炭化水素系合成潤滑油ポリ-α-オレフィン(PAO) を用いた実験結果と比較して,基油の物性やソフトマターが,高圧物性や EHL 油膜の形成に与える影響を調べた. 1. 試料油とその代表性状 試料油は,過酷な条件で分子凝集体膜を形成するソフトマター添加の 5W-40 マルチグレードエンジンオイル M16A である.その代表性状を Table 1 に示す.また,比較として Table 1 の性状を有する PAO40 を使用した. 2. Table 1 Physical properties of test oils 103 M16A PAO40 Kinematic viscosity, mm /s Viscosity Density g/cm3 at 288 K Index 313K 373K 0.857 79.0 13.5 174 0.845 395 40.0 124 Viscosity η, Pa·s 2 M16A -1 :T=283K, α=19.5GPa -1 :T=293K, α=16.7GPa -1 2 10 :T=313K, α=14.8GPa :T=333K, α=12.1GPa -1 101 100 PAO40 :T=283K, α=19.3GPa -1 3. 実験結果および考察 10-1 :T=293K, α=18.3GPa -1 :T=313K, α=15.4GPa -1 3.1 試料油の高圧粘度特性 :T=333K, α=14.1GPa -1 -2 10 試料油の高圧粘度試験では,佐賀大学製落球式高圧粘 0 0.1 0.2 0.3 度計を用いた 3).試験温度 T は 283 K,293 K,313 K, Pressure p, GPa 333 K である.荷重は 9.8 kN,19.6 kN,29.4 kN であり, Fig. 1 High pressure viscosity of test oils その際の圧力 p は,0.08 GPa,0.17 GPa,0.25 GPa となる. Figure 1 は,高圧粘度試験の実験結果である.ソフトマター添加の M16A において,T=283 K の実験で 29.4 kN の荷 重を負荷した場合,サファイア観測窓を透過する光量が急激に減少し,測定できなかったため,24.5 kN (0.21 GPa) の 計測結果を示している.図中の粘度圧力係数 α [GPa-1]は,高圧粘度の値を基に算出した.実線と破線は,粘度圧力係 数を Barus の式に適用した近似直線である.M16A の粘度圧力係数は,高粘度の PAO40 と同程度の値を示している. 3.2 試料油の高圧密度特性 高圧密度の測定には,佐賀大学製プランジャー型高圧密度計を用いた 3).圧力容器内に試料油 2 mL を注油し,油温 一定の下,4.9 kN から 147 kN までの荷重を負荷する際,4.9 kN 毎にプランジャーの押し込み量を計測した.その計測 値から試料油の体積 V [mm3]と密度 ρ [g/cm3]を求め,圧力との関係を調べた.試験温度は M16A では 263 K,268 K, 273 K,278 K,283 K,PAO40 の場合,263 K,283 K とした.この実験結果から,体積弾性係数 K [GPa]を,K=-(V/dV)·dp により算出した.ここで,dV は体積の変化量である.M16A の体積弾性係数と圧力の関係を Fig.2 に示す.0.6 GPa 近 傍まで,体積弾性係数は,油温とは無関係に概ね同じ値を示しつつ,圧力とともに緩やかに上昇を続ける.さらに加 圧すると,体積弾性係数の増加率に変化が生じた.すなわち,試験温度 263 K,268 K,273 K,278 K,283 K に対し, 各々0.66 GPa,0.69 GPa,0.75 GPa,0.81 GPa,0.92 GPa で急増した.一方,PAO40 の場合,263 K と 283 K において, 0.57 GPa と 0.94 GPa で同様の現象が見られた.これらの圧力を各試験温度での粘弾性固体転移圧力 pVE [GPa]とした. 3.3 試料油の状態図 低温光弾性試験と高圧密度試験より得られた TVE0 と pVE より,Fig. 3 に示す試料油の状態図を作成した.図中のプロ トライボロジー会議 2016 春東京 予稿集 63 A28 400 12 10 :T=268K :T=278K 8 6 4 Liquid 0.2 0.4 0.6 0.8 Pressure p, GPa 1.0 Solid 200 100 0 1.2 Impact loading EHL test 300 2 0 Fig.2 M16A :T=263K, :T=273K, :T=283K Temperature T, K Bulk modulus K, GPa 14 M16A : Viscoelastic solid line : Test results 0.2 Fig.3 Relation between bulk modulus K and pressure p PAO40 : Viscoelastic solid line : Test results 0.4 0.6 Pressure p, GPa 0.8 1.0 Phase diagram of test oils ット点は実測値である.これらの値から,最小二乗法により導出した粘弾性固体転移温度 TVE [K]は, TVE = TVE 0 + A1 × ln(1 + A2 × p ) (1) で表わされる.ここで p は圧力 [GPa],A1,A2 は,M16A の場合,1057 K,0.066 Pa-1,PAO40 では,87K,1.663 Pa-1 である.また,M16A と PAO40 の大気圧下における粘弾性固体転移温度 TVE0 は,低温光弾性試験の結果から,222 K と 207 K とした.M16A の場合,TVE は,圧力とともに直線的に,PAO40 では,曲線的に変化することがわかる. 3.4 衝撃荷重下での閉じ込め弾性流体潤滑(EHL)油膜観測試験 衝撃荷重試験機を用いて,衝撃荷重下での閉じ込め EHL 油膜を観測した 4).試験温度 T は 293 K である.荷重 72.6 N,最大ヘルツ圧力 pH=0.64 GPa とし,60 µm の衝撃すき間で φ 23.8 mm の鋼球を,φ 15 mm,厚さ 5 mm のパイレック スガラス(ポアソン比:0.2,縦弾性係数:63.7 GPa)に衝突させた.ガラス接触面には,厚さ 50 nm 以下の Cr 皮膜 を蒸着している.赤色フィルタを通した光源の波長は 0.6 μm であり,両試料油とも約 0.2 μm 毎に干渉縞が現れる. Figure 4 は,負荷後 t=1 s,60 s,90 s の干渉縞観測写真であり,各観測時間における X-X’断面の油膜厚さを Fig. 5 に示す.Figure 3 には,p=0.64 GPa,T=293 K の実験点を赤丸で示しているが,M16A,PAO40 とも油の流失による干 渉縞の変化が観察され,状態図に示された試料油の液体的挙動との関連が示唆される.1 s 後の M16A と PAO40 の最 大油膜厚さは,それぞれ 0.15 µm と 0.55 µm であり,粘度圧力係数と大気圧粘度の積で表される潤滑油パラメータ 5) αη0=19.9 の PAO40 が,αη0 =2.8 の M16A より約 3.7 倍厚い.また,PAO40 の場合,同心円状の干渉縞が観測されるが, M16A では,油膜中央から半径約 0.1 mm の円内全てが暗縞を呈しており,ソフトマターの挙動の影響が推察される. t=90 s では,暗縞は歪な形状を示し,平坦な閉じ込め油膜は,高粘度 PAO40 に比べて速やかに消失する傾向にある. 0.6 -0.2 h, μm (a) M16A :1s :60s :90s -0.1 Fig. 4 Interference fringes under impact contact Fig. 5 0.2 0 0.1 0.2 0.1 0.2 X' 0.6 h, μm (b) PAO40 :1s :60s :90s -0.2 X 0.4 -0.1 0.4 0.2 0 Width, mm Film shape and thickness h under impact contact 結言 分子凝集体型のソフトマターを添加したエンジンオイル M16A は,比較の PAO40 と同程度の粘度圧力係数を示した. また,両試料油とも油膜の液体的挙動に伴う閉じ込め油膜の減少過程が観察される一方,M16A の閉じ込め EHL 油膜 は,基油の潤滑油パラメータ αη0 が大きい PAO40 と比較して,速やかに消失することがわかった. 4. 文献 1) 2) 3) 4) 5) 田中:高性能基油の使用事例と研究動向 高性能基油の特徴と最近の動向,トライボロジスト,52,4 (2007) 249. 浜口:ポリマー系潤滑油添加剤の構造と作用機構,トライボロジスト,58,10 (2013) 707. 大野:高面圧下における宇宙用潤滑油のレオロジーとトライボロジー特性,トライボロジスト,57,2 (2012) 103. 桑野・大野・平野:衝撃による鉱油系潤滑油の閉じ込めに関する研究,潤滑,31,7 (1986) 477. 大野:高圧下における潤滑油のレオロジーと EHL,トライボロジスト,49,4 (2004) 303. トライボロジー会議 2016 春東京 予稿集 64