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乳癌の臨床 第21巻・第1号 2006年2月
.症例、
101(101)
2005.8.18受付
:FDG-PETで診断しえた原因病巣不明の血清腫瘍マーカー
高値を先行とした乳癌術後卵巣転移の1例
尾崎慎治*1高橋 護*1片岡 健*2春田るみ*1
永井宣隆*3有広光司*4岡島正純*1浅原利正*1
A Case of Ovarian Metastasis from Breast Cancer with lncreased Levels of a Tumor Marker and
Unknown Disease Site Detected by FDG-PET : Ozaki S“’, Takahashi M“’, Kataoka T“2, Haruta R“’,
Nagai N“3, Arihiro K“”, Okajima M“i, Asahara T’i (”Department of Surgery, Division of Frontier
Medical Science, Programs for Biomedical Research Graduate School of Biomedical Sciences, ’2Depart-
ment of Health Care for Adults, Division of Nursing Science, Graduate School of Health Sciences,
*3Department of Obstetrics and Gynecology, Graduate School of Biomedical Sciences, Hiroshima Univer-
sity, *‘Department of Anatomical Pathology, Hiroshima University Hospital)
We reported a 45-year-old woman with ovarian metastasis detected by FDG-PET after breast conserv-
ing surgery for breast carcinoma. At the age of 36 years, she underwent a breast conserving surgery for
invasive ductal carcinoma (pT2, pN2, pMO, stagellla, ER (一),PgR (十),HER-2 score (O)) of the
right breast and received CMF and endocrine therapy as adjuvant therapy. But 4 and a half year after the
surgery a serum tumor marker (NCC-ST439) had gradually elevated and ascites appeared. Because several
imaging studies and gynecological examination couldn’t reveal definitive diagnosis, FDG-PET was perfor-
med. FDG-PET images showed increase uptake in bilateral ovaries. This finding was suggestive of ovarian
metastasis, so she was consented for hysterectomy and adnexectomy. Pathological diagnosis was ductal
carcinoma in bilateral ovaries and endometrium, which showed the same findings as seen in the specimen
of breast carcinoma resected first. After the surgery she has been treated with CEF and endocrine therapy
and there is no recurrence for two years.
Key word : Ovarian metastasis, Breast cancer, FDG-PET
IPn J Breczst Cancer 21 (1) : 101-v l O 5, 2006
たので文献的考察を加えて報告する.
はじめに
症 例
乳癌の転移・再発部位は,局所再発以外には肺,
.
肝,骨などが好発部位であるが,卵巣転移は比較
症例.45歳,女性.
的まれである.今回,乳癌術後に血清腫瘍マーカ
ーの上昇が契機となり発見された乳癌卵巣転移症
例を経験し,その診断にFDG-PETが有用であっ
主 訴:血清腫瘍マーカー値上昇(自覚症状な
し).
既往歴:1995年9月,右乳癌の診断で乳房温存
療法(Bq+Ax(Level I-1【1)+放射線照射(総線
量:残存乳房照射45Gy+Boost照射14Gy=
*1広島大学大学院先進医療開発科学講座外科学
59Gy)を施行.病理組織検査の結果はinvasive
*2広島大学大学院看護開発科学講座成人健康学
*3広島大学大学院病態制御医科学講座産婦人科学
*4広島大学病院病理部
ductal carcinoma, scirrhous type, pT2 pN2
(19/27) pMO stage IIIa, ER (一) , PgR (十) , HER
Presented by Medical*Online
乳癌の臨床第21巻・第1号2006年2月
102(エ02)
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図1
a:CT検査=ダグラス窩を中心に腹水貯留を認めた(矢印).
b:FDG-PET検査:両側卵巣に一致する部位にFDGの集積を認めた(矢印).
c:経膣超音波検査:楕円形で表面不整な腫瘍を子宮右側に接して認めた(矢印).
る部位にFDGの集積を認めた.また婦人科再診の
一2score(0)と診断された.
術後は放射線照射およびCMF療法(CPA(cy-
結果,経膣超音波検査で子宮に接して両側の卵巣
clophosphamide) :100mg/day 1”一14, MTX
腫大と思われる表面不整な腫瘍を2カ所に認めた.
(methothrexate) : 60mg/day 1,8, 5-FU :
以上の結果より卵巣転移が疑われ,2003年8月に
500mg/day 1,8)4サイクル, TAM(20mg/day)
子宮全摘出術+両側付属器切除+大網切除を施行
による化学・内分泌療法が行われた.
(術中所見で両側卵巣と子宮が癒着している所見
家族歴:特記事項なし.
があり,浸潤の疑いもあるため,子宮摘出も行わ
現病歴・臨床経過:2000年2月(乳癌術後約4年
れた).
半)に腫瘍マーカーNCC-ST439の上昇を認めた
CT検査:ダグラス窩を中心に腹水貯留を認め
が,CT検査,頭部MRI,骨シンチグラフィーでは
るが,子宮,付属器に明らかな異常所見は指摘し
異常所見は認めなかった.8月にはNCC-ST439
得なかった(図1a).
値はさらに上昇し,CT検査,婦人科受診を行った
FI)G-PET:両側卵巣に一致する部位にFDG
がダグラス窩に少量の腹水を認めるのみであった.
の集積を認めた(図1b).
TAMによるホルモン療法を継続していたが,そ
超音波検査(FDG-PET施行後):約6cm大と
の後もNCC-ST439の上昇は継続し(表1), CT検
5cm大の楕円形,表面不整な腫瘍を子宮に接して
査上も腹水の増加を認めたため,2003年7月に
認める(図1c).
FDG-PETを施行. CT画像上の両側卵巣と一致す
摘出標本肉眼所見:左右の卵巣はそれぞれ10×
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103(103)
図2
a:右卵巣摘出標本:10×5×5cm大と腫大しており,分葉状・多語性,割面は白色充実性であった.
b:子宮摘出標本.肉眼的には異常所見は認めなかった.
c:両側の卵巣および子宮内膜の一部に小型類円形ないし索状を示して浸潤する腫瘍組織を認め,初回の乳癌手術時
の標本と同様の所見であった(HE染色×200).
d:大小の充実性胞巣を形成しつつ小塊状,あるいは索状をなして浸潤性に増殖する腫瘍組織を認める(HE染色×
200).
5×5cm大,9×6×5cmと腫大しており,分葉
った.
状多房性,割面は白色充実性であった.子宮は肉
腹水洗浄細胞診検査所見:一部にN/C比が大
眼的には異常所見は認めなかった(図2a,b).
きく重積性のある異型細胞の集塊を認め悪性と診
病理組織検査所見:両側の卵巣および子宮内膜
断された.
の一部に小型類円形ないし索状を示して浸潤する
術後経過:術後はlow dose CEF療法(CPA:
腫瘍組織を認める.腫瘍細胞は大型,多角形で大
100 mg/day 1 ”v14, EPI (epirubicin) : 40 mg/
部分の胞体は両染麗ないし弱塩基性でN/C比は
day 1,8,5-FU:500 mg/day1,8)6サイクルを行
小さい.以上の所見は転移性低分化腺癌の像とみ
った後,ANZ(anastrozole)(1mg/day)による
なされ(図2c),乳癌の原発巣(図2d)と類似して
内分泌療法を継続し,外来通院中であるが,術後
いることから,両側卵巣および子宮転移と診断さ
2年経過した現在まで血清NCC-ST439の再上昇,
れた.またER(一), PgR(十), HER-2 score(0)
腹水の再貯留といった再々発の兆候は認めていな
であった.なお,大網には転移の所見を認めなか
い(表1).
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乳癌の臨床第21巻・第1号2006年2月
104(エ04)
表1 腫瘍マーカーの推移
’乳癌手術時
1995年9角
CEA
:術後
、20◎b年2月 2001年12月12◎03年7月
2003年12月 2605年1月 2005年6月
(ng/ml)
1.6
L6
1.3
L7
2.4
2.6
ユ1
13.3
11.9
9.9
11.0
9.5
122
9
99.2
3.8
〈1.0
〈1.0
(〈O.4)
CA15-3
(U/ml)
12
(〈30)
CA125
(U/ml)
7
( 〈 39)
NCC-ST 439 (U/ml)
2.1
(〈7.0)
’卵巣転移
卵巣転移一
手術時
22
46
を異常所見とする乳癌再発が疑われる症例に対す
考 察
る転移診断への有用性が示されている.
FDG-PETの読函南の問題点として生理的集積
1930年にWarburg’)が腫瘍組織は正常組織より
との鑑別や呼吸運動による位置ずれが挙げられる.
糖代謝が充進していることを報告して以来,ブド
腫瘍の診断ではその局在診断が重要であるが,そ
ウ糖類似体であるFluorine-182-deoxy 一2-
のような理由からFDG-PET単独での診断は容易
fluoro-D-glucose(以下FDG)を用いたPositron
ではない.その対策として開発され,現在,欧米
Emission Tomography(以下FDG-PET)は多数
では主流になりつつあるPET-CTはFDG-PET
の悪性腫瘍の診断に用いられてきた.2002年4月
とCTの融合画像の3軸方向が同時に表示され,カ
からわが国でもFDG-PETによる悪性腫瘍の診断
ーソルを病変部に合わせるだけで各断面像におけ
が保険適用となった.1回の薬剤投与で全身の病
る位置が確認できる.臨床的には解剖学的に複雑
巣検索が可能であり,乳癌においては腫瘍の存在
な腹部・骨盤領域においてその有用性は高く,呼
診断,良悪性の鑑別,stage診断,再発・転移の検
吸同期法を行うことなどにより呼吸運動による位
索(脳転移以外),化学療法・放射線療法の治療効
置ずれも減少でき,より精度の高い診断が可能と
果判定および予後予測に関しての有用性が報告さ
なっている.またPET-CTではCTでトランスミ
れている2).
ッションスキャンを行うことにより,撮影時間の
本症例はFDG-PETが卵巣転移の診断に有用で
大幅な短縮や画質の安定性が得られるといった利
あったが,乳癌の再発・転移の診断におけるFDG-
点もあり,今後わが国でも普及していくことにな
PETの有用性ついてはMoon DH3), Liu CSら4>,
るであろう7).
Eubank WBら5), Kim TSら6)による数々の報告
本症例は2000年2月より腫瘍マーカーNCC-
があり,その感度,特異度は93~96%,79~91%
ST439の上昇を認めていたが,この時点からFDG-
であり,従来の検査法よりも優れている.
PETが施行されていれば卵巣転移による再発を,
本症例は血清腫瘍マーカーのNCC-ST439と
より早期に診断可能であった可能性も考えられる.
CA125の上昇を認め,婦人科検診, CT検査で骨盤
腫瘍マーカーに関しては乳癌に特異的なNCC-
腔の腹水貯留を指摘された症例であったが,転移
ST439以外に卵巣癌の腫瘍マーカーであるCA125
巣の同定にFDG-PETが有用であった. Liu cs
が上昇していた.CA125は卵巣癌・子宮体癌に特
ら4)は血清腫瘍マーカー(CEA, CA15-3)が上昇
異的なマーカーであり,卵巣癌での陽性率は
しているが,他の画像検査では陰性所見である再
70~76.5%と報告されている8・9).しかし,肺癌,
発乳癌症例にFDG-PETを行い,28例,38病巣にお
子宮内膜症,胸腹膜などの炎症性疾患(癌性腹膜
いて病巣検出率は感度96%,特異度90%と良好な
炎・胸膜炎など)でも高値を示し,疑陽性となる
成績を報告しており,血清腫瘍マーカー上昇のみ
ことも知られている8・9).また,乳癌の卵巣転移症
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乳癌の臨床 第21巻・第1号 2006年2月
例において高値を示し,術後に正常化した報告例
105(1 05)
文 献
も散見されることを考えると(腹水の有無に関わ
らず)10・12),転移性卵巣腫瘍でも高値を示すことが
1) Warburg O : The metabolism of tumors. Amold
Constable, London, 75-327, 1930
あるのであろう.本症例に関しては,癌性腹膜炎
2)宇野公一:新しい画像診断法(4)FDG-PET.乳癌の
による腹水貯留,両側卵巣転移によりCA125が高
臨 18:309-317,2003
3) Moon DH, Maddahi J, Silverman DH, et al : Accu-
値を示したものと推察される.
転移性卵巣癌の予後に関しては75%が1年未満
の生存率8・11),4年以上の生存率は4.1%9・12)と報
告されているように極めて予後は不良である.し
かし,化学・内分泌療法の奏効率が比較的高い乳
癌の卵巣転移においては,長期の延命効果も期待
racy of whole-body fluorine-18-FDG PET for the
detection of recurrent or metastatic breast car-
cinoma. 1 Nucl Med 39 : 431-435, 1998
4) Liu CS, Shen YY, Lin CC, et al:Clinical impact of
[18F] FDG-PET in patients with suspected recur-
rent breast cancer based on asymptomatically ele-
vated tumor marker serum levels : a preliminary
できるので,手術療法も含めた集学的治療を推奨
report. JPn 1 Clin Oncol 32:244-247, 2002
する意見も多い13).そのため,再発巣によってはよ
5 ) Eubank WB, Mankoff D, Bhattacharya M, et al :
り早期に診断し,治療を行うことが効果的な可能
Impact of FDG PET on defining the extent of
性もあると思われ,リスクの高い症例については
血清腫瘍マーカー,各種画像検査による厳重な経
過観察が必要と考えられ,FDG-PETは有用な検
disease and on the treatment of patients with recur-
rent or metastatic breast cancer. A nz J Roentgenol
183 : 479-486, 2004
6) Kim TS, Moon WK, Lee DS, et al : Fluorodeoxy-
査方法の1つと考えられた.
glucose positron emission tomography for detection
本症例は術後2年を経過し,現在まで再々発の
of recurrent or metastatic breast cancer. World/
兆候はないが,腹水細胞診陽性の結果を考慮する
と,再発リスクは高いと考えられ,補助療法の継
続と厳重な経過観察を行っている.
Su rg 25 : 829-834, 2001
7)井手 満:FDG-PETを中心とした成人病検診.臨床
方目口寸糸泉49:835-840,2004
8)青木大輔,平沢 晃,進 伸幸,他:臨床検査,診断に
用いる腫瘍マーカー.癌と化療32:411-416,2005
9)青儀健二郎,高島成光,香川和三,他:乳癌における
結 語
腫瘍マーカーとその利用の仕方.成人病と生活習慣病
35 : 653-658, 2005
腫瘍マーカー上昇を認めたにも関わらず,他の
10)館花明彦,宇井義典,酒井滋,他:術後16年目に卵巣
画像所見では異常なく,FDG-PETのみが診断に
転移をきたした乳癌(浸潤性乳管癌)の1例.日臨外会
有用であった乳癌術後卵巣転移の1例を経験した.
乳癌の再発・転移の検索においては,本症例のよ
誌63:2390-2394,2002
11)蔵本博:行,脇田邦夫,上方敏子,他:Krukenberg腫瘍
の臨床病理学的検討.産と婦49:228-232,1982
うにFDG-PETが診断の一助となる場合もあり,
12)館花明彦,福田直人,山川達郎,他:術後13年目に左
有用な検査法と考えられた.
卵巣転移をきたした乳腺浸潤性乳管癌の1例.日臨外
会誌62:63-66,2001
13)田部井敏夫,井上賢一,松沢真澄,他:乳癌卵巣転移
に対する治療salvage surgeryと化学内分泌療法によ
る集学的治療乳癌の臨10:368-374,1995
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