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割賦販売取引における既払金返還法理 - Meiji Gakuin University

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割賦販売取引における既払金返還法理 - Meiji Gakuin University
明治学院大学機関リポジトリ
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
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割賦販売取引における既払金返還法理―クレジット取
引システムにおける帰責構造の分析を通して―
山里, 盛文
明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji
Gakuin University Graduate Law School law
review, 18: 81-104
2013-03-31
http://hdl.handle.net/10723/1775
Rights
Meiji Gakuin University Institutional Repository
http://repository.meijigakuin.ac.jp/
81
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号 2013年 81−104頁
割賦販売取引における既払金返還法理
—— クレジット取引システムにおける帰責構造の分析を通して ——
山 里 盛 文
Ⅰ 総論
ⅰ はじめに
ⅱ 前提
1)割賦販売法の規制対象
2)割賦販売法上の既払金返還規定
3)民法法理を考える必要性
ⅲ 判例・学説
1)判例
2)学説
⑴ 経済的一体性のみ
1 不可分一体説
2 密接不可分説
3 提携関係説
⑵ 経済的一体性+経済的優位性
⑶ 経済的一体性+契約の内容
1 契約結合説
2 給付関連説
⑷ 経済的一体性+義務違反
1 履行確保義務説
2 加盟店選択義務
3 加盟店調査監督義務説
⑸ 経済的一体性+契約形式の変更
1 契約形式組み換え説
2 免責的債務引受説
3 第三者のためにする契約説
4 第三者のためにする契約+債権譲渡説
5 独立契約説
ⅳ 検討
1)学説・判例の分析
2)クレジット契約についての分析
⑴ クレジット契約の構成
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『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
⑵ コーズか?行為基礎か?
1 コーズ論
2 行為基礎論
3 検討
⑶ 問題点
3)民法における帰責原理
⑴ 行為者帰責型
⑵ 受益者帰責型
⑶ クレジット取引と帰責原理
⑷ 受益者帰責型の補充的性格
4)効率性
⑴ 消費者被害防止についての効率性
⑵ 被害救済の効率性
ⅴ 小括
Ⅱ 各論
ⅰ はじめに
ⅱ クレジット取引:個別信用購入あっせん型
ⅲ クレジット取引:包括信用購入あっせん型
1)類型
⑴ 三当事者間クレジット取引(オン・アス型)
⑵ 四当事者間クレジット取引(ノン・オン・アス型)
⑶ 五当事者間クレジット取引(包括加盟型)
2)検討
⑴ 各契約の分析
⑵ 既払金支払請求について
⑶ チャージバックとコンプライアンス
1 チャージバック
2 コンプライアンス
3 検討
ⅳ クレジット取引:ローン提携販売型
1)方式
2)検討
ⅴ 小括
Ⅲ おわりに
Ⅰ
総論
ての議論は,今に始まった議論ではない。これま
で長年にわたり議論が積み重ねられてきた。いわ
ば,「古くて新しい」議論であるといえよう。そ
ⅰ はじめに
平成23年10月25日に最高裁として,初めて,ク
して,クレジット契約は,時代の流れとともに変
化してきている。「従来の議論は,現在のクレジ
レジット契約における既払金返還請求についての
ット取引システムに対応できているのであろう
判決が下された。しかし,クレジット契約につい
か」,本稿は,このような問題意識のもとに,ク
割賦販売取引における既払金返還法理
83
レジット契約のあらゆる類型に対応するための一
利用し,指定商品,指定権利の販売契約,指定役
試論を行おうとするものである。
務の提供契約について,代金の支払いに充てる金
以下,本稿においては,「総論」と「各論」と
銭の借り入れで,代金の合計額を基礎としてあら
に分けて検討する。「総論」では,クレジット取
かじめ定められた方法により算定された金額を分
引について,一般的に妥当するであろうという考
割して支払うことを約した購入者等の債務を保証
えについて検討してみたい。そして,「各論」に
する形式である。
おいては,総論で提示した考えが,現在のクレジ
包括信用購入あっせん(割賦販売法2条3項)。
ット取引における様々な類型にどのように妥当す
包括信用購入あっせんには,2月以上の割賦払い
るかを検討する。なお,「総論」の部分では,主
型(割賦販売法2条3項1号)とリボルビング型
に三当事者間のクレジット取引を念頭に置いて論
(割賦販売法2条3項2号)がある。2月以上の
じる。
割賦払い型(割賦販売法2条3項1号)は,カー
「総論」における検討の順序は,クレジット取
ドを利用して,商品,権利の販売契約,特定役務
引について規制する割賦販売法についてその適用
提供契約について,代金の支払いを2月以上にわ
対象や既払金返還についての規定について考え
たり,3回以上に分割して支払う形式である。リ
(Ⅰ−ⅱ),クレジット取引についての判例と学説
ボルビング型(割賦販売法2条3項2号)は,カ
について検討する(Ⅰ−ⅲ)。そして,クレジッ
ードを利用して,商品,権利販売契約,特定役務
ト取引について,一般に妥当するであろうと考え
提供契約について,代金の支払いを代金の合計額
られる理論を提示してみたい(Ⅰ−ⅳ)。次に,
を基礎としてあらかじめ定められた方法により算
「各論」における検討は,各種のクレジット取引
について,「総論」で提示した理論が,個別信用
定された金額を支払う形式である。
個別信用購入あっせん(割賦販売法2条4項)。
購入あっせん型(Ⅱ−ⅱ),包括信用購入あっせ
個別信用購入あっせんは,カード等を利用するこ
ん型(Ⅱ−ⅲ),ローン提携販売型(Ⅱ−ⅳ)の
となく,商品,指定権利の販売契約,特定役務提
それぞれについて妥当するか考える。
供契約について,代金の支払いを2月以上にわた
り,支払う形式である。
ⅱ 前提
1)割賦販売法の規制対象
クレジット取引について規制する法律は,割賦
販売法がある。ただし,この割賦販売法は,その
2)割賦販売法上の既払金返還規定
2008年の割賦販売法改正により,個別信用購入
あっせんの既払金返還請求につき,以下の既払金
返還規定が用意された。
規制対象となる取引類型が限られている。割賦販
クーリングオフ(割賦販売法35条の3の10,35
売法が,規制対象とする三当事者以上の取引につ
(1)
条の3の11)
。訪問販売等についてクレジット
いての類型は以下の通りである。
契約が利用された場合,個別クレジット契約のク
ローン提携販売(割賦販売法2条2項)。ロー
ン提携販売には,割賦払い型(割賦販売法2条2
ーリングオフが可能である。
過量販売解除(割賦販売法35条の3の1)。訪
項1号)とリボルビング型(割賦販売法2条2項
問販売により,日常生活において必要とされる分
2号)がある。割賦払い型(割賦販売法2条2項
量を著しく超える商品の販売契約おいてにクレジ
1号)は,カードを利用し,指定商品,指定権利
ット契約を利用した場合,クレジット契約の解除
の販売契約,指定役務の提供契約について,代金
をすることができる。
の支払いに充てる金銭の借り入れで,2月以上に
不実告知取消(割賦販売法35条の3の1)。特
わたり,3回以上に分割して支払うことを約した
定商取引法に規定する特定商取引5類型(訪問販
購入者等の債務を保証する形式である。リボルビ
売,電話勧誘販売,連鎖販売取引,特定継続的役
ング型(割賦販売法2条2項2号)は,カードを
務提供契約,業務提供誘引販売取引)について,
84
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
販売契約またはクレジット契約に関して不実告知
約については「販売契約」と呼ぶ。クレジット取
または不告知により消費者が誤認をして契約を締
引の当事者については,消費者に対して与信を行
結した場合に,消費者は,販売契約・クレジット
う事業者を「あっせん業者」と呼び,商品の販売,
契約の両方を取消すことができる。
役務の提供をする事業者を「販売業者」と呼び,
3)民法法理を考える必要性
商品の購入,役務の提供を受ける者を「消費者」
2008年の割賦販売法改正により,既払金返還に
と呼ぶ。
ついての規定が用意された。しかし,これですべ
てが解決したわけではない。それは,次のような
ⅲ 判例・学説
場合には,割賦販売法の既払金返還についての規
1)判例
定は,適用されないからである。
判例(3)としては,最判平成2年2月20日(判時
2008年に改正された割賦販売法の既払金返還規
1354号76頁),静岡地浜松支判平成17年7月11日
定が適用されない場合である。すなわち,改正法
(判時1915号88頁),名古屋高判平成21年2月19日
施行前に締結された契約である場合や,個別信用
(判時2047号122頁),最判平成23年10月25日(民
購入あっせん以外の取引類型である場合である。
そして,割賦販売法の適用対象は,「2か月以上,
集65巻7号3114頁)がある。
(4)
最判平成2年2月20日(判時1354号76頁)
。
3回にわたって」支払いをする場合であり,マン
最高裁は,立替払契約と販売契約は別個の契約で
スリークリア(翌月一括払い)の場合には,割賦
あるとし,販売契約で生じた事由を立替払契約に
販売法の規定は,適用されない。また,クーリン
ついて主張することはできない。ただし,特段の
グオフができない場合,適量な販売であった場合,
事情が認められれば,販売契約で生じた事由を立
不実告知以外の契約の効力否定要因がある場合に
替払契約について主張できるとした。その特段の
は,既払金返還規定は使えない。さらに,抗弁権
事情とは,「購入者とあっせん業者との間の立替
の接続規定(2)によると,抗弁事由は,不実告知
払契約において,かかる場合には購入者が右業者
に限られないが,その効果は,支払い拒絶のみで
の履行請求を拒み得る旨の特別の合意があると
あるから,既払金の返還はできない。
き,又はあっせん業者において販売業者の右不履
よって,クレジット取引について,既払金返還
行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきであ
については,民法法理による既払金返還について
りながら立替払を実行したなど右不履行の結果を
の理論を考える必要がある。
ここで,本稿における定義をしておきたい。割
あっせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とす
る」事情である。
賦販売法上規制が及ばない場合であっても(例:
静岡地浜松支判平成17年7月11日(判時1915号
マンスリークリア),あっせん業者に対する,既
88頁)。静岡地裁浜松支部は,売買契約と立替払
払金の返還請求は問題となりうるので,
以下では,
契約は別であり,割賦販売法30条の4(旧法)は
割賦販売法の規制が及ばない割賦販売も含めて,
創設的規定(最判平成2年2月20日)であるので,
「クレジット取引」,「クレジット契約」と呼ぶ。
割賦販売法30条の4のような規定がない以上,別
そして,三者間のクレジット契約で,個別信用購
個独立の契約に生じた事由を他の契約で主張する
入あっせんの形式をとるものを「個別信用購入あ
ことは許されず,当然に他の契約の成否に影響を
っせん型」と呼び,三者間,または,四者間以上
及ぼさない。そして,割賦販売法30条の4におい
のクレジット契約で,包括信用購入あっせんの形
て対抗を認める抗弁には制限がなく,公序良俗違
式をとるものを「包括信用購入あっせん型」と呼
反を理由とする売買契約の無効(抗弁)を主張し
び,三当事者かそれ以上でローン提携販売の形を
て,請求を拒むことができることからすると,売
とるものを「ローン提携販売型」と呼ぶ。クレジ
買契約が無効である場合に当然に立替払契約も無
ット取引を利用する商品の販売契約,役務提供契
効となるという解釈をとることはできない。
割賦販売取引における既払金返還法理
ただし,加盟店調査監督義務違反があったとし
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契約について主張できる。その特段の事情とは,
て不法行為による損害賠償責任を認めた。それは, 「購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗
以下の理由による。
売買契約と立替払契約は別であるから,売買契
に反し無効とされる場合であっても,販売業者と
あっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締
約が無効であるからといって,立替払契約が無効
結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序
とはならない。そして,加盟店調査監督義務は,
良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識
行政上指導上,信販会社に要請された義務であり,
の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序
個々の消費者との関係での具体的義務違反ではな
良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せし
いから,債務不履行,不法行為責任は負わない。
め,売買契約と一体的に立替払契約についてもそ
しかし,信販会社が加盟店調査監督義務の違反に
の効力を否定することを信義則上相当とする」事
つき,重大な落ち度があった場合は,不法行為責
情である。
任を負う。なぜなら,信販会社の立替払契約によ
2)学説
り,悪質な販売業者の不適正な販売行為を助長さ
既払金返還請求についての学説は,多数存在す
せ,個々の消費者の被害により信販会社が利益を
る。学説は,その論拠として,経済的一体性を認
得る結果となるからである。そして,本件の信販
めることは統一している。以下では,法的評価に
会社には,著しいい義務違反があったので,不法
ついて,経済的一体性とその他の要素を組み合わ
行為責任を負うとした。加盟店調査監督義務の具
せるかについての基準により分類した。
体的内容としては,以下のものが挙げられている。
加盟店契約を締結する際に,加盟店に関する資料
⑴ 経済的一体性のみ
1 不可分一体説(6)
を取寄せること等によって,加盟店が行う商品の
販売契約と立替払契約は,目的拘束依存関係に
販売方法を具体的に把握すること,その内容を加
あり,密接に結びついている(7)。そして,販売契
盟店に質問するなどして,販売方法に不審な点が
約と立替払契約は,経済的に一体のものであるか
ないかを慎重に判断すること,加盟店契約締結後
ら,法的にも一体的考えるべきであるとする(8)。
においても,加盟店の 販売方法を把握すること,
あっせん業者と販売業者は,次の点から密接な
消費者に対する電話での意思確認において契約内
関係が導ける(9)。あっせん業者と販売業者は,
容を具体的に質問することである。
「営業活動上相互に協力依存関係にある」こと,
名古屋高判平成21年2月19日(判時2047号122
加盟店契約の締結により,あっせん業者と販売業
(5)
頁)
。名古屋高裁は,「本件の背景事情からする
者は継続的契約関係にあること,販売契約と立替
と」との限定を付してはいるが,立替払契約と販
払契約は,「目的と補助手段の関係にある」こと,
売契約の一体性を肯定し,販売契約が公序良俗違
そして,消費者保護政策的配慮として,あっせん
反により無効となる場合は,一体的に立替払契約
業者に帰責できない結果,消費者に与えられる救
もその効力を失うとした。背景事情とは,販売業
者が,立替払契約の締結について準備行為を代行
済手段は,販売業者に対する訴訟提起であるが,
「経済的・時間的および専門知識のうえで弱者で
をしていること,販売業者の販売方法について,
ある消費者にとって過大な負担である」こと,抗
消費生活センターにクレームが来ていることをあ
弁権が接続されたとしても,あっせん業者は,販
っせん業者が知り得たこと,などである。
最判平成23年10月25日(民集65巻7号3114頁)
。
売業者に対して立替金の返還請求をしたり,手数
料の引上げ等でリスクの分担が可能であるのに対
最高裁は,立替払契約と販売契約は別個の契約で
し,消費者は,リスクを他に転嫁させることはで
あり,販売契約で生じた事由を立替払契約につい
きないこと,あっせん業者と販売業者は,継続的
て主張することはできない。ただし,特段の事情
契約関係にあることから,加盟店についての調査
が認められれば,販売契約で生じた事由を立替払
が容易であること,以上の点から,あっせん業者
86
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
と販売業者の密接な関係が導ける。
(10)
2 密接不可分説
割賦販売取引(自社割賦を除く)においては,
る(16)。
⑵ 経済的一体性+経済的優位性(17)
抗弁権の接続の正当化根拠として,立替払契約
販売業者とあっせん業者は,経済的な緊密関係に
と販売契約が,経済的一体性を有するということ
あるにもかかわらず,販売契約と立替払契約が,
のみでは不十分であり,経済的一体性に加えて,
形式的に別個であるとして,あっせん業者は責任
あっせん業者に「経済的優位性」があることが必
を負わず,消費者に販売契約から生ずるリスクを
要である(18)。
負担させることは,不合理である。そうすると,
販売業者とあっせん業者とは,経済的に緊密な関
あっせん業者は,経験や情報力から,販売業者
の「不正・不始末」によるリスクの計算を正確に
係を有しているのであるから販売契約から生ずる
行うことができ,リスク計算の結果,リスクを回
リスクをあっせん業者に負担させる方が合理的で
避するための方策を講じることができる(19)。こ
ある。
3 提携関係説(11)
のような経済的に優位な立場にあるあっせん業者
に責任を負わせるほうがよい。
この学説は,クレジット取引について,あっせ
法律構成としては,信義誠実の原則(民法1条
ん業者と販売業者との提携契約関係の分析によ
2項),権利濫用の禁止(民法1条3項),同時履
り,あっせん業者の責任について考える。そして,
行の抗弁権(民法533条)を活用するほかなく,
クレジット取引について,「共同目的」を実現す
総合的な立法が必要である(20)。
るものであることから分析するもの,また,「他
割賦販売法上の抗弁権の接続規定や既払金返還
人の行為についての責任」についての問題からの
規定の正当化についても,立替払契約と販売契約
分析がある。
の経済的一体性があること,消費者が販売契約に
「共同目的」を実現するものであることからの
瑕疵があった場合に既払金の返還がされること,
分析。販売業者があっせん業者と提携関係に入る
そして,未払金の支払拒絶ができることを期待し
ことにより,消費者は,割賦払いにより目的の商
ていることに加え,あっせん業者が,販売業者の
品を取得する,販売業者は,販売の促進,あっせ
信用調査などを容易にできる立場にあり,損失の
ん業者は,販売業者の販売が増大することにより
分散・転嫁をすることが可能であることを挙げて
利益を上げるという「共同の目的(利益)」を達
いる(21)。
成することとなる(12)。以上のような,「共同の目
的」を達成するシステムからは,立替払契約とあ
っせん契約には,成立上・消滅上の牽連関係が肯
⑶ 経済的一体性+契約の内容
1 契約結合説(22)
販売契約と立替払契約は,相互依存関係にある。
定されるので,販売契約が効力を失うとあっせん
そして,取引の性質上,立替払契約は,解除条件
契約も効力を失う(13)。そして,抗弁権の接続の
付きで成立,存続しているとする。なお,北川善
接続も「共同の目的」から正当化される(14)。
「他人の行為についての責任」についての問題
太郎博士は,販売契約と立替払契約の相互依存性
は成立時についてのみであるとし,販売契約の不
からの分析。クレジット取引において,立替払契
成立,無効の場合には,立替払契約も不成立とな
約と販売契約が経済的に一体であるとか密接な関
るが,解除の場合については,あっせん業者が販
係を有するとするのは,当事者ではない第三者の
売業者の販売行為の信用性につき問題があること
行為について,契約当事者の一方に負わせること
を知っていたか,過失により知らなかった場合に
ができるかという問題である(15)。そして,販売
ついてのみ責任を負うとされている(23)。
契約上の障害事由を立替払契約上の抗弁として提
2 給付関連説(24)
出できるかは,あっせん業者が,販売契約にどれ
販売業者と消費者は,販売契約上,あっせん業
ほど関与しているかによって判断すべきであ
者と消費者は,立替払契約上,「それぞれ一方の
割賦販売取引における既払金返還法理
87
契約を他方の契約に関連づける要素を契約内容と
義務を認めることができる。第2に,手形取引の
して取り込んでいるために,両契約から生じる債
ように二当事者間の契約を超えたところに存する
務関係には一定の牽連関係がある」とする(25)。
合同責任を認める制度が既に存在しているのであ
そして,販売契約と立替払契約は,あっせん業者
るから,消費者を保護する必要性から,あっせん
が販売契約に基づいて生じた消費者の代金債務を
業者と販売業者との合同責任を認めてもよい。第
消滅させるために立替払いをし,その結果として
3に,商法511条1項では,「数人がその一人又は
消費者は,あっせん業者に対し立替払債務を負担
全員のために商行為となる行為によって債務を負
するという「結合要素」が契約内容として組み込
担したときは,その債務は,各自が連帯して負担
まれている。その結果,販売契約と立替払契約は,
する」とあり,解釈上,債権者は,消費者でもよ
相互に密接な関連性を有し,成立上・履行上・存
く,また,クレジット取引の慣行やあっせん業者
続上の牽連関係を有する(26)。
と販売業者の提携関係から,商法511条1項が適
このような,「結合要素」を取り込むことによ
用され,あっせん業者と販売業者は,連帯債務を
り,債務の相互依存効が生ずるのは,コーズが存
負う。第4に,商法511条1項は,民法の分割主
在するからである。あっせん業者が,販売業者に
義の例外となるが,それは,連帯債務とすること
消費者の商品購入のために立替払いをすることに
により,債務の履行を確実にし,取引の信用を維
より,消費者は,立替払債務を負担する実質的理
持するという趣旨であり,この趣旨は,消費者契
由(コーズ)があり,販売業者が,消費者の商品
約においても妥当する。第5に,消費生活センタ
購入のために(売買代金債務を消滅させるために)
ーで取り扱った苦情事例の中には,あっせん業者
あっせん業者から立替払いを受けることにより,
が販売契約上の債務の履行をした例がある。第6
目的物引渡債務を負担する実質的理由(コーズ)
に,外国において,あっせん業者に義務を負担さ
がある(27)。
せる立法例(イギリス)や判例(ドイツ)がある。
さらに,上記の理論的根拠に加え,実質的根拠
第7に,履行確保義務を認めることにより健全な
として,矛盾行為の禁止(民法1条2項)を挙げ
消費者信用取引を育成できる。第8に,あっせん
る。あっせん業者は,販売契約に障害がない場合
業者は,保険を利用することにより,損失を回避
には,販売契約と立替払契約との依存関係から利
できる。
益を享受するが,ひとたび,販売契約に障害が生
2 加盟店選択義務説(32)
じると,立替払契約とは別個の契約であるとして
あっせん業者が,「消費者に損害を及ぼすおそ
販売契約と立替払契約の依存関係を否定すること
れのあるような販売店を加盟店に加えない」よう
で,立替払金の支払い請求をするというような,
にする義務(加盟店選択義務と呼ぶことができよ
(28)
態度は,矛盾行為である
。
⑷ 経済的一体性+義務違反
う)を立替払契約の付随義務として負っている。
そして,あっせん業者が,クレジット取引システ
(29)
ムを自ら構築したことに注目し,自ら構築したシ
あっせん業者は,消費者に対し付随義務として
ステムにより他人(消費者)に損害を及ばさない
1 履行確保義務説
の履行確保義務を負い,この履行確保義務とは,
販売業者が,消費者に対して負う義務を完全に履
(30)
行させる義務である
。
あっせん業者が,
履行確保義務を負う理由とは,
以下の通りである(31)。第1に,あっせん業者は,
消費者との関係において善管注意義務が要請され
ようにするべきである(33)。
なお,契約の不成立,取消し,無効の場合につ
いては,契約の一体性を根拠に効力を否定すべき
とする(34)。
3 加盟店調査監督義務説(35)
あっせん業者は,加盟店の信用や業務内容を調
るのであるから,その善管注意義務の具体化とし
査し,販売業者が適法で適切な営業活動を行うよ
ての,販売業者が完全な供給をするよう強制する
う調査・監督することが求められている(36)。経
88
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
済産業省もあっせん業者に対し数次にわたり通達
は,販売業者から代金賦払いの販売契約を締結し,
を出してきた(37)。その中でも,平成16年の通達
あっせん業者は,販売業者と消費者の支払い能力
では,加盟店の実態把握の徹底が求められた。ま
を考慮し,販売契約を成立させるために信用を供
た,通達に法的強制力がないとしても,通達は,
与するものである。これに対し,当事者の選択は,
加盟店調査監督義務の内容を明らかにするうえで
消費者と販売業者との間で販売契約を締結し,販
重要な資料となる。
売契約とは別個独立的に,あっせん業者と消費者
⑸ 経済的一体性+契約形式の変更
(38)
1 契約形式組み換え説
ある取引について,当事者が選択した契約形式
との間で金銭消費貸借契約を締結する。そして,
あっせん業者と販売業者は,保証契約を締結する。
このように販売契約と金銭消費貸借契約との間に
とは異なる契約形式を当該取引にあてはめること
は,一体性あるいは密接な関係があるにもかかわ
を「契約形式の組み換え」と呼び(39),ローン提
らず,別個独立とするのは,経済的実質に反する。
携販売,個別信用購入あっせんにつき,次のよう
に契約形式の組み換えをする。
ローン提携販売について(40)。当事者の選択は,
販売業者と消費者との契約形式は,販売契約を選
当事者との選択が,経済的実質に反するかにつ
いて個別信用購入あっせんの場合は,次の通りで
ある(44)。個別信用購入あっせんの経済的実質は,
消費者は,販売業者と販売契約を締結し,販売業
択し,あっせん業者と消費者との契約形式は,金
者と消費者との立替払契約は,販売契約の成立の
銭消費貸借契約を選択し,あっせん業者と販売業
ために締結されるものである。これに対し,当事
者との契約形式は,保証契約を選択している。こ
者の選択は,消費者と販売業者との販売契約を締
れに対し,裁判所は,販売業者と消費者との契約
結し,あっせん業者と消費者は,販売契約とは別
形式は,販売契約であり,あっせん業者と販売業
個独立の立替払契約を締結することである。この
者との契約形式は,金銭消費貸借契約であり,あ
ように,販売契約と立替払契約との間には,一体
っせん業者と販売業者との間では,あっせん業者
性あるいは密接な関係があるにもかかわらず,別
の販売業者に対する貸金債権を被担保債権とし,
個独立とするのは,経済的実質に反する。
販売代金債権があっせん業者のために譲渡担保と
2 免責的債務引受説(45)
されると組み換えることができる。そして,あっ
クレジット契約を免責的債務引受であると考え
せん業者は,消費者に対して,販売代金債権の取
る。クレジット取引システムからすると,クレジ
立てを行うというものである。
個別信用購入あっせんについて(41)。当事者の
選択は,販売業者と消費者との契約形式は,販売
契約,あっせん業者と消費者との契約形式は,立
替払契約である。これに対し,裁判所は,販売業
ット契約の法的性質は,販売代金相当額をあっせ
ん業者が販売業者に支払うことを委託するとい
う,準委任説が適合的である(46)。
そして,対外的効力,一人に対して生じた事由,
対内的効力について検討からすると,消費者があ
者と消費者との契約形式は,販売契約と,あっせ
っせん業者に免責的債務引受を委託すると考える
ん業者と販売業者との契約形式は,販売代金債権
べきである(47)。
の債権譲渡契約に組み換えることができる。
このように,契約形式の組み換えは,当事者の
対外的効力について。販売業者が,代金の支払
請求をするのが許されるのはあっせん業者だけで
選択が,経済的実質に反すること,そして,「裁
あることをどのように説明するかについて,免責
判所がその判断の基礎を端的に明らかにするた
的債務引受であれば,消費者の代金支払債務は,
め」にも契約形式の組み換えが許される(42)。
当事者との選択が,経済的実質に反するかにつ
いて,ローン提携販売の場合は,次の通りであ
る(43)。ローン提携販売の経済的実質は,消費者
免除されている。そして,抗弁権の接続について
も,債務引受であれば,債務に付属した抗弁権は
債権者に主張できるとされている。
一人に対して生じた事由について。例えば,消
割賦販売取引における既払金返還法理
89
費者が販売業者から債務を免除されたとしても,
に生じた抗弁は,金銭消費貸借契約には接続され
免責的債務引受であれば問題とならない。それに
ないとされる。
対し,履行引受であれば,消費者が善管注意義務
4 第三者のためにする契約+債権譲渡説(52)
違反を問われかねない。また,重畳的債務引受の
第三者のためにする契約について,債務者同士
場合であれば,あっせん業者の債務も全部免れる
がイニシアチブをとって三者間の法律関係を規律
こととなる。
するものであるとの認識のもとで債権譲渡につい
対内的効力について。あっせん業者の消費者に
て以下のように考える(53)。旧債務者を要約者,
対する立替払金の支払い請求権は,民法650条1
新債務者を諾約者,新債権者を受益者とし,旧債
項の費用償還請求権として理解される。そして,
権者と債務者との間で債権の譲渡契約をし,新債
販売契約の効力が否定された場合は,費用償還請
権者は,受益の意思表示をすることにより,債務
求権は発生しないので,抗弁権の接続が認められ
者に対する債権を自己に帰属させることができ
る。
る。
3 第三者のためにする契約説(48)
これを,クレジット契約に当てはめると,販売
クレジット取引を第三者のためにする契約(民
業者が要約者,消費者が諾約者,債権者が受益者
法537条)と考える。消費者は,後払いをする目
とし,販売契約により生じる販売業者の消費者に
的でクレジットカードを利用しており,割賦販売
対する代金債権をあっせん業者に譲渡することに
法上の諸類型に該当するかどうかということにつ
なる。このようにクレジット契約を第三者のため
いては考えていない。そして,あっせん業者と販
にする契約と解することにより,民法上の規定
売業者に「立替払いをすることによって,資金関
(民法539条)により,抗弁権の接続を説明できる。
(49)
係を見ることができる」
。さらに,クレジット
5 独立契約説(54)
カードの発行元が,デパート等の場合,消費者と
クレジット契約は,独立した新たな契約類型と
しては,デパート等の販売業者が与信をしてくれ
考えるべきである。クレジット契約は,ローマ法
たものと思い,第三者が与信をしたものであると
の時代から契約法の中に登場しなかったものであ
は考えない(50)。よって,クレジット取引は,販
り,新たに生じた法律問題にたいして適切に対応
売業者を要約者,消費者を諾約者,あっせん業者
するためには,伝統的な契約観にとらわれない
を受益者とする第三者のためにする契約であると
「思い切った発想の転換」が必要である(55)。例え
解するべきである。
ば,不動産売買契約,請負契約,サービス供給契
ここで,クレジット取引が,民法上の規定によ
約においても,完全な給付がされることを前提に
り,すなわち,第三者のためにする契約(民法
融資を受けるのであるから,給付が未提供,不完
537条)で解決できるのであることにはメリット
全な場合には,立替払金の支払い拒絶ができるの
があり,それは,もし,クレジット取引が割賦販
であり,商品の売買契約においても同様に考えら
売法の規制を受けないクレジット取引であるとし
れる(56)。また,一つの契約と考える方が消費者
(51)
ても,抗弁権を接続させることができる
。
の意識と合致する(57)。
なお,小池邦吉弁護士は,クレジット取引全般
について第三者のためにする契約で構成するので
ⅳ 検討
はなく,消費者から見て,代金の後払いとみるこ
1)判例・学説の分析
とができるクレジット取引に限り,第三者のため
にする契約と構成するべきとされる。よって,消
費者から見て,金銭消費貸借契約を銀行と締結し
以上,判例と学説についてみてきたが,それぞ
れについて,検討してみたい。
判例の枠組みについて。判例は,販売契約と立
ていることが明らかであるような場合は,販売契
替払契約は別当事者の別契約であり,当事者の異
約と金銭消費貸借契約は別契約であり,販売契約
なる別個の契約については,互いに影響を及ぼさ
90
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
ないので,販売業者とあっせん業者が同一の当事
するまで支払いをしないということになる。この
者と評価できる場合にのみ,販売契約に生じた事
点については,妥当であると考えられるが,販売
由は立替払契約に影響を及ぼすと考えているよう
業者が債務を履行しない場合に一般条項(信義則
である。しかし,判例の基準によると三当事者間
や権利濫用禁止)によるのではなく契約法上の同
のクレジット取引においては,妥当するとしても,
時履行の抗弁権の適用を認めるのであれば,契約
四当事者以上のクレジット取引については,妥当
の解除を認めることも肯定されてよいのではない
しないという問題点がある。販売契約と立替払契
だろうか。
約の経済的な関連性は認めながら,その契約相互
経済的一体性+契約の内容を法的評価の基礎と
の関係(販売契約が立替払契約の内容となってい
する見解について。クレジット契約の仕組みから
ないかどうか)について検討していない点には疑
考えるとこの考え方には説得力がある。しかし,
問が残る。もっとも,判例は,個別信用購入あっ
販売契約と立替払契約を別の契約と構成すると,
せんについて事例に関する判断であるので,判例
両契約の当事者は別である。そうすると,販売契
の判断枠組みは,個別信用購入あっせんのみに妥
約に関して,販売業者側の事由により,契約の効
当すると考えることもできる。
経済的一体性のみを法的評価の基礎とする見解
力が否定されるとして,販売業者と別当事者であ
るあっせん業者は,本来,責任を負わないはずで
について。経済的一体性という事実があるとして
ある。それにもかかわらず,あっせん業者にも責
も,それを,法的評価においても一体化させると
任を負担させるという構成をとるためには,あっ
いう結論を導くのは,当事者が,選択した契約形
せん業者が,販売業者に関して何らかのコントロ
式を組み換えるのと同様,契約自由の原則に反す
ールを及ぼすことが可能であることが前提として
るのではないか。また,提携関係から,経済的一
いるのではないか。三当事者間のクレジット契約
体性について法的に評価したとしても,なぜ,提
においては,あっせん業者による販売業者のコン
携関係により得られる「共同の利益」が立替払契
トロールは導くことができるかもしれないが,四
約と販売契約とを接合するのかかが不明である。
経済的一体性+経済的優位性を法的評価の基礎
当事者間以上のクレジット契約においては,コン
トロールを期待することは,難しいと考えられる。
とする見解については,経済的に優位に立ってい
そうすると,あっせん業者が,販売業者に対して
ることをもって,販売契約と立替払契約を一体化
のコントロールができないような場合,言い換え
させるとしても,それだけで,両契約が一体であ
ると,あっせん業者に帰責性がないような場合で
ると評価することも疑問が残る。判例に対する批
あったとしてもあっせん業者が責任を負うことに
判と同様,両契約の関係について検討すべきでは
ついての正当化が必要となる。
ないだろうか。そして,法律構成について,信義
経済的一体性+義務違反を法的評価の基礎とす
則や権利濫用の禁止,同時履行の抗弁権にその根
る見解について。三当事者間のクレジット契約の
拠を求める(58)が,これらの規定によれば,未払
場合には,あっせん業者に販売業者を監督させる
金の支払い拒絶のみしか認め得ないのではないだ
ことは可能である。しかし,四当事者以上のクレ
ろうか。信義則や権利濫用の禁止によると,あっ
ジット契約の場合は,あっせん業者に販売業者を
せん業者からの未払金の支払請求が信義則に反す
監督させることが難しい場合が生じる。
るから許されない,または,未払金の支払請求が
経済的一体性+契約形式の変更を法的評価の基
権利の濫用にあたり許されないということにな
礎とする見解について。契約形式を組み換えるこ
る。よって,信義則や権利濫用禁止によると,既
とにより,民法上の理論において,抗弁権の接続
払金の支払請求は不可能となると考えられる。同
を説明することが可能になる点は,非常に魅力的
時履行の抗弁権による場合としては,販売業者が
である。しかし,裁判所が,当事者の契約の選択
債務を履行しない場合に,販売業者が債務を履行
した契約形式について,それとは別の形式に組み
割賦販売取引における既払金返還法理
91
替えることを許容することを正当化させるために
客観的コーズとは,その契約において,欠かす
は,消費者の権利が過度に侵害されている場合に
ことのできない要素であり,例えば,売買契約に
限るべきであろう。もし,当事者が選択した契約
おいては,代金の支払いや,その反対給付である
形式の通りであったとしても,消費者保護を導く
財物の引渡などがそれにあたる。
ことができるのであれば,その方法によるべきで
主観的コーズとは,当事者が債務を引き受けた
はないだろうか。
原因であり,例えば,契約を締結する際の動機が
2)クレジット契約についての分析
それにあたる。
⑴ クレジット契約の構成
クレジット取引の内容は,以下のように考えら
コーズを欠いた場合の効果は,客観的コーズを
欠いた場合は,契約不成立(変質)とされ,主観
的コーズを欠いた場合は,無効とされる。
れる。
クレジット取引においては,あっせん業者と販
2 行為基礎論(62)
売業者との加盟店契約,消費者と販売業者との販
行為基礎とは,契約締結時に表れる一定の表象
売契約,消費者とあっせん業者との立替払契約が
であり,行為意思がその基礎の上に築かれている
それぞれ存在している。
ここで,消費者が,販売契約の代金をその場で
前提観念であるとされる。行為基礎も客観的行為
基礎と主観的行為基礎に分けることができる。
一度に支払うことができるならば,あっせん業者
客観的行為基礎とは,契約当事者が知っていよ
に立替払をしてもらう必要はない。しかし,その
うといまいと,もしその客観的事情が存在しなけ
場で一度に支払うことができないからこそ,あっ
れば,契約の目的,契約当事者の意図は達成され
せん業者に立替払をしてもらうのである。そうす
ず,契約継続の存続が,無意味,そして,目的を
ると,販売契約の代金支払債務の弁済のために,
失うものであり,等価関係の破壊,契約目的の不
あっせん業者に立替払をしてもらっているのであ
達成がこの類型に属する。
ると考えられるのである。そして,あっせん業者
主観的行為基礎とは,契約の両当事者に共通の
と消費者は,販売契約が有効に成立し,履行もさ
前提または期待であり,それに基づいて契約を締
れると考えて立替払契約を締結していると考えら
結するにいたったものであり,錯誤,特に共通錯
れる。そうすると,立替払契約の契約内容として,
誤がこの類型に属する。
販売契約が有効に成立すること,履行がなされる
行為基礎を欠いた場合の効果は,誠実な両当事
ことがその合意内容として取り込まれていると考
者が,その事態を知っていたとすれば,当事者が
えることもできる。
合意したであろう効果が導かれ,契約の解消や,
よって,立替払契約は,販売契約の存在を前提
としていると考えるべきであり,以上のように考
えると,
経済的一体性+契約の内容が妥当である。
契約の改訂が認められる。
3 検討
以上のようなコーズ論と行為基礎論について,
⑵ コーズか? 行為基礎か?
クレジット取引においてどちらの理論を参考にす
経済的一体性+契約の内容に関しては,二つの
るべきか検討してみたい。
契約を結合させるための理論として,コーズ論(59)
(60)
や行為基礎論
に依拠するものがある。そこで,
実務において,チャージバックの制度(63)を構
築しているが,このチャージバックの性質から考
以下において,コーズ論と行為基礎論について簡
えると,契約の有効性を承認する必要が考えられ
単ではあるが考える。
る。そうすると,コーズ論によると,クレジット
1 コーズ論(61)
コーズとは,契約当事者が契約を締結するに至
取引において,契約の統合をコーズ(客観的コー
ズ)により説明しているが(64),客観的コーズが
った原因である。このコーズは,客観的コーズと
欠けているとすると,契約は不成立となり,チャ
主観的コーズに分けることができる。
ージバックのような,いわば,合意解除のような
92
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
処理は説明できない。もし,契約が不成立である
⑴ 行為者帰責型
とすると,そもそもチャージバックなどのような
人の行為に着目して責任を負担させる行為者帰
制度は必要ない。もちろん,実務に合わせるよう
責型については,その例として,過失責任原則と
な理論を構築する必要はないかもしれない。しか
表見法理を挙げることができる。
し,実務で行われていることを肯定的に法的評価
過失責任原則について。過失責任原則は,「過
することは,有益であると思われる。よって,二
失なければ責任なし」とする原則である。つまり,
つの契約を結合させるための理論については,行
人は,自由であり,その行動について他から干渉
為基礎論を参考にするべきであると考えられる。
をされることはない,しかし,他人に損害を与え
よって,契約結合説によるべきである。
る場合がある。その場合においても,加害者の行
そして,消費者は,販売契約が不成立・無効・
取消し・解除された場合,立替払契約の解除をす
為に過失がある場合にのみ責任を負う。
この過失責任原則は,不法行為責任だけではな
ることができると考えられる。そして,立替払契
く契約責任についても採用されていると従来説明
約が解除された結果の原状回復として,あっせん
されてきたが,契約責任については,近時,過失
業者は,消費者に既払金を返還しなければならな
責任原則ではなく「契約の拘束力」に帰責原理を
いと解すべきである。
求めるものが多数主張されている(65)。
⑶ 問題点
しかし,契約結合説を採用するとしても,上述
のように,あっせん業者が,販売業者に対しての
「契約の拘束力」帰責原理を求める考え方によ
る場合,債務者が債務不履行責任を負担するのは,
「債務者が契約の目的に沿った履行をしなかった
コントロールができないような場合,言い換える
こと」である。よって,債務不履行の帰責原理を
と,あっせん業者に帰責性がないような場合であ
「過失責任原則」ではなく「契約の拘束力」に求
ったとしてもあっせん業者が責任を負うことにつ
めた場合であったとしても,債務者の債務不履行
いての正当化が必要となるとの問題を解決する必
という行為に着目して,契約責任を負わせている
要がある。
そこで,民法が,どのような場合に人に責任を
ということがいえるのであるから,契約責任も行
為者帰責型に分類されることには変わりはない。
負わせているかを分析し,帰責性がないような場
ただし,「契約の拘束力」に帰責原理を求める場
合であったとしても,責任を負うことを正当化で
合,債務者の故意・過失などの帰責事由を債務不
きるかについて考える。すなわち,民法は,どの
履行の要件とはならないので,その点については,
ような行為により,または,どのような状態が生
受益者帰責型の帰責原理に近づくということもで
じることにより,損害賠償責任という責任を負担
きる。
させるのか,契約を解除され,その契約からの利
表見法理について。表見法理は,真の権利者に
益を得ることができなくなるのか,意図しない契
自分以外のものが権利者であるかのような外観が
約の履行責任を負担しなくてはならないことを,
存在することについて帰責性があるときは,その
正当化しているのかについて考える。
外観を正当に信頼した第三者は保護されるとする
3)民法における帰責原理
民法における帰責原理としては,人の行為に着
原理である。表見法理においては,真の権利者が,
虚偽の外観を放置した,という点に帰責原理を求
目して責任を負担させる帰責原理と,利益を得て
め,その契約責任(履行責任)を負担することを
いることに着目して責任を負担させる帰責原理と
説明する。よって,この表見法理についても行為
があると考えられる。ここでは,人の行為に着目
者帰責型に分類することができる。
する帰責原理を「行為者帰責型」と呼び,利益を
得ていることに着目する帰責原理を「受益者帰責
型」と呼ぶこととする。
⑵ 受益者帰責型
利益を得ていることに着目する帰責原理につい
ては,民法534条1項を正当化するための利益帰
割賦販売取引における既払金返還法理
93
属者危険負担原理と報償責任をその例として挙げ
せん業者が,割賦販売取引というシステムを構築
る。
した,または,販売業者の監督をすべきであるの
利益帰属者危険負担原理について。この利益帰
に監督しなかったという行為について帰責原因を
属者危険負担原理は,民法534条1項の存在理由
求めるということになる。この行為者帰責型によ
に関する考え方であり,民法起草者は,534条1
れば,加盟店を調査・監督する義務に違反したか
項は,この立場によるとされている(66)。この考
どうかという点を考えることができる。
えは,「利益の存するところに危険も存する」と
受益者帰責型については,あっせん業者が利益
し,買主は,売買契約の締結により目的物の価格
を得ていることに着目して責任を負担させるか
の騰貴や転売の利益を有しているのであるから,
ら,あっせん業者が,割賦販売取引というシステ
目的物の滅失についての対価危険を負担するとし
ムから利益を得ているという点に帰責原因を求め
て,契約の目的物(特定物)が,契約締結後に両
るということになる。この受益者帰責型によると
当事者の帰責事由なしに滅失した場合であって
あっせん業者がどのような利益を得ているか,あ
も,代金債権は消滅せずに存続することを説明す
っせん業者が得ている利益が,得ている利益が,
消費者が得ている利益よりも大きいものであるこ
る。
もっとも,この民法534条1項に規定されてい
とを要する。
る危険負担の債権者主義については,批判が多く,
あっせん業者がクレジット取引から得ている利
制限解釈がされている。しかし,その制限解釈の
益は,加盟店からの手数料,消費者からの手数料,
際にも,この利益者帰属危険負担原理に基づき,
個別信用購入あっせん型の場合は,分割払手数料
どのような場合に利益を得ているのかという観点
を,包括信用購入あっせん型の場合は,カード年
から説明をするものもある(67)。
会費・リボルビング払い手数料という利益を得て
報償責任について。この報償責任は,使用者が
いる。次にあっせん業者がクレジット取引により
自己の業務のために被用者を用いることによって
被る不利益は,消費者から立替代金相当額の全額
事業上の利益を上げている以上,事業活動から生
回収ができないおそれが挙げられる。しかし,こ
じる危険を負担すべきであるとする原理である。
の不利益は,販売業者の審査を厳格にすることに
そして,報償責任は,使用者責任を無過失責任と
より,また,販売業者から担保を取ることにより
考える際の正当化原理の一つとして挙げられ
回避可能である(72)。
る(68)。
次に消費者が得ている利益は,代金を一度に支
報償責任は,使用者責任だけではなく,履行補
払うことなく商品や役務の提供を受けることがで
助者の責任についてもその帰責原理の一つとされ
きることである。それに対して不利益は,手数料
(69)
ている
。この履行補助者の責任について従来
の議論は,報償責任と危険責任をその帰責根拠と
を負担することであり,この不利益は,回避でき
ない。
していたが,最近の議論(70)においては,契約上
あっせん業者は,クレジット取引により利益を
の合意として考えられる場合は,契約の拘束力に
得,不利益については回避することが可能である。
より,債務者は,責任を負担するとし,第三者の
よって,あっせん業者は,クレジット取引から利
行為が契約上引き受けられていない場合は,報償
益を得ているといえる。
責任,危険責任がその帰責原理としている(71)。
⑶ クレジット取引と帰責原理
以上の民法における帰責原理について,クレジ
ット取引にあてはめて考えてみたい。
⑷ 受益者帰責型の補充的性格
ただし,上記⑵で検討した,受益者帰責原理は,
補充的な性格を有すると考えられる。それは,履
行補助者の責任や使用者責任においては,危険責
行為者帰責型については,あっせん業者の行為
任(危険なシステムを構築したことにより負担す
に着目して責任を負担させるのであるから,あっ
る責任)という行為者帰責型に属するような帰責
94
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
原理とあわせて帰責根拠とされており,また,受
り,販売を促進することにより,資金の回転を早
益者帰責型のみを帰責原理とする(債権者主義)
めることができ,悪質業者は,あっせん業者から
危険負担も廃止するべきであるとの見解が有力で
の立替払いにより生き延びているといえるからで
あるからである。
ある。
そうすると,クレジット取引においても,受益
確かに,このように,販売業者を破たんさせる
者帰責型のみが妥当する場合に受益者帰責型に
ことにより,悪質な販売業者を市場から排除する
「+α」となる原理について考える必要がある。
ことができる。しかし,このような荒療治は経済
「+α」となる原理について効率性を挙げること
的に不合理であり,消費者被害はなくならない。
ができる。ある人に責任を負担させたとしても,
よって,加盟店の調査・監督をより積極的に行わ
その被害を回復するためには,その救済手段が効
せて,危険な販売業者を排除する方が経済的に合
率的である必要がある。それは,もし,その救済
理的である。
手段が効率的でない場合,結局は,被害の回復を
⑵ 被害救済の効率性
することは困難となり,被害は回復されないこと
次に,被害救済の効率性についてであるが,以
と同じになるからである。
下のように考えることができる。あっせん業者と
4)効率性
販売業者は,加盟店契約を締結しており,この加
効率性については,
消費者被害の防止について,
盟店契約の締結においては,加盟店の信用調査を
あっせん業者に責任を負担させた方が効率的であ
している。そして,情報力,交渉力格差という点
るという点,そして,消費者被害の救済について
については,あっせん業者と販売業者はともに事
の効率性について検討する。
業者であり情報力や交渉力格差はない。むしろ,
⑴ 消費者被害防止についての効率性
現行のように,既払金返還についての規定が,
あっせん業者の方が交渉力は優っているといえる
であろう。そうすると,消費者にリスクを負担さ
限定的(個別信用購入あっせんにしか適用されな
せるよりもあっせん業者に負担させた方が効率的
いこと)であり,また,判例のように既払金の返
である。
還を限定的にしか認めないというような場合を想
定すると,以下の通りになる(73)。
販売業者によって生じる「損害」は,既払金の
返還の場合は,既払金の返還が簡単には認められ
ⅴ 小括
以上,総論での検討において,以下の点が明ら
かになった。
ないことから,消費者が負担することになる。そ
クレジット取引の契約関係を分析すると,従来
れに対し,未払金の支払い拒絶の場合は,未払い
の学説が指摘するように,販売契約と立替払契約
の立替金を回収できないという点で,あっせん業
は,密接な関係を有しており,販売契約は,立替
者が負担することになる。
払契約の前提となっていると考えられる。そして,
そして,あっせん業者からすると,販売業者の
販売契約が不成立・無効・取消し・解除された場
破たんを先延ばしにした方が利益になる。
それは,
合には,消費者は,立替払契約を解除することが
消費者から手数料付きで利益が上がるからであ
できる。
る。つまり,既払率を上げることにより,既払金
民法が,人に責任を負担させる原理としては,
の返還について消費者にリスクを転嫁して,あっ
人の行為に着目して責任を負担させるもの(行為
せん業者は,利益を上げることができる。
者帰責型)と利益を得ているものに責任も負担さ
あっせん業者は,販売業者の生殺与奪の権限を
せるもの(受益者帰責型)とある。あっせん業者
握っているといえる。あっせん業者は,加盟店契
は,クレジット取引のシステムを構築し,クレジ
約の解消によって,販売業者を破綻に追い込むこ
ット取引のシステムから利益を得ているよって,
とができる。それは,販売業者は,立替払いによ
あっせん業者は,クレジット取引から生じた危険
割賦販売取引における既払金返還法理
を負担すべきである。
消費者個人に責任を負担させるよりも,あっせ
ん業者に責任を負担させる方が効率的である。
もっとも,この「総論」の部分では,主に三当
95
し,販売業者と消費者との間で販売契約が締結さ
れると,あっせん業者と消費者との間で立替払契
約が締結される。あっせん業者は,販売業者に立
替払契約に基づいて,代金を販売業者に支払う
事者間のクレジット契約を念頭に置いて論じた。 (手数料は引かれる)。そして,消費者は,あっせ
しかし,実際のクレジット契約は,三当事者より
ん業者に対し立替払金に手数料を付して支払う。
も多くの当事者が登場するシステムが構築されて
2)検討
いる。よって,以下,「各論」の部分において,
行為者帰責型について。あっせん業者は,販売
より具体的なクレジット契約について検討するこ
業者と直接加盟店契約を締結しており,販売業者
ととする。
に対して調査・監督が可能である。そうすると,
Ⅱ 各論
あっせん業者に販売業者の調査・監督をする義務
を課したとしても不当ではない。また,2008年改
正の割賦販売法35条の3の5においては,特定商
ⅰ はじめに
実際のクレジット取引のシステムは,様々な類
取引法に規定された5つの類型(訪問販売,電話
勧誘販売,連鎖販売取引,特定継続的役務提供契
型が存在する。当事者の数も三当事者にとどまる
約,業務提供誘引販売取引)について,加盟店の
のではく,四当事者以上が登場する場合のクレジ
調査義務を課していることからも,あっせん業者
ット契約も存在する。よって,「総論」において
に加盟店の調査・監督をする義務を課すことは,
示した理論が,現実に行われているクレジット取
不当ではないといえる。よって,個別信用購入あ
引に妥当するものなのかどうかについての検討が
っせん型について,行為者帰責型が妥当する。
必要となる。そこで,以下では,クレジット取引
受益者帰責型について。あっせん業者は,販売
を個別信用購入あっせん型,包括信用購入あっせ
業者に立替払をする際に,そして,消費者から立
ん型,ローン提携販売型に分類し,包括信用購入
替払金の回収をする際に手数料を取っている。よ
あっせん型については,さらに,三当事者間クレ
って,受益者帰責型も妥当する。
ジット取引(オン・アス型),四当事者間クレジ
効率性について。あっせん業者は,販売業者に
ット取引(ノン・オン・アス型),五当事者間ク
対して,優位な地位にあるといえる。それは,加
レジット取引(包括加盟型)に分けて,それぞれ
盟店契約を締結する際,販売業者の審査しており,
について,検討することとする。
販売業者は,あっせん業者からの一括払により運
転資金をすぐに手にすることができるので,あっ
ii クレジット取引:個別信用購入あっせん型
せん業者との関係は重要であるからである。さら
に,あっせん業者は,消費者よりも,情報力・交
渉力についても優る。よって,効率性の点からも,
あっせん業者に責任を負担させることができる。
個別信用購入あっせん型のクレジット取引につ
いては,あっせん業者が,消費者と立替払契約で
はなく,金銭消費貸借契約を締結した場合に,個
別信用購入あっせんに該当するかという問題点が
ある。この問題について,立法者は,金銭消費貸
借契約と販売契約との間に「密接な牽連性」があ
1)方式
販売業者とあっせん業者は,加盟店契約を締結
る場合には,個別信用購入あっせんに該当すると
している(74)。密接な牽連性の有無については,
96
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
次の要素をみたすものとされている(75)。販売契
費者とカード会員契約を締結し,販売契約にあた
約と金銭消費貸借契約が同一機会などに一体的な
り,消費者は,販売業者にカードを提示し,カー
されている場合,販売業者が,あっせん業者に消
ド決済を申し込む。販売業者は,あっせん業者に
費者をあっせん・仲介していること,販売業者が,
承認を求め,あっせん業者が承認すると販売契約
あっせん業者との契約書を提供していること,販
が締結される。あっせん業者は,消費者に対し,
売業者が,あっせん業者と消費者との契約の作成
立替払金の支払請求をする。
に関与していること,販売業者が,あっせん・仲
介した消費者には,無条件で立替払契約が手帰結
⑵ 四当事者間クレジット取引(ノン・オン・ア
ス型)
されること,販売業者とあっせん業者の間に人的
および資本的関係があることであり,あっせん業
者と販売業者が,反復継続的な取引関係や相互依
存関係があることにより,「密接な牽連性」があ
ると判断されるとしている(76)。
もっとも,立法者の見解のような関係がある場
合に限らず,金銭消費貸借契約に販売契約が有効
に成立していること,そして,履行がなされるこ
とが契約の内容となっている場合には,販売契約
に生じた事由により,金銭消費貸借契約の解除も
可能であると解するべきである。
ⅲ クレジット取引:包括信用購入あっせん型
国際ブランドとあっせん業者(加盟店契約業
包括信用購入あっせん型については,様々な類
者・アクワイアラー),あっせん業者(カード発
型が存在する。よって,それぞれの類型について,
行業者・イシュアー)は,メンバー契約を締結し,
検討する必要がある。以下では,それぞれの類型
アクワイアラーは,販売業者と加盟店契約を,イ
についての方式を紹介した上で,あっせん業者に
シュアーは,カード会員契約を締結する。消費者
責任を負担させることが可能かどうかについて検
は,販売業者にカード決済を申し込み,販売業者
討する。なお,三当事者間クレジット取引(オ
は,アクワイアラーを通してイシュアーに承認を
ン・アス型)については,個別信用購入あっせん
求め,イシュアーが承認すると販売契約が締結さ
型と同様であると考えられるので,その方式の紹
れる。イシュアーは,手数料を差引きアクワイア
介のみにとどめる。
ラーに送金し,アクワイアラーは,手数料を差引
1)類型
いて販売業者に送金する。イシュアーは,消費者
⑴ 三当事者間クレジット取引(オン・アス型)
に対し,立替払金の支払い請求をする。
⑶ 五当事者間クレジット取引(包括加盟型)
国際ブランドとアクワイアラー,イシュアーは,
メンバー契約を締結し,イシュアーは,消費者と
カード会員契約を締結する。アクワイアラーは,
決済代行業者と包括加盟店契約を締結し,決済代
行業者は,販売業者と(店子)加盟店契約を締結
する。消費者は,販売業者にカード決済を申し込
み,販売業者は,決済代行業者・アクワイアラー
あっせん業者は,販売業者と加盟店契約を,消
を通してイシュアーに承認を求め,イシュアーが
割賦販売取引における既払金返還法理
97
ード会社の加盟店で,たとえカード会社が異なっ
ていたとしてもカードを使用することができるよ
うになる。以上のことを例で示すと,以下の通り
となる。カード会社Bが発行しているクレジット
カードの会員契約を締結している消費者Cは,カ
ード会社Aと加盟店契約を締結している販売業者
Dとクレジットカードによる取引はできない。し
かし,カード会社Aとカード会社Bが同じ国際ブ
ランドとメンバー契約をしているとカード会社B
のクレジットカードで,消費者Cは,販売業者D
とクレジットカードによる取引をすることが可能
となる。
加盟店契約について(81)。加盟店契約の当事者
は,あっせん業者(アクワイアラー)と販売業者
である。契約内容は,クレジットカードを使用す
承認すると販売契約が締結される。イシュアーは,
ることができるようにすること,そして,加盟店
手数料を差引きアクワイアラーに送金し,アクワ
を調査・監督することである。五当事者間のクレ
イアラーは,手数料を差引き決済代行業者に送金
ジット取引においては,加盟店契約は,決済代行
し,決済代行業者も手数料を差引き販売業者に送
業者と販売業者により締結され,アクワイアラー
金する。イシュアーは,消費者に対し,立替払金
は,決済代行業者と包括加盟店契約を締結する。
カード会員契約について(82)。カード会員契約
の支払請求をする。
2)検討
の当事者は,あっせん業者(イシュアー)と消費
⑴ 各契約の分析
者である。契約内容は,消費者が,クレジットカ
メンバー契約について。メンバー契約の当事者
ードを使用できるようにするため,カードの発行
は,国際ブランドとあっせん業者(クレジットカ
を行うこと,そして,販売代金の立替払いをし,
ード会社)である。国際ブランドは,メンバー契
その立替払金の回収をすることである。
約を締結しているカード会社が決済サービスを円
⑵ 既払金支払請求について
滑に行うことができるよう体制を整えることを主
消費者が契約をしているのは,販売業者とイシ
(77)
な仕事としている
。チャージバックも国際ブ
(78)
ランドの業務となる
。メンバー契約の内容は,
国際ブランドが運営する決済システムを利用する
ュアーである。ここで,イシュアーは,販売業者
と契約関係には立っておらず,加盟店の調査や監
督は不可能である。そもそも,クレジットカード
権利を得る。ただし,メンバー契約をしているカ
取引システムにおいて,イシュアーに加盟店調
ード会社同士に契約関係はない(79)。
査・監督をさせることは想定されていない。よっ
この国際ブランドの運営する決済システムを利
て,イシュアーに加盟店調査監督義務を課すこと
用する権利を取得すると,以下のような取引が可
は不可能であるから,
行為者帰責型は妥当しない。
能となる(80)。カード会社が異なれば,消費者
しかし,上記(Ⅰ−ⅳ−3)−(3))の通りイシュア
(カード会員)は,異なるカード会社と加盟店契
ーは,立替払契約・クレジット取引からの利益
約をしている販売業者との販売契約において,ク
(しかも,リボルビング払い手数料は,イシュア
レジットカードを使用することはできない。ここ
ーのみが取得することが可能である)を得ている。
で,カード会社が,国際ブランドとメンバー契約
よって,受益者帰責型が妥当する。
を締結することにより,メンバーとなっているカ
次に,アクワイアラーについては,四当事者間
98
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
クレジット取引と五当事者間のクレジット取引に
ることとなる。よって,効率性の点で問題あり,
分けて考える。四当事者間クレジット取引におい
アクワイアラーや決済代行業者に責任を負担させ
て,アクワイアラーは,加盟店と契約している。
ることは,不当であると考えられる。
アクワイアラーは,加盟店の調査・監督が可能で
イシュアーに責任を負担させることの妥当性に
ある。そうすると,加盟店調査・監督義務を負担
ついて,イシュアーとアクワイアラーについては,
させることができる。よって,行為者帰責型が妥
チャージバックやコンプライアンスの利用が考え
当する。また,アクワイアラーもクレジット取引
られることが挙げられる。このチャージバック,
から利益(手数料)を得ている。そうすると,受
コンプライアンスにおいては,消費者よりも,イ
益者帰責型も妥当する。そして,五当事者間のク
シュアーの方が,自己の損害などの立証が容易で
レジット取引において,アクワイアラーは,決済
あり,効率性の観点からもイシュアーに責任を負
代行業者と包括加盟店契約を締結しているので加
担させる方がよい。
盟店を調査・監督することはできない。
五当事者間クレジット取引において,加盟店を
⑶ チャージバックとコンプライアンス
1 チャージバック(84)
調査・監督することが可能なのは決済代行業者で
チャージバックとは(85),国際ブランドの定義
ある。そうすると,決済代行業者には行為者帰責
によると,「イシュアーがアクワイアラーから取
型が妥当する。そして,決済代行業者は,手数料
引データの提供(プレゼントメント)を受けた後
という利益を得ており,受益者帰責型も妥当する。
で,これに異議を申し立てる行為」とされ,国内
では,アクワイアラーまたは決済代行業者に責
ルールの定義によると,「イシュアーがアクワイ
任を負わせるべきであると考えるべきなのであろ
アラーに対しそのカードの債権取扱上の瑕疵を理
うか(83)。しかし,消費者が,直接アクワイアラ
由として,当該債権を取り立てる行為」とされる。
ーや決済代行業者に対して(法的)責任追及をす
このチャージバックは,カード会員が異議を申し
ることは困難である。それは,アクワイアラーや
立てた場合に,イシュアーがアクワイアラーに対
決済代行業者は,消費者と契約関係にはなく,消
し取り立て代金の支払請求を不当として,既払金
費者からは,アクワイアラーや決済代行業者は見
の返還請求をする行為であるとされる(86)。
えにくい存在であるからである。特にアクワイア
ラーは,海外のクレジット会社であることが多い。
(87)
チャージバックの流れは,以下の通りである
。
消費者からのクレームがある場合で,そのクレー
もっとも,アクワイアラーや決済代行業者に対し
ムがチャージバックリーズン(国際ブランドによ
て,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
る定型化された,チャージバックのパターン)に
は可能である。しかし,アクワイアラーや決済代
該当する場合は,イシュアーからアクワイアラー
行業者の義務違反の立証を消費者がすることは困
にクレームの対象となる伝票の請求(検索請求・
難である。また,イシュアーとの契約関係は存続
リトリーバルリクエスト)をする。それに対し,
するため,イシュアーからの支払請求は可能とな
アクワイアラーは一定期間内にイシュアーの検索
る。さらに,アクワイアラーは,イシュアーから
請求にチャージバックを受入れるか回答する(フ
手数料を引いた額を,決済代行業者は,さらにア
ルフィルメント)。アクワイアラーからの回答が
クワイアラーからも手数料を引かれた額を受け取
受入拒否である場合,再度チャージバックを行う
っているにすぎない。そこで,アクワイアラーや
ことができる。2回目のチャージバックも受入れ
決済代行業者に消費者が支払った額の全額につい
拒否の場合,国際ブランドによるアービットレー
て返還請求を認めるとすると,アクワイアラーや
ション(裁定)が行われる。
決済代行業者は,手数料相当額についてはアクワ
アービットレーション(88) とは,「チャージバ
イアラーや決済代行業者が負担することとなり,
ック紛争にかかわるメンバーの責任の帰趨を確定
両者は,自分が得ている利益以上の損失を負担す
するために,国際ブランド組織がとる裁定手
割賦販売取引における既払金返還法理
(89)
続」
と定義される。
アービットレーションの手続きは,以下の通り
99
チャージバックは,イシュアーがイニシアチブ
をとって行うものであり,コンプライアンスはイ
である。メンバーは,国際ブランドへの提訴予定
シュアーのみが申立てることができる。そうする
の30日以上前に相手方に事前通知をしなければな
と,イシュアーに責任を負担させた方がよい。
らない。その後,メンバーは,最終チャージバッ
このような,チャージバックの制度は,クレジ
クを受けた日から一定の期間(75日・90日)以内
ット取引に対する消費者の信頼性を高めるものと
に国際ブランドに提訴する。国際ブランドは,イ
なろう。それは,クレジット取引において,トラ
シュアーとアクワイアラーの主張を聞いたうえ
ブルが生じた場合に迅速に問題を解決することが
で,総合的に判断する。
できるからである。そして,チャージバックが活
チャージバックにおいては,以下のような原則
発に活用されることにより,アクワイアラーもさ
があるとされる(90)。当事者平等,権利尊重の原
らに加盟店に対する調査・監督を慎重に行い,不
則,証拠主義の原則,手続遵守の原則,発生件数
適切な行為をするような販売業者を被害が生じる
抑制の原則,があるとされる。
前に排除することもできるからである。
2 コンプライアンス(91)
コンプライアンスとは,「あるメンバーが国際
ⅳ クレジット取引:ローン提携販売型
ブランドの定めるルールに違反した結果,他のメ
ンバーが金銭的損失を被り(または被る恐れがあ
り)争いが生じたがチャージバックによってこれ
を解決する方法がない場合,解決を国際ブランド
に求める手続き」であるとされる。コンプライア
ンスは,チャージバックと平行して行われる。コ
ンプライアンスの手続きは,事前通告義務につい
ては,アービットレーションと同様であり,コン
プライアンスの提訴期間は,セントラルサイトの
1)方式
処理日または違反事実発見日から一定の期間
あっせん業者(金融機関)が,販売業者と包括
(180日・225日)以内に国際ブランドに提訴する
的な保証契約を締結する。販売業者と消費者との
ことを要する。
販売契約において,消費者は,あっせん業者から
3 検討
融資を受け(金銭消費貸借契約),購入代金を弁
チャージバックについて,法的に考えるとする
済し,その後,あっせん業者に対して,借入金の
と,個別クレジット契約の合意解除と考えること
返済を行う。なお,近年,ローン提携販売の利用
ができる。チャージバックは,販売契約の効力否
は,ごくわずかである(92)。
定と連動して行われるわけではなく,アクワイア
2)検討
ラーから,チャージバックの受け入れが拒否され
行為者帰責型について。ローン提携販売型にお
る場合もある。そうすると,個別のクレジット契
いては,あっせん業者と販売業者が,保証契約を
約を合意により解除しているのと同様であり,個
締結していることから,あっせん業者は,販売業
別クレジット契約の合意解除と解することができ
者を監督することが可能である。よって,加盟店
るであろう。
を調査・監督する義務を課したとしても不当とは
チャージバック・コンプライアンスという手続
きの存在は,イシュアーが,アクワイアラーから
送金した金銭を取り戻すための手段が用意されて
いるということを意味する。
いえないので,行為者帰責型の帰責原理が妥当す
る。
受益者帰責型について。消費者とあっせん業者
は,金銭消費貸借契約を締結しており,あっせん
100
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
業者は,利息という利益も享受している。さらに,
アンスなど国際ブランドの定めた被害回復手段に
消費者との金銭消費貸借契約について,販売業者
より,自己が負担した損失について回復をするこ
と保証契約を締結していることから,あっせん業
とは容易であり,それに対し,消費者が,アクワ
者は,消費者の支払いが滞った場合でも代金の回
イアラーまたは決済代行業者に対して責任を追及
収が可能である。よって,受益者帰責型も妥当す
することは困難である。
る。
効率性について,あっせん業者は,販売業者よ
Ⅲ おわりに
りも経済的に優位な地位に立っており,情報力な
どからしてもあっせん業者は,リスクを正確に評
(93)
価することができる
。よって,あっせん業者
に責任を負担させた方が効率的である。
以上,クレジット取引における既払金の返還請
求について検討をしてきたが,以下に本稿のまと
めを記しておきたい。
① クレジット取引において,消費者は,あっせ
ⅴ 小括
以上,各論において,クレジット取引の様々な
類型,すなわち,個別信用購入あっせん型,包括
ん業者と立替払契約を締結しているが,この立
替払契約は,販売契約の存在を前提としている。
よって,販売契約が不成立・無効・取消し・解
信用購入あっせん型,ローン提携販売型,包括信
除された場合,消費者は,立替払契約を解除す
用購入あっせん型については,さらに,三当事者
ることができる。解除された結果の原状回復と
間クレジット取引(オン・アス型),四当事者間
して,あっせん業者は,消費者に既払金を返還
クレジット取引(ノン・オン・アス型),五当事
者間クレジット取引(包括加盟型)に分けた上で
検討をした。
個別信用購入あっせん型,包括信用購入あっせ
しなければならない。
② 契約結合の考え方によると,三当事者間のク
レジット取引にいついて,あっせん業者に責任
を負担させることについては,説明をすること
ん型の三当事者間クレジット取引,ローン提携販
ができるが,四当事者以上のクレジット取引に
売型については,あっせん業者に責任を負わせる
ついては,さらなる論拠が必要となり,民法に
べきである。それは,以下の理由による。あっせ
おける帰責原理について分析することにより,
ん業者は,販売業者に対する調査・監督が可能で
そして,効率性について分析することにより,
あり,販売業者・消費者の双方からそれぞれ手数
あっせん業者に責任を負担させることを正当化
料を得ている。さらに,あっせん業者は,情報
できる。
力・交渉力の点でも消費者に優っており,あっせ
②−ⅰ
民法における帰責原理は,行為者の行
ん業者に対しても経済的に優位な地位に立ってい
為に着目した帰責原理としての行為者帰責
る。よって,既払金の返還請求について,あっせ
型,利益を得ているかどうかに着目した受益
ん業者に責任を負担させることができる。
者帰責型という帰責原理がある。もっとも,
包括信用購入あっせん型の四当事者間クレジッ
ト取引(ノン・オン・アス型),五当事者間クレ
受益者帰責型は,補充的な性格を有している。
②−ⅱ
効率性については,あっせん業者が情
ジット取引(包括加盟型)については,イシュア
報力・交渉力の点において,消費者や販売業
ーに対して,既払金の返還について責任を負わせ
者よりも優位な地位にあると考えられるた
るべきである。それは,以下の理由による。イシ
め,被害防止の観点から,そして,被害救済
ュアーは,クレジット取引において,消費者から
の観点から,あっせん業者に責任を負担させ
の手数料を得ている。イシュアーは,加盟店を調
た方が効率的である。
査・監督することはできないのではあるが,イシ
③ 個別信用購入あっせん型,包括信用購入あっ
ュアーは,チャージバック,さらに,コンプライ
せん型の三当事者間のクレジット取引,ローン
割賦販売取引における既払金返還法理
101
提携販売型について,上記の帰責原理により分
引システムにおいては,チャージバックやコ
析すると,あっせん業者は,販売業者と加盟店
ンプライアンスなどの制度が用意されてお
契約を締結しおり,加盟店に対する調査・監督
り,イシュアーは,これらの制度を活用する
が容易であることから,行為者帰責型が妥当し,
ことにより,送金した金額について返還を受
あっせん業者は,消費者と販売業者の両方から
けることができる。よって,消費者は,販売
手数料を得ていることから受益者帰責型も妥当
契約が不成立・無効・取消し・解除された場
する。そして,あっせん業者の情報力・交渉力
合,イシュアーとの個別のクレジット契約を
について考えるならば,あっせん業者に責任を
解除することができ,
解除された結果として,
負担させる方が効率的である。よって,既払金
イシュアーは,消費者に既払金の返還をしな
ければならない。
の返還について,あっせん業者に責任を負担さ
せるべきである。
④ 包括信用購入あっせん型の四当事者間クレジ
本稿において,クレジット取引における既払金
返還法理について,帰責原理の構造に着目して,
ット取引,五当事者間クレジット取引について
あっせん業者が,既払金の返還請求について責任
は,イシュアーに責任を負担させる,すなわち,
を負担するべきであるとの検討を行った。「帰責
イシュアーから消費者に既払金を返還するべき
構造の分析」と大風呂敷を広げただけでなく,そ
であり,この結論を上述の帰責原理により分析
の検討や分析は,不十分との批判は,免れえなか
すると以下の通りとなる。
もしれない。
④−ⅰ
イシュアーは,加盟店を調査・監督す
とはいえ,クレジット取引については,電子マ
ることを業務内容とはしていないため,行為
ネーなどの問題とあいまって大きな問題となって
者帰責型は妥当しない。ただし,イシュアー
きている。本稿における,議論が,今後のクレジ
は,消費者から手数料という利益を得ている。
ット取引の健全な発展や,クレジット取引に関す
よって,受益者帰責型は妥当する。
る問題解決について,たとえ小さなものであった
④−ⅱ
アクワイアラーや決済代行業者は,加
盟店を調査・監督することができるので,行
としても,一筋の光をあてるものとなれば幸いで
ある。
為者帰責型が妥当する。そして,手数料を得
ていることから受益者帰責型も妥当する。し
かし,消費者が,アクワイアラーや決済代行
業者に対して責任を追及することは,非常に
困難である。そして,アクワイアラーや決済
代行業者から,既払金相当額の賠償を受けた
としても,イシュアーとの契約が存続するた
め,消費者は,イシュアーからの支払い請求
に応じなければならない。さらに,アクワイ
アラーや決済代行業者は,消費者が支払う金
銭の全額を受け取っているのではないため,
アクワイアラーや決済代行業者に損害賠償と
して,消費者の支出額の全額の賠償をさせる
とすると,
アクワイアラーや決済代行業者は,
自身が得ている利益よりも多くの損失を被る
ことになる。
④−ⅲ 国際ブランドの運営するクレジット取
注
(1) クーリングオフについては,改正前割賦販売法
にも規定があった。しかし,2008年の改正によ
り,個別信用購入あっせんについてのみ残して,
その他の類型については,クーリングオフの規
定は削除されることとなった。その理由は,特
定商取引法にクーリングオフの規定が設けられ
て以降,割賦販売法のクーリングオフ規定が利
用されることが実質的になくなったからである
とされている(日本弁護士連合会編『消費者法
講義(第3版)』(日本評論社・2009年)199頁
[池本誠司執筆]
)
。
(2) 抗弁権の接続規定は,包括信用購入あっせんに
ついては,割賦販売法30条の4に,個別信用購
入あっせんについては,割賦販売法35条の3の
19に,ローン提携販売については,割賦販売法
29条の4に規定されている。
(3) 判例については,本文に掲げたもの以外にも存
在する。それらについては,小林和子「個品割
賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者と
102
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
の間の売買契約が公序良俗に反し無効であるこ
とにより,購入者とあっせん業者との間の立替
払契約が無効となるか(最判平23・10・25)」
現代消費者法16号(2012年)131−133頁に詳し
い。紙幅の都合上,その判断基準について代表
的なもののみを,そして,その法律構成のみを
本文には挙げている。
(4) 本判決は,抗弁権の接続について,すなわち,
未払い金の支払い拒絶についての判決ではある
が,以後の判決に大きな影響を与えているので,
ここで挙げておく。
(5) 次の最高裁平成23年10月25日判決の原審。
(6) この学説に属するものは,清水巌「クレジット
契約と消費者の抗弁権―個品割賦購入あっせん
を中心として」遠藤浩=林良平=水本浩監修
『現代契約法体系4巻』(有斐閣・1985年)275−
276頁,清水誠「割賦販売」加藤一郎=竹内昭
夫編『消費者法講座 第5巻』(日本評論社・
1985年)71−72頁,植木哲「抗弁権対抗の理論」
同『消費者信用法の研究』所収(日本評論社
1987年・初出1983年152−153頁)がある。
(7) 植木・前掲注(6)「抗弁権対抗の理論」152−
153頁)
。
(8) 清水誠・前掲注(6)71−72頁。
(9) 清水巌・前掲注(6)275−276頁。
(10)この学説に属するものは,北川善太郎「消費者
金融の問題点」同『消費者法のシステム』(岩
波書店・1980年・初出1977年)141−142頁があ
る。
(11)この学説に属するものは,執行秀幸「第三者与
信型消費者取引における提携関係の法的意義
(上)(下)」ジュリスト878号94−99頁,880号
134−140頁(1987年,以下では,「第三者与信型
消費者取引における提携関係の法的意義(上)
(下)」として引用する),新美育文「ローン提
携取引についての一考察(下)」ジュリスト897
号(1987年)101−105頁がある。
(12)執行・前掲注(11)「第三者与信型消費者取引
における提携関係の法的意義(上)」96頁。
(13)執行・前掲注(11)「第三者与信型消費者取引
における提携関係の法的意義(上)
」98−99頁。
(14)執行・前掲注(11)「第三者与信型消費者取引
における提携関係の法的意義(下)」134−136
頁。
(15)新美・前掲注(11)101頁。
(16)新美・前掲注(11)103頁。
(17)この学説に属するものは,神田秀樹「ローン提
携販売」加藤一郎=竹内昭夫編『消費者法講座
第5巻』(日本評論社・1985年)84−86頁,経済
産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年
版 割 賦 販 売 法 の 解 説 』( 日 本 ク レ ジ ッ ト 協
会・2009年)149−150,222−223頁がある。
(18)神田・前掲注(17)84頁。
(19)神田・前掲注(17)85頁。
(20)神田・前掲注(17)85−86頁。
(21)経済産業省政策局取引信用課編・前掲注(17)
149,222−223頁
(22)この学説に属するものは,北川善太郎「約款と
契約法」 NBL242号(1981年)84頁,同『債権
各論(第3版)』(有斐閣・2003年)129−130頁
(以下では,『債権各論』として引用する)があ
る。
(23)北川・前掲注(22)
『債権各論』129−130頁。
(24)この学説に属するものは,千葉恵美子「割賦販
売法上の抗弁権接続規定と民法」民商法雑誌93
巻臨時増刊号(2)(創刊50周年記念論文Ⅱ・
1986年)291−293頁(以下では,「割賦販売法上
の抗弁権の接続」として引用する),同「『多数
当事者の取引関係』を見る視点―契約構造の法
的評価のための新たな枠組み―」伊藤進=國井
和郎=堀龍児=新美育文編『現代取引法の基礎
的課題―椿寿夫先生古希記念』(有斐閣・1999
年)175−178頁(以下では,「『多数当事者の取
引関係』
」として引用する)がある。
(25)千葉・前掲注(24)「『多数当事者の取引関係』」
175頁。
(26)千葉・前掲注(24)「割賦販売法上の抗弁権の
接続」292−293頁,同・前掲注(24)「『多数当
事者の取引関係』
」176頁。
(27)千葉・前掲注(24)「『多数当事者の取引関係』」
178頁。
(28)千葉・前掲注(24)「割賦販売法上の抗弁権の
接続」287頁。
(29)この学説に属するものは,長尾治助『消費者信
用法の形成と課題』(商事法務研究会・1984年)
170−177頁がある。
(30)長尾・前掲注(29)150頁。
(31)長尾・前掲注(29)171−176頁。
(32)この学説に属するものは,松本恒雄「クレジッ
ト契約と消費者保護」ジュリスト979号(1991
年)20,22頁がある。
(33)松本・前掲注(32)22頁。
(34)松本・前掲注(32)20頁。
(35)この学説に属するものは,坂東俊矢「割賦販売
法と『抗弁権の対抗』―不可分一体説から加盟
店調査監督義務へ」法学教室319号(2007年)
149頁,日本弁護士連合会編・前掲注(1)207
‐208頁がある。
(36)坂東・前掲注(35)149頁,日本弁護士連合会
編・前掲注(1)207−208頁。
(37)坂東・前掲注(35)149頁。
(38)この学説に属するものは,山田誠一「複合契約
取引についての覚書(2)完」NBL486号(1991
年)52−59頁がある。
(39)山田・前掲注(38)52頁。
(40)山田・前掲注(38)55−56頁。
(41)山田・前掲注(38)56−57頁。
(42)山田・前掲注(38)55頁。
割賦販売取引における既払金返還法理
(43)山田・前掲注(38)56頁。
(44)山田・前掲注(38)57頁。
(45)この学説に属するものは,宮本健蔵「クレジッ
ト契約と民法理論―いわゆる抗弁の接続を中心
と し て ― 」 法 学 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 65号
(1998年)105−126頁がある。
(46)宮本・前掲注(45)106頁。
(47)宮本・前掲注(45)107−126頁。
(48)この学説に属するものは,小池邦吉「抗弁権の
接続の民法論的考察」小林一俊=岡孝=高須順
一編『債権法の近未来像―下森定先生傘寿記念
論文集―』(酒井書店・2010年)480−483頁があ
る。
(49)小池・前掲注(48)481頁。
(50)小池・前掲注(48)482頁。
(51)小池・前掲注(48)482−483頁。
(52)この学説は,加賀山茂「第三者のためにする契
約の位置づけ―典型契約と異なり,契約総論に
規定されている理由は何か?―」明治学院大学
法科大学院ローレビュー17号(2012年)1−14
頁,同「第三者のためにする契約の機能―債務
者のイニシアティブによる公平な三面関係の創
設機能―」『高森八四郎先生古稀記念論文』掲
載予定の加賀山茂教授の第三者のためにする契
約についての理論とクレジット契約について考
えると本文のようになるとの加賀山教授からの
指摘による。
(53)加賀山・前掲注(52)「第三者のためにする契
約の位置づけ」4−5,8頁。なお,加賀山教
授は,「クレジット契約の典型契約としての位
置づけ―クレジット契約を『割賦販売の基本ユ
ニット』(売買と準消費貸借の結合)の展開過
程として位置づける」国民生活研究48巻3号
(2009年)27−43頁においては,クレジット契約
について債権譲渡構成を採用されていた。本文
に示した第三者のためにする契約+債権譲渡構
成については,以前の債権譲渡構成に内在する
問題点(通知と承諾をどのように考えるのか,
抗弁権の切断条項が挿入されている場合はどう
するのか)を発展的に解消する理論構成と考え
ることができるであろう。
(54)この学説に属するものは,半田吉信「ローン提
携販売と抗弁権の切断条項(下)」判例タイム
ズ725号(1990年)27−28頁,鹿野菜穂子「デー
ト商法による売買契約の無効とクレジット会社
に対する既払金の返還請求」金融・商事判例
1336号(2010年)161頁,島川勝=坂東俊矢編
『判例から学ぶ消費者法』(民事法研究会・2011
年)115−116頁[谷本圭子執筆]がある。
(55)半田・前掲注(54)27−28頁。
(56)半田・前掲注(54)28頁。
(57)谷本・前掲注(54)116頁。
(58)神田・前掲注(17)85−86頁。
(59)クレジット契約について,コーズ論に依拠する
103
ものは,千葉・前掲注(24)「『多数当事者の取
引関係』」176−178,182頁などがある。そして,
千葉・前掲注(24)「割賦販売法上の抗弁権の
接続」287頁は,明示的にコーズによることを
明示しているわけではないが,コーズに依拠し
ていると千葉教授は説明される(千葉・前掲注
(24)「『多数当事者の取引関係』」182頁)。小
粥・後掲注(61)136頁以下は,フランスにお
ける多くの学説が,クレジット取引について,
コーズ論に依拠していることを指摘している。
(60)行為基礎論に依拠するものは,浜上則雄「いわ
ゆ る ク レ ジ ッ ト 販 売 と 消 費 者 保 護 ( 3)」
NBL243号(1981年)20頁がある。
(61)コーズ論については,山口俊夫『フランス債権
法』(東京大学出版会・1986年)45−52頁,小粥
太郎「フランス契約法におけるコーズの理論」
早稲田法学70巻3号(1995年)1−190頁大村敦
志『典型契約と性質決定』(有斐閣・1997年)
173−185頁などを参照。
(62)行為基礎論については, K・ラーレンツ(勝本
正晃校閲・神田博司=吉田豊訳)『行為基礎と
契約の履行』(中央大学出版部・1969年),五十
嵐清『契約と事情変更』(有斐閣・1969年)72
−141頁,潮見佳男『債権総論Ⅰ(第2版)』
(信山社・2003年)200−204頁(以下では,『債
権総論Ⅰ』として引用)などを参照。
(63)チャージバックについては,後述(Ⅱ−ⅲ−2)
−
(3)
−1)する。
(64)千葉・前掲注(24)「『多数当事者の取引関係』」
176−178,182頁。
(65)「契約の拘束力」を帰責原理とすることについ
ては,例えば,山本敬三「契約の拘束力と契約
責任論の展開」ジュリスト1318号(2006年)87
−102頁などがある。
(66)小 野 秀 誠 『 危 険 負 担 の 研 究 』( 日 本 評 論 社 ・
1995年)384−385頁。
(67)学説等については,山本敬三『民法講義Ⅳ−1』
(有斐閣・2005年)129−131頁などを参照。
(68)窪田充見『不法行為法』(有斐閣・2007年)184
−185頁,潮見佳男『不法行為法Ⅱ(第2版)』
(信山社・2011年)10−12頁などを参照。
(69)議論の詳細については,森田宏樹「我が国にお
ける履行補助者責任論の批判的検討―いわゆる
履行補助者責任の再検討・その三」『契約責任
の帰責構造』(有斐閣・2002年・初出1997年)
145−184頁,潮見・前掲注(62)『債権総論Ⅰ』
286−296頁などを参照
(70)森田・前掲注(69)164−170頁,潮見・前掲注(62)
『債権総論Ⅰ』294−296頁。
(71)なお,潮見佳男教授は,この場合は,債務者の
自身の故意・過失の問題であるとしている(潮
見・前掲注(62)『債権総論Ⅰ』296頁)。この
潮見教授の見解によると,履行補助者の責任も
債務者の行為に着目している点で,行為者帰責
104
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第18号
型に分類されることになろう。
(72)執行・前掲注(11)「第三者与信型消費者取引
における提携関係の法的意義(上)
」99頁。
(73)黒木理恵「割賦購入あっせんをめぐる裁判とク
レジット会社の加盟店管理調査義務」法学教室
320号(2007年)172−173頁。
(74)経済産業省商務情報政策局信用取引信用課編・
前掲注(17)45頁。
(75)経済産業省商務情報政策局信用取引信用課編・
前掲注(17)149頁。
(76)経済産業省商務情報政策局信用取引信用課編・
前掲注(17)150頁。
(77)山本正行「国際ブランドの正体は“管理組合”」
月刊消費者信用2007年11月号47頁。
(78)山本正行「クレジットカード決済の仕組み」国
民生活2012年11月号( http://www.kokusen.go.jp/
wko/pdf/wko−201211_01.pdf)1−2頁(以下で
は,「クレジットカード決済の仕組み」として
引用する)
。
(79)山本正行・前掲注(78)「クレジットカード決
済の仕組み」3頁。
(80)山本正行「国際カード決済の基本,インターチ
ェンジの仕組み」月刊消費者信用2007年12月号
54−56頁。
(81)山本正行・前掲注(80)「クレジットカード決
済の仕組み」2頁。
(82)山本正行・前掲注(80)「クレジットカード決
済の仕組み」2頁。
(83)五当事者間クレジット取引について,決済代行
業者に責任を負担させるべきであるとするもの
に,小田典靖「クレジットカード決済に関する
諸問題」国民生活2012年11月号( http://www.
kokusen.go.jp/wko/pdf/wko−201211_02.pdf)7−
8頁がある。
(84)チャージバックについては,チャージバックに
ついては,末藤高義「チャージバックを考える
(1)~(10)」月刊消費者信用15巻1997年12月号
70−72頁,1998年1月号82−84頁,2月号78−80
頁,3月号66−68頁,4月号72−74頁,5月号74
−76頁,7月号94−96頁,8月号74−75頁,10月
号66−68頁,11月号68−70頁(以下では,「チャ
ージバックを考える(1)~(10)」として引用す
る)
,同「チャージバック(その1)
~
(その3)
」
月刊消費者信用2001年4月号74−76頁,5月号
78−80頁,6月号66−68頁(以下では,「チャー
ジバック(その1)~(その3)」として引用す
る),角田真理子「クレジットカード取引をめ
ぐる消費者紛争とその処理に関する考察~海外
取引とチャージバック制度を中心に~」国民生
活研究39巻1号(1999年)1−14頁,山本正行
「カードの“安心感”を担保するチャージバッ
ク」月刊消費者信用2008年3月号52−56頁(以
下では,「カードの“安心感”を担保するチャ
ージバック」として引用する),名波大樹「チ
ャ ー ジ バ ッ ク と は 」 消 費 者 法 ニ ュ ー ス 78号
(2009年)122−124頁を参照。なお,チャージバ
ックと銀行取引における組戻しとの類似性につ
いては,加賀山茂「振込と組戻しの民法理論—
『第三者のためにする契約』による振込の基礎
理論の構築—」明治学院大学法科大学院ローレ
ビュー18号掲載予定が,指摘している。
(85)末藤・前掲注(84)「チャージバックを考える
(1)
」70頁。
(86)末藤・前掲注(84)
「チャージバック(その2)
」
78頁。
(87)末藤・前掲注(84)
「チャージバック(その2)
」
78頁,角田・前掲注(84)7頁,山本正行・前
掲注(84)「カードの“安心感”を担保するチ
ャージバック」54頁,名波・前掲注(84)123
頁。
(88)末藤・前掲注(84)「チャージバックを考える
(5)」72頁,同「チャージバック(その2)」80
頁,角田・前掲注(84)7頁,山本正行・前掲
注(84)「カードの“安心感”を担保するチャ
ージバック」54−55頁,名波・前掲注(84)123
頁。
(89)末藤・前掲注(84)「チャージバックを考える
(5)
」72頁。
(90)末藤・前掲注(84)
「チャージバック(その2)
」
79頁。
(91)末藤・前掲注(84)「チャージバックを考える
(5)」73頁,同「チャージバック(その2)」80
頁,角田・前掲注(84)7頁,名波・前掲注(84)
123頁。
(92)日本弁護士連合会編・前掲注(1)192頁。
(93)神田・前掲注(17)85頁。
追記
本稿脱稿後,校正の段階で,岡本裕樹「複合契約
取引論の現状と可能性」松浦好治=松川正毅=千葉
恵美子編『市民法の新たな挑戦 加賀山茂先生還暦
記念』(信山社・2013年)523−547頁に接した。岡本
准教授は,複合契約の議論について分析した後,本
稿で扱ったクレジット契約を含め複合契約について
「意思のない契約の拘束力,債務者に債務不履行のな
い法定解除」(546頁)については,立法による解決
によるべきであるとし,現段階においては,信義則
の活用によるしかないとされている。
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