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新刊 紹介
隔 W・H・リッカー“地方政治の研究 ク 元来、地方行政の実態研究領域が主として地方的福祉にあるい 対する自治意識の実態調査が、行なわれていることに負うている。 かわの政治的構造内の実態的研究にズわえて、住民の地方政治に かんつく、国会議員と地方議員のむすびつきを中心とした議員の れている。これは、つとに行なわれてきた地方議員の政治活動な ここ数年、地方政治の実態調査がきわめて、さかんにおこなわ 質であった﹁党よりも人を﹂とか、﹁イデオロギーよりも地域の たと云っても誇張ではあるまい。つまり、従来この種の選挙の特 ろ、選挙自体が、政党性をはらむたたかいとしておこなわれ出し らわれた地方議員の所属政党化の傾向であろう。これでは、むし 然と認識するに至ったのは、.三四年四月の統一地方選挙結果にあ ればならないが、なんといっても、地方自治における政治性を判 治の政治的問題点を例証することは課題ではないので、省かなけ 新刊紹介 は、都市問題に重点をおくものとして研究、活動されていたもの 代表として﹂とい5スローガンのもとに無所属候補者←当選が称 閑9旨山oB国o岳ρぎP一㊤呂娼O°一N①゜ が、道州制論にっながる府県区域論が提示され、官選長官制が予 揚されたものが、今回は、中央政党の党籍もしくは、シンパ的立 也 想されるや、ようやく、地方自治の曲りかどという政治的意識に 哲 場で出馬←当選したものが、結果的に前回より多くなったわけで 田 ミ已冨§出゜田冨昌。.月冨ω葺住矯oh卜08一勺9三8、.” Hリッカー”地方政治の研究9 ● 立ったひろい問題が意識されるようになった。ここでは、地方自 沖 178 (404) W W・H・リッカー“地方政治の研究 て、かかる傾向を認めえても政党化現象が、中央政党の、つまり 今後もこめ傾向が、ざん増されるものとみられる。しかし、概じ ることは正しくはないが、政党への不信感に影響されない限り、 細く異り、さらに、必ずしも、都市部、田舎部において同一とみ ある。もちろん、その傾向は、地方選挙の各種および各レベルで 地方政治を視点として、広汎な地方自治の属性について、これ な視点など例をあげればいとまがない。 連をもっ、より政治的な、申央に対する協力か抵抗という対比的 してとらえることもできるし、また、いまや、これらと密接に関 住民福祉を視点とした意識、地方的利益を視点としたもの等々と この意味での地方自治の特質を、具体的な問題提起としては、 だたんに議員に焦点をむけられるばかりでなく、進んで地方自治 であろう。こうした事態にあっては、地方政治の実態調査が、た う的とすら判断されやすい酒実は、問題の中核が、フィールドに 少なために、極めて地味な調査態度が要求される。一見、末しょ 数少い。しかも、フィールドにおける調査は、対象スケールが狭 ァライエティと地域的特異性の故か、自治意識の実態的分析は、 も も 上からのアッピールによるものであり︵申央統制︶、下から、地方 まで、理論的には多大の究明が試みられてきた。しかし、そのヴ ブ イ ロ ルド ロロカル ニロド 政治のイデオロギー的課題を、地元住民の地方的必要によって、 の領域にあって、住民が地方選挙の政党化現象に如何に対応して 秘められている。それだけに、今後、.追究されなければならない にじみ出したものでないことは、再老されなければならない問題 ゆくかということを究明しようとする、つまり、地方政治意識の れなければならないところである。 方法論的問題点は数多いし、ひろく内外の調査技術が比較研究さ にあたって老慮しておかなければならないことは11中央統制の ここに紹介するリッカi ︵♂く一一=βoヨ 国゜ ロ一犀O﹁︶ は、アメリ 実態的把握が必要となるものであろう。ただとくにこの種の分析 傾向が露呈されているからこそー地方自治の特質を通じての、 設定にあたって、地方自治体を国家権力との関連ないし対応に て、種々経験した事例にもとづき、調査論を基本的に解説したも する学徒である。本書は、かれが、同大学の地方政治調査におい カ、ローレンス大学において、地方政治の調査及び調査論を研究 おいて把えることとするならば自ら、かかる実態的把握も中央政 のである。豊富な経験の例証は、今まであまりにもアカデミック 中央政治に対する地方政治の位置の設定である。 つまり、この 治における政治意識と同列的に考えられない特質がある。 (405) 179 査経験にきわめて影響をうけ、方法を借用していることを老慮し る。なお、キi︵<°O°国①団︶、ハード︵≧①図鋤目島①﹃出①鋤匡︶の調 立に近すこうとする多くのはげましを、われわれに与えてくれ な例証を通じてのうったえに過ぎないと認められても調査法の確 ークなこの種の調査方法を求めようとする努力はただたんに豊富 的、社会学的調査方法を借用しつつもつねに、なにものかユニ ている。かれが文中しばしばくりかえすところであるか、、恥理学 る、偏狭な政争をあげて、わが身につまされる心情を回帰せしめ たことを素直に反省せしめるし、また地方政治のレベルにおけ なものではないとして、末しよう的な事例を学界で等閑視してい いう。ここでは、国家レベルと地方レベルの間の関連をといたも を含めてーの政治的ビへービアーを認識しなければならないと 地方レベルでの政治家ーひろく公選を経なければならないもの ど遠い現実では、まつ、政治学研究にあたっての基礎訓練として、 調査として重要性をといている。即ち住民と国会議員の距離が峨 本的教育であるというごとを想起せしめる論理で、政治の基礎的 は、・あたかも、地方自治は、住民が国の政治に参与するための基 究価値をあげ、さらに、とくに地方政治についての実態的把握 かれは、まつ政治学研究の技術的手段としてのフィールドの研 ︽政治学における実態調査と地方政治の研究︾ おきたい。 ヘ ヘ ヘ へ く、むしろ国家政策が、地方政治団体の代表と、上下両院実力者 日本の政治的状況と相異するが、アメリカでは中央統制が弱 ので研究手段としての技術論の位置をのべている。 なければならない。本書は、以下に列挙する各章と、附録の二つ . の 部 後 者 で は 、 ア メ レ政 ベ治 ルでは 分 に わ か れ る か 、 リ カ 地 方ス 政ア 治ロ ︵ト州 ない︶に直接関係ある諸文献を列挙し、その簡単な解説と関連部 ・政党代表者大会の妥協の所産であるというほどに、地方政治家 分の表示を附してあるし、そのほか、各州ごとの、地方別による 各種選挙データーを記載した統計書及びこれにもとついて分析し が強固であるから、地方政治は、政治一般の中核的位置に属して いる。従って地方政治の個別的な伝統と機構、技術、人事のデー たビブリオグラフィーを数多くあげて、便宜にあてている。 ターを広く収集しておかなければならない。ところが、嘗て、全米 180 (406) なお、本書には政治的状況の例証をあげているが、紙数の関係 にわたって地方政治の状況﹂を.綿密に研究するための群細な資料 r で紹介をはぶかねばならない。また私自身の経験上、必要とおも われるところをのみ、重点的に紹介したことを、おことわりして 、 W・H・リッカー馳方政治の研究 は完成していないのである。この状況収集と分析は、これまで新 理解のためのの対象住民も多数となりすぎる。狭くて高い人口密 である。’広大なる単位はそれだけ政治構造も複雑であるし、問題 地方政冶に基く利害関係が大きく、深い関心を示←ているがその うした政治意識の停滞地域は、政治的ビへービァーの分析は避け 選、官更の留任くりかえし、党内一派の独占地域は数多いが、こ びおこす地区ほど、近づきやすいものである。政治家の無競争当 である。次に、政治状況に活気があって、実態分析の興味をよ 度の単位は、選挙民の政治組織化も進んでいるから、操作に簡便 聞にまったたものではあったが、これでは、事実の時間的短命故 に地道な報道がなされず、ただ局面的にすぎない。同様に地方政 情報は客観性にかけている。これらの観点から学徒による実態調 るほうがよい。 治の強力な圧力団体の商工会議所、労組、婦人参政連盟系では、 査は、不可欠のものとなってている。地方政治の理解のために 一般梅造の概略的な把握。従来の投票状況の資料収集、地域的に る。ωでは、次の諸条件が、手がかりとなろう。共同体の政治的 ㍗共同体内での政治的バランスや客観的視点に特に注意を要す す影響の精査を行い政治的言動による過大な、誤伝を極力さけ える影響、政治的リーダーシップが、他のリーダーシップに及ぼ 過など。ωではとくに、政治的決定と、それが市民生活領域に与 一般構造を視角としたもの。函投票状況。⑧選挙の特殊事例の経 基本的に地方政治調査は、次の三種に大別できる。ω共同体の きである。 る。特殊な問題として、調査地の状況と設問に関連をもたせるぺ 分析の技術上、次は、設問、被調査者、記録等の資料収集であ は、政治的取引、政略計画、指導などのなまなましい事実の収集 と、それに立った政治構造の綜合的な動態的把握がアプローチと 云えよう。 ︽目的の設定ー被調査地と分析︾ 被調査地の決定にあたり、場所的時間的考慮とその調査地の予 ︵ラポール︶の可能性が、抽出条件と関連して望ましい。ただ共 同体の状況の熟知は、時により不利ともなる。けだし、まま政治家 は、外部者あるいは、未知のものに、政治状況を発表し〒たがるも のだからである。調査地は、県、国会選挙区、州議会選挙区、 町村市区、特別行政区域などを一単位として抽出してもよいが、 調査事項に関連した政治家全員に会見しうるほどの広さとすべき (407) 181 備知識が必須の抽出条件である。調査者と相手方の心のふれあい W・H・リッカー奄地方政治の研究 W・H・リッカー奏地方政治の研究 特定政党あるいは派閥にかたよる投票の傾向ー特定団体の得票 の一貫性と固定票の移動の有無iとその理由。職能的組識票が 識と目的にそう論理的なすじ道を有しているべきで、具体的でな ければならない。設問要旨の焦点ぼけは政治家に単なる愛郷心の あろう。一般的に、年配者に共同体の伝統を質問することはきわ るが、そのほか、新聞記者、圧力団体事務局員にも会見する要が 治団体所属の政治家に情報を求めることが基本的な調査方針とな 体責任者との会見は、必須条件である。投票状況の調査では、政 特定の選挙運動を調査するばあい、候補者、選挙参謀、所属団 ︽被調査者︾ れぽならない。 以上の三点はいつれも政治家と住民の両面からの精査をしなけ 足で稼ぐ資料を素材とする。 グループが、選挙に与える効果。⑧は、主として、既成資料より 動でとくに顕著となった運動方式。人種的、宗教的、地域経済者 る、潜在的な感情があるものである。この支配はキンゼイ調査や ていても、常に、被調査者は、調査者に心理的な支配をうけてい マートンの所説にしたがえば、最良のラポールがかもし出され ︽会見仁あたって︾ 挙結果。枡候補者の個人的問題︵政歴を中心としたもの︶。 表型における薦出母体及び支持組織。⑤他候補者との対立。㊥選 資金。⇔共同体におけるその時点の政治的課題と公約。㈹職能代 の組織化について。㈲立候補のアッピール及び宣伝方法。09選挙 設問の要旨を列挙すると、ω選挙運動にさいしての候補者配下 べきであろう。 であり、素材となるに足る経験論をひき出すζとに期待をよせる る。しかし、被調査者から学説的な解答を期待することは不可能 説教をとうとうとひれきさせるだけであり、科学性にとぼしくな めて有効であるが、注意すべきことは、応々にして昔日の郷愁を 世論調査においでいちじるしい。政治意識の調査では、とくに注 強固であるならば、地域的固定性と関係があるか。最近の選挙運 しのび、当時の政界批判や問題点を発言することが多いことであ 意すべきことで、また逆に調査者が、被告の立場におかれるよう な極端な場合もあらわれる。 182 (408) る。 ︽質問の方途︾ − 被調査者に質問のさい、特殊ないし詳細な設問に解答を求める 一 会見には、設問の用意が不可欠である。設問は、調査の問題意 、 W・H・リッカー鞄方政治の研兜 て、調査者側の技術的、能力的努力にまつものなのである。これ らの収集された、焦点の同じ多数の解答の評価は、相互に比較し るにあたって次の諸原則が、厳守されるべきである。ω頂接的質 別されるものであるが、併用がのぞましい。会見を実際に開始す 査には後者を用いている。調査対象と時により両者は、使用上区 団的な利害が彼を、愛郷者のように喋りまくらせる。客観的には に忘れ果ててしま5ものだし、潜在している個人的なあるいは集 な知識にとどまっている。記憶しておきたくない事件は、便宜的 ’人々は無意識にうそを申立てるものである。人は、事実の因果関 係も、過程も、完全に知りうるわけはないし、知りえても部分的 あって綜合して、核心に近付く様にしなければならない。多数の 問方式では一時に一質問にとどめるべきで、関連する諸質問はさ 彼が信んじこんでいるほど愛郷者ではないのである。こうした核 9 か、あるいは、解答に充分な余裕を与えて問題の核心にいたる前 後の情報を発言させるかによって、直接的質問方式、間接的質問 方式の区別を設けている。通常、前者は政治意識及び投票情況の けること。㈱解答に渋滞する質問は、好意的雰囲気が流れるまで 心から離れた事実を、外部の者にきこえよがしに伝えることにな 調査に用いるが、地方政治の一般的情報あ惹いは、地方伝統の調 保留するこど。’⑧被調査者と、その発言に、こちらが感情的に好 る。ここに、比較と綜合の方法が必要となろう。 は、.政党と両人の提携は、この選挙をして事実上の政党間の斗 提携をもち選挙参謀は著名な同党幹部であった。選挙民の一部 部長であった。またBは表面に発表はしなかったが、共和党と 候補者による選挙戦であったが、候補者Aはかつて民主党州支 アメリカ某州の県判事選挙の実例である。この選挙は無所属 場合の確実性吟味を実証的に考察してみようと思う。 情報提供者の発言と、これを観察しても確実性が認められない ︽確実性吟味の統計学的一方法︾ 意を示すこと㍗ω被調査者の発言に対し反論、批判は慎重にする こと。 ︽質問によって得た情報と観察の確実性︾ 面接によって得た資料の使用は、その信慧性にかかっている。 政治性にからむ質問は、単純な”最近の選挙で投票しましたか〃 という如きものであっても、六五%は、うその解答をしていると さえいわれている。単純で直接な解答を迫ることよりもむしろ重 要であるのは、棄権とか投票行為の価値の評価づけの問題であろ う。価値評価の発表は、被調査者の卒直性によるものではなくし (409) 183 W・H・リッカー馳方政治の研究 と信じていた。この両極の発表を採集して選挙後に、得票を整 信じていた。他のものは、全く投票決定基準を非政党性におく いとさせると規定し、投票に政党性の影響を投影させるものと 高いが、A個人に投票する数は比較的低いというわけである。吟 関係点が集中をよぶのは、d、f、9区分で民主党への投票数は が全体にわたっては比較的度合が高い。d、f、9点附近に相関 見ると、斜線上のeを除いて、すべてを相関関係は、希薄である 想定は出来よう。選挙結果では、民主党有勢のこの地方で、Aは わつかの差で落選し、共和党系と、もくされていたBが当選しい いる。これは、同じ理由で逆に共和主義の勝利と推測することは 至難である。従って、投票行為の政党を中心とした基準にのみ尺 イデオロギコ 度を求めるのは、危険ないし根拠不足なのであって、同様の方法に よる人種的側面の相関関係の測定、地域経済政策の側面よりみた カラロ 相関関係の測定、出身母国の側面よりみた相関関係の測定など、 多面の相関関係の吟味によって可能性への接近が考慮されなけれ ばならないであろう。 リッカーの所説はもとよりアメリカ地方自治の風土を対象とし た調査論であるから、いま日本で興味をよせる地方政治家のイデ オロギー的側面と地域代表型としての側面を問題とするものでは 一 75 184 (410) 理吟味してみた。 Per Cent from A 味が必ずしも事実と一致するものではない。つまり、表によっと 65’ 85 両選挙の投翼動機が同一であると確定することは出来ない。しか 55 コアリレ シヨン 35 選挙区内の一部の、各区分ごとに、Aの得票と、最近における国 !/●a し、国会選の民主党支持者がAを支持する可能性があること、の ,75 65 55 45 35 ! 45 .助/ // てみる。︵図表参.照︶各a、b、c、d、その他各地区の区分を ’ 85 1 〆e d ● / / ● / ● / !/ 会選挙の民主党の得票との相関関係の比較吟味を行い、図表化し Per cellt Democratir 1956. 1 ない。かれの対象とするところは、職能的代表型、イデオロギー 的代表型そして人種的、宗教的代表などのアメリカ地方社会の投 影とレての復雑な側面を有する地方政治家たちなのである。この 複雑な代表性を摘出してゆく調査技術はおそらく、日本の風土に おけるものよりも、困難なことにちがいない。それだけに、調査 技術は多角的で底深いものであって、態度は慎重をきしている。 日本の地方自治の政治的風土は、一ことに地方利益にのみ根ざ された地域代表型と断定はなしえよう。しかし町村規模の拡大や、 都市生活圏の拡大にともなう田舎部地域の都会化は、一層複雑な 経済的地域開発は、経済団体利害グループの政治的進展を予想出 来よう。地域民主化の進展は、ただイデオロギー的進展ばかりで なく、はば広い地域的、経済的、社会的契機をもつグループの進 展を予想出来る。ますます地方政治の実態的把握は、慎重に、多 角的に行なわれねばなるまい。 , (411) 185 政治的要因をからませながら新しい政治的風土を形成してゆく。 W・H・リッカー“地方政治の研究