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ディジタル家電とシステムLSI, 二つの潮流が“組み込み文化
イベント・レポート フォト ディジタル家電とシステムLSI, 二つの潮流が“組み込み文化” を変える ── MST'99(マイコンシステム&ツールフェア) 編集部 1999 年 11 月 10 日∼ 12 日に東京ビッグサイトでMST’ 99 が開催された.デ ィジタル家電とシステムLSI の台頭を受けて,昨今の不況下にも関わらず,来 場 者 が 12,000 人 を超 えた. PlayStation 2 用 ソフトウェア開 発 環 境 , Bluetooth プロトコル・スタックなど,ディジタル家電市場向けの展示が目を 引いた.LSI とソフトウェアの仕様記述の標準化を目指すSpecC Technology Open Consortium の設立発表も行われた. 2 年ほど前から,“組み込み(embedded) ”関連の展示会が 盛況だ.その背景には,要素技術(シーズ)である“システム が続々“組み込み”の世界へ押し寄せている. 1999 年 11 月 10 日∼ 12 日に東京ビッグサイトで開催され LSI”と,アプリケーション(ニーズ)である“ディジタル家電” たMST’99(マイコンシステム&ツールフェア)もまた,こう の台頭がある. した動きを反映した展示会だった. これまで,“組み込み”という言葉は,おもに汎用マイコン を使いこなす技術を指していた.国内の大手マイコン・メー ● “組み込み” の展示会に次世代ゲーム機の開発環境 カがリードする形で,ユーザやソフトウェア開発ツール・ベン MST’99 の基調講演の一つは,ソニー・コンピュータエン ダとともに確固とした一つの技術文化を築いてきた.外部か タテイメント 開発研究本部 本部長の岡本伸一氏が務めた. ら見ると,ある意味,閉鎖的なイメージさえあった. ネットワーク機能やDVD を取り込んだ次世代ゲーム機は,デ しかし,昨今ではCPU コアと周辺論理(ASIC)を1 チップ ィジタル家電の代表格だ.展示会場では,メトロワークスが にした“システムLSI”が台頭し,ASIC やEDA の文化が“組 「CodeWarrior for PlayStation 2」のデモンストレーション み込み”の世界に入り込もうとしている.たとえばIP やハー を行った(写真 1).C/C++ コンパイラや性能解析ツールを備 ドウェア/ソフトウェア協調設計といった概念が, “組み込み” えている.PlayStation 2 の黒い筐体が人目を引いた. の世界でも知られるようになってきた. その一方で,米国 Intel 社や米国 Microsoft 社,米国 Sun ● Bluetooth のプロトコル・スタックが登場 Microsystems 社など,高性能パソコンやワークステーショ ディジタル家電同士をつなぐネットワーク技術の話題も花 ンをリードしてきた企業が“組み込み”業界での足場固めを積 盛 りだ.エーアイコーポレーションのブースでは,米 国 極的に進めている.これは,エレクトロニクスの技術革新を Counterpoint Systems Foundry 社がBluetooth 用プロトコ けん引するアプリケーション(テクノロジ・ドライバ)が高性 ル・スタック (プロトコル処理用ソフトウェア)の製品化を発表 能パソコンからディジタル家電へシフトする,という見方が した(写真 2).Bluetooth は,データ伝送速度 1Mbps,伝送 強まっているためだ.コンピュータの市場でもまれた高性能 距離 10m の無線規格である.スペクトラム拡散技術を使う. プロセッサ技術やソフトウェア技術,ネットワーク技術など 赤外線通信の置き換えなどをねらっている. 〔写真 1〕PlayStation 2 向けソフトウェア開発環境 メトロワークスの展示. 150 Design Wave Magazine 2000 January 〔写真 2〕Bluetooth プロトコル・スタック エーアイコーポレーションの展示. ●遅れてきたメディア・プロセッサ!? メディア・プロセッサ(画像・音声処理用の高性能 DSP) ェアの機能や仕様を共通の表現で記述するための言語である. システムLSI や組み込み機器のハードウェアとソフトウェア と言えば,かつてマスコミがこぞって取り上げたプロセッサ技 を,首尾一貫した設計手法と統合された設計環境のもとで開 術のキーワードである.しかし,ブームの火付け役となった 発することを目指す.すでにいくつかの言語が名乗りを上げ 米国 Chromatic Research 社がグラフィックス・ボード・メ ている.たとえば,EDA ベンダやIP ベンダなど56 社が担ぐ ーカに吸収されてしまって以降,ほとんど話題に上らなくな 「SystemC」,CynApps 社がオープン・ソースとして公開し ってしまった.こうした状況のもとで,MST’99 では2 社が たC++ クラス・ライブラリ「cynlib」,VHDL International メディア・プロセッサ関連の製品を展示した. が支援しているSLDL(System Level Design Language) シャープはデータ駆動並列処理によるメディア・プロセッ Committee の「Rosetta」などである (p.154 に関連記事). サ「DDMP」のカスタム・チップを開発する環境を展示した MST’99 では,システム記述言語の一つである「SpecC」の (写真 3 _).データ幅やメモリ容量などをユーザが指定する 普及推進団体「SpecC Technology Open Consortium」の と,対応したDDMP のRTL コードが生成される.また,仕 設立発表が行われた(本誌 1999 年 12 月号,p.175 で一部既 様に合わせたコンパイラや命令セット・シミュレータも提供 報).SpecC の特徴は,普及推進活動を支える主要メンバが する.従来,RTL 設計は手作業が中心だったため,1 品種の 日本企業である点だ.ITRON などの標準化活動で実績のあ 開発に半年∼ 1 年かかっていた.今回の開発環境を利用すれ るメンバが参加している (下掲のインタビューを参照) . ば1.5 ∼ 2 ヵ月で開発できるという.米国 Cadence Design Systems 社,インドのSAS(Silicon Automation Systems) 社と共同開発した. 一方,ソフィアシステムズは,日立製作所と米国 Equator Technologies 社が共同開発した,VLIW アーキテクチャを 採るメディア・プロセッサ「HDL2MAP」向けの評価ボードを 展示した(写真 3 `). ● SpecC 普及推進団体旗揚げ,第 2 のITRON を目指す ここ数ヵ月,システム記述言語の業界標準化を見据えた動 きが相次いでいる.システム記述言語とは,LSI とソフトウ インタビュー ` _ 〔写真 3〕メディア・プロセッサの開発環境 _はシャープの展示.DDMP のカスタム・チップの開発環境を 公開した.`はソフィアシステムズの評価用ボードの展示. SpecC の言語仕様はC 言語をベースにしている.並列実行やパイ SpecC はソフトの比重が高いシステムへの適用を想定 田丸喜一郎氏〔左〕 (SpecC Technology Open Consortium, Chair/東芝 技術企画室) 石井忠俊氏〔右〕 (東芝 コーポレート事業開発センター 戦略 IPプロジェクト担当) プライン処理,割り込みなどを表現できるFSM(finite state machine)と,オブジェクト間のデータ通信プロトコルを記述できるよう に拡張した.SpecC の仕様記述はラピッド・プロトタイピング(コン ピュータ・グラフィックスを使った仮想的なプロトタイプによる機能 テスト)に利用できる.また,早期の性能見積もりにも使える. SpecC は,もともと東芝のシステム機器を効率よく開発するため のプロジェクトから始まった.しかし, (東芝の社内で閉じた)独自の 技術ではシステム部門が使ってくれない.実用展開するために,この SpecC Technology Open Consortium は,システム仕様の記述言 語であるSpecCの普及と,その利用技術の確立を目指して設立された. われわれは設計仕様書を合理的に作成することを目指している.一 般に,設計者が最初に書く仕様書は自然言語で表現される場合が多 い.しかし,自然言語の仕様書にはあいまいなところがある.その部 門に長く所属している人にはわかるが,そうでない人は慣れるまでに 時間がかかる.また,仕様はバケツ・リレーのように伝わっていくの で,できあがったものが元の仕様と異なる場合もある.こうした問題 を解決するには,あいまいさを排除する必要がある.SpecC を使っ て設計仕様を記述すれば,あいまいさがなくなる.再設計の回数が減 って機器の開発期間が短縮する. 技術を社外に公開することを決断した.システムLSI,およびシステ ムLSI を組み込んだディジタル家電の開発に使われると見ている. Synopsys 社や CoWare 社などが普及推進活動を行っている SystemC とはすみわけられると見ている.SpecC は製品仕様の記述 をターゲットにしている.システムの概要が見えてきたらSystemC に移ればよい.また,SystemC のメンバはほとんどがEDA ベンダ. ハードウェアに片寄っている.これに対して,SpecC はソフトウェア の比重が高いシステムへの適用を想定している. いずれはSpecC も国際的な活動にしたいが,いまのメンバは国内 の企業や大学が多い.ITRON やEmbedded C++ のように,当面 は日本が中心となって標準化を進めていくことになるだろう.(談) Design Wave Magazine 2000 January 151