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委託加工貿易の留意点(関税定率法 4 月改正)
浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2013 年 10 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp 委託加工貿易の留意点(関税定率法 4 月改正) チャイナ・インフォメーション 21 筧武雄 1980 年代から盛んにおこなわれ、中国ビジネスの過半数を占めると言われる取引形態が 委託加工貿易である。これは、戦後の日本企業が欧米から製造委託を受けて海外輸出を伸 ばすことに成功し、一部上場企業となって日本経済の成長を支えてきた歴史とも似ている が、今回は日本企業が中国に発注する側になるため、正式名称は「逆委託加工」とも呼ば れる。 委託加工貿易は中国に限らず、他のアジア諸国、世界各国でも実施され、条件がそろえ ば海外法人を設立経営せず、地場企業に製造を委託することも可能1なため、 「身軽」と言わ れる反面、その裏側には幾つもの深刻なリスク「落とし穴」が存在する。 今年 4 月の日本「関税定率法」改正(関税評価)を機会に、中国側と日本側の代表的な留意 点について簡単に解説するが、これらは中国だけに限った問題ではない。 1. 現地の在庫管理(不良在庫「含み損」累積) 一言でいえば、日本から支給される加工設備、金型、材料部品等の現地管理の問題であ る。現地で不合格品や廃棄物が発生した場合、わざわざ物流コストをかけて日本まで輸出 されることなく、現地「預かり」のまま部品在庫2の中に眠ってしまうリスクである。 現地決算は、表向きには黒字のまま、隠れた不良在庫が膨らむことになるが、これが数 年間累積すれば億円単位となるケースもある。その後の責任者交替、組織変更等の際にそ の含み損が一気に実現し、債務超過にも陥りかねない。 また、中国税関は保税扱いとなる部材輸入と製品輸出(切り屑、廃棄物を含む)の数(重)量 管理を契約別の保税台帳で厳格に検査・管理しており、国内販売(処分)する場合は税関の事 前許可が必要とされる。定期的な保税現場検査の際に、税関に届け出た保税在庫と実際の 工場在庫に不一致が存在した場合は、関税・増値税が追徴され、中国内への無許可販売、 無断廃棄、隠匿、ハンドキャリー等が密輸行為とみなされた場合は相応の処罰を受ける。 対策としては、現地「先入れ先出し」在庫管理の徹底、部材輸入から製品輸出までの生 産工程管理を厳密にし、不良品は発生の都度損切り処理することで歩留り改善をはかるし かない。あるいは、不合格品リサイクル利用や、「二次販売」処分先を確保する方法も有効 である。 2. 日本に輸入する際の「関税評価」 コストダウン目的で、中国工場に機械設備、金型冶工具類を無償提供し、日本から支給 1 親子間で委託加工貿易を実施することも可能。 2 部材、金型を無償支給(または貸与等)した場合は、日本側のバランスシートの資産、仕掛在庫品として計上される。 1 Copyright (c) 2013 Hamagin Research Institute,Ltd. All rights reserved. する部材、原料も無償もしくは低価格で提供し、完成品を日本に安く輸入することで本社 の販売利益をあげるようなスキームで委託加工貿易を進めると、日本税関の輸入サイドで 関税評価の問題に抵触しやすくなる。 1994 年ガット東京ラウンド以来、WTO に加盟する世界各国では関税評価協定が結ばれ て、日本でも今年 4 月の「関税定率法」改正により、関税評価基準はさらに具体的に、か つ厳しくなっている。 輸入関税額=関税評価額×関税率 委託加工貿易は基本的に輸入取引として扱われ、完成品を輸入する際に日本税関で関税 と消費税が課税されるが、その関税評価額には、実際に輸入代金として支払われた取引価 格のほか、以下の要素が加算される(「関税定率法」第四条)3。 ① 輸入港までの運賃、保険料その他運送関連費用 ② 買手が負担する手数料、容器、包装の費用 ③ 買手が無償または値引き提供した材料、工具、金型、消耗品等の物品および技術・設計 等の役務の費用 ④ 特許権等の使用に伴うロイヤルティー、ライセンス料 ⑤ 売手に帰属する販売利益 輸入取引が完了した後も、税関は個別企業訪問により関税評価の事後調査を随時実施し ており、たとえば横浜税関が作成・配布するパンフレット4には以下のような事例が紹介さ れているので引用する。 ■事例1:輸入者が支払った金型代の申告漏れ 輸入者Aは、中国の輸出者から自動販売機の部分品を輸入していました。Aは輸入貨物 の製造に係る金型代金を輸出者に対して別途支払っていたにもかかわらず、貨物代金から 当該金型代金を相殺した後の価格が記載されたインボイスで通関をおこない、当該金型代 金を課税価格に含めて申告していませんでした。 この非違を含めた申告漏れ課税価格は 251 百万円、関税および消費税の追徴税額は 13 百万円でした。 ■事例2:輸出者に無償提供した原材料に係る費用の申告漏れ 輸入者Bは、中国の輸出者から墓石を輸入していました。Bは、輸入貨物の製造に必要 な原石を輸出者に無償で提供していましたが、輸入の際には、課税価格に含めるべき、そ の費用を課税価格に含めずに申告していました。 この非違を含めた申告漏れ課税価格は 1,014 百万円、消費税の追徴税額は 51 百万円で した。 3 関税評価は委託加工貿易に限らず輸入貿易全般に適用されるが、委託加工貿易のケースが該当(抵触)しやすい。 4 http://www.customs.go.jp/yokohama/tsukankankei/hyoukapanfu.pdf 「輸入貨物の課税価格」横浜税関 2 Copyright (c) 2013 Hamagin Research Institute,Ltd. All rights reserved. このような問題発生を未然に防止するため、日本全国各地の税関・評価部門では、事前 に「関税評価に関する事前教示」を個別の委託加工貿易契約ごとに、口頭もしくは書面で 相談に応じている(詳細については前述の税関パンフレットを参照)。 以 上 本レポートの目的は情報の提供であり、何らかの行動を勧誘するものではありません。本レポートに記載 されている情報は、執筆者個人が信頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性 を保証するものではありません。ご利用に際してはお客さまご自身でご判断くださいますようお願いいた します。 本レポートは著作物であり、著作権法に基づき保護されています。本レポートの無断転載・複製を禁じま す。 3 Copyright (c) 2013 Hamagin Research Institute,Ltd. All rights reserved.