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詳細 - 日本心理学会
日心第71回大会 (2007)
皮肉伝達と透明性錯覚
-文脈情報が自己中心性に及ぼす影響-
○岡本真一郎1・佐々木美加2
1
( 愛知学院大学心身科学部・2常磐大学人間科学部)
Key words: アイロニー,透明性錯覚,Eメール。
目 的
透明性の錯覚(illusion of transparency)とは,ひとが自分の
内心を,実際以上に他者に知られていると過大に見積もるこ
とを指す(Gilovich, et al., 1998).コミュニケーションに関して
は,送り手が受け手との基盤の共通性(Clark,1996)が実際以上
であると見積もり,実際以上に伝達が成功していると過大評
価することにつながる.Kruger et al. (2005)は,とくに,E メ
ール・コミュニケーションにおいては対面や音声によるコミ
ュニケーションよりも伝達の過大評価が生じやすいことを実
験に基づいて報告している.岡本・佐々木(2007)は,E メー
ルを模した文字メッセージの伝達において,送り手の過大評
価はほめよりも皮肉で生じやすく,絵文字の使用は過大評価
を減じないことを確認した.
本研究は皮肉の伝達の過大評価について,送り手と受け手
の文脈の共通性に関する送り手の認知を変数として検討する.
[仮説]1.送り手が受け手と文脈非共有なのにそれに気づ
かなければ,共有しているときよりも過大評価が生じやすい.
2.送り手が文脈非共有を伝達前に知れば,伝達内容への
配慮によって受け手の推測が向上し,過大評価は減ずる.
3.送り手が文脈非共有を伝達後に知ったときは,伝達の
見込みを低め,過大評価は減ずる.
方 法
概要 送り手が受け手に第三者の能力についてほめまたは
皮肉を記述し,受け手がほめか皮肉かを判断.その際,受け
手が第三者の能力について情報を有するか否かを操作した.
参加者 大学生 146 名男女.送り手と受け手と 73 ペア(互
いに未知のまま)
実験計画 視点(送り手,受け手)×言語行為(ほめ,皮
肉)×文脈(基盤共通,事前認識,事後認識,非認識)
行為の操作 ほめ:能力があるのでほめる.皮肉:能力が
ないので皮肉を言う.
文脈の操作 基盤共通では受け手は第三者の能力の有無に
関して送り手と同一情報.他では受け手は情報なし.ただし,
そのことを送り手はメッセージ記述前に知る(事前認識),メ
ッセージ記述後に知る(事後認識),最後まで知らない(非認
識).
場面 16 場面,それぞれ能力あり(ほめ),能力なし(皮
肉)バージョンを作成.各参加者にはこのうち8場面を能力
あり,なし4場面ずつカウンターバランスして割り当て,呈
示順序もカウンターバランス.
手続 送り手は場面を読んでほめまたは皮肉のメッセージ
を作成.各メッセージを受け手がほめととるか皮肉ととるか
を推測,評定.受け手は送り手のメッセージを読み(統制群
では場面情報も示される),ほめか皮肉かを推測して評定.尺
度は送り手,受け手とも6段階で(1:皮肉-6:ほめ).
結 果
各参加者の評定値がほめ場面では4以上,皮肉場面では3
以下の評定値であった場合を正解(の推測)とみなし,ほめ,
皮肉別に正解数を算出した(最大値4).図1に結果を示す.
正解数について視点(2)×言語行為(2)×文脈(4)の分散分析
を行った.視点(F(1,69)=48.59, p<.01),言語行為(F(1,69)=63.26,
p<.01),文脈(F(3,69)=11.12, p<.01)の主効果が有意,視点×行
為(F(3,69)=4.33, p<.05),視点×文脈(F(3,69)=6.53, p<.01),言
語行為×文脈(F(3,69)=722, p<.01),視点×言語行為×文脈
(F(3,69)=4.67, p<.01)の交互作用が有意であった.
ほめではいずれの条件でも正答数は伝え手>受け手であり,
送り手の過大評価が認められた.一方,皮肉では文脈条件に
よって大きな差があった.事前認識条件や非認識条件では過
大評価が大きいが,共通では受け手正答数が上昇,事後認識
では送り手正答数が下降して,送り手の過大評価は消滅した.
4.00
3.50
送ほめ
送皮肉
受ほめ
受皮肉
3.00
2.50
2.00
共通
事前認識 事後認識 非認識
図1
正解数の条件別比較
考 察
仮説1,仮説3は支持されたが,仮説2は支持されなかっ
た.なお,本研究の実験条件のうち事前認識条件は岡本・佐々
木(2007)と同一の絵文字条件と手続である.ほめよりも皮肉
で過大評価が大きかったことは本研究,岡本・佐々木に共通
している.しかし,本研究ではほめ条件でも過大評価が見ら
れた点,岡本・佐々木と異なる.なぜ相違が生じたのか今後
さらに検討していく必要があるだろう.
引用文献
Clark, H.H. 1996 Using language. Cambridge: Cambridge
University Press.
Gilovich, T et al. 1998 The illusion of transparency: Biased
assessments of other's ability to read one's emotional status.
JPSP, 75, 332-346.
Kruger, J. et al. 2005 Egocentrism over E-mail: Can we
communicate as well as we think? JPSP, 89, 925-936
岡本真一郎 2004 アイロニーの実験的研究の展望-理論修
正の試みを含めて- 心理学評論 47, 395-420.
Okamoto, S. 2006a Perception of hiniku and oseji: How
hyperbole and orthographically-deviant styles influence
irony-related perceptions in the Japanese language
Discourse
Processes, 41, 25-50.
岡本真一郎 2006b ことばの社会心理学(第3版)
ナカニシヤ出版
岡本真一郎・佐々木美加 2007 E メールと透明性の錯覚:
皮肉の伝達における言語・非言語表現の役割 社会言語科
学会第 19 回大会発表論文集 pp.22-25
【付記】本研究の実施には,2006 年度の大川情報通信基金研
究助成を受けた.
(OKAMOTO Shinichiro, SASAKI Mika)
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