東大教師が新入生にすすめる本

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東大教師が新入生にすすめる本
アンケート
東大教師が
新入生に
すすめる本
このアンケートの特集は、大学の新入生のみなさんに贈るブ
ックガイドです。一九八八年以来、今年で二八回目を迎えます。
今回も含め、すでにご登場いただいた教師数は延べ六六二名に
及んでいます。
左に掲げる設問の❶は先生方のご専門にかぎることなく自由
に、❷は新入生が専攻を選ぶときのヒントになる本、その専門
分野へのイントロダクションになる本、その分野の研究の奥行
きを垣間見せてくれるような本についてお書きいただきました。
新入生のみなさんの読書プランの一助となれば幸いです。
─
─
❶私の読書から
印象に残っている本
❷これだけは読んでおこう
研究者の立場から
❸私がすすめる東京大学出版会の本
❹私の著書
*回答者名は五十音順。品切中の本も掲載した。
1
あき やま
人文社会系研究科 文
・)
(
学部教授/西洋美術史
あきら
秋山 聰
で、美術史学科への進学の最大の決め手と
かな切り口でわかりやすく解説した書物
よる西洋美術史の古典的著作を次々に鮮や
……。
が、 現 実 に は な か な か 難 し い よ う で す
リーズがあればと思わなくはありません
❹ 『 聖 遺 物 崇 敬 の 心 性 史─ 西 洋 中 世 の 聖
性と造形』(講談社選書メチエ、二〇〇九)、
ました。後者は駒場に在学中の二年次に本
なり、結局、著者を恩師に仰ぐことになり
❶ 『 道 化 の 宇 宙』 山 口 昌 男( 白 水 社、 一 九
八〇)、『本の神話学』山口昌男(岩波現代文
死 者 と の 対 話』 秋 山 聰・ 野 崎 歓
編(東京大学出版会、二〇一四)
郷まで出かけて受けた講義の内容と重なる 『 人 文 知
ものですが、当時まだほとんど知られてい
庫、二〇一四)、『書物の世界』高階秀爾・中
の絵の面白さに圧倒されました。こちらの
を知り、温め続けてきたアイディアを基に
前者は、ドイツ留学中に聖遺物崇敬を美
術史学の範疇で扱うことが可能であること
村雄二郎・山口昌男(青土社、一九八〇)
著者にもご指導いただきましたが、訥々と
なかった伊藤若冲や曾我蕭白、長澤芦雪ら
理系を志していた高校時代に何とはなし
に書名に惹かれて手に取ってみた『道化の
聖具や聖像(とりわけ立体像)にも興味の
宇宙』によって、それまで想像もしなかっ
学部の教員有志を中心に、人文学の多様性
したものです。その後五年以上がたち、些
❸ 『 講 座 日 本 美 術 史』 全 六 巻 佐 藤 康 宏
ほか編(二〇〇五)
を世に伝えようという三巻本のシリーズ中
か焦りを感じざるを得ませんが、近年は聖
「 美 術 史」 と い う 言 葉 に は、「 美 術 の 歴
史」 と い う 意 味 と、「 美 術 作 品 に つ い て 歴
の一冊です。第二巻は、COEとして十年
した授業と書物での語り口とのギャップに
史的に考察する学問」という二つの意味が
にわたり所属部局で展開された死生学研究
た人文系の学問世界の面白さに気付かされ
戦が繰り広げられる『書物の世界』には、
あります。本シリーズは、日本美術につい
の延長上に位置するもので、私自身は西洋
大きな刺激や示唆を得ることができること
ます。美術史を専攻しようとする人々は、
野正嗣さんも寄稿されています。
た。ちなみに、今般芥川賞を受賞された小
際に用いられたストローについて論じまし
対象を広げつつあります。後者は、東大文
❷ 『 美 の 思 索 家 た ち』 高 階 秀 爾( 青 土 社、
一九九三)、『奇想の系譜』辻惟雄(ちくま学
でしょう。同様に西洋美術史についてのシ
前者は、フォションやパノフスキーらに
芸文庫、二〇〇四)
に至りました。さらに、丁々発止と書評合
遺物だけではなく、教会儀礼に用いられる
読書の面白さや難しさを教わることになり
て、実に様々な角度から種々の方法によっ
中世の一時期に聖血としてのワインを飲む
は当初大変驚きました。
ました。結果として学校に出かける気が薄
て考察した論文が集成されており、今日の
は、アビ・ヴァールブルクという稀代の研
れ、高校を四年かけて卒業することになっ
日本美術史研究の水準を示していると言え
究者の存在を知り、美術史学に興味を持つ
てしまいました。
ま し た。 次 い で 読 ん だ『 本 の 神 話 学』 で
2
東大教師が新入生にすすめる本 2
ら、地域や家庭における教育も含めたトー
会で生きる「人間力」まで視野に入れなが
教育に関する議論は振り子のように揺れ
動く。極端な議論におちいることなく、社
な意図で設計されているのかを知るのもお
きている。自分たちの学習環境がどのよう
理を生かした教室が見られるようになって
近年では、東京大学をはじめ、こうした原
る学習環境のデザイン原則は参考になる。
り
❶ 『 モ モ』 ミ ヒ ャ エ ル・ エ ン デ / 大 島 か お
り訳(岩波書店、一九七六)
タルな視点で子どもの学力や指導を考える
うえ さか ゆ
❷ 『 学 ぶ 意 欲 と ス キ ル を 育 て る─ い ま 求 (二〇〇五)
められる学力向上策』市川伸一(小学館、二
大学では自ら目標を定め、協同的にプロ
ジェクトを進めていく機会が増加する。こ
一日二四時間という時間は、生きている
人間に等しく与えられた貴重な財産であ
必要がある。その際、本書は重要な視点を
もしろいだろう。
教育学研究科・教育学部 教育
)
心理学コース助教/教育心理学
る。これをどう使うかは個人にゆだねられ
与えてくれる。また、個別学習相談での指
❹ 『 カ リ キ ュ ラ ム・ イ ノ ベ ー シ ョ ン─ 新
しい学びの創造へ向けて(仮)』
(東京大学教
(
ている。現代社会では、スケジュールが埋
導から具体的な授業デザインの方法まで、
植阪友理
まっていても、本当の意味では充実した時
非 常 に 具 体 的 で あ る。 教 育 に か か わ る 者
うした学びを考えるうえで、本書が紹介す
間 を 過 ご せ て い な い 場 合 も 少 な く な い。
〇〇四)
「 よ く 生 き る」 と い う こ と、 ま た そ こ に か
育学部カリキュラム・イノベーション研究会
世界的な動向として、学校では学問の基
編、東京大学出版会、近刊予定)
は、一度は読んでおきたい名著である。
❸ 『「 未 来 の 学 び」 を デ ザ イ ン す る─ 空
間・ 活 動・ 共 同 体』 美 馬 の ゆ り・ 山 内 祐 平
か せ な い「 時 間」 と い う テ ー マ を、「 時 間
どろぼう」とモモの対決という物語を通じ
て考えさせてくれる。
3 東大教師が新入生にすすめる本
ュ/望月衛訳(東洋経済新報社、二〇〇九)
グ・リーダー』スディール・ヴェンカテッシ
金融政策にある。それを体系的に解説した
代後半から二〇〇〇年代にかけて実施した
等との出会いを綴ったもの。貧困の実態・
ASNET機構 東
・ 洋文化研)
(
究所特任講師/生態人類学
だ しゅうへい
卯田 宗 平
う
書物。
礎を学ばせるだけでなく、社会で学び続け
原因解明は社会科学者のひとつの原点であ
一人の社会学者が、シカゴのゲットーに
飛び込み、麻薬の売人、ヤク中、ホームレス
るための資質・能力を身につけさせるとい
う考え方が広まりつつある。その一方で、
ように実現してくのかはいまだ模索段階に
り、それに対する著者の強い決意を感じる。
こうした発想に基づくカリキュラムをどの
ある。本書は、東京大学教育学研究科の教
対象を知るためには、まず対象を愛さな
ければいけない。動物行動学を確立したコ
員による三年間のプロジェクトの成果をま
❶ 『 ソ ロ モ ン の 指 環─ 動 物 行 動 学 入 門』
コンラート・ローレンツ/日高敏隆訳(ハヤ
ンラート・ローレンツが書いた文章はそん
カワ文庫、一九九八)
元大蔵官僚、現経済学者による戦後日本
経済史。純粋の学者には書ききれないよう
なことを教えてくれる。ここでいう「愛」
の行動を観察し、ユーモアあふれる解釈を
な制度、政策に関する深い理解を伴いつつ
摘もあるが、彼の着眼点と観察力には恐れ
理論的に日本の経験を解明した書物となっ
❷ 『 戦 後 日 本 経 済 史』 野 口 悠 紀 雄( 新 潮 選
書、二〇〇八)
経済学研究科・経済学部教
)
授/マクロ経済学・金融論
❸ 『 日 本 経 済 変 革 期 の 金 融 と 企 業 行 動』
堀内昭義・花崎正晴・中村純一編(二〇一四)
しようとして動物を観察していたのではな
とは対象に強い関心をもち、受け入れ、心
アベノミックスの効果を含めた日本経済
に関する最新の論文集。
という意識のもと、深い観察を続けたので
を許すということ。彼はハイイロガンやコ
❹ 『 ゼ ロ 金 利 と の 闘 い─ 日 銀 の 金 融 政 策
を総括する』
(日本経済新聞出版社、二〇〇五)
ある。その結果が新たな学問の構築につな
ており、日本経済を語ろうとする人には必
最近の欧米の中央銀行による非伝統的金
融政策、日本銀行によるアベノミックスの
い。「動物たちの行動がとにかく分からん」
入る。ローレンツは何も動物行動学を構築
している。動物を擬人化しすぎだという指
クマルガラス、水槽のなかの魚、イヌなど
第一の矢の原点は、日本銀行が一九九〇年
読文献。
とめたものである。次期指導要領の改訂に
向けた議論が始まろうとする中で、重要な
(
知見を提供している。
うえ だ かず お
植田和男
二〇〇七年以降に表面化した米国のサブプ
ライム・ローン金融危機とその世界的な波及
を経て、経済学界ではそれまであった市場経
済制度に対する強い信頼が揺らぐとともに、
発生した事態を理解するための理論的枠組み
の模索が続いている。しかし、当面よい答え
が見つかる気配はない。そういうわけで、本
来、若い人には理論的な書物をすすめるべき
だろうが、ここではより現実に肉迫した書物
をあげてみる。
❶ 『 ヤ バ い 社 会 学─ 一 日 だ け の ギ ャ ン
東大教師が新入生にすすめる本 4
を与える。この時代、各地の文化は地球規
地の人びとの生活や行動様式に大きな影響
グローバル化という言葉を聞かない日は
ない。さまざまな情報が瞬時に伝わり、各
❷ 『 鳥 葬 の 国─ 秘 境 ヒ マ ラ ヤ 探 検 記』 川
喜田二郎(講談社学術文庫、一九九二)
てくれる。
みが達成できる。本書はそんなことも教え
問を抱き、あくなき観察を続けた研究者の
する動きも多いが、それは対象を愛し、疑
がった。最近、新しい学問を確立しようと
─
六一)、篠原徹(『アフリカでケチを考えた
(『ゴリラとピグミーの森』岩波新書、一九
検記』岩波新書、一九五六)や伊谷純一郎
にも、たとえば、梅棹忠夫(『モゴール族探
う意気込みが伝わってくる。この図書以外
あるどんな微細な差異も見落とさないとい
章でまとめたものである。ローカルな場に
ら調査の過程、対象の解釈を読みやすい文
川喜田がフィールド調査に行く前の準備か
教えてくれるからである。本書は、著者の
社会がいまでも多様性に満ちていることを
の エ ス ノ グ ラ フ ィ ー』( 東 京 大 学 出 版 会、 二
❹ 『 鵜 飼 い と 現 代 中 国─ 人 と 動 物、 国 家
いる。日本を含むアジアの環境問題に関心
な知見が分かりやすい言葉でまとめられて
の機能、栄養と健康、病気に関する基本的
人類の進化、生存様式の多様さ、身体とそ
として書かれた本書では、生態系の構造や
解明する学問である。人類生態学の教科書
し、その人間と環境との複雑なかかわりを
類 生 態 学 は、 我 わ れ 人 間 を 研 究 の 対 象 と
をしっかりと理解しておく必要がある。人
環境問題や人口問題、食料問題を解決す
るには、まず前提として「人間とは何か」
のある学生はぜひ手に取ってほしい。
模で同質化、均質化が進んでいるようにみ
し』筑摩書房、一九九八)なども面白い。
エ チ オ ピ ア・ コ ン ソ の 人 び と と 暮 ら
える。こうした時代だからこそ、エスノグ
〇一四年)
5 東大教師が新入生にすすめる本
版』 大 塚 柳 太 郎 ほ か
ラフィー(民族誌)は重要な意味をもつと ❸ 『 人 類 生 態 学 第
おもう。それは、我われ人間がもつ文化や (二○一二)
2
の妻)から薦められて手にした本。付き合
の入門書である。
物多様性と生態系サービス保全における文
にぐいぐい引きこまれていった。最近、生
的ではないことに気づかされ、その面白さ
における個性の追求」という価値観が普遍
る。どんな問題があり、どのような研究ア
ひとくちにいっても実に多様な切り口があ
くないと思う。しかしながら、環境研究と
「 環 境 問 題 の 解 決 に 貢 献 し た い」 と い う
志を持って本学に入学した学生諸氏は少な
いはじめの頃だったので、気に入られよう
き抜いてきたのか」。
「漁師たちは激動の中国現代史をいかに生
化的側面や伝統的知識の役割などの問題に
「なぜ中 国で鵜飼い漁がいまでも生業と
して成り立つのか」、「なぜ鵜飼い漁師たち
❸ 『 ア ジ ア の 環 境 研 究 入 門─ 東 京 大 学 で
学ぶ 講』古田元夫監修・卯田宗平編(二〇
本書は、わたしがフィールドで抱いたさ
まざまな疑問を切り口にしながら、現代中
関わるようになり、本書の珠玉の言葉が再
自然との営みによって形成される、地域的
ら 用 い ら れ る こ と が 多 い が、 本 来、「 人 と
ランドスケープという言葉は、日本では
「 景 観」 や「 風 景」 と い っ た 視 覚 的 側 面 か
鵜 飼 い 漁 と い う 特 殊 な 生 業 を 着 目 し た の ❷ 『 ラ ン ド ス ケ ー プ エ コ ロ ジ ー』 武 内 和 彦
か。それは、本書の「まえがき」に記して (朝倉書店、二〇〇六)
能』大黒俊哉・吉原佑・佐々木雄大(東京大
❹ 『 草 原 生 態 学─ 生 物 多 様 性 と 生 態 系 機
象を捉えることの重要性を感じて欲しい。
研究の学際性、総合性、そして俯瞰的に現
疑問に答えてくれる。本書を通じて、環境
る気鋭の若手研究者一五名が、様々な分野
農学生命科学研究科・農学部教
)
授/景観生態学・緑地保全学
会はまだまだ多様性に満ち溢れている。
(
するためには、目に映る景色の背後にある
本書は、グローバルな食料生産と環境保
全の両面において重要な生態系である「草
おおくろとし や
❶ 『呼吸する民族音楽』小泉文夫(青土社、
一九八三)
能力が求められる。本書は、持続可能で魅
原」 を 対 象 に、「 生 物 多 様 性」 と「 生 態 系
大黒俊哉
民族音楽学のパイオニアである著者が、
自らの五感で収集した知見を駆使して、世
力的なランドスケープを保全・創出するた
前線を紹介し、草原の保全と持続的利用に
機能」という切り口から、生態学研究の最
学出版会、近刊)
界各地に息づく多様な音楽の世界を活き活
(
自然的・社会的要素の相互関係を読み取る
きと描いたエッセイ集である。学生時代、
小泉先生の講義を聴講していた彼女(現在
め に 不 可 欠 な 生 態 学( Ecology
)と計画学
)への理解を深めるうえで格好
Planning
の研究最前線を紹介することで、そうした
なまとまりや広がり」という概念をもつ。
ある。いずれにせよ、わたしたち人間の社
したがって、ランドスケープを正しく理解
一四)
国における人びとの生き方や動物と人間と
び鮮明によみがえっている。
と い う 下 心 を も っ て 読 み 始 め た が、「 芸 術
の関係について新たな見解を明示した民族
はカワウに「ドライ」な態度をとるのか」
誌である。そもそも、わたしが中国でなぜ
プローチがあるのか? 本書は、アジアを
フィールドとして環境研究に取り組んでい
15
東大教師が新入生にすすめる本 6
山の生い立ちから犯罪に至る過程、服役後
精神科医・フランクルのアウシュビッツ
収容所で体験した、限界状況におかれた人
に回復。涙なしには読めない名著。
連 続 射 殺 犯・ 永 山 則 夫 に 対 す る 精 神 科
医・石川義博の鑑定記録を掘り起こし、永 『 夜 と 霧』 ヴ ィ ク ト ー ル・ E・ フ ラ ン ク ル /
母の人生の公表に踏み切った頃から本格的
対象に二〇年以上にわたって行ってきた研
の 心 理 過 程 を 再 構 成 し た 衝 撃 の 書。 心 理
間のふるまいから、人間とは何か、生きる
惠子(岩波書店、二〇一三)
究蓄積を土台にしつつ、砂漠化防止や生物
学、社会学、法学等の分野に進む学生の必
向けた草原生態学の役割と課題を展望する
多様性保全といったグローバルな環境問題
読書。
ものである。著者らが北東アジアの草原を
への対処まで議論するなど、基礎科学から
神的不調は長かった。五〇代になり同じ境
に著者は医学生、精神科医となったが、精
い原典である。
の研究の進歩によっても色あせることのな
人間科学のすべてに進化の視点が必要で
あることを明快に説いた入門書で、その後
❷ 『 進 化 と 人 間 行 動』 長 谷 川 寿 一・ 長 谷 川
眞理子(東京大学出版会、二〇〇〇)
名著。
霜山徳爾訳(みすず書房、一九八五)
応用科学までを含む内容となっている。草
ことの意味、を力強く教えてくれる不朽の
医 の 回 復 へ の 道 の り』 夏 苅 郁 子( 日 本 評 論
原生態学、草地・畜産学に携わる専門家の 『心を病む母が遺してくれたもの─ 精神科
みならず、生物多様性科学、保全生態学、
社、二〇一二)
医学系研究科・医
)
学部教授/精神医学
遇のマンガ家・中村ユキと出会い、自分と
著者が一〇歳のときに母が統合失調症を
発病し、著者の思春期は混乱を極めた。後
乾燥地科学、環境科学等幅広い分野に関わ
(
る大学生や研究者に読んでいただきたい。
かさ い きよ と
笠井清登
❶ 『 永 山 則 夫 封 印 さ れ た 鑑 定 記 録』 堀 川
7 東大教師が新入生にすすめる本
こともあり、今でも良く覚えています。当
す。中でも、この作品は何回も読み返した
きにかけてまとめて読んだ記憶がありま
白い本が沢山あり、高校生から大学生のと
すが、しかしながら、その理論を学ぶこと
をツールとして利用することがほとんどで
ることを勧めています。主には、数値解析
室の学生には関連する講義や演習を履修す
CGの研究においては、数値解析手法は
取得すべき必須科目です。このため、研究
(新潮文庫)や『優駿』(新潮文庫)など面
心理学、教育学、脳科学等の分野を目指
す人にとって、発達的視点、特に生涯発達
は大変重要だと考えています。本書は、数
❸ 『 発 達 科 学 入 門』 全 三 巻、 高 橋 惠 子・ 湯
川良三・安藤寿康・秋山弘子編(二〇一二)
の視点は欠かせない。オーソドックスな良
時テニスをしていたこともあり、読んでい
値解析の手法から背景にある理論まで網羅
て親近感を抱くものでした。結末は衝撃的
されており、具体的な事例も多く、大変参
考になるものと思います。
C A D / C G 入 門[ 第
─
版]
で、最初に読んだときは脱力感に見舞われ
─
D
現在はコンピュータグラフィックス(C
G)を専門としていますが、この本は日本
❹ 『
を代表する多くのCGの研究者が関わって
❷ 『コンピュータグラフィックス』(CG
ARTS協会、二〇一五)
たものでした。
書である。
❹ 『 思 春 期 学』 長 谷 川 寿 一 監 修 / 笠 井 清 登
ほか編(東京大学出版会、近刊)
思春期は、人が自分という固有の存在の
価値や意味を形成する、つまり「ヒトが人
間になる」極めて重要なライフステージで
心理的困難を乗り越えてきた体験者や支援
書かれた教科書です。現在、日本語で出版
理学系研究科・理学部教授
(
)
/地質学・テクトニクス
がく
❶ 『 岩 倉 使 節 団─ 誇 り 高 き 男 た ち の 物
語』泉三郎(祥伝社、二〇一二)
学
き むら
かかる機会があるものと思われます。
像は、実は大変複雑な理論と数式により計
算されたものであるということが、この本
数 値 解 析 入 門』 齊
を通じてわかって頂けるように思います。
❸ 『 大 学 数 学 の 入 門
藤宣一(二〇一二)
木村
誰でも見ることができますが、これらの映
ス社、二〇一二)
と 3ds Max
で学ぶ図形科学』、
Inventor
鈴木賢次郎・横山ゆりか・金井崇(サイエン
者の語りも加えている。人文社会系諸科学
手前味噌ですが、数少ない教科書の一つ
です。これは、駒場での前期課程の講義・
─
と脳科学・医学の融合による、日本初の本
さ れ て い る C G 関 係 の 教 科 書 の 中 で は、
実 習 科 目「 図 形 科 学 Ⅱ」「 図 形 科 学 A」 で
ある。教科書としては異例だが、思春期の
格的な総合人間科学としての思春期学の教
使用していますので、今後皆さんもお目に
たかし
(
下
・ )( 宮 本 輝、 文 春 文
情報学環、総合文化研究科・
)
教養学部准教授/情報学 質・量ともに最も充実したものとなってい
2
ます。リアルなCG映像については今では
3
科書として乞うご期待。
かな い
金井 崇
❶ 『 青 が 散 る』( 上
庫、二〇〇七)
いきなり学術書でなくて大変恐縮です
が、 宮 本 輝 氏 の 小 説 は、 他 に も『 錦 繍』
9
東大教師が新入生にすすめる本 8
毎年冬になるとサンフランシスコで、私
たちの分野の世界最大の学会、アメリカ地
の矜持である。
から学ぶべき場面の一つがこの岩倉使節団
かりと見つめながら決断せよという。歴史
に取り組むかの姿がここにある。
ニティーがいかに社会に向き合い自然災害
知り、世界を相手とするために総力を挙げ
明 治 四 年 一 二 月( 一 八 七 二 年 一 月)、 明
治維新を成し遂げた新政府の中枢が世界を
二〇世紀最後の科学革命といわれる地球
科学におけるプレートテクトニクスの成立
❷ 『 新 し い 地 球 観』 上 田 誠 也( 岩 波 書 店、
一九七一年)
❹ 『地質学の自然観』(東京大学出版会、二
〇一三)
球物理学連合が開かれる。
て派遣した岩倉使節団が太平洋を越えて、
過程を、その渦中で経験した著者が、ほと 『 図 解・ プ レ ー ト テ ク ト ニ ク ス 入 門』 木 村
けん ご
工学系研究科・工
(
)
学部教授/建築学
❶ 『「 ら し い」 建 築 批 判』 飯 島 洋 一( 青 土
隈 研吾
くま
図をたくさん盛り込み、プレートテクト
ニクスを中学理科の知識で理解できる。
学・大木勇人(講談社、二〇一三)
は、磨けば大いにまだまだ輝く。
地 球 科 学 の 老 舗、 地 質 学 に つ い て 綴 っ
た。 大 地 の 成 り 立 ち を 直 観 す る こ の 科 学
同じ冬の季節にこの地に降り立った。
紀を経てもなお読む価値がある。
震災の科学と防災への提言。科学者コミュ
東京大学の地震学者ら総力を挙げて解明
に取り組んだ二〇一一・三・一一東日本大
❸ 『 東 日 本 大 震 災 の 科 学』 佐 竹 健 治・ 堀 宗朗編(二〇一二年)
ばしる熱い思いを記した古典的名著。半世
以降一年九カ月に及ぶ世界一周の旅のは
じまりであった。このグランドツアーが、
その後、近代日本が世界を駆け上がる歴史
を決定づけた。世界から何を学び自分たち
を見つめ、未来への歩みを決断したのか。
今、日本の未来が問われている。未来は
「ボート を漕ぐように」過去の歴史をしっ
9 東大教師が新入生にすすめる本
社、二〇一四)
痛烈な現代建築批判。ここまできびしい
見方に、建築はさらされていることを、理
解すべき。一九七〇年以降の一見はなばな
しくてかっこいい「アート的建築」の問題
点は、実は建築以外のすべての文化がきょ
うすることを、理解して欲しい。
若いからこそ、死について考えるべき。
都市と死との関係、サラリーマンと死の関
り
係等々、いろいろと考えてみた。
こ ばやし ま
小 林 真理
人文社会系研究科 文
・ 学部准教)
(
授/文化経営学・文化政策学
❶ 『 吾 輩 は 猫 で あ る』 夏 目 漱 石( 岩 波 文 庫
ほか)
な ら な い ん だ』 都 築 響 一( 晶 文 社、 二 〇 〇
八)
このアンケートを書いている机の上にた
またまあった本で、おもしろい本屋や本を
紹介しています。私は図書館よりも、本を
買える本屋が好きで、子供の頃はなぜか真
剣に古本屋になりたかったのです。私もあ
る本を集めていますが、必ず掘り出し物を
みつけてしまう古本屋がスイスとドイツに
れていて、これから国際的に活躍する学生
の中で、日本人がどう生きてきたかが書か
秀爾(岩波新書、一九九七)
❷ 『 芸 術 の 生 ま れ る 場』 木 下 直 之 編( 東 信
堂、二〇〇九)、『芸術のパトロンたち』高階
一軒ずつあります。
従来のモダニズム対アンチモダニズムと
いう二項対立を崩す論考。第二次大戦の前
の皆さんには改めて読んでほしい一冊。ア
最近またぼちぼち読み直しているのが夏
目漱石です。急激な西洋化、近代化の進行
と後とで建築史には線が引かれて、別世界
❷ 『 現 代 の 建 築 家』 井 上 章 一( A D A エ デ
ィタトーキョー、二〇一四)
と扱われるのが普通のやり方だが、井上は
ジアの中でも西洋化・近代化を最初に成し
本を読むのも大事なのですが、是非、劇
場、コンサートホール、美術館、アーツセ
この二つの時代を完全につなげて見せた。
のまで足を運んで、文字以外の芸術文化が
ンターなど、伝統的なものから最先端なも
存在することを「体感」してほしいです。
遂げたといわれる日本において、私たちは
て考えさせられます。最初の方で、それま
またそれらの施設は、映画館と違ってそこ
何を獲得して、何を失ってきたのかを改め
でネズミをたくさん捕った武勇伝を誇らし
に行かなければ見られない、あるいは聞け
T_ADS TEXTS
げに語っていた車屋の黒が、見る影もなく
ない、それぞれ異なった公演や展示をして
❸ 『これからの建築理論 消え去ってしまうあっけなさに唖然とさせ
Advanced Design
られます。急激な価値観の転換をそのよう
』
01 東 京 大 学 建 築 学 専 攻
編(二〇一四)
Studies
のセオリーを伝える。コンピュー
T_ADS
テーショナルデザインとモノヅクリとが、
いるということを知ってほしいです。多く
東大の建築学科がはじめた新しいラボ
新しい形で再接合されつつある。建築の新
な描写で行っているところに単純にすごさ
最初はそれでいいのです。そのうち、誰が
の人はその中身に興味が湧くと思います。
しい流れがナマに伝わる。
を感じるのです。
❹ 『 日 本 人 は ど う 死 ぬ べ き か?』 養 老 孟
『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃ
司・隈研吾(日経BP社、二〇一四)
東大教師が新入生にすすめる本 10
京に集中しているといういびつな状況です
いです。実演系の芸術文化は、圧倒的に東
どのような意味があるのか等を考えてほし
ているのか、それは私たちや社会にとって
企画をしているのか、どのように運営され
どのような役割を果たしてきたかを明らか
おり、それを活用して公会堂が社会の中で
た事業の資料を丹念にアーカイブしてきて
一四)です。日比谷公会堂は、主催してき
史が演出された舞台空間』新藤浩伸(二〇
重要な研究が『公会堂と民衆の近代─ 歴
堂がいかに豊かであったかを考える上で、
出版、二〇一三年)で考察をはじめていま
─
『行政改革と文化創造のイニシアティヴ
る 文 化 機 関 や 文 化 団 体 の 現 場 に つ い て、
らの行政改革で急激に変化を強いられてい
ころです。また、二〇〇〇年代に入ってか
が視野に入ってくるかどうか、気になると
では、文化を個人の教養や楽しみに押し
込めてしまう傾向にある日本において、公
え た も の が、『 文 化 権 の 確 立 に 向 け て─
が、その根拠や理念というものについて考
私自身は文化政策や文化行政に関する制
度やその運営について研究を行っています
版、一九八五)
❶ 『 限 界 芸 術 論』 鶴 見 俊 輔( 勁 草 書 房、 一
九 六 七)、『 大 衆 文 学 論』 鶴 見 俊 輔( 六 興 出
す。
新しい共創の模索』小林真理編(美学
が、東京(近郊)で学んでいる間に是非。
にしています。
共世界を作り出していくときに文化や芸能
文 化 振 興 法 の 国 際 比 較 と 日 本 の 現 実』( 勁
❸
『 公 共 哲 学 文 化 と 芸 能 か ら 考 え る 公
共性』宮本久雄・金泰昌編(二〇〇四)
が重要な役割を担っていることを教えてく
草書房、二〇〇四)です。憲法の改正が視
総合文化研究科・教養学部
(
)
准教授/英文学・比較文学
文学を研究するとはどのようなことなの
佐藤 光
ひかり
れます。また、一九八〇年代以降日本全国
さ とう
に現れた地方自治体設置による文化会館の
野に入ってくるときに、文化に関する権利
❹
原点は、公会堂だと言われます。その公会
11 東大教師が新入生にすすめる本
15
時 代 に 出 会 っ た 二 冊。 現 在 は『 限 界 芸 術
かを知りたくて、古本屋を巡っていた学生
み、ファシズムに対する解毒剤をブレイク
キーが、第二次世界大戦中にブレイクを読
知っているでしょうが、フランドルで育て
吉、家康についての逸話は誰でもいくつか
が 語 ら れ ま す。 日 本 で 育 て ば、 信 長、 秀
す。穏やかな言葉でヨーロッパ中世の文化
❸ 『分裂病と人類』中井久夫(一九八二)
僕に気づかせてくれました。これは二〇〇
に見出したという事実は、文学研究のある
『 鞍 馬 天 狗』、『 赤 穂 浪 士』、『 由 比 正 雪』 な
二〇一三年に新版が出た。中井の著作は
学問領域の壁を超えた全人的な考察を特徴
論』( ち く ま 学 芸 文 庫、 一 九 九 九) に ま と
どの時代小説に、昭和初期の日本に対する
一年に中公クラシックスとしても出版され
❷ 『 一 般 相 対 性 理 論』 P・ A・ M・ デ ィ ラ
ック著/江沢洋訳(ちくま学芸文庫、二〇〇
ていますが、装丁は断然中公文庫版が良い
っているのだろう、等、そういう違いにも
ば、同様に歴代ブルゴーニュ公の逸話を知
風刺と批判を読み取っていく鶴見の議論
としており、教えられるところが多い。
の で、 手 に 入 る な ら そ ち ら を お 勧 め し ま
べき姿の一つを示す。
は、作家が小説に施した仕掛けを解明して
❹ 『 柳 宗 悦 と ウ ィ リ ア ム・ ブ レ イ ク─ 環
流する「肯定の思想」』(東京大学出版会、二
す。
め て 収 録 さ れ て い る。 大 佛 次 郎 が 書 い た
学と文学研究の社会的意義を浮き彫りにし
〇一五)
京大で桑原武夫、鶴見俊輔、多田道太郎
の著作に親しみ、ロンドン大学で実証的な
五)
良しとする閉じた文学研究とは異なり、文
て お り、 私 に と っ て 研 究 の 出 発 点 と な っ
英文学研究の訓練を受け、東大駒場比較文
た。
❷ 『 ブ レ イ ク─ 革 命 の 時 代 の 予 言 者』
J・ブロノフスキー/高儀進訳(紀伊國屋書
大学初年度で物理を学ぶ際には、歴史的
発展に沿って学ぶか、現行の理解に基づい
学比較文化研究室で比較芸術に開眼して、
このような本が生まれました。序章だけで
これは漢字の最も古い形である甲骨文字
❸ 『 甲 骨 文 字 字 釋 綜 覽』 松 丸 道 雄・ 高 嶋 謙
一編(一九九五)
一つの極致です。
不足なくまとめていて、教科書のあり方の
非常に簡潔に薄く、最低限必要なことを過
れますが、これは後者の代表例でしょう。
て天下り的に学ぶか、大きく二通りに分か
たちかわゆう じ
理学系研究科 理
・ 学)
(
部准教授/物理学
高校のときになぜこの本を手に取ったの
か覚えていませんが、それ以来の愛読書で
❶ 『中世の秋(上 下
・ )』J・ホイジンガ著
/堀越孝一訳(中公文庫、一九七六)
立川裕二
も読んでみて下さい。
店、一九七六)
複雑怪奇なテクスト群を生み出してしま
ったために、狂気というレッテルを貼られ
ることの多かったイギリス・ロマン派の詩
人ウィリアム・ブレイクを、ブロノフスキ
ーは十八世紀英国社会という文脈の中で読
み直し、ブレイクが検閲をかいくぐるため
に韜晦に韜晦を重ねながら、時の権力を批
判し、言論と思想の自由を訴えたことを明
らかにした。ポーランド出身のブロノフス
東大教師が新入生にすすめる本 12
の辞書で、各文字に関する考察を載せた論
文を一九八八年のものまで全て枚挙したも
十年後の日清戦争の時期には「国家と憂楽
をした。ところが、その「客分意識」は、
た。 し か し、 本 書 に よ れ ば、
「 民 衆」 に は
の第一
and Readings in Physical Sciences
六巻として、 Springer
から Lecture Notes 「客分」なるがゆえの「政治意識」があり、
それをもとに近代国家に「異義申し立て」
の第八九〇巻として出版されま
in Physics
した。無料でネットで公式に手に入るもの
を 共 に す る」「 国 民 意 識」 へ と 変 容 す る。
のです。僕の専門とは全く異なりますが、
学問とはこういう地道な作業が基礎である
を出版して出版社として売り上げが見込め
する筆者にとっても刺激的であった。
書は、近代朝鮮のナショナリズムを専門と
近代国民国家と「民衆」の格闘を描いた本
ということを伝えてくれる、重い本です。
総合文化研究科・教養
)
学部教授/朝鮮近代史
るものか、大いに謎です。
(
つきあしたつひこ
月脚達彦
出版までの九年間の苦闘を語った「あとが
き」はどの分野を志す人が読んでも感動す
るでしょう。
❹ 『 N=2 supersymmetric dynamics for pe ❷ 『 世 界 の な か の 日 清 韓 関 係 史─ 交 隣 と
属国、自主と独立』岡本隆司(講談社選書メ
と し て 重 要 な の が、「 中 国」 か ら の 距 離 で
日 本 と 朝 鮮 は、「 近 代」 と い う 時 代 を か
なり異なる位置で迎えた。その位置の相違
チエ、二〇〇八)
ていければよいという「民衆」の「客分意
一八八〇年代前半の自由民権派の機関誌
には、日本が西洋人の属国になっても食っ
識」 を 批 判 す る 記 事 が し ば し ば 掲 載 さ れ
』
❶ 『 客 分 と 国 民 の あ い だ─ 近 代 民 衆 の 政
destrians
これはいろいろな大学での集中講義の講 治意識』牧原憲夫(吉川弘文館、一九九八)
義 録 を ま と め た も の で、 は じ め http://
Texts
arxiv.org/abs/1312.2684で 無 料 で 公 開 し
ていたのですが、二社が出版したいという
ので、 Hindustan Book Agency
から
13 東大教師が新入生にすすめる本
ならず、政治的・文化的距離でもある。こ
ある。ここでいう距離とは物理的距離のみ
けたものである。
代思想史を研究する上で、大きな示唆を受
史・外交史の研究書であり、筆者が朝鮮近 『コンビナートの人と労働』中岡哲郎 (平凡
❹ 『福沢諭吉と朝鮮問題─ 「朝鮮改造論」
の展開と蹉跌』(東京大学出版会、二〇一四)
徴兵された著者が詳細に描く、組織として
義すると、まず⑵から。前者は学徒動員で
的な観点を重視しつつ、⑶科学・技術の社
今やっている仕事を、⑴民族誌(エスノ
グラフィー)的な手法を使って、⑵組織論
社、一九七四)
の日本と朝鮮の位置づけの相違を無視して
『 時 事 新 報』 一 八 八 五 年 三 月 一 六 日 社 説
「 脱 亜 論」 で 知 ら れ る 福 沢 諭 吉 は、 実 は 日
の日本陸軍の病理である。軍隊は近代的組
は、日清戦争までの近代の日本と朝鮮の関
鮮 総 督 府、 一 九 四 〇) と い う 大 著 が あ っ
本に密航してきた朝鮮人と一八八〇年に出
❸ 『 近 代 日 韓 関 係 史 研 究─ 朝 鮮 植 民 地 化
と国際関係』森山茂徳(一九八七)
よる概説書から入って行ってほしい。
付けにもとづく、この中国近代史研究者に
勉強しようと思う人には、確かな史料的裏
きれない近代の日本と朝鮮の関係につい
契機に、侵略か連帯かという枠ではとらえ
も辛酸を嘗めることとなる。本書の刊行を
度も「挫折」を味わい、また朝鮮の開化派
って行った。しかし、福沢はその過程で何
ら「朝鮮改造論」を唱えて朝鮮問題に関わ
を 支 援 す る な ど、「 ア ジ ア 盟 主」 の 立 場 か
け入れ、さらに金玉均ら朝鮮の「開化派」
る。巨大化するテクノロジー、それを維持
後者は七〇年代に爆発事故を繰り返した
化学コンビナートの現場調査の記録であ
(中公文庫、一九九一)等も秀逸。
二 〇 〇 四)、『 失 敗 の 本 質』 戸 部 良 一 ほ か
『 虜 人 日 記』 小 松 真 一( ち く ま 学 芸 文 庫、
理は、現在の我々にとっても警鐘となる。
方法、極端な官僚的形式主義等といった病
織の原型であるが、その日本的秩序づけの
田保橋潔『近代日鮮関係の研究』上下(朝
係は理解できない。この問題については、
て、専門的に研究しようとする場合には必
会ったのち、慶應義塾に朝鮮人留学生を受
一九一〇年の「韓国併合」の「韓国」と
は、 日 清 戦 争 後 の 一 八 九 七 年 に 成 立 し た
て、これからもさらに考えて行きたいと思
会文化的なダイナミズムを研究する、と定
読書なのであるが、これから朝鮮近代史を
は、日露戦争後の一九〇五年に日本の保護
「 大 韓 帝 国」 の こ と で あ る。 こ の 大 韓 帝 国
総合文化研究科・教養
)
学部教授/文化人類学
ミャンマー(ビルマ)の激変しつつある
❷ ⑴ 民 族 誌。『 世 俗 を 生 き る 出 家 者 た ち』
藏本龍介(法藏館、二〇一四)
新鮮。
学習資源であるという指摘等、今読んでも
する労働の問題、そして事故が実は最大の
(
っている。
ふくしままさ と
福島真人
国とされたが、五年後に日本によって「併
合」された。なぜ日本は日露戦争後ただち
に韓国を「併合」しなかったのか、なぜ保
護国としたわずか五年後に「併合」に踏み
切ったのか。本書は、日本と大韓帝国の関 ❶ 『私の中の日本陸軍』(上 下
・ )山本七平
係、「 韓 国 併 合」 を め ぐ る 本 格 的 な 政 治 (文春文庫、一九九七)
東大教師が新入生にすすめる本 14
作。 ⑶ 科 学 論。『 科 学 が 作 ら れ て い る 時』
仏教僧院の姿を詳細に描いたホットな力
題)』(東京大学出版会、予定)
大 学 出 版 会、 二 〇 一 〇)『 真 理 の 工 場( 仮
生 態 学─ リ ス ク・ 実 験・ 高 信 頼 性』( 東 京
すべく、実際に米国が行った戦争の「意図
ってする政治の継続にほかならない」を覆
年)の有名な定理「戦争とは他の手段をも
と、戦争史のプロに学ぶところは大きい。
らイラク戦争まであらためて並べてみる
せざる結果」を検証したもの。独立戦争か
ブリュノ・ラトゥール(産業図書、一九九
精神医療、原子力、救命救急センター、
実験室といった、高度の専門的知識を必要
九)。 現 場 で の 科 学 実 践 の 長 期 研 究 か ら 導
き出された、ポスト・パラダイム論(科学
(
とおる
史料編纂所近世史料部門・画像史料解
)
析センター
(兼)
教授/幕末対外関係史
編(岩波書店、二〇一四)
力と日常世界』歴史学研究会・日本史研究会
『「慰安婦」問題を/から考える─ 軍事性暴
とする社会的空間における、知・技術・組
ほう や
昨今“話題”のテーマであり、政治的な
手垢のついた話題は避けられがちかもしれ
ないが、このテーマが研究の世界で、ある
─
─ 「意図
1775 2007
せ ざ る 結 果」 の 歴 史』 ケ ネ ス・ J・ ヘ イ ガ
❶ 『 ア メ リ カ と 戦 争
いは日常の世界でどのような広がりを持つ
東 大 生 た る も の、「 慰 安 婦」 は な か っ た と
問題なのかを指し示してくれる。もちろん
ン、イアン・J・ビッカートン/高田馨里訳
保谷 徹
織のダイナミズムの研究。
人類学)の古典。
❸ 『「わざ」から知る』生田久美子(二〇〇
七)、『 か ら だ: 認 識 の 原 点』 佐 々 木 正 人
(二〇〇八)
前者は日本舞踊を分析哲学的な観点から
論じたもの。後者はギブソンの生態学的な
知覚理論に基づいて、独自の身体論を展開
しており、⑴~⑶のテーマには必須。
❹ 『 暗 黙 知 の 解 剖─ 認 知 と 社 会 の イ ン タ (大月書店、二〇一〇)
ーフェイス』(金子書房、二〇〇一)『学習の
ク ラ ウ ゼ ヴ ィ ッ ツ『 戦 争 論』( 一 八 三 二
15 東大教師が新入生にすすめる本
か、強制はなかったとか、俗論に惑わされ
てはならないとも思う。是非ご一読された
い。
❷ 『 鎖 国 と 開 国』 山 口 啓 二( 岩 波 書 店、 一
九九三、のち岩波現代文庫)
舞台裏』(吉川弘文館、二〇一〇)
武力行使を決意する。この下関戦争(一八
❸ 『 外 交』 H・ ニ コ ル ソ ン / 斎 藤 眞・ 深 谷
満雄訳(UP選書、一九六八)
六 四 年) に 至 る 過 程 を、 各 国 の 外 務 省 史
英国を中心とする条約列強は、日本の攘
夷主義、とりわけ幕府の鎖港方針に対して
前項に入れるべき外交論の古典。英国の
外交官だった著者が外交の仕組みや慣例を
ァルな手法で明らかにした。
料・海軍省史料などからマルチアーカイヴ
記し論じたもの。初版は一九三九年。外交
万里子(二〇一三)
史を目指すものにも欠かせない。
一昨年亡くなった日本近世史のリーダー
的存在が、一般向けに平易な文体で書いた 『プロイセン東アジア遠征と幕末外交』福岡
江戸時代論。一見読みやすく見えるが、記
『 日 本 開 国 史』 石 井 孝( 吉 川 弘 文 館、 一
九七二)が対象とした安政五か国条約に続
上達夫(創文社、一九八六)
❶ 『 共 生 の 作 法─ 会 話 と し て の 正 義』 井
法学政治学研究科・
(
)
法学部准教授/行政学
まえ だ けん た ろう
く時代に切り込んだ最新の成果。一八六〇
前田健太郎
究状況をしっかりと踏まえて論理化されて
年に来日したプロイセン使節団と幕府との
述の細部にいたるまで鋭利な史料分析と研
おり、実に奥深い内容となっている。必読
マルチアーカイヴァルな手法で緻密に分析
社会に出れば男女差別や外国人差別に直面
残念ながら、この世は悪と不正に満ちて
いる。学校では弱いものいじめが横行し、
することも日常茶飯事である。しかも、ど
から、正義の味方を気取っても仕方がない
ものはそれぞれの人の価値観の問題なのだ
うやらそのことを問題だとすら思っていな
戊辰戦争の通史だが、軍事技術と軍制の
変化、従来等閑にされがちな補給・輜重あ
のではないか。学生時代、こうした「現実
戊辰戦争』(吉川弘文
されている。
条約交渉過程が、ドイツ語史料を駆使した
文献。
『 世 界 史 史 料』 全 一 二 巻 歴 史 学 研 究 会 編
(岩波書店、二〇〇六 ─一三)
“ 史 料 読 み” に と っ て は 面 白 す ぎ る“ 驚
異 の シ リ ー ズ”。 世 界 史 の 教 科 書 に 載 っ て
るいは戦争遂行のための諸装置の問題に着
義についての議論の仕方を教えてくれた。
きなかった私に、本書は善悪や正義と不正
い人も多いらしい。結局、善や悪と言った
〇年前のハンムラビ法典すら日本語で見る
目し、単なる戦局史ではなく民衆徴発の実
❹ 『戦争の日本史
館、二〇〇七)
ことができ、拾い読みでも楽しめる。第一
的」な意見に接して何も言い返すことがで
いるようなことの根拠がひとつひとつ一次
二巻は外国史料を中心に日本を扱ってお
態や戦場の社会史に触れるようにつとめて
史料によって示されていく。例えば四〇〇
り、筆者も編者のひとりである。外国側の
『幕末日本と対外戦争の危機─ 下関戦争の
いる。
づけようと試みている。
史料に目配りして世界史の中に日本を位置
18
東大教師が新入生にすすめる本 16
❷ 『 定 本 想 像 の 共 同 体─ ナ シ ョ ナ リ ズ
ムの起源と流行』ベネディクト・アンダーソ
損はない。
❹ 『 市 民 を 雇 わ な い 国 家─ 日 本 が 公 務 員
の少ない国へと至った道』(東京大学出版会、
わらない。人間がそんな生き方をするよう
生きている。この事情は、どんな国でも変
り、自分もその集団の一員であると信じて
いう集団が実在するかのように世界を語
かかわらず、我々はあたかも「日本人」と
ほとんどの日本人は、互いに顔を合わせ
ることもないまま一生を終える。それにも
れる。本書は、明確に後者の立場を取って
見を戦わせるための知的な訓練を施してく
多くの前提知識を必要とするが、他人と意
くれるわけではない。後者は読み解くのに
いるが、自分の議論の組み立て方を教えて
科書である。前者は知識を得るには向いて
ぜ他人の学説と違うのかを明らかにする教
学説を紹介する教科書と、著者の考えがな
私の理解する限り、政治学の教科書には
二つの種類がある。それは、他の研究者の
いては、実際に読んで確かめて頂きたい。
なりのやり方で解いてみた。その答えにつ
はないのか。本書では、この単純な謎を私
が強いのだから、公務員の数も多いはずで
である。日本は他の国よりも官僚制の権力
にわかにそのことが信じられなかったもの
ろうか。この事実を初めて知った時、私は
日本の公務員の数は先進国の中でも極端
に少ないということを、皆さんはご存知だ
二〇一四)
になったのは、一体なぜなのか。本書は、
いる。政治学の教科書を一冊挙げるとすれ
❸ 『 政 治 学 講 義 第 二 版』 佐 々 木 毅( 二 〇
一二)
この社会科学史上の難問に挑んだ作品であ
ば、私は迷うことなく本書を推す。
ン/白石隆・白石さや訳(書籍工房早山、二
る。内容が面白いのはもちろん、文体も非
〇〇七)
常に洗練されており、一度は読んでおいて
17 東大教師が新入生にすすめる本
先端科学技術研究セ
)
ンター教授/行政学
す。驚いた著者は、もう一度なぜ読書をす
「文学はもう死んでるね」と父に通告しま
❸ 『 新 版 日 本 官 僚 制 の 研 究』 辻 清 明( 一
九六九)
本書は、もとは弘文堂から公刊され、そ
れを東京大学出版会が改編して出版するこ
(
いづる
とで、今でも日本政治研究で読み継がれる
まき はら
えます。アメリカ大都市でどう本を読むか
牧原 出
は、東京の大学で学生生活を始める皆さん
るのか、息子の目線に立とうとしながら考
❶ 『 そ れ で も、 読 書 を や め な い 理 由』 デ ヴ
ィッド・L・ユーリン/井上里訳(柏書房、
古典的著作となっています。太平洋戦争か
ら戦後憲法が誕生した時期に書かれた官僚
武装をするか? 本書の著者はロサンゼル
ス・タイムズの文芸記者で若年時からの筋
す。この二一世紀的状況の中で、どう知的
イスブックでつながりっぱなしの生活で
とは言えません。そこへツイッターやフェ
ながら東京とは、勉学・研究に適した環境
る大学こそが、本物の大学なのです。残念
はなく、さほど大きくはない大学都市にあ
いわゆる国際大学ランキングの最上位校で
ンドン、パリなど世界都市にある大学は、
眼から見ても、卓抜な読み物だというわけ
ほしいと言われました。つまりは編集者の
向けに出版するため、重要な項目を選んで
達した編集者から、この日記の抄録を一般
きる古典と言えます。先日ある出版社の熟
の意図や、時代状況をつかみとることがで
て繰り返し読むことで、紙背に潜む書き手
到達点です。日記という形式は、時をおい
則など、この日記は近代日本政治の一つの
き出す政治情勢への判断、合理的な行動準
す。他の政治家に対する観察、そこから引
原敬は、大正期に立憲政友会を率いて初
めて本格的な政党内閣を組織した政治家で
たものです。二〇世紀と二一世紀の間に立
を、国際比較と基礎史料にもとづいて論じ
府・ 政 党 シ ス テ ム が ど う 変 容 し て き た か
いずれも冷戦終結後に急速に姿を現した
「 改 革 の 時 代」 を 見 据 え て、 日 本 の 行 政
を安定させるのか』(NHK出版、二〇一三)
❹ 『行政改革と調整のシステム』(東京大学
出版会、二〇〇九)、『権力移行─ 何が政治
じることを感じて頂きたいと思います。
れは戦後に誕生した東京大学出版会にも通
と戦後政治学を建設しようとする息吹。そ
ています。民主化を通じて新しい戦後社会
が、 そ の ま ま 日 本 の 政 治( government
)
を論ずる状況」であったと著者は後に語っ
巻』 原 奎 一 郎 編( 福 村
のヒントとなるでしょう。
制改革についての論稿が中心です。なぜ官
金入りの読書家ですが、ネットに時間をと
です。いまだ出版されていない抄録がもし
❷ 『 原 敬 日 記 全
出版、二〇〇〇)
二〇一二)。
東京の大学に入学した皆さんは、世界で
もまれなグローバル都市東京で生活を送る
られるここ数年間「腰を落ち着けて本を読
在学中に出版されれば、ぜひそちらからと
僚制か? 執筆当時は「行政を論ずること
むのが難しくなってきた」ことに気付きま
思います。
ことになります。しかしニューヨーク、ロ
す。十五歳の息子は、学校の課題図書『グ
って考えたものといえるかもしれません。
レート・ギャッツビー』を読み終えた後、
6
東大教師が新入生にすすめる本 18
う日本政治・行政が受け止めたかについて
二一世紀的なグローバル化の負の側面をど
としての道を引き返せなくなった最大のき
原書を精読・訳読したのが学説屋・翻訳屋
は学部三年生の頃、本訳書を手引きに仏語
られていない課題の一つである。個人的に
に読んでもわからない。その先に進むには
を読んでわからないことはルーマンを普通
かることは本書を読めば全部わかる。本書
書一択である。ルーマンを普通に読んでわ
研究としての読み方が必要になる。
は、現在新著を準備中です。
っかけであり、いろんな意味で忘れられな
学説研究者としての私の仕事は社会的シ
ステム理論を標榜するルーマンの厖大な業
❷ 『 ル ー マ ン / 社 会 の 理 論 の 革 命』 長 岡 克
行(勁草書房、二〇〇六)
有、しかし結論には常に不満という態度で
の系統の仕事には、問題意識は基本的に共
最近著である。私は学部の頃から師匠のこ
情報学環・学際情報学府准
)
教授/理論社会学・翻訳
❶ 『 社 会 学 的 方 法 の 規 準』 デ ュ ル ケ ム / 宮
島喬訳(岩波文庫、一九七八)
績を解読することだが、とにかくこれが本
接してきたが、本書でもその印象は変わっ
(
自然科学的な現象にも意識・心理的な現
象 に も 還 元 で き ず、「 社 会 的」 と し か 形 容
当 に 恐 ろ し く 厖 大 で あ る。 に も か か わ ら
ていない。しかしだからこそ本書は何度も
み たにたけ し
しようのない独特なリアリティの存在をど
ず、時々熱心な学部生からルーマンを読ん
読み返すに値するし何度読んでも面白い。
三谷武司
うやって理論的に確保するか─ これは本
でみたいがどれから読めばいいか教えてく
❸ 『 社 会 学 の 方 法 的 立 場─ 客 観 性 と は な
にか』盛山和夫(二〇一三)
書が書かれた一九世紀末の当時から現在に
れと訊かれる。この質問に対する答えは本
い一冊である。
到るまでずっと、理論社会学にとって最重
前述の理論社会学の課題に長年アタック
を続けてきた著者(私の師匠でもある)の
要であると同時にいまだ満足な解決を与え
19 東大教師が新入生にすすめる本
疫学は、医療社会学とも表裏一体の領域で
疫学の理論と手法を使う。もちろん、社会
社会疫学とは、健康に影響を与える社会的
❷ 『 臓 器 交 換 社 会─ ア メ リ カ の 現 実・ 日
本の近未来』レネイ・C・フォックス、ジュ
ある。本学医学系研究科の教授陣の編集に
要因の探求を目的とした学問分野であり、
ディス・P・スウェイジー/森下直貴・倉持
心を寄せるようになった。
リーズ三点(早川書房)なのだが、多少と
武・窪田倭・大木俊夫訳(青木書店、一九九
❹ 翻訳書ばかり出している。既刊で最新は
ヴィヴェカ・ステンによる北欧ミステリシ
も専門に近い既刊として
『メディ アとしての紙の文化史』ローター・
よる本書は、貧困、教育、文化、ジェンダ
がふんだんに示されており、社会学、経済
ーなど多岐にわたる論点に関して、データ
九)
学、政治学を学ぶ人たちにとってもわかり
を挙げておく。今年は秋頃にウンベルト・
ミュラー/拙訳(東洋書林、二〇一三)
著者のフォックスは、長期に渡るフィー
ルドワークを根拠に研究を進める医療社会
やすい一冊になっている。学際的に仕事を
エーコの訳書が出る(すこぶる面白いので
していきたい文科系の人には、とてもお勧
学者。脳死・生体臓器移植が当たり前の時
代に生まれた人にお勧めしたい。iPS細
め!
❹ 『 医 学・ 生 命 科 学 の 研 究 倫 理 ハ ン ド ブ ッ
ク』( 仮) 神 里 彩 子・ 武 藤 香 織 編( 東 京 大 学
胞などのヒト幹細胞を活用した再生医療の
出版会、近刊)
実現に躍起になっている今の日本を背景に
乞うご期待)ほか、学術系の訳書を二点出
す予定。
む とう か おり
あるかを実感するだろう。そして、この本
読み直すと、なんと古くて新しいテーマで
の 終 わ り に は、「 い か に フ ィ ー ル ド を 去 る
医科学研究所教授/
)
医療 社 会 学 研
・ 究倫理
か」が様々な葛藤と共に論じられている。
昨今、研究倫理に関する報道が多く、学
生の皆さんも得体のしれない不安を抱えて
(
❶ 『〈子供〉の誕生─ アンシァン・レジー
ム期の子供と家族生活』フィリップ・アリエ
いるかもしれません。医学・生命科学を志
武藤香織
ス/杉山光信・杉山恵美子訳(みすず書房、
これは、分野を問わずフィールドワークを
す人たち、特に人の試料・情報を用いる研
伴う研究を目指している人には、いつか直
面する課題の一つ。ぜひ接してほしい一冊。
鋭たちとともに、手ごろなハンドブックを
てみてください。
経験を集約した一冊です! ぜひ手に取っ
つくりました。本学に着任してからの教育
究を考えている人たちのために、若手の精
❸ 『 社 会 格 差 と 健 康─ 社 会 疫 学 か ら の ア
プローチ』川上憲人・小林廉毅・橋本英樹編
一九八〇)
「 当 た り 前 を 疑 う」 と い う 社 会 学 の 考 え
方を知った頃に読んだので、中世の子ども
が子ども扱いされず、飲酒も自由だったこ
と や、「 純 真 無 垢 で 子 ど も ら し い 子 ど も」
近年、様々な格差のなかでも注目を集め
る「 健 康 に お け る 格 差」。 タ イ ト ル に あ る
の存在が近代の産物であることを知って、 (二〇〇六)
衝撃を受けたことを覚えている。そして、
近代が生み出した婚姻制度や医療制度に関
東大教師が新入生にすすめる本 20
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