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静岡県を中心とする民間伝承の研究 (わらべうたを中心に) 美濃部 京子

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静岡県を中心とする民間伝承の研究 (わらべうたを中心に) 美濃部 京子
静岡県立大学短期大学部浜松校
特別研究報告書(平成 11・12 年度) − 17
1
静岡県を中心とする民間伝承の研究
(わらべうたを中心に)
美濃部 京子
Nursery Rhymes around Shizuoka Prefecture:
A Folklore Research
MINOBE Kyoko
はじめに
近年、子どもを取り巻く状況の変化に従って、昔話やわらべうたなどの昔ながらの伝承
はだんだん姿を消し、忘れ去られていく傾向にあると言ってよいだろう。
たとえば、核家族が増え、祖父母と同居することが少なくなり、お年寄りから話を聞い
たり、一緒に遊んだりする機会がだんだん少なくなっている。また、ふだんの遊びにして
も、同年代の友達同士で遊ぶことが多く、学年や世代を越えた交流の機会が少なくなって
きている。それに、放課後の塾通いやメディア、おもちゃの氾濫によって伝承のわらべう
たを歌って遊ぶ機会さえ失われてきているのではないかと危惧される。
また、わらべうたを歌っていたとしても、活字文化や映像文化の影響で、本やCD、テ
レビなどで固定された形のわらべうたしか聞いたことがなく、実際の生きた伝承の場でわ
らべうたに接している子どもたちも少ないのではないかと想像される。
ところが、一方で「学校の怪談」などの現代伝説は盛んに伝承されているようであるし、
最近では「ドラえもんの最終回」
「幸福のEメール」など最新のメディアを通じて広がる伝
承も数多く報告されている。
こうした現代社会における伝承に興味を持った私は、本学に赴任以来、授業のテーマに
関連して受講学生にアンケート調査を行ってきた。そこでわかったことは、こうした伝承
は昔と比べるとその姿は変化してきているが、伝承そのものは決してなくなってはいない
ということである。それどころか、その形式や内容は変わってきているものの、相変わら
ず生きた豊かな伝承の実態を確認することができた1)。
今回の特別研究はそうした伝承の実態を在学生だけでなく、広く卒業生まで含めてアン
ケート調査を行い、静岡県を中心にした伝承がどのように伝えられ、世代によってどのよ
うに変化してきたのかを調査しようと試みるものである。
調査対象および調査方法
静岡女子短期大学、静岡県立大学短期大学部の卒業生を5年ごとに選び出し、それぞれ
の年の卒業生の人数がだいたい同数になるように対象を設定した。(ただし昭和 43 年度の
卒業生については学科数が少なかったこともあり、他年度よりも少ない人数になってい
る。
)また、それに加えて静岡県立大学短期大学部および静岡文化芸術大学の在学生にも同
じ調査を行った。
卒業生については、対象とした学年・学科の全員にアンケート用紙を郵送し、回答を返
送してもらう方法を採った。また在学生については授業時間の一部を利用してアンケート
用紙を直接配布し、回収する方法で行った。
アンケートの配布数および回収数は次の表の通りである。
2
表 アンケート配布および回収状況
送付
昭和43年度卒
昭和48年度卒
昭和53年度卒
昭和58年度卒
昭和63年度卒
平成5年度卒
平成10年度卒
平成12年度卒
SUAC1期生
計
受領
45
100
110
111
120
113
114
35
54
802
17
38
38
32
29
33
16
35
54
292
回収率 備考
37.77778 文科国文・英文専攻
38 文学科、食物栄養学科
34.54545 同上
28.82883 同上
24.16667 文化教養学科
29.20354 同上
14.03509 同上
100 比較文化論受講生
100 英語コミュニケーション受講生
36.40898
上記の通り配布したアンケート用紙は 802 通、回収できたものは 292 通で回収率はほぼ
36.4%だった。そのうち授業時間中に配布したものは 100%回収できたが、郵送分について
は送付数 713 のうち返送のあったものが 203 で、回収率は約 28.5%である。
調査項目
調査項目は次の通りである。
1.被調査者の個人情報
アンケートであれば、記入者の氏名等個人情報は書かないのが普通であるが、今回は伝
承に関する民俗調査であるので、インフォーマントの情報は欠かせない。特に年令や出身
地、子ども時代を過ごした地域を入れてもらった。(こうした事情をあらかじめ説明してお
かなかったため、一部匿名の回答もあった)
2.様々な口承文化の伝承状況
昔話、伝説、わらべうた、俗信・迷信について、それぞれ聞いたことがあるか、だれか
らどのような形で聞いたか、それを誰かに伝えたかという点についてたずねた。
3.わらべうたの伝承状況
わらべうたの中で、人寄せ歌、ジャンケン歌、鬼決め歌など 21 の種類について、それぞ
れ聞いたことがあるか、だれから聞いたか、自分で歌っていたか、誰かに伝えたかという
点についてたずねた。
4∼8.わらべうたの中でも特に伝承がよく残っていて、変化に富むと考えられる「鬼決
め(占い)
」
「子もらい遊び」
「手合わせ」
「まりつき」
「縄跳び」について、それぞれどのよ
うな歌を歌っていたか個別にあげてもらった。
9.上記以外でよく歌った歌があれば書いてもらった。
10.その他わらべうたについて自由に記入してもらった。
詳しい調査項目については最後にアンケートの全文をあげておく。また、この他に回答
用紙を作成し、回答は全て回答用紙の方に記入してもらった。
今後の展望
現在のところ、アンケート結果の方はまだ集計途中であるので、具体的な成果を発表で
きるまでには至っていない。ただ、今後の見通しとして、それぞれの年代における伝承状
況の変化、実際に歌われているわらべうたの内容の変化、地域による違いなどを少しずつ
でも明らかにしていけることと思う。ひとつひとつの項目について整理した結果は、少し
ずつ機会を見つけて発表していくつもりである。
3
また、今回のアンケートを通じて回答者から様々なわらべうたに寄せる思いが寄せられ
たことは思いもかけぬ収穫であった。「この頃わらべうたなどあまり聞かないのでとても
なつかしくなった」
「忘れていたうたを思い出した」
「世代間のふれあいが少なくなったこ
とを淋しく思う」「伝える努力をしていかなければ」といったような言葉から、回答者のわ
らべうたへの思いが伝わってくる。わらべうたは古くさく忘れ去られて当然のものという
のではなく、大事に守り伝えていきたいものという思いがそれぞれの回答から感じられて
うれしく思えたものである。
今回の調査の結果を整理し、発表していくことで、廃れていると思われている民間伝承
の実態とその豊かさ、面白さをより多くの人に知ってもらいたいと思う。そして、ひとり
でも多くの人が、自分自身を伝承の担い手として、大切な祖先からの文化遺産を後世に伝
えていく意識を持ってくれることを期待したい。
注
1)拙著「学生に聞いた都市伝説」『静岡県立大学短期大学部研究紀要』第5号(1992)pp.
31-42、および「学生に聞いた伝承 俗信・都市伝説・わらべうた」
『静岡県民俗学会
誌』
(1998)pp.33-40。
参考資料 実施アンケート内容
わらべうたの伝承に関するアンケート
1.まず、あなた自身についてお答えください。
①お名前 ②生年月日 ③現住所 ④出身地(町村名まで)
⑤③④以外に子供時代をすごしたところがあれば、その地名
2.様々な口承文化について聞かせてください
2−1.子ども時代に次のような伝承を聞いたことがありますか。 ○×で
2−2.ある方は誰から聞きましたか。
2−3.それはどんな形で聞きましたか 口伝え、絵本、テレビなど
2−4.聞いたものを自分でも誰かに伝えましたか。 ○×で答えてください
2−5.ある方は誰に伝えましたか。
①「舌切り雀」
「蛇婿」
「和尚と小僧」などの昔話
②「遠州七不思議」「羽衣の松」などの地方の伝説
③わらべうた ④「夜爪を切ってはいけない」などの俗信、迷信
3.わらべうたについて
3−1.次のようなわらべうたを聞いたことがありますか(必ずしも例と同じものでな
くてもかまいません)あれば○、なければ×でお答えください。
3−2.それは、いつ頃誰から聞きましたか。(例:幼稚園のころ祖母から)
3−3.子どものころそれを自分でうたっていた記憶がありますか。○×でお答えを。
3−4.大人になってから、それを誰かにうたって聞かせたことがありますか。○×で。
3−5.それは誰にですか。(例:孫に、子どもに、大学時代の友人に)
①「かくれんぼするものこの指とまれ」などの人寄せ歌
②「ジャンケンホカホカ」
「最初はぐー」などのジャンケン歌
③「おせんべ」「つぼどん」「いっちくたっちく」などの鬼決め歌
④「伊勢新潟」「ひとつとせ」
「あんたがたどこさ」
「一匁の一助さん」などの手まり歌
⑤「ひとり来な」
「正月二月」などの羽根つき歌
⑥「おじゃみ」「おさらい」などのお手玉歌
4
⑦「子どもと子どもと」
「そうめんや」
「あんたちょっと」などの手遊び歌
⑧「森の和尚さん」「ひとつひよこが」
「せっせっせ」などの手合わせ歌
⑨「つるさんは」
「シーちゃんくーちゃん」などの絵描き歌
⑩「子とろ」
「かごめ」「ぽこぺん」などの鬼あそび歌
⑪「大波小波」「郵便屋さん」
「一羽のカラス」などの縄跳び歌
⑫「花いちもんめ」「タンス長持ち」などの子もらいあそび歌
⑬「通りゃんせ」などの関所あそび歌
⑭「大寒小寒」「山火事焼けた」など自然に関する歌
⑮「まいまい」「ほたる」
「カラス」など動植物に関する歌
⑯「鴨江観音数え歌」「ひとつとや」などの数え歌
⑰「正月はいいもんだ」
「七草なずな」
「どんどん焼き」など季節の行事に関する歌
⑱「馬鹿あほ」「みっちゃんみがつく」などのからかい歌
⑲「かいぐりかいぐり」
「一本橋こちょこちょ」「愛宕さんへ参って」などのあやし歌
⑳「この子のかわいさ」
「寝ないとネズミに」「坊やはよい子だ」などの子守歌
21「お正月」
「ひなまつり」などの替え歌
4.ものを選ぶときに「どれにしようかな」「おいべっさま」などの唱え歌をとなえたこと
がありますか。具体的に、いつ頃、どのような言葉を使っていましたか。
(例:小学生のころ「どれにしようかな神様のいうとおり なのなのな 柿の種」
)
5.子もらいあそび(花いちもんめ)をするときはどんな歌を歌いましたか。
6.手合わせ(せっせっせ)をするときは主にどんな歌を歌いましたか。
7.まりつきをするときはどんな歌を歌いましたか。
8.縄跳びをするときはどんな歌を歌いましたか。
9.上記以外に、昔よく歌ったわらべうたで覚えているものがあれば、書いてください。
歌詞だけでなく、どんな状況で歌ったかということなどもあわせてお書きいただけると
うれしく思います。。
10.その他わらべうたについての思い出などがあればご自由にお書きください。たとえば、
自分が昔歌っていたものと、今ご自分のお子さんやお孫さんが歌っているのが随分違っ
ているというようなことでも結構です。
ご協力ありがとうございました。
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