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株式投資教育と情報処理 ポートフォリオ理論の実践的応用
平成17年度 全国大学IT活用教育方法研究発表会 D-9 株式投資教育と情報処理─ポートフォリオ理論の実践的応用─ 松本直樹 松山大学経済学部 愛媛県松山市文京町 4-2 (089)926-7410 [email protected] 1. 問題の所在 実社会での経験を欠く学生に対して、経済や経営と いう学問領域に関心を持たせることは、本来、容易な 以上にリスクを低い水準に抑えることができる、とい う投資家にとって好都合なパフォーマンスを得ること なのである。 ことではない。しかし発表代表者の教員としての試行 ポートフォリオのリターンは各銘柄のリターンをそ 錯誤を経て、株式投資シミュレーションゲームを体験 の組み入れ比率でウェイト付けして加重平均したもの させることが、実社会の仕組みに関心を向ける動機付 であるが、ポートフォリオのリスクの方は個別銘柄の けとしては極めて有効であり、初学年での経済学教育 リスクの加重平均ではなく、リスクと組み入れ比率間 において、かなりの効果を有することを確信するよう に共分散が介在してくる。従って銘柄の混合保有は、 になった。 ポートフォリオのリスクをそれぞれ個別銘柄のリスク 実際、株式投資に関心を持って経済学部や商学部に の加重平均以下に引き下げうる余地が生じる。つまり 入学して来る学生はもともと少なくないことから、学 うまく複数の銘柄を組み合わせることによって、一定 生の多くは潜在的に株式(市場)に知的関心を抱いて のリターンを確保しながらより大きなリスク低減が可 いる。しかしながら特にファイナンスに関しては多く 能となってくる。要はうまく組み合わせるとはどうい の大学における現状のカリキュラムではその点で配慮 うことなのかを探求することであり、その仕方を明ら を欠いており、必ずしも学生のその種のニーズに十分 かにすることである。 に応えているとはいえない。対応する講義科目等が仮 このように単一銘柄のリスクとリターンの関係性だ に存在していても、例えばポートフォリオの考え方に けではなく銘柄間の連動性をも考慮するポートフォリ 関しては実際には理論面に著しく偏っており、現実の オ理論は、学生には少々ハードルが高い。しかも近年、 株式市場とのかかわりが薄い嫌いは拭いきれないとこ 理論を抽象的に理解することが苦手な学生が目立つよ ろであろう。 うになってきている。 なお、ここでのポートフォリオとは複数の銘柄に投 そこでまず学生に対し、株式市場における擬似的な 資すること、つまり投資対象を分散化することを意味 売買を通じて、企業、産業、地域経済、一国経済、延 し、通常は、複数の資産の組み合わせ自体をポートフ いては世界経済へと、徐々に彼らの視野を広げさせる。 ォリオと呼んでいる。なぜこのような分散投資が有利 経営指標だけでなく為替レートの動き、長期金利、株 に働くのかを、この理論では次のように説明する。直 式指数や経済指標などについてもある程度学ばざるを 感的にいって、分散投資をすれば、一つの銘柄だけに 得ないことが学生なりに分かってくる。その過程で情 投資した場合と比べ、リスクが減るというのは分かる。 報収集のノウハウも自然と身についてくる。また表計 しかし、リスクが半分になれば、リターンも半分にな 算ソフトを応用して分析に役立てることを覚えていく。 ってしまうと考えがちである。ところがこの理論が説 特にローソク足やボリンジャーバンド、RSI,ストキャ 明する分散投資の本質とは、このリターンが低下する スティクスなど、いわゆるテクニカル分析は、ある程 社団法人 私立大学情報教育協会 度の統計学的知識とパソコン操作に通暁していなけれ リスク最小化問題を計算させること、などが挙げられ ば果たしえない部分を含んでいる。 る。最後に④ファンドとして得た最適ポートフォリオ ただし単にゲーム的な興味を教育にまで高めるには、 やはりそれなりの工夫が必要である。学生は一面的で の意味を掘り下げ、その結果を正当化するために、そ の構成比に対し解釈をも加味するよう指示する。 勘頼みの銘柄選定をしがちであり、先に触れたように、 単一銘柄の決定と銘柄間の関連性を考慮するポートフ ォリオ決定との結び付き(ポートフォリオ理論の本質) を認識せずに結論を求める抜きがたい傾向を持つ。 3. 実践による改善効果 現代ファイナンス理論を抽象的に理解することを、 そもそも苦にする学生に対し、株価という具体例に基 づきながらパソコン操作によるデータ加工を通して学 2. 改善内容と方法 ばせることで、少なくともポートフォリオ理論の本質 そこでシミュレーションゲーム後の課題として、特 については効率的に実感させ、納得させることが可能 定のテーマに基づいてポートフォリオを作成させるこ である(手作業的な「できる」の段階から抽象的な「意 ととした。テーマは産業やベンチャー株式市場、投資 味がわかる」の段階への橋渡し)。更に参加した学生に 信託に組み入れられているものなど、可能性は多岐に は、ポートフォリオ選定銘柄の一部に思い入れや愛着 わたっている。発表代表者が学生に課した最新のもの を感じ、その後も強く意識する傾向が見られ、企業研 では、四国に本社機能を持つ上場企業や四国への進出 究や業界研究と結び付けてその後の就職活動に活かし している上場企業を対象に、ご当地ファンド組成のテ ていること(キャリア教育面での効果)が昨年度に確 ーマで作業に取り組ませた。 認できた。最後に財務情報からファンダメンタルズを このご当地ファンドとは地域密着型の投資信託のこ 探求しようとする一部の学生は自主的に財務諸表知識 とであり、そこではある特定の地域内に本社またはこ 修得に積極的に取り組み出し、またテクニカル分析に れに準ずるものを置いている企業、ないし本社は別地 関心を持つ学生は統計学的手法のマスターに努め、そ 域にあるものの、その地域に進出して雇用創出の実績 の結果、情報処理能力向上(IT スキルの獲得)といっ のある企業に投資対象が限定される。そして取り扱い た副次的効果も顕著な傾向として確かめられた。その 金融機関もその地元の地方銀行等が主体となって行わ 結果、発表代表者は昨年度の授業評価のなかで上位の れることが多く、いわば地域住民の資産運用とその地 成績を得ることができた。 域経済の活性化との両立を図ろうとするものであり、 ペイオフ全面解禁後の受け皿として、近年期待され、 注目されている。しかしながら四国に関連するものは まだ存在していない。 4. 共通性(拡大性・汎用性) 幸い、各ポータルサイトが提供する企業情報や株・ このようにして具体例に基づくポートフォリオの銘 投資信託取引等の情報などを利用することにより、事 柄選定作業は、ファイナンス理論の理解を手助けする 実上無料で毎日、分析のための最新の時系列データが だけでなく、キャリア教育や IT スキル獲得にも有用で 入手可能である。 ある。今後は前半のシミュレーションゲームと後半の そこでまずオリジナルのご当地ファンド組成のため ポートフォリオ理論とをよりスムーズに連動させ、グ の具体的な作業としては、①インターネットを通して ループ学習とここの手作業を効率的に関連付けられる 実際の株価データ等の情報を収集させ、その後、②表 よう、e-Learning の自習用の教材を作成したい。 計算ソフトを用いて株価変動によるリスク・リターン の兼ね合いと銘柄間の連動性を理解させ、更に③対象 銘柄を具体的に限定し、任意のリターンを所与として 社団法人 私立大学情報教育協会