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資料2-1 - 経済産業省

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資料2-1 - 経済産業省
資料2-1
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(C) 2016 IEEJ, All rights reserved
1
1
2
先行する世界の主要排出量取引制度
1.EU
2005年からEU-ETSを導入。現在、31カ国が参加し、第3フェーズ(2013~
2020)期間中でEUの総排出量の約50%をカバー。今後、第4フェーズ(2021~
2030)の制度変更が提案されている。
2.米国カリフォルニアや北東部諸州での取り組み
カリフォルニア州が2013年から電力を含む事業者を対象に、RGGI(北東部9州)
が2009年から電力を対象に排出量取引を開始。
連邦レベルでは、2015年8月にEPA(環境保護庁)が既設火力発電所へのCO2排出
規制を行うClean Power Plan(CPP)を発表。米国全体の排出量の約30%をカバー。
3.韓国
2015年から排出量取引制度を開始。
国全体の削減目標から割当て総量(3年間で約17億トン)を設定。
4.中国
2013年から2省5都市(湖北省、広東省、深圳市、上海市、北京市、天津市、重慶
市)において試行的な排出量取引制度を開始。
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3
EU(対象施設からの排出量の推移)
景気後退によって排出量が割当量を下回っている。
 第1フェーズ: 期間を通じて割当量>排出量であり割当が過剰であった。
 第2フェーズ: 2008年を除いて割当量>排出量となった。これは、景気後退による排出量が減少、割安な外部クレジッ
トの流入等が原因となっている。
 第3フェーズ:依然として、2013年は割当量>排出量だが、2014年からBackloadingにより割当量<排出量となった
EUA償却量
CER償却量
第1フェーズ
ERU償却量
EUA割当量
検証済み排出量
第2フェーズ
第3フェーズ
2400
2200
2195
2096
2079
2049
2165
2000
Mt-CO2
2014
2036
2170
2120
2081
2101
2113
1904
1908
2011
1939
1800
1880
1867
1812
2385
1600
2152
2021
1830
1400
1908
1794
1645
1565
1812
1634
1200
1382
1000
禁無断転載
2005
(C) 2016 IEEJ, All rights reserved
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
出所: EUTLを基に日本エネルギー経済研究所作成
2014
4
EU(割当計画との乖離)
事前に決定した割当計画と実際の排出量が乖離し、無償割当されたEUAに余剰が生じた。
 EU域内の景気後退により、多くのEUETS対象施設の稼働率が低下、一部の施設は休止・廃止された。
 しかし、事前に決定した国家割当計画(NAP)に基づき、EUETS対象施設への無償割当を実施したこと
で無償割当に大量の余剰が発生した。
 2014年からBackloadigと呼ばれるEUAオークションの一部延期が実施され、2013年よりも累積余剰が
2.5億t-CO₂減少したが、約17億t-CO₂がEUETS参加者の手元にある
2500
1957
2000
1751
1709
Mt-CO2
1500
累積余剰
964
1000
各期の余剰
496
500
209
220
0
787
468
287
205
-11
-11
-247
-500
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
出所: EEAの推計値を基に日本エネルギー経済研究所が作成
5
EU(EUA価格と取引高の推移)
制度の不確かさ、冬季の燃料需要、経済要因等によって価格が乱高下した。
EUA価格
取引高
第1フェーズ (1~30ユーロ)
• 制度の見通しが不透明なこと
80000
で価格高騰
• 超過割当による価格暴落
CER 価格
35
第1フェーズ
第2フェーズ
第3フェーズ
70000
30
第2フェーズ (3~30ユーロ)
• リーマンショックによる価格
60000
暴落
• 省エネ政策の強化による価格
50000
下落
• 大量の外部クレジットの流入
40000 • 無償割当に余剰が発生したこ
とによる需要の低迷
ユーロ/t-CO₂
25
20
15
30000
第3フェーズ (3~8ユーロ)
• 価格対策としてオークション
量を変更
20000
 Backloadingの実施による
価格の緩やかな上昇
10000
 市場安定化準備制度
(MSR)の導入決定
0
• 2030年目標の決定
10
5
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出所:
ICEのデータから日本エネルギー経済研究所が作成
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注: EUA価格、CER価格は各年の12限月価格を単純月次平均。取引高は各限月のEUA先物を合計
2016-04-01
2015-10-01
2015-04-01
2014-10-01
2014-04-01
2013-10-01
2013-04-01
2012-10-01
2012-04-01
2011-10-01
2011-04-01
2010-10-01
2010-04-01
2009-10-01
2009-04-01
2008-10-01
2008-04-01
2007-10-01
2007-04-01
2006-10-01
2006-04-01
2005-10-01
2005-04-01
0
2016年8月末時点
EUA:約4.5ユーロ/t-CO2
(約5米ドル)
日本銀行、2016年10月報告省令レートより推計
6
EU(産業部門への無償割当)
国際競争力の観点から産業部門、及び東西間の経済格差を考慮して東欧諸国の発電事業者へ
の無償割当を2030年まで継続。

第1・2フェーズ:グランドファザリング方式による無償割当(全対象部門)

第3フェーズ:ベンチマーク方式による無償割当とオークションによる有償割当を併用
–
産業部門:EU共通の製品別ベンチマーク及び調整係数による無償割当(2027年に無償割当を廃
止)
– ただし、以下の条件に合致する部門には全量無償割当、合致しない場合には一部無
償割当
条件1:「貿易集約度が10%を超え、かつ、コスト負担が5%を超える」
条件2:「貿易集約度が30%を超えるか、あるいは、コスト負担が30%を超える」
–
•

炭素リーケージの危険が高い産業部門:全量無償割当(EUETSの対象となる258部門中164部門が対象、
EUETSの排出量全体の25%、産業部門の77%を占める)

炭素リーケージの危険が低い産業部門:一部無償割当(2013年に80%、2020年には30%)
発電事業者:オークションによる有償割当(2020年に東欧諸国向け無償割当を廃止)
第4フェーズ案:ベンチマーク方式による無償割当とオークションによる有償割当を併用
–
産業部門:EU共通の製品別ベンチマーク及び調整係数による無償割当を2030年まで継続
–
発電事業者:オークションによる有償割当、東欧諸国への無償割当を2030年まで継続
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参考:消費ベースのCO₂排出量
消費ベースCO₂排出量の考え方
7
• 消費ベース排出量
国内の生産・消費による排出量
− 財の生産に必要なエネルギー消費量を推計し、国際
産業連関表(I/O表)を用いて貿易による財の移転を
生産
消費
試算する。
(輸出は除く)
− すなわち、輸入元での財の生産に係るCO₂排出量を
輸入先の国の排出量としてカウントする。
海外の生産・消費による排出量
− このため、国単位の排出量削減目標が対象とする範
囲を超える排出量となる。
輸入
• EU28カ国の消費ベース排出量
− IEAの燃料消費量ベースの排出量と消費ベースの排
出量を比較(左下図)
− 2008年まで燃料消費量ベースの排出量がほぼ横ばい
であるが、消費ベースの排出量は増加傾向。
− これは、EU域外からの財の輸入が増加したこと等に
起因する。
• 炭素リーケージ
− ETSの導入によるコスト増加によってEU域内から産
業が移転することで炭素リーケージが懸念された。
− 欧州委員会がEcorysへ委託した調査報告書では、第
1・2フェーズにおいて、エネルギー集約産業に炭素
リーケージの証拠を見つけることができなかった。
− しかし、第3フェーズのEUETSの制度設計では炭素
出所: CO₂排出量:IEA “Energy Balances of OECD Countries” 及び ”Energy
Balances of Non-OECD Countries”, 消費ベースCO₂排出量:Wiebe, K. S. and
リーケージの可能性が高い産業部門へ全量無償割当
N. Yamano (2016), "Estimating CO2 Emissions Embodied in Final Demand
をしている。
and Trade Using the OECD ICIO 2015: Methodology and Results"
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8
米国(連邦レベルでの議論)
・ 連邦レベルでみると未だ制度の導入のハードルは高い(CPPの例)。
・ 地域レベルの取り組み(カリフォルニア、北部諸州)は政治的に制度導入のハードルが
低かった。
議会での法案可決の難しさ
連邦議会ではワックスマン・マーキー法案(2009年)、ケリー・リーバーマン法案(2010年)等、
連邦レベルでキャップアンドトレード法案は提出されているが、ことごとく廃案になっている。オバ
マ大統領は気候変動政策に積極的であるが、議会での新規立法によるキャップアンドトレードは出来
なかった。
クリーンパワープランの登場と反対訴訟
2014年に環境保護庁(EPA)は既存の法律である大気浄化法の実施規則としてクリーンパワープラン
を発表した。さらに、パブリックコメントを経て2015年に最終版を発表している。このなかで、費用
効果的な排出削減方法としてキャップアンドトレードを推奨している。しかし、石炭に依存する州を
はじめとする28州がこれに反対して訴訟を起こしている。2016年2月には連邦最高裁が訴訟決着まで
クリーンパワープランの実施を凍結する命令を下し、今後実施に移されるかどうか不透明な状況であ
る。
リベラルな州と気候変動政策消極的な州に二分
カリフォルニア(次頁)や北東部州(9頁参照)はリベラルな風土があり、先行して地域的な排出量取
引制度を導入している。一方上記クリーンパワープラン反対訴訟に参加している内陸部や南部の州は
積極的に気候変動政策を打ち出すという姿勢は見られない。ただし、クリーンパワープラン反対訴訟
に参加している州の中でも実施計画の準備に着手している州もある。
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9
米国(カリフォルニア)
・ カリフォルニアは長年積極的に環境政策に取り組んでいる。
・ 複数の気候変動政策が重層的に実施されているため、着実に排出削減が行われる一方、全
体としての遵守コストは高くなるとも指摘されている。
他の政策との重複
カリフォルニアではComplementary Policies (補完的政策)として、重層的にGHG排出規制がキャッ
プアンドトレード以外の形でもかけられている。重層的に政策を実施しても、キャップアンドトレード
のキャップまで排出削減が進むだけで、それ以上の効果はないがキャップアンドトレードと補完的政策
の両方の遵守コストが課されるため、全体の削減コストは上昇すると指摘されている(例:キャップア
ンドトレードと低炭素燃料基準(LCFS)の重複)。また、直近のオークションでは価格は低迷し、クレ
ジットが売れ残る事態が多く見られる。このことから、他の政策の効果や企業の自助努力により排出削
減が進んでおり、キャップアンドトレードの効果は限定的ととれることもできる。こうしたことを踏ま
え、他の政策によるGHG削減は可能であるため、キャップアンドトレードの役割は、全体の排出目標達
成のためのセーフティーとして捉えるべきとの指摘もある(Stavins et al, 2016)。
電力価格上昇への懸念
炭素価格の転嫁による電力価格の上昇に、電力を利用している製造業者などからは、電力コスト増加へ
の懸念の声もある(カリフォルニアの電力価格はそもそも高い(全米平均6.89セント/kwhに対して、カ
リフォルニアは12.33セント/kwh )が、今後クレジット価格が上昇するとさらにリーケージのリスクが
高まる)(Wayne et al, 2016)。
訴訟リスク
キャップアンドトレードに反対する団体が、現在キャップアンドトレードの合法性に疑義を唱えて訴訟
を行っている。カリフォルニアでは、租税法案には議会の3分の2の承認が必要とされているが、キャッ
プアンドトレードは租税法案でないためその要件を満たさずに成立した。しかし、実質的にクレジット
禁無断転載
のオークションは租税と同じであるとして、現在その合法性が問われている。
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10
米国(Regional Greenhouse Gas Initiative: RGGI)
・全体のキャップが緩慢であり、価格も低迷している。
・リーケージは現在は顕在化していないが、制度上はそのリスクがある。
全体のキャップの大幅見直し
リーマンショック以降大量の余剰が生じた結果、大幅に全体のキャップを見直している。その後も
全体のキャップの下方修正が行われた。当初の想定と実際の排出量/クレジット需要に大きな乖離が
ある(Stavins et al, 2016) 。
価格の低迷
上記の通り、全体のキャップが緩慢であるた
め価格が低迷を続けている。このことから追
加的な削減努力を促していないとの指摘があ
る。
リーケージのリスク
規制対象は発電所であるため、送電網を通じ
て域外の火力発電所からの送電が増えれば
リーケージとなる。現在RGGI地域が輸入する
電力のほとんどが比較的安価なカナダの水力
発電からであるためこの問題は顕在化してい
ない。しかし、今後クレジット価格の上昇や
キャップの引き締めが行われると、この問題
に対応する必要が出てくる(Ramseur,
2016)。
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割当総量(単位:百万ショートトン)
200.00
180.00
第二遵守期間の余剰調整分
160.00
第一遵守期間の余剰調整分
140.00
最終的な排出枠総量
120.00
100.00
80.00
60.00
40.00
20.00
※青色の部分が、
RGGIで各年に発行さ
れた排出枠の総量。
0.00
2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020
第1遵守期間
第2遵守期間
第3遵守期間
※第一遵守期間の総量は2011年に脱退したニュージャージー州も含む
出典:RGGI資料から日本エネルギー経済研究所作成
11
参考:米国州別一人当たりGDP(2015年)
(2009年米国ドル)
80000
70000
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
(出所)Bureau of Economic Analysis, U.S. Department of Commerceより作成
※地域割り
ニューイングランド:コネチカット州 、 メイン州 、 マサチューセッツ州 、 ニューハンプシャー州 、 ロードアイランド州 、バーモント州
中東:デラウェア州 、 コロンビア特別区 、 メリーランド州 、 ニュージャージー州 、 ニューヨーク 、ペンシルベニア州
五大湖:イリノイ州 、 インディアナ州 、 ミシガン州 、 オハイオ州 、ウィスコンシン州
平原:アイオワ州 、 カンザス州 、 ミネソタ州 、 ミズーリ州 、 ネブラスカ州 、 ノースダコタ州 、サウスダコタ州
東南:アラバマ州 、 アーカンソー州 、 フロリダ州 、 ジョージア州 、 ケンタッキー州 、 ルイジアナ州 、 ミシシッピ州 、 ノースカロライナ州 、 サウスカロライナ州 、 テネシー
州 、 バージニア州 、トバージニア州
南西:アリゾナ州 、 ニューメキシコ州 、 オクラホマ州 、テキサス州ロッキー山脈コロラド州 、 アイダホ州 、 モンタナ州 、 ユタ州 、ワイオミング州
禁無断転載 最西部:アラスカ州 、 カリフォルニア州 、 ハワイ州 、 ネバダ州 、 オレゴン州 、ワシントン州
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12
参考:米国・カリフォルニア州の産業割合(2014年)
全米
カリフォルニア州
Agriculture,
forestry, fishing,
and hunting
2%
Utilities
1%
Transportation
and warehousing
3%
Construction
4%
Wholesale
trade
6%
Retail trade
7%
Agriculture,
forestry, fishing,
and hunting
1%
Mining
1%
Government
Finance,
14%
insurance, real
estate, rental,
and leasing
25%
Professional
and business
services
15%
Information
9%
Manufacturing
13%
Mining
3%
Utilities
2%
Transportation
and warehousing
3%
Finance,
Government
insurance, real
15%
estate, rental,
and leasing
23%
Construction
5%
Information
6%
Retail trade
7%
Wholesale
trade
7%
Manufacturing
14%
Professional
and business
services
14%
(出所)Bureau of Economic Analysis, U.S. Department of Commerceより作成
禁無断転載
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13
参考:RGGI地域および全米の電源構成(発電ベース)
RGGI地域、全米ともに石炭から天然ガスへのシフトが進んでいる。
RGGI 電源構成(%)
その他
100%
その他再エネ
80%
水力
60%
原子力
その他ガス
40%
天然ガス
20%
石油コーク
0%
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
全米 電源構成(%)
石油
その他
100%
その他再エネ
80%
水力
60%
原子力
その他ガス
40%
天然ガス
20%
石油コーク
石油
0%
2001
2002
2003
禁無断転載
(C) 2016 IEEJ, All rights reserved
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(出典)EIAデータより作成
14
参考:米国のガス石炭価格と発電電力量
米国では、シェールガス革命によるガス生産の急増により、天然ガス価格と石炭価格(コスト)の差が大
きく縮小。
これに伴い、天然ガス発電量も増加。
(1000MWh)
($/MMBtu)
200000
14
180000
12
160000
10
140000
120000
8
100000
6
80000
60000
4
40000
2
20000
石炭火力
天然ガス火力
石炭 $/MMBtu
2016-7
2016-4
2016-1
2015-10
2015-7
2015-4
2015-1
2014-10
2014-7
2014-4
2014-1
2013-10
2013-7
2013-4
2013-1
2012-10
2012-7
2012-4
2012-1
2011-10
2011-7
2011-4
2011-1
2010-10
2010-7
2010-4
2010-1
2009-10
2009-7
2009-4
2009-1
2008-10
2008-7
2008-4
0
2008-1
0
天然ガス $/MMBtu
禁無断転載
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(出典)EIAデータより作成
15
韓国
・割当処分取り消しを求め多数の企業が行政訴訟を起こしている。
(初期割当をめぐり対象企業の約46%が異議を申し立て。)
BAUの算定を巡る議論
 韓国ETS部門の第1計画期間(2015年~2017年)の初期割当量(キャップ)は2020年の国家削
減目標(2020年BAUから30%)と密接にリンクしている。このため、2020年のBAUの算定をめ
ぐり政府と産業界が対立。2020年BAU値は2009年に試算(2020年BAU、7億7600万トン)さ
れたが、2011年以降の設備投資増加及び生産量増加により2011年~2013年の排出量はBAUの予
想を上回る伸びとなったため、産業界は再試算を要求(参考:次ページBAU予測と実際)。
 一方、政府は2013年にBAU値を再検討したものの、排出量の伸びが鈍化してきたことや国際的信
頼性の維持を理由に2014年1月に2020年BAUを7億7600万トンに確定した。これに対して産業
界が大きく反発し、制度の見直し(初期割当の見直し、制度の延期(2020年に延期)等を要請。
上記の議論に対する対応
 議論当時に制度を管轄していた環境省は、業種別削減率の緩和、市場安定化措置実施条件の提示
(基準価格を1万ウォン(約9米ドル)に設定し、市場価格が1万ウォンを越える場合は、市場安定化
措置を実施する)、柔軟性措置の積極利用、2020年BAUの再試算などの負担緩和策を盛り込む妥
協案を提示した。
 その後、2014年9月に第1計画期間の割当量を定めた「国家割当計画」を確定。産業界が政府に申
請した第1計画期間の割当量は20億2,100万トンであるのに対して、実際の初期割当量は15億
9,800万トンと産業界の要請より約2割少ないものとなった。
 これに対し、第1計画期間の規制対象526企業の内、46%に相当する273企業が割当に対する異議
を申請。しかし、約200企業の異議申請は棄却され、石油化学、非鉄金属などによる多数の行政
訴訟が発生(2016年6月現在、合計18件)
 2015年12月、現代製鉄は割当処分取り消しを求めた行政訴訟で敗訴(割当関連の初の判決)。裁
判所は政府の割当方法が妥当であると判断。
禁無断転載
(C) 2016 IEEJ, All rights reserved
16
韓国:BAU予測と実際
 石油化学、鉄鋼などの設備投資により、2010年~2012年の排出量が大きく増加した。2013年以
降は中国経済の減速などにより、排出量の増加傾向が鈍化したものの、2009年のBAU予測値を上
回っている。
 2011年と2013年のBAUレビュー時は2009年試算したBAU値を維持していたが、2015年のPost
2020目標算定の際に、2020年BAU値を2009年の試算値より0.8%上方修正し、782.5Mtに変更し
た。
100万tCO2
実績
予測
2015年の再試算により、2020年
BAU値を約0.8%上方修正
第1計画期間の割当の根拠と
なったBAU予測
2011~2013年の排出量がBAU予想
を大きく上回っている
出所:関係省庁合同(2015.6)、「Post-2020温室ガス削減目標設定推進計画」
禁無断転載
(C) 2016 IEEJ, All rights reserved
17
韓国:取引量と価格の推移
売り手がないため、取引は低調。場内取引価格は1万~最高2万1000ウォンで推移。
取引市場は2015.1.12に開始したが、当初は排出権の取引がほとんどない状況が続いた。2016年6月時
点の累積取引量は約350万トンである(2016.6.3現在)
排出権の価格は2015年には1万~1万2000ウォン(約9~11米ドル)を推移したが、2016年には最高2万
1000ウォン(約19ドル)まで高騰した。これは遵守のための排出権提出期限が2016年6月までであり、3
月に確定した排出量に基づき不足分を調達するためである。6月の清算以降の取引は再び減少している
(2016年8月までの取引日は6日間のみ)
取引量(トン)
【2015年取引量と価格の推移】
取引価格(ウォン)
•
(約11米ドル)
取引価格(ウォン)
•
•
(約7.8米ドル)
取引量(トン)
•
•
禁無断転載
出所:韓国取引所(2016.1)「2015年KRX排出権市場運営レポート」
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日本銀行、2016年10月報告省令レートより推計
【取引市場関連報道ヘッドライン】
炭素排出権取引市場、買う企業も売る
企業もない?(CNBC, 2015.12.18)
炭素排出権ー余裕あると言うが市場で
は品切れ状態(Energy &
Environmental News, 2016.05.02)
売る企業なく買う企業のみー止まって
いる炭素排出権市場(世界日報,
2016.5.11)
売る量なくー温室ガス排出権市場開店
休業(東亜日報, 2016.6.7)
総量の0.25%だけ取引されるおかしい
温室ガス排出権市場(毎日経済,
2016.6.25)
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韓国
頻繁な制度運営方針の変更と政府の介入が、投資や削減のインセンティブを阻害する結果に。
頻繁な制度改正:これまで3回にわたって制度規則・運営方針を変更。
 【1 回 目 】 取 引 法 策 定 時 ( 2012 年 ) : ① 導 入 時 期 を 2013 年 か ら 2015 年 に 延 期 、 ② 無 償 割 当 量 の 拡 大
(97%⇒100%)、③輸出産業に対しては2次計画期間以降も100%無償割当
 【2回目】国家割当計画策定時(2014年):①業種別削減率の一律10%の緩和、②間接排出及び発電部門の削減負担
の緩和、③基準価格を1万ウォン(約9米ドル)に設定、④柔軟性措置の積極活用、⑤2015-20年のBAUの再検討する予
定に言及
 【3回目】2015年度遵守期限の直前(2016年5月):①制度統括を環境部から企画財政部に変更、②環境部が担当し
ていた制度運用・執行担当を4つの省庁に分散、③早期削減の追加割当を1年前倒しで認める(2017年度→2016年
度)、④翌年からの借り入れの限度を緩和(10%→20%)
2015年度の排出権不足に対する政府の対応
 取引市場において、売り手はなく、不足分を市場から調達できないとの懸念に対して、政府は①これまで10%であった
借り入れ(同一期間内のボローイング)の限度を20%まで拡大し、②政府保有の予備分から90万トンを供給した(オー
クションを実施)。
これまで浮上した問題と今後の課題
 大量の余剰排出権により価格が暴落したEUETSの教訓から、過剰割当にならないよう厳格に制度を運用したが、韓国で
は反対に生産量増加により実際の排出量が大きく伸びていたため、排出権供給不足が問題となった。
 一方、産業の負担を減らすため、市場安定化措置の実施基準となる価格として1万ウォンと提示したことが取引市場を
歪め、削減投資へのインセンティブを阻害した。
 2015年度においては、翌年の排出枠から借り入れることで遵守できたが、現制度では異なる計画期間からの借り入れは
認めていないため、第1計画期間の終了時(2018年6月)に排出権不足の問題が大きく浮上する可能性がある。
 一方、これまで、制度規則が頻繁に変更されていることや取引制度の統括及び執行権限が環境省から産業よりの企画財
政部及び各省庁に移譲されたことから、今後も負担緩和策が実施されると予想され、早期の低炭素技術への投資よりも
状況を見極めようとする動きが見られている。
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中国(全国排出量取引制度 )
・中国は、政治的にトップダウンの制度が導入しやすく、また途中撤回もしにくい環境。
・排出量取引制度の導入は、削減目標の実現に関連制度の整備と企業の取り組みが未確立の中
の選択。
・排出量取引は中国の産業政策(非効率な過剰設備の淘汰)と馴染む形での導入検討。
特殊政治環境下の導入
 特殊政治環境下でのトップダウン形式の制度導入。必ずしも議論を尽くしてからの導入ではない。
 一旦制度が導入された後は制度を再考する余地は大きくない。
既存制度の未確立下の導入
 日本の「温対法」や「自主行動計画・実行計画」のような法整備や産業界の取り組みが未確立。「省
エネ法」改正10年後もエネルギー管理士制度(能源管理師制度)およびエネルギー管理指定工場(重
点エネルギー使用企業管理方法)の運用が浅い。
 こうした中、5年区切りの省エネ・排出削減目標等が主な頼りとなっている。炭素取引制度はこうした
環境下の選択。
国情の産業政策下の導入
 非効率な過剰設備の淘汰という特殊国情の産業政策に利用する狙いがある。
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中国(2省5市の実験取引制度)
・2省5市で排出量取引制度が試験的に実施されているが、緩い割当下の2省5市の試験からは、
厳しい割当下に起こり得る問題や解決策等が示唆されていない。
本格的な制度導入への示唆は不明
 2省5市の試験における割当が緩いため、取引高が低く、価格も下落または低迷の傾向にある。2016
年には2014年の1/2程度に下落し、現在は4米ドル程度で推移。
 温室ガス削減の実現のために割当を厳しくする必要があるが、どのような問題が起こり得るかは、現
在の試験市場からも示唆されていない。
 例えば以下の懸念には答えていない。
1)エネルギー多消費産業のカーボンリーケージ(地域レベルまたは国レベル)は発生するのか。
2)電力価格が国により決められているため、削減対策費用もしくは不遵守罰則金の価格転嫁が出
来ない状況下で、赤字でも国から救済される国営発電企業には削減のインセンティブがあるの
か。
3)地方保護主義で実施不履行の企業を守るのか(他地域へのリーケージ対策として、補助や優遇
措置等を助長する可能性)
 全国統一市場の行方は不明
 試験7市場においてはその対象部門、割当方法(ベンチマークかグランドファザーリングか)、無償
枠の大小、CCERの利用規定等、差異が大きい。例えば、同じ電力部門でも地域によっては割当方法が
異なっている例も見られる。
 このような制度の差異は、全国統一市場にとっては返って混乱の元となり、現時点では全国統一市場
の行方は不透明。
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