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マウス体毛成長に伴う 皮膚脂質変動の分析
マウス体毛成長に伴う 皮膚脂質変動の分析 生命情報工学第二講座 粥川 高廣 緒言 皮膚を健康な状態に保つためには、十分 な量の脂質が必要である。 脂質の不足は乾燥肌、外傷治癒率の低下、 異常代謝による皮膚剥離を引き起こす。 マウス体毛周期変化に注目し、皮膚脂質 の分析を行った。 使用したサンプルについて C3H/HeNCrjマウス 皮膚は背部中央(右図)より採取 したものを使用した。(一丸ファ ルコス社より供与) 飼料:MF (単位:%) 水分 粗蛋白質 粗脂肪 粗炭分 粗繊維 可溶性無窒素物 7.8 23.4 5.3 6.1 2.8 54.5 毛周期 毛周期は成長期、 退行期、休止期か らなる。(右図) 休止期: 8週齢の皮膚 成長期: 8週齢で体毛を シェービングした 10週齢の皮膚 実験方法 マウス皮膚表面の赤外分光分析 凍結したマウス皮膚を室温で10分間解凍した。 水で洗浄し、2mm四方に切り、 FTIR(TravelIR、SensIR社)で測定した。 FTIRスペクトルを二次微分し、脂質と蛋白質の赤外吸収の強度比を求めた。 脂質のTLCによる分析 Bligh-Dyer法によりマウス皮膚の脂質を抽出した。 一次元TLC;石油エーテル:ジエチルエーテル:酢酸=80:30:1で展開した。 二次元TLC;一次元目にクロロホルム:メタノール:水=65:25:4、 二次元目に2-ブタノール:酢酸:水=60:20:20 で展開した。 ガスクロマトグラフ質量分析 TLCで分離した脂質分画をかき取り、抽出した。 塩酸メタノールでメチル化した。 ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC Mate Ⅱ CCMS system、日本電子株式 会社 ) で測定した。 実験結果 マウス皮膚表面の赤外分光分析 FTIRスペクトル FTIRスペクトルの二次微分 1650cm-1 2850cm-1 1540cm-1 脂質由来 アミドⅡ由来 1540cm-1 2850cm-1 1650cm-1 アミドⅠ+水由来 wavenumber(cm‐1) wavenumber(cm‐1) 2850/1540:休止期( 0.55±0.06 )に比べて成長期( 0.70±0.11)では アミドIIに対する脂質量が有意に増加(P<0.001)している。 2850/1650:休止期( 1.49±0.16)に比べて成長期( 1.18±0.16)では アミドIと水に対する脂質量が有意に減少(P<0.001)している。 総脂質の一次元TLCによる分析 石油エーテル:ジエチルエーテル:酢酸=80:30:1 ChE TG Ch > > 成 長 期 休 止 期 極性脂質 (原点) コレステロールエステル (ChE)、トリグリセリド (TG)、コレステロール (Ch)の中性脂質のス ポットは成長期と休止期 で差が確認できなかっ た。 極性脂質の含まれる原 点のスポットに注目した。 ガスクロマトグラフ質量分析 (1) -極性脂質分画の脂肪酸組成- 成長期 (n=2) 休止期 (n=2) 20 15 10 5 26:0 24:1 24:0 22:4 22:1 22:0 20:4 20:3 20:2 20:1 20:0 18:3 18:2 18:1 18:0 16:1 0 16:0 脂肪酸組成 (%) 25 脂肪酸 極性脂質分画の脂肪酸組成は成長期と休止期で差が確認できなかった。 極性脂質分画の二次元TLCによる分析 LPE PC SPM II 2-BuOH:AcOH:H2O=60:20:20 休止期 I CHCl3:MeOH:H2O=65:25:4 I CHCl3:MeOH:H2O=65:25:4 成長期 LPE PC SPM II 2-BuOH:AcOH:H2O=60:20:20 成長期で増加している複合脂質が確認できた。 ガスクロマトグラフ質量分析 (2) -成長期で増加した複合脂質の脂肪酸組成- 35 脂肪酸組成 (%) 30 ★★ 休止期 (n=3) ★★ 成長期 (n=3) 25 20 15 ★ ★ 10 5 0 16:0 16:1 18:0 18:1 18:2 20:0 20:4 22:0 22:1 24:0 22:3 26:0 脂肪酸 休止期に比べて成長期では、16:0が有意に減少(P<0.03)し、18:1は有意 に増加(P<0.02)している。26:0は減少傾向、18:2は増加傾向を示してい る。 結論 マウス体毛成長期の皮膚中の、ある極性脂質分画では、 パルミチン酸(16:0)とヘキサコサン酸(26:0)が減少し、 オレイン酸(18:1)とリノール酸(18:2)が増加していた。 この脂肪酸組成の変動が毛周期になんらかの役割を果 たしていることが考えられる。