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参 考 資 料

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参 考 資 料
参 考 資 料
1.
堤体と地山高の関係について
2.
表面遮水壁型工法
3.
池内堆積泥土の固化処理
4.
ラビリンス堰の水理設計手法
5.
コスト縮減に向けた取組み及び新技術
6.
環境との調和に配慮した施工事例
7.
ため池防災データベースと防災面への応用
8.
ため池盛土斜面の簡易な強度調査方法(原位置せん断試験) ······························ 245
9.
柔構造底樋設計の留意点 ········································································ 246
10.
耐震対策工 ························································································ 247
··································································
195
················································································
197
········································································
··································································
213
223
························································
229
·····························································
238
···················································
194
241
参考資料
1. 堤体と地山高の関係について
堤体の地山への取付け高は堤体計画高とすることが望ましいが、ため池周辺の地形状況がそれを許さない
場合も想定される。
地山に堤体を計画高で取付けることが地形条件等により困難な場合は、以下の例を参考に対処する。
(例 1) ため池周辺地山が堤体計画高より低い場合
堤体部起・終点の一部が、地形条件等により巻込み堤の形状を呈して、地山部にすり付くような場合、
すり付け部の地山の地形、地質、植生条件等を勘案しつつ、堤体への影響のない地点ですり付けるもの
とする。
たとえば、参図-1.1 のように、地山傾斜が緩く、堤体盛土延長が過度に長くなる場合は、堤体への悪
影響のないことを見極めた上で、地山標高が堤頂標高より 1 m 低い地点までを本堤部とみなし、その外
側において地山部にすり付ける。すり付け部の終点位置は、地山標高が波の打上げ高さ以上となる点と
するのがよい。なお、すり付け区間は地山の状況により、パラペットを施工する場合もある。
すり付け区間
堤 長
▽ 堤頂
1m
(HWL+波の打上げ高さ)以上
参図-1.1 本堤起部・終点のすり付け(1)
195
参考資料-1
堤体と地山高の関係について
(例 2) 洪水吐周辺の地山が堤体計画標高より低い場合
参図-1.2 のように、洪水吐周辺の地山(同図は地山部分が道路の例)が堤体計画高より低い場合には、
道路との境にパラペットや副堤を設けることがある。
単純に道路にすり付ける場合は、地山高(路面高)が(HWL+波の打上げ高さ)以上あればよい。
堤
体
(HWL+波の打上げ高さ)以上
道路
HWL
参図-1.2 本堤起部・終点のすり付け(2)
196
参考資料
2. 表面遮水壁型工法
2.1. 表面遮水壁型工法(遮水シート工法の場合)
2.1.1 設計の基本事項
表面遮水壁型工法として遮水シート材料を設計する場合は、水密性、波圧、水圧、揚圧力、斜面勾配、不
同沈下、維持管理時の作業荷重及び植物等による遮水シート材料の損傷に対する安全性等を考慮しなければ
ならない。
遮水シート工法に用いる材料には、合成ゴム系シート、合成樹脂系シート、アスファルト系、ベントナ
イト系、及びこれらの複合系等があり、その選定に当たっては、それぞれの特徴、特性等を十分考慮して、
使用する現場条件に応じた材料とする必要がある。
また、遮水シート背面の基礎、基層が受け持つ役割は大きく、遮水シートを外力から保護するための前面
の保護工とともに、使用材料の特性を考慮に入れながら検討する必要がある。
外力の中でも、揚圧力に対しては、遮水シート材料自体による抵抗力は望めないので、揚圧力に対抗でき
る押え盛土の施工、又は発生を抑制するための基礎、基層での処理(ドレーン、空気抜き等)が特に必要で
ある。
遮水シート材料の分類例を示すと、参図-2.1.1 のとおりである。
197
参考資料-2
合成ゴム系
表面遮水壁型工法
加硫ゴム系
エチレンプロピレンゴム(EPDM)と
ブチルゴム(IIR)の複合
※
エチレンプロピレンゴム(EPDM)
ブチルゴム(IIR)とエチレンプロピレン
ゴム(EPDM)の混合
非加硫ゴム系
遮
水
クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)
シ
合成樹脂系
ポリ塩化ビニル樹脂系
ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)
※
ー
ト
エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)
ポリエチレン樹脂系
ポリエチレン樹脂(PE)
材
エチレン酢ビ樹脂系
料
高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)
合成ゴム・
合成樹脂複合系
アスファルト系
熱可塑性エラストマー
(TPE)
ポリオレフィン系樹脂と
エチレンプロピレンゴム(EPDM)
アスファルトパネル
アスファルトシート(特殊アスファルト+不織布)
ベントナイト系
ベントナイト+ジオテキスタイル(織布+不織布)
ベントナイト系・
合成樹脂複合系
ベントナイト+高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)
※印の材料は、ため池に比較的使用が多い。
参図-2.1.1 遮水シート材料の分類例
198
※
設計指針 「ため池整備」
2.1.2 遮水シートに要求される特性
遮水シートは工場で製造されたシート成形品で、安定性、耐久性、水密性、経済性、施工法、及びその他の
条件を満足するものでなければならない。
(1) 遮水シートの性能に関する条件
安定性: 使用現場において想定される水圧・波圧に十分耐え、かつ自重による引張り力にも切断、
クラックが生じない強さを有さなければならない。また、使用環境において受ける最高、
最低温度時においても柔軟性を失うことなく、下部構造の変化(不同沈下等)にも十分順
応するものでなければならない。
耐久性: 遮水シートは、老化現象(紫外線、オゾン等による劣化)に対して、耐久性のあるもので
なければならない。
水密性: 遮水シートは、それ自体十分な不透水性を有するとともに、ジョイント部においても同等
以上の不透水性を有さなければならない。
経済性: 高度の不透水性が要求されるとはいえ、その工事費、及び効果は他の工法に比較して、同
等以上の経済性を有さなければならない。
施工法: 敷設面積の大小、及び施工場所のいかんにかかわらず、簡易かつ迅速に施工できるもので
なければならない。
その他: 遮水シートは、貯水を変質(有害、有臭)させるものであってはならない。また、補修及び
修理についても容易でなければならない。
(2) 遮水シート厚の選定
遮水シート厚の選定は、下準備のできた基盤の表面状態、遮水シートにかかる静水圧、敷設後に受け
る損傷の程度等によって決める。厚さの程度は、各材料によって異なるが、合成ゴム系とアスファルト
系シートの堤高規模に対する最小厚選定の目安は、参表-2.1.1 のとおりである。合成樹脂系の場合、
1.0、1.5、2.0 mm の標準規格があり、アスファルトパネルは 10 mm 厚が一般的である。
参表-2.1.1 遮水シート厚さ選定の目安
堤高(H )
遮水シートの厚さ( t )
H < 10 m
合成ゴム系シート
t = 1.5 mm
アスファルト系シート
t = 3.0 mm
H ≧ 10 m
合成ゴム系シート
t = 2.0 mm
アスファルト系シート
t = 4.0 mm
備
考
遮水シート敷設下地の状況、条件等
も併せて検討を行うこと。
ただし、アスファルト系シートの場
合、シートの表面をブロック、押え
盛土等で保護するものとする。
(3) 品質
a. 合成ゴム系シート
加硫ゴム系シートは、エチレンプロピレンゴム(EPDM)とブチルゴム(I I R)をブレンド、共加硫
したものである。
現在の加硫ゴム系シートの市販製品には、ポリマーとして 60% 以上の EPDM がブレンドされ、初期
のころよりも耐候性が改善されている。必要なシート寸法は 1.2 m 幅で製造された原反シートを現
場の寸法に合わせて、工場で熱圧着加工を行って作成する。
199
参考資料-2
表面遮水壁型工法
参表-2.1.2 加硫ゴム系シートの主な物理的性質(JIS A 6008)
性 能
試験項目
試 験 基 準 値
2
引張強さ
750N/cm 以上
伸び率
450% 以上
引裂性能
引裂強さ
250N/cm 以上
温度依存性能(高温:60℃)
引張強さ
230N/cm2 以上
温度依存性能(低温:-20℃)
伸び率
200% 以上
加熱伸縮性状
伸縮量
伸び 2 mm 以下、縮み 4 mm 以下
劣化処理後の引張性能
(加熱処理)
引張強さ比
80% 以上
伸び率比
70% 以上
劣化処理後の引張性能
(促進暴露処理)
引張強さ比
80% 以上
伸び率比
70% 以上
引張強さ比
80% 以上
伸び率比
80% 以上
引張性能
劣化処理後の引張性能
(アルカリ処理)
b. 合成樹脂系シート
ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)製のシートであり、物理的性質は参表-2.1.3 のとおりである。
参表-2.1.3 軟質 PVC 遮水シートの物理的性質
試 験 項 目
引張強さ
伸 び
引裂強さ
規格値
2
(N/cm )
1570 以上
JIS A 6008 準拠
(%)
300 以上
JIS A 6008 準拠
(N/cm)
440 以上
JIS A 6008 準拠
1.35 以下
JIS K 7112
-30°
以下
JIS K 6723
比 重
耐寒性
測 定 方 法
(℃)
c. アスファルト系
(a) アスファルト系シート
アスファルト系シートは、従来建築の防水シートとして発達してきており、数多くの実績を上げ
ている。その技術の蓄積に基づいて近年土木分野でも、ため池、調整池、修景池、一般廃棄物埋立
処分場、河川等に利用され、施工実績も増加している。アスファルト系シートの製品は、メーカー
ごとに製法も異なっているが、大別すると、以下の 2 種類となる。
① アスファルト全層含浸シート
ポリプロピレンの長繊維不織布に特殊アスファルト等を全層含浸したもの。
② 改質アスファルトルーフィングシート
合成繊維不織布に改質アスファルトを含浸させたコア層を改質アスファルトによりルーフィン
グしたシート
(b) アスファルトパネル
パネルの主成分は特殊加工されたアスファルトマスチックで、アスファルトの中に、ある種の繊
維及び鉱物質のフィラーを混合したものである。
d. ベントナイト系遮水マット
(a) マットの主成分はナトリウムベントナイトで、これと織布や不織布等のジオテキスタイルを複
合化したものである。
200
設計指針 「ため池整備」
(b) マット厚の選定は、下準備ができた基盤の表面状態やマットにかかる静水圧によって決める。
ただし、マット厚は使用するベントナイト粒の大きさや織布等の厚さにより変動するので、遮水
性の点からマットに含まれるベントナイトの質量を、原則として 4 kg/m2 以上とする。
2.1.3 遮水シートの基盤及び基層
遮水シートの基盤は、必要な支持力と平滑性を有するものでなければならない。したがって、このような
支持力と平滑性を得るため、基盤整形及び転圧を行い、必要に応じて安定処理層や基層を設ける。
(1) 支持力
遮水シート自体による外圧に対する抵抗性は期待すべきではなく、基盤と一体となってはじめて遮水
機能が発揮できるものである。このため、基盤は外力によって大きく変形するものであってはならない。
斜面部については、法面の変形、法尻部の崩れ等が起きないよう、切土、盛土の土質条件に応じた法
勾配を設定し、締固めに十分配慮しなければならない。寒冷地では、法肩部下地が凍上作用を受けて変
形することに対する対策(透水コンクリート層の設置、浸透水の遮断等)の検討が必要である。
(2) 平滑性
遮水シートは、伸縮性を有することから、ある程度の不同沈下への追従性はあるが、基盤表面に石礫、
切株等の突起部や、凹凸部がある場合には局部的に伸ばされ破損するおそれがある。このため、基盤
整形、締固めのみで、適切な平滑性が得られない場合には、安定処理層や緩衝層を設置する。一般に安
定処理層や緩衝層には、敷き砂、良質山土、ソイルセメント、透水コンクリート、ジオテキスタイル
(織布、不織布)等が用いられる。基盤、基層の施工例を参図-2.1.2 に示す。
特にアスファルト系シート等では、法面部の上部は、植生等がある場合にはシートを貫通することが
考えられる。植生の処理は十分行う必要があるが、安全を考慮して、植生の侵入防止のための防草付
シートを使用する必要がある。
201
参考資料-2
表面遮水壁型工法
シート
石礫を含まない土、
土羽仕上げ
イ)転圧締固め仕上げ(石礫を含まない下地)
シート
敷き砂層
ロ)敷き砂層 5~10 cm 厚の設置(底部礫質土、底部軟弱地盤)
シート
ソイルセメント層
ハ)ソイルセメント層 5~10 cm 厚の設置(法面部礫質土)
シート
ジオテキスタイル
モルタル平滑処理層
ニ)モルタル平滑処理層 5~10 cm 厚の設置(軟岩角礫部)
シート
(ジオテキスタイル)
溶接金網入張コンクリート
ホ)溶接金網入張コンクリート 10 cm 厚の設置(石積部)
シート
ジオテキスタイル
透水コンクリート層
ヘ)透水コンクリート層 10 cm 厚の設置(凍上防止対応、湧出水法面、湧出水底部)
参図-2.1.2 遮水シート基盤、基層例
202
設計指針 「ため池整備」
2.1.4 遮水シートの根入れ長さと深さ
遮水シートの根入れは、堤体基礎地盤を浸透する流水を抑制し、堤体裏法面の法尻や基礎地盤の浸透破壊
を防止するため、十分な長さと深さを確保しなければならない。
(1) 遮水シートの根入れ長さの考え方(浸透路長の考え方)
遮水シートの根入れ長さ Ls は、遮水ゾーン型工法における長さ Lc に対し、
Ls ≧ Lc
とすることが、一つの目安といえる (参図-2.1.3)。
遮水ゾーン型工法
遮水シート工法
シート
hs
遮水性ゾーン
Lc
Ls
参図-2.1.3 遮水シートの根入れ長さの考え方
(2) 遮水シートの根入れ深さの考え方
基礎地盤の水平方向と鉛直方向の透水係数の相違が大きい場合、根入れ長さだけでなく、適切な根入れ
深さの確保も大切である。遮水シートの根入れ深さは、基礎地盤の地質、土質、層厚等の状況を確認し、
適切な深さを確保する。一般的には、遮水ゾーン型工法におけるカットオフ深さに準じた深さの確保
が一つの目安となる。根入れ深さの参考値を、参表-2.1.4 に示す。
参表-2.1.4 遮水シートの根入れ深さの参考値
堤高 H
根入れ深さ hs
5 m 以下
1.1~1.3 m
5~10 m 以下
1.3~2.1 m
10~15 m
2.1~3.2 m
2.1.5 遮水シートの斜面勾配と安定性
遮水シートの斜面における滑動、及び引張伸びについての安定性は、遮水シートと下地との摩擦係数、
シートの引張強度により決定される。斜面長が長い場合には、遮水シートを天端以外の斜面途中でも固定す
る。また、クリープ作用等も併せて検討を行う。
(1) 下地土質と斜面勾配
シート自体で土圧を支えることはできない。したがって、斜面勾配は基盤土の自然安定勾配以下とす
る必要がある。水深の浅い池(2 m 前後)では法面勾配が 1:1.5 程度でも安定する場合が多いが、水深が
深く斜面高が高くなる場合では、土が飽和状態になることを想定した斜面の安定性を検討し、1:2.0 よ
り緩やかな勾配とする必要がある。
また、ベントナイト系材料の場合は、せん断応力が働く場合の強度が期待できないことから、鉛直荷
重のみが作用する場所に使用する等、設計時に十分考慮する必要がある。
203
参考資料-2
表面遮水壁型工法
遮水シートの斜面勾配例を、参表-2.1.5 に示す。
参表-2.1.5 遮水シートの一般的な斜面勾配例
堤高 H
一般的な盛土法面勾配
一般的な切土法面勾配
1:2.0
1:1.5~1:2.0
1:2.0~1:2.5
1:1.8~1:2.0
1:2.0~1:3.0
1:2.0
5 m 以下
5~10 m 以下
10~15 m
(2) 遮水シートの斜面上の安定性の検討
G1
G

G2
参図-2.1.4 斜面上の遮水シートの安定
参図-2.1.4 において、斜面上を遮水シートが滑動しない条件は、 をシートと基盤土との摩擦係数と
すると、
G1 ≦ G2
···················································································· 参式(2.1.1)
となる条件を満足することである。
上式を変形して、遮水シートが滑動しない最大傾斜角 を求めると、以下のようになる。
G1 -G2 = 0
··············································································· 参式(2.1.2)
G sin-G cos = 0
······································································ 参式(2.1.3)
上式で、= 0.5 とした時、の値は 26 ゚ 34 となり、この角度は、ほぼ 2 割勾配に相当する。この角
度より急な場合では、斜面に沿って遮水シートは滑動することになる。しかし、実際には、法肩部での
固定を行うことから、遮水シートは滑動せず、シートに引張応力 F が 発生する。
F = G1-G2
··············································································· 参式(2.1.4)
上式で、=0、傾斜角を とした場合、
F = G1 = G sin 
·········································································· 参式(2.1.5)
となる。一般に、この引張応力 F により、遮水シートには施工後クリープ現象が生じることとなる。し
たがって、斜面高が高く、すなわち法面長が長くなると、このクリープの大きさも無視できなくなるこ
とから、法面長は最大でも 20 m 前後となるようにすることが望ましい。必要に応じて、斜面途中での
固定、小段設置等の検討が必要である。
204
設計指針 「ため池整備」
2.1.6 端末処理
遮水シートの天端での固定、法先及び地山取付部での処理については、現地に応じた適切な設計がなされ
なければならない。
(1) 天端での固定
遮水シートが滑り落ちるのを防ぐ意味で天端で固定する。施工例を参図-2.1.5 に示す。
イ) 土羽仕上げの例
300
埋戻し土
300
500
シート
R≧300
300
300
400
300 200
500
ロ) 法肩コンクリートと埋込固定
400
300
参図-2.1.5 遮水シートの天端での固定施工例
(2) 遮水シートの法先及び地山取付部での処理(端末処理)
① 法先の地盤が良好な場合は、「2.1.4 遮水シートの根入れ長さと深さ」に基づいて土中に埋込む。
② 地盤が不良な場合は、参図-2.1.6 のように、コンクリートを打設し、シート端部の接着取付を行
う。
③ シート両端の地山取付部においても隔壁やもたれ擁壁等の構造物を設け、接着取付を行う。
④ 堤高が高く水深が大きい場合は、法先固定コンクリートや両岸地山部の構造物は不透水層まで到達
させる。
300~500
シート
単位(mm)
参図-2.1.6 シートの法先固定コンクリートの例
205
参考資料-2
表面遮水壁型工法
2.1.7 遮水シートの背圧対策工
遮水シートにおいては、シート背面からの圧力(湧水、地下水、エア、発生ガス等による背圧)に対する
対策を検討しなければならない。
湧水、エア等によるシートのフクレ防止対策として、ドレーン、エア抜きの設置を行う。不適切なドレー
ンの設置は、逆に漏水量を増加させるおそれもあるため、吸出し防止処置等に留意しなければならない。エ
ア抜きは、ドレーン端末部と直結、又は重ねを取り、湧水排除時の真空化による排水阻害を防止する。参図
-2.1.7 に、ドレーン施工例を示す。
VPφ75 以上
コンクリート用砕石 5~40mm
30cm 以上
30cm 以上
吸出し防止材
参図-2.1.7 堤体法尻部、小段部でのドレーン施工例
2.2. 表面遮水工法(遮水シート工法)の施工
遮水シート材料には、前節で述べたように各種材料があるが、施工手順等はほぼ共通しているので、代表
的な施工手順・方法を述べる。シート同士及びコンクリート構造物への接合方法等については、材料の違い
に伴って一部異なる場合もあるが、本節では「ため池」での使用の多い合成ゴム系、合成樹脂系についての
例を示すにとどめる。
2.2.1 施工手順
施工は、一般に参図-2.2.1 の手順で行うが、接着作業等は天候に左右されやすいので適切な施工時期
を選定する。
206
設計指針 「ため池整備」
遮水シート敷設面の下地処理
ドレーン及びエア抜きの管路のトレンチ掘削
ドレーン及びエア抜きの管敷設
天端シート埋込み用トレンチ掘削・整形
シート搬入・運搬
シート敷拡げ
シート天端部の固定
シート現場接合
コンクリート構造物及び管周り部との接合
点検及び補修
(ベントナイト系のみ)
覆土及び締固め
完 成
参図-2.2.1
遮水シート工法の施工手順
2.2.2 基盤整形
遮水シートの基盤は、平滑かつ必要な支持力を有するものでなければならない。このため、事前に基盤の
力学的諸性状及び地下水位を十分調査し、適切な基盤整形面が得られるよう検討を加えておかねばならない。
2.2.3 基盤処理
地下水位が高く、遮水シートに背面圧が作用するおそれのある時は、基盤整形後、適切にドレーン(参図2.2.2、参図-2.2.3)、又は逆流防止弁付き水抜き孔を設ける。これらには必ずフィルタ層を設けなければな
らない。
ドレーンが基盤表面に出る場合は、ドレーン表面に十分な目つぶしを行い、水抜き孔については、基盤面
にツバ等を設けて遮水シートとの結合をよくし、取付け部が漏水の弱点とならないようにする。
草木類は根茎まで十分除去し、必要に応じて適切な草生対策を構ずる。
シート
排水溝
砂礫層
シート
不織布
砕石
排水パイプ
排水管
参図-2.2.2 ドレーンの配置例
参図-2.2.3 ドレーンの断面例
207
参考資料-2
表面遮水壁型工法
(1) 地下水等に関する対策
地下水、湧水への対策として、アンダードレーンを設置する。
また、設置ピッチやドレーンパイプの径については、湧水量等により適宜検討の上、決定する。一般
的な例としては、設置ピッチ 10~40 m、パイプ径 φ50~300 mm、設置勾配 1/50~1/100 等が多く見ら
れる。
(2) エア、ガスに関する対策
腐植土層からの発生ガス、あるいは、地下湧水により押し出される空気の排出には、有孔管パイプの
エア抜き装置を設置する。
エア抜きパイプはドレーンに直結するが、池底面積が大きく、腐植土層がある場合は、底部にも配管
する。パイプはφ 25~50 mm、設置ピッチは 10~40 m とし、底部基盤の傾斜を必要とする。装置の施
設に関しては、参図-2.2.4 による。
鋼管(露出部)
シート
2~3m
空気抜き管(φ25~50)
ドレーン管
参図-2.2.4
エア、ガス対策の例
2.2.4 シート搬入及び運搬
(1) 敷設割付図に基づきシートを所定位置まで運搬する。
(2) 運搬に当たっては、シートに損傷を与えないために、シートを引きずらないようにする。
2.2.5 シートの敷設
(1) シート展張前に必ず下地の状態確認を再度行い、転石等は除去する。
(2) シートの展張は、法面の上方から下方に向かって敷き拡げる。この際、必要以上の引張応力がシー
トに作用しないようにする。
(3) 敷設済シートとの重ね代(シートの種類により異なるが、100~200 mm 程度)を確保しながら展張
する。
(4) シート展張敷設後、シートのずり下がりを防止するために、展張敷設後すぐにシート天端部に土の
う等で仮押さえをする。また、風が強い気象条件下での施工においては、シート接合部(重ね合わせ
部)にも土のう等を仮置きし、シートのまくれ上がりを防止する。
(5) 法面が急勾配(1 割 5 分以下)の場合、作業員のシート設置作業による踏み荒らし等を防止する観
点から、法面保護(養生)のための法面昇降用施設を設ける。また、シート溶着作業時においてもこ
れを使用する。
208
設計指針 「ため池整備」
敷設済みシート
梱包シート
展張中のシート
縄ばしご
シート重ね代
参図-2.2.5
遮水シート敷設概略図
2.2.6 端部の処理(天端固定)
法肩から 500~1500 mm 離れた位置に、300×300~500 mm の溝を造り、シートを敷込み、コンクリート、
又は土で埋戻す。また、U 字溝を使用する場合もある。法肩がコンクリートの場合は緩衝材を敷くことが必
要である(参図-2.2.6~参図-2.2.8)。
U 字溝
コンクリートまたは土
300
シート
シート
単位:(mm)
500~1500 300~500
参図-2.2.6 天端処理の例
シート
接合部
シート
シート
緩衝材
コンクリートまたは土
参図-2.2.7
小段部処理の例
参図-2.2.8
緩衝材を使用する場合の例
2.2.7 シートの現場接合の事例
(1) 合成ゴム系シートの場合
土木用遮水シートとして広幅加工されたシートを現場所定位置に敷設後、現場でのジョイント作業を
行う。現場でのジョイントは、シートとシートのラップ(重ね代)を取り、シートジョイント用の接着
剤を塗布し、オープンタイム(30 分前後)を取り、指触乾燥(接着剤が指に付着しなくなる状態)確認
後にジョイント部を張合せ、ハンドローラで転圧を行う。ラップ部接着後、ジョイント端部小口のめく
れ防止として補強テープ( 70~100 mm 幅)を張合せ、ハンドローラで転圧を行う。なお、接着剤には
接着テープタイプのものもある。
209
参考資料-2
表面遮水壁型工法
シートの現場ジョイント施工例を、参図-2.2.9 に示す。
70
補強テープ
シート用接着剤
200
100
シート用接着剤
補強テープ
50
200
シーリングテープ
単位:(mm)
参図-2.2.9 現場ジョイント施工例(合成ゴム系シート)
シートの現場ジョイント施工の留意点を、次に示す。
① 低温時(約 5℃ 以下)及び降雨時の施工は避ける。
② 接着表面は乾燥させ、泥、ほこり、油脂分等を除去清掃する。
③ 接着剤の乾燥程度は、指触乾燥(接着剤が指に付着しなくなる状態)とする。
④ シート張合せ後、ハンドローラでの転圧を必ず行う。
(2) 合成樹脂系シートの場合
現場における溶着接合作業方式としては、下記の 2 種類がある。
a. 携帯式熱風溶着機による接合方法
ヒータにより加熱されたエアをシート接合部に送風し、シート面を溶かすことにより溶着(溶融圧
着)させる方法(参図-2.2.10)である。
押圧(ハンドローラ等)
熱風
防水シート
参図-2.2.10 携帯式熱風溶着機の場合 (概念図) (合成樹脂系シート)
携帯式熱風溶着機は、直線部、異形部、コーナー部、パイプ等の接合部において、補修個所等の溶
着接合作業が可能である。
携帯式熱風溶着機の場合、シート溶着作業部の下面に下地板(ベニヤ板 300×600 mm 程度の大きさ)
を敷き、溶着作業の移動に伴い下地板も移動させながら行うことを、下地板挿入不可能な個所を除き
標準とする。
210
設計指針 「ため池整備」
b. 自走式溶着機による接合方法
基本的な原理は、携帯式熱風溶着機によるシート接合方法と同じであるが、作業方式が異なり溶着
機自体が自走し、シートを接合させる方法である。
自走式溶着機は携帯式熱風溶着機によるシート接合方法のような溶着接合作業ではなく、乾燥した
平滑面(例えば、コンクリート基盤上)での使用が可能である。
2.2.8 シートのコンクリート構造物への接合事例
遮水シート工法では、水密性確保の点で、コンクリート構造物への取付けについて、特に配慮しなければ
ならない。構造物周辺は締固めを十分に行うが、貯水後の構造物周辺部での多少の沈下は避け難いため、十
分な接着幅の確保が重要といえる。
コンクリート構造物とシートとの境界面からの漏水を防止するためには、この部分を遮水構造にする必要
がある。
a
コンクリートピンまたは
ホールインアンカー
b
コーキング材
接着
押え材板
シート
シート
参図-2.2.11 既設コンクリート構造物へのシート取付方法例
参図-2.2.11 は、主に既設のコンクリート構造物へシートを接合する場合の工法である。
b の取付方法では特にシート施工後、シートが引っ張られることが予想されるため、強度的にも安全性が
要求される。
合成ゴム系シートの場合、コンクリート構造物への接着接合においては、接着幅を 30 cm 以上確保する。
既設構造物において接着幅の確保が難しい場合には、エプロンコンクリート(帯コンクリート)を周囲に設
ける。
なお、できる限り水平方向の取付けとし、立ち上がり方向への取付けは避けることが望ましい。接着接合
のシート端部は、小口のめくれ防止として、金具固定とシーリングを行う。
シートのコンクリート構造物への接着接合の施工例を、参図-2.2.12、参図-2.2.13 に示す。
211
参考資料-2
表面遮水壁型工法
固定金具ピン止め
シート用接着剤
シーリング材
既設構造物
300
エプロンコンクリート
挿筋
単位:(mm)
参図-2.2.12 コンクリート構造物(独立構造物)への接着接合の施工例(合成ゴム系シートの例)
シート/シート用接着剤
シート/コンクリート用接着剤
本体シート
補強シート
エプロンコンクリート
参図-2.2.13 コンクリート構造物(パイプ周り)への接着接合の施工例(合成ゴム系シートの例)
2.2.9 シートの施工状態の確認と補修及び補強
必要に応じて補強シートの増張り、シーリング等の処置を行う。
シート敷設施工の点検は、端末処理等を行った後、
① シートの現場接合が確実になされているか
② コンクリート構造物との接合が確実になされているか
③ パイプ周りの処理が確実になされているか
④ シートに損傷個所はないか
⑤ シート天端部の埋込み等の処理が確実になされているか
等について、目視、又は現場接合部をドライバー等の先端部による剥離チェック(ドライバーチェック)
等の方法により入念に行う。点検の結果、発見された不良個所は必ず補修、又は手直しを行う。
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