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「追い出し」 契約条項の使用停止

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「追い出し」 契約条項の使用停止
相談現場に役立つ情報
適格消費者団体活動レポート
第
いわゆる「追い出し」
契約条項の使用停止
3回
特定非営利活動(NPO)法人消費者支援機構関西検討委員長 弁護士
五條 操
Gojou Misao
KC’sでは、不動産賃貸業者、家賃等保証業者
特定非営利活動
(NPO)
法人
消費者支援機構関西
(KC’
(
s ケーシーズ)
)
に対し、契約条項の改善を求め、申し入れ活動
消費者団体訴訟の担い手となることを目的として2005年に設立さ
れた消費者団体。2007年8月に適格消費者団体の認定を受ける。
設立以来、事業者の契約条項等について改善を求める申し入れ活動
を行っている。
を行ってきました。本稿では訴訟となった2案
件を紹介します。
日本セーフティー株式会社との和解
借家契約・家賃保証契約の問題点
日本セーフティー株式会社(以下、
同社)は、
全国規模で活動する大手家賃保証業者ですが、
借家契約(建物賃貸借契約)は、借地借家法
により、賃借人の権利が保護されており、例え
契約解除後に裁判手続を経ることなく同社が動
ば家主側(賃貸人)の都合で退去を求められる
産類(家財道具)を運び出したり処分すること
場合が厳格に制限されています。他方で、同法
を認める契約条項や、賃借人が同社以外の個人
による規制がない事項については、契約条項を
の連帯保証人に対し契約解除や物件明け渡しの
作成する家主側に有利な規定となっていること
権限を与える契約条項等を使用していました。
が多く、場合によっては裁判上無効とされる契
KC’sは同社にこれら契約条項の使用停止等を
約条項が堂々と記載されています。
求めていましたが、十分な改善が得られなかっ
不動産賃貸借について家賃回収や滞納者に対
たため、2011年11月8日、契約条項の使用差
する明け渡し交渉等を事実上代行する管理業者
止めを求め、大阪地方裁判所に提訴しました。
や、建物を一括で借り上げて転貸するサブリー
なお、同社は提訴対象となった契約条項の一
ス業者が増加するにつれ、顧客獲得のために家
部については提訴に前後して使用を取りやめて
主の利益を重視する傾向が強まり、契約条項に
いました。その後、2012年12月20日、同社と
関しても同様の傾向がますます強まっています。
の間で和解が成立しました。
また、近年急激に増加している家賃等保証業
本和解は、①「賃貸借契約が終了した後7日以
者*1 も本来業務である家賃等の保証のみなら
上経っても物件の明け渡しが完了しない場合に
ず、実際には滞納家賃の取り立てや滞納者に対
は、賃借人は家財道具の所有権を放棄し、賃貸
する明け渡し交渉を行っており、権利行使を容
人が処分をしても賠償請求等をしない」という
易にするために、事業者にとって有利となるさ
旨の契約条項を、同社が今後使用しないことを
まざまな契約条項を用いています。これら事業
約束し、既に締結済みの契約書にある同条項は
者の一部が契約条項を盾に強引な取り立て、い
効力がない取り扱いにすることに合意し、②賃
わゆる「追い出し」行為を行い、
社会問題となっ
借人の意思を具体的に確認することなく個人の
ています。家賃等保証業者には現在、特別な法
連帯保証人の意思だけで賃貸借契約を解除した
的規制はありません。
り、個人の連帯保証人だけの立ち会いで物件の
2013.12
国民 生 活
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相談現場に役立つ情報
所)がありました。
明け渡しや原状回復費用の決定ができる場合
を、単なる債務不履行ではなく、一般の裁判実
控訴審判決では、①については、賃料等の滞
務においても賃貸借契約の解除が認められる可
納もないのに前述の事由のみで契約解除を認め
能性が高い3カ月以上の家賃不払いがあるとき
ることは、消費者契約法10条に違反するとして
等に限定する内容に、
契約条項を改訂すること、
差止めを認めたものの、②については同社が現
③業界の自主ルールの遵守というかたちではあ
在は「閉め出し」
「明け渡し」の契約条項を使用
るものの、玄関ドアなどへの貼り紙行為や深夜・
していないと主張していること、
③については、
早朝の電話・訪問などをしないこと、鍵の取り
同社の現在使用している契約条項は、KC’sが裁
替えなどの「閉め出し」行為や賃借人が明け渡
判で差止めを求めた契約条項ではなく、新しい
しを行う前に動産を処分しないことなどを約束
契約条項であるため、差止めを求めている契約
しているという点において、
同社の「追い出し」
条項を使用する「おそれ」
(同法12条3項)がな
行為に一定の歯止めをかける内容であると考え、
いとしました。また、④については同法9条1
和解による解決を選択しました。
号、10条に、⑤については同法9条2号に該当
しないとして請求を認めませんでした。
ただし、個人の連帯保証人を介在させること
により、事実上自力救済と同様の結果を実現す
①については、現在多くの不動産賃貸業者が
るような契約条項については、本来は禁止され
使用している契約条項であり、差止判決の実務
るべきですし、少なくとも明確な歯止めが必要
上の影響も大きく、KC’sとしては、同社以外の
と考えています。
事業者も自発的に契約条項を改善することを期
待しています。
和解の詳細
http://www.kc-s.or.jp/detail.php?n_id=10000330
他方で、②③のように事業者が契約条項が違
法であると事業者が認めないにもかかわらず、
株式会社明来に対する訴訟
あ
使用を取りやめたといえば差止めの必要性がな
き
株式会社明来(以下、同社)は、大阪府の不
くなるという判断は問題です。また、④⑤につ
動産賃貸業者であり、不動産賃貸借契約書にお
いては、同法9条の適用範囲を狭く理解してい
いて、①賃借人について破産、個人再生、成年
ます。海外諸国と比べると不当条項リストの数
後見、保佐等の申立てがあった場合の、賃貸人
が極端に少ないわが国の消費者契約法において、
の無催告解除権、②所在不明時の鍵交換等によ
個別リストの適用範囲を狭めれば、同法による
る「閉め出し」、明け渡しや居室内の動産類の処
契約条項の適正化はますます困難となります。
分による「追い出し」
、③家賃保証会社等第三
上記判決に対しては、敗訴部分の一部について
最高裁判所に上告受理申立て*2を行いました。
者への契約解除権や明け渡し権限の付与、④契
約終了後の明け渡し遅滞の場合に家賃相当額の
KC’sでは、引き続き上記分野について不当
2倍の損害金の請求、⑤家賃滞納時に、滞納額
な契約条項等の改善を求めるとともに、必要に
にかかわらず、
「催告手数料」として1回当たり
応じて、法制に関する提案等をしていきます。
3,150円の請求を可能とする契約条項等を定め
判決の詳細
ていました。
http://www.kc-s.or.jp/detail.php?n_id=10000320(一審)
http://www.kc-s.or.jp/detail.php?n_id=10000403(控訴審)
KC’sは改善を求めたものの実現しなかった
ため、2011年11月8日に大阪地方裁判所に提
*1 賃貸借契約時に賃借人と連帯保証契約を結ぶ事業者。
*2 高等裁判所の判決が、
「最高裁判所の判例と相反する判断がある
場合」「その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認
められる場合」のどちらかに当たるときに最高裁判所に上告でき
る、不服申立て方法の1つ。
訴しました。2012年11月12日に一審判決が、
2013年10月17日に控訴審判決(大阪高等裁判
2013.12
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