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植物と草木染めの色との関係性についての研究
Ⅰ
概要
採取した様々な種類の植物を、それぞれ2種類の布、3種類の媒染剤に分けて草木染め
を行い、結果から、植物の染まり方に何らかの規則性があるのかどうかを調べた。
Ⅱ
目的
草木染めには、藍染や紅花染めなど様々な種類があり、その種類によって、様々な色が
出てくる。その上、小学生でも簡単にできるので、私も小さい頃に何度か草木染めをする
機会があった。
あるとき、とある本の中で、「染色は、何色が出るのかがわからないところが楽しい。」
というものがあり、それを読んで私は、「本当に何色が出るのか分からないのだろうか。色
の出方には何か規則性があるのではないだろうか。あるとすれば、それはどのような規則
性なのだろうか。」と考えた。それと同時に「これをSSHの実験にしてみよう。」と思い
浮かんだ。
長い歴史を持つ草木染めを科学的に見て、尚且つ結果を導くのは難しいのではないか、
とも考えたが、せっかく研究が出来る機会を得ることができたので、できるなら小さい頃
から慣れ親しんだものにしたいとも思っていたので、この研究を行うことにした。
Ⅲ
活動日程
3月
インターネットを用いて、草木染めで主に用いられている植物を探す
草木染めの基礎をインターネットで調べる
高崎市染料博物館見学
4月
具体的な実験内容を考える
5月
紅花で試し染めをするが先々不安な結果となる
6月~9月
様々な植物で草木染めの実験(1日平均2種類の植物)
Ⅳ
植物色素について
高崎市染料博物館
具体的な実験内容を考えたとき、「植物の色」についてインターネットで調べてみると、
植物の色素には主に4つの種類があり、四大色素と呼ばれていることが分かった。
色素の中で代表的なものは、フラボノイド・ベタレイン・カロチノイド・クロロフィル
の4つである。これらは単独または共存して様々な色を発色する。
フラボノイドはアントシアニン・フラボン・フラボノール・カルコン・オーロンなどの
色素の総称で、白から黄色、橙赤、赤紫、青までいろいろな色を出す。ベタレインはアカ
ザ目・サボテン目などの限られた植物の黄色、赤紫、紫、赤色を出す。カロチノイドは黄
色から橙、赤色を出す。クロロフィルは緑色を出す。以上のように、植物の種類などによ
って、含まれる色素が異なるのである。
1
これを知って私は「草木染めの色は、植物に含まれている植物色素によって変わるので
はないか。」と予想した。
Ⅴ
実験方法
上記より、「同じ植物色素が含まれているならば、同じ金属媒染で同じような色が出る」
という予想のもと、次のように実験をした。
・大まかな実験方法
1.庭先などから採取した花・草などの植物をミキサーにかける。
2.適量の水に、ミキサーにかけた植物(染料)を布に入れて輪ゴムで縛ったものに
入れ、約10分間煮沸する。
3.煮沸後、色が出た水(染料液)を4等分し、布・毛糸をそれぞれに入れる。
4.4等分した内の3つに媒染剤を加える。残った1つを「媒染剤なし」とする。
5.布・毛糸を取り出し、色の違いを観察する。
・使用する布・毛糸…布(木綿)3cm×3cm に切り、お湯でのりを除いたもの。
毛糸(100%ウール)10cm 程度に切ったもの。
植物性のもの(布)と動物性のもの(毛糸)との染まり方の違いを観察する。
・使用する媒染剤…アルミ媒染<酢酸アルミニウム水溶液>
銅媒染<硫酸銅(Ⅱ)水溶液>
鉄媒染<塩化鉄(Ⅲ)水溶液>
媒染剤を入れることによって色を出しやすくするのと同時に、
媒染剤の違いによって出てくる色の違いを観察する。
それぞれ、500mlの水に30g入れたものを使用した。
アルミ媒染・銅媒染・鉄媒染
・ 実験に使用する植物…植物に含まれている色素のなかで、インターネットで調べること
ができたものとできなかったものがあった。そのため、花・草の色を赤、桃色、紫、緑、
黄色に区別し、それぞれ色素がわかっているもの・いないものに限らず3種類の植物を
選び、実験することにした。しかし、植物の生えている時期の関係で、いくつか実験で
きない植物がでてしまい、結果的に次の植物を実験で使用した。
ツツジ
アジサイ
セージ
ほうれん草
ヨモギ
緑茶
タンポポ
びょうやなぎ
紅花
オシロイバナ
蘇芳(すおう)
それぞれ、250mlの水に染料として25g入れ、ガスバーナーで約10分間煮沸し
た。
2
写真の結果は右図の通り。
「乾燥させた後の変化」は、化学実験室で
(下)
表し、「なし」は媒染剤なしのことを表している。
媒染剤なし
「アルミ」
「銅」「鉄」は、それぞれ媒染剤の種類を
(上)
実験結果
アルミ媒染
銅媒染
鉄媒染
Ⅵ
1日置いた後の変化を表している。
①蘇芳染め、②ヨモギ染め
媒染剤を1つにまとめてしまった上、媒染なしでの
実験をしなかったので失敗。
結果は右写真の通り。
③つつじ染め(色素不明)
染色液…明るい赤
ヨモギ染め
蘇芳染め
上記2つの実験の反省として、
「大まかな実験方法」で記したよう
に実験をしたところ、金属媒染によって大分色が変化した。
(写真右上からアルミ・銅・鉄、下は媒染剤なし)
アルミ…布・毛糸→紫色(アメジストのような色)
銅
…布・毛糸→赤に近い桃色
鉄
…布・毛糸→少し緑色に近い渋い色
なし
…布
→薄めのきれいな桃色
毛糸→薄い茶色
つつじ染め
乾燥させた後の変化→アルミ、銅、媒染剤なしの布は、全て暗めの桃色となり、色の区
別がつかなくなった。鉄は色が薄くなった。毛糸は色が抜けたようになってしまい、全て
が同じ、微妙な色となった。
④タンポポ染め(色素…カロチノイド)
染色液…薄い黄色
タンポポの黄色い部分を手でつまみとって染料とした。染色液が
とても薄くなったので、染まるかどうか不安だったけれども、それ
ぞれ媒染剤を入れると、しっかりとした色がついた。
アルミ…布・毛糸→明るい黄色
銅
…布
→アルミよりも少し濃い、明るい黄色
毛糸→少し暗めの黄色
鉄
タンポポ染め
…布
→暗い黄色
毛糸→色つきが甘め。暗い黄色
なし
…布・毛糸→とても薄い黄色
乾燥させた後の変化→乾燥した後でも、媒染剤による色の区別はしっかり観察で全体的に
黄緑色になった。
3
⑤緑茶染め(色素…カロチノイド)
染色液…茶色かかった黄色
葉っぱ自体の色は緑色だけれども、植物色素はタンポポと同じカ
ロチノイドなので、タンポポと似たような色が出るだろうと予想し
ていたが、実際に同じ緑色であるヨモギとは大分異なった色が出て
きた。思っていたより薄い色となった。
アルミ…布・毛糸→薄めのきれいな黄色
緑茶染め
銅
…布・毛糸→薄くて暗めの黄色
鉄
…布・毛糸→黒に近い灰色
なし
…布
→アルミよりも薄い黄色
毛糸→布よりも薄い黄色
乾燥させた後の変化→布も毛糸も、乾燥前と比べてあまり変化はなかったが、布の銅媒染
は少し黄緑色になった。鉄媒染は相変わらず灰色だった。
⑥紅花染め(色素…カルコン)
染色液…黒に近い赤
山崎先生から分けてもらった染料を用いた。染料として市販され
ているだけあって、媒染剤なしでもとても濃い色が出てきた。
逆に、媒染剤による色の違いはあまり感じられなかった。
アルミ…布・毛糸→明るくハッキリとしたオレンジ色
銅
…布
→アルミとあまり変わらない
毛糸→布より少し黒っぽい色
紅花染め
鉄
…布・毛糸→濃いこげ茶色
なし
…布
→アルミとあまり変わらない
毛糸→色つきがあまりよくなかった
乾燥させた後の変化→緑茶と同様、あまり変化はなかった。銅媒染の色が少し暗くなった。
⑦アジサイ(紫)染め(色素…アントシアニン)
染色液…茶色
きれいな紫色を期待していたが、染色液は茶色になり、なんとも
言えない微妙ない色が出てきた。紫色以外のアジサイもこのような
色になると考えられる。
アルミ…布・毛糸→濁った、茶色に近い緑色
銅
…布
→薄め水色
毛糸→薄めの濁った緑色
鉄
…布・毛糸→濁ったこげ茶色
なし …布・毛糸→色がつかなかった
アジサイ染め
乾燥させた後の変化→全体的に薄めの黄緑色となった。銅媒染の布は、初めは薄めの水色
だったにも関わらず、アルミとあまり変わらない黄緑色となった。毛糸も、アルミと銅は
ほぼ同じ色となった。
4
⑧セージ染め(色素不明)
染色液…茶色
庭先に咲いていたもので、当初は名前も知らなかったが、アジ
サイと同じ紫色の花、ということで実験をした。染料を火にかけず
に水に入れたままにしておくと、だんだんと紫色の色素が出てきた
が、火にかけるとだんだんと茶色になっていった。
アルミ…布・毛糸→濃い茶色
銅
…布
→少し薄い、黒に近い茶色
毛糸→黒に近いこげ茶色
セージ染め
鉄
…布・毛糸→こげ茶色
なし
…布・毛糸→少し紫色がついていた
乾燥させた後の変化→ただ脱色しただけなのか、大分色が違うように感じた。茶色だった
アルミと銅は、布・毛糸共に黄緑色に近い色になった。鉄の布は、薄い赤茶色になった。
⑨ほうれん草染め(色素…ベタレイン)
染色液…淡緑色
市販のもの。染色液はなんとなくほうれん草の色だった。媒染剤を
入れてもあまり変化はなく、全体的に薄めに染まった。
アルミ…布・毛糸→とても薄い黄色
銅
…布・毛糸→薄い黄緑色
鉄
…布・毛糸→薄く明るめの茶色
なし
…布・毛糸→透明に近い黄色
乾燥後の変化→全体的にやわらかい色となった。布よりも毛糸の色の
ほうれん草染め
方がよく観察することができた。布は隅についている程度になった。
⑩びょうやなぎ染め(色素不明)
染色液…透明に近い黄色
庭先で採取したもの。濃い黄色の花だったが、思っていたより染
色液の色が薄くなった。しかし、媒染剤を入れるとそれぞれ色が変
化し、特に鉄媒染は、黒に近い色となった。
アルミ…布・毛糸→明るくきれいな黄色
銅
…布・毛糸→アルミよりも薄い黄色
鉄
…布・毛糸→黒に近いこげ茶色
なし
…布・毛糸→ほぼ無色
乾燥後の変化→銅媒染の布の色が薄いオレンジ色となった。鉄
びょうやなぎ染め
媒染の布も少し薄くなった。アルミの明るくきれいな黄色は、乾燥
しても抜けなかった。
5
⑪オシロイバナ(ピンク)染め(色素…ベタレイン)
染色液…赤に近い濃い桃色
オシロイバナの色の違いによる染色の違いを観察した。染色液
は濃い色となったが、思っていたよりはっきりとした色にはならな
かった。全体的に明るい色となった。
アルミ…布
→薄めの明るい桃色
毛糸→布よりも少し濃い桃色
銅
…布・毛糸→オレンジと茶色の中間色
鉄
…布・毛糸→薄いこげ茶色
なし
…布・毛糸→アルミよりも薄い桃色
オシロイバナ(桃色)
染め
乾燥後の変化→布の色が全体的に薄くなり、隅についている程度になった。毛糸の色の
濃さはあまり変わっておらず、媒染剤なしでもきれいな桃色がついた。
⑫オシロイバナ(黄色)染め
染色液…茶色に近いオレンジ色
桃色と同様、あまりはっきりといた色は出てこなかった。黄色の
花だったが、びょうやなぎのようにしっかりとした黄色ではなく、む
しろ茶色に近い色となった。銅媒染の布の色が、桃色とほぼ同じ色と
なった。
アルミ…布・毛糸→茶色かかった黄色
銅
…布・毛糸→薄いこげ茶色
鉄
…布・毛糸→薄いこげ茶色
なし
…布・毛糸→比較的明るい黄色
オシロイバナ(黄色)
染め
乾燥後の変化→桃色と同様、布の色が全体的に薄い色となった。布のアルミ・鉄・銅の
色の違いがあまりなかった。毛糸はあまり変化せず、媒染剤なしは薄黄色となった。
次ページの結果は、実験結果を大まかにまとめたもの(△は曖昧な結果を表す)
6
乾燥後の色の変化
が激しい(毛糸)
○
○
×
×
○
○
タンポポ
カロチ
ノイド
×
○
×
△
△
×
×
緑茶
カロチ
ノイド
×
×
×
○
○
×
×
紅花
カルコ
ン
○
○
○
×
×
×
×
アジサイ
アント
シアニ
ン
○
×
×
○
△
○
○
セージ
不明
○
×
○
△
○
○
○
ほうれん草
ベタレ
イン
×
×
×
○
○
△
×
びょうやなぎ
不明
×
○
×
○
○
×
×
オシロイバナ
(桃色)
ベタレ
イン
○
×
○
×
×
○
○
オシロイバナ
(黄色)
ベタレ
イン
○
×
○
×
×
○
○
Ⅶ
染色後、植物自体の
色に近い色が出た
乾燥後の色の変化
が激しい(布)
乾燥後媒染剤によ
る色の違いがはっ
きり出た (毛糸)
乾燥後媒染剤によ
る色の違いがはっ
きり出た ( 布 )
媒染剤な し で も 色
がついた
(布・毛糸共に)
主に草木染め
として使用されて
いるか
○
植物色素名
不明
植物名
つつじ
実験結果のまとめ・結果からの考察
・布と毛糸の染まり方に違いが見られたものはいくつかあったが、特に植物色素による
関連性は見つからなかった。
・植物自体の色が出る植物と、そうでない植物があった。これは同じ植物色素を持つ植
物の中でも見られた(ほうれん草とオシロイバナなど)。
これは色素の関係ではなく、植物の構造自体に関係があるのかもしれない。
・鉄媒染は、植物によって若干違いがあるが、全体的に黒から茶色の渋い色となった。
特に緑茶の鉄媒染はしっかりとした黒に近かった。しかし、同じカロチノイド色素の
タンポポの鉄媒染は暗い黄色となり、緑茶と同じような黒にはならなかった。
鉄剤を飲むときに緑茶で飲むのは良くない、と聞いたことがあるが、もしかしたら、
黒が出てきたのはそれと関係があるのではないか。
7
・つつじとオシロイバナは、乾燥後の反応が似ていた。しかし、同じ色素を含んでいる
ほうれん草とオシロイバナは、全体的目立った共通点は見つからなかった。
つつじの植物色素は不明だが(予想はアントシアニン)、オシロイバナと何かしらの
共通点があるのかもしれない。
・上の表の結果には、植物色素からみても、特に共通点は見つからなかった。
以上のことなどから、植物の草木染めの色の関連性は、植物色素ではなく、もっと他に
作用している何かにある、と考えた。
では、その何かとは何なのだろうか?残念ながら、今回はそこまではわからなかった。
Ⅷ
感想
本を読んでふと思いついた実験だったので、一人で実験せざるを得なかった。いろいろ
な過程において孤独に感じることが多かったが、無事実験を終えることができて本当に良
かった。当初の予想とは異なった結果となってしまったが、それはそれで新たな発見とな
ったのでいいと思う。
今回の「草木染め」という実験は、他のSSH班の実験と比べると少々単純な実験かも
しれない、と自分でも思ったが、実際に行ってみると、実験しようと思っていた植物が時
期外れで存在していなかったり、採取したのにいつの間にか枯れていたり、そもそも染め
方がわかっていなかったり…など、予想していなかった苦労がたくさんあり、何度も悪戦
苦闘した。その代わり、結果がとてもきれいだったり意外だったりする「草木染めの不思
議」を見ることができたので本当に良かった。
実験を全て終えて、草木染めの奥深さを身にしみて感じた。また機会があったら、
「実験」
としてではなく、
「趣味」の一環として、まだやっていない植物での草木染めをしてみたい。
そしていつか、今回わからなかった草木染めの色の関連性を見つけたいと思う。
最後になるが、協力してくださった先生方、1人の私を励ましてくれた友達、高崎市染
料博物館の皆様、庭先の植物の採取を許してくれて、時には植物事典をわざわざ開いてく
れた家族、この実験に関わってくれた全ての人に心から感謝したい。
Ⅸ
参考にしたホームページ
http://www.geocities.jp/opotyopure29/chika/
http://homepage1.nifty.com/seihotei/photo/photogallery.htm
http://www.bioportal.jp/columns/29/spectrum.html
http://homepage3.nifty.com/oso/plant/sikiso.html
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