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首都圏および東北圏における児童の身体活動の比較 —3軸加速度計を
首都圏および東北圏における児童の身体活動の比較 —3軸加速度計を用いた行動分析— 鎌田(引原)研究室 1.研究の背景 1.1. 身体活動推進に求められる他分野協同の意義 近年、家事、庭仕事、通勤のための歩行などの日常生活活 動、余暇に行なうレジャー活動や運動・スポーツ活動など、全 ての身体活動が健康に欠かせないものと考えられるようになっ ており、運動・スポーツ習慣だけでなく、生活活動の中で身体 活動を実施することの重要性が指摘されている。さらに、「座り すぎ」がもたらす健康障害への認識も高まってきており、ここ10 年で公衆衛生学や行動疫学、健康教育学の分野において「座 位行動」に関連する研究が急速に進展している。この「座位行 動」は、当該研究分野で頻繁に用いられてきた「不活動」すな わち行政の身体活動指針で推奨されているような「中高強度の 身体活動が不足している状態」とは別の概念として取り扱うべ きであることが強調されている。 このような身体活動の減少や座位行動の増加が懸念される 中、欧米を中心に身体活動を促進する環境要因についての研 究が進展している。例えば、「移動歩行」と関連する環境要因と しては、目的地への近接性・混合土地利用、道路の接続性な どが、「余暇歩行(散歩、ウォーキング)」と関連する要因として は、公園等の運動場所への近接性、歩道等の歩行者インフラ、 景観等が考えられている。環境整備の課題は本来、都市計画、 都市交通などを担う国土交通省などが管轄する事業分野が中 心となって検討がなされるべきであるが、健康問題が深刻化し ている今、都市計画を進める事業分野と保健医療分野が協同 して、ヒトの行動変容を引き起こす都市計画の推進が求められ ている。実際に、WHOの声明や身体活動のトロント憲章にお いて身体活動の推進、健康増進において他分野協働の重要 性が強調されている。 1.2. 子どもの身体活動と環境要因 子どもにおいても、身体活動の不足よる、体力低下、肥満、 脂質異常症や高血圧、うつ、不安といった心身の健康への悪 影響が明らかとなっている。さらに、幼少期の身体活動習慣が 成人期まで引き継がれることも報告されており、子どもの身体 活動の重要性が指摘されている。また、生活環境の変化を背 景に子どもの座位行動時間が増加し、運動などの強度の高い 活動時間が減少している点は成人と同様の特徴である。これま での子どもの身体活動を促進する環境要因について検討した 研究は、1日の中で多くの時間を過ごす学校に焦点を当てたも のが多い。近年では特に学校の休み時間に着目した研究が 多く、遊具の設置、校庭のマーキング、校庭の芝生化といった 校内環境の整備によって,休み時間における身体活動が増進 したなどの報告がみられる。一方、住宅環境や地区環境など 広域な環境要因との関連について検討した研究は少なく、そ れらの研究の大半はアンケート調査や歩数計を用いて実施さ れてきた。アンケート調査は、簡便であるものの妥当性が低い こと、歩数計は客観的であるが1日歩数しか評価できないこと などの問題点を有している。近年、3軸加速度センサを応用し た活動量計が開発され,その信頼性や妥当性から行動疫学分 野を中心に広く利用されるようになった。特に、これまで検出し にくかった移動を伴わない微小活動(座位行動など)に対して も評価可能な活動量計が開発されており、装着しているにも関 わらず非装着とみなしてしまう誤判別を解消できるようになっ た。 1224181 砂合 裕希 そこで本研究は、これまで明らかにされてこなかった子ども の身体活動と環境要因との関連について3軸加速度センサを 内蔵した活動量計を用いて明らかにすることを目的とした。具 体的には、首都圏都市部と東北圏山岳部の子どもの身体活動 状況を比較検討し、身体活動時間、座位行動時間、またそれ らの継続時間(バウト)の相違を明らかにする。 2. 方法 2.1. 対象者 岩手県二戸市山岳部の8小学校に通う、小学生202名、東 京都、千葉県の都心部の小学校に通う、小学生247名の計449 名を対象とした。対象者の保護者、ならびに対象者に研究内 容を文書で説明し、研究に対する同意を得て実施した。 2.2. 測定項目 対象者には活動量計を休日を含む7日間、腰部に装着しても らい身体活動量を評価した。装着の際は、入浴や水泳、睡眠 時間等を除いて可能な限り装着してもらった。この活動量計の 特徴は、10秒間隔で算出された合成加速度から、独自の推定 式を介して、活動強度(METs)が算出される。また各強度に従 事した活動時間は10秒間隔で記録されたデータを積算するこ とで求められ、1.5METs以下の「座位行動」と3.0METs以上の 「中高強度」の身体活動に分類し、バウト(身体活動の継続性と 発生頻度)分析を行った。また内蔵の加速度計を用いて、歩数 も算出した。 活動量計のデータ採用にあたり、装着時間の1日の合計が平 日、休日ともに600分以上であることとし、装着日数が平日2日、 土日1日の計3日以上あることを条件とした。また午前7時~午 後9時までの範囲で解析を行った。バウト分析において信号が 20分以上継続して信号が検出されなかった場合は、その間は 装着していないものとし、1度でも微小な信号が検出された場 合は、その間は装着していたとみなした。また、座位行動の継 続時間を60分以上、120分以上、180分以上の3条件を設定し た。 また保護者には「身体活動に関連する住宅環境の調査」とし、 自宅周辺の景観、道路環境(安全かどうか)、治安などに関す るアンケート計14問に回答してもらうよう協力を依頼した。 3. 結果 首都圏都市部のデータは現在測定中のため、本発表では二 戸市の解析データのみ報告する。採用条件によりデータクリー ニングを行ったところ、東北圏山岳部(二戸市)の採用データ 数は160名となった。その結果、歩数は平日で12044±3263歩、 休日で9648±2929歩であり、休日において少ない傾向にあっ た。また、60分以上継続した座位行動の発生回数は、平日42 回、休日49回であり、その平均継続時間(分)は、平日87分、 休日95分であり、休日においてが高い傾向となった。 今後は、身体活動(3.0METs以上)の時間ならびにバウト分 析に加え、首都圏都市部のデータとの比較を行うことで環境要 因と身体活動との関係を明らかにする予定である。