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当地非製造業における設備投資の特徴とその背景

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当地非製造業における設備投資の特徴とその背景
2013年10月18日
日本銀行名古屋支店
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景
管内金融経済レポート No.22
Summary
当地の非製造業の設備投資は、近年製造業を大きく上回るペースで増加し、
全国や近畿地区の非製造業と比べても高い伸びとなっている。本稿では、そ
の特徴と背景について整理した。


当地の非製造業の設備投資を業種別にみると、近年は、卸・小売業、建設・
不動産業、宿泊・飲食サービス業で積極的な投資が実行されている。具体的
な案件をみると、小売店舗の新規出店・改装、名古屋駅前を中心とする再開
発、物流施設の建設が目立っている。

こうした積極的な設備投資が行われている背景としては、当地の景気が回
復局面にあるという循環的な要因もあるが、当地ならではの構造的な要因を
幾つか指摘することが可能。具体的には、①人口・所得要因等から安定的な
消費需要が見込まれること、②投資に適した用地を手当て可能であること、
③交通インフラの整備が進んでいること、の3点が挙げられる。

このうち、①の安定的な消費需要が見込まれる理由としては、当地は、人
口増加が続き、可処分所得も比較的高い水準にあることが挙げられる。また、
②の投資用地については、当地は、都心部にかつての製造業の工場跡地が纏
まった形で残っていることや、他の大都市圏に比べ商業地の地価が低く、投
資コストが比較的割安なことが背景にあると考えられる。さらに、③の交通
インフラについては、近年、空港・港湾・道路の開設や改修で交通網の整備
が一段と進み、利便性が高まっている。これが、ビジネス客や観光客等の流
入に伴う需要拡大を見込んだ出店や、本州の中心に位置する当地に物流施設
構築を積極化させる背景になっていると考えられる。

これらはいずれも構造的な要因であり、今後も当地の非製造業の設備投資
を下支えするものと考えられる。モノづくりの歴史のある当地において、非
製造業の積極的な設備投資が継続されることにより、当地経済が一段と発展
することが期待される。
本稿は、日本銀行名古屋支店営業課の宅見侑子、岩田和也、伊藤雄大が執筆を担当しました。
本稿の内容に関するお問い合わせは、日本銀行名古屋支店営業課・伊藤(052-222-2033)、上
野(052-222-2041)または[email protected]までお願い致します。本稿は、日本銀行名古屋
支店のホームページ(http://www3.boj.or.jp/nagoya/)でもご覧頂けます。
※
本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行名古屋支店までご相談ください。転載・
複製を行う場合は、出所を明記してください。
1.はじめに
当地企業の設備投資は、2008 年のリーマン・ショックを契機とした海外経済の悪化
などを背景に大幅に減少したが、その後は、製造業、非製造業とも 09 年度をボトム
に増加に転じている(図表1)。
そうしたなかでも当地の非製造業は、製造業を大きく上回るペースで増加し、足も
とではリーマン・ショック前を上回る水準となっているほか、全国や近畿地区の非製
造業と比べても高い伸びとなっている。
(図表1)設備投資額の推移
②他地域(非製造業)
①東海
160
(2007年度=100)
120
製造業
140
(2007年度=100)
全国
計画
110
全産業
120
計画
東海
非製造業
100
近畿
100
80
90
60
40
80
07
08
09
10
11
12
13
(年度)
07
08
09
10
11
12
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
(注)地域別は、日本銀行名古屋支店、日本銀行大阪支店
13
(年度)
因みに、設備投資のうち、構造物への投資を表す非居住用建築着工床面積をみても、
11 年度以降は非製造業による投資の増加ペースが製造業を大幅に上回っている(図表
2)。
(図表2)製造業・非製造業による非居住用建築着工床面積の推移
(2007年度=100)
120
製造業
非製造業
100
80
60
40
07
08
09
10
(資料)国土交通省「建築着工統計」
(注)製造業は、鉱業等を含む
11
12
(年度)
本稿では、モノづくりの集積地と呼ばれる当地において、近年、このように製造業
以上に積極的となっている非製造業の設備投資の特徴とその背景について整理した。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 1
2.当地の非製造業企業による設備投資の特徴
当地の非製造業の設備投資動向を業種別にみると、近年は卸・小売業、建設・不動
産業、宿泊・飲食サービス業で積極的な投資が実行・計画されている(図表3)。
(図表3)業種別の設備投資動向
(前年比、%)
2012年度
建設
2013年度(計画)
12.2
52.0
▲ 36.4
99.0
▲ 0.3
9.2
卸売
77.3
16.9
小売
66.9
99.8
1.8
▲ 6.4
▲ 2.2
6.3
17.0
1.0
113.0
▲ 14.5
対個人サービス
57.4
▲ 13.3
宿泊・飲食サービス
42.3
13.3
不動産
物品賃貸
運輸・郵便
情報通信
電気・ガス
対事業所サービス
(資料)日本銀行名古屋支店「東海3県の企業短期経済観測調査」
また、当地での主要な設備投資案件について、企業の IR 資料や新聞報道等で確認
すると、①小売店舗の新規出店・改装、②名古屋駅前を中心とする再開発、③物流施
設の建設が目立っており、上記の業種別の動向にほぼ沿った姿となっている(図表4
~6)。
(図表4)小売業における新規出店・改装
企業名
内容
A社
(スーパー)
2010 年度、11 年度、12 年度ともに 40 店舗強の出店を実施。5年間の中
期ビジョンとして約 180 店舗の新規出店を計画。
B社
(スーパー)
店舗数は、2013 年からの5か年計画で愛知県を中心に現在の4割増に拡
大する予定。出店数の拡大に伴い食材の集中加工センターを新設すること
も検討。
C社
(スーパー)
2013 年度は新規出店、改装ともに加速し、設備投資額は前年比3倍近く
まで増やす予定。
D社
(スーパー)
2013 年度の設備投資額は、前年比2桁の大幅な増額を計画。出店、既存
店改装等を予定。
E社
(ドラッグストア)
2013 年度の新規出店は前年よりも3割多い 80 店舗を計画。業績好調が続
く中、新規出店や改装を進めて競争力をさらに強化。
F社
(百貨店)
G社
(雑貨販売店)
2012 年から 13 年にかけて、一部売場を大幅に改装。
2012 年度の積極的な出店に続き、13 年度は新規出店を前年比+18%と一
段と加速。
(資料)IR 資料、新聞報道等
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 2
(図表5)名古屋駅前の再開発案件
旧ビル名
大名古屋
ビルヂング
<大名古屋ビ
ル・ロイヤル
パークイン名
古屋建替計画
>
名古屋
中央郵便局
<名駅一丁目
計画>
名古屋駅
新ビル
第二豊田ビル
<名駅四丁目
10 番地区開発
計画>
竣工
(着工)
概要
特徴点
15/10 月
(13/4 月)
 高さ 190 メートル
 地上 34 階・地下4
階建て
 延べ床面積 15 万
㎡
地下で市営地下鉄などと直結。商
業施設(地下1階~地上4階)と
オフィスフロア(5階以上)が入
居予定。
日本郵政
名工建設
15 年秋
(13/7 月)
 高さ 195 メートル
 地上 40 階・地下3
階建て
 延べ床面積 17 万
9200 ㎡
JR 名古屋駅、バスターミナルと直
結するほか、市営地下鉄、名鉄、
近鉄とも地下通路を通じて連絡。
郵便局のほか、商業施設が入居予
定。オフィス部分は、各階に約
2300 ㎡。
東海旅客
鉄道
 高さ 220 メートル
 地上 46 階・地下6
15 年末
階建て
(12/10 月)
 延べ床面積 26 万
㎡
「ジェイアール名古屋タカシマ
ヤ」、「ヨドバシカメラ(名古屋
初)」のほか、飲食店街(12~13
階)とホテル(18~24 階)、オフ
ィスフロア(26~44 階)が入居予
定。15 階部分では、
「JR セントラ
ルタワーズ」と連絡。
 高さ 115 メートル
 地上 25 階・地下4
階建て
 延べ床面積4万㎡
商業施設(地下1階~地上5階)
とオフィスフロア(6階~17 階)
に加え、ホテル(18~25 階)が入
居予定。
事業主体
三菱地所
東和
不動産
16 年末
(13/7 月)
(資料)IR 資料、新聞報道等
(図表6)物流施設の建設
企業名
H社
(ハウスメーカー)
進出地域
内容
愛知県
資材加工センターを建設。
I社
(物流)
愛知県
輸入貨物など定温貨物の主要拠点の増強。
J社
(物流)
愛知県
物流センター、事務所の建設。
K社
(物流)
愛知県
冷蔵・冷凍品など食品の取扱量の拡大に対応するため、物
流センターを新設。
L社
(小売)
岐阜県
物流センターの新設。
M社
(小売)
岐阜県
食品の物流センターと青果物の加工センターを同一の敷
地内に建設。
N社
(卸売)
愛知県
物流センターを新たに建設。
(資料)IR 資料、新聞報道等
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 3
3.当地における非製造業による積極的な設備投資の背景
当地の非製造業において積極的な設備投資が行われている背景としては、当地の景
気が緩やかな回復局面にあるという循環的な要因もあるが、当地ならではの構造的な
要因を幾つか指摘することが可能。具体的には、当地の企業からは主に次の3点で当
地で設備投資に踏み切る誘因が働いているとの声が聞かれている。
(1)安定的な消費需要が見込まれること
(2)投資に適した用地を手当て可能であること
(3)交通インフラの整備が進んでいること
<積極的な設備投資の背景に関する企業のコメント>
愛知県は、東京や大阪に次いで人口が多いことに加え、全国的にも珍しく
人口増加が続いているため、中長期的にも市場拡大が見込まれる地域であ
O社
(ホームセンター) る。このため、他地域の企業の参入も目立つが、当社もシェアの維持・拡
大に向けて、引き続き積極的に新規出店を行っていく方針。
P社
(スーパー)
当地は、繊維工場などの工場跡地が多く、スーパーの進出に適した広い用
地が多い。しかも、地価は他地域よりも低いケースが多く、新規出店に係
る投資コストを低く抑えることができている。
Q社
(スーパー)
東海地区は、首都圏と関西圏の間に位置しているほか、高速道路などの交
通網の整備が進んでいるため、物流には非常に恵まれた環境にある。当社
では、東海地区と他地域への商品供給体制の強化に向けて、岐阜県に物流
センターを建設した。
上記3点について、企業の声とデータ分析から当地の特徴を整理すると以下の通り。
(1)安定的な消費需要
企業が当地で安定的な消費需要があると見込む理由としては、①当地では人口増加
が続いていること、さらに②可処分所得が比較的高い水準にあることが挙げられる。
① 人口増加
地域別の人口増減の動向をみると、愛知県は出生率が比較的高いことなどを背景に、
他の都市圏と異なり、自然増加1が寄与するかたちで増加が続いており(図表7、8)、
経済情勢等に左右されやすい社会増加2に依存していない分、企業にとっては安定的な
消費需要を期待できると考えられる。実際、小売業による新規出店は、人口増加地域
で積極的となる傾向がある(図表9)。
1 自然増加:一定期間内における出生・死亡に伴う人口の動き(=出生数-死亡数)
2 社会増加:一定期間内における転入・転出に伴う人口の動き(=転入数-転出数+その他増減)
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 4
(図表7)地域別の人口推移
100
①愛知県
(千人)
100
社会増減数
80
40
20
20
0
0
-20
-20
100
06
07
08
09
10
11
12
05
06
07
08
09
10
11
12
(年)
③大阪府
(千人)
自然増減数
60
40
05
社会増減数
80
自然増減数
60
②東京都
(千人)
(年)
社会増減数
80
自然増減数
60
40
20
0
-20
05
06
07
08
09
10
(資料)愛知県、東京都、大阪府
11
12
(年)
(図表8)都道府県別の合計特殊出生率 3
3
(図表9)都道府県における人口と
小売業売場面積
合計特殊出生率(人)
2.0
1.8
愛
東
大
25
知
京
阪
小売業売場面積変化率(%、2002年→2007年)
愛
東
大
20
15
1.6
知
京
阪
10
5
1.4
0
1.2
-5
1.0
-10
30
35
40
45
50
女性総数のうち15~49歳女性の人口比率(%)
(資料)総務省「国勢調査」、厚生労働省「人口動態調査」
-8
-6
-4
-2
+0
+2
+4
+6
+8
人口変化率(%、2002年→2007年)
(資料)経済産業省「商業統計」、総務省「人口推計」
② 比較的高水準の可処分所得
当地の可処分所得は、全国のなかで高い水準となっている(図表 10)
。これは、年
収水準が大都市圏のなかでも比較的高い一方、支出面では、家計の中で主な負債とな
る住宅ローンの負担比率が低い水準となっていることによる面が大きいと考えられ
る(図表 11、12、BOX1)。さらに、当地は他の大都市圏に比べると物価水準が低い
ため、家計が消費に充当し得る所得の余裕分は計数で把握される分より大きいと推察
される(図表 13)。このような高水準の可処分所得を反映して、当地の1世帯当たり
消費支出総額は、近畿圏を大きく上回り、関東圏とほぼ同レベルとなっており、こう
した点からも消費関連企業にとっては魅力的な地域と考えられる(図表 14)。
3
合計特殊出生率:15~49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 5
(図表 11)年収水準(2012 年)
(図表 10)可処分所得の推移
470
(千円)
7,000
460
(千円)
5,824
6,000
450
5,183
4,833
5,000
440
4,000
430
420
東海
410
全国
3,000
2,000
関東
400
1,000
近畿
390
06
07
08
09
10
11
12
0
(年)
東京都
(資料)総務省「家計調査」
(図表 12)1世帯当たり住宅ローン
4
負担比率 4 の推移
10.0
愛知県
大阪府
(資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から
当店作成
(図表 13)物価水準(2007 年)
(%)
107
(全国=100)
105.9
106
9.0
105
104
8.0
103
101.7
102
7.0
101
東海
全国
6.0
100.2
100
99
関東
98
近畿
5.0
97
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
東京都
(年)
(資料)総務省「家計調査」
愛知県
大阪府
(資料)総務省「全国物価統計調査」
(図表 14)1世帯当たり消費支出総額の推移
40
( 万円)
38
36
34
東海
32
関東
近畿
30
02
03
04
05
06
07
08
(資料)総務省「家計消費状況調査」
09
10
11
12
( 年)
4 住宅ローン負担比率:土地家屋借金返済額を可処分所得金額で除した比率。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 6
【BOX1】愛知県の年収水準が高い背景
 愛知県の年収水準が高い背景としては、給与水準が比較的高い製造業(特に自動車
産業)の就業者が多く、失業率も他地域よりも低水準で推移しているなど、雇用・
所得環境が安定していることが寄与していると考えられる。
▽1人当たり年間給与総額(2012 年)
▽業種別就業者数構成比(2012 年)
(%)
(千円)
年収
(現金給与+賞与)
愛知県
全国
4,727
産業計
100.0
100.0
鉱業、採石業
5,079
鉱業、採石業
0.0
0.1
建設業
4,650
建設業
5.5
6.0
製造業
4,858
製造業
40.2
26.3
産業計
15.1
3.8
電気・ガス等
6,922
電気・ガス等
0.7
0.7
情報通信業
6,404
情報通信業
2.8
5.8
4,208
運輸・郵便業
7.4
8.8
卸売・小売業
4,555
卸売・小売業
17.3
14.4
金融・保険業
6,080
金融・保険業
2.9
4.1
不動産・物品賃貸業
4,873
不動産・物品賃貸業
1.0
1.3
学術研究等
5,978
学術研究等
3.0
3.2
宿泊・飲食サービス業
3,324
宿泊・飲食サービス業
1.7
2.4
生活関連サービス業、娯楽業
3,561
生活関連サービス業、娯楽業
1.5
2.2
教育・学習支援業
6,159
教育・学習支援業
2.2
2.7
医療・福祉
4,209
医療・福祉
8.3
13.5
複合サービス業
4,608
複合サービス業
0.6
1.0
サービス業
3,685
サービス業
4.9
7.6
輸送用機械
輸送用機械
5,591
運輸・郵便業
(資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から
当店作成
(資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
▽地域別の失業率の推移
7.0
(%)
東海
南関東
6.0
近畿
5.0
4.0
3.0
09/1Q
2Q
3Q
4Q
10/1Q
2Q
3Q
4Q
11/1Q
2Q
3Q
4Q
12/1Q
2Q
3Q
4Q
13/1Q
2Q
(資料)総務省「労働力調査」
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 7
(2)手当可能な投資用地
当地は商圏として魅力的な地域である一方、都心部に製造業の工場跡地が纏まった
形で残っており、出店や物流施設建設に適する用地を手当て可能であることが、企業
の積極的な投資に繋がっていると考えられる。
<近年の進出に関する企業のコメント>
R社
(スーパー)
当地は、繊維工場などの工場跡地が多く、スーパーの進出に適した広
い用地が多い。しかも、地価は他地域よりも低いケースが多く、新規
出店に係る投資コストを低く抑えることができている。
S社
(コンビニ)
愛知県内は出店余地が他地域に比べ多い。当社では、交通量や域内人
口により新規出店場所を決めている中で、愛知県はまだまだ好立地な
場所が残っているため、出店を加速させている。
<愛知県内に残存する遊休地・工場跡地の事例>
場所
都市計画
規模
地目
瀬戸市
蒲郡市
蒲郡市
準工業地域
準工業地域
準工業地域
660㎡
17,000㎡
850㎡
宅地
宅地
宅地
(資料)愛知県産業労働部
また、当地は他の大都市圏に比べ商業地の地価が低く、企業にとっては出店などに
際しての投資コストが比較的割安となっている(図表 15)。
商業地の地価が低い水準にあるのは、当地は郊外の工場地帯周辺に人口が分散して
いるため、商業地が集積する都心部における人口密度が低いことが背景にあると考え
られる(図表16、BOX2)。
(図表 15)地域別の地価(商業地)動向
(2013 年)
100
(万円/平方メートル)
(図表 16)都心部からの距離別人口
(2005 年)
1,000
(万人)
① 名古屋圏
800
600
50
400
200
0
0
東京圏
名古屋圏
大阪圏
0~10 10~20 20~30 30~40 40~50
(km)
(資料)国土交通省「地価公示」
1,000
(万人)
(資料)総務省「国勢調査」
②東京圏
1,000
800
800
600
600
400
400
200
200
0
(万人)
③大阪圏
0
0~10 10~20 20~30 30~40 40~50
(km)
(資料)総務省「国勢調査」
0~10 10~20 20~30 30~40 40~50
(km)
(資料)総務省「国勢調査」
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 8
【BOX2】当地で都心部の人口密度が低い要因
 当地で都心部に近接した地区の人口密度が低いのは、東京圏や大阪府に比べて、郊
外で働いている人が多いことがひとつの要因になっていると考えられる。

この点、昼夜間人口比率5をみると、東京圏は23区、大阪府は大阪市以外で同比率が
5
100%を超えている(=昼間の人口が多い)市は少ない一方で、愛知県では豊田市や
安城市など郊外の幾つかの市で100%を超える分散的な状態となっている。
▽地域別の昼夜間人口比率(2010 年)
①愛知県
市町村
名古屋市
豊田市
一宮市
豊橋市
岡崎市
春日井市
豊川市
安城市
小牧市
刈谷市
稲沢市
瀬戸市
夜間人口
②東京圏
(人、%)
昼間人口
2,263,894 2,569,376
421,487
458,833
378,566
328,856
376,665
368,658
372,357
349,671
305,569
279,399
181,928
173,200
178,691
183,592
147,132
169,933
145,781
176,305
136,442
129,944
132,224
119,546
昼夜間
人口比率
113.5
108.9
86.9
97.9
93.9
91.4
95.2
102.7
115.5
120.9
95.2
90.4
市町村
特別区部
横浜市
川崎市
さいたま市
千葉市
相模原市
船橋市
八王子市
川口市
松戸市
市川市
町田市
(%)
昼夜間
人口比率
130.9
91.5
89.5
92.8
97.5
87.9
84.2
99.7
83.7
81.5
81.7
91.0
③大阪府
市町村
大阪市
堺市
東大阪市
枚方市
豊中市
高槻市
吹田市
茨木市
八尾市
寝屋川市
岸和田市
和泉市
(%)
昼夜間
人口比率
132.8
94.4
103.2
87.8
89.2
86.5
98.6
92.6
95.7
87.3
90.9
85.8
(資料)総務省「国勢調査」
(注)東京圏:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を含む
 また、愛知県の従業員について、市町村別の構成比をみると、名古屋市(38%)が
4割近くを占める一方、4%を超える市が三河地域で複数存在しており、相応に分
散している。これに対し、東京都では23区(83%)に8割超、大阪府では大阪市(50%)
に5割と、都心部に一極集中している。
▽愛知県内従業員構成比(2012 年)
(資料)愛知県「経済センサス」
5 昼夜間人口比率:昼間人口を夜間人口で除した比率。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 9
(3)交通インフラの整備
当地では、近年、交通網の整備が進んでおり、企業、個人の双方に利便性が高まっ
ている。特に企業にとっては、ビジネス客や観光客等の流入に伴う需要拡大を見込め
るうえ、地理的に本州の中心となる当地に物流施設を設ける契機になると考えられる。
具体的には、05 年に中部国際空港が開港したほか、四日市港の改修が進んだことなど
から、各種物資の輸出入の利便性は飛躍的に向上した。また、道路網も新名神高速道
路(08/2 月)や新東名高速道路(12/4 月)の開通等で整備が進み、関西圏や首都圏
へのアクセスが一段と容易になっている(図表 17)。
(図表 17)当地の交通インフラの整備状況
●愛知、岐阜、三重を結ぶ環状道路
05 年
12~20 年
●中部と北陸を縦断して結ぶ道路
08 年 全線開通
09 年 白鳥以南の4車線化が完了
18 年 白鳥以北の4車線化が完了予定
豊田東 JCT~美濃関 JCT 間が開通
関広見~四日市北 JCT 間が順次開通予定
●名古屋市周辺を結ぶ環状道路
11 年
東部・東南部区間が開通
18 年
名古屋西~飛島間が整備予定
四日市港
●大型コンテナ船の入港が可能に
06 年
霞ヶ浦北埠頭 80 号岸壁拡張
衣浦港
三河港
津松坂港
名古屋港
尾鷲港
中部国際空港
●三重県の中部と南部を結ぶ道路
09 年 勢和多気 JCT~紀勢大内山間が開通
12 年 紀勢大内山~紀伊長島間が開通
●大水深ターミナルが完成し、大型コンテナ船の入
港が可能に
05~08 年 飛島埠頭南側コンテナターミナル拡張
12 年
鍋田埠頭コンテナターミナル拡張
●長崎空港、関西空港に次ぐ日本で3番目の海上空港
05 年
愛知万博の開催を前に開港
第二滑走路の整備推進のための検討が進行中
(資料)中日本高速道路、名古屋港、中部国際空港、中部地方整備局から当店作成
<交通インフラの整備に関する企業のコメント>
T社
(食料品メーカー)
当地は、日本のほぼ中央に位置しているうえ、近年、高速道路網の整
備が進んでいることもあって、物流には非常に恵まれた環境にあると
認識している。
U社
(スーパー)
道路交通網が整備されたことから、東海地区と関西圏への商品供給体
制の強化に向けて、岐阜県に物流センターを建設した。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 10
こうした道路網の整備に伴い、特に愛知県では他の大都市圏に比べ人口当たりの高
速道路総延長距離が長いほか、地域別の混雑度も低く、相対的に円滑な輸送が可能と
なっている(図表 18、19)。
(図表 18)地域別の高速道路総延長距離 (図表 19)地域別の混雑度 6(2010 年)
(2010 年)
6
50
(km/100万人当たり)
混雑度
40
東京都
0.89
愛知県
0.81
大阪府
0.87
全 国
0.65
30
20
10
0
東京都
愛知県
大阪府
(資料)国土交通省「道路交通センサス」
、総務省「国勢調査」
(資料)国土交通省「道路交通センサス」
さらに、先行きを展望しても、名古屋―東京間を約 40 分で結ぶ「リニア中央新幹
線」
(東京―名古屋間 27 年開業予定)の建設プロジェクトが進められている。リニア
中央新幹線の開通は、愛知県のみならず、岐阜県や三重県も含めた周辺都市において
も、ビジネス客や観光客の増加等により経済的にも様々な波及効果をもたらすことが
期待されている(図表 20)。
(図表 20)リニア中央新幹線のイメージ図
松本
(120)
高山
(140)
福井
(100)
下呂
(100)
岐阜
(29)
京都
(35)
新大阪
(50)
飯田
中津川1時間54分
(48) (バス)
東京
(100)
品川
静岡
(60)
豊田(60)
四日市
(36)
中部国際空港 豊橋
浜松
(30)
(28) (31)
津
(45)
伊勢(80)
東海道新幹線
鉄道(所要時間・分)
(資料)名古屋市「第1回
名古屋駅周辺まちづくり構想懇談会(説明資料)」
<リニア中央新幹線の効果に関する企業のコメント>
V社
(旅館)
リニア中央新幹線の開業によって、名古屋を中心に、当地(岐阜県)
にも観光客が増加することを期待している。
リニア中央新幹線が利用可能になると、首都圏への出張の際に移動
W社
時間が大幅に短縮することが見込まれる。時間が短縮された分、他
(金融)
の業務に時間を費やすことができるので、企業にとって生産性向上
に繋がることが期待される。
6
混雑度:交通量を道路設計上の基準交通量で除したもので、道路の混雑度合いを示す指標。
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 11
4.おわりに
本稿でみてきたとおり、当地の非製造業における積極的な設備投資の背景として、
主に、①安定的な消費需要、②手当可能な投資用地、③交通インフラの整備、の3点
を指摘することが可能である。これらはいずれも構造的な要因であり、今後も当地の
非製造業の設備投資を下支えするものと考えられる。モノづくりの歴史のある当地に
おいて、非製造業の積極的な設備投資が続いていくことにより、当地経済が一段と発
展することが期待される。
以
上
当地非製造業における設備投資の特徴とその背景― 12
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