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詳細PDF版 - 物質・材料研究機構

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詳細PDF版 - 物質・材料研究機構
同時発表:
筑波研究学園都市記者会(資料配付)
文部科学記者会(資料配布)
科学記者会(資料配布)
メソポーラス金属ファイバーの合成に成功
- シリカから金属へ、メソポーラス物質の新展開 -
平成20年3月28日
独立行政法人物質・材料研究機構
概 要
1. 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)国際ナノアーキテクトニクス
研究拠点(拠点長:青野 正和)の山内 悠輔 若手独立研究者らは、早稲田大学理工
学術院の黒田 一幸 教授らと共同で、陽極酸化ポーラスアルミナ1)を鋳型として用い、
界面活性剤2)の自己組織化プロセスを適用することで特異なメソ(ナノ)空間を持つ
金属ファイバーの合成に成功した。
2. 直径数nmの細孔が規則的に配列し、高比表面積を有するメソポーラス物質3)は、これ
までにない新たな化学反応の場をもつ材料として期待され、触媒材料及び吸着材料等
へ向けた研究・開発が活発に行われてきた。近年、電気化学的手法を用いて金属骨格
を有するメソポーラス金属の合成も可能となってきたが、従来のメソポーラス金属の
構造は規則性に乏しく、また巨視的なレベルでのメソ細孔の配向制御や形態制御など
が困難であった。
3. こうした困難を克服するため、下記の方法でメソ細孔をもつ金属ファイバーを合成し
た。陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型として、マクロ細孔の中に自己組織化プロセス
によって界面活性剤の規則的な集合体を形成させ、電気化学プロセス(鍍金技術)で
金属(白金)を析出させる。最後に、陽極酸化ポーラスアルミナと界面活性剤を除去
することでメソ細孔を有する金属ファイバーを作成する。電子線トモグラフィー4)に
よると、メソ細孔はファイバーの長軸に対して垂直に配向しており、ドーナッツ状(環
状)に重なった構造をもつことがわかった。
4. この規則的なメソ細孔を持つ金属ファイバーは、高い表面積を有し、金属のみの骨格
から形成しているため、従来のシリカ系メソポーラス物質では不可能であった電気化
学的な幅広い応用が期待される。また、この金属ファイバーの集合体は、ファイバー
間のマクロ空間とファイバー中のメソ空間のように大きさの異なる空間が存在した
階層構造をもち、外部から様々な物質を取り込みやすい構造になっているため、電極
などとして用いると取り込んだ物質が非常に速く拡散できる。本技術は、白金に留ま
らずほとんどの金属・合金系に適用できるため、金属骨格の組成を変えることによっ
て、バイオセンシング・燃料電池・キャパシターなどの様々な応用展開が期待できる。
5. 本研究成果は、アメリカ化学会の『Journal of the American Chemical Society』誌に速報
(Communication)として近日に発表される。
1
研究の背景
現在まで、メソポーラス物質は、合成・構造解析から触媒担体、吸着剤、光学材料に関
する研究、また、生医学応用をはじめ様々な応用研究まで多岐にわたり研究されている。
合成面から着目すると、ミクロ、メソ、マクロレベルの異なったスケールを視野に入れた
研究が発展してきた。メソスケール構造の精密な制御や配向の制御をはじめ、マクロスケ
ールでの形態制御が粒子のみならず薄膜、モノリス、ナノ粒子、ファイバー等に対して試
みられている。最近では、ミクロスケールで細孔壁の組成の多様化や、有機修飾によって
細孔環境をデザインすることなどが進み、メソポーラス物質は無機物質に留まらず、無機
有機ハイブリッド材料や有機高分子単独材料へ展開し、電気化学的手法を用いることによ
って金属骨格を有するメソポーラス金属の合成も可能となった。
金属骨格を有するメソポーラス金属は、構成金属自体の持つ触媒特性や高い電気伝導性
を利用して、従来のメソポーラス物質とは異なる分野(特に,電気化学分野)への応用が
大いに期待できる。近年、界面活性剤からなるリオトロピック液晶5)(LLC)を直接鋳型と
して用いる方法が提案され、電気化学プロセスと融合させることにより、一段階でメソポ
ーラス金属を合成することができるようになった(図 1)
。
しかしながら,従来の報告されてきたメソポーラス金属はメソ構造の規則性が非常に低
く、またマクロスケールでの形態制御やメソ細孔の配向制御などが課題として山積してお
り、合成手法が確立されておらず、発展途上にあった。最近、我々は溶媒揮発法を適用し
た液晶テンプレート法(Evaporation-mediated Direct Templating, EDIT)を新たに提案し、様々
な形態の高規則性メソポーラス金属の合成を報告してきた。揮発性有機溶媒を用いて低粘
性前駆溶液を調製し、溶媒の揮発を経て微細空間内でLLCを形成させた後、電気化学的手
法により金属を析出する手法である。
EDITに関する参考文献
Y. Yamauchi et al., Chemistry - An Asian Journal, in press (DOI: 10.1002/asia.200700350).
Y. Yamauchi et al., Chemistry of Materials, 20, 1004-1011 (2008).
Y. Yamauchi et al., Chemistry of Materials, 19, 1335-1342 (2007).
Y. Yamauchi et al., Science and Technology of Advanced Materials, 7, 438-445 (2006).
研究成果の内容
本研究では、この EDIT をさらに展開させ、陽極酸化ポーラスアルミナ(PAAM)のチャ
ネルを利用することで、メソポーラス Pt ファイバーの合成を行った(図 2)
。まず、塩化白
金酸水溶液に非イオン性界面活性剤、溶媒であるエタノールを混合し、前駆溶液を調製し
た。この前駆溶液を PAAM のチャネル中に浸透させ、エタノールの揮発を経て LLC を形
成させた。PAAM の制限されたチャネル中では、界面活性剤はロッド状の集合体を形成し、
各々のロッドはチャネルの長軸に対し垂直に配向しており、ドーナッツ状に積み重なって
配列した。溶媒が揮発し LLC が形成する段階で、制限空間場の影響により、液晶中のメソ
チャネルがマイクロチャネルの壁面に沿ってドーナッツ状に巻いて形成していくものと考
えられる。
次に、LLC が導入された PAAM を還元剤であるジメチルアミンボラン粉末と同一密閉容
器内に静置し、DMAB の昇華による気相輸送により Pt の金属析出を行った。その後、PAAM
2
を溶解させ、水とエタノールにより LLC の除去を行った。最終生成物である Pt ファイバー
内のメソ細孔は、はじめの液晶構造を完全に反映しており、同様のドーナッツ状のメソ構
造が形成していた。
最終生成物のファイバーの直径は用いる PAAM のチャネルの直径によって制御可能であ
る。HR-SEM 観察から、ファイバー同士はアレイ状に配列しており、すべてのファイバー
の最表面において規則的なメソ構造の形成を確認した(図 3)
。メソチャネルはファイバー
の長軸に対して、ほぼ垂直方向に配向していた。更に、電子線トモグラフィーを用いてフ
ァイバー内部の詳細な構造解析を行った結果、メソチャネルはドーナッツ状に巻いてスタ
ッキングしていることが明らかになった(図 4)
。
以上のように、陽極酸化ポーラスアルミナと界面活性剤の集合体の大きさの異なる 2 種
類の鋳型を用いること(ダブルテンプレーテング)により、メソポーラス金属の形態とメ
ソ細孔の配向を同時に制御できるようになった。
波及効果と今後の展開
得られたメソポーラス Pt ファイバーは、非常に高い表面積を有し,金属のみの骨格から
形成しているため、非常に導電性が高く、従来のシリカ系メソポーラス物質では不可能で
あった電気化学系への幅広い応用が期待できる。さらに、ファイバー間のマクロ空間とフ
ァイバー中のメソ空間からなる階層空間を有しているため、外部から様々な物資を取り込
みやすい構造になっており、電極として用いた場合には非常に高い物質拡散が期待できる。
本技術は、ほとんどの金属・合金系に適用でき、バイオセンシング・燃料電池・キャパ
シターなど応用の用途によって、骨格の組成を自由に設定することが可能である。また、
陽極酸化ポーラスアルミナのチャネルの大きさと界面活性剤分子の大きさを変えることに
より、得られるファイバーの直径やファイバー内のメソ細孔の大きさも同時に制御するこ
とができ、用途に合わせた構造設計が可能である。
問い合わせ先:
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
独立行政法人物質・材料研究機構
広報室 TEL:029-859-2026
研究内容に関すること:
独立行政法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
若手独立研究員 山内 悠輔
TEL:029-860-4635
FAX:029-860-4721
E-mail:[email protected]
3
【山内の不在時の対応】
独立行政法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 MANA リサーチアシスタント
石川 恵子(いしかわ あやこ)
TEL:029-859-2000 (内線 8600)
E-mail:[email protected]
【用語解説】
1)陽極酸化ポーラスアルミナ
アルミニウムを陽極酸化することにより、表面に陽極酸化ポーラスアルミナの層を
形成できることが知られている。この陽極酸化ポーラスアルミナは、膜面に対し垂直
に配向した均一で微細な細孔が形成されたものであり、この細孔内に金属や半導体、
有機物等の他物質を充填することにより、ナノメータースケールで規則的な細孔構造
を有する複合体の作製が可能である。
2)界面活性剤
水に対する相互作用の相反する2つの部分を併せて1つの分子。両親媒性分子。
3)メソポーラス物質
均一で規則的な細孔(メソ孔)を持つ物質のこと。例えば、メソポーラスシリカの
粉末は触媒や吸着材料として、薄膜は光学デバイスやガスセンサー、分離膜などとし
て、新しい応用が期待された研究が行われている。IUPAC では、直径 2 nm 以下の細孔
をマイクロ孔、直径 2~50 nm の細孔をメソ孔、直径 50 nm 以上の細孔をマクロ孔と
定義している。
4)電子線トモグラフィー
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたコンピュータトモグラフィー。様々な角度から
撮影した試料の投影像(TEM 像)をもとにコンピュータ上で、三次元像を再構成して、
材料の微細な三次元構造を解析する手法。
5)リオトロピック液晶
液晶状態とは、結晶のようにその分子配列に一定の規則性を保ちながら、液体のよ
うに流動性を兼ね揃えた状態をいう。界面活性剤のような両親媒性分子と水などの溶
媒との共存系において、濃度を変えるのみで液晶状態が現れたり、様々な相の変化も
おこったりする。これをリオトロピック液晶と呼ぶ。
4
図1 リオトロピック液晶からのメソポーラス金属の合成スキーム
陽極酸化ポーラスアルミナ(PAAM)
リオトロピック液晶(LLC)の充填
図2 合成スキーム
5
図3 メソポーラス Pt ファイバー(a)SEM 像(b)高分解 SEM 像(c)TEM 像
図4 メソポーラス Pt ファイバーの電子線トモグラフィー
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