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社団法人日本化学工業協会主催 ケミカルリスク研究会講演資料 2005.10.28 化学物質の環境中動態を理解する: マルチメディアモデルの概要と利用 小倉 勇 (独)産業技術総合研究所(AIST) 化学物質リスク管理研究センター(CRM) 1 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 2 マルチメディアモデルとは マルチメディアモデル(多媒体モデル) ・大気,水,土壌,底質などの媒体間の移動を含むモデル ・単一媒体の空間分布より,媒体間の移動に注目 ・媒体間の移動が重要な物質の評価に適する (ex. PCB,ダイオキシン類など) ・時間分布が重要な物質(環境残留性物質)の評価に適する(非定常モデル) ・化学物質の初期スクリーニングに適する(どの媒体に移動しやすいか把握) 。 ・各媒体内は均一と仮定(むしろシンプル) ・濃度の絶対値の推定値の精度はせいぜいオーダーレベル 3 Mackayのマルチメディアモデル この分野の第一人者であるMackay氏の著書,教科書に最適 Multimedia Environmental Models: The Fugacity Approach Donald MacKay (著) 2nd 版 (2001/02/26) ¥17,006 (税込) ←アマゾンcom ハードカバー: 272 p ; サイズ(cm): 出版社: Lewis Pub ; ISBN: 1566705428 初版(1991/06) ¥11,296 (税込) ←アマゾンcom 4 主要な公開マルチメディアモデル ・ChemCAN トレント大学のカナダ環境モデルセンターのMackay氏により開発 ChemCAN以外にも種々のモデルがダウンロード可能 http://www.trentu.ca/cemc/ ・MNSEM2 (Multi-phase Non-Steady state Equilibrium Model ver.2) 三菱化学安科研(現 産業技術総合研究所)の吉田喜久雄氏により開発 http://w-chemdb.nies.go.jp/kis-plus/MNSEM.htm 日本語の詳細なマニュアルがある。 ・SimpleBox3 オランダRIVM(国立公衆衛生・環境研究所)で開発。EUSES (The European Union System for the Evaluation of Substances)の中で 使われている。 http://ecb.jrc.it/new-chemicals/ ・CalTox カリフォルニアEPAが開発 http://www.dtsc.ca.gov/ScienceTechnology/ctox_dwn.html 研究レベルでは,数多くの類似モデルがある。 5 ChemCANやMNSEM2の環境構成 大気 (気相,粒子相) 土壌 (気相,水相,粒子相) 水 (水相,粒子相,生物相) 底質 (水相,粒子相) 6 Simpleboxモデルの環境構成 air freshwater sea water sediment sea water sediment emission natural soil agricultura soil industrial soil groundwate advection Diffusion degradation 規模の異なる環境を入れ子状になっている。 REGIONAL SCALE CONTINENTAL SCALE GLOBAL SCALE 7 CalTox 1.5の環境構成 土壌が層別 陸上植物を考慮 モンテカルロ法で感度解析・不確実性解析が可能 8 予測環境濃度から暴露量の推定 MNSEM2,CalTOX,Simpleboxは,予測環境濃度から ヒトへの暴露量まで推定できる。 大気 土壌 水 吸気 野菜 接触 草 摂取 肉・乳製品 地下水 魚介類 飲料水 濃縮係数(BCF),移行係数など,通常,環境濃度に比例で食品濃度を計算 9 モデルのレベル 閉じた系:外界とのやり取りや分解などを考えない。物質量が保存される。 平衡状態:媒体間で正味の物質移動傾向がない状態 定常状態:時間と共に変化しない Mackayのフガシティモデルでは,系の状態により, レベルI∼Ⅳの分類が決められている。 レベルI:平衡・定常・閉じた系 レベルⅡ:平衡・定常・開いた系 レベルⅢ:非平衡・定常・開いた系 ・化学物質の排出量一定で,無限時間後に到達する濃度。 ・媒体間(大気⇔土壌⇔水⇔ 底質)は非平衡だが,媒体内(例えば,大気中 の粒子-ガス分配や水中の粒子-水分配など)は通常平衡を仮定する。 ・計算が簡単なため,最も使われる。 レベルⅣ:非平衡・非定常・開いた系 ・化学物質の排出量や環境中濃度の時間変化を考慮する。 10 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 11 化合物の分類 ・Type 1:すべての媒体に分配する物質 ほとんどの物質 ・Type 2:揮発しない物質 イオン性物質や水に溶ける非揮発性有機物など (例: 鉛,LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸とその塩)) 蒸気圧10-7 [Pa]以上または空気/水分配係数が10-5 [-]以下 大気中ではエアロゾル粒子として存在 参考:ChemCANでは気中濃度基準のフガシティーの代わりに水中濃度基準の aquivalence (水中のフガシティー容量を1とする)で計算 ・Type 3:水に溶解しない物質 長い有機炭素やシリコン,ポリマーなど (例 エイコサン(炭素数 20 のアルカン)) 水溶解度が10-6 [g/m3]以下 Mackay et al. (1996) Environ. Toxicol. Chem 15:1618-1626 12 モデル推定に最低必要なパラメータ 対象化学物質の物性値など ・分子量 ・オクタノール/水分配係数Kow [-] このうち2つ ・オクタノール/空気分配係数Koa [-] ・空気/水分配係数Kaw [-] 空気/水分配係数 ・蒸気圧P [Pa]と水溶解度Cs [mol/m3] ・ヘンリー則定数H [Pa・m3/mol] (=P/Cs) このうち1つ ・空気/水分配係数Kaw [-] (=H/RT) R:気体定数 [Pa・m3/(mol・K)] (=8.314) T:絶対温度[K] ・分解(反応)半減期(各媒体:大気中,水中,土壌中,底質中) 対象化学物質の各媒体への排出量 ・大気中への排出量 ・水中への排出量 (・土壌中への排出量) (・底質中への排出量) 対象化学物質のバックグラウンド濃度 ・流入大気中濃度 ・流入水中濃度 →無視するなら0 13 物性値:気-水-オクタノールの3相間の分配 Koa = Kow / Kaw 空気,水,オクタノールの どこに行きやすいか? Koa, Kow, Kawのうち 2つが決まれば もうひとつは決まる。 気中濃度 Ca [g/m3] オクタノール/空気分配係数 Koa [-] = Co / Ca 空気/水分配係数 Kaw [-] = Ca / Cw 有機物への分配の指標 水中濃度 Cw [g/m3] オクタノール中 濃度 Co [g/m3] オクタノール/水分配係数 Kow [-] = Co / Cw 土壌粒子 水中懸濁粒子 底質粒子 大気浮遊粒子 魚 への分配の推定 14 環境パラメータ 化学物質によらず,すべての化学物質に共通に用いるパラメータ。 通常,モデルごとにあらかじめ設定されているが,必要に応じて変更。 ChemCANでは大気,水,土壌,底質の4つのコンパートメントを考える。 環境構成 ・総面積[km2] =大気コンパートメントの面積=土壌コンパートメント+水コンパートメント ・総面積のうち水コンパートメントの割合[%] ・大気混合高さ(Canada 2km, EQC1km) ・水深(20 m) ・土壌深さ(Canada 10cm, EQC 20cm) 大気 ・底質深さ(Canada 1 cm, EQC 5cm) 数値はChemCANのデフォルト値 Canadaは,Canadaの各地区の評価用の値 EQCは,EQuilibrium Criterion modelの値 土壌 水 各コンパートメント内の相 大気:気相,粒子相 水 :水相,粒子相,生物相 土壌:気相,水相,粒子相 底質:水相,粒子相 底質 15 環境パラメータ (参考) ・大気混合高さ 気象学的な混合層高さは,日差しの強い昼間は高く,関東地方の夏で1.5 km,平均すると1km, 夜間の混合層高さは低く,逆転層時は,地上から100∼200m(岡本2001)。 大気中の化学物質の濃度は,通常高さ方向の濃度分布があり,濃度一様で近似する場合には, 化学物質の混合高さは,必然的に気象学的な混合層高度より低くなる。これらの理由から,東野 ら(2003)は,大気混合高さを混合層高度の5∼6割程度とし,大気安定度別に70∼600 mに設定 したモデル(AIST-ADMER)を開発し,関東地方における窒素酸化物(NOx)を対象としたモデル 検証で実測値との良い一致を得ている。このモデルによる1年間の気象データに基づく平均大 気混合高さは270 mであった。 但し,地球レベルの長距離輸送を考える場合は,気象学的な混合層高度に即した混合高さを 設定する必要がある。 ・水深 水深は,沿岸から離れるほど深くなる。大陸棚の水深はおよそ200 mまで。 東京湾, 大阪湾, 伊勢湾, 瀬戸内海の平均水深はそれぞれ45,30,17,38 m(せとうちネット2005)。 ・土壌深さ 表層10∼15cmに80∼90%のダイオキシンが存在(Brzuzy & Hites 1995; Hagenmaier et al 1992)。 SimpleBoxモデルでは,農作地20cm, 通常の土壌5 cmと設定。 環境省によるダイオキシン測定マニュアルでは,原則,表層5cmの土壌を5地点混合方式で採取。 ・底質深さ 上部水コンパートメントとのやり取りは,表層5cm程度(Mackay 2001)。 だだし,生物などの影響により,深部まで攪乱する可能性がある。 環境省によるダイオキシン測定マニュアルでは,原則,表層10cm程度の底質を3回以上採取。 岡本眞一(2001). 大気環境予測講義. ぎょうせい, 東京; 東野晴行ら(2003). 大気環境学会誌38:100-115; 16 せとうちネット(2005). 瀬戸内海の概況 http://www.seto.or.jp/seto/index.htm; Brzuzy & Hites (1995) Environ Sci & Tech 29:2090-2098; Hagenmaier et al (1992) Chemosphere 25:1449-1456. 環境パラメータ 各相の体積割合 大気浮遊粒子密度を2400 kg/m3とすると浮遊粒子濃度48μg/m3 大気浮遊粒子密度を2000 kg/m3とすると浮遊粒子濃度40μg/m3 ちなみに日本の近年の平均30∼40μg/m3 水中懸濁粒子密度を2400 kg/m3とすると懸濁粒子濃度12 mg/L 水中懸濁粒子密度を1500 kg/m3とすると懸濁粒子濃度7.5 mg/L ちなみに東京都各河川の平均1∼22 mg/L (全体平均8 mg/L) ・大気浮遊粒子 (2×10-11 m3/ m3) ・水中懸濁粒子 (5×10-6 m3/ m3) ・魚 (1×10-6 m3/ m3) ・土壌中の気相:水相:粒子の体積割合(0.2:0.3:0.5 m3/ m3) ・底質中の水相:粒子の体積割合(Canada 0.7:0.3, EQC 0.8:0.2 m3/ m3) 密度 ・大気浮遊粒子 (Canada 2400 kg/m3, EQC 2000 kg/m3) ・水中懸濁粒子 (Canada 2400 kg/m3, EQC 1500 kg/m3) ・土壌粒子 (2400 kg/m3) ・底質粒子 (2400 kg/m3) 水中懸濁粒子は生物の影響で有機分が多い。そのため密度は小さい 3 ・魚 (1000 kg/m ) ・植物 (900 kg/m3) 有機炭素含有率 ・水中懸濁粒子 (0.2 g/g) ・土壌粒子 (0.02 g/g) ・底質粒子 (0.04 g/g) 脂質含有割合 ・魚 (Canada 0.048 m3/m3 , EQC 0.05 m3/m3) ・植物 (0.01 m3/m3) 17 数値はChemCANのデフォルト値 化学物質の環境動態に係わるパラメータ 化学物質によらず,すべての化学物質に共通に用いるパラメータ ・温度(環境中の温度は簡易に大気,水,土壌,底質で同じとされる) ・大気,水のコンパートメント内の滞留時間[d] ・大気中の粒子/ガス分配係数の定数B ・大気中粒子態の雨洗浄比[-] ・大気中粒子態の雪洗浄比[-] 様々な速度定数[m/h] ・U1:大気-水境界面の大気側の物質移動係数 ・U2:大気-水境界面の水側の物質移動係数 ・U3:降雨量 ・U4:大気浮遊粒子の乾性沈着速度 ・U5:大気-土壌境界面の土壌気相の物質移動係数 ・U6:大気-土壌境界面の土壌水相の物質移動係数 ・U7:大気-土壌境界面の大気側の物質移動係数 ・U8:水-底質境界面の物質移動係数 ・U9:底質への粒子沈着速度 ・U10:底質の巻上げ速度 ・U11:土壌間隙水の表面流出速度 ・U12:土壌粒子の浸食速度 ・U13:底質の堆積速度 ・U14:大気上空への逸散速度 物質移動係数 ・U15:土壌間隙水の地下への浸出速度 MTC: Mass Transfer Coefficient 18 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 19 分配平衡 CB 相A 傾きKBA 化学ポテンシャルA 濃度CA 平衡定数KBA=CB/CA CA 相B 濃度CB 化学ポテンシャルB ・低濃度域では濃度プロットは直線 ・蒸気圧相当の大気濃度や水溶解度相当の 水中濃度以上の濃度にはならない。 ・環境中での濃度は通常低濃度。 20 物性値:気-水-オクタノールの3相間の分配 Koa = Kow / Kaw 空気,水,オクタノールの どこに行きやすいか? Koa, Kow, Kawのうち 2つが決まれば もうひとつは決まる。 気中濃度 Ca [g/m3] オクタノール/空気分配係数 Koa [-] = Co / Ca 空気/水分配係数 Kaw [-] = Ca / Cw 有機物への分配の指標 水中濃度 Cw [g/m3] オクタノール中 濃度 Co [g/m3] オクタノール/水分配係数 Kow [-] = Co / Cw 土壌粒子 水中懸濁粒子 底質粒子 大気浮遊粒子 魚 への分配の推定 21 各媒体における相間の平衡 大気 ガス態 気相(20%) ガス態 浮遊粒子 気相 水相(30%) 分配 平衡 溶存態 分配 平衡 粒子相(50%) 分配 平衡 粒子態 水相 生物相 粒子態 魚 分配 平衡 溶存態 懸濁粒子 分配 粒子態 平衡 土壌 水 水相(70-80%) 溶存態 粒子相(20-30%) 分配 平衡 粒子態 底質 22 環境中の相間の分配係数 Koc:有機炭素/水分配係数[L/kg] 土壌や底質粒子と水の間の分配係数 粒子の有機炭素(OC)当たりの化学物質濃度[g/kg-OC] / 水中濃度[g/L] Koc =0.411×Kow (Karickhoff 1981. Chemosphere 10:833-849) その他にも様々な物質分類ごとの関係式あり(Sabljic et al. 1995 Chemosphere 31:4489-4514) 土壌粒子/水分配係数Kpwsoil [-] = DENSITYsoil×OCsoil×Koc 底質粒子/水分配係数Kpwsed [-] =DENSITYsed×OCsed×Koc 水中懸濁粒子/水分配係数Kpwss [-] =DENSITYss×OCss×Koc 魚/水分配係数Kfw [-] = Fishlipid×Kow 植物/空気分配係数[-] = Veglipid×Koa 大気浮遊粒子/空気分配係数[-] = TSP×B×Koa DENSITYsoil:土壌粒子密度[kg/L] DENSITYsed:底質粒子密度[kg/L] DENSITYss:水中懸濁粒子密度[kg/L] OCsoil:土壌粒子有機炭素含有率[g/g] OCsed :底質粒子有機炭素含有率[g/g] OCss :水中懸濁粒子有機炭素含有率[g/g] Fishlipid:魚中の脂質含有率[g/g] Veglipid:植物中の脂質含有率[g/g] TSP:大気中浮遊粒子濃度[μg/m3] B:粒子/ガス分配係数の定数[m3/μg] 23 大気中分配平衡 大気中浮遊粒子/ガス分配係数 Kp [m3/μg] = (Cp/TSP)/ Cg Cp:大気中粒子態の濃度[g/m3] Cg :大気中ガス態の濃度[g/m3] TSP:大気中浮遊粒子濃度[μg/m3] (Canada 48 μg/m3; EQC 40 μg/m3 ) ガス態 濃度 Cg [g/m3] 粒子態 濃度 Cp [g/m3] 数値はChemCANのデフォルト値 Canadaは,Canadaの各地区の評価用の値 EQCは,EQuilibrium Criterion modelの値 通常,ポンプで空気を吸引して,フィルターとその後段の吸着剤で化学物質を捕集し, フィルターで捕集されたものを粒子態,吸着剤で捕集されたものをガス態とみなして 分配係数Kpが求められる。 多くの化学物質で以下の式が成り立つことが実験的に示されている。 log Kp = a×log Koa + b a, b:定数 aは,ほぼ1とみなせる。 Kp = B×Koa B:大気中の粒子/ガス分配係数の定数 aとb,またはBが入手できれば,大気中の粒子/ガス分配を記述できる。 ChemCANにおけるBのデフォルト値は1.5×10-12 例) PAHs:log Kp = 0.79 log Koa-10.01 ; Kp=1.88×10-12×Koa 有機塩素化合物: log Kp = 0.55 log Koa-8.23 ; Kp=1.5×10-12×Koa Finizio et al. (1997). Atmos. Env.31:2289-2296 24 大気中分配平衡 Kp [m3/μg] = (Cp/TSP)/ Cg = B×Koa ガス態の重量割合:fg-air = Cg / (Cg+Cp) = 1 / (1 + Kp×TSP) 粒子態の重量割合:fp-air = Cp / (Cg+Cp) = Kp×TSP / (1+Kp×TSP) Koa HCB PCB-126 2,3,4,7,8-PCDF 30℃ 25℃ 0℃ 粒子態の割合= Cp / (Cp+Cg) p,p’-DDT 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% B = 1.5×10-12 TSP = 40μg/m3 8 9 10 11 12 13 log Koa [-] (オクタノール/空気分配係数) Log Koaが8以下の物質は,大気中でほぼすべてがガス態 Log Koaが12以上の物質は,大気中でほぼすべてが粒子態 25 水中分配平衡 水中懸濁粒子/水分配係数 Kpwss = OCss×DENSITYss×KOC = Cpwater / Cwwater 魚/水分配係数 Kfw = Fishlipid×Kow = Cfish / Cwwater 各相における化学物質の存在量 魚 :VOLfish×Cfish = VOLfish×Kfw×Cwwater 溶存態:Cwwater 粒子態:VOLss×Cpwater = VOLss×Kpwss×Cwwater 各相における化学物質の重量分配率 VOLfish×Kfw 魚 ff-water = VOLfish×Kfw +1+VOLSS×Kpwss 1 溶存態 fw-water = VOLfish×Kfw +1+VOLSS×Kpwss VOLp×Kpwss 粒子態 fp-water = VOLfish×Kfw +1+VOLSS×Kpwss 魚/水分配係数 Kfw = Cfish/Cwwater 魚濃度 Cfish [g/m3] 溶存態濃度 Cwwater [g/m3] 粒子態中 濃度 Cpwater [g/m3] 水中懸濁粒子/水分配係数 Kpwss= Cpwater/Cwwater 数値はChemCANのデフォルト値 OCss:水中懸濁粒子中有機炭素含有率(0.2 g/g) DENSITYss:水中懸濁粒子密度(2.4 kg/L) Koc:有機炭素/水分配係数[L/kg] (=0.411×Kow) Fishlipid:魚中の脂質含有率[g/g] (Canada 0.048 g/g , EQC 0.05 g/g) VOLfish:水中魚の体積割合[m3/m3] (1×10-6 m3/ m3) VOLss:水中懸濁粒子の体積割合[m3/m3] (5×10-6 m3/ m3) ff-water:水中魚への化学物質の重量分配率 [-] fw-water:水中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合) [-] fp-water:水中粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合) [-] 26 水中分配平衡 テトラクロロエチレン HCB Kow PCB-126 2,3,4,7,8-PCDF p,p’-DDT 30℃ 25℃ 0℃ 100 [%] 80 60 溶存態 40 粒子態 水中懸濁粒子濃度 SS = DENSITYss×VOLss =10 mg/L OCss = 0.2 g/g Fishlipid = 0.05 g/g VOLfish = 1×10-6 m3/ m3 20 魚 0 2 3 4 5 6 7 8 9 10 log Kow [-] (オクタノール/水分配係数) Log Kowが4以下の物質は,水中でほぼすべてが溶存態 Log Kowが8以上の物質は,水中でほぼすべてが粒子態 27 土壌中分配平衡 土壌粒子/水分配係数 Kpwsoil = OCsoil ×DENSITYsoil×KOC = Cpsoil / Cwsoil 各相における化学物質の存在量 ガス態:θ×Casoil = θ×Kaw×Cwsoil 溶存態:φ×Cwsoil 粒子態:(1-θ-φ)×Cpsoil = (1-θ-φ)×Kpwsoil×Cwsoil 各相における化学物質の重量分配率 θ×Kaw ガス態 fa-soil = θ×Kaw +φ+(1-θ-φ)×Kpwsoil 溶存態 fw-soil = φ θ×Kaw +φ+(1-θ-φ)×Kpwsoil 粒子態 fp-soil = (1-θ-φ)×Kpwsoil θ×Kaw +φ+(1-θ-φ)×Kpwsoil ガス態濃度 Casoil [g/m3] 空気/水分配係数 Kaw = Casoil/Cwsoil Kpwsoil :土壌粒子/水分配係数[-] OCsoil:土壌粒子中有機炭素含有率(0.02 g/g) DENSITYsoil:土壌粒子密度(2.4 kg/L) Koc:有機炭素/水分配係数[L/kg] (=0.411×Kow) θ:土壌中の気相の体積割合 (土壌の空隙率) [m3/m3] (0.2) φ:土壌中の水相の体積割合 (水分含有率) [m3/m3] (0.3) Kaw:空気/水分配係数[-] fa-soil:土壌中気相への化学物質の重量分配率(ガス態の割合)[-] fw-soil:土壌中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合) [-] fp-soil:土壌粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合) [-] 溶存態濃度 Cwsoil [g/m3] 粒子態中 濃度 Cpsoil [g/m3] 土壌粒子/水分配係数 Kpwsoil= Cpsoil/Cwsoil 28 底質中分配平衡 底質粒子/水分配係数 Kpwsed = OCsed×DENSITYsed×KOC = Cpsed / Cwsed 各相における化学物質の存在量 溶存態:φsed×Cwsed 粒子態:(1-φsed)×Cpsed = (1-φsed)× Kpwsed×Cwsed 各相における化学物質の重量分配率 φsed 溶存態 fw-sed = φsed+(1-φsed)× Kpwsed 粒子態 fp-sed = 水相中濃度 Cwsed [g/m3] 粒子相中 濃度 Cpsed [g/m3] 底質粒子/水分配係数 Kpwsed= Cpsed/Cwsed (1-φsed)× Kpwsed φsed+(1-φsed)× Kpwsed Kpwsed :底質粒子/水分配係数[-] OCsed:底質粒子中有機炭素含有率(0.04 g/g) DENSITYsoil:底質粒子密度(2.4 kg/L) Koc:有機炭素/水分配係数[L/kg] (=0.411×Kow) Cwsed:底質水相中の濃度[g/m3] Cpsed :底質粒子相中の濃度[g/m3] φsed:底質中水相の体積割合(底質の間隙率) [m3/m3] (Canada 0.7 m3/m3, EQC 0.8 m3/m3) fw-sed:底質中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合) [-] fp-sed:底質粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合) [-] 29 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 30 物質収支式 変化量[g/h] = (系外からの流入量)[g/h] + (他の媒体からの移行量) [g/h] −(他の媒体への移行量)[g/h]−(系外への流出量)[g/h] −(分解量)[g/h] 系外からの流入量 ・発生源から系への排出量I [g/h] ・空気や水を媒介として系外から移流IA (バックグランド濃度[g/m3]×流量[m3/h]) 大気 dM1 = I1 + IA1+ k21M2 + k31M3 −(k12 + k13 + kA1+ kR1)M1 dt kR1M1 I1 IA1 大気:M1 kA1M1 k21M2 IA2 I 2 Mi:媒体i中の化学物質の存在量[g] k31M3 k13M1 k12M1 Ii:媒体iへの化学物質の排出量[g/h] I 水:M2 IAi:媒体iへの化学物質の流入量[g/h] 3 土壌:M3 k32M3 kAi:媒体i中の化学物質の系外への kR3M3 移動の一次速度定数[1/h] k42M4 k24M2 I4 kRi:媒体i中の化学物質の 排出・流入[g/h] 分解・反応の一次速度定数[1/h] 底質:M4 移流・分解[g/h] kij:媒体iから媒体jへの化学物質の 媒体間移動[g/h] 移動の一次速度定数[1/h] kA2M2 kR2M2 31 kR4M4 物質収支式 物質収支 定常状態ではこれらの式=0とする。 dM1 = I + I + k M + k M −(k + k + k + k )M dt 1 A1 21 2 31 3 12 13 A1 R1 1 dM2 = I2 + I A2 + k12M1 + k32M3 + k42M4 −(k21+ k24 + kA2 + kR2)M2 dt dM3 = I + k M −(k + k + k )M dt 3 13 1 31 32 R3 3 dM4 = I4 + k24M2 −(k42 + kR4)M4 dt kR1M1 I1 IA1 大気:M1 kA1M1 k21M2 IA2 I 2 Mi:媒体i中の化学物質の存在量[g] k31M3 k13M1 k12M1 Ii:媒体iへの化学物質の排出量[g/h] I 水:M2 IAi:媒体iへの化学物質の流入量[g/h] 3 土壌:M3 k32M3 kAi:媒体i中の化学物質の系外への kR3M3 移動の一次速度定数[1/h] k42M4 k24M2 I4 kRi:媒体i中の化学物質の 排出・流入[g/h] 分解・反応の一次速度定数[1/h] 底質:M4 移流・分解[g/h] kij:媒体iから媒体jへの化学物質の 媒体間移動[g/h] 移動の一次速度定数[1/h] kA2M2 kR2M2 32 kR4M4 物質の分解反応 扱いの容易さから,通常一次反応として扱われる。 単位時間あたりの分解量 D [g/h] = kd [1/h]×C [g/m3]×V [m3] = kd [1/h]×M [g] kd:反応・分解の一次速度定数[1/h] (=0.693/半減期) C :化学物質の濃度[g/m3] V :メディアの体積[m3] M :メディア内の化学物質の量[g] (=C×V) 一次速度定数kと半減期T1/2の関係 dC/dt = - k×C 積分を解くと ln C/C0 = -k×t 濃度Cが初期濃度C0の1/2となる時間をT1/2とすると ln 1/2 = -k×T1/2 T1/2 = (ln 2) / k (ln 2 は2の自然対数=0.693) 33 物質の移動 濃度C [g/m3] 絶対量M [g] 体積V [m3] 物質移動方向の 長さH [m] 移動する媒体の速度U [m/h] 物質移動に垂直な面の 面積A [m2] 移動する媒体の流量G [m3/h] = U [m/h] ×A [m2] 単位時間あたりの物質の移動量 濃度C [g/m3] = M [g] / V [m3] N [g/h] = G [m3/h] ×C [g/m3] = U [m/h] ×A [m2] ×C [g/m3] = U [m/h] ×A [m2] × (M [g] / V [m3]) = (U [m/h] / H [m]) ×M [g] = ka [1/h] × M [g] kaは一次速度定数 ka = U [m/h] ×A [m2] / V [m3] = U [m/h] / H [m] 34 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 35 化学物質の環境動態に係わるパラメータ 化学物質によらず,すべての化学物質に共通に用いるパラメータ ・温度(環境中の温度は簡易に大気,水,土壌,底質で同じとされる) ・大気,水のコンパートメント内の滞留時間[d] ・大気中の粒子/ガス分配係数の定数B ・大気中粒子態の雨洗浄比[-] ・大気中粒子態の雪洗浄比[-] 様々な速度定数[m/h] ・U1:大気-水境界面の大気側の物質移動係数 ・U2:大気-水境界面の水側の物質移動係数 ・U3:降雨量 ・U4:大気浮遊粒子の乾性沈着速度 ・U5:大気-土壌境界面の土壌気相の物質移動係数 ・U6:大気-土壌境界面の土壌水相の物質移動係数 ・U7:大気-土壌境界面の大気側の物質移動係数 ・U8:水-底質境界面の物質移動係数 ・U9:底質への粒子沈着速度 ・U10:底質の巻上げ速度 ・U11:土壌間隙水の表面流出速度 ・U12:土壌粒子の浸食速度 ・U13:底質の堆積速度 ・U14:大気上空への逸散速度 物質移動係数 ・U15:土壌間隙水の地下への浸出速度 MTC: Mass Transfer Coefficient 36 大気中動態:概要 逸散 分解 浮遊粒子 気相 移流(流入) ガス態 排出 湿性 沈着 分配 平衡 粒子態 湿性 乾性 沈着 沈着 土壌コンパートメント + 水コンパートメント 移流 大気コンパートメント 乾性 沈着 37 大気中動態:水系へのガス態の乾性沈着(拡散) ・U1:大気-水境界面の大気側の物質移動係数[m/h] (Canada 3 m/h, EQC 5 m/h) ・U2:大気-水境界面の水側の物質移動係数[m/h] (Canada 0.03 m/h, EQC 0.05 m/h) 拡散速度はU1,U2から計算。 厳密には,化学物質によって拡散速度は 若干異なるがChemCANでは一定とする。 総括物質移動係数(気中濃度基準) OMTaw [m/h] = U1 大気側 境界 1 1 1 + U1 U2/Kaw U2 水側 大気から水へのガス態の乾性沈着速度定数 OMTaw×(PERCENTwater/100) × fg-air kdiff-12 [1/h] = He PERCENTwater:総面積のうち水コンパートメントの割合[%] fg-air:大気中ガス態の重量割合[-] He:大気混合高さ[m] (Canada 2000 m, EQC 1000 m) 38 大気中動態:土壌へのガス態の乾性沈着(拡散) ・U5 (Canada 0.04 m/h, EQC 0.02 m/h) ・U6 (0.00001 m/h) ・U7 (Canada 1 m/h, EQC 5 m/h) 拡散速度はU5,U6,U7から計算。 厳密には,化学物質によって拡散速度は 若干異なるがChemCANでは一定とする。 総括物質移動係数(気中濃度基準) OMTas [m/h] 1 = 1 1 + U7 U6/Kaw+U5 大気中 物質移動係数 U7 [m/h] 大気側 境界 土壌水相中 物質移動係数 U6 / Kaw [m/h] 土壌気相中 物質移動係数 U5 [m/h] 土壌側 大気-土壌境界面の拡散による物質移動 大気から土壌へのガス態の乾性沈着速度定数 OMTas ×(1 - PERCENTwater/100) kdiff-13 [1/h] = × fg-air He PERCENTwater:総面積のうち水コンパートメントの割合[%] fg-air:大気中ガス態の重量割合[-] He:大気混合高さ[m] (Canada 2000 m, EQC 1000 m) 39 大気中動態:粒子態の乾性沈着 ・U4:大気浮遊粒子の乾性沈着速度 [m/h] (Canada 10.8 m/h, EQC 10 m/h) 粒子態の乾性沈着速度は,付着する粒子の粒径に依存し,粒径が大きい粒子ほど 重力沈降と慣性衝突効果が高くなり,一方,粒径が小さい粒子ほど拡散性が増大する ことから,微小粒子と粗大粒子の沈着速度は共に大きく,中間領域のおよそ粒径0.1 ∼1 µmの領域で沈着速度は最小値をとるとされている。 粒子態の乾性沈着の速度定数 U4× PERCENTwater/100 大気から水へ:kdep-12 [1/h] = He × fp-air U4 ×(1 – PERCENTwater/100) × fp-air 大気から土壌へ:kdep-13 [1/h] = He PERCENTwater:総面積のうち水コンパートメントの割合[%] fp-air:大気中粒子態の重量割合[-] He:大気混合高さ[m] (Canada 2000 m, EQC 1000 m) 40 大気中動態:湿性沈着 ・U3:降雨量[m/h] ・大気中粒子態の洗浄比(雨)Wp [-] (2×105 [-]) ・大気中粒子態の洗浄比(雪)Wp [-] (1×106 [-]) 化学物質が種々の形で大気水象に取り込まれ,最終的に降水(降雪)として地表面へ輸送現象を 湿性沈着という。長期平均的な湿性沈着量の算出には雨水中濃度[g/m3]と大気中濃度[g/m3]の比 である洗浄比[-]が使われる。 大気中のガス態は雨水に飽和に溶け込むと仮定すると,ガス態の洗浄比は,Kawの逆数で 表される。 ガス 雨適 ガス態の洗浄比Wg [-] = Crain-g / Cg = 1/Kaw 粒子態の洗浄比Wp [-] = Crain-p / Cp 平衡 Cg:大気中ガス態濃度[g/m3] Kaw 3 Cp:大気中粒子態濃度[g/m ] Crain-g:大気中ガス態が雨水に溶け込んだことによる雨水中濃度[g/m3] Crain-p:大気中粒子態が雨水に溶け込んだことによる雨水中濃度[g/m3] 雨水中濃度=Crain-g + Crain-p Wpの実測報告値は104∼106 降雪のWpは,降雨のWpより1∼2オーダー大きい 0℃以下では降雪のWpを, 0℃以上では降雨のWpを使う。 41 大気中動態:湿性沈着 粒子態の湿性沈着の速度定数 U3×Wp×PERCENTwater/100 大気から水へ:kwetp-12 [1/h] = × fp-air He U3 ×Wp×(1 – PERCENTwater/100) 大気から土壌へ:kwetp-13 [1/h] = × fp-air He ガス態の湿性沈着の速度定数 U3×Wg×PERCENTwater/100 大気から水へ:kwetg-12 [1/h] = × fg-air He U3 ×Wg×(1 – PERCENTwater/100) 大気から土壌へ:kwetg-13 [1/h] = × fg-air He PERCENTwater:総面積のうち水コンパートメントの割合[%] fp-air:大気中粒子態の重量割合[-] fg-air:大気中ガス態の重量割合[-] He:大気混合高さ[m] (Canada 2000 m, EQC 1000 m) 42 大気中動態:上空へのガス態の逸散 ・U14:大気上空への逸散速度 [m/h] (0.01 m/h) 通常,逸散の効果は無視できるくらい小さい。 上空へのガス態の逸散の速度定数 U14 kdiff-stratosphere [1/h] = × fg-air He fg-air:大気中ガス態の重量割合[-] He:大気混合高さ[m] (Canada 2000 m, EQC 1000 m) 43 大気中動態:移流 ・大気コンパートメント内の滞留時間RESTIMEair[d] 滞留時間の決め方の例 空気の流れ 風速:u [m/s] 空気の流れ 円を仮定して, 平均的な 滞留時間を 計算 面積:A [m2] 空気の流れ方向の長さ:L[m] 滞留時間[day] = L / (u×3600×24) A×π / 4 滞留時間[day] = u × 3600 × 24 風速は地上高さの関数 平均風速はだいたい3 m/s SimpleBox 移流の速度定数 1 kadv-air [1/h] = RESTIMEair×24 44 大気中動態:分解 分解半減期または分解速度係数などによって定量化される。 多くの化学物質は大気中でOHラジカルなどと反応する。 しばしばガス態のみが反応すると考えるが, ChemCANではガス態と粒子態の区別はなく,半減期のみを入力。 大気中における分解反応の一次速度定数 kR1 [1/h] = ln2 / T1/2-air T1/2-air:大気中における分解半減期[h] ln2:2の自然対数(=0.693) 45 大気中動態:まとめ dM1 = I + I + k M + k M −(k + k + k + k )M dt 1 A1 21 2 31 3 12 13 A1 R1 1 媒体1(大気)から2 (水)へ :k12 = kdiff-12 + kdep-12 + kwetp-12 + kwetg-12 媒体1(大気)から3 (土壌)へ : k13 = kdiff-13 + kdep-13 + kwetp-13 + kwetg-13 系外へ : kA1 = kadv-air+ kdiff-stratosphere 分解 : kR1 IA1 = C0air×VOLair/(RESTIMEair×24) IA1:空気を媒介として系外から移流する量[g/h] C0air:バックグラウンド大気濃度[g/m3] VOLair:大気コンパートメントの体積[m3] RESTIMEair:大気コンパートメント内の滞留時間[d] 46 大気中動態:まとめの例 各プロセスの一次速度定数を比較することによって,どのプロセスが重要か が分かる。プロセスごとに半減期を推定するとおよその大きさが分かる。 各プロセスのまとめ プロセス ガス乾性沈着k diff12 ガス乾性沈着k diff13 ガス湿性沈着k wetg12 ガス湿性沈着k wetg13 粒子乾性沈着k dep12 粒子乾性沈着k dep13 粒子湿性沈着k wetp12 粒子湿性沈着k wetp13 移流k adv-air 逸散k diff-stratosphere 分解k R k 12 k 13 k A1 kR TOTAL 一次速度定数 寄与 半減期[h] k [1/h] 1.1E-04 0.1% 6,150 1.2E-04 0.1% 5,577 4.4E-04 0.4% 1,560 2.6E-03 2% 269 2.7E-03 3% 255 1.6E-02 15% 44 9.3E-03 9% 75 5.4E-02 50% 13 1.9E-02 17% 37 1.5E-06 0.001% 451,647 4.1E-03 4% 170 1.3E-02 12% 55 7.2E-02 67% 10 1.9E-02 17% 37 4.1E-03 4% 170 1.1E-01 100% 6 分配 粒子態 92% ガス態 8% 物質:ベンゾピレン 環境:擬似日本 半減期T1/2 = (ln 2) / Σk (ln 2 は2の自然対数=0.693) 47 土壌中動態:概要 巻き上げはChemCANでは考慮しない。 大気コンパートメント 排出 揮発 揮発 気相 ガス態 巻き上げ 水相 分配 平衡 溶存態 分解 粒子相 分配 平衡 粒子態 浸食 流出 水コンパー トメント 土壌コンパートメント 浸出(地下へ) 48 土壌中動態:揮発 ・U5 (Canada 0.04 m/h, EQC 0.02 m/h) ・U6 (0.00001 m/h) ・U7 (Canada 1 m/h, EQC 5 m/h) 大気中 物質移動係数 U7 [m/h] 総括物質移動係数(気中濃度基準) OMTas [m/h] 1 = 1 1 + U7 U6/Kaw+U5 大気側 境界 土壌水相中 物質移動係数 U6 / Kaw [m/h] 土壌気相中 物質移動係数 U5 [m/h] 土壌側 大気-土壌境界面の拡散による物質移動 土壌から大気への揮発速度定数 OMTas kdiff-31 [1/h] = × fa-soil DEPTHsoil×θ fa-soil:土壌中気相への化学物質の重量分配率(ガス態の割合)[-] DEPTHsoil:土壌深さ[m] (Canada 0.1 m, EQC 0.2 m) θ:土壌中の気相の体積割合[m3/m3] (土壌の空隙率)(0.2) 49 土壌中動態:流出/浸出, 浸食 ・U11:土壌間隙水の表面流出速度[m/h] ・U15:土壌間隙水の地下への浸出速度[m/h] ・U12:土壌粒子の浸食速度[m/h] 土壌間隙水の河川や地下への移動や,土壌粒子の浸食は,雨によって起こる移動。 但し,これらは,U3:雨量[m/h]と密接に関係 土壌間隙水の表面流出: U11=0.4×U3 (Canada) 土壌間隙水の地下への浸出: U15=0.1×U3 (Canada) U11=0.5×U3 (EQC) U15=0.1×U3 (EQC) 土壌に降った雨水は,40∼50%が河川へ,10%が地下へ,残りが揮発という意味 流れ出る雨水中の化学物質の濃度は,平衡時の土壌溶存態濃度 土壌粒子の浸食速度: U12=0.0002×U3 (Canada) U12=0.0005×U11 (Canada) U12=0.0001×U3 (EQC) U12=0.0002×U11 (EQC) 河川に流出する雨水中に体積比で0.0005または0.0002の粒子を含むという意味 粒子の密度を2400kg/m3とすると,河川に流出する水中の懸濁粒子の濃度は, 1.2 g/L,0.48 g/Lとなる。 参考 浸食は軽い粒子からまず起こり,軽い粒子ほど比表面積が大きく,有機炭素含有率が高い。 化学物質の濃度は,浸食により流出する土壌粒子の方が,残存する粒子より高い。 50 これを補正するために, エンリッチメント比(1∼5倍の補正)が使用される。 土壌中動態:流出/浸出, 浸食 土壌中溶存態の降雨による河川への流出の一次速度定数 U11 krunoff [1/h] = × fw-soil DEPTHsoil×Φ 土壌中溶存態の降雨による地下への浸出の一次速度定数 U15 kleach [1/h] = × fw-soil DEPTHsoil×Φ 土壌中粒子態の降雨による浸食(河川への流出)の一次速度定数 U12 kerosion [1/h] = × fp-soil DEPTHsoil×(1-θ-Φ) U11:土壌間隙水の表面流出速度[m/h] U15:土壌間隙水の地下への浸出速度[m/h] U12:土壌粒子の浸食速度[m/h] fw-soil:土壌中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合)[-] fp-soil:土壌粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合)[-] DEPTHsoil:土壌深さ[m](Canada 0.1 m, EQC 0.2 m) θ:土壌中の気相の体積割合(土壌の空隙率) [m3/m3] (0.2) Φ:土壌中の水相の体積割合(水分含有率) [m3/m3] (0.3) 51 土壌中動態:分解 土壌中の化学物質は,粒子表面での光分解や,好気・嫌気的な生物分解が起こる。 分解半減期または分解速度係数などによって定量化される。 土壌における分解反応の一次速度定数 kR3 [1/h] = ln2 / T1/2-soil T1/2-soil:土壌における分解半減期[h] ln2:2の自然対数(=0.693) 52 土壌中動態:まとめ dM3 = I + k M −(k + k + k )M dt 3 13 1 31 32 R3 3 媒体3(土壌)から1 (大気)へ :k31 = kdiff-31 媒体3(土壌)から2 (水)へ : k32 = krunoff + kerosion 系外へ : kA3 = kleach 分解 : kR3 53 土壌中動態:まとめの例 各プロセスの一次速度定数を比較することによって,どのプロセスが重要か が分かる。プロセスごとに半減期を推定するとおよその大きさが分かる。 各プロセスのまとめ プロセス 揮発k diff31 流出k runoff 浸出k leach 浸食k erosion k R3 k 31 k 32 k A3 k R3 TOTAL 一次速度定数 k [1/h] 5.8E-09 6.0E-08 1.2E-08 3.4E-07 4.1E-05 5.8E-09 4.0E-07 1.2E-08 4.1E-05 4.1E-05 寄与 半減期[year] 0.01% 0.15% 0.03% 1% 99% 0.01% 1.0% 0.03% 99% 100% 13739 1323 6622 231 2 13739 197 6622 2 2 分配 ガス態 1.2×10-10 % 溶存態 0.0021% 粒子態 99.998% 物質:ベンゾピレン 環境:擬似日本 半減期T1/2 = (ln 2) / Σk (ln 2 は2の自然対数=0.693) 54 水中動態:概要 大気コンパートメント 排出 水相 生物相 移流(流入) 分解 揮発 魚 分配 平衡 溶存態 水コンパートメント 底質への拡散 懸濁粒子 分配 粒子態 平衡 移流 沈降 底質コンパートメント 55 水中動態:揮発 ・U1:大気-水境界面の大気側の物質移動係数[m/h] (Canada 3 m/h, EQC 5 m/h) ・U2:大気-水境界面の水側の物質移動係数[m/h] (Canada 0.03 m/h, EQC 0.05 m/h) 総括物質移動係数(水中濃度基準) OMTwa [m/h] = 1 1 1 + U1×Kaw U2 水から大気への揮発の速度定数 OMTwa kdiff21 [1/h] = × fw-water DEPTHwater fw-water:水中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合) [-] DEPTHwater:水深[m] (20 m) 56 水中動態:底質への拡散 ・U8:水-底質境界面の物質移動係数[m/h] (0.0001m/h) 水から底質への拡散速度定数 U8 kdiff-24 [1/h] = × fw-water DEPTHwater fw-water:水中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合) [-] DEPTHwater:水深[m] (20 m) 57 水中動態:懸濁粒子の沈降 U9:底質への粒子沈着速度[m/h] (Canada 4×10-8 m/h, EQC 5×10-7 m/h)(粒子体積基準) 参考:水中懸濁粒子の体積割合VOLssを5×10-6 m3/ m3とすると, 水中における粒子の沈降速度=U9 / VOLss = 0.008 m/h (Canada), 0.1 m/h (EQC) 典型的な粒子の沈降速度は0.02∼0.08 m/h (Mackay 2001) 懸濁粒子の沈降の速度定数 U9 kdep-24 [1/h] = × fp-water DEPTHwater×VOLss fp-water:水中粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合) [-] DEPTHwater:水深[m] (20 m) VOLss:水中懸濁粒子の体積割合[m3/m3] (5×10-6 m3/ m3) 58 水中動態:移流 ・水中コンパートメント内の滞留時間RESTIMEwater[d] 参考:水の滞留時間は,湾や湖では比較的長く,東京湾,大阪湾,伊勢 湾でそれぞれ1.9∼2.2ヶ月,1.0∼1.3ヶ月,0.9∼1.5ヶ月(柳1997),瀬戸 内海で15ヶ月(Takeoka 1984)と報告されている。 Takeoka H (1984). Exchange and transport time scales in the Seto Inland Sea. Continental Shelf Research 3:327-341. 移流の速度定数 1 kadv-water [1/h] = RESTIME water×24 59 水中動態:分解 分解半減期または分解速度係数などによって定量化される。 水中における分解反応の一次速度定数 kR2 [1/h] = ln2 / T1/2-water T1/2-water:水中における分解半減期[h] ln2:2の自然対数(=0.693) 60 水中動態:まとめ dM2 = I2 + I A2 + k12M1 + k32M3 + k42M4 −(k21+ k24 + kA2 + kR2)M2 dt 媒体2(水)から1 (大気)へ :k21 = kdiff-21 媒体2(水)から4 (底質)へ : k24 = kdiff-24 + kdep-24 系外へ : kA2 = kadv-water 分解 : kR2 IA2 = C0water×VOLwater/(RESTIMEwater×24) IA2:水を媒介として系外から移流する量[g/h] C0water:バックグラウンド水中濃度[g/m3] VOLwater:水コンパートメントの体積[m3] RESTIMEwater:水コンパートメント内の滞留時間[d] 61 水中動態:まとめの例 各プロセスの一次速度定数を比較することによって,どのプロセスが重要か が分かる。プロセスごとに半減期を推定するとおよその大きさが分かる。 各プロセスのまとめ プロセス 揮発k diff-21 拡散k diff-24 粒子沈降k dep24 移流k adv-water 分解k R2 k 21 k 24 k A2 k R2 TOTAL 一次速度定数 k [1/h] 4.4E-07 1.0E-06 9.1E-04 8.3E-04 4.1E-04 4.4E-07 9.1E-04 8.3E-04 4.1E-04 2.2E-03 寄与 半減期[day] 0.02% 0.05% 42% 39% 19% 0.02% 42% 39% 19% 100% 65490 28404 32 35 71 65490 32 35 71 13 分配 魚 4% 溶存態 51% 粒子態 45% 物質:ベンゾピレン 環境:擬似日本 半減期T1/2 = (ln 2) / Σk (ln 2 は2の自然対数=0.693) 62 底質中動態:概要 水コンパートメント 排出 巻き上げ 拡散 水相 溶存態 分解 粒子相 分配 平衡 粒子態 底質コンパートメント 堆積 63 底質中動態:拡散 ・U8:水-底質境界面の物質移動係数[m/h] (0.0001m/h) 底質から水への拡散速度定数 U8 kdiff-42 [1/h] = × fw-sed DEPTHsed×Φsed fw-sed:底質中水相への化学物質の重量分配率(溶存態の割合)[-] DEPTHsed:底質深さ[m] (Canada 0.01 m, EQC 0.05 m) Φsed:底質中水相の体積割合(底質の間隙率) [m3/m3] (Canada 0.7 m3/m3, EQC 0.8 m3/m3) 64 底質中動態:粒子の巻き上げと堆積 U10:底質の巻上げ速度[m/h] (Canada 1.1×10-8 m/h, EQC 2×10-7 m/h) U13:底質の堆積速度[m/h] (Canada 3.5×10-8 m/h, EQC 3.5×10-8 m/h) 3×10-7の間違い? ちなみに U9:底質への粒子沈着速度[m/h] (Canada 4.6×10-8 m/h, EQC 5×10-7 m/h) U13=U9-U10 沈着した粒子量に対し,1/4が巻き上がり,3/4が堆積すると仮定 底質の堆積速度は実測の粒子堆積量からおよそ決めることができる。 参考:堆積速度を3×10-8[m/h],底質粒子の密度を2400 [kg/m3],底質の間隙率を0.7とすると, 単位面積当たりの粒子堆積量は190 g/m2/yearに相当。 東京湾1600∼4500 g/m2/year,榛名湖 410 g/m2/year,宍道湖<500∼2500 g/m2/year (環境庁2000;金井ら1997など) U10 底質粒子の巻き上げの速度定数 kresusp-42 [1/h] = × fp-sed DEPTHsed×(1-Φsed) 底質の堆積速度定数 U13 kburial [1/h] = × fp-sed DEPTHsed×(1-Φsed) fp-sed:底質中粒子相への化学物質の重量分配率(粒子態の割合)[-] DEPTHsed:底質深さ[m] (Canada 0.01 m, EQC 0.05 m) Φsed:底質中水相の体積割合(底質の間隙率) [m3/m3] (Canada 0.7 m3/m3, EQC 0.8 m653/m3) 底質中動態:分解 分解半減期または分解速度係数などによって定量化される。 底質における分解反応の一次速度定数 kR4 [1/h] = ln2 / T1/2-sed T1/2-sed:底質における分解半減期[h] ln2:2の自然対数(=0.693) 66 底質中動態:まとめ dM4 = I4 + k24M2 −(k42 + kR4)M4 dt 媒体4(底質)から2 (水)へ : k42 = kdiff-42 + kresusp-42 系外へ : kA4 = kburial 分解 : kR4 67 底質中動態:まとめの例 各プロセスの一次速度定数を比較することによって,どのプロセスが重要か が分かる。プロセスごとに半減期を推定するとおよその大きさが分かる。 各プロセスのまとめ プロセス 拡散k diff-42 巻き上げk resusp-42 堆積k burial 分解k R4 k 42 k A4 k R4 TOTAL 一次速度定数 寄与 半減期[year] k [1/h] 2.9E-07 0.3% 272 3.3E-05 35% 2.4 5.0E-05 52% 1.6 1.3E-05 13% 6.3 3.4E-05 35% 2.4 5.0E-05 52% 1.6 1.3E-05 13% 6.3 9.6E-05 100% 0.8 分配 溶存態 0.007% 粒子態 99.993% 物質:ベンゾピレン 環境:擬似日本 半減期T1/2 = (ln 2) / Σk (ln 2 は2の自然対数=0.693) 68 物質収支式 物質収支 dM1 = I + I + k M + k M −(k + k + k + k )M =0 dt 1 A1 21 2 31 3 12 13 A1 R1 1 dM2 = I2 + I A2 + k12M1 + k32M3 + k42M4 −(k21+ k24 + kA2 + kR2)M2 =0 dt dM3 = I + k M −(k + k + k )M =0 dt 3 13 1 31 32 R3 3 dM4 = I4 + k24M2 −(k42 + kR4)M4 =0 dt 各媒体中濃度 C1 [g/m3] =M1/V1 kR1M1 I1 C2 [g/m3] =M2/V2 C3 [μg/g] =M3/(V3×DENSITYsoil×(1-θ-φ)) IA1 C4 [μg/g] =M4/(V4×DENSITYsed×(1-φsed)) I3 k31M3 Ci:媒体i中の化学物質濃度 Vi:媒体iの体積[m3] DENSITYsoil:土壌粒子密度[kg/L] DENSITYsed:底質粒子密度[kg/L] θ:土壌の空隙率[m3/m3] φ:土壌の含水率[m3/m3] φsed:底質の間隙率[m3/m3] Mi:媒体i中の化学物質の存在量[g] Ii:媒体iへの化学物質の排出量[g/h] IAi:媒体iへの化学物質の流入量[g/h] kAi:媒体i中の化学物質の系外への 移動の一次速度定数[1/h] kRi:媒体i中の化学物質の 分解・反応の一次速度定数[1/h] kij:媒体iから媒体jへの化学物質の 移動の一次速度定数[1/h] kA1M1 大気:M1 k21M2 IA2 I 2 k13M1 k12M1 土壌:M3 k32M3 kR3M3 排出・流入[g/h] 移流・分解[g/h] 媒体間移動[g/h] I4 水:M2 k42M4 k24M2 kA2M2 kR2M2 底質:M4 69 kR4M4 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 70 物性値の温度補正 ・通常,物性値は25℃の値 → 環境中温度への補正が必要 ・モデル計算において,環境中の温度は簡易に大気,水,土壌,底質で同じとされる。 ・狭い温度領域(一般環境の温度領域)において,平衡定数の対数値は, 温度の逆数に線形(傾きは相変化のエンタルピーΔH/R) ・オクタノール/水分配係数Kow [-] ・オクタノール/空気分配係数Koa [-] ・空気/水分配係数Kaw [-] (蒸気圧P [Pa] ,水溶解度Cs [mol/m3],ヘンリー則定数H [Pa・m3/mol]) ln Kow = (-ΔHow/R) /T + 定数 → ln Kow1 - ln Kow2 = (-ΔHow /R)×{1/T1-1/T2} ln Koa = (-ΔHoa/R) /T + 定数 → ln Koa1 - ln Koa2 = (-ΔHoa/R)×{1/T1-1/T2} ln Kaw = (-ΔHaw/R) /T + 定数 → ln Kaw1 - ln Kaw2 = (-ΔHaw /R)×{1/T1-1/T2} ΔHow:オクタノール-水間の相変化のエンタルピー[J/mol] (=-20,000*) ΔHoa:オクタノール-空気間の相変化のエンタルピー[J/mol] (=-75,000*) ΔHaw:空気-水間の相変化のエンタルピー[J/mol] (=55,000*) R:気体定数(=8.314)[J/(mol・K)] *ChemCanのデフォルト値 T:絶対温度[K] lnは自然対数。 ΔHow = ΔHoa + ΔHaw ちなみに常用対数logを使うならlog K = (ΔH/2.303R) /T + 定数 71 分解(反応)速度の温度依存性 分解(反応)速度の温度依存性も,物性値の温度依存性と同様な式で補正できる。 ただし,ChemCANでは分解速度の温度補正はしません。 環境中の分解速度は,環境によって大きく異なるため,データがあるなら マニュアルで入れるということらしい。 大気中分解半減期 (←大気中の分解速度定数) 土壌中分解半減期 (←土壌中の分解速度定数) 水中分解半減期 (←水中の分解速度定数) 底質中分解半減期 (←底質中の分解速度定数) 分解速度定数と分解半減期の関係 T1/2= (ln2) / k T1/2:半減期[h] k:分解速度定数[1/h] ln2:2の自然対数(=0.693) 分解速度定数の温度依存性(アレニウス式) ln k = (-E/R) /T + 定数 → ln k1 - ln k2 = (-E/R)×{1/T1-1/T2} k:分解速度定数 E:反応の活性化エネルギー [J/mol] R:気体定数(=8.314)[J/(mol・K)] T:絶対温度[K] 72 環境温度が0℃以下のとき 雨の洗浄比の代わりに雪の洗浄比を使う(0℃以上のときは雨の洗浄比を使う) また,水は凍るため,次のプロセスは起こらなくなる。 ・大気中ガス態の水への乾性沈着, ・水から大気への揮発 ・土壌水相からの揮発 ・土壌から水への流出 ・土壌粒子の浸食 すなわち ・U1:大気-水境界面の大気側の物質移動係数=0 ・U2:大気-水境界面の水側の物質移動係数=0 ・U6:大気-土壌境界面の土壌水相の物質移動係数=0 ・U11:土壌間隙水の表面流出速度=0 ・U12:土壌粒子の浸食速度=0 73 ChemCanおまけの計算 Coastal water 沿岸海域 dM5 = (kR5 + kA5)M5 + kA2M2 = 0 dt M5 = kA2×M2 / (kR5 + kA5) 水:M2 kA2 沿岸:M5 水コンパートメントの結果から計算される。 流入は,水コンパートメントの移流のみ 流出は,移流と分解のみ 塩分の補正として,水溶解度(または1/Kaw)は水の0.8倍と仮定 kA5 kR5 地下水 地下水濃度=土壌間隙水中濃度/(1+Kow / Ks) Ksのデフォルト値は500 温度補正していないKowにより計算されている。 プログラムのミス? Ksの値を得たときに25℃のKowを使っている? 植物 植物/空気分配係数[-] = Veglipid×Koa = Cvegitable / Cg Veglipid:植物脂質含有割合 (0.01 m3/m3) Cvegitable:植物中濃度[g/m3] Cg:大気ガス態濃度[g/m3] C’vegitable = Cvegitable / DENSITYveg C’vegitable:植物中濃度[g/kg] DENSITYveg:植物密度 (900 kg/m3) KOAが約109以下の化合物では,植物と大気中 ガス態化合物の分配が平衡に達し,植物/ガス 分配係数はKOAに比例するのに対し,KOAが約 109以上の化合物では,分配は平衡に達さず, 沈着速度に依存し,植物/ガス分配係数は化合 物によらずほぼ一定となることが示されてい 74 る(McLachlan et al. 1995; Böhme et al. 1999; McLachlan 1999)。 フガシティーについて フガシティーとは 逃散能,逃散度ともいう. ・熱力学関数のひとつで,化学ポテンシャルについて理想気体からのずれを示す係数。 ・ある実在気体と同じ化学ポテンシャルを持つ理想気体の圧力 簡単に言えば,分子間力を補正した実効圧力 ・低濃度(理想気体)では,分圧に等しい。 ・気中(モル)濃度は,分圧に比例 n/V=P/RT(←気体方程式) n:モル数,V:体積,P:圧力,R:気体定数,T:温度 すなわち,フガシティーとは大気中濃度みたいなもの ・平衡時は,各媒体のフガシティーが等しくなる。 フガシティーを用いる利点 ・異なる媒体間で平衡からのずれの大小がそのまま分かる。 ・拡散の物質移動係数が媒体によらず同じになる。 75 フガシティーについて フガシティーと濃度の関係 C = Z×f C:モル濃度[mol/m3] Z:フガシティー容量[mol/(Pa・m3)] f:フガシティー[Pa] C’=Z×f×Mw C’:重量濃度[g/m3] Mw:分子量[g/mol] フガシティーを用いることの欠点 移動の係数であるD値と一次速度定数kとの関係 D = k×VOL×Z D:移動のパラメータ[mol/(Pa・h)] k:速度係数[1/h] VOL:媒体の体積[m3] Z:フガシティー容量[mol/(Pa・m3)] 実際,フガシティーfとD値を使った計算と 絶対量Mと一次速度定数kを使った計算とでは,やっていることは同じ。 Mとkを用いた方が,各プロセスの速度や半減期は直観的にわかりやすい。 76 分配平衡 CB 相A 傾きKBA 化学ポテンシャルA 濃度CA 平衡定数KBA=CB/CA CA 相B 濃度CB 化学ポテンシャルB ・低濃度域では濃度プロットは直線 ・蒸気圧相当の大気濃度や水溶解度相当の 水中濃度以上の濃度にはならない。 ・環境中での濃度は通常低濃度。 平衡濃度を関係付ける方法 ①Nernstの分配法則 CB/CAが一定で,それがKBAに等しいと仮定 ②平衡の基準を導入する方法 CAおよびCBをそれぞれ平衡の基準で表す。 ex. 化学ポテンシャル,フガシティー,活量 77 物質収支式(絶対量ベース) 物質収支 dM1 = I + I −(k + k + k + k )M + k M + k M dt 1 A1 12 13 R1 A1 1 21 2 31 3 dM2 = I2 + I A2 −(k21+ k24 + kR2 + kA2)M2 + k12M1 + k32M3 + k42M4 dt dM3 = I −(k + k + k )M + k M dt 3 31 32 R3 3 13 1 dM4 = I4 −(k42 + kR4)M4 + k24M2 dt 各媒体中濃度 C1 [g/m3] =M1/V1 kR1M1 I1 C2 [g/m3] =M2/V2 C3 [μg/g] =M3/(V3×DENSITYsoil×(1-θ-φ)) IA1 C4 [μg/g] =M4/(V4×DENSITYsed×(1-φsed)) I3 k31M3 Ci:媒体i中の化学物質濃度 Vi:媒体iの体積[m3] DENSITYsoil:土壌粒子密度[kg/L] DENSITYsed:底質粒子密度[kg/L] θ:土壌の空隙率[m3/m3] φ:土壌の含水率[m3/m3] φsed:底質の間隙率[m3/m3] Mi:媒体i中の化学物質の存在量[g] Ii:媒体iへの化学物質の排出量[g/h] IAi:媒体iへの化学物質の流入量[g/h] kAi:媒体i中の化学物質の系外への 移動の一次速度定数[1/h] kRi:媒体i中の化学物質の 分解・反応の一次速度定数[1/h] kij:媒体iから媒体jへの化学物質の 移動の一次速度定数[1/h] kA1M1 大気:M1 k21M2 IA2 I 2 k13M1 k12M1 土壌:M3 k32M3 kR3M3 排出・流入[g/h] 移流・分解[g/h] 媒体間移動[g/h] I4 水:M2 k42M4 k24M2 kA2M2 kR2M2 底質:M4 78 kR4M4 物質収支式(フガシティーベース) 物質収支 df V1Z1 1 = I1 + IA1−(D12 + D13 + DR1+ DA1) f1 + D21 f 2 + D31 f 3 dt df V2Z2 2 = I2 + I A2 −(D21+ D24 + DR2 + DA2) f 24 dt + D12 f1 + D32 f 3 + D42 f 4 df V3Z3 3 = I3 −(D31+ D32 + DR3) f 3 + D13 f1 dt df V4Z4 4 = I4 −(D42 + DR4) f 4 + D24 f 2 dt 各媒体中濃度 C1 [g/m3] = Z1×f1×Mw I1 3 C2 [g/m ] = Z2×f2×Mw IA1 C3 [μg/g] = Z3×f3×Mw/(DENSITYsoil×(1-θ-φ)) C4 [μg/g] =Z4×f4×Mw/(DENSITYsed×(1-φsed)) D31 f3 I3 fi:媒体i中の化学物質のフガシティー[Pa] Ii:媒体iへの化学物質の排出量[mol/h] IAi:媒体iへの化学物質の流入量[mol/h] DAi:媒体i中の化学物質の系外への 移動のD値[mol/(Pa・h)] DRi:媒体i中の化学物質の分解・反応の D値[mol/(Pa・h)] Dij:媒体iから媒体jへの化学物質の 移動のD値[mol/(Pa・h)] DR1 f1 大気:f1 D f DA1 f1 D21 f2 D f IA2 I 2 13 1 12 1 Ci:媒体i中の化学物質濃度 DA2 f2 3 水:f 土壌:f3 Zi:媒体iのフガシティー 容量[mol/(Pa・m )] 2 D32 f3 Mw:化学物質の分子量[g/mol] DR3 f3 D42 f4 D24 f2 DR2 f2 DENSITYsoil:土壌粒子密度[kg/L] I DENSITYsed:底質粒子密度[kg/L] 排出・流入[mol/h] 4 底質:f4 θ:土壌の空隙率[m3/m3] 移流・分解[mol/h] 79 φ:土壌の含水率[m3/m3] 媒体間移動 [mol/h] DR4 f4 φsed:底質の間隙率[m3/m3] 本日の内容 1. マルチメディアモデルの概要と種類 2. 環境モデルのパラメータ 3. 分配平衡について 4. 物質収支について 5. 各環境媒体中の動態 5.1 大気中動態 5.2 土壌中動態 5.3 水中動態 5.4 底質中動態 6. その他 7. ChemCANの使い方 80 ChemCAN(Ver.6.00)のダウンロード(無料) 1. トレント大学のカナダ環境モデルセンターのホームページに行く。 アドレスhttp://www.trentu.ca/cemc/ 2.Modelsをクリックする。 3.ChemCANをクリックする。 4.Register to Downloadをクリックする。 5.名前,e-mailアドレス,所属,所属の分類を入力して,最後に Submit your requestをクリックする。 6.Download Compiled Programをクリックする。 7.ファイルのダウンロードというWindowが出るので,保存を選び, 保存場所(例えばデスクトップ)を選択して,ファイルを保存する。 8.ダウンロード後,保存した「CC600install.exe」というファイルを開く。 9. WinZip Self-ExtractorというWindowが出たら,Unzipをクリックする。 (Unzip to Folderは変更しなくていい) 10. ChemCanのセットアップ画面になる。OKをクリックする 。 11. ChemCanの保存先を選び(特に変更したい場合を除きそのままでいい), コンピューターの絵の描いたボタンをクリックする。 12.プログラムグループの選択画面になる。Continueをクリック。 13.Version ConflictのWindowがでたら,Yesを選択する(たぶん)。 14. ダウンロード終了。初めに保存した「CC600install.exe」という 81 ファイルは捨てていい。 ChemCAN(Ver.6.00)の実行 ・Windows(95以上)で動きます(Basic版もホームページからダウンロード可)。 (Windows2000とWindowsXPで動作確認) ・画面サイズは,1024×768以上,フォントサイズを小にする必要あり (画面のプロパティで設定)。 ・スタート→プログラム→CEMC models →ChemCan 定常モデル(レベルⅢ)の計算ができる。 カナダの環境情報と数種の化学物質のデータが入っている。 任意に環境や化学物質のパラメータを入力でき,保存もできる。 結果の表や図を印刷できる。 結果をスプレッドシートとして保存できる。 引用 Webster, E., Mackay, D., Di Guardo, A., Kane, D., Woodfine, D. 2004. Regional Differences in Chemical Fate Model Outcome. Chemosphere. 55: 1361-1376. Mackay, D., Paterson, S., Tam, D.D. 1991. Assessments of Chemical Fate in Canada: Continued Development of a Fugacity Model. A report prepared for Health and Welfare Canada. 82 ChemCANの画面 ①シミュレーション ②化学物質の物性等 の名前を付ける を入れる。 ⑤計算 ③環境パラメータ等 を入れる。 ④化学物質の環境への排出量 およびバックグランドの濃度を入れる。 83 ChemCANの画面 ⑥化学物質の物性等 のまとめを見る。 (インプットデータ+α) ⑧濃度やフガシティー, 化学物質の移動や反応 に関するパラメータの 計算結果を見る。 ⑦環境パラメータ のまとめを見る。 (インプットデータ+α) ⑨結果を図で 表示する。 84 ChemCANの画面 新しいシミュレーションを 始めるためにリセットする。 計算プログラムの表示 ヘルプ 終了 結果の表や図を印刷する 結果をスプレッドシート(CSV)として保存する 85 ChemCANの使用:入力 ②Chemical Property 化学物質の物性等(分子量,Kow, Koa, Kawのうち2つ,分解半減期)を入れる。 既に登録されている化学物質を選ぶ。 新たに化学物質を登録する。 3つのうち2つを選択 そのままでいい Kawを 選んだ ときは, 3つの うち1つ を選択 そのまま でいい 86 既に登録されている化学物質を選んで,名前と変えたいところだけ変えて,SAVEすることも可能。 ChemCANの使用:入力 ③Regional Property-Physical Dimensions 環境パラメータ等を入れる。 新たに地域を登録し, データをすべて入れることも できるが・・・(下) 既に登録されている地域を選ぶ。 87 既に登録されている地域を選んで,名前と変えたいところだけ変えて,SAVEする方が楽 ChemCANの使用:入力 ③Regional Property- Other Properties 環境パラメータ等を入れる。 volume fractionの間違い 大気の滞留時間2.24日,水の滞留時間50日,温度15℃ どれかを選択 選んだ温度で計算 88 ChemCANの使用:入力 ③Regional Property- Transport Velocities 環境パラメータ等を入れる。 雨量1500 [mm/year] →U3:0.000171 [m/h] U11 = 0.5×U3 = 0.0000856,U15 = 0.1×U3 = 0.0000171,U12 = 0.0002×U11 = 0.0000000171 U13 = U9-U8=3×10-7 その他はEQCと同じ値 89 ChemCANの使用:入力 ④Emissions and Inflows 化学物質の環境への排出量およびバックグランドの濃度を入れる。 90 ChemCANの使用:結果出力 ⑥Chemical Parameters- Partitioning Properties 化学物質の物性等のまとめ 環境温度で温度補正した物性値 91 ChemCANの使用:結果出力 ⑥Chemical Parameters- Partition Coefficients 化学物質の物性等のまとめ 計算された様々な分配係数 92 ChemCANの使用:結果出力 ⑥Chemical Parameters- Half-lives 化学物質の物性等のまとめ 93 ChemCANの使用:結果出力 ⑦Regional Parameters- Dimensions 環境パラメータのまとめ。入力値と同じ 94 ChemCANの使用:結果出力 ⑦Regional Parameters- Bulk Compartments 環境パラメータのまとめ。 各コンパートメント(大気,水,土壌,底質)の体積と密度 95 ChemCANの使用:結果出力 ⑦Regional Parameters- Sub Compartments 環境パラメータのまとめ。コンパートメント内の各相の体積と密度のまとめ 96 ChemCANの使用:結果出力 ⑦Regional Parameters- Transport Velocities 環境パラメータのまとめ。 輸送速度の入力値 97 ChemCANの使用:結果出力 ⑧Results- Mass Balance 系外からの流入量(発生源からの排出量と,移流による流入),定常時の系内に存在する 化学物質量,系外への移流や分解による減少量など,マスバランスのまとめ。 98 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Fugacity 各相におけるフガシティーのまとめ 99 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Phase Properties 各相におけるZ値,存在量,全存在量に対する割合,濃度(g/m3) ,濃度(μg/g) 100 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Advection 系外への輸送(大気移流,水移流,底質堆積,大気逸散,土壌地下への浸出) について,D値や速度,全ロスに占める寄与割合 101 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Reaction 反応・分解プロセスについて,半減期,一次速度定数,D値,速度,全ロスに 占める寄与割合 102 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Intermedia Transport コンパートメント(大気−水−土壌−底質)間の輸送について,D値や 単位時間あたりの物質移動量などのまとめ 103 ChemCANの使用:結果出力 ⑧ Results- Individual Process D Values 各プロセスのD値のまとめ 104 D値の大きさを比較することによって,どのプロセスが動態に影響しているかが分かる。 ChemCANの使用:結果出力 ⑨Diagram 結果を図で表示する。 105