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途上国における 技術発展と社会
大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 タイの農業機械 途上国における 技術発展と社会 輸入機械の改造から独自 の技術が発展してきた。 製造者はほとんどが中小 企業 タイにおける土着の機械工業 と職業集団の人類学的研究 タイ農業機械技術の発展 1910年 シティポン親王、蒸気トラクターを用いて機械化農業の実験 1940年代半ば 歩行型トラクターの輸入始まる。 1958年 民間企業とタイ政府研究所で独自の歩行トラクター試作・製造。 1980年代 タイ各地で歩行型トラクターが役畜(水牛)に取って代わる。 1995年ごろ タイからの歩行型トラクターの輸 出 主にカンボジア、ラオス、ミャンマーへ輸出 そのほかアフリカ・中東諸国 歩行型トラクター 800,000,000 700,000,000 600,000,000 500,000,000 輸入(バーツ ) 400,000,000 輸出(バーツ ) 300,000,000 中部タイでタイ製のコンバインが登場。急激に普及。 200,000,000 100,000,000 0 1992 1993 1994 1995 1995 1997 1998 2001 2002 2003 2004 2005 目次 途上国における「技術と社会」 1. 導入 途上国における「技術と社会」という問い 技術移転における社会と技術の相互性 近代化論 「遅れた」途上国への技術移転 →先進国の技術への同化 促進/阻害要因としての「文化」 促進/阻害要因としての 文化」 2. 土着の機械工業の形成 土着の工場システムと職業集団の紹介 形成史の比較:19世紀末と1950年代以降 3. 技術変化のプロセス 改造、開発における機械工と農民の交渉 1970年代の適正技術論 社会、環境に適応した土着技術・民俗知識 雇用創出、持続可能性の重視 対立の構図 近代化=同化 VS 環境への適応=多様性 (収斂) (拡散) 1 大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 技術と社会の再検討 技術と社会の相互性 関係の複雑性 母体としての社会から相互性へ 近代化論、適正技術論:社会・文化の単一性 「西洋の」技術、「○○文化」に属する在来技術 複数の技術、伝統の混在 部門間の差異:土着部門、進出部門 土着部門:近世からの交易、移住の産物 関係の問い直し 技術も社会も過度に実体化すべきではない。 従来の考え:技術の母体としての社会 技術の発展とそれに携わる集団・組織の形成は 密接に結びついている。 技術移転のパラドックス 技術は受け手がいなければ移転しない。 機械技術が移転するためには、機械工が必要。 技術を構成する人々の活動とそのネットワークの 重要性 技術移転は、その担い手となる社会集団を生み 出す? 移転という問題 機械の維持、実践、流通 移転技術と維持の問題 機械を移動させることは比較的容易。 機械を維持する活動 だが、維持するためにはさまざまな努力が必要 (部品交換、清掃、注油、燃料補給、調整) 製造国と移転先の環境ギャップ 機械の製造地:たいていは温帯先進国 移転先:熱帯などの途上国 自然、インフラ(道路事情など)といった環境 部品・消耗品調達のためのネットワーク 歩行型トラクターの変化 移転された機械の維持には、部品交換や改造と いった実践が不可欠。 モノ(部品、燃料、工具etc)の流通 補給や部品交換を行うには、部品、燃料、工具、 工作機械、設備などが必要になる。 成功した技術移転は、 補給やメンテナンスの実践を行う人々、 実践を支えるモノの流通を生み出す。 さらに、機械自体が環境に応じて変化していく 技術変化のプロセス 1940年代~50年代の 故障した輸入機械を修理し、 欧米の歩行型トラクターの基本デザイン 環境に適応するよう改良する中から、独自 のデザインが発達してきた。 1. 小さな車輪 2. 前方に組み込ま れたエンジン 3. ギアによる動力 伝達 4. プラウを牽引 1. 希少な機械を多目的に 用いるためにエンジンと 本体が分離 (写真はポンプと併用) 2. 高い水田のあぜを越え、 代掻きに用いることがで きる巨大なカゴ車輪 3. 修理しやすいよう開閉可 能なギアボックス 2 大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 独自の工場システム ローングルン ローングルン 「ローン」:大きな建物、「グルン」:旋盤 工作機械を使って、機械の基本的な部品を作る。 土着の機械技術の中心。 ウー もともと、船を作るドックという意味。転じて自動車 修理工場やトラック・バスの架装を行う工場。 移動式の「修理の屋台」、農家の軒先から巨大工 場まで。 すべての村に必ず一軒はある。 ローングルンの仕事① ウーの仕事 機械工たち 機械が生み出した人々 土着の機械工場で働く労働者 ほとんどが工業教育を受けていない。 旋盤工、修理工、溶接工などの職種。 修理工(1950年代末~) アメリカの援助で交通網が整備。 自動車が増え始める。 旋盤工(1880年代~) 旋盤工(1880年代 ) 広東人の移民(18世紀からタイには中国からの 移民が多数訪れていた) 西洋人の工場で働いて技術を学ぶ。 中国の習慣に倣って徒弟制で技術を伝える。 「ローングルン」と呼ばれる工場が中心 各地で故障した自動車を修理するために、独学で 技術を学んだ人々。 「ウー」と呼ばれる修理工場が中心 技術移転の中で生み出されるとともに、新たな技 術を生み出す担い手となった。 3 大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 工場と社会集団の形成 1880年代~1950年代 注目点 1858年 集団と工場システムが形成されてきた過程を、 機械と人々の接触面の変遷 機械を直したり、作ったりする知識の伝達 に焦点を当てて明らかにする。 初めて機械を使う工場として精米所が建設される。 主にスコットランド人のエンジニアが管理していた。 1880年代 1880年代~ 広東人の機械工が精米所で働き始める。 比較 1880年代~1950年代 1950年代末~現在 二つの時代における接触面、知識の伝達を比較。 1890年代末 広東人の経営する機械工場が誕生。 ローングルンの起源。 独自の精米機の開発。 1880年代~1950年代 1950年代以前の機械と人の関係 1900年~1950年代 工業教育の未整備。 機械技術を学ぶ場所は、広東人の工場だけ。 当時の機械 精米機、製材機(動力鋸) 固定式発動機(工場や発電機の動力) 鉄道、船舶:一定の行路(線路、航路)の中を移動。 鉄道、船舶 定の行路(線路、航路)の中を移動。 広東人による技術の独占 19世紀の中国にはギルドがあり、同郷の人々だ けが技術を伝承した。 →移民によって東南アジアに伝播。 広東人以外の人々は機械工の徒弟になりにく かった。 →「機械工と言えば、広東人」。 戦前期の 機械類 20世紀前半の精米機→ 機械の配置とアクセス 機械は特別な場所(精米所、鉄道、船舶)にすえ つけられていた。 一般人は触れる機会がなかった。 →機械は日常生活で使うものではなかった。 1950年代以前の機械と人の関係 機械=専門家セット 固定式発動機 ↓ 当時の機械は、常に専門の機械工がそばにいて 管理していた。 低い移動性:移動しても行路をはみ出さない。 機械と人間(機械工)の関係は固定的。 工場の機械と管理担当の機械工。 鉄道と鉄道局の技術員。 機械=場所(工場、行路) =人(機械工) 4 大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 1950年代末~ 機械と人の関係の変容 1958年 自動車の移動性 フレンドシップハイウェイ開通。 →モータリゼーションの開始。 1950年代 1950年代~ 自動車修理業の発展。 初期の自動車修理 交換部品がないため、部品の製造が必要。 ローングルンが修理を行う。 オイル交換、パンク修理をする零細業者が誕生。 これまでの機械と違い、自動車はどこへでも移動 した。 空間=機械の固定的関係が解体。 故障と修理の広がり 自動車は場所を選ばず故障した。 機械があるところならどこでも、修理が必要に。 独学で修理を学ぶ機会が生まれる。 ただし当初は、部品の入手が困難だったので修 理できる範囲は限定的。 1960年代 技術を学ぶ機会の配置 自動車メーカーの進出 国内での組み立て開始。代理店網の整備。 19世紀~1950年代 機械と場所の強い結びつき。 部品関連ビジネスの発展 ロ ローングルンの一部が、模造部品の製造を開始。 ングルンの 部が、模造部品の製造を開始。 先進国からの自動車スクラップの輸入 →解体して、修理・改造用の部品として販売。 独学の修理工の発展 部品を買ってきて自力で修理することが可能に。 独学で技術を学べる範囲が広がる。 →独学の修理工の増殖へ 工場の配置と技術発展 工場を管理する人々が技術を学ぶ機会も管理し ていた。 →広東人による独占。 1950年代末~ 移動性の高まり。場所との結びつきの希薄化。 モノの流通の発展。 独占の外部に独学の修理工が誕生。 →現在の機械工と工場の配置が形成される 草の絡んだロータリー耕耘機 ウーとローングルン ローングルン:都市部、高度な技術の中心 ウー:農村部、生活との密接なかかわり 相補性と技術発展 ウーが、修理や改造を通して地域のニーズを汲 み取り、ローングルンが技術的な支援を行う。 村落部のウーと、実際に機械を使う農民たちはほ とんど重複している。 機械の使用者が、改造や開発に緩やかに参加 5 大阪大学GLOCOLセミナー 2008.05.29 森田敦郎「途上国における技術発展と社会」 改造の様子 試運転の成功 技術発展のモード まとめ 開発・改良への農民の参加 故障=環境と機械のミスマッチ 農民による故障の指摘 故障の原因:農民と機械工が議論して探求。 故障の原因 農民と機械 が議論して探求。 技術移転における機械と社会集団の関係 機械を介した交渉 実際に故障した機械に言及することで、素人の農 民も技術的な問題を指摘できる。 万能的な技能 機械工の多くは広い技能を持っており、農民の指 摘に柔軟に答えられる。 機械が生き残るためには、機械の世話をする 人々が必要。 機械をめぐって行われるさまざまな実践を通して、 機械の変化と社会集団の形成が同時に進行する。 歴史的な変化 機械を取り巻く、人や場所の関係は移転のプロセ ス、集団間の関係、機械の移動などによって歴史 的に変化してきた。 6