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2006 年 8 月号

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2006 年 8 月号
2006 年 8 月号
欧州経済・金融市場の概況
<ユーロ圏経済>
■ 景気動向
・06 年 4∼6 月期の実質GDP成長率は前期比+0.9%と 1∼3 月
期から加速
・06 年末に向けて輸出の減速感が強まっていくが、内需の底堅
さを背景に堅調な景気動向が持続
・2007 年に向けては、米国景気減速による輸出の大幅悪化、ド
イツでの付加価値税引き上げによる悪影響が懸念材料
■ 物価動向
・06 年 7 月の消費者物価上昇率は前年比+2.4%と前月から▲
0.1%Pt 鈍化。但し、ECB(欧州中央銀行)が物価安定の目安
とするインフレ参照値(+2%)を上回る状況は継続
・今後については、原油価格の落ち着きと共にエネルギー価格上
昇率は鈍化すると想定される。また、07 年には景気が減速し、
インフレが高まるリスクは限定的と予測
■ 金融政策
・8 月 3 日のECB理事会は、+0.25%の利上げを決定、政策金
利は 3.00%に
・ECBは利上げ継続方針を示唆しており、年末の政策金利は
3.25%に達し、次回利上げで打ち止めと予想
2006 年 8 月 28 日発行
※当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたものではありません。
みずほ欧州経済情報 2006/8/28
Mizuho Research Institute
1.ユーロ圏全体観:設備投資等内需中心に景気拡大ペースが加速
2006 年 4∼6 月期の実質G
ユーロ圏の 06 年 4∼6 月期実質GDP成長率は、前期比+0.9%と 1∼3 月
DP成長率は前期比+0.9%
期の同+0.6%から加速した(図表 1)。
需要項目別内訳は未公表であるが、各種報道、経済指標等から設備投資中
心に内需が堅調であった模様だ。国別では、ユーロ圏の大国であるドイツ、
フランスが高成長となり、それぞれ前期比+0.9%、同+1.2%と前期を上回
る高成長となった。
仏、独では設備投資の増勢
4∼6 月期需要項目内訳はユーロ圏全体に先んじてドイツ、フランスが発表
が高成長に寄与
されている。まず、ユーロ圏GDPの約 3 割を占めるドイツを見ると、設備
投資が前期比+3.5%と大きな伸びとなった(図 2)。建設投資が高い伸びとな
ったほか、機械設備投資も同+2.5%と 1∼3 月期(同+2.3%)から加速した。
一方で、個人消費は予想に反して前期比▲0.4%の落込みとなった。また、輸
出の伸びも減速し、実質GDP成長率への外需の寄与度は前期比+0.1%に鈍
化した。ドイツは内需が大きく拡大し実質GDP全体の成長率は 2001 年 1∼
3 月期以来の高成長となった。
フランスでは、設備投資(除く金融部門)が前期比+1.8%と 1∼3 月期のマ
イナスから大きく持ち直した。個人消費は同+0.7%と、伸び率こそ鈍化して
いるものの、1∼3 月期に続き底堅さを維持したと言えよう。輸入の増加によ
り、実質GDP成長率への外需の寄与度はマイナスとなったが、ドイツ同様、
内需が拡大し、全体としては 2000 年 10∼12 月期以来の高成長となった。
7∼9 月期は景気拡大ペース
ユーロ圏の 7∼9 月期は景気拡大ペースがやや鈍化すると見込んでいる。景
がやや鈍化するも、堅調さ
気動向をタイムリーに示す合成PMI(製造業+サービス業)は 7 月 58.5Pt、
は維持する見通し
前月比▲1.9Pt 低下した(図 3)。サービス業の影響が大きく、7 月サービス業
PMIは 57.9Pt、前月比▲2.8Pt の低下となった。これはワールドカップ効
果の剥落による影響と見られ、景気拡大ペースがやや減速していることが示
唆される。
但し、PMIの水準自体は高水準であり、引き続き底堅い景気拡大が持続
する見通しである。在庫循環の観点からも景気調整圧力は認められない。ユ
ーロ圏製造業PMIのうち、新規受注指数は 7 月 59.1Pt と高水準が続いてい
る。これに対して、同完成品在庫指数は 7 月 47.1Pt と低位安定しており、こ
れらの差である「受注−在庫」バランスは受注超過の状況が継続している(図
表 4)。こうした在庫バランスを反映し、ユーロ圏の生産動向は堅調な拡
図 2 独・仏GDP内訳
図 1 ユーロ圏の実質 GDP 成長率
1.2
ユーロ圏
フランス
ドイツ
0.4
▲ 0.4
06
(Pt)
62
60
実質GDP
0.7
0.9
0.5
1.1
58
個人消費
1.1
▲ 0.4
0.9
0.7
56
政府支出
1.5
▲ 0.2
0.6
0.5
54
設備投資
0.1
3.5
▲ 0.5
1.8
52
住宅投資
▲ 2.1
3.6
0.6
0.9
50
輸出
4.9
0.7
3.4
1.8
48
輸入
4.5
0.5
1.2
3.3
内需
0.3
0.9
▲ 0.1
1.6
拡
張
景
気
縮
小
↓
0.0
05
フランス
06/1∼3 06/4∼6 06/1∼3 06/4∼6
0.8
04
ドイツ
↑
(前期比、%)
1.6
図 3 ユーロ圏のPMI指数
前期比、%
05/7
05/10 06/1
製造業
合成PMI
06/4
06/7
サービス業
1
みずほ欧州経済情報 2006/8/28
Mizuho Research Institute
大が続いている。
2006 年は内需中心の景気拡
大が持続する見通し
年内のユーロ圏は底堅い景気拡大を見込んでいる。これまで好調であった
輸出は米国景気の減速や年初から続くユーロ高の影響により、年末に向けて
鈍化していくとみられる。一方で設備投資は増勢が続く見通しで、雇用環境
の改善を背景に個人消費も底堅い推移を見込んでいる。また、ドイツでは
2007 年 1 月から付加価値税の引き上げ(16%→19%)が控えており、2006 年末
に向けて個人消費の駆け込み需要が盛り上ると見込まれる。こうした内需の
堅調さが輸出減速の影響を緩和するだろう。
懸念材料を挙げれば、輸出が予想以上に冷え込むことに伴う消費、投資へ
の悪影響である。各種サーベイ調査によれば、ユーロ圏やドイツで期待指数
の悪化が目立ちはじめた。先行き 6 カ月に対する景況感を示すもので、2001
年以来の低水準を示している調査もある。実際、ドイツ、フランスでは、輸
出が 1∼3 月期から大きく減速した。1∼3 月期の反動減とも言えるが、引き
続き輸出動向には注視が必要だろう。
2.ユーロ圏外需動向:輸出動向はやや鈍化の兆し
6 月のユーロ圏輸出額(季節調整値)は、前月比+0.3%と 2 カ月連続の増加
輸出動向は 1∼3 月期から減
速感が見られ、年末に向け となった。趨勢的なトレンドを示す 3 カ月移動平均 3 カ月前比では+1.5%と
ても引き続き鈍化傾向
プラス基調を維持した(図 5)。先行指標となるユーロ圏製造業PMI輸出受
注指数は、7 月 57.7Pt、前月比+0.4Pt 上昇した。
とは言え、輸出の増勢はピークを過ぎたと言える。前述の輸出受注指数の
推移は、2006 年 4 月の 58.7Pt を天井に、足元はやや水準が切り下がってい
る。また、輸出額の伸び率のトレンドは 1%台であり、2006 年に入り低下基
調が目立つ。実質財輸出も 5 月は 3 カ月移動平均 3 カ月前比+1.0%と減速基
調が続いている。今後は米国の景気減速や年初から続くユーロ高の影響によ
り輸出の伸びは抑制されると見られる。ドイツ、フランスの 4∼6 月期輸出額
(GDP)の伸び率が低下したように、今後もユーロ圏の輸出の減速傾向は変
わらないだろう。
原油、商品市況高騰の影響
ユーロ圏貿易収支(季節調整値)は 6 月▲11 億ユーロ、前月比+1 億ユーロ
もあり、貿易収支は赤字傾 の改善となった(図 6)。2005 年 12 月以来、貿易収支は赤字傾向となっている。
向が持続
背景には原油・商品市況高騰による輸入額の急増があるようだ。燃料関
図 4 ユーロ圏の受注−在庫バランス
(3カ月移動平均3カ月前比、%)
1.6
受注>在庫
(Pt)
16
1.2
12
0.8
8
4
0.4
0
0.0
受注<在庫
▲4
▲ 0.4
04/7
05/7
06/7
ユーロ圏鉱工業生産(除く建設)
PMI「受注−在庫」(右目盛)
2
図 5 ユーロ圏の輸出動向
(Pt)
図 6 ユーロ圏貿易収支
(3カ月移動平均3カ月前比、%)
62
6.0
60
5.0
58
4.0
3.0
56
(3カ月平均3カ月前比、%)
30
(10億ユーロ)
6
20
4
10
2
0
0
2.0
54
1.0
52
0.0
50
▲ 1.0
48
▲ 2.0
05/1
05/7
PMI輸出受注指数
実質財輸出(右目盛)
06/1
06/7
名目財輸出(右目盛)
▲ 10
04/12
-2
05/6
05/12
貿易収支(右目盛)
燃料関連貿易赤字
除く燃料関連貿易黒字
06/6
みずほ欧州経済情報 2006/8/28
Mizuho Research Institute
連財を除くベースでは堅調に黒字拡大が続いており、足もとの貿易赤字は原
油・商品市況高騰が大きく影響している。
今後の貿易収支動向については、貿易赤字の拡大が見込まれる。ユーロ圏
内需は年内堅調な一方、輸出は鈍化していく見通しであり、外需はマイナス
に寄与する公算である。
3.ユーロ圏内需関連:堅調な拡大が続く企業部門とまだら模様ながら底堅さが見込まれる家計部門
設備投資は好調な拡大ペー
ユーロ圏の設備投資動向は堅調に拡大を続けているようだ。冒頭にて説明
スを維持
している通り、ユーロ圏の大国であるドイツ、フランスでは 4∼6 月期設備投
資は拡大ペースが加速した。
設備投資動向を示す製造業の受注状況を見ると、ユーロ圏の製造業域内受
注指数(自動車以外の輸送機器を除くベース)は 6 月前月比▲2.2%低下した。
6 月の低下は前月が同+2.2%であった反動と見られ、3 カ月移動平均 3 カ月
前比は+1.6%とトレンドは上向きである(図 7)。欧州委員会のサーベイ調査
によれば、7 月のユーロ圏製造業受注指数は 3.0Pt と 6 月の 1.7Pt から改善
が進み、製造業PMIの同新規受注指数も高水準が持続した。設備稼働率を
みても、足もとは 83.6%と 2005 年 7∼9 月期を底に上昇を続けており、設備
投資動向には追い風と言えるだろう。
ユーロ圏建設業生産指数は 5 月前月比+1.9%、3 カ月移動平均 3 カ月前比
+1.0%と好調な拡大が続いている(図 8)。ドイツでは建築着工が厳冬による
影響で春先以降にずれ込み、4∼6 月期建設投資を押し上げたことが伝えられ
ている。また、ユーロ圏建設業サーベイ調査を見ると、7 月は景況感指数、
受注指数ともに上昇が持続し、1990 年以来の高水準に達した。建設投資の好
調さが設備投資全体の堅調さを支えている一因と言えるだろう。
企業の生産活動は堅調な拡
設備投資の活発化もあり、企業の生産活動は堅調な拡大ペースが続いてい
大ペースが続く
る。ユーロ圏鉱工業生産指数(除く建設業)は 6 月前月比±0.0%と、5 月同
+1.8%の大幅上昇後横ばいに留まった。しかし、3 カ月移動平均 3 カ月前比
でみると、+1.0%と前月同水準の拡大ペースを維持している(図 9)。ドイツ、
フランスなども同様の傾向がうかがえる。両国のトレンドを見ると、両国と
もエネルギー関連セクターがマイナスとなっているほか、耐久消費財セクタ
ー(ドイツ)、自動車等の資本財セクター(フランス)で拡大トレンドが続いて
おり、製造業は全体として堅調な拡大ペースを維持している。
図7
ユーロ圏の製造業受注動向
(3カ月平均3カ月前比、%)
6.0
図8
(Pt)
62
4.0
58
2.0
54
0.0
50
▲ 2.0
46
42
▲ 4.0
05/1
05/7
06/1
06/7
製造業域内受注(自動車以外の輸送機器除く)
PMI新規受注(右目盛)
ユーロ圏の建設業生産動向
(3カ月平均3カ月前比、%)
3.0
図9
(Pt)
0
2.0
▲4
1.0
▲8
0.0
▲ 12
▲ 1.0
▲ 16
▲ 2.0
▲ 20
▲ 3.0
▲ 24
05/1
05/7
06/1
建設業生産指数
建設業受注指数(右目盛)
06/7
ユーロ各国の鉱工業生産指数
(3カ月平均3カ月前比、%)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
▲ 0.5
▲ 1.0
04/12
05/6
ユーロ圏
フランス
05/12
06/6
ドイツ
(注)各国とも除く建設業ベース
3
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足元の景況感は堅調ながら、 生産活動の好調さを受けて、企業の景況感は足元良好な状況が持続してい
先行きは不透明
る。ユーロ圏景況感指数は 7 月 107.7Pt、前月比+0.6Pt 上昇し、ドイツif
o景況感指数は 8 月 105.0Pt、前月比▲0.6Pt と小幅低下したものの、高水準
が持続した(図 10)。
一方で先行きについてはやや軟化が見られ始めた。ユーロ圏ifo期待指
数は 7∼9 月期 96.1Pt、前期比▲12.4Pt となり、ドイツ同指数は 8 月
101.5Pt、前月比▲1.1Pt 悪化した。期待指数は先行き 6 カ月の景況感を示し
ており、米国景気の減速による輸出悪化やドイツでの付加価値税引き上げに
よる内需への悪影響などが懸念されているようだ。現状を示す景況感指数は
高水準だが、先行きの不透明感が徐々に強まっていることがうかがえる。
内需のもう一つの柱である個人消費の 4∼6 月期は、底堅い推移になったと
ワールドカップによる個人
消費押し上げ効果はまだら 見られる。ユーロ圏小売数量指数は 6 月前月比+0.4%、3 カ月移動平均 3 カ
模様
月前比+0.5%と伸び率が高まった(図 11)。ユーロ圏個人消費は 1∼3 月期に
続き底堅い推移が続いた。
但し、ワールドカップ効果は報道等で言われているほど大きな効果はなか
った可能性もある。4∼6 月期実質個人消費は、フランスが前期比+0.7%に
減速、ドイツが前期比▲0.4%の落込みと、予想に反して弱い数字となった。
ドイツにおける事前の報道では外食やホテルといったサービス消費の盛り上
・ ・ ・ ・ ・
がりが伝えられていたが、実態は観光客による消費、すなわちサービス輸出
につながった可能性もある。ドイツの 4∼6 月期実質サービス輸出は前期比+
4.0%、実質GDP伸び率に対する寄与度ベースでは財輸出を上回る拡大を見
せた。ユーロ圏全体の動向を示すものではないにせよ、ドイツのワールドカ
ップによる個人消費への効果は限定的であったようだ。
消費者心理は改善傾向
消費者心理は緩やかな改善傾向が持続した。ユーロ圏消費者信頼感指数は
7 月▲8.0Pt、前月比+1.0Pt 改善した(図 12)。将来の失業懸念が後退してお
り、先行きの景気動向に楽観的な見方が高まったためである。指数の水準自
体は 2001 年以来の高水準に達しており、こうした消費者心理の改善も消費の
底堅さに寄与しているものと思われる。
雇用・所得環境の改善は緩
やかに進展
全体として個人消費は底堅い推移と見られるが、その背景には雇用環境の
改善が挙げられる。ユーロ圏失業率は 2004 年 10 月以来改善傾向が持続して
おり、6 月 7.8%と、2001 年以来の低水準に達した(図 13)。一方で、雇用者
増加数や賃金上昇率の改善は緩やかなペースである。2006 年 1∼3 月期ユー
図 10
ユーロ圏・ドイツの景況感指数
(Pt)
110
図 11
ユーロ各国の小売数量指数
(3カ月平均3カ月前比、%)
2.5
工業品向け実質
消費支出
2.0
105
1.5
ユーロ各国の消費者信頼感指数
(Pt)
▲2
(Pt)
▲ 20
▲6
▲ 24
▲ 10
▲ 28
▲ 14
▲ 32
1.0
100
0.5
0.0
95
▲ 0.5
90
05/2
4
図 12
05/8
06/2
ユーロ圏景況感指数
独Ifo景況感指数
独Ifo期待指数
06/8
▲ 1.0
除く自動車ベース
▲ 1.5
04/12
05/6
ユーロ圏
▲ 18
05/12
ドイツ
06/6
フランス
▲ 36
05/1
05/7
ユーロ圏
フランス(右目盛)
06/1
ドイツ
06/7
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ロ圏雇用者数は前期比+0.3%、同ユーロ圏雇用者当り報酬は前年比+1.9%
と緩やかな改善に留まっている。さらに、4∼6 月期が発表されたフランスを
見ると、雇用者数は前期比+0.3%(1∼3 月期は同+0.1%)、時間当り報酬は
前年比+3.1%(1∼3 月期は同+3.0%)と緩やかな改善ペースとなった。フラ
ンスとユーロ圏は概ね類似した推移となっており、ユーロ圏 4∼6 月期も雇用
環境の改善は緩やかなものに留まったことが示唆される。
失業率が現在と同程度の低水準であった 2000 年ごろのユーロ圏は、雇用者
数伸び率が前期比+0.6%程度、時間当り賃金伸び率が前年比+2.5%前後で
あった。2000 年当時と比較すると現状は抑えられた伸び率と言えよう。欧州
中央銀行(ECB)が指摘するように、グローバル競争の激化や賃金コストの
低い新興国、新規EU加盟国への設備移転の動きが雇用者数や賃金上昇率の
改善を緩慢なものにしているようである。
個人消費の推移は、年内底
堅さが見込まれる
雇用・所得環境の改善ペースが緩やかであるものの、年内の個人消費は底
堅く推移すると思われる。4∼6 月期個人消費はドイツ、フランス等で振るわ
なかったが、雇用環境は依然改善傾向にある。雇用増を背景にした雇用者報
酬の伸びが個人消費を下支えする材料となろう。また、ドイツでは年末に向
けて付加価値税引き上げ前の駆け込み消費が盛り上ると予想される。
4.ユーロ圏物価動向:エネルギー高を背景にインフレ率は高止まり
7 月の消費者物価は前年比
+2.4%
ユーロ圏の 7 月消費者物価上昇率は前年比+2.4%と、伸び率は前月から▲
0.1%鈍化した(図 14)。ECBが物価安定の目安とする参照値(前年比+
2.0%)を上回る状況が続いている。7 月の消費者物価に対する項目別寄与度
をみると、エネルギー物価以外の寄与度が前月比+0.09%Pt 上昇したが、エ
ネルギー価格の寄与度が前月比▲0.14%Pt 縮小したため、消費者物価全体と
しては前月比▲0.1%Pt 低下となった。
今後のインフレ率が更に高
まるリスクは限定的
インフレ率の先行きを展望すると、消費者物価上昇率が更に高まるリスク
は限定的とみられる。現状は原油高騰を背景にエネルギー物価が高い上昇率
となっている。みずほ総合研究所では、原油相場は年末にかけて緩やかに落
ち着いていくと予測している。加えてユーロ/ドル相場は前年比+5%程度ユ
ーロ高となっており、ユーロベースの原油高上昇率は徐々に抑えられていく
と見られる。
エネルギー以外の財・サービス物価についても、インフレが加速する余地
図 13
ユーロ圏の失業率と雇用者増加数
(前期比、%)
1.0
(%、Pt)
7.5
0.8
8.0
0.6
8.5
図 14
(前年比、%)
2.6
(前年比、%)
16
12
0.4
9.0
0.2
9.5
1.4
0.0
10.0
▲ 0.2
10.5
ECBの政策金利(レポレート)
(%Pt)
3.5
14
2.2
1.8
98 99 00 01 02 03 04 05 06
雇用者数
失業率(右、逆目盛)
図 15
ユーロ圏の消費者物価指数
10
3.0
2.5
8
1.0
6
05/1
05/7
06/1
06/7
HICP(消費者物価指数)
除くエネルギー
エネルギー(右目盛)
2.0
1.5
02
03
04
05
06
5
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みずほ欧州経済情報 2006/8/28
は限定的と予測している。年内は底堅い景気拡大を見込んでいるが、2007 年
にはユーロ圏景気は減速局面になるとみており、需給面からのインフレ圧力
は徐々に和らぐだろう。
但し、2007 年にはドイツで付加価値税の引き上げ(16%→19%)が実施され
る。これによってユーロ圏全体の消費者物価上昇率は約+0.4%押し上げられ
ると見込まれる。このような特殊要因を考慮すると、2007 年のインフレ率は
引き続き 2%を上回ると予測している。
5.ユーロ圏金融政策:年内に+0.25%の追加利上げを行い、年末の政策金利は 3.25%と予想
8 月のECB理事会は 2 カ
月ぶりに利上げを決定
8 月 3 日のECB定例理事会では、事前予想通り、+0.25%の利上げが決
定され、政策金利は 3.00%となった(図 13)。ECBは昨年 12 月から 3 カ
月毎に+0.25%の利上げを実施してきたが、今回の利上げは前回利上げ(6/8)
から 2 カ月での利上げとなった。
ECBは利上げ継続方針を
示唆
理事会後の声明文では、「もし(景気動向に対する)我々のベースライン
シナリオが確認されれば、漸進的に金融緩和の解除が正当化され
正当化されるだろう」(みずほ総研仮訳、以下カギ括弧同じ)と、利上げ継続
を滲ませる判断が示された。
景気動向については、「7 月の記者会見以降入手可能な経済指標は、我々
のユーロ圏景気動向に対するベースラインシナリオを確認させる結果となっ
た」と、自らの景気見通しに自信を示した。物価動向については、「中長期
的なインフレ見通しに関して、物価安定に上方リスクがある我々の仮定がマ
ネタリー分析から確認された」と引き続きインフレ警戒姿勢を示した。また、
「monitor very closely(注意深く監視する)」と今後の追加利上げを示唆す
る文言が盛り込まれた。
年内に追加利上げを行い、
現状の景気・インフレ見通しやECBのインフレ警戒トーンから 10∼12 月
年末の政策金利は 3.25% に追加利上げが実施され、年末の政策金利は 3.25%と予想している。
と予想
一方、理事会後の総裁記者会見では、今回の利上げ決定が全会一致ではな
かった可能性を示唆する発言があり、今までのインフレ警戒トーンからはや
や弱いコメントも聞かれた。2007 年以降は景気減速が見込まれていることに
加え、インフレ率も原油相場の落ち着きとともに沈静化すると見込まれる。
政策金利は 3.25%に引き上げられた後、打ち止めになると予想している。
6
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