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第24回放射線技師総合学術大会ランチョンセミナー
第 24回放射線技師総合学術大会 ランチョンセミナー 共催:東芝メディカルシステムズ株式会社 検診精度向上のための工夫 「巡回間接撮影における圧迫撮影と 二重造影の組み立て」 社会保険北海道健康管理センター 高橋伸之 先生 はじめに 時間の制約が厳しい集検でも実施できる圧迫撮影 と二重造影の組み立てについて述べる。集検におい て実施可能な圧迫撮影と二重造影の条件としては、 時間がかからないこと、病変の拾い上げ効率が高い ことなどが挙げられる。また、集検における圧迫撮 影は、あくまでも二重造影で描出しにくい部分を補 うものであり、まず基本となる二重造影をしっかり 撮ることが第一であることから、日本消化器集団検 診学会(現:日本がん検診学会)の「新・胃 X線撮影 法ガイドライン」に記載されている撮影法を十分理解 しておく必要がある。 病変を見逃しやすい幽門前庭部では 腹臥位圧迫撮影を追加 図1は当センターの集検で行っている撮影体位と 順序である。この撮影法でガイドラインと異なる点 は、頭低位腹臥位二重造影を 1 枚のところ 2 枚撮って いることと、背臥位から頭低位腹臥位に移る間に腹 臥位圧迫を入れている点で、ガイドラインにある画 像プラス拡大の 2 枚となる。 この撮影法における1人あたりの検査時間は 3 分 少々で、1時間あたり 18 人前後のペースで撮影して いる。 われわれは幽門前庭部を腹臥位圧迫で撮影してい るが、別に圧迫でなくとも、圧迫を併用した二重造 影でも病変が拾い上げられるのであればかまわない と考えている。 私が幽門前庭部を重視する理由を症例を提示して 説明する。頭低位腹臥位二重造影・第二斜位で撮っ た図 2a ではかすかに隆起が認められるが、わかりづ 1070 らいために第一斜位でも撮影したところ(図 2b) 、辺 縁も 4 分の 3 周程度が捉えられており、隆起がはっき り確認できた。しかし肛門側の辺縁が不鮮明なので、 圧迫を強めにしてもう1度撮影したところ、先ほど の隆起とは別にもう1つ隆起のようなものが映って いたため、少量のバリウムを入れて圧迫すると、隆 起が 2 つあることが確認できた(図 2c) 。 このように、幽門前部というのは病変を見落とし やすい領域なので、特に腹臥位圧迫撮影を加えてい る。 図 1 同撮影法による一連の写真例 図 2a 図 2b 図 2c 図 2 幽門前庭部領域の病変例:頭低位腹臥位二重造影 検診の終盤に来る立位は バリウム量不足の懸念がある 第二斜位(a) 、同第一斜位(b) 、少量のバリウムを追加し、圧迫を 加えた像(c) 。 通常、圧迫といえば立位圧迫だが、私が腹臥位圧 迫を重視する理由は、現在、検診領域では低粘性バ リウムの少量使用が基本となっており、検診終盤に 撮影される立位圧迫だと、すでにバリウムが十二指 腸に流れ、胃内に十分なバリウム量が残っていない 可能性が高いからである。また、もしも十二指腸に 空気が入っていれば、圧迫により空気が胃の方に戻 るケースも少なからずあり、そのような状態で圧迫 しても、空気が障害陰影となりやすい。 要するに立位圧迫では病変の確認に支障をきたす 画像が多く、特に幽門前庭部を重視する立場から、 私は立位圧迫よりも腹臥位圧迫を奨めている。 圧迫用の枕は柔らかで大きめのものを使用 次に腹臥位撮影の手技についてふれたい。まず、 圧迫用の枕はかなり大きめのものを使用している。 直径は 30 ㎝で、幽門付近から体部小弯の方まで広く 枕を効かせている。 2008 年 11 月 また、圧迫時には腹臥位正面、あるいはやや第一 斜位で撮っている。逆傾は- 10 度から+ 10 度でヒッ プアップせずに撮り、次に二重造影を撮るが、二重 造影正面は枕を動かさず、腹臥位正面で 30 ~ 45 度の 逆傾をかけてヒップアップする。息は吐いて撮るケ ースもあるが、軽く腹部を膨らませて撮ることが多 い(表1) 。 これを流れも含めて図 3 で説明すると、図 3a は腹 臥位圧迫像だが、このとき台の傾斜角度は 20 度程度。 第一斜位で撮影している。ここから腰を戻し、やや 第一斜位の状態が図 3b。台は水平である。図 3c も水 平だが、少しヒップアップし、軽くお腹を膨らませ るようにした状態。そして、肝腎の腹臥位二重造影 正面像は、そのまま台を逆傾していき撮影する(図 3d) 。 この撮影法は、このように圧迫から二重造影まで Vol.40 No.12 一連の動作で撮ることができるため、時間をかける ことができない胃集検に適した撮影法であると考え ている。 また、当センターで使用している圧迫用の枕は、 厚みや硬さが異なるものを数種類用意している。ま だ枕を使っていない施設では、最初は柔らかめの枕 を使うとよい。サイズが大きいものを使用している 理由は、集検の場合、何回も入れ直しができないので、 90 点の画像を狙うよりは 60 点でもよいから必ず及第 点が撮れるようにするためである。効きが悪い場合 は2 つ重ねて使用する。 一方、小さくて硬い枕の圧迫効果はかなり高いが、 受診者からは嫌われることが多い。集検の目的は救 命可能な早期癌を発見することにあり、検査時の苦 痛が原因で受診率が低下したのでは、集検本来の意 義が失われるので、注意したいところである。 1071 第 24回放射線技師総合学術大会 ランチョンセミナー 共催:東芝メディカルシステムズ株式会社 図 3a 図 3c 図 3b 図 3d 検診精度向上のための工夫 「下部消化管 X 線検査精度向上のため 1週間でスペシャリストを養成する 注腸 X 線検査の3法則を知る」 社会保険北海道健康管理センター 慶應義塾大学病院放射線技術室 高橋伸之 先生 都築史郎 先生 図 3 腹臥位圧迫から二重造影正面撮影までの流れの1例 表 1 腹臥位圧迫から二重造影正面へ 表 2 問題点 はじめに 牛角胃や瀑状胃は分けて撮影する 現在、われわれが採用している撮影法で問題にな るものとして、牛角胃・瀑状胃が挙げられる。牛角胃・ 瀑状胃は、体部で枕を効かせるポイントと、幽門前 部で枕を効かせなければならないポイントとがあま りにも離れており、しかも高さが必要なので、これ らのケースでは必ず枕の位置を変え、分けて撮る必 要がある。 また鉤状胃においても、逆傾 30 度で体部の二重造 影を撮る場合、枕を当てるポイントが若干ずれると 描出範囲が狭くなるケースがあるが、逆傾を 45 度く らいかけると、描出範囲をかなり広げることができ る(表 2) 。 ただ、一般に使用されている肩当ては、接触面が 小さく、しかも硬いので、逆傾をあまり強くかける と受診者は不快に感じるので勧められない。私自身 の感覚からいえば、ふだん使っている肩当ては逆傾 30 度くらいが限界と考える。当センターの巡回検診 1072 車は自動肩当て器が付いており、接触面も大きく両 肩を包み込むようになるので、逆傾 45 度でも受診者 は苦痛を感じることは少ない。 枕を入れ直したとしても、時間的ロスは1人あた り 30 秒程度と考えられるので、それでも支障がない 施設では、逆傾を大きくせずに枕の位置を修正して もかまわない。 おわりに 「新・胃 X 線ガイドライン」が発表されたのは 2005 年である。当センターの撮影法は、たまたまそれ以 前からガイドラインに近い方法であったので、以前 から検討を重ねていたが、幽門前部の撮影に反省症 例が多かったため、現在のような撮影法を採るよう になった。 今回は当センターでの検討結果だが、このように 検討を重ねることで、よりよい集検ができるのでは ないかと考えている。 2008 年 11 月 みなさんは「ボール送りゲーム」というものをご存 じかと思う(図1) 。ゲーム盤を左右、上下に動かして ボールをゴールまで送り込むゲームである。ボール 送りゲームなら 100%、みなさん全員がゴールまで持 っていける自信がおありだろうと思う。実は注腸 X 線検査のテクニックは、このボールゲームに非常に よく似ている。 老人保健法による「大腸がん検診マニュアル」では、 精検法として大腸内視鏡検査を推奨しており、注腸X 線検査は「精密検査能力を超えて要精検者の発生を見 た等の場合の経過的処置」と位置づけられている。す なわち厚生労働省の見解は、 「注腸 X 線検査は内視鏡 に比べ検査精度が低く、内視鏡による精密検査がで きない場合に注腸X線検査を代用してもよい」という 考え方である。 現在、多くの施設で、注腸 X 線検査担当者が従来 の医師から放射線技師に移行してきている。そこで 私たち放射線技師としては厚生労働省の見解を打破 すべく、注腸 X 線検査の精度を上げなくてはならな いが、それは個々の放射線技師が注腸 X 線検査のス ペシャリストになることにほかならない。 当院は大学病院であり、消化管研修医の研修期間 は 6 ヵ月間だが、半数がエコー、半数が注腸 X 線検査 を担当している。私たちは、そうした状況の中でも2、 3 ㎜大のポリープをフォローアップできる検査体制を 維持している。表面型病変の発見率は 333 例中 21 例 (6.3%)だが、この検査精度は内視鏡検査と同等かそ れ以上である。 Vol.40 No.12 大切なのは確実なバリウム充盈と壁への付着 どのように注腸 X 線検査を行うかだが、まず、バ リウム検査の基本は、撮影部位にバリウムが付着し なければならない。 最も大切なのは、S 状結腸、下行結腸下部をきちん とバリウムで充盈することである。大腸の場合、胃 と異なり、一度通過したバリウムを戻すことが困難 なため、しっかり充盈して確実に腸管壁にバリウム を付着させなければならない。 そのためには 400 ~ 500mL のバリウムが必要にな る。また、腸管壁にしっかり付着させるには、バリ ウムが脾彎曲横行結腸に速やかに移行しないように、 半立位右側臥位で注入することが基本になる。これ らの事項をきちんと守れば、大腸検査はそれほどむ ずかしいものではない。 検査手順としては、①直腸、S 状結腸をきちんと充 盈する。②バリウムを脾彎曲横行結腸に移動させ直 腸、S 状結腸を撮影する。③脾彎曲横行結腸のバリウ ムを上行結腸に移動させ脾彎曲部を撮影する。④盲 腸、上行結腸を充盈したバリウムを横行結腸に移動 させて盲腸、上行結腸を撮影する。⑤横行結腸のバ リウムを下行結腸に移動させ肝彎曲横行結腸を撮影 する、という順番になる(図2) 。この手順を守って実 施すれば、病変はおのずとみつかってくるものであ る。 注腸検査上の問題点は、バリウムの付着ムラ、凝固、 ひび割れ、剥がれである。また、バリウムの停滞や 二重造影の描出範囲が狭い、などの問題も起こりや すい。腸管がつぶれたり、広がったりすることを繰 り返すと、ひび割れや剥がれの原因になる。これは 腸管の伸展不良により起こるので、空気を少しずつ 1073 図2 注腸 X 線検査におけるバリウム移動の基本 精度の高い注腸 X 線検査のため特別なことはしていない。バリ ウム検査の基本を忠実に実行するだけである(バリウムをつけ 図1 ボール送りゲーム て、それを移動して撮る)。 図 3 図 6 の法則(図解) ゲーム盤を左右、上下に巧みに動かし、ボールをゴールまで送 図 4 座標軸の設定 り込む。誰でも経験から、ボール送りの理論は熟知し、身体が 覚えている。スペシャリストは確率 100%でゴール可能。 表 1 注腸 X 線検査の“3 つ”の法則 追加して適度に伸展させると改善できる。一方、バ リウムの付着不良は濃いバリウム(110w/v%)を少し 多めに使用することでクリアできる。 当院の注腸 X 線検査では、ダブルバルーンカテー テルを使用し、カテーテルをつけたままで 110w/v% のバリウムを 400 ~ 500mL 注入する。 バリウムを送る方向が右なら患者を 時計回り、左なら反時計回りさせる 注腸 X 線検査のスペシャリストになるためには 3 つ の重要な法則がある。1 つは精度の高い二重造影像を 得るためのバリウム深部送り込み法である「図 6 の法 則」で、3 つの法則の基本法則になる。これについて は後ほど詳しく説明する。 1074 表 2 図 6 の法則 2 番目が「重ねの法則」である。たとえば横行結腸 のように脾彎曲部のバリウムを、垂直方向に屈曲し た腸管へ送るには、肝彎曲側の腸管を下にし、脾彎 曲側を重ねてそのまま倒してやればよい。これが「重 ねの法則」であり、さまざまな場面で利用することが できる。重ねて台を倒す、あるいは重ねて起こすこ とが基本である。 3 番目は「伸展の法則」である。これは道路工事に より一車線通行になり渋滞が起こるが、工事が終わ れば解消される現象に似た、主に左右方向に屈曲す る腸管にバリウムを送り込む際に使われる法則であ る。頭を倒しておいて空気を少し追加すると腸管が 少し膨らむが、膨らんだ分だけ下側腸管のバリウム 容積率が上がるため、上側腸管のバリウムが自然に 下側に送り込まれるという理屈である(表 1) 。 2008 年 11 月 そして基本法則の「図6 の法則」だが、 要点の1 つは、 本来 3 次元的に走行する腸管の解剖学的位置関係や患 者の体位を完全に無視することである。そしてモニ タ画像を単なる平面画像と捉え、画像上でバリウム を送りたい方向に矢印(座標軸)をつけることが基本 となる(表2) 。 これを図に示すと図3 のようになる。バリウムを送 る方向が 0 度より大きければ寝台を少し倒してやり、 マイナス方向に向いていれば寝台を少し起こしてや ればよい。次に矢印が 1 時から 5 時まで、つまり右方 向を向いていれば、患者を足側から見て時計回りに 回転させる。反対に 7 時から 11 時、つまり矢印が左 方向を向いていれば、患者を足側から見て反時計回 りに回転させればよい。 私たちが通常用いている撮影技術は、患者を右回 りまたは左回りさせるか、また寝台を上げるか下げ るかしかない。逆にいえば、これらの操作だけでS 状 結腸はきれいな二重造影ができるということになる。 実例を挙げて復習すると、この患者の場合、最初 の矢印は 0 時方向だから、バリウムを送るには、ひた すら頭を下げてやる。2 番目の矢印は2 時方向なので、 頭をさらに少し下げておき、患者を足側から見て時 計回りに回転してあげればよい。これはまさに最初 に述べた「ボール送りゲーム」の操作と同じテクニッ クである(図4) 。ボールを送るためには右または左を 下にする。これと同じことでバリウムを送るために 頭を起こす、 または下げる。これだけのテクニックで、 バリウムを確実に深部腸管に送り込むことができる。 この法則を知り、実行するだけで、すでにみなさん はボール送りゲームを豊富に経験しており、100% 注 Vol.40 No.12 腸X線検査のスペシャリストの域にある。 バリウム像をモニタから外さないこと その他の問題としては、どこのバリウムをどの時 点で動かすかを覚えればよいだけである。 S 状結腸を例に説明すると、腹臥位にして空気を入 れた時点でバリウムの分布は、S 状結腸のトップから 下行結腸あたりに溜まるバリウム a、S 状結腸に溜ま るバリウム b、直腸に溜まるバリウム c、の 3 つに区 分される。 このうちどこのバリウムから手をつけるかだが、 腹臥位の場合、基本的にはまずbのバリウムを a に合 流させ、その後、aのバリウムを送る。最後に残る のが直腸のバリウムcである。これを最後に送って あげればよい。このような手順は数回やれば覚えら れるので、1 週間もかからない。 この手順の要点は、 ① バリウムを動かそうとする腸管の節から目を離 さないで送る。 ② バリウム移動の目的が達成したところで患者の 動きを止め、次の節への移動を開始する。つまり バリウム像をモニタから外さない透視技術が必要 で、そうすることで病変も発見しやすくなる。 ③ いくつかのバリウム送りの難所では「重ねの法 則」と「伸展の法則」を活用する という3 点に集約できる。 このように 3 つの法則を守るだけで、非常に簡単に 注腸 X 線検査が実施できる。ぜひみなさんも採り入 れていただきたい。 1075