...

Page 1 愛媛豊共同リポジトリ Instutional Repository:the EHIMEarea

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

Page 1 愛媛豊共同リポジトリ Instutional Repository:the EHIMEarea
>> 愛媛大学 - Ehime University
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
ロシアの物価統計改革 : 移行経済下の消費者物価統計
佐藤, 智秋
愛媛経済論集. vol.21, no.2/3, p.11-25
2002-03-25
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/2130
Rights
Note
This document is downloaded at: 2017-04-01 06:34:35
IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
〈諭文〉
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計ω
Reform of Price Statistics in Modern Russia
−Consumer Price Statistics under Transition Economy
佐 藤智秋
Sato Tomoaki
《要 約》
ロシアにおける消費者物価統計の改革は,ソ連時代末期から始まり,すでに10余年を経
た。本稿の課題は,ロシアでは消費者物価統計の改革にどのように取り組み,それは改革の
中でどう変わったのか,そして,その有効性は向上したのかを明示することにある。そのた
め,はじめに,ロシアにおける物価統計の改革の流れ,および現在の消費者物価統計の作成
方法を概述し検討を加える。さらに,ロシアの特異なインフレ過程に対応することになった
消費者物価指数の問題を,ロシア国内での研究(主としてライスカヤ等のグループの研究)
を取り上げながらみていく。また,広大な領±を持つロシアでの地域別物価水準の比較につ
いても触れる。最後に,ロシアにおける物価統計の問題は,移行期にあるロシア独自の問題
と,どの国においても物価統計に絶えず付きまとう問題に分けて取り扱う必要があり,ロシ
アにおいても後者への地道な取り組みが不可欠であることを指摘する。
程に対応することになった消費者物価指数の問題
を,ロシア国内での研究を取り上げながらみてい
1.はじめに
く。また,広大なロシアでの地域別物価水準の比
較について触れる。
ソ連崩壊後,10年が過ぎた。この間ロシアで
は,市場経済への移行に対応すべく新たな統計制
2.ソ連・ロシアにおける物価統計の
度が整備されてきた。本稿では,ロシアの統計制
改革
度の中から,物価統計について考察する。その
2.1.「価格表方式」から「価格調査方
際,消費者物価統計に焦点を当てるが,それは,
一般に,同統計が,インフレ指標,各種インデク
式」への切り替え
セーション,デフレーターとして幅広く利用さ
まず,社会主義体制の末期に抱えていた物価統
れ,国民生活に最も関連があり,物価統計の中で
計の課題を確認しておこう。
重要な位置を占めているからである。
周知のように,1980年代の半ばから公式統計の
筆者の意図は,ここ10年ほどのロシアにおける
消費者物価統計の改革の中身を整理し,ロシアは
(1)本稿は,1998∼2000年度文部省科学研究費補助金
改革にどのように取り組み,同統計は改革の中で
(国際学術研究・基礎研究(B))「ロシアの地域間の
資金循環」(研究者代表:田畑伸一郎)の研究成果の
どう変わったのか,そして,その有効性は向上し
一部である。北海道大学スラブ研究センター冬季シ
たのかを明らかにすることにある。そのため,は
ンポジウム(1999年1月),第41回比較経済体制学会
じめに,ロシアにおける物価統計の改革の流れ,
数量経済研究会(北海道大学,2001年6月),および
および現在の消費者物価統計の作成方法を概述し
経済統計学会関東支部定例研究会(専修大学,2002年
検討を加える。次に,ロシアの特異なインフレ過
1月)での報告に加筆したものである。
一11一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統昂
信頼性が公然と批判されるようになり,その中
ところで,ソ連末期には,生産の停滞と財政の
で,特に物価指数に問題ありということが明らか
悪化という状況下で,インフレが顕在化しつつ
になっていた。
あった。それに加えて,「隠蔽インフレ」や「抑
ソ連時代の価格指数としては, 「価格表」によ
圧インフレ」といったソ連経済独自のインフレの
る価格指数が知られる。この価格指数の作成は,
問題が注目されていた。「隠蔽インフレ」は,公
価格表の改訂ごとの平均価格の変化を算定するこ
式統計の問題から捕捉できない物価上昇であり,
とを主要な目的としており,そもそも,価格表方
「抑圧インフレ」は,固定的な公定価格のもとで
式の価格指数は,名目的な物価変動を捉える物価
強制貯蓄が生じ,もしこれがなければ発生するで
指数ではなく,インフレ指標にはなりえなかっ
あろうと推測された物価上昇である。そして,こ
だ2>。現実にも,この指数が価格変化を示すこと
のような「インフレ」をすべて捉えようという試
はほとんどなかった。
みがなされ,実際,ソ連国家統計委員会では,イ
こうした中,ソ連では,経済改革における所有
ンフレ指標として公式の消費者物価指数(CPI)
・経営形態の多様化と価格の段階的自由化の動き
の他に,抑圧インフレを加味した推計値(代替指
に対応して,物価統計の改革が始められる。その
標)を公表している。日本国内でも,両者が,ソ
内容は,従来の「価格表方式」の放棄であり,そ
連のインフレ率として利用され,時には誤用され
の後に予定された価格形成方法の変更や価格自由
た。
化に対応するための新方式の物価指数の作成と,
こうしたソ連独特のインフレの問題とそれに対
それへの段階的切り換えであった(3)。
応した試みは,ソ連が崩壊し,インフレが暴走を
1989年からソ連国家統計委員会によって,新方
始めると,取り上げられなくなる㈲。
式の物価指数(消費者物価指数,工業製品企業生
2.2.CPIの作成方法
産者価格指数,運輸料金指数など)が作成されて
いった。
次に,現行CPIの作成方法をみていく。CPI
ロシアでも,1989年に毎月の価格調査が開始さ
の作成のための統計調査は,価格・料金調査と家
れ,1991年にはロシア全土で定期的な一部調査が
計の消費支出構造に関する調査(家計調査)の2
行われ,1,000以上の消費財と約300のサービスの
つの調査からなる㈲。
価格・料金が調査されるようになった。また,
(1)イ面ネ各・米斗金言周査
IMFの支援のもとに,1992年末には,国際標準
価格変化に関するデータは次のように収集され
準拠のCPI計算方式が導入され,1993年11月から
る(1997年時点)(7)。
は,週別のCPI(!22品目,132都市)が計算され
実施機関:ロシア国家統計委員会
るようになった。このため,1989年以降の公式の
調査地域:調査が行われる都市の数は350,うち
月別CPIと.1993年以降のIMFの支援による週別
連邦構城主体の首都が89,抽出された郡が残り261
CPIの2つのCPIが併存することになったが,2
を占める。
つの指数は近似したということ,またインフレ水
調査対象:全所有形態(国営,公営,私営)の
準の一意的な特定のために,1995年第1四半期以
商業企業・サービス企業および個人による商品販
降は月別指数に統一され,新たな公式CPIがで
売・サービス提供が調査される。調査対象地域の
きあがる(4}。
(5)価格自由化については佐藤(1998),「抑圧インフ
(2にれは,ロシア国家統計委員会内での見方でもある
レ」については佐藤(!994)参照。
(Goriacheva (1999) pp.32一 3)o
(6)Gol’dina & Prokunina (1996) pp.54−5,GoriacheVa
(3)価格表方式の価格指数については佐藤(1994)P.226
(1998) pp.3rr 6, Metodologicheskie (1996) pp.429/
参照。
31,Goskomstat (1995) pp.73−81.
(4)Gol’dian & Prokunina (1996) pp.53−4.
(7)Goriacheva (/998) pp.3−6.
一12一
[愛曜済謙第21巻第2“3号・2002]
広さと楊の急激な変化に対応するため当言亥繊
て,小売販売高の構造や各製品の生産高に関する
の国家統計機関の専門家が調査対象を選定する。
データも利用される。ただし,ウエイトの数値は
記入;調査員
公表されておらず,また,実際にこうしたデータ
調査品目:1996年時点では・280品目・うち・食
が使用されているのか,たとえ使用されていると
料品76,非食料品145・有料サービス71であった。
しても,どの時点のものが使われているのかは確
インフレが緩やかになるのに伴い,1997年には調
認できない働。
査品目が382品目に増やされ・うち・食料品100・
(3)CPIの計算手順
非食料品201・サービス81となる〔8)・調査品目の
CPIは次の手順で計算されるa3),
リストは中央で選定し・具体的銘柄は販売高に占
(都市レベル)
める大きさや調査の継続可能性を考慮し,当該地
①商品別平均価格の計算… 複数の調査価格
域の調査員が特定する(9>。ロシアの市場の特殊性
から計算
②商品別価格指数の計算… ①の割り算による
を反映し,調査単位(事業所)や実際の調査銘柄
の選定に,現場における判断をある程度取り入れ
(地域,経済地区,ロシア連邦レベル)
た柔軟なものになっている。
③商品別価格指数の計算… ②および当該地
周期・実施期日:毎週・月曜日,毎月・23∼25
日。現在有効な決定によれば,毎週,月曜日に調
域のウエイトから計算される㈹。地域のウエ
査されることになるがao>,毎月の調査は,その月
イトとして人口比率が使用される。
④食料品,非食料品,サービスの総合価格指数
の23∼25日の間に382品目について実施し,毎週
の計算
の調査は社会的に必要な32品目についてのみ実施
⑤総合消費者物価指数(CPI)の計算
されている。
調査事項:商品の小売価格およびサービス料金。
②マーケット・バスケットとウエイト
③から④あるいは⑤を計算する際に用いられる
マーケット・バスケットには,個人副業で生産
CPIの算式は,次に示す変形ラスパイレス算式で.
された農産物の自己消費分,所得税,貯蓄,保険
ある。
料,年金納付金,投資支出は含まれない。ロシア
zL’ xp,一igo
連邦の全地域で単一の指数品目が使用される。ウ
Pt−1
×100
1=
エイトについては,地域レベルのCPIでは当該
2pogo
地域の消費支出構造が使用され,連邦レベルの
Pt−1
P2
Pl
CPIではロシア連邦全体の単一の消費支出構造が
ここで,Pt−190= POgO×一×一X…×一
1フ0 1フ1 1フ!_2
使用される⑳。この消費支出構造に関しては,家
計調査の結果が利用され,その他の補足情報とし
この算式は,インフレが激しく,出回る商品も
変化する状況でウエイトがズレていくのに対応す
(8>フェイバーとストローへは,国家統計委員会の代表た
るためのもので,連続する価格指数を使用するこ
ちとのインタヴューに基づくものとして,次の品目数
とにより,価格情報の比較可能性を確保すると説
を上げる。1991年1074品目,1993年407品目,1994
年409品目,1996年280品目,1997年382品目,1999
(11)ibid .Pp.74−5. Metodologichθskie(1996) PP.430一ユ.
年389品目 (Faber&Strohe(2000)P.225)。
(12)Faber & Strohe (2000) p.225.
(9>ロシアの文献では,調査する品目数(=調査品目
(13)Gol’dina & Prokunina (1996) pp.55−6,Goskomstat
数)と指数計算に使用する品目数(=指数品目数)
(1995) pp. 74 一 5, Metodologicheskie (1996) p. 431,
の混同がみられ,それらがどちらかを指すのか,あ
TsenLy (1996) p.210.
るいは,同じものなのか判断できない。
圓このウエイトは,(2)で説明したCPIを計算する際
(10)Goskomstat (!995) p.74・
のそれではない。
一13一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
第1図ロシアCPIの動き(対前.月比)
。/o
245(1月)
70
60
50
38.4(⊆ 月)
40
1
’
酎
10
)/
一
L l
5
一10
1\ノ
”
1﹁
o
\
〆
20
﹁
域
30
\._一 」レ
一
P
1
1990 1991 1992 1993 1994 1995 r996 t997 1998 1999 2000
暦年
(備考)
Goskomstat Rossii, Rossi7a v tsifiTakh (yearly), Tseny v Rossii (yearly), Sotsia/’no−ekonomicheskoe polozhenie
Rossi7 (monthly).
明されている。ウエイトは分母のp。qD,さらに,
クロ経済指標を歪めることになった。そのため,
分子のPt−lq。の計算式に登場するp。q。であり,前
特に物価統計の建て直しとその信頼性の回復が急
述のように家計調査から得られる。残りの部分に
務となっており,ロシアは世界標準の採用によ
③の指数を連続して使い,CPIを計算:する。
り,これを実現しようとしたのである。公表され
ソ連時代の物価指数算式はパーシェ算式が大半
る資料から判断する限りでは,かつての価格表か
であったが,1993年からラスパイレス算式に代
ら計算された物価指数が持つような致命的な問題
わっていく。また,ソ連時代には他の共産圏の
はある程度克服されたとみなすことができる。
国々と同様に「小売物価指数」という名称が使用
とはいえ,現行統計の状況には厳しい評価をせ
されていたのであるが,このときはウエイトに小
ざるをえない。フェイバーとストローへは,ロシ.
売販売高が使用されており,「小売物価指数」と
アの消費者物価統計の問題を次のように整理す
いう名称が適切であった。IMFの支援以降,ウ
る⑮Q
エイトが家計調査による家計の消費支出構造に変
①バーターやブラックマーケットの広範な出
わり,指数の名称は「消費者物価指数(CPI)」
現,②時間や場所とともに変化する商品の相対的
に変更された。
価値や消費者の選好,③供給される商品やサーU
CPIの動きを第!図に示す。
スの変化の速さ,④販売チャンネルの変化,⑤価
格変化要因の特定の難しさ(品質の変化か単なる
2.3.消費者物価統計の評価
価格面の変化か),⑥広大なロシア全域に単一の
ここで,現在までの改革状況に対し評価を行っ
消費者物価統計を採用する問題,である。
てみたい。
①の問題は,公式統計ではバーターの際の交換
まず,かつて価格表から計算された物価指数
(15)Faber & Strohe (2000) pp.236−8.
は,社会主義体制下の物価変動を捕捉できず,マ
一14一
〔愛媛経済論集 第21巻・第2『3号,2002]
比率やブラック’マーケットでの闇価格の測定が
次の通りである㈹。
不可能なために・価格の調査対象が制約されてお
①消費者物価指数,②住宅価格指数,③工業製
り,CPIが上方あるいは下方にバイアスがかかる
品生産者価格指数,④農業製品生産者価格指数,
可能性があることになる暁⑥は,地域ごとに流
⑤基本建設価格指数,⑥貨物運輸料金指数,⑦法
通する商品は様々であり・また重要性も異なり・
人向け通信サービス料金指数,⑧河川での荷の積
単一のマーケット’バスケットを選定することに
みおろし作業価格指数,⑨工業機関の主要燃料・
は無理があるということである。
エネルギー資源購入価格指数,⑩農業機関の生産
フェィバ一等が指摘する問題は,先進国におい
手段・サービス購入価格指数,⑪建設機関の主要
ても,程度の差こそあれ,物価統計を作成する際
資材・部品・建造物購入価格指数
に生じている問題であるが,経済が移行期にあ
3.インフレと物価指数
り,また,市場経済での物価統計作成の経験が浅
いロシアにおいては,こうした問題がより深刻な
3.1.1990年代のインフレ過程
形で発生していると考えられる。
ロシア国家統計委員会では,今後の課題とし
アファナシェフ等は,1992年の価格自由化前夜
て,価格記録時・CPI計算時における商品の品質
の状況を3つあげる(19)。①供給に対する全般的な
評価の問題の解決,季節調整済み指数の計算方法
需要超過,②歪んだ価格体系(不当に低く設定さ
の作成,サービス料金の調査方法の作成,抽出方
れた原燃料資源価格など),③先行する経済政策
法の改良を挙げている㈲。
の結果としての高いインフレ期待である。した
現時点では,新しい制度や方式の導入が,その
がって,相当のインフレが予想されていたのであ
まま統計の有効性の向上につながっていったと判
るが,価格自由化は,それを遙かに凌ぐ爆発的な
断するのは難しい。そして,1990年代の移行経済
インフレにつながっていくことになる。
という特殊な状況,さらに高インフレという状況
インフレの要因はいろいろ列挙されているが,
で,新たな消費者物価統計は試されることになっ
やはり,根本的な要因は,価格自由化と世界経済
た。次章では,インフレを捕捉するトゥールとい
へのリンクの過程で,価格体系が変化し(燃料・
う点から消費者物価指数を吟味することにする。
原料部門等の価格上昇),これが物価水準全般を
押し上げ,さらに加えて,独占的産業構造,およ
なお,1999年時点の,ロシアの物価統計体系は
び政府や企業の従来からの体質がインフレを促進
し,結果的に,インフレをこれほどまで悪化させ
⑯実際,支払のあった場合の価格水準と未払いの場合
の価格水準は,統計上ではどのような関係にあるの
か。これについて,ベロウソフ等は次のように述べ
ている。「とりわけ,価格の不均衡は,企業相互の
未払いに化ける。しかし,この要因の影響は,1994
年にはなくなってしまった。未払いが,価格を吊り
上げるための手段であると仮定してみよう(これは
全く正しくないのであるが)。実際に支払のあった
製品に関する工業生産のデフレーターは,総生産に
たという解釈が妥当であろう⑳。
当初の過剰流動性は,新たに設定される価格の
実現を容易にし,その過程で,抑圧インフレも公
然化し消滅していく。間もなく,インフレと金融
制度の未整備.により,ルーブルの不足という問題
が発生するが,競争状態にない企業は,資金を回
関する工業生産のデフレーターよりも,1992年に
は,全体で6%,1993年には17%ほど下回った。そ
収できる目途のないまま,従来通りに原材料の選
れに対し,1994年には,前者は後者を10%も超えて
いた。したがって,デフレーターの動態は,インフ
レ加速における未払いの明白な役割を証明してはい
(18)Goriacheva (!999,No.11) p.34.
ないのである」(Belousov(1995)P.57)。
(19)Afanas’ev (1995) p.49.
{17)GolTdina & Prokunina (1996) p.60,Goriacheva(1998)
⑳ロシアのインフレを,需要インフレとみるか,コス
p.6.なお,季節調整済み指数は,一度,Tseny
トインフレとみるか,また,貨幣的インフレとみる
(1998)p.39において,季節要因を除く実質指数と
通常の指数との比較がなされているが,その後は公
か,非貨幣的インフレとみるか,それぞれの見解を
表されていない。
整理したものとして栖原(1997)がある。
一15一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
1997年越で10億r.
第2図企業・組織の債務の動き(年末)
1998年以降100万r.
対GDP比
1.0
4,000,000
3,5QO,OOO
」
O.9
tEzzzzeZl未払い債務(左軸)
O.8
[==コ未収債権(左軸)
3,000,000
2,soo,ooo e
+未払い債務(右軸)
O.7
一合・・未収債権(右軸)
O.6
.
2,000,000
O.5
.
1,soo,ooo P
O.4
.A・”
500,000
o
O.3
.IIIIL﹁1
1,000,000
O.2
O.1
o.o
1993 1994 1995 1996
1997 1998
1999
2000
暦年
(備考)
Goskomstat Rossii, RossJ)’a v tsifirakh (yearly), Rhansy Rossi)’ (yearly).
1998年1月1目にデノミネーションが実施され,通貨単位は1000分の1になっている。
コ,フレンケル等(グループ)の研究をみてい
入を続け,雇用を維持し,製品の販売を続ける。
他方で,企業は,政府に対し一層の資金供給を求
く。インフレの捕捉という観点から,彼等ほどロ
めるようになり,政府や中央銀行は財政面金融面
シアの現行インフレ指標に対して詳細な批判を
で支援を行い,インフレを加速させていく。
行ったものはロシア国内では存在せず,さらに代
不完全ながらも整備されつつあった各種のイン
替指標を提案しており,現実に発現したインフレ
デクセーション(賃金・年金および商業上の契約
過程と物価指数の対応を検討する上で参考にな
に関連したもの)が,インフレの慣性に一役買う
る。
ようになる(21)。
ライスカヤ等によると,先進国では,CPI(消
財政と金融の引き締めが徹底されようになる
費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)やGDP
1995年以降は,企業は,資金不足という状況に,
デフレーターをインフレ指標として使用している
債務の未払い,バーター,ドル決済,相互信用で
が,経済基盤の不変性や安定性がこれを可能にし
対応するようになる。この頃から物価上昇率は低
ているのであり,移行期のロシア経済では,CPI
下していくが,未払い債務総額の急増という現象
は,需要面のインフレを反映しているだけで,物
が現れる(第2図参照)。
価上昇の全体を捕捉していないために,インフレ
指標としてCPIは有効ではなく,また, GDPブ
フレーターも推計に要する時間から実用的ではな
3.2.代替指標の試み
(1)相関係数によるインフレ週程の分析
いとされる。
以下では,ロシアのライスカヤ,セルギエン
さらに,ロシアのインフレを,発達した市場経
済国におけるように,需要面からのみ,あるいは
(21)Belousov (1995) pp.54,57.
コスト面からのみ考察することは適切ではなく,
一16一
[愛媛緻斉諜第21巻,第2●3号・2002]
第1表CPIとその他の諸指標との時差相関係数(1)
CPIの遅行期間(月)
0
2
1
3
4
5
6
7
1,000
0,881
0,719
0,598
0,414
0,297
0,236
0ユ88
②
0,913
0,731
0,606
0,515
0,383
0,296
0,264
0,247
③
0,849
0,641
0,469
0,357
0,259
0,215
0,177
0,178
0,528
0,331
0,260
0,177
0,113
0,073
0,074
0212
0,744
0,497
0,361
0,337
0,186
0,133
0,227
0,218
0,165
0,389
0368
0,320
0,274
0,198
0,183
0,249
0,563
0,454
0,442
0,361
0,205
0,133
0,130
0,175
一〇,026
④ ⑤ ⑥
①
指標
⑦
⑧
0,248
0,038
一〇.066
0,005
0,066
0,206
0,189
⑨
0,694
0,656
0,632
0,639
0,444
0,308
0,264
0,287
⑩
0,845
0,684
0,493
0,370
0,273
Q,285
Q,328
0366
⑪
0,279
0,250
0,182
0,188
0,158
0,219
0,279
0,774
0,578
0,467
0,308
0,277
0,267
0,228
0,213
0,317
0,221
0,198
0,298
0,389
0,466
0,472
⑭
0,046
0,278
0,175
0,090
0,089
一〇,144
一〇.211
一〇.159
⑮
0,279
0,258
0,161
0,154
0,136
一〇.059
0,049
0,285
⑫
0,065
0,919
⑬
(備考)
Raiskaia&Frenkel’(1997, No.4)p.40.データ数は15(指標数)x 34(調査対象期間,1994年2月∼1996
年11月)。①消費者物価指数,②工業製品生産者価格指数,③原材料価格指数,④運輸料金指数,⑤
基本投資価格指数,⑥小売商品販売高,⑦職業安定所登録者数,⑧貿易収支,⑨為替レート,⑩全住
民の最:低生活費,⑪1人当たり貨幣所得⑫主要食料品19品目価格,⑬通貨発行量M2,⑭工業製品1
昼夜平均生産高,⑮債務総額。
原因や要因の総合的な考察がインフレの推計や分
が検討される。第1表の表頭は,CPIの遅行期間
析にとって必要と主張するee>。
(単位:月)を示し,表側は,15本の指標を示す。
ライスカヤ等は,取っ掛かりとして,ロシアの
表の1行目は,CPIについての,自己相関関数の
インフレ過程を相関係数を使った時系列分析で検
計算結果になる。ライスカヤ等によれば,CPIの
証していく。統計データとして,1994年2月から
動きは慣性を示しており,そのため,自己相関関
1996年1!月までの期間(34期)について,インフ
数の最初の方の高い値により,1∼3ヵ月程度の価
レ過程のさまざまな側面を反映するとみられる次
格動向の予測が可能とされる。また,より長期間
の15の指標(月別変化率)が使用される。
について(1992∼!996年),さらに時間のズレを
①CPI,②工業製晶生産者価格指数,③原材料
15ヵ月まで拡大して計算した結果から,波状的に
価格指数,④運輸料金指数,⑤基本投資価格指
減衰する特徴も指摘される(r=0.908,0.783,
数,⑥小売商品販売高,⑦職業安定所登録者数,
O.666, O.607, O.497, O.484, O.532, O.605,
⑧貿易収支,⑨為替レート,⑩全住民の最低生活
O.610, O.579, O.548, O.509, O.462, O.486,
費,⑪1人当たり貨幣所得,⑫主要食料品19品目
0.508)。価格変動が,一定期間,経済の諸領域に
価格,⑬通貨供給量M2,⑭工業製品1昼夜平均
波及した後に,タイムラグをもって,再びCPI
生産高,⑮債務総額である。
が捕捉する領域に戻ってくることになる。
まず,各指標と0∼7期後のCPIの相関関係
表の2行目からは,CPIと他の14の指標につい
て,2変量間の相関係数の値が示される(各指標
22)Raiskaia (1996,No.8), Raiskaia, Sergienko, Frenkel’s &
と0∼7期後のCPIとの時差相関係数)。
Goriacheva (1996,No. 12), Raiskaia & Frenkel’ (1997,
}“O・4)., Raiskaia, Sergienko & Frenkel’ (1997, No.10,!999,
表の1列目は,遅行期間が0なので,同期にお
No・9).以下は主にRaiskaia&Frenkel「(1997,No.4)
による。
けるCPIと他の14の指標の相関係数になる。②
一17一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
第2表CPIとその他の諸指標との時差相関係数(2)
その他の諸指標の遅行期間
0
指
標
2
1
4
3
(月)
5
6
7
②
0,913
0,927
0,823
0,783
0,579
0,396
0,304
0,186
③
0,849
0,873
0,844
0,819
0,646
0,423
0,261
0,156
④
0,528
0,730
0,823
0,857
0,821
0,571
0,290
0,124
⑤
0,744
0,681
0,632
0,780
0,505
0,404
0,436
0,312
0,259
0,435
0,339
0,319
⑥
0,165
0,375
0,482
0,120
⑦
0,563
0,622
0,571
〔}.492
0,274
0,162
0,177
0,173
⑧
0,248
一〇.094
0,028
0,275
0,097
一〇.041
一〇.213
一〇.277
⑨
0,694
0,507
0,393
0,291
0,152
一〇.029
一〇.169
一〇。232
⑩
0,845
0,852
0,690
0,565
0,438
0,282
0,171
一〇.010
⑪
0,065
0,355
0,394
0,200
0,176
0,385
0,218
0,163
⑫
0,919
0,849
0,666
0,500
0,390
0,251
0,207
0,035
⑬
0,213
0,318
0,424
0,497
0,573
0,644
0,540
0,448
⑭
0,046
0,098
一〇.022
一〇.157
一〇.149
一〇.131
一〇.294
一〇.085
⑮
0,279
0,381
0,595
0,493
0,375
0,661
0,321
0,217
(備考)
Raiskaia & Frenkel’ (1997, No.4) p.42.
工業製品生産者価格指数,③原材料価格指数,⑩
相関係数をみると,その最大値は,②工業製品生
全住民の最低生活費,⑫主要食料品19品目価格と
産者価格指数では!期の0.927,③原材料価格指
交差するマスにある相関係数の高さは,CPIとこ
数1期0.873,④運輸料金指数3期0.857,⑤基本
れらの指標の動きがほぼ線形であることを,つま
投資価格指数3期0.780,⑥小売商品取引高2期
り同期に同一方向にほぼ同程度動くことを示して
0.482となる。彼等は,このことから,消費財価
いる。
格の変化が,本来同価格に影響を与えるはずの諸
CPIと⑬通貨供給量M2との相関係数である
価格形成要素に,タイムラグをもって逆の流れで
が,7ヵ月遅れたマスにその最大値0.472が現れ
as)lllarionov (1995) p.!9.
る。この最大値が現れるまでの期間が,インフレ
図ライスカヤ等が,ロシア経済の統計分析の中で,記
述分析の限界を指摘し,時系列分析の有効性に言及
している点は興味深い。「M2の増加がインフレの
高揚へ遅れて影響するとした場合,これらの(先行
する;訳者注)著作では,タイムラグの特徴は研究
されず,その期間も計算されなかったのであり,そ
れは,こうした指標の動態の記述的分析では正確な
答えを出せないからであった。相関関数の計算は,
タイムラグは明確な増加あるいは減少傾向を持た
ず,不変的な値でもなく,4∼6ヶ月の一定の範囲
構成要素のタイムラグとされる。通貨供給量M
2について,異なる期間についても計算したとこ
ろ,タイムラグは,4∼6カ月になるという。
ライスカヤ等は,これを,不安定な経済の特徴
で,生産面と金融面の連関が流されてしまってい
るためと否定的に捉える。なお,このラグの長さ
で変動することを示す」(Raiskaia&Frenkel’
(1997, No.4) p.41)o
とその変動は争点にもなっており,イラリオノブ
彼等が,ここで否定的な評価をするのは,イラリ
オノブ,ベロウソフ,イケス等の記述分析の手法で
ある(lllarionov(1995), Belousov&Klepacb
などは,市場が発達するほどラグは長期化する傾
向があると肯定的に捉えるaSXzdi。
(!995),Ikes(1995))。ライスカヤ等自身は,相関
ライスカヤ等は,さらに,逆の関係,すなわ
関数によるインフレ過程の分析,さらにクラスタ”
分析によるインフレの地域間分析というように多変
量解析に手を出していくのであるが,手法の独自性
はともかく,残念ながら,その仮設や分析結果は説
得的ではない(Raiskaia, Sergienko&Frenkel’
ち,CPIと0∼7期後の各インフレ構成要素がど
のような関係にあるのか考察する。
第2表のCPIと他の指標の0∼7期後の時差
(1997,1998)など)。
一18一
[鰐経済諜第21巻,第2.3号,2002]
のインフレ過程も特殊なものになっているという
影響しているとみなす。
ライスカヤ等の見解をみた。ここから,彼等は特
また,⑧貿易収支や⑭工業製品1昼夜平均生産
高の行に現れる時差相関係数の値はみな低いが・
殊なインフレ過程を捕捉するための特殊なインフ
これも商品生産と価格形成の分断,生産領域と金
レ指標の作成を提案する。以下,ライスカヤ等に
融領域の接点の無いことを証明していると述べる・
よる代替インフレ指標を検討しよう。
先にみた,⑬通貨供給量M2であるが,ここ
「… インフレは,消費財需要(CPI)や現
でも5期遅れて相関係数が最大値O・ 644を示して
実の部門(主要な価格形成要因)や金融部門(信
いる。CPIとM2はお互いにタイムラグをもっ
用債務総額)の領域に存在するいくつかの価格形
て影響し合っており,悪循環が生じていることが
成過程の統一体である。これらの側面すべてを反
指摘される。
映するインフレ指標を計算するために,我々は集
以上の時系列分析は,CPIへの影響およびCPI
計インフレ指数(agregirovannyi indeks infliatsii)
からの影響の分析であるが,ライスカヤ等は,他
を提案するjeo。
の指標に関しても同様の分析を行った上で,次の
このインフレ過程全体を捉えることを目的とす
ような判断を行う。
る「集計インフレ指数」については,国家統計委
員会の物価統計担当者であるガリャーチヴァも次
移行期のロシア経済の状態と関連し,CPIに反
のように述べている。「… ロシアの物価統計
映するインフレ過程は,局所的な性質を持ち,需
要インフレとのみ関連する。その他に,生産者が
に,インフレ過程の特徴を示す集計された物価指
消費財部門に依存して価格を修正するという状況
数が現在ないことを考慮すると,インフレ過程全
も存在する2S。さらに,未払いや疑似貨幣手段の
体を示す指標(最終支出物価指数)の方法論の立
増大として隠れた形で現れるコストインフレも存
案が一つの課題である」㈲。
在する。
推計のための指標として,再生産の循環全体を
こうした判断にもとづき,彼等は,ロシアにお
考慮するためとして,①消費者物価指数,②工業
けるインフレ過程を3つの側面から捉えべきと主
製品生産者価格指数,③貨物運輸料金指数,④基
張する。①消費財部門での「需要インフレ」,②
本建設価格指数,⑤信用債務総額が採用される凶。
消費財価格の変動により引き起こされる生産財部
ウエイトの計算式は,
門での「コストインフレ」,③企業の債務総額の
力
増大という形で現れる「隠蔽されたコストインフ
励=nノ=’n
レ」である?6)。①と②は開放インフレで,各種物
22(y
価指数により捕捉され,③は隠蔽インフレで,物
ノ=1i=1
価指数の対象外で捕捉されていない。
右辺の分子は,各指標どうしの相関係数行列の
② 集計インフレ指数
列和であり,分母は相関係数行列の全要素の合計
である(第3表参照)。
前節では,ロシアの移行経済の特殊性により,
ライスカヤ等は,代替指数のウエイトについて
価格の変動が歪められ,全般的な物価上昇として
次のように説明している。
㈲比較経済体制学会数量経済研究会での報告の際,こ
うした状況は,賃金インデクセーションなどの影響
から説明すべきではという指摘があった。また,相
関係数の分析から因果関係を説明するのには無理が
「このように,各指標と他のすべての指標との
eORaiskaia, Sergienko & Frenkel’ (1999, No.9) p.22.
あるのではとのコメントもあった。
e8)Goriacheva (1999) p.35.
ig6)Raiskaia & Frenkel’ (1997, No.4) p.43, Raiskaia,
Sergienko&Frenke1’(1997,No.10)pp.48−9など。
㈲ライスカヤ等は,1996年の時点では,指標の中に総信
発表時期により彼等の見解に変化が見られるが,こ
こでは筆者の判断でまとめた。ライスカヤ等は,②
は「コストインフレ」のようにみえるが,実際は,
消費者価格の変動により引き起こされると判断し,
との理由で推計から外されていた(Raiskaia,
用債務高増加指数を含めていない。また,主要生産
向け原料の企業購入価格指数が含まれており,工業
製品生産者価格指数は,他の指標と相関関係が高い
Sergienko, Frenkel’ & Goriacheva (1996) p.23)o
「擬似コストインフレ」と呼ぶ。
一19一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
第3表相関係数行列
Σ
①
②
③
④
⑤
①資源購入価格指数
1,000
0,592
0951
0,835
0,656
4,034
0,209
3,083
0,262
A貨物運輸料金指数
O,592
P,000
O,664
O,480
O,623
R359
O,174
Q,695
O,229
S,274
O221
指標
曜
Σ一③
曜
B工業製品生産者価格指数
O,951
O,664
P,000
O,903
O,756
CCPI
O,835
O,480
O,903
P,000
O,699
R,917
O,203
R,014
O,256
D基本投資価格指数
O,656
O,623
O,756
O,699
P,000
R,734
O,193
Q,978
O,253
19,318
1,000
11,770
1,OOO
(備考)
Raiskaia, Sergienko, Frenkel’&G。riacheva(1996), pp.23−4.1996年の時点では,指標の中に総信用債務高増加指数
は含まれていない。
相関係数の合計が,行列全体の係数の総計と関連
の利用から得られる以上のものが,新たな代替指
付けられる。相関係数行列はすべての指標問の相
標を利用することから得られているとはいえない。
関関係を表しているので,得られた彫の値は,
4.地域別物価水準の比較
集計インフレ指数の値全体に占める各指標の比率
を表現していることは明白である」⑳。
しかし,ウエイトの計算式についてのこの説明
広大なロシアでは,地域ごとの物価水準に関す
内容は疑問である。また,各指数の値を加重平均
る統計が重要であり,地域分析のために不可欠で
する際に使用するウエイトの値に大きな差がない
ある。ここでは,地域別物価統計について地域間
ために,結果的に,集計インフレ指標は,推計に
比較にしぼって触れておく。
使用した指標の算術平均に近似する。
この地域別CPIは,連邦のCPIと同じ方法で
推計された集計インフレ指数を第3図に示して
算定され,対前年同月比,対前月比で公表され
おく。
る。当然ながら,この指数の比較により,地域間
以上のライスカヤ等の見解には,一方で,先進
の物価変動の較差をみることはできるが,物価水
国の経済運営や統計制度に対する過大評価,他方
準そのものの較差をつかむことはできない(第4
で,自国の経済状況や統計制度,各種価格指標の
・5図,第4表)。
有効性への過度の悲観がみられ,それが,代替指
地域間の物価水準の違いを捉える指標として
標の提案へとつながっている。CPIが捕捉してい
は,最低生活費(prozhitochnyi minimum),主要
ない物価変動の領域について,独自の指摘がなさ
食料品!9品目価格,主要食料品25晶目価格が制約
れている点,また,ユニークな指標の推計方法な
つきながら代用されてきた㈹。
ど,様々な物価指標の研究の中での一つ試作品と
この主要食料品25品目価格の動態と連邦CPI
みるならば興味深い。彼等の代替指標を検討する
の動態は,驚くほど近似しているB2)。
ことは,従来,先進国でなされた手法とは異なる
2000年から,ロシア統計委員会は,主要食料品
角度から,ロシアの現行CPIの有効性を吟味す
25品目価格に代わって,最低食料品価格
ることにもなった。とはいえ,統計の整備と代替
(stoimoct’ minimal’nogo nabora prodyktov pitaniia)
指標の研究は別の領域と考えねばならない。この
を公表しているB3)。この指標は,男子労働力人口
指標自体は,消費者物価指数やその他物価指標の
の消費バスケットに入る最低食料品の購入価格で
代替物にはならない。実際,既存の各種価格統計
あり,すべての地域が共通の消費量をもとに計算
(30)Raiskaia, Sergienko, Frenkel’ & Goriacheva (1996, No
(3ユ)ノレfeto(iologi(]hθsk1θ (1996) p.428,
12) pp.23−5, Raiskaia, Sergienko & Frenkel’ (1999,
(32)Tseny (1998) p.98, Tseny (2000) p.77.
No.9) p.20.
(33)Sotsialho−ekonomicheskoe (2000, No.5) p.133.
一20一
[鰐響蘇第21巻・第23号・2002]
第3図公式CPIと集計インフレ指数の比較(対前H比)
o/o
40
35
_ ■一 一
1
20
[
A
. 1ハ
A
F
1
[
一5
∼、
3
糠i
5
脳
一
﹄
ノ
10
十 1
1?
@ fノ
@ o算術平均
能
O 一ノ
一集計インフレ指数
■■
25
o
1
@ 一CPI
@ I
30
15
に.
『一 一〔 コ i
1_
1994 1995 1996 1997 1998
暦年
(備考)
Raiskaia, Sergienko&Frenkel’(1999, No.9)pp.22−3.算術平均はライスカヤ等が使用した資料をもとに佐藤が計
算。
される。2000年12月についてみると,ロシアの平
理的特異性等から生じる問題である。債務の未払
均最低食料品価格は749.9ルーブル,従来の指標
い,バーター,ドルでの取引など,ルーブルが排
である主要食料品25品目価格は635.9ルーブルで
除された取引が広範に行われ,一国の価格体系を
あった。また,CPIと比較すると,対前年同期比
複雑化している状況はまさにロシアの特殊な状況
で,平均最低食料品価格は!13.2,CPIは120。2
であり,こうした状況をどのように捕捉し,イン
で,これらの指標の動きには開きがみられる。
フレ指標に反映させるべきかという問題等はこれ
地域別の最低食料品価格を第6図に示す。
に入る。
物価統計に常に付きまとう問題は,各種の価格
5.む す び
統計調査から利用まで含め統計制度の至るところ
に散見される。もちろん,これらには継続的な改
以上,ロシアにおける物価統計改革を消費者物
善作業以外に対処法はない。
価統計を中心にみてきた。最後に,ロシアにおけ
前者には,臨機に対応することが要求される
る物価統計の整備という課題について,筆者の考
が,その場合も後者への取り組みを怠っていて
えを述べて本稿を締めくくることにする。
は,対応はおぼつかない。この意味でロシアの統
ロシアの物価統計に関しては,移行期にあるロ
計改革に要求されているのは統計制度そのものの
シア独自の問題と,どの国においても物価統計に
地道な整備であり,それは,まだまだ時間を要す
絶えず付きまとう問題を分けて考える必要がある。
ることになろう。その過程で,統計に対する過信
ロシア独自の問題とは,統制経済の遺産,市場
経済の統計制度を導入してからの経験の浅さ,地
あるいは軽視も減ることが望まれる。
一21一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
第4図地域別CPIの動き
第5図地域別CPIの動き
1991年正2月=1とするときの各年12月のCPI
1991年12月=1とするときの各年12HのCPI
し
@ 〃
ヂノ“
i
1,000
〆鵜
4
影
?m
@陽..
I〃膠.
z
グ
●
’ナ
’
全ロ“
ア
100
瀦
4,000
Iノ、
多 ≠
、1、、 膨
@1/1 〃
@ 1
ろ
閧
’
彦鐵 蓬1霧、一遍.
ノ! i 詠が↑
A筋∫11ノ
6,000
’
/
仁舟
P匪鰯
/
1i 言/州ノ ∼
レ
ノ
/ノ
10,000
属嬬
8,000
カムチでッカ州
ソ嚢蕩/‘膨
1!/
i!’ ’’’
10,000
’,’,’,’,’,
@ 1
12,000
10
一 ヒ i
2,000
●全ロ
1
!
カ
1
ムチャ bカ州
‘’’
14,000
1
対数目盛
⋮−一
倍
100,000
彊
16,000
二夢
1
91 92 93 94 95 96 97 98
91 92 93 94 95 96 97 98
(備考)
Goskomstat Rossii,κ卿加y 1君05訪(yearly).グラフ化した地域(連邦構成主体)数は79。
第4表地域別CPIの変動係数の動き
1992
1993
1994
1995
!996
1997
1998
①全ロシア平均(公表値)
26.1
245.3
785.1
1805.7
2199.3
244L3
4501.7
A79地域の平均(筆者計算)
Q5.3
Q55.9
V78.7
P843ユ
Q271.8
Q537.7
S372.1
P002.0
P120.5
P847.6
O,441
O,442
O,423
Bσ(②より計算)
@6.6
P06.4
R27.6
V8L8
C変動係数(③/②)
O,262
O,416
O,421
O,424
(備考)
Goskomstat Rossii, Regiony Ross17(yearly)より計算。 CPIは1991年12月;1とするときの各年12月の値。1993年以
降、変動係数の変化は僅かである。
一22一
[鰐経済諜第21巻・第2’3号・2002]
第6潮煙部別最低食料品価格(2000年12月,79地域)
○中央地域
ベルゴロド州
1
﹁M
ブリャンスク州
ヴラジーミル州
ヴォロネジ州
圃
幽
イヴナノヴォ州
㌦II
カルーが州
コストロマ州
聞
劃
オリョーノレリ馴
四
リャザン州
スモレンスク州
㎜唖⋮
クルスク州
リペツク州
モスクワ州
盟
タンボブ州.
トヴェリ州
トゥーラ州
ヤロスラブリ州
魍
1 .
モスクワ市
耀
O北西地域 カレリア共和国
川
コミ共和国
アルハンゲリスク州
II
ヴォログダ州
酬け司鵬1
カリーニングラード州
レニングラード州
ムルマンスク州
1ー
ノヴゴロド州
プスコフ州
サンクト・ペテルブルグ市
アディギア共和国
○南部地城
ダゲスタン共和国
晒帽朗1
…
隼.
姻
幽
劃
聾
ー .
幽
﹂
イングーシ共和国
カバルダ・バルカル共和国
カルムイキア共和国
カラチャイ・チェルケス共和国
北オセチア・アラニや共和国
クラスノダール地方
スラヴローポリ地方
アストラハン州
ヴォルゴグラード州
ロストフ州
○沿ヴォルガ地域バシコルトスタン州
マリ・エル共和国
モルドヴァ共和国
タタルスタン共和国
ウドムルト共粕国
チュヴァシ共和国
キーロフ州
ニジエゴロド州
オレンブルグ州
ペンザ州
ペルミ州
サマーラ州
サラトフ州
ウリヤノフスク州
○ウラル地域 クルガン州
スヴェルドロフスク州
チュメニ州
U
雌
チェリャビンスク州.
○シベリア地域 アルタイ共和国
ブリャーチア共和国
トゥヴァ共和国
バカシア共和国
アルタイ地方
クラスノヤルスク地方
イルクーツク州
劇
⋮1
亜
闘
脚
ケメロヴォ州
ノヴォシビルスク州
オムスク州
トムスク州
Uー
チタ州
サバ共和国
プリモーリエ地方
ババ.ロフスク州
酬船=網酬1
ー
﹁ 寺
︻一
アムール州
カムチャツカ州
マガダン州
サハリン州
ユダヤ自治州
1階1
麟卵理μI F
○極東地域
1
O ・ 200 400 600 800
1000
1200
1400
ルーブル
(備考)
Sotsiaノ,no−eをonomichθsをoe polと)zhenie Rosstf (2000, No.12)PP.356−7.
一23一
ロシアの物価統計改革一移行経済下の消費者物価統計
Rossii, Moscow (monthly).
参考文献
[14] ’r , TsenY v Rossii , Moscow (ye arly) ,
[15]Ikes B..(1995),“In刊iatsiia v rossii:yroki dlia
[1] Afanas’ev.M., O. Vite (1995), “lnfl’iatsiia
・reforrnatorov,’i Voprosy ekonomiki, No.3, pp.22’
izderzhek i finansovaia stabilizat.siia,”・ Voprosy
33i
ekonomiki,No.3, pp.45−53.
[.16] lllarionov A. (1995), “Priroda rossiiskoi
[ 2 ] Belousov D., A. Klepach (1995) , “Monetamye
infliatsii,” Voprosy statistiki , No.3, pp.4 rm 2!.
i nemonetarnye faktory infiiatsii y rossliskoi ekonomike
[17] Raiskaia N. (1996)., “Vremennye lqgi v
v 1992−1994 gg.,” Voprosy ekonomiki, No.3,
pp.54=62.
dinamike infiiatsii,” Voprosy ekonomiki, No.8,pP.73
[3] Faber C., H. G. Strohe (2000), “Consumer
−9.
prices in Russia and transforming official statistics”,
[18] Raiskaia N., la. Sergienko, A‘ Frenkel’, 1.
in:Rθ卿・加’ng・5励肋㎎紐d M・面忽’㎎功・
Goriacheva (1996), “Agregirovannyi . indeks−
八lew.Ru∬ia,ed. by Welfens PJ.J./.Y. Gavrilenkov,
effektivpyi ・izmeritel’. infliatsii,” VoprosLy statistiki,
Springer, pp.223 m 41.
No.12,pp.22−5.
[ 4 ] 一 (2000) , “Official statistics in Russia and
[19] Raiskaia N., A. Frenkel’ D(1997)., “Analiz
measurement of the crisis−some remarks on Russian
vremennykh lagoy infliatsionnogo protsessa,”
price statistics’T, in: Restructuring, Stabilizing and
Voprosy statistiki, No.4, pp.39L43.
Modernizing the IVew Russia , ed. by Welfens P.J.J. /
[20] Raiskaia N., la. Sergienko, A. Frenkel’
Y. Gavrilenkov, Springer, pp.472−5.
(1997),” lssledova’
[5] Gol’dina, L., E. Prokunina (1996),
usloviiakh perekhodnoi ekonomiki,” Voprosy
“Sovershenstvovanie metodologii nabliudeniia za
ekonomiki , No.10, pp.41−51.
tsenami na tovary i rascheta IPTs y Rossiskoi
[21] 一 (1997), “Osobennocti infliatsionnykh
Federatsii,” VoprosLy staiistiki, No.3, pp.53−60.
protsessov na regional’nykh potpebiteltskikh. rynkakh,”
[6] Goriacheva, 1. (1998), “Postroenie indeksa
獅奄?@infliatsionnykh protsessov v
Voprosy statis.tiki , No.10, pp.23 L 8.
potrebite17skikh tsen v u’sloviiakh vysoko i
[22] 一 (1998), “Regional’nye qspekty
(zamedliayush’eisia) inflyatsii,” Voprosy statistiki,
infliatsiQnnykh protsessov,” Voprosy statistiki, No・
No.2, pp.3L6.
10, pp.3−14.
[7] Goriacheva, 1. P. (1999), “Primeniaemye
[23] 一 (1999) , “Al’ternativnyi podxod v otsenke
metody statisticheskogo nabliudeniia 4a urovnem i
infliatsii,” Voprosy statistiki, No.9, pp120−5.
izmeneniem tsen ・na tovary i uslugi v rossiiskoi
[24] Riazanova M., S. Ulanova, 1. Goriaeheva
federatsii,’i Voprosy’statistiki, No.11, pp.32−5・
(1997), “Uroven’ i dinamika potrebitel’skikh tsen i
[8] Goskomstat Rossii (1995),” Polozhenie d
tarifov na tov’ary i uslugi regionakh rossiiskOi・
poriadke nabliudeniia za izmenenie tsen i tarifakh na
federatsii,” Voprosy statistiki,No.7, pp.41r58.
tovary i uslugi, i oprededeniia indeksa potrebitel’skikh.
[25] Zarova, E., N. Prozhivina (1997), “O
tsen,” Voprosy ekonomiki, No.12,pp.73’r81.
regional’nykh faktorakh rossiiskoi infliatsii,” VoproSY
[9] 一 (1996), Metodologicheskr’e polozheniia
5麹が8磁,No.10,pp.16−22.
[26]岡田進(1998)「ロシアの体制転換 経済危
po statistike , vypusk pervui, Moscow.・
[10] 一,’ Finansy Rossii, Moscow (year}y).
機Q構造』日本経済評論社。
[11] ,Rossiia v諭協欲力,MoscQw(yearly).
[27]佐藤智秋(1994)「ソ連末期における物価統
[!2] 一, Regiony Rossii,Moscow (yearly).
計」鶴田満彦編著「現代経済システムの位相と展.
’[!3] 一’ C Sotsialho=ekonomicheskoe polozhellie
開』大月書店,pp.225−39.
一24一
[愛媛経済論集 第21巻・第2 3号,2002]
[28] (!998)「価格体系と物価水準」ユ
_ラシア研究所編『情報総覧 現代のロシア』大
空rl土, PP・214−7・
[29]栖原学(1997)「ロシアのインフレーショ
ン」日本大学経済学研究会「経済集士』第66巻第
4一号, PP.131−42・
[30]田畑伸“郎・佐藤智秋・石川建(1999)「地
域における統計作成の実状一物価統計と就業統計
を中心として一」北海道大学スラブ研究センター
『ロシアの地域間の資金循環(1)』(スラブ研究
センター研究報告シリーズNo.65), PP.1−16.
(以上)
一25一
Fly UP