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まちなみ

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まちなみ
まちなみ事業計画の実際
義鋸 窄牌一一轍霧憾轍「爵掘一露.レ贈.究.門購認
敷地、まちなみ.コミュニティをつくる
まちなみ設計と一建築設計事務所の取り組み
アーツ&クラフツ建築研究所代表
前園百合子
そんな中で、建築設計に携わっている者なら当然思い
当り前のことだが、建築は「敷地」の上に設計する。
つく提案を、現場で実現できないかと思いながら、現在
敷地の外を設計することはできない。たとえば、敷地の
までまちなみ設計に係わり続けている。
外の道路が殺風景でも、「舗装をピンコロにして、プラ
住宅等の建築設計の業務以外に、まちなみの設計・計
ザのようにする」ことはできないし、隣…の建物に「街並
画に関連して、これまで私たちの事務所は次のようなさ
みに合わせましょう」と協調を促すこともできない。そ
まざまな業務を受託してきた。
の敷地がひな壇造成地だったりした場合には、「樹木を
1)街区の土木設計(道路・造成・上下水・公園等)
残した敷地だったら」と思っても、造成された土地を元
2)住宅建設ガイドライン作成
に戻すことはできないのである。
3)各種建築協定の作成および審査
建築の設計に携わって10年くらい経った頃、住宅都市
4)統一外構設計
整備公団(現UR都市機構)に勤務する大学の先輩を訪
5)電線類の地中化設計および協議
ねた縁から、千葉ニュータウン事業部の「中央駅至近の
6)住宅地の販売計画および実施
5haの土地にモデルとなる戸建て住宅地をつくる」と
7)コミュニティ活動の企画
いう企画にたまたま参加する機会を得た。それまでは、
これらは通常では、建築設計事務所、土木設計事務所、
まちなみ設計そのものの存在すら知らなかったが、これ
広告代理店、企画会社などに分業される、まちなみ事業
が私の、戸建て住宅地すなわち「まちなみ設計」の世界
全般にわたるものである。
に飛び込むキッカケとなったものであった。
そこで、私たちのような小設計事務所どのようなかた
単体建築設計にはないこの仕事の面白さは、①敷地を
ちで係わることができたのか、私たちが関わった実際の
つくる②まちなみをつくる③コミュニティをつくる、
プロジェクトをもとに紹介していきたいと思う。
この3点に尽きると言える。何ヘクタールもある土地に
道路、公園や緑地、住宅(規模によっては集会所等)を
配置する。真っ白いカンバスに「まち」を描いていく感
道路の設計要素は、線形、延長、幅員、舗装仕様、植
覚である。住宅の密度や緑の配置、道路の線形でまちは
栽、ストリートファニチャである。線形は敷地の配置す
かラリと表情を変えるのである。
なわち住宅の配置に影響が出てくるので、まちの表情づ
当時、まちなみの設計に拘わっている建築家として、
くりの重要な要素である。道路形状が一般的な直線であ
故宮脇檀氏や藤本昌也氏らのいらっしゃることは知って
るのと曲線とでは、道路沿いの景観が大きく異なってく
いたがそれも少数派で、大部分は土木設計事務所や都市
るのは容易に想像できるであろう。しかし、曲線とする
計画事務所のフィールドであった。この状況は今もあま
場合でも、方位、地形、排水などを十分考慮しなければ、
り変わっていない。乱暴な言い方をすれば、道路や公園
宅地の利用価値が低下する場合もある。
の計画が主で、敷地は羊奨状に残した土地を数坪に切っ
幅員はコミュニティの形成に影響を与える。幅員が4
てでき上がり1 敷地内は建築屋さんにバトンタッチし
m以下では道路両側の住宅が俗にいうヒューマンスケー
て終わりという感じである。
ルな空間をつくり、近隣同士の触れ合う機会も多くなり、
家とまちなみ54〈2006.9>
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自然とよいコミュニティが育まれる。また、住戸入ロ前
に、計画案は他の設計者に引き継がれるという、建築界
や道路の一部に広場状の空間をつくることができれば、
では考えられない事態で私は外されてしまった。
道路が車専用の空間から、ときには子どもが遊んだりす
■初めて実現された街区基本計画
ることができる空間へと変換させることができる。舗装
一道路、道路内植栽の管理に工夫
仕様も道路を広場化するのに効果的な方法である。
ハーモニーフォレスト(福岡県前原市1999)
■道路を工夫する一初めてのまちなみ設計体験
これは、前述のハーベストコート・7の道路のコンセ
ハーベストコート・7(千葉県白井市1994)
プト(宅地を配置した余り空間が道路)が実現できたも
これは私がまちなみ設計に結びついた最初のプロジェ
のである(写真1)。先の件で意気消沈していた私たちに、
クトで、冒頭に述べた飛び込み訪問で参加することにな
当時の九州支社長がその案を評価してくださり、声をか
ったものである(図1)。道路の設計が先にありきではなく、
けて下さった。
イタリアの山岳都市やミコノス島の集落、神島の漁村集
幅員が不定で所々に溜まり空間や高木が植わってる道
落のような、住宅が建って余った空間が道や庭になった
路「ふくらみボンエルフ」(と命名)だけでなく、道路
ようなまちを、歴史のないニュータウンの中につくるこ
の宅地沿いに専有庭と一体となった植栽帯(道路用地)
とを夢想した。
を設けて、見かけ上の宅地の広がりの確保と、植栽管理
道路は、直線が基本で幅員といえば一定幅員6mのこ
とを指し、舗装は黒のアスコンで、側溝はコンクリート
の誘導(まちへの愛着心)を狙い、緑地の保全にも配慮
した(図2)。
ニ次製品など、すでにある程度のことが通例として「な
住宅地の設計は土木設計となる。内訳は、「道路設計(線
んとなく」決まっているが、私は、そのように了解され
形、横断、縦断、構造物)」「造成設計(擁壁も)」「供給
ている課題をひとつずつバラバラに分解して、新たな説
処理施設設計(上水・排水・電気・ガス)」「植栽設計」「そ
明をしていった。たとえば、「幅員が一定」については、
の他(ゴミ置場等の工作物)」がある。内容は建築設計
都内の区道など公道でも一定ではないことを根拠に見直
し、「交差点が直交していないと緊急車両の通行に支障
がでる」ということについては、所管の消防署に問い合
わせて必要な車両寸法を聞き、その最低限の軌跡を描い
て説明するなどである。この手法は有効だったが、相手
にはかなり嫌われてしまう。じつは「なんとなく」の裏
には測量、作図、求積などに手間がかかることを避けよ
うという雰囲気があることはわかっていた。
企画がすんなり通ってから2年間、実現に向けて行わ
れた協議(警察、道路移管、企業庁、公団内部の販売部
門)でも、私の案は評価をいただき「是非つくろう1」
写真1ハーモニーフォレスト。ゲートから見たまちなみ
と夢のような賛同を得ていたが、公団の人事異動3回目
、渓\ここ∼
⑦愈
図1ハーベストコート・7企画案
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図2ハーモニーフォレスト。「ふくらみボンエルフ」のある街区
まちなみ事業計画の実際
と同じで、「基本設計」「実施設計」「工事監理」と段階を
題点を知ることができたので、行政と住民双方に最善の
踏む。
方法を提案することができたためと考えている。調査に
基本設計については、教科書があっても難解なので、
基づく提案の有効性を証明するように、植栽の移管協議
土木設計者に聞いたりして、勉強しながらなんとかこな
はスムーズに了承が得られた。
すことはできたが、実施設計は細かな専門的知識と、専
余談であるが、植栽帯の世話の程度で、その家の花好
用のコンピューターソフトがなければ無理なので、業務
き度が覗えるというオマケも楽しめた(r家とまちなみ』第
は公団より受注(元請)したが、地元の土木設計事務所
40,41号に報告)。
の協力を得て作業することになる。
■街区設計から販促業務まで 裏庭を工夫
ネックとなるのは、行政への道路の移管である。最終
桜の郷(茨城県水戸市近郊2003)
的に行政に移管することができなければ、共有地として
これは、コミュニティの中心を道路ではなく裏庭にし
道路および埋設管は住民自身が管理しなくてはならない
た計画で、茨城県のモデル事業として実施されたもので
ので大変である。
ある。英国のレッチワースのような空間実現に、タウン
第1のハードルは、公団の内部会議で工事課の了解を
ハウスの手法を住宅地に導入し、道路もボンエルフ道路
得ることで、施工性や耐久性を優先させる工事課と景観
にすることができた(図3)。
性を謳う事業課(私たちへの直接の担当課)との綱引き
通常では、通路の機能を持つ裏庭は共有地がほとんど
である。アスコン舗装やコンクリートニ次製品のL型側
である。理由は行政が移管を受けない、あるいは移管が
溝にしたい工事課に対して、多少の施工手間がかかり修
前提だとどうしても整備内容に注文が出てくるので自由
繕も大変で、コスト高ではあるが、レンガブロックの舗
に設計することができないからである。しかし、マンシ
装や皿型側溝にするとこんなに景観性が増して販売上有
ョンやタウンハウスのように戸数密度が高ければ持分も
利(地区全体の市場性が向上する)になるなどの理由を
少なくなるが、戸建てでは戸当たりの負担(販売価格、
あげて説得していくのである。
固定資産税、管理費用)が大きく、それが課題(販売、
次のハードルが本番の道路管理課(行政)である。一
維持管理)となる。
般的に言えば、「全国で初めての例」になりたくないの
そこで、裏庭を街区公園(2つに分断)と緑地の2種
が行政の常なので、先行事例があることが最も有効な説
類でとることを考えた。街区公園は移管なので内容につ
得材料となる。そのため、先行事例の情報収集に力を入
いては行政と協議して、遊具は置かずベンチ・芝生・落
れることになった。行政の意向をお伺いするというスタ
葉高木(どんぐりの木)だけの空間とする。特記すべき
ンスが一般的なので、説得の熱意と事例説明の資料で武
は、隣接住宅との境界にフェンス設置をやめて潅木植栽
装して頑張ることになる。そのときの詳細は忘れたが、
のみとし、各戸から公園に直接出入りできる勝手口を設
責任を取るかどうか詰め寄られたり怒鳴られた
こともある。ありきたりのものではなく、今ま
でと違う試みを実現しようとするときは、いま
でも必ずと言っていいほどこのような壁が立ち
はだかる。
道路内植栽帯の管理は、勇定など住民
の手に負えない高木のみ市の管理(管理
協定締結)とし、草取りや、花の植替
え等の楽しみのある潅木・地声帯(底
地は市、植物のみ共有物)は住民の管
理(管理組合・管理規約)にするなど
一工夫している。これも、全国の工夫
された住宅地の調査を行い、管理の問
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けたことである。また、緑地は底地を移管し(販売価格
と固定資産税の対象外)、管理のみを隣接住戸で行なう
敷地づくりはベースとして重要なものであるが、言う
ようにした。住民の金額的な負担を可能な限り低くし、
までもなく、その上にできる住宅も良くないと良いまち
気の合った隣家同士のバーベキューや幼児の遊び場とし
なみはできない。そのまちなみの主な設計要素は、住宅
ての利用の楽しみを確保することがねらいであった。
(戸建て、アパート)、外構・植栽、電柱である。
業務は県からのもので、設計と併せて販売まで一貫し
住宅も外構・植栽も、1棟だけの設計とは違い、連続
て受注(元請)した。ちょっと変わっている点は、県と
した複数戸となるので、全体のコンセプト、統一感や調
いっても高齢福祉課が発注者でまちづくりはまったく始
和が必要である。さらに、統一が行き過ぎて画一的にな
めてだったことである。専門職も土木技術者が1名いる
らないように、複数のビルダーの参入、建設時期、規模、
だけで他5名は事務職であった。彼らが国土交通省関係
供給方法(建売り、売立て、更地分譲)……、いろいろ
者に適任の設計者候補選出を依頼し、推薦された2名が
な条件への対応が必要となる。
出した企画の中から、私たちの案が採用されたのである。
事業センスも必要で、ちょっとしたデベロッパー気分
発注者の経験から、何をどう進めたらいいのか、決め
になる。当然、全ての住宅や外構の設計を自分たちでは
なければならない事項、予想される課題など、事業の進
行うことはできないので、ルール(建築協定、建設ガイ
め方から説明しながら作業を進めていくことになる。公
ドライン)づくりが主体となる。また、アパートがある
団事業とは異なり大変だったのは、県のモデル事業であ
場合はその扱い(立地、デザイン、外構)も頭が痛い問
るため知事の承認を得ないと計画案が決められず、肝心
題である。
の知事との面会が結構難しいことであった。また、販売
電柱は柱だけでなく、クモの巣状の電線や支線・支柱
用のパンフレットや折込チラシ作成時も、初めて経験す
も見苦しいものである。そのため、架空供給(電柱と電
る担当者たち全員の合議制で決めていくので、校正ギリ
線によるもの)の基準を十分に知ることによって少しで
ギリの夜中に修正の電話が入ることもしばしばであっ
もスッキリさせる努力を払うか、いっそのこと地中化す
た。そんな県単な苦労は多々あったが、担当者チームの
るかの選択がある。地中化も通常方式(道路内埋設)で
まちづくりに対する熱意は高く勉強熱心だったので、こ
は、戸当たり200万円前後と高額になってしまうが、私
ちらの提案を着々と組織の中を通してくれたことによっ
が辿り着いた方式(低圧宅内埋設)では、戸当たり30万
て、このまちが誕生した。
円前後と安価に抑えることができた。
、必ゴ
ゴー
楓
ー
ノf
,’∼’
図4スウェディッシュガーデン・ひばりが丘街区図
12
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叢譲嬢蒸源2鶏
■街区設計から電線類の宅内地中化を工夫
スウェディッシュガーデン・ひばりが丘(東京都西東京市2003)
これは1,000坪の地主(個人)がまちなみに配慮した
開発を希望したために実現したものである。マンション
と戸建て住宅地(10区画)の配置、整備内容、まちなみ
デザインについての私たちの企画が採用され、マンショ
ンの基本設計を地主から、戸建て住宅地の造成設計・開
発許認可業務、外構設計、地中化設計、住宅の外観指針
作成をスウェーデンハウスから受注した。電線類の宅地
内埋設(低圧宅内埋設、管路等の所管は土地所有者)が
実現した全国で初めて事例である(図4「家とまちなみ』第
写真2船橋美し学園。テラスハウスのまちなみ
48号に報告)。
この電線類地中化の協議には多くの時間が割かれた。
並行して開発許可協議も行っていたこともあり、2ヶ月
つくづく感じている。
間は週に3日のべースで、東電、NTT、 CATV、市(道
■建築指針の作成・審査からNPOと協力したまちなみづくり
路、上下水)、合同庁舎に飛び回って、他の仕事がほと
船橋美し学園(千葉県船橋市2004)
んどできない状態が続いたものである。
ここでは、地主(複数)の土地活用を任されている
東電の対象地の所管の支社で内容を説明し、2、3週
NPOに協力して、駅前センターも含めた地主の土地(計
間後に回答するとの常套パターンの返事をもらうところ
15ha)のまちなみガイドラインの審査(戸建て住宅、ア
がらスタートする。しかし、回答は不可。再度説明に行
パート、診療所、店舗等)と外構設計(国里)、地中化
く。さらに、他支店の方に説明に同行してもらったり、
設計(裏手柱も含む、地中化はひばりが丘と同方式)に
協議先を上位組織の支店に変更してもらったり、他支店
ついて面的に係わっている。とくに、まちなみづくりに
長から援護の電話を入れてもらったり……、あの手この
不可欠なアパートの立地誘導と外観デザイン・外構設計
手で、やっと「検討する」という回答をもらう。
の3点セットで美しくまとめることができたと思ってい
この検討が始まって後は、管路等の設備の担保性が大
る(写真2)。
きな焦点になる。つまり、将来、自分の庭先に設備が入
また、一部の個別建物の設計も併せてやらせていただ
っているのは承服できないから道路に出して欲しいとい
いている。設計者はガイドライン審査だけでは欲求不満
う人が絶対でないようにしたい、というのが東電担当者
になってしまいがちであるが、ここではガイドラインで
の言い分。共有物件にするだけでは不足なので不動産登
は書ききれない意図を込めてまちなみのランドマークを
記してほしいとか、区分所有法は分割請求できないけれ
数多くつくる機会が得られている。
どマンションしか適応されないのではとか、建築設計事
苦労したことといえば、地主の信頼を得ることであっ
務所の知識では到底対応できるものではなく、不動産に
たろうか。初めに第1期戸建ての住宅展示場(8戸)と
詳しい専門家に協力してもらって対処することになる。
テラスハウス(4棟16戸)の統一外構設計と電線類の地
東電の担当者も毎晩寝る前にマンション区分所有法の解
中化設計をやらせていただいたのであるが、まちなみを
説本を読んで勉強したと聞いたが、私たちだけでなく彼
美しくつくると販売にも効果があることを理解していた
らにとっても苦労がかかる協議であったようだ。
だき、それらの評価で仕事が続いている。
そこをやっとクリアしたので、あとはスムーズかと思
■建物と外構でできる3戸のまちづくり
っていたが、その後も似たり寄ったりの大変さが続き、
つくば二の宮(茨城県つくば市2006)
お陰で電気設備関連の法律や基準、コストの知識を身に
これは、地元工務店が打ち出した「小さな街づくりプ
つけることができた。しかし、知識があっても協議がう
ロジェクト」の第1弾として実施する3棟の建売住宅で
まくいくわけではなく、やはり関わる「人」が大切だと
ある。つくば駅前から歩ける好立地にあるが、周囲環;境
家とまちなみ54〈200ag>
u3
蝦鴎
馨.
写真3 「小さな街づくりプロジェクト」つくば二の宮
写真4 「ユアーズ倶楽部」パンフレットから
が良好とはいえず更地分譲が苦しいのでまちなみを商品
民参加型の宅地分譲」の企画である。道路形状や面積が
にすることにしたプロジェクトである。
オーダーメイド、もちろん住宅も注文住宅である。日経
2宅地が敷地延長(旗竿)、さらに周囲環境が劣悪と
新聞のトップに記事が掲載されるなど話題を集めた(r家
いう条件を逆手にとって、外に閉じ内に開く中庭の空間
とまちなみ』第45号に報告)。
を3戸の建物と外構でつくりだすことを企画した(写真3)。
私たちはここで、街区の基本設計から販売促進、コミ
道路設計が必要な規模だけがまちづくりではなく、宅
ュニティを育むツールとしてのホームページの制作・運
地割りと住宅と外構のみでもまちづくりができる身近な
営まで参画している(写真4)。
例である。既成市街地では相続等によって大敷地を分割
そもそもは、発注者(公団)から、モデルとなる住宅
するケースも多いので、このような計画の需要は今後も
地をつくって欲しいと依頼を受けた。無論、モデルとは
増えるのではないかと思われる。この工務店でも、今後
時代のニーズに相応しい提案のあるものであるが、公団
このようなまちづくりプロジェクトを展開をしていく予
の立場としては、売れれば何でもいいという発想だけで
定と聞いている。
はダメで、社会的に意義のあるものが求められた。
この時期は不動産市場も冷え込んでいて、対象地の立
地も悪く、単に美しいまちなみができたからといってす
まちづくりの究極目標は、コミュニティづくりといえ
ぐに売れる保証はなかった(つまり先行工事はリスキー
る。ニュータウンの開発では、住宅地としての歴史のな
だった)。そこで、対象地の魅力のひとつである自然に
い真っ白な「まち」に越してくる人たちに、毎日の暮ら
溢れた別荘風なロケーションと低価格を生かした、宅地
しが楽しくなるようなコミュニティづくりのキッカケに
づくりからオーダーメイドのまったく新しい住宅地が提
なるしかけをつくることは、建築家として、常に持って
案された。
いるテーマである。
今までにない商品と言えば聞こえはいいが、裏返すと
■新しいテーマの住宅地づくりを全体プロデュース
ユアーズ倶楽部(茨城県竜ヶ崎市2001)
売れるかどうかの保証はなく、不安も大きい。そのため、
これは茨城県の龍ヶ崎ニュータウンの一角に都市公団
きなかったので、建築設計事務所としては異例ながら、
が計画した住宅地であるが、あらかじめ土地にライフス
私たちが、販促関連業務まで手掛けることになった。
タイルのテーマ(古民家、シニアタウン、赤毛のアン、
具体的には、パンフレット作成、新聞広告記事原稿作
スウェーデン風)を設定して、建設前から購入希望者を
成、PRコーナー運営(西新宿アイランドタワー2F)、
募集してまちづくりの理解を深めてもらおうという「住
協力ビルダーのコーディネート、現地見学会、ホームペ
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P家とまちなみ54<200ag>
広告代理店を入れて膨大な広告宣伝費をかけた販売はで
調騨、輝.解騨馴.澗響饗淳 簿寒圏
ま.ちなみ事業計画め実際
・..
宦uゴ論 嘱無鋸「「総障・漁’扁㌃廊.意曜.・轟諦.
まだ周囲にお店が少ないので「私はいっぱい倶楽部に
顔を出すことにしてるの」と語る赤ちゃんを抱えた奥さ
んや、野菜の直売所で「坪井(当地区の地名)産だよ1
朝取りだよ1」と、食べてくれる人の顔が見える方が市
場に出すより嬉しいと語る地元農家の方々。
コミュニティづくりのアプローチにはいろいろな方法
があると思われるが、通常の建築設計にはない、まちな
み設計にかかわる設計者の冥利に尽きるテーマのひとつ
であると思う。
写真5 船橋美し学園。住民たちの活動風景
一ジ運営、友の会の運営などを行った。全てが初めての
ことだったが、自分がエンドユーザーで見たり参加した
りする立場だったらどうしたらいいかという視点で、新
聞広告やパンフレットを参考資料として集めてきて事務
所内で議論しながら進めた。イメージ写真のレンタル、
郵便物の料金別納、広告表現と公取、新聞広告の手配、
記者発表の手配、PRコーナー運営、事務機器等のレン
タル等、知らないこと馴れないことの連続であったが、
スタッフの奮闘もあり、なんとかこなすことはできた。
■コミュニティづくりへの協力、クラブ活動の立上げ
船橋美し学園(千葉県船橋市2004)
先にも紹介した船橋美し学園では、NPO主導で趣味
倶楽部をたくさん立ち上げることもお手伝いした。ハー
ドの施設主導型ではなく、人材主導型のソフトなもので、
地元農家(地主)、新しい住民、そしてまちで商売をす
る人が相互交流する仕掛けである。地域の人材の掘り起
しが、楽しい暮らしにつながると思われるが、早くも各々
の活動から有力な人材がニョキニョキ頭を出しているの
で今後も楽しみである(写真5)。
地主の土地をお借りしてビニールハウスをつくり、タ
ネから花を育ててまちを花いっぱいにする「お花倶楽
部」、地元農家の野菜の販売と地元料理の試食をする「野
菜倶楽部」、地主の有閑地を借りて芋や蕎麦をつくる「畑
作倶楽部」、このまちで仕事をする事業者が毎月1回ま
ちを掃除する「お掃除倶楽部」、まちの中にできたケー
キ屋さんと地元農家が開発したケーキを試食する「ケー
キ倶楽部」などである。
前園百合子(まえその・ゆりこ)
工学院大学建築学科卒業。1983年、
杉浦伝宗とアーツ&クラフツ建築研究
所を設立。以来、住宅から団地計画、
再開発ビルまでさまざまな建築設計に
携わる。6年前より個の建築に限界を
感じ、まちづくりの仕事に飛び込み現
在に至る。
家とまちなみ54〈2006.9>
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