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10 テイラー(マクローリン)の定理
第 10 回数学演習 I 10 テイラー(マクローリン)の定理 今回は,関数 f (x) が与えられたとき,f (x) を多項式で近似することを考える。これまでに, sin x = 1, x→0 x lim 1 ex − 1 − x = x→0 x2 2 lim などの極限を扱った。この式から,x = 0 の近くでは, sin x ∼ x 1 ex ∼ 1 + x + x 2 2 であることが読み取れる。これらの式の右辺はどちらも多項式であり,これらが今回扱おうとして いる “多項式による近似” の例である。一つ目は x の1次多項式による近似で,二つ目は x の2次 多項式による近似である。ここでは,さらに進んでより高次の多項式による近似も考えたい(一 般に,高次多項式による近似のほうが近似の精度が高くなる)。この近似を考える上では,次が疑 問点である。 • 近似多項式の定め方(つまり,多項式の係数をどう選んだらよいのか) • 近似多項式が元の関数をどれくらいよく近似しているのか(誤差の評価) これらに関して答えてくれるものとして,テイラーの定理が知られている。 定理 1 (テイラーの定理). f (x) = f (a) + f ′ (a)(x − a) + f ′′ (a) f (n) (a) (x − a)2 + · · · + (x − a)n + Rn+1 (x) 2! n! (10.1) この定理は,関数 f (x) を x = a のまわりにおいて1 多項式で近似していることを表している。 Rn+1 (x) は f (x) と多項式との間の誤差を表している項で,剰余項と呼ばれている。誤差項の表し 方は何通りか知られており,標準的なのはラグランジュの剰余項で, Rn+1 (x) = f (n+1) (a + θ(x − a)) (x − a)n+1 (n + 1)! (0 < θ < 1) と書かれる。次の点を強調しておく。 重要な点 : • θ は 0 < θ < 1 の範囲にある • どんな関数に対しても成立する普遍的な表現方法である 注意する点 : • θ は x の関数になっていて,その具体値までは分からない • 個々の関数に対してはもっと良い表現方法があることもある これらは誤差の大きさを計算する際に重要になる。その他の誤差項の表し方としては,コーシー の剰余項などがある。 x = a のまわりというのは,|x − a| が小さいことを意味している。|x − a| < 1 なら,右辺に出てくる (x − a)n は n が大きくなったとき等比級数的に小さくなる。 1 1 a = 0 のときには,定理 1 はマクローリンの定理と呼ばれる。 定理 2 (マクローリンの定理). f (x) = f (0) + f ′ (0)x + f ′′ (0) 2 f (n) (0) n x + ··· + x + Rn+1 (x) 2! n! (10.2) このとき,ラグランジュの剰余項は Rn+1 (x) = f (n+1) (θx) n+1 x (n + 1)! (0 < θ < 1) と書かれる。繰り返しになるが,θ は x の関数で,具体的な値は分からないが,少なくとも 0 < θ < 1 をみたすことは分かっているという点に注意せよ。 10.1 テイラー(マクローリン)展開 定理 1 において,x を,a の周りの適当な区間(たとえば |x−a| < R,すなわち −R+a < x < a+R )に制限すると,n → ∞ のとき,Rn+1 (x) → 0 を示すことが出来る。 −R + a • a R+a 図:x = a の周りへの制限 このとき,f (x) は次のように実数 a を中心とする整級数で表わされる。これを a を中心とするテ イラー展開という。 定理 3 (テイラー展開). −R + a < x < a + R において f (x) = f (a) + f ′ (a)(x − a) + f (n) (a) f ′′ (a) (x − a)2 + · · · + (x − a)n + · · · 2! n! (10.3) 直感的にいうと,関数 f は無限次の多項式によって表すことができるということである。これ は非常に驚くべきことである。右辺の級数が収束する区間(つまり (10.3) 式が成立する区間)を 収束域といい,R を収束半径という 2 。収束域の外側 |x − a| > R では,(10.3) 式は成立しないの で,収束域をしっかりと把握する必要がある。収束半径 R を求める計算法があるが,ここでは省 略する。 a = 0 のときのテイラー展開を,マクローリン展開という 3 。改めて書くと,次のようになる。 定理 4 (マクローリン展開). −R < x < R において f (x) = f (0) + f ′ (0)x + f ′′ (0) 2 f (n) (0) n x + ··· + x + ··· 2! n! (10.4) 以下に,代表的なマクローリン展開を挙げる。式の後ろの( )は,級数の収束域である。 特に,ex ,sin x,cos x のマクローリン展開は工学における応用上も重要なものであるので,展 開の形は覚えておくとよい。 2 3 より正確には,(10.3) 式が成立するような R の最大値を収束半径という。 (10.4) 式をテイラー展開と呼んでも間違いではない。 2 (マクローリン展開の例) x2 xn + ··· + + ··· (−∞ < x < ∞) 2! n! x3 x2n+1 sin x = x − + · · · + (−1)n + ··· (−∞ < x < ∞) 3! (2n + 1)! x2 x2n cos x = 1 − + · · · + (−1)n + ··· (−∞ < x < ∞) 2! (2n)! 1 = 1 + x + · · · + xn + · · · (−1 < x < 1) 1−x x2 x3 xn log(1 + x) = x − + + · · · + (−1)n−1 + ··· (−1 < x < 1) 2 3 n ex = 1 + x + (10.5) (10.6) (10.7) (10.8) (10.9) 公式 (10.5), (10.6), (10.7) は定理 2 でラグランジュの剰余項を直接計算すればよい(確かめてみよ)。 公式 (10.8)(10.9) の導出のコメント: 1 (10.8) について:f (x) = をマクローリンの定理を使って導出することを試みる。 1−x n! (解)f (n) (x) = ,f (n) (0) = n! であるから,マクローリンの定理に代入すると, (1 − x)n+1 1 = 1 + x + x2 + · · · + xn + Rn+1 (x) 1−x ラグランジュの剰余項を取ると Rn+1 (x) = 1 xn+1 (1 − θx)n+2 (0 < θ < 1) 1 xn+1 → 0 (n → ∞) を示すのは難しい。 (1 − θx)n+2 そこで,高校時代に習った等比級数を利用する。 である。ここで −1 < x < 1 のとき, 等比級数を利用すると, 1 − xn+1 1−x 1 1 = 1 + x + x2 + · · · + xn + xn+1 1−x 1−x 1 1 と表わされる。Rn+1 (x) = xn+1 であるから,−1 < x < 1 のとき xn+1 → 0 (n → ∞) 1−x 1−x したがって 1 = 1 + x + x2 + · · · + xn + · · · (−1 < x < 1) (10.10) 1−x 1 + x + x2 + · · · + xn = ∴ (10.9) について:(10.10) において,x の代わりに −x を代入すると 1 = 1 − x + x2 + · · · + (−1)n xn + · · · 1+x (−1 < x < 1) これを両辺 0 から x まで積分すると ∫ x log(1 + x) = {1 − t + t2 + · · · + (−1)n tn + · · · } dt 0 ここで,項別の積分が可能であると仮定すると(実際,項別積分可能である) 1 1 1 xn+1 + · · · log(1 + x) = x − x2 + x3 + · · · + (−1)n 2 3 n+1 3 (−1 < x < 1) 10.2 テイラー(マクローリン)展開の応用 テイラー(マクローリン)展開の応用は曲線の形状の決定,接触のオーダーなど多々あるが,こ こでは,不定形の極限問題に焦点を絞って話すことにする。 f (x) = 0 であるとき,f (x) = o(xn ) と書く。xn x→0 xn で割っても f (x) は x → 0 のとき 0 に収束するのだから,f (x) = o(xn ) は,関数 f (x) の値が xn と比べて非常に小さいことを意味する記号である。また,f (x) = o(1) で lim f (x) = 0 のことを • ランダウのスモールオー (o):0 の近傍で, lim x→0 表す。 例 1. n > 1 なる整数とする。x → 0 のとき, (1) (2) (3) (4) x = o(1) x3 = o(x2 ) であり x3 = o(x) でもある。かし x3 ̸= o(x3 ) xn+1 = o(xn ). しかし xn+1 ̸= o(xn+1 ) 2x3 + x4 + 3x5 = o(x2 ) であり,= o(x) でもある。 以降,特に記述しなくても,o(xn ) を考察するときは,0 の近傍(x → 0)を考慮に入れているの で,x → 0 を省くこともある。 極限問題で x → 0 を考える際,マクローリン展開の最初の n 項を表記し,残りを · · · で表す代 わりにランダウの o を使用して f (x) = f (0) + f ′ (0)x + f (n) (0) n f ′′ (0) 2 x + ··· + x + o(xn ) 2! n! (10.11) と書くと,より精密な議論ができる。ここで,o(x) は何かの関数を表しているわけではないこと に注意。(10.11) のように o(x) を含む式が現れたら,それは正確には ( ) f ′′ (0) 2 f (n) (0) n ′ f (x) − f (0) + f (0)x + x + ··· + x = o(xn ) 2! n! のように o(x) だけが右辺に (または左辺に) 残るように変形された式のことを表している。o(xn ) の定義も思い出すと,つまり,(10.11) 式は, ( ) ′′ (n) f (x) − f (0) + f ′ (0)x + f 2!(0) x2 + · · · + f n!(0) xn lim =0 x→0 xn を表している。実際,n + 1 項以降は f (n+1) (0) n+1 f (n+2) (0) n+2 x + x + ··· (n + 1)! (n + 2)! であるから, 1 f (n+1) (0) n+1 f (n+2) (0) n+2 f (n+1) (0) f (n+2) (0) 2 { x + x + · · · } = { x + x + ···} → 0 xn (n + 1)! (n + 2)! (n + 1)! (n + 2)! (x → 0) となるので,o(xn ) である。f (x) によっては,(10.11) の剰余項 o(xn ) はもっと速いオーダー,例 えば o(xn+1 ),と取ることができる 4 。この記号で,マクローリン展開は以下のように書ける。 4 例えば (8.13) 式を参照。(10.6) 式から分かるように,sin x のマクローリン展開には偶数次の項は現れない。した がって,x2n+1 の項の次の項は x2n+2 の項ではなく x2n+3 の項である。したがって,ここでは o(x2n+1 ) を o(x2n+2 ) に強めることができるのである。 4 ランダウの記号 o を使った主な関数のマクローリン展開表示:x → 0 のとき x2 xn + ··· + + o(xn ) 2! n! x2n+1 x3 sin x = x − + · · · + (−1)n + o(x2n+2 ) 3! (2n + 1)! x2n x2 cos x = 1 − + · · · + (−1)n + o(x2n+1 ) 2! (2n)! 1 = 1 + x + · · · + xn + o(xn ) 1−x x2 x3 xn log(1 + x) = x − + + · · · + (−1)n−1 + o(xn ) 2 3 n ex = 1 + x + (10.12) (10.13) (10.14) (10.15) (10.16) 先ほども述べたように,o(xn ) は何かの関数を表しているのではないが,あたかも関数であるかの ように掛け算や足し算などを考えることができる。このように,展開の精度の情報を保持したま まいろいろな計算ができるのが,ランダウの記号の良い点である。以下に基本的な性質をまとめ る。いずれも o(xn ) の定義より容易に確かめられる。 定理 5. x → 0 のとき,次の (1),(2),(3) が成り立つ。 (1) xm o(xn ) = o(xm+n ) (2) o(xm )o(xn ) = o(xm+n ) (3) o(xm )±o(xn ) = o(xm ) (m ≦ n) ( 注意: o(xn )−o(xn ) = o(xn ) であって o(xn )−o(xn ) ̸= 0 ) 例 2. n, k を正の整数とする。x → 0 のとき,x = o(1) と上の定理を使うと次が分かる。 (1) xn+1 = xn × x = xn o(1) = o(xn ) (2) an xn + an+1 xn+1 + · · · + an+k xn+k = o(xn−1 ) + o(xn ) + · · · + o(xn+k−1 ) = o(xn−1 ) 注意:(2) の式の中辺のような o(xn ) の足し算は定義から考えると本来ありえないものなので,必ず 最終的には右辺のように定理 5(3) を用いてひとつにする。計算途中で現れることは気にしなくて 良い。 例題 1. 次の関数のマクローリン展開が,剰余項が少なくとも o(x3 ) となるようにせよ。 2 (1) ex − cos x (2) x sin x 1 1 2 (解)(1) ex = 1 + x + x2 + o(x2 ) より ex = 1 + x2 + x4 + o(x4 ) = 1 + x2 + o(x3 ) である。し 2 2 たがって,cosx の展開を用いると ( ) 1 2 3 2 2 3 3 x e − cos x = (1 + x + o(x )) − 1 − x + o(x ) = x2 + o(x3 ) 2 2 (2) x sin x = x(x + o(x2 )) = x2 + xo(x2 ) = x2 + o(x3 ) 注意:例題 1 の問題文が「次の関数をマクローリン展開する際,x2 まで正確に求めよ。」のようで 2 あれば,剰余項の大きさについては気にしなくて良いので,(1) の解は 「ex − cos x = 1 + x2 + · · · − (1 − 21 x2 + · · · ) = 32 x2 + · · · 」 と解答すれば十分である。 例題 2. 次の x → 0 における極限を漸近展開を用いて求めよ。 2 ex − cos x (1) x sin x (2) (1 + x) sin x − x cos x x2 5 (解)(1) は例題 1 の (1)(2) を利用する。 lim 2 ex − cos x = x sin x x→0 3 2 x + o(x3 ) lim 2 2 x→0 x + o(x3 ) o(x3 ) x2 = 3 = lim x→0 2 o(x3 ) 1+ x2 3 2 + (2) (1 + x) sin x − x cos x (1 + x)(x + o(x2 )) − x(1 + o(x2 )) (x + x2 + o(x2 ) + xo(x2 ) − (x + xo(x2 )) = lim = lim 2 2 x→0 x→0 x→0 x x x2 2 2 2 2 2 2 (x + o(x )) (x + o(x ) + xo(x ) + xo(x )) = lim =1 = lim 2 x→0 x→0 x x2 lim 10.3 研究課題:オイラーの公式 テイラー展開の応用として,有名なオイラーの公式を導出する。このオイラーの公式はいろい ろな所で使用されるが,身近な所では音響学に使用されるフーリエ変換である。 • eix の定義:ex のマクローリン展開は (10.5) 式で与えられる。この式は実数 x に対する式であ る。しかし,複素数 z に対しても (10.5) 式が成り立つと思う,つまり (10.5) 式の右辺の級数の値 が複素数 z に対する ez の定義だと考えることで, 複素数の指数を持つ指数関数が定義できる。こ の考え方に則って eix (x は実数) を考えてみよう。(10.5) 式の x を ix に置き換えると eix = 1 + ix + (ix)2 (ix)3 (ix)n + + ··· + + ··· 2! 3! n! (10.17) となる。この (10.17) 式の右辺をもって eix の定義としよう。この右辺をさらに計算をすると, eix = 1 + ix + (ix)2 (ix)3 (ix)4 (ix)5 (ix)2n (ix)2n+1 + + + + ··· + + + ··· 2! 3! 4! 5! (2n)! (2n + 1)! x2 ix3 x4 ix5 x2n ix2n+1 − + + + · · · + (−1)n + (−1)n + ··· 2! 3! 4! 5! (2n)! (2n + 1)! { } { } 2n 2n+1 x2 x4 x3 x5 n (x) n x = 1− + + · · · + (−1) + ··· + i x − + + · · · + (−1) + ··· 2! 4! (2n)! 3! 5! (2n + 1)! = 1 + ix − = cos x + i sin x (∵ (10.6), (10.7) ) が得られる。ここで,最後の式は,sin x, cos x のマクローリン展開 (10.6),(10.7) を使用した。つ まり,次の式が得られた 定理 6 (オイラーの公式). 実数 x に対して eix = cos x + i sin x オイラーの公式に x = π と代入すると,重要な単位の数 0, 1, i, π, e の間に,次の等式が得ら れる。 系 1 (オイラーの等式). eiπ + 1 = 0 6 演習問題 問 1. 次の関数のマクローリン展開を x4 の項まで正確に求め,残りは · · · で表せ。 (1) (1 + x) sin x (2) (1 + x2 ) cos x 問 2. f (x), g(x) のマクローリン展開が f (x) = a0 + a1 x + a2 x2 + · · · g(x) = b0 + b1 x + b2 x2 + · · · であるとき,f (x)g(x) のマクローリン展開の x の係数 イ と x2 の係数 ロ を求めよ。 問 3. マクローリン展開を利用して次の極限値を求めよ。 log(1 + x) − sin x (1) lim x→0 x2 √ x 1+x−1− 2 (2) lim x→0 x2 √ ただし, 1 + x のマクローリン展開は √ 1 1 2 1·3 3 1 · 3 · · · (2n − 3) n 1 + x = 1+ x− x + x − · · · + (−1)n−1 x +··· 2 2·4 2·4·6 2 · 4 · · · 2n (−1 < x < 1) 一般に,実数 α に対して (1 + x)α のマクローリン展開は α(α − 1) 2 α(α − 1) · · · (α − n + 1) n α x+ x + ··· + x + ··· 1! 2! n! √ である。この式に α = 1/2 としたのが, 1 + x のマクローリン展開である。 (1 + x)α = 1 + 7 (−1 < x < 1)