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Evolving Markets
グローバル投資展望
2016 年 1 月
EVOLVING MARKETS
FOCUS
日本と中国に関する最新の見通し
今回は、当社のチーフ・グローバル・ストラテジスト、CIO-ジャパ
ン、チーフ・ストラテジストが、足元の日本株式市場に関するそれ
ぞれの見解を紹介する。結論から言うと、日本株式市場について
は、特に世界の他の主要市場と比較した場合、明るい見方を維
持しており、また、欧米諸国と異なり、日本国内の政治環境は安
定していると考えている。
中国については、現在の市況下において、世界中の投資家が意
識しておくべき二つの重要な見通しを紹介する。当社オーストラリ
ア・オフィスの素材セクター担当アナリストが、中国経済の構造的
変化が金属価格をはじめとするコモディティ価格に引き続き影響
を及ぼすと考える理由を、そして当社シンガポール・オフィスの債
券シニアポートフォリオマネージャーが、人民元の見通しは明る
いと考える理由を説明する。
12 ヵ月先予想 EPS(コンセンサス予想)の推移
260
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Japanese Stock (TOPIX)
USStock (S&P500)
European Stock (STOXX600)
Asian Stock ex. JP (MSCI Asia ex.JP)
MSCI World
MSCI Emerging
160
140
120
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続いて、テクニカル分析を紅茶占いに準えながら、2016 年に原油
価格が上昇すると予想している理由を説明する。また、その注目
すべき結論を裏付けるものとして、当社のロンドン・オフィスとニュ
ーヨーク・オフィスのアナリストによる世界の原油需給見通しも紹
介する。
80
2010
2011
2012
2013
2014
2015
出所:ブルームバーグ
マーケットウォッチ
韓国の対中国輸出額の推移(前年同月比、米ドルベース)
100%
80%
60%
40%
20%
0%
-20%
-40%
本レポートでは過去数年間にわたり幾度となく、中国経済の鈍化を示
唆するデータとして、韓国の対中国輸出額の推移を示すチャートを掲
載してきた。韓国から輸入していた品目を中国国内で生産可能になっ
たこと(輸入代替)や、円安/ウォン高を受けた日本の輸出シェア増加
と韓国の輸出シェア減少が、韓国の対中国輸出額の低下に影響して
いることは確かだが、中国のコモディティ輸入が低迷しているだけでな
く、同国国内において資本・消費財全般の需要が弱まっていることに
疑いの余地はないであろう。最新のデータを見ると、12 月の韓国の対
中国輸出額は前年同月比-16%と、急激に減少しており、これは中
国だけでなく、明らかに韓国にとっても深刻な事態となっている。ただ、
この急激な落ち込みには、iPhone の生産減少が大きく影響したとも考
えられることから、この先数ヵ月間は同データを注視していく必要があ
る。
出所:ブルームバーグ
nikkoam.com
本文書末尾の面債条項をご確認ください。
1
FRB は報道以上にハト派色が強かった
2015 年 12 月 22 日
ジョン・ヴェイル、チーフ・グローバル・ストラテジスト
先日、FRB がついに政策金利の引き上げを決定した。今回の利上げ
決定は大々的に報道されたが、その中である重要な点が影に隠れて
しまった。それは、2016 年の FF 金利(フェデラルファンドレート)の予
想平均値である。多くの投資家は、12 月会合において FOMC(米連邦
公開市場委員会)メンバーが 2016 年末時点の FF 金利の予想中央
値(FRB ウォッチャー全員により分析される主要統計)を下方修正する
と見ていた。しかし、FF 金利の予想中央値は 1.375%に維持され、こ
れは多くの点で期待外れの結果となったほか、いくぶんタカ派的なサ
インとして見られた。もちろん、声明文はハト派色が非常に強く、
FOMC メンバーのインフレ期待は下方修正されたが、結果的に株式市
場では、そうした FRB の判断に対する失望感が広がったようである。
しかし注目すべきは、かなり多くのタカ派の FOMC メンバーが FF 金
利の予想を引き下げるなか、2016 年の FF 金利の予想平均値が 9 月
会合から 0.20%近く引き下げられた(1.48%から 1.287%に低下した)こ
とである。評論家やメディアはどういう訳かこの重要な点を報道しなか
ったが、FRB が報道されている以上にハト派色が強かったということ
を投資家は認識しておく必要がある。
FRB は 12 月会合での政策金利の利上げを言明したため、会合の 2
週間前に原油価格が約 15%下落し、デフレ懸念が大幅に高まったに
もかかわらず、利上げを実行しなければならなかった。実際、FOMC
で投票権を持つメンバーの中でも特にハト派色が強いエバンス氏が、
デフレ懸念の高まりを理由に反対しなかったことには少々驚いた。足
元で原油価格が急落する前の FRB の基本的なポジションは、経済指
標を注視しながらも、「金利正常化バイアス」を持つことであった。これ
は「引き締めバイアス」とは異なる。実際に経済やインフレを鈍化させ
ることが目的ではなく、金利を正常化させ、実質ゼロ金利政策から早く
抜け出すことが目的である。また、FRB には次の景気減速に備えて
「弾薬」を確保したいという意図もある。当社は FRB がこの正常化バイ
アスを持つものの、12 月のグローバル投資委員会(GIC)で予想した
よりも更に経済指標重視の姿勢を強めるものと考える。
結論としては、イエレン議長が記者会見で年 4 回のペースでの利上
げをほぼ否定したが、当社はこの可能性が依然として非常に高いと見
ている。しかし、原油価格が現在のように非常に安い水準に留まる場
合や、原油価格が更に下落する場合には、FRB の追加利上げを巡る
不確実性が更に高まると見ている。
nikkoam.com
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
2
中国経済は「ロスト・イン・トランジション」に陥っているのか
2016 年 1 月 5 日
ジェームス・エジントン、リサーチアナリスト
人口動態の危機
中国経済のリバランスが進んでいる。中国はインフラ投資と住宅建設
投資に依存してきたが、現在、消費とサービスの寄与度がより大きい
欧米諸国型の経済成長モデルへの移行(トランジション)に取り組んで
いる。もはや建設投資主導の経済成長モデルは限界に達しているの
である。コモディティ需要が軟化するなか、2000 年代前半からの設備
投資の増加を背景に、現在の中国生産設備には過剰感が出ている。
多くの鉱業関連企業は、鉄鋼消費が依然としてピークに達していない
と主張しているが、中国鉄鋼企業の意見は異なる。彼らの唯一の意
見の違いは、ピークが 2013 年か 2014 年ということである。中国鉄鋼
産業の絶頂期が終了したことは、企業の発言だけでなく、業界の収益
(または損失)状況にも表れている。中国では、赤は縁起が良い色とさ
れているが、東アジア輸入の HRC(ホット・ロール・コイル)価格の下落、
また鉄鋼スプレッド(製品価格と原材料コストの差)の縮小が過去 12
ヵ月間で加速していることなどを背景に、鉄鋼産業は巨額の赤字に悩
まされている(図 1 を参照)。多くの鉱業関連企業は、商品需要の伸び
を予想して設備投資を実施してきたが、その生産設備の建設が完了
する今になってコモディティの需要が低下を見せ始めていることは不
運と言える。
図 1:鉄鉱石価格は下落しているが、鉄鋼スプレッドは過去最
低水準
Spread (LHS)
HRC E Asia Import (LHS)
Iron Ore (RHS)
US$ per tonne
1000
200
180
160
800
140
US$ per tonne
1200
そうしたなか、人口動態が好ましくない方向に向かっている。中国は人
口動態の危機に直面している。これは、1978 年に導入された一人っ
子政策によるもので、不動産市場により深刻な影響をもたらす可能性
が高い。不動産業者 Century 21 によると、年齢別で見ると中国での
重要な不動産購入層は 20~30 歳である。この年齢層の人口は、
1980 年代から著しく減少しており、住宅不動産市場に多少の懸念をも
たらしている。
1990 年代に誕生した子供の数は 1980 年代に比べて 24%減少した。
また、さらに懸念されるのは、2000 年代に誕生した子供の数が 1980
年代に比べて 36%減少したことである。そのため、中国政府は 2016
年 1 月をもって一人っ子政策を廃止した。中国は過去の日本と気掛
かりなほど似た状況に直面している。そして中国経済が伸び悩めば、
1980 年代における日本経済の鈍化よりも、世界経済に大きな影響を
もたらすことになる。
しかし、中国政府にはとっておきの切り札がある。共産主義国家の特
権の一つは、経済のリバランスをコントロールできることにある。中国
政府は、刺激策の中心を消費支出と個人の富の形成に転換する可能
性が高い。富の形成には、中古不動産市場の堅調さが不可欠である
が、これは北京や上海などの Tier 1 や Tier 2 地域で見られる。
現在、Tier 1 地域では中古不動産が不動産販売戸数全体の 70%を
占めており、年間価格上昇率は一桁台半ば~後半と富の拡大におけ
る兆しは明るい。その結果、欧米では馴染みのあるリフォームが普及
する可能性が高く、新築住宅の建設に使用される原材料を扱う企業と
は対照的に、リフォーム関連企業の収益は伸びていく見通しである。
リフォーム産業が成長するなか、塗装業者、トイレ・キッチン設置業者、
電気製品・家具販売業者が中期的に力強く成長すると見ている。
出所:モルガン・スタンレー
しかし、一度は GDP の 20~25%を占めた住宅建設市場が、伸びを
見せていないことは確かである。2016 年には、Tier 3 と Tier 4 地域の
不動産市場の衰退により、住宅建設業界が経済成長の鈍化要因にな
ると見ている。これらの地域は中国製造業の中心であるが、今後は鉄
鋼やアルミニウム製造などの重工業が衰退していく見通しである。こ
れらの地域の不動産物件は、北京や上海に比べて 25%ほど広く、建
設ではより大量の鉄鋼とコンクリートを要する。需要がなく、ディベロッ
パーが資金調達困難な状況となれば、建設活動は停滞する可能性が
高い。人々は、これらの地域から、サービスセクターの伸びが雇用創
出を促進する、より都会の地域に引っ越すと見られる。
環境面に注目が集まる可能性がある
図 2:途中で止まっている土地開発
600
120
100
400
200
80
60
40
0
20
2015 年後半、北京の AQI(大気汚染指標)は安全基準の 15 倍超に
達し、4 段階ある警報のうち 3 番目に深刻な「オレンジ警報」がたびた
び発令された。鉄鋼セクターはキャッシュ創出が難しいほか、国民に
健康被害を与えることから、重工業の環境的影響を強く認識する中央
政府の怒りを買う可能性がある。現在の北京の大気汚染度は、1 日
あたりタバコを 40 本吸う場合と同等の健康被害を受けるほどの水準
にある。
中国の政策担当者は、年間 6.5~7%の経済成長目標の達成と、雇用
と健康・福祉の両面における国民要求とのバランスを取る必要があり、
慎重な舵取りを求められている。現在、中国政府は、環境と国民生活
の改善を重視した政策に切り替えている。中国政府は明確な姿勢を
これは、唐山市でよく見られる開発が途中で止まった土地である。こ
打ち出してきており、過去 18 ヵ月間におよぶ汚職撲滅運動が奏功し、
の写真から、Tier 3 と Tier 4 地域の建設産業の弱さを見出すことがで
投資プロジェクトの認可やインフラ開発の面でも好影響を生んでいる。
きる。10 機のクレーンが設置されているが、建設は全く行われていな
い。
出所:NAM オーストラリア
nikkoam.com
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
3
中国経済は「ロスト・イン・トランジション」に陥っているのか
下落スパイラルにあるコモディティ価格
原材料の需要の伸び減少による影響は大きくなることが予想されてお
り、現在、コモディティ価格にはその影響が表れている。顧客の需要と
支払能力が低下するなか、図 3 の通り、多くのコモディティ価格が大
幅に下落している。China Iron and Steel Association(中国鉄&鉄鋼
協会)は、中国鋼鉄産業の約 100%の企業がキャッシュフローベース
(会計ではなく)で赤字状態にあると推定している。原材料を購入する
には、資金の調達が必要である。現在、トレーダーにより資金が超短
期的に提供されているが、鉱業関連企業のバランスシート上に遅延債
務が増加中とのうわさが聞こえ始めている(2016 年 2 月の決算報告
の時期に、当社は鉄鉱石および石炭採掘企業の未収金額を注視する
予定)。
図 3:コモディティ価格にとって試練の一年
見ている。需要低下に対する解決策は依然として見当たらないが、ア
ルミニウムとアルミナの供給量は引き続き拡大すると予想する。Rio
Tinto がウェイパ鉱山(オーストラリア・クイーンズランド州)における
South of Embley ボーキサイト・プロジェクトを承認したことを受け、中
国へのボーキサイト供給が更に増加し、他国のアルミナ生産に更なる
圧力を掛けると予想している。
かつて銅、亜鉛、ニッケルは、中国経済が建設投資から消費主導にリ
バランスする中で需要が拡大すると見られ、価格上昇余地が特に大
きいと考えられていた。だが、現在は経済のリバランスがスムーズに
いかず、難航している。それら多くのコモディティは現在も主に重工業
で消費されている。電力インフラの整備に伴って銅の需要が大きく伸
びたが、現在は電力供給過剰を受けてインフラ整備プロジェクトが減
少しており、銅の需要が下方修正されている。銅の供給量が引き続き
増加する一方で、予想される銅の需要拡大ペースがわずか 1%まで
下方修正されている。結果として、銅精製業者の利益率は上昇してい
るが、鉱業関連企業の採算性は再び圧迫されている。また、Glencore
によるマウントアイザ銅精錬所の操業継続の決定は、銅精鉱のだぶ
つきを背景とした精錬所の採算性の改善を物語っている。銅市況の
改善には、中国だけでなく世界全体における鉱工業生産量の増加が
必要となるが、先進国経済が停滞しており、そうした兆しは見られてい
ない。銅価格は景気に先行して動くことから、銅は「ドクター・コッパー」
という異名を持つが、足元の銅価格の推移からは世界の経済成長見
通しが良好ではないことが伺える。
まとめ
出所:ブルームバーグ、Consensus Economics、モルガン・スタンレーリサーチ
通常、旧正月には多くの工場が操業停止する。しかし、今年 2 月の旧
正月については、損失を生んでいる多くの工場はこの操業停止後、再
び稼動することはないとの憶測が広まっている。業界筋によると、
2015 年の鉄鋼生産量が予想から 40mtpa(百万トン/年)下方修正さ
れるほか、2016 年には生産量が最高 80mtpa 減少する可能性がある
と示唆されている。これは中国製鉄所の 10%超が閉鎖することを意
味しており、中国経済の再構築の長い道のりにおいては前進である。
世界の鉄鋼産業にとってはプラスだが、原料炭と鉄鉱石の需要にとっ
てはマイナスになることが予想される。鉄鋼メーカーは収益性と許容
水準の資本利益率を確保するために 85%超の稼働率が必要で、現
在の稼働水準である 60%後半では存続していくことができない。
中国経済は、インフラ投資と建設投資に依存した状態から脱却し、よ
り消費の寄与度が大きい経済へ移行している。その結果、鉄鉱石と石
炭などのバルクコモディティをはじめとするコモディティの需要が低下
している。向こう数年間において、生産過剰問題が解決される可能性
は高いものの、その過程は簡単なものではない。影響としては、従来
の中国経済を牽引してきた産業からのコモディティ需要は減少の一途
を辿ると予想される。今後 5 年間における銅とアルミニウムの需要見
通しは良好である一方で、消費財セクターの需要増加分は建設活動
鈍化による需要減少分によって相殺される可能性が高い。この見方
に対する最大の上方リスクは、中国政府が 2008 年に実施した 4 兆人
民元のインフラ投資のような大規模な刺激策を発表する可能性である。
しかし、その効果があくまで一時的なものであることは、北京の政策当
局者も十分に理解している。したがって、経済成長が鈍化し、コモディ
ティセクターが軟調になる可能性の方が高いと予想される。需要不足
に対応するには、鉱工業関連企業による供給サイドからの対応が必
要となるが、過去の需給サイクルを見ても、それはあまりコモディティ
価格の改善に資する環境とは言い難い。
アルミニウム産業は鉄鋼産業と比べて僅かながら良好とみられる。
アルミニウム業界の約 8 割は赤字となっているが、今後、電気料
金の引き下げにより、中国のアルミニウム生産の採算性は大幅に
改善させるため、他国のアルミニウム業界がその被害を被るかた
ちで、中国のアルミニウム産業は競争力を高めていくとみられる。
アルミニウムの原料であるボーキサイトは、インドネシアの未精製コモ
ディティの輸出禁止により不足が懸念されていたが、ボーキサイトは
豊富に存在し、その穴をマレーシア産のボーキサイトが埋めているた
め、実際にはボーキサイト不足は発生していない。また、アルミナは、
ボーキサイトからアルミニウムを精製する過程で抽出されるが、この
価格も急落している。中国がアルミナ生産のためのボーキサイトを入
手できれば、欧米企業はアルミナ市場から追い出されると見ている。
生産過剰状態にあり低価格の中国製アルミニウムが世界市場に大量
に流れ込むなか、欧米企業によるアルミニウム生産量は減少すると
nikkoam.com
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
4
税制改正:法人実効税率引き下げと消費税軽減税率に注目する
2016 年 1 月 6 日
神山直樹、チーフ・ストラテジスト
はまだそれほど大きくないが、引き下げの 1 年前倒しは強いメッセー
ジだと考える。また消費税増税に伴う軽減税率の導入は、政治的には
適切な程度の妥協と考えられる。軽減税率とインボイスを導入するこ
2015 年 12 月に自民党と公明党による与党税制改正大綱が示された。 とで、今後高齢化する日本社会で社会保障を充実するための消費税
投資の観点からは、法人実効税率の引き下げと消費税引き上げ時の
増税をより簡単にすることができたとも考えられる。
軽減税率の導入が重要だ。
もっとも 2017 年 4 月の消費税増税は法律で決まっておりメイン・シナ
法人実効税率の引き下げは、経済界と安倍政権との対話の後、2017
リオだが、確定ではない。もし 2016 年 1-6 月の日本経済が実感でき
年度からとされていた時期を 2016 年度からに前倒しされることとなっ
るほどの大きな低迷となれば、7 月の参院選と日程を合わせた衆院
た。これはポジティブな変化と言える。まず法人税率の引き下げは立
解散、消費税増税を延期する政策設定と総選挙の可能性はある。
地競争力を高める。とりあえず税率がドイツと同程度となる上、今後政
府が立地競争力に敏感に対応することを示したからだ。立地競争力
は税率のみで決まるのではないが、今後の日本経済の活性化のため
の方向を示したことが重要だ。
さらに、外形標準課税の強化で、法人税収全体を維持しようとしたこと
は、財政再建のためにポジティブだ。法人税率の改正全体は、いわゆ
る「ばらまき」政策ではなく、「稼ぐ力」がある企業は税負担が軽くなる
一方、稼ぐ力が低い企業(資本金 10 億円超)には負担増、収益力格
差の拡大要因となり、過当競争を減らし産業構造を強化することにつ
ながる。また法人税収が変わらないことで、強い財政規律を投資家に
示すこともできた。
このように、法人税率の引き下げはアベノミクス実現のための政権の
指導力が維持されていることを示している。2014 年の新成長戦略で
掲げられた企業の「稼ぐ力」向上の支援が税制改正のスピードを速め
たこと、立地競争力強化、産業の新陳代謝の加速を期待できること、
財政再建への心配りもあることが投資家に知られる必要がある。
消費税増税における軽減税率の導入については、2015 年中に政治
的な解決に持ち込んだことが、現政権の指導力を示している。消費税
は 2017 年 4 月から 10%(現在 8%)に上昇する予定だ。この機会に、
食品などに軽減税率(8%での維持)を導入することは、公明党により
主張されてきた。自民党の一部や財務省は 10%程度の消費税率で
導入することを企業のシステム負担や煩雑さなどから反対してきた。
安倍政権は円滑な政治運営を優先し公明党の主張を取り入れ、飲食
料品(酒、外食などを除く)について 8%の税率を維持することを決め
た。理論的には、消費税の逆進性を和らげるためには特定商品の軽
減税率よりも低所得者への補助金のほうが合理的(何を買いたいか
に個人差がある)とされる。しかし、ここでは税率上昇による痛税感か
ら消費が弱まるとの公明党の懸念を共有したと考えられる。
技術的には、メーカー、問屋、小売店などの段階を経て商品が取り引
きされるため、それぞれの段階で支払う税額がインボイスを通じて管
理される必要がある。欧州の多くの国で軽減税率が導入されており、
インボイスが重要な役割を果たしている。しかし、日本ではこの導入を
2021 年 4 月から導入として、対応の余裕を持たせることにした。
もっとも軽減税率を導入することで前もって決めていた社会保障支出
の維持が難しくなっている。軽減税率は「ばらまき」ではないが、消費
税収は原則として社会保障支出に使われるため、今後の社会保障費
を削減しなければ財政規律が緩んでしまうことになる。景気拡大によ
る税収増で手当てできるとの意見もあるが、消費税収入と社会保障支
出がどちらも恒常的なものであるから、一時的な税収増減と関係され
ることは望ましくない。この点については、安倍政権の今後のリーダー
シップを期待する。
2016 年度の与党税制改正大綱は、総じて安倍政権のリーダーシップ
を示すことになった。法人税率の引き下げ幅はマクロ経済の観点から
nikkoam.com
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5
人民元の見通し
2016 年 1 月 12 日
チア・ウーン・キエン
債券シニアポートフォリオマネージャー
現在、人民元が対米ドルで下落しているが、人民元は全面安の展開
となっており、米ドルに対してのみ下落しているのではない。このトレン
ドが見られ始めたのは 2015 年 11 月の第 2 週目のことだが、それが
周到に計画された動きであったことは明白である。PBOC(中国人民銀
行)は、経済成長と軟調な株式市場を支えるために金融緩和を加速さ
せているなか、その副次的な産物として人民元安を容認しているので
あり、本来の目的の達成に支障をきたすほどの急激な人民元安は回
避するように「誘導」するものと見られる。規制当局が、RQDII(人民元
適格国内機関投資家)スキームや人民元のオフショア市場への貸出
などの一部のクロスボーダー為替取引を停止・制限しているのも、そう
した意図の表れと言える。
人民元安が「誘導」されていると当社が考える背景には、以下に示す
2015 年後半の 3 大イベントが挙げられる:
 8 月 11 日:PBOC は、米ドルなどに対するオンショア人民元の基
準値設定方法の変更を発表した。新制度では、前日終値とマーケ
ットメーカーの呼び値を参考に基準値が設定される。発表当日の
人民元は対米ドルで 1.9%下落し、その後 2 日間を含む 3 日間の
累計下落幅は 4.7%となった。その後、PBOC は、対米ドルでの人
民元安の進行は市場の需給に基づくものであり、それによって輸
出面での人民元高懸念が解消されるとの見解を示した。
政策当局者は、中期的な視点(3~6 ヵ月間など)から人民元安の経
済と市場に対する好影響を評価するものと見られることから、広範囲
の通貨バスケットに対する人民元の下落幅について中期的な目標値
を設定している可能性が高い。今までのところ、人民元は 8 月初旬の
ピークから通貨バスケットに対して既に 5.6%下落している。人民元は
2015 年の年初時点の水準へ逆戻りしており、この辺りで人民元の下
落は一服する可能性があるものの、8 月に人民元安トレンドがスター
トしてから 6 ヵ月間が経過することになる 2 月までに、政策当局者は
更なる人民元安を「誘導」する必要があるか否かの判断を再び迫られ
ることになる。
当社の見方では、経済見通しが引き続き不透明な状況で、人民元が
対通貨バスケットで更に 3%下落する確率は 50%を超えると考えてい
る。そうした中で、クロスボーダーの資金フローの管理措置が維持さ
れ、オフショア人民元市場は、オンショア人民元市場に増して強い下
落圧力にさらされ続けるものと見ている。IMF は 2016 年 10 月 1 日付
で人民元を SDR 構成銘柄に追加する予定であり、いわばオンショア
人民元市場とオフショア人民元市場の収斂を達成する明確な期限が
定められた格好となったものの、上記の理由から、その達成が更に遅
れる可能性がある。別の見方をすれば、PBOC は、2016 年 10 月 1 日
が訪れる前に人民元を安定させる必要があるため、市場の信頼感が
2016 年第 3 四半期末までに回復しない場合は、最終手段として更な
る人民元安を容認し、人民元の「過剰調整」を招く可能性もある。
 11 月 30 日:IMF(国際通貨基金)が人民元を SDR(特別引き出し
権)構成銘柄に採用することを発表した。2016 年 10 月 1 日に開
始され、人民元の構成比率は 10.92%となる。
 12 月 11 日:PBOC が新たな RMB Index(人民元指数)を発表した。
これは、貿易比率に基づき構成された通貨バスケットを参照する
指標で、米ドルが 26.4%、ユーロが 21.4%、日本円が 14.7%、香
港ドルが 6.6%、残りが他の通貨となっている。そのウェイトを用い
て当社が独自に作成した RMB Index の推移を見てみると、8 月
11 日の人民元切り下げ発表当初に 5%低下した後、部分的に回
復したものの(IMF による人民元の SDR 構成銘柄採用が確実視
されるようになった時期)、11 月の第 2 週目から再び低下した。以
下のチャートは、RMB Index(緑線と黒線が繋がった線)を DXY
Index(米ドル指数)と MAS の正式指標である SGD NEER Index
(シンガポールドル実質実効為替レート)と比較したものである。
RMB Index、DXY Index、SGD NEER Index の比較
出所:ブルームバーグ
nikkoam.com
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
6
2016 年の日本株の見通し
2016 年 1 月 19 日
辻村裕樹、常務執行役員兼 CIO‐ジャパン
してみると興味深い現象が明らかになる。過去 3 年間の「アベノミクス」
による株価上昇は利益の伸びによってのみ説明され、PER の上昇は
全く寄与していないのだ。この点は PER が 20%以上も上昇している
米国や欧州の株式市場とは大きく異なる。
ハイライト
 企業利益は引き続き堅調に推移
 バリュエーションは魅力的な水準
 株主リターンは増加基調に
図 2:12 カ月先予想 PER
22
好機到来の兆し
Japanese Stock (TOPIX)
US Stock (S&P500)
European Stock (STOXX600)
Asian Stock ex. JP (MSCI Asia ex.JP)
MSCI World
MSCI Emerging
20
18
図 1:12 カ月先予想 EPS
16
260
240
220
200
180
Japanese Stock (TOPIX)
US Stock (S&P500)
European Stock (STOXX600)
Asian Stock ex. JP (MSCI Asia ex.JP)
MSCI World
MSCI Emerging
14
12
10
8
6
160
2010
140
2012
2013
2014
2015
出所:ブルームバーグ、2015 年 12 月 30 日現在
120
100
80
2010
2011
2011
2012
2013
2014
2015
出所:ブルームバーグ、2015 年 12 月 30 日現在
図 1 に示すとおり、日本企業の利益の伸びは明らかに他の地域とは
異なる軌道を描いている。このため、日本株には引き続き魅力的な投
資機会があると考えられる。15 年に及ぶデフレ環境の中で、多くの上
場企業がコストと売上高の両面で抜本的な構造改革を余儀なくされて
きた。現在では、主要上場企業の海外売上高比率は約 60%と推定さ
れる。日銀による大規模な量的・質的緩和で円安の進行が見込まれ
ることから、企業利益の伸びは加速すると予想される。
しかし、EPS(一株当たり利益)がどの程度堅調に増加するかという点
は考えておく必要がある。当社の見解では 2 つの点が重要である。
1. マクロによってミクロが決まるわけではない
上場企業の利益は必ずしもマクロ経済環境に左右されるわけでは
ない。2014 年は景気後退局面にもかかわらず上場企業の利益が
過去最高を記録した。景気後退局面で企業利益が増加したのは
2014 年が初めてだが、このトレンドは今後も持続すると考えられ
る。
米国株式の場合、過去 5 年間における EPS の伸びと PER 上昇の理
由の 1 つは大規模な自社株買いであった。この点と最近のコーポレ
ートガバナンス・コード導入を踏まえると、日本株市場の将来的な方向
性が読み取れる。
2016 年は株主リターンが増加基調に
日本の上場企業の資本効率は世界的に見ても極めて低い。上場企
業の約 3 分の 1 は ROE(株主資本利益率)が 5%未満であり、約半
数の企業が 8%未満である。
図 3:ROE の累積分布
Cumulative
%Companies
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
Japan (TOPIX)
US (S&P 500)
20%
2. 米ドル高と原油安が日本株の追い風になる
Europe (MSCI Europe)
10%
米ドル高と原油安のトレンドが続けば、日本株市場は他国よりも
0%
高い競争力を得ることになるだろう。これには 2 つの理由がある。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
すなわち、(1) 主要上場企業が輸出と海外での売上に大きく依存
ROE (%)
していること、そして (2) 原子力発電所が運転を停止しているため、
出所:ブルームバーグ、東洋経済新報社(2015 年 12 月)
原油と天然ガス(ほぼ 100%を輸入に依存)が日本の中核的なエ
* 分析の目的上、ROE がマイナスまたは 30%超の企業は除いている。
ネルギー源となっていることである。
** 上記は 1 事業年度の ROE
バリュエーションは魅力的な水準
さらに、日本企業の平均 ROE は悪化し続けている。企業利益は過去
最高水準に達しているものの、株主リターン比率(純利益に占める配
現在、日本株の 12 カ月先予想 PER(株価収益率)は約 14 倍であり、 当と自社株買いの比率)は約 40%にとどまっている。この点は、上場
過去の平均を大きく下回っている。
企業の現金保有高が依然として高いことからも理解できる。最近、上
場企業の現金保有高はこれまでの最高水準である 100 兆円(約
一般的に、株式市場のパフォーマンスは企業利益の伸びと PER の上
8,310 億米ドル)を上回った。
昇によって説明できる。しかし、最近の日本株のパフォーマンスを検証
nikkoam.com
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
7
2016 年の日本株の見通し
図 4:地域別に見た株主リターン比率(配当および自社株買い) 日本円の見通し
120%
日本円は、日米金融政策の乖離により対米ドルで徐々に下落するだ
ろう。日銀はインフレ目標達成に向けて量的緩和を継続する可能性が
極めて高い。一方で、米国は既に量的緩和プログラムを終了している。
ただし、円安のペースは過去 2 年間に比べればはるかに緩やかなも
のとなると見られる。その理由として、原油安を背景とした日本の経常
収支の大幅な改善、純輸出の増加、訪日旅行者数の大幅な増加が
挙げられる。
100%
80%
60%
40%
リスクシナリオ
20%
Japan
US
当社では、主に 2 つのリスクシナリオを想定している。
Europe
0%
2009
2010
2011
2012
2013
2014
出所:東洋経済新報社(日本、 2015 年 3 月末現在)、ファクトセット(米国および欧州、
2014 年 12 月末現在)
* グラフは過去のデータに基づくものであり、将来の運用成果を保証するものではない。
待望のコーポレートガバナンス・コードが 2015 年 6 月 1 日より施行さ
れ、全ての上場企業が 2015 年末までにこの指針を遵守するか、遵
守しない場合はその理由を説明するよう求められている。指針では、
企業に中期的な事業計画を策定、公表することを促している。これに
より、多くの企業は中期計画に ROE 目標を盛り込む必要が生じるこ
とから、ROE の改善が期待されている。
1. ファンダメンタル要因(米国の予想外の景気減速など)による急激
な円高。ただし、日銀がインフレ率引き上げに強くコミットしている
ことや、インフレ期待の主要な尺度が日本円であるという事実を踏
まえれば、円高が持続するというシナリオは想定しにくい。
2. 「アニマル・スピリット」(経済活動に影響を及ぼす人間の感情)が
生まれないこと。15 年にもわたるデフレは今も日本の投資家に心
理的な悪影響を及ぼしている可能性があり、その場合、投資家が
短期間のうちに行動を変革することは難しくなる。家計と企業は現
在約 1,203 兆円(約 10 兆米ドル)以上の現金を保有している。日
本国民が消費と投資に対する意識を変えられなければ、日本経
済の活性化は困難なものとなるだろう。
したがって、今後はコーポレート・アクションが著しく増加すると見られ
る。特に 2016 年は自社株買いと増配の気運が高まるだろう。
事実、最近はコーポレート・アクションに変化の兆しが見られる。2015
年 8 月、日本の株式市場は 8%下落した。海外投資家による日本株
の売越し額は約 2.4 兆円(約 200 億米ドル)となり、東京証券取引所
の統計開始以来、月次では最大の売越しとなった。一方で、国内投資
家は、個人、機関投資家ともに大量の日本株を購入した。特に、企業
は約 7,700 億円(約 64 億米ドル)もの自社株買いを実施している。こ
の金額も東京証券取引所が統計を開始してから最大の数字となった。
図 5:配当と自社株買いは 2016 年度に過去最高水準に達す
る見通し
12
Total dividends
Total share buy-backs
10
8
6
4
2
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16 (FY)
* 2015 年度および 2016 年度のデータは推定値
出所:日興アセットマネジメント(信頼性の高い情報源に基づく)
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8
波乱の幕開けとなった日本株の見通し
2016 年 1 月 19 日
る。一方で、日本では原材料費の低下も企業利益に寄与しているほ
か、日本の消費者は(おそらく他の国の消費者もそうであるが)輸入商
品価格の低下による恩恵を受けている(ただし、その一部は円安で相
主要資産市場の見通しは QE(量的緩和)と深く関わっているため、ま
殺された)。これに対し、最近のメディアによる報道やアナリストのコメ
ずはその点について説明しておく必要があるだろう。どの国について
ントでは、ECB(欧州中央銀行)の QE プログラムは企業利益の増加
も言えることだが、QE の成否を明言するのは明らかに誤りである。結
をもたらすことができなかったと指摘されている。しかし、QE が実施さ
局のところ、QE が実施されなかった場合を想定し、その想定をもとに
れなければ企業利益がさらに悪化していたのは間違いないと考えら
事態が好転したかどうかを経験論で推定することしかできないからだ。 れる。しかも、利益に関する問題の大部分はコモディティ価格に関連
その上で、QE が実施された国では弊害よりも利益の方がはるかに大
するものであり、したがって ECB が制御できない問題なのである。
きかったと考えられる。どん底に陥った 2009 年や数々の欧州危機を
思い起こしてもらいたい。
さらに、QE などのグローバルなファンダメンタル要因とは全く別物で
はあるが、日本がコーポレートガバナンスの構造改革を進めてきたと
直近では、QE(バランスシート上での保有資産の維持または資産の
いう点も重要である。筆者が以前執筆したレポートで示したとおり、コ
新規買い入れという形を取る)は過去最大級のデフレ要因に対処する
ーポレートガバナンスの改善は 10 年前に始まっていたが、その動き
上で役立った。その要因とは、中央銀行が制御できない部分で起きた
が広まったのはここ数年のことであり、アベノミクスや安倍首相がもた
事象、すなわちシェール資源の採掘である。重要な技術革新の後に
らした政治的安定による恩恵にも支えられて一段と強化された。企業
は好況と(デフレをもたらす)不況のサイクルが続くことが多いのだが、
利益に対する影響は極めて強く、利益最大化が続くとの市場の期待
世界で最も重要なコモディティであるエネルギーにこれほど深刻な影
感も重なって中期的な利益予想が押し上げられた。このことは株式の
響が及んだことはなかったと言ってよい。原油価格への影響は即座に
バリュエーションにとって極めて重要である。今やコーポレートガバナ
は生じなかったが、実際に影響が現れると、地政学的な要因とも重な
ンスの改善は主要課題となったが、改革の余地はまだ大きいため、こ
って原油価格は実に 80%も下落した。「日本やその他の国々では
うしたトレンドは今年も引き続き続くと見られる。
QE による物価押し上げ効果が生まれなかった」という主張を無視す
べき理由の 1 つはここにある。というのも、シェール資源の採掘は中
バリュエーションが適正である限り、どの市場でも株価を左右する最
銀には制御できない外的要因であり、QE が実施されなければ、イン
大の要因は企業利益である。この点について言えば、コモディティ価
フレ率はさらに低下していた可能性が高いからだ。実際、QE が実施
格が低水準で推移し、強力なコーポレートガバナンスが継続している
されなかった場合にはグローバルな恐慌が発生していたと考えられる。 ことから、日本の企業利益と利益予想は欧米をアウトパフォームする
認識しておくべき事実はほかにもある。デフレの特徴を示しているの
だろう。また、株式のバリュエーションも欧米より魅力的である。この 2
はコモディティと IT 関連財(品質調整後)のみであり、世界で最も重要
つの要因は、向こう 6 カ月において日本株がグローバル株式をアウト
な資産クラスである不動産は大幅なインフレとなっている。これは QE
パフォームすることを強く示唆している。日本は欧米よりも利益率が低
の影響によるところが大きい。
いために営業レバレッジが高く、グローバルな景気後退が生じた場合
の日本株の見通しはグローバル株式ほど力強いものではないにして
現在の株式市場において、QE の重要な側面の 1 つは企業利益に及
も、依然として比較的堅調であると当社は考えている。
ぼす効果である。もちろん、為替レートは QE の影響を受けるため、
QE が企業利益に与える効果を見極めるには QE の規模を各国で比
較することが重要であり、為替レートは企業利益に大きな影響を及ぼ
す。この点については、日本は近年、大規模な QE プログラムを実施
しており、欧米よりも大きな恩恵を受けているのは間違いない。また、
QE は金利費用を引き下げることから、多くの場合、設備投資と個人
消費は(少なくとも、QE が実施されなかった場合と比較すれば)増加
する。これも企業利益に寄与する要因である。
ジョン・ヴェイル、チーフ・グローバル・ストラテジスト
QE によって日本円の過大評価は解消され、信頼感は全般的に大きく
改善した。株式などの資産価格は上昇した。これはバリュエーション
指標が上昇したことも一因だが、主な要因は企業利益の増加である。
事実、日本では企業利益拡大への期待が依然として高い。一方で、こ
うした期待は新興国のみならず米国や欧州でも一貫して低下している。
これこそが、日本株が 2015 年に米ドルベースで世界の株式市場をア
ウトパフォームした要因であり、利益予想の乖離傾向が加速する中で
2016 年もその状況が続くと考えられる理由である。したがって、日本
企業の利益拡大につながる要因を全て理解することが重要なのであ
る。
幸いなことに、コモディティ生産の割合が比較的低い日本では、コモデ
ィティ価格が急落した過去 18 カ月においても、欧州や米国と比べて
企業利益がはるかに堅調であった。欧米では、企業利益のかなりの
部分を鉱業やエネルギー分野の多国籍企業が生み出している。また
米国では、エネルギー価格や農作物価格の下落により、エネルギー
企業が集中している地域や中西部の農業地帯が深刻な打撃を被った。
同様に、欧州の一部地域もエネルギー価格の下落による悪影響を受
けており、EU とロシアの相互経済制裁がこれに追い打ちをかけてい
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9
紅茶占いと原油価格予想 - 原油 20 ドル台は行き過ぎ
2016 年 1 月 22 日
タヌ-ジュ・ダット、ポートフォリオマネージャー
チュー・キット・クワ、株式アナリスト
図 1:原油価格(WTI、インフレ調整後、対数尺度)
お茶の葉は主に香り豊かな紅茶をいれるために使う。その考
え方に異論はないだろう。しかし、その用途に紅茶占いを加え
るとすれば、少し説明すべきことが出てくる。
紅茶占いとは、ウィキペディアの定義によれば、お茶の葉の模
様から将来を予測する占い術のことである。
ウィキペディアではさらにこう説明されている。
「茶こしを使わずにいれたお茶をカップに注ぎ、お茶は飲むか捨ててし
まう。その後ティーカップをよく振り、残った水分を受け皿にあける。次
に、ティーカップ内のお茶の葉の模様を見て、その形が何に見えるか
想像をめぐらせる。文字のように見えるかもしれないし、ハートや指輪
の形に見えるかもしれない。そしてその形を直感的に、あるいは標準
化されたシンボリズム(象徴的意味)に従って解釈する。例としては、
ヘビ(敵意や偽り)、シャベル(勤労がもたらす幸運)、山(前途多難)、
家(変化、成功)などがある。」
つまり、ほとんどのお茶の葉がティーポットの中で蒸らされた後、漉さ
れてゴミとして捨てられてしまう一方で、一部の高尚な役割を帯びた葉
は、占い師の見つめる中でしばしその場にとどまるというわけである。
その意味では、価格のチャートもお茶の葉に似ている。
金融資産の価格チャートは主に、過去から現在に至る価格の
推移を知るために使う。高級なダージリンの箱に記載される原
産地等の表記と同様に、それ以上でもそれ以下でもない。
いや、ちょっと待って欲しい。チャートにはもう 1 つ用途がある。テクニ
カル分析に長けたアナリストは、価格チャートを見て、そのパターンの
示すものに想像力(最近では計算力)を働かせる。こうしたパターンは
ある傾向や平均回帰、あるいはさらに複雑なものを示しているかもし
れない。アナリストはこのパターンを標準的なチャートのテクニカル分
析法に従って解釈し、将来の価格を予測する。
このように考えると、お茶の葉と価格チャートはある意味で似ていると
言える。そういった比較は 1 年の間でもこの時期に最も大きな意味を
持つ。金融のプロが向こう 1 年の株式市場、金利、コモディティ、通貨
の動向を懸命に予想し、レポートで発表する時期だからだ。
本稿では、年初に 1 年の市場見通しを立てるという慣習に則り、少な
くとも一部は価格チャートに基づいて 2016 年の金融市場に関する当
社の見解を述べたいと思う。
図 1 は、1948 年からの 1 バレルあたりの原油価格(WTI)を消費者
物価指数を用いてインフレ調整し、対数尺度で表したものである。
インフレ調整は、原油価格が表示される通貨の購買力の変化から生
じる価格比較上のゆがみを軽減するものである。対数尺度により、異
なる時期の価格変動を比較しやすくなる。
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出所:日興アセットマネジメント
原油価格の動向次第で今年の経済情勢に大きな影響が及ぶ可能性
がある。例としては、インフレ率の見通し、各中央銀行の金融政策、米
ドルやその他の通貨の値動き、米国エネルギー企業の設備投資や米
国企業全体の業績見通し、米国の高利回り債市場の動向と社債全体
への波及効果などがある。
原油価格自体が多数の経済要因やマクロ的な政治要因に左右されて
いるため、それを予測するのは至難の業である。向こう 1 年の原油価
格に対する専門家の予想は 1 バレルあたり 20 米ドル台から 60 米ド
ルまで幅があり、現状からさらに下落するとの予想も大幅に反発する
との予想もある。
このような幅のある原油価格予想を前に、当社は「原油価格チ
ャートそのものを紅茶占いのように読んでみたらどのような結
論が出るだろうか」と考えるようになった。しかし、有名な『銀河
ヒッチハイク・ガイド』の読者なら分かるように、重要な事柄(人
生、宇宙といったあらゆる事柄が持つ意義など)を尋ねる場合
には正しい質問をすることが重要である。
当社が考える正しい質問とは、「原油価格はどこまで下がるのか」とい
うものだ。その理由は、原油が反騰するよりもここからさらに大幅に下
落することの方が金融市場全体に大きな影響を与えると思われるか
らである。
結論から先に言えば、原油価格の底値は 30 米ドルから 35 米ドルと
考えるべきであり、したがって現在の価格下落は行き過ぎである。
手法
平均回帰とは、ファンダメンタル・アナリストとテクニカル・アナリストの
双方が支持する投資上の直感的手法である。図表 1 上の赤線で示し
た平均値が、あまりにも有名な 42 米ドルという数値である。
しかし、平均回帰を予測の手法として使うには、時系列のデータが何
らかの平均値に回帰する傾向が見られなければならない。例えば、正
弦曲線はゼロを挟んで変動するため、特に平均回帰との親和性があ
る。図表 1 は明らかにそうではない。原油価格が規則性をもって収束
するような水準があるようには見受けられない。過去 60 年間、原油
価格は急騰するか(70 年代、90 年代後半、2000 年代前半)、暴落し
ているか(80 年代、世界金融危機時、過去 2 年程度)で、その程度は
非常に激しく収束水準は常に変動しているように見受けられる。
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
10
紅茶占いと原油価格予想 - 原油 20 ドル台は行き過ぎ
しかし、過去の原油価格動向をさらに詳しく調べると、大幅な価格変動
を引き起こしているのは特定可能な外的要因(70 年代の中東石油シ
ョック、80 年代の供給過剰、90 年代の中国の高度成長、そして最近
の中国景気の減速)であることが分かる。
そのような時期を外すと、80 年代の供給過剰期の後から 90 年代後
半に中国の高度成長による価格上昇が始まる前までの 10 年間が残
る。現在の価格下落が中国経済の成長期待がしぼんだことに深く関
連しているとすれば、中国の高度成長が始まる前の平均値を参考に
すべきということが、直感的に言える。
 産出量の減少を食い止めるために投資した場合、十分な利益を
得ることができるのか
 本当にこの地域で操業を続けたいのか
大方の石油企業は、1 バレル 100 米ドルのときと異なり、1 バレル 35
米ドルの環境では「ノー」と言いたくなるだろう。この傾向は 2016 年を
通じて強まるはずだ。そうだとすれば、自然と減産が進み、市場はい
ずれ均衡を取り戻すと当社では考えている。
検証
現在の大幅なコンタンゴ(期先に行くほど原油先物価格が上昇する状
態)は、当社の見方が市場の予想から大きくは外れていないことを示
唆している。スポットの WTI がはっきりと 28 米ドルを割り込んだ一方
で、2017 年 3 月限月の先物は 35 米ドルを上回っている。2016 年下
半期には市場が反発するという見方からすれば、これは合理的な水
準と言える。
ここで申し上げたいのは、30 米ドルから 35 米ドルという範囲は、より
学術的な、ファンダメンタルに基づいた原油価格見通しとも整合的で
あるということだ。
それでも、なぜスポット市場が今も下げ止まらないのかという疑問に
は答える必要がある。当社は、それは元来、コモディティ相場とはたい
がいオーバーシュート(過剰に変動)するものだからと考えている。
石油の需要供給モデルは、需要の伸びの停滞と供給の増加によって
供給過剰が続くことを示唆している。OPEC(石油輸出国機構)内の駆
け引きを見る限り、加盟国が生産量を制限する動きは見られず、イラ
ンが石油市場に復帰したことで高水準の供給が続きそうだ。一方で、
損益分岐点を考えた場合、減産の動きがあるとすれば米国のシェー
ル石油企業など世界的に見て限界費用の高い企業から発生すると考
えられる。
今回が特に行き過ぎであるのは、人為的な低金利のために投資過剰
になった時期が長かったこと、OPEC による価格統制の時代が終わり、
地政学的な不安定さが増したこと、イランの石油市場復帰が懸念され
ていたこと、そして米国シェール企業が経営破綻を避けるために十分
な営業キャッシュフローを確保する必要があったことが原因である。と
はいえ、こうした行き過ぎの状態はいずれ供給過剰分をそぎ落とし、
平均回帰の動きを加速させると考えられる。
過去 10 年、コモディティのスーパーサイクルに加え、OPEC が効果的
に市場を「バランス」させてきたことにより、石油企業はコストの高い油
田を深く、大規模に掘削してきた。超深度の油田開発プロジェクトは 1
バレルあたり 90 米ドルを超える損益分岐点を前提に進められ、米国
のシェール石油やカナダのオイルサンドなどこれまで採算が合わなか
った資源も開発された。また、石油企業はそれまでカントリー・リスクが
高すぎると考えられていた地域にも進出した。
結論
1986 年から 1997 年にかけて、原油価格は 34 米ドル前後に平均回
帰する様子が確認された。したがって、相場の行き過ぎを考慮しても、
30 米ドルから 35 米ドルというのが目先の妥当な水準である。
長期的な価格推移と足元の需給状態を踏まえれば、原油価格は 30
米ドルから 35 米ドルが妥当な底値であり、現在の原油価格下落は行
き過ぎであると当社は考えている。それで納得もいくので、そろそろお
茶の時間としたい。
他のコモディティと違い、石油には「自然減」と呼ばれる概念がある。
毎年同じ数の製品を生産する工場とは違い、油田はそのままにしてお
けば原油産出量が年々低下していく。国際エネルギー機関によれば、
年間の自然減少率は 6.2%になる。米国シェール石油の減少率はさら
に大きく、バッケンで年に 47%、イーグル・フォードで 55%、パーミアン
で 22%になる。米国ではシェール石油が 2015 年度の産出量のかな
りの部分を占めた。石油企業はどのように産出量の減少を防ぐのか。
新しい油田を掘削するほど資金は必要になる。
原油価格の話に戻ろう。2014 年に原油価格が半分に下落したとき、
ほとんどの石油企業が不意をつかれた形になった。2015 年、大方の
スタンスは「様子見」であった。言うまでもなく、従業員は削減され、最
も生産性の高い油田に生産がシフトされ、業者の納入価格は引き下
げられ、プロジェクトの規模は見直されたが、頭の隅ではこれが一時
的な価格下落なのか長期的・持続的な下落なのかを見きわめようとし
ていたのである。成果の出やすい措置は実施され、ほとんどの石油企
業はコストを平均で 20%削減した。20%というのは十分な数字であっ
ただろうか。おそらくそうではないだろう。原油価格は 2015 年に 30%
下落し、2016 年に入ってさらに 20%下落している。
2016 年に入り、石油企業は 1 バレル 35 米ドルという価格だけでなく、
産出量の減少をめぐる資金・操業上の難問にも直面している。大方の
生産者が抱えている主要な問題は次の通りである。
nikkoam.com
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11
サウジアラビアはついにグローバル原油戦争を制するのか?
2016 年 1 月 27 日
サイモン・ダウン、シニア債券マネジャー
ダニエル・フォージー、シニア・ポートフォリオ・マネジャー
図 2:世界の原油需要 (百万バレル/日)
World Oil Demand m b/d
96
94.2
グローバル金融市場では、変動が極端に大きくなり、市場参加者が全
く新しい現実に適応する時がある。その 1 つが 2014 年後半であり、
過去最大規模の世界的な原油価格急落の始まりとなった。
94
92.9
92
91.3
90.4
90
市場は長年にわたり「ピーク・オイル」に注目してきた。ピークオイルと
は、枯渇水準の上昇や新規油層の掘削困難に伴う生産コストの上昇
により、増産しなければ総供給を維持できない状況を指す。
IEA (国際エネルギー機関) は 2008 年に発表した「世界エネルギー見
通し」の中で、世界の産油量上位 800 の油田の年間枯渇率が 5.1%に
上昇したと報告しており(その前の数年間は年 4.5%)、今後数十年に
わたり上昇し続けると予測した。 これは世界原油市場の需給バランス
が自然と毎年日量 400 万~500 万バレル程度引き締まることを意味
する。IEA はこの見通しの中で「割安な原油の時代が終わったことは
一段と明白になっている」と結論付けた。
だが、その背後では、19 世紀半ばに初めて発見された水圧破砕技術
がすでに普及しつつあった。IEA の報告から数年後、米国ではシェー
ルオイル革命が起こり、米国の原油生産は 2010 年の日量 120 万バ
レルからピーク時の 2015 年 3 月には日量 536 万バレルにまで拡大し
た。
図 1:米国のシェールオイル生産 (百万バレル/日)
US Shale Oil Production mpd
6
89.0
88.1
88
86
87.3
86.1
84.8
84
82
80
2008
2009
2010
2011
2012
4
3
2
1
0
2014
2015 (f)
2016 (f)
出所: OPEC の原油市場報告書、Oil Market Report、2016 年 1 月
さらに、需要の増加は広範に及んでおり、原油価格の下落に力強く反
応している。OPEC(石油輸出国機構)は、2015 年 1 月時点で 2015 年
の世界需要を 3.6%(日量 115 万バレル)増と予測していたが、2015 年
末には日量 153 万バレル増に上方修正した。2016 年の需要予測は
現時点で日量 130 万バレル増となっている。だが、IMF(国際通貨基
金)が世界経済の成長加速を予想し(2015 年の 3.1%に対し 2016 年は
3.4%)、原油価格が極めて低い状況では、OPEC の予測は控え目であ
る可能性も十分にある。注目すべき点として、中国では戦略的石油備
蓄の拡大措置により需要が 2016 年に 7,000 万~9,000 万バレル増加
する可能性がある(中国の備蓄能力は今年倍増すると予想されてい
る)。
Oil Demand
5
2013
Jan-16
Jul-15
Jan-15
Jul-14
Jan-14
Jul-13
Jan-13
Jul-12
Jan-12
Jul-11
Jan-11
Jul-10
Jan-10
Jul-09
Jan-09
Jul-08
Jan-08
Americas
(US)
Europe
Asia Pac
Total OECD
Other Asia
LATAM
ME
Africa
FSU
Other Europe
China
Total Non OECD
2014
24.2
19.4
13.4
8.2
45.7
11.4
6.6
8.1
3.8
4.6
0.7
10.5
45.6
2015
24.5
19.8
13.6
8.1
46.2
11.8
6.6
8.4
3.9
4.6
0.7
10.8
46.7
2016
24.8
20.0
13.6
8.0
46.4
12.1
6.7
8.5
4.0
4.6
0.7
11.1
47.8
Total
91.4
92.9
94.2
Change
2015
2016
0.3
0.3
0.4
0.3
0.2
0.0
-0.1
-0.1
0.5
0.2
0.4
0.3
0.0
0.1
0.2
0.2
0.1
0.1
0.0
0.1
0.0
0.0
0.4
0.3
1.1
1.1
出所:EIA (米エネルギー情報局)
周知のとおり、サウジアラビアはシェール革命に対抗するため、供給
過剰状態の市場で増産を続け、原油価格を大幅に引き下げる戦略に
出た。この点において、最近の原油価格低迷は過去の事例と決定的
に異なる。今回の場合、世界的な原油安を引き起こしているのは需要
減少ではなく供給増加である。事実、需要は 2009 年の金融危機時に
日量 8,480 万バレルに減少したものの、2016 年までには日量 900 万
バレル以上増加し、過去最高の日量 9,420 万バレルに達すると予測
されている。
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1.5
1.3
出所:OPEC (百万バレル/日)
これは民間予測機関(ゴールドマン・サックスなど)によっても裏付けら
れている。
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
12
サウジアラビアはついにグローバル原油戦争を制するのか?
図 3:2016 年の需要予測 - ゴールドマン・サックス
(千バレル/日)
図 4:米国のシェールオイル生産と稼働掘削施設数
US Shale Oil Production
US Shale Production b/d (LHS)
US Oil Rig Count (RHS)
2016 Demand Forecasts - Goldman Sachs
6
1,800
1,600
Total Africa
5
1,400
Middle East
4
Other non OECD
Asia
1,200
1,000
3
800
India
2
600
USA
400
1
200
Other
0
0
Jan-16
Sep-15
May-15
Jan-15
Sep-14
May-14
Jan-14
Sep-13
May-13
Jan-13
Sep-12
May-12
Jan-12
Sep-11
May-11
Jan-11
350
Sep-10
300
May-10
250
Jan-10
200
Sep-09
150
May-09
100
Jan-09
50
Sep-08
0
May-08
Jan-08
China
400
出所:ゴールドマン・サックス
出所:EIA
供給面では、2015 年に非 OPEC 加盟国の供給が(世界の需要増加
を日量 30 万バレル程度下回ったものの)増加した。 しかし、2016 年
は価格の低迷や投資の減少を背景に日量 66 万バレル減少する見通
しである。OPEC は 12 月に米国の生産予測を日量 17 万バレル減と
予測していたが、1 月の報告書では大幅に下方修正し、日量 37 万バ
レル減と予測している。
イランに対する制裁の大半が解除されたことで世界の原油供給は増
加すると見られる。イランは現在日量 280 万バレル程度を生産してお
り、日量 290 万バレルの公式生産能力を持っている。一方、イランに
は(数カ月前の 7,000 万バレルから減少したものの)5,000 万バレルの
原油在庫があると推定されており、これは過剰供給の影響が市場に
現れ始めていることを示唆している。さらに、イラン当局は 1 年以内に
生産を制裁導入前の日量 380 万バレルに戻せるとの見方を示した。
Non OPEC Oil Supply
Americas
(US)
Europe
Asia Pac
Total OECD
Other Asia
LATAM
ME
Africa
FSU
Other Europe
China
Total Non OECD
2014
20.08
12.96
3.60
0.51
24.19
2.60
5.01
1.34
2.36
13.55
0.13
4.29
29.28
2015
20.87
13.87
3.73
0.47
25.07
2.69
5.18
1.26
2.35
13.63
0.13
4.37
29.61
2016
20.43
13.50
3.67
0.45
24.55
2.72
5.22
1.23
2.33
13.46
0.13
4.37
29.46
Processing gains
2.16
2.19
2.20
Total
55.63
56.87
56.21
OPEC Production
36.77
38.00
38.60
Surplus/Deficit
1.04
1.98
0.63
Change
2015
2016
0.79
-0.44
0.91
-0.37
0.13
-0.06
-0.04
-0.02
0.88
-0.52
0.09
0.03
0.17
0.04
-0.08
-0.03
-0.01
-0.02
0.08
-0.17
0.00
0.00
0.08
0.00
0.33
-0.15
こうした供給余剰懸念から原油価格はすでに下落しているが、EIA (米
エネルギー情報局) は 2016 年末時点で日量 60 万バレルの増産が現
実的と考えている。イランの古い油田が急速なペースで自然枯渇して
いるほか、メンテナンス不足が悪影響を及ぼしているからである。
図 5:イランの原油生産 (千バレル/日)
Iran Oil Production mbd
4,000
3,800
3,600
3,400
1.21
-0.66
3,200
3,000
2,800
2,600
出所:OPEC (百万バレル/日)
2,400
2,200
Dec-15
Jun-15
Dec-14
Jun-14
Dec-13
Jun-13
Dec-12
Jun-12
Dec-11
Jun-11
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Dec-10
シェール油井のもう 1 つの特徴は高い枯渇率である。最近の原油価
格が投資拡大の阻害要因になっていることと枯渇率の高さを重ね合
わせれば、生産は 2016 年末には大幅に減少すると考えられる。実際、
12 月と 1 月に原油価格が一段安となる前ですら、米国のシェールオ
イル生産は 6 月~11 月の月間平均で日量 9 万バレル程度減少して
いた(しかも減少率は加速していた)。OPEC による米国の生産予測は
間もなく大幅に下方修正されるだろう。
Jun-10
Dec-09
だが、米国の稼働掘削施設数と生産量の関係を見ると(右図を参照)、 2,000
これでも楽観的な予測に終わる可能性がある。シェールオイル企業は、
油田サービス費用の低下や技術進歩による効率性向上にもかかわら
ず、生産コストが依然として高い。事実、足元の原油価格急落を受け
出所:ブルームバーグ
て追加投資の採算が合わなくなったところも多い。
OPEC 加盟国(イランを除く)の 2016 年の生産が 2015 年と変わらず
(当社はこのように想定している)、かつイランが平均で日量 60 万バ
レル増産する(年末には日量 100 万バレルに加速する)と想定した場
合、原油市場の過剰供給は世界の需要拡大を受けて現在の日量
200 万バレルから日量 60 万バレルに縮小すると見込まれる。
しかも、イランの増産が予想を下回り(当社はその可能性が高いと考
えている)米国の減産が予想を上回った場合、あるいは世界の需要が
(2015 年のように)現時点での予想を上回って推移する場合には、原
油市場は 2016 年末までに完全な均衡水準へと一段と近付くことにな
本文書末尾の免責条項をご確認ください。
13
サウジアラビアはついにグローバル原油戦争を制するのか?
るだろう。足元の水準を踏まえれば、市場が小幅な供給過剰にとどま
った場合でも、原油価格は上昇すると見られる。
最近の米国の政策変更
最近の米国の原油禁輸措置の解除はメディアで何度も報道されてい
るが、世界の需給バランスに与える短期的な影響は僅かであろう。米
国から欧州・アジアへの原油輸送費用や、ブレント原油と WTI(ウエス
ト・テキサス・インターミディエート)原油がこのところほぼ等しい価格に
なっていることを踏まえると、 禁輸措置の解除により米国の供給の増
加が促されることや米国産原油への需要が増加することは考えにくい。
それどころか、世界的な過剰供給や米国以外の地域での貯蔵能力が
小さいことを踏まえると、米国は今後も原油の純輸入国であり続ける
公算が大きい。禁輸措置解除の影響として、ブレント原油と WTI 原油
の価格差の季節変動が低下することや、米国の中西部から東海岸や
西海岸に通じるパイプライン・インフラの建設インセンティブが高まるこ
とが考えられる。
OPEC 対 IEA
上記のデータを踏まえると、「原油市場は過剰供給に溺れる恐れがあ
る」という IEA の最近の分析は極めて奇異に感じられる。IEA は全く別
のデータを見ているのだろうか、それとも完全に的外れな予測をして
いるのだろうか。いや、そうではない。IEA は 2016 年の世界の原油需
要を日量 120 万バレル増の 9,570 万バレル、非 OPEC 加盟国の供給
を日量 60 万バレル減と予測しているため、OPEC 加盟国の大幅な増
産を見込んでいることになる。
結論
米国のシェールオイルが世界の原油市場に恒久的な変化をもたらし
たことは間違いない。米国は新たなスウィング・プロデューサー(需給
の変化に応じて生産を増減させ、調整役となる国)となり、技術進歩の
おかげで費用を持続的に引き下げられる可能性がある。一方、サウジ
アラビアの戦略が効き始めていることも明らかだ。米エネルギー企業
の設備投資は過去 1 年で大幅に減少しており、原油価格が回復しな
ければ、多くの企業が破綻に追い込まれることになる。
2016 年の米国の原油生産は現時点での予測を下回るだろう。一方、
原油価格の世界的な下落により需要が力強く増加しているほか(需要
増が現時点での予測を大幅に超える可能性もある)、供給調整が起き
ていることから、年末には OPEC 加盟国産原油への需要が大幅に増
加する公算が大きい。
とはいえ、このプロセスは緩やかに進んでいることから、短期的には
貯蔵能力の低下(さらには払底)や過剰供給を巡る懸念が引き続き価
格を圧迫すると見られる。しかし、需給は徐々に引き締まり、2016 年
後半には 2017 年の供給不足予想により原油価格が大幅に上昇する
だろう。
勿論、シェールオイルの増産が供給不足の一部を埋め合わせると見
られるが、シェールオイル業界は原油価格の下落で痛手を被っており、
一部の企業は破産している。また、多くの企業はメンテナンス投資を
控えてきたため、設備の耐用年数が低下していると言われている。
2015 年のショックにより打撃を受けた銀行は、このセクターへの融資
に一層消極的になるだろう。したがって、増産は今後も価格の押し下
げ要因になり得るものの、価格の回復を妨げるほどにはならないと考
えられる。
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14
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