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Untitled - jamstec
平成20事業年度 写真で見る海洋研究開発機構のあゆみ
5月
横須賀本部の施設を一般公開
6月
大深度小型無人探査機「ABISMO」が世界で初めてマ
リアナ海溝水深1万m超の海洋~海底面~海底下の連続的試
料採取に成功
7月 今夏、3年連続となるインド洋ダイポールモードが発生
7月
新しい高圧培養法による生命の最高生育温度記録更新
と高圧メタン生成
7月
8月
深海底下に広がるアーキアワールドを発見
地球シミュレータを使って地球磁場生成の新しいメカ
ニズムを発見
黒色ガウジ帯
9月
地震時に断層内部で生じた高温の水の痕跡を世界で初
10月 高解像度映像が解き明かした深海クラゲの生態と役割
めて発見
12月 人工衛星を利用した深海探査機の遠隔制御試験に成功
12月
従来の定説より3億年前に酸化的大気が存在したこ
との直接的証拠の発見
2月
「JAMSTEC2009」開催
3月
第11回全国児童「ハガキにかこう海洋の夢コンテス
ト」表彰式
序
21 年 3 月から新システムの運用を開始しております。シミュ
レーションプログラムを実行する能力では、旧システムから
当機構は、平成 16 年 4 月 1 日の発足から、本年報でご報
告する平成 20 年度末にて、第 1 期中期計画の 5 年間を終えま
した。まさに光陰矢のごとしである 5 年間でございましたが、
2倍程度の向上となりますが、本格的に成果を出し始めるの
は平成 21 年度からとなります。
さらに、技術開発面では、6 年前に無人探査機「かいこう」
この期間を通して、当機構の研究機関としてのアクティビ
のビークルを失って以来、人類は、水深 1 万メートルへの到
ティは格段に活性化し、極めて高いレベルの研究成果を創出
達手段を失っておりましたが、当機構の技術を結集して開発
することができたと思います。これもひとえに国民の皆様の
した大深度小型無人探査機「ABISMO」が、水深1万メート
暖かいご支援のお陰です。この場をお借りしまして、深く感
ル超まで潜航し、試料採取に成功いたしました。また、深海
謝申し上げます。
巡航探査機「うらしま」は、船舶からの直接的な操縦や電源
さて、冒頭申し上げた当機構の 5 年間の発展は、地球科学
供給を受けない自走航行として、世界記録となる航行距離
分野における研究論文数の増加にも顕著に表れており、特に
317 ㎞を達成しました。
「うらしま」の記録樹立は、海中とい
被引用数は我が国でトップクラスとなっております。被引用
う閉鎖空間の中で、安全に発電することができる閉鎖式燃料
数の増加は、研究機関として質的な向上を目指してきた成果
電池の開発に成功したことが大きな要因です。
であると考えております。また、客観的な評価指標の一つと
この 5 年間では、これらのいわば通常の研究開発活動に加
なる科学研究費補助金の配分額につきましても、平成 16 年か
え、スマトラ島沖地震による緊急調査や、大陸棚策定に向け
ら平成 20 年にかけて大きく順位を上げており、様々な角度に
た調査など、社会にとって直接的な貢献となる事業にも注力
よるデータからも当機構の充実した 5 年間を振り返ることが
してまいりました。
できると考えております。
さて、この年報を発刊するころには、第 2 期中期計画が開
当機構は研究面ではもとより、他機関では保有することが
始されております。新たな中期計画では、これまでご報告し
困難な、大型の研究施設設備を多数保有し、技術的なノウハ
てきた当機構の成果、積み重ねてきたノウハウを活かし、研
ウを積み重ね運用しております。この中期計画期間では、地
究体制を中心に組織を再編し、さらなる発展と飛躍の 5 年間
球深部探査船「ちきゅう」の完成、運用開始が大きなトピッ
にしたいと思います。
クスとなりましたが、「ちきゅう」は、計画段階から 15 年の
また、研究面だけではなく、技術開発面にも一層力を入れ、
歳月を経て、本格運用が開始された我が国でもまれに見る大
研究とともに当機構の両輪としてバランス良く高めていきた
型プロジェクトであります。運用開始後の慣熟訓練を経て、
いと考えております。
日米欧を中心とした多数の国が参加する IODP(=統合国際
これらは、我々にとって新たな挑戦となりますが、職員一
深海掘削計画)の主力プラットフォームとして、平成 19 年度
同邁進してまいりますので、国民の皆様には、引き続きご支
から南海トラフにおいて、巨大地震発生帯を掘りぬくという
援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
人類史上初の大事業を始めることができました。本年報を製
作している間も、南海トラフにおける掘削は続いております
が、この掘削航海では、科学掘削史上初めてライザー掘削を
独立行政法人海洋研究開発機構
実施し、成功させることができました。
また、当機構の保有する世界トップクラスのスーパーコン
ピュータ「地球シミュレータ」が、気候変動のシミュレーショ
ンにより、IPCC(=気候変動に関する政府間パネル)第四次
報告書の作成に寄与し、IPCC のノーベル平和賞受賞にも大き
く貢献したことは、未だ鮮明に記憶されているところと存じ
ます。この「地球シミュレータ」は、地球科学分野を中心に
さらなる貢献を果たしていくためリプレースを実施し、平成
理事長
加藤
康宏
目
第1章
次
海洋研究開発機構の概要
1. 業務内容 ········································································································································7
2. 事業所の所在地 ····························································································································7
3. 資本金の状況 ································································································································7
4. 役員の状況 ····································································································································7
5. 職員の状況 ····································································································································7
6. 設置の根拠となる法律名·············································································································7
7. 主務大臣 ········································································································································7
8. 沿革 ···············································································································································8
9. 拠点紹介 ········································································································································8
10. 国際協力·····································································································································16
第2章
平成20年度実績報告
I 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するために取るべき措置
1. 海洋科学技術に関する基盤的研究開発
1.1 重点研究の推進
1.1.1 地球環境観測研究 ······································································································21
1.1.2 地球環境予測研究 ······································································································30
1.1.3 地球内部ダイナミクス研究 ·······················································································65
1.1.4 海洋・極限環境生物研究 ···························································································71
1.2 重点開発の推進
1.2.1 海洋に関する基盤技術開発 ·······················································································78
1.2.2 シミュレーション研究開発 ·······················································································85
1.3 研究開発の多様な取り組み
1.3.1 独創的・萌芽的な研究開発の推進 ···········································································92
1.3.2 共同研究および研究協力の推進 ···············································································94
1.3.3 統合国際深海掘削計画(IODP)の推進 ··································································99
1.3.4 外部資金による研究の推進 ····················································································· 100
2. 研究開発成果の普及および成果活用の促進
2.1 研究開発成果の情報発信 ································································································· 101
2.2 普及広報活動 ···················································································································· 101
2.3 研究開発成果の権利化および適切な管理 ······································································ 102
3. 学術研究に関する船舶の運航等の協力 ················································································· 103
4. 科学技術に関する研究開発または学術研究を行う者への施設・設備の供用 ··················· 107
4.1 研究船・深海調査システム等の試験研究施設・設備の供用 ······································· 107
4.2「地球シミュレータ」の供用 ··························································································· 119
4.3 地球深部探査船の供用等 ································································································· 120
5. 研究者および技術者の養成と資質の向上 ············································································· 121
6. 情報および資料の収集・整理・保管・提供 ········································································· 122
7. 評価の実施 ································································································································ 124
8. 情報公開···································································································································· 124
II
業務の効率化に関する目標を達成するために取るべき措置
1. 組織の編成および運営 ············································································································ 125
1.1 組織の編成 ························································································································ 125
1.2 組織の運営 ························································································································ 125
2. 業務の効率化 ···························································································································· 125
III 決算報告書 ··································································································································· 126
IV 短期借入金の限度額···················································································································· 126
V
重要な財産の処分または担保の計画 ························································································ 126
VI 剰余金の使途 ······························································································································· 126
VII その他の業務運営に関する事項 ································································································ 127
1. 施設・設備に関する計画
2. 人事に関する計画
3. 能力発揮の環境整備に関する事項
第3章
賛助会会員
1. 賛助会会員と寄付者名簿………………………………………………………………………128
第 1 章 海洋研究開発機構の概要
3.資本金の状況
区分
1.業務内容
( 1 )目的
独立行政法人海洋研究開発機構(以下「機構」という。)
(単位:百万円)
期首残高
当期増加額
当期減少額
期末残高
政府出資金
84,210
0
0
84,210
民間出資金
5
0
0
5
資本金合計
84,215
0
0
84,215
は、平和と福祉の理念に基づき、海洋に関する基盤的研究開
発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に
4.役員の状況
役
行うことにより、海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、
学術研究の発展に資することを目的とする。
(独立行政法人海
職
理事長
(常
氏
名
任
期
勤)
理
事
(
歴
日〜平成 21 年 3 平成 7 年 科学技術庁研究開発局長
月 31 日
洋研究開発機構法(以下「法」という。
)第 4 条)
経
加藤 康宏 平成 16 年 4 月 1 昭和 42 年 東京大・工学部卒業
末廣
〃
平成 11 年 科学技術事務次官
潔 平成 16 年 4 月 1 昭和 55 年 東京大・(院)博地球物理
)
日〜平成 21 年 3
月 31 日
( 2 )業務の範囲(法第 17 条第 1 項第 1~7 号)
修了
平成 8 年 東京大学海洋研究所教授
平成 11 年 海洋科学技術センター
深海研究部長
1)海洋に関する基盤的研究開発を行うこと。
〃
2)前号に掲げる業務に係る成果を普及し、及びその活用を促
(
〃
今村
努 平成 16 年 4 月 1 昭和 46 年 京都大・(院)工学研究科
)
日〜平成 21 年 3
月 31 日
進すること。
修了
平成 13 年 文部科学省研究開発局長
平成 14 年 科学技術政策研究所長
3)大学及び大学共同利用機関における海洋に関する学術研究
〃
(
に関し、船舶の運航その他の協力を行うこと。
〃
平
朝彦 平成 18 年 4 月 1 昭和 45 年 東北大・理学部卒業
)
日〜平成 21 年 3 昭和 60 年 東京大学海洋研究所教授
月 31 日
監
研究を行う者の利用に供すること。
平成 14 年 海洋科学技術センター
地球深部探査センター長
4)機構の施設及び設備を科学技術に関する研究開発又は学術
(常
事
瀧澤 隆俊 平成 20 年 4 月 1 昭和 47 年 北海道大・(院)理学研
勤)
日〜平成 22 年 3
5)海洋科学技術に関する研究者及び技術者を養成し、及びそ
月 31 日
究科修了
平成 13 年 海洋科学技術センター
海洋観測研究部長
の資質の向上を図ること。
平成 18 年 独立行政法人海洋研究開
6)海洋科学技術に関する内外の情報及び資料を収集し、整理
発機構
し、保管し、及び提供すること。
報部長
横 浜研 究 所 海洋 地 球情
〃
7)前各号の業務に附帯する業務を行うこと。
堀 由紀子 平成 20 年 4 月 1 昭和 38 年 立教大・社会学部卒業
(非常勤)
日〜平成 22 年 3 昭和 49 年 (株)江ノ島水族館代表取
月 31 日
締役社長
平成 13 年 海洋科学技術センター評
議員
2.事業所の所在地
本
部
横浜研究所
神奈川県横須賀市夏島町 2 番地 15
電話 046-866-3811
5.職員の状況
神奈川県横浜市金沢区昭和町 3173 番地 25
電話 045-778-3811
常勤職員定数は平成 20 年度末において 326 人である。な
青森県むつ市大字関根字北関根 690 番地
むつ研究所
高知コア研究所
電話 0175-25-3811
お、常勤職員数は、前期末比 2 人減少、0.6%減であり、平均
高知県南国市物部乙 200
年齢は 40.9 歳(前期末 42.5 歳)となっている。このうち、
電話 088-864-6705
1120 20th Street, NW, Suite 700S, Washington, D.C.
ワシントン事務所
20036, U.S.A
電話 202-872-0000
東京事務所
国等からの出向者は 2 人、民間からの出向者は 1 人である。
東京都港区西新橋一丁目 2 番 9 号日比谷セントラル
6.設置の根拠となる法律名
ビル 6 階
独立行政法人海洋研究開発機構法(平成 15 年法律第 95 号)
電話 03-5157-3900
沖縄県名護市字豊原 224 番地 3
国際海洋環境情報センター 電話 0980-50-0111
7.主務大臣
文部科学大臣
- 7 -
8.沿革
9.拠点紹介
・1971 年(昭和 46 年)10 月
経済団体連合会の要望によ
9.1 横須賀本部
り、政府及び産業界からの出資金、寄付金等を基に、認可法
海洋研究開発機構は、地球を海洋を中心とした一つのシス
人「海洋科学技術センター」設立
テムとして捉え、地球変動現象を解明するための研究開発を
・1990 年(平成 2 年)4 月
行っている。横須賀本部は当機構の本拠地として、地球環境
有人潜水調査船「しんかい 6500」
システム完成
・1995 年(平成 7 年)3 月
観測研究、地球内部ダイナミクス研究、海洋・極限環境生物
無人探査機「かいこう」がマリ
アナ海溝の世界最深部の潜航に成功
・1995 年(平成 7 年)10 月
研究等、地球システムに関する最先端の研究、技術開発等の
基盤的研究開発を進めている。
「むつ事務所」開設
また、それらの基盤的研究を支えるインフラとして、研究
・2000 年(平成 12 年)10 月
「ワシントン事務所」開設
船をはじめとする大規模な研究施設、専用岸壁を保有すると
・2000 年(平成 12 年)10 月
「むつ研究所」発足
ともに、それらを効率的に活用するための運用管理業務を
・2001 年(平成 13 年)3 月
「シアトル事務所」開設
行っている。
・2001 年(平成 13 年)11 月 「国際海洋環境情報センター」
開設
そのほか、人事、経理、総務、経営企画、コンプライアン
ス等の全所的な管理業務を行っている。
・2002 年(平成 14 年)4 月 「地球シミュレータ」世界最高
9.2 横浜研究所
の演算性能を達成
・2002 年(平成 14 年)8 月
横浜研究所は、地球環境変動の解明と予測、地球内部ダイ
「横浜研究所」開設
ナミクス研究を行う拠点として、世界最高レベルの「地球シ
・2004 年(平成 16 年)4 月
独立行政法人海洋研究開発機構
発足
・2004 年(平成 16 年)7 月
ミュレータ(ES)」を駆使し、地球環境予測研究、地球内部ダ
イナミクス研究などのシミュレーションの研究開発を進めて
海洋研究開発機構の組織を、4
きた。
つの研究センターと 3 つのセンターとして再編
・2005 年(平成 17 年)2 月
平成 20 年度に、理論性能で従来の地球シミュレータの 3
インドネシア・スマトラ島沖地
倍の性能を有する ES2 を導入した。
震調査を実施
・2005 年(平成 17 年)2 月
さらに横浜研究所は、地球環境情報に関するデータセン
深海巡航探査機「うらしま」が
ターの役割も担い、当機構における研究・観測活動で得られ
世界新記録航続距離 317km を達成
た様々なデータを集約、電子情報として管理し、最新の研究
・2005 年(平成 17 年)7 月
成果を広く一般に提供できるシステムを構築している。また、
地球深部探査船「ちきゅう」完
成
・2005 年(平成 17 年)10 月
・2006 年(平成 18 年)4 月
平成 19 年 9 月に本格運用を開始した地球深部探査船「ちきゅ
「高知コア研究所」設立
う」の運用を担う地球深部探査センターも横浜研究所におい
JAMSTEC ベンチャー支援制度
て業務を進めている。
発足
・2006 年(平成 18 年)8 月
「ちきゅう」掘削試験
・2007 年(平成 19 年)3 月 「しんかい 6500」が 1,000 回潜
航を達成
・2007 年(平成 19 年)3 月 「ワシントン事務所」に「シア
トル事務所」を統合
・2007 年(平成 19 年)9 月 「ちきゅう」による統合国際深
海掘削計画(IODP)南海トラフ地震発生帯掘削を開始
・2009 年(平成 21 年)3 月
「地球シミュレータ」更新
- 8 -
9.3 むつ研究所
下北半島津軽海峡側に位置するむつ研究所(写真 1)にお
いては、北太平洋時系列観測研究、海洋地球研究船「みらい」
の出入港および観測支援を行うとともに各種イベント等を通
して下北地域を中心に海洋科学技術の理解増進を行っている。
写真 2.ラブラドル海に放流する前の二酸化炭素分圧測定装置と
舷側からおろされる様子
( 2 )海洋観測研究の支援
海洋地球研究船「みらい」の 3 回の出入港、観測に用いる
トライトン・アルゴ等の機器の整備、採取試料の処理等の支
援を行った。
写真 1.「みらい」入港時のむつ研究所
( 3 )海洋科学技術の理解増進(普及・広報活動)
( 1 )むつ研究所における研究活動
むつ FM 局 FM アジュールの協力を得て、海洋科学技術・
北西北太平洋亜寒帯域の定点(Sta. K2、北緯 47 度、東経
研究に関する理解を深めるため毎週 15 分間、むつ研究所在住
160 度)に於いて、海洋における環境変動・変化を捕らえる
の研究者を中心に地域へ最新かつ基礎的な知見「海からの
ための北太平洋時系列観測研究を実施している。平成 20 年度
メッセージ」を発信した(本年度 51 回、通算 140 回放送)他、
は、「みらい」MR08-05 観測航海を行い、時系列観測点での
講演会等の開催を通して、下北地域に向け、海洋科学技術・
観測に加えて、秋季のベーリング海、北部北太平洋の化学物
研究の理解増進、むつ研究所の活動紹介を行った。
質の分布に関する情報の集積を行った。また、これまでの観
むつ市の要請により、子供達の海洋科学に対する関心と好
測から得られた試料の分析、解析を進め、初夏のブルーム期
奇心を喚起すると共に、海洋研究の重要性並びに機構に対す
の炭素の鉛直輸送が大きいことを Th-234 の非平衡量や DOC
る市民の理解促進のため、6 月に「しんかい 6500」入港記念
の解析から示した。その一方、北部北太平洋のように栄養塩
講演をむつ来さまい館で(来場者約 160 名)、
「しんかい 6500」、
が常に豊富にある海域においても再生産が関わり、炭素の鉛
「よこすか」船舶一般公開をむつ市大平岸壁で行った(来場
直輸送が制限されていることも示した。
(結果の内容について
者約 2,250 名)(写真 3)。
は「地球温暖化情報観測研究、物質循環グループ」に記載。)
また、海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費「地球観
測システム構築推進プラン」による「海洋二酸化炭素センサー
開発と観測基盤構築」
(受託研究)に関わる研究開発を行って
いる。平成 19 年度までに小型・軽量の漂流型の測定器(写真
2)をほぼ完成させ、平成 20 年度には、現場での観測が可能な
ことをラブラドル海、赤道域、南極海で示した。ラブラドル
海での観測からはラブラドル海域が生物生産の起きる夏季に
おいても二酸化炭素吸収域となることを示し、また、南極海
での観測からは過去に得られた知見と矛盾しない結果を得た。
写真 3.「しんかい 6500」一般公開
- 9 -
8 月には「地球温暖化と気候変動」をメインテーマに海洋
その他
地球研究船「みらい」とむつ研究所施設一般公開を開催し、
○FM 番組(毎週放送)(本年度 51 回、通算 140 回放送)
「みらい」の船内公開を中心に、海洋研究開発機構並びにむ
○「寄せ書きで作る My 学校の My アルゴフロート!」
(訪問
つ研究所の研究活動を広く地域の皆様に紹介した(来場者約
授業 7 月小学校 2 校)
950 名)。新しい試みとして、近隣の小学生に、アルゴフロー
○むつ市大畑地区の小中学校 3 校で訪問授業を実施(12 月)
ト実機(3 機)に寄せ書きをしてもらい展示した。また、市
○中学生職業体験受入(9 月 2 名、11 月 1 名)
内小学校に依頼し、トライトンブイに描く、海の夢をテーマ
○高校生職業体験受入(9 月 3 名)
にした絵画を募集し、応募作品の中から 1 作品をトライトン
○青森県の協力で関根浜・野牛の海洋環境モニター計測の実
ブイ実機(1 機)に描き展示した(写真 4)。なお、両観測機
施(通年)
器は実海域に設置され観測を続けている。
写真 4.むつ研究所施設一般公開の一コマ
写真 5.海洋環境モニター報告会
むつ市の小学生が描いた「海の夢」のイラストを描き写したト
ライトンブイ(右)と、当日寄せ書きされたトライトンブイ(左)
また、周辺海域(関根浜、野牛)で海水温の計測を行い、
取得データの示す変動について第 2 回海洋環境モニター報告
会(来場者約 160 名、写真 5)を通してむつ研究所周辺漁業
関係者に解説するとともに青森県水産総合研究センター発行
の「ウオダス」にデータを提供している。
さらに、むつ市教育委員会の協力により平成 19 年度に引
き続き、むつ市内の小中学校で海洋・環境に関わる授業を実
施した(写真 6)。
シンポジウム・一般公開の開催
○有人潜水調査船「しんかい 6500」潜水調査船支援母船「よ
こすか」記念講演&船舶一般公開(6 月)
○海洋地球研究船「みらい」およびむつ研究所施設一般公開
(8 月)
○むつ海洋・環境科学シンポジウム(11 月)
○海洋地球研究船「みらい」コック長の料理教室〜船で人気
のドライカレーを一緒に作ってみませんか!〜(12 月)
○海洋環境モニター報告会(2 月)
- 10 -
写真 6.むつ市立二枚橋小学校で行われた訪問授業
9.4 高知コア研究所
このような技術開発は、共同研究としておこなっている産
業技術総合研究所主導の「東南海・南海地震予測のための地
( 1 )活動概要
下水等観測施設に伴う掘削」プロジェクトなどにも活かされ
高知コア研究所(Kochi Institute for Core Sample Research)
ている。
は、地球深部探査船「ちきゅう」の国際運用の開始にあたり、
掘削コア試料冷蔵保管庫を併せ持つ研究機関として 2005 年
10 月に設立された。これにより掘削コア試料の分析と研究、
さらに保管およびキュレーションといった一連のプロセスを
行う中核的研究拠点として活動している。現在は 3 つの研究
グループと科学支援グループ、事務部門から構成されている。
( 2 )研究活動
地震断層研究グループ
本研究グループは、南海トラフ地震発生帯掘削
(NanTroSEIZE)、台湾チェルンプ断層掘削(TCDP)等にお
ける地震断層の掘削科学を推進し、断層岩を含む掘削コア試
料の各種物理・化学特性の測定、応力・歪等の計測を行い、
物質科学に基づいて地震断層に対する包括的な理解を目指し
て研究を進めている。
図 1.南海掘削ステージ 1 で採取されたプレート境界物質の摩擦係数(縦軸)
と断層すべり速度(横軸)の相関関係。含水条件下におけるプレート境界物質
の相対強度は、一般的な岩石の 1/3 程度であり、地震時のすべり速度ではほと
んど強度を失う。
2008 年度は、南海トラフ掘削計画に積極的に参画して、掘
削試料を用いた本格的な研究を開始した。南海トラフ・プレー
ト境界断層岩の摩擦係数を測定した実験の結果からは、含水
条件下におけるプレート境界物質は一般的な岩石と比較する
と著しく摩擦係数が小さいことが明らかとなった(図 1)。こ
の結果は、地震破壊が深部からプレート境界に沿って伝播し
てきた場合、プレート境界浅部ではエネルギー的に容易に断
層すべりが促進されることを意味している。海底面に表れる
断層すべり変位が、津波の規模を規定する一つの要因になり
うることから、今後南海付加体中に認められる分岐断層群に
おいても、すべり特性を決定していく必要がある。また、
NanTroSEIZE ステージ 1 のコア試料の応力解放に伴った非弾
図 2.非弾性ひずみ回復量測定に用いた海底下 912m から採取された掘削コア
試料および試料表面に貼付した測定センサーのひずみゲージ。
性ひずみの回復量を船上で測定し(図 2)、三次元地殻応力の
情報を得ることに成功した。この主応力方向の結果は孔内検
同位体地球化学研究グループ
層によるブレークアウトの結果とよく一致しており、付加体
同位体地球化学研究グループは、掘削試料の金属微量元素
と前弧海盆での応力状態が異なることを確認した。このよう
含有率・同位体比に基づき地球表層部における物質循環を解
な応力状態は、これまで予測されておらず、NanTroSEIZE ス
明するための基盤的研究を行なっている。今年度は、微量元
テージ 1 の最重要結果の一つとなった。
素含有率・同位体比の分析法開発を進めるとともに、断層岩
地震断層グループでは、現在、NanTroSEIZE ステージ 2・3
に向けて、南海トラフ掘削試料に特徴的な軟岩の各種基本物
および炭酸塩(サンゴ)の研究においても大きな成果を上げ
た。
性(熱伝導率、流体移動特性、動摩擦係数)を、精度よくか
地震時の断層の摩擦発熱により間隙水圧が上昇すると、断
つ簡便に測定するための試験機の開発・改良を進めている。
層の強度が大幅に低下し滑りやすくなることが従来から指摘
- 11 -
されていたが、実際に地震時の断層内部でそのようなプロセ
開発し、スライドローダーロボットを組み合わせた全自動細
スにより高温流体が生じた証拠は見つかっていなかった。本
胞定量システムを構築することに成功した。まず、蛍光色素
グループは地震断層研究グループと共同で、1999 年台湾集集
には二重螺旋 DNA への吸着特異性が高く、より強い輝度の
地震(M7.6)で活動したチェルンプ断層の掘削コア試料を分
蛍光を発する SYBR Green I 試薬を採用した。しかしながら、
析した。微量元素含有率・同位体比の変化を解析することで、
SYBR Green I を微生物細胞の含まれる地質試料に添加する
地震時の断層内部に 350℃以上の高温の流体が存在し、断層
と、細胞内の DNA だけでなく、堆積物内の鉱物粒子などに
岩と相互作用したことを世界で初めて示した。この成果は英
非特異的な吸着を起こし、細胞数を大幅に過剰計数してしま
国科学雑誌ネイチャー・ジオサイエンスに掲載された。
う問題に直面した。これらの非特異的な蛍光シグナルを、
また、小笠原諸島から採取されたサンゴ年輪の鉛同位体分
SYBR スパム(SYBR Green I-Stainable PArticulate Matter)と命
析に基づき、北太平洋地域のエアロゾルに含まれる鉛の供給
名した。SYBR Green I と細胞内 DNA が吸着した蛍光スペク
源・供給量の、過去 100 年間における変遷を明らかにした。
トルと SYBR スパムの蛍光スペクトルを分析したところ、前
エアロゾル経由で海洋に供給された鉛の同位体比が少なくと
者は SYBR Green I とほぼ同様の緑色波長域に極大を持つ蛍
も 19 世紀末以降、化石燃料の使用等、陸域における人間活動
光スペクトルパターンを示すのに対して、後者の SYBR スパ
の影響を受け始め、それを鋭敏に反映し変動したという新し
ムはそのスペクトルが長波長域にシフトしていることを突き
い知見が得られた。この研究には、本グループで培ってきた
止めた。そこで、緑色蛍光フィルターで透過した蛍光顕微鏡
微少量鉛の精密同位体分析技術の威力がいかんなく発揮され
イメージと、より長波長側のオレンジの蛍光フィルターで透
ている。
過した蛍光顕微鏡イメージをそれぞれ取得し、モレキュラー
広島大学との協定により 4 月から本グループの職員 2 名が
連携大学院の客員教員となり、研究・教育を開始した。
デバイス社の MetaMorph 画像解析ソフトを用いて演算した
ところ、あらゆる SYBR スパムのバックグラウンド蛍光を取
り除き、細胞内 DNA 由来の蛍光のみを選択抽出することに
成功した。さらに、本生命体検出法を MetaMorph マクロ
(ジャーナル)を利用して自動化することに成功した。
また、
本システムを多量の検体に対して効率的に運用させるために、
50 枚のスライドを自動搬送するスライドローダーロボット
と蛍光顕微鏡を組み合わせ、MetaMorph によって自動制御す
るシステムを構築した。SYBR Green I 色素の蛍光を長時間維
持するために、本システムを 15℃に設定した暗室冷蔵室内に
設置し、赤外線 LED と USB カメラを接続した動作監視シス
テムを組み合わせることによって、全自動細胞計数システム
図 3.チェルンプ断層コア試料の微量元素・同位体分析データ。断層すべり面
が含まれると考えられる 3 つの黒色ガウジ帯(図中の BGZ)で大きな組成変
化が認められた。
を完成させた(Morono et al., 2008)。本システムは、将来、地
球深部探査船「ちきゅう」による大深度掘削の際に、超高解
像度の連続的細胞計数を可能にし、信頼性が高く、乗船研究
地下生命圏研究グループ
者の肉体的負担を軽減しながら生命圏の限界点を探ることを
これまでの海底掘削コア試料における生命体の検出・定量
可能にするものである。さらに、海底堆積物コア試料のみな
法は、アクリジンオレンジ色素によって染色された微生物用
らず、陸域土壌や企業関連のバイオマス測定、火星などの地
蛍光体の肉眼顕微鏡観察に依存しており、その信頼度や検出
球外惑星からのサンプルリターン計画においても利用可能で、
限界に問題があった。地下生命圏研究グループでは、地球深
その応用・適用は極めて広範である。
部探査船「ちきゅう」による大深度掘削コア試料を用いて生
地下生命圏研究グループでは、統合国際海洋掘削計画
命圏の限界点を探るべく、超高検出感度の客観的生命検出・
(IODP)の南海トラフ地震発生帯プロジェクト(NanTroSEIZE)
定量法の開発を進めてきた。その結果、肉眼顕微鏡観察に依
に参加し、Expedition 315 と 316 で採取された海底下約 1.2 km
存しない、コンピューターベースの蛍光イメージ分析手法を
までの表層堆積物コア試料の微生物学的分析を進めている。
- 12 -
上述の全自動細胞計数システムを用いた微生物量測定の結果、
2009 年 2 月 26 日~27 日には IODP キュレーション会議を
南海トラフ地震発生帯の微生物量は、2006 年に「ちきゅう」
高知コアセンターにて開催した。会議には米国、ドイツ、韓
による下北沖メタンハイドレート域から採取された堆積物コ
国、台湾および日本のキュレーション関係者が一堂に会し、
ア試料にくらべて著しく少ない一方で、地震分岐断層を含む
掘削船航海スケジュールに合わせたキュレーション計画、バ
断層域において局所的に高い濃度の微生物が存在する事を明
イオアーカイブサンプルの取扱い等の懸案事項について協議
らかにした。現在は、堆積物コア試料中からの効率的な DNA
した。
抽出法の検討や、抽出された環境 DNA を用いた群集構造や
機能遺伝子の定量・定性解析、さらに単一細胞・単一系統レ
ベルでの基質代謝速度や遺伝学的特性を解明するための先端
基盤的技術開発に着手し、南海トラフ地震発生帯や下北沖の
地下生命圏の解明を目指した研究を進めている。
図 5.レガシーコア移管完了式
図 4.蛍光顕微鏡画像のイメージ分析による堆積物コア試料中からの微生物細
胞の検出。
(a)SYBR Green I 色素が細胞内 DNA に吸着した場合と、鉱物粒子などに非
特異的に吸着した場合(SYBR スパム)の蛍光スペクトルの違い。緑色フィル
ターとオレンジのフィルターを透過した 2 つの蛍光イメージを演算すること
で、細胞由来の蛍光シグナルのみを抽出し計数することが可能である。
(b)海
底堆積物に大腸菌を混在させた緑色フィルターの蛍光顕微鏡画像。
(c)同様の
オレンジフィルターの蛍光顕微鏡画像。
(d)イメージ演算後の蛍光顕微鏡画像。
SYBR スパムが取り除かれ、微生物細胞由来の蛍光のみが抽出された。
図 6.レガシーコアサンプリング風景
(3)キュレーション活動
JAMSTEC コア試料
IODP コア試料
機構の船舶で採取したコア試料について、海洋地球情報部
2007 年 9 月より実施してきた深海掘削計画(DSDP/ODP)
との協働により、2008 年 11 月よりキュレーションサービス
で採取されたレガシーコアの再配分が完了し、受け入れ担当
を開始した。過去に採取されたコア試料については、むつ研
海域のコア試料約 83km 分の保管、管理、サンプリング等の
究所や横須賀本部からの移管と整理を行い、コア試料のデー
キュレーションサービスを本格的に開始した(図 5.図 6)。
タ等の公開準備を進めており、計 2125 セクションのコアの管
また、2009 年 2 月にモラトリアム期間が終了した IODP 南海
理を行っている。2008 年度においては、「ちきゅう」試験航
トラフ掘削計画(NanTroSEIZE Stage1)のコア試料について
海(CK05-04・CK06-06)、「かいよう」KY03-11・KY04-11・
もキュレーションサービスを行った。2009 年 3 月までにレガ
KY05-08、「みらい」MR01-K03 のコア試料を公開した。
シーコア 105 件、NanTroSEIZE コア 2 件のサンプルリクエス
また、新たにウェブサイトを開設し、これらの試料の利用
トを受け付け、評価を行い、採取許可が下りたリクエストの
情報を公開した(図 7)。2008 年度末までに国内の研究者、広
サンプリングを行い研究者へ発送した(図 6)。
報活動関係者らより 7 件のサンプルリクエストを受け付け、
- 13 -
対応を行った。なお、ICDP(国際陸上科学掘削計画)に関わ
る国内プロジェクト(琵琶湖掘削・COREF:琉球サンゴ礁掘
削)との連携も行っている。
図 8.講演会場の様子
米国国立科学財団(NSF)の Arden L. Bement, Jr. 長官の視察
2008 年 10 月 8 日、米国国立科学財団の Arden L. Bement, Jr.
長官が高知コアセンターを訪れ、末廣潔理事、高知大学相良
祐輔学長らと懇談後、コア冷蔵保管庫、実験室などを視察し
た。
Bement 長官はまず、IODP キュレーターによる、コア試
図 7.JAMSTEC コア試料キュレーションのホームページ
料やその保管方法について、また、統合国際深海掘削計画
(IODP)のコア保管拠点のひとつである高知コアセンターに
( 4 )アウトリーチ活動他
ついて説明を受けた後、過去の深海掘削計画で採取されたコ
一般講演会の開催
ア試料(レガシーコア)が保管されているコア冷蔵保管庫、
2008 年 8 月 31 日、高知コア研究所では高知大学と産業技
急激な地球環境の変動を示すコア試料などを視察した。
その
術総合研究所と共催して、
「次の南海地震と津波について「考
後、バイオ実験室と極低温試料室、ICP 質量分析室を視察し
える」」と題した公開講演会を開催し、会場となった高知市文
た。
化プラザ「かるぽーと」には、約 300 名の一般参加者が来場
今回の Bement 長官の訪問は、IODP のコア保管拠点のひと
した。講演会は、
「掘削研究」をキーワードに、
「海から」
「陸
つである高知コアセンターの役割について理解を深めるとと
から」
「過去から」という異なる 3 つの視点から、次に起こる
もに、当研究所で行われている研究活動を知る機会となった。
南海地震についての研究成果を、高知県民の皆様に分かりや
すくお伝えすることを目的として開催した。最初に
東所長が
講演会の目的について説明し、平朝彦理事が、南海トラフの
特徴や地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフでの海
底掘削の最近の研究成果について講演し、続いて、産業技術
総合研究所の佃栄吉研究コーディネータ、高知大学の岡村眞
教授が講演した。
エントランスホールに設けられたポスター展示会場や講
演後の質疑応答では多くの質問を頂き、講演会参加者の南海
地震の研究成果に対する関心の高さが伺える講演会となった。
図 9.コア試料について説明する様子(左:Arden L. Bement, Jr. 長官、右:
Lallan Prasad Gupta 技術主任)
- 14 -
9.5 国際海洋環境情報センター
国際海洋環境情報センターの活動概要
国際海洋環境情報センター(GODAC:ゴーダック)は、沖縄
県名護市が推進する沖縄県北部地域での情報通信関連企業の
誘致、雇用創出及びマルチメディア分野の人材育成促進を目
的として整備され、管理委託を受けた当機構により、平成 13
年より運用している。当機構が所有する有人潜水調査船や無
人探査機で得られた貴重な深海映像や定期刊行物等の資料の
写真 2.深海ビデオキャスト
デジタル化、整理保存(デジタルアーカイブ)、提供を進める
文書情報デジタル処理業務として、JAMSTEC ニュース「な
とともに、海洋科学技術の理解増進のため施設・設備の無料
つしま」や「みらい」クルーズレポート等定期刊行物等のデ
開放を行っている。(写真 1)
ジタル処理・公開を 24,516 ページ行った。その他、航跡図や
第 10 回全国児童「ハガキにかこう海洋の夢コンテスト」入賞
作品、などの図面類のデジタル処理・公開を 326 枚実施した。
また、岩石データベースの構築支援、プレス発表資料デー
タベースの構築支援などデータベース関係業務、及び地球環
境ポータルサイトやサンゴ礁ネットワーク Web システムな
ど GODAC Web サイトの管理・運用を行った。
サンゴ礁ネットワーク Web システムにおいては、海洋研究
開発機構で行われた石西礁湖の研究成果を追加掲載した。
(写
真 3)
写真 1.GODAC 外観
なお、GODAC Web サイトへのアクセスは、約 154 万件で
デジタルアーカイブ(データの電子化と整理保存)と情報発
あった。
信
横浜研究所と連携して GODAC システム、高画質映像提供
システム、及びネットワーク・セキュリティの運用管理を行
うとともに、平成 19 年度より新たに海洋生命情報バンク基盤
システムの整備を行った。
デジタルアーカイブ業務の平成 20 年度の実績は、有人潜
水調査船「しんかい 6500」等で撮影された深海映像のエン
写真 3.石西礁湖研究成果サイト
コード処理 1,593 本、またショット割された映像データへの
各種情報を入力するインデキシング作業として 71,242 ショッ
海洋科学技術の理解増進(普及・広報活動)
ト処理し、平成 21 年 3 月末までに GODAC Web サイト(地
海洋科学技術への理解増進及び地元の方々への普及啓発
球環境ポータル)上で約 17,500 ショットの深海映像を公開し
を目的として、利用開放エリアの講義室や利用開放端末(パ
た。また、平成 21 年 1 月 15 日からは、従来の深海映像の高
ソコン)等の施設・設備を開放し地域の子供たちに利用して
画質でのショット公開に加え、深海映像をそのままの状態で、
もらうとともに、当機構の研究成果を中心とした映像やポス
MPEG-4 フォーマットによる簡易的に閲覧・ダウンロードで
ター・パネル、模型等各種コンテンツにより海洋科学技術及
きる新しいサービス「深海ビデオキャスト」を構築した。公
び地球環境変動に関する説明等を行った。随時利用開放エリ
開当初は「しんかい 2000」の 100~400DIVE の 300DIVE 分
アの展示物などのリニューアルを行うとともに、企画コー
の映像記録を公開した。(写真 2)
ナーでの特別展示を 4 回(
「美ら海のサンゴ礁」、
「地球環境予
- 15 -
測と地球シミュレータ」、
「海洋観測が支える地球温暖化予測」、
ゴ礁ネットワーク Web システム」に子供向けの「さんごきっ
「地球内部ダイナミクスと深海掘削計画」)実施した。11 月
ず」のページを開設し、サンゴ礁に関する普及啓発活動を積
24 日には、GODAC の施設一般公開を行い、482 名の来場が
極的に実施した。(写真 6)
あった。(写真 4)
写真 4.施設一般公開(IT こどもツアー)
写真 6.サンゴ礁ネットワーク Web システム「さんごきっず」
平成 20 年度の来館者は、13,631 人となった。8 月 3 日には、
来館者数 7 万人を達成した。
GODAC では、沖縄北部の小中高校、大学を中心とした職
また、一般の方々への海洋科学技術の普及啓発活動として、 場体験学習やインターンシップなどを 9 校
計 35 人を受け入
海洋科学技術に関するセミナーを年 4 回(6/29、8/17、11/24、
れるとともに、8 月には内閣府主催の「アジア青年の家」事
3/15)実施するとともに、子供たちを対象にビーチコーミン
業に協力し、施設の提供と地球環境変動に関するセミナーを
グと GODAC 所有の水中 TV カメラロボット「ニライカナイ
実施した。(写真 7)
150」操縦体験を組み合わせた海洋教室を実施した。さらに本
年度は、地球深部探査センターと共催で IODP(統合国際掘
削計画)のアウトリーチ活動の一環として実施されている
「SAND FOR STUDENTS」を沖縄で初めて実施した。
(写真
5)
写真 7.「アジア青年の家」事業
写真 5.「SAND FOR STUDENTS」
10.国際協力
その他、沖縄こどもの国ワンダーミュージアムや桜坂市民
大学の海に関するワークショップや、久志区文化祭、名護さ
気候変動をはじめとする地球規模の環境変動等の問題に
くらまつり、名護市立大北小学校親子ふれあいイベントなど
対応すべく、海洋の観測及び研究は、全球的規模での展開が
地元名護をはじめとする沖縄における各種イベントに展示な
求められている。
どの協力を行った。
こうした問題の解明に貢献し、また、海洋観測・研究をよ
また、2008 年は「国際サンゴ礁年」であり、沖縄県におけ
り効果的かつ効率的に推進していくため、国際共同計画の推
るサンゴ礁に関するイベント(「SAVE THE CORAL 2008」等)
進や国連機関・国際機関、海外の諸研究機関との良好な協力
やサンゴ礁保全推進協議会への参加、さらに 3 月には、
「サン
関係の維持及び構築を図っている。
- 16 -
( 1 )多国間国際協力への貢献
( 3 )政府間協力協定に基づく協力
国連教育科学文化機関(UNESCO)の政府間海洋学委員会
米国、英国、イタリア、インド、オーストラリア、カナダ、
(IOC)に対しては、関連会合に専門家を派遣し、活動の支援を
韓国、中国、ドイツ、フランス、ロシア、EU 等と日本の政
行うとともに、海洋法施行下での円滑な海洋観測・研究を遂
府間協力協定に基づき研究協力を行っている。
行するために必要となる国際的な動向の把握を行っている。
平成 20 年度に開催された主な政府間協力会合は以下のと
平成 20 年 1 月より、IOC の関連事業・会合に対する我が国の
おりである。
推進体制の強化を目的として、当機構内に「IOC 協力推進委
・平成 20 年 6 月
員会」が設置され、専門家による意見交換・各国際研究プロ
・平成 20 年 10 月
ジェクト等の検討が行われている。平成 20 年 5 月には、IOC
・平成 21 年 2 月
第 7 回日英科学技術合同委員会
協力推進委員会に WESTPAC 国内専門部会を設置するととも
・平成 21 年 2 月
第 3 回日南ア科学技術合同委員会
に、第 1 回会合を開催し、WESTPAC に関する対応を検討し
・平成 21 年 3 月
第 7 回日仏科学技術協力合同委員会
第 12 回日米地球変動ワークショップ
第 13 回日豪科学技術合同委員会
た。また、平成 20 年 11 月に第 1 回 IOC 協力推進委員会を開
( 4 )海外関係機関との協力
催し、今後の活動内容等を検討した。
さらに、当機構の主要観測調査海域の一つである南太平洋
米国、英国、インド、インドネシア、オーストラリア、カ
において影響力を有する SOPAC(南太平洋応用地球科学委員
ナダ、韓国、ドイツ及びフランスの各国関係機関と覚書や合
会)等に参加している。その他の海洋関連国際機関に対しても、
意書を締結し、これらの下で機関間研究協力を実施している。
必要に応じて研究者等を派遣し、その研究活動などに貢献し
また、世界の主要海洋研究機関のフォーラムである POGO(全
ている。
球海洋観測パートナーシップ)にも参加しており、平成 21 年
1 月 6 日から 8 日まで開催された第 10 回年次総会においては、
( 2 )国際共同計画
機構役員が議長を務めた。
当機構は以下に示す各国際共同計画に参画、活動への貢献
( 5 )その他
を行っている。
米国海洋大気庁(NOAA)/スピンラッド局長、レイン豪首相
・ARGO(高度海洋監視システム:The Array for Real Time
Geostrophic Oceanography)
夫人、韓国国立水産科学院/朴院長、米国国立科学財団(NSF)/
・CLIVAR(気候変動とその予測可能性に関する研究:The
ビメント長官、インドネシア技術評価応用庁(BPPT)/ヤナ次官、
Climate Variability and Predictability)
インド政府/チダムバラム首席科学顧問、メキシコ・エネル
・ GOOS( 全 球 海 洋 観測 シ ス テ ム : Global Ocean Observing
ギー省/エレラ・フローレス次官等、海外の政府・研究機関等
System)
からの来訪者があり、施設視察、意見交換等を行った。
国際会議等における機構紹介として、第 2 回 GEOSS アジ
・ ICDP( 国 際 陸 上 科 学 掘 削 計 画 : International Continental
Scientific Drilling Program)
ア太平洋(GEOSS-AP)シンポジウム(平成 20 年 4 月、東京)、
・InterMARGINS(国際大陸縁辺海域研究計画)
第 3 回南アフリカ・イノベーション・科学技術フェア
・InterRIDGE(国際中央海嶺研究計画:International cooperation
(INSITE)(平成 20 年 9 月、サントン)、米国立スミソニアン自
in ridge-crest studies)
然史博物館オーシャン・ホール(平成 20 年 9 月、ワシントン
・ IODP( 統 合 国 際 深 海 掘 削計 画 : Integrated Ocean Drilling
DC)、第 5 回地球観測に関する政府間会合(GEO)本会合(平成
Program)
20 年 11 月、ブカレスト)、豪州国立科学技術センター「クエ
・PICES(北太平洋海洋科学機構:North Pacific Marine Science
スタコン」20 周年記念展示(平成 20 年 11 月~12 月、キャン
Organization)
ベラ)、第 3 回 GEOSS-AP シンポジウム(平成 21 年 2 月、京都)
・GEOSS(全球地球観測システム:Global Earth Observation
等での展示協力を実施した。
System of Systems)
- 17 -
国名
アメリカ
研究機関
ウッズホール海洋研究所
(WHOI)
締結状況
2002.6.4~2007.6.3
(更新手続き中)
スクリプス海洋研究所
(SIO)
1996.12.19~
(5 年、自動更新)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
1)
2)
3)
4)
5)
共同研究項目
海洋地質学と地球物理学
極域研究
生物地球化学と炭素循環
海洋物理学と WOCE 測線再観測
固体地球の地球化学的進化
潜水船工学と安全
深海底観測ステーション
運営情報
海洋大循環と気候に関する研究
海洋音響トモグラフィーに関する研
究開発
太平洋海底プレートの歪みに関する
調査研究
深海環境への微生物の適応機構に関
する研究
海洋底における熱・物質フラックスに
関する研究
ラモント・ドハティ
地球観測研究所
(LDEO)
1997.12.7~
(5 年、自動更新)
1)
2)
一般的情報交換
科学的情報交換及び人的交流
(a) 海洋物理・海洋化学
(b) 海洋固体地球科学(海洋性地震と
海洋底掘削計画)
米国海洋大気庁
海洋大気研究局
(NOAA/OAR)
2008.6.19~2013.6.18
1)
工学技術、太平洋の大気海洋モニタリ
ング、データ・マネジメント、表示・
分析システムを含む TRITON BUOY
Network と TAO Array のメンテナンス
インドー太平洋域の熱帯海洋と気候
研究(科学的及び技術開発協力)
インド洋海洋観測システム(IndOOS)
への貢献
北太平洋の海洋と気候研究
北極域の観測
二酸化炭素・その他の生物地球化学的
センサー
津波研究
海底研究
地球環境研究のためのコンピュータ
モデリング
一般的情報交換
深海底生生物および中深海生物の生
態学的及び進化論的研究
ビデオ画像解析及びデータベースの
開発
深海観測装置の開発
一般情報及び科学情報の交換
海洋掘削
全球的海洋循環/気候変動
地殻変動の特性解析
深海生物圏における微生物学
ガス水和物
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
モントレー湾水族館研究所
(MBARI)
2008.3.18~2013.3.17
10)
1)
2)
3)
4)
1)
2)
3)
4)
5)
テキサス A&M 大学
(TAMU)
2007.10.23~2012.10.22
(5 年、自動更新)
ハワイ大学
(UA)
2004.4.1~2009.3.31
国際太平洋研究センター(IPRC)における
委託研究
アラスカ大学
(UA)
2004.4.1~2009.3.31
国際北極圏研究センター(IARC)における
委託研究
- 18 -
IODP 国際計画管理法人
(IODP-MI)
2004.10.1~2009.3.31
(5 年、自動更新)
IODP 国際計画管理法人(IODP-MI)との統
合国際深海掘削計画(IODP)活動の企画立
案及び実施に関する正式な枠組の確立
イギリス
サザンプトン海洋研究所
(NOCS)
2009.2.24~2014.2.23
インド
国立海洋研究所
(NIO)
2006.12.5~2011.12.4
1)
2)
3)
4)
5)
6)
1)
2)
地質学・地球物理学
海洋物理学
海洋化学
水中技術
大気・海洋シミュレーション
一般情報交換
気候研究に関連する海洋観測
一般情報交換
インドネシア
インドネシア技術評価
応用庁
(BPPT)
2006.7.11~2011.7.10
1)
2)
3)
熱帯海洋気候変動研究
海大陸域の気候力学研究
地質学・地球物理学及び生物学に関す
る深海研究
オーストラリア
豪連邦科学産業研究機構
(CSIRO)
2003.8.6~2009.7.31
カナダ
海洋漁業省
(DFO)
2000.3.20~
(自動更新)
海洋大循環に関する熱・物質輸送とそ
の変動研究
2) インド洋域での二酸化炭素収支に関
する研究
3) 南大洋におけるクロロフルオロカー
ボン類の分布
4) 一般情報交換
1) 北極海の海洋上層 200〜300m 層の海
洋気候変動に関する観測及びモデル
研究
2) 陸棚と海盆間での相互作用に関する
物理・科学・生物的観測及びモデル
研究
3) ベーリング・チュクチ・ボーフォート
海での淡水と化学成分の収支に関す
る観測研究
4) 陸棚及び海盆での氷厚分布の変動に
関する観測及びモデル研究
韓国
韓国海洋研究所
(KORDI)
2002.9.18~
(5 年、自動更新)
1)
1)
2)
3)
4)
5)
韓国地質資源研究院
(KIGAM)
2008.3.11~2013.3.10
6)
1)
2)
3)
4)
- 19 -
海溝弧縁辺海の地質学的・地球物理学
的研究
無人水中探査機に関する技術開発
深海生物群集
海洋深層水の利用
深海微生物の多様性と個体種の分離
法
一般情報交換
統合国際深海掘削計画(IODP)に関
連した研究
地震学の研究及び双方のデータ交換
のスキームの構築準備
コアサンプルの解析
その他
ドイツ
フランス
ポツダム地球科学
研究センター
(GFZ)
2006.10.5~2011.10.4
アルフレッド・ウェゲナー
極域・海洋研究所
(AWI)
1995.7.5~
(5 年、自動更新)
国立海洋開発研究所
(IFREMER)
2007.12.5~2012.12.4
- 20 -
ICDP(国際陸上掘削計画)の実施、管理及び
運営
深海研究及び深海技術
(a) 深海底環境研究・手法の開発
(b) 深海技術の開発
2) 極地科学技術
(a) 海洋物理学測器及び観測
(b) 極地海洋学及び関連係留技術
1) 海洋技術
2) 海洋モニタリング
3) 微生物
4) 深海底観測
5) 地球シミュレータによるシミュレー
ション研究
6) 大陸縁辺の生態系と熱水噴出孔
7) 一般情報交換
1)
第2章
Ⅰ
平成 20 年度実績報告
係留ブイ、Argo フロートを用いた観測活動は、国際的な研
国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上
に関する目標を達成するために取るべき措置
究計画である気候の変動性及び予測可能性研究計画
(CLIVAR)で支持され、係留ブイは国際的なブイ網構築計
画である RAMA 計画 に基づき米・印・仏・インドネシア等
1. 海洋科学技術に関する基盤的研究開発
の関係機関と連携してインド洋で展開している。また、Argo
1.1 重点研究の推進
フロートは全球的にフロート観測網を展開する国際アルゴ計
画(現在 22 の国・地域が参加)と連携して展開している。
1.1.1 地球環境観測研究
( 1 ) 気候変動観測研究
開発した小型で安価な係留ブイによりインド洋の長期観
測を開始するとともに、海面付近の水温・塩分を詳細に計測
する機能を付加した高精度ブイの試験的観測を行い、海洋上
層の水温・塩分を広域的・リアルタイム・継続的に測定した。
また、国際的な地球観測計画に貢献するため、北西太平洋を
中心に Argo フロート 80 基を展開し、国際的には全球 3000
基を超える Argo 観測網が構築された(図 1)。さらに、収集
した観測データの品質管理手法やデータやプロダクトの公開
を充実させ、研究等に供した。
図 2.インド洋ダイポールモード現象(左)と太平洋のラニーニャ現象(右)
における混合層の熱バランスの比較による冷却メカニズムの違い。前者では
東部インド洋の冷却には水平移流が支配的で鉛直過程は沿岸に限定的。一方、
東部太平洋の冷却は広域の鉛直過程の赤道湧昇が支配的。
図 1.2008 年 9 月の Argo フロートの展開状況。全球で 3189 個のフロート。
図中に紫色の点で示される我が国のフロート(359 個)は北太平洋を中心に
展開されているが、このうち約 85%が当機構のフロート。
ブイデータを用いたインド洋ダイポールモード現象(イン
ド洋双極変動、IOD) 発生時の東部インド洋の混合層の熱収
支から、冷却は主に水平熱移流が担い、鉛直過程は沿岸に限
定されることを示し、鉛直過程が卓越する東部太平洋の冷却
と異なる特徴を捉えるなど、インド洋双極変動の発生機構を
解明する基礎となる観測データの解析を行った(図 2)。また、
酸素センサー付 Argo フロート観測から北太平洋表層の溶存
酸素の季節・季節内変動と混合層の消長を調べ、大気・海洋
間の気体交換のメカニズムを明らかにした。
- 21 -
( 2 )水循環観測研究
が構築された。
水循環観測研究としては引き続き平成 20 年度に、シベリ
海洋大陸においては、観測とモデル解析の結合により、降
アからパラオ、インドネシアにかけてのタワー・AWS を用い
水日変化と多重スケール連関プロセスを解明した。2004 年 4
た陸域水循環の詳細観測、レーダー・GPS 等の観測ネットワー
月から 5 月にかけてスマトラ島を中心に実施した集中観測
クにおける大気観測を順調に実施し、水循環に関する良好な
データを用いて、西岸域から日周期で東西へ移動する雲シス
観測データを取得することが出来た。プログラムの共通項目
テムの内部構造とその移動プロセスを明らかにした。スマト
である同位体分析及びデータ公開を順調に実施した。
ラ島を中心とした地上気象連続観測結果から、スマトラ島の
また、本項目の研究推進にとって重要である WCRP の気候
山脈を挟んだ東西で降水分布の違いや、MJO と降水強度・日
と雪氷圏計画(CliC)、及びモンスーンアジア水文大気科学研
変化との関連について解明した。カリマンタン島では、地域
究計画(MAHASRI)の国際プロジェクトの推進を実施した。
モデル気候実験を行い、衛星で観測された対流日変化の特徴
取得データ等に関し、プログラムのホームページより、デー
の再現に成功し、局地循環と降水の日変化機構を解明した。
タ公開を引き続き積極的に推し進めた。
さらには、インドネシア「海大陸」が地球上で最多雨となる
原因について、島での長い海岸線が日変化する降水活動を強
広域水循環研究グループ
め、総降水量の多さに寄与しているとの仮説を提示した。
広域水循環グループではインドネシア、タイ、パラオ、ベ
インドシナ半島域では、高層観測によって水物質循環を明
トナム、ミャンマーにおいてゾンデ集中観測、地上気象、GPS
らかにした。上部対流圏におけるオゾンの季節内変動が、中
水蒸気量観測、水安定同位体観測、ドップラーレーダー観測
緯度の総観規模ロスビー波変動に対応して起こっていること
等を実施した。国際研究プロジェクト WCRP/GEWEX のモン
を解明し、また春季の下部対流圏において、高度 2km と 4km
スーンアジア水文気候研究計画(MAHASRI)およびアジアモ
に 2 層現れる気温逆転層に挟まれる形でオゾンが増大してい
ンスーン観測年(AMY)を国際的に先導して推進した。文部科
ることを見出した。(図 1)
学省地球観測システム構築推進プラン(JEPP)の「海大陸レー
文部科学省 DIAS データ統合プロジェクトに参加し、アジ
ダーネットワーク構築」
(HARIMAU)によって、これまで観
アモンスーン域の水循環に関連する資料の収集を実施し、そ
測的空白域であったインドネシア「海大陸」領域に、レー
の統合解析の準備を行うとともに、同位体データベースを構
ダー・プロファイラ網の構築を進め、ドップラーレーダー2
築した。また、インドネシア西スマトラにおいて、地上雨量
点(パダン、ジャカルタ)、ウインドプロファイラ 3 点(ポン
観測及びレーダー観測データを基に統合雨量データを作成し
ティアナ、ビアク、マナド)からなるネットワークを完成さ
た。また中部ベトナムでのレーダデータを解読し、現地に設
せた。本ネットワークによって、当該地域における大気循環
置している自記雨量計との合成データの作成と、そのデータ
の日変化から年々変動に至る多様な変化を解明する観測基盤
を用いた洪水予測モデルの構築にむけた研究を進めた。
図 1.ハノイにおけるオゾン混合比(左)および逆転層強度の指標となる温位の鉛直傾度(右)(数値が大きいほど逆転が強いことを示す)。
- 22 -
寒冷圏水循環グループ
中流域にかけて低気圧活動の強さが有意な正偏差を示す領域
東シベリアのティクシとヤクーツク、および北モンゴルの
が延びていること、そしてこれがシベリア側の北極海上での
特別観測領域における陸面過程の基本観測はほぼ欠測なく
非常に強い低気圧性偏差と関係していることも明らかとなっ
データ取得ができた。ティクシ、ヤクーツクの 11 年余り、北
た。
モンゴルの 6 年のデータ蓄積は、世界的にも最長の高緯度寒
2. 大陸上の積雪量分布の把握(図 3)
:ユーラシア大陸上の積
冷圏の陸面変動データと言える。山岳域雪氷に関しては、衛
雪は大気との関係、また水循環の一大要素として重要であり
星画像解析による氷河量推定、アルタイ山脈のモンゴル地区
ながら、積雪量が空間的に十分な精度では把握されていない
の氷河の現地観測の 3 年目を実施し現況が明らかになってき
のが現状である。東シベリア東部における高標高でのデータ
ている。また、観測船「みらい」の航海(2008 年 8~9 月)
をここ数年取得した結果、東から西へ内陸に行くに従い、高
においてサンプリングを行い、海域を含めた水同位体利用の
度に対する積雪水量の増加率は減少することが分かり、広域
研究を開始した。国際極年 IPY(2007-2009)に対応し、観測
積雪量推定や衛星アルゴリズム開発にとって重要となる知見
点での測定維持、また特別にトラバース観測を行うことによ
を得た。
り IPY への貢献ができ、IPY Legacy にも協力する体制が整っ
3. アルタイ山域の氷河の衰退の実態把握(図 4)
:世界氷河イ
た。主要な観測研究成果は以下である。
ンヴェントリーに未だ登録されていないモンゴル氷河に関し
1. 近年の東シベリア湿潤化の経過(図 2)
:長期の基本観測で
詳細解析・観測を行った。地形図・衛星画像を基に変動解析
得られたデータを活用し、2004 年以降の湿潤化に関する経過
したところ、50 年間で 30%程度の氷河面積減少、また氷河末
の監視を継続し、広域大気状況を把握した。2008 年も地温は
端が氷河によっては約 900mの大きな後退量を示しているこ
高レベルに維持されていることが見られ、大きな原因として
とが分かった。さらに、地域最大の氷河上での現場観測から、
秋季の積雪の開始時期の早まりが影響していることが分かっ
2007~2008 年の 1 年間に氷河の質量の 1%近い量が融解して
た。降水量増加の原因を調べたところ 2005~2007 年の夏季(7
いることも分かった。
~9 月)には、シベリア中央部の北極海沿岸地域からレナ川
4. 水同位体観測を北極海域へ拡張:東シベリアでの水同位体
図 2.ヤクーツク観測点・ヤクーツクでの諸陸面要素の長期変化。2004 年以降の顕著な地温の上昇、土壌水分増加、
および積雪深の維持が見られる。
- 23 -
図 3.東シベ
ベリア 3 箇所での、
、積雪水量の高度に対する増加。地
地域により増加率、
、勾配が異なることが分かる。
図 4.観測対象とし
しているアルタイ山脈・モンゴル地
地区の最大氷河・ポ
ポターニン氷河(上)
。
氷
氷河上の消耗域気象
象観測点(下・左
左)
、表面低下量の測定(下・中)
、と
と涵養域の堆積状
状態観察のためのピ
ピット(下・右)。
監
監視を継続する
とともに 20088 年の「みらい
い航海」でも水
水サン
プ
プリングを行い
い、海氷減少・海水面拡大に
に伴う高緯度水
水環境
の監視を開始し
した。北極域を
を中心とした水
水循環変化の影
影響が
てきた。
同位体組成にも現れていることが分かって
大
大気対流システ
テムグループ
パラオ域を中
中心とする集中
中観測を実施す
するとともに、ドッ
プ
プラーレーダー
ー等による大気
気に関する連続
続観測を継続し
し、雲
解
解像モデル開発
発に資する高精
精度の観測デー
ータを取得した
た。図
5 は発生期の台
台風の観測事例
例で、初期渦の
の力学過程を捉
捉える
図 5.PALAU2008 で観
観測された発生期の
の台風。衛星雲画像
像、レーダー、地上
上風。
ことができた。
- 24 -
( 3 )地球温暖化観測研究
図 2 は 2008 年 9 月に CTD/XCTD 観測から得られた北極海
本年度は第一期 5 ヵ年中期計画の最終年度であった。この
の表層水温を示している。2008 年は早くから開水面となって
ため、次期 5 ヵ年中期計画における観測航海の決定、大綱的
いたカナダ海盆を中心として、表層水温が+3℃以上になって
指針に基づく外部評価のための資料作成など、例年に比べて
いることが分かる。アラスカ沖のカナダ海盆域における表層
かなりの量の事務作業をこなすこととなった。しかしながら、
水温の経年変化(図 1)が示すとおり、水温の上昇は 2007 年
北極気候システムグループ、物質循環グループ、古海洋環境
の急激な海氷減少から顕著になっており、海氷の減少が太陽
復元グループにおいては、それぞれの既定の計画に基づいて
放射の吸収を促進し更なる海氷融解につながるアイス・アル
観測、試料分析、データ解析の作業を順調に実施し、以下に
ベド・フィードバックが進んでいることが観測結果から示唆
記すような成果をあげることができた。
されている。
北極海気候システムグループ
国際極年(IPY)による国際連携の下、海洋地球研究船「みら
い」による国際極年・北極観測(MR08-04)を実施した。こ
の航海で「みらい」は日本の研究船が観測を行った最北端記
録を更新し、北緯 78 度 54 分まで到達した。これに加えて、
カナダ沿岸警備隊砕氷船ルイサンローラン号、ドイツ・アル
フレッド・ウェゲナー研究所砕氷船ポーラーシュテルン号に
よる観測航海にも参加し、
「みらい」と合わせて北極海を広く
カバーする観測結果を得た。
北極海での海氷の急激な減少と関連して、我々のグループ
ではこれまで海洋の熱の影響を調べてきた。今年の観測結果
を加えてこれまでの観測データをまとめた結果、2007 年の海
氷面積の大幅な減少以降、北極海にできた広大な開水面に吸
収される太陽放射によって海水温が大きく上昇していること
が判明した(図 1)。
図 2.2008 年 9 月の北極海表層水温の分布
(ポーラーシュテルン号航海より)。海氷がなくなった海域が+3℃以上の
水温になっている。
背景は 2008 年 9 月 15 日の海氷分布を示す。
また、これまでの観測データを解析した結果、海氷減少に
伴う太平洋側北極海の生物活動の変化に関する成果を発表し
た。これまで海氷減少域では海水中の光の強化によって生物
活動が増大することが予想されていた。しかし 2004 年の「み
らい」北極海航海で得られたデータからは植物プランクトン
の分布が海洋減少域においても非一様であることが分かり、
生物活動の増大には海氷減少だけでなく有光層への栄養塩供
給が必要であることが Nishino et al. (2008)で示された。有光
層への影響塩供給の起源は、東シベリア海陸棚域であること
が推測される。東シベリア海は栄養塩濃度も高く、河川水の
影響が大きいからである。今後は、現在進行形である北極海
図 1.(上)北極海の 9 月の海氷面積の変化(Inoue and Kikuchi, 2007 を更
新)
(下)アラスカ側カナダ海盆の 9 月の表層水温の変化。1997 年の水温上昇と
ともに、最近の海氷面積の減少と関係した 2007 年以降の急激な上昇が分
の海氷減少に伴う生物地球化学的応答を明らかにするために、
東シベリア海からマカロフ海盆に注目する必要があることを、
この結果は示唆している。
かる。
- 25 -
物質循環グループ(むつ究所研究グループの成果を含む)
類の増殖に依っていると考えられている。このことは珪藻類
「みらい」による観測航海、MR08-05 航海を実施するとと
による硝酸塩消費が活発であることを意味しているが、観測
もに K2 集中観測航海(MR06-03 航海、2006 年初夏に実施)
中に 1µM を超える高濃度のアンモニアが検出され、小型植物
のデータの解析を行い、物質循環に関する知見を得た。
なお、
プランクトンに端を発する微生物食物連鎖による栄養塩の再
MR08-05 航海は、動物プランクトン、微生物の研究者が参加
生が活発であることが示唆された。基礎生産において硝酸態
し、物質循環と生態系との関わりについての研究が行われた。
窒素を利用する新生産の割合(f-ratio)もアンモニア濃度の増
K2 集中観測時の天然放射性核種²³⁴Th から見積もられる
加と共に減少する傾向を示し(図 3)、光が十分に届く範囲に
表層 100m からの POC フラックスは平均 102 mgC m⁻²day⁻¹
おいても、1µM を超えるようなアンモニアの存在下ではほぼ
(最大 238 mgC m⁻² day⁻¹)と高く、chlorophyll a 及び
新生産ではなく再生産が行われることが示される。即ち、こ
fucoxantin(珪藻由来の光合成色素)濃度がそれぞれ最大で
の知見は、再生産の増加は極微小な植物プランクトンである
1.3 µg L⁻¹及び 0.4 µg L⁻¹と高いことから、この高い POC フ
ピコ植物プランクトンの増殖と原生動物等の微小動物プラン
ラックスは、珪藻の増殖によるものであると推定される。混
クトンによる捕食、さらにその排泄物を分解するバクテリア
合層中の DOC 濃度は、0.10 ± 0.03μmol kg⁻¹day⁻¹で増加し、 を介した表層での微生物食物連鎖が機能していることを示唆
有機物生成時に利用される炭素とリンの比(C/P=106)とリ
している。アンモニア濃度の増加に伴う珪藻の減少を示唆す
ン酸塩濃度の変化から見積もられる純群集生産(NCP、0.63
る観測結果も得られており、硝酸が豊富に存在する状況下で
± 0.05μmol kg⁻¹day⁻¹)に対する DOC 生成の割合は、16 ±
もアンモニアを利用しやすい小型植物プランクトンの増殖に
5%で、富栄養海域であるロス海、赤道域のそれ(10~20%)
有利な環境があることを示している。この知見は、北西部北
[Hansell and Carlson 1998]と同程度であった。また、懸濁態
太平洋亜寒帯域のように硝酸塩が豊富な海域においても生物
POC 濃度に変化が見られないことから、NCP 増加と DOC 増
生産の高い時期においてもアンモニア取り込みによる再生産
加の差から、表層混合層から沈降粒子として輸送される POC
が起こり、珪藻類による高い生物ポンプ能力、即ち炭素の鉛
フラックス(輸出生産)を見積もると、0.53 ± 0.06μmol kg
直輸送に影響を与えていることを示している。今後、物質循
⁻¹ day⁻¹となり、²³⁴Th から見積もられるフラックスと概略
環(炭素輸送)を考える上で重要な情報となる。
一致した。NCP に対する輸出生産の割合は約 80%と大きく、
春期ブルーム時に生成された有機炭素の多くは粒状有機炭素
古海洋環境復元研究グループ
(POC)として素早く下層へ輸送されることがわかった。
北西太平洋、オホーツク海、日本海における海底堆積物の
北西部北太平洋は前述したように夏から秋にかけての沈
記録から、過去の 1000 年程度の周期で繰り返された気候変動
降粒子フラックスが非常に大きく、それは珪藻類等の大型藻
に連動した偏西風流軸、モンスーン強度、オホーツク海水温、
北太平洋中層水(NPIW)循環の変動について 5 年間のとり
まとめを実施した。最終氷期最寒期(LGM:19,000 年前から
23,000 年前)以降の海洋環境の変化は、図 4 のようにまとめ
られる。(a)現在(図 4a)、北西部北太平洋高緯度域は、基
礎生産が高い。NPIW は中層(500−800m)に分布し、オホー
ツク海がその主要な起源域となっている。
(b)LGM(図 4e)、
水深約 2000m の水塊は栄養濃度が低く、表層では現在よりも
生産性が低かった。下北沖(NPIW の下流域)では中・深度
層における循環は現在より停滞し、中層水の形成が不活発
だった。オホーツク海では海氷およびポリニア形成の抑制に
より、高密度水形成量の減少とその北太平洋への供給が減少
したことが原因と推測される。(c)融氷期、B/Å(図 4c)に
図 3.有光層(1%)以浅におけるアンモニア濃度に対する f-ratio
●は 20m 以浅からのデータであることを示す。
おいては、ベーリング海及びオホーツク海において急激な炭
酸カルシウム含有量の増加が見られた。これは、北大西洋熱
- 26 -
水の形成量も現在より多かったのではないかと推測される。
以上、プロキシーの結果から提唱した 1000 年スケール気
候変動の伝播メカニズムを検証するため古気候モデルと連携
して解析した。その結果、モデルの結果はおおむねプロキシー
の結果と調和的であった。ただし、部分的に異なった結果も
得られている。今後、これら相違点も含め、複数モデルとデー
タを総合した解釈を行っていく予定である。
図 4.北西部北太平洋高緯度域およびオホーツク海の中・深層における水塊や
基礎生産の特質を時代ごとに図示したもの (a) 現在、(b) Younger Dryas, (c)
Bølling/Ållerød, (d) Heinrich Event 1, and (e) the Last Glacial Maximum, in high
latitudes of the western North Pacific and the Okhotsk Sea. 緑色の楕円の大き
さの変化は基礎生産の相対量変化を意味する。OMZ とは酸素極小層(Oxygen
Minimum Zone)。NPIW とは北太平洋中層水(North Pacific Intermediate
Water)。GPDW とは氷期における北太平洋深層水(Glacial Pacific Deep
Water)。
塩循環が再スタートしたことに端を発する北太平洋高緯度域
の PDW(高栄養塩水塊)の湧昇によって生産性が高まったこ
とが理由の一つと考えられる。この時代の PDW は恐らく炭
酸イオン濃度が高く、海底での炭酸塩の保存に効果的であっ
たと考えられる。また、中・深度層の循環は停滞し、酸素極
小層は現在の水深 1000m よりも浅層および深層へとその分
布範囲が拡大していたと推測される。
(d)H1(図 4d)および
YD(図 4b)には、中・深度層循環が活発で表層から高酸素・
低栄養塩水が沈み込んでいたため表層は貧栄養塩環境であっ
たと考えられる。この時期、オホーツク海の表層は低温高塩
水塊で覆われ、海氷およびポリニア形成が活発化し、高密度
- 27 -
黒潮
潮輸送・海面フ
フラックスグル
ループ
環観測研究
( 4 )海洋大循環
大
大循環力学グル
ループ
さらに、本州南
さ
南方の黒潮域及
及び黒潮再循環
環域でこれまで
でに
大洋スケール
ルでの熱、溶存
存物質と輸送量
量の 1990 年以
以来の
得た
た水温、塩分、流向・流速等
等のデータを用
用いて求めた四
四国
変
変化を見積もる
べく、これまでの大洋縦横
横断観測により蓄積
南方
方海域の黒潮通
通過流量と熱輸
輸送量の時系列
列データを、人
人工
された水温、塩
塩分、化学物質
質濃度等のデー
ータ及びウェー
ーク深
衛星
星海面高度計デ
データを用いて
て拡張し、15 年間の時系列デ
年
デー
海
海水路の観測デ
データを用いて
て全球の貯熱量
量変化を算出し
した結
タセ
セットを得た。黒潮通過流量
量では年変動成
成分が卓越し、そ
果
果、南大洋、太
太平洋、インド
ド洋、大西洋の
の深層において
て貯熱
の振
振幅が年々変動
動していること
とを発見した。また、黒潮続
続流
量
量が増加してい
いることを発見
見した(図 1)。また、四次元
元変分
及び
びその周辺海域
域での海面係留
留ブイ、観測船
船、ボランティ
ィア
法 による海洋全
全層再解析モデ
デルを利用した統合的な循
循環解
船等
等による海面熱
熱フラックス(単位時間・面
面積当たりの海
海面
析
析を行い、この
の 40 年間の全球
球での水・熱輸
輸送を推定した
た。
熱交
交換量)等の観
観測を継続し、海面熱交換量
量を直接求める
ると
とも
もに、衛星デー
ータから黒潮続
続流域の広域で
での海面熱交換
換量
を算
算出する手法の
の妥当性を評価
価し、海面熱フ
フラックスを推
推定
した
た(図 3)。
図 1.海洋深層(4000
0-5000m)のにおけ
ける貯熱量変化。赤
赤が超熱量が増えて
ている
海域
域。紫の矢印は太
太平洋における深層
層水の北上経路を示
示す。
図 3.新たな手法で衛星
星データから構築さ
された潜熱フラック
クスの冬季の分布図
図。
化
化学トレーサグ
グループ
単位は
は W/m2.
人為起源 CO2 の蓄積率を算
算出し、蓄積率
率が海盆毎に異
異なる
ことを明らかに
にし(図 2)、さらに人為起源 CO2 が海洋の
の底層
へ達していることを発見した
へ
た。
0.5
0
0.6
±
±
0.1
1.0
±
0
0.1
0.1
1.00
±
0.4
図 2.人為起源二酸化
化炭素の蓄積率。単位は mol/m2/ye
ear. 蓄積率は海盆
盆ごと
に異
異なり、インド洋
洋や南太平洋で大き
きい。
- 28 -
( 5 )海洋・陸面・大気相互作用統合研究
・ エルニーニョやモンスーンに大きな影響を与える現象とし
・ パラオ域の集中観測を実施し、熱帯低気圧や季節内振動な
て MJO に代表される季節内振動が重要であることから、
どの発生・発達が当領域のエネルギー・水循環に重要である
MISMO2ワークショップを実施し、インド洋における MJO
ことを示した。また、当領域における台風の発生がマッデ
の発生機構に関する理解を深め次期観測計画について議論
ン・ジュリアン振動(MJO)1の通過と同期することを明ら
した。
かにした(図 1)。
・これまでの予備的観測をもとに、次期中期計画における総
合的観測計画案の提案を行い、国際的なフレームで長期
的・広域的な観測網の構築の準備を行っている(図 2)。
(a)
(c)
(b)
(d)
(e)
(f)
TY
MTSAT TBB
Micro Wave rainfall
(composite)
TIME
TIME
TY
V anomaly
MTSAT TBB
Microwave rain
(composite)
U anomaly
図 1.2008 年 5 月から 7 月までの 2.5 N-12.5 N 平均(a、b、c)と 5 S-5 N 平均(d、e、f)の Hovmöllor 図(横軸:経度、縦軸:時間、ただし
時間は上から下へ向いている)。衛星による雲画像(a、d)、降雨(b、e)、南北風(c)、東西風(f)。 (c)の西進する擾乱に注目すると、赤道上で東進
する擾乱(MJO)が来たときに台風(TY)が発生している。
図 2.2006 年実施した MISMO 等から得られた MJO の概念図。より詳細な実態を把握するために、船舶、島、ブイ等で長期的かつ広域で観測
する必要があり、次期観測計画では国際的なフレームで観測網を構築する予定である(CINDY 2011)。
1
Madden-Julian Oscillation。赤道域を東進する大規模擾乱であり、
30-60 日周期で振動する。この擾乱はエルニーニョの発生に多大な
影響を及ぼすことなどに代表されるように、熱帯域だけでなく中
緯度帯までの広範囲に影響を与えることが知られている。
2
Mirai Indian Ocean cruise for the Study of the MJO-convection Onset の
略。2006 年秋に海洋地球研究船「みらい」を利用して熱帯インド
洋モルディブ諸島域を中心に実施された大気・海洋の集中観測。
- 29 -
境予測研究
1.1.2 地球環境
2008
8 年の 3 年間に
に続けて発生した正の IOD では、オース
スト
ラリアだけでも数
数十億円の損失
失を被ったとの
の報告もある。本
動予測研究
( 1 )気候変動
ログラムでは、このような社
社会経済的イン
ンパクトの大き
きな
プロ
本プログラムは、これまで
で自然起因の気
気候変動のメカ
カニズ
熱帯
帯域の気候変動
動モードに伴う
う大気海洋系の
の詳細な変動機
機構
研究というテー
ーマに取り組む
む中で、基礎と応用
ムとその予測研
の理
理解を深めると
とともに、その
の予測精度の向
向上を目指し、観
研
研究のバランス
のとれた活動
動の推進を実現
現する事を目指
指し、
測デ
データの解析や
や高解像度数値
値モデル等を用
用いた短期気候
候変
その両方の分野
野において幾つ
つかの世界をリードする研究
究成果
動の
の予測研究を継
継続して進めた
た。
来たが、今年度
度においても新
新たな世界の先
先端を
を生み出して来
大気海洋結合大
大
大循環モデル S
SINTEX-F1 の予測実験結果
の
果か
行
行く幾つかの成
成果を発表することができた
た。第一番目の
の成果
ら、インド洋-太平
イ
平洋域における
る大規模な海面
面水温偏差やこ
これ
としては、風波
波のエネルギー
ースペクトル部
部分を大きく改
改善し
に伴
伴う大気場が IOD の連続発
発生に寄与し ていたことが
が分
総半島
た海流・波浪結合モデルの開発に成功し、22008 年に房総
かっ
った(Behera ett al., 2008)。特
特に、熱帯太平
平洋域で発生す
する
生した第 58 寿和丸の沈没事
寿
事故時の現実的
的な海
の東方沖で発生
新た
たな気候変動モ
モードとして注
注目される“EN
NSO もどき”と
況
況をモデルで再
再現できた事で
である。この成
成果はネーチャ
ャーの
イン
ンド洋域での変
変動との相互作
作用が重要な役
役割を果たして
てい
ハイライト論文
文として採り挙
挙げられた。
るこ
ことが明らかと
となった。観測
測データ解析か
から示唆された
たこ
2008 年は、過
過去 2 年間に IOD が続けて
て起きたのに関
関わら
のよ
ようなインド洋
洋-太平洋間の相
相互作用は、5
500 年間以上に
にお
ず
ず、また発生し
した珍しい年と
となった。こ の珍しい出来
来事を
よぶ
ぶ SINTEX-F1 モデルの結果で
モ
でも再現されて
ており、その重
重要
SIN
NTEX-F1 モデ
デルは数か月先
先から予測で きた事は注目 に値
性を
を裏付けている
る。
す
する事である。
この予測実験
験の他、熱帯に
においては IOD
D と
SIINTEX-F1 モデ
デルによる IOD
D 予測実験では、2006 年お
およ
EN
NSO もどきとの新たな相互
互作用に関する
る研究を展開す
すると
び 2007
2
年に発生した IOD の予
予測成功に続き
き、3 年目とな
なる
同時に、中緯度
度におけるユニ
ニークな大気海
海洋相互作用の
のメカ
2008
8 年のイベント
トに関してもそ
その予測に成功
功した(図 1)。こ
ルギー収支を切
切り口にして研
研究し
ニズムをサイクロンのエネル
のこ
ことは、SINTEX
X-F1 モデルが ENSO のみならず、近年の IO
OD
た。
現象
象を全て予測す
することのでき
きる、世界でも
もトップの高精
精度
モデ
デルであること
とを示してい る(Luo et all., 2008a; 20008b;
結
結合モデル
SINTEX-F1 による
る予測実験
Wan
ng et al., 2008a:: 2008b; Jin et al., 2008)。20
008 年の予測実
実験
太平洋で発生
生するエルニー
ーニョ/南方振
振動(ENSO)と共
では
は、約半年前から IOD 発生の
の予測が可能で
であることを示
示し、
に、インド洋ダ
ダイポールモー
ード現象(IOD
D)は全球規模
模の気
アフ
フリカ、アジア
ア、オーストラ
ラリアなどでの
の気候変動によ
よる
候
候変動に大きく
影響を及ぼし
している。2006 年、2007 年お
および
被害
害を最小限に留
留めるためにも
も有益であるこ
ことが示された
た。
図 1.SINTEX-F
F1 を用いて予測し
した 2008 年 9 月か
から 11 月の平均的
的な海面水温偏差分
分布。2008 年 5 月を初期状態とした
月
た結果。太平洋熱帯域の日付変更
線を中心とした低温偏差(
(ラニーニャもどき
き)や IOD に伴う
うインド洋東部熱帯
帯域の低温偏差などは、同時期の観
観測データと良く一
一致している。
- 30 -
また、SINTEX-F1 のシミュレーション結果を用いた国際共同
とは不可欠である。この海域の前線構造等を海洋モデルで再
研究も活発に行い、インド洋や太平洋における季節内変動か
現するためには十分な水平解像度が必要であり、OFES 高解
ら IOD の十年規模変調の研究まで幅広く用いられ、多くの成
像度海洋モデルの 55 年以上に及ぶ過去再現実験は、この海域
果を発信している(Izumo et al. 2008; Navarra et al. 2008;
の経年~10 年規模変動のメカニズムを調べるためには絶好
Ajaymohan et al. 2008; Luo and Bell 2008; Zhou et al. 2008; Kug
のデータセットである。黒潮続流域の変動メカニズムについ
et al. 2008; Lee et al. 2008; Hong et al. 2008; Tozuka et al. 2008)。
ては、我々のグループによるものを中心としてこれまでの研
中でも、南半球の春に大気中の波動伝播に伴うテレコネク
究成果からかなり理解が進んできた。一方で、亜寒帯前線域
ションにより、IOD の影響が遥か遠方のブラジル付近の降水
(親潮から続く東向きの北太平洋海流に沿う北緯 40 度付近
量偏差にも現れることが明らかとなった(Chan et al., 2008)。
を東西に広がる前線域)の変動は黒潮続流域と必ずしも同様
さらに、格子間隔 0.25 度の海洋モデル(ORCA025)を用
には理解できないことが示されてきた。そこで、Nonaka et al.
いた SINTEX-F2 モデルの開発を進めた。新たな結合モデルで
(2008)では、OFES 過去再現実験結果を用いて、亜寒帯前線域
は、SINTEX-F1 で太平洋の冷水舌や北大西洋に見られたバイ
の上流に相当する親潮の経年変動に注目し、その亜寒帯前線
アスが減少し、エルニーニョや IOD の再現性が更に向上した。 域への影響を調べた。
特に、高解像度 ECHAM5(解像度 T319)を大気モデルとして
40-45ºN、143-151ºE で平均した南向き流速を親潮流速と定
用いた場合では、熱帯域で台風やサイクロンまでも現実的に
義し大気場との相関関係から、親潮変動の原因をまず考察し
再現することに成功し、今後、台風やサイクロンに関連する
た。順圧親潮流速は北太平洋 35-50ºN のほぼ全域の風応力 curl
大気海洋相互作用の研究や、これらと MJO、ENSO、IOD、
と高い正の同時相関を持つが、前後 1 年には有意な相関がほ
あるいはモンスーンとの関連性を解き明かす研究が可能とな
とんど見られない。これは、順圧的な親潮変動が風応力 curl
ることを示唆している。
で駆動された順圧 Rossby 波の伝播によって生じるという考
え方(Sekine 1988; Hanawa 1995 等)と一致する。一方、傾圧
OFES による海洋変動機構の研究
変動成分(100m 深と鉛直平均の親潮流速の差とする)は、
地球シミュレータセンターと共同して行ってきた OFES 高
44ºN、160ºE 付近の Ekman pumping と高い同時正相関、また、
解像度海洋モデルの結果は、大気海洋相互作用に直接関連す
3 年前の 160-170ºE の Ekman pumping とも正相関を示す。こ
る海表面過程のみならず、海洋内部の様々な時空間規模の現
れらは親潮変動に傾圧 Rossby 波の伝播も寄与するという考
象のメカニズムを解明するための貴重なデータセットを提供
え(Qiu 2002)と一致し更に、傾圧成分にはほぼ局地的な
している。本プログラムでは、OFES データを用いて、中規
forcing の強い影響があることを示す。順圧・傾圧両成分を合
模渦の挙動から中規模渦などの擾乱が大洋規模の循環系に与
わせた 100m 深での親潮変動と Ekman pumping の関係は、傾
える影響、また全球規模のエネルギー収支に至るまで、幅広
圧成分との関係に近い。
い視点から海洋変動現象の解析を精力的に進めている。今年
一方、100m 深の親潮変動と海面水温場との相関からは、
度は、インド洋および太平洋の気候変動に大きな影響を与え
親潮強化と同時に 40-45ºN、150ºE 付近で水温低下し、1 年後
る海洋変動の解析(北太平洋亜寒帯前線域における経年~10
以降は親潮前線・亜寒帯前線沿いに水温低下の中心が移り、更
年規模の変動)を継続するとともに、これまでの OFES を用
に 3 年後にかけて、その低温偏差が亜寒帯前線沿いに東方へ
いた研究成果を見直し、海洋変動過程の更なる理解に向けた
伝播することが示唆された(図 2)。同様の東方伝播は海面高
方向性を探るため、国際 OFES ワークショップを開催した。
度偏差や表層化の渦位偏差にも見られ、渦位の平均場と偏差
北太平洋西部、黒潮続流域やその北側の亜寒帯前線域での
場の比較から、親潮の強化が亜寒帯循環域西部やオホーツク
経年~10 年規模の海洋変動は、上空へのフィードバックを通
海の低渦位水を南下させ、その低渦位水が東向きの平均流に
じて北太平洋域の 10 年規模の大気海洋変動の形成或いは強
よって移流されることで北側に低渦位水を伴う亜寒帯前線域
化に影響しうると考えられて注目されている。同時に、この
が南へ押し下げられて、亜寒帯前線域の変動を起こすものと
海域の 10 年規模変動は例えばマイワシなどの水産資源量の
考えられる。これらから、親潮の強化が親潮前線・亜寒帯前線
変動と強い関係があると考えられ、気候変動、水産資源変動
沿いの水温低下と強く関連することが示される。また、この
の理解推進のために、この海域のメカニズム理解を進めるこ
海面水温低下に伴う海面熱 flux 偏差は下向きで、この水温偏
- 31 -
図 2.OFES 過去再現実験における親潮南下流速と亜寒帯前線域の春季(3-5 月)海面水温とのラグ回帰係数(色; ℃)とラグ相関係数(緑色等値線; ±0.32
のみを表示)
。左上から、(a)同時相関、海面水温が(b)1 年、(c)2 年、
(d)3 年遅れた場合のラグ相関および回帰係数の平面分布を示す。黒等値
線は春季海面水温の長期平均場。親潮の強化に伴い、北日本沖合に低温偏差が生じ、それが数年かけて亜寒帯前線域を東方へ発達する様子がみられる。
差を減衰させる傾向を持ち、これが大気の熱的強制で生じた
圏上空の循環場偏差はストームトラックからのフィードバッ
ものでは無く、逆に大気へ影響を及ぼす可能性を持つことを
クによって維持され、初冬にかけて緩やかに東進する傾向に
示す。これは Tanimoto et al. (2003)の観測データ解析結果とも
ある。これはシベリア高気圧の東方への拡大・発達の強化に
合致する。
対応し、結果として初冬の東アジアに強い寒気をもたらしや
すい場が形成される。2007/08 年冬の事例を解析したところ、
中、高緯度の変動に関する研究
北極バレンツ海付近からの定常ロスビー波列をきっかけとし
2005/06 年の日本、2007/2008 年の中国を中心とした異常低
てシベリア高気圧の異常発達がもたらされており、寒気の中
温・豪雪など、近年頻発する冬季東アジアモンスーンの振舞
心や時期的な違いはあったものの数値実験の結果や 2005/06
いに伴う異常気象は、北半球中高緯度循環の変動と密接に関
年の日本の寒冬・豪雪の事例とも整合的であった。
係している。こうした異常気象の予測可能性や予測精度向上
冬季東アジアの気候に影響を及ぼす現象として北極振動
の観点から、モンスーンの変動をもたらす要因や先行現象に
にも着目している。最近、真冬の対流圏の北極振動の前兆現
着目して研究を進めている。中でも夏~秋の北極海の海氷減
象が晩秋のユーラシア大陸上の循環異常にあるという事実を
少の影響に注目してきたが、初冬の東アジアに寒さをもたら
特定したが、そのメカニズムは初冬にかけユーラシアの持続
す影響について AFES を用いた数値実験やデータ解析によっ
的循環異常が成層圏循環を変化させ、その影響が下方に伝播
てそのメカニズムをほぼ解明した。暖候季の北極海の海氷減
することによって説明されることが分かった。一方、夏季北
少は晩秋の海氷拡大を遅らせる傾向にあり、露出した海面か
極海の海氷減少に伴う影響は冬の後半にも及び、欧州から極
らの乱流熱フラックスにより大気が加熱されやすくなる。気
東まで大陸上を帯状に広がる低温域は数値実験でも再現され
候平均で乱流熱フラックスの絶対値の元々大きいバレンツ海
ている。そのメカニズムに関して、この成層圏を介在する対
付近は特にその傾向が顕著で、晩秋にはこの海域で加熱偏差
流圏北極振動の形成過程に現在着目している。事実、晩秋の
を強制源とした定常ロスビー波が励起されやすく、上空の亜
循環異常は北極海氷減少に伴う大気応答とよく似ており、冬
寒帯ジェット気流に沿ってユーラシア大陸上に伝播し波列を
季後半のユーラシアの低温偏差は北極振動の地表付近への反
形成する。これに伴って、ユーラシア中央部にはシベリア高
映とされる北大西洋振動の空間パターンをよく反映している。
気圧の異常発達の先駆けとなる循環偏差が形成される。対流
これらは冬季の短期気候変動の予測精度向上に関わる重要な
- 32 -
(a)
(b)
(c)
(d)
図 3.IPRC 領域大気モデルで再現された 2004 年春季(3 月後半〜4 月)におけるストームトラック活動の分布。周期 1 週間以下の大気擾乱に伴う鉛直平均
した(a,b)有効位置エネルギーと(c,d)運動エネルギーの分布(色; m2 s–2)。背景の等値線は大気モデルの境界条件として与えた海面水温の春季平均分布
(2℃毎;太線は 12℃, 16℃)。(a, c)は観測された海面水温を与えた再現実験の結果。(b, d)は平滑化した海面水温を与えた比較実験の結果。
過程を含んでおり、引き続きメカニズム解明の研究が求めら
比較実験では、擾乱の有効位置エネルギー(図 3b)・運動エ
れる。
ネルギー(図 3d)ともに減少しており、擾乱活動の低下を示
一方、アリューシャン低気圧の変動を伴う北太平洋の十年
した。春季平均の海面顕熱フラックスは、親潮続流前線の南
規模気候変動の解明には、黒潮・親潮続流域に位置する亜寒
側の暖水域で上向き、北側の冷水域で下向きと、前線を挟ん
帯前線域における海洋から大気へのフィードバック機構の解
で顕著な南北差を示す。かつ、フラックスの日々の変動も極
明が不可欠である。こうした中緯度海洋前線帯における典型
めて大きいことから、寒冷前線通過後に暖水域から大気に顕
的な大気海洋相互作用の実態を把握すべく、2003/04 年の寒
熱が大量に供給される一方、冷水側では温暖前線通過後に顕
候期における北西太平洋域での大気循環と海洋との相互作用
熱が海洋に供給されることで、移動性擾乱の熱輸送によって
を再現すべく、IPRC 領域大気モデルによる高解像度再現実験
緩和された海上気温の南北勾配が急速に回復され、移動性高
の出力結果を解析した(地球シミュレータセンターとの共同
低気圧が海洋前線帯付近で繰り返し発達できるようになるこ
研究)。モデルの境界条件として人工衛星観測に拠る高解像度
とが確認された。こうした春季の特徴は、高解像度大気海洋
海面水温データを与えたため、黒潮と親潮の続流に沿って顕
結合モデル CFES で南インド洋の海洋前線帯に再現されたも
著な水温前線帯が再現される。このため、季節風の収まった
のと本質的に同じであり、海洋前線帯とストームトラックに
春季・秋季には海上気温勾配と黒潮からの水蒸気供給によっ
特有の中緯度大気海洋相互作用の新しい側面である。一方、
て移動性高低気圧波が発達する。実際、周期 1 週間以下の大
大陸からの季節風が強まる冬季には、海面の顕熱フラックス
気擾乱の有効位置エネルギーは北海道東方沖で極大(図 3a)、
は日本海や東シナ海、黒潮・親潮続流域を中心に全面的に上
運動エネルギーもその更に東方で極大となり(図 3c)、太平
向きである。ただし、水温平滑化実験と比較すると、続流域
洋のストームトラックが現実的に再現された。しかし、モデ
前線帯を挟んでフラックスの南北勾配は強化されており、そ
ルに与えた水温分布を平滑化し前線構造を人為的に除去した
れに対応して大気の擾乱活動も活発化することが確認された。
- 33 -
さらに、2005 年梅雨期に実施された黒潮続流域での船上大
ンター(FRA)との共同研究「太平洋およびわが国周辺の海況
気観測データの詳細な解析から、この海域特有の夏季下層雲
予測モデルの高度化と魚類生態モデルとの結合化に関する研
の形成過程が、梅雨前線と黒潮続流に沿った水温前線との相
究(平成 19~22 年度)」および FRA および漁業情報サービス
対的位置関係に敏感なことを見出した。霧が発生しやすいの
センターとの共同研究「海況予測システムを利用したマグロ
は、梅雨前線が水温前線より北上し、比較的低温の海面上を
類資源管理手法の開発に関する研究(平成 19~20 年度)」を
亜熱帯からの暖湿な気流が北上する時である。一方、梅雨前
通じ、数値海況予報の水産資源管理・漁海況予報への応用に
線が水温前線より南下したときには、暖水上での寒気移流が
も取り組んでいる。さらに平成 20 年度は、和歌山県水産試験
大気境界層の成層の安定度を低下させるため、霧ではなく層
場との共同研究を開始し、紀伊半島周辺海域におけるカタク
積雲が発生しやすくなる。こうした雲形成の基本的な観測事
チイワシシラスおよびカツオの数値漁海況予測実用化に取り
実は、北太平洋亜寒帯前線帯での下層雲を介した夏季特有の
組み始めた。以上の成果は、平成 18 年度より海流予測情報利
大気海洋相互作用を理解する上で極めて重要であり、北太平
用有限責任事業組合を通じて継続的に社会還元されている。
洋 10 年規模変動の理解にも繋がる重要な研究成果である。
波浪モデル研究においては、日本近海の高解像度海流-波浪
結合モデルを構築し、波浪モデル内の非線形伝達関数を高精
JCOPE プロジェクト関連の研究活動
度化することにより、海流との結合効果に伴う波浪スペクト
日本沿海予測可能性実験(JCOPE)グループでは、日本近海
ルの評価を従来モデルに比べて飛躍的に高精度化することに
の高解像度リアルタイム海洋変動予測システム(JCOPE シス
成功しその成果を論文として国際誌に出版することができた。
テム)の開発・運用を行い、黒潮変動の解明を目的とする研究
また高精度化したモデルの観測による検証のため、漂流波浪
に用いるとともに、数値海況予報の様々な応用を目指した研
計測ブイによる波浪・海流実測データを取得することができ
究を行っている。成果による社会貢献を実現するべく、波浪・
た。さらに、開発した高精度海流-波浪結合モデルを用い、2008
海流結合モデリングへの応用展開(平成 17 年度~)、外航海
年 6 月 23 日に犬吠埼東方沖で発生した第 58 寿和丸沈没事故
運運航支援等のための海象予測モデル高度化(平成 18 年度~
時の海況を対象に、海洋波浪の詳細な再現計算を行った(図
を重点的に行っている。また、独立行政法人水産総合研究セ
4)。その結果、当時の同海域ではうねりと風波の相互作用に
図 4.事故発生 4 時間前(協定世界時 2008 年 6 月 23 日 00 時)における(左)有義波高、海上風と(右)ピーク周期、ピー
ク波向き(黒矢印)
、海流(白矢印)
。ともに高解像度モデル結果。事故現場周辺には日本南岸からのうねりと局所的な
風波が発達している。
- 34 -
より異常波浪が生じやすい条件となっていた可能性が高いこ
チフレーズに推進して来た JCOPE 関連の研究においても、今
とを明らかにし国際誌上で速報することができた。これは実
年度は海難事故に結びつくフリーク波の予測に繋がる大きな
海域において異常波浪が生じうる物理メカニズムを世界に先
モデル開発を達成できた事は、未だ可能性の域にはあると言
駆けて提案したもので、今後の異常波浪発生予測を可能とす
え、基礎的研究を社会的応用に結びつける大きな貢献の一つ
る重要な成果である。
であると言える。その他、中緯度関連の研究においては、夏
季北極海の海氷激減が冬季の東アジアに低温や大雪をもたら
地球流体力学関連基礎研究
す傾向など、近年の北極異変の日本の気候への影響に関して、
Aiki and Richards (2008, JPO)の解析をさらに発展させ南極
昨年に続きマスコミ・報道関係(テレビ、新聞、雑誌)に広
周回流の力学バランスを調べたところ、従来の仮説とは異な
く取り上げられるとともに、関連するテーマに関して施設公
る新しい結果が得られたのでこれをまとめて投稿した。最近
開セミナー・一般向け講演会・学生向け講義などのアウトリー
の一連の理論研究(Aiki and Yamagata, 2006 OS; Jacobson and
チ活動を積極的に実施した。
Aiki, 2006 JPO)と OFES の解析によるその検証(Aiki and
Richards, 2008)が評価されてきたことにより、Aiki et al. (2004,
GRL) が 提 案 し た 渦 の パ ラ メ タ リ ゼ ー シ ョ ン ス キ ー ム が
GFDL-MOM(世界的に最も使われている OGCM)のオプショ
ンの一つとして採用されるに至った。上記の研究とは別に、
これまでに ES 用に開発した非静水力モデルコード(Aiki et al.
2006, CSR)の実行性能がフランスの研究者らに認められ、海
洋の微細現象の超高解像度シミュレーションの国際共同研究
に発展した。
国際的連携・協力 /社会的役割
国際的連携は、本プログラムが掲げた中期目標の大きな項
目の一つである(項目c)。本プログラムの研究活動は、これ
までにも報告して来た様に、熱帯は言うに及ばず中緯度帯の
気候変動研究及び SINTEX-F1 による予測研究のすべてにお
いて、活発な国際的連携の基に行われている。今年度は、特
に ES センターとの協力において海洋コミュニティーに多大
に貢献した OFES プロジェクトの国際ワークショップを開催
し、2009 年の 3 月には、これまでの 5 年間の研究成果と今後
の方向性を検討するワークショップも海外で活躍している研
究者を招待して行った。
「結合モデル SINTEX-F1 による予測実験」において記した
様に SINTEX-F1 による短期気候変動予測は、インド洋周辺の
諸国、とりわけオーストラリアの農畜産業の経営に大きな貢
献をできる可能性を示している。実際、この様な社会貢献を
より一層深める事を目的として今年度立ち上げたアプリケー
ションラボが主催するシンポジュウムにおいて、オーストラ
リアで畜産業を経営する農場主が参加して、本プログラムが
提供している予測データの貢献がいかに重要なものであるか
の発表が行われた。また、長らく「海の天気予報」をキャッ
- 35 -
( 2 )水循環変動予測研究
さらに H18 年度からは、環境省地球環境研究総推進費によ
本プログラムでは、国際プロジェクト(GEWEX/GAME/
る研究「人間活動によるアジアモンスーン変化の定量的評価
MAHASRI, CEOP/CAMP) や 地 球 環 境 観 測 研 究 セ ン タ ー
と予測に関する研究」のサブ課題(4)「気候モデル「土地被覆・
(IORGC)などの現地観測によるデータ、さまざまな衛星観測
植生改変」実験によるアジアモンスーン変化の研究」を本プ
データ、全球客観解析データなどの観測データおよび大気大
ログラムで担当して研究を進めている。H20 年度を中心とす
循環モデルや領域気候モデルの出力にもとづき、ユーラシア
る具体的な研究成果は研究グループごとに、下記に記述する。
大陸およびアジアモンスーン地域を中心とする地域における
水文気候および水循環変動の実態と諸物理過程(積雪、土壌
広域水循環変動グループ
水分、植生などの地表面過程、広域雲・放射分布変動、およ
a.
び広域大気境界層過程など)の実態解明研究を行い、これら
割
2007 年の北極海の海氷激減における夏季の大気循環の役
諸過程の定性的定量的理解を進めている。さらに、これらの
2007 年の夏季の北極海の海氷激減に、夏季の大気循環がど
理解をもとに流域・地域スケールから全球スケールまでの水
のような影響を及ぼしたのかについて、大気観測データと海
循環変動の予測モデルを開発あるいは改良し、予測精度の向
洋観測のブイデータの解析から明らかにした(Ogi et al., GRL,
上を進めている。
2008)。その結果、2007 年の夏季の大気循環は、北極海を覆
アジア地域の新たな高解像観測データによる実態解明と
うような強い高気圧性循環に覆われていたことがわかった
モデリングを進めるため、総合地球環境学研究所の黄河流域
(図 1、コンター)。さらに、海洋観測ブイデータを見ると(図
研究プロジェクトとの共同研究、東大海洋研究所・気象研究
1、太線)、高気圧性循環と同じように右回りにブイが動いて
所などとの共同研究を進めている。FRCGC 内部では、大気
いることから、海氷は高気圧性循環に影響を及ぼされて動い
組成変動予測研究プログラムとの共同研究との一環として、
ていることがわかる。さらに、ブイは等圧線を横切るように
大気汚染物質の衛星からのリモートセンシング測定のため、
動いていることから、この結果は、北極海上の高気圧性循環
放射モデルの改良を行った。モデル相互比較によりモデルの
に伴う海洋表層のエクマン移流が海氷を支配していることが
正当性を確認した。雲微物理モデルの開発・改良、および、
わかる。
その応用(バルクモデルの開発)は、革新プログラムの「全
球雲解像モデルによる雲降水システムの気候予測精度向上」
の物理過程改良チームと協力して行っている。
(生態系変動予
測研究プログラムとの共同研究として、植生キャノピーの放
射伝達モデルの高度化を行った。地球温暖化予測研究プログ
ラムと共同で、これまでの 3 重格子メソ対流解像モデルを単
一格子にしたモデルも作成した。なお、プログラム全体とし
て、
「地球温暖化」に伴う水循環変化予測の精度向上のために、
CCSR/NIES/FRCGC-GCM や MRI-GCM の高解像モデルによ
る過去再現ランに現れた水循環変動を、特にアジア・ユーラ
シア・海洋大陸地域での観測結果と比較し、モデルの系統的
な誤差を確認しつつ、今後 100 年の温暖化実験結果の分析を
行う研究も進めている。
地球シミュレータ(ES)利用では、革新プロジェクトに協
力して、この ES 利用によるモデルアウトプットの水循環過
程に関する解析を、広域水循環・陸面水循環Gが進めている。
陸面水循環G、雲・降水過程Gは、全球雲解像モデル(NICAM)
との比較研究も含め、領域モデル、雲解像モデル(CreSS)の数
値シミュレーションを ES を利用して進めている。
- 36 -
図 1.8-9 月平均の海面気圧と(コンター)、海洋観測ブイデータ
(International Arctic Buoy Programme: IABP)によるブイの軌跡
(太線:黒が 8 月、灰色が 9 月)
b.
高解像度領域気候モデルを用いた、インドシナ半島にお
けるモンスーン後期(9 月)降水量の長期減少傾向の研究
長期変動を観測値により解析した結果(図 4)、過去 45 年間
(1961-2005)で流域の気温は 1.1℃上昇し、相対湿度も 17%増
インドシナ半島のモンスーン後期の降水量(特に 9 月)は、
加した。つまり、この流域の大気は湿潤になったということ
1950 年以降、大幅に減少傾向にある。Kanae et al.(2001)は、
が分かった。しかし、降水量の増加は確認されておらず、湖
解像度の粗い領域気候モデルを用いてタイ東北部の森林伐採
面からの蒸発量も減少傾向にあった。従って、この流域は温
が、蒸発散量の低下を通して降水量の減少を引き起こしてい
暖化+湿潤傾向にあるが、湿潤になった原因は流域内ではな
る可能性を提案した。一方で、Takahashi and Yasunari(2008)で
く、流域外からの水蒸気流入の可能性が高いことが明らかに
は、同時期に半島への台風・熱帯性低気圧の襲来数を観測デー
なった。(J. XU et al., 2009, HRL)
タから解析した結果、襲来数の減少が直接的な原因である可
能性を提案した。これらの先行研究に基づき、半島上の地形
による局地循環や熱帯擾乱を再現できる水平解像度 5km の
高解像度の領域気候モデルを用いて、1966 年から 1995 年ま
での長期再現実験を行った。森林伐採の影響を排除するため
に、現在の地表面状態で 9 月のみ 30 年間の再現実験を行った。
森林伐採の影響が主要因であれば、過去の減少傾向は再現さ
れない。実験の結果、森林伐採の効果なしで過去の変動が精
度良く再現でき(図 2)、観測された長期変動は、熱帯擾乱の
変化によることが分かった。 (Takahashi et al. 2008, ASL)
図 3.チベットのヤムドック湖流域
図 2.1966 年から 1995 年までのインドシナ半島内陸部(101—105E,15—
18N)で平均した 9 月の月降水量の年々変動。黒色(水色)の実線が、観
測値(領域気候モデル)の年々変動。点線はそれぞれ、前半と後半の平均
値。ただし、観測値は、雨量計データによるため、10 点の平均値。一方、
数値モデルは、領域平均値。
c.
チベット・ヤムドック湖流域における長期熱・水収支の
変動とその影響
チベット高原に位置するヤムドック湖(Yamdrok Yumtso
Lake, 図 3) の面積拡大が報告されているが、この原因が、い
わゆる地球温暖化による氷河の融解によるものであるのか、
それとも単に降水量の増加が原因なのかを明らかにすること
を試みた。半乾燥域に属すこの流域の熱・水収支の季節変化・
- 37 -
図 4.各熱・水収支量の変動傾向
陸面水循環過程グループ
a.
た、出葉から葉面積が最大になるまでの間の葉面積指数の変
東シベリア域の対流圏中層における強寒冷域の形成機構
の解明
動を考慮した場合と、出葉後速やかに葉面積が最大になると
仮定した場合とで、葉面積が最大となるまでのモデルで算定
2005 年 12 月に出現した東シベリア域の対流圏中層におけ
される蒸散量と遮断蒸発量に大きな違いが現れたことから、
る強寒冷域の形成機構について領域気候モデルを用いて調査
この期間中の葉面積指数の変動が特に重要であることがわ
した。感度実験の結果から、強寒冷域が、対流圏中層から上
かった。
層での非断熱プロセスによって形成していることがわかった。
また放射過程を取り除いた実験から寒冷低気圧の強化が見ら
d.
れず、むしろ弱化する様子が確認された。この実験結果から、
の定量的評価
擬似温暖化手法による力学的ダウンスケールの不確実性
対流圏中層から上層での放射プロセスが寒冷低気圧の強化お
GCM による温暖化予測には予測モデルとして使用される
よび維持に重要であることが示唆される。2005 年 12 月は対
GCM の予測の不確実性が大きな問題となっている。特に領
流圏中層から上層の水蒸気と雲からの赤外放射冷却が強化さ
域気候については、梅雨前線などの再現性の問題もあり評価
れる状況にあったことが推測される。
が極めて困難である。GCM による温暖化予測結果のうち長
期変化成分のみを取り入れた「擬似温暖化」手法を用いて梅
b.
高解像度 GCM による海洋大陸上の対流活動の日変化の
再現性の検証
雨の気候再現実験を行い、過去の梅雨前線の気候的特徴が長
期変化成分によっても再現可能であることを示した。この手
地球環境観測研究センターと連携して、海洋大陸周辺域に
法を応用すれば、GCM でみられる現在気候再現のバイアス
おける対流活動の日変化を対象として衛星観測データ解析及
を除去した上で温暖化に伴う長期変化成分による梅雨前線の
び高解像度領域気候モデルによる数値実験を行い、領域気候
変動特性を評価することが可能になる。図 5 は、マルチモデ
モデルでの再現性の検証及びメカニズムの解明を進めた。特
ルアンサンブル及び個々の GCM による擬似温暖化成分を用
に降水の日変化と位相の分布を焦点として、海洋大陸上を対
いた擬似温暖化実験による 6 月の降水量を示している。マル
象として 20km 格子 MRI-GCM で再現された降水を TRMM
チモデルアンサンブルを擬似温暖化成分とした擬似温暖化実
2A25 near surface rain の衛星観測データと比較することによ
験では、GCM でみられる再現性の大きなばらつきを大幅に
り再現性の比較検証を行った。水平スケールが 200km よりも
改善することができ、予測の不確実性軽減に大きな役割を演
小さい島嶼・海峡では、降水特性の再現性が高かった。一方、
じることが期待される。
水平スケールが大きい島の内陸部では、再現された降水の日
変化が観測値と逆転していた。このように対流活動の日変化
を 20km 格子 MRI-GCM で再現性が低い場所が存在する原因
は、用いられている積雲対流パラメタリゼーションでは対流
活動と局地循環が結合したシステムを適切に表現できないた
めと考えられる。
c.
熱帯半乾燥域の落葉林における葉面積成長様式とその水
収支に及ぼす影響
熱帯乾燥域の落葉林における葉面積指数の過去の年々変
動について調べたところ、出葉後の葉面積指数が最大となる
のに 1 ヶ月~3 ヶ月要した。植生多層モデルで算出される光
合成による炭素吸収の累積量と葉面積指数の増加の間には明
瞭な関係は見られず、出葉後の旱魃期間の長さとともに成長
速度が遅くなることがわかった。これらの結果は熱帯半乾燥
林において葉面積の成長様式を予報する手がかりを示す。ま
図 5.マルチモデルアンサンブル及び個々の GCM を擬似温暖化成分とし
て用いた擬似温暖化実験による東アジア域での 6 月の降水量。
- 38 -
e.
陸面河川モデルと高解像度領域気候モデルの結合による
! "# $ 流域規模水収支の再現及び予測
&
'
日本の冬期降水を対象として高解像度領域気候モデルを
τ
$ 用いて 2005,2006 年を対象とした再現実験を行い、地上観測
データを用いて積雪量・降水量・地上気温の再現性の検証を
行った上で、2070 年代を想定した擬似温暖化手法を用いた力
学的ダウンスケールを行い、地球温暖化による冬期降水に対
τ
$ %
τ
$ する影響評価を行った。図 6 は、観測値、再現実験、擬似温
暖化実験による積雪量である。標高が低い地点においては、
積雪量が再現実験の 50%以下に減少していた。再現実験と擬
似温暖化実験での降水量の増減は 10%以内と小さく、積雪量
の減少は主に気温の上昇によるものであると示唆された。ま
! " # %
&
た、陸面河川モデルと高解像度領域気候モデルを結合し、1980
τ
〜1990 年代での過去の河川流量変動の再現を行った。1990
年代では 1980 年代よりも春期の融雪による河川流量のピー
クが早まり、ピーク時の最大流量の減少が見られた。
# τ
# $
τ
# 図 7.様々な放射伝達計算スキームの精度比較:(a) 反射輝度,(c) 透過
輝度。スキーム D は単一のスケーリングを用いた場合、M は Iwabuchi
(2006, JAS)で提案された散乱次数別にスケーリングを変える方法、A は
散乱方向に依存してスケーリングを変える方法。横軸は観測方向を表し、
図 6.2005 年(a, c, e)、2006 年(b, d, f)における 12 月 31 日の積雪深。そ
雲の光学的厚さτを変えて輝度の相対バイアス誤差をプロットした。τ =
れぞれ、AMeDAS(a, b)、領域気候モデルによる再現実験(c, d)、2070 年
1, 20 の結果はそれぞれ+10%, –10%ずらして表示している。 (Iwabuchi &
代を想定した擬似温暖化(e, f)。
Suzuki, submitted to JQSRT)
雲・降水過程グループ
a.
大気や地表面の光学的リモートセンシングやデータ同化
放射伝達計算の高精度化のための新手法の提案および線
形化された放射伝達モデルの開発
のための線形化された放射伝達モデル(コード名:
JACOSPAR)を新たに開発した。これは観測輝度値に加えて大
雲を含む大気の放射輝度の分布を求めるための放射伝達
気・地表面の特性に対する偏微分を計算する汎用モデルであ
計算の新手法を提案した。雲粒などによる散乱を効率的に扱
る。前述の方法およびこれまでに蓄積された知識を基に先端
うために従来のように「トランケーション近似」と呼ばれる
的な計算技術を実装した。今年度で設計と開発、検証を終え、
近似手法を単純に全ての散乱に適用すると、特定の方向で計
晴天大気の場合または赤外波長で特に効率的に計算可能であ
算精度が悪い。そこで、散乱次数に依存して近似の程度を変
ることがわかった。
える方法を考案しその方程式を導出した。また、以前に発表
した方法(Iwabuchi, 2006, JAS)の改良版として、散乱後の方向
b.
に応じて次の散乱のトランケーション量を決めることにより、
層の雲モデルの開発
より現実的な雲微物理過程と放射過程を含んだ大気境界
ほぼ全ての条件で誤差の小さな計算が可能であることがわ
2 モーメントビン法雲微物理モデルを搭載した 3 次元非静
かった(図 7)。これは特に雲を含む大気の放射特性を正確か
力学モデル CReSS において、パラメタリゼーションを使わず
つ高速に求めるために有用である。
に、ビンモデルの初期雲粒分布を与えられるようにし、凝結
- 39 -
核の影響を精度良く評価できるようにした。
分布が南北非対称(梅雨前線付近で通常観測されるように南
このモデルを用いて、境界層雲モデル比較実験(GEWEX
側で潜在不安定)であることによって説明できる。(4) 対流
cloud system study -境界層雲ワーキンググループ)で取り上
活動によって顕著な南風成分をもった下層の流れが励起され、
げられた貿易風帯積雲のケースの再現実験を行い、観測や他
ダウンドラフトに伴う北よりの流れと相俟って、メソ対流系
のモデル実験の結果に匹敵するような結果を得ることができ
の活発化に重要な役割を果たす。南風成分をもった下層の空
るようになった。このビンモデルの結果をバルクモデルに対
気は上昇して、その一部は南の方に戻るが、多くは南風成分
応する雲と雨に分類し、それぞれの生成率を調べ、バルクモ
を維持する。すなわち、南風成分はメソ対流系の南側下層(2
デルで使う autoconversion に対応する項が雲粒数濃度に大き
km 以下)だけでなく、メソ対流系域及びその北側での中層
く依存することを明らかにした。現在、これらの結果を用い
から上層(高さ 2~3 km 以上)でも卓越するのが特徴であり、
て 2 モーメントバルクモデルの開発を行っている。
観測される特徴をよく説明できる。
c.
積雲対流解像モデルを用いたメソ対流系に関する研究
水蒸気の凝結が重要な役割を果たす現象の理解・予測のた
めに、これまで、水平格子間隔 1 km またはそれ以下の積雲
対流解像モデルと格子間隔 5-20 km のメソ対流解像モデルを
開発・改善して研究を行なってきた。昨年度は梅雨前線に伴
う福井豪雨について、初期条件として気象庁の全球客観解析
データを参考にして、メソ対流解像モデルを用いた研究を行
なった。豪雨をもたらしたメソ対流系としてのレインバンド
の走向が西北西―東南東であり、一方、環境風は下層に強い
シアーをもった西風で、この関係を理解することが重要な問
題として提起された。また、この西風の場の中で、レインバ
ンドの西側で新たな対流が発生するタイプのバックビルディ
ングの特徴を説明することも重要であった。
今年度は上記の問題を積雲対流解像モデルを用いて扱い、
現象の本質のシミュレーションと理解のための研究を行なっ
た。その成果を要約すると次のようになる。(1) 鉛直シアー
が下層で強い環境風の下ではスコールラインタイプの対流系
が起こりやすいとされ、とくに国外でそのような研究が多
かったが、この研究では、鉛直シアーベクトルの方向の対流
系が起こりやすいことを示唆した。この点はとくに国外の研
究者に注目される結果である。(2) 考えている環境風に対し
ては、レインバンドの東側で新たな対流が起こるタイプの
バックビルディングが期待されるが、実際に観測されるよう
な西側での発生は、環境風と対流系がつくる鉛直循環の重ね
合わせの結果として理解できる。すなわち、移動するメソ対
流系に相対的に地表付近での環境風は東風であるが、それに
もかかわらず西側でバックビルディングが起こるのは、対流
活動が、鉛直循環、したがって下層で強い西からの流れを励
起するためである。(3) レインバンドの走向が環境風の下層
シアーベクトルの方向と異なる上述の特徴は、潜在不安定の
- 40 -
図 8.積雲対流解像モデルからのメソ対流系。(上)高さ 3.8 km での降
水要素(雪水+霰+雨水)の混合比と流れの様子。
(下)高さ 250m での
雨水の混合比。青線は収束線。A,B,C は個々のメソスケール対流を表す。
(Yamasaki, 2009, J. Met. Soc. Japan)
( 3 )大気組成変動予測研究
CHASER との結合により、産業革命以来のオゾンの全球分布
本研究プログラムは、アジア・太平洋(ユーラシア大陸を
含む)を中心として、気候変動や大気汚染に関わる大気微量
の変化、及び現在のブラックカーボンの分布に基づく長期平
衡実験を行い、それらの気候影響を評価した。
成分の放出・輸送・変質・沈着の物理的・化学的プロセスを
図 1 は本研究で計算された北半球夏期(JJA)における対流圏
明らかにし、この地域の大気質変動とグローバル大気汚染と
オゾン増加(産業革命以前~現在)及び、BC(現在)による放
の関連を明らかにすると共に、大気汚染と気候変動との関連
射強制力の全球分布である。図に見られるように、対流圏オ
を研究することにより、気候変動フィードバックを含めた大
ゾン及び BC の水平分布パターンの不均一性が放射強制力の
気組成変動予測を行うことを目的とする。この目的を達成す
分布に大きく影響することが示されている。オゾンについて
るために、本研究プログラムでは、大気汚染物質の大陸間・
は北アフリカから中東、さらに北米から大西洋域に強い放射
大陸内輸送過程、対流圏光化学反応過程、エアロゾルの物理
強制力が現れている。全球年平均では長波 0.40 Wm-2、短波
的・化学的変動過程などを明らかにすると共に、二酸化炭素、
0.09 Wm-2 で、合計 0.48 Wm-2 の強制力であった。これはメタ
メタンなどの温室効果ガスの濃度、炭素・酸素の同位体比の
ンの放射強制力とほぼ同等である。長波による放射強制は両
空間的・時間的変動解析を行い、生物圏を含むそれらの放出
半球中緯度で極大となり、北半球中緯度の夏季では 1 Wm-2
源・吸収源の強度とその変動要因を明らかにする。さらに、
もの大きな放射強制が計算された。短波による強制は地表ア
これら大気汚染物質、温室効果ガスのエミッションインベン
ルベド分布を反映し、極域で大きく夏季には 0.3-0.4 W m-2 の
トリを通して、アジア・太平洋地域の大気質変動の将来予測
値が計算された。
BC については、インドや中国域において、5 Wm-2 以上の
を行う。
本年度は特に、化学・気候モデルによるオゾン・ブラック
非常に強い放射強制力が計算されている。全球年平均の放射
カーボンの気候影響の解析、大気輸送モデルによる CO2 の
強制力は、本研究では、0.52 Wm-2 と見積もられ、これは対
JAL CONTRAIL 観測データの解析、領域モデルによる中国中
流圏オゾン増加による放射強制力より多少大きい。しかし、
東部におけるオゾン・ソースの帰属、泰山集中観測における
本研究の BC 強制力は、現在の BC 全量に対する値であるの
ブラックカーボンの測定、自然・合成海塩粒子上における HO2
で、産業革命以前からの増加に対する BC の放射強制力は約
ラジカル取り込み係数の実験室的研究について報告する。
10%程度低くなるはずであり、オゾンと BC の全球放射強制
力はほぼ同程度と算定された。
a.
化学・気候モデルによるオゾン・ブラックカーボンの気
候影響
一方、オゾンによる夏期の気温上昇は放射強制力分布をほ
ぼ反映しており、中東、南ヨーロッパから北アフリカ、北米
これまで地球環境総合推進費などによる研究の一環とし
において 1℃以上の上昇が見られている。BC については必ず
てオゾン・ブラックカーボン(BC)の気候影響の研究を行って
しも放射強制力の分布とは一致せず、ユーラシア大陸、北米
きた。本研究では化学・気候モデルとして CCSR/NIES/FRCGC
の中緯度帯に広く 1℃以上の気温上昇域がみられた。
GCM と 、 エ ア ロ ゾ ル モ デ ル SPRINTARS を 組 み 込 ん だ
b.
大気輸送モデルによる CO2 の JAL CONTRAIL 観測データ
の解析
逆モデルを用いて領域別 CO2 収支フラックスを求める国際
相互比較 TransCom や、わが国の JMA モデルと NIES/FRCGC
モデルとの比較から、モデル間における収支フラックスの誤
差の原因として、それぞれに用いられている大気輸送モデル
における輸送プロセスの差によるものが大きいことが分かっ
てきた。このことから、CO2 の実測値による順モデル計算に
よる大気輸送モデルの検証が重要と考えられる。本研究では
図 1.産業革命以来のオゾン増加と現在のブラックカーボンによる夏期(JJA)
における放射強制力と気温上昇。
わが国の JAL CONTRAIL で得られたデータを用いて、上部対
流圏における CO2 輸送がどのようなプロセスに支配されてい
- 41 -
c.
領域モデルによる中国中東部におけるオゾン・ソースの
帰属
タグ付き領域モデル NAQPMS を用いて、地球環境総合推
進費の一環として 2006 年 6 月に中国山東省の泰山(標高 1534
m)において行われたオゾン・エアロゾル及びそれらの前駆体
ガスに関する集中観測(MTX2006)期間中の地表付近(<1.5
km)オゾンの解析を行った。用いられたモデルでは 81km 解像
度の東アジア域を外部領域とし、この中に図中国中東部を
図 2.地表(左図)及び上部対流圏(右図)における時間—緯度断面の緯度傾度。観
測値(上図)とモデル計算値(下図)の比較。
27km 解像度でネスティングした。また外部領域の外側境界
濃度は全球モデル CHASER から与えられた。
図 3 には集中観測期間中の O3, NOx 濃度の測定値とモデル
るかを調べ、観測から得られた緯度分布の年々変動が
計算値の比較を示す。図に見られるようにこの期間中にオゾ
NIES/FRCGC モデルでどのように再現されるかを調べた。
ンの測定値(計算値)は最大値 160(175)ppb、日平均値 82(85)ppb、
図 2 は 2000-2003 における太平洋上の CO2 の緯度方向の濃
NOx は最大値 9(7)ppb、日平均値 1.1(1.2) ppb を示し、モデル
度傾度について、地表及び航空機観測データとモデル計算結
はこの地域のオゾン高濃度汚染をよく再現していることが分
果を比較したものである。地表では観測、モデル共 12-5 月に
かった。
亜熱帯から北半球中緯度へ、1-6 月に熱帯から 10°S へ CO2
こうした高濃度オゾンの帰属を求めるため、図 4 に示した
濃度が増加している。観測に比べてモデルでは南半球低緯度
で緯度方向の濃度傾度の季節変化が強く出ている。この領域
は南太平洋収束帯(SPCZ)に強く影響されており、SPCZ に関
するモデルの誤差が観測との差異をもたらしているものと思
われる。一方、上部対流圏では赤道周辺の 10°S-10°N の間
の CO2 濃度傾度は小さく、モデルは観測をよく再現している。
また、これらの観測値、計算値に観られる CO2 濃度分布の年々
変動は、ENSO などの変動によるものと思われる。
こうした計算値と航空機観測値などの比較に基づく輸送プ
ロセスの解析から、冬季から春季にかけての緯度方向の大き
な濃度傾度の原因は、子午面循環の抑制によるものであり、
言い換えれば中高緯度において濃度傾度が小さいのは低気圧
図 3.集中観測期間中の O3, NO2 の測定値(黒)と計算値(赤)。
活動により大気が緯度方向に均一に混合されるためであるこ
とが分かった。南半球亜熱帯の CO2 濃度傾度は同様に、熱帯
収束帯により混合にバリアが生じるためと考えられる。一方、
熱帯上部対流圏の濃度傾度は、亜熱帯域と異なって子午面循
環の抑制ではなく、北半球冬季・春季における下層大気の上
昇によるものである。熱帯上部対流圏の緯度方向の濃度傾度
は大陸間輸送によって低減されており、平均ハドレー循環の
季節移行により、半球間の輸送が促進され、春季には熱帯の
濃度傾度が減少している。
図 4.タグをつけた地域とそれぞれの地域からのオゾンの寄与濃度(寄与率)。
- 42 -
濃度の日変化を示す。測定値中で、6 月 5-7 日、11-13 日の高
濃度は華北平原における冬小麦・農業廃棄物燃焼によるもの
であることが、昨年度までの研究で明らかになっている。ま
た、図に見られる午後に高濃度になる日内変動は、午後に混
合層高度が泰山山頂まで上昇し、高汚染物質に覆われるため
である。
図 7 は異なる測定器による BC/EC 測定値間の相関を観測の
後半期間について見たものである。いずれの測定器間におい
ても BC の測定値の間には高い相関(R2>0.88)が得られた。但
図 5.6 月の CEC 領域における地表付近オゾンに対する寄与の分布。(カラー
コード:ppb、輪郭線:%)
(a)CEC 内部全体、(b)HBT+NSD+ECD+LOCAL、
(c)SSD+AH+JS、(d)SX+HN、(e)外部境界、(f)上部境界。
し最小自乗フィッティングの傾きは 1.07-1.95 とかなりの開
き が 見 ら れ た 。 一 般 的 傾 向 は 、 opt-EC(PM2.5) <EC(PM2.5,
IMPROVE)< heated PSAP-BC(PM2.5)<MAAP-BC(PM2.5)である。
ように各地域にタグをつけ、これら各地域で生成したオゾン
ここで opt-EC は光学原理に基づく Sunset EC 測定を表す。観
の寄与率を計算した。図中の表から月平均濃度 85ppb に対し
測 の 前 半 で は PM1 に つ い て 同 様 の 傾 向 が 得 ら れ た 。
て山東省からの寄与が 19ppb(22%)と最も大きく、局地的生成
MAAP-BC は opt-EC に対してほぼ 2 倍の値を与えるので注意
(local)は 10ppb(12%)、タグをつけた中国中東部(CEC)全体から
が必要であるが、それを除いては一般にファクター1.5 の範囲
寄与を合わせると 51ppb(60%)に達し、その他は大陸間輸送を
内で BC、EC の測定値は一致することが分かった。この誤差
含 む 領 域 外 か ら の 寄 与 が 14ppb(16%) 、 成 層 圏 寄 与 が
範囲は 4-6 倍と見積もられている BC の排出インベントリの
17ppb(20%)などとなっている。
図 5 は 6 月の CEC 領域に対する地表付近オゾン寄与度の地
域的分布を示したものである。図からオゾン濃度は(a)に見る
ように泰山南部の華北平原で最も高く、その内訳としては(c)
の揚子江デルタ地域、及び (b)の河北省、山東省北部・東部
が主として寄与していることが分かった。本研究により、中
国中東部で大気汚染が最もひどくなる 6 月について、この地
域のオゾン生成の全体像がかなり解明されたといえよう。
d.
泰山集中観測におけるブラックカーボンの測定
上述した 2006 年の泰山集中観測(MTX2006)においては、エ
アロゾル特にブラックカーボン(BC)の測定にも力を注いだ。
図 6.MTX2006 における複数の測定器による BC 濃度の日変化。(5 月 31 日—
6 月 30 日)
エアロゾル中のブラックカーボン及び元素状炭素(EC) に関
してはその定義にも幅があり、測定手法によって数値に大き
な差が出ることが良く知られている。本研究では次の 4 つの異
なる測定器を用いてこれらを測定し、泰山における BC/EC の実
態を明らかにすると共に、測定手法の問題点を検討した。ここ
で 用 い ら れ た 測 定 器 は 、 (1)multi-angle absorption
photometer(MAAP, Thermo)、(2)particle soot absorption photometer
(PSAP, Radiance Research)、(3)EC/OC semi-continuous analyzer
(Sunset laboratory)、(4)Aethalometer(AE-21, Magee Scientific)の 4
種である。
図 7.後半観測期間(6 月 20-30 日)における BC 測定値の異なる測定器間の相関。
図 6 にはこれらの測定によって得られた観測期間中の BC
- 43 -
推定誤差範囲に比べて十分小さく、本観測の結果は BC 放出
ら、海洋上における HO2 の海塩粒子による取り込み係数とし
量の誤差の拘束に極めて有用と思われる。
ては 0.1 の値をモデルで使用することを推奨した。この値を
用いたときの HO2 ラジカル濃度の減少は、風の強さによる海
e.
自然・合成海塩粒子上における HO2 ラジカル取り込み係
塩粒子濃度の違いに依存するが、一般的に不均一反応を考え
ない場合の 87-94%とほぼ 10%の減少と推定された。
数の実験室的研究
これまでに当プログラムで行ってきたリモート海洋境界
層における HOx(OH, HO2)ラジカルの直接測定と、同時に測
定された大気汚染物質濃度を用いたボックスモデル計算値と
の比較から、HO2 ラジカルの海塩粒子等のエアロゾル表面上
での消失が無視できないではないかと推測されてきたが、海
塩粒子上における HO2 の取り込み係数の正確な測定値は得ら
れていない。そこで本研究では、野外観測に用いられたと同
じ NO 変換 LIF 法を用いて HO2 を高感度で測定することによ
り、実験誤差の原因となる HO2 の self-reaction の無視できる
低濃度条件で、海塩粒子上における HO2 の取り込み係数の測
定を行った。実験には常圧エアロゾル流通法を用い、HO2 は
185nm 紫外線による水蒸気の光分解で、またエアロゾルは水
溶液からアトマイザーを用いて生成した。試料としては合成
海塩、自然海塩の他、参照物質として KCl を用いた。エアロ
ゾルの導入位置を変えて反応時間を変えることによって得ら
れる、HO2 濃度の一次減衰速度のエアロゾル濃度依存性から
求められた取り込み係数(γ)を過去のデータと共に表 1 にまと
めた。
KCl に対しては相対湿度(RH)66、75%に対する γ が 0.02、
0.07 であったのに対し、CuSO4 をドープすることにより
RH75%で γ は 0.55 にまで上昇した。合成海塩、自然海塩に
対しては表に示されるように RH が 35-75%の範囲でそれぞれ
0.07-0.13、0.10-0.11 の範囲の γ の値が得られた。この結果か
表 1. 各種エアロゾル粒子上の室温における HO2 ラジカルの取り込み係数
NaCl
RH
γ
Condition
75%
0.10 ± 0.02
wet
53%
0.11 ± 0.02
wet
53%
0.02 ± 0.01
dry
0.018
Solid film
66%
75%
0.02 ± 0.01
0.07 ± 0.03
dry
wet
Ref.
Taketani et al.
(2008)
Taketani et al.
(2008)
Taketani et al.
(2008)
Gershenzon
et al. (1995)
This work
This work
75%
0.13 ± 0.04
wet
This work
50%
35%
0.12 ± 0.04
0.07 ± 0.03
wet
wet
This work
This work
75%
0.10 ± 0.02
wet
This work
50%
35%
0.11 ± 0.02
0.10 ± 0.03
wet
wet
This work
This work
KCl
Synthetic
sea salt
Natural
seawater
- 44 -
( 4 )生態系変動予測研究
手法を、英国ブリストル大学と共同で開発することになった。
本プログラムではアジア・太平洋域を中心に気候・環境の
今年度は、先方所有の陸域生態系モデル BETHY を利用した
変動が海洋・陸域生態系の機能・構造に与える影響と、逆に、
データ同化システム(CCDAS)の提供を受け、これを利用した
生態系の変化が気候や環境に及ぼす影響を予測・評価するモ
幾つかのテスト実験を行った。また、データ手法開発のため
デルを開発する。また、モデル開発のため生態系の広域分布
の基礎データとして、東アジアの年間炭素収支値を文献より
に関する観測データを解析し、パラメータ化する。
収集した。そして、その傾向についてレビューを行った論文
を学術雑誌に掲載した。(科研費若手 B/加藤代表、および JSPS
陸域生態系モデル研究グループ
海外特別研究員/加藤)。
陸域の炭素循環モデルを開発し、全球規模での温室効果ガ
スの変動等への陸域生態系の寄与を定量的に評価する。全球
b.
陸域動的生態モデル SEIB-DVGM の高度化
規模での気候変動が、植生の分布や多様性の変動に及ぼす影
SEIB-DGVM の植物個体群動態コンポーネントへ、熱帯林
響を評価する事を目指し、個体レベルに基づく動的全球植生
植物個体群シミュレータ FORMIND を取り込んだ。調整パラ
モデル(DGVM)の初期モデルを開発する。
メータや気象変数の変動に対するモデル出力の変化は限定的
であり、このモデルが頑健である事が示された。このモデル
a.
陸域生態系モデルによる統合モデルの高度化
の森林動態を制御している主要なパラメータや関係式は既存
微量ガス交換モデルを開発したことにより、大気化学・輸
モデルから採用したものであるが、今回の作業によって、気
送モデル研究者と共同研究に発展しつつある。 CO2 以外の温
候条件が生態系変動に与える影響、また生態系変動が物質循
室効果ガス収支の将来予測が、今後の温暖化予測で重要性が
環に与える影響、を解析する事が可能となった。そのような
増す可能性を示した。いくつかの政策対応プロジェクトに参
モデルにより、変動環境下において森林全体の構造や機能を
加して貢献を行った。
予測する上で、最も重要なパラメータ・プロセス・気候環境
本年は、これまでの観測で得られたガス・水サンプルのメ
要素を定量的に把握することができる。完成したモデルを用
タン・N2O 同位体比や、バイオマスの炭素・窒素同位体比の
いた解析においては、樹冠を優占している樹種の僅かな消長
分析を行った。その結果、メタンの重水素以外の同位体比の
が、樹冠下の樹種の消長に極めて大きな影響を与えた。これ
分析がほぼ終了した(科研費基盤 A/和田代表)、それらの測定
より、熱帯多雨林においては、気候変動が森林全体や優占樹
データは同グループ内で開発中の「Sim-CYCLE のメタン・
種に対して僅かな変化しか与えない場合においても、それが
N2O フラックス推定コンポーネント」の検証のために提供さ
樹幹下の樹種の生物量や生物多様性に甚大な影響を与える可
れる予定である。さらに、土壌炭素循環を明らかにするため
能性が示唆された。これらの結果を論文にまとめ投稿した。
の、土壌中の二酸化炭素ガス測定装置を現地草原に設置した。
SEIB-DGVM が扱う 3 次元の放射スキームを垂直 1 次元に
さらに、土壌のガス拡散係数の測定を行った(科研費基盤 B/
簡略化することで計算速度を向上させメモリ消費を抑えた
伊藤)。
sSEIB を開発し、これを大循環モデル CCSR-FRCGC GCM お
大気–陸域間の微量ガス交換を扱うモデル VISIT を用いた
よび地表物理モデル MATSIRO と結合した。sSEIB が再現す
全球シミュレーションを実施した。湿原・水田分布を考慮し、
る陸域生態系の炭素収支と植生タイプやサイズは大気中の二
メタン発生および森林・草原土壌でのメタン生成の分布を妥
酸化炭素濃度や地表の放射バランスや水バランスに大きな影
当に再現することができた。モデル検証としてつくば・真瀬
響を与え、気候を決定する重要な要素のひとつであることが
水田においてメタンフラックス観測データと比較し、総放出
確認された。産業革命以前の二酸化炭素濃度を用いた 100 年
量や季節変化の再現性を確認した(科研費若手 B/稲冨)。また、
間のシミュレーション実験では大気と植生のダイナミックな
温暖化予測実験の入力データとなる、バイオマス燃焼や土地
バランスが再現され、陸面の炭素収支はほぼ平衡状態に達し
利用起源の微量ガス放出に関するシナリオ(RCP)作成のため、
た。このときの植生タイプや葉面積指数・生産量の全球の分
地球環境モデルプログラムの研究者と協力し VISIT による定
布は、現在の地域的パターンをうまく再現した。
気候モデル用の大きなグリッドでは扱いきれないローカ
量的評価を進めた(環境省推進費 S-5)。
モデルの挙動を測定データに基づいて自動的に調整する
ルスケールの地形・地質的な多様性を扱うためのスキームを
- 45 -
内同位体分布を
を測定し硝酸の
の生成経路や N2O の発生機
機構
子内
を考
考察した。モデ
デルによる解析
析はこれからで
である。
生態
態系空間分布観
観測・モデル研
研究グループ
衛星画像から得
衛
得られた観測デ
データをモデル
ル化・解析する
るこ
とに
により、地域か
から全球スケー
ールまで、生態
態系と気候の相
相互
作用
用を解明する。また、数年~
~数十年の変化
化や変動を規定
定す
る生
生態系素過程の
の解明をするた
ためにモデル化
化に必要なデー
ータ
取得
得を支える観測
測、野外操作実
実験体制をつく
くる。
図 1.高山と富士吉田
田の森林観測サイトにおいて計算さ
された、純生態系生
生産力、
メタ
タン、亜酸化窒素
素の年変化の観測値
値との比較。
a. 光合成有効放射
光
射量(PAR)と葉
葉面積指数(LA
AI)の推定
アジアを中心と
ア
とした全球スケ
ケールの光合成
成有効放射(PA
AR)
のスキームでは
は、衛星観測デ
データ由来の高
高解像
開発した。この
と葉
葉面積指数(LA
AI)を衛星デー タから推定す
するアルゴリズ
ズム
度
度土地被覆デー
ータ(GLC2000)を利用する事
事で、ローカ ルス
の開
開発を進めた。特に、LAI 推
推定値の検証方
方法の高度化に
に注
ケールの地形・地質的な多様性
性(土壌の深さ
さや質の違い・水は
力し
した。まず、LA
AI の定義を明
明確化し、衛星
星観測の LAI と地
と
けなど水文学的
的な違い・傾斜の
の大きさや向き
きの違いなど))がも
上観
観測値の LAI を同一定義で比
を
比較した。さら
らに、シベリア
アな
産ポテンシャル
ルの多様性を推
推測する。そし
して、
たらす植物生産
どで
では放射伝達モ
モデルを介して
てステップバイ
イステップで衛
衛星
を導入したシミ
ミュレーション
ンにおいては、LAI
このスキームを
観測
測値を検証する
る手法について
て検討を行った
た(図 2)。衛星か
から
分
分布の再現性が
が大きく改善される事が確認
認された。この
の成果
推定
定した葉面積指
指数データを S
SEIB-DGVM の検証に利用
の
し、
は
は論文として出
出版された(Ise and
a Sato 2008)。
シベ
ベリアのカラマ
マツ林の季節応
応答の変化を検
検討した。放射
射伝
昨年度に引き続いて、動的
的全球植生モデ
デル SEIB-DGV
VM の
達モ
モデルの国際相
相互比較実験(R
RAMI4PILPS)に
に参加し、この
の相
AG
GCM への結合
合作業を行った
た。その結果、プログラムの
の技術
互比
比較実験で提案
案されている 4 つの植生タイ
イプ(草原、サバ
バン
的
的整備が完了し
し、結合モデル
ルが正常かつ安
安定的に動作す
するよ
ナ、閉じた森林、開けた森林)に
における放射シ
シミュレーショ
ョン
うになった。さらに、この結
結合モデルにお
おける調整作業
業を進
さまざまな林床
床、LAI、放射条
条件下でシミュ
ュレーションし
し、
をさ
め、オンライン
ン実行時の LAII・炭素循環パ
パターン・植生
生分布
他の
のモデルとの比
比較を行った。また一方で、東南アジア地
地域
の再現性を大幅
幅に向上させた
た(革新プロ A11/A4)。
の各全球分布の
にお
おける現地観測
測による光合成
成有効放射デー
ータの収集を進
進め
ると
と共に、夏期に
にインドネシア
アで集中観測を
を実施した。
c.
Sim-CYCLE
E とメタン・窒
窒素
Sim-CYCLE における窒素循
に
循環プロセスの
の組込みを完了
了し、
炭
炭素-窒素循環を
をリンクさせた
たモデルを開発
発した。また、湿原
や
や水田からのメ
タン生成放出
出スキームを組
組込み、温室効
効果ガ
ス収支評価モデ
デルを確立した
た。亜酸化窒素
素放出スキーム
ムの全
球
球モデル組込み
みを実施し、3 種類の温室効
効果ガスに関す
する評
価
価を予備的に実
実施した。それ
れにより、温室
室効果ガス収支
支評価
モデルを確立す
する目途が立ち
ち、いくつかの
のサイトで観測
測デー
よる検証を行い
い論文として投
投稿した(Inatom
mi et
タとの比較によ
図 2.シベリアカラマツ
ツ林における、樹冠
冠写真の二値化画像(左図:手前の黒
黒い
図 1)。
al., submitted) (図
三角形
形状の部分は、写真
真に構造物が写り
りこんだためマスク
クした領域)と、同
同条
件で森
森林放射伝達モデル
ルによるシミュレ
レーションにより作
作成した樹冠画像
像(右
図)。現
現場スケールでの森
森林の構造(葉面
面積や枝面積, その
の他)の推定に利用
用で
d.
きる。
硝酸の分子内
内同位体比や堆
堆積物の研究
印
印旛沼州水域河
河川水・沼・地
地下水において
て POM の同位
位体比
か
から硝酸の起源
源を解析した。印旛沼集水域
域の亜酸化窒素
素の分
- 46 -
b.
亜寒帯におけるエコトーンのモデリング
d. アラスカの森
森林バイオマスの衛星データによる推定
デリングを行うため、カナダ
ダのツンドラか
から亜
生態系のモデ
アラスカの亜寒
ア
寒帯林からツン
ンドラにかけ てのエコトー
ーン
寒 帯 林 に おける
る エ コ ト ーン
ンを 対 象 に 、 ALOS/AVNIRA
-2 と
地域
域を対象に、森
森林地上部バイ
イオマス量の衛
衛星「ALOS」の
AL
LOS/PALSAR のデータを入
入手し、カナダ
ダ東部における
る森林
マイ
イクロ波レーダ
ダー「PALSAR
R」による推定
定アルゴリズム
ムの
か
からツンドラへ
へのエコトーン
ンにおける植生
生のマッピング
グ作業
開発
発を行った。対
対象地域内 29 か
か所の森林にお
おいて 2007 年に
年
を進めた。北半
半球の積雪の長
長期変化に関し
して、最近 5 年間の
年
現地
地で取得された
た地上部バイオ
オマス量と、A
ALOS/PALSAR
Rの
デ
データも含めて
てさらに研究を
を進めた。また
た、千葉大学と連携
観測
測値との関係を
を比べた結果、両者間には強
強い正の相関が
があ
し、レナ川流域
域を中心とする東シベリアの
の植生変動と気
気象変
るこ
ことが分かった
た(図 3)。この相
相関を利用して
て推定アルゴリ
リズ
動
動との関係につ
ついての研究を
をまとめ、研究
究集会で発表を
を行っ
ムを
を構築する。ま
また、モンゴル
ル北部の亜寒帯
帯林と草原との
の間
た。
のエ
エコトーンも新
新たに対象とし
して加え、4 か所の森林の地
か
地上
部バ
バイオマス量を
を現地で計測し
した。推定アル
ルゴリズムの精
精緻
c.
モンゴルの植
植生のモデリン
ング
化を
を目指す。また
た、ALOS/PALSAR データに
に含まれている
る地
中央アジア降
降水傾度に沿っ
ったタイガ-草原
原-砂漠の植生
生移行
形の
の影響を低減す
するための手法
法を取り入れる
るため、アラス
スカ
モデルの定性的
的検証と定量化
化のため、モンゴ
ゴルの森林、草原、
草
大学
学フェアバンク
クス校の地球物
物理研究所と連
連携を開始した
た。
乾
乾燥草原の
3 地点において植
地
植生調査および
び気候・土壌観
観測シ
ステムの設置を
をおこない、水
水環境-植生間相互作用の地
地形ス
海洋
洋生態系モデル
ル研究グループ
プ
な時空間変動デ
データの取得・解析を開始し
した。
ケールの詳細な
本グループでは
本
は、地域から地
地球規模、季節
節から数十年規
規模
度での家畜の植
植食圧の時空間
間分布を推定す
するた
また、高解像度
とい
いったさまざま
まな時空間スケ
ケールにおける
る、環境変動に
に対
像データから推
推定された草原
原バイオマスと現地
め、MODIS 画像
する
る海洋生態系の
の応答メカニズ
ズムを解明し、将来予測する
るた
調
調査による遊牧
牧民・家畜の間
間の相関から求
求める手法を開
開発し
めに
に、現場観測や
や衛星観測にも
もとづいた解析
析と、モデルに
によ
た(総合地球環境
境学研究所との
の共同研究)。全球の高解像
像度衛
る研
研究を実施して
ている。
星
星画像から、斜
斜面方位依存の
の不連続な森林
林-草原植生移
移行パ
ターンが見られ
れる地域 20 ヶ所
所を特定した。南北半球何れ
れの地
a. 海洋生物過程
海
の長期変動に関する国際共同研究
域
域も乾燥域の周
周縁部に存在し
し、低緯度側の
の斜面で森林が
が、高
西部北太平洋域
西
域における動物
物プランクト ン地理分布の
の変
緯
緯度側斜面で草
草原が成立して
ているため、放
放射・蒸発散量
量の斜
面
面方位依存性を
を反映していると考えられる
る。
図 3.アラスカにおける 29 か所の森
森林で測定された森
森林地上部バイオマ
マス量
(横
横軸)と ALOS/PALS
SAR の観測値(HV
V)との関係。森林地
地上部バイオマス量
量がゼ
図 4.上:北太平洋にお
おける Noecalanus 3 種の窒素安定同位体比の海域比
比較。
ロの
の値は、16 か所の
の草地から得た。
下:表
表面硝酸濃度(W
WOA 2001 より)
。黄丸は上図におけ
けるそれぞれの海域
域を
示す。
。
- 47 -
を縁辺海も含めて計 13 個の海域に分類することができた(図
5、上)。さらにこれらの分類された海域において、植物プラ
ンクトンの季節変動とその制御要因である水温・日射・風等
の物理環境との関係も調べた結果、海水温が冷たい時期ほど
植物プランクトンバイオマスのピークがより高くなる傾向が
見られた(図 5、下)。一方、大きな経年変化が 2008 年の夏か
ら秋にベーリング海及びアラスカ湾や西部亜寒帯循環域周辺
で見られ、海水温の上昇とともに、極めて高い植物プランク
トンバイオマスが見られた(図 5、下)。さらに日平均レベルの
海色衛星データを用いて北太平洋における植物プランブルー
ムの開始のタイミングと持続期間終焉までの時空間変動のメ
カニズムと気候変動との関係について研究している。
c.
超高解像度海洋大循環モデルによる海洋生態系実験
超高解像度海洋大循環モデルに NPZD 生態系モデルを結合
させたモデルによる数値実験結果から、黒潮続流域における
渦に伴うクロロフィルの変動過程について解析し国際ワーク
ショップで発表した。衛星海面高度偏差により捉えられた渦
活動に近い変動をモデルでも再現されていること、春のブ
ルーム以降、混合層が発達し始める冬にかけて、モデルで形
成される低気圧性渦の変動に応答して生物生産の高い渦が維
持され、移動する様子を捉えることができた(図 6)。また、イ
ンド洋アラビア海の酸素極小層の位置に、紅海からの海水流
図 5.上:12 年間の海色衛星の月平均値を用いた海域区分(標準偏差と春期
ブルーム期のピーク値で 13 個の海域に分類) 下:1997 年 9 月から 2008
年 12 月までの 4 つの海域における月平均アノマリの時系列
化と黒潮親潮の長期変動との関係を見いだし論文にまとめた。
SCOR による国際共同研究「動物プランクトン時系列の地球
規模比較」に参加し国際会議にてワークショップを主催し同
プロジェクトの一連の成果を発表した。現在ジャーナル特集
号の出版準備中である。また、水研センター、北海道大学、
カナダ海洋漁業省との協力のもと東西及び中央北太平洋亜寒
帯域における動物プランクトンの安定同位体比の長期変動パ
ターンを海域比較した結果、栄養塩分布に対応していると考
えられる安定同位体比分布が明らかになった(図 4)。
b.
衛星データを用いた基礎生産の季節・経年変動解析
1997 年から 2008 年までの 12 年間の月平均、9km 解像度の
衛星データを用いて、北太平洋における植物プランクトン分
布の季節・経年変化を調べた結果、季節変動の大きさや、春
季または秋季ブルームのピーク値の大きさによって、当海域
- 48 -
図 6.モデルで再現された 2006 年の月毎のクロロフィル a のスナップ
ショット(カラー)と海面高度(コンター)。
出と渦による広がりが重要であることが分かった。さらに、
( 5 )地球温暖化予測研究
異なる空間解像度(1/2 度、1/4 度)のモデルによる数値実験か
地球温暖化予測研究プログラムは精度の高い地球温暖化
ら、渦を解像できるモデルが CFC-11 の蓄積量の分布が観測
予測とその理解を主たる目的とし、温暖化研究、結合モデル
と良く対応すること、混合層の再現性が良いモデルの方が結
開発及び古気候研究の三グループで構成されている。気候変
果の再現がよいことも分かった。
動に関する政府間パネル(IPCC)の第 4 次評価報告書(AR4)
のプロセスが終わり、第 5 次評価報告書(AR5)への貢献を
d. 海洋生態系モデルによる経年変動の再現および国際協力
視野に入れ、そのためのより高精度の大気・海洋・陸面結合
全球 3 次元海洋生態系モデル(COCO-NEMURO)を用いて、
大循環モデルの開発、AR4 に向けて行った諸実験データの詳
国際的な海洋生態系モデル相互比較プロジェクト
細な解析、古気候変動の理解と地球温暖化予測の精度向上に
(MAREMIP: the MARine Ecosystem Model Intercomparison
つながる古気候シミュレーション、氷床モデル開発に取り組
Project) の計画に基づいて、生態系変動再現実験(1996-2007)
んでいる。以下、平成 20 年度の研究の主な成果を記す。
を実施した。その結果、年平均のクロロフィル a 濃度の再現
以下の記述の中で、大気大循環モデルを AGCM、大気・海
性にモデル間で大きな相違はないが、季節変動のタイミング
洋大循環結合モデルを CGCM、地球環境フロンティア研究セ
や生態系の構造(プランクトンの種構成など)に大きな違いが
ンター、東京大学気候システム研究センター、国立環境研究
あることが明らかになった。さらに、生態系モデルの高度化
所の三者が開発したそれらのモデルを MIROC と表している。
として、昨年度実施した鉄過程の導入に加えて、NEMURO
に、珪藻の 2 グループ化、小型生物群を追加した拡張版
a. 積雲対流モデルのパラメタ化の開発と AGCM への組み込み
NEMURO (eNEMURO)を 3 次元海洋大循環モデルに組み込み
昨年度、環境場に依存してエントレインメント率が変化す
テスト実験を実施した(図 7)。eNEMURO を用いることにより、 る新しい積雲対流スキームを開発した。その初期の実験では、
生物種の海域ごとの棲み分けをモデルで計算できるようにな
様々な点で有望な結果が得られたものの、西太平洋で過大な
り、衛星観測データに比べ生物現存量が過大評価であった東
降水をもたらすなどの問題があった。今年度は、主にスキー
部熱帯太平洋域や南大洋で大きな改善が見られた。
ムのテクニカルな側面についていくつかの改良を施した。そ
の結果、結合モデルにおいて気候値・変動ともにほぼあらゆ
る側面において結果が改善された。東太平洋でのダブル ITCZ
が弱くなり、SPCZ がよりよく表現される点、海洋大陸周辺
での降水の空間分布・季節進行が大きく改善される点が特筆
される(図 1)。経験的なトリガリングメカニズムなしで、湿潤
Kelvin 波、季節内振動などの赤道波動が現実的な等価深度で
表現される。以上のような良好な結果を受け、このスキーム
は次期 IPCC 報告用実験に用いる MIROC に導入された。その
結果、MIROC において初めて現実的な振幅を持つ ENSO の
再現ができるようになった(図 2)。
図 7.上段:拡張版 NEMURO モデル(eNEMURO)のフローチャート(右)、
衛星で観測されたクロロフィル a 分布(左)。下段:NEMURO (左)、
eNEMURO (右)により再現されたクロロフィル a 分布。
b.
モデルの再現する夏季太平洋高気圧のゆがみ
太平洋高気圧の年々変動と月内変動、及びその西方伸長と東
方後退時に見られた特徴的様相を、6・7・8 月について個別
に記述した(Kawatani et al. 2008)。用いたデータは時間・空
間ともに高解像度の客観解析データ ERA40(空間 1.125 度、6
時間出力)で、解析期間は 1979 年から 2001 年までの 23 年間
である。太平洋高気圧の東西変動パターンと、その周りの大
規模及びメソスケール現象、定常ロスビー波の特徴を記述し
- 49 -
図 1.年降水量[mm/day]。(a)Arakawa-Schubert スキーム、(b)千喜良スキーム、(c)観測。
部成層圏の赤道波分布との対応が明確に見られた。ケルビン
波・ロスビー重力波・n=0 の東進重力波は対流圏ウォーカー
循環と QBO 位相の影響を強く受けて東西-鉛直伝播する様
子が明らかになった。赤道成層圏に見られたエネルギー分布
のうち、赤道波の占める割合は 30%程度であることも分かっ
た。COSMIC 結果と AGCM 結果は類似した点が多く見られ、
AGCM を用いて観測された重力波エネルギーの生成メカニ
ズム等を明らかにした。
対流圏-中間圏界面まで含むモデルでは世界トップレベ
ルの解像度である MIROC T213L256 AGCM を用いたシミュ
レーションを行い、主に中層大気力学を対象とした解析を
図 2.Nino3 インデックスの比較。
行った(Watanabe et al. 2008; Tomikawa et al. 2008)。QBO の駆
上が観測、下が千喜良スキームを入れた MIROC。
動には大気波動が重要な役割を果たしていることは良く知ら
た。太平洋高気圧の東西変動と西太平洋上での月内変動との
れているが、赤道域にトラップされた赤道波と 3 次元的に伝
間には、統計的に有意な相関が見られた。
播する重力波の役割分担は長年未解明であった。高解像度
AGCM の解析結果では、西風加速には 30-50%赤道波が寄与
c.
するが、東風加速には東西波数 43-213(東西波長約 1000km
モデルの再現する重力波の解析と衛星データとの比較
2006 年 4 月に打ち上げられた COSMIC により、GPS 掩蔽
観測によるデータ密度は格段に増加した。Alexander et al.
以下)の重力波が主要な役割を果たしていることが明らかに
なった。
(2008a) は上記データを用いて、北半球冬季の中緯度に於け
る重力波の 3 次元構造を解析した。MIROC AGCM 結果と比
d.
較・考察を加え、亜熱帯ジェット付近で励起される重力波と
レーションと観測の差異
その伝播特性を明らかにした。また Alexander et al. (2008b)は、
梅雨前線小低気圧に伴う強い降水に関する AGCM シミュ
AGCM でシミュレートされた梅雨前線小低気圧に伴う強
東西波数 9 以下のケルビン波、ロスビー重力波の経度・高度
い降水の様相を既報の観測事例(1972 年 7 月 26 日等)と比
構造の解析を行い、全球分布特性を調べた。Kawatani et al.
較した。この AGCM は MIROC T106L56(プリミテブ・スペク
(2009) は AGCM に現れた赤道域重力波を調べ、COSMIC 結
トルモデル、波数 106、層数 56)である。このモデルに海面
果と比較・考察をすると同時に、東西波数 10 以上のより細か
水 温 と 海 氷 分 布 の 観 測 値 を 与 え た 1979 ~ 1999 年 積 分
な時空間スケールを持つ波動の解析も行った。重力波抵抗パ
(AMIP234 と呼ばれる)のデータのうちから、代表的な梅雨前
ラメタリゼーションは用いていないが、周期 1 年半から 2 年
線の事例として 1991 年 6 月の期間を抽出して解析した。
の QBO ライクな振動がシミュレートされている。AGCM は
観測事例は、大きな日降水量と日最大時間降水量が小低気圧
赤道波と結合した対流を現実的に再現しており、それらと下
の南西後方の trailing portion に集中する事を示している。
- 50 -
図 3.10S-10N 平均した(a)ケルビ
平
ン波、(b)ロスビー
ー重力波に伴う PE
E と東西・鉛直エネルギーフラック
クス の経度-高度
度断面図(Kawatan
ni et al. 2009)。コ
コ
ンターは東西風。QBO が西風シア
アー時の 1-2 月の 2 ヶ月平均図。下
下図は対流と結合したそれぞれの赤道波に伴う OLR の分散の経度分布
布。ケルビン波ソー
ー
スは一般的に東半
半球側で大きく、東
東半球で励起された多くのケルビン
ン波が成層圏へ伝播
播している。一方ロスビー重力波の
のソースは 60E-12
20W で大きいが、
東半球側ではウォ
ォーカー循環に伴う
う東風が存在する為、多くが成層圏
圏まで伝播していな
ない。
15 日平均場に
においては、梅雨降水帯は観
梅
観測的事実に比
比較し
ンお
および月によっ
って、大きく変
変動しないが、緯度の標準偏
偏差
再現された。しかし、この AG
GCM では、低
低気圧
てほぼ妥当に再
はゾ
ゾーンにより、月により大き
きく変動する。MFZ と BFZ 緯
おける強い降水
水の集中性は適
適切に再現され
れない。
の南西後方にお
度の
の標準偏差は 6 月より 7 月に
に大きく、かつ
つ 125~140˚E
Eに
シ
シミュレートさ
れた大きな日降水量と日最
最大時間降水量
量は東
おけ
けるよりも 110~125˚E で大きい。S. Max zone の緯度の
の標
進
進しつつ発達す
するサブシノプ
プティックスケ
ケール梅雨前線
線低気
準偏
偏差も大きい。すなわち、太
太平洋亜熱帯高
高気圧の西辺お
およ
圧
圧の近傍に発現
現している。この点で評価すれば、T106 の分解
の
び南
南辺における降
降水の再現性は
は充分ではない
い。
能
能モデルで再現
現されるのは“
“偽梅雨降水帯
帯”である。梅
梅雨前
幾つかの低分解
幾
解能モデルは、特に大きな降
降水量の正また
たは
線
線の強い降水の
の大気大循環モ
モデルによる再
再現性を議論す
するた
負の
の偏りと、特に
に大きな各ゾー
ーンの緯度の南
南偏または北偏
偏を
めには、月平均
均場に基づく検
検証や統計的検
検証に加えて、1 日
示す
す。
お
および
1 時間間
間隔の降水量出
出力値を用いて
て、観測事実と比較
検
検討しなければ
ばならない。
熱
マルチモデル解
解析
f. 熱帯収束帯のマ
熱帯収束帯(IT
熱
TCZ)は、熱帯
帯気象を考える
る場合に最も重
重要
e.
梅雨季降水の
の特徴のマルチ
チモデル解析
な特
特徴の一つであ
ある。CGCM で
では顕著な二重
重 ITCZ と呼ば
ばれ
“結合モデル
ルにおける 20 世紀気候”
世
プ
プロジェクトに
に参加
る現
現象がしばしば
ば発生し、熱帯
帯における降水
水の気候値の再
再現
ルが出力したメ
メイユ・梅雨季
季の降水の特
特徴を
し た 22 モデル
を困
困難にしている
る。本研究では
は、気候変動に
に関する政府間
間パ
PCP データと対比して調べ
べた。
GP
ネル
ル(IPCC)第 4 次評価報告書
次
(
(AR4)に参加し
した 22 の CGC
CM
降水分布は、太
太平洋亜熱帯高
高気圧の北西~
~北辺
この季節の降
によ
よる 20 世紀結
結合実験(20C33M)の結果を
を比較解析(マ
マル
に伸びるメイユ
ユ・梅雨前線降
降水ゾーン(M
MFZ, BFZ)、高
高気圧
チモ
モデル解析)し
し、CGCM での
の ITCZ の再現
現性を調べる。二
極大ゾーン(S. Max zone)、および、高気
気圧圏
の南辺の降水極
重 IT
TCZ に関するマ
マルチモデル解
解析は、すでに
に Lin el al. (20007)
内
内の降水極小ゾ
ゾーン(S. Min zone)に特徴
徴付けられる。これ
によ
よって報告され
れている。ここでは、ITCZ の地域性に着目
の
目し
らのゾーンの緯
緯度およびゾー
ーン内の降水量
量を比較対象として
て、各領域での IT
TCZ の季節変化を検討する。
選
選び、各月につ
ついての 20 年(1980~1999)平均値を調べ
べた。
解析には、使用
解
用可能な 25 モデ
デル(2007 年 7 月 16 日現在)か
各ゾーンの降
降水量は多モデ
デルアンサンブ
ブル平均によ って
ら、BCC-CM1(中
中国)、GISS-E
EH(米国)、C
CSIRO-Mk3.5(豪
比
比較的適切に再
再現される。し
しかし各モデル
ルの数値は、ア
アンサ
州)を除いた 22 モデルを用い、
モ
月平均データ
タを中心に解析
析し
ン
ンブル平均から
かなり大きく偏る。降水量
量の標準偏差は
はゾー
解析期間は
解
1979 年〜1998 年
年の 20 年間であ
ある。モデルデ
デー
た。
- 51 -
タと比較するための検証データとして、降水に関しては
g.
MIROC・CGCM の海洋コンポーネントの改良の検証
GPCP データを、また気象要素(温度、風、湿度など)に関
IPCC シナリオに基づく高解像度モデルを用いた地球温暖
しては、ERA-40 データを用いた。また、解析に際しては経
化予測実験のための気候モデル MIROC の高解像度海洋コン
度帯によって、アフリカ、インド洋、西太平洋、中央太平洋、
ポーネントの改良を行っている。中規模渦活動のパフォーマ
東太平洋、南アメリカ、大西洋の各領域に区分けした。それ
ンスに注目し、特に、黒潮続流域の南北熱輸送に関して報告
ぞれの領域の経度範囲は、Waliser and Gautier (1993)に従った。
する。海洋モデルはマルチカテゴリー海氷モデルを含む東大
アフリカ域の ITCZ の降水帯季節変化はきれいな正弦曲線
気候システムセンターの COCO4.3 を用いた。モデルの座標
を示す。このような降水の季節変化の特徴のモデル依存性は
系および地形は先のバージョンと同じであるが、鉛直解像度
小さい。一方、中央太平洋域での降水の季節変化はモデルに
は 51 層に強化している。この新しいモデルではトレーサー移
よってかなり異なる。これは、ITCZ のみならず南太平洋収束
流スキームとして Prather, M. J. (1986)の second-order moment
帯(SPCZ)の形成がモデルによってかなり異なるためであり、
(SOM) advection scheme を 導 入 し た 。 モ デ ル は common
二重 ITCZ が形成され易いか否かとも深い関連があると思わ
ocean-ice reference experiments (CORE)の境界条件を用いて 20
れる。このようなモデル依存性の違いの一因を探るために地
年のスピンアップの後 1958 年から 2004 年まで積分した。
表付近の気温と水平風の発散を降水分布に対応させてみた。
COCO4.3 で計算した上層 170m の中規模渦による南北熱輸
中央太平洋域(海上)では温度分布と降水分布が比較的よく
送を図 4 に示す。大きな北向きの渦による熱輸送が黒潮続流
一致し、地表風の収束域で降雨が見られるのに対して、アフ
域に示された。この熱輸送は黒潮続流の経路(図 4 の海面高
リカ(陸上)では、地表付近温度や地表付近の風の収束と降
度参照)に沿って向きが変わる。このような構造は Qui and
水に一年を通じた明瞭な関係は見られないが、雨季には降水
Chan (2005)の観測に基づく見積りでも示されている。彼らは
域の地表付近が低温化し、発散場となる傾向がある。これは、
Argo Profiling data と衛星観測による海面高度データより渦に
中央太平洋域やアフリカに限らず、海上、陸上で分けてみた
よる熱輸送量を <ρ Cp v' T' He>
場合、ほかの領域にもあてはまる。このことから、海上と陸
見積もっている。彼らはまた、東西方向に積算した南北輸送
上では地表面と対流性降水システムのカップリングメカニズ
量を Stammer et al. (2003)の渦活動に比例した拡散係数から見
ムが異なることが予想され、陸上では地表面の温度や水平風
積もった値と比較している。COCO4.3 で見積もった東西積算
収束の影響を直接的には受けないと考えられる。このような、
した南北熱輸送を図 5 に示す。渦活動による海面水位変動は
陸上と海上の違いに関しては、検証データにも同様の傾向が
十分再現されているにも関わらず、この熱輸送は観測データ
見られる。
から評価した Qui and Chan (2005)、Stammer et al. (2003)の見積
(ここで He=177m)として
もりと比較して小さい。
図 4.渦による上層 170m の南北熱輸送量(カラー)と海面
図 5.北太平洋における COCO4.3 での東西積算した
水位(等値線)(COCO4.3)
南北熱輸送量
- 52 -
図 6.Calipso 衛星による雲量(左)と Calipso simulator による MIROC4.1 の雲量 (中: 新積雲+モデル降水フラックス読み込み、右: 従来積雲+モデル
降水フラックス鉛直一様仮定)
h.
CFMIP 観測シミュレータパッケージ(COSP)の整備
モデル間で大気上端日射量が異なり、4 月、10 月には極域
IPCC AR5 向け Coupled Model Intercomparison Project(CMIP)
で 10[Wm⁻²]以上も観測との違いがあることが指摘されてい
の一部である Cloud Feedback Model Intercomparison Project
る。この原因を調査した。モデルの太陽軌道要素とカレンダー
(CFMIP)が出力を提供することを各国グループに強く推奨し
に対する感度実感を行い、違いの主要因はモデル毎のカレン
ている COSP について、MIROC 向け整備を行った。1 月の平
ダーの扱い(グレゴリオ暦、1 年 360 日)によるものである
均雲量について、Calipso 衛星(夜間観測)と MIROC4.1 の新
ことを突きとめた。結合実験を行い、気候への影響を調べた
版(新積雲スキーム入り)及び従来版の slab ocean 実験の出
ところ、1)影響は定量的にはモデル間のばらつきの範囲内で
力を COSP に読み込ませて得た雲量の図を示す(図 6)。一般的
ある、2)日射や気温、可降水量分布には系統的誤差を与える
傾向として、モデルで低緯度上部対流圏で観測に比べ雲量が
ことが分かった。
多く見られ、対流圏上層の湿潤バイアスと対応している。対
近未来予測実験の初期値化のための高解像 CGCM への海
流圏中・下層ではモデルの雲量が少なく見積もられている。
j.
上層の過大な雲の影響でその下層の雲に対してはシミュレー
洋同化システム導入
ターの感度が失われていると考えられる。新版では対流圏上
次期 IPCC レポート(AR5)向けの実験のひとつに 2030 年程
層の雲量が一層増えたが、中層の過小雲量は緩和された。極
度までの近未来気候予測実験がある。数十年スケールの気候
域の雲が新版と従来版で異なる点に対しては COSP に与える
変動・気候変化を考える際には海洋の影響が大きいため、海
モデルの雲・降雪 flux の仮定の違いの影響が考えられる。
洋データ同化により予測実験に用いる初期値の精度を向上さ
せる必要がある。現在、IAU と呼ばれるデータ同化手法を用
i.
季節変化における放射フィードバックに関する CMIP3
データ比較解析
いた結合モデルの開発が進められている(cf. Mochizuki et al.
submitted to Nature)。
季節変化に着目し、雲の放射フィードバックの解析を行っ
新しい気候モデル(MIROC4.x)への導入に先立ち、IPCC
た。方法は Tsushima and Manabe(2001)に従った。CERES の新
AR4 向けに開発した MIROC3.2 での実験を開始した。高解
放射収支衛星データを用いて雲の放射フィードバックについ
像度海洋モデルは渦許容モデルである一方、観測に基づいた
て調べ、季節変化において雲の放射フィードバックは短波・
再解析データにおいて中規模渦が表現されていないので、
長波どちらにおいても有意に働いていないことを確かめた。
データ同化に際してモデル内の中規模渦の活動が低下する恐
一方 CMIP3 モデルでは、雲の放射フィードバックは短波にお
れがある。それを防止するために、モデル出力を空間的に平
いては妥当な値を出しているモデルも多数あるが、一部モデ
滑化した上で同化を滑化した上で同化を行う手法を取った。
ルで反射の強まりが非常に強いことが分かった。長波におい
また同化そのものは、モデルのバイアスが大きく予測実験の
てはほとんどのモデルで温室効果を強める方向に働いている
際にショックが大きいので、気候値からの偏差を同化する手
ことが分かった。
法を用いた。
- 53 -
テ ス ト ラ ン と し て 、 MIROC3.2 を 用 い た 20 世 紀 実 験
(20C3M)の 1975 年 1 月 1 日のスナップショットを初期値とし
て 1 年間同化実験を行った。図 7 で示す通り、本同化システ
ムによって海洋中規模渦活動の低下は見られない。
k.
近未来地球温暖化予測を念頭においた北太平洋十年ス
ケール変動予測
近未来予測を行うためには、温室効果ガスの増加による全
球的な温暖化シグナルのモデル表現の精緻化に加えて、内部
変動として存在するような十年スケール気候変動に対する予
測精度の向上も重要である。また政策決定のためには、気候
変化の地域的な予測情報も必要であり、その点からも内部変
動の十年スケール予測は、近未来予測にとって主要な研究
テーマである。
しかしながら、そのような十年スケール内部変動予測への
図 7.MIROC3.2 高解像度版で海洋同化をしていない実験(20C3M、上)
挑戦が始まったのはごく最近のことである。そこで、海洋
と海洋同化をした実験(下)における 1975 年の海面水位分散(単位 cm²)。
海洋中規模渦は海面水位の変動を伴うため、海面水位分散は衛星観測デー
700m 以浅の水温と塩分を比較的シンプルに初期値化して、
タなどでも中規模渦活動の指標として用いられることが多い。両方の図か
十年スケール気候変動(ここでは特に太平洋十年振動; PDO)
ら、本データ同化システムが中規模渦活動にほとんど影響を与えていない
ことがわかる。
の予測可能性を調べた。PDO は、太平洋やそれをとりまく地
域における十年スケールの気候変動に対して、最も大きな影
響を与える内部変動である。
地表面気温(SAT)の全球平均値を指標にして予測結果を検
Observation
No Assimilation (NoAS)
Prediction (HCST/FCST)
証すると、観測値に見られる年々変動や十年スケール変動は
かなり現実的に予測できていた(図 8)。次に、IPCC 第 4 次報
告書に向けておこなった 20C3M-LA-FULL / SRES-A1-FULL
シナリオに基づく初期値化なし長期気候変化予測実験のアン
サンブル平均場が外力応答をかなり現実的に表現している
(図 8)ことに着目し、その初期値化なし実験のアンサンブ
図 8.全球平均地表面気温の年平均値偏差(1961-1990 年平均値を気候値
ル平均からの”ずれ”を予測すべき内部変動とみなして、観測
と定義した)。青線は 1960 年 7 月、1975 年 7 月、1990 年 7 月、2005 年
値に見られる”ずれ”と比較をおこない初期値化の効果を調べ
7 月からの 14 年予測(アンサンブル平均)値で、緑線は初期値化なし長期気
候変化予測実験のアンサンブル平均値をあらわす。陰影はそれぞれの 10
た。外力応答を除去した北太平洋 EOF1 で表現される PDO 時
アンサンブルのスプレッド幅をあらわす。赤線は観測値(HadCRUT3v)。
系列は、海面水温(SST)や 300m 以浅平均水温(VAT300)におい
て 3-5 年程度の予測可能性をもっていた(図 9)。地域的に見る
と、とりわけ北太平洋中緯度の海洋フロント域で十年スケー
ているため、全球平均 SAT に見られる温暖化傾向は緩やかに
ル内部変動のシグナルが数年以上の予測可能性をもっていた
なるだろうという将来予測結果が得られた(図 8)。
(図 10)。2005 年 7 月からの将来予測実験では、PDO シグナル
の初期値化をおこなった場合のほうが、初めの 10 年間(2015
l.
年まで)において、日本付近(北西太平洋)や欧州付近(北大西
解析に及ぼす影響
XBT, MBT 観測データのバイアス補正と 20 世紀気候変動
洋)で気温上昇幅が大きくなり、逆に熱帯太平洋で気温/水温
1960 年代の中頃から行われてきている XBT と MBT の観測
上昇幅が小さくなった。この空間構造は PDO の負フェイズに
データには正の水温バイアスが含まれており、このバイアス
対応するものであり、また熱帯太平洋の偏差が広範囲に渡っ
が海洋の水温変動の長期的変化に影響を与えている可能性が
- 54 -
0
1
2
3
4
5
Forecast Year
6
7
8
図 9.初期値化なし長期気候変化予測実験から得られるモデル内部変動(SST
図 11.年平均海洋貯熱量(海面から 700m まで)の時系列 (10²²J) 。以前の
もしくは VAT300)の EOF 第 1 モード空間パターンに射影した時系列の
方式(V6.2)で求めたものを黒線、新方式 6.6、6.7 で求めたものを夫々緑と赤で
RMSE。但し、5 年移動平均を施してある。実線と破線は VAT300 と SST を
示す。影は 1 シグマの誤差を示す。
それぞれあらわす。青線と緑線はそれぞれ初期値化ありとなしでの予測実験の
アンサンブル平均値の RMSE。初期値化なし予測実験の RMSE について予測
期間 0 年目から 8 年目までの標準偏差(すなわち平均的な RMSE の大きさの範
囲)を緑陰影であらわした。
の代表性が乏しかったことに加えて、現時点では特定するこ
とのできない、XBT 観測における様々な誤差が関連している
と考えられる。MBT のバイアスについては、観測深度の 2
次式を導入し、XBT と類似の方法で評価した。上記したバイ
アス補正式を用いて XBT および MBT の深度を更正し、歴史
的水温の客観解析を行った。従来の客観解析と比べて、現行
の解析には次のような大きな違いが見られた。1970 年代の海
洋貯熱量の大きな期間が長期間継続していたものが、バイア
ス補正により、ほとんど見られなくなり、近年の海洋の冷却
化は顕著でなくなった。新しい客観解析結果は、潮位データ
(Year)
と良い対応を示した。
図 10.5 年毎におこなった 14 年予測実験(hindcast)において、VAT300 の 5
年平均値を、予測開始から 0 年後、2.5 年後、5 年後、7.5 年後にそれぞれ、
90%有意に予測できる領域(偏差の線形回帰係数が 90%有意)。ここでの予測
m.
対象は初期値化なし長期気候変化予測実験のアンサンブル平均値からのずれ
気候感度の基本場依存性
産業革命前を基準とした気候感度と比較して最終氷期
成分としている。90%有意な領域のうち、予測地が説明する観測値の偏差の大
(LGM)を基準とした気候感度が半分程度でしかないという
きさが 1/3 以上と 1/3 未満である領域を赤色と灰色の陰影で塗り分けた。
結果を MIROC を用いた実験で得た。その原因を探る解析を
指摘されている。海洋の温暖化シグナルの検出に広く活用さ
行っているが、高緯度域での正のフィードバックの違いから
れてきた従来の歴史的水温客観解析値では、このバイアスは
生じているという途中結果が得られている。
考慮されていない。上述の XBT と MBT の水温バイアスを除
去する方法を提案する。問題となっている水温の正のバイア
n.
氷期の大気海洋循環場に対する海洋炭素循環の応答
スは、主に XBT の落下式によって与えられる観測深度が深す
本研究では大西洋の熱塩循環が異なる 2 種類の氷期の気候
ぎることに起因していると仮定し、XBT 観測を CTD とボト
場を用いた海洋炭素循環の再現実験を行い、氷期における大
ル採水による観測と比較して求めた深度差を、落下経過時間
気海洋循環場の変化が海洋炭素循環に与える影響を調べた。
の一次関数に適合させ、バイアス補正式を作成した。バイア
気候場の物理過程を境界条件として与え海洋炭素循環を
ス補正式は、年別および XBT プローブの種類別に構成した。
駆動させる、海洋炭素循環モデルを用いた。開発したモデル
補正式の係数についての推定誤差は、非パラメトリックな方
は、簡略化された生態系システムとして栄養塩、植物プラン
法で評価した。また、XBT の深度のバイアスは、典型的に、
クトン、動物プランクトン、懸濁態有機物(デトリタス)の 4
700m 深で+10m であった。XBT のバイアスは、従来の落下式
変数と無機炭酸の 2 変数が組み込まれている。モデルの水平
- 55 -
図 12.左から順に地球システムモデルによる先行研究(Brovkin et al., 2007)、
三次元海洋大循環モデルによる先行研究(Bopp et al., 2002)、三次元大気海洋
結合大循環モデルによる LGMv1 および LGMv2 の(1)氷期における大気中
pCO2 の変化を示す。本研究では氷期の(2)溶解度の変化、(3)海洋循環の変化、
(4)海氷の変化、(5)海面日射の変化のみを与えたときの大気中 pCO2 の変化を
示し、先行研究では各物理過程の効果に相当する結果を列記した。(6)は上記
図 13.新氷床モデルによる氷床の成長実験結果の一例。1000 年毎の成長の様
子を示している。
以外の過程(鉄仮説や堆積過程の影響など)による結果を示す。
解像度は約 3 度×3 度、鉛直解像度は 44 層からなる。物理境
舞いを再現できているのかも明らかではない。2008 年から氷
界条件は、MIROC・CGCM で得られた 2 種類の氷期実験の結
床モデル比較プロジェクト MISMIP (Marine ice sheet model
果を用いた。1 つは現在気候の実験(CTLv1)より北大西洋深層
intercomparison project)が Christian Schoof らによって開始さ
水の沈み込みが深くなる氷期実験(LGMv1)、もう 1 つは現在
れた。このプロジェクトの主な目的の一つは、現状の様々な
気候の実験(CTLv2)より北大西洋深層水の沈み込みが浅くな
氷床モデルによる再現の幅を調べることである。
り南極底層水が北上した氷期実験(LGMv2)である。この各気
我々の開発している氷床モデル IcIES は氷床縁辺部で重
候場に対する海洋炭素循環の再現実験を行い、海洋循環や海
要になる応力項を再現していない。本年はそのような項を含
氷などの変化が海洋炭素循環や大気中 pCO2 に与える影響を
んだモデル構成の中で最も単純化されたモデルを新たに開発
調べた。
し、そのモデルを用いて MISMIP に結果を提出した。
大気中 pCO2 は氷期の気候場を与えた LGMv1 で 22ppm、
図 13 は新しいモデルの再現の一例である。MISMIP で提案
LGMv2 で 17ppm 減少した(図 12)。さらに、氷期の海面水温
されている実験の内の一つの結果を表わす。氷のないところ
(SST)と海面塩分(SSS)の変化、海洋循環の変化、海氷分布の
から計算を始め、1000 年ごとの標高分布を表わした。
変化、および海面日射の変化のみが大気中 pCO2 に与える影
氷床端が若干進出しているのが結果から見られるが、これ
響も調べた。これらの結果によると、大気中 pCO2 の低下は、
は理論的な研究から提案されている進出の程度から比較する
いずれの実験でも SST 低下による溶解度の変化によってほぼ
と非常に少ない。これは本モデルで使用した解像度が粗すぎ
説明され、海洋循環や海氷の変化は大気中 pCO2 を増加させ
るためと考えられる。端位置の再現の向上のため、さらに開
ることを示した。
発を続け、高解像度モデルの最適化、高速化を図る予定であ
海洋循環の変化に伴う大気中 pCO2 の応答は 2 つの氷期実
る。
験で同様の結果を示している。これは、循環に伴う海洋表層
への炭素の輸送と生物生産に伴う深層への炭素の輸送とがバ
p.
氷期気候系のエネルギー論
MIROC モデルを用いて行った最終氷期極大期(LGM)シ
ランスし、大西洋熱塩循環変化に海洋表層の pCO2 分圧が大
ミュレーションの結果をエネルギー論的な観点から解析した。
きく応答していない可能性を示唆している。
LGM の境界条件は高緯度における有効位置エネルギー(APE)
o.
氷床モデリング
の帯状成分とその生成率を大きく増大させるが、トータルの
氷床の端位置の前進後退は氷床再現のための重要な課題
運動エネルギー(KE)は現在気候のシミュレーションに比べて
の一つであり、将来の海水準上昇へも影響を与える。しかし
それほど増えない。実際、時間平均帯状平均場の運動エネル
ながら、氷床端位置を良い精度で再現するのは難しい。加え
ギー(KZ)及び非定常擾乱の運動エネルギー(KT)をみると現在
て、現状のモデルによる再現がどの程度現実の氷床端の振る
気候の場合に比べてむしろ減少気味のように見える。これに
- 56 -
対し、定在性擾乱の持つエネルギー及び、それを通じたエネ
( 6 )地球環境モデリング研究
ルギー変換は明瞭に増加していた。地域別に見た場合、ユー
本プログラムは、地球シミュレータという、世界最大級の
ラシア大陸東岸では非定常擾乱の活動やジェットの弱まりが
スーパーコンピュータをフル活用して、気候シミュレーショ
見られるのに対し、北米大陸東岸地域では主に対流圏下層を
ンの新たな領域を拓く、先端的な気候モ デルを開発するとい
中心に非定常擾乱の活動が活発化し、偏西風ジェットの強化
う目的を持っている。この目的を達成するために、以下の 3
が、定在波の強化と共に見られた。これらは主に北米大陸に
つのグループによって研究活動を行っている。
存在した大陸氷床に起因すると考えられる。こうした大西洋
・次世代モデル開発グループは、中規模対流システムを詳細
域を中心とした擾乱の活発化は、その 2 次的効果として平均
に扱う大気大循環モデル(AGCM)の開発と中規模渦を解像す
子午面循環を強化するように働くが、大気全体の運動エネル
る海洋大循環モデル(OGCM)の開発を目標としている。
ギーを(現在気候に比べて)増大させるほどではない。氷期
・地球環境統合モデル開発グループは、物理気候過程、生物
極大期における南北の加熱較差と大陸氷床の存在は、東西帯
地球化学過程、および生態系動力学過程を含めた、地球環境
状流よりも南北子午面流を強化させるように働くようである。
統合モデル(ESM)の開発を 目標としている。2007 年度からは
文部科学省の「21 世紀気候変動予測革新プログラム」の課題
AZ
2.42
2.12
-0.18
7.00
7.09
-0.08
AS
0.32
0.25
1.51
1.59
10.02
10.19
(0.61)
・海洋データ同化研究グループは 4 次元変分法(4D-VAR)
(0.61)
データ同化システムの開発を目標としている。
「革新プログラ
0.08
0.05
0.33
0.14
2.12
2.00
として ESM の開発を進めている。
KZ
42.22
38.19
KS
1.36
0.45
0.97
0.92
0.30
0.67
ム」では 2030 年頃までを中心とした近未来予測も目標に加え
(0.20)
0.17
0.11
0.22
0.14
られている。
(0.14)
2.99
2.90
AT
0.71
0.64
以下に、2008 年度に得られた各グループの主要な成果をま
8.01
8.17
とめる。
(2.52)
(2.37)
KT
図 14.氷期極大期と現在気候のシミュレーションから計算された大気大循環
のエネルギーダイアグラム。箱は有効位置エネルギーまたは運動エネルギーの
各成分(帯状、非定常擾乱、定在性擾乱)を表し、矢印はそれらの変換、ある
次世代大気海洋モデル研究グループ
a.
次世代大気モデル開発のグループでは、水平分解能数 km
いは生成、消滅率を表す。上段が氷期極大期で下段が現在気候を表す。単位は
エネルギー量が 10⁵ J m⁻²変換率等が W m⁻²。
大気モデル
で全球を覆う全球雲解像モデル NICAM (非静力学正 20 面体
大気モデル Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model)の開
発を進めてきた。現状の大気大循環モデルにおける不確定性
の要因である積雲パラメタリゼーションを回避することで、
より信頼性の高い気候予測が可能となることが期待できる。
平成 20 年度は、前年度に実施した熱帯の大規模擾乱(マッデ
ンジュリアン振動、以下 MJO)の再現実験結果を解析し、熱
帯擾乱のマルチスケール構造を明らかにするとともに、熱帯
低気圧の発生予測を向上する可能性について示した。また、3
から 5 か月間の季節変化実験を実施し、夏季モンスーンに伴
う雲降水システム、熱帯低気圧の再現性について調べた。さ
らに、雲微物理課程、境界層過程等の改良に取り組み、全球
雲解像モデルの向上をはかった。
前年度に引き続いて、NICAM 7km 格子モデルにより 2004
年 6-8 月、14km モデルにより 6-10 月の再現実験を実施し、
夏季のモンスーンに伴う雲降水システムの気候特性、変動に
ついて解析した。1 か月以上の全球雲解像実験は初めての試
- 57 -
み
みであり、熱帯
帯の季節内変動
動、降水分布の
の詳細構造、熱
熱帯低
る AMIP
A
型の実験
験である。従来
来の研究では、インド洋にお
おけ
気
気圧の発生など
ど、従来型の大
大気大循環モデ
デルで弱点とさ
されて
る対
対流システムの
の北進、MJO な
などの季節内変
変動について、大
きた点について
て、良好な結果
果を得た。図 1 は、6-8 月に
につい
気海
海洋相互作用の
の重要性を指摘
摘する見解もあ
あったが、本実
実験
球の降水分布を
を観測および 7km
7
格子実験
験と比
て平均した全球
では
はこれらケース
スについて相互
互作用は本質的
的でないことを
を示
較
較したものであ
あり、図 2 は南ア
アジア域を拡大
大したものであ
ある。
した
たことになる。一方、インド
ド洋中部に過剰
剰な降水バイア
アス
実
実験では、衛星
星観測(TRMM)にみられるような降水分布
布の詳
がみ
みられる。スラ
ラブ海洋モデル
ルを組み込むこ
ことによりバイ
イア
細
細構造がとらえ
えられており、特に南アジア
アの地形に対応
応した
スの
の軽減が期待さ
される。
降
降水の地域性が
が極めてよく再
再現されている
る。このような
な降水
図 3 は同期間の
の熱帯低気圧の
のトラックを比
比較したもので
であ
の地域性は、従
従来の大気大循
循環モデルでは
は再現することが困
る。NICAM は観
観測と比べて同
同程度の熱帯低
低気圧の発生を
をと
難
難であり、NICA
AM のパフォーマンスの高
高さを示すもの
のであ
えている。さら
らに期間を延長
長した 5 か月間
間の総発生数を
を比
らえ
る。本実験は、海面水温(SS
ST)を観測値
値に固定したい
いわゆ
べる
ると、観測で 60
6 個に対し、N
NICAM では 61 個であった
た。
図 1.全球
球雲解像モデル NIICAM による 200
04 年 6-8 月再現実
実験における降水量
量の全球分布。左:観測値(TRMM3
3B42)、右:7km 格子実験。
格
図 2.図 1 と同じく、南アジアの降水量
量の比較。左:観測
測値(TRMM3B42))、右:7km 格子実
実験。
図 3.2004 年 6-8 月の
の熱帯低気圧のトラ
ラックの比較。左:ベストトラック、右:14km 格子実
実験。
- 58 -
ただし、海盆ごとの地域的な差異があり、インド洋や西太平
b.
洋、大西洋で過剰、東太平洋で過小になっている。今後、他
開発した海洋モデルを用いて、渦を直接解像することにより、
のケース、条件のもとでの事例数を増やすことで、再現性に
渦をパラメタライズした計算では十分に検討できなかった現
ついてさらに検証することが課題である。
象を解析した。これらの結果は、海洋循環モデルの更なる高
NICAM の物理過程(雲微物理過程、境界層過程、放射過
海洋モデル
度化に役立てる。
程)の改良に引き続き取り組んだ。全球雲解像実験の結果を
まず、南極中層水形成領域である南大洋の渦解像度実験に
MJO index 等を用いて定量的に評価するとともに、熱帯低気
ついて述べる。この領域では渦が中層水の形成に重要な役割
圧の発生に関する事例実験を行った。また、将来的に予想さ
を担うと考えられているが、その詳細については不明な部分
れる温暖化に伴う雲降水システムの変化を調べるための、将
が多い。そこで水平解像度 10km 格子の渦解像実験を実施し
来気候で想定される SST、二酸化炭素を与えた温暖化想定実
た。昨年度までに南極中層水の特徴である舌状塩分極小層を
験を行った。
表現するためには水平 10km 格子の解像度が必要であること
全球雲解像モデル NICAM を用いた研究は、平成 17 年度に
を示した。今年度は、この舌状塩分極小層が生成されるメカ
科学技術振興機構の戦略的創造推進研究(JST/CREST)の
ニズムを検討する為に、渦輸送速度と平均速度の和である残
課題として選定された(研究テーマ「全球雲解像大気モデル
差平均速度を評価した。経度平均での残差平均手法は大気の
の熱帯気象予測への実利用化に関する研究」)
。また、平成 19
成層圏での物資循環を表現するため広く使われている手法で
年度より 21 世紀気候変動予測革新プログラム(研究テーマ
ある。海洋では経度方向の軸対称性が乏しいので、経度平均
「全球雲解像モデルによる雲降水システムの気候予測精度向
ではなく、McDougall and McIntosh(2001)が定式化した時間平
上」)が開始しており、温暖化問題に対する貢献が期待されて
均での 3 次元残差平均速度を用いた。図 4(b)に南アメリカ近
いる。国際太平洋研究センター(IPRC)とは、2007 年度から、
傍での計算された鉛直方向の残差平均速度の分布を示す。南
ANNEX1 の joint program がスタートし、相互に訪問してミー
(a)
ティングを行うなど、定期的な交流を活発に進めている(2008
年 12 月 IPRC 訪問)。また、コロラド州立大学(CSU)を中心と
した CMMAP(Center for Multi-scale Modeling of Atmospheric
Processes)に初期の段階から加わっており、平成 19 年度末よ
り三浦研究員が長期の予定で CSU に滞在を開始した。これら
の枠組みを通じて、地球フロンティアの各プログラム、
JAMSTEC の他センター(地球環境観測研究センターなど)
との連携はもとより、東京大学気候システム研究センター、
気象研究所、名古屋大学など他機関との共同研究を推進して
いる。国際的には、熱帯低気圧と気候に関係した国際ワーク
(b)
ショップを IPRC と共催し(2008 年 12 月ハワイ、参加者 50
名)、今後も高解像度モデルに関するワークショップを定期的
に開催することを予定している。また、NICAM によるデー
タは、すでに国内外に提供しており、2008 年度中に 3 回に
NICAM データ利用ワークショップを行った(参加者 50 名程
度)。今後も、実験結果を公開し、多くの研究者に提供すると
ともに、NICAM 本体の開発についても、多くの研究者の参
画のもとで進めていきたい。
図 4.600m深における鉛直方向の時間平均鉛直速度(a)と残差平均速度(b)。
単位は 10-6ms-1。赤線は南からσ0=27.35、27.1、27.0 の等密度面を表す。
- 59 -
アメリカ沿岸のブラジル・マルビナス海流合流域で強い下向
きの残差平均速度が存在していることが分かる。この速度は
一番強いところで 3x10-5 ms-1 に達している。この値は約 10-6
ms-1 であるエクマンパンピングの鉛直速度より明らかに大き
い。この値に比較して時間平均速度(図 4(a))は弱く、残差
平均速度において渦輸送速度が支配的であることが分かる。
また図の赤線は海面基準のポテンシャル密度を示している。
強い下降流はσ0=27.0~27.35 に挟まれた場所に存在してい
ることが分かる。観測では、この密度の範囲で南極中層水の
舌状低塩分水が形成されていることが報告されている
(Schmid et al, 2000)。この下向き残差平均速度の傍には上昇流
図 5.インド洋から流した人為トレーサの分布図。
も存在することが見てとれるが、上昇流は下降流に比較して
小さい。実際に、このブラジル・マルビナス合流域(60°―
30°W、50°-35°S)での、密度面σ0=27.0 と 27.35 で囲
まれた領域での鉛直輸送量を計算すると下向きで 3.8x106
m3s-1 となる。この値は、観測で得られた 20°S を通過する南
極中層水の輸送量(4.5x106 m3s-1)と比較して矛盾しない流量
である。これらのことより、ブラジル・マルビナス合流域での
渦活動が上層に存在する低塩分水を下方に輸送し、南極中層
(cm)
水の舌状低塩分水層が形成されていると考えることができる。
次に昨年度から継続しているアフリカ南端渦解像実験(水
図 6.全領域を約 50km の解像度で計算した場合の海面高度の瞬間値。
平解像度 15km)について述べる。全球熱塩循環(全球規模
のコンベア・ベルト循環)に対する渦活動の役割を調べるた
めに、インド洋から大西洋に渦によって輸送される海水料を
調べた。このインド洋から大西洋に渦によって流入する流路
は、全球熱塩コンベアーベルトの大西洋に戻る経路のうちの
暖水経路を形成しているもので、ドレーク海峡経由の冷水経
路と対局をなす経路である。この両者の経路の相対的重要性
(cm)
については、多くの議論があり、いまだに不明な部分が多い。
図 7.双方向ネスティングを行った場合の海面高度の瞬間値。白枠はネストし
ここでは、図 5 のようにインド洋に人為的トレーサを与えて
た領域を示す。
このトレーサの流入量を大西洋で評価することにより、流量
を評価した。その結果約 7 x106 m3s-1 の海水が暖水径路で輸送
本近傍を対象とした。日本付近東経 116 度から 180 度、北緯
されていることが明らかになった。赤道を通過する北大西洋
14 度から 53 度までの領域(内モデル領域)を中規模渦が解
6
3 -1
深層水が約 14 x10 m s
(Schmitz, 1995)であることを考え
像できるように水平格子幅約 10km、その他の北太平洋領域
ると北太平洋深層水の約半分が暖水径路で戻っている考える
(外モデル領域)を海洋循環が解像できる格子幅である水平
ことができる。
約 50km で計算した。海面フラックスは、ECMWF の再解析
また本年度より、必要な領域のみを高解像度で計算できる
データ(ERA-40)をベースにした OMIP を用いて計算した。
ネスティング機能の実装を始めた。これは海洋の渦活動が活
図 6、7 はそれぞれ全領域を約 50km で計算した場合と双方向
発な領域が南極周極流、西岸境界流、赤道付近などに偏在し
ネスティングを行った場合について、日本付近の海面高度分
ているので、これらの領域のみを高解像度化して、計算の効
布を示している。ネスティングを行うことで、黒潮の離岸位
率化を図ろうとするものである。当面の高解像度化領域は日
置、渦活動がより現実的に表現されていることが分かる。ま
- 60 -
た、外モデルと内モデルの海面高度場も比較的滑らかに再現
システム統合モデルによる長期気候変化実験に向け準備をす
されている。
すめた。具体的には、20 世紀再現実験用の外部強制データを
整備し、また成層圏火山性エーロゾルの粒形半径の違いが及
地球環境統合モデル開発グループ
a.
ぼす気候変化の違いを調査した。
地球システム統合モデルによる長期気候変動予測
生態系変動予測研究プログラムとの協力のもと、AGCM に
動的全球植生モデル SEIB-DGVM を組み込み、ESM で走らせ
b.
階層的モデル実験による長期気候変化予測の不確実性定
量化
るために必要な初期値作成をテストした。また二酸化炭素濃
Particle Filter と EMIC を用いた双子実験を行い、比較的複
度安定化への排出量準逆計算を実施した。3 シナリオについ
雑なモデルでのパラメータ最適化への適用性を証明すること
て最長 2500 年まで ESM で計算し、準逆計算により許される
ができた。さらに、Latin Hypercube と EMIC を用いた物理ア
人為的排出量を求めた。さらに SP1000 と呼ばれる安定化シ
ンサンブル実験も行い、それに基づいた確率分布導出手法の
ナリオについては 2500 年までの長期積分を行い、陸域が人為
確立へ見通しをつけることができた(図 9)。また、GCM を
起源二酸化炭素を吸収しなくなった後も海洋は長期にわたっ
用いた不確実性評価実験については、古気候実験の結果に対
て吸収源であり続け、安定化を達成するための排出経路の決
する考察を行った。昨年度に指摘された LGM と現在の気候
定に重要な役割を果たすことがわかった(図 8)。改良につい
感度の差の原因究明を行い、雲フィードバックの差が主な原
ては、「近未来予測」と共同で改良・開発したものを ESM に
因であることを示した。さらに、アフリカモンスーンに関し
移植・調整し、鉛直層の取り方をデザインした。また、
「革新
て、温暖化予測の参考にするために気候最適期の研究が有用
プログラム」の枠組みのもと国立環境研究所と協力し、地球
であることを示唆する結果を得た。大気化学モデルの不確実
(
(
(
図 8.(a) SP1000 シナリオの海洋中の人為起源無機炭素量(PgC)の時系列。青:表層(0-250m)。緑:中層(250-1500m)。黒:深層(1500m 以深)。赤:全層。実線は
結合、破線は非結合実験。 (b) カラーは SP1000 結合実験の 2490 年代の大西洋の東西平均人為起源無機炭素濃度(mol/m3)の緯度・深さ断面。コンターは
1850 年から 2499 年までの平均子午面流量関数(Sv。コンター間隔は 2Sv)。 (c) (b)と同じ量の結合実験と非結合実験の差。
図 9.(左)Latin hypercube を用いて行った物理アンサンブル実験における、大西洋子午面循環の強さとコスト関数の値の関係。
(右)左図の物理アンサン
ブルに基づいた、大西洋子午面循環の強さの確率密度分布
- 61 -
性評価も行い、オゾン予測における NOx リサイクル率の重要
海洋データ同化グループ
性を指摘した。他に、IPCC AR4 提出の炭素循環モデルの結
a.
果について、英国ハドレーセンターとシミュレーションデー
タを交換して相互比較を行った。
再解析実験とそれを用いた海洋力学研究
四次元変分法データ同化システムを用いて、1970 年以降の
海洋長期再解析データを構築し、気候のレジームシフトに伴
う海洋力学変動の状態推定を行い、全球海洋のオーバーター
c.
気候変動シナリオの解析による空間詳細シナリオの整合
性評価に関する研究
ンの精緻化をはじめ亜熱帯、亜寒帯海域の水塊変動等に関し
て新しい知見を見出してきた。今年度は特に全球的な気候変
次期 IPCC 評価に向けた統合モデル入力データとしての
動、水産資源の長期変化に大きな影響を持つことが知られて
RCP 空間詳細排出データの整備のため、生物地球化学モデル
いる PDO の精緻な解析を行った。再解析プロダクトは 1970
VISIT を利用した、自然植生火災起源の排出量を 1900 年から
年代半ばの warm phase へのレジームシフトに関する海洋環
2100 年まで計算した。2000 年前後の結果については、衛星由
境場を良く再現しており、その力学メカニズムを北太平洋亜
来の火災データベースとの比較検討を行った。この相互比較
熱帯海域北緯 35 度における 400m深の亜表層水温変動に着目
の中で、VISIT 火災モデルの地域化、および土地利用変化に
して調べた(図 11 左図)。この海域では海洋表層は 1970 年代
起因する人為火災の導入を行い、整合的な火災排出量を得る
以降、低温化することが指摘されており(e.g., Deser et al.,
ことができた(図 10)。
1999)、解析の結果、その低温化は東部海域からの波動伝播に
上記の土地利用排出モデリングに関連し、次期温暖化予測
よって引き起こされていることが明らかになった(図中矢印)。
モデルの植生モデルとして利用される SEIB-DGVM における
この波動伝播の特性は傾圧第一モードのロスビー長波のもの
土地利用変化モデルの取り込みの提案を生態系グループと共
と一致しており、後述する 50 年全層再解析実験により得られ
同でおこない、その中で、SEIB-DGVM のコードの改良と追
た風応力場から理論的に見積もられた傾圧スベルドラップ流
加を行った。
量の時間変動と整合している(図右)。このことは PDO の時
間スケールが海洋内部の変動により制御されていることを示
唆しており、今後、外力との関係を調べれば力学機構の理解
が一層深化すると思われる。
加えて、前年度に行った 1990 年代の全エルニーニョを対
象とした予測可能性について再検討した結果、四次元変分法
結合同化を用いて経年変動のエネルギーシグナルを精緻に抽
出・再現するよう初期化すれば、シミュレーション予測につ
きものの NINO3.4 海域の低温バイアス(図 12 左図)を修正でき
(同右図)、定量的にも観測事実と整合するなど予報スコアが
大きく向上することが判明した。これにより世界最長クラス
の 2 年先行予測に成功した。
図 10.
(上)VISIT を用いて計算した、1997 年から 1999 年までのブラックカー
ボン(BC)排出平均量(gBC m⁻² month⁻¹)。(下)衛星ベースの推定量(GFED
ver.2)との差(gBC m⁻² month⁻¹)。正の値は、VISIT による推定量の方が大き
いことを示す。
- 62 -
図 11.北太平洋北緯 35 度における 400m深水温偏差の時間変化(左図)及び再解析風応力場から理論的に見積もられた傾圧スベルドラップ流量の時間変化。
図中矢印はこの期間に見られる代表的な西向きの波動伝播を示す。
観測値
観測値
予報値
予報値
アンサンブルメンバ
アンサンブルメンバ
低温バイアス
図 12.結合モデルによる ENSO 予報実験結果(NINO3.4SST の時間変化)
(左):シミュレーション予測
b.
(右)結合同化システムによる初期値化
海洋全層同化モデルの開発と温暖化シグナルの逆追跡
4次元変分法を
応用した影響と
原因の逆追跡
当機構のグループ(例えば、Fukasawa et al., 2004, Nature)に
よって発見された北太平洋深層水の昇温化現象と地球温暖化
との関わりを調査・解析する世界初の全層全球海洋再解析シ
ステム開発に成功し、これにより得られた 50 年再解析プロダ
クトを用いてインド洋の中深層循環変動などの解読に向けた
共同研究を観測フロンティアならびに海洋地球情報部と実施
地球観測データの高度
かつ包括的融合による
データ創生
した。さらに、4DVAR 同化システムならではの利点である随
伴逆追跡機能を使って、観測や通常のシミュレーションモデ
ルでは見えない世界を垣間見れる逆解析を行った結果、北太
平洋(北緯 47 度)の底層 5500m 深(図 13 の左上図の*印)
で計測された僅か 0.001℃の水温上昇のアジョイントシグナ
図 13.4DVAR による北太平洋深層温暖化の逆追跡。右下最後の図は左上図の
*印地点(5500m 深)で発見された温暖化シグナルを逆追跡した一連の過程
を時間順方向にまとめ直したもので、北太平洋(北緯 47 度)の底層で当機構
が発見した水温上昇は、南極周辺の特にアデリー海での温暖化の影響が大きい
ことを示唆している。
ルは時間軸逆方向に、深層境界波、次に赤道ケルビン波と姿
を変えて赤道を越えた後、南太平洋に至り、遂には南極周極
である海洋は温暖化の余剰な熱の 8 から 9 割、人為的に排出
底層を横断してアデリー海表面に辿り着くという北太平洋深
された二酸化炭素の約 3 割を吸収すると推測されていること
層温暖化現象のルートと起源が明らかになった。この結果は、
から、全層全球同化システムは温暖化のより長期の影響評価
温暖化の顕著域である南極、とりわけ太平洋の深層循環に大
をする上で重要な海洋深層の熱・物質循環の監視と予測に有
きく影響するだろうと観測研究者から予想されていたアデ
益なツールであると考えられる。
リー海での温暖化の影響を示したものとして注目され、海面
水温の歴史データの解析からも確認できた。現在、Nature へ
投稿すべく準備中である。地球システムの熱・物質のプール
- 63 -
c.
低周波データ同化手法の開発:海氷のデータ同化手法開
発
d.
海洋循環の診断と気候変動に対する影響評価ならびに水
産資源データとの融合による応用機能開発
革新プロジェクトの一環である近未来予測プロジェクト
4DVAR によるバーチャル海洋作成と連動した実利用機能
における温暖化予測の不確実性低減に関して、本年度は最近
開発として、水産総合研究センター・京大・北大と連携実施
注目されている北極海の海氷変動の再現・予測精度の改善に
している外洋性主要魚のアメリカオオアカイカ及びアカイカ
取組んだ。具体的には、海氷密接度データを MIROC 中解像
の資源変動と海洋物理環境変動との相関解析に加えて、新た
度結合モデルに同化した。同化にあたっては海氷高を変えず
に NEMURO モデルを用いた低次生態系シミュレーションと
塩分が保存するように行い、海氷下では水温・塩分同化は行
の連環研究を進めた結果、ペルー沖のアメリカオオアカイカ
わず、また IAU 手法によりイニシャルショックを抑えるなど
の漁獲量に関する長年の謎であったエルニーニョ直前での資
の工夫を加えた結果、1993 年からの予報実験では海氷体積が
源の激減は、ペルー海流が媒介する中緯度から東部赤道海域
約 3 年間にわたって改善できることを確認した(図 14)。こ
への継続的な物質供給の年々変動に起因するもので、その変
れに伴い、海氷から大気へのフィードバックも改善され、大
動は東部熱帯の海洋生態系をコントロールさえしている可能
気場の再現性向上を示唆する結果が得られた。例えば、海氷
性が極めて高いことが明らかになった(図 15)。さらに、北
同化により海氷面積が少なくなることで、海洋が夏場温まり
太平洋のアカイカの資源変動は、これまでキーとみなされて
やすく(正のフィードバック)、冬場冷えやすく(負)なって
きた海面付近ではなく、躍層付近の水温・塩分データから高
年スケールでは海面熱フラックスへの影響は相殺するように
い精度で復元可能であり、ポテンシャル資源量の時系列を推
なる一方、経年スケールでは冬季シベリア海盆での北向き風
定できる可能性が低次生態系モデルからも示唆された。この
応力が増加して東向きに海氷を輸送し、
(温かいベーリングの
ような学際研究は、原因不明であったアメリカオオアカイカ
水によって融けるため)海氷を減少させる傾向が生じる。こ
の資源変動メカニズムの解明、更には人類の重要なタンパク
の AO 的な南風は海氷が少なく SST が高いバレンツ海に中心
源である水産資源の将来管理に役立つアプローチとして水産
を持つ低気圧に起因している可能性が示唆された。これらの
分野の関係者から期待されている。
結果は、北極海の温暖化や高緯度起源の長周期変動の診断と
予測に海氷同化は重要なファクターであり、近未来予測研究、
エルニーニョに伴うアメリカオオアカイカ・低次生態系変動
さらには IPCC 第 5 次報告に向けた実験設定に貢献する結果
エルニーニョ
ラニーニャ
であると考えられる。
ペルー
沖漁場
NINO1+2海域
海洋物理環境と
海洋生態系のデー
タの統融合
↓
摂餌環境の直接的
な診断が可能な高
外套長120cmに達す
るアカイカ科最大の種
次データの創生
SeWiFS chl‐a (Ichii eta l.,2002)
エルニーニョ
年々変動
を良く再現
ラニーニャ
NEMURO_K7による動物プランクトン推定量
図 15.エルニーニョ期におけるアメリカオオアカイカの激減現象の統融合解
析結果。
図 14.北極海海氷体積の時系列。
(細青線)従来の水温・塩分データのみの
同化による再解析。
(細赤線)加えて海氷データも同化した再解析。
(太線)
それぞれの再解析 1993 年からの予報。(黒線)予報 2 実験の差。
- 64 -
部ダイナミクス
ス研究
1.1.3 地球内部
( 1 )地球内部
部構造研究
ー研究グループ
プ
トモグラフィー
5 カ年にわた
たる観測、実験
験、シミュレー
ーション研究の
の結果
を集約することにより、
“南太
太平洋プルーム
ムの構造とそれ
れに基
づ
づくマントル対
対流計算”、“東
東アジア滞留ス
スラブのイメー
ージン
グ (図 1)、
グ”
“マン
ントル・コアの
のグローバル構
構造”、
“プチス
スポッ
ト下のマントル
ル構造”、“固体
体-流体カップ
プリング現象”など
10
temperature PDF
を公表することが出来た。
について、多くの研究成果を
モデリンググル
ループ
10
10
10
現実的なマン
ントル物性を考
考慮した 3 次元
元球殻マントル
ル対流
10
数
数値シミュレー
ーションにより、実測されて
ている沈み込む
むスラ
ブ
ブの様々な形態
態が、計算機内
内で自発的に実
実現する事が示
示され
た。また、コア対流の研究で
では、室内実験
験と数値シミュ
ュレー
1
-1
-3
Ra=2x10
-5
Ra=2x10
Ra=9x10
-7
Ra=9x10
2
0.001
3
4
4
4
4
, 0 mT
, 18 mT
, 0 mT
, 18 mT
4 5 6
2
3
4 5 6
0.01
2
0.1
3
4 5 6
1
frequency (Hz)
図 2. 完成した液体金属
属熱対流実験装置
置(上図)と、温度
度変動の時間スペク
クト
ルのレーリー数依存性
性(下図)を示す
シ
ションにより、
対流運動パターンの時間変
変動について新
新しい
振
振動現象が見つ
つかった(図 2)
)。
海
海洋底ダイナミ
クスグループ
プ
施した南海トラフ地震発生帯掘削調査の
の結果
19 年度に実施
をとりまとめ、地震発生帯浅
浅部の応力場の
の推定等、地震
震準備
状
状況の予測に向
向けた研究を行
行った(図 3)。また、掘削で
で得ら
れ
れた試料の弾性
性波速度を封圧
圧、間隙圧をコ
コントロールし
して測
定
定した。
図 1. 滞留スラブ内外
外の P 波速度異常
常(左)と 660km 不連
連続面凹凸(右) ◎高速
◎
度ス
スラブで 660km 不連続面が深い主
不
因はスラブの低温
温度(-300~-500K)
)であ
る。
。
- 65 -
図 3. 掘削調査
査で得られた南海ト
トラフ地震発生帯浅
浅部の応力場
( 2 )地球内部物質循環研究
・微小域・微少量同位体比分析法を確立し、地球化学的端成
本研究プログラムでは、地球内部における物質循環と固体
地球進化の包括的な理解を目指して、沈み込み帯・ホットス
分の成因論を展開(図 2)。
・超高圧実験、理論計算により、核組成、マントル/核相互
ポットに産する岩石のマグマ学的検討、超高圧実験に基づく
作用に関する束縛条件の提示(図 3)。
地球内部の相関係・物性の解明、を進めている。本年度の特
・IODP 関連で、多くの大学や研究機関と共同研究が進展。
筆すべき成果は以下のものである:
・東工大や SPring-8 に設置したサテライトで、地球中心部の
・島弧地殻の進化と大陸地殻の形成に関する IFREE 仮説(図
圧力発生で大きな成果があった。
1)の実証のため、IODP(国際統合深海掘削計画)掘削計
画を提案。
図 1. 海洋島弧における大陸地殻形成モデル(IFREE 仮説)
Mangaia
20
ポストペロブスカイト
Rurutu
Tubuai
● Subaerial C PX
MORB
○ Submarine whole rock
15
ε
Hf
10
OIB
5
海洋地殻の
地球深部における融解
0
ペロブスカイト
0
2
4
ε
6
8
10
Nd
図 2. 斑晶鉱物の同位体比分析により明らかになった、HIMU マント
ル成分(端成分)の特性
図 3. 超高圧条件下でのマントル構成物質の電気伝導度。マントル最下
部が高電気伝導度を示すことが明らかになり、そのことの地球磁場へ
の影響を予想することが可能となる。
- 66 -
断層
層帯が形成され
れる。これがい
いわゆるデコル
ルマ面に相当す
する
ト挙動解析研究
究
( 3 )プレート
付加体発達条
条件に依存するデコルマ面の形成メカニズム
と考
考えられる。こ
こうしたデコル
ルマ面の有無と
とその形態、そ
そし
一般に、付加
加体の発達条件
件や形状を主に
にコントロール
ルする
て付
付加体発達の仕
仕方との関係は
は、実際の沈み
み込み帯観測と
と調
要
要因は、付加体
体の底に存在す
するデコルマ面
面と呼ばれる断
断層面
和的
的である。この
のように付加体
体が海側に発達
達するほどデコ
コル
の物性(特に摩
摩擦特性)であ
あると信じられ
れている。この
のため
マ面
面が形成される
るが、そのメカ
カニズムは以下
下のように考え
えら
付
付加体の形状や
や発達を扱う従
従来の理論では
は、いずれもデ
デコル
れる
る。
a.
マ面の存在をあ
あらかじめ仮定
定している。し
しかし実際の沈
沈み込
堆積層はバック
堆
クストップで水
水平運動をせ
せき止められる
るた
み
み帯の構造探査
査結果によれば
ば、デコルマ面
面は必ずしも付
付加体
め、堆積層で水平
平方向の圧縮が
が進行すると、沈み込み方向
向へ
の底に連続して
て存在してはい
いないし、付加
加体があまり発
発達し
運動に対する拘
拘束が大きくな
なり、堆積層は
は沈み込む下盤
盤か
の運
ではデコルマ面
面が特定できな
ない場合もある
る。そ
ていない場所で
ら剪
剪断力を受ける
る。付加体が低角
角で海側に発達
達し易い場合は
は、
にはデコルマ面
面など存在しな
ないか
もそも付加する前の堆積層に
水平
平圧縮や自重に
によって付加体
体の圧密が効率
率よく進行する
るた
しろデコルマ面
面は付加体の形
形成にともなっ
って結
も知れず、むし
め、底面付近では
は剪断破壊がロ
ローカライズし
してデコルマ面
面が
果
果として生じる
と考える方が
が自然である。
成されるのであ
ある。付加体が
が高角になる場
場合や中間的な
な場
形成
加体の発達条件
件や形状を議論
論するためには
は、付
つまり、付加
合に
については、そ
それぞれの条件
件に応じて堆積
積層の変形のし
し易
加
加体の形成過程
程についての知
知見が必要なの
のである。そこ
こで最
さや
や強度が変わる
ることで、デコ
コルマ面の有無
無や形態がコン
ント
近
近我々は、粒状
状体の集合で堆
堆積物をモデル
ル化し、個別要
要素法
ロー
ールされること
とが説明できる
る。
を用いた数値シ
シミュレーションにもとづい
いて、付加体発
発達の
仕
仕方を支配する
明らかにした。このモデルに
によっ
力学条件を明
b. 波形モデリングによる北部
部伊豆-小笠原
原弧火山フロン
ント
て我々は、堆積
積物が付加する遷移的な過程
程で、ある条件
件が整
の地殻-マント
トル遷移層の反
反射強度分布
下の
面が形成されることを以下の
の通り見いだし
した。
うとデコルマ面
伊豆
豆-小笠原弧は
はフィリピン海
海プレート下に
に太平洋プレー
ート
まず、付加体
体が高角でバックストップ付
付近にたまる場
場合に
が沈
沈み込むことに
によって形成さ
された海洋性島
島弧である。地
地殻
は
は、堆積層全体
体が剪断変形を
をしながら付加
加体の下に潜り込む
成長
長過程を考察す
するために、伊
伊豆-小笠原弧
弧ではいくつか
かの
ため、薄い断層帯は形成されない(図 1 上)
)。一方、付加
加体が
地殻
殻構造が明らか
かになっている
るが、地殻-マ
マントル遷移層
層を
低
低角で海側(バ
バックストップ
プから遠ざかる
る側)に発達す
する場
含む
む地殻深部から
ら最上部マント
トルにかけての
の詳細な構造は
はよ
合
合には、底面付近
近に剪断変形が集中し(図 1 下)、非常に
に薄い
くわ
わかっていない
い。北部伊豆-
-小笠原弧火山
山フロント下の
の地
図 1. プレート沈
沈み込み速度で規格
格化した付加体内部
部の水平速度分布
布.(上)高角な付
付加体の場合.付加
加体先端部付近で水
水平速度が連続的
的に変化しており、
剪断変形が全体的
的に生じていること
とが分かる.(下)低角な付加体の場
場合.底面付近で
で水平速度のコント
トラストが大きく、
、剪断変形が底面
面付近に局所化して
て
いることを示して
ている.
- 67 -
殻-マントル遷移層の性質・分布を明らかにするために、有
(olivine cumulates)の混合物質で構成されていると推測され
限差分法を用いた地震波伝播プログラムの理論波形と観測波
る(図 2 下)。さらに黒瀬海穴を境にした北側(新島-黒瀬海
形の比較より、遷移層上下面の反射波の振幅を説明できる速
穴間)と南側(黒瀬海穴-鳥島間)の遷移層上下面の速度コ
度コントラスト値を反射強度分布の指標として求めた。遷移
ントラスト値と遷移層内の平均速度の違いは、遷移層内の分
層上面の速度コントラスト値は、黒瀬海穴-鳥島間では約 0.4
化した重い地殻物質とマントル物質の構成比の違いを示して
km/s、一方、新島-黒瀬海穴間は約 0.25 km/s である(図 2)。
いると考えられ、南側は北側に比べ、分化した重い地殻物質
遷移層下面の速度コントラスト値は、新島-黒瀬海穴間では
に対するマントル物質の比が大きいと解釈することができる
大きい(0.4 km/s 以上)が、黒瀬海穴-鳥島間では小さくな
(図 2)。また、地殻とマントルの間に、重い地殻物質とマン
る(0.2 km/s)
(図 2)。遷移層内平均速度は、新島-黒瀬海穴
トル物質の混合物質で構成されている地殻-マントル遷移層
間では 7.2 km/s であるのに対し、黒瀬海穴-鳥島間では
が存在していることにより、北部伊豆-小笠原弧火山フロン
7.3-7.5 km/s である。これらの結果から、北部伊豆・小笠原弧
ト下の地殻とマントルの境界面を表すモホロビチッチ不連続
火山フロント下の地殻-マントル遷移層は地殻成長に伴って
面は一様ではなく、複雑な特徴を示していると考えられる。
分化 し た 重 い地 殻 物質 ( mafic residues)と マ ン トル物質
図 2. P 波速度構造に重ねた北部伊豆―小笠原弧火山フロント下の地殻―マントル遷移層上下面と最上部マントル内反射面の速度コントラスト値(上)と地殻
―マントル遷移層の解釈図 (下).
- 68 -
( 4 )地球古環境変動研究
地層解析と堆積過程観測等を通じ、地球内部、表層環境お
よび生命圏が一体となった変動に関する重要な知見を蓄積し
た。
a.
微量高精度有機物同位体比分析法の開発や、chlorophyll-
が普遍的に分布することを初めて明らかにしたほか、アミノ
酸の窒素同位体比から食物連鎖を推定する手法を確立した。
b.
さまざまな地層解析手法を開発、応用するとともに、そ
の一部を実用化した。モデル海洋であるアラビア海酸素極小
層および相模湾の潜航調査を実施し、さまざまな深海環境に
おける生元素循環、堆積過程および生物適応に関するデータ
を取得した。IODP 航海および「ちきゅう」の訓練航海に乗
船し、地球環境変動および地下圏微生物活動に関するテーマ
の研究を行った。その際、新たに開発した地層解析手法を適
図 2. (a) アラビア海、酸素極小層の堆積物-水境界における酸素濃度の 2 次元
分布の時系列解析の結果。潮汐駆動による流れに連動していることがわかっ
用した。
た。(b)「ちきゅう」下北沖試験掘削で得られた堆積物コアの非破壊蛍光 X 線
コアロガー測定結果の一例。CK05-04 コアと CK06-06 コアを対比させ、かつ、
c.
モデル生物である有孔虫およびシアノバクテリアの培養
CK05-04 コアの最深部以深を CK06-06 コアで継続して測定している。(c) 実
用化された高精度マイクロミル装置「GEOMILL326(特許番号:42038605)」。
法を確立し、精密飼育実験を行い、環境に対する適応生態を
明らかにした。
図 3. 有孔虫の炭酸塩殻石灰時の偏光顕微鏡観察画像(上図左)と蛍光試薬で
可視化されるカルシウムイオン分布(上図右)
、および通常時(下図左)と、
石灰化時(下図右)の海水、有孔虫細胞内の pH。石灰化中の房室内にカルシ
ウムイオン濃度の高い液胞が多数存在すること、また、石灰化時に石灰化部位
の pH が高く調節されていることがわかる。(Toyofuku et al. 2008, de Nooijer et
al., 2008)
図 1. 極域から温帯域にいたる海洋・湖沼堆積物抽出物の高速液体クロマトグ
ラム。近赤外光(700~750nm)を光合成に利用するクロロフィルdを合成す
る光合成生物が、あらゆる水界中に普遍的に分布していることを初めて示し
た。(Kashiyama et al., 2008)
- 69 -
部試料データ分
分析解析研究
( 5 )地球内部
球物理データ解
解析研究グルー
ープ
地球
地
地球化学データ
分析研究グル
ループ
20
008 年 5 月 12 日に起きた中国
国四川大地震((Mw7.9)により
り励
ネル中のメルト
ト包有物ひとつ
つひとつの揮
揮発性
クロムスピネ
起さ
された地震波を
を地球シミュレ
レータにより再
再現することに
に成
成
成分測定に
SIM
MS を利用することにより初
初めて成功した
た。こ
功し
した。この結果
果、地震断層は
は約 200km の長
長さにわたり、南
れ
れにより、
今まで
で考えられてい
いたよりはるか
かに高い CO2 がマ
西部
部と北東部でメ
メカニズムが変
変わっている ことを確認し
した
ン
ントルに存在す
することを示す
す結果が得られ
れた(図 1)。
(図
図 2)。
図 1.
1 クロムスピネル
ル中の CO2 濃度。H2O が 0.1 wt%の
の試料で非常に高い CO2 濃度を示す。
図 2. 四川大地震により励
励起された地震波が
が地表を伝わるスナップショット。左から地震発生後
後 4 分、12 分、20
0 分経過した様子
子を表す。
- 70 -
極限環境生物研
研究
1.1.4 海洋・極
soxB
B, and sqr)の発現
現を RT-PCR に
により調べたと
ところ、調べた
た遺
伝子
子全てが各条件
件下で同じ程度
度発現している
ることが明らか
かと
( 1 )海洋生態
態・環境研究
なり、イオウ酸化遺
遺伝子が重要な
な働きをしてい
いることがわか
かっ
海
海洋生物進化研
研究
た。
a.
化学合成共生
生系研究
シロウリガイ類のイオウ酸
酸化共生細菌の
の硫黄代謝を調
調べる
配列が決定して
ているシマイシ
シロウリガイ共
共生細
ために、ゲノム配
b.
新規シロウリガイ「チシマ
マシロウリガイ
イ」の発見とシ
シロ
ウリガイ類の多様
様性
菌
菌(Candidatus
V
Vesicomyosocius
s okutanii strainn HA: Vok)と
とガラ
千島海溝に生息
千
息するシロウリガイ類の同定を行ない、日本
本近
パ
パゴスシロウリ
ガイ共生細菌((Candidatus Ruthia magnifica strain
海で
で初めて Calypttogena extenta(
(ヒロバナギナタシロウリガイ
イ)
Cm
m: Rma)を用い
いて、イオウ酸化
化に関連する遺
遺伝子を比較し
した。
を発
発見し、このカイ
イが太平洋の東
東西で分布して
ていることを明
明ら
さらに、Vok にお
おけるイオウ酸
酸化遺伝子の発
発現を RT-PCR
R によ
かとした。また、宿主遺伝子解析から C. laub
bieri(テンリュ
ュウ
ゲノムは、それ
れぞれイオウ酸
酸化に
り調べた。Vok と Rma の両ゲ
ロウリガイ)と同種のカイを見
見いだしたが、
、これの共生菌
菌が
シロ
関
関係する
sulfide--quinone oxidorreductase (sqr),, dissimilatory sulfite
s
既知
知の C. laubieri と異なること、
、また形態・サ
サイズも異なる
るこ
redductase (dsr), reversible disssimilatory sulfiite reductase (rdsr),
(
とか
から、新亜種として、C. laubbieri kurilensis(チシマシロウ
ウリ
sullfur-oxidizing multienzyme
m
syystem (sox) (soxxXYZA and soxB
B but
ガイ、図 1 左写真
真)
)と命名して
て報告した。こ
これら新規に発
発見
laccking soxCD), adenosine
a
phospphosulfate reductase (apr), andd ATP
した
たシロウリガイ類を含め、日本
本近海で採取さ
されたものを中
中心
sullfurylase (sat)な
などの遺伝子、総計 29 個の共
共通するイオウ
ウ酸化
に 13 種のシロウリ
リガイの宿主お
および共生細菌
菌の遺伝子の解
解析
関連遺伝子を持っており、同じ
関
じイオウ酸化経
経路を持ってい
いるこ
行ない、それらの系統樹を比較
較することで、
、宿主—共生者
者間
を行
とが予想された。
。また、両ゲノ
ノムは、一部異
異なる遺伝子を
を持っ
の共
共進化の可能性
性について検討
討した(図 1)
。その結果、概
概ね
。例えば、Rm
ma には Vok にはな
に
ていることが明らかとなった。
共生
生菌の系統と宿
宿主の系統とは
は一致している様が見られたが、
い a rhodanese-reelated sulfurtrannsferase putativve gene (Rmag00316)
ヒロ
ロバナギナタシ
シロウリガイ(C
C. extenta)にお
おいて共生菌と
と宿
は、Rma では、
、dsrR (COSY
Y0782)を持って
ている
を持ち、Vok には
主との系統が明らかに異なり(
(図中赤線で表記)
、このカイ
イの
。これらの遺伝
伝子群から、シロウリガイ類
シ
類共生
ことがわかった。
生細菌が同じコ
コロニー中に存
存在するチシマ
マシロウリガイ
イか
共生
細
細菌は、
硫化水素
素やチオ硫酸を
を硫酸イオンに
にまで酸化する
る経路
ら水
水平伝播された
た可能性を示唆した。
を持つことが明らかとなった。
。また、生息域
域の圧力下、嫌
嫌気的
短期飼育した個
個体の Vok にけ
ける、
な条件下、好気的な条件下で短
主
主要なイオウ酸化
化関連遺伝子((dsrA, dsrB, dsrC, aprA, aprB
B, sat,
共生細菌
宿主ミ
ミトコンドリア
ア
図 1.新規に発見され
れたチシマシロウ
ウリガイ(左写真)と、シロウリガイ
イ類の宿主と共生
生菌の系統樹をまと
とめたもの(右図)
)。右図中、C. sp. M はチシマシロウ
ウリ
ガイ
イ(C. laubieri kurilensis)
- 71 -
c.
鯨骨生態系に関する研究
d.
鯨骨域の生物多様性を理解し、化学合成共生における生物起
共生生物の進化
光合成色素としてクロロフィル c を持ち、紅藻類を葉緑体の
源化学合成環境の重要性を明らかにするために、南西諸島海溝、
起源とする藻類(クリプト藻類、ハプト藻類、渦鞭毛藻類、不
相模湾初島沖、鹿児島湾において、鯨骨生物群集研究を実施し
等毛藻類)は、他の真核生物と同様に GapC タイプの細胞質
た。特記事項は以下の通り。
GAPDH を持つが、葉緑体 GAPDH もラン藻類由来の GapA/B
南西諸島海溝の水深 275m、500m、1000m、2000m、3000m、
タイプではなく明らかに GapC タイプである。そして分子系統
5000m において鯨骨、丸太などを海底設置した(図 2)
。これ
解析から、これらの葉緑体で機能する GapC タイプの遺伝子は
によって同一海域における深度別の生態系比較が可能となり、
単系統であることが示されている。この結果は Cavalier-Smith
水深が鯨骨生態系に与える影響を評価できる。また同一水深の
が提唱する紅藻類を起源とする二次共生葉緑体が単一の起源
他海域に出現する鯨骨生物群集と比較することで、鯨骨依存種
を持つとするクロムアルベオラータ仮説を強く支持すると考
の生物地理に関する研究に資することが可能となる。
えられてきた。しかし、これら GapC タイプの葉緑体 GAPDH
相模湾初島沖水深 925m にマッコウクジラを沈設し、沈設
遺伝子の系統が、生物そのものの系統を反映していないことを
10 日後の様子をハイパードルフィンを用いて観察した。その
指摘し、GAPDH 遺伝子の水平転移の可能性、さらにはクロム
結果、先行研究とは異なり、コンゴウアナゴが優占するネクト
。
アルベオラータ仮説を支持しないことを示唆した(図 3)
ンの大群集が形成されることを確認した。このような観察例は
世界初であり、海底に沈んだ鯨はこれまでの予想を超えて深海
底に大きなインパクトを与えることが判明した。
鹿児島湾内に沈設したツチクジラ脊椎骨を回収した。昨年度
までのデータと併せてサツマハオリムシの成長速度を推定し
た結果、本種はこれまでの知見よりも 2 桁以上早い成長速度を
示すことを明らかにした。また鯨骨産サツマハオリムシの産卵
と実験室内での繁殖を確認した。ハオリムシ類のラボ内での繁
図 3.クロロフィル c 光合成生物の葉緑体 GAPDH 遺伝子の進化シナリオ
殖は世界初の快挙であり、いまだ明らかになっていないハオリ
ムシ類の全発生課程の解明や、化学合成細菌との共生関係の樹
海洋生態系変動研究
立メカニズムの解明につながるものと期待している。
a.
中層域の生態系研究
時系列観測点 K2 における初夏のマイクロネクトン群集構造、
鉛直移動、摂餌圧、鉛直的炭素輸送量を定量的に見積もった。
以下に成果の概略を示す。
オキアミ類;計 5 種が出現した。このうち個体数のうえで最
も卓越するのは Tysanoessa inspinata であり、以下 Euphausia
pacifica, Tysanoessa longipes と続いた。T. inspinata は鉛直移動を
行わず終日 150m 以浅に出現する、E. pacifica は昼夜の分布中
心深度がそれぞれ 235m および 25m であり 200m 超の移動を行
う、T. longipes は主として 150m 以浅に出現して 50m 程度の日
周移動を行う。日周移動を行う E. pacifica 個体群において、摂
餌速度は 2.3 mgC m-2 day-1、日中分布層(150~300m, 分布中
心 235m)での呼吸による炭素排出量は 0.4 mgC m-2 day-1 と算
図 2. 南西諸島海溝に設置した鯨骨に集まるサメ類.
出された。後者が本種による鉛直的炭素輸送量にあたる。
浮遊性アミ類;計 3 種
(Gnathophausia gigas, Eucopia grimaldii,
Boreomysis californica)が認められたが、いずれも表層には出
現しない。個体数密度のうえで最優占するのは E. grimaldii で
- 72 -
あり、深度 500-750m において 62.5 inds./1000m3 に達する。本
生物で、翼足類が死滅すると、アカチョウチンクラゲも死滅す
種は大型個体ほど深層に出現する傾向があり、成長に伴う鉛直
ることになり、さらにはアカチョウチンクラゲを利用していた
移動を行っているものと考えられた。日周鉛直移動は G. gigas
他の浮遊生物も生息が維持できなくなる可能性があり、負の連
にのみ認められ、昼夜それぞれの分布中心は 632m から 452m
鎖現象が発生することが予想される。今回の発見は、海洋の中
へと 180m 移動した。
層で浮遊する生物間の密接な相互依存を考慮すると、酸性化に
魚類;6 目 6 科 17 種が採集され、このうち個体数密度のう
より生存が脅かされる生物群の数は予想以上に膨大であり、そ
えで卓越したのはソコイワシ科 (88.8%)、ハダカイワシ科
の影響は予測よりもすみやかに表層から深海へと広がること
(8.5%)、ヨコエソ科 (1.8%) であった。最優占種はトガリイチ
を示唆しているとともに、気候変動が海洋生態系や生物多様性
モンジイワシ Leuroglossus schmidti (85.3%) であり、以下コヒ
にどう影響するかを予測するうえで現場調査による検証が不
レハダカ (4.3%)、クロソコイワシ Pseudobathylagus milleri
可欠であることを示している。
(2.4%)、オオメハダカ Protomyctophum thompsoni (2.0%)と続い
た。分布中心深度を比較した結果、コヒレハダカ・トドハダカ
深海化学合成生物群集の分布と食物連鎖
c.
の稚魚〜成魚で夜間浮上型の日周鉛直移動が認められ、その移
相模湾初島沖の水深 1180 m には、メタン湧水に伴う化学合
動距離は 200 m 以上であった。さらにトガリイチモンジイワシ
成生物群集が形成されている。クダマキガイ科腹足類のツブナ
には、成長にともなう鉛直移動が認められ、仔魚は 300 m 以浅
リシャジク Phymorhynchus buccinoides は、この群集の固有種で
に、稚魚は 300 m 以深に分布した。
あり密集して生息し局所的にバイオマスは大きくなる。本種は、
還元環境を示唆する灰色/黒色に変色した堆積物域の 1 カ所
高解像度映像が解き明かした深海クラゲの生態と役割
の露頭にのみ見つかっている。 我々は、ツブナリシャジクが
今回、日本近海での調査航海にて得た高解像度映像と採集し
なぜ特定の露頭にしか分布しないかを明らかにするために、ツ
た試料などの解析により、これまで分布や生態が不明で希少な
ブナリシャジクの食性と繁殖生態を解析した。その結果、ツブ
種類とされていたアカチョウチンクラゲ(図 4A)が日本海溝
ナリシャジクは、同所に生息するヘイトウシンカイヒバリガイ
域の水深 500m以深の深海に多く生息していることを初めて
Bathymodiolus platifrons の殻表面を産卵基質に利用しているこ
発見した。また、アカチョウチンクラゲの体にはこれまで知ら
と(図 5)
、また、ヘイトウシンカイヒバリガイを専食してい
れていたウミグモ類の他に、ヨコエビ類、また他のクラゲ類の
ることがわかった。したがって、ツブナリシャジクの分布には
幼生などが付着し、多様な生物の住み処あるいは幼生の成育場
ヘイトウシンカイヒバリガイが不可欠であることが明らかに
所として利用されていることを確認した。アカチョウチンクラ
なった。
b.
ゲは、幼生の時期において表層を浮遊する翼足類という巻貝の
仲間に付着してポリプとなりクラゲへと増殖するが(図 4B)
、
翼足類は海洋の酸性化により死滅すると危惧されている海洋
(A)
(B)
図 4.アカチョウチンクラゲ(A)とアカチョウチンクラゲのポリプが付着し
た浮遊性巻貝の翼足類(B)。
図 5.ヘイトウシンカイヒバリガイの殻表面に付着するツブナリシャジクの卵
嚢.
- 73 -
d.
海洋生物データベースの構築
近年、生物の多様性や生態学分野では、様々なデータベース
が構築されている。例えば、全球的なものとしては、地球規模
生物多様性情報 Global Biodiversity Information Facility(GBIF)や
Encyclopedia of Life (EOL)がある。その流れは、海洋生物研究
分野でも広がってきており、世界の海洋生物の多様性と分布研
究を包括する国際プロジェクト Census of Marine Life (CoML)
では、Ocean Biogeographic Information System(OBIS)が運用され
ている。
日本の海洋生物のデータベースを見ると、魚類、海棲哺乳類、
軟体動物、海藻類、プランクトンなどのデータベースがある。
しかし、これらの中にはアマチュアによるもの、日本語による
もの、国際標準のデータフォーマットに適合していないものも
多々ある。そして、日本産海洋生物を網羅し、国際的なデータ
ベースと連携することで全海洋規模の生態系変動や多様性把
握に貢献でき、しかも海洋生物研究に有益なデータベースの必
要性が高まってきた。そこで我々は、海洋地球情報部と共同で
海洋生物の多様性と分布に関するデータベースの構築に着手
した。
このデータベースは、以下のようなものとなる。
・日本の海洋生物種全ての分布レコードを蓄積することを目標
にする
・海洋生物の多様性、分布の現状を把握し、海洋生態系の変動
予測、アセスメントなどへ貢献する
・国際標準のデータフォーマットに対応し、OBIS や GBIF と
リンクする
・形態、生態、生理、系統データを付加する
・生物の分布情報の可視化・環境との相関解析ツールを装備す
る
・JAMSTEC の得意分野である深海生物からデータを入れはじ
める
・JAMSTEC の生物サンプルデータベースとリンクする
アウトリーチ活動
a.
深海生物紹介絵本の出版とアウトリーチ技術開発
2008 年 3 月末に刊行した深海生物紹介絵本「くじら号のち
きゅう大ぼうけん」
(図 6)をベースに、近年、幼児あるいは
児童の教育的書籍導入の手段として注目されている「読み聞か
せ」の手法を取り入れた絵本教育イベント「読み聞かせギター
ライブ」を開発し、この公演を 2008 年 12 月末まで、7 ヶ月間
に計 10 回行った。
- 74 -
図 6.深海生物の紹介絵本「ちきゅう大ぼうけん」
( 2 )極限環境生物展開研究
そこで、膜の動態を 100 ピコ秒の時間分解能で計測する技術
極限環境生物展開研究プログラムでは、極限環境下の生命現
象を解明すべく、以下の研究を推進した。
a.
を開発し解析を行った。その結果、野生株に比べエルゴステ
ロール欠損株では、リン脂質頭部から 1 nm 付近のゆらぎが増
微生物生態系のゲノム科学的研究 (メタゲノム解析)
大し膜が不安定化しており、このことが高圧感受性の原因であ
九州地下鉱山、地下熱水系のバイオマットから作製したフォ
ることが明らかとなった。
スミドライブラリーのうち、昨年度までに配列決定を終了した
・深海多細胞生物のための細胞工学技術を確立するため、新た
144 クローンの遺伝子情報をもとにコドンの使用頻度による
に 2 種類の深海生物由来細胞株を樹立した。そして、酵素処
グルーピングを行ったところ、バクテリアの優占種の一種が未
理を用いない細胞凍結保存法を開発した。また、深海性化学
培養菌の OP1 であることが判明した。そこで、さらに OP1 由
合成生物組織の短期培養法と形質転換法を開発した。
来と思われるフォスミドクローンの配列決定を行い OP1 ゲノ
ムの再構築にほぼ成功した。また、下北半島東方沖掘削コアサ
ンプルのメタゲノム解析については、海底表層から 104m まで
の 5 層準から作製されたショットガンライブラリーを、8 万配
列ずつのシーケンシングした。
図 3. 深海性化学合成生物組織の短期培養法と形質転換法の開発
c.
物理化学的研究
超臨界エタノール中で単分散シリカ粒子が形成する 2 次元
コロイド結晶の構造を高温・高圧顕微鏡によって直接観察し、
図 1. メタゲノムから再構築された未培養菌 OP1 のゲノム
臨界点付近ではシリカ表面間に 10µm にも達する未知の超長距
離の斥力相互作用が発現する事を見出した。セルロースナノ
b.
高圧下における生物の適応に関する研究
ファイバーを用いたセルロース分解菌のスクリーニングを進
・高圧下における酵母の増殖に膜エルゴステロールが不可欠
であることを遺伝学的に明らかにした。
図 2. 膜の恒常性と高圧下での増殖におけるエルゴステロールの役割
めると同時に、有用微生物探索に適した新規ナノ材料を開発し
た。
図 4. 超臨界エタノール中での 2 次元コロイド結晶の圧力に強く依存した構造
変化(T = 253 ºC)
- 75 -
d.
産業応用を目指したアプローチ
( 3 )地殻内微生物研究
・バイオフィルム分解用の特殊な洗浄剤へ応用できる可能性
a.
下北沖ちきゅう掘削コアによる沈み込み帯活動的地殻内
のあるアルカリ至適のアルギン酸リアーゼ生産菌を見出し
微生物生態系の解明
た。2 種類の菌株の生産するアルカリ酵素 (A1m, A9m) の特
・現環環境条件を再現した培養法により、海底下堆積物中に由
定化、遺伝子のクローニング及び解析を行った。2 種の酵素
来する多くの生きた微生物の培養に成功した。また原核生物
ともに食塩による著しい活性化が認められた(図 5)。
及びウイルス等遺伝因子に対するメタゲノミック的遺伝子
解析を行い、稀少種を含むその遺伝的多様性について解析を
行った。
図 5. A1m の食塩による活性化
・また本年度は、遺伝子解析試薬として期待されている耐熱性
アガラーゼの高生産化を行い、企業にその技術指導行った。
さらに、糖転移有用酵素の耐熱性が向上した改良型酵素を多
数構築し特許出願を行った。
図 1. 下北沖堆積物から得られた培養された生きた好気性微生物の多様性と
量 。 A. 各 温 度 に お け る 好 気 性 細 菌 の 全 コ ロ ニ ー 生 成 ユ ニ ッ ト 。 B.
Gammaproteobacteria 各 細 菌 の 培 養 に よ る 存 在 量 。 C. Bacilli,
Alphaproteobacteria, Flexibacteraceae 各 細 菌 の 培 養 に よ る 存 在 量 。 D.
Actinobacteria 各細菌の培養による存在量。
図 2. 下北沖堆積物から得られた培養された生きた嫌気性微生物の多様性と
図 6. 耐熱性アガラーゼの熱安定性
量。A. 各温度における嫌気性細菌の全培養量。B & C. Low G+C Group 各細菌
の培養による存在量。D. CFB Group, Alphaproteobacteria 各細菌の培養による
存在量。
b.
深海・地殻内微生物の現場環境条件再現培養法の開発
・深海・地殻内に棲息する未知の微生物を培養するための新し
い方法「現場環境物理条件再現下培養法」及び「環境工学的
バイオリアクター法」により、これまで分離できなかった深
海・地殻内微生物の培養に成功し、またその現場環境条件下
での新規な生理を明らかにした。
- 76 -
図 3. 深海底熱水活動域から分離された好圧性好熱菌の系統樹。高温高圧培養
法を用いることで、未知の微生物の分離培養の可能性を飛躍的に増大させるこ
とができることが明らかとなった。
図 5. マリアナ海溝水塊中の原核生物とウイルス粒子の関係。水深 2000m まで
は徐々にウイルス粒子数の割合が減少するが、2000m 以深ではむしろ増加傾
向があることがわかった。ウイルスは宿主の活動が盛んになることによって、
増殖することができ、この結果は、2000m 以深で深くなればなるほど、原核
生物の活動が盛んになることを示す。
図 4. 深海・地殻内に生息する未知の微生物を培養する為の環境工学的バイオリアク
ター法の概要。既に多くの未分離の深海・地殻内メタン菌の培養に成功している。
c.
新規微生物の分離、保存と有用遺伝子資源の探索
・引き続き多くの新規微生物の分離に成功した。陸上鉱山施設
の微生物群集のメタゲノム解析を引き続き行い、未知・未培
養の古細菌の全ゲノム解析に成功した。
d.
深海イプシロンプロテオバクテリアのゲノム解析及びそ
の生理機構の解明
・深海イプシロンプロテオバクテリアの、地球規模でのゲノム
レベルでの種分化及び共生メカニズムに関わる新規糖鎖の
存在を明らかにした。
e.
深海・地殻内微生物生態系におけるエネルギー・物質循
環の解明
・世界最深部の海溝(マリアナ海溝や小笠原海溝)における堆積
物の採取に成功し、海水から堆積物に至る微生物の鉛直プロ
ファイルを明らかにした。特に、海溝部における超深層海水層
に、これまでに知られていなかった新しいエネルギー・物質循
環に依存した微生物生態系が存在する可能性を明らかにした。
- 77 -
1.2 重点開発の推進
b.
二次ケーブルの高圧下光伝送損失試験評価
疲労促進試験機を用いて 120Mpa の高圧下において、試作
1.2.1 海洋に関する基盤技術開発
二次ケーブルのシングルモード光伝送損失試験を実施した。
1000 サイクルの S 字しごき疲労促進試験を行い、光伝送損失
( 1 )高機能海底探査機技術開発
0.4dB 以下の性能を確認した(図 3)。
水深 11,000m の大深度下で調査観測等が可能な海底探査機
の技術開発を進め、高機能化を図る(図 1)。
図 3. 高圧下疲労促進試験機による光伝送損失試験結果
水深 11,000m 級高強度浮力材の技術開発
a.
高強度浮力材の大型成型
昨年度までに開発した高強度樹脂およびプレ圧縮により
材料選別したマイクロバルーン(中空ガラス球)を用いて、
図 1. 海底無人探査機概念図
複合材としての浮力材の大型ブロック成型(容積約 65 リット
大深度用高強度ケーブルの技術開発
a.
ル)を実施した。成型には大型化に伴い内部の発熱をコント
二次ケーブルの端部引留め構造の改良
ロールするための温度コントロール法(2 段硬化法)を適用
昨年度までに新開発した抗張力体(開発繊維を FRP ロット
し、浮力材全体に対して熱による硬化過程が均一になるよう、
化)を採用した新構造タイプの二次ケーブルの試作を行った。
成型温度のコントロールを行った。その結果、外観上は良好
特に端部引留め構造は新抗張力体の強度を考慮し、機械的な
な浮力材を成型できることを確認した(図 4)。
引留めと接着金具による二重構造とし、端部の強度の向上を
図ると共に現状ケーブルに対して疲労強度 5 倍以上を達成し
た(図 2)。
図 4. 約 65L 浮力材大型ブロック
b.
高強度浮力材の評価
大型成型した浮力材をスケールエフェクトの影響を調べ
るため 6 つのブロックに分割し、高圧下での試験を行い圧力
と歪曲線より定量的な評価を実施し、数値目標の達成を確認
図 2. 端部引留め構造(機械引留+接着金具断面)
した(図 5)。
- 78 -
( 2 )自律型無人
人探査機技術開
開発
航法
法システムの研
研究開発
AU
UV を活用した
た高精度海底地
地形の調査等に
に不可欠な、海底
海
面か
からの高度を一
一定に保ち自律
律航行を可能と
とする制御アル
ルゴ
図 5. 浮力材の圧壊
壊試験(圧力-歪曲
曲線)
リズ
ズムを組み込み
み、海中での運
運動や探査機器
器の挙動を検証
証し
高
高速光通信シス
ステムの技術開
開発
た。また、制御性
性能を向上する
るための制御系
系設計の基とな
なる
昨年度試作し
した大容量光通
通信システム(
(SM モード)コネ
学モデルを構築
築し、実際の運
運動を反映でき
きるよう実験に
によ
数学
クター(R/J)を用
用いて高圧下での光損失実
実験を実施した
た。試
り得
得られた運動デ
データを用いシ
システム同定を
を行い、制御系
系の
験
験は光の波長
1300nm と 1500nm の二種類
類の波長で行い
い、二
設計
計を実施した(
(図 9)。
種
種類の波長の
R 部の光損失
R/J
失は 10dB/個以
以下であるこが
が確認
で
できた(図
6)。
図 9. 実状態とモデル状態の同定
閉鎖
鎖式燃料電池シ
システムに関す
する研究
図 6. 大容量光通信コネクタ
ター(R/J)の高圧
圧下光損失試験
小型、高信頼性
小
性の燃料電池シ
システム開発の
のために、閉鎖
鎖式
試
試作試験機器の
の製作試験
燃料
料電池を一歩進
進めた、ブロワ
ワレス燃料電池
池システムの研
研究
高機能化を図
図るための要素
素技術の試験検
検証に活用す
する小
開発
発を行っている
る。本年度は、システムの機
機能試作を行い
い、
型
型の無人試験機
機「ABISMO」(Automatic Boottom Inspection and
我々
々が提唱したシ
システムが有効
効に動作するこ
ことを確認した
た。
スペイン語
語:深淵の意味
味)を開発し、2007
また
た、目標として
ている動作点効
効率 60%を、シ
システムで実現
現で
年 12 月伊豆小笠
笠原海溝での潜
潜航深度 9,7077m の潜航試験
験に引
きる
る見通しがたっ
った。図 10 はブ
ブロワレス燃料
料電池システム
ムの
き続き、今年度
度はマリアナ海
海溝チャレンジ
ジャー海淵にて
て、さ
構成
成図、図 11 は機
機能試作機の外
外観である。
Saampling Mobilee
約 10,330m の海
海域における三
三回の試験潜航
航で最
らに深い水深約
大
大潜航深度
10,2258m を達成し
した。本試験潜
潜航により、1 万 m
級無人機としての性能を確認した。また試験潜航中に
100,258m までの鉛
鉛直水塊の採取および最大水深 10,350m の海
底
底から、海底直
直上水を含む約
約 1.6 m の柱状
状採泥に成功し
し、世
界
界初の
10,000m を超える海洋
洋—海底面—海底
底下の連続的試
試料採
取
取を達成した(
(図 7,8)。
図 10. ブロワレス燃料電池
ブ
池システムの動作概念図
Stack
図 7.「ABISMO]マリ
リアナ海溝での潜
図 8. マリアナ海溝水深 10,350m
mの約
航
航試験
1.6mの海底堆積物
Luquid
Separator
図 11. ブロワレス燃料電
電池システム機能試
試作機
- 79 -
海域試験
( 3 )総合海底観測ネットワークシステム技術開発
深海巡航探査機「うらしま」の電池槽の軽量化等の改良を
豊橋沖に敷設されている(株)KDDI より譲渡された約
実施し、運用性、信頼性の向上を行った。電池移設による運
60km の通信用光海底ケーブルについて、海底ネットワーク
動性能を把握するため運動特性試験を実施した。JOGMEC 殿
基盤技術の開発を通じて科学観測用に再利用することを目的
からの調査委託による微地形探査試験等を実施した。
とし、ケーブル給電技術、データ伝送技術、時刻同期技術等
を開発した。この海底ケーブルは東海地震の想定震源域に敷
設されており、地球物理学的観測に重要な意味を持っている。
平成 20 年度は、平成 19 年度に引き続き、これら観測センサ
による長期連続観測および時刻同期機能を中心とするシステ
ム検証を実施するとともに、陸上装置のハードウェア改良等
により時刻同期機能の向上を図った。また、ケーブルを巨大
送信アンテナとして利用し、給電電流を低周波数で変動させ、
海底下の電気伝導度構造を観測することを目的として、平成
19 年度までに開発した電源制御装置を豊橋沖システムに接
続し、作動実験を開始した。
写真 1.豊橋沖システムの分岐装置に接続された海底音響基準局
上記の観測センサに加え、東京大学生産技術研究所にて開
発された海底地殻変動観測用海底音響基準局について、平成
20 年 9 月豊橋沖システムの分岐装置に無人探査機「かいこう
7000 Ⅱ 」 に よ り 接 続 し 、 同 研 究 所 の AUV(Autonomous
Underwater Vehicle、自立型無人探査機) r2D4 を用いた高精度
海底地殻変動計測実験を同研究所と共同で実施した。平成 20
年 9 月の KR08-11 航海にて実施した今回の実験では海底音響
基準局からの GPS に同期した音響信号の受信を確認し、r2D4
による計測に成功した。今後長期にわたる繰り返し計測によ
り、高精度の海底地殻変動検出が期待される。
釧路・十勝沖観測システムの一部を構成する移動型観測装
置を用いて 2002 年より断続的に実施された、海底における観
- 80 -
測点構築手法の検討及び、海底における広帯域地震計および
平成 20 年 6 月、室戸岬沖システムの先端観測装置と津波
圧力センサを用いた観測の高精度化に関する観測研究につい
計 1 の間の給電系に障害が発生し、先端観測装置からのデー
ては、平成 19 年 9 月に交換した駆動用バッテリーの放電終了
タが中断した。先端観測装置以外の地震計ならびに津波計か
(平成 21 年 2 月)をもって終了することとした。本観測研究
らのデータは引き続き取得されている。本障害は海底ケーブ
によって検証された、細径展張ケーブルを用いたリアルタイ
ル給電線の絶縁低下と考えられるが、従来の敷設船による
ム観測点構築手法の確立や、地震計の表層埋設による観測環
ケーブル回収・再敷設による修理では、莫大なコストが必要
境の改良効果の評価等から得られた知見は、現在新たに始
となる。そこで、無人探査機による水中修理技術の開発を開
まったプロジェクト「地震・津波観測監視システムの構築」
始した。平成 21 年度には室戸岬沖システムの当該障害箇所を
に用いられる主要な技術要素となっており、本観測研究は実
ターゲットとした海域実験を計画している。
海域でのフィジビリティスタディとして十分な成果を上げ当
初目的を達成した。また、観測の終了した移動型観測システ
ムに関しては、今年度回収計画を立案し、来年度実施に移す
予定である。
海底からの長期的な画像の取得において、光源のもつ寿命
は観測における大きな問題点である。この問題を解決するた
めに開発し、平成 18 年 6 月に釧路・十勝沖システムに接続し
た LED 素子を用いた長寿命水中光源、ならびに平成 20 年 1
月に初島沖観測ステーションに接続した消費電力がその約
20 分の 1 となる約 5 W の低消費電力型 LED ライトについて
は、引き続き長期海底観察に使用している。しかしながら、
釧路・十勝沖システムに接続した LED 水中光源は平成 20 年
写真 2.海底ケーブル水中修理技術開発用絶縁材料の予備実験
6 月 7 日に障害が発生した。平成 21 年度に回収し、故障原因
を調査する計画である。
地球内部変動研究センターで開発し、平成 20 年 1 月に初
観測データの公開については、WEB での公開のほか、映
島沖観測ステーションに接続して長期間の観測実験を開始し
像・音響コンテンツについてはメディア等での提供も行って
た 2 次元酸素濃度分布観測センサ(Optode センサ)について
おり、水族館等でも利用されている。初島沖観測ステーショ
は、平成 20 年 6 月に NT08-10 航海にて無人探査機「ハイパー・
ンの映像・音響コンテンツを使用し、東京工科大が中心とな
ドルフィン」により回収したが、コネクタ不良による給電系
り制作した「深海の音」をテーマとするコンテンツは、新江
の漏電障害が確認され、対策を検討した。平成 21 年度の実験
ノ島水族館の「深海生物展」で展示されたほか、平成 20 年
に適用する計画である。
10 月に開催された芸術科学会 NICOGRAPH において「優秀
平成 5 年度以降、順次設置した相模湾初島沖深海底総合観
論文賞」を受賞した。
測ステーション及び海底地震総合観測システム 1 号機(室戸
平成 20 年 9 月 11 日に発生した十勝沖地震では、地震によ
岬沖)・2 号機(十勝・釧路沖)、ならびに上記豊橋沖システ
り引き起こされた津波が、釧路・十勝沖観測システムの津波
ムの運用については、前年度までに引き続き、各観測システ
計により、海岸の検潮所より約 30 分早く検出されていること
ムからのリアルタイムデータ取得・解析と気象庁等への地震
が確認され、海底ケーブル型観測システムの有効性が示され
等観測データの配信並びに WEB によるデータ公開を実施し
た。
ている。室戸岬沖並びに十勝・釧路沖システムの海底地震計
釧路十勝沖観測システムにおいて基礎研究を実施し一定
データのうち、リアルタイムで変換処理を行っている「3 軸
の成果を上げた広帯域地震計の観測環境の評価に関しては、
変換データ」の算出方法に誤りがあることが、平成 20 年 8
平成 19 年度より試験海域を「地震・津波観測監視システムの
月までに判明し、10 月 3 日までに変換処理プログラムの改修
構築」プロジェクトの対象海域である熊野灘沖に移し、海底
を行った。
に設置した地震計が底層流等により受けるバックグラウンド
- 81 -
ノイズを低減することを目的とし、実海域において地震計容
器の形状(球体、円筒)及び埋設・非埋設等の設置環境に関す
る比較計測を行い、埋設環境の優位性の評価を実施している
ところ。平成 20 年度では設置環境にさらなる対策を加え、さ
らに将来実運用に使用する予定のシステムと同等の装置を用
い検証試験を重ね、過去に実施された表層観測の中で最も良
い観測環境を構築することが可能なことを確認した。
機動的に海底のリアルタイム観測点を構築する手法とし
て、平成 19 年度まで、無人探査機(ROV)に搭載可能な展
張装置の開発と、実海域での検証試験を行い、複雑な海底地
形への対応や、天候などの外的要因による作業の中断と再開
への対応、ケーブル回収への対応等の機能検証を進めてきた。
平成 20 年度には海底に 10km 長のケーブルを敷設することで
写真 3.展張作業用 ROV
発生する無人探査機の水中重量変化を補償するための浮力調
整装置を導入し、この動作試験を実海域で実施し動作の確認
とパラメータの調整を行った。本装置を導入したことで海底
孔内計測システムに適用する孔内広帯域地震計及び孔内
面上に予定最大長である 10km 長のケーブルを確実にひくこ
傾斜計のパフォーマンス評価を実施した。孔内用広帯域地震
とが可能となった。
計は、相模湾の海底で設置観測を行い観測ノイズの評価を実
施し、孔内傾斜計は陸上設置を行って、ノイズ及び地震に対
するレスポンス評価を実施した。
熊野灘沖の南海トラフを観測エリアとし、稠密で高精度な
海底地震活動のリアルタイム観測を実現する地震・津波観測
監視システムの構築のために必要な、要素技術開発をおおむ
ね終了した。
図 12.ケーブル展張作業イメージ図
写真 4.給電分配ユニット評価試験
さらに、海域で使用するセンサシステムの評価を継続する
と共に、基幹ケーブルコア部分の製造及び水中着脱インター
フェースの製造を実施した。
- 82 -
( 4 )先進的海洋技術研究開発
音波伝搬実験を行い、パッシブな位相共役処理を施すことに
より、通信が可能であることを示した(図 15、16)。
海洋機器用構造部材に関する研究
137º E
ハイブリッド耐圧容器の圧壊試験を実施し、数値解析との
140º E
35º N
比較評価を行った。この結果を基に耐圧容器の設計を変更し
た改良型ハイブリッド耐圧容器の製作の事前準備を実施した。
34º N
Mg 合金について、軽量・高強度の特性を活かした海洋部材
としての用途を検討し、予備試験を実施した(図 13)。
A
33º N
約 300 km
32º N
31º N
B
30º N
-5000
0
深度(m)
図 13. 圧壊試験用ハイブリッド耐圧容器
図 15. 試験海域(伊豆・小笠原海域、水深約 4,000m)
動力源に関する研究
TR+AE
水素貯蔵:吸蔵量の向上を目指して高圧貯蔵型の BCC 水
2
Quadrature
素吸蔵合金を開発。20MPa で 2.25w%吸蔵可能とした。
酸素貯蔵:数種類の酸素貯蔵候補材による酸素吸着・放出
特性試験を実施した。その結果、40w%を超える吸蔵能力を
有する酸素貯蔵材を得ることができた。
中性子ビームによる閉鎖循環系の燃料電池発電時の生成
1
0
-1
-2
-2
-1
0
1
2
水挙動解析実験(日本原子力研究開発機構との共同研究)を
実施した(図 14)。
図 16. 復調結果の例(位相共役処理に、適応等化器を組合わ
せる事により通信が可能となっていることを示している)
海底を広域かつ高精度に探査する技術の開発として、合成
開口技術を用いたソーナーの性能向上を目指し、合成開口
ソーナーの試作 2 号機を製作した。机上試験および水槽試験
において動作を確認し、搭載用曳航型プラットフォームに搭
載した状態での重量バランス等の調整を実施し、曳航に問題
が無い事を確認した(図 17、18)。
図 14. 燃料電池セルの中性ビームによる可視化
水中音響技術に関する研究
近距離において、高速音響通信を実現するため、受波器に
改良を加え、海域実験による通信特性の計測を実施し、約
700m の距離において 80kbps の速度での通信が可能であるこ
とを確認した。また、位相共役波による長距離音響通信のた
図 17. 水中電子部(左)および船上
めに、受波器の実アレイを製作し、SOFAR 層内で 300km の
コントロールソフト(右)
- 83 -
図 18. 搭載用曳航型プラットフォーム
計測及びセンサ技術に関する研究
環境計測技術に関する研究
加速度計のバイアス誤差をアライメント終了時に事前に
深海の現場環境において、試料採取を行わず直接 pH を測
推定する手法を考案した。その効果を確認するために、前年
定可能とするため、応答性能に優れたイオン選択性電界効果
度に構築したシステムにバイアス誤差推定機能を組み込むと
型トランジスタを用いた小型 pH センサーの開発を実施した。
同時に、推定結果を INS の演算機能に反映させ、自動車を使
本年度は昨年度の評価で判明した、熱水プルームによる pH
用した移動体試験を実施した。慣性航法装置(INS)は、移
特性が着水前・揚収後でドリフトする特性に対する現場校正
動量を加速度計にて、移動方位をジャイロにて計測し、時系
機能の評価を海域実験により行った。評価の結果、従来校正
列的に演算することで自己位置を求める。累積移動量を求め
しなかった場合に比べドリフト量を高精度に校正できること
ていくため、計測誤差は時間経過に伴い蓄積され、自己位置
を確認した(図 21)。
計測の精度を著しく劣化させるという課題がある。INS の精
度向上のため、誤差軽減システムを開発して位置検出精度に
ついての評価試験を行った。また、移動体実装用回転制御系
を構築し陸上試験を実施した(図 19)。
図 21. 現場校正機能付き pH センサの校正結果
図 19. 移動体試験時の慣性航法装置
人工衛星による海洋機器の遠隔制御の研究
技術試験衛星きく 8 号を用い、小型母船をもちいて潜航中
の細線光ファイバーROV「HDMROV」のリアルタイム遠隔
操作、並びに相模湾に浮上中の AUV「MR-X1」の横須賀本
部からのテレメトリングに、世界で初めて成功した(図 20)。
図 20. 相模湾で実験中の「MR-X1」
左:母船上で待機中の AUV
右上:衛星通信用アンテナ
右下:遠隔操作中の MR-X1
- 84 -
1.2.2 シミュレーション研究開発
のサブメソスケール現象に励起された強い鉛直流は中深層ま
で到達しており、大規模循環場の変動および海洋生態系の応
( 1 )計算地球科学研究開発
答に影響を及ぼす可能性が示唆される。
大気・海洋シミュレーション研究グループでは、全球海洋
CFES を用いた高解像度大気海洋結合シミュレーション結
大循環モデルプログラム(OFES)、全球大気大循環モデルプ
果を図 2 に示す。人工衛星観測の結果 (Risien and Chelton,
ログラム(AFES)、全球大気海洋結合モデルプログラム(CFES)
2008)と比較すると、年平均風応力の回転成分には、中央アメ
を確立した。OFES では、昨年度までの水平解像度 10 km の
リカ沖の東部熱帯太平洋やハワイ諸島の西側、インド亜大陸
シミュレーションに加えて、サブメソスケール現象を解像可
の南端付近やマダガスカル島の北端付近に正負の極大が見ら
能な水平解像度 3 km の高解像度で北太平洋シミュレーショ
れる。これらは、局所的な地形の影響で生じたものであり、
ンのテスト計算を実施した。高解像度版 CFES(海洋 25 km、
大気約 50 km という高解像度を用いることにより初めて再現
大気 50 km)では約 20 年、中解像度版(海洋 50 km、大気 100
に成功した。一方、西部アラビア海や南大洋での風応力の発
km)では約 70 年分のシミュレーションを終了し、エルニー
散成分に見られる極大は、海洋の渦や水温前線の蛇行に対す
ニョや黒潮の蛇行現象およびそれらの長期変動が再現されて
る海上風の応答によって生じたものであり、海洋に高解像度
いることを確認した。これらのシミュレーションは、大気海
を用いることが不可欠な現象である。この例が示すように、
洋相互作用に関する新たな描像をもたらすような研究への活
高解像度版 CFES を用いることにより、空間的には小規模な
用が期待される。また、AFES と局所アンサンブル変換カル
がら恒常的に存在する変動が、大気の低気圧活動や海洋の渦
マンフィルタ LETKF を組み合わせたデータ同化システム
活動、あるいは局所的な海洋生態系の応答を通じて、全球の
ALEDAS を利用し、北極域で観測されたデータの影響評価
気候システムを形成・維持する過程を再現、検証することが
(Inoue et al. 2009)や台風中心付近で観測されたデータの同
可能となった。
固体地球シミュレーション研究グループにおいては、主に
化手法の開発を実施した。
OFES を用いた水平解像度 3 km の北太平洋シミュレーショ
(2)プレート・マント
(1)地球ダイナモシミュレーション、
ンのテスト計算結果を図 1 に示す。黒潮などの大規模な海流
ル結合シミュレーション、(3)地震サイクルシミュレーショ
と共に約 100 km スケールの中規模渦よりも小さな「サブメ
ン、の 3 つの研究開発を行った。
ソスケール」の渦やフィラメント現象が解像されている。こ
図 1. 水平解像度 3 km の OFES 北太平洋シミュレーション結果。左: 海表面の流速の回転成分(10-5 1/s)、右: 鉛直流速(cm/s)の北緯 35 度断面。
- 85 -
図 2. 風応力の年平均
均気候値。上: 回転
転成分、下: 発散成
成分。左:人工衛星
星観測の 8 年間 平均値(Risien
平
and Chelton,
C
2008)、右
右: CFES を用いた
た高解像度大気海洋
洋結
合シ
シミュレーション
ンの 23 年間平均値
値。
地球ダイナモ
モシミュレーシ
ションについて
ては、世界記録
録とな
の
7 乗のオーダー)
乗
る最も低いエクマン数(10 のマイナス
での
シ
シミュレーショ
ンの結果、コア内部の対流
流と磁場の新し
しい 3
次
次元機構を見出
出した。磁場は
はシート状の対
対流構造に沿っ
ったほ
ぼ
ぼ直線状のフラ
ックスチュー
ーブ構造を持つ
つのが特徴であ
あり、
それに対応して
てフラックスチ
チューブの周囲
囲にらせん型の
の電流
構
構造が自発的に
に生成・維持されることがわ
わかった(図 3)
)。こ
図 3. インヤン格子を用
用いた高解像度地球ダイナモシミュ
ュレーションにより
り見
の結果は Naturee に掲載された
た。
された電流のらせん構造。
いださ
プレート・マン
ントル結合シミ
ミュレーション
ンの実現に向け
けて、
前
前年度から進め
めていた粘弾性
性を伴う大変形
形問題を解くた
ための、
大
大規模計算に適
適した手法の開
開発は本年度ほ
ほぼ完成した。さら
に、この新手法
法の精度を定量
量的に確認する
ることを目的とし、
興味深い現象に
に注目して、この現
こ
Fluuid rope coilingg と呼ばれる興
象
象の擬
1 次元数
数値解モデルを
を作成する事に
にも成功した。この
数
数値解を解析解
解とみなして比
比較を行うことで、我々の 3 次元
粘
粘弾性流体シミ
ュレーション
ン手法が高い精
精度を持ってい
いるこ
とを証明した(
(図 4)。今回我
我々の提案した
た Fluid rope cooiling
を用いた比較手
手法は、シャー
ープな境界をも
もつ 3 次元大変
変形問
題
題での数値誤差
差を単独のコー
ードで評価でき
きる点で斬新で
である。
よって、今後開
開発される同様
様な目的のシミュレーション
ンコー
ド
ドに対して、広
広くベンチマー
ークテストとし
して使われるこ
ことが
期
期待される。
図 4. プレート・マントル結合シミュレーションの実現に
に向けて開発した大
大変
形問題
題の高精度新解法の精度を確認する
るために行った Flu
uid rope coiling 問題
問
による
るベンチマークテスト。
- 86 -
また、有限要素法に基づき粘弾性不均質媒質中での地震サ
( 2 )シミュレーション高度化研究開発
イクルシミュレーションを行うためのコードの基本部分を完
複雑性シミュレーション研究グループでは、全球/領域対
成させた(図 5)。有限要素法単独では、断層近傍での応力精
応の非静力学・大気海洋結合モデル(MSSG:メッセージモ
度に問題を生じる。このため、不均質/均質の二種類の媒質
デル)を使用して、様々な時空間スケールの現象が複雑に相
分布に対する有限要素解の差分によって不均質媒質起源の応
互作用を及ぼしていることを考慮したマルチスケール・マル
力変化を抽出し、これと半無限均質弾性媒質に対する解析解
チフィジックスシミュレーションを実施した。都市スケール
を重ね合わせることにより応力精度を向上させる手法を考案
のシミュレーションでは、新しい高速アルゴリズムを開発し、
し、コードに実装した。
従来の手法と比較して約 100 倍の高速化を実現することによ
り、日変化を含む非定常な時間変化を伴うヒートアイランド
メカニズムの解明へ向けた新たなシミュレーション手法を開
拓した(図 1)。また、雲物理過程をより現実的にモデル化し
た新たな乱流雲微物理過程モデルを開発しその有用性を示す
とともに(図 2)、高速かつ高精度計算スキームの導入を行い、
低中緯度における降雨分布を著しく改善することに成功した
(図 3)。さらに、世界に先駆けた非常に新しい高精度・動的
図 5. 有限要素法に基づく地震サイクルシミュレーションの新しいコードによ
る鉛直断層面の変位の様子。
適合格子系(全球 Soroban-CIP 法)を提案・開発し、その有
用性を示した(図 4)。
図 1. (a)はブジネスク近似を用いた場合、(b)は完全圧縮方程式を解いた場合の
鉛直熱フラックス分布。
- 87 -
(a)
雲の発達と雲粒成長の概略図
(a) 5th W-S スキーム (トレーサ移流で負値が計算されるスキーム)
(b)
(b) WAF スキーム (トレーサ移流で負値を回避するスキーム)
(c)
図 2. (a) 乱流雲微物理過程の概略と MSSG における(b)乱流衝突効果を考慮し
ない場合、及び(c)乱流効果を考慮した場合の降雨分布。
(c) CMAP (観測)
図 3. 雲微物理過程の異なる計算スキームによる 6 月、
7 月、
8 月平均降水分布の比較。
(a)緯度経度座標に従った初期の格子配置。左図:水平格子配置、右図:鉛直格子配置
(b)圧力分布に従って移動した後の格子配置。左図:水平格子配置、右図:鉛直格子配置
図 4. 3 次元全球に配置される Soroban-CIP 格子の概略図。
- 88 -
高度計算表現法研究グループは、大規模データ可視化ソフ
トウェア YYView および Armada、仮想現実可視化ソフトウェ
ア VFIVE の研究開発を進めてきた。
YYView は、これまでに我々が中心的に開発を進めてきた
並列型可視化・動画作成プログラム MovieMaker をレンダリ
ングエンジンとし、ユーザーインターフェース機能を追加し
た準対話型並列可視化ソフトウェアである。今年度について
は、YYView のインターフェースプログラムとして昨年度ま
でに開発してきたカメラパスエディタへの機能拡張を施した。
1 つは多数の視点設定を自動的にセットするマルチビューイ
ング機能(図 5)、もう 1 つは自動的に取得されたカメラパスの
パラメータ群をキーフレームテーブル上で数値的に再編集す
ることができる機能である。
大規模可視化プログラム開発についてもう 1 つ、
MovieMaker から派生した並列可視化プログラム Armada の開
図 5. マルチビューイング機能の例
発を進めてきた。これはベクトル計算機への対応を考慮して
おり、地球シミュレータを含むベクトル型大型計算機上で一
気に可視化し動画作成することを想定している。このような
大型計算機では一般にグラフィックスハードウェアを装備し
ていないので、(MovieMaker からの変更点として)Armada で
はソフトウェアレンダリング方式を採用している。今年度
Armada については複数のデータの同時表示機能を追加した
(図 6)。
仮想現実可視化ソフトウェアの研究開発として我々は
CAVE システムで仮想現実可視化を実現させるソフトウェ
ア・VFIVE の開発をこれまでに進めてきた。VFIVE に関して
は基盤的部分の開発は昨年度までに完了しているので、本年
度は VFIVE プログラムの公開とそれを用いた仮想現実可視
化手法の大学・研究機関等への普及を中心に実施(図 7)、また
図 6. マントル対流シミュレーションの可視化例。2 つの異なるスカラー場の
等値面とベクトル場の矢印を同時に出力している。
新たなニーズへの対応の改良を進めてきた。多くの CAVE シ
ステムを導入している大学等では主計算機として PC クラス
タシステムを導入しているところが多い。VFIVE はもともと
SMP 型グラフィックスワークステーション用に開発されて
きたため、分散並列用にプログラムを見直し改良を加えてい
る。
図 7. 中央大学の CAVE システムを用いて PC クラスタ用に改良を施した
VFIVE で仮想現実可視化を行っている。
- 89 -
層シミュレーシ
ション研究開発
発
( 3 )連結階層
アルゴリズム研究グループ
プにおいては、階層間相互作
作用を
複
複数の計算モデ
デルの連結で捉
捉える「連結階
階層シミュレー
ーショ
ン
ン」のアルゴリ
ズムを様々な
な現象に関して
て開発した。特
特に、
「地球シミュレ
レータ」の高速
速性能を活かし
し、雲、プラズ
ズマ、
燃
燃焼、反応拡散
散系などの複雑
雑現象の連結階
階層シミュレー
ーショ
ン
ンの高度化を行
行った。第 1 に粒子法に基づ
に
づく新しい雲微
微物理
モデル「超水滴
滴法」の開発を
を進め、その数
数値的収束性の
の検証
の結果、図 1 に示すように少
に
少ない粒子数で
でも水
を行った。その
2.0
Power-law Index γ
滴
滴分布の特徴を
をよく再現できる事が確認された。第 2 に太陽
に
地
地球システムに
における太陽面
面爆発のマクロシミュレーシ
ション
を行うと共に、その結果生じ
じる衝撃波にお
おける粒子加速
速過程
を実現し、地球
球軌道における
る太陽
のミクロシミュレーションを
1.8
1.6
1.4
1.2
高
高エネルギー粒
粒子の流束変化
化を再現するこ
ことに初めて成
成功し
1.0
た(図 2)。第 3 に、
に 気体デトネ
ネーションの連
連結階層シミュ
ュレー
0
500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
シ
ションを用いて
てデトネーション波面近傍の
の詳細構造を解
解析す
TIME [ / Ωci ]
ることによって
て、連続体モデ
デルでは扱えな
ない波面の熱的
的非平
図 2. 太陽からのコロナ
ナ質量放出(CME)の
のシミュレーション(上図)と、C
CME
衡
衡が化学反応に
に及ぼす影響を
を調べた(図 3)
)。
前面に
における衝撃波で
で加速された高エネ
ネルギー粒子を再
再現するプラズマ粒
粒子
シミュ
ュレーションによ
よって得られた粒子
子エネルギー分布
布の冪インデックス
ス変
化(下
下図)。
図 1. 超水滴雲シミュ
ュレーションにおける粒径分布の数
数値的収束性の検証
証。(a)
計算
算開始後 1620 秒に
における雲の全体
体の形状。 (b) (a)中
中の四角で囲われた
た部分
の粒
粒径分布。単位セル
ル当たりの初期超水滴数に対する依
依存性を調べた。(cc) 1800
秒に
における累積降水
水量の初期超水滴数
数依存性。計算に含
含まれた超水滴の数
数が少
ない
い場合でもよく現
現象を再現する事が
が分かる。
図 3. デトネーションの連結階層シミュ
ュレーション。(a) 粒子シミュレーシ
ショ
ンによ
よる気体分子運動論的化学反応速度
度。(b) 局所熱平衡
衡を仮定して得られ
れた
熱的化
化学反応速度。
- 90 -
応用シミュレーション研究グループでは、(1)摩擦/破壊、
る連結階層シミュレーションは、微視的現象(イオン音波ダ
(2)オーロラ現象、(3)雲核生成をターゲットした「連結階層シ
ブルレイヤーによる加速)で生成されたオーロラ高エネル
ミュレーション」アルゴリズムの研究開発が行われた。(1)に
ギー電子が、電離圏プラズマ密度を増加させ、さらに、電離
関しては、大阪大学との共同プロジェクト(GASST)が完了
圏電場を変動させることによって、オーロラの巨視的構造(沿
し、地震動に対する高層建築物の安全性を高めるために大規
磁力線電流の分布)を大きく変動させることを明らかにした
模構造解析が有効であることを示された。その成果は国際会
(図 4)。(3)については、ミクロプロセスの研究手段として、
議「 International Symposium on Structures under Earthquake,
特に硫酸エアロゾル生成に関する大規模分子動力学シミュ
Impact, and Blast Loading 2008」にて発表された。(2) に関す
レーションのプラットフォームの開発を行った(図 5)。
図 4. 左:電離圏プラズマ密度分布。中:電離圏高度における緯度方向電場の分布。右:電離圏高度の沿磁力線電流密度分布。
図 5. 分子動力学シミュレーションによる硫酸エアロゾル生成。
- 91 -
1.3 研究開発の多様な取り組み
1.3.1 独創的・萌芽的な研究開発の推進
独創的な次期プロジェクトの萌芽となる研究開発を推進するため、平成 16 年度から実施している「研究開発促進アウォード」
について、平成 20 年度は、機構内の各センターの横断的研究プロジェクト及び産学官等外部機関との協力をベースとする研究
開発プロジェクトである「横断研究開発促進アウォード」を 2 課題、今後の海洋科学技術の発展に必要なセンサー類、計測機
器、観測機器、実験機器等の技術開発の促進を目的とした「最先端計測技術開発促進アウォード」を 1 課題、次期中期計画に
盛り込むべき研究開発課題の予備的な段階として、海洋科学技術の基盤的研究開発における将来の重要なシーズを探索・育成
するための研究開発を促進する「萌芽研究開発促進アウォード」を 6 課題、機構の中長期的研究開発目標である「地球生命シ
ステムの統合的理解」を目指し、さらには次期中期計画への反映を目指して、既存の枠・手法を超えたシステム科学的なアプ
ローチである「システム地球科学研究アウォード」を 1 課題、継続して実施した。また、萌芽研究開発促進アウォードに関し
ては、7 課題を新たに採択し、実施した。
平成 20 年度に実施した上記研究開発促進アウォード課題について、研究成果発表会を実施するとともに、「研究開発促進ア
ウォード推進委員会」による評価を行い、評価の良好な課題について平成 21 年度への継続を決定した(表 1)。
- 92 -
表 1. 平成 20 年度研究開発促進アウォード
実施課題一覧
経費(千円)
研究分担者
回
テーマ名
種別
研究責任者
所属
研究協力者
5
Google Earth as geoscience data browser Project
萌芽
山岸 保子
IFREE
5
堆積岩の鉛同位体比からみる白亜紀海洋無酸素事変の環境変動史
萌芽
黒田 潤一郎
IFREE
5
環境工学と微生物学の融合
ーリアクターシステムを利用した海底下未知微生物の純粋分離ー
萌芽
井町 寛之
XBR
5
深海底生態系に第三の分子生物学を導入する
:糖鎖を介した生物間相互作用の分子的理解への展開
萌芽
中川 聡
XBR
5
無人探査機用マニピュレータの自律作業機能に関する研究
萌芽
5
海底下生命圏の基質誘導型遺伝子発現解析による
未知微生物機能遺伝子の探索と機能評価
萌芽
諸野 祐樹
高知コア
5
海洋全層同化モデルの開発とそれを用いた海洋大循環変動の研究
横断
河野 健
IORGC
- 93 -
横断
稲垣 史生
5
断層すべり挙動の包括的理解のための流体制御型高速せん断試験装置
最先端技術
谷川 亘
6
「プレカンブリアンエコシステム」ラボ
システム
地球科学
高井 研
XBR
萌芽
西尾 嘉朗
高知コア
萌芽
岡崎 裕典
IORGC
7
7
7
7
7
7
管内圧力波利用データ伝送技術の高速化
係留系STDセンサーの全光化の研究
萌芽
小山 純弘
XBR
萌芽
山本 正浩
XBR
萌芽
萌芽
萌芽
仙田 量子
眞本 悠一
石原 靖久
稲垣史生、益井宜明(高知コア)
内山拓(産総研)
淡路敏之、杉浦望実、増田周平、豊田隆寛、佐々木祐二(FRCGC)、川合義美、勝又勝郎、
纐纈慎也、土居知将(IORGC)、渡邉修一(むつ)、華房康憲、畑山隆紀、五十嵐弘道(DIAG)
深澤理郎(IORGC)
諸野祐樹、二神泰基、益井宣明(高知コア)、高井研、小林徹(XBR)、小川奈々子、高野淑識、
大河内直彦(IFREE)
高知コア 寺田武志、植松勝之(MWJ)、井町寛之、高見英人(XBR)、松本良、戸丸仁、武内理香、
柳川勝紀、高畑直人、佐野佑司 (東大)、西澤学(東工大)、久保田健吾(東北大)、
吉岡秀佳(産総研)、Julius S. Lipp, Kai-Uwe Hinrichs (University of Bremen)
林為人、廣瀬丈洋(高知コア)
高知コア
石川剛志(高知コア)、廣野哲朗(大阪大)、嶋本利彦(広島大)
熊谷英憲、鈴木勝彦(IFREE)、渋谷岳造、山口耕生(プリカンブリアンエコシステムラボ)、宮崎淳一、
山本正浩(XBR)
下北沖メタンハイドレート域における海底下生命機能統合調査プロジェクト
生物大量絶滅事件時に地球に何が起きたかを明らかにする
新しいアプローチ
微少珪酸塩の酸素同位体比測定法の開発と
古海洋環境復元への応用
深海性宿主細胞―化学合成共生微生物間の相互作用解明のための
遺伝子工学技術の開発
微生物硫黄代謝経路の解明のための電気化学的技術の導入
(現場直接解析・電気培養・酵素活性測定)
How does the recycled component from subducted slab affect primary
magma of Izu-Bonin-Mariana arc?
島村繁、牧田寛子、渡部裕美、勝平浩三(旧XBR)、西村紳一郎、三浦嘉晃、黒河内政樹(北
大)、平林淳、舘野浩章(AIST)、島岡秀行(S-Bio)
石橋 正二郎 MARITEC
5
7
坪井誠司、田村肇、長尾大道(IFREE)、鈴木勝彦(IFREE&プレカンブリアンエコシステムラボ)
畠山唯達(岡山理科大)
谷水雅治(高知コア)
IFREE
CDEX
MARITEC
仙田量子、清水健二(IFREE)、中川聡、平山仙子、布浦拓郎、宮崎征行(XBR)、蒲生俊敬、
川口慎介、角森史昭、中村謙太郎、玉木賢策、沖野郷子(東京大)、土岐知弘(琉球大)、
石橋純一郎(九大)、丸山茂徳、大森聡一、上野雄一郎(東工大)、森下知晃(金沢大学)、
佐藤暢(専修大)、Wolfgang Bach(University of Bremen)
鈴木勝彦(IFREE)
小木曽哲(京都大)
井尻暁(IFREE)
吉田尊雄、大石和恵(XBR)
清水健二、鈴木勝彦(IFREE)
宮崎剛、和田一育、宮崎英剛(CDEX)
横引貴史、高橋幸男、浅川賢一(MARITEC)、植木巌(RIGC)
総事業費
FY19
FY20
10,000
5,000
5,000
5,400
3,900
1,500
10,000
5,000
5,000
10,000
5,000
5,000
8,700
5,000
3,700
10,000
5,000
5,000
32,000
12,000
20,000
100,000
50,000
50,000
35,000
27,500
7,500
60,080
25,000
35,080
4,500
―
4,500
4,500
―
4,500
2,500
―
2,500
4,500
―
4,500
4,500
―
4,500
2,500
―
2,500
4,500
―
4,500
308,680
143,400
165,280
1.3.2 共同研究および研究協力の推進
海洋生態系モデル
海氷を減少させ、温度を上昇させる気候変化の傾向は、海
共同研究に関しては、平成 20 年度共同研究を 63 件実施、
うち平成 20 年度新規課題は 20 件実施した。
も重大な影響がある。ベーリング海と北極海の高い生物生産
大学、大学共同利用機関法人
22
(5)
性は季節による海氷の分布によって変化する。ブルームの時
国、自治体、独立行政法人
27 (11)
期と規模は生態系を劇的に変化させる。これは、地球温暖化
民間、財団法人など
15
(4)
に関連した種の移動と同様である。IARC の生態系モデルは、
2
(0)
外洋と海氷藻類を含んでおり、観測されたブルームを正確に
外国機関
※(
洋低次生産構造において、また漁業と海洋の生物化学過程に
再現することができる。そして 1997 年から 1999 年に起こっ
)内は平成 20 年度新規課題。
※ 内訳は相手方の数。1 つの共同研究契約で相手方が複数となる場合があるた
め、契約件数とは異なる。
たブルームの傾向の変化は大気循環の変動が原因で起こされ
たことが分かった。
・機構の研究開発に関する交流を推進するため、引き続き国
30
内の大学・研究機関との連携を進め、新たに 1 件の機関連
20
NPP difference (g C m−2)
携協定を締結した。
・新規に締結された機関連携協定:国立大学法人東京海洋大
学(平成 21 年 3 月 18 日締結)
「国立大学法人東京海洋大学
D+F+Ai
D+F
Ai
10
0
−10
と独立行政法人海洋研究開発機構との海洋科学技術におけ
−20
る包括的連携教育・研究に関する協定」
−30
0
・国際北極圏研究センター(IARC)及び国際太平洋研究セン
ター(IPRC)では、引き続き地球環境観測研究、地球変動
予測研究に関する研究テーマについて研究を実施した。ま
1
2
3
4
5
6
7
Month
8
9
10
11
12
図 1. 南東ベーリング海での植物プランクトンのブルームパターンのモデル結果。
月平均純基礎生産量
(NPP)
指数が 1 以上の年から 1 以下の年の値を引いた数値。
D、F、Ai は、それぞれ珪藻、べん毛虫、氷藻である。
(Jin et al., 2009, JGR)
た、平成 21 年度以降 5 年間の共同研究体制について定める
協力協定の改定作業を進めた。
北極海モデルと観測
・海外研究機関との協力のため、平成 20 年度末現在 19 機関
IARC による北極海観測は、急速な環境と政治的な変化の
と協定を締結しており、このうち米国海洋大気庁海洋大気
時期に、世界的コミュニティーにとって重要である北極の理
研究局(NOAA/OAR)及び英国サザンプトン海洋研究所
解を深めるのに非常に重要な科学的かつ政治的な道筋を示し
(NOCS)との協定を更新した。
た。これらの観測から 1999 年に北極海に異常に暖かい水が大
西洋から流入したことを示した。また異常な北極海の表層水
IARC 並びに IPRC に於ける研究活動
温上昇は、類のない強さと空間分布を示しており、実質的な
( 1 )国際北極圏研究センター(IARC ; International Arctic
北極海の海氷減少に対して海洋の熱が重要であることを示唆
Research Center)
している。海氷は、大西洋の暖水の上昇流入に一致して、過
アラスカ大学フェアバンクス校
国際北極圏研究セン
去 8 年間で劇的な海氷面積の減少を示している。われわれの
ター(IARC)は、北極システムの理解の統合、及びこれを応
プログラムは国際協力を高め、国際極年(IPY)にとって重
用し来世紀にかけての北極システム変化を予測するための国
要な要素となり、共通の研究基盤、最新のデータベース、お
際的研究拠点である。IARC は北極域の変化の予測不確実性
よび相乗作用と学際的な対話を進めることとなった。
を低減することを大きな目的としており、このためには現在
進行している変化を理解しなければならない。また、この理
解にはシステム間の関連を特徴づけ、定量化する必要がある。
理解と予測能力を統合するための IARC の方針とは、科学の
進歩に必須な活動において国際的北極研究コミュニティーと
協力して研究を行うことである。
- 94 -
図 3. 2004 年から 2008 年の冬季のトランス-アラスカ
パイプラインに沿った
雪塊中の CO2(a)と CH4(b)の年変動。縦軸の負値は CH4 酸化を示し、正値は
土壌から積雪を通した大気への放出を示す。
北極海の大気、気象及び気候変動、モデル及び観測
IARC の研究では、観測された気候変化の主要な要因を解
図 2 ナンセン-アムンゼン海盆観測システムの IPY 係留プログラムへの貢献。
NABOS は北欧海域から北極海への海水の主要な流路に沿った循環と水塊変化
明するために、ここ 100 年の大気循環の大気力学における変
に関する定量的評価を提供する。青色が NABOS によって投入されたものであ
化を調査してきた。ここ数十年の間に観測されたゆるやかな
り、赤色はその他。
変化に続き、北極気候システムの変化は 21 世紀の初めから急
激に変化しはじめた。それは、地上気温の上昇が最大となる
陸域生態系モデルと観測
場所がユーラシア大陸から北極海内部へ移動し、続いて、海
IARC の陸域研究には、永久凍土力学、水循環過程、降雪・
氷面積の減少が歴史的記録となり、北大西洋の暖水の流入が
降水・積雪の分布と風による再分布の研究が含まれている。
継続的に高まることを伴っていた。地球温暖化は、温室効果
これらの過程は各々、北極の生態系を左右する重要な役割を
ガスが引き起こす大気放射の強制に加えて海氷の動き・流
果たしていることがわかった。さらに IARC では、冬季の北
出・海流や熱輸送など力学的強制にも影響を及ぼすが、大気
極ツンドラ地帯・タイガ地帯における生態系からの二酸化炭
循環はその一つの過程にあたる。特に、大気循環が雲の形成
素・メタン排出量を綿密に調べた。これらは陸域生態系土壌
や分布を本質的に決定し、表面の放射熱収支を根本的に変質
からの年間排出量の半分までも占めている。アラスカ横断パ
させている。
イプラインに沿う約 700km の観測線において、2005、2006
および 2008 年の冬季に二酸化炭素とメタンの冬季フラック
( 2 )国際太平洋研究センター(IPRC ; International Pacific
スの測定を行い、これらが年間フラックスの 20~30%である
Research Center)
ことを明らかにした。また、新しく形成されるサーモカルス
機構は、JAMSTEC-IPRC 構想(JII)の下、国際太平洋研究セ
ト湖から沸き上がるメタンは大気メタン濃度における高緯度
ンター(IPRC)と共同で研究を実施しており、現在七つの研究
地域の増加量の 33-87%に及ぶことがわかった。また、この
課題に取り組んでいる。
ことはメタンが洪積世-完新世の変遷期に気候温暖化の一因
となったことを想像させる。
a.
注)サーモカルスト:サーモカルスト(Thermokarst)とは、
第一課題
モデルの開発、診断、および応用
第一課題の研究目標は、高解像度大気モデルの性能を評価
シベリアなどの凍土地帯で、地表付近が融解、凍結を繰り返
すること、領域モデルおよび全球高解像度モデルにおける物
して造られる凹凸のある地形のこと。
理過程の再現性を改善すること、気候系における複雑なス
ケール間の相互作用の理解を深めること、そして以上の知見
に基づき低解像度気候モデルのためのパラメタリゼーション
を改良することである。
水平解像度 L9(14km)、L10(7km)、L11(3.5km)の非
静力正二十面体大気モデル(NICAM)による 2006 年南半球
夏季の再現実験結果を用いて、鉛直質量フラックス、降水、
- 95 -
鉛直安定度の統計値を解析した結果、鉛直質量フラックスは
に応じ海面水温が上昇すると、エルニーニョ終息年の夏を通
モデルの解像度に大きく依存し、上昇気流の強さに関わらず、
して、熱帯インド洋の昇温を持続させるような海盆規模の風
解像度を上げるほど鉛直質量フラックスが大きくなることが
パターンが形成されることが示唆された。この熱帯インド洋
明かになった。このことは、低解像度のモデルでは鉛直質量
の昇温は、PJ パターンを介して北西太平洋亜熱帯域の対流を
フラックスが小さく見積もられていることを意味する。しか
抑制し、東アジアの夏期降水量に影響を及ぼす。また、熱帯
し、統計解析によると、鉛直安定度はモデルの解像度にほと
インド洋のバリアレイヤーに関して研究が二つ行われた。ア
んど依存しないことを示しており、鉛直質量フラックスの解
ルゴフロートを用いた解析では、2006 年のインド洋ダイポー
像度依存性はサブグリッドスケールの鉛直混合による影響を
ル現象とエルニーニョ現象の後に、南インド洋におけるバリ
受けている可能性がある。これらの解析は、NICAM におけ
アレイヤー形成の顕著な西方伝播が見られる。このバリアレ
る鉛直混合の再現性を改善するための基盤となるだろう。
イヤー形成は、水温躍層を 60m 以上も押し下げるようなロス
2006 年 12 月中旬の現実的な初期場を与えた水平解像度
ビー波に対する応答であると考えられる。領域モデルを用い
7km の NICAM 再現実験では、開始から 1-2 週間後に南イン
た研究では、ベンガル湾において、海洋表層の淡水フラック
ド洋上に熱帯低気圧が二つ発生した。注目すべきは、二つと
スがバリアレイヤーと海面水温へ及ぼす影響は、夏ではなく
も現実に存在していることで(Bondo と Isabel)、このことは二
冬の間に最も大きいことを示した。このことは、海洋上の熱
週間程度先まで熱帯低気圧が予測できる場合があることを示
帯収束帯に影響を及ぼしている。
唆している。さらに解析を進めたところ、この熱帯低気圧に
CMIP3 の二酸化炭素倍増実験データベースを用いて、地球
ついては、発生時期だけでなく、進路やメソスケール構造も
温暖化に対する水循環の応答を調べた。海面蒸発の標準バル
適切に再現されていることが分かった。
また、この解析によっ
ク式を線形化することによって、飽和比湿の上昇に対して、
て熱帯低気圧のライフサイクルに関わる多スケール間相互作
蒸発・降水の増加を弱める要因を特定した。主な要因は二つ
用の理解が深まった。
あり、海面の相対湿度の上昇および海面付近の安定度(大気海
洋の温度差で定義)の上昇であった。2005 年から 2095 年の期
b.
第二課題
間において、相対湿度の変化は 1%、安定度の変化は 0.2K で
大気組成
第二課題では、アジア・太平洋地域を中心に、エアロゾル、
あった。この応答は、使用した多くのモデルに見られる共通
雲、化学、物理の相互作用とそれが気候に及ぼす影響の理解
した特徴であり、モデルの予測を検証するために、海面にお
を目指している。
ける安定度と相対湿度を長期間監視することが求められる。
東太平洋上の海洋性境界層雲を理解するために、IPRC 領域
大気モデル(iRAM)に詳細な雲微物理二モーメント法を組み
現在は、インド洋の変動モードに対する地球温暖化の影響を
評価する研究が進行中である。
込み、この新たなモデルシステムによる再現実験の結果と、
航空機、船舶、衛星による観測値を比較した。様々な観点か
d.
第四課題
生態系力学
ら iRAM を評価した結果、この新たなモデルシステムは平均
第四課題では、気候変動と気候変化が海洋生態系及び陸域
的な雲特性、例えば雲水量、雲粒数密度、雲量、雲放射強制
生態系に与える影響について理解を深めることを目標とし、
力などを適切に再現できることが分かった。また、このモデ
特にインド洋・太平洋とその縁辺海における海洋生態系の一
ルでは、海洋上の層積雲に見られる鉛直積算雲水量の明瞭な
次生産に注目している。海洋一次生産の変動は、海洋による
日周期も適切に再現されている。
二酸化炭素の吸収に影響を及ぼし、気候系へのフィードバッ
クも考えられるため、より良く理解しなくてはならない。
c.
第三課題
OFES に組み込まれた生態系モデルを用いて、黒潮続流と
気候変動および予測可能性
この課題の目標は、海洋と大気それぞれの素過程、両者の
東部熱帯太平洋の海洋循環変動(中規模渦、西岸境界流、蛇行、
結合過程、気候変動モード、および季節予測可能性の記述、
湧昇など)に対する生態系応答を調べた。この研究は、機構の
理解、再現性を改善することである。
笹井義一研究員が 2008 年に 3 ヶ月間 IPRC に滞在したことで、
インド洋の変動の理解において、進展が多くあった。特筆
大きく進展した。OFES の黒潮続流域の解析では、2002 年か
すべき点として、南西インド洋の温度躍層の峰で躍層の変異
ら 2006 年までの期間、北緯 32 度から 34 度までの海域に沿っ
- 96 -
た黒潮続流での海面高度偏差の経年変動がよく再現されてい
予測可能性が約 5 日間延長できることもわかった。
る。海面クロロフィル濃度が高いところと、海面高度偏差の
低い部分が一致しているが、これは、夏季には西方伝播する
f.
第六課題
古気候力学
第六課題では、氷期の終焉と開始のメカニズムや千年規模
低気圧性渦が、栄養塩が豊富な水温躍層を有光層に持ち上げ、
クロロフィル極大層を維持しているためであり、冬季には低
変動の起源、そして氷床と気候系の相互作用の解明に重点的
気圧性渦が対流の起きやすい条件を作り出し、鉛直混合を通
に取り組んでいる。
LOVECLIM モデルを機構の計算機に導入することに成功
じてクロロフィルが混合層内一様に増加するためである。
した。低解像度 LOVECLIM による気温と降水量を ICIES グ
e.
第五課題
水循環とモンスーン
リッドに内挿する単純なダウンスケーリング法を現在試験中
第五課題では、大気陸面結合過程の役割や熱帯低気圧とモ
である。LOVECLIM に ICIES の過去 130000 年間の氷床強制
ンスーン循環の相互作用など、モンスーン循環とそれに伴う
を与え、数値実験を幾つか行った。そのうちの一つが、軌道
水循環の変動についてさらなる理解を目指している。
要素変化を五倍に加速した過渡再現実験である。この実験を
CliPAS と DEMETER による 21 年間分の追算実験に基づき、
予備的に解析したところ、アフリカ湿潤期が複数存在したと
複数モデル間アンサンブル(MME)の決定論的季節予報と確
いう証拠が初めて見つかった。LOVECLIM の植生モデルで、
率論的季節予測の現状を評価した。結合モデル 14 個によって
最終氷河期の初期(MIS5)に、サハラ砂漠で緑化が何回か起き
得られた MME は、6 ヶ月予測で 0.87 の時間相関係数(TCS)
ていたのである。
を示している。東部赤道インド洋における海面水温予測に対
大西洋子午面循環の停止に対する北太平洋における気候
する TCS は、6 ヶ月予測においておよそ 0.68 に達する。しか
応答の理解を目的とした研究も行った。北太平洋の複数の場
しながら、インド洋ダイポール指数に対する TCS は、7 月と
所で深さ 1000-2400m の海底から得られた堆積物コアデータ
1 月にそれぞれ予測の壁があるため、5 月と 11 月の初期値を
によって、ハインリッヒ事件 I のときに、海底付近の酸素水
与えた 3 ヶ月予測において、0.4 を下回る。
準が高くなり、放射性炭素年齢が低くなっていたことがわか
チベット高原の気象観測点 90 点分の記録によると、平均
る。これは、北太平洋で、中層水や下部中層水の沈み込みが
地上気温は過去 50 年間に約 1.8 度上昇している。この 1.8 度
増えたことを示唆している。LOVECLIM を使って、ベーリン
という値は、IPCC 第四次評価報告書で報告されている上昇傾
グ海峡を開いた場合と閉じた場合、また氷期や産業革命以前
向を著しく上回っている。大気大循環モデルを用いた数値実
の条件を用いた場合で水撒き実験を行い、この発見を支持す
験では、チベット高原における気温上昇に伴う大気加熱によ
る証拠を得た。すなわち、ベーリング海峡が閉じられた氷期
り、東アジアの亜熱帯前線における降水が増加し得ることが
の実験で、北太平洋に深い子午面循環ができ、北太平洋のコ
分かっている。従って、チベット高原で予測されている将来
ア採取地点の近傍で炭素年齢が 600 年若くなり酸素レベルは
的な気温の上昇によって、東アジアの前線帯における夏季降
非常に大きく増加していた。
水量がさらに増加する可能性がある。
異なる初期条件に対するモンスーンの季節内予測の感度
g.
第七課題
データ管理、データ提供、プロダクト開発
を調べるために、ハワイ大学ハイブリッド結合モデル
第七課題の目標は、機構、IPRC、その他の共同研究機関が
(UH_HCM)を用いて一連の予測実験を行った。修正の施して
行うインド洋・太平洋地域の気候研究を支援するため、分散・
いない NCEP 再解析データを初期条件として用いた場合、モ
統合された効率的なデータ管理・提供の基盤を構築すること、
ンスーンの季節内予測スキルは、850hPa の東西風と降水量に
また、広範囲な時間スケールおよび物理過程を含むプロダク
対して、全球熱帯域および東南アジアにおいておよそ 1 週間
トを作成し、研究や応用のために提供することである。
程度であった。初期条件にモンスーン季節内振動のシグナル
2008 年度のデータ提供に関する活動では、DChart の改良に
を観測値と同等なレベルで導入した場合、モンスーンの季節
重点を置いた。DChart は、ウェブに基づいたサーバであり、
内予測スキルは、全球熱帯域と東南アジアにおいて、850hPa
データの閲覧、抽出、表示が可能である。特に有用な新機能
の東西風に対しては 25 日、降水量に対しては 15 日にまで達
としては、GoogleMap および GoogleEarth 形式での出力が可
する。一般に、短周期の気象を初期条件に含めると降水量の
能なこと、そしてより信頼度の高いダウンロード機構である。
- 97 -
多くのデータサーバでは、データ抽出やダウンロードのため
にクライアント側にソフトを導入する必要があるが、DChart
はそのようなことはない。この点で、ライブアクセスサーバ
(LAS;これも APDRC で運用)と比較して、より信頼性が高い
ことがわかった。
太平洋アルゴ地域センター(機構との協力による)の活動の
一環で、アルゴプロダクトの開発においても進展があった。
特に、深さ 1000m における毎月の力学高度分布と水温・塩分
の格子データ(図)が、現在変分内挿法を用いて計算されてい
る。また、アルゴプロダクトのウェブページを一新し、全面
的に一般公開することとなった。格子データは、OPeNDAP、
DCHart、LAS を通して利用可能であり、アルゴデータセット
およびアルゴプロダクトは毎月更新されている。
アルゴデータから得られた 2009 年 4 月の深さ 200m における水温(上)と
塩分(下)。1º×1º 格子に変分原理を使って内挿。
- 98 -
1.3.3 統合国際深海掘削計画(IODP)の推進
・兵庫県神戸市で行われた「ちきゅう」一般公開では、見学
者が 9,312 人に及び、通算見学者数 8 万人を達成した。そ
・我が国の地球環境変動、地球内部ダイナミクス、海底地殻
の他、6 件の IODP 関連のプレスリリース、
「ちきゅう」情
内微生物等の研究を発展させるため、文部科学省、日本地
報発信ポータルサイト「地球発見」の運営、IODP アウト
球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)等と共同して IODP
リーチ活動「SAND FOR STUDENT」の実施、各学会・科
計画の推進を図ると共に、IODP-MI や科学諮問組織(SAS)
学博物館等ブース展示等を通じて、積極的に普及・広報活
などの計画運営、科学意見決定メカニズムに日本のサイエ
動を行った。
ンス・コミュニティーの意思を反映させた。
・本年度 2 回開催された IODP 国内科学委員会の運営支援や、
より効果的な掘削プロポーザルの育成・実効化を図るため
の公募型支援枠を用いて日本からの掘削プロポーザルを支
援した。また、SAS に設置されている 8 つの委員会・パネ
ルおよび関連する会議への委員派遣や ICDP 国内実施委員
会の開催支援を行い、日本の国際的なプレゼンスを高め、
発言力の向上に努めた。
「ちきゅう」一般公開(神戸港)
STP(科学技術パネル)
スミソニアン自然史博物館(米国)に展示中の「ちきゅう」模型
・IODP の総合的推進の一環として、IODP 研究に参加する乗
船研究者計 28 名に対し、乗船及び会議出席のための支援を
「ちきゅう」乗船スクールを開催した。
・J-DESC との共催で、
高校生から大学院生を対象とし、総勢 43 名が参加した。
行った。
・IODP では、科学諮問組織からの勧告に基づき、海洋科学
・教育機関と連携し、IODP 推進に関わる出前授業を東京都
掘削コアサンプルの再分配プロジェクトを進めてきたが、
立白鷗高等学校付属中学校、兵庫県立神戸高等学校等 8 校
米国テキサス州の保管庫から高知コアセンターに予定され
に対して行った。
ていたすべてのサンプルが搬入され、2008 年 10 月 28 日に
・米国 2008 会計年度(2008 年 4 月から 9 月まで)及び、2009
会計年度(2008 年 10 月から 2009 年 3 月まで)における IODP
サンプルの再分配が完了した。
事業計画について IODP-MI と契約を締結し、「ちきゅう」
を利用した IODP 研究航海の実施、長期孔内計測、システ
ム開発、アウトリーチ(普及啓蒙)、高知コア研究所におけ
るコア管理等、全て事業計画どおりに実施した。
レガシーコア試料移管完了
- 99 -
1.3.4 外部資金による研究の推進
・平成 20 年度は 221 件の外部資金を獲得し、対前年度件数で
127%となった。獲得した課題は、研究開発に係る課題だけ
ではなく、人材育成、成果普及に係る課題においても引き
続き積極的な外部資金獲得の取り組みを実施しており、競
争的研究資金を初めその他の受託研究、民間助成金なども
積極的に応募し獲得した。
・文部科学省決定「研究機関における公的研究費の管理・監
査ガイドライン(実施基準)」に対応した機構内の各種体制
等の整備結果を受け、競争的資金等における研究資金の管
理等に関する規程・研究活動行動規準をはじめとする各種
規程類及び不正防止計画の着実な実施を図るとともに、各
種相談窓口・機構内外に向けたホームページの更なる充実
など、ガイドラインが求める研究資金の不正使用の防止に
向けた現実的で実効性のある制度を維持・運営した。
・競争的資金に措置されている間接経費は、関係規程及び各
獲得研究センター等が作成する使途計画に基づき配分し計
画的に執行した。これは、競争的資金の獲得が自らの研究
環境の充実などに資することとなるため、各研究者、研究
センターがより積極的な競争的資金の獲得努力を講ずると
いうインセンティブの付与に貢献し、科学研究費補助金を
はじめとする競争的資金において多数件の獲得に資してい
る。
・さらに、競争的資金等の不合理な重複、過度な集中の排除
等のために文部科学省に設置された「府省共通研究開発管
理システム(e-Rad)」の運用に対応した機構内体制の整備
を終え、競争的資金等への応募業務のより円滑な手続を推
進する「競争的資金等の外部資金の応募に関する業務マ
ニュアル」の制定とその実施により、e-Rad システムへの
対応とともに、応募課題における研究者等のエフォートの
確認、応募課題の運営費交付金事業との整合について機構
の中期目標・中期計画上での確認を実施できる体制を維持
している。
- 100 -
2.
研究開発成果の普及および成果活用の促進
2.2 普及広報活動
2.1 研究開発成果の情報発信
・広報用として、JAMSTEC 要覧や機構所有の各調査船・調
査機器のパンフレット等を更新するとともに、子供向けパ
・研究開発の成果として、以下の発表を行った(各センター
合計数)。
査読付論文
・ホームページにより研究成果等の情報発信を行った。ホー
英文:708
709
和文:62 (平成 19 年度 英文:
和文:52
その他誌上
英文:81
発表
112
学会発表
ンフレットを制作し、配布した。
万件であった。
その他:1)
和文:139 (平成 19 年度 英文:
際:812
・各拠点の開館日(施設一般公開を除く)の見学者について、
横須賀本部の団体見学は 5,235 名、個人見学は 324 名であっ
和文:168)
国際:661
ムページは週 1 回以上更新し、年間アクセス数は約 1,046
国内:947 (平成 19 年度 国
た。横浜研究所では、団体見学は 5,203 名、個人見学は 3,788
名、公開セミナー開催の聴講者は 729 名、小学生向けの「夏
国内:1092)
・シンポジウム、研究成果発表会等を計 179 件開催した。
休み科学実験教室」の参加者は 49 名であった。本年度より、
・平成 20 年度は国内外で合計 14 件の受賞等があった。
横浜研究所では、第三土曜日を休日開館日として地球情報
・研究交流情報誌として「INNOVATION NEWS」を年間 3 号
館の開放およびセミナー等を実施している。また、国際海
洋環境情報センター(GODAC)では 13,149 名の見学があっ
発行した。
・平成 20 年度研究報告会「JAMSTEC2009」を開催し、280
た。なお、初島の海洋資料館を通年開館(火曜定休)した。
・科学技術週間の関連事業として、横須賀本部(平成 20 年 5
名の来場者があった。
・産学官連携推進会議等、国内の産学官連携イベントの共催
月 10 日:3,105 名来場)の施設一般公開を行った。また、
等を行うとともに、イベントへの出展を通じ、機構の研究
横浜研究所(平成 20 年 9 月 20 日:1,731 名来場)、むつ研
成果を発信した。
究所(平成 20 年 8 月 10 日:951 名来場)、高知コア研究所
・室戸沖及び釧路・十勝沖の海底地震総合観測システムで観
(平成 20 年 11 月 2 日:898 名来場)、GODAC(平成 20 年
測を継続し、地震計及び津波計のデータを気象庁等に配信
度 11 月 24 日:482 名)においても施設一般公開を行った。
した。
なお、GODAC 施設一般公開は平成 20 年度が初の開催であ
・研究成果を発信する学術機関リポジトリのシステムを構築
するとともに、年報及び査読付き論文誌「JAMSTEC-R」2
巻を刊行した。
る。
・船舶の一般公開として、深海調査研究船「かいれい」と無
人 探 査 機 「 か い こ う 7000 Ⅱ 」 の 公 開 を 「 OCEANS'08
MTS/IEEE KOBE-TECHNO-OCEAN '08(OTO'08)」への協
力として、神戸港(平成 20 年 4 月 12 日:2,344 名)にて行っ
た。また、深海潜水調査船支援母船「よこすか」と有人潜
水調査船「しんかい 6500」の公開を大洗港(平成 20 年 4
月 12 日:1,879 名)にて行った。海洋調査船「なつしま」
と 3000m 級無人探査機「ハイパードルフィン」の公開を直
江津港(平成 20 年 5 月 11 日:1,532 名)にて実施し、公開
に先立ち入港記念講演会(平成 20 年 5 月 10 日:約 200 名)
「よこすか」と「しんかい 6500」の公開を大
を開催した。
湊港(平成 20 年 6 月 15 日:2,251 名)にて実施し、公開に
先立ち記念講演会(平成 20 年 6 月 14 日:156 名)を開催
した。「海フェスタいわて」への協力として、「かいれい」
と「かいこう 7000Ⅱ」の公開を大船渡港(平成 20 年 7 月
20 日:4,702 名)にて実施し、公開に先駆け特別講座(平
- 101 -
成 20 年 7 月 17 日:約 100 名)を行った。また、
「なつしま」
年 1 月 31 日、総応募数:24,280 点、うち絵画部門 19,765
と「ハイパードルフィン」の公開を尾鷲港(平成 20 年 9
点、CG 部門 168 点、今年度新設したアイディア部門 4,347
月 13 日:1,475 名)にて実施し、公開に先立ち記念講演会
点)。また、第 10 回同コンテストに入賞した児童及び保護
(平成 20 年 9 月 12 日:800 名)を行った。海洋地球研究
者を対象に、海洋調査船「なつしま」の体験乗船を平成 20
船「みらい」の公開を小名浜港(平成 20 年 11 月 9 日:2,742
年 7 月 31 日~8 月 2 日に鹿児島湾にて実施し、海洋調査の
名)にて実施し、併せて記念講演(平成 20 年 11 月 9 日:
現場や船上生活を体験してもらった。
118 名)を開催した。および地球深部探査船「ちきゅう」
の公開を神戸港(平成 21 年 2 月 15 日:9,312 名)にて行い、
2.3 研究開発成果の権利化および適切な管理
公開に先立ち記念講演会(平成 21 年 2 月 14 日:254 名)
を実施した。
・知的財産取得状況 (
・刊行物の発行については「JAMSTEC ニュースなつしま」
- 特許出願件数:30 件(35 件)、このうち外国出願は 9 件
を年 12 回刊行、一般向け海と地球の情報誌「Blue Earth」
を年 6 回発行した。また、情報発信のためメールマガジン
(15 件)
- 民間企業との共同研究等の成果としての共同特許出願:8
を年 28 回発行した。
件(11 件)。
・JAMSTEC BOOK 第 3 弾として、海洋を調査する船舶や海
の生物について子供が遊びながら学べる本「つくって・あ
そんで・学ぶ
)内は平成 19 年度。
- 特許登録件数:15 件(20 件)
- 権利放棄:4 件(3 件)。保有特許の維持要否を職務発明
等審査委員会にて 3 年おきに審議。
海と地球のペーパークラフト」を製作した。
・全国の主要都市を巡回する広報課主催の一般向けセミナー
として、「海と地球の研究所セミナー」を 2 回開催した。1
回目は大阪科学技術センターにて「深海の熱水と生物たち」
(平成 20 年 9 月 6 日:345 名)を、2 回目は北九州市立い
・平成 20 年度末知的財産権の保有数:特許数 75 件、商標 10
件、プログラム著作権 11 件、発明相談 38 件
・報償金等について研究者に分かりやすい運用方法に見直し
を実施した。
のちのたび博物館にて「深海の驚異」
(平成 21 年 3 月 1 日:
・機構内公募により実用化を支援する「実用化展開促進プロ
101 名)を開催した。また、科学者・技術者と参加者が一
グラム」を平成 19 年度に引き続き実施した。また、平成
緒に語り合うサイエンスカフェ(平成 20 年 4 月 9 日~4 月
20 年 4 月に製品化に成功した装置(高精度マイクロミルシ
11 日:18 テーマ、計約 360 名)を OTO'08 にて開催した。
ステム「Geomill326」)については、展示会などを通じ、販
・科学館等への展示協力としては、文部科学省情報ひろばに
売促進を実施した。
おける特別展示「深海に挑む!」
(期間:平成 20 年 6 月 30
・JAMSTEC ベンチャー1 号である海流予測情報利用有限責任
日~10 月 3 日)、佐賀県立宇宙科学館における企画展「DEEP
事業組合については、継続して優遇措置等を実施した。
SEA-極限のフロンティア-」
(期間:平成 20 年 10 月 4 日
・新規分離株 700 株、深海底泥 26 種が得られ、平成 20 年度
~11 月 24 日)、大阪市立自然史博物館における特別展「地
終了時点で深海微生物株 7500 株、深海微生物分離源として、
震展」(平成 20 年 10 月 25 日~12 月 7 日)、日本郵船歴史
底泥、生物種 469 種を液体窒素保存し、中期目標(4000 株
博物館における企画展「海運・航空と環境問題」
(期間:平
以上)をはるかに上回るバイオリソースの保存管理を実施
成 21 年 1 月 10 日~平成 21 年 4 月 9 日)などを行った。そ
した。これらの菌株は、共同研究契約に基づき企業に提供
の他、大阪科学技術館、つくばエキスポセンターなどで通
している。
年展示を行った。なお、科学館・水族館等との連携強化を
目的として、近隣の科学館・水族館等の職員に参加を呼び
かけ「KO-OHO-O 航海」を実施した(平成 20 年 9 月 25 日
~10 月 1 日)
。本航海を活用した展示物を科学館・水族館
等と協力して製作し、巡回展を実施する予定である。
・第 11 回全国児童「ハガキにかこう海洋の夢絵画コンテス
ト」を実施した(募集期間:平成 20 年 12 月 1 日~平成 21
- 102 -
3.
学術研究に関する船舶の運航等の協力
平成 20 年度の航跡図を図 2、運航実績を表 2 に示す。
( 1 )学術研究船の運航実績について
学術研究船の運航計画は、全国の研究者のための共同利用
機関である東京大学海洋研究所の研究船共同利用運営委員会
が研究課題を公募、運航計画案を策定し、その後、機構理事
会の承認により決定する。研究船運航部は、この運航計画に
基づき、東京大学海洋研究所と密接な連携のもと、機構によ
る自主運航船として、学術研究船 2 隻の運航を行っている。
学術研究船「淡青丸」(以下、「淡青丸」という)
「淡青丸」は日本周辺海域において 32 行動を実施した。
その他、年次検査後の試験・訓練航海を 4 日実施し、268 日
(当初計画 269 日)の航海を実施した。平成 20 年度の航跡図
を図 1、運航実績を表 1 に示す。
図 2. 「白鳳丸」航跡図
( 2 )船舶の安全・保安の確保について
気象情報、寄港地の保安情報、法律改正の情報を入手し、
これを学術研究船へ送付して安全と保安の確保に努めた。
「淡青丸」において落水事故が発生したが、落水者は幸いなこ
とに大きな怪我もなく収容することができた。事故後直ちに、
事故の経緯や原因を詳細に調査・検討し、安全対策を実施し
た。また、他船に対しても必要と考えられる措置を講じた。
( 3 )適切な運航体制(船員支援)について
運航計画に沿い船員の配乗を適切に行った。また、平成 17
年度に実施した「危険予知訓練」の研修を基に、学術研究船
に適合した危険予知活動として発展させ、普及と定着化を
行った。
図 1. 「淡青丸」航跡図
( 4 )船舶及び観測設備・機器の保守整備と運用について
学術研究船「白鳳丸」(以下、「白鳳丸」という)
「白鳳丸」「淡青丸」共に船体の老朽化に対して、年次検
「白鳳丸」については、東京大学海洋研究所と連携し、関
査工事期間中に集中的に修繕を行ってきた。船体付き観測機
係者の理解を得て、世界的な燃料価格の高騰に伴う運航計画
器を始めとする研究室関係の改善は、東京大学海洋研究所企
(当初計画 280 日)の変更を行い、日本周辺海域の他、フィ
画室と協議し、船舶部会にて承認を得てできる限りの改善を
リピン海、マリアナ海嶺、北部北太平洋で 3 行動、161 日の
講じた。また、船舶の基本的作動確認、調査観測装置の性能
航海を実施した。また、今年度実施不可能となった課題の一
確認を主として性能確認試験を実施した。
部(南アフリカ沖での海底電位差磁力計の回収)については、
東京海洋大学の協力を得て、練習船「海鷹丸」にて実施した。
- 103 -
「淡青丸」
27 日の 2 日間、東京湾において「白鳳丸」船上で海洋科学教
「淡青丸」については、老朽化、経年劣化した No1 ウイン
室を実施した。
チワイヤー、No2 ウインチケーブルを取替え、共に 7000mの
線長を確保した。研究者要望を受け、研究室内スカッパー増
設、右舷サイド向きへの低速電動ホイストの換装を実施した。
( 7 )さらに利用しやすい研究船の実現に向けての対策
乗船研究者の要望を的確に把握するため、乗船研究者から
また陸上との連絡手段として必要不可欠となっているメール
の意見を東京大学海洋研究所が意見を取りまとめ、研究船運
システムを他船と同じメーカーとする事により、メンテナン
航部担当者との連絡を密にすることで、本船への対応、ドッ
スの効率化を図った。また従来のメール容量制限が 100KB に
ク工事への対応を積極的に行った。また、ドックまでの検討
対し 1MB まで対応可能とした。
事項の流れを作成した。
「白鳳丸」
「白鳳丸」については、第 1 研究室をはじめとする研究室
改造、超純水製造装置の設置、SeaBeam などに使用可能なモー
ションセンサー換装、採水器室のニスキンボトル取り付け架
台改造、ディープフリーザーの常設等をドック工事中に行っ
た。また長期係船中となった期間には、2004 年に設置以来、
整備されていなかった船上重力計のオーバーホール及びジャ
イロパックとデータ収録システム Ultrasys PC(DOS から
Windows へ)の換装を米国メーカーにて実施し、運用につい
て実機を用いたトレーニングを受けた。観測機器のデータ収
録の中心となる光データリンクシステムの各ノードを換装す
るとともに船内 LAN、データロギングシステムを整理した。
( 5 )観測支援業務の実施について
「白鳳丸」
毎航海 1 名程度の観測技術員を配置し CTD オペレーション、
海底構造探査等の観測支援をのべ 240 人日程度行った。
「淡青丸」
航海内容により 1~2 名程度の観測技術員を配置し、CTD
オペレーションを中心とした総合的な研究支援をのべ 550 人
日程度行った。
( 6 )東京大学海洋研究所との連携・協力について
東京大学海洋研究所との連携を図るため、学術研究船運航
連絡会を 4 回開催し、運航上の問題点について調整を行った。
現在機構が実施している研究船利用公募と東京大学海洋研
究所が実施している研究船全国共同利用研究公募を将来的に
一元化することが求められており、そのため、東京大学海洋
研と公募業務の一元化に関する検討会を 4 回行った。
東京大学海洋研究所が主催し、一般公募により決定した中
学生、高校生及び理科教員を対象に平成 21 年 3 月 26 日及び
- 104 -
表 1. 平成 20 年度
学術研究船「淡青丸」
運航実績
J台:東京港台場官庁船専用桟橋
H21.3.31
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
29
火
30
水
31
金
土
4
KT-08-5 相模湾
KT-08-7 房総沖
KT-08-6 相模湾
J台
J台
J台
J台
J台
J台
J台
月
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
5
KT-08-7 房総沖
荒
天
避
泊
火
月
日
月
KT-08-8 遠州灘(黒潮)
J台
水
木
金
KT-08-9 鹿児島湾
J台
土
日
月
火
鹿児島
水
木
金
土
日
月
火
KT-08-10 東シナ海
鹿児島
水
木
金
土
日
月
長崎
火
水
木
金
土
日
月
6
KT-08-11 対馬海峡
KT-08-12 隠岐
KT-08-13 東京湾・黒潮域
小倉
小倉
KT-08-14 相模湾
J台
清水
J台
月
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
29
火
30
水
31
木
7
KT-08-14 相模湾
KT-08-16 相模湾
KT-08-15 相模湾
J台
J台
J台
J台
KT-08-17 三陸沖
J台
J台
KT-08-18
J台
J台
月
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
8
KT-08-19 東シナ海
熊野灘・南海トラフ・高知沖
KT-08-21
KT-08-20 隠岐
鹿児島
小倉
小倉
月
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
29
水
30
木
9
鹿児島沖
KT-08-22 鹿児島湾
鹿児島
KT-08-23 高知沖
KT-08-24 相模湾
鹿児島
鹿児島
久里浜
清水
J台
月
1
水
2
木
3
金
4
土
5
日
6
月
7
火
8
水
9
木
10
金
11
土
12
日
13
月
14
火
15
水
16
木
17
金
18
土
19
日
20
月
21
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28
火
31
金
10
KT-08-25 三陸沖
KT-08-26 宮城沖
J台
KT-08-27 三陸沖
KT-08-28
塩釜
塩釜
八戸
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
土
日
月
火
水
11
KT-08-29 相模湾
三陸沖
晴海
↓
台場シフト
月
月
火
水
木
J台
金
土
KT-08-30 熊野灘
J台
日
月
火
水
KT-08-31 東シナ海
J台
木
金
土
志布志
鹿児島
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
12
KT-08-32 南西諸島
KT-08-33 沖縄
KT-08-34 東シナ海
那覇
那覇
鹿児島
那覇
ドック(長期停泊)
回航
月
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
7
水
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
13
火
14
水
15
木
16
金
17
土
18
日
19
月
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
25
日
26
月
1
27
火
28
水
29
木
30
金
31
土
「淡青丸」 年次検査工事
ドック(長期停泊)
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
2
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
火
水
木
金
土
日
月
火
水
【着工】
木
金
土
「淡青丸」 年次検査工事
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
3
性能確認試験航海
KT-09-1 別府湾
別府
KT-09-2 小笠原
J台
高知
月
【完工】
- 105 -
木
金
土
日
月
火
表 2. 平成 20 年度
学術研究船「白鳳丸」
運航実績
J晴:東京港晴海専用桟橋
H21.3.31
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
4
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
木
金
土
25
金
26
土
27
日
28
月
29
火
30
水
31
日
月
火
水
木
金
土
「白鳳丸」 年次検査工事
回航
J晴
月
木
5
金
土
日
月
火
水
木
金
「白鳳丸」 年次検査工事
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
性能確認試験航海
KH-08-1 Leg.1 マリアナ・フィリピン海 J晴
J晴
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
6
KH-08-1 Leg.2 マリアナ・フィリピン海 KH-08-1 Leg.1 マリアナ・フィリピン海 那覇
月
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
29
火
30
水
31
木
7
KH-08-2 Leg.1 北部北太平洋・西部北太平洋
KH-08-1 Leg.2 マリアナ・フィリピン海 J晴
J晴
月
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
8
KH-08-2 Leg.1 北部北太平洋・西部北太平洋
KH-08-2 Leg.2 北部北太平洋・西部北太平洋
釧路
月
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
9
KH-08-2 Leg.2 北部北太平洋・西部北太平洋
KH-08-3 Leg.1 日本南方・東方海域
J晴
J晴
月
1
水
2
木
3
金
4
土
5
日
6
月
7
火
8
水
9
木
10
金
11
土
12
日
13
月
14
火
15
水
16
木
17
金
18
土
19
日
20
月
21
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28
火
29
水
30
木
31
金
10
KH-08-3 Leg.2 日本南方・東方海域
KH-08-3 Leg.1 日本南方・東方海域
釜石
塩釜
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
11
KH-08-3 Leg.2 日本南方・東方海域
J晴
月
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
7
水
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
13
火
14
水
15
木
16
金
17
土
18
日
19
月
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
25
日
26
月
27
火
28
水
29
木
30
金
31
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
12
月
1
月
2
月
3
晴海 晴海 晴海
海
洋
科
学
教
室
月
- 106 -
4.
科学技術に関する研究開発または学術研究を行う者への
での審査及び調整により、平成 20 年度の燃料高騰にともない
施設・設備の供用
実施できなかった再応募課題を含み 91 課題(うち、
「みらい」
4.1 研究船・深海調査システム等の試験研究施設・設備の供
は 34 課題)を採択した。
用
排他的経済水域(EEZ)申請
平成 20 年度については、7 月をピークに原油価格の高騰に
海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)第 13 部
より、年度当初に決定した運航計画を年度の半ばに大幅に変
の規定に基づき、調査海域沿岸国の排他的経済水域(EEZ)
更する必要があった。変更にあたっては公募を運営する委員
内での調査のための所要の手続きについて、平成 20 年度対象
会と連絡を取りつつ、変更される航海の代表者等の了解を得
航海 17 行動、対象国のべ 33 カ国に対して、外務省に対する
て行った。年度後半になって価格の下落傾向が確認されたの
調査航海便宜供与依頼の手続きを行った。運航計画の変更に
ちは、中止となった航海のうち、可能な課題については年度
伴い、4 行動、対象国のべ 6 カ国の申請の取り下げを行い、
内に再実施した。また、燃料費等経費を外部負担で賄う受託
次年度に延期する等の対応を行った。
航海を複数実施し、研究船の有効利用を行った。
海洋研究について一般の理解を深めるため、5 月 10 日の横
須賀本部施設一般公開においては「かいよう」による体験乗
( 2 )船舶・深海調査システムの運用
海洋調査船「なつしま」(以下、「なつしま」という)
船を実施したほか、寄港地においては船舶の一般公開を、4
「なつしま」は、研究船利用公募により採択された課題及
月 12 日(大洗、神戸)、5 月 11 日(直江津)、6 月 15 日(大
び所内利用により「ハイパードルフィン」等を用いて伊豆小
湊)、7 月 20 日(大船渡)、7 月 26 日、27 日(名護)、9 月 1
笠原、豊橋沖、上越海盆、相模湾、野間岬沖・錦江湾、南西
日(高知)、9 月 13 日(尾鷲)に実施した。また、第 10 回全
諸島海域、遠州灘、マリアナにて調査潜航を実施し、総計 270
国児童「ハガキに書こう海洋の夢絵画コンテスト」に入選し
日(当初計画 274 日)の航海を行い、「ハイパードルフィン」
た子供達に、海洋調査の現場や船上生活を経験してもらうた
は 103 日、総潜航回数 148 回であった。平成 20 年度の航跡図
め、
「なつしま」及び「ハイパードルフィン」を用い、鹿児島
を図 1、運航実績を表 1 に示す。
湾において体験乗船を行った。
(1)年次研究実施計画の策定
研究船利用公募
従来の「みらい研究公募」と「深海調査研究公募」を統合
し、新たに「研究船利用公募」を開始した。
「研究船利用公募」
は、平成 20 年 3 月に作成した「海と地球の研究 5 ヶ年指針」
を研究計画とし、新たに設置された「海洋研究推進委員会」
(委員長:小池
勲夫
琉球大学監事)により運営された。
「研究船利用公募」では、「みらい」(主要課題 4 課題を提示
、「よこすか」、「か
し、相乗りする課題を募集)、「なつしま」
いれい」及び「しんかい 6500」、
「かいこう 7000」等深海調査
システムを対象とし、125 課題(うち「みらい」は 38 課題)
の応募があった。応募課題は「海洋研究推進委員会」の下に
設置した専門部会「海洋研究課題審査部会」
(部会長:小川
二郎
勇
筑波大学教授)で審査・ランク付けをし、その結果を
基に同じく専門部会「海洋研究計画調整部会」
(部会長:門馬
大和
JAMSTEC 海洋工学センター長補佐)で、具体的な運
航計画案を作成した。作成した案を「海洋研究推進委員会」
- 107 -
図 1. 「なつしま」航跡図
海洋調査船「かいよう」(以下、「かいよう」という)
「かいよう」は、高精度地殻構造探査をはじめとする
MCS/OBS のほか、深海曳航調査システム「ディープ・トウ」、
ピストンコア等の調査を南海トラフ、伊豆小笠原、駿河湾、
相模湾、にて実施した。また、インド洋・西部熱帯太平洋に
設置しているトライトンブイの設置回収のため航海を実施し、
総計 227 日(当初計画 226 日)の航海を行った。平成 20 年度
の航跡図を図 2、運航実績を表 2 に示す。
図 3. 「よこすか」航跡図
深海調査研究船「かいれい」(以下、「かいれい」という)
「かいれい」は、研究船利用公募により採択された課題及
び所内利用により「かいこう 7000」を用いてマリアナ海嶺、
フィリピン海、日本海溝、南海トラフにて調査潜航を実施し
たほか、高精度地殻構造探査をはじめとする「単独調査」を
日本海、伊豆小笠原、南海・東南海、日向灘海域にて行動を
実施した。その他、年次検査に関わる性能確認試験航海にて
高精度化のためシステムを更新した MCS の作動確認及び「か
いこう 7000」試験・訓練行動を実施した。原油価格の高騰に
より、一部所内利用航海を中止したが、他機関・企業からの
図 2. 「かいよう」航跡図
委託調査を受けており、総計 258 日(当初計画 256 日)の航
深海調査潜水船支援母船「よこすか」(以下、「よこすか」
海および「かいこう 7000Ⅱ」33 回の潜航を実施した。平成
という)
20 年度の航跡図を図 4、運航実績を表 4 に示す。
「よこすか」は、研究船利用公募により採択された課題及
び所内利用により「しんかい 6500」を用いて日本海溝、伊豆
小笠原、マリアナトラフ及びアラビア海にて調査潜航を実施
した。その他、年次検査に関わる性能確認試験航海、
「しんか
い 6500」試験・訓練行動、「うらしま」等技術開発行動を実
施、総計 240 日(当初計画 275 日)の航海を行い、
「しんかい
6500」は総潜航回数 68 回、「うらしま」は総潜航回数 5 回で
あった。平成 20 年度の航跡図を図 3、運航実績を表 3 に示す。
原油価格の高騰により、「しんかい 6500」試験・訓練潜航
を 21 年度へ延期するとともに、「うらしま」試験及び公募課
題の一部を中止した。
図 4. 「かいれい」航跡図
- 108 -
洋地球研究船「みらい」(以下、「みらい」という)
「みらい」は「熱帯域における大気海洋相互作用に係わる
観測研究」及び「熱帯域における大気・海洋観測研究」とし
て西部熱帯太平洋、「国際極年北極観測」として北極海にて、
「北太平洋における生態系・物質循環研究」として北西太平
洋にて、
「南太平洋及び沈み込み帯における地質学・地球物理
的研究/チリ沖における古海洋環境変動復元研究」として、
フレンチポリネシア及びチリ沖で行動を実施した。その他、
年次検査に関わる性能確認試験航海を実施し総計 261 日(当
初計画 282 日)の航海を行った。
「みらい」については、原油
価格の高騰等により、当初年度内にチリから日本に帰ってく
る予定であったところ、航海の開始時期を遅らせ、チリから
直接、21 年度に実施予定の南太平洋横断観測を実施すること
により燃料の節約を行った。平成 20 年度の航跡図を図 5、運
航実績を表 5 に示す。
図 5. 「みらい」航跡図
- 109 -
表 1. 平成 20 年度「なつしま」運航実績
J横 :横須賀本部
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
潜
潜
潜
荒
荒
荒
①
②
③
天
天
天
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
潜
潜
潜
潜
④
⑤
⑥
⑦
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
H21.3.31
29 30 31
火 水
4
NT08-07 「HPD」 伊豆小笠原海域
J横
月
J横
#812 #814 #816
#813 #815 #817
木
金
土
日
月
火
避
避
避
泊
泊
泊
水
木
金
NT08-08 「HPD」 遠州灘 豊橋沖
J横
P
P
整備
清水
#818 #820 #822 #824
日
月
火
水
潜
潜
潜
況
①
②
③
不
#819 #821 #823
土
金
土
日
J横
回航
木
金
#825 #826 #827
良
木
J横
海
#828
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
土
5
NT08-09 「HPD」 上越海盆及び後志トラフ
回航 回航 SCS SCS
月
P
潜
潜
潜
潜
潜
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
直江津 P
潜
一
#829 #830 #831 #833 #835 #837
般
公
開
#838
水
木
NT08-10 「HPD」 相模湾
回航
SCS SCS
⑦
回航
潜
潜
潜
潜
荒
荒
荒
⑧
⑨
⑩
⑪
天
天
天
#839 #840
#841 #843
#832 #834 #836
日
月
火
水
木
金
土
日
#842
月
火
金
土
日
月
火
水
避
避
J横
J横
F,F
避
泊
泊
泊
木
金
土
整備
潜
①
#844
#845
日
月
火
水
木
金
土
日
月
6
NT08-11 「HPD」 鳩間海丘
J横
月
回航 回航 回航 回航
整備
回航
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
②
①
②
③
④
⑤
⑥
#846
横浜港シフト
#848 #849 #850 #851
#847
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
7
P
⑤
P
石垣
潜
⑥
#863 #864
土
潜
①
②
潜
潜
潜
③
④
⑤
P
石垣
#867
日
月
火
水
木
土
日
月
18
金
20
日
21
月
火
22
火
23
水
整備
潜
潜
潜
①
②
③
24
木
P
回航
潜
潜
①
②
#861
#857 #859
25
金
26
土
27
日
#862
28
月
29
火
30
水
31
木
NT08-16
「HPD」 錦江湾
NT08-15 「HPD」
南西諸島海域
那覇
潜
④
#856 #858 #860
泊
19
土
P
台
P
P
鹿児島
荒
潜
①
風
天
①
#874
避
#875 #877
避
#879
泊
#876 #878
泊
#870 #872
金
17
木
回航
台
風
避
#855
16
水
回航
潜
#866 #868 #869 #871 #873
#865
金
P
潜
P
那覇
NT08-14 「HPD」
南西諸島海域
NT08-13 「HPD」 南西諸島海域
回航
潜
P
#853 #854
#852
1
火
月
NT08-12 「HPD」 南西諸島海域
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
8
NT08-17 「HPD」 鹿児島周辺海域
P
月
潜
潜
②
③
P
鹿児島
#880 #881
回航
潜
潜
潜
潜
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
#884 #886
月
火
水
木
回航 整備
潜
#882 #883 #885
金
土
日
月
NT08-18 「HPD」 五島海底谷
F,F
⑦
#887 #889 #890
#892
#888
#893
#891
火
水
木
P
P
P
鹿児島
潜
金
土
日
潜
潜
海
①
②
況
#894 #895
NT08-19
横浜港
回航
J横
回航
博多
P
高知
不
良
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
9
NT08-19 「HPD」 南海トラフ
P
高知
特
別
公
開
月
1
水
整備
回航
P
回航
P
P
回航
回航
潜
潜
潜
潜
潜
海
尾鷲
潜
潜
台
台
台
潜
潜
潜
②
③
④
⑤
況
一
一
般
般
公
公
開
開
①
②
風
風
風
①
②
③
避
避
避
泊
泊
泊
18
土
19
日
20
月
21
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28
火
29
水
30
木
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
#896 #898 #899 #900
3
金
P
NT08-21 「HPD」
横浜港
①
#901
不
#897
2
木
NT08-20 「HPD」 熊野灘
4
土
#902 #903
良
5
日
6
月
7
火
8
水
9
木
10
金
11
土
12
日
13
月
14
火
15
水
16
木
17
金
#904 #905 #906
#907
31
金
10
「なつしま」年次検査 (36日間)
J横
J横
陸揚
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
11
木
金
土
日
月
火
水
NT08-23 「HPD」 試験・訓練および調査航海
NT08-22
性能確認試験航海
Leg-1 試験・訓練
J横
J横
P 清水 P
整備
搭載
月
Leg-2 調査潜航
J横
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
荒
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
天
⑧
#915
#908 #909 #910
#911 #912 #913
#914
避
木
金
土
日
月
火
水
25
日
26
月
27
火
28
水
29
木
30
金
31
土
予備
P
泊
月
火
水
木
金
潜
潜
①
②
土
日
月
火
水
木
潜
潜
⑥
⑦
金
土
F,F
J横
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
水
12
NT08-24 「HPD」 相模湾
J横
月
③
#916 #918 #919
#917
1
木
2
金
3
土
NT08-25 「HPD」 相模湾
整備
潜
4
日
潜
潜
④
⑤
6
火
7
水
J横
#921 #922 #923 #925
#927 #929 #931 #933 #935 #937 #939
#924 #926
#928 #930 #932 #934 #936 #938 #940
#920
5
月
J横
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
13
火
14
水
15
木
16
金
17
土
P
F,F
18
日
19
月
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
1
NT09-01
NT09-01 「HPD」 マリアナ前弧域
J横 回航 回航 回航 回航
P
サイパン
外変
月
海
海
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
況
況
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
不
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
不
良
良
火
水
木
グアム
#941 #942 #944 #945 #946 #947 #948
#943
金
土
日
月
火
水
木
金
土
水
木
金
土
2
(LEG-1) NT09-02 「HPD」 伊豆小笠原・マリアナ海域 (LEG-2)
グアム P
月
潜
海
海
潜
潜
①
況
況
②
③
#949
日
月
不
不
#950 #951
良
良
#952
火
水
木
金
P
P
サイパン
回航 回航
回航 回航 回航 回航 J横
潜
潜
海
海
潜
潜
潜
潜
潜
陸揚
①
②
況
況
③
④
⑤
⑥
⑦
内変
#953 #954
土
日
月
火
水
木
不
不
良
良
金
土
#955 #956 #957 #958 #959
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
3
NT09-03 沖ノ鳥島
J横
NT09-04 「MRX-1」 相模湾・駿河湾
J横
月
- 110 -
J横
J横
日
月
火
表 2. 平成 20 年度「かいよう」運航実績
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
4
6
7
8
日 月 火
KY08-03
9
水
10
木
月
5
12
土
13
日
14
月
15
火
J横 :横須賀本部
17 18 19 20
木 金 土 日
16
水
21
月
J関 :関根浜
22 23 24
火 水 木
KY08-03
6KDT/PC 南海トラフ・熊野灘 横浜新港8号
木 金 土
KY08-03
11
金
日
月
火
荒
荒
荒
天
天
天
避
避
避
泊
泊
泊
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
25
金
J八 :八戸
26 27 28
土 日 月
H21.3.31
29
火
30
水
31
金
土
6KDT/PC 南海トラフ・熊野灘 P
P
新宮
荒
天
避
泊
土
日
月 火 水
KY08-04
木
金
土
日
月
火
水
木
OBS/MCS 伊豆・小笠原 J横
天
月
J横
一
般
公
開
荒
風
避
避
泊
日
月
研
究
者
乗
船
台
(広報)
火
水
木
金
土
日
月
火
泊
水
木
金
土
日
台
台
荒
荒
風
風
天
天
荒
天
避
避
避
避
避
泊
泊
泊
泊
泊
水
木
金
土
日
月
火
16 17 18
水 木 金
KY08-05
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
月
火
水
木
金
土
日
月
25 26 27 28
金 土 日 月
KY08-06 受託
29
火
30
水
6
「かいよう」年次検査 J横
月
1
火
2
水
台
荒
風
天
避
避
泊
泊
3
木
4
金
5
土
P
由良
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
7
横須賀新港2号
性能確認試験航海
31
木
SCS/OBS設置 南海トラフ・紀伊半島沖 J横
J横
横須賀新港
月
金
土
日
月
火
8
水 木 金
KY08-07
土
機構業務 横浜山下一号
日
月
火
水
木
金 土 日
KY08-08
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
荒
荒
天
天
避
避
泊
木
金
土
日
月
火
水
木
泊
月
火
水
金
土
J横
木
金
土
日
日
横須賀新港
J横
月
火
水
木
金
土
日
月
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28
火
29
水
30
木
KY08-09
KEOブイ/CTD/ゾンデ 日本南方黒潮再循環域 J横
J横
月
1
水
2
木
3
金
4
土
5
日
6
月
7
火
10
千葉
8
水
9
木
千葉
荒
荒
台
台
天
天
風
風
避
避
避
避
泊
泊
泊
泊
10
金
11
土
19
日
20
月
12
日
13
月
14
火
15
水
16
木
17
金
18
土
KY08-11 受託
OBS回収 南海トラフ・紀伊半島沖 J横
J横
J横
21
火
31
金
KY08-E02 駿河湾・遠州灘
OBS設置回収
横須賀新港
J横
J横
J横
J横
台
風
月
水
回航
月
月
火
OBS回収 伊豆・小笠原 横須賀新港
9
月
横浜山下一号
避
泊
土
日
月
火
水
木
金
土
11
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
KY08-E03 伊豆・小笠原
山下一号
J横
J横
月
荒
荒
荒
荒
荒
荒
天
天
天
天
天
天
避
月
火
水
木
金
土
日
月
火
12
避
避
避
避
泊
泊
泊
泊
泊
水
木
金
土
日
避
泊
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
25
日
26
月
27
火
28
水
29
木
30
金
31
土
日
月
火
KY08-E04 伊豆小笠原・駿河湾
山下一号
J横
荒
天
月
避
泊
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
7
水
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
13
火
14
水
15
木
16
金
1
山下一号
17 18 19
土 日 月
KY09-E01
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
足摺岬沖日向灘
J横
OBS回収
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
2
山下一号
回航 回航 回航
外変
土 日 月 火
KY09-01 Leg1
水
トライトンブイ インド洋 回航 P
P
荒
グア ム
木
金
土
日
月 火 水 木
KY09-01 Leg1
金
土
トライトンブイ インド洋 回航
回航 回航
回航 回航 回航
天
月
避
泊
日
3
月
火 水 木 金
KY09-01 Leg1
土
日
月
トライトンブイ インド洋 回航 回航 回航 回航
P
火
P
水
木
金
土
日
月
火
回航 回航 回航 回航 回航
バリ
水 木 金 土
KY09-01 Leg2
日
トライトンブイ インド洋 回航 回航
月
火
水
木
金
土
回航 回航 回航 回航 回航
P
バリ
月
- 111 -
表 3. 平成 20 年度「よこすか」運航実績
J横 :横須賀本部
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
H21.3.31
29 30 31
火 水
4
YK08-04 「6K」 南海トラフ J横
横浜三菱重工
月
潜
潜
海
海
①
②
況
不
良
良
水
木
#106 1 #1062
木
金
土
YK08-04
回航
搭載
日
月
火
潜
荒
況
③
天
不
#1 063
P 大洗 P
YK08-05 「6K」 伊豆小笠原
横浜みなとみらい
J横
回航 事前
一
般
公
開
避
海
況
不
泊
金
土
潜
潜
潜
潜
潜
①
②
③
④
⑤
回航
J横
木
金
#1 064 #1065 # 1066 #1067 #1068
良
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
土
5
YK08-06 「6K」 日本海溝
横須賀新港
作業
月
回航 作業
月
火
水
木
金
土
日
回航
回航
潜
潜
潜
台
台
潜
潜
潜
荒
荒
①
②
③
風
風
④
⑤
⑥
天
天
況
避
避
避
避
不
泊
泊
泊
泊
良
木
金
木
金
#1 069 #1070 # 1071
日
久里浜
月
火
水
#1072 #1073 #107 4
土
日
月
火
水
海
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
潜
潜
①
②
6
YK08-07
YK08-07 「6K」 日本海東縁
事前
月
P
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
海
潜
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
況
⑨
⑩
#1075 #1076 #1077 #107 8 #1079 #10 80 #1081 #1 082
不
P
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
# 1083 #1084
11
金
12
土
J横
J横
回航 回航 事前
外変
一
般
公
開
良
1
火
回航
大湊
13
日
#1085 #1086
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
27
日
28
月
29
火
30
水
31
木
7
Leg1 YK08-08 「6K」 マリアナトラフ Leg2
回航
月
潜
潜
潜
潜
③
④
⑤
⑥
P
P
#1087 #1088 #1089 #1090
金
土
日
月
横須賀新港
事前
グアム
回航 回航 回航 回航 回航
J横
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
陸揚
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
内変
J横
回航 回航
#1091 # 1092 #1093 # 1094 #1095 #1096 #1097
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
日
8
YK08-09 北西太平洋
回航 回航 回航 回航
J横
月
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
9
YK08-E05 東部インド洋赤道海域
J横
回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 作業 作業 回航 回航 回航 回航 回航
外変
①
P
P
ゴア
②
潜
①
月
#1098
1
水
2
木
3
金
4
土
5
日
6
月
7
火
8
水
9
木
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
10
金
11
土
12
日
13
月
14
火
15
水
16
木
潜
潜
潜
潜
⑩
⑪
⑫
⑬
17
金
18
土
19
日
20
月
21
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28
火
潜
潜
潜
潜
潜
潜
潜
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
29
水
30
木
31
金
潜
潜
潜
⑧
⑨
⑩
10
YK08-11 Leg-2 「6K」 アラビア海
YK08-11 Leg-1 「6K」 アラビア海
整備
月
#1099 #1100 #1101 #1102
土
日
月
火
整備
#1103 #1104 #1105 #110 6
水
木
金
土
日
整備 整備
#11 07 #1108 #11 09
月
火
水
木
P
P
ゴア
#1110
金
土
日
#1111 #1112 #111 3 #1114 #11 15 #1116 #1 117 #1118 # 1119 #1120
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
29
木
30
金
31
土
月
火
11
YK08-11 Leg-2 「6K」 アラビア海
P
月
潜
潜
⑪
⑫
回航
P
ムンバイ
火
P
P
回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航 回航
ゴア
潜
J横
陸揚
⑬
#1121 #1122
月
YK08-11(回航)
#1123
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
12
YK08-E06 「うらしま」 ベヨネーズ・伊是名海域(JOGMEC)
J横
岸壁試験 整備
潜
整備 回航
①
潜
作業
②
月
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
7
水
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
13
火
荒
P
天
横浜
着水
試験
荒
天
避
避
泊
泊
14
水
15
木
16
金
17
土
潜航 潜航
中止 中止
潜
潜
③
④
回航 回航
潜
⑤
潜航 潜航
回航 回航
J横
中止 中止
「しんかい6500」 年次検査工事 (95日間)
18
日
19
月
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
25
日
26
月
27
火
28
水
1
横浜新港5号
「よこすか」 年次検査工事 (58日間)
J横
「しんかい6500」 年次検査工事 (95日間)
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
回航
P
2
「よこすか」 年次検査工事
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
3
YK09-03 「6K」 試験航海
YK09-01性能確認試験航海
J横
月
J横
潜
潜
潜
潜
潜
②
③
④
⑤
①
#1124
- 112 -
回航 回航
搭載
#1 125 #1126 # 1127 #1128
那覇
表 4. 平成 20 年度「かいれい」運航実績
1
火
2
水
4
3
4
5
6
木 金 土 日
KR08-03 Leg1
7
月
F.F
J横
8
火
9 10 11 12
水 木 金 土
KR08-03 Leg2
7K 試験・訓練潜航
J横
月
搭載
潜
①
7k
#410
金
5
土 日 月
KR08-04
火
潜
況
②
木
金
土
日
P
P
晴海
所内・測線提案型公募
月
仮
泊
日
月
火
水
6
木 金 土
KR08-05
P
回航
15
火
16
水
17
木
潜
潜
③
④
J横
潜 陸揚
⑤ 7k
日
月
火
水
月
金
土
日
柏崎沖エアガン・MCS調査
回航 回航
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
7
SCS SCS 回航
J横
J横
潜
①
月
木
金
土
日
金
土 日 月
KR08-09
火
水
木
J横 :横須賀本部
23 24 25 26 27
水 木 金 土 日
KR08-04
28
月
H21.3.2
29 30 31
火 水
MCS 北部伊豆小笠原 所内・測線提案型公募
10 11 12
木 金 土
KR08-08
13
日
金
土
月
7K 三陸沖 整備 整備
潜 潜 潜 潜
潜
② ③ ④ ⑤
⑥
潜
⑦
火
水
水
木
金
土
日
14
月
15
火
金
金
土
木
金
土
相模湾・伊豆小笠原・
J横
土
日
月 火 水
KR08-07
7K
潜
①
潜
②
木
金
土
19
土
20
日
P
大船渡
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
日
月
SCS 伊豆・小笠原
P
P
小笠原
潜
潜
③ 整備 整備 ④
#417 #418 #419
18
金
26
土
#420
27
日
28 29 30
月 火 水
KR08-09
31
木
横須賀新港
日
J横
P
J横
陸揚
一
般
公
開
#426 #427
木
月 火 水
KR08-05
外変
#416
17
木
月
火
回航 回航 J横
火 水 木
KR08-06
16
水
日
月
7K 伊豆・小笠原 J横 回航
回航 P
P
小笠原
潜
①
#421 #422 #423 #424 #425
8
22
火
ABISMO
7k
3
木
21
月
柏
崎
下
船
柏
崎
乗
下
船
月
2
水
20
日
#413 #414 #415
火 水 木
KR08-E01
回航 回航 回航 回航 J横
内変
搭載
P
グアム
1
火
19
土
横浜新港5号
マリアナ P
18
金
良 #412
水
MCS 北部伊豆小笠原 仮
泊
14
月
一
般
公
開
不 #411
横須賀新港3号
木
神戸
P
海
13
日
月
火
所内
7k
水 木 金
KR08-10 MCS/OBS 伊豆小笠原・熊野灘
土
日
月
火
水
木
金
土
日
7K /単独 日本海溝 J横
搭載
回港
J横 回航
荒
7k
天
月
避
泊
月
9
火 水 木
KR08-10
金
土
日
月
7K /単独 日本海溝 P 宮古 P
予備
潜 潜 潜
① ② ③
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金 土 日
KR08-11
7K/r2D4
横浜 (みなとみらい)
J横
回航
月
天
潜
①
r2D4
木
金
回航 J横
土
日
月
火
横浜(みなとみらい)
潜
②
避 #431
#428 #429 #430
水
南海トラフ
r2D4
荒
火
#432
泊
1
水
10
2
3
4
木 金 土
KR08-12
5
日
6
月
7K 南海トラフ・熊野灘 P
潜
潜 新宮 潜
①
②
①
月
#433
土
日
#434
月
11
7
8
9
火 水 木
KR08-13
潜
②
金
11
土
12
日
13
月
14
火
7K 南海トラフ 回航 J横
潜 潜
④ ⑤
潜
③
#435 #436 #437
火 水 木
KR08-E03
10
金
15
水
16
木
17
金
18
土
19
日
20
月
21
火
22 23 24
水 木 金
KR08-E02
25
土
26
日
27
月
28
火
29
水
30
木
31
金
駿河湾・遠州灘
J横
予備
陸揚
7k
#438 #439
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
MCS伊豆・小笠原
火
水
木 金 土
KR08-15
単独
J横
予備 御前崎
日
月
火
水
木
金
土
日
金
土
日
月
火
水
27
火
28
水
29
木
30
金
31
土
金
土
日
月
火
フィリピン・北太平洋
J横
月
月
火
水
木
金
土
日
月
12
火 水 木
KR08-16
金
土
日
月
火
MCS
水
木
金
土
日
月
火
水
木
足摺岬沖日向灘
J横
横浜新港5号
J横
搭載
J横
7k
月
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
7
水
8
木
9
金
10
土
11
日
12
月
1
横浜新港5号
回航 作業
13 14 15
火 水 木
KR09-E01
16
金
17
土
18
日
19
月
20
火
21
水
7K ベヨネーズ・伊是名(JOGMEC) 21日間
作業
潜 潜 回航 回航 潜
荒
荒
① ②
③
荒
天
月
避
日
月
火
水
木
金
土
日
月
天
避
天
#440 #441
22
木
23
金
24
土
25
日
26
月
潜 回航 回航 回航 J横
④
#442 #443
避
泊
泊
泊
火
水
木
金
土
日
2
月 火 水
KR09-E02
木
金
土
日
月
火
水
木
単独 駿河湾(越智・渡邉) 12日間
J横
J横
ケーブル陸揚
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
3
ドック35日間
J横
神戸
月
- 113 -
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
表 5. 平成 20 年度「みらい」運航実績
時間:現地時間
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
日
月
火
水
J関:関根浜 J八:八戸
22 23 24 25 26
火 水 木 金 土
H21.3.31
27
日
28 29
月 火
30
水
31
火
水 木
金
土
土 日
月
4
「みらい」年次検査
回航
月
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
木
金
土
日
月
5
MR08-01 性能確認試験航海
J関
J関 J八
外変
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
6
MR08-02 西部熱帯太平洋
P
月
1
火
2
水
3
木
4
金
5
土
6
日
7
月
8
火
9
水
10
木
11
金
12
土
13
日
14
月
15
火
16
水
17
木
18
金
19
土
20
日
21
月
22
火
23
水
24
木
25
金
26
土
月
火
水
木
金
土
日
月
火
27
日
28 29
月 火
30
水
31
木
水
木 金
土
日
7
MR08-03 西部熱帯太平洋
P
グアム
月
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
8
MR08-04 北極海
J八 J関
内変
月
月
火
水
木
金
土
日
月
関根浜
一
般
公
開
火 水 木
P
P
ダッチハーバー
J関 J八
外変
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日 月
火
16
木
17
金
18
土
19
日
20
月
21
火
22
水
23
木
24
金
25
土
26
日
27
月
28 29
火 水
30
木
9
MR08-04 北極海
月
1
水
2
木
3
金
4
土
5
日
6
月
7
火
8
水
9
木
10
金
11
土
12
日
13
月
14
火
15
水
31
金
10
MR08-05 北部太平洋
P
P
ダッチハーバー
月
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
水
木
金
土
日
月
火
水
10
土
11
日
12
月
13
火
14
水
15
木
16
金
17
土
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金 土
日
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日 月
火
水
18
日
19
月
20
火
21
水
22
木
23
金
24
土
25
日
26
月
27
火
28 29
水 木
30
金
31
土
月
火
11
MR08-E02 三陸沖
月
火
水
木
金
P 小名浜
内変 特 一
別 般
公 公
開 開
土 日 月 火
1
木
2
金
3
土
4
日
5
月
6
火
月
J関
P
12
月
7
水
8
木
9
金
1
MR08-06 Leg1 フレンチポリネシア・チリ沖
J関
J八 外変
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
金
土
日
月
火
水
木
金
土 日
2
MR08-06 Leg1 フレンチポリネシア・チリ沖
P
P
パペーテ
月
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
金
土
日
月
火
水
木
3
MR08-06 Leg1 フレンチポリネシア・チリ沖
MR08-06 Leg2 チリ沖
P
P
ヴァルパライソ
月
- 114 -
P
プンタアレナス
( 3 )船舶の安全確保について
「海中転落の防止と捜索・救助に関する調査報告書」の提言
研究船運航部では、各船舶の行動についてそれぞれ規定の
に従い、全船について転落防止対策必要箇所の洗い出しを実
許可・届出、安全対策を実施するとともに、各行動につき事
施、各船の修繕工事に併せて対策工事を行うこととし、平成
前に研究安全委員会にはかり、併せて部室長会議、理事会に
20 年度は「よこすか」および「かいれい」にて実施した。
て報告している。海上活動については機構が定めた「安全衛
特記すべき事項は以下の通りである。
生心得」に準拠し、担当者を指定するとともに、事故・トラ
①「なつしま」
ブル発生時には、機構が定めた「事故・トラブル緊急対処要
・第 2 ラボ無線 LAN の装備
領」に従い対処した。海賊対策についても、機構の定めた「海
・コンテナラボ内冷蔵庫に棚増設
賊対策基本方針」に基づき必要な措置を講じた。また必要に
・計量科学魚探点検整備
応じ事前に海域調整を実施した。
報道発表した事故に下記がある。
②「かいよう」
・学術研究船「淡青丸」における落水事故(平成 20 年 4 月 2
日房総半島沖
・船体構造の点検及び補修、補強工事
研究調査航海中)
・支援母船「よこすか」での火災発生(平成 21 年 2 月 12 日
㈱川崎造船
・GPS 受信機換装
・主発電原動機シリンダジャケット補修(1~3 番原動機)
・ジャイロコンパス換装
年次検査工事中)
なお、事故に対しては原因調査を実施し再発防止に努めて
③「よこすか」
いる。
・船上重力計の整備
・DGPS 用デコーダの換装
( 4 )船舶・深海調査システムの保守・整備
各船舶について、法定年次検査および修繕工事を実施し、
船舶としての基本的な性能を維持するための船体、期間関連
・船内 LAN システム換装
・「うらしま」用光ケーブルおよび LAN ケーブル増設
等の整備を行った。潜水調査船についても、法定中間検査工
事および性能を維持するための工事を実施した。無人探査機
④「かいれい」
等については、適宜、整備および機能向上に関する工事を実
・リサーチルーム無線 LAN の装備
施した。
・船上重力計データ処理部換装
そのほかに、
「調査観測機能検討会」等で検討された機能向
上にかかわる工事を実施し、船舶に関しては搭載している調
査観測装置の動作確認、性能確認を主とした性能確認試験航
・インマルサット C を LRIT 機能付きに換装
・マルチビーム音響測深機(MBES)パワーモジュール基板
交換
海を、深海調査システム(潜水調査船、無人探査機等)に関
・レーダー換装
しては陸上作動試験、沈降試験、試験潜航を実施し、すべて
・マルチチャンネル反射法探査装置(MCS)の運用性向上の
ための改造
の検査・試験を終了した。
研究者へのサービス向上として、ラボ・リサーチルーム等
への無線 LAN の導入(「なつしま」
「かいれい」)や研究室作
⑤「みらい」
業性向上のための改造(白鳳丸)などを実施、また「かいれ
・ADCP 換装(図 6)
い」のマルチチャンネル反射法探査装置(MCS)の運用性向
・ドップラーレーダー点検整備
上のための改造を実施した。
・プロトン磁力計点検整備
各船舶の老朽化への対応として、各船の電波航法装置およ
・№2 バウスラスター開放整備
び中央処理装置用ワークステーションの更新のためのシステ
ム検討を昨年度より実施しており、今年度は「よこすか」の
LAN システム換装に着手した。
なお、
「淡青丸」にて 4 月に発生した海中転落事故に関する
- 115 -
図 6. ADCP 換装工事(「みらい」)
図 8. 前方障害物探知ソーナー(
「しんかい 6500」)
⑥「白鳳丸」(図 7)
⑨「ハイパードルフィン」
・船上重力計の整備
・精密海底地形計測装置の性能確認
・第 1 研究室作業性向上のための改造
・海底ネットワークシステム設置作業用浮量調整装置(VBCS)
・超純水製造装置の換装
の作動確認
・マルチビーム音響測深機(MBES)用モーションセンサー
の搭載
⑩「かいこう 7000Ⅱ」
・船上操縦盤換装工事
・新光伝送装置製作
⑪「うらしま」
・運用性向上のための機体重量軽量化および配置変更
・主蓄電池槽 CFRP 化
・電子機器の更新
・調査観測機器のネットワーク化
⑫その他
・11,000mフリーフォール式カメラ採泥システムの開発およ
図 7. ドライアップ(「白鳳丸」)
び実海域試験(図 9)
・現場培養器の設計検討
⑦「淡青丸」
・№1、№2 ウインチケーブル新替
・№1、№2 レーダー換装
・研究室シンク新替
・木甲板修理
・「しんかい 6500」光電気複合コネクタおよび光伝送装置の
製作
・「しんかい 6500」推進操縦システム換装計画の検討および
準備(主推進用電動機の購入)
・「かいこう 7000Ⅱ」光伝送装置の伝送容量増強の検討およ
び製作
⑧「しんかい 6500」
・新型深海曳航シーブの製作および改良
・前方障害物探知ソーナー換装(図 8)
・6000m級ソーナー曳航体の改造
・油圧ポンプ用電動機フレーム新替
- 116 -
点、計 17 点のトライトンブイ観測を引き継いだ。
主要なトピックスは次のとおり
①
TRITON ブイの老朽化対策として、データ処理および衛
星通信を行う電装機器について m-TRITON ブイで開発
したデータロガーおよび衛星通信装置への換装を行い、
10 号から 16 号基ブイに搭載した。これにより消費電力
の軽減も実施され、今後の電池費用の削減にも貢献する。
②
新規の電装機器補充に伴い、衛星データ通信機能を停止
していた 13 号基について、データ通信を再開した。
③
国産化を進めている水温-深度センサについて、量産プロ
トタイプの長期動作確認試験を行い、実海域に試験投入
図 9. 11,000mフリーフォール式カメラ採泥システム
した。
④
( 5 )観測支援
昨年開発に着手したオリジナル水中センサの検定システ
ムについて、プロトタイプが完成し所定の温度安定精度
各船舶にて行われる海洋調査・観測研究において、観測技
術員による研究支援を実施している。具体的には観測・調査
研究に用いる観測装置類の保守・整備、船上での運用および
(2/1000℃)を上回る性能が実現できる事を確認した。
⑤
受託研究「インド洋観測研究ブイネットワークの構築」
取得データの処理、さらに観測技術の開発等を行い高品質の
(文科省)において、そのサブ課題で要求されている「ブ
データを取得・提供している。この一連の研究支援体制を維
イシステムの開発・改良・運用」部分を担当している。
持することにより海洋観測・深海調査業務の全体的な効率
インド洋における m-TRITON ブイにおいて、アルゴス-3
化・高度化を図っている。平成 20 年度の主要トピックスは以
通信システムを搭載し、同システムによる世界で初めて
下のとおりである。
の高速データ通信を実現した。
・
海洋底構造探査に関する研究に対し、
「かいれい」、
「かい
よう」搭載 MCS および海底地震計(OBS)の運用・保
・
( 7 )沖ノ鳥島観測
守、データの取得・解析等の研究支援を陸上での支援を
沖の鳥島における気象・海象の連続観測を継続して実施し
含めて実施した。特に、昨年度末までに高精度化を実施
ている。今年度は、沖ノ鳥島観測の拠点である観測所基盤、
した「かいれい」搭載マルチチャンネル反射法システム
観測施設(SEP;Selfelevation platform)の老朽化に対する改
(MCS)について運用習熟を図りつつ、5 研究航海にお
修工事に伴い、工事終了までの暫定措置として連続観測装置
いて運用した。
の一時的な撤去を行った。
「みらい」による大気・海洋を含めた総合観測研究に対
して、ドップラーレーダー等の気象観測装置類の運用、
( 8 )船舶からのデータ・サンプルについて
ピストンコア採泥やトライトンブイの設置・回収等の観
各船舶・有人・無人機等の公募行動毎に、取得データ・サン
測オペレーション、各種化学分析機器類を用いた海水の
プルの内容や配布先等のインベントリ情報を取りまとめた。
分析など、多岐にわたる研究支援を実施した。
・
上記海洋観測・調査研究の支援は延べ 20,000 人日程度に
機 構 所 有 船 舶 を 利 用 し た 研 究 成 果 発 表 と し て 「 Blue
上った。
・
( 9 )「Blue Earth’09」の開催
「みらい」搭載の表層海水連続分析装置の換装に着手し、
Earth’09」を立教大学池袋キャンパス開催した。2 日間にかけ
本年度は機器の設計、配管・データ処理部の作成まで行っ
て、口頭発表 57 件、ポスター発表 132 件が行われ、参加者
た。
は 690 人であった。成果発表の他、
「真核生命誕生のしくみを
解明し温暖化・砂漠化など気候変動に挑戦-極限生物のゲノ
( 6 )トライトンブイの運用
ム・マス科学で-」と題した特別講演や、
「深海生物多様性の
平成 20 年度は、19 年度に設置した太平洋 15 点、インド洋 2
保全と持続可能な利用のためのサンプリング方法の検討」と
- 117 -
題したクローズドミーティングを開催した。
技術研修等の実施について
船上・陸上で研究支援を行う機構職員、観測技術員の養成
(10)海洋工学センター勉強会(MIND)の開催
及び機構で培った技術の伝承を目的とした総合技術研修制度
応用技術部長期観測技術 G が事務局となり、
「海洋知識(情
(海洋技塾)を開催し、初級コース 18 名、中級コース 15 名
報)と討論」のコンセプトのもと、実際の船の運航や調査観
の修了者があった。また、機構が有する潜水技術を活用し、
測の現場から出た意見や生じた問題等をフィードバックし総
主として警察、消防等の公的機関の職員を対象に潜水従事者
合的に技術向上を図ること、また研究支援業務を行う上で必
の研修を 21 回行い、398 名の修了者を出すとともに、外部機
要となる情報の共有や意見交換を目的とし、月に 1 度のペー
関へ 4 回にわたり講師を派遣した。そして、
「ちきゅう」乗船
スで勉強会を開催した。平成 20 年度は、慶應義塾大学理工学
者等のために、独自のヘリコプター水中脱出訓練を 24 回行い、
部長 真壁利明教授や東京電力株式会社 藤本孝取締役副社長
201 名を訓練しその安全確保に努めた。
を招待して特別講演を行うなど、計 9 回の勉強会を開催した。
機構内外から毎回平均して 70 人以上の参加があった。
(11)プール等の試験研究施設・設備の整備、運用
共用施設に関すること
研究に係る共用施設及び設備の保守及び共用に関するこ
a.
と
共用施設・設備の法定点検及び自主点検を実施した。
また、共用施設・設備の運転及び建屋の維持・保守・管理を
実施した。
主な共用施設・設備
高圧実験水槽装置、中型高圧実験水槽装置、小型高圧実験水
槽装置、波動水槽、超音波水槽、潜水訓練プール、観測ウイ
ンチ、潜水シミュレータ、岸壁等
b.
施設及び設備の貸付に関すること
共用施設・設備の利用に関する内外からの問合せや使用申込
みの窓口として、所内手続き等の対応をスムーズに実施した。
また、依頼に基づく技術的な支援及び運転、管理を実施した。
分析ラボの運用について
透過型電子顕微鏡、電界放射型走査電子顕微鏡、電子プロー
ブマイクロアナライザー装置等の運転・維持・保守・管理を
実施した。また、日々進歩する電子顕微技術に対応するため、
研究者のニーズを考慮した関連技術の向上や技術開発に向け
た取組みも併せて実施した。
マシンショップについて
各種工作機械類を良好な状態に保つとともに、研究者や技
術者からの要望に即応できるよう整備、
保守・管理に努めた。
①製作、修理:のべ 416 件
②設計支援:のべ 86 件
- 118 -
4.2 「地球シミュレータ」の供用
Web による各種情報提供の即時性を高めるとともに、新シス
テムの紹介など、広く情報発信を行った。
「地球シミュレータ
( 1 )地球シミュレータの運用
研究成果リポジトリ」による情報発信では、多様な検索がで
地球シミュレータは、平成 14 年 3 月の運用開始以来 7 年
きるよう改修し、研究成果の蓄積と情報発信を強化した。
が経過し、ますます増大する計算資源要求に対応するため、
システム更新による性能向上を行った。このため、平成 20
( 2 )新システムの導入
年度下半期は半分の計算ノードを撤去した状態で運用した。
新システムは平成 20 年 5 月に入札を実施し、納入ベンダー
地球シュミレータはこの点を除き、従来どおりに運用、保守
が決定した。運用開始は平成 21 年 3 月、その準備のため平成
を継続した。また、運用と並行して、利用者データの新シス
20 年 10 月に現システムの半数ノードを撤去し、11 月中旬か
テムへの移行作業を実施した。平成 20 年度のユーザ登録数は
ら 12 月にかけて新システムの搬入、設置を行った。システム
738 人であり、上半期(4 月~9 月)のジョブ投入数は 64,267
調整は 1 月~2 月に実施し、計画通り 3 月に運用を開始した。
件、半分のノード数で運用した下半期(10 月~3 月)のジョ
新システム導入に際しては、外部有識者による「新システ
ブ投入数は 38,637 件であった。ノードの使用状況は、計画的
ム導入技術アドバイザリ委員会」を設置し、その提言に基づ
な停止を除き年間を通じて 95%以上であった。障害によるシ
き導入から運用準備までの業務を進めるとともに、同委員会
ステム全停止は 1 件、ノード障害は年間 155 件(上半期 101
において業務進捗の評価を行った。
件、下半期 54 件)であり、計画保守を除くノード停止時間は
( 3 )地球シミュレータの産業利用推進
全体の 1.46%に留まった。
地球シミュレータ利用者に対する技術支援の一環として、
平成 17 年度から試行し、平成 19 年度から本格運用を始め
利用説明会・講習会・チューニング事例紹介(4 月 21、22 日
た地球シミュレータの有償利用について、引き続き申込の常
開催)を実施し、併せて各種手引書、技術資料の整備を行っ
時受付やプログラムの移植・最適化に関する技術相談、支援
た。またプログラミング等技術支援としてユーザサポート窓
を継続的に行なうことで、産業界等からの利用を推進してき
口を常設しており、利用上の各種問題(リクエストの投入、
た。その取り組みについて、産官学連携を目的としたイノベー
ファイルの入出力、効率的プログラミング技法など)に関す
ション・ジャパン 2008(大学見本市)や最先端 IT・エレクト
る解決支援業務を実施した。
ロニクス総合展 CEATEC JAPAN 2008 への出展に加え、今年
地球シミュレータ利用環境の整備では、ネットワーク構成
度は新エネルギー世界展示会で展示紹介を行った。また、展
の見直しと機器更新により、利便性と転送速度の向上を図っ
示や資料配布等の機会を増やし、新たな PR 活動への取り組
た。可視化等のポスト処理においては、可視化サーバのソフ
みを展開した。さらに企業への提案活動を強化するため、ベ
トウェア充実により利用環境の利便性を向上させた。さらに、
クトル型スーパーコンピュータを専門とするリエゾンを非常
地球シミュレータ(ES2)システム概念図
- 119 -
勤職員として配置し、その対応を行った。また、各分野の研
4.3
地球深部探査船の供用等
究者による技術指導も実施し、産業利用の推進を図った。
成果専有型有償利用については、平成 20 年度の申請件数
・平成 20 年度は、平成 21 年度実施の統合国際深海掘削計画
は 9 件であり、そのうち有償利用に結びついたものが 8 件、
(IODP)における科学掘削である南海トラフ地震発生帯掘
事前評価が 1 件であった。また、文部科学省の受託事業であ
削計画(NanTroSEIZE)stage2 へ向けた調整及び準備等を
る「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利
行った。
用】」を平成 19 年度から継続して実施しており、16 件の応募
・平成 20 年 3 月の中間検査工事の際に、アジマススラスター
に対して 12 課題が地球シミュレータ産業戦略利用課題選定
(「ちきゅう」の定点保持のため用いる 360°回転可能な推
委員会(平成 19 年 3 月 6 日開催)により採択された。
進機)の開放点検を行ったところ、全 6 基のスラスターのう
地球シミュレータ産業利用の推進及び社会還元を目的と
ち 3 基のギアに破損や亀裂が発見された。これらの原因究明
して、平成 19 年度の受託事業による成果報告を中心とした
と対策の検討を行った結果、全スラスターのギアの交換が必
「地球シミュレータ産業利用シンポジウム」を平成 20 年 9
要と判断し、大規模な修理工事を実施、平成 21 年 2 月に工
月 5 日に開催した。
事を完了した。また、平成 19 年 5 月の海外試験掘削中に発
見されたライザーテンショナー(波浪等による動揺を吸収す
(4)共同プロジェクトの課題選定および社会還元
るとともにライザーパイプの重量を支えるための装置)の損
平成 20 年度の課題選定は、外部有識者、専門家で構成さ
れる計画推進委員会(平成 20 年 1 月 13 日開催)により答申
傷についても、再発防止対策を施した新造テンショナーへの
交換を行い、平成 20 年 12 月に修理を完了した。
された計算資源配分(地球シミュレータ共同プロジェクトと
して 55%)をもとに、課題選定委員会(平成 20 年 3 月 1 日
開催)で課題が選定された。その結果、地球科学分野 16 課題、
計算機科学分野 2 課題、先進創出分野 23 課題の合計 41 課題
が採択された(継続 40 件、新規 1 件)。
平成 20 年 12 月には「地球シミュレータ利用報告会」を開
催し、各課題の研究成果を広く一般に向けて発信した。
神戸港にてスラスター修理工事中の「ちきゅう」
・これまでの「ちきゅう」での掘削は、ノルウェーの海洋掘削
会社の技術により実施してきたが、わが国の海洋掘削会社と
外航海運会社の共同出資により新たに設立された運航会社
と平成 20 年 9 月に運用委託業務契約を締結し、平成 20 年
12 月からは同社による「ちきゅう」運用業務が開始された。
これにより、各種マニュアルの整備、安全管理システムの
構築などを行い、運用体制の“日本化”を達成した。
- 120 -
・第 3 期科学技術基本計画において国家基幹技術に位置付け
研究者および技術者の養成と資質の向上
5.
られた「深海底ライザー掘削技術」の開発を着実に実施し
た。特に、強潮流対策用のライザーフェアリングについて
・連携大学院については、平成 19 年度までの 11 大学に加え、
は製作を完了し、平成 21 年度には実使用時のライザーパイ
新たに 3 大学(北里大学、東京大学、東北大学)との連携
プ挙動計測を行う予定である。
大学院協定を締結した。また、大学以外でも、横浜市立横
浜サイエンスフロンティア高等学校と連携・協力に関する
協定書を締結した。これらの協定に基づき、機構の研究者
延べ 41 名が連携大学院教員(教授 27 名、准教授 14 名)と
して、教育研究活動に従事した。
・3 名の在外研究員を派遣するとともに、新規に 4 名の在外
研究員を次期派遣候補として選考した。
・連携大学院の学生を含む延べ 127 名の研究生や、延べ 44
名の外来研究員を受け入れるなど、人材育成に貢献した。
・ 大 学 生 ・ 大学 院 生 を 対 象と し た 職 場 体験 実 習 と し て、
「JAMSTEC インターンシップ」を実施し、機構の 12 の部
強潮流対策用ライザーフェアリング
署で 41 名(18 大学)の学生を受け入れた。
・アジマススラスター及びライザーテンショナーの修理完了
・人材育成のため、講師等を延べ 181 名派遣した。
後、熊野灘及び駿河湾にて、試験掘削及び機器の操作訓練
・機構が有する潜水技術を活用し、主として警察、消防等の
を実施し、水圧式ピストンコア採取システムによるコア試
公的機関の職員を対象に、21 回 398 名に対する潜水研修を
料の採取などを行った。これにより新運用体制の下で掘削
実施した。
技術、安全管理の経験蓄積を行った。
・
「ちきゅう」乗船者等を対象とした独自のヘリコプター水中
脱出訓練を 24 回実施し、機構内外で併せて 201 名の受講者
が参加した。
・平成 19 年度新たに立ち上げた総合的技術研修制度「海洋技
塾」について、更に広範囲かつ専門的な技術の習得を目的
とした中級コースを立ち上げた。また、初級コース・中級
コース併せ延べ 131 名が参加した。
・高等学校・高等専門学校の生徒を対象として、
「マリンサイ
エンス・スクール」(参加者 14 名)と「サイエンスキャン
プ」(参加者 20 名)を実施した。また、中学・高等学校の
駿河湾で訓練中の「ちきゅう」
教諭を対象に、海洋調査船「かいよう」を使った洋上研修
である「マリンティーチャーズ・スクール」(参加者 6 名)
を行った。大学生や大学院生対象としては、
「海洋と地球の
学校」の 1 回目を横須賀本部と横浜研究所(参加者 22 名)
にて実施し、2 回目は高知コア研究所(参加者 9 名)の施
設を活用して実施した。このほか、中学・高等学校の生徒
を対象とした職場体験(参加者 21 名)を行った。
- 121 -
6.
情報および資料の収集・整理・保管・提供
図書資料については、横須賀本部・横浜研究所図書館を中
心に 4 拠点で図書 2,496 冊(うち洋書 420 冊)、和雑誌 150 種、
外国雑誌 170 種の新刊雑誌を提供し、1,221 件の文献依頼に対
応した。電子ジャーナルや図書目録などのインターネット資
源をリンクで結ぶ、リンクナビゲーションシステム“SFX”を
10 月より導入し、研究者の文献入手の利便性を向上させた。
研究成果を発信する機関リポジトリシステムを構築し、年報
図 2. JAMSTEC データ検索ポータルの検索画面
や JAMSTEC-R を刊行し、13 編の論文を収録した。
ホームページによる情報発信については、週 1 回以上の更
新を整備として行い情報を発信した。ホームページには年間
約 1,046 万件のアクセスがあった。
データ・サンプル管理については、機構の施設・設備を利
用して取得されたデータ・サンプルの取扱いに関する各規程
の運用を開始した。
船舶による観測データを公開していた「みらいデータウェ
ブ」と「深海調査研究データウェブ」を統合し、「なつしま」
「かいよう」
「よこすか」
「かいれい」
「みらい」5 船により取
図 3. 深海画像データベースのトップページ
得された観測データ全てを公開する「JAMSTEC 観測航海
データサイト」を開設し(図 1)、データの公開を始めた。ま
た、地図上で範囲と観測項目を指定してデータ・サンプルを
H20 年度の航海において、1 航海・1 項目のデータを 1 件と
検索し、検索結果からデータ公開ページへ移動できる
してカウントした 940 件のデータと、1 潜航・1 カメラの映像
「JAMSTEC データ検索ポータル」を開設し(図 2)、データ
を 1 件としてカウントした 376 件の映像資料を受領している。
利用者の利便性を高めた。
深海画像管理については、アナログフィルムで撮影された
品質評価を行うためのデータ管理体制と環境の整備を進
過去の画像の経年劣化対策として、高精細での電子データ化
め、基礎生産データ、ボトル採水データおよび気象データの
を約 13 万コマ実施した。既存の「深海画像データベース」を
品質管理済みデータを公開した。また ADCP データの品質管
デジタル画像一括登録による公開速度の向上を施したデータ
理済データ公開の準備を進めた。
ベースに切り替えて運用を開始した(図 3)。また、簡易ハイ
ビジョン記録や非テープメディア記録の映像を保管用マス
ターテープ化する機器の整備を行った。
岩石サンプルについては、H20 年度航海と過去に採取され
た岩石サンプルの保管・管理を行い、H20 年度末時点で約
12,300 件のメタデータを「深海底岩石データベース GANSEKI」
で公開している。また、データベースの機能強化を進めると
ともに、岩石化学データポータルの EarthChem との連携調整
を行った。
コアサンプルについては、「JAMSTEC コアデータサイト」
を整備し(図 4)、H20 年度航海と過去に採取されたコアサン
プルのメタデータについて 43 件分を公開し、1 航海・1 項目
図 1. JAMSTEC 観測航海データサイトのトップページ
のデータを 1 件とカウントして 366 件の分析データの公開を
- 122 -
する統合データ提供サイト「海洋生命情報バンク」について、
サイト運用体制を整備し、生物種情報を基本とするデータ登
録を開始した(図 6)。また、基盤システムを拡充すると共に
標本データを蓄積・提供するデータベースを新たに構築した。
国際海洋環境情報センター(GODAC)では、デジタルアー
カイブ業務として、深海調査記録映像デジタルマスター作成
を 3,937 本、デジタルマスター映像のエンコード処理を 1,593
本、エンコード処理済み映像データのインデキシング処理を
71,242 ショット(Web 上で約 17,500 ショットの深海映像を公
開)、定期刊行物等のデジタル処理・公開を 24,516 ページ、
航跡図等の図面・画像類のデジタル処理を 326 枚行った。
図 4. JAMSTEC コアデータサイトのトップページ
GODAC ホームページへのアクセスは、約 154 万件あった。
行った。また、高知コア研究所と連携し、過去分の分析デー
タやサンプル提出について、調整を開始した。
生物サンプルについては、「航海により得られた生物サン
プル取扱細則」を制定するとともに、翌年度からの運用開始
に向けて生物サンプルの管理体制の整備も進めた。
H20 年度におけるデータベース、データサイト等の有効年
間アクセス数は約 66 万件であった(検索ロボット等を除いた
ページビューの集計)。
データおよびサンプルの提供サービスについては、機構内
外の利用希望者からの申請に基づいて観測データや深海映
像・画像等、データを約 300 件提供し、サンプル 20 件の提供
を行った。
国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」の基幹要素で
ある「データ統合・解析システム」
(受託業務;東大、JAXA
図 5. 地球観測データ統合・解析プロダクト試験公開・提供サイト画面例と
KML のサンプル
との連携)について、東大コアシステムへのデータ投入のた
めの事前処理、及び、東大コアシステムからの外部ユーザ向
けデータ切り出し処理機能である「DIAS 前処理情報提供シ
ステム」の基本設計を行った。応用機能開発課題(アジア水
循環、気候変動)における統合データや、統合データの他分
野への応用例(気候変動-水産)をサンプルとして公開・提
供する Web 発信機能を拡充し(図 5)、長期安定的サービス
提供システムの概念設計を行った。Web から公開されている
統合データ(サンプルデータ)のダウンロード件数は、年間
1,427 件であった。データ投入の対象データについてメタデー
タの整理を開始するとともに、投入前処理システムでの一時
ストレージを継続しながら、順次、データ統合・情報融合コ
アシステムへのデータ投入を実施した。
図 6. 海洋生命情報バンク(BISMaL)画面
極限環境生物圏研究センター海洋生態・環境研究プログラ
ムと協力して平成 19 年度から整備を開始した深海生物に関
- 123 -
7.
評価の実施
・外部有識者で構成される機関評価会議において、機構全体
の業務の実績に係る自己評価を実施した。評価結果につい
ては、機構のホームページ等を通じて公表した。
・研究課題評価については、地球環境観測研究センターにお
いて、海外の専門家を中心とした外部評価委員会により、
地球環境観測研究の中間評価を実施した。
8.
情報公開
・平成 20 年度開示請求件数:2 件
・独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に則り、
ホームページにより情報提供を行った。
・情報公開請求に的確に対応するため、情報公開担当者に対
し、情報公開窓口における対応方法、手続きの確認を行っ
た。
・新入職員に対し、文書管理及び情報公開に関する基礎知識
習得のための研修を行った。
・適切な個人情報の管理に資するため、新入職員対象の基礎
教育と、一般職員対象の個人情報保護に関する内容理解を
深めるための教育を継続して実施している。
・諸規程・マニュアル類の適宜見直しを行い、個人情報保護
体制の充実を図った。
- 124 -
Ⅱ.業務の効率化に関する目標を達成するために取るべき措置
1.
組織の編成および運営
決裁権限の見直しを行った。具体的には、外国人研究者の受
入業務の一部の国際課から人事課及び評価交流課への委譲等
を行った。
1.1 組織の編成
・旅費計算・支給業務等について外部委託化を行った。
・平成 19 年 12 月に設置した「システム地球ラボ」に引き続
・平成 19 年度より導入した新たな人事制度の定着を図るとと
き、組織横断的な新しい研究体制として、研究と社会との相
もに、それに基づく人事評価制度により人事評価を行い、そ
互的啓発や持続的連携によりイノベーションの実現を目指す
の結果を処遇決定に反映した。
研究を行うため「アプリケーションラボ」を設置した。
・平成 19 年 12 月 24 日に閣議決定された「独立行政法人整理
2.
合理化計画」において、海洋研究開発機構は、防災科学技術
・平成 16 年度に策定した「中期目標・中期計画に対するアク
研究所と統合することが求められたため、両法人の統合を円
ションプラン」等により、業務効率化推進委員会の総括のも
滑かつ適切に実施するため、経営企画室の中に法人統合準備
と各業務に関する効率化計画を策定し、効率化を進めた。
室を設置した。
・具体的には、事務部門を対象として平成 18 年度より実施し
・統合国際深海掘削計画(IODP)の科学掘削の推進に資する
ている「業務改革」を継続し、重複業務の整理と機能の明確
掘削技術開発の強化のため、地球深部探査センターにおいて
化、各種業務の改善(簡素化・標準化)、アウトソーシングの
運用管理室から掘削技術に関する所掌を技術開発室に移管す
検討、IT 基盤の整備等により各種事務手続きの簡素化・迅速
ることで技術開発を一元化し強化を図った。また、地球深部
化を行い、対象業務量の 19.7%(現在段階的に実施している
探査船「ちきゅう」による IODP 南海トラフ地震発生帯掘削
IT 基盤整備による削減見込み 2.1%を含む)を効率化した。
計画(NanTroSEIZE)ステージ 1 の実施にあたり、科学掘削
・なお、業務改革の推進にあたっては、業務改善に係る意識・
の推進と科学支援システムの発展により効果的に事業を行う
考え方を共有し、必要なスキルを定着させるための教育研修
ため、地球深部探査センターIODP 推進室の機能を強化した。
会、機構全体の事務生産性、職員満足度の向上等を検討する
・計算システム計画・運用部について、地球シミュレータの
検討会を 15 回実施し、提言を取りまとめた。提言は、今後の
次期システムの導入や同部に機構の業務システム管理を集約、
業務改革の改善テーマ、統合法人の新組織検討等の検討材料
統合したことなどから、各グループの業務内容を整理し、組
として用いることとした。また、担当者を集めた意見交換、
織の再編を行なった。
進捗報告の場を設けるなど、計画を着実に実行した。
・理事長と各センター長が意見交換を行う「研究運営会議」
・平成 20 年度計画に記載されている、
「行政改革の重要方針」
を定期的(月 1 回)に開催した。
(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)において削減対象とされ
・機構の運営に関して助言を受けるための、外部有識者から
た人件費について、平成 22 年度までに平成 17 年度と比較し
なる「経営諮問会議」を 10 月に開催した。
5%以上するという目標を実現するため、機構全体の人件費を
・機構全体の安全性と信頼性を総括するため、平成 20 年 4
見直すことを目的として、部署別及び項目別の削減目標を設
月及び 12 月に「安全会議」を開催した。
定した。 第一期中期目標期間の最終年度である平成 20 年度
・業務効率化を検討するための「業務効率化推進委員会」を
においは、平成 19 年度と比較して 1.0%を削減した値に収め
開催し業務改革に取り組むとともに、更なる職場環境改善に
るとともに、対平成 17 年度比較において、概ね 3%以上削減
向けて取り組むべき課題を発掘する「新たな改革テーマ発掘
した値に収まるように人件費の管理を行った。
ワーキンググループ」を設置し、第二期中期目標期間以降の
・非管理職にかかる期末手当の支給月数を年 0.15 月削減し
活動に資するための検討を実施、報告書の取りまとめを行っ
た。また、通勤手当についても支給単位を、国家公務員同様
た。
とし、6 か月の定期券の価額をもって支給する制度を導入し
業務の効率化
た。
1.2 組織の運営
・組織改編に伴い、各部署において迅速な意思決定と柔軟な
対応を実施するための各部署への権限委譲を推進するため、
- 125 -
Ⅲ.決算報告書
平成 20 事業年度
決算報告書
(単位:百万円)
区分
予算額(A)
決算額(B)
差額(A-B)
収入
運営費交付金
38,431
38,431
0
施設費補助金
330
330
0
補助金収入
0
11
△11
事業等収入
3,372
2,766
605
受託収入
1,257
4,473
△3,216
43,389
46,010
△2,621
1,582
1,317
265
998
996
2
うち、人件費(管理系)
695
478
218
うち、物件費
303
519
△216
584
321
263
40,220
41,720
△1,500
2,517
2,507
9
37,703
39,213
△1,509
330
322
7
0
11
△11
1,257
4,374
△3,117
43,389
47,744
△4,355
計
支出
一般管理費
(公租公課を除いた一般管理費)
公租公課
事業経費
うち、人件費(事業系)
うち、物件費
施設費
補助金事業
受託経費
計
※各欄積算と合計欄の数字は、四捨五入の関係で一致しないことがある。
Ⅳ.短期借入金の限度額
・該当なし
Ⅴ.重要な財産の処分または担保の計画
・該当なし
Ⅵ.剰余金の使途
・該当なし
- 126 -
Ⅶ.その他の業務運営に関する事項
1.
講習会の開催、職員に対するアサーション講習、管理職向け
施設・設備に関する計画
のアサーション講習(パワハラにならない話し方)、全職員
向けストレスチェックの実施、相談窓口(外部・内部)によ
船舶については、前年度までに地球深部探査船「ちきゅう」
の運航開始に伴う船上設備等の整備を終了し、平成 20 年度
る個人の悩み相談窓口の整備を行うことにより、職員の意識
向上を図った。
からは建造から約 20 年が経過し老朽化の進む有人潜水調査
研究環境の安心・安全確保についても安全会議及び安全委
船「しんかい 6500」について、機能向上を目的とした整備に
員会を中心に危機管理の観点からチェック体制の見直しを
着手した。
行った結果、機構の多様な研究開発活動における各プログラ
各拠点の施設・設備の整備については、引き続き、各種建
ム等の統括責任者と船舶ほか施設等の管理者、安全に関する
屋の空調設備の更新、外壁等の防水工事、照明設備の更新、
審議組織、並びに、継続的改善に必要な仕組みに関して諸規
電気設備・消防設備の改修を実施したほか、IP 電話の導入な
定の制定・改正を 21 年度末に実施し、今後 ISO9001 相当の
どの構内環境整備工事を実施した。
安全管理システムを段階的に導入していくこととなった。
2.
人事に関する計画
人事制度を適切に運用するため、人事評価制度の定着を行
うとともに、職員の意識向上のため、各階層別における研修
を行った。また、評価昇給制度を導入し、勤務成績が処遇に
反映された。
新規採用職員の質的向上を図るため、就職ウェブサイトの
掲載や就職説明会を行い、機構の概要や求める人材像をア
ピールすることによって、応募者の増加及び内定辞退者の減
少に努めた。中途採用職員についても技術系職員等、充当が
必要な部署への要員確保を行った。
研究者についても、各研究センターにおいて適切な処遇に
配慮しつつ、優れた研究者を任期制職員として採用した。
3.
能力発揮の環境整備に関する事項
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成
13 年法律第 140 号)、独立行政法人等の保有する個人情報の
保護に関する法律(平成 15 年法律第 59 号)等の法令につい
て説明会を実施するなど、職員の意識向上を図った。
コンプライアンスやリスクマネジメントに関する講演会
を開催するとともに、機構における取組や基本方針等を記載
した「コンプライアンスガイドブック」を発行、役職員へ配
付するなど、コンプライアンスやリスクマネジメントについ
て役職員の理解増進を図った。
ハラスメント及びメンタルヘルスに関して、セクハラ理解
度に関するアンケート調査の実施、各拠点(むつ、高知)に
対する個別のパワハラ講習の実施、セクハラ相談員に対する
- 127 -
第 3 章 賛助会会員
1. 賛助会会員と寄付者名簿
賛助会に関するお問い合わせは、下記までお願いします。
独立行政法人海洋研究開発機構は、平成 16 年 4 月 1 日に、
独立行政法人海洋研究開発機構
海洋科学技術センターと東京大学海洋研究所の一部(学術研
総務部
東京事務所
究船運航業務)を引き継ぎ、新たなスタートを切りました。
住所:〒105-0003
当機構は、海洋・地球・環境分野の中核的研究機関としての
日比谷セントラルビル 6 階
研究活動、地球深部探査船「ちきゅう」及び研究調査船 7 隻
電 話: 03(5157)3901
の運航、地球シミュレータの運用と活用、有人潜水調査船「し
F A X: 03(5157)3903
東京都港区西新橋 1-2-9
んかい 6500」の運航、海洋探査技術の開発等を行っておりま
す。また、当機構は、国内外の海洋関係機関との連携・協力
平成 21 年 8 月 31 日現在、賛助会に加入されている次の企業
や国際共同研究への積極的参加による国際貢献を推進し、外
及び団体の皆様から賛助会費、ご寄付による当機構への支援
部に開かれた研究環境を整備して、国際的な海洋研究開発の
をいただいております。
センター・オブ・エクセレンス(中核的研究拠点)を目指し
ております。
当機構の研究活動について、幅広くご理解ご支援をいただ
くため、賛助会制度を設けており、なるべく多くの方に賛助
会に加入していただくとともに、賛助会費の増額をお願いす
る次第です。ご賛助いただきました企業と団体の方々には、
特許の優先的な使用等出来る限りのご便宜をお図り致します。
また、賛助会費(寄付金)については、従前通り法人税法第
37 条により優遇措置が受けられます。
ご賛助をいただきました企業と団体には、当機構の事業では、
次のような特典を設けております。
・共同実験研究施設の使用の優遇
・研修受講の優遇
・技術指導等のための専門家の指導者の派遣
・社内研修会等への講師の派遣
・試験研究の受託の優遇
・出版物の配布(ブルーアース、なつしま等)
・図書等情報資料の利用
・講演会の開催案内
・工業所有権の使用の優遇
- 128 -
株式会社 IHI
シュルンベルジェ株式会社
日本電気株式会社
株式会社アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド
株式会社商船三井
日本ヒューレット・パッカード株式会社
株式会社アイケイエス
社団法人信託協会
日本マントルクエスト株式会社
アイワ印刷株式会社
新日鉄エンジニアリング株式会社
日本無線株式会社
株式会社アクト
新日本海事株式会社
日本郵船株式会社
株式会社アサツー ディ・ケイ
須賀工業株式会社
株式会社間組
朝日航洋株式会社
鈴鹿建設株式会社
濱中製鎖工業株式会社
アジア海洋株式会社
スプリングエイトサービス株式会社
東日本タグボート株式会社
株式会社アルファ水工コンサルタンツ
住友電気工業株式会社
株式会社日立製作所
泉産業株式会社
清進電設株式会社
株式会社日立プラントテクノロジー
株式会社伊藤高壓瓦斯容器製造所
石油資源開発株式会社
深田サルベージ建設株式会社
株式会社エス・イー・エイ
セナーアンドバーンズ株式会社
株式会社フジクラ
株式会社 NTT データ
株式会社損害保険ジャパン
富士ゼロックス株式会社
株式会社 NTT データ CSS
第一設備工業株式会社
株式会社フジタ
株式会社 NTT ファシリティーズ
大成建設株式会社
富士通株式会社
株式会社江ノ島マリンコーポレーション
大日本土木株式会社
富士電機システムズ株式会社
株式会社 MTS 雪氷研究所
ダイハツディーゼル株式会社
物産不動産株式会社
有限会社エルシャンテ追浜
大陽日酸株式会社
古河総合設備株式会社
株式会社 OCC
有限会社田浦中央食品
古河電気工業株式会社
沖電気工業株式会社
高砂熱学工業株式会社
古野電気株式会社
株式会社海洋総合研究所
株式会社竹中工務店
松本徽章株式会社
海洋電子株式会社
株式会社竹中土木
マリメックス・ジャパン株式会社
株式会社化学分析コンサルタント
株式会社地球科学総合研究所
株式会社マリン・ワーク・ジャパン
鹿島建設株式会社
中国塗料株式会社
株式会社丸川建築設計事務所
株式会社川崎造船
株式会社鶴見精機
株式会社マルタン
株式会社環境総合テクノス
株式会社テザック
株式会社マルトー
株式会社関電工
寺崎電気産業株式会社
三鈴マシナリー株式会社
株式会社キュービック・アイ
電気事業連合会
三井住友海上火災保険株式会社
共立インシュアランス・ブローカーズ株式会社
東亜建設工業株式会社
三井石油開発株式会社
共立管財株式会社
東海交通株式会社
三井造船株式会社
極東貿易株式会社
洞海マリンシステムズ株式会社
三菱重工業株式会社
株式会社きんでん
東京海上日動火災保険株式会社
株式会社三菱総合研究所
株式会社熊谷組
東京製綱繊維ロープ株式会社
株式会社森京介建築事務所
クローバーテック株式会社
東北環境科学サービス株式会社
八洲電機株式会社
株式会社グローバルオーシャンディベロップメント
東洋建設株式会社
郵船商事株式会社
京浜急行電鉄株式会社
株式会社東陽テクニカ
郵船ナブテック株式会社
KDDI 株式会社
東洋熱工業株式会社
ユニバーサル造船株式会社
株式会社ケンウッド
有限会社長澤工務店
レコードマネジメントテクノロジー株式会社
株式会社構造計画研究所
株式会社中村鉄工所
神戸ペイント株式会社
西芝電機株式会社
広和株式会社
西松建設株式会社
※平成 21 年 12 月 1 日現在(五十音順)
国際気象海洋株式会社
日油技研工業株式会社
国際警備株式会社
株式会社日産クリエイティブサービス
国際石油開発帝石株式会社
ニッスイマリン工業株式会社
国際ビルサービス株式会社
ニッセイ同和損害保険株式会社
五洋建設株式会社
日本 SGI 株式会社
相模運輸倉庫株式会社
日本海洋株式会社
佐世保重工業株式会社
日本海洋掘削株式会社
三建設備工業株式会社
日本海洋計画株式会社
株式会社ジーエス・ユアサテクノロジー
日本海洋事業株式会社
JFE アレック株式会社
社団法人日本ガス協会
財団法人塩事業センター
日本興亜損害保険株式会社
有限会社システム技研
日本サルヴェージ株式会社
シナネン株式会社
社団法人日本産業機械工業会
清水建設株式会社
日本水産株式会社
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