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デジタル時代のホタル撮影. 村上光正・江藤正義・山口茂六・木下一成
全国ホタル研究会誌,(40):14-18,(2007) デジタル時代のホタル撮影 村 上 光 正 。江 藤 正 義 ( 兵庫県姫路市) ・ 山 田 茂 六 。木 下 一 成 ( 兵庫県加古川市) は じめ に 情報機器 とソフ トの発達 はす ば らしい ものが あ り,今 や デ ジタル の時代で ある。 デ ジタル 化 はアナ ログの時代 には考 え ら れ なか った よ うな高度情報化 をもた らし, 人 々の 生活 を大 き く変 えて きた。 ホタル の 写真 は フ ィルム ー 眼 レフカ メ ラ (以下 フ ィルム カメラと略称)で 撮影 されて きたが ,デ ジタル ー 眼 レフカ メラ (以下デ ジカ メと略称)を 利用す る人 も 出て きた。 しか しなが ら,デ ジカ メには 長短所が あ り,フ ィルムカ メラと同等条 件で撮影 して も同 じきれ いな写真 にはな らな い。 もう一 つ の 問題が ある。デ ジタル 化 に よつて ,写 真 の合成や改造 が 自由に出来 るよ うにな った ことで あ る。Web上で は 合成写真 を競 う者 も少な くな い。合成や 加工 ・改造技術 は 留 まる ところを知 らな いだ けに,従 来 の写真 とそれ らとを交通 整理す る必 要が出て きた と考 える。 我 々 はホタル 撮影条件 につ いて研 究 し て きた。 本報告 はデ ジタル 時代 の写真撮 影 は如何 にあるべ きか ,写 真 と合成写真 等 を どのよ うに区 分す べ きか を検 討 した もので ある。 1.デ ジカメ による撮影方法 従来 フ ィルムカ メラは撮影条件, 特 に 露 出時 間が現像 しな けれ ば決 め られな い ため非常 に面倒 であった。 これが デ ジカ メにすれ ば直 ち に結果 が分か り, 撮 影条 件 を直 ぐに変更 で きる。 このす ば らしい 長所が ある反面 , 暗 夜撮影 は ノイ ズのた め長時 間露 出が 出来な い, 色 調 の深 みや コ ン トラス トが不足す るな ど問題点が沢 ` 山ある。 これ を どのよ うにか い くくって ホタル の撮影 をす るかが 課題 で ある。 (1)機 材 基本 的 には フ ィルムカ メラに類似 して いる。必要機材 を表 1 に 示す。 まず カ メ ラ本体 であるが コ ンパ ク トデ ジカ メは使 えな い。我 々 はあ らゆる努 力を して きた が , 空 の 星は撮影 で きて もホタル は無理 で あった。広 角である こと, 暗 闇撮影時 の ノイ ズが大 き い ことな どが原 因 である。 高価 で ある必 要はな いが 一 眼 レフが必 要 である。 レンズは5 0 m m , F l . 4 の標準 レンズ を基 本 とす る。広 角 レンズはホタルが 屑糸 の よ うに写 って しま うので適 当で はな い。 暗 い レンズ も使用 し難 い。従来, ホ タル 写真 は難 しい といわれて いたのは, 広 角 や暗 い レンズを用 いた ことが主 因 と考 え られ る。 デ ジカ メの場合 は特 に明 るい レンズで -14- I S O を抑 えて 撮影 す るのが きれ い な写 真 を撮 る コ ツで あ る。 暗 い レンズで I S O を 高 くして撮影す る とノイズがひ どくな る。 なお, デ ジカ メの販売セ ッ トではズ ー ム レンズが 多 いが , ズ ー ム は F 値 が高 く暗 い こと, 距 離 目盛 りがな いのが 普通で あ るので 使 えな い ことが 少な くな い。注意 が必 要で ある。 マニ ュアル の 中古 レンズ が安価 で よ い。 表 2,飛 翔撮影の基本 撮影 1街 中や郊外 な ど明 るい場 ISO I IS0400 撮影時 間 1数 ド ランス │ オ ホワイト 分以 内 ー トよ り太 陽光モー ド が よ い。 表 1 . デ ジカメ撮影の基本機 材 機材 カ メ ラ本体 ピン ト 1近 フラ ッシュ 1接 内 容 デ ジタル ー 限 レフ。 コ ン パ ク トデ ジカ メは不可。 レンズ くは避 ける。 写な ど特 殊撮影以外 は 使用 しな い。特 に観賞地 では使用禁止。 標 準 5 0 m m , F l . 4 。広 角 レ ンズは原則 使用せ ず, 距 離 目盛 り必要。 こ脚 安定 した もの 黒布 ベ ンライ ト 何 で も良 い タイ マ ー 暗 闇で操作 で きる もの。 予備電池 電池 の消耗が激 しい。 赤 フ ィル ムで 覆 う。 手元 を見 る。 ( 2 ) 飛 翔 ホタル撮影 の基 本 ○相反則不軌 特性がな い 基本条件 を表 2 に 示す。 まず 撮影 場所 を選 ばな けれ ばな らな い。デ ジカメは フ ィルム にある相反則不軌特性 ( 明るす ぎ る時 と暗す ぎる時 に感度が低下す る性 質) がな いため・ホタル 撮影 で は , ホ タル と 背 景 の コ ン トラス トが つ きに くい。 ホタル 撮影 で は露 出時間が長 いが ホタ ル ー つ 一 つ の輝 きは短時間で ある。 とこ ろが 背 景は長時間 露 出 され るためア ンバ ランス にな りやす い。街 中な ど明 るい場 所 で は背景 が 強調 されて しまうので ある。 相反則不軌 は , こ のア ンバ ランス を補正 す る もの で あ り重要な特性 で ある。デ ジ カ メには これがな い。 この 点か ら, 長 時 間露 出は止 め, 出 来 る限 り明 るい レンズ を使 う必 要がある。 さ らに, 人 の 目が, この特性 に類似 して いる ことに留意 しな けれ ばな らな い。 -15- ○最大露 出時間 人の 目は暗 闇 では色が分か らず, 視 力 が 弱 い。背 景は無色でぼけて いて , ホ タ ル は鮮 明な色 とい うのが人間の感覚 であ る。ホ タル撮影 にお いて 背景が無色 と有 色 の境 目を, 最 大露 出時 間 と定義 した。 そ の 一 例 を表 3 に 示す。 この表 の範 囲 内で露 出を選ぶ の がよい。なぜな らば, 最大露 出時間内 の場合, 背 景 は薄 くばん や りと写 るが , 人 の 目もそ のよ うに見 え るのが 普通 だか らである。 ① ノイズ 対策 デ ジカ メは暗 闇撮影 では ノイズが 乗 り やす い。そ こで , 出 来 るな らば短時間 , 低 I S O で撮影す る。 ノイ ズ レダク ション モ ー ドで撮影すれ ば露 出時間 を延 ばせ る が , 平 均化 による曖昧 さが 増 え る ことに なる。 出来 るだ け短時間, 出 来れ ば 2 ∼ 3 分 以 内 とした い。 結果 として , 暗 闇で, 飛 翔密度が高 い ところを探 し出す のが 最 も重要 とい うこ とにな る。そ して , 明 るい レンズを使 い , 短時間露 出で写す ので ある。幸 い, こ の 条件 は相反則不軌 の ところで 述 べ た もの とも合致す る。 ○長時間露 出 は フ ィル ムカメ ラ 5 分 以 上の長時間露 出す る撮影 は原則 として フ ィルムカ メラに譲 らな けれ ばな 表 3,最 大露 出時間 (Fl.4, iS0400換算) 条件 上弦 の 月 満月 最大露 出時 間,秒 15 6 180 田圃地帯 の 川, 土 手 の 中 々 0 田舎 の 原 っぱ, 色 な街灯 あ り 10 同町 中 の 日本庭 園 150 同 上 , 樹 木が覆 い被 さった 暗 闇空 間 山間地谷筋 の 闇夜 , 谷 間渓谷 3 0 0 0 ,二 次 L 5 0 0 0 , _ 次 L 渓谷 二 日月 ( 渓谷) 600 三 日月 ( 渓谷 の 杉林 内) 7000,ス ニ L 上弦 の 月 ( 渓谷) 500 月齢 1 1 日 ( 渓谷) 360 1 1 日 の 月齢 7 0 0 0 , _スL ( 渓谷 杉林 内) 景色が薄暗 く写 り,少 し色がで る程度 までの 時間 とした。 ホタル の光 工 八litl工▼ 背 \ 感 度 ホタルは感度 良 く写るが背景は悪い → シ ャー プな写真 光 牟 ∞ 秒 量 図 1 . 相 反則不軌特性 天候 8青 8青 薄曇 , 闇 夜 曇,闇 夜 晴,闇 夜 晴,闇 夜 薄曇 , 闇 夜 曇,闇 夜 曇 , 月 は山 陰 曇 , 月 は山 陰 晴 , 月 は梢 陰 ]青, 月 は 梢 陰 晴 , 月 は梢 陰 ィル ム 写 真 と同 じ太 陽光 モ ー ドが よ い 。写 真 全体 を 自 動 で フ ィル タ ー 調 整 す るの が オ ー トモ ー ドで あ るが , ホ タル写 真 の 様 な 限定 され た 世界 で は 暖 色 系 に偏 り易 く, 不 自然 にな る。 結 局 , 無 調整 が最 も 目の 感 覚 に近 く, 特 別 の フ ィル タ ー を使 わ な い , す な わ ち太 陽光 モ ー ドが適 当 と い う ことにな る。 らな い。 この 場合 , デ ジカ メで 露 出時間 を決め , フ ィルムカ メラで 撮影す る とい うよ うな方法 も有用で ある。 フ ィルムカ メラの漆黒での撮影 は , 3 0 分以上 の露 出で も何 ら問題 が無 く, 沢 山 の ホタル を納 める ことが 出来 るが , デ ジ カ メは これが 出来な い。 まず は , 沢 山 飛 んで いる場所 を見つ けるのが最 も重要な 条件 とな る。 低密度 の 飛翔 をあたか も乱 舞 の ごと く撮影す るのは 問題 ともいえる か ら悲観す る ことで はな いが ・・・ ○絞 りは F l . 4 ∼ 2 フ ィルムカ メラではF 4 ∼ 5 . 6 とし露 出 時 間 を長 くして沢 山のホタル を撮影 す る 方法 と, F l . 4 ∼ 2 と して 明 る くコ ン トラ ス トの明確 な美 しい画 像 を求 め る方法が あるよ うだ。著者 らは後者 で撮影す る。 デ ジカ メは必然的 に後者 を選ぶ ことにな る。 F l . 4 で 撮影 す る と, 遠 くのホ タル も写 るので , 遠 近感が出た華や かな 写真 とな る。 ○ ホ ワイ トバ ラ ンスは太 陽光 モ ー ド ホ ワイ トバ ランスは , 通 常昼 間 の 撮影 で はオー トで撮影 す るが , 我 々の 多 くの 撮影経験か らい え ば, ホ タル撮 影 で は フ ○慈 しむ撮 影 を なお , デ ジカ メ, フ ィル ムカ メラの何 れ につ いて も言 える ことで あるが, 撮 影 は学術 目的の場合 を除 いて , ホ タル達 に - 1 6 - ス トレス を与えな いよ う最大限の注意 を 払 うべ きで ある。捕 まえて きて カメ ラの 前 に置 く, 強 い光 でホタル を驚 かす ) 草 む らを踏み荒 らす等 は避 けるべ きで ある。 た とえば草む らを踏 み荒 らす と, 次 の 日 はホタルが 壊滅 的打撃 を受 ける こと を 2 度見て きた。 どのよ うに自然の ままのホ タル を撮影 す るか, 見 た 目に近 い撮影 を す るか を心 が けるべ き, とい うのが我 々 の立 場で ある。 写真 1 . 水 田地帯の藪のホタル トンネル ( カメラ N i k o n D 5 0 , 5 0 m m 標 準 レンズ F l . 4 , 3 分 , ホワイ トバ ラ ンスオ ー トのた め暖色 系 とな った) 2 . ホ タル 写真 と合成写真 等 の分類 デ ジタル 化 は , 便 利 さを もた らして く れ る と同時 に, や っか いな問題 も持 ち込 んだ。 写真 の 世界 では従来簡単 には 出来 なか った 合成や改造 が, い とも簡 単 に 出 来 るよ うにな った。 もちろんそれ は , 新 しい芸術 の 分野 を切 り開 くもので もある。 逆 にい うな らば, 従 来 の写真 に比 べ よ り きれ い な作 品 とな るた め , 混 乱 を来す こ とを心 配 しな けれ ばな らな くな った。 こ の 問題 はデ ジカ メだ けで はな い 。 フ ィル ム 写 真 もス キ ャナ ー の 普 及 によ ってデ ジ タル化 で き る よ うにな ったた め 同 じ問題 を抱 え る ことに な った。 何 れ い ろ い ろ議 論 を重ね て , こ れ らの 交 通 整 理 を行 わね ばな らな い が , 発 議者 と して , これ らを 「 写真」 と 「 合成写真 等 J の 2 つ に分 け る こ とを提 案 す る ( 表 4)。 ○ 写真 真 実 を写 す こ とを最 重 要視 す る。 従 来 の 「 写 真 」 を指 す もので あ る。 分類 に必 要 な 要 件 は次 の とお りで あ る。 ・ワ ン シ ャ ッタ ー に 限 る。 これ が も重 最 要 で あ る。 重ね 撮 りや 合 成 は 不 可。 ・撮 影 時 , フ ィル ム カ メ ラの フ ル タ ー ィ や デ ジカ メのホ ワイ トバ ラ ンス 調整 は可 とす る。 ・印画紙 焼 き付 け時 に濃 淡 調整 は可 とす る。 ○ 合成 写真 等 ま とめ て イ ラス トと い う こと も出来 る が違 和 感 を持 つ 人 も い よ う。 要 はホ タル を素 材 と して , 重 ね 取 り, 合 成 , 改 変 , 改 造 な どを行 って 芸術 性 や 美 しさ を 狙 つ た作 品群 で あ る。 この 区分 で は 一 切 の 条 件 はな く, 今 後 もます ます 多様 な 手法 が 生み 出 され る もの と考 え られ る。 ・公表 時 の 要件 表 4.ホ タル写真 の分 類 分類 写真 合成写真等 ( イラス ト) 内 容 ワンシ ャ ッター に限 る。重ね 撮 りや合成 は不可。 撮影時 の フ ィル ター や ホ ヮイ トバ ランス 調整 は可 印画紙 焼 き付 け時 に濃 淡調整 は 可 ・ホ タル を素材 と して , 重 ね 撮 り , 合 成 , 改 変 , 改 造 な どを行 っ て 芸術性 や 美 しさ を 狙 った作 品群 ・手法 に 一 切 の 条 件 はな く, 今 後 多 様 な手 法 が 生 み 出 され るで あ ろ う。 ・ 「 合 成 写 真 」 とい う言 葉 は 使 用 で き るが 「 写 真 」 は不 可 。どの よ うな 手 法 を用 い た か を明 記す る こ と。 -17- 「 合成写真」 とい う言葉 は使用で きる 「 が 写真」 といって はな らな い。 また , どのよ うな手法 を用 いたか を明記 しな け れ ばな らな い。合成写真やイ ラス トと明 記 しな いまま公表す る と, 他 の者が写真 と混 同す る可 能性 が ある。実際 自 らの 区 分 をホタル イ ラス ト, ホ タル芸術作 品な どと命名す るのが 困難な場合, 制 作技法 を明記す る ことが 公表す る者 に とって も 助 けにな るで あろ う。 3 . おわ りに 時代 の変化 は急 である。ホタル 愛好家 も, そ の荒波 をかぶ らざるを得な い。本 報告 は 普及 して きたデ ジタル ー 眼 レフを 用 いた撮影術 につ いて我 々の考 えを述 ベ た。 さ らに, デ ジタル化 が もた らす ホタ ル 写真 へ の影響 と分 類 につ いて議論 した 特 に後者 につ いて , 今 後議論 が進 む こと を期待す る。 - 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