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経営計画書作成シートの活用のすすめ
経営計画書作成シートの活用のすすめ 1.経営計画書の重要性 本来、経営計画書は、金融機関の融資を受けるのが目的で作成されるものではなく、 実りある経営をするために経営者が自らのために作成するものです。 会社というのは、絶えず変化する環境の中で事業を行っており、栄枯盛衰の波にさ らされています。その中で、ただ漫然と日常の業務に従事している会社と、目標をも って計画的に経営行動をとる会社とでは数年後に明白な格差が生じます。 経営努力によって自分の会社を今よりも優れた会社にしたいと考える経営者は、経 営計画を立てて会社の将来像を明確にし、その実現のために行動をしていくはずです。 また、会社に資金を提供する金融機関は、将来において今よりも立派な会社になり 得る会社を信用し、そのような会社に対しては積極的に資金を融資しようと考えます。 したがって、自社をより優れた会社にするという観点と、金融機関が信用するに足 る会社を作るという双方の観点により、経営計画書が作成されます。 2.経営計画書作成シートの利用方法 経営計画書作成シートは、数枚のワークシートに必要事項を記入することで、表紙 を含めた3ページにわたる経営計画書を作成できるツールです。 このツールには、 「短期経営計画書作成シート」 (以下「短期計画」という。)と「中 期経営計画書作成シート」(以下「中期計画」という。)の二種類があります。「短期 計画」は、今後の1年間の経営計画書を作成するためのツールであり、「中期計画」 は、将来の5年間の経営計画書を作成するためのツールです。 それぞれの入力内容については、 「短期計画」では将来1年間の計画を入力し、 「中 期計画」では将来5年間の計画を入力することになりますが、それ以外の点は「短期 計画」も「中期計画」も以下に説明するとおり、同じ要領で作成されます。 (入力の要領) 入力画面は5つあります。 ① 会社データと当期経営計画の概要入力 ② 貸借対照表入力 ③ 投資・財務計画入力 ④ 予想損益計算書と利益処分のデータ入力 1 ⑤ その他のデータ入力 各々の入力画面のデータ入力欄には、2色の色が付いています。その着色されたデー タ記入欄に必要事項を入力することによって経営計画書が作成されます。 その2色ですが、水色の入力欄は、主として過去の実績データを入力するためのもの で、クリーム色の入力欄は、主として将来の計画データを入力するためのものです。 その記載内容について、順を追って説明しましょう。 ① 会社データと当期経営計画の概要入力 当該概要入力のタブをクリックし、当該概要入力画面の入力を行ってください。 まず、水色の入力欄には、会社名、住所、及び直前事業年度の決算年月日を入力し てください。 次に、クリーム色の入力欄には、「売上計画の概要」、「経費計画の概要」、「投資計 画の概要」のそれぞれを 200 字以内で具体的に入力してください。また、補足するこ とがあれば、「その他」の入力欄に入力してください。 計算の入力に当たっては、①何をいつまでにどのようにするのか、②なぜそうしな ければならないのか、③そのためにどうするのか、を具体的に明らかにしてください。 なお、200 字以内で書ききれない場合は、別紙に記載して添付してください。 ② 貸借対照表入力 貸借対照表入力画面のタブをクリックしてください。 貸借対照表入力画面では、まず冒頭の金額の単位(円、千円又は百万円)を入力 つしてください。ここで入力した単位は経営計画書全般に共通する単位になります ので、貸借対照表だけでなくその他のデータ入力の金額についても、同一の単位に て入力することになります。 次に、貸借対照表の水色の入力欄に前期末と前々期末の実績データを入力してく ださい。 ③ 投資・財務計画入力 投資・財務計画入力の画面では、画面の指示に従って、有価証券、固定資産、貸 付金等の増減に関する計画値を入力してください。 ④ 予想損益計算書と利益処分のデータ入力 予想損益計算書と利益処分のデータ入力では、まず水色の入力欄に直前事業年度 の損益計算書データを入力してください。なお、損益計算書の入力画面の中で入 力画面に勘定科目のない場合には、 「その他:」と明記された入力欄に科目名と金 額を入力してください。 次に、将来における計画値を入力してください。 ⑤ その他のデータ入力 その他のデータ入力では、売上債権回転率等をはじめとする4種類のデータ入力 2 を行います。画面の指示に従って、入力してください。 上述した①から⑤までのデータ入力が完了したら、出力書類のタブをクリックし、 出力画面を開いてください。そして、出力画面の印刷処理を行ってください。 短期経営計画書又は中期経営計画書が印刷されます。 ① 予想貸借対照表、予想損益計算書 ② 予想キャッシュ・フロー計算書、計画に関する説明 ③ 各種経営指標の推移予想 ここで、その経営計画書が会社の経営計画として妥当なものかどうかを検討してくだ さい。その中で、下記の点については十分に検討する必要があります。 (1)「経営計画の概要」で入力したすべての目標を達成しているかどうか。 もし、目標を達成できていないものがあれば、設定した目標を安易に変えることな く、どうすれば設定した目標を達成できるかをよく検討して、目標達成のための計画 を練り直してください。 (2)資産や負債の残高がマイナスになっていないかどうか。 例えば、現預金の残高がマイナスになるような場合は、どこかで借入れをするとか、 増資などによって、預金残高のマイナスを回避する計画を織り込むことが必要です。 自社の将来において、どの時点で資金不足が生じ、これにどう対処するかは、極めて 重要な点です。 注意点 このような検討を重ねて、一度入力したデータを修正したり再入力したりするという 作業を通じて、経営計画書ができあがります。 ここで注意しなければならない重要な点は、経営計画書の作成を単なる書類の作成で 終わらせないということです。 経営計画書を作成するのは、金融機関向けの体裁を取り繕うために行うのではなく、 自分の会社を良い会社にしていくための手段であると位置付け、これを会社経営に生か す必要があります。 3.経営計画の作成の効用 経営計画の作成は、当然自社の経営を良い方向に導くために行うものです。 その最大の効用は、会社の目標を達成するためには、どのような経営行動が求められ るかを考える点にあります。 そこで、販売活動をどうすべきか、仕入や経費の発生態様をどのように考えるかを真 剣に検討するという過程を通じて、経営者の意思決定が、良い方向に向かうようになり 3 ます。 例えば、設備投資が必要と思われる場合において、その投資によっていくらの収益増 が見込まれ、その結果会社の将来の業績や将来のキャッシュ・フロー、将来の貸借対照 表がどのように変貌していくかが勘案され、その結果として設備投資をするかしないか が決定されます。これは非常に重要な事柄です。 何のための設備投資か、その投資によってどんなメリットがあるのか、その点を認識 しないで設備投資に踏み切る中小企業経営者が、案外多いものです。しかしながら、設 備投資の意思決定は極めて重要な事柄であり、会社の命運を左右することも少なくあり ません。 近年の会社の倒産事例の中にも、設備投資の失敗による倒産劇が目立ちました。その 多くは将来の利益予測も曖昧なままに、巨額の投資に踏み切ったという悲劇も少なくあ りませんでした。その点経営計画を作成する会社は、安易な投資で後に資金が逼迫する 危険を回避する力があるといえます。 また、経営計画を立てることによって、経営上の様々な課題に関する問題意識が高ま ることもその効用の一つです。 経費の削減をとっても、経営計画を立案すると削減できる経費と、どんなことがあっ ても削減できない経費があることがわかります。 その代表的な例が支払利息です。支払利息は、金融機関からの借入金を減らさない限 りは削減できません。また、固定資産税なども固定資産を手放さない限りにおいては、 不可避的に生じるものです。 このようなコストを管理会計では、コミッテッド・コストといいます。コミッテッド・ コストは、過去における意思決定(投資とか借入れの実施など)によって、不可避的に 生じるもので短期的には削減が不可能です。 それに対して、例えば広告宣伝費などは、短期的な削減が可能です。このようなコス トを、マネジド・コストといいます。 経営計画を作成すると、自社のコストの発生態様も深く経営者に理解されることとな り、これにより経営を良い方向に導くことが期待されます。 このように、経営計画を作成し金融機関に提出し、更に経営に生かしていくことは、 金融機関による会社の評価を高め、また自社の経営を良い方向に導くものであるので、 中小企業の経営者はこれを活用しその大きな利点を享受すべきです。 そのためには、決して安易な経営計画を作ることなく、従業員や得意先や顧問の公認 会計士等から衆知を集めて、経営者自身も深く考えてこれを作成し会社経営を向上させ るツールとして活用することが求められます。 (注)キャッシュ・フロー計算書については、経営計画の作成を容易にするために、税引前当期純利益よ り法人税支払額を差し引く本来の表示方法を省略し、税引後当期純利益を冒頭に記載した方式によ 4 り表示することとしています。 5 4.経営計画書に表示される各種経営指標 経営計画書には、将来の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書(下記 経営指標の表では、「CF」という。)のほかに、各種の経営指標が計算される仕組みに なっています。各々の経営指標の内容は以下のとおりです。 計 売上総利益 率 売上高営業 利益率 売上高経常 利益率 売上高純利 益率 売上原価率 = = = = = 算 式 指標の意味 売上に占める売上総利益の 売上総利益 ×100 売上高 割合を示し、利幅の厚さを示 す。 売上に占める営業利益の割 営業利益 ×100 売上高 合を示し、営業活動における 利幅の厚さを示す。 売上に占める経常利益の割 経常利益 ×100 売上高 合を示し、事業活動における 利幅の厚さを示す。 売上に占める当期純利益の 当期純利益 ×100 売上高 割合を示し、正味の利益にる 利幅の厚さを示す。 売上に占める売上原価の割 売上原価 ×100 売上高 合を示し、粗利益の獲得に関 する費用の大きさを示す。 良否の 判断 比率大 ○ 比率大 ○ 比率大 ○ 比率大 ○ 比率小 ○ 売上に占める販売費及び一 売上販管費 率 販売費及び一般管理費 = 般管理費の割合を示し、販売 比率小 管理活動における経費の大 ○ ×100 売上高 きさを示す。 売上債権回 転率 = 売上債権の回転速度を示す。 売上高 比率が大きいほど、債権回収 受取手形+売掛金 が早いことを意味する。 6 比率大 ○ 計 棚卸資産回 転率 = 固定資産 回転率 算 式 指標の意味 棚卸資産の回転速度を示す。 売上高 比率が大きいほど、在庫が滞 棚卸資産 留しないことを示す。 判断 比率大 ○ 固定資産の回転速度を示す。 比率大 売上高 = 良否の 比率が大きいほど、遊休設備 固定資産 ○ や過大投資などの問題が小 さいことを示す。 総資本経常 利益率 売上高成長 率 営業利益 成長率 経常利益 成長率 経常利益 総合的な収益力を示す指標 = として用いられる。 総資本 = = = 比率大 ×100 売上高の前期比での伸び率 当期売上高−前期売上高 ○ 比率大 ×100 を示す。 前期売上高 営業利益の前期比での伸び 当期営業利益−前期営業利益 ○ 比率大 ×100 率を示す。 前期営業利益 経常利益の前期比での伸び 当期経常利益−前期経常利益 ○ 比率大 ×100 率を示す。 前期経常利益 ○ 当期純利益−前期の当期純 当期純利益 成長率 営業 CF 成長率 = 当期純利益の前期比での伸 利益 び率を示す。 前期の当期純利益 = 比率大 ×100 当期営業 CF−前期営業 CF ○ 営業 CF(営業活動による CF) 比率大 の前期比での伸び率を示す。 ○ ×100 前期営業 CF 計算式 指標の意味 7 良否の 判断 フリー CF(営業活動による CF フリー CF 成長 率 当期フリー CF−前期フリー CF = と投資活動による CF との合 比率大 計)の前期比での伸び率を示 ○ ×100 前期フリー CF す。 会社の総資本のうち、自己資 自己資本 自己資本比率 = 本の占める割合を示す。高い 比率大 ほどに、財務基盤が強化であ ○ ×100 総資本 ると判断される。 流動資産と流動負債を相対 流動比率 的に比較した指標である。高 流動資産 = ×100 流動負債 いほど、流動負債の返済のた めの財源が十分に具備され 比率大 ○ ていると判断される。 流動比率の分子を、流動資産 に代えて、当座資産(現金預 現金預金+有価証券+ 当座比率 売上債権 = 金、有価証券、売上債権)を 比率大 用いた指標である。流動比率 ○ ×100 流動負債 の補助指標として用いられ る。 固定資産の購入財源として、 固定長期適 合率 固定資産 = 長期的に運用できる資金を 比率小 財源としているかどうかを ○ ×100 固定負債+資本 示す指標である。 固定長期適合率の分母より 固定負債を除外し、固定資産 固定比率 固定資産 = ×100 の購入が、自己資金によって どの程度賄われているかを 資本 比率小 ○ 示す指標である。 借入金の大きさを事業規模 借入金月商 倍率 = 借入金 (月商)と比較して、借入金 比率小 売上高÷12 が多すぎないかどうかを示 ○ す指標である。 計 算 式 指標の意味 8 良否の 判断 CF マージン = 営業 CF 売上高と営業 CF を相対比較 比率大 ×100 した指標である。 売上高 ○ 当期純利益と営業 CF を相対 営業 CF・当 期純利益比 = 比較したもので、数値が大き 当期純利益 ×100 営業 CF 率 いと、利益が大きいほどには CF があまりよくないことを 比率小 ○ 示す。 営業 CF と投資 CF(投資活動 営業 CF・投資 CF 比率 投資 CF による CF)の相対比較であ = 比率小 ×100 り、小さい方が資金繰りが楽 営業 CF ○ になっていることを示す。 営業 CF と設備投資の相対比 営業 CF・設 備投資比率 設備投資額 = 営業 CF ×100 較であり、小さい方が資金繰 比率小 りが楽になっていることを ○ 示す。 9