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環境技術研究所の取組みについて [PDF/1.29MB]

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環境技術研究所の取組みについて [PDF/1.29MB]
Interpretive article
環境技術研究所の取組みについて
R&D activities on the Environmental Engineering Research Laboratory
東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本研究開発センター 環境技術研究所 上席研究員
佐藤 春雄
In JR East Group, enormous energy, 5.06 billion kWh of electric power and 88 thousand kilo litters in oil
equivalent is consumed in train operation and stations. In order to construct the railway system with greater
consideration for the environment, the Environmental Engineering Research Laboratory has carried out Research and
Development focusing on “establishment of energy management” and “application of energy conservation technology
in railway systems”. In this article, Research and Development on energy and environment strategy by this laboratory
is introduced
1. はじめに
2. エネルギー・環境戦略の技術革新推進の課題
列車を運転し駅を運営することを通じて、輸送サービスを
エネルギー・環境戦略を具現化する技術革新を推進する
提供するのが鉄道事業といえます。JR東日本はこの鉄道事
にあたり、エネルギー発生の観点からは再生可能なエネル
業において、列車運転系における消費エネルギーと駅を始め
ギーの活用、エネルギー消費の観点からは、列車運転系・
とした建物系の消費エネルギーを合わせて、50.6億kwhの電
建物系の省エネルギー化、エネルギー消費・供給の観点で
力と燃料として原油換算で8.8万klという莫大なエネルギーを
はエネルギーを消費する負荷とエネルギー供給を一体運用し
1年間で消費しており、この内の約8割が列車運転系で消費
最適化を図るといったことが課題となります。
エネルギー・環境戦略の技術革新を推進する上での課題
されています。
環境技術研究所は、この消費エネルギーを減らすべく、
環境優位性の高い鉄道システムの構築をめざして、「エネル
ギーマネジメントの確立」と「省エネ技術の鉄道への適用」
を整理したものを図2に示します。
環境技術研究所ではこれらの課題を解決するための研究
開発に取組んでいます。
に関する研究開発に主として取組むとともに、JR東日本の「グ
ループ経営構想Ⅴ~限りなき前進~」に掲げられている、
「無
限の可能性の追求『「技術革新~エネルギー・環境戦略の
構築』」をめざして研究開発に取組んでいます。図1に、エ
ネルギー・環境戦略を具現化する技術革新のイメージを示し
ます。
3. エネルギー・環境戦略の技術革新実現への取組み
高性能蓄電池
再生可能エネルギーの導入
貯める
創る
3.1 再生可能エネルギーの活用
創エネ②
分散型電源
蓄エネ(蓄電・蓄熱)
太陽光発電等
発電効率向上
再生可能エネルギーには、太陽光、風力、空気熱等があ
回生電力活用
省エネ運転
創る
ります。再生可能エネルギーの定義を図3に示します。
使う
創エネ① 発電所
本項では、空気熱および地中熱を活用した研究開発につ
省エネ
供給と負荷を一体として
運用するシステム
(スマートグリッド)をめざす
火力発電所
図2 エネルギー・環境戦略の技術革新推進の課題
いて紹介します。
列車運転
駅
水力発電所
ビル
送電ロスの低減
一般ビルのエネルギー
消費低減
図1 エネルギー・環境戦略を具現化する技術革新
3.1.1 空気熱活用に関する研究
上越新幹線雪害対策設備の散水消雪設備の熱源として、
空気熱を有効利用したヒートポンプを活用する研究に取組み
JR EAST Technical Review-No.51
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非化石エネルギー源
冷房時:冷水
冷房時:冷却水 冷却・熱源水ポンプ
地中熱
暖房時:熱源水 (省エネ型ポンプ) ヒートポンプ 暖房時:温水
ボアホール
ID179mm
電気、熱又は燃料製品のエネルギー源として利用することができるもののうち、
化石燃料(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造さ
れる燃料であって政令で定めるものをいう。)以外のものをいう。
輻射パネル
再生可能エネルギー源
太陽光
風力
水力
地熱
太陽熱
大気中の熱その他の自然界に存する熱
バイオマス(動植物に由来する有機物であってエネルギー源として
利用することができるものをいう。)
ボーリング深度(約105m)
地中熱交換器(102m)
ストレッチ
フィルム及び
ビニルテープ結束
太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に
利用することができると認められるものとして政令で定めるものをいう。
1
2
3
4
5
6
7
冷温水ポンプ
温度計測用
パイプ(20A)
25Aダブル
Uチューブ
2号硅砂充填
挿入用おもり
ボアホール断面図
地中熱交換器
図5 地中熱ヒートポンプシステムの概要
3.2 省エネルギーへのアプローチ
※エネルギー供給構造高度化法
(エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律)
図3 再生可能エネルギーとは
省エネルギーに取組むには、まず、負荷の実態を知る必
要があります。
エネルギー消費構造は、
最初に提供すべきサー
ました。貯水槽の水を空気熱源式ヒートポンプで予熱するた
ビスがあり、これが車両や設備の機器容量を要求し、更にこ
め、ボイラの化石燃料の消費量の削減が図れます。また、
れがエネルギー消費を要求するという特徴を持ちます。負荷
予熱したエネルギーを最大限有効利用するため、既存ボイラ
を減らさずに、エネルギー消費だけを減らすことは出来ません
システムと複数台のヒートポンプを組合せた最適な制御方法
ので、負荷を知るための測定と評価、負荷を減らす工夫、
を開発し、長期耐久試験(2012年度~2014年度)を行ない、
更に負荷に見合った最適システムの構築というアプローチによ
ボイラの燃料消費削減とCO2排出削減に効果があることを確
り、省エネルギーを実現できます。
(図6) 本項では、この視
認しました。
(図4)
点に立って取組んでいる列車運転系の省エネ、建物系の省
今後、この成果の導入の検討を進めていきます。
五年消雪基地
ヒートポンプシステムの試作・試験
試験設備
高架上(散水消雪)
エネの研究開発を紹介します。
エネルギー使用
要求
加熱
空気から
採熱
機器容量
60HP×3台
空気熱源式ヒートポンプ
既存熱源(ボイラ)
要求
予熱
回収して再利用
河川より
省エネの第一歩は
・要求(負荷)を把握
・負荷を減らす
サービス・効用
(列車運転/建物)
効
果
生産熱量
ボイラ 76%
HP
24%
CO2排出量
灯油 329t-CO2
電気 削減
56
48
t-CO2 t-CO2
CO2排出量
約13%削減
図4 空気熱ヒートポンプの新幹線消雪への応用
図6 省エネルギーの基本視点
3.2.1 列車運転系の省エネに関する研究
列車走行時の運転エネルギー消費状況を分析するため、
3.1.2 地中熱活用に関する研究
電車の走行エネルギーや空調等の補機エネルギーの消費状
地中熱ヒートポンプシステムは、季節に関わらずほぼ一定
況を計測し、運転エネルギーの消費量低減(力行エネルギー
の地中熱により、ヒートポンプのエネルギー効率が高いため省
低減、回生エネルギーの増加・有効活用等)に向けた課題
エネ性が高く、また、排熱が地中のため環境に優しい特徴を
を明らかにすることに取組んでいます。
持っています。
運転エネルギーについては、以前に単線の相模線で測定
これまでの研究で地中熱ヒートポンプの省エネ効果を確認
を行っています。その計測手法を基に、測定条件が複雑な
する一方、運転時間が長くなると、地中の温度が上昇しヒー
山手線と高速かつ長距離を走行する新幹線の実態把握を行
トポンプの運転効率が低下するという課題が見出されました。
いました。
今後は研究開発センターの敷地内に設置した地中熱ヒートポ
ンプシステムの能力向上を図り、運転状況に応じて最適な地
中熱回復時間を確保し運転効率と地中熱利用量の最大化を
図る制御方法等の開発に取組みます。
(図5)
3.2.1.2 運転エネルギー定量化の取組み(在来線)
山手線での測定では、車両と変電所で同時に測定を行い
ました。運用されているE231系には列車情報管理システム
(TIMS)が搭載されており、このTIMSでは走行時に架線
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JR EAST Technical Review-No.51
解 説 記 事
Interpretive article
電圧や積算電力量を測定しています。この機能を活用して、
出精度に課題があり、計算値と空調設備の実稼働値に大き
一定期間の測定データを記録できるように記録装置を取付け
な乖離が発生していました。
た測定を実施しました。変電所では母線電圧とき電回線の
そこで、地下駅空調負荷解析の精度向上を図るために、
測定を行いました。この測定により、山手線一周分の力行、
トンネル内からホームに流入・流出する空気を、ホーム上での
回生および走行消費電力量、補機消費電力量が明らかとな
列車風の実測、数値流体力学による解析(移動物体CFD
り、山手線では回生率はほぼ一定であり、回生絞込みがほ
解析)や地下トンネル内の環境測定で高精度に解析し、また
とんど発生していないことから回生エネルギーが有効に使わ
冷房する空間をブロックに分け、ブロック毎にトンネルから入る
れていることが判りました。
(図7)
空気の影響具合を反映させる新たな計算モデルを考案する
今後は、架線電圧の挙動など更なるデータの分析を進め、
運転エネルギー削減、回生ブレーキ利用領域の拡大、省エ
ことにより、地下駅の省エネルギーにつながる「地下駅空調
負荷シミュレータ」を開発しました。
(図9)
開発したシミュレーションは、1面2線ホームの駅が対象のた
ネに最適な運転方法の確立に取組みます。
また、特急車や近郊運用での運転エネルギーの実態把握
にも取組んでおり、通勤線区での測定結果と合わせて省エネ
運転の実現に向けた検討に取組みます。
め、更に、2面4線ホーム駅に対応する負荷解析シミュレーショ
ンの開発に取組みます。
新たな計算モデル
山手線1周の運転エネルギー例
測定方法
変電所
トンネル内
概ね ℃程度
変電所
トンネル出口
補機
電力量
155kWh
力行電力量879kWh
回生電力量414kWh
き電線
トロリ線
走行消費電力量465kWh
⑩
T’
⑨
M
⑧ ⑦
M’ T ’
⑥
M
⑤ ④
M’ T
③
M
②
M’
①
Tc ’
列車風速(m/s)
移動物体
架線電圧
架線電圧
大品
崎川
東 上 田
京 野 端
池
袋
新 渋
宿 谷
大
崎
速度
大品
崎川
東 上 田
京 野 端
(a)力行モード
池
袋
新 渋
宿 谷
大
崎
速度( km/h
)
速度
記録装置設置イメージ
架線電圧(V)
速度( km/h
)
架線電圧(V)
(
解析
力行/回生時の架線電圧例
変電所
・TIMSを活用し編成一括で
データを計測・記録
トンネル部の壁面温度 サーモカメラ画像
年 月 日 外気最高気温 ℃
列車風の向き
・走行消費電力量=力行電力量-回生電力量
・回生率=(回生電力量/力行電力量)*100≒47%
E231系山手線
(10編成で実施中)
サーモカメラ
先頭車両
回生率 : 約47%
⑪
Tc
実測値の活用
列車風の実測 新日本橋駅
新たな計算モデル プラットホーム影響係数
(b)回生モード
より高精度に空調負荷を算出するシミュレータを構築
図7 山手線の運転エネルギー測定概要
図9 大規模地下駅空調の負荷解析の研究
3.3 省エネマネジメントの構築
3.2.1.2 運転エネルギー定量化の取組み(新幹線)
新幹線の測定は、E5系の情報管理装置(S -TIMS)の機
省エネマネジメントのサイクルは、エネルギーフローを「見
能を活用するとともに、
パンタ点電流をより正確に把握するため、
える化」し、
「分析・評価」から「省エネ提案」が出て、
「実
全ユニットの変圧器(MTr)1~3次配線に電流計と電力変換
施」される流れとなります。
(図10)
装置(CI)内に記録装置を取付けて測定を行いました。
(図8)
測定方法
AC25000V
マスコン
空調
S-TIMS記録器仮設
S-TIMS・空調ソフト変更
「見える化」
測定項目
主回路エネルギー:積算電力計で計測
運転状況、空調エネルギー等:S-TIMS機能を活用
積算電力計の仮設(各ユニット)
電流計: 次、 次、 次
電圧計: 次
ホーム照明の自動消灯・点灯化による省エネ効果
①積算電力計
・ 次電力
・ 次(力行・回生)電力
・ 次(補機)電力
②
・空調(冷房・暖房)電力
・運転指令、速度、走行位置 等
IM
補助
回路
積算電力計( 内)
分析・評価
支社管内のエネルギー見える化
電圧
積算電力計
電流計
図8 E5系の運転エネルギー測定概要
実施
その結果、定速制御による運転エネルギーが、全走行エ
省エネ提案
例:昼間時のホーム照明の消灯
省エネ委員会等への省エネ提案
ホーム照明
ネルギーの8割を占めることが判りましたので、今後は、定速
制御の省エネ化の開発に取組みます。
3.2.2 建物系の省エネに関する研究
従来の地下駅の空調負荷計算手法では、列車の運転に
伴い誘引する風(列車風)およびそれに伴う空調負荷の算
【実施前】
【実施後】
図10 省エネマネジメントサイクル
JR EAST Technical Review-No.51
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Interpretive article
ここでは、モデル支社内の省エネマネジメントモデルを構築
する研究開発の取組みを紹介します。
主回路用蓄電池の課題
・航続距離が短い
・電池が重く、大きい
・コストが高い
自動車用蓄電池セル
・高性能(エネルギー密度)
・大量生産によるコスト低減
・移動体用途での品質確保
新しい鉄道車両用電池を開発
・自動車用蓄電池セルの中から、
地方向け車両に適したセルを
選定
・鉄道車両用のモジュールを
開発し、現車相当での評価を
実施
3.3.1 モデル支社の省エネマネジメントの構築
大宮支社をモデルとして、変電所や一部の駅など主要箇
所の電力量データを計測して見える化を行い、支社内のエネ
ルギー量を把握して、分析・評価を行い、節電をさらに取り
組みやすくするための省エネマネジメントを構築する研究に取
組んでいます。
セル配置 6×2
構造の特徴
金属筐体
放熱性に考慮した構造
使用電力量を把握するため、駅の消費電力量(見える化
(駅電力表示装置)出力データならびに電力会社からの検針
データ)および変電所からの供給電力量(-MICS(保全用
情報収集システム)データ変換装置(開発品)の出力データ)
セル間に断熱材追加
現行品
開発品
構造
樹脂
金属
セル数
8
12
公称電圧
28.8V
45.0V
1710Wh
定格容量
864Wh
エネルギー 体積
密度割合 質量
100
100
150
170
質量
19kg
23kg
図12 蓄電デバイスの鉄道システムへの応用
4. おわりに
をクラウドシステムに集約し、集約データをもとに支社全体およ
本稿では、消費エネルギーを減らすための取組みについ
び駅単位でのエネルギー使用分析を行い、省エネポイントを
て紹介しました。効果的に省エネルギーを進めるために重要
見出す手法の検討を行いました。
(図11)
なことは、「相手(負荷)を知る
(把握する)
」ことです。相手
引続き、大宮支社と連携しながら、駅単位での分析手法
を省エネ代表職場にて適用し、評価検証を進めます。
インターネット上で閲覧
クラウドシステム
省エネ検討会など
データ取り込み
(駅電力表示装置、検針データ、変電所データ(MICS))
凡例
:駅電力表示装置
検針報告
変電所
駅
を知らずして戦うことはできません。これをやることで始めて
データの「見える化」や「分析・評価」が可能となり、省
エネの検討、提案にたどり着きます。
支社管内
変電所
駅
変電所
駅
駅
現業機関等
電力会社
受電
駅
駅
図11 省エネマネジメントの構築に関する研究
3.4 蓄電デバイスの鉄道システムへの応用の研究
J R 東日本では、 2 0 0 9 年 蓄 電 池 駆 動 電 車を開 発し、
2014年3月には烏山線にてEV-E301系(ACCUM)の営業運
転が実現しました。しかし、搭載されている蓄電池が大きく、
重いため、蓄電池の小型・軽量化が課題となっています。
蓄電池技術の進歩は目覚ましく、特にHV、EV自動車用
の蓄電池は出力、容量ともに増加しています。そこで、性能
向上が著しい自動車用蓄電デバイスを鉄道システムへ応用し
て、主回路用蓄電池の小型・軽量化等を図るために、自動
車用蓄電デバイスを鉄道車両に応用する場合の要求事項や
課題を検討して、鉄道車両用に適した自動車用蓄電池セル
を選定し、搭載に必要なモジュールおよびユニットの検討、
試作そして検証を実施しました。
(図12)
今後は、この蓄電池の特性、挙動、現行電池との性能
比較等について、定置試験およびNEトレインへ搭載し走行
試験等を行い、蓄電池駆動電車への実用性の検証に取組
みます。
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開発したモジュールの特徴
・高エネルギー密度/中出力密度 : 地方向け車両に最適
・セル数:12セル(エネルギー密度、車両搭載性・取り扱い性の両立)
・放熱性能 : 外形サイズと放熱性能(セル間寸法)の両立
・温度特性:現行品よりも低温での充電が可能
JR EAST Technical Review-No.51
環境技術研究所では、この考えを基に、省エネルギー要
素技術および応用技術の研究開発を進め、環境負荷低減
の提案を行って行きたいと考えております。
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