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MRI | 所報 | 中国の石炭工業都市の大気環境問題

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MRI | 所報 | 中国の石炭工業都市の大気環境問題
JOURNAL OF MITSUBISHI RESEARCH INSTITUTE
三菱総合研究所 /所報
No.
35
お問い合わせ先
三菱総合研究所 広報部
電話: :
(03)3277-0003 FAX (03)3277-0520
E-mail: [email protected]
1999
研究論文
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策
―中国山西省陽泉市―
林 希一郎
要 約
中国ではエネルギー源の大半を石炭に依存し、重工業都市の多くが石炭産地周辺に発展している。これら
の地域では、石炭生産量の増加に伴い、都市規模の拡大、人口増加が進む一方、多くの環境問題が発生して
いる。筆者は、中国の都市環境問題を考える際に、中国の多様性を考慮し、地域別に環境対策を検討する地
域的アプローチを展開している。今回の論文では、中国中西部の優良石炭産地に発展した山西省陽泉市に着
目し、陽泉市の大気汚染の状況を概括するとともに、その汚染の原因の分析と対策の評価を試みた。
陽泉市は中国中西部の山西省東部に位置し、沿海部の発展を内陸に波及させる上での中間的な位置を占め
る。山地地形で、人口約120万人、良質な石炭資源を背景に新中国設立後に発展してきた新興工業都市であ
り、山西省では太原、大同に次ぐ主要都市である。石炭、電力を中心とする重工業・化学工業などの集積に
より、大気汚染が著しい。
陽泉市の大気汚染は、地形や気象条件などに依存する自然的要因と、石炭利用等のエネルギー問題、重工
業の発展、民生部門の暖房用原炭の燃焼、ボタ山の自然発火などの経済・社会的要因に起因する構造となっ
ている。
陽泉市の状況を鑑み、石炭産業の石炭生産段階、利用段階、廃棄段階の各段階における対策を総合的に実
施する必要がある。生産段階での環境対策としては、炭鉱ガスの有効利用、燃料のクリーン化。利用段階で
の環境対策としては、石炭燃焼に伴い排出される汚染物質の除去、環境装置の充実、民生用の原炭の直接燃
焼の防止(固形炭普及、都市ガス、集中熱供給)。廃棄段階での環境対策としては、石炭ボタの自然発火防止
と風塵防止・緑化、粉炭灰の処理などが考えられる。
目 次
1.はじめに
2.陽泉市の大気汚染の現状
3.大気汚染の要因分析
4.石炭工業都市の大気環境対策の視点(陽泉市を例に)
5.おわりに
三菱総合研究所 所報第35号(1999年9月)
4
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
Research Paper
Air Pollution and the Effects of Environmental
Measures in a Coal-Mining City in China
-Yangquan City in Shanxi ProvinceKiichiro Hayashi
Summary
As coal is the major source of energy in China, many industrial cities are growing up around the coal mining
centers. The increase in coal production in these areas has been accompanied by a subsequent rise in
environmental problems. Considering the diversity of China, I adopted a regional approach to the
environmental problems in Chinese cities. The purpose of this report is to study the effects of the
environmental measures to reduce air pollution taken in Yangquan city.
Yanquan is a newly developing industrial city located in the east of Shanxi province in China. The level of air
pollution in Yangquan, especially for TSP and SO2, is extremely high compared with national levels for the
whole of China. One of the main causes of air pollution is industrial activities. Yangquan’s development relies
on heavy industries such as coal and electric power. Other causes include the natural burning of slag heaps
and the use of boilers in winter.
Considering the situation of Yangquan city, overall measures must be implemented at each stage in the
coal industry, from the production and application stages to the disposal stage. Measures at the production
stage include cleaner fuel and the effective utilization of coal-mine gas; at the application stage, the removal of
pollutants discharged during coal combustion, the diffusion of environmental devices, and the prevention of
direct combustion of charcoal; and at the disposal stage, the prevention of spontaneous combustion and
planting of trees on slag heaps.
Contents
1. Introduction
2. Air pollution in a coal-mining city in China (Yangquan city)
3. Analysis of factors involved in air pollution in Yangquan
4. Air pollution measures and their effects in Yangquan
5. Conclusion
JOURNAL OF MITSUBISHI RESEARCH INSTITUTE No.35(SEP. 1999)
5
1.はじめに
1.1 中国の工業都市の環境汚染
高度経済成長期の日本と同様、中国では急速な工業化に伴い、大気汚染、水質汚濁、廃棄物汚染など
の環境問題が著しい状況になっている。また、「石炭依存型のエネルギー構造」、「設備が旧式で環境装置
の普及率が低い」、「住工混在状態にある」などの特徴により、環境汚染の早期の解決が困難な状況とな
っている。
中国は約960万km2 の広大な面積と約12億人の世界最大の人口を有する国家であり、自然条件、経済・
社会条件、歴史的背景などが地域により非常に異なる。このため中国の都市の環境問題についても、そ
の歴史的背景、自然条件、経済・社会条件により、多様性が見られる。中国ではエネルギー源の大半を
石炭に依存し、重工業都市の多くが石炭産地周辺に発展している。
1.2 石炭工業都市の環境汚染
中国では、石炭産地が発展して都市を形成したところが、全国の都市数の約15%を占めると言われて
いる。これらの地域では、石炭生産量の増加に伴い、都市規模の拡大、人口増加が進む一方、多くの環
境問題が発生している。
◆石炭工業都市の環境問題◆
大気汚染
石炭燃焼に伴う大気汚染
炭鉱ガスの排出(エネルギーロス、地球温暖化問題)
ボタ山の風塵
ボタ山の自然発火による大気汚染
水環境汚染
石炭洗浄廃水
石炭採掘に伴う地下水汚染
廃棄物汚染
ボタ山問題
石炭燃焼に伴う粉炭灰
その他
採炭地域の騒音問題
植生破壊(森林破壊など)
土地破壊(土壌流出、砂漠化など)
その他
資料:筆者作成
個々の都市では、規模、歴史的背景、社会条件などの諸要素により、汚染の実態が異なる。そこで、
筆者は、中国の環境問題を地域的な視点から取り上げ、個々の都市の環境問題の対策を分析することで、
中国の環境対策の解決策を検討しようと試みている。筆者の前回の論文(三菱総合研究所所報NO.31)で
は、中国東北地方の露天掘炭鉱として有名な遼寧省撫順市の環境対策の調査を行った。撫順市は、古く
から石炭の街として栄え、現在重工業都市として発展している一方、工場から排出される汚染物質によ
り極めて深刻な大気汚染問題を抱えている。撫順アルミ工場及び少数の汚染源工場が市全体の汚染源の
6
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
大半を占めているという特徴があった。
前回の論文の遼寧省撫順市に引き続き、地域的アプローチの2つ目の事例として、本論文では山西省
陽泉市を取り上げた(図1)。陽泉市は、新中国設立後石炭産業都市として発展してきた新興都市であ
り、その環境汚染(特に大気汚染に注目)の現状・要因解明及び対策を検討した。
出所:「中国・陽泉」中国陽泉編集委員会
図1.陽泉市の位置図
2.陽泉市の大気汚染の現状
2.1
山西省の石炭生産
中国は、世界最大の産炭国であり、年間13.6億トン(1995)を生産している。山西省は、約3.47億トン
を生産し、中国全体の約26%を産出する最大の石炭産地である。石炭の消費構造から見ても、山西省は
1.7億トンを自省内で消費しており、省内で産出される良質な石炭を活用した重化学工業が盛んになって
いる。
一方、山西省で産出される石炭の多くは、沿海部地域に移出されている。また、同省は中国中西部に
位置し沿海部の発展を内陸に波及させる上での中継的な役割を果たす地域でもある。
2.2
陽泉市の概要
陽泉市は、人口約120万人、市街区人口は50万人で、新中国設立後に発展してきた新興工業都市であ
り、山西省では太原、大同に次ぐ主要都市である。市域面積の約80%を山地、丘陵が占め、市中心部は、
7
桃河両岸の狭い地域に集中している(図2)。市の総生産は78.6億元(1996年)に達し、近年年率10%を
越える成長を遂げている。市の工業生産額(郷鎮企業含まず)は、129.6億元(1996年)に達し、郷鎮企
業(日本の村などに相当する郷や鎮が所有する企業等)の生産高は149.4億元(1996年)である。
陽泉市は、資源が豊富で中国最大の無煙炭の産地であることで有名であるが、ボーキサイト、鉄、石
灰石、耐火粘土、鉄鉱石などの主要な産地でもある。陽泉市は、この良質な無煙炭を活用し、重化学工
業が発展している。石炭、電力工業を中心とし、建材、冶金、化学工業、機械工業、電気工業、紡績、
食品、医療工業などが立地し、原料及び原料の初期加工型工業が多い。
出所:陽泉市区交通図
図2.陽泉市の地図
2.3 陽泉市の大気汚染の現状
(1)大気環境質
大気汚染は浮遊粒子状物質と二酸化硫黄の煤塵型汚染が著しい。二酸化硫黄、煙塵と粉塵の年間排出
量は、8.41万t、5.48万t、1.55万t(1995年値)である。1995年と1996年の大気環境観測結果を比較する
と、都市部の大気汚染は深刻化している(表1)
。例えば1995年と1996年、都市部の汚染項目年間日平均
値では、浮遊粒子状物質(TSP)が0.454mg/m3 から0.519mg/m3 に上昇し、環境基準に対してそれぞれ
1.51倍と1.73倍である。二酸化硫黄は0.228mg/m3 と0.243mg/m3 であり、環境基準に対して3.80倍と4.05
倍となっている。以上の2つの項目の年間日平均値は全て国家大気環境二級基準を超えている。ここ10
年の状況を見ると、総浮遊粒子状物質の汚染濃度は減少傾向にあるが、二酸化硫黄濃度は急増傾向にあ
8
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
る(図3)。粉塵及び煤塵の排出量を見ると、1990年に比べて減少傾向が続いている(図4)。これは第
8次5カ年計画において、工場ボイラーからの汚染物質の除去、集中熱供給や都市ガス化の進展により、
粉塵等の大気汚染物質排出量自体も減少しているためと思われる。
表1.陽泉市及び山西省の大気質の状況(mg/m 3)
陽泉市平均
項目
要素
山西省18
国家二
級基準
1995
1996(超過倍率)
都市平均
TSP
0.454
0.519(1.73)
0.470
0.30
SO2
0.228
0.243(4.05)
0.176
0.06
NOX
0.068
0.074(−)
0.051
0.10
資料:陽泉市資料
mg/m3
1.20
1.10
1.00
0.90
0.80
0.70
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996
総懸浮微粒(浮遊粒子:TSP)
二酸化硫黄(SO2) 年
窒素酸化物(NOX)
資料:陽泉市資料
図3.陽泉市の大気環境質の推移
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1990
1991
1992
1993
煤塵排出量
1994
1995
1996
2000
粉塵排出量
資料:陽泉市資料
図4.陽泉市の粉塵等排出量の推移
9
(2)エネルギー消費の現状
陽泉市のエネルギー消費構造は、石炭を主としており、石炭消費量はエネルギー消費量の95%以上を
占める。陽泉市は石炭の産地であるが、良質なものの大半は省外に移出する。石炭消費量の部門別構成
比は、電力5%、その他工業77%、民生19%(1993年)であり、工業部門の割合が非常に高い。
5
19
単位:%
電力部門
77
その他工業部門
民生部門
資料:陽泉市資料
図5.陽泉市の石炭消費構成比
2.4 陽泉市政府の取組
陽泉市政府では、第8次までの5カ年計画で、環境保全設備の設置対策などを進め、一定の成果を得
てきた。更に取り組みを進めるために、陽泉市政府では2010年までに、工業廃水処理率を85%(1993年
68%)、工業廃ガス処理率80%(1993年68%)、工業固体廃棄物総合処理率60%(1993年33%)、生態破
壊の回復率7%、都市ガス普及率(全市70%、市街地100%)とする目標を設定している。これらの目標
実現に向けて以下の10大重点プロジェクトを掲げている。
◆10大重点プロジェクトの中の大気汚染対策分◆
①都市ガス化プロジェクト
炭鉱ガスとコークス工場(年産40万t、ガス供給量20万m3/日)のガスをガス供給源として都市部、県(区)庁所在地、工
業企業などへガス供給を行う計画である。2010年までに全市のガス供給率を70%に引き上げることを目標としている。
②集中熱供給プロジェクト
河坡発電所の第2期拡大計画「2*100MW」の熱電併給ユニットを活用し、都市部、平定県、盂県などに集中熱供給を行
う。これにより供熱面積を280.5万m2 に増大させ、185基の小型ボイラーを減少させる。
③カーバイド工場煙塵改善プロジェクト
平担カーバイト工場の煤塵対策を実施する。陽泉市カーバイト工場、甘河カーバイト工場、平担カーバイト工場、龍鳳溝カ
ーバイト工場、李家荘カーバイト工場のカーバイト煙塵処理技術の検討及び既存の炉の密封型カーバイト炉への改造を行う。
④建築資材、冶金業界の煙塵粉塵総合改善プロジェクト
建築資材業界のセメント、冶金業界の製錬及び耐火材生産プロセスを改善し、煙塵などの汚染を総合的に改善する。
⑤ボタ自然発火防止及び総合利用プロジェクト
陽泉市のボタ発生量は年間400万tを越え、堆積量は8500万tに達している。このボタの自然発火による大気汚染が深刻
化している。このためボタの自然発火防止対策の推進とボタの総合利用により各種の建築資材などの生産、発電を行う。
〈その他の10大プロジェクト〉
◎都市工業廃水及び生活汚水処理場建設プロジェクト
◎桃河、温河、南川河、秀水河の改善開発プロジェクト
◎道路建設プロジェクト
◎都市ゴミ無害化処理と総合利用プロジェクト
◎生態建設プロジェクト
資料:陽泉市資料
10
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
3.大気汚染の要因分析
3.1
大気汚染を深刻化させる要因
陽泉市は、石炭、電力を中心とする重工業・化学工業などの集積により、大気汚染が著しい状況であ
る。特に、TSPは市全体の平均値が国家二級基準を超過し、二酸化硫黄においては超過率が4倍を越え
ている。
陽泉市の主要な大気汚染源は電力、鉱業、冶金及び建築資材の4業種であり、企業別では娘子開発電
所、陽泉鉱務局、陽泉製鉄所、晋盂鉄鋼工場など13企業が主要汚染源となっている。これらの主要工場
の大部分は陽泉市都市部及び河川の両岸に集中して立地しており、汚染の集中を招いている。これらの
企業からの汚染以外に、ボタ山の自然発火によるものとボタ山の風塵によるものがある。また、民生部
門では、冬期の暖房用に使用される小型ボイラーからの汚染物質の排出が非常に大きな影響を及ぼして
いる(表2)
。
表2.陽泉市の大気汚染の要因分析
大項目
中項目
問題の所在
備考
・逆転層出現頻度41.4%
自然的要因
地形気象条件
○逆転層ができやすい
・低層9m、上層162m
・静風頻度39.8%
○石炭依存度が高い
エネルギー問題
・選炭が不十分
・エネルギー源の95%石炭
○良質な無煙炭は省外移出
工業の問題
経済社会的要因
○重工業の比率が高い
・軽:重の比率=1:6.63
○集中型工場配置
・電力、鉱業、冶金及び建築
○エネルギー効率が低い
○環境保全設備の不足
○郷鎮企業による汚染拡大
民生部門の問題
ボタの問題
資材
・都市中心部河川の両岸に重
工業が集中
○冬期の暖房需要が多い
○原炭の直接燃焼
○ボタの自然発火
・23ボタ中7カ所で発火
○ボタの風塵
・ボタ堆積量7000万t
出所:筆者作成
3.2
自然的要因
陽泉市は、市中心部を東西に流れる桃河の両岸の中程度の渓谷状地形の中に都市及び工業の主要な機
能が集中している。このため大気拡散が起こりにくく、逆転層が発生しやすい。陽泉市の逆転層の発生
頻度は41.4%、底部の高さ9m、上部の高さ160mに及んでおり、日中太陽が見えないほどの状況になっ
ている。工場が集中的に立地し、大気拡散が行われにくいため、大気汚染が都市部に集中する結果とな
っている。
11
3.3
経済・社会的要因
(1)エネルギー問題
①陽泉市の石炭
陽泉市は、中国の最大規模の無煙炭の産地の1つであり、地質の形成年代は石炭紀・二畳紀である。
炭田面積は 1,000km2、埋蔵量 100億 t以上、炭層 200∼ 260mと言われている。陽泉炭は発熱量 7,360∼
7,990cal/g、硫黄分0.33∼1.03と非常に良質であるが(表3)
、大半が省外及び国外へ輸出される。このた
め陽泉市内では、品質の良くない石炭が選炭されずに使用される場合が多く、これが大気汚染の1つの
原因となっている。
表3.陽泉炭の性状
陽泉炭
灰分(%)
硫黄分(%)
発熱量(cal/g)
17.4−27.5
0.33−1.03
7360−7990
出所:孫世文「エネルギー開発と環境保護」第3回日中環境問題国際シンポジウム論文集1997.11
②工業部門別のエネルギー消費
陽泉市では、工業の発展に伴い、石炭消費量が急増している。1985年の220.7万tから1993年には267.4
万tまで増加した(図6)。一方、工業部門全体の石炭消費効率を示す「工業部門万元産値煤炭消費量」
は、1985年の19.74t/万元から1992年には9.74万t/万元まで減少しており、工業部門におけるエネルギー
利用の効率化が見られる。これは、生産設備の更新などによりエネルギー消費効率が向上したためと考
えられる。
トン/万元
25
万トン
270
260
20
250
15
240
230
10
220
5
210
200
0
1985
1986
1987
1988
工業部門万元産値煤炭消費量
資料:陽泉市資料
図6.陽泉市の工業部門の石炭消費状況
12
1989
1990
1991
1992
工業部門煤炭消費量
年
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
個別の企業ごとのデータは限られたものしか入手できないが、山西省統計年鑑に石炭採掘業として陽
泉鉱務局(表4)、発電所として娘子関発電所と陽泉発電所のエネルギー利用効率の変化に係わるデータ
の記載がある(表5)。石炭採掘業の単位石炭採掘量当たりの電力消費量は1989年頃から減少傾向にあ
り、エネルギー消費効率の改善が見られる。一方、電力部門は、発電量当たりの石炭消費量は横這いで
あり、電力部門のエネルギー効率の改善が不十分であることが伺える。
表4.陽泉市の主要石炭採掘業の単位石炭採掘量当たり電力消費量
年
1989
1990
1991
1992
1993
陽泉鉱務局(kwh)
27.24
26.51
21.39
23.22
25.72
kwh
資料:山西省統計年鑑
表5.陽泉市の主要発電所の発電量当たりの石炭消費量
年
1989
1990
1991
1992
1993
娘子関発電所
388
387
384
380
380
陽泉発電所
594
590
593
592
589
g/万kwh
資料:山西省統計年鑑
(2)工業の問題
①石炭及び工業企業による汚染
石炭資源が豊富なことを背景に、石炭工業を主とする原料産業が発達し、1978年時点では市全体の工
業生産の約6割が石炭産業で、石炭採掘及び原料工業をあわせると約8割を占めていた。現在でも、石
炭採掘業は市全体の工業生産の約39%(1995年)を占めており、依然として石炭を中心とした重工業が
産業の中心である。また、陽泉市の工業配置は、地形的要因などにより都市部河川の両岸に集中してい
る。エネルギー消費及び環境汚染の面から見ると、特に石炭、電力、冶金、化学工業の4業種が主要な
汚染源となっている。
中国国家環境保護局の研究レポートに陽泉市の属する山西省の部門別大気汚染物質排出量のデータが
ある(表6)
。ただし、年代が古く1985年時点のデータしかないため、その点を考慮する必要はある。そ
れによると大気汚染物質(SO2、NOx、TSP)排出量の全てにおいて、石炭燃焼の寄与が非常に高い(約
9割)。その中でも、電力の割合は高く約2割程度を占めている。TSPについては、民生関係の生活に伴
う汚染物質の排出が多いことが特徴的である。山西省は標高が高く(陽泉市で海抜700m以上)、冬期は
寒冷のため暖房用の小型ボイラーでの石炭燃焼が多いことが原因となっている。このため大規模汚染源
を重点に対策の強化を進めることで工業部門の汚染物排出量がある程度削減可能と考えられる。
13
表6.山西省の部門別大気汚染物質排出割合(1985年)
項 目
SO2
NOX
TSP
(万t)
(万t)
(万t)
合計
割 合(%)
SO2
100
TSP
83.35
37.49
109.45
76.14
33.54
98.23
91.3
89.5
89.8
電力工業
18.27
10.06
18.22
21.9
26.8
16.7
その他工業
30.45
17.34
29.13
30.5
46.3
26.6
農業
5.33
1.13
9.0
6.4
3.0
8.6
生活
19.80
4.46
36.96
23.8
11.9
33.8
石炭燃焼
100
NOX
100
内訳:
2.28
0.55
4.53
2.7
1.5
4.1
工業過程
その他
6.83
2.05
8.46
8.2
5.5
7.7
石油燃料
0.38
1.69
0.5
4.5
コークス製造
0.01
0.20
2.76
0.5
2.5
出所:国家環境保護局課題組「公元2000年中国環境預測与対策研究」清華大学出版社
②郷鎮企業による汚染の深刻化
陽泉市においても、郷鎮企業の発展は著しく、1991年から1996年まで企業数で3.12倍、総生産高4.53倍
に増加している。郷鎮企業は、年率30∼50%の急激な成長を遂げているが、一般的に技術面の近代化の
遅れなどや十分な環境対策を実施していない場合が多く、環境問題の主因となっている。陽泉市の郷鎮
企業は、小型炭鉱、カーバイト、建築材料、耐火材料、化学工場、製紙工場などに集中しており、市の
工業生産の2/3を占めるに至っている。1994年時点の陽泉市の郷鎮企業は、企業数3.7万社、従業員数
23.1万人、総生産額76.0億元に達している(表7)。陽泉市政府では、郷鎮企業に対する環境保全対策を
強化しており、環境保全対策が十分でない企業に対しては操業停止処分などの厳しい措置がとられてい
る。しかし、山西省環境状況公報によると郷鎮企業の対策は、未だに十分進んでおらず、山西省の県及
び県有企業*1 以上の工業全体よりも多量の汚染物を排出している(表8)。郷鎮企業は、設備が旧式でし
かも環境保全装置が未設置で、汚染物質をそのまま排出している場合がほとんどであり、生産技術の向
上、汚染物除去装置の導入などの対策の一層の強化とともに、これらへの取組を促す対策も検討する必
要がある。
表7.山西省の郷鎮企業主要指標(1994年)
市 項目
山西省全体
企業数(社)
企業総生産額(万元)
664,520
3,688,197
10,308,830
太原市
48,252
293,806
1,312,973
大同市
55,566
270,996
737,979
陽泉市
37,030
231,555
760,384
出所:山西省統計年鑑
14
企業人数(人)
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
表8.山西省の郷鎮企業の汚染物排出状況
項目
汚染物
郷鎮企業
山西省工業全体*2
1995年
1996年
工業用石炭消費量
6,616.0万t
工業廃ガス排出量
3,728.6億m3
5,198.2万t
50,776.0億m3
SO2 排出量
32.3万t
67.0万t
煙塵排出量
103.3万t
33.7万t
粉塵排出量
73.1万t
19.1万t
出所:山西省環境状況公報1996年版
(3)民生部門の問題
陽泉市は冬期が寒冷のため冬期の暖房用ボイラーでの石炭燃焼による汚染物質の排出が深刻な問題と
なっている。山西省環境情報センターでは、陽泉市の大気汚染源の特徴分析を行っており、その中で暖
房期及び非暖房期のSO2 排出状況を調査している。陽泉市では冬期が年間の1/3を占めるが、汚染物質
排出量は年間の約60%を占める。また、排出源別に見ると、暖房期の暖房用ボイラーからの汚染物の排
出は約55%を占めており、暖房用小型ボイラーの削減対策が急務であることが分かる。
この対策のために陽泉市では集中熱供給及び都市ガス化を進め、暖房用ボイラの撤去対策が進行して
いる。河坡発電所拡大工事にあわせて、市内に熱供給を進める計画が進行中で、現在の市区内の熱化率
28%を一層高めるとともに、熱供給による収入を大気汚染対策に充てるなどの方策を検討する必要があ
る。
(4)ボタ山の問題
陽泉市には、23カ所のボタ山があり、その内7カ所で自然発火が発生している。ボタの発生量は、434
万t(1996年)に達し、工業固体廃棄物の約8割を占めている。陽泉の主要炭鉱である陽泉鉱務局では、
年間約400万tのボタを排出し、現在18カ所のボタ山で累積約7,540万tのボタが堆積している。都市部周
辺に位置するこれらのボタの自然発火による大気汚染物質の排出が、陽泉市の大気汚染の主要な原因の
1つとなっている。
陽泉鉱務局では、ボタ山に消化剤を注入し、自然発火を防止する作業を1990年代初頭より開始し、現
在までに20万m2 の消火を実施した。今後も消火活動を継続し、1998年中に残りの消火活動を実施するこ
とになっている。陽泉鉱務局からはボタ山消火後についての対策のコメントは得られなかったが、消火
地点の状況を見る限り、覆土が薄くまた緑化等が十分行われていないため、風塵の発生が見られ、それ
がまた大気汚染の原因となっているようである。このため消火後は、覆土を十分に行い、緑化等によっ
て風塵の発生を防ぐなどの対策も早期に取り組む必要がある。
4.石炭工業都市の大気環境対策の視点(陽泉市を例に)
4.1
石炭業都市の大気汚染対策の考え方
中国の大気汚染対策は、燃料のクリーン化、省エネルギー、大気汚染物質の除去の個別の対策と、人
材養成・意識向上、技術開発・技術の普及促進、環境装置生産体制の整備、環境法制度の整備と運用体
制の整備、総合的な環境対策の推進などを適切に組み合わせて対応していく必要がある(図7)
。
15
<燃料対策>
燃料のクリーン化
①選炭の推進
②石炭のガス化の推進
③成形炭の普及促進
大
気
汚
染
対
策
の
実
施
段
階
④燃料転換の推進(水力、原子力、天然ガス等)
省エネルギー
①石炭の大口ユーザー
電力:発電設備の大型化、発電設備の近代化、送配電設備の近代化
鉄鋼:中小型高炉、転炉、電気炉などの集約大型化、廃熱有効利用
②小型ボイラーの改良、熱効率の向上、成形炭使用ボイラーの開発、
流動床ボイラーの開発、廃熱利用促進等
③集中熱供給の推進
④建築物の断熱構造化
<煤煙対策>
大気汚染物質の除去
①集塵装置の設置
②脱硫装置の設置
③脱硝装置の導入
◆基盤的対策◆
人材養成・環境意識の向上
技術開発・技術の普及促進
環境装置の生産体制の整備
環境法制度の整備と運用体制の整備
総合的な環境対策の推進
出所:筆者作成
図7.中国の重工業都市における大気汚染対策の考え方
4.2 石炭生産・利用・廃棄段階での対策
陽泉市のような石炭産業を中心として発展した都市の大気汚染対策を考える上で、以下の視点を重点
的に対策を考えることが重要である。
①石炭活用の各段階(生産、利用、廃棄)の総合的環境対策
②部門間のエネルギー・資源の相互連携(工業部門のエネルギー・資源のロスを民生部門で活用し、民生部門の大気汚染への影響を軽減)
この視点に従い、陽泉市の大気環境対策は、特に石炭の生産・利用・廃棄の各段階に着目し、効果的
な対策を各段階別に整理した。
16
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
(1)生産段階
生産段階では、石炭採掘時の炭鉱ガスの都市ガスへの利用拡大、燃料のクリーン化対策、集中熱供給
の推進などがある。産業部門においては、燃料のクリーン化を進め、民生部門においては、民生用燃料
のクリーン化とともにガス化・熱供給などにより石炭使用量の抑制を図ることが有効である。
●炭鉱ガス(coal mine gas)
陽泉市では、炭鉱ガスの埋蔵量は6千4百億m3 あると言われ、現在の発生量の0.93億m3 のうち0.48億
m3 程度を利用している。炭鉱ガスは石炭生産に随伴して発生するものであり、計画的な生産が困難な側
面も有する。陽泉市では、2010年に市街地のガス化率100%の目標を掲げて、現在の市街地のガス化とコ
ークス工場の新設を計画している。このコークス工場は、ガス製造を目的としているのではなく、良質
のコークス製造を目的としているが、このコークス製造に伴い製造される都市ガスを活用して、炭鉱ガ
スと併せて市街地に供給する体制を構築することが考えられる。都市ガスの普及が進め、一般家庭での
石炭使用量の削減が期待される。今後は、安定的な炭鉱ガスの供給対策の検討を進め、またコークス工
場での環境対策、特に脱硫設備、廃水処理設備の設置などを適切に行う必要がある。
●燃料のクリーン化
燃料のクリーン化については、石炭洗浄率の向上、選炭の強化が必要である。陽泉鉱務局の石炭洗浄
率は14%と全国平均(約18%)を下回っている。原炭の洗浄により、原炭中の硫黄分の主要部分を占め
る黄鉄鉱硫の約4割を除去可能と言われており、洗炭工場の設置を進める必要がある。また、選炭、ブ
リケット化などの燃料のクリーン化を進め、民生部門での原炭の直接燃焼を抑制する必要がある。しか
し、石炭洗浄廃水による汚染も深刻化している。陽泉鉱務局の洗浄能力拡大により、洗浄廃水が増加す
る懸念がある。このため石炭洗浄廃水を河川に放流する前に処理するなど、廃水対策を検討しておく必
要がある。
(2)利用段階での環境対策
石炭を中心とする工業部門の石炭消費量が市全体の約8割を占めている。近年においては、主要な大
気汚染源に対する集塵装置の設置対策が進められ、一部でその効果が見られる。しかし、陽泉市全体で
見ると、集塵装置等の環境装置が未設置な工業炉が多数存在するとともに、効率の低い機械式集塵機し
か導入されていない場合も多い。さらに、酸性雨発生頻度が中国国内の他地域に比べて比較的低いこと
も背景として、二酸化硫黄対策はほとんど進んでいないように思われる。二酸化硫黄濃度は、近年上昇
の傾向にあり、対策の検討が急務と考えられる。
●環境保全設備の設置
工業系の重点汚染源に対する高効率集塵機の設置促進を設備の更新・改造と同時に進め、効果的な運
用が可能となるようにする必要がある。
●脱硫設備の設置
二酸化硫黄対策については、これまでほとんど対策が実施されてきていない。脱硫設備の設置コスト
が非常に高いため、まず発電所などの大型設備への導入を進めることを検討すべきである。その他の工
業部門では、クリーン燃料の使用を徹底する必要がある。
17
●都市ガス化及び集中熱供給の推進
民生部門については、都市ガス化や集中熱供給の推進により石炭燃焼の抑制を図る必要がある。
(3)廃棄段階での環境対策
ボタ山が陽泉市の廃棄物として最も大きな問題であるとともに、ボタ山の自然発火及び風塵が大気汚
染の原因ともなっている。石炭ボタの有効利用を進め発生ボタの量を減らすとともに、ボタ山の自然発
火の防止につとめ、鎮火後は適切な覆土と緑化を進める必要がある。ボタの利用対策としては、セメン
ト原料としての活用や山元地区での発電利用、焼却灰のセメント原料への利用などが考えられる。また、
流動床ボイラーなどを活用し、ボタ発電を進めることが考えられる。日本の通産省のグリーンエイドプ
ランの中のクリーンコールテクノロジーモデル事業において、北京で高硫黄炭、低発熱量炭等の多様な
石炭の燃焼が可能な循環型流動床ボイラーモデル事業も実施されており、これらの技術の活用も考えら
れる。
4.3 環境改善に向けた課題
陽泉市は、石炭資源が豊富なこともあり、石炭を中心に各種の産業が発展しているが、極端にひどい
汚染源が存在しているわけでもなく、様々な要因が重なり大気汚染を深刻にしているといった状況とな
っている。特に、大気汚染については、地域の未利用エネルギーである炭鉱ガスや集中熱供給により、
民生部門の対策を効果的に推進できる可能性が大いにある。今後の対策の焦点は、石炭ボタの総合利用
や二酸化硫黄対策に比重が移っていくものと思われる。また、陽泉市は石炭資源、発電所、カーバイト
工場、セメント工場及びそれらの市場が市周辺部に存在するメリットに恵まれており、これらの工場か
らの廃棄資源の有機的な結合を検討することで、資源の効率的な利用の道が開け、また環境対策の推進
も可能となるものと思われる。
今後の検討課題としては、資金面、生産性の向上、地域資源の有効利用、工場間の廃棄資源の活用及
び個別工場の環境管理などが考えられる。
(1)資金の確保
第8次5カ年計画期間中、汚染防止と都市環境総合整備に対して累計4.70億元の投資が行われた。第
9次5カ年計画期間中の汚染防止投資額は約8億元であり、全投資額の4.4%に達している。資金は自己
資金だけではまかないきれず、アジア銀行、海外の業界及び政府の借款などにより調達する計画である。
また、個別の工場では、各種の環境対策を実施予定であるが、資金不足から効率の高い技術の導入が困
難である。そこで石炭生産コストの一部として環境保全投資の原資を上乗せするなどの価格転嫁により
資金調達をする方法を検討する必要がある。
(2)設備の更新
陽泉市の企業の大部分は1950年代に建設されたものであり、設備・技術が非常に遅れている。市の関
連部局によると、中国国内でも低いレベルの設備が42%、中国平均レベルの設備が約45%、中国で先端
的な設備は13%と言われている。先端的な設備の大半は陽泉鉱務局関連機関に集中しており、市全体と
しては、技術レベルの遅れが著しい状況となっている。これらの旧式設備の場合、エネルギー・資源利
用効率が低く、また最新式の環境保全設備の設置が困難であり、設備の新設などの根本的な解決策が必
18
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
要とされている。また、都市部に重点汚染源が集中する現状を踏まえ、設備の更新・新設だけでなく工
場全体のリプレースを含めた抜本的な対策が必要である。
(3)地域資源の有効利用
地域に賦存するエネルギーの有効活用を図る必要がある。特に、エネルギー有効利用と地球温暖化問
題の視点から炭鉱ガスの有効利用を本格的に検討する必要がある。
(4)地域工場間の廃棄資源の活用可能性の検討
市街地周辺に多数の産業の工場が立地するメリットを生かし、ある工場での廃棄資源を別の工場で効
果的に活用する方法を検討する意義は大きい。陽泉市の場合、都市部の発電所に脱硫装置を設置する際、
脱硫装置の吸収剤に市内の化学工場から排出されるカーバイト屑を活用し、また脱硫副産物の石膏をセ
メント原料として活用するなどの地域内工場の廃棄資源の有効活用の可能性の検討余地がある。実現可
能性は低いが、こういった発想で対策を検討することができれば、廃棄物対策だけでなく、コストの低
減などの余地が拡大するものと考えられる。
〈参考:脱硫及び廃棄物循環利用〉
二酸化硫黄の排出源は、石炭燃焼に伴うものとボタ山の自然発火によるものが考えられる。陽泉市の都市部の地
形は、逆転層ができやすく、煙突の高さを増すことによる拡散効果は期待できないため、燃料転換や脱硫装置の
設置を進める必要がある大型設備に対しては脱硫装置の設置を進めるなどの対策を行う必要がある。このため現
在建設中の河坡発電所などの都市部の発電所に対して高除塵型脱硫設備を設置する。脱硫の吸収剤としては、市
内のカーバイト原料の化学工場から排出される固体廃棄物(カーバイ滓)を活用する。脱硫設備からの固形副産
物である石膏については、市内のセメント工場に原料として活用可能である。従って、除塵、脱硫、固形廃棄物
の有効利用(カーバイト滓、石膏)を3点を同時に実現するシステムである。
発電所 脱硫装置 石膏(副産物)
カーバイト屑
カーバイト工場
原料として利用
セメント工場等
(5)個別工場の環境管理の実行
各工場が汚染の実態を認識し、早期に環境配慮を実施するよう努めることが重要である。また、環境
対策はエネルギー・資源利用効率の向上などの効果もあり、企業にプラスであることを認識し、ISO14001
などの環境管理システムの導入を進めることを検討する必要がある。
5.おわりに
中国は広大な国土を有している一方、国内の交通機関の整備が遅れている。このため地域毎に異なっ
た社会状況を形成している。また、近年の近代化の進展により、重化学工業の立地が進み、特に都市部
での環境問題が健在化している。特に大気汚染問題については、多くの場合、一握りの汚染源工場が汚
染物の大半を排出している場合が多い。筆者が事例調査を行った撫順市、陽泉市ともに、石炭炭鉱周辺
19
に発達した重化学工業都市であり、主要工場からの大気汚染の深刻化が問題となっている。主要汚染源
である工場に対する環境装置の設置が対策の第一歩であるが、燃料のクリーン化を含めたエネルギー資
源の有効利用の視点も重要である。撫順市、陽泉市の事例分析を通じて、中国の石炭炭鉱周辺に発達し
た重化学工業都市の環境対策を考える場合、以下の視点を重視した上で、環境対策を検討する必要があ
る。
①石炭活用の各段階(生産、利用、廃棄)の環境対策を総合的に考える視点。
②エネルギー・資源のロスを他部門で活用するなどの相互連携の視点。
また、中国では、大都市の自動車に起因する大気汚染問題の顕在化の問題を抱えている都市も出始め
た。先進国を中心に、大気汚染の主要な原因の1つとなっており、生活水準の向上により、汚染地域の
拡大が懸念されている。地方都市では、モータリゼーションの進展が遅いこともあり、工場起源の汚染
が中心であるが、自動車による大気汚染防止の未然防止対策を怠ると極めて深刻な問題になる可能性が
高い。
本論文では言及していないが、山西省は深刻な水不足の問題を抱えている。陽泉市においても、深刻
な水不足の問題、工場及び生活廃水の問題、地下水の汚染の問題など非常に深刻な水環境問題を抱えて
いる。このために下水道の整備、汚水処理場の整備、廃棄物の適正処理などを進める必要がある。
今後の課題としては、撫順、陽泉に続く中国の都市環境対策の事例分析を行うとともに、大気だけで
なく水、廃棄物に関わる環境対策の分析を行うことが重要と考えられる。
20
中国の石炭工業都市の大気環境問題と対策 ●
注
*1 県政府及び県より大きい地方政府の所有する企業
*2 県及び県有企業以上の合計値
参考文献
1)国家環境保護局課題組:『公元2000年中国環境預測与対策研究』清華大学出版社.
2)定方正毅編集委員長:『中国環境ハンドブック』サイエンスフォーラム.
3)「山西統計年鑑」各年版.
4)「中国能源統計年鑑」各年版.
5)中国陽泉編集委員会「中国陽泉」.
6)「中国環境年鑑」各年版.
7)林希一郎:『中国重工業都市の大気環境対策とその効果分析−遼寧省撫順市の煤煙型大気汚染対策とその将来の
課題−』「三菱総合研究所所報」No.31(1997)
.
8)林希一郎:『中国重工業都市のばい煙型大気汚染対策と将来の課題』
(平成10年度OECC海外環境協力セミナー:
中国の環境問題とビジネス展開配布資料)
.
9)「陽泉市区交通図」
.
10)陽泉市環境問題中日合同調査団:『陽泉市環境問題調査報告書』
(1997)
.
11)陽泉市環境保護局資料,陽泉市政府資料.
12)『第3回日中環境問題国際シンポジウム論文集』
(1997.11)
.
謝辞
最後に、本調査の情報収集などにおいて、財団法人環境情報普及センター、イオングループ環境財団をはじめ多く
の方々にお世話になりましたことを感謝いたします。
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