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睡眠障害(不眠症)

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睡眠障害(不眠症)
睡眠障害(不眠症)
Pharmaceutical education for the general public.
Advanced level text to learn medicine.
深井
良祐 [著]
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目次
第一章. 睡眠障害(不眠症)とは
P. 3
1-1. 睡眠の役割 P.3
1-2. 睡眠障害(不眠症)の種類 P.6
1-3. 睡眠の種類(レム睡眠とノンレム睡眠)
第二章. 病気による睡眠障害
2-1.
2-2.
2-3.
2-4.
P. 9
うつ病に伴う睡眠障害 P.9
睡眠時無呼吸症候群 P.10
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
ナルコレプシー P.11
第三章. 睡眠導入剤(睡眠薬)
3-1. 活動電位 P.14
3-2. Cl-イオンの役割
3-3.
3-4.
3-5.
3-6.
3-7.
P.8
P.11
P. 14
P.15
ベンゾジアゼピン系薬と非ベンゾジアゼピン系薬
ベンゾジアゼピン系薬の副作用 P.19
睡眠薬(睡眠導入剤)の半減期 P.19
薬の服用を減らす・止める方法 P.20
体内時計に作用する薬 P.21
P.17
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第一章.睡眠障害(不眠症)とは
体の疲れを取る上で睡眠はとても重要です。人間の三大欲求の中に「睡眠欲」が含まれている事
から分かる通り、体調などを維持するためにも睡眠が大切であることは言うまでもありません。
そして、この睡眠に障害が起こると不眠症となります。睡眠障害によってよく眠れていない感じ
がしたり、昼間に眠くなったりします。
不眠による生産性の低下や交通事故など、睡眠障害による経済損失は一年間で数兆円にも及ぶと
されています。そのため、睡眠障害を改善することはとても重要となります。
1-1. 睡眠の役割
・脳の休息
日中に活動することで疲れが出てきますが、脳が疲れて機能が低下するために睡眠が引き起こさ
れる訳ではありません。睡眠は脳を休めるために必要な生理現象です。
そのため、睡眠の質が悪いと脳が十分に休息を取れていない状態となります。その結果、「いらい
ら」や「元気がない」などの症状が出てきます。
睡眠不足であると意欲がなくなったり体がだるかったりすることもありますが、これは脳が休息
を求めているサインとなります。
また、睡眠の役割は脳を休めるだけではありません。ホルモン分泌や免疫増強、記憶の再編成な
どにも大きく関わっています。
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・ホルモン分泌
「寝る子は育つ」と言われていますが、これには理由があります。なぜなら、背を伸ばすなどの
働きをする成長ホルモンは寝ている間に分泌されるからです。この成長ホルモンによって細胞の再
生・修復などが行われます。
成長ホルモンは子供が成長するために必要不可欠な物質ですが、大人であっても関係ないわけで
はありません。この成長ホルモンが細胞の再生・修復に関与していることから、睡眠の質が落ちる
ことで肌荒れの原因にもなります。
・免疫増強
寝ている時は体がリラックス状態となっているため、免疫力が増強します。かぜを引いた後に一
度眠ると、朝には治っていることがあると思います。実際、「睡眠不足によって免疫力が低下する」
という事が分かっています。
病原菌から身を守るために作られる抗体の産生など、免疫細胞は睡眠時により活性化します。そ
のため、これらの働きが悪くなると病気に対する抵抗力も落ちてしまいます。
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・記憶の再編成
記憶は脳の海馬と呼ばれる場所に一度蓄えられます。ただし、繰り返し刺激を与えないとすぐに
忘れてしまいます。これは、記憶を一時的に溜めておく短期記憶として蓄えられるために起こりま
す。
初めての電話番号などを聞いても思い出せないのは、短期記憶であるために忘れてしまっている
のです。
これを記憶として取り出せるようにするためには、長期記憶として脳に定着させる必要がありま
す。このときの記憶形成に睡眠が大きく関わっています。
ただし、記憶と言っても「知識としての記憶」だけではありません。記憶には自転車の乗り方や
スポーツ技術の向上などの「手順記憶」が存在します。睡眠ではこの体の動作に関する記憶も定着
させます。
一日練習しても出来なかった技術であっても、一日寝たら簡単に出来るようになってしまうこと
があるのはこのような理由があります。
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1-2. 睡眠障害(不眠症)の種類
睡眠障害と言っても、その種類は大きく四つに分かれます。同じ睡眠障害であっても「なかなか
眠れない入眠障害」があれば、「途中で何回も起きてしまう中途覚醒」などさまざまです。
・入眠障害
床についてもなかなか寝付けない症状が入眠障害です。布団の中に入ると平均 10~15 分で眠りに
つくと言われています。しかし、日常的に 1 時間以上眠れずに苦痛を感じるようであれば入眠障害
となります。
入眠障害はストレスの多い人や神経質な人に多く見られます。そして、睡眠障害の中で最も頻度
の多い症状が入眠障害です。
夜の寝つきは悪いが、朝起きられなかったり昼寝での寝つきはよかったりします。
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なお、アルコールによって寝つきを良くしたとしても、アルコールは尿をたくさん作らせる利尿
作用があるためトイレが近くなってしまいます。そのため、アルコールに頼った眠りでは睡眠の質
が落ちてしまうことにも注意が必要になります。
・中途覚醒、熟眠障害
一度眠ったとしても、夜に何度も目が覚めてしまう症状が中途覚醒であり、眠りが浅いために熟
睡感のない状態が熟眠障害です。
中途覚醒によって何度も目が覚めると、必然的に眠りも浅くなってしまいます。夜起きてしまっ
た後になかなか寝付けることができません。
このような症状の結果、昼に眠たくなって仕事などの効率が落ちてしまいます。
・早朝覚醒
朝早く目が覚めてしまい、そのまま眠れない状態を早朝覚醒と言います。早朝覚醒は高齢者に多
く見られます。
なお、若い人での早朝覚醒は精神的ストレスやうつ病である可能性があります。
無理にもう一度寝ようとするよりも、起きてしまった方がその後よく眠れるようになることもあ
ります。
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1-3. 睡眠の種類(レム睡眠とノンレム睡眠)
睡眠には大きく二種類あり、それぞれをレム睡眠とノンレム睡眠と言います。
この二つは「体を休める睡眠」また
は「脳を休める睡眠」とで分けること
ができます。
前者の「体を休める睡眠」がレム睡
眠であり、後者の「脳を休める睡眠」
がノンレム睡眠です。
レム睡眠では体を休めている状態であるため、体はぐったりしていて動くことはありません。し
かし、脳の眠りは浅く覚醒状態に近い眠りとなります。脳が覚醒状態に近いので、この時に夢を見
ます。この時に起こされると、夢の内容を覚えていることがあります。
それに対して、ノンレム睡眠では脳が深い眠りについているために多少の物音では目が覚めませ
ん。この状態で強制的に起こされたとしても、脳はすぐに活動を再開させることができません。こ
れが、いわゆる寝ぼけた状態です。
睡眠時ではまず初めにレム睡眠に入り、すぐにノンレム睡眠へと移行します。このレム睡眠とノ
ンレム睡眠は交互に繰り返され、合わせて約 90 分のサイクルとなります。
レム睡眠とノンレム睡眠のサイクル 4~5 回繰り返されることによって睡眠が完了します。このと
き、起床が近づくにつれてレム睡眠の時間が長くなります。
これが、睡眠のサイクルとなります。
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第二章.病気による睡眠障害
不規則な生活などによって不眠症が引き起こされますが、他の病気によって睡眠障害が引き起こ
されることもあります。
もし他の病気によって睡眠の質が落ちているのであれば、その病気を治療することを考えなけれ
ばいけません。
2-1. うつ病に伴う睡眠障害
精神疾患(気分障害)による心の病気で睡眠障害を引き起こす代表的な病気としてうつ病があり
ます。うつ病患者に高頻度で表れる症状が睡眠障害です。
睡眠障害には入眠障害や熟眠障害などさまざまな種類がありますが、その中でもうつ病は特に早
朝覚醒が問題となります。夜中の 3 時や 4 時に目が覚めて、それから眠れなくなります。2~3 時間
眠ると目が覚めてしまうのです。
このような症状のために食欲減退や体重減少などを引き起こし、より気分が落ちていくという悪
循環に陥ってしまいます。
脳内にはそれぞれの情報を伝えるためのシグナルが存在しますが、うつ病患者ではこの脳内のシ
グナルに異常が起こっています。具体的には、
「意欲・活力」などに関わるセロトニンやノルアドレ
ナリンの分泌が減少しています。
睡眠に関する行動もうつ病と同じように、脳内のシグナル(神経伝達物質)が関与しています。
そのため、脳内の情報伝達に異常が起こっているうつ病では睡眠障害が起こりやすくなっています。
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そして重要なのは、セロトニンは体内時計に関与しているメラトニンの合成にも関わっているこ
とがあります。メラトニンはセロトニンから合成されるため、セロトニンの量が少なくなっている
うつ病患者ではメラトニンの量も減ってしまいます。
前述の通り、メラトニンは体内時計の調節に関与しているため、このメラトニン量が少なくなる
ことによっても睡眠障害が引き起こされます。なお、うつ病に伴う睡眠障害は不眠だけでなく、必
要以上に眠ってしまう過眠もあります。
2-2. 睡眠時無呼吸症候群
眠っている最中に無呼吸(10 秒以上息が止まる)の状態が何回も出現すると、睡眠時無呼吸症候
群が疑われます。無呼吸の状態では脳に酸素が送られていないため、睡眠の質が低下してしまいま
す。そのため、睡眠時無呼吸症候群では熟眠障害が問題となります。
睡眠時無呼吸症候群では昼間の眠気や集中力の低下などを引き起こします。この時、睡眠時無呼
吸症候群の原因としては「閉塞性」と「中枢性」の二種類に分けられます。
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群
喉の気道が狭くなることによって起こる睡眠時無呼吸症候群を閉塞性睡眠時無呼吸症候群と呼び
ます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群では肥満との関係性が強く、肥満であるために喉の気道が圧迫さ
れて狭くなっています。
生活習慣の改善(アルコールを控える・禁煙)や睡眠中の体位を変える(仰向けではなく、横向
きで寝る)などが治療法として挙げられます。
・中枢性睡眠時無呼吸症候群
呼吸は脳が判断して行っていますが、この呼吸をするための判断部位として「呼吸中枢」があり
ます。つまり、この呼吸中枢の働きに異常が起こっている場合、睡眠時に無呼吸の状態が表れてし
まいます。
このような中枢性睡眠時無呼吸症候群は心不全や脳梗塞に伴って発症することが多いです。閉塞
性睡眠時無呼吸症候群とは違い、喉が狭くなっているために起こる訳ではありません。
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2-3. むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
むずむず脚症候群とは、じっとしている姿勢を保っていると脚に不快な感覚が伴う病気のことで
す。この不快な症状とは、「ムズムズ感」や「虫が這うような感覚」、「痒み」などがあります。
脚を動かしているとこれら不快な症状が治まるため、症状を和らげるために脚を動かし続けるよ
うになります。その結果、不眠などの睡眠障害が引き起こされます。
また、むずむず脚症候群患者は周期性四肢運動障害を併発している人も多いです。周期性四肢運
動障害とは下半身の筋肉がけいれんすることです。そのため、眠っていると今度は脚がピクンピク
ンと動きます。
この結果として中途覚醒が多くなり、深く眠ることが出来なくなってしまいます。
このように、むずむず脚症候群による睡眠障害としては「脚を動かし続けることによる入眠障害」
や「眠っているときに起こる脚のけいれんによる中途覚醒」などがあります。
2-4. ナルコレプシー
睡眠障害の症状は不眠だけではありません。眠くなり過ぎる睡眠障害もあります。私たちは昼に
活動を行い、夜になったら眠ります。このとき、日中に眠たくなることもあります。学校での授業
や会社での会議など、これらの眠気と戦いながら時間を過ごさなければいけません。
しかし、日中にいくら眠たくなると言っても、例えば「営業で重要な商談をしている最中」や「運
動をしている時」などで眠くなることはないと思います。
このように、通常の人であれば眠くならないような場面であっても、病気によって強烈な眠気に襲
われてしまい上記で挙げた場面でも眠ってしまうことがあります。このような病気をナルコレプシ
ーと言います。
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・ナルコレプシーの主な症状
ナルコレプシーでは次のような症状が表れます。
① 昼に突然眠くなる(睡眠発作)
試験中などの緊張感のある場面であっても眠ってしまいます。30 分程度の眠りを一日に何回も繰
り返します。
② 急に力が抜けてしまう(情動脱力発作)
「嬉しい」、「悲しい」などの喜怒哀楽が強く働いた時、全身の力が抜けてしまいます。
③ 睡眠麻痺
眠る前や目覚めた直後などに金縛りが起こります。
④ 入眠時幻覚
睡眠発作によって眠ってしまった時、強い幻覚を見ることがあります。このとき、何者かに襲わ
れるなど恐怖や不快感を伴う幻覚を見ます。
ナルコレプシーによる昼間の激しい眠気を改善する薬としては、脳内の神経伝達物質の働きを活
発にさせる薬が使用されます。つまり、神経細胞を活性化させることで眠たくさせないようにしま
す。
また、薬だけでなく生活習慣を改善することも大切です。例えば、「昼休みや夕方に短い睡眠をす
る」などがあります。これによって、睡眠をコントロールしやすくなります。
なお、昼は脳を活性化させる薬を使用しますが、夜は反対によく眠ることができるようにする必
要があります。そのため、夜に服用する薬として睡眠導入剤を使用することもあります。
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・昼寝の効果
仕事中など、昼に眠気に襲われた時にコーヒーを飲みながら過ごす人も多いと思います。昼に眠
くなる理由としては、昼ごはん後の消化によるものと考えられてきました。しかし、昼間の眠気は
生まれつきの生体リズムであることが分かってきています。
私たちは夜になると眠くなります。これは、覚醒と睡眠のリズムが一日周期で訪れるために起こ
ります。そしてこの時、覚醒と睡眠のリズムは一日周期だけではなく「約半日周期」でも訪れます。
このような理由のために、昼を少し過ぎた頃に眠気が起こります。つまり、昼に眠たくなること
は自然な生理現象なのです。実際、
「午後 2 時~4 時の間は作業効率が落ちてしまう」という事が分
かっています。
そのため、昼寝は悪いことではなく 15~20 分の睡眠はその後の作業効率を大幅に上昇させるこ
とができます。
ただし、昼寝の時間が長かったり遅い時間に昼寝をしたりすると、夜の睡眠にまで影響してしま
います。疲労回復のための昼寝としては、十数分程度を意識すれば良いです。
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第三章.睡眠導入剤(睡眠薬)
3-1. 活動電位
体の中に存在する Na( ナトリウム)や K(カリウム)などはイオンとして水の中に溶けています。
この時、細胞には 3 つの Na+イオンを細胞外へ汲み出し、2 つの K+イオンを細胞内へと取り込むた
めのポンプをもっていることがあります。
Na+イオンと K+イオンはそれぞれプラスの電気を帯びています。Na+イオンを外に汲み出すと同時
に K +イオンを内側に入れるポンプが存在するため、細胞外の方では Na+イオンが多く、細胞内では
K+イオンが多くなります。
このようにポンプが存在すると Na+イオンが細胞外へ、K+イオンが細胞内へと移動するため、イ
オンの濃度差が生じます。
細かい説明は省きますが、このように細胞内外でイオンの分布が偏るとプラスとマイナスの電気
を生じるようになります。つまり、細胞の内と外で電気の差が生まれることになります。これを活
動電位と呼びます。
何も刺激が来ていない状態であると細胞の外側がプラスとなり、内側がマイナスの電気を帯びる
ようになります。そしてこの時、細胞が刺激を受けると Na+イオンの通り道である Na+チャネルが
開きます。
Na+イオンの動きに関与している受容体(Na+チャネル)が開くため、それまでマイナスの電気を
帯びていた細胞の内側がプラスの電気を帯びるようになります。このように、それまでマイナスの
電気を帯びていた部分がプラスへと転換されることによって、刺激が伝わっていきます。
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3-2. Cl - イオンの役割
前述の通り、脳の活動は電気信号によって制御されています。そしてこの時、プラスの電気を帯
びている Na+イオンが細胞内へ流入することによって興奮し、刺激が伝わっていきます。
それでは、睡眠時は逆に脳の働きを鎮めてやれば良いことが分かります。具体的には、Na+ イオ
ンのようなプラスの電気を帯びている物質ではなく、マイナスの電気を帯びているイオンを細胞内
に流入させれば良いことがわかります。
これによって、細胞内の電気がよりマイナスへと傾きます。つまり、多少の Na+イオンが流入し
てきたとしても、細胞内がよりマイナスへと傾いているために興奮性のシグナルが伝わりにくくな
ります。
このようなマイナスの電気を帯びることで、シグナルの興奮を抑制するイオンとして Cl- イオン
があります。Na+イオンの流入は興奮に関わるシグナルであるのに対し、Cl- イオンは抑制性のシグ
ナルとなります。
そして、この Cl- イオンの流入には GABA 受容体が関与しています。GABA 受容体は GABA(γ
-アミノ酸)と呼ばれるシグナルが結合することによって、Cl- チャネルが開かれて Cl- イオンが細
胞内へと流入します。
これによって脳の興奮が抑えられ、睡眠が誘発されます。
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・ベンゾジアゼピン受容体
GABA 受容体には GABA(γ-アミノ酸)が結合するための部位があります。そして、この GABA
受容体が結合する Cl- チャネルにはベンゾジアゼピン受容体と呼ばれる受容体も存在します。
このベンゾジアゼピン受容体の作用としては、GABA と GABA 受容体との親和性を高めることが
考えられています。つまり、ベンゾジアゼピン受容体が活性化することによって GABA 受容体の作
用が強まり、Cl- イオンの流入を促進させることで脳の活動を抑えることができます。
この作用機序によって、ベンゾジアゼピン受容体を活性化する薬は睡眠薬となります。
なお、睡眠薬としてはバルビツール酸系薬という呼ばれる種類も存在しますが、副作用などの問
題で睡眠薬としてはベンゾジアゼピン系薬が主に使用されます。睡眠薬としてほとんど使用されな
い薬であるため、割愛させて頂きます。
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3-3. ベンゾジアゼピン系薬と非ベンゾジアゼピン系薬
睡眠薬としてはベンゾジアゼピン系薬(BZ 薬)や非ベンゾジアゼピン系薬(非 BZ 薬)が使用さ
れます。どちらもベンゾジアゼピン受容体に作用することには変わりがないですが、これらの薬は
その構造が異なります。
同じ作用機序を有する薬であれば、この構造式も似ていることが多いです。ベンゾジアゼピン系
薬であれば、下図のようにベンゾジアゼピン骨格と呼ばれる構造が含まれている事が特徴となって
います。この構造を有しているために、ベンゾジアゼピン受容体に結合することができます。
しかし、中にはベンゾジアゼピン骨格を有していないにも関わらず、ベンゾジアゼピン受容体に
結合することで睡眠作用を示す薬も存在します。このような薬を非ベンゾジアゼピン系薬と呼びま
す。要は、その構造式の中にベンゾジアゼピン骨格を有しているかどうかの違いです。
なお、ベンゾジアゼピン系薬は離脱症状などの副作用はありますが、比較的安全性が確保された
薬物です。このとき、薬物の半減期を考慮した上で、症状に合わせて使用されます。
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・非ベンゾジアゼピン系薬の特性
ベンゾジアゼピン系薬はベンゾジアゼピン受容体に作用しますが、脳内ベンゾジアゼピン受容体
はさらにω1 受容体(α1 受容体)とω2 受容体(α2、α3、α5 受容体)の二つに分けられます。
このうち、ω1 受容体は睡眠作用に関与しており、ω2 受容体は抗不安作用や筋弛緩作用に関与
しています。非ベンゾジアゼピン系薬はω1 受容体とω2 受容体への作用のバランスをとることで、
ベンゾジアゼピン系薬よりも副作用が少ないように調節しています。
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3-4. ベンゾジアゼピン系薬の副作用
ベンゾジアゼピン系薬の副作用としては以下のようなものがあります。
副作用
持ち越し効果
特徴
・薬物の効果が次の日の朝まで続いてしまう
・眠気やふらつきなど
記憶障害(健忘)
・薬物服用後、「眠るまでの出来事」や「朝起きた時の出来事」の
記憶がない症状
リバウンド
(反跳性不眠)
・ベンゾジアゼピン系薬を長い間使用している段階で急に服用を
止めてしまい、不眠・恐怖・ふるえなどの離脱症状が起こる
3-5. 睡眠薬(睡眠導入剤)の半減期
睡眠薬はその半減期などの特徴によって「超短時間型、短時間型、中間型、長時間型」に分類分
けされます。
役割
超短時間型
短時間型
特徴
・半減期 2~4 時間
・入眠障害に有効
・「持ち越し効果」が起こることはほとんどない
・半減期 6~10 時間
・入眠障害、中途覚醒に有効
・「持ち越し効果」があまり生じない
中間型
・半減期 12~24 時間
・中途覚醒、早朝覚醒に有効
・「持ち越し効果」を生じることがある
長時間型
・半減期 24 時間以上
・中途覚醒、早朝覚醒に有効
・起床後も長時間にわたって薬が作用
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3-6. 薬の服用を減らす・止める方法
睡眠薬の量を減らしていく場合や服用中止を実施する時、急に薬を止めてしまうと離脱症状を引
き起こす可能性があります。
そこで、ベンゾジアゼピン系薬などの睡眠薬を中止・減量する時は適切な方法に基づいて行う必
要があります。
睡眠薬の減量・中止法
方法
漸減法
・2~4 週間ごとに、1/4 ずつ減らしていく
・投与間隔はそのまま
隔日法
・服用量を減らしたり、服用する間隔を空けたりする
・中間型~長時間型の薬物のみ使用できる
・超短時間型~短時間型では離脱症状の可能性がある
置換法
・「超短時間型~短時間型」を「中間型~長時間型」へ変える
・同時に用量も減らす
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3-7. 体内時計に作用する薬
ヒトには体内時計が存在しており、催眠作用や睡眠リズムを調節しています。これらのリズムが
崩れると不眠症となり、睡眠が困難となってしまいます。
体内時計とは、人間に備わっている体の中に存在している生体時計です。この体内時計は 1 日 25
時間でセットされています。朝の日の光を受ける事により体内時計が進み、1 日 24 時間の生活に調
節されます。
この時計が狂うと睡眠障害を引き起こしてしまいます。この体内時計のずれによって起こる睡眠
障害の例としては時差ぼけがあります。外国との時間差によって体内時計の調子が狂ってしまい、
夜になってもなかなか寝られないようになります。
また、体内時計に起因する他の症状としては睡眠相後退症候群や昼夜逆転現象などがあります。
睡眠相後退症候群では生活の時間が普通の人より後にずれており、若い人の夜更かしに多いです。
昼夜逆転現象では昼と夜の生活が逆転してしまっており、精神科領域の病気を有している事があり
ます。
このように、睡眠において体内時
計はとても重要な役割を果たしてい
ます。そのため、この体内時計を改
善させる事ができれば、より自然な眠りを誘うことが可能になります。
脳の睡眠リズムをコントロールしているホルモンにメラトニンがあり、このメラトニンが作用す
るメラトニン受容体には催眠作用・睡眠リズムの調節作用があります。
そのため、メラトニン受容体を刺激することで、より自然に近い睡眠へと誘導することが可能と
なります。体内時計に作用する薬であるため、ベンゾジアゼピン系薬の副作用として発現していた
反跳性不眠や退薬症候は表れません。
このメラトニン受容体を刺激することで体内時計を調節し、睡眠作用を示す薬としてラメルテオ
ン(商品名:ロゼレム)があります。
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・副作用を利用した睡眠薬
薬には副作用があります。副作用と言えば悪いイメージがありますが、必ずしもそうではありま
せん。例えば、かぜ薬の副作用として眠気がありますが、車を運転中などの状況でないのであれば
「病気を早く治す」という意味でも眠りやすい事は良いことのはずです。
そして、このような「副作用として睡眠作用を示す薬」として抗アレルギー薬があります。
代表的な抗アレルギー薬はヒスタミン受容体と呼ばれる受容体を阻害することでアトピーや花
粉症などのアレルギー反応を抑えます。このような薬を抗ヒスタミン薬と呼びます。
ただし、このヒスタミン受容体はアレルギー反応に関与しているだけでなく、脳の覚醒にも関与
しています。
そのため、各組織に存在するヒスタミン受容体を阻害するだけなら抗アレルギー作用を効率よく
引き出せますが、脳に存在するヒスタミン受容体まで阻害すると副作用として睡眠作用が表れてし
まいます。
そこで、この副作用としての睡眠作用を逆手にとって、抗アレルギー薬を睡眠薬として発売 して
いる一般用医薬品があります。副作用を主作用として利用した例となります。
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○主な睡眠導入剤
分類
超短時間型
消失半減期
BZ or 非 BZ
一般名
商品名
2
BZ 系
トリアゾラム
ハルシオン
2~4
非 BZ 系
ゾピクロン
アモバン
4
非 BZ 系
ゾルピデム
マイスリー
5
非 BZ 系
エスゾピクロン
ルネスタ
6
BZ 系
エチゾラム
デパス
7
BZ 系
ブロチゾラム
レンドルミン
10
BZ 系
リルマザホン
リスミー
短時間型
エバミール
10
BZ 系
ロルメタゼパム
ロラメット
ロヒプノール
24
BZ 系
フルニトラゼパム
サイレース
中間型
24
BZ 系
エスタゾラム
ユーロジン
ベンザリン
27
BZ 系
ニトラゼパム
ネルボン
長時間型
36
BZ 系
クアゼパム
ドラール
メラトニン
受容体作動薬
─
─
ラメルテオン
ロゼレム
23
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